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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61M
管理番号 1359438
審判番号 不服2018-14339  
総通号数 243 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-10-30 
確定日 2020-02-06 
事件の表示 特願2014-103816「薬液注入装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年12月 7日出願公開、特開2015-217176〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年5月19日の出願であって、平成29年12月18日付けの拒絶理由の通知に対し、平成30年4月13日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、平成30年7月19日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成30年10月30日に審判の請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成30年10月30日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成30年10月30日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)
「シリンダとピストンとを有するシリンジに充填された薬液を注入する薬液注入装置であって、
シリンジが着脱自在に装着される注入ヘッドであって、前記シリンジのピストンを操作するための、前記シリンジの軸方向に移動される直動ユニットを含むピストン駆動機構を備えた注入ヘッドと、
前記直動ユニットの先端部に固定された、静電容量検出方式、ピエゾ抵抗方式および熱検知方式のいずれかの加速度センサと、
前記加速度センサによる検出結果を利用して前記ピストン駆動機構の動作を制御するように構成された注入制御部と、
を有する薬液注入装置。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、平成30年4月13日の手続補正による特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「シリンダとピストンとを有するシリンジに充填された薬液を注入する薬液注入装置であって、
シリンジが着脱自在に装着される注入ヘッドであって、前記シリンジのピストンを操作するための、前記シリンジの軸方向に移動される直動ユニットを含むピストン駆動機構を備えた注入ヘッドと、
前記直動ユニットに固定された、静電容量検出方式、ピエゾ抵抗方式および熱検知方式のいずれかの加速度センサと、
前記加速度センサによる検出結果を利用して前記ピストン駆動機構の動作を制御するように構成された注入制御部と、
を有する薬液注入装置。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である加速度センサが固定された箇所を表わす「前記直動ユニット」の後に「の先端部」を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特表2010-536484号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある。
「【0013】
・・・例えば、説明される実施形態のうちの1つまたはそれよりも多くの実施形態に関して以下で議論される様々な特徴は、上述した本発明の局面のどれにでも単独であるいは任意の組み合わせで組み込まれ得る。・・・」

「【0018】
図示された実施形態において、撮像系10は閉ループコントロールシステムとして動作し得る。例えば、コントロール26は流体ポンプ28に制御信号36を出力し得る。その結果流体ポンプ28にトリガーがかかり、それぞれ矢印38、40で示されるように作動流体30を受け取り、これを流体ドライブ18に送る。・・・」

「【0019】
・・・ある実施形態では配送デバイス22はバレル内に配置されたプランジャーを有するシリンジを含み得る。このように医用流体24は流体ドライブ18が駆動力42を伝えるまでシリンジ内に蓄えられ得る。」

「【0020】
フィードバックセンサー20は流体ドライブ18の1つまたはそれよりも多くのパラメーターをモニターし得る。例えばセンサー20は矢印44で示されるように検知されたパラメーターに関するデータを取得し得る。例えば検知されたパラメーター44は流体ドライブ18の・・・加速度・・・を含み得る。・・・次にセンサー20はフィードバック信号46をコントロール26に提供する。その信号46に基づいてコントロール26は制御信号36を介してポンプ28への出力を増加、減少、終了、あるいは維持し得る。結果として、撮像系10は流体駆動注射器12の比例サーボフィードバック制御を有する。」

「【0029】
図4は撮像系10の代替的な実施形態の図であり、注射器12は一連の力を作るためにギアおよびラチェットアセンブリー162に結合された流体ドライブ160を含む。図示された流体ドライブ160はシリンダー166内で可動に配置されたピストン164を含み得、ここでピストン164はロッド168に結合されている。図示されたピストン164はシリンダー166を第1のチャンバー170と第2のチャンバー172とに分け、第1のチャンバー170および第2のチャンバー172は、それぞれの第1および第2の導管176と178とを介してマニホールド174に結合されている。図3の実施形態同様、マニホールド174は1つまたはそれよりも多くのバルブ180あるいは1つまたはそれよりも多くの流体ポンプ182に結合され得るかあるいはこれらを含み得、作動流体184が第1と第2の導管176および178を介して第1および第2のチャンバー170および172に往復運動の態様で流れさせられ得る。例えば、作動流体184がマニホールド174から第1のチャンバー170に流れると作動流体が第2のチャンバー172からマニホールド174に流れる。ピストン164が反対方向に動くときは作動流体184がマニホールド174から第2のチャンバー172に流れ、一方で作動流体184が第1のチャンバー170からマニホールド174に流れる。矢印186と188が第1および第2の導管176および178内での往復運動する流れを示す。この往復運動する流れの結果、ピストン164およびロッド168は(図4に図示される上方向および下方向へ)往復運動の態様でシリンダー166内を移動し、その結果ギアおよびラチェットアセンブリー162に往復運動する力を伝える。」

「【0030】
ギアおよびラチェットアセンブリー162は突き棒190と、突き棒190に結合されたボールねじ192と、ギア194かつ/またはボールねじ192に結合された1つまたはそれよりも多くのベアリング196と、ラチェットアセンブリー198とを含み得る。ラチェットアセンブリー198はロッド168の往復運動する動きに応答して階段状の態様でギア194に前進的にかみ合うように構成され得る。ラチェットアセンブリー198は第1のアーム200と、第2のアーム202と、第1および第2のアーム200および202の間に結合された第3のアーム204とを含み得る。さらに第3のアーム204は回転節206と208とで、第1および第2のアーム200および202の両方に回転可能に結合され得る。最後に、第3のアーム204はベアリング210に結合され得る。結果として、第1のアーム200は矢印212で示されるように回転節206の回りを回転し得、第2のアーム202は矢印214で示されるように回転節208の回りを回転し得、第3のアーム204は矢印216で示されるようにベアリング210の回りを回転し得る。第1のアーム200と第2のアーム202の各々がラチェットアセンブリー198のラチェットとして特徴付けられ得る。」

「【0031】
ロッド168の往復運動する動きに応答して、第1および第2のアーム200および202は前後に往復運動しながらギア194の歯218に沿ってステップを踏み一連の力で一続きに押し得る。その結果、ギア194が前進的に駆動されボールねじ192が回転する。また、一連の力は単一の一定の力というよりはむしろ順次発生させられるかつ/または発生する、一続きの分離された離散的な力として定義され得る。図示された実施形態において、例えば、第1および第2のアーム200および202によって加えられる一連の力は、1つの歯218が順次離散的ステップを踏んで(例えば、第1の歯218に接触し、これを前に押し、次に第2の歯218に移りこれを前に押すなどのように)かみ合うことでギア194を前進的に回転させ得る。ボールねじ192が回転することで、突き棒190はシリンジ224のバレル222内に配置されたプランジャー220を直動させ得る。特に、プランジャー220は突き棒190とつながるドライブシャフト230に結合されたプランジャーヘッド228の回りに配置された複数のシールを含み得る。」

「【0032】
図4に示された撮像系10は、矢印234で示されるように突き棒190の・・・加速度・・・をモニターするように構成された1つまたはそれよりも多くのフィードバックセンサー232を含み得る。次に、1つまたはそれよりも多くのセンサー232はフィードバック信号236をコントロール238に提供し得、コントロール238は流体ポンプ182への閉ループ制御信号240を提供し得る。・・・」

「【0037】
・・・動力源260は、図1を参照して上記で議論されたように撮像孔14内の患者への配置に特に良く合ような、患者装着可能(例えば、取り外し可能に装備された)注射器として記述され得る。・・・さらに、動力源260はシリンジ338を支えるよう構成されたシリンジレセプタクル336を含む。図6を参照して上記で議論されたように動力源260内に配置された流体ドライブ272は気体圧力に応答してシリンジ338のプランジャー340を駆動する。・・・」

(イ)続いて図面を参照しつつ、上記の各記載について検討する。
a 【0029】の「図4は撮像系10の代替的な実施形態の図であり」との記載、及び、図4の図示内容から、撮像系10は、注射器12、フィードバックセンサー232及びコントロール238を含むといえる。

b 【0019】の「ある実施形態では配送デバイス22はバレル内に配置されたプランジャーを有するシリンジを含み得る。このように医用流体24は流体ドライブ18が駆動力42を伝えるまでシリンジ内に蓄えられ得る。」という記載、及び、図4の図示内容、そこに【0013】の「説明される実施形態のうちの1つまたはそれよりも多くの実施形態に関して以下で議論される様々な特徴は、上述した本発明の局面のどれにでも単独であるいは任意の組み合わせで組み込まれ得る。」という記載を考慮すると、撮像系10は、シリンジ224内に蓄えられた医用流体を流すといえる。

c 【0029】の「注射器12は一連の力を作るためにギアおよびラチェットアセンブリー162に結合された流体ドライブ160を含む。流体ドライブ160はシリンダー166内で可動に配置されたピストン164を含み得、ここでピストン164はロッド168に結合されている。図示されたピストン164はシリンダー166を第1のチャンバー170と第2のチャンバー172とに分け、第1のチャンバー170および第2のチャンバー172は、それぞれの第1および第2の導管176と178とを介してマニホールド174に結合されている。・・・マニホールド174は・・・1つまたはそれよりも多くの流体ポンプ182に結合され得るかあるいはこれらを含み得、作動流体184が第1と第2の導管176および178を介して第1および第2のチャンバー170および172に往復運動の態様で流れさせられ得る。・・・この往復運動する流れの結果、ピストン164およびロッド168は(図4に図示される上方向および下方向へ)往復運動の態様でシリンダー166内を移動し、その結果ギアおよびラチェットアセンブリー162に往復運動する力を伝える。」という記載、【0030】の「ギアおよびラチェットアセンブリー162は突き棒190と、突き棒190に結合されたボールねじ192と、・・・ラチェットアセンブリー198とを含み得る。ラチェットアセンブリー198はロッド168の往復運動する動きに応答して階段状の態様でギア194に前進的にかみ合うように構成され得る。ラチェットアセンブリー198は第1のアーム200と、第2のアーム202と、・・・を含み得る。・・・第1のアーム200と第2のアーム202の各々がラチェットアセンブリー198のラチェットとして特徴付けられ得る。」という記載、【0031】の「ロッド168の往復運動する動きに応答して、第1および第2のアーム200および202は前後に往復運動しながらギア194の歯218に沿ってステップを踏み一連の力で一続きに押し得る。その結果、ギア194が前進的に駆動されボールねじ192が回転する。また、一連の力は単一の一定の力というよりはむしろ順次発生させられるかつ/または発生する、一続きの分離された離散的な力として定義され得る。図示された実施形態において、例えば、第1および第2のアーム200および202によって加えられる一連の力は、1つの歯218が順次離散的ステップを踏んで(例えば、第1の歯218に接触し、これを前に押し、次に第2の歯218に移りこれを前に押すなどのように)かみ合うことでギア194を前進的に回転させ得る。ボールねじ192が回転することで、突き棒190はシリンジ224のバレル222内に配置されたプランジャー220を直動させ得る。・・・」という記載、及び、図4の図示内容から、注射器12はギアおよびラチェットアセンブリー162に結合された流体ドライブ160を含み、流体ドライブ160に作動流体184が流れさせられ、その結果ギアおよびラチェットアセンブリー162に力を伝え、ギアおよびラチェットアセンブリー162は突き棒190と、突き棒190に結合されたボールねじ192とを含み、ギア194が前進的に駆動されボールねじ192が回転し、ボールねじ192が回転することで、突き棒190はシリンジ224のバレル222内に配置されたプランジャー220を直動させるといえる。

d 【0037】の「・・・動力源260は、図1を参照して上記で議論されたように撮像孔14内の患者への配置に特に良く合ような、患者装着可能(例えば、取り外し可能に装備された)注射器として記述され得る。・・・さらに、動力源260はシリンジ338を支えるよう構成されたシリンジレセプタクル336を含む。・・・」という記載、及び、図6の図示内容、そこに【0013】の「説明される実施形態のうちの1つまたはそれよりも多くの実施形態に関して以下で議論される様々な特徴は、上述した本発明の局面のどれにでも単独であるいは任意の組み合わせで組み込まれ得る。」という記載を考慮すると、引用文献1には、シリンジレセプタクルを含む注射器12が記載されているといえる。

e 【0032】の「図4に示された撮像系10は、矢印234で示されるように突き棒190の・・・加速度・・・をモニターするように構成された1つまたはそれよりも多くのフィードバックセンサー232を含み得る。」という記載、及び、【0020】の「例えばセンサー20は矢印44で示されるように検知されたパラメーターに関するデータを取得し得る。例えば検知されたパラメーター44は流体ドライブ18の・・・加速度・・・を含み得る。」という記載、そこに【0013】の「説明される実施形態のうちの1つまたはそれよりも多くの実施形態に関して以下で議論される様々な特徴は、上述した本発明の局面のどれにでも単独であるいは任意の組み合わせで組み込まれ得る。」という記載を考慮すると、フィードバックセンサー232は、突き棒190の加速度を検知してモニターするように構成されたといえる。

f 【0032】の「1つまたはそれよりも多くのセンサー232はフィードバック信号236をコントロール238に提供し得、コントロール238は流体ポンプ182への閉ループ制御信号240を提供し得る。・・・」という記載、【0018】の「図示された実施形態において、撮像系10は閉ループコントロールシステムとして動作し得る。例えば、コントロール26は流体ポンプ28に制御信号36を出力し得る。その結果流体ポンプ28にトリガーがかかり、それぞれ矢印38、40で示されるように作動流体30を受け取り、これを流体ドライブ18に送る。・・・」という記載、そこに【0013】の「説明される実施形態のうちの1つまたはそれよりも多くの実施形態に関して以下で議論される様々な特徴は、上述した本発明の局面のどれにでも単独であるいは任意の組み合わせで組み込まれ得る。」という記載を考慮すると、コントロール238は、フィードバックセンサー232によりフィードバック信号236が提供され、流体ポンプ182への閉ループ制御信号240を提供し、その結果流体ポンプ182にトリガーがかかり、作動流体184を受け取り、これを流体ドライブ160に送るといえる。

(ウ)上記(ア)、(イ)から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「バレル222とプランジャー220とを有するシリンジ224内に蓄えられた医用流体を流す撮像系10であって、
シリンジレセプタクルを含む注射器12であって、ギアおよびラチェットアセンブリー162に結合された流体ドライブ160を含み、流体ドライブ160に作動流体184が流れさせられ、その結果ギアおよびラチェットアセンブリー162に力を伝え、ギアおよびラチェットアセンブリー162は突き棒190と、突き棒190に結合されたボールねじ192とを含み、ギア194が前進的に駆動されボールねじ192が回転し、ボールねじ192が回転することで、突き棒190はシリンジ224のバレル222内に配置されたプランジャー220を直動させる、注射器12と、
突き棒190の加速度を検知してモニターするように構成されたフィードバックセンサー232と、
フィードバックセンサー232によりフィードバック信号236が提供され、流体ポンプ182への閉ループ制御信号240を提供する、コントロール238と、
を含み、
流体ポンプ182への閉ループ制御信号240を提供する結果、流体ポンプ182にトリガーがかかり、作動流体184を受け取り、これを流体ドライブ160に送る、
撮像系10。」

(3)引用発明との対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「バレル222」は、本件補正発明の「シリンダ」に相当し、以下同様に、「プランジャー220」は「ピストン」に、「シリンジ224」は「シリンジ」に、「医用流体」は「薬液」に、「撮像系10」は「薬液注入装置」に、それぞれ相当する。
したがって、引用発明は、本件補正発明の「シリンダとピストンとを有するシリンジに充填された薬液を注入する薬液注入装置」といえる。

(イ)引用発明の「注射器12」は、本件補正発明の「注入ヘッド」に相当する。
また、引用発明の「注射器12」に含まれる「シリンジレセプタクル」は、「レセプタクル」が「入れ物、容器」を意味することからみて、「シリンジが着脱自在に装着される」ものであることは明らかである。
また、引用発明の「注射器12」に含まれる「ギアおよびラチェットアセンブリー162に結合された流体ドライブ160」は、「シリンジ224のバレル222内に配置されたプランジャー220を直動させる」ものであるから、本件補正発明の「前記シリンジのピストンを操作するための」、「ピストン駆動機構」に相当する。
また、引用発明の「ギアおよびラチェットアセンブリー162」は、「突き棒190と、突き棒190に結合されたボールねじ192とを含み」、「ボールねじ192が回転することで、突き棒190はシリンジ224のバレル222内に配置されたプランジャー220を直動させる」ところ、プランジャー220が直動する方向は、図4から、シリンジ224の軸方向であり、突き棒190及びボールねじ192は、プランジャー220と一体的に移動するから、引用発明の「突き棒190」及び「ボールねじ192」からなるユニットは、本件補正発明の「前記シリンジの軸方向に移動される直動ユニット」に相当する。
したがって、引用発明は、本件補正発明の「シリンジが着脱自在に装着される注入ヘッドであって、前記シリンジのピストンを操作するための、前記シリンジの軸方向に移動される直動ユニットを含むピストン駆動機構を備えた注入ヘッド」を有するといえる。

(ウ)加速度を検知するセンサーは加速度センサといえるから、引用発明の「加速度を検知してモニターするように構成されたフィードバックセンサー232」は、本件補正発明の「加速度センサ」に相当する。
したがって、引用発明は、本件補正発明の「加速度センサ」を有するといえる。

(エ)引用発明の「コントローラ238」は、本件補正発明の「注入制御部」に相当する。
また、引用発明の「コントローラ238」は、「突き棒190の加速度を検知してモニターするように構成されたフィードバックセンサー232」により「フィードバック信号236が提供され、流体ポンプ182への閉ループ制御信号240を提供する」ものであり、その結果「流体ポンプ182にトリガーがかかり、作動流体184を受け取り、これを流体ドライブ160に送」り、「流体ドライブ160に作動流体184が流れさせられ、その結果ギアおよびラチェットアセンブリー162に力を伝え」、「ギア194が前進的に駆動されボールねじ192が回転し、ボールねじ192が回転することで、突き棒190はシリンジ224のバレル222内に配置されたプランジャー220を直動させる」ので、フィードバックセンサー232による検出結果を利用して、ギアおよびラチェットアセンブリー162に結合された流体ドライブ160の動作を制御するように構成されたといえる。
したがって、引用発明は、本件補正発明の「加速度センサによる検出結果を利用して前記ピストン駆動機構の動作を制御するように構成された注入制御部」を有するといえる。

イ 以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
【一致点】
「シリンダとピストンとを有するシリンジに充填された薬液を注入する薬液注入装置であって、
シリンジが着脱自在に装着される注入ヘッドであって、前記シリンジのピストンを操作するための、前記シリンジの軸方向に移動される直動ユニットを含むピストン駆動機構を備えた注入ヘッドと、
加速度センサと、
前記加速度センサによる検出結果を利用して前記ピストン駆動機構の動作を制御するように構成された注入制御部と、
を有する薬液注入装置。」

【相違点】
「加速度センサ」について、本件補正発明は、その固定位置が「前記直動ユニットの先端部」であるとともに、その方式が「静電容量検出方式、ピエゾ抵抗方式および熱検知方式のいずれか」であるのに対し、引用発明は、「突き棒190の加速度を検知してモニターするように構成された」ものであるものの、その固定位置及び方式は明らかでない点。

(4)判断
以下、相違点について検討する。
ア 加速度センサとして、静電容量検出方式、ピエゾ抵抗方式及び熱検知方式のものは、本願の出願前において周知の技術といえる(必要であれば、例えば、原査定の拒絶の理由に引用された特表2010-510867号公報の【0043】-【0044】の他に、特開2009-276305号公報の【0019】、【0028】、【0060】、“平成21年度特許出願技術動向調査報告書 加速度センサ(要約版)”、特許庁、平成22年4月、p.1-2の「1.1.加速度センサの概要」、p.3の「1.2.1.センシング方式」における「静電型」、「抵抗型」、「熱・流体型」の記載を参照。)。
そして、引用発明のフィードバックセンサー232は、 突き棒190の加速度を検知してモニターするように構成されたものであるところ、どのようなセンサを採用するかは、センサの設置環境、センサの方式ごとの特性などを考慮して、当業者が適宜決定し得たことである。
してみると、引用発明において、フィードバックセンサー232として、静電容量検出方式、ピエゾ抵抗方式及び熱検知方式のいずれかの加速度センサを採用することは、上記の周知の技術に基づいて、当業者が容易になし得たことである。
また、静電容量検出方式、ピエゾ抵抗方式及び熱検知方式の加速度センサは、いずれも測定対象に固定されるものである(“平成21年度特許出願技術動向調査報告書 加速度センサ(要約版)”、特許庁、平成22年4月、p.3の「1.2.1.センシング方式」に記載された「静電型」、「抵抗型」、「熱・流体型」の動作原理から、測定対象物に固定されることは明らかである。また、静電容量検出方式及びピエゾ抵抗方式については、特開2009-276305号公報の【0019】、【0028】、【0060】に、測定対象物に固定されることが記載されている。)ところ、引用発明のフィードバックセンサー232は「突き棒190の加速度を検知してモニターする」のであるから、採用した加速度センサを突き棒190に固定することも、当業者が容易になし得たことである。
さらに、突き棒190は、突き棒190及びボールねじ192からなるユニットの先端部をなす部材であるところ、採用した加速度センサを当該ユニットに固定する際に、その固定位置として、当該ユニットの先端部とすることは、単なる設計事項にすぎない。

イ 本件補正発明の効果は、引用発明及び上記の周知の技術から当業者が予測し得た程度のものであって、格別のものとはいえない。
なお、本願明細書の【0016】には、「本発明によれば、シリンジが着脱自在に装着される注入ヘッドに加速度センサを固定することにより、加速度センサによって検出された加速度を用いて、注入ヘッドの姿勢や位置などに関する様々な情報を得ることができ、それを利用して薬液注入装置の不具合などを検出することができる。特に、加速度センサを直動ユニットに固定することによって、加速度センサによって検出された加速度を利用して薬液注入時の直動ユニットの移動速度や移動距離が求められ、それに基づいてピストン駆動機構の動作を制御することができる。」という効果が記載されている。
ここで、進歩性が肯定される方向に働く要素である引用発明と比較した有利な効果とは、発明特定事項によって奏される効果(特有の効果)のうち、引用発明の効果と比較して有利なものをいう。
そうであるところ、本件補正後の請求項1には、「加速度センサによる検出結果を利用してピストン駆動機構の動作を制御するように構成された注入制御部」と記載されており、加速度センサによる検出結果を利用して、「注入ヘッドの姿勢や位置などに関する様々な情報を得て、それを利用して薬液注入装置の不具合などを検出すること」及び「薬液注入時の直動ユニットの移動速度や移動距離を求め、それに基づいてピストン駆動機構の動作を制御すること」は、発明特定事項として記載されていない。
してみると、【0016】に記載された上記効果は、本件補正発明についての発明特定事項によって奏される効果(特有の効果)といえないから、参酌されない。

ウ したがって、本件補正発明は、引用発明及び上記の周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成30年10月30日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1-17に係る発明は、平成30年4月13日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1-17に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1-17に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載された事項、引用文献3に記載された事項、及び、引用文献4に記載された周知の技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特表2010-536484号公報
引用文献2:国際公開第2006/068171号
引用文献3:国際公開第2011/129175号
引用文献4:特表2010-510867号公報

3 引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1及びその記載事項は、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、加速度センサが固定された箇所を表わす「前記直動ユニットの先端部」という事項の「の先端部」という事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(3)、(4)に記載したとおり、引用発明及び上記の周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び上記の周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-11-29 
結審通知日 2019-12-03 
審決日 2019-12-17 
出願番号 特願2014-103816(P2014-103816)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61M)
P 1 8・ 575- Z (A61M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 崇文家辺 信太郎  
特許庁審判長 内藤 真徳
特許庁審判官 和田 将彦
関谷 一夫
発明の名称 薬液注入装置  
代理人 伊藤 克博  

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