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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01B
管理番号 1359441
審判番号 不服2018-15549  
総通号数 243 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-11-26 
確定日 2020-02-06 
事件の表示 特願2016- 7714「電極パターンの形成方法および電子部品の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 7月27日出願公開、特開2017-130298〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年1月19日に出願したものであって、平成30年6月21日付け拒絶理由通知に対して同年8月24日付けで手続補正がなされたが、同年8月31日付けで拒絶査定がなされた。これに対し、同年11月26日付けで拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正がなされたものである。

第2 平成30年11月26日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成30年11月26日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正について
平成30年11月26日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲及び明細書についてするもので、特許請求の範囲については、
本件補正前に、
「 【請求項1】
互いに接続された第一導体部および第二導体部を含む電極パターンを、インクジェット工法によりワークに形成する方法であって、
前記ワークが有する同一面内には、前記第一導体部の少なくとも一部に対応する第一エリア、および、前記第二導体部の少なくとも一部に対応する第二エリアが定義されており、
前記第一導体部および前記第二導体部を形成するために、少なくとも、前記第一および第二エリアの各々についての二次元形状および解像度を含む前記電極パターンのデータに従って、前記第一エリアおよび前記第二エリアに向けて導電性インク滴を吐出し、
前記第一エリアおよび前記第二エリアにおける解像度は互いに異なること、
を特徴とする方法。
【請求項2】
互いに接続された第一導体部および第二導体部を含む電極パターンを、インクジェット工法によりワークに形成する方法であって、
前記ワークが有する同一面内には、前記第一導体部の少なくとも一部に対応する第一エリア、および、前記第二導体部の少なくとも一部に対応する第二エリアが定義されており、
前記第一導体部および前記第二導体部を形成するために、前記第一エリアおよび前記第二エリアに向けて導電性インク滴を吐出し、
前記第一エリアおよび前記第二エリアにおける導電性インク滴の重ね塗り回数は互いに異なり、
前記第一導体部が前記電極パターンのベタ部分で、前記第二導体部が前記電極パターンのライン部分である場合、前記第二エリアの重ね塗り回数は、前記第一エリアの重ね塗り回数よりも多いこと、
を特徴とする方法。
【請求項3】
前記第一導体部が前記電極パターンのベタ部分で、前記第二導体部が前記電極パターンのライン部分である場合、前記第二エリアの解像度は、前記第一エリアの解像度よりも大きいこと、
を特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第一エリアの解像度は、前記第二エリアの解像度よりも大きいこと、
を特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記第二エリアに向けて導電性インク滴を吐出する重ね塗り回の後に、前記第一エリアに向けて導電性インク滴を吐出すること、
を特徴とする請求項2または4に記載の方法。
【請求項6】
前記第一エリアおよび第二エリアの境界近傍に第三エリアが定義される場合には、
前記第一エリアおよび前記第二エリアに向けて導電性インク滴を吐出する重ね塗り回の後に、前記第三エリアに向けて導電性インク滴を吐出すること、
を特徴とする請求項2?5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記第三エリアには、前記第二エリアから前記第一エリアに向かって段階的に小さくなる解像度または重ね塗り回数で導電性インク滴を吐出すること、
を特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記第三エリアの幅は、前記第二エリアの幅よりも小さく定義されること、
を特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項9】
請求項1?8のいずれかに記載の方法で電極パターンを形成した複数のワークを積層し焼成する、電子部品の製造方法。
【請求項10】
請求項1または2に記載の方法で電極パターンを形成した複数のワークを、所定の積層方向に積層する電子部品の製造方法であって、
前記複数のワークに形成すべき第一導体部のそれぞれは、前記積層方向からの平面視で他の電極パターンと重なり合っており、
前記複数のワークに形成すべき第二導体部のそれぞれは、前記積層方向からの平面視で、他の電極パターンと重なり合っておらず、
前記第一エリアの解像度または重ね塗り回数は、前記第二エリアの解像度または重ね塗り回数よりも小さいこと、
を特徴とする方法。
【請求項11】
請求項1に記載の方法で電極パターンを形成した複数のワークを、所定の積層方向に積層する電子部品の製造方法であって、
前記複数のワークに形成すべき第一導体部のそれぞれは、相対的に厚くなると想定される周縁部であり、
前記複数のワークに形成すべき第二導体部のそれぞれは、前記周縁部の内側部分であり、
前記第一エリアの解像度は、前記第二エリアの解像度よりも小さいこと、
を特徴とする方法。
【請求項12】
互いに接続された第一導体部および第二導体部を含む電極パターンを、インクジェット工法によりワークに形成する電極パターン形成工程を含む、電子部品の製造方法であって、
前記電極パターン形成工程では、
前記ワークが有する同一面内には、前記第一導体部の少なくとも一部に対応する第一エリア、および、前記第二導体部の少なくとも一部に対応する第二エリアが定義されており、
前記第一導体部および前記第二導体部を形成するために、前記第一エリアおよび前記第二エリアに向けて導電性インク滴を吐出し、
前記第一エリアおよび前記第二エリアにおける導電性インク滴の重ね塗り回数は互いに異なり、
前記電子部品の製造方法では、
複数の前記ワークを、所定の積層方向に積層し、
前記複数のワークに形成すべき第一導体部のそれぞれは、前記積層方向からの平面視で他の電極パターンと重なり合っており、
前記複数のワークに形成すべき第二導体部のそれぞれは、前記積層方向からの平面視で、他の電極パターンと重なり合っておらず、
前記第一エリアの重ね塗り回数は、前記第二エリアの重ね塗り回数よりも小さいこと、
を特徴とする方法。
【請求項13】
互いに接続された第一導体部および第二導体部を含む電極パターンを、インクジェット工法によりワークに形成する電極パターン形成工程を含む、電子部品の製造方法であって、
前記電極パターン形成工程では、
前記ワークが有する同一面内には、前記第一導体部の少なくとも一部に対応する第一エリア、および、前記第二導体部の少なくとも一部に対応する第二エリアが定義されており、
前記第一導体部および前記第二導体部を形成するために、前記第一エリアおよび前記第二エリアに向けて導電性インク滴を吐出し、
前記第一エリアおよび前記第二エリアにおける導電性インク滴の重ね塗り回数は互いに異なり、
前記電子部品の製造方法では、
複数の前記ワークを、所定の積層方向に積層し、
前記複数のワークに形成すべき第一導体部のそれぞれは、相対的に厚くなると想定される周縁部であり、
前記複数のワークに形成すべき第二導体部のそれぞれは、前記周縁部の内側部分であり、
前記第一エリアの重ね塗り回数は、前記第二エリアの重ね塗り回数よりも小さいこと、
を特徴とする方法。」とあったところを、

本件補正により、
「 【請求項1】
互いに接続された第一導体部および第二導体部を含む電極パターンを、インクジェット工法によりワークに形成する方法であって、
前記ワークが有する同一面内には、前記第一導体部の少なくとも一部に対応する第一エリア、および、前記第二導体部の少なくとも一部に対応する第二エリアが定義されており、
前記第一導体部および前記第二導体部を形成するために、少なくとも、前記第一および第二エリアの各々についての二次元形状および解像度を含む前記電極パターンのデータに従って、前記第一エリアおよび前記第二エリアに向けて導電性インク滴を吐出し、
前記第一エリアおよび前記第二エリアにおける解像度は互いに異なり、
前記第一導体部が前記電極パターンのベタ部分で、前記第二導体部が前記電極パターンのライン部分である場合、前記第二エリアの導電性インクの厚さが前記第一エリアの導電性インクの厚さより厚くなるように、前記第二エリアの解像度を前記第一エリアの解像度よりも大きくすること、
を特徴とする方法。
【請求項2】
互いに接続された第一導体部および第二導体部を含む電極パターンを、インクジェット工法によりワークに形成する方法であって、
前記ワークが有する同一面内には、前記第一導体部の少なくとも一部に対応する第一エリア、および、前記第二導体部の少なくとも一部に対応する第二エリアが定義されており、
前記第一導体部および前記第二導体部を形成するために、前記第一エリアおよび前記第二エリアに向けて導電性インク滴を吐出し、
前記第一エリアおよび前記第二エリアにおける導電性インク滴の重ね塗り回数は互いに異なり、
前記第一導体部が前記電極パターンのベタ部分で、前記第二導体部が前記電極パターンのライン部分である場合、前記第二エリアの導電性インクの厚さが前記第一エリアの導電性インクの厚さより厚くなるように、前記第二エリアの重ね塗り回数を、前記第一エリアの重ね塗り回数よりも多くすること、
を特徴とする方法。
【請求項3】
前記第一エリアの解像度は、前記第二エリアの解像度よりも大きいこと、
を特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第二エリアに向けて導電性インク滴を吐出する重ね塗り回の後に、前記第一エリアに向けて導電性インク滴を吐出すること、
を特徴とする請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記第一エリアおよび前記第二エリアの境界近傍に第三エリアが定義される場合には、
前記第一エリアおよび前記第二エリアに向けて導電性インク滴を吐出する重ね塗り回の後に、前記第三エリアに向けて導電性インク滴を吐出すること、
を特徴とする請求項2?4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記第三エリアには、前記第二エリアから前記第一エリアに向かって段階的に小さくなる解像度または重ね塗り回数で導電性インク滴を吐出すること、
を特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記第三エリアの幅は、前記第二エリアの幅よりも小さく定義されること、
を特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項8】
請求項1?7のいずれかに記載の方法で電極パターンを形成した複数のワークを積層し焼成する、電子部品の製造方法。
【請求項9】
請求項1または2に記載の方法で電極パターンを形成した複数のワークを、所定の積層方向に積層する電子部品の製造方法であって、
前記複数のワークに形成すべき第一導体部のそれぞれは、前記積層方向からの平面視で他の電極パターンと重なり合っており、
前記複数のワークに形成すべき第二導体部のそれぞれは、前記積層方向からの平面視で、他の電極パターンと重なり合っておらず、
前記第一エリアの解像度または重ね塗り回数は、前記第二エリアの解像度または重ね塗り回数よりも小さいこと、
を特徴とする方法。
【請求項10】
請求項1に記載の方法で電極パターンを形成した複数のワークを、所定の積層方向に積層する電子部品の製造方法であって、
前記複数のワークに形成すべき第一導体部のそれぞれは、相対的に厚くなると想定される周縁部であり、
前記複数のワークに形成すべき第二導体部のそれぞれは、前記周縁部の内側部分であり、
前記第一エリアの解像度は、前記第二エリアの解像度よりも小さいこと、
を特徴とする方法。
【請求項11】
互いに接続された第一導体部および第二導体部を含む電極パターンを、インクジェット工法によりワークに形成する電極パターン形成工程を含む、電子部品の製造方法であって、
前記電極パターン形成工程では、
前記ワークが有する同一面内には、前記第一導体部の少なくとも一部に対応する第一エリア、および、前記第二導体部の少なくとも一部に対応する第二エリアが定義されており、
前記第一導体部および前記第二導体部を形成するために、前記第一エリアおよび前記第二エリアに向けて導電性インク滴を吐出し、
前記第一エリアおよび前記第二エリアにおける導電性インク滴の重ね塗り回数は互いに異なり、
前記電子部品の製造方法では、
複数の前記ワークを、所定の積層方向に積層し、
前記複数のワークに形成すべき第一導体部のそれぞれは、前記積層方向からの平面視で他の電極パターンと重なり合っており、
前記複数のワークに形成すべき第二導体部のそれぞれは、前記積層方向からの平面視で、他の電極パターンと重なり合っておらず、
前記電極パターン形成工程において前記第一エリアの導電性インクの厚さが前記第二エリアの導電性インクの厚さより薄くなるように、前記第一エリアの重ね塗り回数を、前記第二エリアの重ね塗り回数よりも小さくすること、
を特徴とする方法。
【請求項12】
互いに接続された第一導体部および第二導体部を含む電極パターンを、インクジェット工法によりワークに形成する電極パターン形成工程を含む、電子部品の製造方法であって、
前記電極パターン形成工程では、
前記ワークが有する同一面内には、前記第一導体部の少なくとも一部に対応する第一エリア、および、前記第二導体部の少なくとも一部に対応する第二エリアが定義されており、
前記第一導体部および前記第二導体部を形成するために、前記第一エリアおよび前記第二エリアに向けて導電性インク滴を吐出し、
前記第一エリアおよび前記第二エリアにおける導電性インク滴の重ね塗り回数は互いに異なり、
前記電子部品の製造方法では、
複数の前記ワークを、所定の積層方向に積層し、
前記複数のワークに形成すべき第一導体部のそれぞれは、相対的に厚くなると想定される周縁部であり、
前記複数のワークに形成すべき第二導体部のそれぞれは、前記周縁部の内側部分であり、
乾燥後において、前記第一エリアの導電性インクの厚さが前記第二エリアの導電性インクの厚さと同じになるように、前記第一エリアの重ね塗り回数を、前記第二エリアの重ね塗り回数よりも小さくすること、
を特徴とする方法。」とするものである。なお、下線は補正箇所を示す。

上記の補正は、
・本件補正前の請求項3を削除し、
・第二エリアの解像度について「前記第一導体部が前記電極パターンのベタ部分で、前記第二導体部が前記電極パターンのライン部分である場合、前記第二エリアの導電性インクの厚さが前記第一エリアの導電性インクの厚さより厚くなるように、前記第二エリアの解像度を前記第一エリアの解像度よりも大きくする」と限定し(本件補正後の請求項1)、
・第二エリアの重ね塗り回数について「前記第二エリアの導電性インクの厚さが前記第一エリアの導電性インクの厚さより厚くなるように、前記第二エリアの重ね塗り回数を、前記第一エリアの重ね塗り回数よりも多くする」と限定し(本件補正後の請求項2)、
・第一エリアの重ね塗り回数について「前記第一エリアの導電性インクの厚さが前記第二エリアの導電性インクの厚さより薄くなるように、前記第一エリアの重ね塗り回数を、前記第二エリアの重ね塗り回数よりも小さくする」と限定し(本件補正後の請求項11)、
・第一エリアの重ね塗り回数について「乾燥後において、前記第一エリアの導電性インクの厚さが前記第二エリアの導電性インクの厚さと同じになるように、前記第一エリアの重ね塗り回数を、前記第二エリアの重ね塗り回数よりも小さくする」と限定し(本件補正後の請求項12)、
・請求項の削除に伴い、項番を整理(本件補正後の請求項3ないし10)
したものである。

よって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第1号に掲げる請求項の削除及び同項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、特許請求の範囲の減縮を目的とする本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たすか)否かについて以下検討する。

2.引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された特開2011-155086号公報(以下「引用文献」という。)には、「導体パターン前駆体、導体パターン、導体パターン前駆体付基板、配線基板および配線基板の製造方法」に関して、図面と共に以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。

(1)「【0055】
図1、2に示すように、導体パターン前駆体付セラミックス成形体(本発明の導体パターン前駆体付基板)50は、セラミックス成形体15上に導体パターン前駆体10が形成されている。
導体パターン前駆体10は、パッド膜11と配線膜12とを有している。なお、導体パターン前駆体10は、複数のパッド膜11および配線膜12とを有しているが、図1、2では、説明の都合上、それぞれ1つのパッド膜11および配線膜12を除き、図面への記載を省略している。
パッド膜11は、略円盤状をなす膜であり、焼結されることにより、パッド21を形成するものである。パッド21は、トランジスタやコンタクト(ビア)33等の電子部品と接続されるために設けられている。
・・・(中略)・・・
【0064】
配線膜12は、パッド膜11と接するようにして設けられており、導体パターン20としたときに配線22となるものである。
このようなパッド膜11と配線膜12とにおいて、配線膜12の平均厚さよりも、前記パッド膜11の平均厚さが小さいことが好ましい。これにより、形成される導体パターン20において、断線がより確実に防止される。これに対し、配線膜12の平均厚さよりもパッド膜11の平均厚さが大きい場合、焼結時において、溶融した金属がその表面張力で、パッド膜11に集まりやすくなり、このため、配線膜12のパッド膜11付近の金属がパッド膜11に流出する結果、形成される導体パターン20において、パッド21と配線22との間で断線が発生しやすくなる。
・・・(中略)・・・
【0073】
積層基板32は、積層されたセラミックス基板31、31間に、導体パターン前駆体10により形成された導体パターン(回路、本発明の導体パターン)20を備えている。
導体パターン20は、上述したような導体パターン前駆体10を加熱する(焼結する)ことにより形成される薄膜状の導体パターンであって、銀粒子が相互に結合されてなり、少なくとも導体パターン表面において前記銀粒子同士が隙間なく結合している。
【0074】
図3に示すように、導体パターン20は、パッド21と、配線22とを有しており、セラミックス基板31上に配置されている。
導体パターン20は、パッド21と配線22とを有している。パッド21および配線22は、それぞれ、焼結前のパッド膜11および配線膜12に対応する。
パッド21は、パッド膜11により形成されたものである。このため、導体パターン20およびこのような導体パターン20を備える配線基板30は、断線が抑制されており、信頼性が高いものである。
【0075】
導体パターン20の比抵抗は、20μΩcm未満であることが好ましく、15μΩcm以下であることがより好ましい。このときの比抵抗は、インクの付与後、160℃で加熱、乾燥した後の比抵抗をいう。上記比抵抗が20μΩcm以上になると、導電性が要求される用途、すなわち回路基板上に形成する電極等に用いることが困難となる。
なお、上記のような導体パターン20は、携帯電話やPDA等の移動通話機器の高周波モジュール、インターポーザー、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)、加速度センサー、弾性表面波素子、アンテナや櫛歯電極等の異形電極、その他各種計測装置等の電子部品等に適用することができる。」

(2)「【0083】
[導体パターン前駆体形成工程]
以上のようにして得られたセラミックス成形体15の一方の側の表面に、導体パターン20となる導体パターン前駆体10を、コンタクト前駆体16に連続した状態に形成する。すなわち、図5(a)に示すようにセラミックス成形体15上に、前述したような導体パターン形成用インク(以下単にインクともいう)200を液滴吐出(インクジェット)法により付与し、前記導体パターン20となる前駆体10を形成する。これにより、前駆体10を備えた導体パターン前駆体付セラミックス成形体50が得られる。
・・・(中略)・・・
【0097】
制御装置190は、インクジェット装置100の各部位を制御する。例えば、駆動回路191で生成する印加電圧の波形を調節してインク200の吐出条件を制御したり、ヘッド位置決め手段180およびテーブル位置決め手段170を制御することにより基板Sへのインク200の吐出位置を制御したりする。
以上のようなインクジェット装置100を用いることにより、インク200を、セラミックス成形体15(基材S)上の所望する場所に所望の量、精度良く吐出し、配することができる。さらに、インク200は、導体パターン形成用インクであるので、図5(a)に示したように導体パターン前駆体10を、精度良くしかも容易に形成することができる。」

(3)「【0098】
なお、形成した導体パターン前駆体10について、さらに乾燥処理を行ってもよい。乾燥処理は、上記の液滴吐出時におけるセラミックス成形体15の加熱温度と同様の条件で行うことができる。
導体パターン前駆体10の厚さの調整は、インク200の吐出条件を設定することにより行うことができる。すなわち、導体パターン前駆体10の厚さが大きい部位を形成する場合には、当該部位の面積当たりのインク200の吐出量(または液滴数)を大きいものとし、一方で、導体パターン前駆体10の厚さが小さい部位を形成する場合には、当該部位の面積当たりのインク200の吐出量(または液滴数)を小さいものとすることで行うことができる。
【0099】
また、液滴吐出方法によりインク200を付与してから、セラミックス成形体15を加熱して水等の分散媒を蒸発させ、当該加熱後の導体パターン前駆体10の上に再度インク200を付与する、といった工程を繰り返し行うことで、厚膜の導体パターン前駆体10を形成してもよい。このような場合、セラミックス成形体15に一旦付与されたインク200の粘度が上昇することから、インク200がセラミックス成形体15上に過度に濡れ広がることを防止し、導体パターン前駆体10の厚さ、線幅等をより精度よく目的のものとすることができる。
・・・(中略)・・・
【0105】
[加熱工程]
このようにして積層体17を形成したら、例えば、ベルト炉などによって加熱処理する。これにより、各セラミックス成形体15は焼結されることで、図3に示すようにセラミックス基板31となり、また、導体パターン前駆体10は、これを構成する銀コロイド粒子が焼結して配線パターンや電極パターンからなる導体パターン(回路)20となる。そして、このように積層体17が加熱処理されることで、この積層体17は図3に示した積層基板32となる。」

(4)引用文献の図1及び2によると、パッド膜11及び配線膜12は、セラミックス成形体15の同一面内に形成されるものである。また、パッド膜11は、円盤状にすきまなく形成され、配線膜12は、線状に形成されるものである。

・上記(1)によれば、導体パターン前駆体10は、パッド膜11と該パッド膜11に接する配線膜12とを有するものである。また、パッド膜11の平均厚さは、配線膜12の平均厚さよりも小さいものである。
・上記(2)によれば、セラミックス成形体15上に導体パターン形成用インク200をインクジェット法により付与して導体パターン前駆体10を形成する工程は、制御装置190がインクジェット装置100の導体パターン形成用インク200の吐出条件及び吐出位置を制御して、導体パターン形成用インク200をセラミックス成形体15上の所望する場所に所望の量吐出するものである。
・上記(3)によれば、導体パターン前駆体10の厚さの調整は、導体パターン形成用インク200の吐出条件を設定することにより行われ、導体パターン前駆体10の厚さが大きい部位を形成する場合には、当該部位の面積当たりの導体パターン形成用インク200の液滴数を大きいものとし、導体パターン前駆体10の厚さが小さい部位を形成する場合には、当該部位の面積当たりの導体パターン形成用インク200の液滴数を小さいものとするものである。
・上記(4)によれば、パッド膜11及び配線膜12は、セラミックス成形体15の同一面内に形成されるものである。また、パッド膜11は、円盤状にすきまなく形成されるものであり、配線膜12は、線状に形成されるものである。

上記摘示事項及び図面を総合勘案すると、引用文献には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「セラミックス成形体15上に導体パターン形成用インク200をインクジェット法により付与して、パッド膜11と前記パッド膜11に接する配線膜12とを有する導体パターン前駆体10を形成する工程であって、
制御装置190がインクジェット装置100の導体パターン形成用インク200の吐出条件及び吐出位置を制御して、前記導体パターン形成用インク200を前記セラミックス成形体15上の所望する場所に所望の量吐出し、
前記導体パターン前駆体10の厚さの調整は、前記導体パターン形成用インク200の前記吐出条件を設定することにより行われ、前記導体パターン前駆体10の厚さが大きい部位を形成する場合には、当該部位の面積当たりの前記導体パターン形成用インク200の液滴数を大きいものとし、前記導体パターン前駆体10の厚さが小さい部位を形成する場合には、当該部位の面積当たりの前記導体パターン形成用インク200の液滴数を小さいものとし、
前記パッド膜11は、円盤状にすきまなく形成され、前記配線膜12は、線状に形成され、
前記パッド膜11及び前記配線膜12は、前記セラミックス成形体15の同一面内に形成され、
前記パッド膜11の平均厚さは、前記配線膜12の平均厚さよりも小さい、
工程。」

3.対比
そこで、本願補正発明と引用発明とを対比する。

(1)引用発明の「パッド膜11」及び「配線膜12」は、本願補正発明の「第一導体部」及び「第二導体部」にそれぞれ相当する。また、引用発明の「パッド膜11」は、円盤状にすきまなく形成されるものであるから、本願補正発明の「ベタ部分」に相当する。そして、引用発明の「配線膜12」は、線状に形成されるものであるから、本願補正発明の「ライン部分」に相当する。さらに、引用発明の「パッド膜11と前記パッド膜11に接する配線膜12とを有する導体パターン前駆体10」と本願補正発明の「電極パターン」とは、「互いに接続された第一導体部および第二導体部を含む導体パターン」である点で共通する。
ただし、導体パターンについて、本願補正発明は「電極」パターンである旨特定するのに対し、引用発明はそのような特定がない点で相違している。

(2)引用発明の「セラミックス成形体15」、「導体パターン形成用インク200」及び「インクジェット法」は、本願補正発明の「ワーク」、「導電性インク滴」及び「インクジェット工法」にそれぞれ相当する。

(3)上記(1)及び(2)を踏まえると、引用発明の「セラミックス成形体15上に導体パターン形成用インク200をインクジェット法により付与して、パッド膜11と前記パッド膜11に接する配線膜12とを有する導体パターン前駆体10を形成する工程」は、本願補正発明の「互いに接続された第一導体部および第二導体部を含む導体パターンを、インクジェット工法によりワークに形成する方法」に相当する。

(4)引用発明の「制御装置190がインクジェット装置100の導体パターン形成用インク200の」「吐出位置を制御して、前記導体パターン形成用インク200を前記セラミックス成形体15上の所望する場所に」「吐出」して「前記パッド膜11及び前記配線膜12」を「前記セラミックス成形体15の同一面内に形成」することは、セラミックス成形体15の同一面内に、パッド膜11に対応するエリア、及び配線膜12に対応するエリアが定義されていると解されるから、本願補正発明の「前記ワークが有する同一面内には、前記第一導体部の少なくとも一部に対応する第一エリア、および、前記第二導体部の少なくとも一部に対応する第二エリアが定義されて」いることに相当する。また、パッド膜11及び配線膜12をセラミックス成形体15の同一面内に形成するために、インクジェット装置100は当然、各エリアについての二次元形状のデータに従って導体パターン形成用インク200を吐出するものと認められるから、本願補正発明の「前記第一導体部および前記第二導体部を形成するために、少なくとも、前記第一および第二エリアの各々についての二次元形状」「を含む前記導体パターンのデータに従って、前記第一エリアおよび前記第二エリアに向けて導電性インク滴を吐出」することに相当する。

(5)引用発明の「面積当たりの前記導体パターン形成用インク200の液滴数」は、本願補正発明の「解像度」に相当する。

(6)上記(1)及び(5)を踏まえると、引用発明の「制御装置190がインクジェット装置100の導体パターン形成用インク200の吐出条件」「を制御して、前記導体パターン形成用インク200を前記セラミックス成形体15上」「に所望の量吐出し、前記導体パターン前駆体10の厚さの調整は、前記導体パターン形成用インク200の前記吐出条件を設定することにより行われ、前記導体パターン前駆体10の厚さが大きい部位を形成する場合には、当該部位の面積当たりの前記導体パターン形成用インク200の液滴数を大きいものとし、前記導体パターン前駆体10の厚さが小さい部位を形成する場合には、当該部位の面積当たりの前記導体パターン形成用インク200の液滴数を小さいものとし」て「前記パッド膜11の平均厚さ」を「前記配線膜12の平均厚さよりも小さ」くすることは、配線膜12の厚さがパッド膜11の厚さより厚くなるように、配線膜12のエリアの解像度をパッド膜11のエリアの解像度よりも大きくするものと解されるから、本願補正発明の「前記第一エリアおよび前記第二エリアにおける解像度は互いに異なり、前記第一導体部が前記導体パターンのベタ部分で、前記第二導体部が前記導体パターンのライン部分である場合、前記第二エリアの導電性インクの厚さが前記第一エリアの導電性インクの厚さより厚くなるように、前記第二エリアの解像度を前記第一エリアの解像度よりも大きくすること」に相当する。また、インクジェット装置100は当然、各エリアについての解像度のデータに従って導体パターン形成用インク200を吐出するものと認められるから、本願補正発明の「前記第一および第二エリアの各々についての」「解像度を含む前記導体パターンのデータに従って、前記第一エリアおよび前記第二エリアに向けて導電性インク滴を吐出」することに相当する。

そうすると、本願補正発明と引用発明とは、
「互いに接続された第一導体部および第二導体部を含む導体パターンを、インクジェット工法によりワークに形成する方法であって、
前記ワークが有する同一面内には、前記第一導体部の少なくとも一部に対応する第一エリア、および、前記第二導体部の少なくとも一部に対応する第二エリアが定義されており、
前記第一導体部および前記第二導体部を形成するために、少なくとも、前記第一および第二エリアの各々についての二次元形状および解像度を含む前記導体パターンのデータに従って、前記第一エリアおよび前記第二エリアに向けて導電性インク滴を吐出し、
前記第一エリアおよび前記第二エリアにおける解像度は互いに異なり、
前記第一導体部が前記導体パターンのベタ部分で、前記第二導体部が前記導体パターンのライン部分である場合、前記第二エリアの導電性インクの厚さが前記第一エリアの導電性インクの厚さより厚くなるように、前記第二エリアの解像度を前記第一エリアの解像度よりも大きくすること、
を特徴とする方法。」の点で一致し、
以下の点で相違する。

<相違点>
導体パターンについて、本願補正発明は「電極」パターンである旨特定するのに対し、引用発明はそのような特定がない点。

4.判断
上記相違点について検討する。
引用発明の導体パターン前駆体10は、上記「2.(1)及び(3)」によれば、焼結することにより導体パターン20が形成されるものであり、また、該導体パターン20は、配線としてだけでなく電極にも適用することができるものである。
したがって、引用発明の導体パターン前駆体10から形成される導体パターン20を「電極」パターンとして用いられるものとし、相違点に係る構成とすることは、当業者が容易になし得た事項である。

この点について、審判請求人は、審判請求書にて「引用文献1および2のいずれにも、上記特徴Aにより『ライン部分の導電性インクがベタ部分に多少吸い寄せられてもライン部分が極端に薄くなることを避ける』という本願発明1の技術的思想は、示唆すらされていません。」旨を主張している。ここで、引用文献1とは上記の引用文献である。
しかしながら、引用発明は、配線膜12の平均厚さがパッド膜11の平均厚さよりも大きいので、当然、配線膜12の導体パターン形成用インク200が表面張力等によりパッド膜11に多少吸い寄せられても、配線膜12は極端に薄くならないものである。
よって、引用文献には、配線膜12の平均厚さがパッド膜11の平均厚さよりも大きいことが記載されている以上、上記の技術的思想が示唆されているといえるから、請求人の上記主張は採用できない。

したがって、本願補正発明は、引用発明から当業者が容易になし得たものである。
そして、本願補正発明の作用効果も、引用文献から当業者が予測できる範囲のものである。

5.むすび
以上のとおり、本件補正の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について

1.本願発明
平成30年11月26日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし13に係る発明は、平成30年8月24日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載された事項により特定されたものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は上記「第2[理由]1.」に本件補正前の請求項1として記載したとおりものである。

2.引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献の記載事項及び引用発明は、上記「第2[理由]2.」に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、上記「第2[理由]」で検討した本件補正発明から「前記第一導体部が前記電極パターンのベタ部分で、前記第二導体部が前記電極パターンのライン部分である場合、前記第二エリアの導電性インクの厚さが前記第一エリアの導電性インクの厚さより厚くなるように、前記第二エリアの解像度を前記第一エリアの解像度よりも大きくすること」という事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「第2[理由]3.及び4.」に記載したとおり、引用発明から当業者が容易になし得たものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明から当業者が容易になし得たものである。

4.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-11-27 
結審通知日 2019-12-03 
審決日 2019-12-16 
出願番号 特願2016-7714(P2016-7714)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01B)
P 1 8・ 575- Z (H01B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 和田 財太  
特許庁審判長 井上 信一
特許庁審判官 須原 宏光
佐々木 洋
発明の名称 電極パターンの形成方法および電子部品の製造方法  
代理人 アセンド特許業務法人  

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