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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1359447
審判番号 不服2019-551  
総通号数 243 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-01-16 
確定日 2020-02-06 
事件の表示 特願2017- 99284「ハードコートフィルム、偏光板、前面板及び画像表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年10月12日出願公開、特開2017-187784〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年8月31日に出願された特願2011-189447号の一部を平成29年5月18日に新たな特許出願としたものである。本願は、特許法44条2項の規定により、特願2011-189447号の出願の時に出願したものとみなされるところ、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年3月22日付け :拒絶理由通知書
平成30年5月28日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年10月4日付け :拒絶査定(以下「原査定」という。)
平成31年1月16日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1?6に係る発明は、平成30年5月28日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるものであり、そのうち請求項1に係る発明は、次のとおりのものである(以下「本願発明」という。)。
「【請求項1】
(メタ)アクリル系樹脂からなる基材フィルムと、前記基材フィルムの一方の面上に形成されたハードコート層とを有するハードコートフィルムであって、
前記基材フィルムと前記ハードコート層との界面に凹凸を有するものであり、
前記基材フィルム及び前記ハードコート層の厚さ方向の断面観察画像において、前記基材フィルム及び前記ハードコート層の厚さ方向に垂直な方向で、前記画像内のハードコート層と基材フィルム端部間の直線距離を基準長さ(A)とし、該基準長さ(A)内における前記界面の曲線に沿った長さを界面の長さ(B)とし、前記基準長さ(A)と前記界面の長さ(B)との比(B/A)が1.04?1.09であり、
前記ハードコート層は、フッ素系レベリング剤を含み、
前記ハードコート層の前記基材フィルム側と反対側面が平面性を有する
ことを特徴とするハードコートフィルム。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、
理由1:本願は、特許請求の範囲の記載が、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。
理由2:本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明(以下の引用文献1に記載された発明)であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができない。
理由3:本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明(以下の引用文献1に記載された発明又は以下の引用文献2に記載された発明)に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、
というものである。
引用文献1.特開2009-185282号公報
引用文献2.特開2010-31141号公報
引用文献3.特開2003-205563号公報
引用文献4.特開2004-245867号公報
引用文献5.特開2009-66884号公報
(引用文献3?5は周知技術を示すために引用された文献である。)

第4 当審の判断
1 理由1(特許法36条6項2号)について
本願発明は、「基準長さ(A)」と「界面の長さ(B)」との「比(B/A)」が「1.04?1.09」である事項を発明特定事項として含むものである。そこで、「基準長さ(A)」及び「界面の長さ(B)」が、それぞれどのような長さを示すのかについて検討する。
本願の請求項1には、「前記基材フィルム及び前記ハードコート層の厚さ方向の断面観察画像において、前記基材フィルム及び前記ハードコート層の厚さ方向に垂直な方向で、前記画像内のハードコート層と基材フィルム端部間の直線距離を基準長さ(A)とし、該基準長さ(A)内における前記界面の曲線に沿った長さを界面の長さ(B)とし」との記載がある。また、本願明細書段落【0016】には、「基準長さ(A)」、「界面の長さ(B)」及び「比(B/A)」に関し、「画像解析ソフト(イメージプロ、Media Cybernetic社製)を用いた上記断面の画像解析により測定することができる。具体的には、SEMなどにより断面観察を行った画像を用い、上記画像解析ソフトを用いて、上記画像内のハードコートと基材フィルム端部間の直線距離を上記基準長さとし、上記画像解析ソフトを用いて該基準長さ(A)における上記界面の長さ(B)を測定し、得られた値から(B/A)を算出する。更に具体的には画像解析ソフトImage-Pro Plus、Sharp Stackバージョン6.2を用い、測定、較正、空間の較正ウィザード、アクティブな画像を構成、単位(microns)と操作を行い、SEM画像のスケールに合わせて定義線を引き、較正を行う。較正後、距離測定で界面の両末端の2点間距離を測定し、該基準長さ(A)とする。次にマニュアル測定でトレース線を作成(閾値=3、平滑化=0、速度=3、ノイズ=5、自動)し、末端に標準をあわせることで自動的に曲線を測定し、実測値を読み取り界面の長さ(B)とする。得られた値から(B/A)を算出する。」との記載がある。
これらの記載によれば、本願発明における「基準長さ(A)」及び「界面の長さ(B)」は、「前記基材フィルム及び前記ハードコート層の厚さ方向の断面観察画像において、前記基材フィルム及び前記ハードコート層の厚さ方向に垂直な方向で、前記画像内のハードコート層と基材フィルム端部間の直線距離を基準長さ(A)とし、該基準長さ(A)内における前記界面の曲線に沿った長さを界面の長さ(B)」により求められるところ、当該「断面観察画像」はSEMなどにより断面観察を行った画像を用いるものと認められる。
一般的にSEMなどによる断面観察においては、フィルムの断面における適宜選択した場所を適当な倍率で拡大することにより得られるものであることが技術常識である。また、本願における図1にも示されるように、ハードコートフィルムにおいて凹凸がどの場所においても常に一定に形成されるのではなく、凸部や平坦部等が混在し得るものであることも技術常識である。そうしてみると、ハードコートフィルムにおいて適宜選択した場所及び適当な倍率で拡大することによる断面観察を行った画像から得られる「基準長さ(A)」及び「界面の長さ(B)」は一定とならず、断面観察の場所や倍率をどのように設定するかによって値が変動するものであると認められる。
この点について、例えば、本願の図1により検討すると、図1において示された「基準長さ(A)」及び「界面の長さ(B)」により得られる「比(B/A)」と、以下の図で示されるア’?イ’を端部とする断面観察画像が得られた場合における「比(B/A)」とは異なる値となることは明らかである。

このように、断面観察において、場所及び倍率によって「基準長さ(A)」及び「界面の長さ(B)」が変化し、結果として「比(B/A)」の値も変化することになることになるが、この点、本願の特許請求の範囲には、断面観察の条件(観察するフィルムの場所及び倍率)についての記載はなく、また、本願の明細書又は図面にも、これを定義するような記載はない。
したがって、本願発明における「比(B/A)」について「断面観察画像」を得るための条件(断面観察するフィルムの場所及び倍率)が特定されないため、「基準長さ(A)」及び「界面の長さ(B)」がどのような長さを示すことになるのかを特定することができず、結果として「比(B/A)」の値もどのような値になるか判らない(同一物を観察しても、観察者が選択した断面観察の条件によって「比(B/A)」が変化すると認められる。)。
よって、本願発明は明確であるということができない。
この点に関して、請求人は審判請求書において、「本願の出願当初明細書の段落番号[0016]には、「基準長さ(A)」及び「界面の長さ(B)」を測定する際に使用する画像解析ソフト及び具体的な処理条件等を詳しく記載しており、出願当初の図1には「基準長さ(A)」、「界面の長さ(B)」を具体的に示しています。
図1に示したように、ハードコート層と基材フィルムとの界面の凹凸が観察できるよう、適宜倍率を調整し観察箇所を選択することは、当業者にとって技術常識です。 」、「出願当初明細書、特に段落[0016]の記載、及び、出願当初の図1の記載、並びに、技術常識に鑑みれば、当業者であれば「基準長さ(A)」、「界面の長さ(B)」が、それぞれどのような長さを表すのか充分に把握することができ、よって、請求項1に係る発明は明確である。」と主張する。
しかしながら、「基準長さ(A)」、「界面の長さ(B)」が「断面観察画像」内においてどの部分を表すのかについては把握できるとしても、「断面観察画像」は、断面観察において適宜選択した場所を適当な倍率で拡大することにより得られるものである。また、「ハードコート層と基材フィルムとの界面の凹凸が観察できる」という、観察者の主観的な条件によって決定される倍率、範囲等の観察条件が、観察者ごとに異なることは明らかである。そうしてみると、そこから得られる「基準長さ(A)」、「界面の長さ(B)」は断面観察の場所及び倍率によって変化することとなり、その結果、本願発明の「比(B/A)」の値はどのような値になるか判らず、本願発明の範囲が明確でないことは上記のとおりであるから、請求人の主張を採用することはできない。

2 引用文献1に記載された発明を引用発明とした場合の理由2(特許法29条1項3号)及び理由3(特許法29条2項)について
(1)引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である引用文献1(特開2009-185282号公報)には、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードコートフィルム、ハードコートフィルムの製造方法、光学素子および画像表示装置に関する。」

イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明の目的は、防湿性、耐熱性、ガスバリヤー性および耐久性に優れ、かつ透明プラスチックフィルム基材とハードコート層との密着性にも優れるハードコートフィルム、その製造方法、それを用いた光学素子および画像表示装置を提供することである。」

ウ 「【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明のハードコートフィルムは、透明プラスチックフィルム基材の少なくとも一方の面に、ハードコート層を有するハードコートフィルムであって、
前記透明プラスチックフィルム基材が、アクリル系樹脂およびメタクリル系樹脂の少なくとも一方を含み、
前記ハードコート層が、下記の(A)成分を含むハードコート層形成材料を用いて形成されたものであることを特徴とする。
(A)成分:ポリオールアクリレートおよびポリオールメタクリレートの少なくとも一方
【0010】
本発明の製造方法は、透明プラスチックフィルム基材の少なくとも一方の面に、ハードコート層を有するハードコートフィルムの製造方法であって、下記の[1]?[4]の工程を有することを特徴とする。
[1] アクリル系樹脂およびメタクリル系樹脂の少なくとも一方を含む透明プラスチックフィルム基材を準備する工程
[2] 前記透明プラスチックフィルム基材の少なくとも一方の面に、下記の(A)成分を含むハードコート層形成材料を塗工して塗膜を形成する工程
[3] 前記塗膜を乾燥させる工程
[4] 前記[3]工程実施後の前記塗膜を硬化させて、ハードコート層を形成する工程
(A)成分:ポリオールアクリレートおよびポリオールメタクリレートの少なくとも一方」

エ 「【発明の効果】
【0013】
本発明のハードコートフィルムは、前記透明プラスチックフィルム基材が、アクリル系樹脂およびメタクリル系樹脂の少なくとも一方を含むことにより、防湿性、耐熱性、ガスバリヤー性および耐久性に優れる。また、本発明のハードコートフィルムは、前記ハードコート層形成材料が、前記(A)成分を含むことにより、前記透明プラスチックフィルム基材と前記ハードコート層との密着性に優れる。」

オ 「【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のハードコートフィルムにおいて、前記透明プラスチックフィルム基材と前記ハードコート層との密着性向上のメカニズムは、例えば、つぎのように推測される。すなわち、前記ハードコート層形成材料に含まれる前記(A)成分により、前記透明プラスチックフィルム基材の表面が若干浸食、溶解されることで、前記密着性の向上が達成されると考えられる。ただし、このメカニズムは推測であり、本発明を何ら限定しない。
【0016】
本発明のハードコートフィルムおよびその製造方法において、前記(A)成分が、ペンタエリスリトールトリアクリレートおよびペンタエリスリトールテトラアクリレートの少なくとも一方を含むことが好ましい。これは、透明プラスチックフィルム基材とハードコート層との密着性により優れたハードコートフィルムを得ることができるからである。
【0017】
本発明のハードコートフィルムおよびその製造方法において、前記ハードコート層形成材料が、さらに、下記の(B)成分および(C)成分を含むことが好ましい。
(B)成分:ウレタンアクリレートおよびウレタンメタクリレートの少なくとも一方
(C)成分:下記(C1)および下記(C2)の少なくとも一方から形成されたポリマー若しくはコポリマーまたは前記ポリマーとコポリマーの混合ポリマー
(C1):水酸基およびアクリロイル基の少なくとも一方の基を有するアルキル基を有するアルキルアクリレート
(C2):水酸基およびアクリロイル基の少なくとも一方の基を有するアルキル基を有するアルキルメタクリレート
これは、前記ハードコート層形成材料が、前記(A)成分に加え、前記(B)成分および(C)成分を含むことにより、十分な硬度を有し、ハードコート層の硬化収縮に起因するカールおよび折れの発生が防止され、耐擦傷性に優れたハードコートフィルムを得ることができるからである。
・・・(省略)・・・
【0019】
本発明のハードコートフィルムおよびその製造方法において、前記(C)成分が、下記一般式(1)の繰り返し単位を含むポリマー、コポリマーまたは前記ポリマーおよび前記コポリマーの混合物を含むことが好ましい。
【化1】

前記式(1)において、R^(1)は、-Hまたは-CH_(3)であり、R^(2)は、-CH_(2)CH_(2)OX若しくは下記一般式(2)で表される基であり、前記Xは、-Hまたは下記一般式(3)で表されるアクリロイル基である。
【化2】

前記式(2)において、2つのXは、-Hまたは下記一般式(3)で表されるアクリロイル基であり、各Xは、同一でも異なっていてもよい。
【化3】

・・・(省略)・・・
【0021】
本発明のハードコートフィルムおよびその製造方法において、前記透明プラスチックフィルム基材が、下記一般式(4)で表されるラクトン環構造を有するアクリル系樹脂およびメタクリル系樹脂の少なくとも一方を含むことがより好ましい。
【化4】

前記式(4)において、R^(1)、R^(2)およびR^(3)は、それぞれ、水素原子または炭素原子数1?20の有機残基であり、前記R^(1)、前記R^(2)および前記R^(3)は、同一でも異なっていてもよい。
・・・(省略)・・・
【0025】
本発明のハードコートフィルムおよびその製造方法において、前記ハードコート層形成材料が、さらに、レベリング剤を含むことが好ましい。
【0026】
本発明のハードコートフィルムの製造方法において、前記工程[3]における塗膜の乾燥温度は、後述の乾燥時間等に応じて適宜設定できるが、80?120℃の範囲であることが好ましい。前記乾燥温度を前記範囲とすることで、ハードコートフィルムの収縮、破断を招くことなく、前記透明プラスチックフィルム基材との密着性により優れたハードコート層を、より短い乾燥時間で形成することが可能となる。
【0027】
本発明のハードコートフィルムの製造方法において、前記工程[3]における塗膜の乾燥時間は、前記乾燥温度等に応じて適宜設定できるが、1?10分の範囲であることが好ましい。前記乾燥時間を前記範囲とすることで、前記透明プラスチックフィルム基材と前記ハードコート層との密着性により優れたハードコートフィルムを得ることができる。
【0028】
前記乾燥時間と前記乾燥温度との好ましい関係を、下記表1に示す。ただし、下記表1に示す前記乾燥時間と前記乾燥温度との関係は、例示に過ぎず、本発明はこれに限定されない。
(表1)
乾燥温度 乾燥時間
80?90℃ 5?10分
90℃を超え110℃未満 1?5分
110?120℃ 1?3分
・・・(省略)・・・
【0040】
前記ラクトン環構造を有する樹脂のガラス転移温度(Tg)は、115℃以上が好ましい。前記Tgを115℃以上とすることで、例えば、耐久性に優れたハードコートフィルムを得ることができる。前記Tgは、より好ましくは、125℃以上であり、さらに好ましくは、130℃以上であり、特に好ましくは、140℃以上である。前記Tgの上限値は、特に限定されないが、成形性等の観点から、好ましくは、170℃以下である。
・・・(省略)・・・
【0072】
前述のように、前記ハードコート層は、その表面構造を凹凸構造にするために、微粒子を含有していてもよい。前記ハードコート層の表面構造を凹凸構造にすれば、防眩性を付与することができるからである。
・・・(省略)・・・
【0078】
前記溶媒としては、例えば、ジブチルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、プロピレンオキシド、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキソラン、1,3,5-トリオキサン、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、ジエチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン(CPN)、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、蟻酸エチル、蟻酸プロピル、蟻酸n-ペンチル、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酢酸n-ペンチル、アセチルアセトン、ジアセトンアルコール、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、1-ペンタノール、2-メチル-2-ブタノール、シクロヘキサノール、イソプロピルアルコール(IPA)、酢酸イソブチル、メチルイソブチルケトン(MIBK)、2-オクタノン、2-ペンタノン、2-ヘキサノン、2-ヘプタノン、3-ヘプタノン、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル等があげられる。これらは、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。前記溶媒の中でも、CPN、MIBKが特に好ましい。これらの溶媒は、前記(A)成分と同様に、前記透明プラスチックフィルム基材の表面を若干浸食、溶解するため、これらの溶媒を用いることにより、前記透明プラスチックフィルム基材と前記ハードコート層との密着性を、より向上させることが可能となる。
【0079】
前記ハードコート層形成材料には、さらに、各種レベリング剤を添加することができる。前記レベリング剤としては、例えば、フッ素系またはシリコーン系のレベリング剤があげられ、好ましくは、シリコーン系レベリング剤である。
・・・(省略)・・・


カ 「【実施例】
【0113】
つぎに、本発明の実施例について、比較例と併せて説明する。ただし、本発明は、以下の実施例および比較例により制限されない。なお、下記実施例および比較例における各種特性は、下記の方法により評価若しくは測定した。
・・・(省略)・・・
【0119】
[実施例1]
(透明プラスチックフィルム基材の作製)
前記一般式(4)で表されるラクトン環構造を有するアクリル系樹脂およびメタクリル系樹脂(前記一般式(4)において、R^(1)は、-H、R^(2)およびR^(3)は、-CH_(3)、共重合モノマー重量比:メタクリル酸メチル/2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル=8/2、ラクトン環化率:約100%)90重量部と、アクリロニトリル-スチレン(AS)樹脂(東洋スチレン(株)製、商品名「トーヨーAS AS20」)10重量部との混合物を、押出し成形することにより、フィルムを得た。その後、前記フィルムを、縦方向に2.0倍、横方向に2.4倍に延伸することにより、透明プラスチックフィルム基材を作製した。この透明プラスチックフィルム基材の厚みは、30μm、Reは、0nm、Rthは、0nmであった。
【0120】
(ハードコート層形成材料の調製)
下記に示す(A)成分、(B)成分、(C)成分および光重合開始剤を含む樹脂成分を、下記混合溶媒に固形分濃度66重量%で含む原料(大日本インキ化学工業(株)製、商品名「GRANDIC PC1097」)100重量部に、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(東亞合成(株)製、商品名「アロニックス M-402」)を42重量部添加することにより、樹脂原料を調製した。本実施例において、ペンタエリスリトールトリアクリレートおよびペンタエリスリトールテトラアクリレートの合計配合量は、前記(A)成分、前記(B)成分および前記(C)成分の合計100重量部に対し、15重量部であった。
【0121】
(A)成分:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(38重量部)、ペンタエリスリトールトリアクリレート(15.5重量部)およびペンタエリスリトールテトラアクリレート(40重量部)
(B)成分:イソホロンジイソシアネートとペンタエリスリトール系アクリレートとからなるウレタンアクリレート(100重量部)
(C)成分:前記一般式(1)で表される繰り返し単位を有するポリマー、コポリマーまたは前記ポリマーおよびコポリマーの混合物(30重量部)
光重合開始剤:商品名「イルガキュア184」(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)3重量部
混合溶媒:酢酸ブチル:酢酸エチル(重量比)=89:11
【0122】
前記樹脂原料100重量部に、反応性レベリング剤(大日本インキ化学工業(株)製、商品名「GRANDIC PC-4100」)0.5重量部を加え、固形分濃度が50重量%となるように、CPNを用いて希釈することにより、ハードコート層形成材料を調製した。前記反応性レベリング剤は、ジメチルシロキサン:ヒドロキシプロピルシロキサン:6-イソシアネートヘキシルイソシアヌル酸:脂肪族ポリエステル(モル比)=6.3:1.0:2.2:1.0で共重合させた共重合物である。
【0123】
(ハードコートフィルムの作製)
前記ハードコート層形成材料を、前記透明プラスチックフィルム基材上に、バーコーターを用いて塗工し、塗膜を形成した。前記塗工後、100℃で1分間加熱することにより前記塗膜を乾燥させた。前記乾燥後の前記塗膜に、メタルハライドランプにて積算光量300mJ/cm^(2)の紫外線を照射することで硬化処理を施し、厚み10μmのハードコート層を形成した。このようにして、本実施例に係るハードコートフィルムを作製した。」

キ 「【産業上の利用可能性】
【0136】
本発明のハードコートフィルムは、防湿性、耐熱性、ガスバリヤー性および耐久性に優れ、かつ透明プラスチックフィルム基材とハードコート層との密着性にも優れるものである。したがって、本発明のハードコートフィルムは、例えば、偏光板等の光学素子、CRT、LCD、PDPおよびELD等の各種画像表示装置に好適に使用でき、その用途は制限されず、広い分野に適用可能である。」

(2)引用発明1
前記(1)より、引用文献1には、[実施例1]に記載された製造方法によって製造されたハードコートフィルムとして、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「防湿性、耐熱性、ガスバリヤー性及び耐久性に優れ、かつ透明プラスチックフィルム基材とハードコート層との密着性にも優れるハードコートフィルムであって、
ラクトン環構造を有するアクリル系樹脂及びメタクリル系樹脂90重量部と、アクリロニトリル-スチレン(AS)樹脂10重量部との混合物を、押出し成形することにより得られたフィルムを、縦方向に2.0倍、横方向に2.4倍に延伸することにより、透明プラスチックフィルム基材を作製し、
以下に示す(A)成分、(B)成分、(C)成分及び光重合開始剤3重量部を含む樹脂成分を、混合溶媒(酢酸ブチル:酢酸エチル(重量比)=89:11)に固形分濃度66重量%で含む原料100重量部に、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートを42重量部添加することにより、樹脂原料を調製し、
樹脂原料100重量部に、反応性レベリング剤0.5重量部を加え、固形分濃度が50重量%となるように、シクロペンタノン(CPN)を用いて希釈することにより、ハードコート層形成材料を調整し、
ハードコート層形成材料を、前記透明プラスチックフィルム基材上に、バーコーターを用いて塗工し、塗膜を形成し、100℃で1分間加熱することにより前記塗膜を乾燥させ、紫外線を照射することで硬化処理を施し、厚み10μmのハードコート層を形成してなるハードコートフィルム。
(A)成分:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(38重量部)、ペンタエリスリトールトリアクリレート(15.5重量部)及びペンタエリスリトールテトラアクリレート(40重量部)
(B)成分:イソホロンジイソシアネートとペンタエリスリトール系アクリレートとからなるウレタンアクリレート(100重量部)
(C)成分:一般式(1)で表される繰り返し単位を有するポリマー、コポリマー又は前記ポリマー及びコポリマーの混合物(30重量部)
(式1)

前記式(1)において、R^(1)は、-H又は-CH_(3)であり、R^(2)は、-CH_(2)CH_(2)OX若しくは下記一般式(2)で表される基であり、前記Xは、-H又は下記一般式(3)で表されるアクリロイル基である。
(式2)

前記式(2)において、2つのXは、-H又は下記一般式(3)で表されるアクリロイル基であり、各Xは、同一でも異なっていてもよい。
(式3)



(3)対比
本願発明と引用発明1とを対比する。
ア 基材フィルム
引用発明1の「透明プラスチックフィルム基材」は、「ラクトン環構造を有するアクリル系樹脂及びメタクリル系樹脂90重量部と、アクリロニトリル-スチレン(AS)樹脂10重量部との混合物」を押出し成形及び延伸することにより作製されるものである。
ここで、引用発明1の「透明プラスチックフィルム基材」は、その文言が意味するとおり、「基材」であり、「フィルム」である。また、引用発明1の「透明プラスチックフィルム基材」は、その材料からみて、「(メタ)アクリル系樹脂からなる」ものといえる。
そうしてみると、引用発明1の「透明プラスチックフィルム基材」は、本願発明の、「(メタ)アクリル系樹脂からなる」とされる「基材フィルム」に相当する。

イ ハードコート層
引用発明1における「ハードコート層」は、「ハードコート層形成材料を、前記透明プラスチックフィルム基材上に、バーコーターを用いて塗工し、塗膜を形成し、100℃で1分間加熱することにより前記塗膜を乾燥させ、紫外線を照射することで硬化処理を施し」、「形成してなる」ものである。
この構成からみて、引用発明1の「ハードコート層」は、「透明プラスチックフィルム基材」の一方の面上に形成されたものであり、また、その文言が意味するとおり、ハードコート性能を具備する層である。
そうしてみると、引用発明1の「ハードコート層」は、本願発明の「ハードコート層」に相当する。また、引用発明1の「ハードコート層」は、本願発明の「ハードコート層」における、「前記基材フィルムの一方の面上に形成された」という要件を満たす。

ウ ハードコートフィルム
上記ア及びイの対比結果、並びに、引用発明1及び本願発明の全体構成からみて、引用発明1の「ハードコートフィルム」は、本願発明の、「基材フィルムと」、「ハードコート層とを有する」とされる「ハードコートフィルム」に相当する。

(4)一致点及び相違点
ア 一致点
以上のことから、本願発明と引用発明1とは、以下の構成において一致する。
「(メタ)アクリル系樹脂からなる基材フィルムと、前記基材フィルムの一方の面上に形成されたハードコート層とを有するハードコートフィルム」

イ 相違点
本願発明と引用発明1とは、次の点で一応相違する。
(ア)相違点1
本願発明は、「前記基材フィルムと前記ハードコート層との界面に凹凸を有するものであり」という構成を具備するのに対して、引用発明1は、一応、これが明らかではない点。

(イ)相違点2
本願発明は、「前記基材フィルム及び前記ハードコート層の厚さ方向の断面観察画像において、前記基材フィルム及び前記ハードコート層の厚さ方向に垂直な方向で、前記画像内のハードコート層と基材フィルム端部間の直線距離を基準長さ(A)とし、該基準長さ(A)内における前記界面の曲線に沿った長さを界面の長さ(B)とし、前記基準長さ(A)と前記界面の長さ(B)との比(B/A)が1.04?1.09であり」という構成を具備するのに対して、引用発明1は、このように特定されたものではない点。

(ウ)相違点3
本願発明は、「前記ハードコート層は、フッ素系レベリング剤を含み」という構成を具備するのに対して、引用発明1は、「樹脂原料100重量部に、反応性レベリング剤0.5重量部を加え、固形分濃度が50重量%となるように、シクロペンタノン(CPN)を用いて希釈することにより、ハードコート層形成材料を調整し」たものである点。

(エ)相違点4
本願発明は、「前記ハードコート層の前記基材フィルム側と反対側面が平面性を有する」という構成を具備するのに対して、引用発明1は、このように特定されたものではない点。

(5)判断
ア 相違点について
(ア)相違点1及び相違点2について
引用発明1の「ハードコート層形成材料」の溶媒は「シクロペンタノン(CPN)」であるから、引用発明1の「透明プラスチックフィルム基材」の表面を浸食、溶解するものである(この点は、引用文献1の【0078】の記載からも確認できる事項である。)。
そうしてみると、引用発明1の「ハードコートフィルム」が、「透明プラスチックフィルム基材」と「ハードコート層」との界面に凹凸を有するものであることは明らかである。
また、引用発明1は、「透明プラスチックフィルム基材とハードコート層との密着性にも優れるハードコートフィルム」であるところ、「ハードコートフィルム」に透明性が求められることは、本件出願前の当業者における技術常識である。
そうしてみると、引用発明1における「ハードコート層」の形成条件は、「シクロペンタノン(CPN)」が、「透明プラスチックフィルム基材」の表面を浸食、溶解するような条件であるとしても、ヘイズ等が発生しない程度の「若干」の範囲に抑えられていると理解されるから、引用発明1の「透明プラスチックフィルム基材」の表面の凹凸の程度は、相違点2に係る本願発明の要件を満たす蓋然性が高いものである。
仮に、そうでないとしても、引用発明1の「ハードコートフィルム」を実際に製造する当業者が、「透明プラスチックフィルム基材とハードコート層との密着性」と、「ハードコートフィルム」の透明性との兼ね合いを勘案して「ハードコート層」の形成条件を調整した結果として、相違点2に係る本願発明の要件を満たすものを製造することは、当業者における試行錯誤の積み重ねの範囲内の事項である。
なお、前記「1 理由1(特許法36条6項2号)について」で指摘したとおりであるから、相違点2に係る本願発明の構成を具備するように「断面観察画像」の範囲を選択することも可能である。そうしてみると、相違点2は、相違点でないとも考えられる。

さらにすすんで、引用発明1の「ハードコート層」の形成条件と、本願発明の「ハードコート層」の形成条件を含めて検討すると以下のとおりである。
本願の明細書段落【0052】には、基材フィルムと乾燥させた塗膜との界面に凹凸が形成される理由として、「基材フィルムのTgと乾燥にかかる温度が近いことで基材フィルムに影響が及び、僅かに基材フィルムが溶剤の浸透・膨潤を許容する状態に近い、及び/又は、基材フィルムがTgに迫ることでやや軟化しているものと推測され、かつ、上述した沸点の溶剤を用いることで、高い乾燥温度で乾燥中の塗膜の溶剤濃度が急激に減少することを防ぎ、僅かに基材フィルムを膨潤・侵食することで、結果的に上記界面に凹凸が形成されるものと推測される。」との記載がある。また、本願の明細書段落【0051】には、乾燥工程の条件として「温度90?110℃、時間30秒?10分の条件」とすることが記載されており、その説明として同段落には「上記乾燥温度が90℃未満、又は、乾燥時間が30秒未満であると、上記凹凸の形成が不充分となり、得られるハードコートフィルムの基材フィルムとハードコート層との密着性が不充分となり、また、干渉縞防止性も不充分となる。一方、上記乾燥温度が110℃を超える、又は、乾燥時間が10分を超えると、生産性に劣る、基材フィルムのTgに近くなり、基材フィルムがもろくなる、凹凸が過剰にでき、白化するといったおそれがある。上記塗膜の乾燥温度は100?110℃であることが好ましく、上記塗膜の乾燥時間の好ましい下限は1分、好ましい上限は5分である。」との記載がある。
これらの記載を踏まえると、基材フィルムと乾燥させた塗膜との界面における凹凸の形成には、基材フィルムのTg、並びに、塗膜の乾燥温度、乾燥時間及び溶剤の沸点が主要な要因であると理解でき、本願の明細書ではそれぞれの値の範囲について以下の記載がある。
a 基材フィルムのTg
基材フィルムのTgについて、本願の明細書段落【0032】には「上記基材フィルムのTgとしては、具体的には、110?140℃であることが好ましい。110℃未満であると、ハードコート層を形成する際にハードコート層用組成物に含まれる溶剤によるダメージを受けることがあり、一方、140℃を超えると、ハードコート層との界面に凹凸を形成できないことがある。上記基材フィルムのTgのより好ましい下限は120℃、より好ましい上限は130℃である。」との記載がある。また、本願の実施例(本願の明細書段落【0074】)ではTg=125℃であるアクリル基材を用いている。

b 塗膜の乾燥温度
塗膜の乾燥温度について、本願の明細書段落【0051】には、「温度90?110℃」との記載がある。また、本願の実施例1、2(本願の明細書段落【0074】)では乾燥温度を100℃としている。

c 塗膜の乾燥時間
塗膜の乾燥時間について、本願の明細書段落【0051】には、「時間30秒?10分」との記載がある。また、本願の実施例1、2(本願の明細書段落【0074】)では乾燥時間を1分としている。

d 塗膜の溶剤の沸点
塗膜の溶剤の沸点について、本願の明細書段落【0039】には「上記溶剤としては特に限定されないが、比較的高い沸点を有するものが好ましく、具体的には、85?165℃であることが好ましい。」との記載がある。また、本願の実施例1(本願の明細書段落【0074】)では溶剤としてメチルイソブチルケトン(MIBK)を、実施例2(本願の明細書段落【0075】)では溶剤としてシクロヘキサノンをそれぞれ用いており、当該溶剤の沸点は本願の明細書段落【0039】に記載のとおり、メチルイソブチルケトン(MIBK)が116℃であり、シクロヘキサノンが157℃であると認められる。

本願の明細書におけるこれらの記載を前提に、引用発明1における透明プラスチックフィルム基材のTg、並びに、塗膜の乾燥温度、乾燥時間及び溶剤の沸点について本願明細書の記載と比較し、引用発明1における界面に凹凸が形成されるか否かについて検討する。
e 透明プラスチックフィルム基材のTg
引用発明1における「透明プラスチックフィルム基材」のTgは、引用文献1に記載されていないものの、例えば、特開2011-102821号公報の段落【0092】の記載によれば、引用発明1における「透明プラスチックフィルム基材」のTgは127℃であると認められる。したがって、基材フィルムのTgについて、引用発明1は、本願の明細書に記載の数値範囲を満たすものであり、さらに、本願の実施例におけるアクリル基材のTgに近い値となっている。

f 塗膜の乾燥温度
引用発明1における乾燥温度は100℃である。したがって、本願の明細書に記載の数値範囲を満たすものであり、さらに、本願の実施例1、2における乾燥温度と同じ値となっている。

g 塗膜の乾燥時間
引用発明1における乾燥時間は1分である。したがって、本願の明細書に記載の数値範囲を満たすものであり、さらに、本願の実施例1、2における乾燥時間と同じ値となっている。

h 塗膜の溶剤の沸点
引用発明1では、混合溶媒として「酢酸ブチル:酢酸エチル(重量比)=89:11」を用いているところ、酢酸ブチルの沸点は126℃、酢酸エチルの沸点は77℃であることは技術常識である(例えば、特開2002-177869号公報段落【0027】を参照。)。引用発明1における混合溶媒の主な成分は酢酸ブチルであるところ、混合溶媒を形成する溶媒の沸点及び重量比を考慮すると、その沸点は、本願の明細書に記載の数値範囲を満たすものである蓋然性は高いものと認められ、また、本願の実施例で用いられる溶剤の沸点である116℃及び157℃の間となっている蓋然性も高いものと認められる。
なお、引用発明1における「ハードコート層形成材料」は「樹脂原料」をシクロペンタノン(CPN)を用いて希釈することにより調整されるものであるが、シクロペンタノンの沸点は131℃であることは技術常識である(例えば、特開平10-36507号公報段落【0011】を参照。)ことから、シクロペンタノンによる希釈を考慮したとしても、引用発明1における溶剤の沸点は、本願の明細書に記載の数値範囲を満たすものである蓋然性は高いものと認められる。

以上より、引用発明1における透明プラスチックフィルム基材のTg、並びに、塗膜の乾燥温度、乾燥時間及び溶剤の沸点は、本願の明細書に記載の数値範囲を満たすものであり、また本願の実施例と比較しても、基材フィルムのTgについて、両者は近い値となっており、塗膜の乾燥温度及び乾燥時間については、両者は同じ値であり、塗膜の溶剤の沸点については、引用発明1は116℃?157℃の間になっている蓋然性が高いものである。したがって、引用発明1は、本願の明細書に記載される界面において凹凸が形成される主要な要因の数値範囲を満たすことから、引用発明1における「透明プラスチックフィルム基材」と「ハードコート層」との界面に形成される凹凸は、本願発明と同様の凹凸構造が形成される蓋然性が高く、本願発明における「前記基材フィルム及び前記ハードコート層の厚さ方向の断面観察画像において、前記基材フィルム及び前記ハードコート層の厚さ方向に垂直な方向で、前記画像内のハードコート層と基材フィルム端部間の直線距離を基準長さ(A)とし、該基準長さ(A)内における前記界面の曲線に沿った長さを界面の長さ(B)とし、前記基準長さ(A)と前記界面の長さ(B)との比(B/A)が1.04?1.09」の要件を満たしている蓋然性が高いものと認められる。

(イ)相違点3について
引用文献1段落【0079】には、「前記ハードコート層形成材料には、さらに、各種レベリング剤を添加することができる。前記レベリング剤としては、例えば、フッ素系またはシリコーン系のレベリング剤があげられ、好ましくは、シリコーン系レベリング剤である。」と記載され、ハードコート層形成材料に添加することのできるレベリング剤としてフッ素系レベリング剤があげられていることから、引用発明1におけるレベリング剤としてフッ素系レベリング剤を用いることは、引用文献1の同段落に記載の示唆に従い、当業者が容易に採用することができる一選択肢にすぎない。

(ウ)相違点4について
引用文献1段落【0072】には「前記ハードコート層は、その表面構造を凹凸構造にするために、微粒子を含有していてもよい。」と記載されている。
しかしながら、引用発明1におけるハードコート層形成材料には微粒子が含まれていないことから、その表面構造が凹凸構造とならないものと認められる。
したがって、相違点4は実質的に相違しないものである。
なお、仮にこの点が相違するとしても、ハードコートフィルム表面の面状態を平滑に保つことを目的として、ハードコート層形成材料に含まれるレベリング剤の量を調整することは周知慣用技術である(例えば、特開2010-64249号公報段落【0033】等を参照。)。
そうしてみると、引用発明1の「ハードコートフィルム」の表面の面状態を平滑に保つことを意図した当業者が、引用発明1の「反応性レベリング剤」の分量を調整したり、周知のレベリング剤を添加することにより、引用発明1の「ハードコートフィルム」を相違点4に係る本願発明の構成を具備したものとすることは、容易に発明をすることができたものである。

イ 効果について
本願発明の効果として、本願の明細書段落【0071】に「本発明のハードコートフィルムは、(メタ)アクリル系樹脂からなる基材フィルムと、該基材フィルムの一方の面上に形成されたハードコート層との間に所定の凹凸が形成されたものであるため、干渉縞の発生を防止できるとともに、基材フィルムとハードコート層との密着性が極めて優れたものとなる。」と記載されている。
当該効果について検討すると、上記のように引用発明1においても透明プラスチックフィルム基材とハードコート層との界面に凹凸が形成されるものであるところ、引用発明1は、このような凹凸により干渉縞の発生が防止できること及び密着性が優れたものになっていることから、「干渉縞の発生を防止できる」こと及び「密着性が極めて優れたもの」という効果は、引用発明1が当然に有するものにすぎない。

ウ 請求人の主張について
請求人は審判請求書において「引用文献1には、透明プラスチックフィルム基材とハードコート層との密着性向上のメカニズムとして、透明プラスチックフィルム基材の表面を若干浸食、溶解させることが記載されていますが([0015]、[0027]、[0033]等)、引用文献1の実施例で使用した透明プラスチックフィルム基材のTgは不明であり([0119])、ハードコート層形成材料の溶媒は酢酸ブチルと酢酸エチルとの混合溶剤であり沸点は不明です([0121])。
(ヘ)すなわち、引用文献1には、本願発明(請求項1)に規定したような特定の凹凸形状を形成することは記載も示唆もされておらず、上述した特別な製造方法(溶剤及び基材フィルムの選択、及び、製造時の乾燥温度及び乾燥時間の制御等)については、全てを満たす必要性を示唆する記載も示唆もありません。
そうすると、引用文献1には、本願発明(請求項1)の構成を満たす発明は記載されているとは認められず、また、上述したように、透明プラスチックフィルム基材の表面に特定の凹凸を形成するとの明確な意図のない引用文献1に記載の発明に基づき、本願発明(請求項1)の構成を満たすハードコートフィルムを得ることは、当業者であっても容易であったとは考えられません。」と主張する。
しかしながら、上記のように引用発明1における透明プラスチックフィルム基材のTgは127℃であると認められ、溶剤の沸点については、上記のように用いられる溶剤それぞれの沸点や重量比から85?165℃又は116℃?157℃の範囲内となる蓋然性が高いものと認められる。また、本願の明細書に記載される乾燥条件と引用発明1の乾燥条件とは同じである。したがって、引用発明1は、本願発明の凹凸構造を形成するための製造方法として本願の明細書に記載されたものと同様の製造方法によりハードコート層が形成されることにより、本願発明と同様の凹凸構造を有するものであると認められる。よって、請求人の主張を採用することはできない。

以上のとおり、本願発明は引用文献1に記載された発明である、あるいは、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 引用文献2に記載された発明を引用発明とした場合の理由3(特許法29条2項)について
(1)引用文献2の記載
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である引用文献2(特開2010-31141号公報)には、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は光学特性、硬度、耐久性、平面性に優れたアクリル系樹脂フィルムおよびアクリル系樹脂フィルムとハードコート層との積層体に関する。」

イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものである。すなわち、本発明の目的は光学特性、硬度、耐久性、平面性に優れたアクリル系樹脂フィルムおよびアクリル系樹脂フィルムとハードコート層との積層体を提供することにある。」

ウ 「【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した目的を達成するための本発明は、全光線透過率が90%以上99%以下であり、ヘイズが0.01%以上2%以下であり、波長380nmにおける光線透過率が0.5%以上13%以下であり、かつガラス転移温度Tgが100℃以上120℃以下であるアクリル系樹脂フィルムによって達成される。」

エ 「【発明の効果】
【0008】
本発明により得られるアクリル系樹脂フィルムおよびアクリル系樹脂フィルムとハードコート層との積層体は、光学特性、硬度、耐久性、平面性に優れるため、偏光子保護フィルムなどの光学部材に好適に適用することができる。」

オ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に本発明の好ましい実施の形態を説明する。
【0010】
本発明におけるアクリル系樹脂フィルム(以下、アクリル系樹脂フィルム(A)ということがある)は全光線透過率が90%以上99%以下であり、ヘイズが0.01%以上2%以下であり、波長380nmにおける光線透過率が0.5%以上13%以下であり、かつガラス転移温度Tgが100℃以上120℃以下である。
・・・(省略)・・・
【0013】
本発明におけるアクリル系樹脂フィルム(A)のヘイズは0.01%以上2%以下である。フィルムのヘイズはフィルムの表面粗さが粗い場合や、フィルム内部の異物の含有量やボイドによって高くなる。透明性が求められる光学用に用いられるフィルムのヘイズは2%以下である必要があり、好ましくは1%以下、より好ましくは0.5%以下である。ヘイズは、溶融製膜の場合平滑性の高いキャストドラムを用いる、ポリマーの分解が少ない温度でキャストする、溶液製膜の場合溶剤の乾燥を制御するといった方法でフィルムの表面を平滑にすることで低くすることができ、さらに製膜工程でのクリーン度を高くすることや濾過精度を高くすることでフィルム内部の異物を少なくするといった方法で低くすることができる。しかし表面が平滑過ぎる場合フィルムをロールとして巻き取ったときにブロッキングが生じるといった問題があるためブロッキングしない程度の表面粗さが求められるためアクリル系樹脂フィルム(A)のヘイズの下限値は0.01%である。
・・・(省略)・・・
【0020】
本発明のアクリル系樹脂フィルム(A)には、ハードコート層(以下、ハードコート層(B)ということがある)を設けることで鉛筆硬度を3H以上とした積層体(以下、積層体(C)ということがある)とすることもできる。
・・・(省略)・・・
鉛筆硬度は最表層の硬度のみではなく、フィルムや積層体の全体の硬度の影響を受ける。このため、鉛筆硬度を向上せしめるためには、密着性向上のために設ける中間層の硬度や、基材となるアクリル系樹脂フィルム(A)とハードコート層(B)の界面の構成の制御も重要となる。
【0021】
ハードコート層(B)は活性線照射により設けることが好ましい。アクリル系樹脂フィルム(A)上にハードコート層(B)を活性線照射により設けるとき、ハードコート層の主成分にアクリレート基を有する樹脂またはモノマーを単独で用いると、アクリル系樹脂フィルムとの密着性が悪く剥がれることがある。この問題を解決するために、本発明では固形分中の主成分(50質量%以上含まれる成分)と溶剤とから調製される溶液(b)を塗工する。この際、この溶液(b)には、主成分、溶剤の他にも、光開始剤や、他のアクリレート基を有する樹脂やモノマー、界面活性剤、重合助剤、シリカ粒子等を加えることができる。アクリレート基を有する樹脂またはモノマーの例としては、エポキシアクリレート、多官能アクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、芳香族アクリレートなどがあげられる。
・・・(省略)・・・
【0029】
本発明の積層体の製造に用いる溶液(b)の粘度は10mPa・s以上5,000mPa・s以下であることが好ましい。一般的にアクリレート基を有する樹脂またはモノマーはその官能基の数が多くなるほど、粘度が高くなる。粘度が10mPa・sより低いとき塗液の流動性が高すぎるため、均一な塗膜の形成が難しくコーティング層の塗り斑が発生したり、面状が悪化することがある。粘度が5,000mPa・sより高いとき塗液の流動性が低いために厚みムラが発生したり、面状が悪化することがある。粘度はより好ましくは100mPa・s以上3,000mPa・s以下である。粘度の調整は溶液(b)中の固形分濃度を調整して行うことが簡便であり好ましいが、粘度の低いアクリレート基を有する樹脂またはモノマーを用いる、レベリング剤を加えるなどの方法で行うこともできる。溶液(b)の粘度の測定は、粘度計(例えば、東機産業(株)製RBタイプR80U型粘度計)を用いて25℃における粘度を測定したものである。
・・・(省略)・・・
【0036】
本発明のアクリル系樹脂フィルム(A)や積層体(C)は、透明性、密着性、硬度、平面性に優れるため、例えば、各種カバー、各種端子板、プリント配線板、スピーカー、顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計などに代表される光学機器、また、映像機器関連部品としてカメラ、VTR、プロジェクションTV等のファインダー、フィルター、プリズム、フレネルレンズ等、光記録・光通信関連部品として各種光ディスク(VD、CD、DVD、MD、LD等)基板保護フィルム、光スイッチ、光コネクター等、情報機器関連部品として、液晶ディスプレイ、フラットパネルディスプレイ、プラズマディスプレイの表層保護フィルム、偏光子保護フィルム、反射防止フィルム、防眩フィルム、タッチパネル用導電フィルム、カバー等、に用いることができるが、特に硬度と透明性に優れるため、表示装置の表層保護フィルムや、偏光子保護フィルムとして極めて有用である。」

(2)引用発明2
(1)に記載した事項を踏まえると、引用文献2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「光学特性、硬度、耐久性、平面性に優れたアクリル系樹脂フィルムとハードコート層との積層体であり、偏光子保護フィルムなどの光学部材に好適に適用することができ、前記アクリル系樹脂フィルムのヘイズは、透明性が求められる光学用に用いられることから2%以下である必要があり、好ましくは1%以下、より好ましくは0.5%以下であり、表面が平滑過ぎる場合フィルムをロールとして巻き取ったときにブロッキングが生じるといった問題があるためブロッキングしない程度の表面粗さが求められるため、ヘイズの下限値は0.01%であり、アクリル系樹脂フィルムには、ハードコート層を設けることで鉛筆硬度を3H以上とした積層体とすることができ、積層体の製造に用いる溶液の粘度は10mPa・s以上5,000mPa・s以下であることが好ましく、粘度の調整は、溶液中の固形分濃度を調整して行うことが簡便であり好ましいが、粘度の低いアクリレート基を有する樹脂またはモノマーを用いる、レベリング剤を加えるなどの方法で行うこともできる積層体。」

(3)対比
本願発明と引用発明2とを対比する。
ア 基材フィルム
引用発明2における「アクリル系樹脂フィルム」は、本願発明における「(メタ)アクリル系樹脂からなる基材フィルム」に相当する。

イ ハードコート層
引用発明2は「アクリル系樹脂フィルムには、ハードコート層を設けることで鉛筆硬度を3H以上とした積層体」という構成となっている。この構成からみて、引用発明2における「ハードコート層」は、「積層体」となるように「アクリル系樹脂フィルム」の一方の面上に形成されたものである。また、引用発明2は、「ハードコート層」が設けられることにより、「鉛筆硬度を3H以上とした積層体」となることから、引用発明2の「ハードコート層」はハードコート性能を具備する層である。
そうしてみると、引用発明2の「ハードコート層」は、本願発明の「ハードコート層」に相当し、また、引用発明2の「ハードコート層」は、本願発明における「前記基材フィルムの一方の面上に形成された」という要件を満たすものである。

ウ ハードコートフィルム
引用発明2の「積層体」は「アクリル系樹脂フィルムとハードコート層との積層体」であり、さらに、上記ア及びイの対比結果を踏まえると、引用発明2の「積層体」は、本願発明の、「基材フィルムと」、「ハードコート層とを有する」とされる「ハードコートフィルム」に相当する。

(4)一致点及び相違点
ア 一致点
以上のことから、本願発明と引用発明2とは、以下の構成において一致する。
「(メタ)アクリル系樹脂からなる基材フィルムと、前記基材フィルムの一方の面上に形成されたハードコート層とを有するハードコートフィルム」

イ 相違点
本願発明と引用発明2とは、次の点で相違する。
(ア)相違点1
本願発明は、「前記基材フィルムと前記ハードコート層との界面に凹凸を有するものであり」という構成を具備するのに対して、引用発明2は、このように特定されたものではない点。

(イ)相違点2
本願発明は、「前記基材フィルム及び前記ハードコート層の厚さ方向の断面観察画像において、前記基材フィルム及び前記ハードコート層の厚さ方向に垂直な方向で、前記画像内のハードコート層と基材フィルム端部間の直線距離を基準長さ(A)とし、該基準長さ(A)内における前記界面の曲線に沿った長さを界面の長さ(B)とし、前記基準長さ(A)と前記界面の長さ(B)との比(B/A)が1.04?1.09である」という構成を具備するのに対して、引用発明2は、このように特定されたものではない点。

(ウ)相違点3
本願発明は、「前記ハードコート層は、フッ素系レベリング剤を含み」という構成を具備するのに対して、引用発明2は「積層体の製造に用いる溶液の粘度は10mPa・s以上5,000mPa・s以下であることが好ましく、粘度の調整は、溶液中の固形分濃度を調整して行うことが簡便であり好ましいが、粘度の低いアクリレート基を有する樹脂またはモノマーを用いる、レベリング剤を加えるなどの方法で行うこともできる」となっている点。

(エ)相違点4
本願発明は、「前記ハードコート層の前記基材フィルム側と反対側面が平面性を有する」という構成を具備するのに対して、引用発明2は、このように特定されたものではない点。

(5)判断
ア 相違点について
(ア)相違点1について
ハードコートフィルムの技術分野において、干渉縞防止又は密着性向上のために基材フィルムとハードコート層との界面に凹凸を設けることは周知技術である(例えば、引用文献3段落【0033】、引用文献4段落【0017】、引用文献5段落【0012】に記載された事項を参照。)。
また、ハードコートフィルムの技術分野において干渉縞を防止するという課題は周知のものであり、さらに、引用発明2は、引用文献2の段落【0036】に記載のように密着性の課題を有しているものである。したがって、引用発明2において、干渉縞防止及び密着性向上の観点から、当該周知技術を採用して、基材フィルムとハードコート層との界面に凹凸を設けるようにすることは当業者が容易に想到し得たことである。

(イ)相違点2について
基材フィルムとハードコート層との密着力向上のために基材フィルムに凹凸構造を設ける際に、凹凸が大きすぎたり、その数が多すぎたりするとヘイズが悪化して透明性が悪化してしまうことは、当業者にとって周知の技術的事項(例えば、引用文献5段落【0015】、【0016】の記載、特開2009-114363号公報段落【0009】の記載及び【0017】?【0032】に記載される実施例と比較例を参照。)である。また、引用発明2は、「アクリル系樹脂フィルムのヘイズは、透明性が求められる光学用に用いられることから2%以下である必要があり、好ましくは1%以下、より好ましくは0.5%以下であり」という構成を具備するものである。
したがって、上記(ア)で記載したように、引用発明2において、干渉縞防止及び密着性向上の観点から基材フィルムとハードコート層との界面に凹凸を設けるようにする際にその凹凸の大きさや数については、上記周知の技術的事項に基づき、ヘイズ悪化による透明性悪化を考慮して、適切なものとなるよう当業者が適宜設計する事項である。また、本願発明における「比(B/A)」についても、本願の明細書段落【0015】には「(B/A)が1.04未満であると、得られるハードコートフィルムの基材フィルムとハードコート層との密着性に劣り、また、干渉縞が発生することを充分に防止できず、一方、1.09を超えると、ハードコートフィルムの内部ヘイズが高くなり、上記ハードコートフィルムを用いた場合の表示画像に白化の問題が生じる。」と記載され、干渉縞防止や密着性の観点だけでなくヘイズが高くなりすぎないような範囲内となっていることから、引用発明2における凹凸構造として、干渉縞防止及び密着性向上の観点、並びに、ヘイズ悪化による透明性悪化を考慮して、本願発明における「比(B/A)が1.04?1.09」を満たすようにすることは当業者が容易に想到し得ることである。
なお、「1 理由1(特許法36条6項2号)について」で記載したように「比(B/A)」については、断面観察画像を得るための条件が特定されておらず、観察者が任意に設定できるものである。このことを考慮すると、引用発明2において干渉縞防止及び密着性向上の観点、並びに、ヘイズ悪化による透明性悪化を考慮することにより適切なものとなるよう凹凸を設けたハードコートフィルムの断面観察画像は、画像を得るための倍率、場所を適宜選択することにより、本願発明における「比(B/A)が1.04?1.09」を満たすものが得られる蓋然性が高いものであるとも言える。

(ウ)相違点3及び相違点4について
フィルム表面の面状態を平滑に保つことを目的として、積層体の製造に用いる溶液に含まれるレベリング剤の量を調整することは周知慣用技術である(例えば、特開2010-64249号公報段落【0033】等を参照。)。また、レベリング剤としてフッ素系レベリング剤を用いることは周知技術(例えば、引用文献1段落【0079】、特開2010-64249号公報段落【0017】を参照。)である。
そうしてみると、引用発明2の「積層体」の「ハードコート層」の表面の面状態を平滑に保つことを意図した当業者が、引用発明2の「レベリング剤」の分量を調整したり、周知技術のレベリング剤を添加することにより、引用発明2の「積層体」を相違点3及び4に係る本願発明の構成を具備したものとすることは、容易に発明をすることができたものである。

イ 効果について
上記のように、引用発明2において、干渉縞防止及び密着性向上の観点から凹凸構造を設けることは当業者が容易に想到し得たことであるところ、このようなハードコートフィルムは、干渉縞の発生が防止できること及び密着性が優れたものであることは当業者が当然に予測し得るものである

ウ 請求人の主張について
請求人は、審判請求書において「引用文献3及び4には、基材フィルム上どのような凹凸形状を形成すべきかについて、当該凹凸形状を形成する基材フィルムとして、所定の性質を有する(メタ)アクリル系樹脂からなる基材フィルム、及び、特定の組成からなるハードコート層用組成物について記載も示唆もされていません。
(ロ)また、引用文献2?4には、本願発明(請求項1)に規定したような特定の凹凸形状を形成することは記載も示唆もされておらず、上述した特別な製造方法(溶剤及び基材フィルムの選択、及び、製造時の乾燥温度及び乾燥時間の制御等)については、全てを満たす必要性を示唆する記載も示唆もありません。
そうすると、上述したように、アクリル系樹脂フィルムの表面に特定の凹凸を形成するとの明確な意図のない引用文献2?4、1に記載の発明に基づき、本願発明(請求項1)の構成を満たすハードコートフィルムを得ることは、当業者であっても容易であったとは考えられません。 」と主張する。
しかしながら、上記のように、ハードコートフィルムにおける凹凸構造として、干渉縞防止及び密着性向上の観点だけでなくヘイズ悪化による透明性悪化を考慮することは周知の技術的事項であり、特にヘイズ悪化の観点から凹凸の形状を大きすぎたり、多くしないようにすることは当業者が適宜なし得る設計事項である。そして、そのようにして得られたハードコートフィルムは本願発明における「比(B/A)が1.04?1.09」の要件を満たすものとなっている蓋然性が高いことも上記のとおりである。また、請求人の主張する「特別な製造方法」については、本願発明はハードコートフィルムという物の発明であり製造方法の発明ではなく、また、本願発明にはこのような「特別な製造方法」に関する事項も含まれていないことから、本願発明をこのような「特別な製造方法」によるものと限定して解釈することはできず、したがって、引用発明2に基づく進歩性の検討において「特別な製造方法(溶剤及び基材フィルムの選択、及び、製造時の乾燥温度及び乾燥時間の制御等)」の全てを満たすことが必要になることはない。
したがって、請求人の主張を採用することはできない。

以上のとおり、本願発明は、引用文献2に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 むすび
以上のとおり、本願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないため、拒絶すべきものである。
また、本願発明は、特許法29条1項3号に該当する発明であるから特許を受けることができない。また、本願発明は、29条2項の規定により特許を受けることができない。したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-11-28 
結審通知日 2019-12-03 
審決日 2019-12-19 
出願番号 特願2017-99284(P2017-99284)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
P 1 8・ 113- Z (G02B)
P 1 8・ 537- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 植野 孝郎  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 井口 猶二
早川 貴之
発明の名称 ハードコートフィルム、偏光板、前面板及び画像表示装置  
代理人 特許業務法人 安富国際特許事務所  

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