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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A41B 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A41B |
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管理番号 | 1359452 |
審判番号 | 不服2019-3284 |
総通号数 | 243 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-03-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-03-08 |
確定日 | 2020-02-06 |
事件の表示 | 特願2015-100512「吸収性物品」拒絶査定不服審判事件〔平成28年12月22日出願公開、特開2016-214405〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成27年5月15日を出願日とする出願であって、以降の手続は次のとおりである。 平成30年6月6日付け :拒絶理由通知 平成30年8月8日 :意見書及び手続補正書の提出 平成30年8月30日付け :拒絶理由通知(最後) 平成30年10月30日 :意見書及び手続補正書の提出 平成30年12月6日付け :平成30年10月30日にした手続補正を却下 平成30年12月6日付け :拒絶査定 平成31年3月8日 :審判請求書の提出、同時に手続補正書の提出 令和元年7月23日 :上申書の提出 第2 平成31年3月8日にした手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成31年3月8日提出の手続補正書による補正を却下する。 [理由] 1.本件補正について 上記平成31年3月8日にした補正(以下「本件補正」という。)は、上記平成30年8月8日にした手続補正(なお、平成30年10月30日にした手続補正は、平成30年12月6日付けの補正の却下の決定により却下された。)により補正された本願特許請求の範囲の請求項1についての補正を含むもので、本件補正前後の請求項1の記載は、補正箇所に下線を付して示すと、次のとおりである。 (1)本件補正前 「【請求項1】 液透過性の表面シートと、液不透過性の裏面シートと、前記表面シートと前記裏面シートとの間に配された吸収体とを有し、前記表面シートと前記吸収体とを圧縮した凹部が複数配列された圧縮列を複数具えた圧縮部形成領域を有する吸収性物品であって、 前記圧縮列は、前記吸収性物品が着用された際に着用者の腹側から股下を通り、背側にいたる仮想線に対して一方側に傾斜して延びる第1圧縮列と、他方側に傾斜して伸びる第2圧縮列とを有し、 前記圧縮部形成領域は、複数の前記第1圧縮列と前記第2圧縮列とが、格子状に配列され、 前記第1圧縮列と前記第2圧縮列との全ての交差部分には、前記凹部は無いことを特徴とする吸収性物品。」 (2)本件補正後 「【請求項1】 液透過性の表面シートと、液不透過性の裏面シートと、前記表面シートと前記裏面シートとの間に配された吸収体とを有し、前記表面シートと前記吸収体とを圧縮して一体的に接合されている凹部が複数配列された圧縮列を複数具えた圧縮部形成領域を有する吸収性物品であって、 前記圧縮列は、前記吸収性物品が着用された際に着用者の腹側から股下を通り、背側にいたる仮想線に対して一方側に傾斜して延びる第1圧縮列と、他方側に傾斜して伸びる第2圧縮列とを有し、 前記圧縮部形成領域は、複数の前記第1圧縮列と前記第2圧縮列とが、格子状に配列され、 前記第1圧縮列と前記第2圧縮列との全ての交差部分には、前記凹部は無いことを特徴とする吸収性物品。」 2.補正の適否 本件補正のうち、上記請求項1についてするものは、本件補正前の請求項1の「前記表面シートと前記吸収体とを圧縮した凹部」とあるのを、「前記表面シートと前記吸収体とを圧縮して一体的に接合されている凹部」と、「凹部」について、「表面シート」と「吸収体」とが、「圧縮」により「一体に接合されている」ものに限定するものである。 そして、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であることは明らかであるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定される特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、上記本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「補正発明」という。)が、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について以下に検討する。 (1)補正発明 補正発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるもので、上記1.(2)に示したとおりのものである。 (2)引用文献 ア.引用文献1 原査定の拒絶の理由、すなわち平成30年8月30日付け拒絶理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開2012-179220号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、以下の事項及び発明が記載されている。 (ア)「【0017】 本発明の吸収性物品について、以下、詳細に説明する。 図1は、本発明の吸収性物品の実施形態の一つを示す図である。図1では、吸収性物品の代表例として、使い捨ておむつが示されている。 【0018】 図1に示される使い捨ておむつ1は、液透過性のトップシート2と、液不透過性のバックシート3と、吸収体4と、防漏壁5と、テープファスナ6とを有し、そして、使い捨ておむつ1は、前身頃の胴領域W_(1)、股領域C、及び後身頃の胴領域W_(2)に分けられる。図1に示される使い捨ておむつ1は、吸収体4を圧搾することにより形成された、線状圧搾部8と、点状圧搾部9とを有する。符号7は、肌当接面を意味する。・・・ 【0019】 図1において、線状圧搾部8及び点状圧搾部9は、吸収体4の、使い捨ておむつ1の長手方向Aの側縁領域Z_(1)及びZ_(3)と、両側縁領域の間の中央領域Z_(2)とに存在している。 なお、本明細書において、側縁領域Z_(1)及びZ_(3)、並びに中央領域Z_(2)は、吸収体を、使い捨ておむつの長手方向に、その幅が同一となるように3等分した場合の、それぞれ、着用者の右側となる領域、左側となる領域、及び中央となる領域を意味する。 【0020】 図1に示される使い捨ておむつ1では、複数の、波形の線状圧搾部8が、長手方向Aに配向し、そして隣り合う線状圧搾部の谷部及び山部がほぼ接するように配置されている。 図1に示される使い捨ておむつ1では、隣り合う波形の線状圧搾部8の山部及び谷部により形成される、略菱形の領域内に、24個の点状圧搾部9から形成される、7個の正六角形が形成されている。 【0021】 なお、本明細書において、「股領域」は、使用時に着用者の脚を通すための開口部を形成する領域を意味し、「前身頃の胴領域」は、胴領域の中で前身頃を形成する領域であり、上記股領域よりも前側の領域を意味し、そして「後身頃の胴領域」は、胴領域の中で後身頃を形成する領域であり、上記股領域よりも後側の領域を意味する。 なお、パンツ型の使い捨ておむつの場合には、胴回りギャザーのうち、前身頃部分を前身頃の胴領域と称し、後身頃部分を後身頃の胴領域と称し、そしてその間の領域を股領域と称することができる。」 (イ)「【0022】 図2(a)は、図1に示される使い捨ておむつ1のX_(1)部分の拡大図であり、そして図2(b)は、図1に示される使い捨ておむつ1のX_(1)部分のX-X断面における断面図である。図2(b)に示される使い捨ておむつ1は、液透過性のトップシート2と、液不透過性のバックシート3と、トップシート2及びバックシート3の間の吸収体4とを含む。図2(b)に示される使い捨ておむつ1には、吸収体4を構成する、コアラップ10と、吸収性コア11とを圧搾することにより形成された、線状圧搾部8が2本と、点状圧搾部9が4つ示されており、線状圧搾部8の厚さt_(1)は、点状圧搾部9の厚さt_(2)よりも薄い。 【0023】 図1及び図2に示される使い捨ておむつ1では、使い捨ておむつ1の長手方向Aに対して約40°の傾斜を有する略波形の線状圧搾部8が、計10本配置されているので、線状圧搾部8の総長さの、吸収体4の長手方向Aの長さLに対する比率が、約13となり、そして線状圧搾部8の厚さt_(1)は、非圧搾部の厚さt_(0)に対して、約35%となる。 また図1及び図2に示される使い捨ておむつ1では、点状圧搾部9が、吸収体の総面積に基づいて、約16個/cm^(2)の個数密度を有し、そして点状圧搾部9の厚さt_(2)が、非圧搾部の厚さt_(0)に対して、約55%となる。」 (ウ)「【0024】 本発明の吸収性物品では、線状圧搾部は、吸収性物品の骨格として機能し、そして点状圧搾部は、吸収性物品の折れ起点として機能する。薄型の吸収性物品では、トップシート、吸収体、バックシート等の坪量が少なく、型崩れしやすい傾向があるが、線状圧搾部を、骨格として所定の量配置することにより、型崩れしにくい吸収性物品を形成することができる。また、線状圧搾部の量が多くなると、吸収性物品が硬くなり、そして線状圧搾部を起点としてのみ折れやすくなる傾向があるが、吸収性物品に点状圧搾部を所定の量配置することにより、点状圧搾部が、吸収性物品の折れ起点となり、吸収性物品が種々の方向に折れ曲がることができるので、柔らかく、装着感が良好になる。 【0025】 図3A及び図3Bは、本発明の吸収性物品に用いられうる吸収体の、線状圧搾部の例を示す図である。図3A(a)?(c)、及び図3B(d)?(f)は、吸収体を、トップシート側の方向から見た図である。図3A(a)では、吸収体(吸収性物品)の長手方向Aに、計8本の線状圧搾部8が平行に配置されており、線状圧搾部8の総長さの、吸収体4の、長手方向Aの長さに対する比率は、約8.0となる。図3A(a)に示されるような線状圧搾部は、吸収性物品の幅方向Bに対して、計8本の折れ起点を有することになるので、吸収性物品の幅方向の柔軟性に優れ、着用者の身体の曲線に追従することができる。」 (エ)「【0026】 ・・・ 図3A(c)では、吸収体(吸収性物品)の長手方向Aから±約45°傾き、互いに直行する2種の直線からなる線状圧搾部8が配置されており、線状圧搾部8の総長さの、吸収体4の、長手方向Aの長さに対する比率は、約14となる。図3A(c)に示されるような線状圧搾部は、2つの方向に関して、複数の折れ起点を有することになるので、着用者の体の曲線に追従することができる。 ・・・ 【0028】 図3B(e)では、図3A(c)の例の変形例であり、線状圧搾部8が、互いに直行する2種の圧搾部の交点を有しないように配置されている。図3B(e)では、線状圧搾部8の総長さの、吸収体4の、長手方向Aの長さに対する比率は、約13.5となる。図3B(e)に示されるような線状圧搾部は、硬さを感じやすい、線状圧搾部同士の交点を有しないので、図3A(c)に記載される例よりも、着用感に優れる傾向がある。 ・・・」 (オ)「【0059】 なお、これまで、線状圧搾部及び点状圧搾部が、吸収性コア及びコアラップ、並びに所望による高吸収ポリマーを含む吸収体を圧搾することにより形成されている実施形態を例示してきたが、線状圧搾部及び点状圧搾部は、これらに限定されず、液透過性のトップシートと、吸収体とが圧搾されることにより、上記線状圧搾部と、点状圧搾部とが形成されていてもよい。 ・・・」 (カ)【図1】、【図3A】、【図3B】 (キ) 上記摘記事項(オ)の「液透過性のトップシートと、吸収体とが圧搾されることにより、上記線状圧搾部と、点状圧搾部とが形成されていてもよい。」(段落【0059】)という記載にしたがって、「トップシート」と「吸収体」とを「圧搾」して「線状圧搾部」を形成すると、積層された双方がともに加圧により変形して「線状圧搾部」を形成し、両者が離れることはなく一体に「線状圧搾部」としての形状が維持されることは明らかであるから、引用文献1には、「トップシート2」と「吸収体4」とが圧搾されて一体的に接合されたものが記載されているといえる。 そして、【図3A】、【図3B】に図示された「吸収体4」に形成された「線状圧搾部8」のパターンは、「液透過性のトップシートと、吸収体とが圧搾されることにより、上記線状圧搾部」を形成するならば、当然、同様な「線状圧搾部8」のパターンが、「トップシート2」上に形成されることは明らかである。 (ク)【図3B】と摘記事項(エ)の記載から、引用文献1記載された「使い捨ておむつ1」は、「線状圧搾部8」が複数配列された、「圧搾列」と呼べるものを有し、さらに、当該「圧搾列」を複数備えた「圧搾部形成領域」と呼べるものを有するものである。 (ケ)【図1】に示された、「長手方向A」と、前身頃の胴領域W_(1)、股領域C、及び後身頃の胴領域W_(2)の位置、並びに、「長手方向A」と、【図3B(e)】に示された「線状圧搾部8が、互いに直行する2種の圧搾部の交点を有しないように配置」(摘記事項(エ) 段落【0028】)をみると、「使い捨ておむつ1」において、「着用された際に着用者の腹側から股下を通り、背側にいたる仮想線」と呼べるものをとることができる。そして、当該「仮想線」に対して、一方の側に傾斜して延びる「第1圧搾列」と呼べるものと、他方側に傾斜して伸びる「第2圧搾列」と呼べるものが、引用文献1には記載されている。そして、「第1圧搾列」と「第2圧搾列」とが、格子状に配置されていることが、【図3B(e)】に図示されている。 そうすると、上記摘記事項(ア)?(オ)、(カ)の図示、及び、認定事項(キ)?(ケ)を総合すると、引用文献1には、次の引用発明が記載されている。 「液透過性のトップシート2と、液不透過性のバックシート3と、前記トップシート2と前記バックシート3との間に配された吸収体4とを有し、前記トップシート2と前記吸収体4とを圧搾して一体的に形成されている線状圧搾部8が複数配列された圧搾列を複数備えた圧搾部形成領域を有する使い捨ておむつ1であって、 前記圧搾列は、前記使い捨ておむつ1が着用された際に着用者の腹側から股下を通り、背側にいたる仮想線に対して一方側に傾斜して伸びる第1圧搾列と、他方に傾斜して伸びる第2圧搾列とを有し、 前記圧搾部形成領域は、複数の前記第1圧搾列と前記第2圧搾列とが、格子状に配列され、 前記第1圧搾列の線状圧搾部8と、第2圧搾列の線状圧搾部8とは、交点を有しない使い捨ておむつ1。」 イ.引用文献3 当該原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開2013-141号公報(以下「引用文献3」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。 (ア)「【0023】 図3は、吸収体30の平面図である。吸収体30には、吸収体30を厚み方向に圧搾した吸収体圧搾部90が形成されている。吸収体圧搾部90は、吸収体30の長手方向Lにおける両端部に形成された第1吸収体圧搾部91と、格子状の第2吸収体圧搾部92と、を備える。第1吸収体圧搾部91は、小四角形状であって、間欠的に複数形成されている。高吸収性ポリマーを不織布で包んで折り畳んだ状態で、第1吸収体圧搾部91を形成することにより、吸収体30の両端部が接合され、高吸収性ポリマーが不織布内部に収容される。 【0024】 第2吸収体圧搾部92は、長手方向Lに延びる第1直線C1上及び第2直線C2上に間欠的に配置されている。この第1直線C1と第2直線C2とは交差しており、格子状に配置されている。なお、第1直線C1及び第2直線C2は、図3においてそれぞれ一点鎖線にて示されている。吸収体30には、第2吸収体圧搾部92によって区画された小領域31が形成されている。小領域31のそれぞれには、高吸収性ポリマー粒子が配置されている。」 (イ)【図3】 (3)対比 補正発明と引用発明とを対比する。 引用発明の「使い捨ておむつ1」は、補正発明の「吸収性物品」に相当する。 引用発明の「トップシート2」、「バックシート3」及び「吸収体4」は、補正発明の「表面シート」、「裏面シート」及び「吸収体」にそれぞれ相当する。 引用発明の「圧搾」は、補正発明の「圧縮」に相当する。 引用発明の「線状圧搾部8」は、補正発明の「凹部」に相当する。 引用発明の「圧搾列」及び「圧搾部形成領域」は、補正発明の「圧縮列」及び「圧縮部形成領域」にそれぞれ相当する。 引用発明の「第1圧搾列」と「第2圧搾列」は、補正発明の「第1圧縮列」と「第2圧縮列」にそれぞれ相当する。 引用発明の「前記第1圧搾列の線状圧搾部8と、第2圧搾列の線状圧搾部8とは、交点を有しない」とは、上記相当関係を踏まえると、補正発明において第1圧搾列の凹部と第2圧搾列の凹部とは交点を有しないという構成に相当することになり、結局、両者は、前記第1圧縮列の凹部と前記第2圧縮列の凹部の両方の凹部に属する部分がない、という限りにおいて一致する。 そうすると、補正発明と引用発明とは次の点で一致し、かつ、相違する。 <一致点> 液透過性の表面シートと、液不透過性の裏面シートと、前記表面シートと前記裏面シートとの間に配された吸収体とを有し、前記表面シートと前記吸収体とを圧縮して一体的に接合されている凹部が複数配列された圧縮列を複数具えた圧縮部形成領域を有する吸収性物品であって、 前記圧縮列は、前記吸収性物品が着用された際に着用者の腹側から股下を通り、背側にいたる仮想線に対して一方側に傾斜して延びる第1圧縮列と、他方側に傾斜して伸びる第2圧縮列とを有し、 前記圧縮部形成領域は、複数の前記第1圧縮列と前記第2圧縮列とが、格子状に配列され、 前記第1圧縮列の凹部と前記第2圧縮列の凹部の両方の凹部に属する部分が無い吸収性物品。 <相違点> 「前記第1圧縮列の凹部と前記第2圧縮列の凹部の両方の凹部に属する部分が無い」ことについて、補正発明は「前記第1圧縮列と前記第2圧縮列との全ての交差部分には、前記凹部は無い」ものであるのに対し、引用発明は、「前記第1圧搾列の線状圧搾部8と、第2圧搾列の線状圧搾部8とが交点を有しない」ように配置する点。 (4)判断 ア.<相違点>についての判断 上記2.(2)ア.(エ)に摘記した、引用文献1の「図3B(e)では、線状圧搾部8の総長さの、吸収体4の、長手方向Aの長さに対する比率は、約13.5となる。図3B(e)に示されるような線状圧搾部は、硬さを感じやすい、線状圧搾部同士の交点を有しないので、図3A(c)に記載される例よりも、着用感に優れる傾向がある。」(段落【0028】)という記載から、引用発明の「第1圧搾列」の「線状圧搾部8」と、「第2圧搾列」の「線状圧搾部8」が交点を有しないのは、硬さを感じやすい「線状圧搾部8」が、重なって形成される部分が生じないようにすることで、優れた着用感を得ようとしていることが、当業者には明らかである。 ここで、積層体よりなる吸収性物品を構成する層に、方向が異なる二種類の線状圧搾部の列の交差部分に、圧搾部が無いように配置することは、例えば、原審が平成30年8月30日付け拒絶の理由で示した上記引用文献3(特開2013-141号)の【図3】に示されているように、従来から吸収性物品において採用されていた従来周知の事項である。 そうすると、上記従来周知の事項を踏まえると、引用発明において、上記<相違点>に係る補正発明の構成を備えたものとすることは、引用発明が「第1圧搾列」と「第2圧搾列」のそれぞれに属する「線状圧搾部8」が「交点を有しない」ようにしたものを、より確実に、「第1圧搾列」と「第2圧搾列」のそれぞれに属する「線状圧搾部8」が重なって形成されないようにしてより優れた着用感を確実に得るために、使いすておむつ1における「第1圧搾列」と「第2圧搾列」の形成位置や配置を、「第1圧搾列」と「第2圧搾列」自体の全ての交差部分に「線状圧搾部8」が位置しないように設計することで、当業者が容易になし得た事項である。 イ.作用効果について 補正発明は、「斜め方向に延びる成分を有するエンボスパターンを表面シートと吸収体とをともに圧縮して形成した吸収性物品において、斜め方向に延びる成分が交差する部分においても柔らかな肌障りを着用者に与える吸収性物品を提供する」(本願明細書段落【0011】)との課題を解決しようとしたものである。 しかし、引用発明も、「硬さを感じやすい」との着用感を緩和できる、すなわちより柔らかさを感じることができる、との作用効果が得られるから、補正発明が奏する作用効果は、格別なものであるとはいえない。 3.むすび 以上のとおりであるから、補正発明は引用発明及び従来周知の事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 そうすると、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 1.本願発明 本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成30年8月8日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、上記第2の1.(1)に記載したとおりのものである。 2.原査定における拒絶の理由 原査定の拒絶の理由(平成30年8月30日付け拒絶理由<最後>)は、この出願の請求項1に係る発明は、本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった上記引用文献1に記載された発明、及び例えば上記第2の2.(4)アに示した引用文献3(特開2013-141号公報)に示された従来周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許受けることができない、というものである。 3.引用文献 引用文献1には、上記第2の2.(2)ア.に示した事項が記載されていて、上記引用発明が記載されている。 4.対比・判断 上記第2の2.に示したように、本願発明は、補正発明において特定された「前記表面シートと前記吸収タイトを圧縮して一体的に接合されている凹部」から、「一体的に接合されている」との限定事項を省いたものである。 そうすると、補正発明の全ての特定事項を包含し、さらに限定された発明である補正発明が、上記第2の3.に示したように、引用発明及び従来周知の事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるから、本願発明も、引用発明及び従来周知の事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものである。 5.請求人が令和元年7月23日提出した上申書について 請求人は令和元年7月23日に上申書を提出し、【上申の内容】の「(2-2)相違点1および2に基づく認定について」において、次のとおり主張している。 「・・・すなわち、補正請求項1の発明では、吸収体からの表面シートの剥がれを抑制するためにパルプ繊維およびSAPを含む吸収体と表面シートとが同時に圧縮されますが、表面シートの圧縮列形成部位の交差部分はエンボス加工時に二方向からの張力の作用を受けるため、吸収体に含まれるSAPがトップシートを破ってしまうおそれがあります。しかし補正請求項1の発明では、交差部分には凹部が無いように構成されていることで、すなわち交差部分の圧縮が緩和されるようにされていることで、吸収体に含まれる固いSAPの影響を受けることなく、破れを効果的に防止でき、さらに吸収体の柔かさも維持できるものとなります。」 そこで検討する。引用発明においても、「線状圧搾部8」を形成すれば、当該形成箇所は、圧搾により凹むから、「トップシート2」が延ばされることは技術常識である。よって、「線状圧搾部8」を設けなければ、破れの原因となる加圧による延びが緩和されたものとなり、ひいては、破れを効果的に防止できるとの作用効果を奏するであろうことは、当業者が容易に予測し得た範囲内の事項である。さらに、「吸収体の柔らかさも維持できる」についても、上記第2.の2.(4)イ.に示したように、格別なものであるとはいえない。 第4 まとめ 以上に示したとおり、本願発明は引用発明及び従来周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2019-11-19 |
結審通知日 | 2019-11-26 |
審決日 | 2019-12-13 |
出願番号 | 特願2015-100512(P2015-100512) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(A41B)
P 1 8・ 121- Z (A41B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 藤井 眞吾、木原 裕二、西田 侑以 |
特許庁審判長 |
石井 孝明 |
特許庁審判官 |
高山 芳之 久保 克彦 |
発明の名称 | 吸収性物品 |
代理人 | 特許業務法人 谷・阿部特許事務所 |