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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12N |
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管理番号 | 1359475 |
審判番号 | 不服2018-3918 |
総通号数 | 243 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-03-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-03-20 |
確定日 | 2020-02-05 |
事件の表示 | 特願2013-146242「ウイルス様粒子を含む培養物の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 1月29日出願公開、特開2015- 15931〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成25年7月12日に出願された特願2013-146242号であり、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。 平成29年 4月18日:拒絶理由通知(日付は起案日) 平成29年 6月29日:意見書 平成29年 6月29日:手続補正書(以下、この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。) 平成29年11月10日:拒絶査定(日付は起案日) 平成30年 3月20日:審判請求 平成30年11月13日:拒絶理由通知(日付は起案日) 平成31年 2月19日:意見書 平成31年 4月23日:拒絶理由通知(日付は起案日) 令和 1年 7月 4日:意見書 第2 本願発明 本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。 「ノロウイルスの核酸配列を含むバキュロウイルスベクターによって昆虫細胞を形質転換し、その昆虫細胞を培養することにより、ノロウイルスのウイルス様粒子を含む培養上清を製造する方法であって、昆虫細胞の生存率を測定し、前記昆虫細胞の生存率が10%以下になるまで培養を継続した後、培養上清を回収することを特徴とするノロウイルスのウイルス様粒子を含む培養上清の製造方法。」 第3 当審の判断 1 当審の拒絶理由 平成31年4月23日付の当審が通知した拒絶理由の理由1は、次のとおりのものである。 本願発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1?5に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献1 Journal of Virology, 1992, vol.66, no.11, p.6527-6532 引用文献2 Cytotechnology, 2007, vol. 54,p.35-48 引用文献3 特表2010-508030号公報 引用文献4 特表2009-522309号公報 引用文献5 特表2010-530734号公報 2 引用文献の記載事項及び引用発明 (1) 引用文献1の記載事項及び引用発明 引用文献1には、以下の事項が記載されている。引用文献1は英語で記載されているので訳文で摘示する。訳文は当審による。 ア 「pVLNV-2-3は、バキュロウイルス組み換えベクターpVL1393のEcoRIサイトに挿入された、部分的にEcoRIで消化されたノーウォークウイルス核酸配列の3’末端の2.4-kbフラグメントを含む。」(第6528頁左欄第5?8行) イ 「組換えバキュロウイルスの調製 昆虫(Spodoptera frugiperda)細胞(Sf9)が野生型バキュロウイルスDNAとプラスミドpVLNV-2-3 DNAで先に記載されているように共トランスフェクトされた(5)・・・プラーク精製されたウイルスによって高い感染多重度(?10)でSf9細胞が感染され、感染後4?5日の細胞が回収され、発現されたウイルスタンパク質が同定された。発現されたキャプシドタンパク質のほとんどを含む上清がベッカムJA17ローターで15分3000rpmの遠心分離により細胞溶解物から分離された。」(第6528頁左欄第21?32行) ウ 「バキュロウイルス発現システムでのノーウォークウイルスタンパク質の産生 ・・・ポリアクリルアミドゲルでの電気泳動後の発現タンパク質の電気泳動解析とクマシーブルーでの染色は、見かけの分子量58Kの主なバンドを示した。これは、組み換えノーウォークウイルス(rNV)感染細胞においてのみ観察され、野生型バキュロウイルス感染細胞あるいは非感染細胞では観察されなかった(データは示さない)。動態実験は、このタンパク質が感染後3日から少なくとも5日まで培養培地中に放出されたことを示した(図3)。」(第6529頁左欄下から11行?右欄第6行) エ 図3 オ 「図5にCsCl傾斜での遠心分離後の感染細胞の上清から精製した58Kタンパク質の電気泳動解析の結果を示す。58Kタンパク質のピークフラクションは密度1.31g/cm^(3)だった。そのピークフラクションを電顕写真で調べるとウイルス様粒子が観察された。」(第6529頁右欄第21?27行) カ 「58Kタンパク質はウイルス様粒子を形成する。58Kタンパク質は培養培地に放出されたから、その精製のための手順は大いに単純であった。」(第6529頁右欄第18?21行) 上記ア?カの記載事項から、引用文献1には、以下の発明が記載されている(以下、「引用発明」という。)。 「ノーウォークウイルスの核酸配列を含むバキュロウイルスベクターを用いて作製した組み換えバキュロウイルスを昆虫細胞に感染させて昆虫細胞を形質転換し、感染した昆虫細胞を4?5日培養した後、ノーウォークウイルスのウイルス様粒子を含む培養上清を回収し精製したこと。」 (2) 引用文献2の記載事項 引用文献2には、以下の事項が記載されている。引用文献2は英語で記載されているので訳文で摘示する。訳文は当審による。 ア 「バキュロウイルス発現ベクターを伴う感染昆虫細胞系(BEVS)は、組み換えタンパク質産生のためのますます普及している方法である。」(35頁 要約の1?4行) イ 「他の重要なアプローチは、最大のタンパク質収率の時期を予測し回収時期を最適化するために、プロセス全体を監視するより効果的な方法を探すことを包含した。提案された感染細胞培養のモニタリングの方法は、・・・生存率(Jain 他 1991)、・・・の測定を含む。たくさんの提案されたモニタリング方法は手間であり時間集約的である。一方、生存率、細胞密度、細胞サイズ動態は、細胞の密度、生存率及び径のモニタリングのための迅速で自動的なシステムの利用が可能なため、特に監視が簡便なパラメータである。したがって、これらのパラメータは、タンパク質産生のピークポイントの決定及び最大タンパク質収率の予測のための感染細胞のモニタリングの潜在的に有用な方法と考えられてきた。」(36頁左欄22?44行) ウ 「感染をモニターし最適な回収時期を決定するための細胞サイズ動態、生存率及び生存細胞密度の時間経過に伴う変化の利用の利点は、感染の進行の間のこれらのパラメータの決定が迅速かつ簡便にできることである。」(47頁左欄30?34行) エ 「EGFPは細胞内タンパク質として昆虫細胞/バキュロウイルス系で産生されるが、その後に感染後の時間の増加に伴い細胞溶解の増加のため培地中へ放出される(・・・)。我々の結果は感染したHi5とSf-9細胞の両方でEGFP産生におけるこれと同じパターンを示した。両方の細胞型において、EGFPは始めに細胞内に現れ(培養物から分離された遠心分離サンプルのペレット画分)、それから、感染3日後に培地中(培養物から分離された遠心分離サンプルの上清画分)で増加量で現れた(図1A、3A)。」(38頁左欄14?25行) オ 図3A カ 「再度、種々の感染多重度(MOIs)で感染したSf-9培養物は経時的生存率変化においてより互いに合致した。・・・MOI=5培養物は感染後ほぼ5日で10%生存を下回った・・・(図4C)。」(40頁左欄10行?同頁右欄2行) キ 図4C (3) 引用文献3の記載事項 引用文献3には、以下の事項が記載されている。 「好ましくは、接種後に特有のバキュロウイルスによって誘導される変化についてSF+細胞を観測する。このような観測は、感染後の期間で細胞密度傾向および生存能力の減退をモニタリングすることを含んでもよい。ピークウイルスタイターは、感染から3?5日後に観測され、細胞におけるピークH5タンパク質発現は、5と8日との間に得られ、および/または細胞の生存能力は、10%未満にまで減退する。 したがって、本発明の1つの局面は、好ましくは上述した量で、H5タンパク質を生産し、および/または、回収する方法を提供し、i)上記で定義したMOIで組換えウイルスベクターと培養した感受性細胞(上記参照)の感染を可能とする、ii)組換えウイルスベクターによってH5タンパク質を発現する、iii)その後感染後5?8日後得られる細胞および/または10%未満にまで生存能力が減少した細胞からH5タンパク質を回収する。」(【0029】) (4) 引用文献4の記載事項 引用文献4には、以下の事項が記載されている。 ア 「驚くべきことに、ORF2がバキュロウイルス発現系によって産生されるときには、前記発現系は、ORF2を培養液中に発現させるためにシグナル配列又は更なる改変を全く要求しない。このタンパク質は独立してウイルス様粒子を形成し(・・・)、培養上清に分泌されえると考えられる。」(【0030】) イ 「好ましくは、Sf+細胞は、特徴的なバキュロウイルス誘発変化のために接種後観察される。そのような観察には、細胞密度の変化及び感染後の生存率の低下の追跡が含まれえる。ウイルス力価のピークは感染後3-5日後に観察され、細胞から上清へのORF2放出ピークは5日目から8日目、及び/又は細胞生存率が10%未満に減少したとき得られることが分かった。 したがって、本発明のある特徴は、組換えPCV2 ORF2タンパク質を、好ましくは上記に記載した量で以下によって製造及び/又は回収する改良方法を提供する:i)上記に規定したMOIで、多数の感受性細胞(上記参照)を組換えウイルスベクターに感染させ、ii)前記組換えウイルスベクターによりPCV2 ORF2タンパク質を発現させ、さらにiii)その後、感染後5から8日で得られる細胞、及び/又は細胞生存率が10%未満に低下した細胞の上清においてPCV2 ORF2を回収する。」(【0031】) ウ 「実施例1 この実施例では、本発明の方法を用いるORF2の相対的収量が従来技術で知られている方法と比較される。・・・より詳細に述べれば、液体窒素保存の最初のSf+細胞培養をExcell420培養液にて懸濁状態で、無菌的スピンナーフラスコで定常的に攪拌しながら増殖させた。・・・播種後、フラスコを4時間27℃でインキュベートした。続いて、PCV2 ORF2遺伝子(配列番号:4)を含む組換えバキュロウイルスを各フラスコに接種した。PCV2 ORF2遺伝子を含む組換えバキュロウイルスは以下のように作成した:・・・バキュロウイルスを接種した後、続いてフラスコを27±2℃で7日間インキュベートし、さらにその間100rpmで攪拌した。フラスコには通気キャップを用い空気の流通を可能にした。次の7日間、各フラスコから24時間毎にサンプルを採取した。採取後、各サンプルを遠心し、ペレットと上清の両方を分離し続いて0.45-1.0μmのポアサイズの膜でろ過した。 続いて、得られたサンプルでその中に存在するORF2の量をELISAアッセイにより定量した。・・・プレートをELISAリーダーで読み取った。このアッセイの結果は下記の表1に提供される。 表1(省略) これらの結果は、インキュベーション時間が長くなるとき、遠心細胞及び媒体の上清中へのORF2の発現は遠心細胞及び媒体のペレットでの発現よりも大きくなることを示している。したがって、発現を5日未満進行させて細胞からORF2を回収するのではなくて、ORF2発現を少なくとも5日間進行させ上清でORF2を回収する方が、ORF2収量の大きな増加及び従来技術を超える顕著な改良を提供する。 実施例2 この実施例は、本明細書で主張する本発明の有効性に関するデータを提供する。1000mLのスピンナーフラスコに300mLのExcell420培養液中のSf+細胞(ほぼ1.0×10^(6)細胞/mL)を播種した。・・・その後、前記フラスコに10mLのPCV2 ORF2/Bac p+6(Sf9昆虫細胞でさらに6回継代したPCV2 ORF2遺伝子を含む組換えバキュロウイルス)を接種した。 続いてフラスコを合計6日間インキュベートした。インキュベーション後に、フラスコを遠心し得られた上清から3つのサンプルを採集して不活化した。」(【0078】?【0082】) (5) 引用文献5の記載事項 引用文献5には、以下の事項が記載されている。 「ヒューストンVLPの精製プロセス SF9細胞の1リットルの懸濁培養物を、1.7×10^(7)個細胞/mLの密度まで増殖させ、ヒューストンVP1配列をコードする組換えバキュロウイルスストックで0.5pfu/細胞のMOI(感染多重度)で感染させた。感染は、20%未満の生存率となることを可能にするものであった(・・・)。」(【0148】) 3 対比 本願発明と引用発明を対比すると、引用発明の「ノーウォークウイルス」はノロウイルスに該当するから、両者は以下の一致点と相違点を有する。 【一致点】 「ノロウイルスの核酸配列を含むバキュロウイルスベクターによって昆虫細胞を形質転換し、その昆虫細胞を培養することにより、ノロウイルスのウイルス様粒子を含む培養上清を製造する方法であって、前記昆虫細胞を培養した後、培養上清を回収することを特徴とするノロウイルスのウイルス様粒子を含む培養上清の製造方法。」の点。 【相違点】 昆虫細胞の培養において、前者は「昆虫細胞の生存率を測定し、前記昆虫細胞の生存率が10%以下になるまで培養を継続」するのに対して、後者は「4?5日培養」する点。 4 判断 (1) 前記相違点について検討する。 昆虫細胞-バキュロウイルス系で目的タンパク質を製造し回収する方法において(前記2(2)ア)、最大のタンパク質収率を達成できる最適な回収時期を決定するために生存率等の簡便に測定できるパラメータを用いることは、例えば、引用文献2に記載されているとおり当該技術分野において周知であり(前記2(2)イ及びウ)、実際に、細胞の生存率を測定し、その値が所定の値を下回ったことを指標としてタンパク質を回収することも、例えば、引用文献3のインフルエンザのH5タンパク質の生存率10%未満での回収(前記2(3))、引用文献4のブタシルコウイルス2型のORF2タンパク質の生存率10%未満での回収(前記2(4)ア)、引用文献5のノロウイルスVLPタンパク質の生存率20%未満での回収(前記2(5))から明らかなとおり、当該技術分野において通常行われている。 そうすると、引用発明においても、目的タンパク質回収時点で細胞の生存率を測定し、その値を確認してウイルス様粒子(58Kタンパク質)を含む培養上清を回収することは、当業者が適宜なし得る。 加えて、引用文献2には、感染多重度(MOI)5で組み換えバキュロウイルスに感染したSf9細胞において、感染後3日から目的タンパク質(EFGP)が培養培地中に放出されたことが図3Aに示され(前記2(2)エ及びオ)、また、感染4日と5日の間に当該細胞の生存率が10%以下まで低下したことが図4Cに示されているところ(前記2(2)カ及びキ)、引用発明ではSf9細胞は引用文献2の場合より高い感染多重度(?10)で感染しており(前記2(1)イ)、かつ、感染後3日から目的タンパク質である58Kタンパク質が培養培地中に放出されている点が引用文献2の場合と一致しているから(前記2(1)ウ及びエ)、引用発明においても、目的タンパク質回収時点である感染後4?5日において、Sf9細胞の生存率は10%以下まで低下している蓋然性が高い。 そうすると、引用発明における細胞の培養を、目的タンパク質回収時点である感染後4?5日まで継続して細胞の生存率を測定し、その値が10%以下であることを確認して培養上清を回収することは当業者にとって容易であるから、本願発明は、引用文献1?5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (2) 次に、仮に引用発明における感染後4?5日の昆虫細胞の生存率が10%以下まで低下していない場合について、続いて検討する。 引用文献4には、ブタシルコウイルス2型のORF2タンパク質をコードする核酸配列を含むバキュロウイルスベクター用いて作製した組み換えバキュロウイルスを昆虫細胞に感染させて昆虫細胞を形質転換し、感染した昆虫細胞を培養し、培養上清中に分泌されたウイルス様粒子を形成する(前記2(4)ア)ORF2タンパク質を細胞生存率が10%未満に低下した細胞の上清から回収すること、細胞の培養時間が長くなると細胞の上清におけるORF2タンパク質の量が増えることから、ORF2タンパク質の上清への発現を少なくとも5日間進行させて上清からORF2タンパク質を回収する方が収量が大きく増加すること、及び、実施例2では実際に、感染細胞を感染後6日間インキュベートした後、上清からORF2タンパク質を回収したこと、が記載されている(前記2(4)イ及びウ)。 ここで、引用発明と引用文献4に記載された発明は、昆虫細胞-バキュロウイルス系で昆虫細胞から放出されたウイルス様粒子を含む培養上清を回収する方法の点で共通するから、引用文献1と引用文献4を併せみた当業者であれば、引用発明においても細胞の培養時間が長くなると培養上清におけるウイルス様粒子(58Kタンパク質)の量が増えることを予測する。加えて、引用発明においてウイルス様粒子をできだけ多く回収することは当業者にとって当然の課題であると認められるから、引用発明においても細胞の培養時間を長くしてその生存率が10%未満に低下した後にウイルス様粒子を含む培養上清を回収することは、当業者にとって容易である。 そして、本願の明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌しても、ウイルス様粒子を含む培養上清を回収する際の細胞生存率の上限値を10%とすることの臨界的意義は認められず、本願発明が前記の上限値を10%としたことにより、引用文献1及び4から当業者が予測し得ない格別顕著な効果を奏するものとは認められないから、本願発明は、引用文献1及び3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもある。 5 請求人の主張について (1) 請求人は、平成31年4月23日付けで当審が通知した拒絶理由に対する意見書に参考資料として「Baculovirus and Insect Cell Expression Protocols, Second Edition, edited by David W. Murhammer, 2007」を添付し、当該文献の記載事項を根拠に、意見書にて「昆虫細胞-バキュロウイルス系では、タンパク質分解酵素による分解の前に目的のタンパク質を回収するのが一般的であり、一般的な回収時の生存率は「80%」であり、本願の請求項1に記載されている「10%以下」とは全く異なる値です。」と主張する。 しかし、前記4(1)にて述べたとおり、引用文献2の記載事項を参照すると、引用発明における感染後4?5日の細胞の生存率は10%以下まで低下している蓋然性が高く、参考資料に昆虫細胞-バキュロウイルス系でタンパク質分解酵素による分解前に細胞生存率80%の時点で目的タンパク質を回収することが一般的であると記載されていたとしても、同参考資料には、前記記載に続けて「これは特定のケースごとに適切に適応されるべきである。」と記載されているから、任意のタンパク質の回収を必ず細胞生存率80%の時点で行うことが技術常識であったとは認められず、また、当該事項を根拠に引用発明の感染後4?5日の細胞の生存率が80%であると解することもできない。よって、請求人の主張は失当である。 (2) 請求人は意見書にて、「引用文献2には、引用文献2に記載されているEGFPを使用したモデルがすべてのタンパク質には当てはまらないこと、特にタンパク質分解に対して敏感なタンパク質(即ち、タンパク質分解酵素に耐性を持たないタンパク質)には当てはまらないことが記載されております。EGFPと本願の請求項1に記載されているノロウイルスのウイルス様粒子は全く異なるタンパク質であり、また、本願の出願時点で、ノロウイルスのウイルス様粒子がタンパク質分解酵素に耐性を持つことは知られていなかったのだから、引用文献2は、昆虫細胞-バキュロウイルス系でノロウイルスのウイルス様粒子の製造において、生存率の測定を当業者に示唆するものではありません。」とも主張する。 しかし、引用文献1の図3(前記2(1)エ)のrNVの培養上清に観察される58Kの濃いバンドは、引用発明における感染後4?5日の培養上清中で、死滅した細胞から放出されるタンパク質分解酵素による分解に抗してノロウイルスのウイルス様粒子が多量に存在することを示すから、当該事項から当業者は、ノロウイルスのウイルス様粒子が死滅した細胞から放出されるタンパク質分解酵素にある程度の耐性を持つことを認識するといえる。 よって、「本願の出願時点で、ノロウイルスのウイルス様粒子がタンパク質分解酵素に耐性を持つことは知られていなかった」との主張を受け入れることはできず、また、引用文献2に記載されているEGFPを使用したモデルがノロウイルスのウイルス様粒子を製造する場合には当てはまらない旨の主張も受け入れることができない。 (3) 請求人は、原審拒絶理由に対する意見書に添付した参考資料3の図2に示された電気泳動の結果について、意見書にて、「ブタ腸管カリシウイルスのキャプシドタンパク質は感染後7?8日にほぼ半量に減少しているのだから、当業者は、ブタ腸管カリシウイルスのキャプシドタンパク質は死細胞由来のタンパク質分解酵素に耐性を持たないと考えると思われます。」と主張し、かつ、「ノロウイルスは、ブタ腸管カリシウイルスと同じく、カリシウイルス科に属するウイルスであることから、当業者は、ノロウイルスのウイルス様粒子もブタ腸管カリシウイルスのキャプシドタンパク質と同じく死細胞由来のタンパク質分解酵素に耐性を持たず、感染から日数が経過するに従い上清中のノロウイルスのウイルス様粒子は分解され、その量が減少すると考えると思われます。」とも主張する。 しかし、当該文献の図2は以下のとおりである。 上図において、ブタ腸管カリシウイルスのキャプシドタンパク質が感染後2日から培養培地中に放出され、感染後2?6日にわたって同量で存在することは、ブタ腸管カリシウイルスのキャプシドタンパク質が感染後2?6日の培養上清中で、少なくとも部分的には、死滅した細胞から放出されるタンパク質分解酵素による分解に抗して存在し続けることに他ならないから、上図から当業者は、ブタ腸管カリシウイルスのキャプシドタンパク質が死滅した細胞から放出されるタンパク質分解酵素にある程度の耐性を持つことを認識するといえる。 また、当該文献において、Sf9細胞は引用文献2の場合と同様にMOI.?10でウイルスに感染しており(1488頁左欄下から2行?同頁右欄3行を参照。)、このことから、当該文献において感染後6日の時点の細胞の生存率は引用文献2の場合と同様に10%以下まで低下している蓋然性が高く、そうすると、培養上清中には感染後6日においてもその後の感染後7?8日においても、死滅した細胞からのタンパク質分解酵素が豊富に存在すると認められる。それにもかかわらず、上図において、ブタ腸管カリシウイルスのキャプシドタンパク質が感染後2?6日は同量で存在し、感染後7?8日に急に半量へ減少することが、ブタ腸管カリシウイルスのキャプシドタンパク質のタンパク質分解酵素に対する耐性のなさを示すものと直ちには認められず、むしろ、上図から当業者は、感染後6日までは、培養上清からブタ腸管カリシウイルスのキャプシドタンパク質を回収し得る程度に当該タンパク質がタンパク質分解酵素に耐性であることを認識するといえる。 よって、請求人の上記主張はいずれも受け入れることはできない。 (4) 請求人は、本願発明の効果に関し、意見書にて、「本願の請求項1に係る発明は、本願明細書の【0011】に記載されているように「死滅した細胞から放出されるタンパク質分解酵素により、夾雑タンパク質が分解され、培養上清中のVLPの純度が高くなる」という効果も有します。実際、本願の図1に示す電気泳動図の培養上清側には、6万Da付近のノロウイルスのウイルス様粒子以外のバンドはほとんど検出されず、夾雑タンパク質がほとんど含まれていないことが示されております。」と主張する。 しかし、引用文献1の図3(前記2(1)エ)には、ノロウイルスのウイルス様粒子の58Kのバンド以外の夾雑タンパク質のバンドは検出されていないことが示されているといえるから、引用発明の培養上清にも夾雑タンパク質はほとんど含まれていないと認められる。 よって、請求人が主張する上記の効果は引用文献1から予測し得る範囲内の効果である。 (5) 以上のことから、請求人の主張を考慮しても、1における相違点についての当審の判断は変わらない。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1?5に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審理終結日 | 2019-09-03 |
結審通知日 | 2019-09-10 |
審決日 | 2019-09-25 |
出願番号 | 特願2013-146242(P2013-146242) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(C12N)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 上村 直子 |
特許庁審判長 |
中島 庸子 |
特許庁審判官 |
高堀 栄二 天野 貴子 |
発明の名称 | ウイルス様粒子を含む培養物の製造方法 |
代理人 | 間山 世津子 |
代理人 | 間山 世津子 |
代理人 | 野村 健一 |
代理人 | 間山 世津子 |
代理人 | 野村 健一 |
代理人 | 野村 健一 |