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審決分類 |
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 F01D 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 F01D 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F01D |
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管理番号 | 1359483 |
審判番号 | 不服2018-13552 |
総通号数 | 243 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-03-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-10-11 |
確定日 | 2020-03-02 |
事件の表示 | 特願2016-566684「水蒸気サイクル及び水蒸気サイクルの運転方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年11月12日国際公開、WO2015/169562、平成29年8月3日国内公表、特表2017-521591、請求項の数(10)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2015年(平成27年)4月16日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2014年5月6日(EP)欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、その手続きは以下のとおりである。 平成29年2月14日 :手続補正書の提出 平成29年12月25日(発送日):拒絶理由通知書 平成30年3月22日 :意見書の提出 平成30年8月6日(発送日) :拒絶査定 平成30年10月11日 :審判請求書、手続補正書の提出 平成30年11月2日 :手続補正書(方式)の提出 平成31年1月16日 :上申書の提出 令和元年7月8日(発送日) :拒絶理由通知書(以下「当審拒絶理 由」という。) 令和元年10月8日 :意見書、手続補正書の提出 第2 原査定の概要 原査定の概要は次のとおりである。 理由1(新規性)本願の請求項に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 理由2(進歩性)本願の請求項に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 ・理由1(新規性)について 請求項1ないし6及び8に対して 引用文献1 ・理由2(進歩性)について 請求項1ないし11に対して 引用文献1及び引用文献2 引用文献1:国際公開第2013/031121号 引用文献2:特開昭61-093208号公報 第3 当審拒絶理由の概要 当審拒絶理由の概要は次のとおりである。 理由1(実施可能要件)本願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 理由2(明確性)本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 理由3(進歩性)本願の請求項に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 ・理由1(実施可能要件)について 本願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1ないし10に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。 ・理由2(明確性)について 本願の特許請求の範囲における請求項1ないし10に係る発明は明確でない。 ・理由3(進歩性)について 請求項1ないし6に対して 引用文献1ないし引用文献4 請求項7に対して 引用文献1ないし引用文献5 請求項8ないし10に対して 引用文献1 引用文献1:国際公開第2013/031121号 引用文献2:特開昭60-56110号公報(周知技術を示す文献) 引用文献3:特開昭63-36004号公報(周知技術を示す文献) 引用文献4:特開昭60-79107号公報(周知技術を示す文献) 引用文献5:特開昭61-93208号公報(周知技術を示す文献) 第4 本願発明 本願の請求項1ないし10に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明10」という。)は、令和元年10月8日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定された、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 高圧タービン(12)、復水器(40)、及び蒸気発生器(30)を有する発電所のための水蒸気サイクル(10)であって、 前記蒸気発生器(30)は、第1の導管(17)を通じて、前記高圧タービン(12)に接続されており、 蒸気の流れる方向において、前記蒸気発生器(30)と前記高圧タービン(12)との間には、少なくとも1つの生蒸気弁(15)が配置されており、 蒸気の流れる方向において、前記高圧タービン(12)の下流には、起動導管(23、25)が配置されており、前記起動導管は、前記高圧タービン(12)下流の排気領域(13)を復水器(40)と接続している水蒸気サイクル(10)において、 2つの制御器(26、29)が設けられており、前記高圧タービン(12)の動作パラメータに応じて、制御器(26)は、前記起動導管(25)を閉鎖するための起動弁(27)の閉口を制御し、且つ圧力限界制御器(29)は、少なくとも1つの生蒸気弁(15)の開口を制御しており、前記起動弁(27)の開口は、「完全に開放された」位置と「完全に閉鎖された」位置と、の間で少なくとも段階的に制御可能であり、前記圧力限界制御器(29)の圧力目標値は、前記起動弁(27)の開口に応じて引き上げられ得、 前記起動弁(27)は、少なくとも個別の中間段階において、部分的に開口し得、圧力限界制御器(29)の圧力目標値が、時間的に遅らせて、段階的に、一定の速度において、引き上げられることを特徴とする水蒸気サイクル(10)。 【請求項2】 前記高圧タービンの動作パラメータが、前記高圧タービン(12)の回転数、前記排気領域(13)における温度、圧力、及び/又は、負荷状態であることを特徴とする請求項1に記載の水蒸気サイクル。 【請求項3】 前記制御器(26、29)が、共通のモジュール内に統合されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の水蒸気サイクル。 【請求項4】 前記蒸気サイクルはさらなるタービン段(50、60)を備え、前記高圧タービン(12)と前記さらなるタービン段(50、60)との間には、再熱器(20)が設けられていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の水蒸気サイクル。 【請求項5】 前記起動導管(23、25)が、前記高圧タービン(12)と前記再熱器(20)との間を起点として、前記復水器(40)に開口することを特徴とする請求項4に記載の水蒸気サイクル。 【請求項6】 前記高圧タービン(12)と前記再熱器(20)との間における導管部分(18)には、逆止め装置(19)が設けられており、前記逆止め装置は、蒸気の前記高圧タービン(12)の方向への逆流を防止することを特徴とする請求項4に記載の水蒸気サイクル。 【請求項7】 前記起動導管(23、25)に対して少なくとも部分的に平行に、排水管(28)を空にするための導管が配置されており、前記導管は、同様に、前記高圧タービン(12)を前記復水器(40)と接続することを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の水蒸気サイクル。 【請求項8】 高圧タービン(12)、復水器(40)、及び、蒸気発生器(30)を有する水蒸気サイクル(10)を運転するための方法であって、以下の、 ‐蒸気タービン(12、50、60)の起動プロセスを開始するステップ[100]、 ‐生蒸気弁(15)を開口することによって、前記蒸気タービン(12、50、60)を加速するステップ[110]、 ‐起動導管(25)を開放し、圧力限界制御器(29)のスイッチを入れるステップ[120]、 ‐前記蒸気タービン(12、50、60)を、定格回転数まで加速するステップ[130]、 ‐アイドリング状態で前記蒸気タービン(12、50、60)を運転し、電力供給網との同期を行うステップ[140]、 ‐前記高圧タービン(12)を通る蒸気の質量流量が閾値に到達するまで、前記蒸気タービン(12、50、60)の出力を増大させるステップ[150]、 ‐起動弁(27)の閉鎖を開始することによって、前記起動導管(25)の閉鎖プロセスを開始するステップ[160]、 ‐前記起動弁(27)の決定された位置から、前記圧力限界制御器(29)によって、前記高圧タービン(12)に流入する前の圧力を制御下で上昇させるステップ[170]、 ‐圧力が、前記高圧タービン(12)への流入前に、時間的に遅らせて、段階的に、一定の速度で引き上げられるステップ[171]、及び、 ‐前記起動弁(27)を完全に閉口することによって、前記起動導管(25)の閉鎖プロセスを完了させ、前記蒸気タービン(12、50、60)を、出力動作に移行させるステップ[180]、 のステップを含んでいることを特徴とする方法。 【請求項9】 前記高圧タービン(12)への流入前の圧力の引き上げが、前記起動弁(27)の決定された位置において行われるステップ[172]を特徴とする請求項8に記載の方法。 【請求項10】 前記高圧タービン(12)に流入する前に、前記圧力限界制御器(29)において、圧力目標値を引き上げることによって、生蒸気弁(15)の開口が制御されるステップ[173]を特徴とする請求項9に記載の方法。」 第5 引用文献の記載及び引用発明 1 引用文献1 原査定及び当審拒絶理由に引用され、本願の優先日前に頒布された国際公開第2013/031121号(以下「引用文献1」という。)には、「蒸気タービンプラントおよびその運転方法」に関して、図面(特に図1及び図2を参照。)とともに以下の事項が記載されている(下線は、理解の一助のために当審が付与したものである。以下同様。)。 ア 「【0002】 近年、火力発電所に使用される蒸気タービンプラントにおいては、タービンバイパスシステムが多く採用されている。このタービンバイパスシステムの設置により、蒸気タービンが低負荷域および停止中のときでも、ボイラの発生蒸気量を低減させる必要がない。そのため、ボイラの燃焼を安定化することができる。特に、タービンバイパスシステムは、毎日行う起動および停止の運用機能を改善するために有効である。」 イ 「【0020】 本発明が解決しようとする課題は、タービンバイパスシステムを備える蒸気タービンの起動を安定的に制御することができる蒸気タービンプラントおよびその運転方法を提供することである。」 ウ 「【0025】 (第1の実施の形態) 図1は、第1の実施の形態の蒸気タービンプラント10の系統図である。図1に示すように、ボイラ20の過熱器21で発生した主蒸気は、主蒸気管70に備えられた、主蒸気止め弁90、蒸気加減弁91を経て高圧タービン30に流入する。高圧タービン30から排気された蒸気は、低温再熱蒸気管71に備えられた逆止弁92を通り、ボイラ20の再熱器22に導かれ、再び加熱される。 【0026】 再熱器22において加熱された再熱蒸気は、高温再熱蒸気管72に備えられた、再熱蒸気止め弁93、インターセプト弁94を経て中圧タービン40に流入する。中圧タービン40から排気された蒸気は、クロスオーバ管73を通り低圧タービン50に流入する。低圧タービン50の軸端には発電機60が連結されている。高圧タービン30と中圧タービン40と低圧タービン50とのそれぞれの間は、回転軸が連結されており、発電機60は、高圧タービン30と中圧タービン40と低圧タービン50とによって、駆動し、発電する。 【0027】 低圧タービン50より排気された蒸気は、復水器110に導かれ、凝縮して復水となる。この復水は、復水ポンプ120によって、低圧給水加熱器121、脱気器122に導かれる。そして、脱気器122を通過した給水は、給水ポンプ123によって昇圧され、高圧給水加熱器124を通り、過熱器21に再び流入する。 【0028】 過熱器21と高圧タービン30との間においては、バイパス配管74が主蒸気管70から分岐している。バイパス配管74は、高圧タービン30をバイパスする高圧タービンバイパス配管として機能し、低温再熱蒸気管71に連結されている。バイパス配管74が主蒸気管70から分岐した分岐部は、主蒸気止め弁90、蒸気加減弁91よりも上流側に位置している。バイパス配管74が低温再熱蒸気管71に連結する連結部は、逆止弁92の下流側(再熱器22側)である。 【0029】 また、バイパス配管74には、高圧タービンバイパス弁95および減温装置130が備えられている。減温装置130へ冷却水を供給する配管には、冷却水の供給量を調整する冷却水調整弁96が備えられている。 【0030】 再熱器22と中圧タービン40との間においては、バイパス配管75が高温再熱蒸気管72から分岐している。バイパス配管75は、中圧タービン40および低圧タービン50をバイパスする低圧タービンバイパス配管として機能し、復水器110に連結されている。バイパス配管75が高温再熱蒸気管72から分岐した分岐部は、再熱蒸気止め弁93、インターセプト弁94よりも上流側に位置している。 【0031】 また、バイパス配管75には、低圧タービンバイパス弁97および減温装置131が備えられている。減温装置131へ冷却水を供給する配管には、冷却水の供給量を調整する冷却水調整弁98が備えられている。」 エ 「【0032】 高圧タービン30と再熱器22との間においては、分岐管76が低温再熱蒸気管71から分岐している。分岐管76は、復水器110に連結されている。なお、分岐管76が低温再熱蒸気管71から分岐する分岐部は、逆止弁92の上流側(高圧タービン30側)である。また、分岐管76には、ベンチレータ弁99が備えられている。 【0033】 また、蒸気タービンプラント10には、上記した各弁などを制御する制御装置(図示しない)が備えられている。制御装置は、演算処理装置、入出力処理装置、記憶装置などを備えている。制御装置は、上記した各弁、蒸気タービンプラント10の運転状態を検知する検知装置などに電気的に接続されている。 【0034】 検知装置は、例えば、蒸気タービンの構成部品(例えば、ノズルボックス、主蒸気止め弁90、蒸気加減弁91など)などの温度を検知する装置、各蒸気弁の開度を検知する装置、タービンロータの回転数を検知する装置、負荷を検知する装置、蒸気の流量を検知する装置、蒸気の圧力を検知する装置、電力系統への併入時における系統周波数や電圧および位相を検知する装置などである。また、記憶装置には、例えば、各設定条件などに係るデータベースが記憶されている。 【0035】 制御装置は、各検知装置から出力された検知信号や記憶装置に記憶されたデータベースなどに基づいて、上記した各弁などの開度を調整する。」 オ 「【0036】 次に、蒸気タービンプラント10の運転方法について説明する。 【0037】 図2は、第1の実施の形態の蒸気タービンプラント10において、蒸気タービン起動時の、タービン回転数、負荷および各弁の開度の関係を示した図である。図2において、横軸は、時間tであって、t_(0)からt_(13)は、時点を示している。そして、(a)において、縦軸は、タービン回転数nおよび負荷(load)を示している。(b)において、縦軸は、主蒸気止め弁90、蒸気加減弁91およびインターセプト弁94の開度を示している。(c)において、縦軸は、ベンチレータ弁99および逆止弁92の開度を示している。(d)において、縦軸は、高圧タービンバイパス弁95の開度を示している。(e)において、縦軸は、低圧タービンバイパス弁97の開度を示している。なお、(b)から(e)の縦軸において、「FB」は、全開であること示し、「0」は、全閉であることを示している。 【0038】 なお、第1の実施の形態の蒸気タービンプラント10では、蒸気タービン起動時に、高圧タービン30と中圧タービン40とに同時に蒸気を通気する。蒸気タービンの昇速過程では、予め設定された目標速度になるまで、タービン回転数nを上昇させる。また、以下において、各弁は、前述した制御装置によって制御される。 【0039】 t_(0)以前では、図示しないが、蒸気タービンのリセット動作において、再熱蒸気止め弁93を、全開状態にさせる。また、高圧タービンバイパス弁95および低圧タービンバイパス弁97が、全開状態にされて、タービンバイパス運転が開始される。 【0040】 t_(0)においては、主蒸気止め弁90に内蔵された副弁(子弁)は、全閉状態から徐々に開かれる(図2(b)参照)。このとき、高圧タービンバイパス弁95は、全開状態から徐々に閉じられる(図2(d)参照)。そして、主蒸気が高圧タービン30に流入して、高圧タービン30が起動する(図1参照)。 【0041】 また、t_(0)において、インターセプト弁94は、全閉状態から徐々に開かれる(図2(b)参照)。このとき低圧タービンバイパス弁97は、全開状態から徐々に閉じられる(図2(e)参照)。そして、再熱蒸気が中圧タービン40(図1参照)に流入し、主蒸気止め弁90の副弁およびインターセプト弁94から蒸気が流入することによって、タービン回転数nを上昇させる(図2(a)参照)。 【0042】 また、t_(0)において、主蒸気止め弁90の副弁による全周噴射運転に対応するため、蒸気加減弁91は、全開状態となっている(図2(b)参照)。なお、逆止弁92は、全閉状態であり、ベンチレータ弁99は、全開状態となっている(図2(c)参照)。そして、t_(0)?t_(1)において、主蒸気止め弁90およびインターセプト弁94を徐々に開く(図2(b)参照)。これにより、設定された目標回転数までタービン回転数nを上昇させる(図2(a)参照)。ここで、制御装置は、タービン回転数nの情報に基づいて、設定した目標回転数に達するまで、t_(0)?t_(1)間の制御を行う。 【0043】 なお、インターセプト弁94においては、主弁が全閉状態であっても、主弁に形成された孔から蒸気が下流側に流出する構成のものがある。そのため、インターセプト弁94においても、副弁を備える構成として、完全に蒸気の流出を遮断できる構成としてもよい。これにより、再熱蒸気止め弁93が全開状態であっても、蒸気流量の的確な調整が可能となり、制御性が向上する。 【0044】 また、再熱蒸気止め弁93に副弁を備える構成としてもよい。この場合には、インターセプト弁94に副弁を備えなくてもよい。そして、インターセプト弁94を全開状態として、再熱蒸気止め弁93で蒸気流量の調整を行ってもよい。この他に、インターセプト弁94および再熱蒸気止め弁93の双方で蒸気流量の調整を行ってもよい。これにより、蒸気流量の的確な調整が可能となり、制御性が向上する。 【0045】 なお、上記したインターセプト弁94や再熱蒸気止め弁93に副弁を備える構成は、以下に示す実施の形態においても適用することができる。 【0046】 つぎに、t_(1)?t_(2)間では、設定した目標回転数に維持した状態で、ヒートソーク運転HSとして、蒸気タービン本体の暖機を行う(図2(a)参照)。この際、制御装置は、設定した目標回転数に達したことを検知したときに、主蒸気止め弁90の副弁およびインターセプト弁94の開度を一定に維持することによって(図2(b)参照)、タービン回転数nを一定に維持する。また、蒸気加減弁91、高圧タービンバイパス弁95、低圧タービンバイパス弁97の開度も一定に維持される(図2(b),(d),(e)参照)。ここで、制御装置は、タービン回転数nの情報に基づいて、設定した目標回転数に達したと判定した場合、t_(1)?t_(2)間の制御を行う。 【0047】 なお、制御装置は、例えば、蒸気タービンの構成部品(例えば、ノズルボックス、主蒸気止め弁90、蒸気加減弁91など)などの温度の情報に基づいて、蒸気タービンの構成部品の温度が所定の温度に達したと判定した場合、ヒートソーク運転HSの完了、すなわち暖機運転の完了と判断する。 【0048】 ヒートソーク運転HSの完了後、t_(2)?t_(3)間では、主蒸気止め弁90およびインターセプト弁94を徐々に開くことによって(図2(b)参照)、予め設定された定格回転数RSまでタービン回転数nを上昇させる(図2(a)参照)。各蒸気タービンに流入する蒸気量を増加するため、高圧タービンバイパス弁95および低圧タービンバイパス弁97を徐々に閉じ(図2(d),(e)参照)、これらのバイパス弁の上流側の圧力を調整する。ここで、制御装置は、例えば、タービン回転数nの情報に基づいて、タービン回転数nが定格回転数RSに上昇するまで、t_(2)?t_(3)間の制御を行う(図2(a)参照)。 【0049】 定格回転数RSまでタービン回転数nが上昇した後、t_(3)?t_(4)間では、インターセプト弁94の開度を一定に維持し、主蒸気止め弁90の副弁の開度を微調整して揃速運転を行い(図2(b)参照)、電力系統(図示省略)に発電機60を併入する操作を行う。ここで、制御装置は、例えば、タービン回転数nの情報に基づいて、タービン回転数nが定格回転数RSに上昇したと判定した場合、t_(3)?t_(4)間の制御を行う。また、電力系統に併入する操作において、制御装置は、例えば、系統周波数を参照しながら、主蒸気止め弁90を調整することによって、タービン回転数nの微調整を行う。 【0050】 この際、蒸気加減弁91、高圧タービンバイパス弁95、低圧タービンバイパス弁97の開度は、一定に維持される(図2(d),(e)参照)。 【0051】 電力系統に併入した後には、t_(4)?t_(5)間において、主蒸気止め弁90の副弁およびインターセプト弁94の開度を徐々に開き(図2(b)参照)、初負荷になるまで、負荷運転を行う(図2(a)参照)。各蒸気タービンに流入する蒸気を増加するため、高圧タービンバイパス弁95および低圧タービンバイパス弁97を徐々に閉じ(図2(d),(e)参照)、これらのバイパス弁の上流側の圧力を調整する。ここで、制御装置は、例えば、電力系統と発電機60との両者の周波数、電圧、位相などの情報に基づいて、電力系統への併入が完了したと判定した場合に、t4?t5間の制御を行う。」 カ 「【0052】 初負荷に到達後、t_(5)?t_(8)間において、負荷を一定にしたまま、主蒸気止め弁90の副弁による全周噴射運転から、蒸気加減弁91による部分噴射運転に切り換える(図2(b)参照)。この期間は、インターセプト弁94、高圧タービンバイパス弁95、低圧タービンバイパス弁97、ベンチレータ弁99の開度は、一定に維持される(図2(b)?(e)参照)。 【0053】 ここで、t_(5)?t_(8)間の動作について詳しく説明する。 【0054】 このt_(5)?t_(8)間では、主蒸気止め弁90の副弁の開度を一定に維持したまま、全開となっていた蒸気加減弁91を徐々に閉じる(図2(b)参照)。t5の時点では、高圧タービン30(図1参照)に流入する蒸気は、主蒸気止め弁90の副弁によって制御されている(図2(b)参照)。そして、t6の時点では、蒸気加減弁91は、主蒸気止め弁90の副弁よりも流量が多くなるように開いている(図2(b)参照)。 【0055】 t_(6)?t_(7)間は、蒸気加減弁91を閉じながら、主蒸気止め弁90の副弁を徐々に開く(図2(b)参照)。この期間では、高圧タービン30(図1参照)に流入する蒸気を調整する弁は、主蒸気止め弁90の副弁から蒸気加減弁91に切り替わる。 【0056】 そのため、t_(6)において主蒸気止め弁90の副弁から流れる蒸気の流量と、t_(7)において蒸気加減弁91から流れる蒸気の流量は、同一になるように設定される。そして、t_(7)以降において、高圧タービン30(図1参照)に流入する蒸気流量は、蒸気加減弁91により調整される。t_(7)?t_(8)間では、主蒸気止め弁90の副弁が全開となり、続けて主蒸気止め弁90そのものが全開となる(図2(b)参照)。このようにして、全周噴射運転から部分噴射運転へ切り換える操作が完了する。 【0057】 このように、制御装置は、例えば、負荷の情報に基づいて、予め設定された初負荷に達したと判定した場合、t_(5)?t_(8)間の制御を行う。t_(5)?t_(8)間では、制御装置は、負荷およびタービン回転数nを一定に維持するために、例えば、負荷の情報に基づいて、主蒸気止め弁90の副弁、蒸気加減弁91、インターセプト弁94、高圧タービンバイパス弁95および低圧タービンバイパス弁97などの開度を制御する。 【0058】 t_(8)?t_(11)間では、負荷の降下を防止するために、蒸気加減弁91を開ける動作(開動作)に伴い(図2(b)参照)、ベンチレータ弁99を閉める動作(閉動作)を連動させて行う協調制御を行い、最終的にベンチレータ弁99を全閉状態にする(図2(c)参照)。ベンチレータ弁99の開度と蒸気加減弁91の開度とを連動させて制御している間には、蒸気加減弁91とインターセプト弁94とを制御することによって、タービン回転数nを制御し、タービン負荷を上昇させる(図2(a)参照)。この負荷の上昇に伴い、高圧タービンバイパス弁95および低圧タービンバイパス弁97を徐々に閉じる(図2(d),(e)参照)。 【0059】 ここで、ベンチレータ弁99が全閉状態に近づくことにより、高圧タービン30(図1参照)の排気室の圧力、すなわち逆止弁92の上流側(高圧タービン30側)の圧力が上昇する。t_(9)では、この逆止弁92の上流側の圧力と逆止弁92の下流側の圧力(再熱器22の入口圧力)とが同じ状態から、逆止弁92の上流側の圧力の方が下流側の圧力よりも高くなる状態になる。そのため、逆止弁92が一気に全開になる(図2(c)参照)。逆止弁92が全開になると、ベンチレータ弁99がほぼ閉状態となっているため、高圧タービン30の排気室を通過した蒸気の全量が、再熱器22へ流れる。なお、t_(10)では、ベンチレータ弁99は、全閉状態となる(図2(c)参照)。 【0060】 また、t_(9)?t_(11)間では、蒸気加減弁91とインターセプト弁94を制御することによって(図2(b)参照)、タービン負荷を上昇させる(図2(a)参照)。なお、t_(10)において、ベンチレータ弁99が全閉状態となるに伴い、高圧タービン30では、膨張の熱落差が減少する。このため、高圧タービン30(図1参照)の動翼翼列では、有効な仕事が若干減る。しかしながら、負荷分担率の大きい中圧タービン40および低圧タービン50の出力が支配的なので、負荷特性に影響を及ぼさない。 【0061】 ここで、制御装置は、例えば、主蒸気止め弁90が全開状態となったことを検知し、主蒸気止め弁90による全周噴射運転が終了したと判定した場合、t_(8)以降の制御を行う。」 キ 「【0062】 t_(11)?t_(12)間では、負荷の上昇に伴い(図2(a)参照)、蒸気加減弁91とインターセプト弁94を徐々に開いていく(図2(b)参照)。しかし、t_(11)では、インターセプト弁94の開度は、すでに高い状態にあり、開度に対する流量の変化が小さい。そのため、インターセプト弁94の開弁特性の傾斜を大きくして、t_(12)で、全開にしている。 【0063】 また、t_(11)?t_(12)間では、インターセプト弁94の上流側の圧力が低圧タービンバイパス弁97の圧力制御の設定値まで上昇する。このため、インターセプト弁94を開ける動作に伴い(図2(b)参照)、低圧タービンバイパス弁97がt_(12)で全閉状態となり(図2(e)参照)、圧力の制御が終了する。この制御と同時に、インターセプト弁94が全開状態となっても、インターセプト弁94の上流側の圧力は、ほとんど変動しない。このため、負荷特性に影響を及ぼさない。 【0064】 ここで、制御装置は、負荷を上昇させる要求に基づいて、t_(11)?t_(12)間の制御を行う。 【0065】 t_(12)?t_(13)間では、負荷の上昇に伴い、t_(12)以降に行う負荷の制御は、全て蒸気加減弁91のみが用いられる。そして、t_(13)においては、蒸気加減弁91が全開状態となり、タービン負荷は、定格負荷RLに到達する。 【0066】 なお、t_(12)?t_(13)間の途中においては、高圧タービンバイパス弁95の容量が制約されるために、蒸気加減弁91を開ける動作に伴って、高圧タービンバイパス弁95が全閉状態となり、圧力の制御が終了する。 【0067】 ここで、制御装置は、低圧タービンバイパス弁97が全閉状態となり、インターセプト弁94が全開状態となったことを検知した場合、t_(12)?t_(13)間の制御を行う。 【0068】 次に、タービン起動時や負荷運転中に、何らかの要因で蒸気加減弁91が全閉状態となった場合に行う運転動作について説明する。 【0069】 この場合、高圧タービン30(図1参照)へ蒸気を供給することが停止され、逆止弁92が全閉状態となる。この状態が続くと、風損により高圧タービン30の排気室の温度が上昇するため危険な状態となる。 【0070】 そこで、タービン起動時や負荷運転中において、何らかの要因で蒸気加減弁91が全閉状態となり、さらに逆止弁92が全閉状態となった場合、制御装置は、ベンチレータ弁99を開ける。これによって、高圧タービン30の排気室が復水器110と連通し、真空状態となる。このため、風損によって高圧タービン30の排気室の温度が上昇することを抑制できる。 【0071】 なお、主蒸気止め弁90において、副弁による全周噴射運転を行う一例を示したが、これに限られるものではない。例えば、複数の蒸気加減弁91のそれぞれに、制御装置によって制御される油筒を備える大型の再熱蒸気タービンにおいては、起動時に主蒸気止め弁90を全開状態とし、蒸気加減弁91の全ての弁を同時に微かに開けて、全周噴射運転を行うこともできる。そして、全周噴射運転後に、部分噴射運転に切り換える。蒸気加減弁91において、全周噴射運転から部分噴射運転へ切り換える動作は、図2では、t_(5)?t_(8)間に行われる。この期間における作用および効果は、主蒸気止め弁90において、全周噴射運転から部分噴射運転への切り換える際の作用および効果と同じである。 【0072】 第1の実施の形態の蒸気タービンプラント10によれば、蒸気タービンの起動時に、高圧タービン30および中圧タービン40のいずれにも同時に蒸気を供給することができる。すなわち、高圧タービン30および中圧タービン40を同時に暖機することができる。このため、起動時間を短縮することができる。 【0073】 また、本実施形態では、高圧タービン30の排気室と復水器110との間に設けた分岐管76には、ベンチレータ弁99が設けられている。このため、ベンチレータ弁99を開けることで、高圧タービン30の排気室を真空にすることができる。これによって、例えば、タービン起動時や負荷運転中に、蒸気加減弁91が全閉状態となり、さらに逆止弁92が全閉状態となった場合においても、高圧タービン30の排気室の温度が、風損によって上昇することを抑制することができる。」 ク 上記カ及びキの記載事項並びに図2(b)の図示内容からみて、蒸気加減弁91の開度が、一定の速度において、引き上げられることがわかる。 上記アないしクの記載事項及び図示内容を総合し、本願発明1の記載ぶりに則って整理すると、引用文献1には、次の発明(以下、それぞれ「引用発明1」及び「引用発明2」という。)が記載されている。 [引用発明1] 「高圧タービン30、復水器110、及びボイラ20を有する発電所のための蒸気タービンプラント10であって、 前記ボイラ20は、主蒸気管70を通じて、前記高圧タービン30に接続されており、 蒸気の流れる方向において、前記ボイラ20と前記高圧タービン30との間には、蒸気加減弁91が配置されており、 蒸気の流れる方向において、前記高圧タービン30の下流には、分岐管76が配置されており、前記分岐管76は、前記高圧タービン30の下流を復水器110と接続している蒸気タービンプラント10において、 制御装置が設けられており、前記蒸気タービンプラント10の運転状態を検知する検知装置から出力された検知信号に応じて、制御装置は、分岐管76に備えられたベンチレータ弁99の開度を制御し、且つ制御装置は、蒸気加減弁91の開度を制御しており、 前記ベンチレータ弁99の開度は、全開状態と、全閉状態と、の間で制御可能であり、前記蒸気加減弁91の開動作に伴い、前記ベンチレータ弁99の閉動作を連動させて行う協調制御を行い、 前記蒸気加減弁91の開度が、一定の速度において、引き上げられる蒸気タービンプラント10。」 [引用発明2] 「高圧タービン30、復水器110、及び、ボイラ20を有する蒸気タービンプラント10を運転するための方法であって、 ‐蒸気タービンを起動すること、 ‐蒸気加減弁91を開口することによって、前記蒸気タービンのタービン回転数nを上昇させること、 ‐分岐管76に備えられたベンチレータ弁99を全開状態にすること、 ‐前記蒸気タービンのタービン回転数nを、定格回転数RSまで上昇させること、 ‐前記蒸気タービンのタービン回転数nが定格回転数RSまで上昇した後、揃速運転を行い、電力系統に発電機60を併入すること、 ‐前記高圧タービン30に流入する蒸気流量を増加して、前記蒸気タービンの負荷を増大させること、 ‐ベンチレータ弁99を閉動作すること、 ‐前記ベンチレータ弁99の閉動作と、蒸気加減弁91の開動作とを、連動させて行う協調制御を行うこと、 ‐前記蒸気加減弁91の開度が、一定の速度で引き上げられること、及び、 ‐前記ベンチレータ弁99を全閉状態にし、前記蒸気タービンのタービン負荷を上昇させるようにすること、 を含んでいる方法。」 2 引用文献2 当審拒絶理由に引用され、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開昭60-56110号公報(以下「引用文献2」という。)の第1ページ右下欄第6ないし第13行、第3ページ左上欄第13行ないし第17行及び第5図には、以下の事項(以下「引用文献2記載事項」という。)が記載されている。 [引用文献2記載事項] 「蒸気タービンプラントにおいて、ベンチレータ弁24を、時間間隔ΔTを置いて段階的に開度を増すこと。」 3 引用文献3 当審拒絶理由に引用され、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開昭63-36004号公報(以下「引用文献3」という。)の第1ページ右下欄第13ないし第16行、第4ページ右下欄第18行ないし第19行には、以下の事項(以下「引用文献3記載事項」という。)が記載されている。 [引用文献3記載事項] 「蒸気タービンプラントにおいて、蒸気ダンプ弁34に閉信号を与えて徐々に閉塞させること。」 4 引用文献4 当審拒絶理由に引用され、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開昭60-79107号公報(以下「引用文献4」という。)の第1ページ右下欄第6ないし第9行、第7ページ右上欄第5行ないし第7行には、以下の事項(以下「引用文献4記載事項」という。)が記載されている。 [引用文献4記載事項] 「蒸気タービンにおいて、ベンチレータ弁開度を小さくし、ベンチレータ弁でタービン内圧力を真空から若干の圧力をもたせる様に制御すること。」 5 引用文献5 原査定及び当審拒絶理由に引用され、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開昭61-93208号公報(以下「引用文献5」という。)の第2ページ右下欄第7ないし第9行、第3ページ左下欄第8行ないし第4ページ左上欄第10行及び第1図には、以下の事項(以下「引用文献5記載事項」という。)が記載されている。 [引用文献5記載事項] 「蒸気タービンプラントにおいて、蒸気排出配管64に対して少なくとも部分的に平行に、蒸気排出管路92が配置されており、前記蒸気排出管路92は、高圧タービン21を復水器30と接続すること。」 第6 対比・判断 1 本願発明1について 本願発明1と引用発明1とを対比すると、その機能、構成及び技術的意義からみて、後者の「高圧タービン30」は前者の「高圧タービン」に相当し、以下同様に、「復水器110」は「復水器」に、「ボイラ20」は「蒸気発生器」に、「蒸気タービンプラント10」は「水蒸気サイクル」に、「主蒸気管70」は「第1の導管」に、「蒸気加減弁91」は「少なくとも1つの生蒸気弁」に、「前記蒸気タービンプラント10の運転状態を検知する検知装置から出力された検知信号」は「前記高圧タービンの動作パラメータ」に、「開度」は「閉口」及び「開口」に、それぞれ相当する。 また、後者の「高圧タービン30の下流」は、前者の「高圧タービン下流の排気領域」に含まれる。 後者の「制御装置」と前者の「制御器」及び「圧力限界制御器」とは、「制御器」という限りで一致し、後者の「分岐管76」及び「ベンチレータ弁99」と、前者の「起動導管」及び「起動弁」とは、それぞれ「導管」及び「弁」という限りで一致する。 したがって、後者の「制御装置は、分岐管76に備えられたベンチレータ弁99の開度を制御し、且つ制御装置は、蒸気加減弁91の開度を制御しており」と前者の「制御器は、起動導管を閉鎖するための起動弁の閉口を制御し、且つ圧力限界制御器は、少なくとも1つの生蒸気弁の開口を制御しており」とは、「制御器は、導管を閉鎖するための弁の閉口を制御し、且つ制御器は少なくとも1つの生蒸気弁の開口を制御しており」という限りで一致する。 後者の「全開位置」は前者の「『完全に開放された』位置」に相当し、以下同様に、「全閉位置」は「『完全に閉鎖された』位置」に相当するから、後者の「ベンチレータ弁99の開度は、全開位置と、全閉位置と、の間で調整可能であ」ることと前者の「起動弁の開口は、『完全に開放された』位置と『完全に閉鎖された』位置と、の間で少なくとも段階的に制御可能であ」ることとは、「弁の開口は、『完全に開放された』位置と『完全に閉鎖された』位置と、の間で制御可能であ」るという限りで一致する。 そうすると、本願発明1と引用発明1とは、次の一致点、相違点がある。 [一致点] 「高圧タービン、復水器、及び蒸気発生器を有する発電所のための水蒸気サイクルであって、 前記蒸気発生器は、第1の導管を通じて、前記高圧タービンに接続されており、 蒸気の流れる方向において、前記蒸気発生器と前記高圧タービンとの間には、少なくとも1つの生蒸気弁が配置されており、 蒸気の流れる方向において、前記高圧タービンの下流には、導管が配置されており、前記導管は、前記高圧タービン下流の排気領域を復水器と接続している水蒸気サイクルにおいて、 制御器が設けられており、前記高圧タービンの動作パラメータに応じて、制御器は、前記導管を閉鎖するための弁の閉口を制御し、且つ制御器は、少なくとも1つの生蒸気弁の開口を制御しており、前記弁の開口は、『完全に開放された』位置と『完全に閉鎖された』位置と、の間で制御可能である、 水蒸気サイクル。」 [相違点1] 導管及び弁について、本願発明1は、それぞれ「起動導管」及び「起動弁」であるのに対して、引用発明1は、それぞれ分岐管76及びベンチレータ弁99である点。 [相違点2] 制御器について、本願発明1の制御器は、「2つの制御器」からなり、「制御器」は、起動導管を閉鎖するための起動弁の閉口を制御し、「圧力限界制御器」は、少なくとも1つの生蒸気弁の開口を制御するものであるのに対して、引用発明1の制御装置は、分岐管76に備えられたベンチレータ弁99の開度を制御し、制御装置は、蒸気加減弁91の開度を制御している点。 [相違点3] 弁の開口は、「完全に開放された」位置と「完全に閉鎖された」位置と、の間で制御可能である点について、本願発明1は、「起動弁の開口は、『完全に開放された』位置と『完全に閉鎖された』位置と、の間で少なくとも段階的に制御可能であ」るのに対して、引用発明1は、ベンチレータ弁99の開度は、全開状態と、全閉状態と、の間で調整可能である点。 [相違点4] 本願発明1は、「圧力限界制御器の圧力目標値は、起動弁の開口に応じて引き上げられ得」るのに対して、引用発明1は、蒸気加減弁91の開動作に伴い、ベンチレータ弁99の閉動作を連動させて行う協調制御を行う点。 [相違点5] 本願発明1は、「起動弁は、少なくとも個別の中間段階において、部分的に開口し得」るのに対して、引用発明1は、ベンチレータ弁99が、かかる構成を備えているか不明な点。 [相違点6] 本願発明1は、「圧力限界制御器の圧力目標値が、時間的に遅らせて、段階的に、一定の速度において、引き上げられる」のに対して、引用発明1は、蒸気加減弁91の開度が、一定の速度において、引き上げられる点。 相違点について検討する。 事案に鑑み、上記相違点4について検討する。 上記「第5」の2ないし5で述べたとおり、引用文献2記載事項は、「蒸気タービンプラントにおいて、ベンチレータ弁24を、時間間隔ΔTを置いて段階的に開度を増すこと。」であり、引用文献3記載事項は「蒸気タービンプラントにおいて、蒸気ダンプ弁34に閉信号を与えて徐々に閉塞させること。」であり、引用文献4記載事項は「蒸気タービンにおいて、ベンチレータ弁開度を小さくし、ベンチレータ弁でタービン内圧力を真空から若干の圧力をもたせる様に制御すること。」であり、引用文献5記載事項は「蒸気タービンプラントにおいて、蒸気排出配管64に対して少なくとも部分的に平行に、蒸気排出管路92が配置されており、前記蒸気排出管路92は、高圧タービン21を復水器30と接続すること。」というものであって、いずれも上記相違点4に係る本願発明1の発明特定事項を開示ないし示唆するものではない。 また、引用発明1において、圧力限界制御器の圧力目標値は、起動弁の開口に応じて引き上げられ得るようにすることは、本願の優先日前の周知技術であったとはいえず、設計的事項であるともいえない。 そうすると、引用発明1において、引用文献2記載事項ないし引用文献5記載事項を参酌しても、上記相違点4に係る本願発明1の発明特定事項とすることはできず、本願発明1が有する特有の作用効果を奏することはできない。 したがって、他の相違点について判断するまでもなく、本願発明1は、引用発明1及び引用文献2記載事項ないし引用文献5記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 2 本願発明8について 本願発明8と引用発明2とを対比すると、上記「第6」の「1」で述べた本願発明1と引用発明1との同様の相当関係に加えて、後者の「蒸気タービンを起動する」は前者の「蒸気タービンの起動プロセスを開始する」に相当し、以下同様に、「蒸気加減弁91」は「生蒸気弁」に、「タービン回転数nを上昇させる」は「加速する」に、「タービン回転数nを、定格回転数RSまで上昇させる」は「定格回転数まで加速する」に、「蒸気タービンのタービン回転数nが定格回転数RSまで上昇した後、揃速運転を行い」は「アイドリング状態で蒸気タービンを運転し」に、「電力系統に発電機60を併入する」は「電力供給網との同期を行う」に、「蒸気タービンのタービン負荷を上昇させるようにする」は「蒸気タービンを、出力動作に移行させる」に、それぞれ相当する。 また、タービンに流入する蒸気の流量が増加すれば、タービンの負荷及び出力も増加するということは技術常識であるから、後者の「前記高圧タービン30に流入する蒸気流量を増加して、前記蒸気タービンの負荷を増大させる」は、前者の「前記高圧タービンを通る蒸気の質量流量が閾値に到達するまで、前記蒸気タービンの出力を増大させる」に相当する。 後者の「分岐管76」及び「ベンチレータ弁99」と、前者の「起動導管」及び「起動弁」とは、それぞれ「導管」及び「弁」という限りで一致する。 したがって、後者の「分岐管76に備えられたベンチレータ弁99を全開状態にする」と前者の「起動導管を開放し」とは、「導管を開放し」という限りで一致し、以下同様に、「ベンチレータ弁99を閉動作すること」と「起動弁の閉鎖を開始することによって、前記起動導管の閉鎖プロセスを開始する」とは、「弁の閉鎖を開始することによって、導管の閉鎖プロセスを開始する」という限りで、「ベンチレータ弁99を全閉状態にし」と「前記起動弁を完全に閉口することによって、前記起動導管の閉鎖プロセスを完了させ」とは、「弁を完全に閉口することによって、前記導管の閉鎖プロセスを完了させ」という限りで、それぞれ一致する。 そして、後者において上記した各機能を有する事項は、それぞれ、前者の「ステップ」に相当する事項を備えているといえる。 そうすると、本願発明8と引用発明2とは、次の一致点、相違点がある。 [一致点] 「高圧タービン、復水器、及び、蒸気発生器を有する水蒸気サイクルを運転するための方法であって、以下の、 ‐蒸気タービンの起動プロセスを開始するステップ、 ‐生蒸気弁を開口することによって、前記蒸気タービンを加速するステップ、 ‐導管を開放するステップ、 ‐前記蒸気タービンを、定格回転数まで加速するステップ、 ‐アイドリング状態で前記蒸気タービンを運転し、電力供給網との同期を行うステップ、 ‐前記高圧タービンを通る蒸気の質量流量が閾値に到達するまで、前記蒸気タービンの出力を増大させるステップ、 ‐弁の閉鎖を開始することによって、前記導管の閉鎖プロセスを開始するステップ、 ‐前記弁を完全に閉口することによって、前記導管の閉鎖プロセスを完了させ、前記蒸気タービンを、出力動作に移行させるステップ、 のステップを含んでいる方法。」 [相違点7] 導管及び弁について、本願発明8は、それぞれ「起動導管」及び「起動弁」であるのに対して、引用発明2は、それぞれ分岐管76及びベンチレータ弁99である点。 [相違点8] 本願発明8は、「圧力限界制御器のスイッチを入れるステップ」を含むのに対して、引用発明2は、かかるステップを含むか不明な点。 [相違点9] 本願発明8は、「起動弁の決定された位置から、圧力限界制御器によって、高圧タービンに流入する前の圧力を制御下で上昇させるステップ」を含むのに対して、引用発明2は、ベンチレータ弁の99を閉動作と、蒸気加減弁91の開動作とを、連動させて行う協調制御を行う点。 [相違点10] 本願発明8は、「圧力が、高圧タービンへの流入前に、時間的に遅らせて、段階的に、一定の速度で引き上げられるステップ」を含むのに対して、引用発明2は、蒸気加減弁91の開度が、一定の速度で引き上げられる点。 相違点について検討する。 事案に鑑み、上記相違点9について検討する。 上記「第5」の2ないし5で述べたとおり、引用文献2記載事項は、「蒸気タービンプラントにおいて、ベンチレータ弁24を、時間間隔ΔTを置いて段階的に開度を増すこと。」であり、引用文献3記載事項は「蒸気タービンプラントにおいて、蒸気ダンプ弁34に閉信号を与えて徐々に閉塞させること。」であり、引用文献4記載事項は「蒸気タービンにおいて、ベンチレータ弁開度を小さくし、ベンチレータ弁でタービン内圧力を真空から若干の圧力をもたせる様に制御すること。」であり、引用文献5記載事項は「蒸気タービンプラントにおいて、蒸気排出配管64に対して少なくとも部分的に平行に、蒸気排出管路92が配置されており、前記蒸気排出管路92は、高圧タービン21を復水器30と接続すること。」というものであって、いずれも上記相違点9に係る本願発明8の発明特定事項を開示ないし示唆するものではない。 また、引用発明2において、起動弁の決定された位置から、圧力限界制御器によって、高圧タービンに流入する前の圧力を制御下で上昇させるステップを含んでいるようにすることは、本願の優先日前の周知技術であったとはいえず、設計的事項であるともいえない。 そうすると、引用発明2において、引用文献2記載事項ないし引用文献5記載事項を参酌しても、上記相違点9に係る本願発明8の発明特定事項とすることはできず、本願発明8が有する特有の作用効果を奏することはできない。 したがって、他の相違点について判断するまでもなく、本願発明8は、引用発明2及び引用文献2記載事項ないし引用文献5記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 3 本願発明2ないし7及び9ないし10について 本願の特許請求の範囲における請求項2ないし7は、請求項1の記載を直接的又は間接的に引用したものであり、本願の特許請求の範囲における請求項9ないし10は、請求項8の記載を直接的又は間接的に引用したものであるから、本願発明2ないし7及び9ないし10は、それぞれ本願発明1及び8の発明特定事項を全て含むものである。 したがって、本願発明2ないし7及び9ないし10は、本願発明1及び8について述べたものと同様の理由により、引用発明1及び引用文献2記載事項ないし引用文献5記載事項、又は、引用発明2及び引用文献2記載事項ないし引用文献5記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 4 小括 本願発明1ないし10は、原査定及び当審拒絶理由で引用された引用文献1ないし5に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 第7 当審拒絶理由の理由1及び理由2について 令和元年10月8日の意見書における請求人の主張及び同日にされた手続補正により、当審拒絶理由の理由1及び理由2は解消した。 第8 むすび 以上のとおり、原査定の理由及び当審が通知した拒絶の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2020-02-14 |
出願番号 | 特願2016-566684(P2016-566684) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WY
(F01D)
P 1 8・ 536- WY (F01D) P 1 8・ 121- WY (F01D) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 齊藤 彬、山崎 孔徳 |
特許庁審判長 |
金澤 俊郎 |
特許庁審判官 |
水野 治彦 齊藤 公志郎 |
発明の名称 | 水蒸気サイクル及び水蒸気サイクルの運転方法 |
代理人 | 村山 靖彦 |
代理人 | 実広 信哉 |