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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A01N
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A01N
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A01N
管理番号 1359552
異議申立番号 異議2019-700275  
総通号数 243 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-03-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-04-10 
確定日 2019-12-24 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6409201号発明「殺菌剤組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6409201号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?8〕について訂正することを認める。 特許第6409201号の請求項1、3?8に係る特許を維持する。 特許第6409201号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 1.手続の経緯
特許第6409201号の請求項1?8に係る特許についての出願は、平成27年3月4日に出願され、平成30年10月5日にその特許権の設定登録がされ、同年同月24日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許について、平成31年4月8日に特許異議申立人竹口美穂(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
その後の手続の経緯は以下のとおりである。
令和元年 6月19日付け:取消理由通知
同年 8月23日 :訂正請求書、意見書の提出(特許権者)

なお、令和元年9月2日付けで、当審から申立人に訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)を送付し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、指定期間内に申立人から意見書は提出されなかった。

2.訂正請求について
以下、令和元年8月23日に提出された訂正請求書を「本件訂正請求書」といい、本件訂正請求書による訂正の請求を「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。
(1)本件訂正の内容
本件訂正請求による訂正事項は、以下のとおりである。
ア 訂正事項1 請求項1、3?8に係る訂正
特許請求の範囲の請求項1に、「式(1)で示されるポリアルキレンビグアナイド化合物およびその塩からなる群より選択される1種または2種以上と、」と記載されているのを、「式(1)で示されるポリアルキレンビグアナイド化合物およびその塩からなる群より選択される1種または2種以上を0.001重量%?0.1重量%と、」に訂正する。
請求項1を直接又は間接的に引用する請求項3?8も同様に訂正する。

イ 訂正事項2 請求項2に係る訂正
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

ウ 訂正事項3 請求項3?8に係る訂正
特許請求の範囲の請求項3?5、7、8のそれぞれにおいて、引用する請求項から請求項2を削除する。
請求項3?5を直接又は間接的に引用する請求項6も同様に訂正する。

なお、訂正事項1?3に係る訂正前の請求項1?8について、請求項2?8は請求項1を直接又は間接的に引用する関係にあり、訂正後の請求項1、3?8は訂正事項1によって直接又は連動して訂正され、訂正後の請求項2は削除されているから、本件訂正は特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項1?8について請求されたものである。

(2)訂正の適否についての判断
ア 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
(ア)訂正事項1について
a.訂正の目的について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載されていた「式(1)で示されるポリアルキレンビグアナイド化合物およびその塩からなる群より選択される1種または2種以上」の成分について、その含有量が「0.001重量%?0.1重量%」であるとの発明特定事項を直列的に付加することにより、特許請求の範囲を減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
請求項1の上記訂正に連動する請求項3?8の訂正も、同様の理由により、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

b.新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張又は変更について
訂正事項1により特定される「0.001重量%?0.1重量%」という含有量は、訂正前の請求項2に記載されていた事項であるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された事項の範囲内で行われるものである。
また、上記訂正は、特許請求の範囲を減縮したものであって、かつ発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
さらに、請求項1の上記訂正に連動する請求項3?8の訂正も、同様の理由により、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された事項の範囲内で行われるものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項において準用する同法126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(イ)訂正事項2について
a.訂正の目的について
訂正事項2は、訂正前の請求項2を削除する訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

b.新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張又は変更について
訂正事項2は、訂正前の請求項2を削除するというものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された事項の範囲内で行われるものである。
また、上記訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
よって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項において準用する同法126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(ウ)訂正事項3について
a.訂正の目的について
a-1.訂正の具体的な内容について
訂正事項3は、特許請求の範囲の請求項3?5、7、8のそれぞれにおいて、引用する請求項から請求項2を削除するというものであるところ、具体的には、以下の訂正事項を含むものと解される。
訂正事項3-1:訂正前の請求項3に「請求項1または2に記載の」とあるのを、「請求項1に記載の」と訂正する。
訂正事項3-2:訂正前の請求項4に「請求項1?3のいずれか1項に記載の」とあるのを、「請求項1または3に記載の」と訂正する。
訂正事項3-3:訂正前の請求項5に「請求項1?4のいずれか1項に記載の」とあるのを、「請求項1、3、4のいずれか1項に記載の」と訂正する。
訂正事項3-4:訂正前の請求項7に「請求項1?6のいずれか1項に記載の」とあるのを、「請求項1、3?6のいずれか1項に記載の」と訂正する。
訂正事項3-5:訂正前の請求項8に「請求項1?6のいずれか1項に記載の」とあるのを、「請求項1、3?6のいずれか1項に記載の」と訂正する。

a-2.請求項3の訂正(訂正事項3-1)について
まず、請求項3の訂正について検討すると、上記訂正事項3-1の訂正は、訂正前の請求項3における「請求項1または2に記載の」という記載を、請求項2の削除(訂正事項2)に伴い、引用する請求項の数を減少させるように記載を改めるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

a-3.請求項4、5、7、8の訂正(訂正事項3-2?3-5)について
請求項3と同様に、引用する請求項から請求項2を削除する訂正である請求項4、5、7、8の訂正についても、請求項3と同様の理由により、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。

a-4.請求項6について
請求項3?5を直接又は間接的に引用する請求項6も、請求項3?5に連動して同様に訂正されるから、請求項3?5の訂正と同様の理由により、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。

b.新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張又は変更について
b-1.請求項3の訂正(訂正事項3-1)について
上記訂正事項3-1の訂正は、訂正前の請求項3における「請求項1または2に記載の」という記載を「請求項1に記載の」に改めるものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であるといえる。
また、上記訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
よって、請求項3についての訂正事項3-1は、特許法第120条の5第9項において準用する同法126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

b-2.請求項4、5、7、8の訂正(訂正事項3-2?3-5)について
請求項4、5、7、8の訂正についても、請求項3と同様の理由により、特許法第120条の5第9項において準用する同法126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

b-3.請求項6について
請求項3?5を直接又は間接的に引用する請求項6も、請求項3?5に連動して同様に訂正されるから、請求項3?5の訂正と同様の理由により、特許法第120条の5第9項において準用する同法126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

イ 独立特許要件について
本件においては、訂正前のすべての請求項に対して特許異議の申立てがされているので、訂正事項1?3のいずれの訂正についても、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

ウ 訂正請求についてのまとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において読み替えて準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
よって、訂正後の請求項〔1?8〕について訂正することを認める。

3.本件発明について
本件訂正により訂正された特許請求の範囲の請求項1、3?8に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」、「本件発明3」?「本件発明8」という。まとめて、「本件発明」ということもある。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1、3?8に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「[請求項1]
式(1)で示されるポリアルキレンビグアナイド化合物およびその塩からなる群より選択される1種または2種以上を0.001重量%?0.1重量%と、アルカリ剤を含有し、組成物のpHが12.5以上である、細菌芽胞を対象とする殺菌剤組成物。
[化1]

[式中、R^(a)は炭素数2?8のアルキレン基、nは2?18の整数を示す。]
[請求項2]
(削除)
[請求項3]
ポリアルキレンビグアナイド化合物およびその塩からなる群より選択される1種または2種以上が、ポリヘキサメチレンビグアナイドおよびその塩からなる群より選択される1種または2種以上である、請求項1に記載の殺菌剤組成物。
[請求項4]
さらに、第4級アンモニウム塩を1種または2種以上含有する、請求項1または3に記載の殺菌剤組成物。
[請求項5]
さらに、アルコールを1種または2種以上含有する、請求項1、3、4のいずれか1項に記載の殺菌剤組成物。
[請求項6]
炭素数5?10のアルカノール、テルペンアルコールおよび芳香族アルコールからなる群より選択される1種または2種以上を含有する、請求項5に記載の殺菌剤組成物。
[請求項7]
請求項1、3?6のいずれか1項に記載の殺菌剤組成物を含有する、消毒剤。
[請求項8]
請求項1、3?6のいずれか1項に記載の殺菌剤組成物を含有する、殺菌洗浄剤。」

4.取消理由通知に記載した取消理由の概要
訂正前の請求項1?8に係る特許に対して令和元年6月19日付けで特許権者に通知した取消理由(理由1)の要旨は次のとおりである。
理由1(進歩性)
訂正前の請求項1、3?8に係る発明は、本件特許に係る出願の優先日前に日本国内または外国において頒布された下記の刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではない。よって、それらの発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
<引用文献等一覧>
刊行物1:特開2007-126581号公報(甲第1号証)
刊行物2:杉中茂之,「食品工場での有害微生物対策と洗浄除菌剤,その開発事例」,日本醸造協会誌,公益財団法人日本醸造協会,2013年,第108巻,第3号,第141?155頁(甲第4号証)

5.当審の判断
(1)理由1(進歩性)について
ア 引用文献及びその記載事項
(i)刊行物1に記載された事項
刊行物1には、以下の事項が記載されている。
(1a)「[請求項1]
(A)ノニオン界面活性剤20?40質量%、
(B)カチオン界面活性剤2?10質量%、
(C)アルカリ剤1?5質量%、
(D)水溶性溶剤5?20質量%、
(E)キレート剤0.1?5質量%、及び
(F)水
を含有し、且つ、原液におけるpH(JIS-Z-8802:1984「pH測定方法」)が、25℃で12以上に設定されていることを特徴とする硬表面用除菌洗浄剤組成物。」

(1b)「[0028]
上記(D)成分である水溶性溶剤としては、グリコールエーテル系溶剤及びアルコールがあげられ、各々単独で用いても2種以上を併用してもよい。この水溶性溶剤は、洗浄力の向上、特に、油汚れへの浸透性及び汚れの溶解性を向上させる目的で配合される。また、この水溶性溶剤は、すすぎ性の向上にも寄与する。
[0029]
上記グリコールエーテル系溶剤としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジプロピルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル等のエチレングリコールエーテル類、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル等のジエチレングリコールエーテル類、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジブチルエーテル等のプロピレングリコールエーテル類、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジブチルエーテル等のジプロピレングリコールエーテル類、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等のアルキレングリコール類等があげられる。
[0030]
上記アルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、メトキシブチルアルコール、ベンジルアルコール、3?メチル?3?メトキシブタノール等があげられる。」

(1c)「[0039]
後記の表1?表2の実施例1?6及び比較例1?3に示す組成の硬表面用除菌洗浄剤組成物を調製し、そのpHを測定するとともに、洗浄力、除菌力及び貯蔵安定性の各項目について評価した。なお、後記の表1?2において用いた成分は以下の通りであり、表中の数値は、各成分の含有量(純分)で示したものである。さらに、上記4つの項目の結果を後記の表1?表2に併せて示す。
[0040]
*ポリオキシアルキレンアルキルエーテル1
:炭素数C10のアルキレンオキサイド約6モル付加物(BASF社製/商品名ルテンゾールXA60)
*ポリオキシアルキレンアルキルエーテル2
:炭素数C10のエチレンオキサイド7モル付加物(BASF社製/商品名ルテンゾールXP70)
*ポリオキシアルキレンアルキルエーテル3
:炭素数C10のエチレンオキサイド9モル付加物(BASF社製/商品名ルテンゾールXP90)
*ポリアルキルグルコシド1
:炭素数12-16のポリアルキルグルコシド(コグニス社製/商品名グルコポン600UP)
*ポリアルキルグルコシド2
:炭素数8-10のポリアルキルグルコシド(コグニス社製/商品名グルコポン215CSUP)
*アルキルアミンオキサイド1
:炭素数C12のアルキルジメチルアミンオキサイド(ライオンアクゾ社製/商品名アロモックスDM12DW)
*アルキルアミンオキサイド2
:炭素数C12のアルキルジメチルアミンオキサイド(クラリアント社製/商品名ゲナミノックスDC40)
*カチオン界面活性剤1
:ジデシルジメチルアンモニウムクロライド(ライオンアクゾ社製/商品名アーカード210-80)
*カチオン界面活性剤2
:ポリヘキサメチレンビグアナイド塩酸塩(アビシア社製/商品名ProxelIB)
*カチオン界面活性剤3
:アルキル(炭素数C12-14)ジメチルアンモニウムクロライド(三洋化成社製/商品名カチオンG50)
*キレート剤1
:エチレンジアミンテトラ酢酸・3カリウム塩(BASF社製/商品名トリロンBKT)
*キレート剤2
:エチレンジアミンテトラ酢酸・4ナトリウム塩(BASF社製/商品名トリロンBパウダー)
*キレート剤3
:メチルグリシン二酢酸・3ナトリウム塩(BASF社製/商品名トリロンM)
[0041]
(1)pH測定
〔測定方法〕
pHメーター(堀場製作所製、型式:F-16)を用いて、JIS Z-8802:1984にしたがって、各組成物の原液の25℃におけるpH値を測定し、以下の判定基準により判定した。
〔判定基準〕
○:12以上
×:12未満
[0042]
(2)洗浄力
〔汚れの調製〕
大豆油(関東化学製)24g、ラード(純正化学製)8g、牛脂(関東化学製)4g、カラーブラックMA-100(三菱化学製カーボンブラック)8g、エクゾールD-40(エクソン化学製溶剤)56gを混合し、モデル汚れを調製した。
上記床モデル汚れ4mlを白色ビニル床タイル(30cm×30cm)に均一に塗布し、室温にて3ヶ月間乾燥させた後、3.75cm×10.0cmに切断してテストピースとした。
〔試験方法〕
上記にて作成したテストピースに、水道水を用いて10倍に希釈した各組成物の溶液4mlを滴下し、1分後にウォッシャビリティーテスター(テスター産業製)を用いて、パッド(5cm×9cm)で15往復させて洗浄力試験を行った。試験後、一定水量の水道水にて充分すすぎ、室温にて乾燥させた。
試験前後のテストピースの明度を、色彩色差計(ミノルタ製、型式:CR-331)を用いて測定し、次式にて洗浄率を求めて、以下の判定基準により判定した。
洗浄率(%)=(洗浄後の明度-洗浄前の明度)/(汚れ付着前の明度-洗浄前の明度)×100
〔判定基準〕
◎:洗浄率80%以上
○:洗浄率70%以上80%未満
△:洗浄率60%以上70%未満
×:洗浄率60%未満
[0043]
(3)除菌力
〔試験方法〕
AOACのサニタイザーテストに準じて行なった。各組成物を滅菌蒸留水で100倍に希釈し、その希釈液99mlに10の9乗に調整した菌液1mlを加え混合して薬剤と菌を接触させる。30秒後、接触液1mlを取り出し、9ml薬剤不活化リン酸バッファーに加え、その1mlを別の9ml薬剤不活化バッファーに加え、同様の操作を行い段階的に希釈する。その後薬剤不活化リン酸バッファーを加えたTGEA培地(メルク製)で混釈培養し、生存菌数を測定する。接触菌数と生存菌数により菌数のLogReductionを算出する。
LogReduction = -Log(生存菌数/接触菌数)
〔判定基準〕
○:LogReductionが5以上
×:LogReductionが5未満
[0044]
(4)貯蔵安定性
〔試験方法〕
各組成物を250mLのポリ容器に入れ、室温にて1ヶ月間保管した。1ヶ月後の各組成物の外観を目視により観察し、以下の判定基準で評価した。
〔判定基準〕
○:組成物中に、沈殿、白濁が全く見られなかった。
×:組成物中に、沈殿、白濁、分離が見られた。
[0045]
[表1]



(1d)「[0005]
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、油汚れの洗浄力と低温乃至高温時における組成物の貯蔵安定性に優れることはもとより、除菌性にも優れる、硬表面の洗浄、特に、スーパーマーケットのバックヤード、厨房、レストラン、食堂、食品加工工場等の床の洗浄に好適に用いられる硬表面用除菌洗浄剤組成物の提供をその目的とする。」

(1e)「[0020]
上記(B)成分は、被洗浄面に付着している細菌や真菌類に対する除菌作用の向上に寄与し、さらなる組成物の貯蔵安定性の向上効果にも寄与する。
・・・
[0023]
上記(B)成分としては、これらのうち、除菌効果の点から、アルキルジメチルベンジルアンモニウムハライド、ジアルキルジメチルアンモニウムハライド、ポリヘキサメチレンビグアナイドが好ましく、なかでも、入手容易性の点から、アルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ジアルキルジメチルアンモニウムクロライド、ポリヘキサメチレンビグアナイドが好ましい。
[0024]
また、上記(B)成分であるカチオン界面活性剤の配合量は、本組成物全体に対し、2?10%の範囲内に設定されることが好ましい。すなわち、2%未満の配合量では、除菌効果に乏しく、一方、10%を超えても 除菌効果は飽和になり、むしろ経済的に不利になるおそれがあるからである。なお、特に、4?8%の範囲に設定することが、除菌効果及び経済性の点から好適である。」

(ii)刊行物2に記載された事項
刊行物2には、以下の事項が記載されている。
(2a)「

3.3.2 除菌成分
除菌成分は,第8表に示したように分類されます。それぞれ微生物に対する効果には差があり,また用途や適用(使用方法),特徴,費用対効果などをよく理解した上で選択するべきです。
・・・
陽イオン界面活性剤やビグアナイド類,両性界面活性剤の一部は,その陽イオンの性質から菌体表面のマイナス電荷に吸着し微生物を死に至らしめます。このうちビグアナイド類は,第4級アンモニウム塩(塩化ベンザルコニウムなど)では効果が期待できない細菌芽胞に有効ですが,カビに対する効果はあまり強くありません。また,有機物や金属イオンが存在してもその効果への影響を受けにくい特徴を持ちます(第9表)。・・・

」(第147頁第8表、第147頁右欄表下5行?第148頁右欄4行、第148頁第9表)

(2b)「尚,注意事項として,劇物の対象外ではありますが,強アルカリ性(pH12.5)のため保護具を着用して使用します。」(第153頁左欄末行?右欄2行)

(2c)「これら抵抗性菌に対してはアルカリ剤などの助剤を添加することで除菌力を強化した製剤で一定の効果が認められています」(第154頁右欄表下1?3行)

イ 刊行物1に記載された発明
刊行物1の請求項1(摘記(1a))には、
「(A)ノニオン界面活性剤20?40質量%、
(B)カチオン界面活性剤2?10質量%、
(C)アルカリ剤1?5質量%、
(D)水溶性溶剤5?20質量%、
(E)キレート剤0.1?5質量%、及び
(F)水
を含有し、且つ、原液におけるpH(JIS-Z-8802:1984「pH測定方法」)が、25℃で12以上に設定されていることを特徴とする硬表面用除菌洗浄剤組成物。」が記載されている。また、[0039](摘記(1c))には、「後記の表1・・・の実施例1?6・・・に示す組成の硬表面用除菌洗浄剤組成物を調製し、そのpHを測定するとともに、洗浄力、除菌力及び貯蔵安定性の各項目について評価した。なお、・・・表中の数値は、各成分の含有量(純分)で示したものである」ことが記載されており、表1(摘記(1c)の[0045])には、実施例1?6として、上記(A)?(F)に対応する成分を、合計が100.0となるように含有する硬質表面用除菌洗浄剤組成物の具体例の配合組成が記載されているから、表1中の「A」?「F」欄の数値は、上記請求項1及び[0039]の記載等を参酌すると、実質的に各成分の質量%単位の含有量を表すものと理解できる。
そして、当該表1には、実施例6として、「カチオン界面活性剤2」を0.2質量%、「カチオン界面活性剤3」を3.5質量%、水酸化カリウムを1.2質量%、ジエチレングリコールモノブチルエーテルを5.5質量%、A成分(ノニオン界面活性剤)を合計25.0質量%、及び残部として水を含有し、pHが「○」である硬表面用除菌洗浄剤組成物が記載されているところ、[0040]及び[0041](摘記(1c))には、上記「カチオン界面活性剤2」は「ポリヘキサメチレンビグアナイド塩酸塩(アビシア社製/商品名ProxelIB)」であり、上記「カチオン界面活性剤3」は「アルキル(炭素数C12-14)ジメチルアンモニウムクロライド(三洋化成社製/商品名カチオンG50)」であり、pHが「○」とはpHが12以上であることを意味することが記載されている。
なお、「カチオン界面活性剤3」の成分名については、「三洋化成社製/商品名カチオンG50」という商品名を参酌すると、「アルキル(炭素数C12-14)ジメチルベンジルアンモニウムクロライド」の誤記と解される(もし必要であれば、特開2006-8801号公報の[0044]、特開2008-74975号公報の[0056]及び特開2009-263300号公報の[0010]等を参照。)。
そうすると、刊行物1には、以下の発明が記載されているものと認められる。
「ポリヘキサメチレンビグアナイド塩酸塩0.2質量%、水酸化カリウム1.2質量%、アルキル(炭素数C12-14)ジメチルベンジルアンモニウムクロライド3.5質量%、ジエチレングリコールモノブチルエーテル5.5質量%、ノニオン界面活性剤25.0質量%及び残部として水を含有し、pHが12以上である硬表面用除菌洗浄剤組成物。」(以下「引用発明1」という。)

ウ 本件発明1について
(ア)本件発明1と引用発明1との対比
本件発明1と引用発明1とを対比すると、引用発明1における「ポリヘキサメチレンビグアナイド塩酸塩」、「水酸化カリウム」及び「組成物」は、それぞれ本件発明1における「式(1)で示されるポリアルキレンビグアナイド化合物(当審注:式(1)及びその定義は、上記3.「本件発明について」の請求項1を参照。)およびその塩からなる群より選択される1種または2種以上」において、R^(a)が炭素数6のアルキレン基である場合の化合物の塩酸塩、「アルカリ剤」及び「組成物」に相当するから、両者は、
「式(1)で示されるポリアルキレンビグアナイド化合物およびその塩からなる群より選択される1種または2種以上と、アルカリ剤を含有する組成物。
(当審注:式(1)及びその定義は、上記3.「本件発明1について」の請求項1を参照。)」 の点で一致し、
相違点1:pHが、本件発明1は12.5以上であるのに対し、引用発明1は12以上である点
相違点2:組成物が、本件発明1は細菌芽胞を対象とする殺菌剤組成物であるのに対し、引用発明1は硬表面用除菌洗浄剤組成物である点
相違点3:「式(1)で示されるポリアルキレンビグアナイド化合物(当審注:式(1)及びその定義は、上記3.「本件発明について」の請求項1を参照。)およびその塩からなる群より選択される1種または2種以上」の含有量が、本件発明1は0.001重量%?0.1重量%であるのに対し、引用発明1は0.2質量%である点
相違点4:本件発明1においては、「式(1)で示されるポリアルキレンビグアナイド化合物およびその塩からなる群より選択される1種または2種以上」並びに「アルカリ剤」以外の含有成分は特定されていないのに対し、引用発明1においては、アルキル(炭素数C12-14)ジメチルベンジルアンモニウムクロライド3.5質量%、ジエチレングリコールモノブチルエーテル5.5質量%、ノニオン界面活性剤25.0質量%及び残部として水を含有することが特定されている点
で相違する。
そこで、上記相違点について検討する。

(イ)相違点2及び3について
事案に鑑み、まず、相違点2及び3について検討する。
(イ-1)刊行物1について
a.細菌芽胞を対象とする殺菌剤組成物とすることについて
引用発明1の解決しようとする課題について、刊行物1の[0005](摘記(1d))には、「油汚れの洗浄力と低温乃至高温時における組成物の貯蔵安定性に優れることはもとより、除菌性にも優れる、硬表面の洗浄、特に、スーパーマーケットのバックヤード、厨房、レストラン、食堂、食品加工工場等の床の洗浄に好適に用いられる硬表面用除菌洗浄剤組成物の提供」にあることが記載されているが、上記「除菌性」が、特に「細菌芽胞を対象とする」ものであることは、刊行物1には記載されていない。
また、実際、引用発明1の除菌力の評価は、[0043](摘記(1c))に記載されたように、組成物の希釈液に菌液を加え混合して薬剤と菌を接触させ、その後生存菌数を測定することより行われているところ、芽胞を用いた評価は行われていないといえる。
さらに、刊行物1の[0024](摘記(1e))には、ポリヘキサメチレンビグアナイドを含む「(B)成分であるカチオン界面活性剤の配合量」について、「本組成物全体に対し、2?10%の範囲内に設定されることが好ましい。すなわち、2%未満の配合量では、除菌効果に乏しく、・・・特に、4?8%の範囲に設定することが、除菌効果及び経済性の点から好適である」ことが記載されているが、特に細菌芽胞を対象として(B)成分の配合量を設定することは記載されていない。
そうすると、刊行物1の記載に基づいて、引用発明1を「細菌芽胞を対象とする殺菌剤組成物」として用いることは、当業者が動機付けられることではない。

b.ポリアルキレンビグアナイド化合物の濃度について
また、上記のとおり、刊行物1の[0024](摘記(1e))には、「(B)成分であるカチオン界面活性剤の配合量」(ポリアルキレンビグアナイド化合物とその他のカチオン界面活性剤の合計の配合量)が2?10重量%であることが好ましい旨が記載されているが、ポリアルキレンビグアナイド化合物とその他のカチオン界面活性剤の個別の配合量は記載されていない。また、「2%未満の配合量では、除菌効果に乏しく」と記載されているのであるから、細菌芽胞を対象とする除菌効果を想定した配合量0.001重量%?0.1重量%については、記載も示唆もされていないといえる。

(イ-2)刊行物2に記載の技術的事項との関係について
a.細菌芽胞を対象とする殺菌剤組成物とすることについて
刊行物2の第8表(摘記(2a))には、ポリアルキレンビグアナイド化合物の除菌特性について、グラム陽性菌及びグラム陰性菌に対しては「◎」(非常に効果あり)、芽胞及び酵母に対しては「○」(効果あり)、カビに対しては「△」(少し効果あり)であることが記載されており、また、第148頁(摘記(2a))には、「ビグアナイド類は、第4級アンモニウム塩(塩化ベンザルコニウムなど)では効果が期待できない細菌芽胞に有効」であることが記載されているから、ポリアルキレンビグアナイド化合物が細菌芽胞の発芽抑制効果を有することは、本件特許に係る出願の優先日前に周知の技術的事項であるといえる。

b.ポリアルキレンビグアナイド化合物の濃度について
しかし、芽胞に対して有効となるポリアルキレンビグアナイド化合物の濃度がどの程度であるのかは、具体的には記載されていない。また、第9表(摘記(2a))には、「20%ポリヘキサメチレンビグアニジン塩酸塩製剤」を供試濃度0.2%で供試菌E(E.coli O-111)、Ps(Ps. aeruginosa RIMD.MK)及びSt(St. aureus FDA209P)に適用した実験データが記載されているが、細菌芽胞を対象とする殺菌効果の評価を行っているものではないから、上記供試濃度で細菌芽胞の殺菌効果が得られるのか、明らかではない。

c.相違点2について
そうすると、引用発明1の適用対象として、「スーパーマーケットのバックヤード、厨房、レストラン、食堂、食品加工工場等の床」(摘記(1d))が想定されており、細菌芽胞が存在する可能性があること、及び刊行物2に記載された周知の技術的事項を参酌すると、引用発明1を「細菌芽胞」に適用してみることは、当業者の通常の創作能力の発揮の範囲内のことといえる。

d.相違点3について
(d-1)ポリヘキサメチレンビグアナイド塩酸塩の濃度低減について
引用発明1は、ポリヘキサメチレンビグアナイド塩酸塩0.2質量%と、アルキル(炭素数C12-14)ジメチルベンジルアンモニウムクロライド(刊行物2に記載された「塩化ベンザルコニウム」に相当する。)3.5質量%の2種類のカチオン界面活性剤を含有するが、上記5.(1)ウ(イ)(イ-2)のa.に記載した刊行物2の第8表及び第148頁(摘記(2a))の記載を参酌すると、細菌芽胞に対する抑制効果が期待できるのはポリヘキサメチレンビグアナイド塩酸塩0.2質量%だけである。
ここで、刊行物2の第8表(摘記(2a))には、ポリアルキレンビグアナイド化合物の除菌特性が、グラム陽性菌及びグラム陰性菌に対しては「◎」(非常に効果あり)であるのに対し、芽胞及び酵母に対しては「○」(効果あり)であることが記載されているから、仮に引用発明1の殺菌剤組成物を細菌芽胞に適用することに当業者が思い至ったとしても、ポリアルキレンビグアナイド塩酸塩の濃度をグラム陽性菌及びグラム陰性菌に適用する場合の濃度より少なくとも高く設定することが示唆されるだけである。
そうすると、引用発明1におけるポリアルキレンビグアナイド塩酸塩の濃度を0.2質量%より低い濃度に調整すること、それにより上記相違点3に係る「0.001重量%?0.1重量%」という濃度を採用することは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

(d-2)カチオン界面活性剤の合計含有量について
刊行物1には、上記5.(1)ウ(イ)(イ-1)のa.及びb.に記載したように、「(B)成分であるカチオン界面活性剤の配合量」について、「本組成物全体に対し、2?10%の範囲内に設定されることが好ましい」ことが記載されているから、カチオン界面活性剤の合計の配合量が2%?10%となる範囲内で、ポリヘキサメチレンビグアナイド塩酸塩の配合量を調整する余地があるか、念のため検討する。
上記5.(1)ウ(イ)(イ-1)のb.に記載したとおり、刊行物1には、ポリアルキレンビグアナイド化合物の個別の配合量の好ましい範囲は、具体的には記載されていない。また、刊行物1に記載された上記配合量は、細菌芽胞を対象として設定されているものではない。さらに、同(イ-2)のb.に記載したように、刊行物2にも、ポリアルキレンビグアナイド化合物の濃度がどの程度であれば、細菌芽胞を対象とする殺菌剤として有効となるのか、具体的には記載されていない。
そうすると、ポリヘキサメチレンビグアナイド塩酸塩の濃度として、いずれの刊行物にも記載のない「0.001重量%?0.1重量%」という特定の濃度を採用することにより、上記相違点3に係る構成に至ることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

(ウ)本件発明1の効果について
本件明細書の[0057]?[0066]には、ポリヘキサメチレンビグアナイド塩酸塩を0.01重量%の濃度で含有する実施例1?17の殺菌剤組成物において、細菌芽胞に対して殺菌効果が認められたことが記載されている。また、後記する6.(4)エ(理由III-イ)「ポリアルキレンビグアナイド化合物の含有量について」に記載したとおり、本件発明1に規定される0.001重量%?0.1重量%の範囲で同様の効果が得られると理解することができる。
これに対して、刊行物1及び2のいずれにも、ポリアルキレンビグアナイド化合物の濃度を「0.001重量%?0.1重量%」とした殺菌剤組成物は記載されておらず、かつ、そのような濃度範囲で細菌芽胞に対する抑制効果が得られることも具体的には記載されていない。また、そのようなことが本件特許に係る出願の出願時において周知の技術的事項であったとも認められない。
よって、本件発明1の効果は、刊行物1、2の記載及び本件特許に係る出願の出願時における技術常識から当業者が予測することができなかったものである。

(エ)申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書の第18?19頁において、本件訂正前の請求項2について「甲第1号証の実施例6には、・・・ポリヘキサメチレンビグアナイド塩酸塩を0.2質量%含むことが記載されている・・・。また、除菌力試験においては、この組成物を100倍に希釈して使用している・・・。殺菌剤組成物においてポリヘキサメチレンビグアナイド塩酸塩の含有量を上記・・・範囲内とすることは、当業者が適宜設定できる事項である。また上記含有量範囲とすることによる有利な効果について、本件特許明細書で何ら実証されていない。」と主張している、
しかし、上記5.(1)ウ(イ)(イ-2)d.「相違点3について」に記載したとおり、引用発明1において、細菌芽胞に対する抑制効果が期待できる成分であるポリヘキサメチレンビグアナイド塩酸塩の含有量を減少させることは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。
また、上記5.(1)ウ(イ)(イ-1)「刊行物1について」に記載したとおり、刊行物1には、引用発明1を細菌芽胞を対象として適用することは具体的には記載されていないから、申立人の指摘する、組成物を100倍に希釈して使用することの記載の有無が、相違点2の上記判断に影響するとはいえない。
さらに、上記5.(1)ウ(ウ)「本件発明1の効果について」に記載したとおり、本件明細書に記載された実施例の実験データ及び技術常識を参酌すると、本件発明1の範囲内で細菌芽胞に対する殺菌効果が得られることを当業者は理解することができるといえる。
よって、申立人の主張を採用することはできない。

(オ)本件発明1についてのまとめ
以上のことから、相違点1及び4について検討するまでもなく、本件発明1は引用発明1及び刊行物2に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

エ 本件発明3?8について
本件発明3?8は、いずれも本件発明1を直接又は間接的に引用し、本件発明1をさらに限定するものである。
そうすると、本件発明1と同様の理由により、本件発明3?8は、いずれも引用発明1及び刊行物2に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

オ 理由1(進歩性)についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1、3?8は、いずれも引用発明1及び刊行物2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、取消理由通知に記載した理由1(進歩性)の取消理由により、本件請求項1、3?8に係る特許を取り消すことはできない。

6.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)申立理由の概要
申立人は、特許異議申立書において、概略、以下の特許異議申立理由を主張している。
ア 特許法第29条第1項第3号(以下、「理由I(新規性)」ということがある。)
本件訂正前の請求項1、3?8に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができるものではない。よって、それらの発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

イ 特許法第29条第2項(以下、「理由II(進歩性)」ということがある。)
本件訂正前の請求項1?8に係る発明は、甲第1号証の記載、又は、甲第1号証の記載と甲第2号証?甲第4号証の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではない。よって、それらの発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
<引用文献等一覧>
甲第1号証:特開2007-126581号公報(取消理由通知における刊行物1)
甲第2号証:特開2004-315691号公報
甲第3号証:特開2010-275213号公報
甲第4号証:杉中茂之,「食品工場での有害微生物対策と洗浄除菌剤,その開発事例」,日本醸造協会誌,公益財団法人日本醸造協会,2013年,第108巻,第3号,第141?155頁(取消理由通知における刊行物2)
なお、以下、「甲第1号証」?「甲第4号証」を、それぞれ「甲1」?「甲4」という。まとめて「甲号証」ということもある。

ウ 特許法第36条第6項第1号(以下、「理由III(サポート要件)」ということがある。)
本件特許は、訂正前の特許請求の範囲の請求項1?8の記載が下記(イ)?(ハ)の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、それらの発明についての特許は同法同条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
(理由III-イ)ポリアルキレンビグアナイド化合物の含有量について
本件訂正前の請求項1、3?8は、式(1)で示されるポリアルキレンビグアナイド化合物及びその塩からなる群より選択される1種又は2種以上の含有量が規定されていない。一方、本件特許明細書の実施例では、ポリヘキサメチレンビグアナイド塩酸塩を組成物中0.01重量%用いた実施例しかない。このように使用量が「一点」のみの実施例に基づいて、例えば使用量を0.0001重量%や、1重量%とした場合に、本件特許発明の効果を発揮できることが示されているとはいえない。
(理由III-ロ)アルキレン基の炭素数について
本件訂正前の請求項1、2、4?8は、ポリアルキレンビグアナイド化合物及びその塩を特定するが、実施例の開示(ポリヘキサメチレンビグアナイド塩酸塩のみ)は「一点」のみであり、アルキレンの炭素数が1個の場合や、30個の場合に、本件特許発明の効果を発揮できることが示されているとはいえない。
(理由III-ハ)pH及び担体について
本件明細書の[0047]に、「液状担体」として水が開示された上で、[0050]に「本発明の殺菌剤組成物は、そのまま、または各種担体、他の界面活性剤、殺菌剤等の添加成分等を加えて、消毒剤または殺菌洗浄剤とすることができる。」と記載されているように、本件訂正前の請求項1?6は、水等の担体を加える前の原料である場合を含んでいるから、使用時に水で希釈されてpH12.5未満として用いられるものを含むが、このようなものは細菌芽胞に対する殺菌効果があると評価できるものではない。また、本件訂正前の請求項7、8についても同様である。

(2)理由I(新規性)について
ア 本件発明1について
本件発明1と引用発明1とを対比すると、両者は、上記5.(1)ウ(ア)「本件発明1と引用発明1との対比」に記載した相違点1?相違点4で相違しており、同(イ)「相違点2及び3について」に記載したとおり、特に相違点3については実質的な相違点であるといえる。
そうすると、本件発明1は甲1(刊行物1)に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号には該当せず、特許を受けることができないものではない。

イ 本件発明3?8について
本件発明3?8は、いずれも本件発明1を直接又は間接的に引用し、本件発明1をさらに限定するものである。
そうすると、本件発明1と同様の理由により、本件発明3?8は、いずれも甲1(刊行物1)に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号には該当せず、特許を受けることができないものではない。

ウ 理由I(新規性)についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1、3?8は、いずれも甲1(刊行物1)に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号には該当せず、特許を受けることができないものではない。
よって、特許異議申立書に記載された理由I(新規性)の取消理由により、本件請求項1、3?8に係る特許を取り消すことはできない。

(3)理由II(進歩性)について
ア 本件発明1について
(ア)甲号証について
特許異議申立人が主張する理由II(進歩性)の取消理由においては、甲1?甲4が引用されているところ、甲1(刊行物1)及び甲4(刊行物2)については、上記5.(1)「理由1(進歩性)について」において検討したとおりである。そこで、甲2及び甲3についてさらに検討する。

(イ)甲2に記載された事項
甲2の請求項1には、「カチオン系殺菌剤、ビグアナイド系殺菌剤及びアミノ酸系殺菌剤より選ばれた1種以上の殺菌剤(A)、珪酸を含まないアルカリ剤(B)、非イオン界面活性剤(C)、両性界面活性剤(D)、並びに、金属キレート剤(E)を含有し、1重量%水溶液のpH(25℃)が9以上である殺菌洗浄剤組成物」が記載されており、[0035]には、「本発明の殺菌洗浄剤組成物は、殺菌洗浄性能に優れ、且つ処理対象物の白化現象を起こさないため、幅広い分野での殺菌洗浄に有用である。例えば、病院、養護施設、食品加工工場、クリーニング施設、厨房等の壁、床、窓等あるいはそれらで用いられる器具及び備品の殺菌に用いられる」ことが記載されている。

(ウ)甲3に記載された事項
甲3の請求項1には、「ビグアナイド誘導体を含む衛生洗濯用抗菌剤」が記載されており、[0008]には、「本発明であると、セレウス菌などの耐熱性芽胞菌を含む幅広い微生物に対して抗菌効果を発揮することができる」こと、及び[0011]には、「ビグアナイド誘導体は、・・・セレウス菌のような耐熱性芽胞菌に対し、常温でも抗菌効果を発揮する」ことが記載されている。

(エ)進歩性についての判断
甲2には、殺菌洗浄剤組成物を細菌芽胞を対象とする殺菌洗浄に用いることが記載されていない。また、甲3には、ビグアナイド誘導体が、セレウス菌のような耐熱性芽胞菌に対し、常温でも抗菌効果を発揮することが記載されているが、甲3に記載された発明は「洗濯用抗菌剤」であるから、引用発明1の「硬表面用除菌洗浄剤組成物」とは適用対象及び適用形態が異なるものである。
そうすると、甲2及び甲3の記載を参酌しても、上記5.(1)ウ(ア)「本件発明1と引用発明1との対比」に記載した相違点3について、当業者が容易に想到し得たとは認められない。
よって、本件発明1は引用発明1及び甲2、甲3、甲4(刊行物2)に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

イ 本件発明3?8について
本件発明3?8は、いずれも本件発明1を直接又は間接的に引用し、本件発明1をさらに限定するものである。
そうすると、本件発明1と同様の理由により、本件発明3?8は、いずれも引用発明1及び甲2、甲3、甲4(刊行物2)に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

ウ 理由II(進歩性)についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1、3?8は、いずれも引用発明1及び甲2、甲3、甲4(刊行物2)に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、特許異議申立書に記載された理由II(進歩性)の取消理由により、本件請求項1、3?8に係る特許を取り消すことはできない。

(4)理由III(サポート要件)について
ア 本件発明の課題について
本件明細書の[0008]等の記載を参酌すると、本件発明の課題は、「従来の消毒剤では無効であった細菌芽胞に対し優れた殺菌効果を有し、消毒対象物の制限が少なく、安全性および取扱い性に優れる殺菌剤組成物を提供すること」にあるものと認められる。

イ 本件発明1について
本件発明1は、上記3.「本件発明について」に記載した特許請求の範囲の請求項1に記載された発明特定事項により特定されるものであるところ、ポリアルキレンビグアナイド化合物およびその塩からなる群より選択される1種または2種以上の含有量は「0.001重量%?0.1重量%」であること、式(1)の定義において、R^(a)は「炭素数2?8」のアルキレン基を表すこと、及び組成物のpHが「12.5以上」であることが特定されている。

ウ 本件明細書の記載について
(ア)ポリアルキレンビグアナイド化合物について
本件明細書の[0020]には、「ポリアルキレンビグアナイド化合物またはその塩は既知化合物であり、公知の方法・・・に従って製造したものを用いることができるが、市販の製品を用いてもよい」ことが記載されている。

(イ)ポリアルキレンビグアナイド化合物の含有量について
本件明細書の[0021]には、「本発明の殺菌剤組成物には、上記ポリアルキレンビグアナイド化合物およびその塩からなる群より選択される1種または2種以上は、通常0.001質量%?0.1質量%、好ましくは0.003質量%?0.05質量%、より好ましくは0.005質量%?0.02質量%含有される」ことが記載されている。

(ウ)アルキレン基の炭素数について
本件明細書の[0018]には、「上記式(1)において、R^(a)で示される炭素数2?8のアルキレン基には、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチレン、ヘキシレン(ヘキサメチレン)、ヘプチレン(ヘプタメチレン)、オクチレン(オクタメチレン)等の直鎖状のものの他、イソプロピレン、イソブチレン、イソペンチレン、ジメチルプロピレン、ジメチルブチレン等の分岐鎖状のものも含まれるが、直鎖状のアルキレン基が好ましい。また、細菌芽胞に対する殺菌効果の点からは、炭素数4?8のアルキレン基が好ましく、ヘキサメチレン基が特に好ましい」ことが記載されている。

(エ)pHについて
本件明細書の[0044]には、「本発明においては、殺菌剤組成物のpHは12.5以上となるように調整され、13以上であることがより好ましい。殺菌剤組成物のpHが12.5以上であれば、後述するように、60分程度の作用時間で、細菌芽胞に対して有効な殺菌効果が認められ、効率的に対象物の殺菌、消毒を行うことができる。また、本発明の殺菌剤組成物のpHは14以下であり、組成物の安定性の観点からは、13.5以下であることが好ましい」ことが記載されており、[0045]には、「本発明の殺菌剤組成物が、後述するペースト状等の高粘性の形態で提供される場合や、ゲル状等の固形状の形態で提供される場合には、たとえば25℃にて、pHメーターの電極を直接試料に刺すまたは押し当てて測定される。また、本発明の殺菌剤組成物が、粉末状、顆粒状等の形態で提供される場合には、たとえば該組成物を一般的な使用濃度で精製水に懸濁し、25℃で測定される」ことが記載されている。

(オ)担体について
本件明細書の[0047]には、「本発明の殺菌剤組成物は、液状担体、ゲル状担体、エマルション、固体担体等を用いて、液状、ペースト状、ゲル状、乳状、固形状等の種々の形態で提供することができる・・・。液状担体としては、水;・・・低級アルコール;・・・多価アルコールなどの有機溶媒を用いることができるが、消毒対象物に対する腐食性等の取扱い性および経済性等を考慮すると、水または水と前記有機溶媒との混合物を用いることが好ましい」ことが記載されている。

(カ)実施例について
本件明細書の[0058]、[0059]の表1及び[0060]には、「ポリヘキサメチレンビグアナイド塩酸塩(終濃度=0.01%)および水酸化ナトリウムを含有し、所定のpHに調整してなる実施例1?3および比較例1?3の各殺菌剤組成物を、供試菌1の細菌芽胞に60分間作用させた場合の結果」が記載されており、pHがそれぞれ13.0、12.8、12.6である実施例1?3は、60分間の作用で細菌芽胞に対して殺菌効果が認められたが、pHがそれぞれ12.4、12.2、12.0である比較例1?3は、殺菌効果が認められなかったことが読み取れる。
本件明細書の[0061]、[0062]の表2及び[0063]には、「ポリヘキサメチレンビグアナイド塩酸塩(終濃度=0.01%)、水酸化ナトリウム(終濃度=0.9%)および第4級アンモニウム塩(終濃度=0.001%)またはアルコール(終濃度=0.1%または0.5%)を含有し、pHを13に調整してなる実施例4?16および参考例1?4の各殺菌剤組成物を、供試菌1の細菌芽胞に10分間作用させた場合の結果」が記載されており、「第4級アンモニウム塩、炭素数5または6の一価アルカノール、芳香族アルコール、炭素数5または6のアルカンジオール、モノテルペンアルコールをそれぞれ加えた実施例4?16の殺菌剤組成物では、殺菌効果の向上が認められ、10分間作用させた場合にはΔlog10CFU/mL値は3以上となり、10分間という短時間の作用でも細菌芽胞に対する殺菌効果が認められた」ことが記載されている。また、参考例の殺菌剤組成物では、「10分間という短時間の作用では、細菌芽胞に対する十分な殺菌効果は認められなかった」ことが記載されている。
本件明細書の[0064]、[0065]の表3及び[0066]には、「ポリヘキサメチレンビグアナイド塩酸塩(終濃度=0.01%)、水酸化ナトリウム(終濃度=0.9%)、第4級アンモニウム塩(終濃度=0.01%)および芳香族アルコール(終濃度=0.5%)を含有し、pHを13に調整してなる実施例17の殺菌剤組成物を、供試菌1?5の各細菌芽胞にそれぞれ5分間作用させた場合の結果」が記載されており、「ポリヘキサメチレンビグアナイド塩酸塩およびアルカリ剤に加えて、さらに第4級アンモニウム塩およびアルコールを含有し、pHを13に調整してなる実施例17の殺菌剤組成物では、さらに殺菌効果の向上が認められ、全供試菌の細菌芽胞に対し、5分間と非常に短時間の作用でΔlog10CFU/mL値が3以上となり、供試菌すべての細菌芽胞に対して殺菌効果が認められた」ことが記載されている。

エ サポート要件の判断
(理由III-イ)ポリアルキレンビグアナイド化合物の含有量について
本件訂正により、本件発明1において、「式(1)で示されるポリアルキレンビグアナイド化合物およびその塩からなる群より選択される1種または2種以上」の含有量が「0.001重量%?0.1重量%」であることが特定された。
一方、上記6.(4)ウ(カ)「実施例について」に記載したとおり、本件明細書の実施例では、ポリヘキサメチレンビグアナイド塩酸塩の含有量が本件発明1に特定される範囲内の0.01重量%である実施例1?17の組成物が、細菌芽胞に対する殺菌効果を示したことが記載されている。
また、同(ア)「ポリアルキレンビグアナイド化合物について」及び同(イ)「ポリアルキレンビグアナイド化合物の含有量について」に記載したとおり、本件明細書の記載を参酌すると、ポリアルキレンビグアナイド化合物またはその塩は、一般的な殺菌効果を示すことが既知の化合物群であり、0.001質量%?0.1質量%の範囲内で含有量に応じて殺菌効果を発揮するものと理解することができるものであり、実施例で採用された特定の含有量以外では細菌芽胞に対する殺菌効果が失われると解すべき特段の事情も見出せない。
さらに、本件発明1を直接又は間接的に引用し、本件発明1をさらに限定するものである本件発明3?8についても同様である。
そうすると、本件発明1、3?8は、発明の詳細な説明において、上記化合物の含有量の範囲内で上記課題を解決することができることを当業者が認識できるものであるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。

(理由III-ロ)アルキレン基の炭素数について
上記6.(4)ウ(カ)「実施例について」に記載したとおり、本件明細書の実施例では、ポリヘキサメチレンビグアナイド塩酸塩(アルキレン基の炭素数=6)を含有する実施例1?17の組成物が、細菌芽胞に対する殺菌効果を示したことが記載されている。
また、同(ア)「ポリアルキレンビグアナイド化合物について」及び同(ウ)「アルキレン基の炭素数について」に記載したとおり、本件明細書の記載を参酌すると、本件発明1に規定されるアルキレン基の炭素数=2?8のポリアルキレンビグアナイド化合物またはその塩は、炭素数の違いに応じて殺菌効果の程度に違いはあるものの、いずれも一般的な殺菌効果を示すことが既知の化合物群であるから、本件発明1においても当該炭素数の範囲内で殺菌効果を発揮すると理解することができるものであり、実施例で採用された特定の化合物(アルキレン基の炭素数6)以外では細菌芽胞に対する殺菌効果が失われると解すべき特段の事情も見出せない。
さらに、本件発明1を直接又は間接的に引用し、本件発明1をさらに限定するものである本件発明4?8についても同様である。
そうすると、本件発明1、4?8は、発明の詳細な説明において、上記アルキレン基の炭素数の範囲内で上記課題を解決することができることを当業者が認識できるものであるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。

(理由III-ハ)pH及び担体について
上記6.(4)ウ(カ)「実施例について」に記載したとおり、本件明細書の実施例では、pHがそれぞれ13.0、12.8、12.6である実施例1?3及びpHを13に調整してなる実施例4?16、17の組成物が、細菌芽胞に対する殺菌効果を示したことが記載されている。
また、同(エ)「pHについて」に記載したとおり、本件明細書の記載を参酌すると、本件発明1に規定されるpH=12.5以上であれば、作用時間にもよるものの、細菌芽胞に対して有効な殺菌効果が得られることを理解できる。
さらに、同(オ)「担体について」に記載したとおり、本件明細書の記載を参酌すると、本件発明の殺菌剤組成物は、液状担体、ゲル状担体、エマルション、固体担体等を用いて、液状、ペースト状、ゲル状、乳状、固形状等の種々の形態で提供することができるものと理解することができるが、粉末状、顆粒状等の形態で提供される場合のpHについては、同(エ)「pHについて」に記載したとおり、該組成物を一般的な「使用濃度」で精製水に懸濁し、25℃で測定されたものが採用されると理解することができる。
そうすると、本件発明1の殺菌剤組成物は、水等の担体を加える前の原料である場合も含めて、使用時のpHが12.5以上であると理解することができるから、本件発明1のpHの範囲内で細菌芽胞に対する殺菌効果が得られると理解することができるものである。
また、本件発明1を直接又は間接的に引用し、本件発明1をさらに限定するものである本件発明7及び8についても同様である。
そうすると、本件発明1、7、8は、発明の詳細な説明において、上記pHの範囲内で上記課題を解決することができることを当業者が認識できるものであるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。

オ 理由III(サポート要件)のまとめ
以上のとおり、本件発明1、3?8は、いずれも発明の詳細な説明において、上記課題を解決することができることを当業者が認識できるものであるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。
よって、特許異議申立書に記載された理由III(サポート要件)の取消理由により、本件請求項1、3?8に係る特許を取り消すことはできない。

7.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由のいずれによっても、本件請求項1、3?8に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件請求項1、3?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件請求項2に係る特許は訂正により削除され、本件特許の請求項2に係る特許異議の申立ては対象となる請求項が存在しないものとなったから、特許法第120条の8第1項において準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で示されるポリアルキレンビグアナイド化合物およびその塩からなる群より選択される1種または2種以上を0.001重量%?0.1重量%と、アルカリ剤を含有し、組成物のpHが12.5以上である、細菌芽胞を対象とする殺菌剤組成物。
【化1】

[式中、R^(a)は炭素数2?8のアルキレン基、nは2?18の整数を示す。]
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
ポリアルキレンビグアナイド化合物およびその塩からなる群より選択される1種または2種以上が、ポリヘキサメチレンビグアナイドおよびその塩からなる群より選択される1種または2種以上である、請求項1に記載の殺菌剤組成物。
【請求項4】
さらに、第4級アンモニウム塩を1種または2種以上含有する、請求項1または3に記載の殺菌剤組成物。
【請求項5】
さらに、アルコールを1種または2種以上含有する、請求項1、3、4のいずれか1項に記載の殺菌剤組成物。
【請求項6】
炭素数5?10のアルカノール、テルペンアルコールおよび芳香族アルコールからなる群より選択される1種または2種以上を含有する、請求項5に記載の殺菌剤組成物。
【請求項7】
請求項1、3?6のいずれか1項に記載の殺菌剤組成物を含有する、消毒剤。
【請求項8】
請求項1、3?6のいずれか1項に記載の殺菌剤組成物を含有する、殺菌洗浄剤。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-12-13 
出願番号 特願2015-42906(P2015-42906)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (A01N)
P 1 651・ 113- YAA (A01N)
P 1 651・ 537- YAA (A01N)
最終処分 維持  
前審関与審査官 阿久津 江梨子  
特許庁審判長 瀬良 聡機
特許庁審判官 村上 騎見高
天野 宏樹
登録日 2018-10-05 
登録番号 特許第6409201号(P6409201)
権利者 攝津製油株式会社 公立大学法人大阪府立大学
発明の名称 殺菌剤組成物  
代理人 土井 京子  
代理人 田村 弥栄子  
代理人 當麻 博文  
代理人 土井 京子  
代理人 土井 京子  
代理人 竹井 増美  
代理人 鎌田 光宜  
代理人 高島 一  
代理人 竹井 増美  
代理人 鎌田 光宜  
代理人 當麻 博文  
代理人 田村 弥栄子  
代理人 高島 一  
代理人 竹井 増美  
代理人 鎌田 光宜  
代理人 當麻 博文  
代理人 田村 弥栄子  
代理人 高島 一  

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