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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
管理番号 1359553
異議申立番号 異議2018-700386  
総通号数 243 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-03-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-05-09 
確定日 2020-01-08 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6231243号発明「液晶性樹脂組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6231243号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、請求項〔1-4〕について訂正することを認める。 特許第6231243号の請求項1-4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6231243号(請求項の数4。以下、「本件特許」という。)は、平成29年7月25日(優先権主張:平成28年9月14日)を出願日とする特許出願(特願2017-143459号)に係るものであって、同年10月27日にその特許権の設定登録がされたものである(特許掲載公報の発行日は、平成29年11月15日である。)

その後、平成30年5月9日に、本件特許の請求項1?4に係る特許に対して、特許異議申立人である東レ株式会社(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。
本件特許異議の申立てにおける手続の経緯は、以下のとおりである。
平成30年 5月 9日 特許異議申立書
7月23日 取消理由通知書
9月21日 意見書(特許権者。乙第1?2号証を提出)
11月 7日 審尋書
12月10日 回答書(申立人)
平成31年 2月26日 取消理由通知書(決定の予告)
4月22日 意見書(特許権者。乙第3号証を提出。)・
訂正請求書
令和 1年 6月 5日 意見書(申立人)
6月18日 取消理由通知書(決定の予告)
8月21日 意見書(特許権者。乙第4?6号証を提出。)
訂正請求書
令和 1年 9月27日 意見書(申立人)

特許権者が提出した乙第1?6号証は、以下のとおりである。
乙第1号証:「AfPS GS 2014:01 PAK」(Product Safety Commission(AfPS) GS Specification "Testing and assessment of polycyclic aromatic hydrocarbons (PAHs) in the course of awarding the GS mark - Specification pursuant to article 21(1) no.3 of the Product Safety Act(ProdSG)-")
乙第2号証:株式会社島津ジーエルシーのウェブサイトにおけるキャピラリーカラム「HT8」の製品紹介ページ
乙第3号証:三菱カーボンブラック/三菱導電性カーボンブラックのカタログ
乙第4号証:ASTM D3849-14a,“Standard Test Method for Carbon Black - Morphological Characterization of Carbon Black Using Electron Microscopy”及びその部分訳
乙第5号証:ASTM D3849-87,“Standard Test Method for Carbon Black - Primary Aggregate Dimensions from Electron Microscope Image Analysis”及びその部分訳
乙第6号証:カーボンブラック協会のウェブサイトにおけるカーボンブラック関係の(分析)規格のページ
(以下、乙第1?6号証を、それぞれ「乙1」等という。)

第2 訂正の可否についての判断
1 訂正の内容
令和1年8月21日提出の訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の請求は、本件特許の特許請求の範囲を上記訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?4について訂正することを求めるものであり、その内容は、以下のとおりである(下線は、訂正箇所を示す。)。
なお、平成31年4月22日付けでなされた訂正請求書は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記カーボンブラックの含有量は、前記液晶性樹脂100質量部に対して0.1質量部以上5質量部以下であり」とあるのを、「前記カーボンブラックの含有量は、前記液晶性樹脂100質量部に対して0.1質量部以上2質量部以下であり」に訂正する。
(請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2?4も同様に訂正する。)

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「前記カーボンブラックに含まれる、下記表1に記載する8物質の合計の含有量は、2.5ppm未満であることを特徴とする液晶性樹脂組成物。」とあるのを、「電子顕微鏡で観察することにより測定される前記カーボンブラックの数平均粒子径は、20nmを超え45nm以下であり、前記カーボンブラックに含まれる、下記表1に記載する8物質の合計の含有量は、2.5ppm未満であることを特徴とする液晶性樹脂組成物。」に訂正する。
(請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2?4も同様に訂正する。)

なお、訂正前の請求項1?4は、請求項2?4が訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、本件訂正は、一群の請求項1?4について請求されたものである。

2 訂正の目的の可否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1に係る訂正は、カーボンブラックの含有量の上限値を「5質量部」から、本件特許の願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)の段落【0040】に記載される「2質量部」へ変更し、上記含有量の数値範囲を狭くするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
よって、訂正事項1は、特許法第120の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(2)訂正事項2について
訂正事項2に係る訂正は、カーボンブラックの数平均粒子径を、本件明細書の段落【0034】に記載された「電子顕微鏡で観察することにより測定される」と特定し、更に、その数値範囲を、同じく段落【0034】に記載された「20nmを超え45nm以下」に特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
よって、訂正事項2は、特許法第120の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

3 小括
したがって、上記2のとおり、訂正事項1及び2に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものであるから、結論のとおり、本件訂正を認める。

第3 本件発明
前記第2で述べたとおり、本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1?4に係る発明は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、それぞれ「本件発明1」等という。)。

「【請求項1】
液晶性樹脂と、フィラーと、カーボンブラックとを含有する液晶性樹脂組成物であって、
前記フィラーの含有量は、前記液晶性樹脂100質量部に対して5質量部以上100質量部以下であり、
前記カーボンブラックの含有量は、前記液晶性樹脂100質量部に対して0.1質量部以上2質量部以下であり、
電子顕微鏡で観察することにより測定される前記カーボンブラックの数平均粒子径は、20nmを超え45nm以下であり、前記カーボンブラックに含まれる、下記表1に記載する8物質の合計の含有量は、2.5ppm未満であることを特徴とする液晶性樹脂組成物。
【表1】


【請求項2】
前記フィラーが、ガラス繊維及び板状無機充填剤からなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項1に記載の液晶性樹脂組成物。

【請求項3】
前記板状無機充填剤が、タルク又はマイカである請求項2に記載の液晶性樹脂組成物。

【請求項4】
前記板状無機充填剤が、マイカである請求項2に記載の液晶性樹脂組成物。」

第4 特許異議の申立ての理由及び当審が通知した取消理由
1 特許異議の申立ての理由
本件訂正前の請求項1?4に係る発明は、下記(1)?(6)のとおりの取消理由があるから、本件特許の請求項1?4に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。証拠方法として、下記(7)の甲第1号証?甲第4号証(以下、単に「甲1」等という。)を提出する。

(1)申立理由1-1(新規性)
本件訂正前の請求項1?4に係る発明は、甲1に記載された発明(甲4も参照)であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
(2)申立理由1-2(新規性)
本件訂正前の請求項1?4に係る発明は、甲2に記載された発明(甲4も参照)であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
(3)申立理由1-3(新規性)
本件訂正前の請求項1?4に係る発明は、甲3に記載された発明(甲4も参照)であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
(4)申立理由2-1(進歩性)
本件訂正前の請求項1?4に係る発明は、甲1に記載された発明(甲4も参照)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
(5)申立理由2-2(進歩性)
本件訂正前の請求項1?4に係る発明は、甲2に記載された発明(甲4も参照)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
(6)申立理由2-3(進歩性)
本件訂正前の請求項1?4に係る発明は、甲3に記載された発明(甲4も参照)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
(7)証拠方法
甲1:特開2011-157422号公報
甲2:特開2001-279066号公報
甲3:米国特許出願公開第2016/0229984号明細書
甲4:申立人がSGCジャパン株式会社(合議体注:正しくは「SGSジャパン株式会社」と解釈した。)に依頼し、SGS Taiwan Ltd.にて実施されたカーボンブラックに含まれるPAH8物質の含有量を測定した実験の実験証明書


2 令和1年6月18日付け取消理由通知書に記載した取消理由
(1)取消理由1(明確性)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。
取消理由1は、概略、以下のとおりのものである。
特許請求の範囲や本件明細書には、本件訂正前の請求項1?4に係る発明の「カーボンブラックの数平均粒子径」がどのように算出された値であるのかの定義も説明もされておらず、「前記カーボンブラックの数平均粒子径は、20nmを超え45nm以下」と特定した本件発明1は明確でない。

3 平成31年2月26日付け取消理由通知書に記載した取消理由
(1)取消理由2(新規性)
本件訂正前の請求項1?4に係る発明は、甲1?甲3に記載された発明(甲4も参照)であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
(申立理由1-1、1-2及び1-3と同旨)
(2)取消理由3(進歩性)
本件訂正前の請求項1?4に係る発明は、甲1?甲3に記載された発明(甲4も参照)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
(申立理由2-1、2-2及び2-3と同旨)

4 平成30年7月23日付け取消理由通知書に記載した取消理由
(1)取消理由4(サポート要件)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。
取消理由4は、概略、以下のとおりのものである。
本件訂正前の請求項1?4に係る発明の課題は、カーボンブラックを含む液晶性樹脂組成物の溶融粘度の低下を抑制することであり、請求項1?4に係る発明は、その「カーボンブラックの含有量」及び「カーボンブラックに含まれる、下記表1に記載する8物質の合計の含有量」から算出される上記組成物中の上記8物質の含有量が、比較例1及び2よりも多いものを包含するから、上記課題を解決することを当業者が認識できるとはいえず、請求項1?4に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。
(2)取消理由2(新規性)及び取消理由3(進歩性)
これらは、平成31年2月26日付け取消理由通知書に記載した取消理由2(新規性)及び取消理由3(進歩性)と同旨なので、以下にまとめて検討する。

第5 当審の判断
以下に述べるように、取消理由通知書に記載した取消理由1?4、特許異議申立書に記載した申立理由1-1?1-3及び申立理由2-1?2-3によっては、本件特許の請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。

1 取消理由1(明確性)について
(1)特許法第36条第6項第2号について
請求項に係る発明が明確に把握されるためには、請求項に係る発明の範囲が明確であること、すなわち、ある具体的な物や方法が請求項に係る発明の範囲に入るか否かを当業者が理解できるように記載されていることが必要で、特許発明の技術的範囲が定められ第三者に不測の不利益を生じないことが必要である。
そして、その判断は、請求項に記載された発明特定事項に基いてなされるが、発明特定事項の意味内容や技術的意味の解釈にあたっては、請求項の記載のみではなく、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識をも考慮するべきである。

(2)発明の詳細な説明に記載した事項
本件明細書の発明の詳細な説明には、上記カーボンブラックの数平均粒子径に関して、次のとおりの記載がある。
ア 「【0034】
本発明では、カーボンブラックとして、その数平均粒子径が20nmを超え45nm以下であるものが好ましく用いられる。より好ましくは、22nm以上であり、また、好ましくは40nm以下である。カーボンブラックの数平均粒子径は、カーボンブラックを電子顕微鏡で観察することにより測定することができる。」

イ 「【0060】
<実施例1>
上述の液晶ポリエステル1(LCP1)に対して、下記表4に示す配合比にてガラス繊維(CS3J-256S、日東紡績(株)製)、及びカーボンブラック(カーボンブラック #45LB、三菱化学(株)製)を配合した後、二軸押出機(東芝機械社製「TEM-41SS」)を用いて、ペレット状の液晶ポリエステル樹脂組成物を得た。
【0061】
<実施例2>
上述の液晶ポリエステル2(LCP2)及び液晶ポリエステル3(LCP3)に対して、下記表5に示す配合比にて、板状フィラーとしてマイカ(AB-25S、(株)ヤマグチマイカ製)、及びカーボンブラック(カーボンブラック #45LB、三菱化学(株)製)を配合した後、二軸押出機(東芝機械社製「TEM-41SS」)を用いて、ペレット状の液晶ポリエステル樹脂組成物を得た。
【0062】
<比較例1>
上述の液晶ポリエステル1(LCP1)に対して、下記表4に示す配合比にてガラス繊維(CS3J-256S、日東紡績(株)製)、及びカーボンブラック(カーボンブラック #45B、三菱化学(株)製)を配合した後、二軸押出機(東芝機械社製「TEM-41SS」)を用いて、ペレット状の液晶ポリエステル樹脂組成物を得た。
【0063】
<比較例2>
上述の液晶ポリエステル2(LCP2)及び液晶ポリエステル3(LCP3)に対して、下記表5に示す配合比にて、板状フィラーとしてマイカ(AB-25S、(株)ヤマグチマイカ製)、及びカーボンブラック(カーボンブラック #45B、三菱化学(株)製)を配合した後、二軸押出機(東芝機械社製「TEM-41SS」)を用いて、ペレット状の液晶ポリエステル樹脂組成物を得た。
【0064】
【表4】

【0065】
【表5】



(3)乙3?乙6に記載された事項
ア 乙3に記載された事項
特許権者が、平成31年4月22日提出の意見書と共に提出した乙3には、次の事項が記載されている。

(ア)「

」(第3?4頁)

(イ)「

」(第8頁)

イ 乙4に記載された事項
特許権者が、令和1年8月21日提出の意見書と共に提出した乙4には、次の事項が記載されている。
(ア)「

」(第1頁5?7行)

(合議体訳:この規格は、固定記号表示D3849に基づいて発行されている;記号表示の直後の数字は、最初に採用された年、又は改訂の場合には最後の改訂の年を示している。括弧内の数字は、最後の再承認の年を示している。上付きイプシロン(ε)は、最後の改訂又は再承認以降の編集上の変更を示している。)

(イ)「

」(第1頁左欄 "1. Scope ")

(合議体訳:1.範囲
1.1 この試験方法は、(1)CABチップの分散からの又はゴムコンパウンドから除去された、乾燥(製造時)状態のカーボンブラックの平均粒子径及び凝集体サイズを導出するために使用される透過型電子顕微鏡画像からカーボンブラックの形態学的(例えば、サイズ及び形状)特性と、(2)統計的厚さ表面積測定に基づく相関を使用した平均粒子径の認定とを網羅する。
1.2 SI単位で記載されている値は、標準とみなされるべきである。括弧内の値は、情報提供のみを目的としている。
1.3 この規格は、その使用に関連する安全上の問題がある場合、その全てに対処することを目的としていない。使用前に適切な安全衛生対策を確立して規制制限の適用可能性を判定することは、この規格のユーザが責を負う。)

(ウ)「

」(第2頁左欄 " Test Method A"の"5. Summery of Test Method")

(合議体訳:試験方法A-透過型電子顕微鏡による形態学的評価(半定量的)
5.試験方法の概要
5.1 透過型電子顕微鏡(TEM)がカーボンブラックの形態学的特性を測定するために利用される。試料種類に応じて、様々な分散方法が提供される。バルクカーボンブラックの形態を測定するために、乾燥ブラック及びCABチップの両方の分散液が使用される。加硫ゴムからのカーボンブラックの除去を促進する熱分解技術が含まれる。この前述の技術は、最終使用製品からカーボンブラックタイプを識別するために使用可能である。方法Aの精度及び正確性は、MPS認定の場合に必要な定量データを生成するには不十分であることに留意すべきである。MPS認定については、方法Bを参照されたい。)

(エ)「

」(第6頁 " 10. TEM Analysis Procedure")

(合議体訳:10.TEM解析手順
10.1 試料を取り外した状態で、ビーム強度を画像解析システムの適切なレベルに設定する。
10.2 空白画像のシェーディングを矯正し、輝度レベルをリセットする。
10.3 最初のカーボンブラック試料を電子顕微鏡に挿入して顕微鏡ステージの中央に配置し、ユーセントリック高さに調整する。良好な顕微鏡法にしたがって、画像を取得するために使用されるよりも高い倍率で画像を焦点合わせして非点収差を付けることが推奨される。
10.4 グリッド開口の片側近くのフィールドで測定を開始する。開口の遠端に到達するまで、グリッド開口の中心に向かって直線追跡パターンでカーボンブラック凝集体の隣接フィールドを選択及び測定し続ける。必要に応じて、約2000個の凝集体のデータが記録されるまで繰り返す。)

(オ)「

」(第6?7頁 "11. Calculations")

(合議体訳:11.計算
11.1 単一の凝集体:
11.1.1 測定されるパラメータ:^(3)
A=凝集体面積(nm^(2))、及び
P=凝集体周長(nm)。
11.1.2 派生パラメータ:
D=面積相当凝集体径(nm)=(4A/π)^(1/2)、
α=凝集係数=13.092(P^(2)/A)^(-0.92)(ただし、これがα<0.4を生み出す場合、α=0.4を使用する)、
d_(P)=単一の凝集体についての平均粒子径(nm)=απA/P、
V_(A)=凝集体体積(nm^(3))=(8/3)A^(2)/P、
V_(P)=粒子体積(nm^(3))=πd_(P)^(3)/6、及び
n=凝集体における粒子数=V_(A)/V_(P)、
11.2 粒子及び凝集体についての分布的特性:
11.2.1 派生パラメータ:
n_(t)=測定された全ての凝集体、又は全て粒子の総数Σn、
m=平均粒子径(nm)=[Σ(n*d_(p)))/n_(t)、
sd=粒子径標準偏差(nm)=[Σn(d_(P)-m)^(2)/(n_(t)-1)]^(1/2)、
wm=重量平均粒子径(nm)=[Σ(n*d_(P)^(4))]/[Σ(n*d_(P)^(3))]、
hi=粒子径不均一性指数=wm/m、
d_(sm)=粒子径表面平均径(nm)=[Σ(n*d_(P)^(3))]/[Σ(n*d_(P)^(2))]、
EMSA=電子顕微鏡表面積(m^(2)/g)=6000/(ρ*d_(sm))(ここで、ρ=1.8g/cm^(3);カーボンブラックの密度を仮定)、
N_(t)=測定された凝集体数、
M=平均凝集体サイズ(nm)=ΣD/N_(t)、
SD=凝集体サイズ標準偏差(nm)=[Σ(D-M)^(2)/(N_(t)-1)]^(1/2)、
WM=重量平均凝集体サイズ(nm)=ΣD^(4)/ΣD^(3)、及び
HI=凝集体サイズ不均一性指数=WM/M。

ウ 乙5に記載された事項
特許権者が、令和1年8月21日提出の意見書と共に提出した乙5には、次の事項が記載されている。
(ア)「

」(656頁右欄下4行?657頁左欄30行)

(合議体訳:

)

エ 乙6に記載された事項
特許権者が、令和1年8月21日提出の意見書と共に提出した乙6には、次の事項が記載されている。
(ア)「

」(添付資料1)

(4)本件発明1について
本件発明1は、上記第3のとおりのものであり、「電子顕微鏡で観察することにより測定される前記カーボンブラックの数平均粒子径は、20nmを超え45nm以下であり」と特定するものである。
この点について、発明の詳細な説明には、「本発明では、カーボンブラックとして、その数平均粒子径が20nmを超え45nm以下であるものが好ましく用いられる。より好ましくは、22nm以上であり、また、好ましくは40nm以下である。カーボンブラックの数平均粒子径は、カーボンブラックを電子顕微鏡で観察することにより測定することができる。」(段落【0034】)という記載がされているだけである。
そこで、本件出願時の技術常識をみていくことにする。
まず、乙6から判るように、本件特許の出願当時に、日本国内でよく知られた工業規格であるJIS、ISO及びASTMの中で、電子顕微鏡を用いた平均粒子径の測定方法に関する工業規格はISOやJISには存在せず、ASTMのみに「D3849」として存在したのであるから、ASTMにおける測定方法は本件出願時の技術常識であり、これを用いてカーボンブラックの数平均粒子径を測定することは自然なことであると解される。
そして、乙4の「ASTM D3849-14a」には、電子顕微鏡を使用したカーボンブラックの形態学的特性の標準試験方法として、平均粒子径(nm)を計算する方法が記載されている。具体的には、各凝集体、すなわち各カーボンブラックの凝集体面積A(nm^(2))と凝集体周長P(nm)を測定し、これを基に単一の凝集体についての平均粒子径d_(P)(nm)及び凝集体体積V_(A)(nm^(3))を算出し、d_(P)を基に粒子体積V_(P)(nm^(3))を算出し、V_(A)及びV_(B)を基に凝集体における粒子数nを算出し、n、d_(p)及び測定された全ての凝集体又は全ての粒子の総数Σnを基に平均粒子径m(nm)を算出する。乙4によると、凝集体毎の平均粒子径d_(P)を算出した後、全ての凝集体の平均粒子径mを数平均粒子径として算出したものであり、この方法により、カーボンブラックの平均粒子径が明確に決定されるものと解される。
そうすると、本件発明1の「電子顕微鏡で観察することにより測定される前記カーボンブラックの数平均粒子径は、20nmを超え45nm以下であり」における「数平均粒子径」の測定方法は明確であると解される。

(5)本件発明2?4について
本件発明2?4は本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、上記(4)で述べたのと同じ理由により、本件発明2?4は明確である。

(6)申立人の意見に対する反論
令和1年9月27日提出の意見書において、数平均粒子径を電子顕微鏡で観察することにより測定するとしても、粒子径の決め方や個々の粒子径からどのように平均をとるかは、必ずしも一定の定義がされているという本件出願当時の技術常識があるとはいえないし、複数の特許文献を例示して、個々の粒子径の決め方や数平均粒子径の算出方法も一義的でなく、本件出願当時に、必ずしもASTMの規定に則って測定されていた訳ではないから、本件発明1における「電子顕微鏡を観察することにより測定されるカーボンブラックの数平均粒子径」は明確でない旨を主張する。
この主張について検討するが、本件明細書の発明の詳細な説明には、測定されるカーボンブラック粒子のサンプル数や各寸法の測り方は明記されておらず、上記「ASTM D3849-14a」にも明示されていないが、測定対象のカーボンブラックの粒度分布(粒が揃ったものであるか否か等)や測定者の熟練度等に応じて、測定に際して、正確性を期するため、測定するサンプル数を多くしたり、各カーボンブラック粒子の測定箇所を多くしたりする等の対応は、当業者が適宜行うことであり、測定されるカーボンブラック粒子のサンプル数や各寸法の測り方などが規定されていないからといって、第三者に不測の不利益が生じる程に不明確であるとはいえない。
また、申立人は上記意見書で複数の特許文献を提示して、数平均粒子径の算出方法は一義的ではない旨の主張をしているが、上述のように、本件明細書の記載及び技術常識に基づき、本件発明1が明確に把握されるのであって、上記複数の特許文献にそれぞれの算出方法が記載され、それらの算出方法が一義的でないことが、本件発明1の明確性に影響を与えるものではない。
更に、「ASTM D3849-14a」は、上記複数の特許文献に係る出願の後に改訂されたものであり、「ASTM D3849-14a」の改訂前に上記複数の特許文献が公知であったからといって、本件出願日時点において、「ASTM D3849-14a」が、電子顕微鏡で観察することにより数平均粒子径を測定する方法の技術常識ではなかったことを示す証拠とはなり得ない。
以上のとおり、申立人の上記主張はいずれも採用することはできず、上記(4)及び(5)で述べたように、本件発明1?4におけるカーボンブラックの数平均粒子径は明確である。

(7)まとめ
したがって、本件発明1?4は明確であり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしている。

2 取消理由2(新規性)及び取消理由3(進歩性)について
(1)甲1?甲4、及び平成30年7月23日付け取消理由通知書で引用した参考文献1に記載された事項
ア 甲1に記載された事項及び甲1発明
甲1には、次のとおりの記載がある。
(ア)「【実施例】
【0066】 以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0067】 マイカとして、(株)山口雲母工業所製「AB-25S」(体積平均粒径21μm)を用いた。
【0068】 カーボンブラックとして、下表に示すもの(いずれも三菱化学(株)製)を用いた。
【0069】

【0070】製造例1
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、p-ヒドロキシ安息香酸994.5g(7.2モル)、4,4’-ジヒドロキシビフェニル446.9g(2.4モル)、テレフタル酸299.0g(1.8モル)、イソフタル酸99.7g(0.6モル)及び無水酢酸1347.6g(13.2モル)を仕込んだ。反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、1-メチルイミダゾールを0.18g添加し、窒素ガス気流下で30分かけて150℃まで昇温し、温度を保持して30分間還流させた。その後、1-メチルイミダゾールを2.4g添加した後、留出する副生酢酸と未反応の無水酢酸を留去しながら2時間50分かけて320℃まで昇温し、トルクの上昇が認められた時点で、内容物を取り出し、室温まで冷却した。得られた固形物を、粗粉砕機で粉砕後、窒素雰囲気下、室温から250℃まで1時間かけて昇温し、250℃から295℃まで5時間かけて昇温し、295℃で3時間保持することにより、固相重合を行った。固相重合後、冷却して得られた液晶ポリエステルをLCP1とする。このLCP1は、流動開始温度が327℃であり、(C_(1))/(A_(1))のモル比率が1/3であり、[(B_(1))+(B_(2))]/(C_(1))のモル比率が1/1であり、(B_(2))/(B_(1))のモル比率が1/3であった。
【0071】製造例2
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、p-ヒドロキシ安息香酸994.5g(7.2モル)、4,4’-ジヒドロキシビフェニル446.9g(2.4モル)、テレフタル酸239.2g(1.44モル)、イソフタル酸159.5g(0.96モル)及び無水酢酸1347.6g(13.2モル)を仕込んだ。反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、1-メチルイミダゾールを0.18g添加し、窒素ガス気流下で30分かけて150℃まで昇温し、温度を保持して30分間還流させた。その後、1-メチルイミダゾールを2.4g添加した後、留出する副生酢酸と未反応の無水酢酸を留去しながら2時間50分かけて320℃まで昇温し、トルクの上昇が認められた時点で、内容物を取り出し、室温まで冷却した。得られた固形物を、粗粉砕機で粉砕後、窒素雰囲気下、室温から220℃まで1時間かけて昇温し、220℃から240℃まで0.5時間かけて昇温し、240℃で10時間保持することにより、固相重合を行った。固相重合後、冷却して得られた液晶ポリエステルをLCP2とする。このLCP2は、流動開始温度が286℃であり、(C_(1))/(A_(1))のモル比率が1/3であり、[(B_(1))+(B_(2))]/(C_(1))のモル比率が1/1であり、(B_(2))/(B_(1))のモル比率が2/3であった。
【0072】実施例1?6、比較例1?4
液晶ポリエステル、マイカ及びカーボンブラックを表2又は3に示す割合で混合した後、ベント部を有する二軸押出機に供給し、ベント部を表1に示す減圧度に保って、溶融混練し、ペレット状の組成物を得た。この組成物を、射出成形機(日精樹脂工業(株)製「PS40E1ASE」)を用いて、シリンダー温度350℃、金型温度130℃、射出速度60%で成形し、JIS K7113(1/2)号ダンベル試験片(厚さ1.2mm)を得た。この試験片10本を、270℃に加熱したハンダ浴に60秒間浸漬し、取出後、試験片表面のブリスターの有無を観察し、ブリスター有の本数を全本数(10本)で割った値(%)をブリスター発生率とし、表2又は3に示した。
【0073】



甲1の上記(ア)によれば、特に比較例2及び4に着目すると、比較例2及び4の組成(成分及び配合量)は同じであり、ここで用いられるカーボンブラック#25の数平均粒径は47nmであるから(表1)、甲1には、以下の発明が記載されていると認められる。

「液晶ポリエステルLCP1を55重量部、液晶ポリエステルLCP2を45重量部、マイカを33重量部、数平均粒径が47nmであるカーボンブラック#25を1重量部からなる液晶ポリエステル組成物」(以下、「甲1発明」という。)

イ 甲2に記載された事項及び甲2発明
甲2には、次のとおりの記載がある。
(ア)「【請求項1】下記の方法で求めた流動開始温度が260℃?400℃である液晶ポリエステル100重量部に対して、平均粒子径が5?20nmであり、かつDBP吸収量が60?200cm^(3)/100gであるカーボンブラック0.1?10重量部と、繊維状および/または板状の無機充填材を0?180重量部を配合してなることを特徴とする液晶ポリエステル樹脂組成物。流動開始温度:4℃/分の昇温速度で加熱された樹脂を荷重100Kgf/cm^(2)(9.81MPa)のもとで、内径1mm、長さ10mmのノズルから押出したときに、溶融粘度が48000ポイズを示す温度。
【請求項2】繊維状および/または板状の無機充填材が、ガラス繊維、炭素繊維、マイカおよびタルクからなる群から選ばれる少なくとも1種のものであることを特徴とする請求項1記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。」

(イ)「【0013】本発明で用いられるカーボンブラックは、平均粒子径が5?20nmであり、かつDBP吸収量が60?200cm^(3)/100gである。中でも平均粒径が10?20nmであり、かつDBP吸収量が60?170cm^(3)/100gであるものが好ましい。平均粒子径が20nmを越えるものは、十分な漆黒度を示さないため好ましくない。また、平均粒子径が5nm未満のものは、漆黒度を付与する能力は優れるものの一般に入手することが困難である。なお、本発明において、平均粒子径は、電子顕微鏡でカーボンブラック凝集体を観察し、輪郭を有して分離できない成分の大きさを測定し算術平均したものをいい、カーボンブラック協会発行のCarbon Black年鑑No.48(1998) p.114等に記載されている。」

(ウ)「【0022】実施例1、2
前述の方法で定義された流動温度が324℃の液晶ポリエステルと、粒子径が16nm、DBP吸収量が69cm^(3)/100gであるカーボンブラック(三菱化学(株)製、商品名#960)と、ガラス繊維(セントラル硝子(株)製、商品名EFH75-01)とを表1に示す組成でヘンシェルミキサー(登録商標)で混合後、二軸押し出し機(池貝鉄工(株)製PCM-30型)を用いて、シリンダー温度340℃で造粒し、樹脂組成物を得た。これらの樹脂組成物を120℃で3時間乾燥後、射出成形機(日精樹脂工業(株)製PS40E5ASE型)を用いて、シリンダー温度350℃、金型温度130℃でASTM4号引張ダンベル、棒状試験片、平板試験片を成形した。これらの試験片を用い、引張物性と荷重たわみ温度の測定、および漆黒度の評価を行った。結果を表1に示す。表1から明らかなように、これらの組成物は、良好な機械的特性、耐熱性を示すうえ、漆黒度に優れていた。」

(エ)「【0027】
【表1】



甲2の上記(ウ)及び(エ)によれば、特に、実施例1及び2に着目すると、液晶ポリエステル100重量部、粒子径が16nmであるカーボンブラック(三菱化学(株)製、商品名#960)1重量部又は2重量部、ガラス繊維43重量部からなる液晶ポリエステル樹脂組成物が記載されている。そして、上記カーボンブラックの粒子径は、電子顕微鏡でカーボンブラック凝集体を観察し、輪郭を有して分離できない成分の大きさを測定して算術平均したものである(上記(イ))。

そうすると、甲2には、以下の発明が記載されていると認められる。
「液晶ポリエステル100重量部、電子顕微鏡で観察して算術平均した平均粒子径が16nmであるカーボンブラック#960(三菱化学(株)製)1重量部又は2重量部、ガラス繊維43重量部からなる液晶ポリエステル樹脂組成物」(以下、「甲2発明」という。)

ウ 甲3に記載された事項及び甲3発明
甲3には、次のとおりの記載がある。
(ア)「23 . A liquid crystalline polymer composition that comprises a thermotropic liquid crystalline polymer and a black pigment that includes a plurality of carbon black particles in an amount of from about 1.5 wt. % to about 6 wt. % of the polymer composition, wherein the carbon black particles have an average size ranging from about 10 to about 100 nanometers, wherein the composition defines a black surface when shaped into a plaque having a size of 60 millimeters×80 millimeters by 3 millimeters, and wherein the black surface is characterized according to the CIELAB test by a L* value of from 0 to 30, wherein L*=is a luminosity value ranging from 0 to 100, where 0=black and 100=white.
・・・
33 . The polymer composition of claim 23 , wherein the polymer composition comprises an inorganic particulate filler in an amount from about 5 wt. % to about 60 wt. % of the composition.
34 . The polymer composition of claim 33 , wherein the inorganic particulate filler includes talc.
35 . The polymer composition of claim 23 , wherein the polymer composition comprises a fibrous filler in an amount from about 1 wt. % to about 40 wt. % of the composition.
36 . The polymer composition of claim 35 , wherein the fibrous filler includes glass fibers.」

(合議体訳:
請求項23.サーモトロピック液晶ポリマーおよびカーボンブラック粒子を含む黒着色剤を樹脂組成物の約1.5wt%?約6wt%含む液晶ポリマー組成物であって、カーボンブラックの粒子が約10?約100nmの範囲の平均サイズであり、60mm×80mm×3mmの角板に成形した時にCIELAB試験で定義される黒色表面のL*値が0?30である樹脂組成物。(ここでL*値は、0が黒、100が白の0から100で表される輝度値である。)
・・・
請求項33.前記樹脂組成物は、無機粒子フィラーを組成物の約5wt%?約60wt%含有する請求項23記載の樹脂組成物。
請求項34.前記無機粒子フィラーは、タルクを含む請求項33記載の樹脂組成物。
請求項35.前記樹脂組成物は、繊維状フィラーを組成物の約1wt%?約40wt%含有する請求項23記載の樹脂組成物。
請求項36.前記繊維状フィラーは、ガラス繊維を含む請求項35記載の樹脂組成物。」

(イ)「[0002]・・・One of the difficulties with these polymers, however, is that their color is not readily altered by conventional means. This is particularly problematic for foodstuff articles in which a sleek and black appearance is often desired. As such, a need currently exists for a liquid crystalline polymer composition that has a black appearance for use in a wide variety of articles (e.g., foodstuff articles).」

(合議体訳:しかしながら、前記ポリマーにおける難点の一つは、従来の手法では、その色は容易に変更できないことである。これは、つやつやして黒い外観がしばしば好まれる食品器具にとって特に問題である。そのため、現在において、幅広い器具(食品器具等)の用途で黒い外観の液晶ポリマー組成物の必要性がある。)

(ウ)「[0034]The black pigment of the polymer composition generally includes a plurality of carbon black particles, such as furnace black, channel black, acetylene black, lamp black, etc. The carbon black particles may have any desired shape, such as a granular, flake (scaly), etc. The average size (e.g., diameter) of the particles may, for instance, range from about 1 to about 200 nanometers, in some embodiments from about 5 to about 150 nanometers, and in some embodiments, from about 10 to about 100 nanometers. It is also typically desired that the carbon black particles are relatively pure, such as containing polynuclear aromatic hydrocarbons (e.g., benzo[a]pyrene, naphthalene, etc.) in an amount of about 1 part per million ("ppm") or less, and in some embodiments, about 0.5 ppm or less. For example, the black pigment may contain benzo[a]pyrene in an amount of about 10 parts per billion ("ppb") or less, and in some embodiments, about 5 ppb or less.」

(合議体訳:樹脂組成物の黒着色剤は、一般的にファーネスブラック、チャネルブラック、アセチレンブラック、ランプブラックなどの複数のカーボンブラック粒子を含む。前記カーボンブラック粒子は、例えば、粒状、フレーク(鱗片)状など、好ましい形状を有していてよい。前記粒子の平均サイズ(直径など)は、例えば、1?200nmの範囲であってよく、ある実施態様では5?150nmであり、ある実施態様では10?100nmである。前記カーボンブラック粒子は、多環芳香族炭化水素(例えば、ベンゾ(a)ピレン、ナフタレンなど)の含有量が約1ppm以下のように高純度であることが好ましく、ある実施態様では、約0.5ppm以下である。たとえば、黒着色剤は、ベンゾ(a)ピレンを約10ppb以下含有していてもよく、ある実施態様では、約5ppb以下である。)

(エ)「[0036]The relative concentration of the carbon black particles and the liquid crystalline polymer may be selectively controlled in the present invention to achieve the desired black appearance without adversely impacting the thermal and mechanical properties of the polymer composition. In this regard, the carbon black particles are typically employed in an amount of from about 1 to about 10 wt. %, in some embodiments from about 1.5 wt. % to about 6 wt. %, and in some embodiments, from about 2 wt. % to about 4 wt. % of the entire polymer composition. The black pigment, which may optionally contain a carrier resin, may likewise constitute from about 1 to about 20 wt. %, in some embodiments from about 3 wt. % to about 18 wt. %, and in some embodiments, from about 4 wt. % to about 15 wt. % of the polymer composition. Liquid crystalline polymers, on the other hand, typically constitute from about 25 wt. % to about 75 wt. %, in some embodiments from about 30 wt. % to about 70 wt. %, and in some embodiments, from about 40 wt. % to about 60 wt. % of the polymer composition.

(合議体訳:前記カーボンブラック粒子及び液晶ポリマーの相対濃度は、好ましい黒い外観となり熱的及び機械的特性に逆影響を与えないように、本発明において選択的に制御される。この点で、前記カーボンブラック粒子は、樹脂組成物全体に対し、主に約1?10wt%の量で使用され、ある実施態様では約1.5?6wt%、約2?4wt%である。同様に、選択的にキャリアレジンを含んでもよい黒着色剤は、樹脂組成物に対し、約1?20wt%を構成してよく、ある実施態様では約3?18wt%、約4?15wt%である。一方、液晶ポリマーは、主に約25?75wt%を構成し、ある実施態様では約30?70wt%、約40?60wt%である。)

(オ)「EXAMPLE
[0051]Black polymer compositions (Samples 1 and 2) are formed from a liquid crystalline polymer (Vectra○R E950iRX or S950SX), talc, fiberglass, and black pigment. In Samples 1-2, the black pigment is in the form of a masterbatch that contains 80 wt. % Vectra○R E950iSX and 20 wt. % Black Pearls○R 4750 (Cabot Corporation). ・・・



(合議体訳:
黒色樹脂組成物(サンプル1および2)は、液晶ポリマー(ベクトラ○R E950iRXまたはS950SX)、タルク、ガラス繊維、および黒着色剤から形成される。サンプル1および2において、黒着色剤は、80wt%のベクトラ○R E950iRXと、20wt%のブラックパール○R 4750(キャボット コーポレーション)を含むマスターバッチを形成している。)
(表は省略する。また、「○」は丸付文字を表す。)

甲3の上記(オ)によれば、特に、サンプル1に着目すると、甲3には、以下の発明が記載されていると認められる。

「液晶ポリマーであるベクトラ(登録商標)E950iRXを53.5重量部、タルクを29.0重量部、ガラス繊維を15.0重量部、カーボンブラックであるブラックパール4750を2.5重量部からなる黒色液晶ポリマー組成物」(以下、「甲3発明」という。)

エ 甲4に記載された事項
甲4には、次のとおりの記載がある。
(ア)「

」(「2.実験」?「5.測定結果」)

オ 参考文献1に記載された事項
参考文献1:GS-Spezifikation AfPS GS 2014:01PAK、[online]、2014.08.04、[検索日2018.07.13]、インターネット、<URL:https://www.baua.de/DE/Aufgaben/Geschaeftsfuehrung-von-Ausschuessen/AfPS/pdf/AfPS-GS-2014-01-PAK.pdf?__blob=publicationFile>、p.1-13
参考文献1には、次のとおりの記載がある(合議体訳は参考文献1の英語版を基に作成した。)。
(ア) 「

」(第5頁の表1)

(合議体訳:
表1:危険評価の結果を基にカテゴリー分けされた接触部/把持部及び作用面となる材料の最大PAH値
カテゴリー1 口に挿入されることが意図された材料、又は長時間の皮膚接触(30秒以上)が意図された玩具用材料
カテゴリー2 カテゴリー1に該当せず、30秒以上の皮膚接触(長時間の皮膚接触)又は繰り返し短時間の皮膚接触1)が予見される材料
カテゴリー3 カテゴリー1又は2に該当せず、30秒までの皮膚接触(短時間の皮膚接触)が予見される材料
(表は省略))

(イ)「

・・・
」(第8頁8?16行)

(合議体訳:
別紙: 試験指針
ポリマー中の多環芳香族炭化水素(PAHs)の測定のための統一された方法
1 目的
試料ポリマー中のPAHの定量
・・・
2.1 概要
2.1.1 標準となる方法
代表的な部分サンプルをその材料から取り出し、ハサミやワイヤ・カッターなどを用いて最大寸法2?3mmの小片に切断する。その後、上記サンプル500mgを容器内に量り入れ、トルエン20ml(ここで内部標準が加えられている)の超音波槽で、60℃、1時間で抽出する。抽出液を室温まで冷まし、所定量を取り出す。・・・定量分析は、SIM法を用いたガスクロマトグラフ/質量分析計(GC/MSD)で行われる。) 」

(ウ)「

」(第9頁4?9行)

(合議体訳:
内部標準物質
標準物質1:ナフタレン-d8
標準物質2:ピレン-d10、アントラセン-10又はフェナントレン-d10
標準物質3:ベンゾ(a)ピレン-d12、ペリレン-d12又はトリフェニルベンゼン
少なくとも3種の内部標準物質をトルエンに添加して使用される。)

(エ)「

」(第10頁16?18行)

(合議体訳:
3.2 測定方法
適用される測定方法は、SIMモードの質量分析計の付いたガスクロマトグラフィーである。)

(オ)「

」(第11頁下6?7行)

(合議体訳:
試料の定量限界は、成分毎に0.2mg/kgとする。)

(カ)「

」(第13頁1?10行)

(合議体訳:
(参考)ガスクロマトグラフィーの測定条件
・・・
カラム:HT8 25m,内径 0.22mm,・・・厚み:0.25μm
・・・
初期温度:50℃
初期時間:2分
昇温速度:11℃/分
最終温度:320℃
最終時間:8分」

(2)甲1を主引用文献とする取消理由2及び取消理由3
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「液晶ポリエステルLCP1」及び「液晶ポリエステルLCP2」、「マイカ」、「カーボンブラック#25」並びに「液晶ポリエステル組成物」は、それぞれ、本件発明1の「液晶状樹脂」、「フィラー」及び「カーボンブラック」、並びに「液晶性樹脂組成物」に相当する。そして、引用発明1の液晶ポリエステルLCP1及びLCP2の合計の含有量に対するマイカ及びカーボンブラック#25の含有量は、本件発明1のフィラー及びカーボンブラックの含有量と重複するものである。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、「液晶性樹脂と、フィラーと、カーボンブラックとを含有する液晶性樹脂組成物であって、前記フィラーの含有量は、前記液晶性樹脂100質量部に対して5質量部以上100質量部以下であり、前記カーボンブラックの含有量は、前記液晶性樹脂100質量部に対して0.1質量部以上2質量部以下である液晶性樹脂組成物。」の点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1a]本件発明1では、「カーボンブラックに含まれる、下記表1に記載する8物質の合計の含有量は、2.5ppm未満である」(表1の記載は省略する。以下、同様とする。)のに対して、甲1発明では、カーボンブラック#25に含まれる上記8物質の合計の含有量が2.5ppm未満であるかが不明である点。

[相違点1b]本件発明1では、「電子顕微鏡で観察することにより測定される前記カーボンブラックの数平均粒子径は、20nmを超え45nm以下であ」るのに対して、甲1発明では、カーボンブラック#25が47nmである点。

(イ)相違点の検討
・相違点1aについて
甲4は、甲1?甲3で用いられたカーボンブラックに含まれる本件発明1の「表1に記載する8物質」を測定した実験証明書であって、上記8物質の測定は、ドイツの製品安全認証であるGSマーク取得に必要なPAH試験「AfPS GS2014:01 PAK」に基づき行われたことが記載され、その測定結果として、甲1発明の「カーボンブラック#25」に含まれる上記8物質の合計の含有量が1.6ppm未満であったことが記載されている。
そして、参考文献1は上記「AfPS GS2014:01 PAK」のPAH試験を説明した文献であって、そこには、ベンゾ(a)アントラセン、ベンゾ(a)ピレン、ベンゾ(b)フルオランテン、ベンゾ(k)フルオランテン、クリセン、ジベンゾ(a,h)アントラセン、 ベンゾ(b)ピレン、ベンゾ(f)フルオランテンの各最大PAH含有量が、カテゴリー1(口に挿入される材料等)及びカテゴリー2(カテゴリー1以外で、皮膚に長時間(30秒以上)接触することが予見される材料等)の場合に0.2mg/kg未満であること(上記(1)オ(ア))、SIMモードの質量分析計の付いたガスクロマトグラフィー装置を用いて測定すること(上記(1)オ(エ))、内部標準物質は、標準物質1がナフタレン-d8であり、標準物質2がピレン-d10、アントラセン-10又はフェナントレン-d10であり、標準物質3がベンゾ(a)ピレン-d12、ペリレン-d12又はトリフェニルベンゼンであって、少なくとも3種の内部標準物質をトルエンに添加して使用されること(上記(1)オ(ウ))、試料の定量限界は成分毎に0.2mg/kgとすること(上記(1)オ(オ))、及び、ガスクロマトグラフィーの具体的な測定条件(上記(1)オ(カ))が記載されている。
ここで、上記ベンゾ(a)アントラセン等は、本件発明1の「表1に記載する8物質」であるから、参考文献1に記載された測定方法により、甲1発明のカーボンブラック#25における上記8物質それぞれの含有量を、0.2mg/kg(0.2ppm)まで測定することができると解される。
そして、甲4に記載された測定方法は、甲1発明のカーボンブラック#25に含まれる上記8物質を参考文献1に基づいて測定したものであり、カーボンブラック#25に含まれる上記8物質の合計の含有量は1.6ppm未満であるから、甲1発明は、本件発明1の「前記カーボンブラックに含まれる、下記表1に記載する8物質の合計の含有量は、2.5ppm未満である」ことを満たし、上記相違点1aは実質的な相違点でない。

・相違点1bについて
甲1発明の「カーボンブラック#25」の数平均粒径は47nmであり(上記(1)ア(ア)の表1)、また、乙3の上記1(1)ウ(ア)によると、「カーボンブラック#25」の電子顕微鏡による算術平均径は47nmであるから、甲1発明の「カーボンブラック#25」の電子顕微鏡による数平均粒子径は47nmであることがわかる。そして、この「カーボンブラック#25」の数平均粒径は、本件発明1の「20nm超?45nm以下」の範囲外であるから、相違点1bは実質的な相違点である。
また、甲1発明は甲1に比較例として記載されたものであり、甲1発明における「カーボンブラック#25」に代えて、電子顕微鏡により観察することにより測定される数平均粒子径が20nm超?45nm以下であるカーボンブラックを用いることを動機付ける記載はないし、そのような本件優先日時点の技術常識もない。
そうすると、本件発明1は、甲1に記載された発明でないし、甲1発明に基いて当業者が容易に想到し得たものでもない。

・本件発明1の効果について
本件発明1は、「溶融粘度の低下を抑制することができる液晶性樹脂組成物を提供することができる」(本件明細書の段落【0007】)という格別顕著な優れた効果を奏するものであり、その効果は実施例1及び2により具体的に確認することができる。

(ウ)まとめ
本件発明1は甲1に記載された発明ではないし、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

イ 本件発明2?4について
本件発明2?4は本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、上記で述べたのと同じ理由により、本件発明2?4は甲1に記載された発明ではないし、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

ウ 小括
本件発明1?4は、甲1に記載された発明ではないし、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(3)甲2を主引用文献とする取消理由2及び取消理由3
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明の「液晶ポリエステル」、「ガラス繊維」、「カーボンブラック#960」及び「液晶ポリエステル樹脂組成物」は、それぞれ、本件発明1の「液晶状樹脂」、「フィラー」、「カーボンブラック」及び「液晶性樹脂組成物」に相当する。そして、甲2発明の液晶ポリエステルの合計の含有量に対するガラス繊維及びカーボンブラック#960の含有量は、本件発明1のフィラー及びカーボンブラックの含有量と重複するものである。
そうすると、本件発明1と甲2発明とは、「液晶性樹脂と、フィラーと、カーボンブラックとを含有する液晶性樹脂組成物であって、前記フィラーの含有量は、前記液晶性樹脂100質量部に対して5質量部以上100質量部以下であり、前記カーボンブラックの含有量は、前記液晶性樹脂100質量部に対して0.1質量部以上2質量部以下である液晶性樹脂組成物。」の点で一致し、次の点で相違する。

[相違点2a]本件発明1では、「カーボンブラックに含まれる、下記表1に記載する8物質の合計の含有量は、2.5ppm未満である」のに対して、甲2発明では、カーボンブラック#960に含まれる上記8物質の合計の含有量が2.5ppm未満であるかが不明である点。

[相違点2b]本件発明1では、「電子顕微鏡で観察することにより測定される前記カーボンブラックの数平均粒子径は、20nmを超え45nm以下であ」るのに対して、甲2発明では、カーボンブラック#960が16nmである点。

(イ)相違点の検討
・相違点2aについて
上記(2)アで甲1発明について述べたのと同様に、甲4によると、甲2発明の「カーボンブラック#960」に含まれる上記8物質の合計の含有量は1.6ppm未満であり、甲2発明は、本件発明1の「前記カーボンブラックに含まれる、下記表1に記載する8物質の合計の含有量は、2.5ppm未満である」ことを満たすから、上記相違点2aは実質的な相違点でない。

・相違点2bについて
甲2発明の「カーボンブラック#960」の数平均粒径は16nmであり(上記(1)イ(ウ))、また、乙3の上記1(3)ア(ア)によると、「カーボンブラック#960」の電子顕微鏡による算術平均径は16nmであるから、甲2発明の「カーボンブラック#960」の電子顕微鏡による数平均粒子径は16nmであることがわかる。そして、この「カーボンブラック#960」の数平均粒径は、本件発明1の「20nm超?45nm以下」の範囲外であるから、相違点2bは実質的な相違点である。
また、甲2には、「本発明で用いられるカーボンブラックは、平均粒子径が5?20nmであり・・・平均粒子径が20nmを越えるものは、十分な漆黒度を示さないため好ましくない。」(上記(1)イ(イ))と記載されており、カーボンブラックの平均粒子径を20nm超とすることは好ましくないことが示されている。
そうすると、甲2発明において、甲2の記載に基づき、「カーボンブラック#960」に代えて、本件発明1の「電子顕微鏡で観察することにより測定される前記カーボンブラックの数平均粒子径は、20nmを超え45nm以下とする」ことが動機付けられるとはいえない。

・本件発明1の効果について
上記(2)ア(イ)で述べたとおり、本件発明1は格別顕著な優れた効果を奏するものであり、その効果は実施例により具体的に確認することができる。

(ウ)まとめ
本件発明1は甲2に記載された発明でないし、甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

イ 本件発明2?4について
本件発明2?4は本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、上記で述べたのと同じ理由により、本件発明2?4は甲2発明と同じでないし、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

ウ 小括
本件発明1?4は、甲2に記載された発明ではないし、甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(4)甲3を主引用文献とする取消理由2及び取消理由3
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲3発明とを対比する。
甲3発明の「液晶ポリマーであるベクトラ(登録商標)E950iRX」、「タルク」及び「ガラス繊維」、「カーボンブラックであるブラックパール4750」並びに「黒色液晶ポリマー組成物」は、それぞれ、本件発明1の「液晶状樹脂」、「フィラー」、「カーボンブラック」及び「液晶性樹脂組成物」に相当する。そして、甲3発明において、液晶ポリマーの100質量部に対してタルク及びガラス繊維の合計の含有量を算出すると約82.2質量部になり、本件発明1のフィラーの含有量と重複する。同じく液晶ポリマー100質量部に対するカーボンブラックの含有量を算出すると約4.7質量部になる。

そうすると、本件発明1と甲3発明とは、「液晶性樹脂と、フィラーと、カーボンブラックとを含有する液晶性樹脂組成物であって、前記フィラーの含有量は、前記液晶性樹脂100質量部に対して5質量部以上100質量部以下である液晶性樹脂組成物。」の点で一致し、次の点で相違する。

[相違点3a]本件発明1では、「カーボンブラックに含まれる、下記表1に記載する8物質の合計の含有量は、2.5ppm未満である」のに対して、甲3発明では、カーボンブラックであるブラックパール4750に含まれる上記8物質の合計の含有量が2.5ppm未満であるかが不明である点。
[相違点3b]本件発明1では、「前記カーボンブラックの含有量は、前記液晶性樹脂100質量部に対して0.1質量部以上2質量部以下」であるのに対して、甲3発明は、液晶ポリマー100重量部に対するカーボンブラックの含有量は約4.7質量部である点。

[相違点3c]本件発明1では、「電子顕微鏡で観察することにより測定される前記カーボンブラックの数平均粒子径は、20nmを超え45nm以下であ」るのに対して、甲3発明では、カーボンブラックである「ブラックパール4750」の数平均粒子径が不明である点。

(イ)相違点の検討
・相違点3aについて
上記(2)アで甲1発明について述べたのと同様に、甲4によると、甲3発明の「ブラックパール4750」に含まれる上記8物質の合計の含有量は1.6ppm未満であり、甲3発明は、本件発明1の「前記カーボンブラックに含まれる、下記表1に記載する8物質の合計の含有量は、2.5ppm未満である」ことを満たすから、上記相違点3aは実質的な相違点でない。
・相違点3bについて
甲3発明において、液晶ポリマー100質量部に対するカーボンブラックの含有量は約4.7質量部であるから、相違点3bは実質的な相違点である。
そこで、相違点3bの容易想到性について検討する。
本件発明1は、液晶性樹脂、フィラー及びカーボンブラックを含有する液晶性樹脂組成物であって、液晶性樹脂100質量部に対してカーボンブラックを0.1?2質量部配合することを前提として、溶融粘度の低下を抑制することを課題とするものであり、一方、甲3発明の課題は、つやつやして黒い外観の液晶ポリマー組成物を提供することであり(上記(1)ウ(イ))、こういった課題を前提として、カーボンブラックの配合割合を、上記組成物の約1?10wt%とすることが記載されている(上記(1)ウ(エ))。
そうすると、甲3に、カーボンブラックの配合割合を約1?10wt%とすることが記載されているとしても、あくまでつやつやして黒い外観の液晶ポリマー組成物を提供するためであって、本件発明1の溶融粘度の低下を抑制するという課題を解決することについては、当業者であっても理解することはできない。
そして、本件発明は、液晶性樹脂組成物の溶融粘度の低下を抑制することができるという効果を奏することは、実施例にデータと共に記載されている。
したがって、甲3の記載から相違点3bを構成することの動機付けがあるとはいえない。

(ウ)まとめ
以上のとおりであるから、相違点3cを検討するまでもなく、相違点3bは実質的な相違点であって、本件発明1は甲3に記載された発明でないし、甲3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

イ 本件発明2?4について
本件発明2?4は本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、上記で述べたのと同じ理由により、本件発明2?4は甲3発明と同じでないし、甲3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

ウ 小括
本件発明1?4は、甲3に記載された発明ではないし、甲3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

4 取消理由4(サポート要件)について
(1)特許法第36条第6項第1号について
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(平成17年(行ケ)第10042号、「偏光フィルムの製造法」事件)。
そこで、この点について、以下に検討する。

(2)本件発明の課題
本件発明1の課題は、「溶融粘度の低下を抑制することができる液晶性樹脂組成物を提供すること」(本件明細書の段落【0004】)であると解される。

(3)本件発明1について
本件明細書の発明の詳細な説明には、「カーボンブラックに含まれるPAH等の物質は、カーボンブラックと液晶性樹脂との間において相互作用しうる。このため、PAH等の物質は、液晶性樹脂組成物の溶融粘度の増減に影響を与えると考えられる。」(段落【0043】)と記載されている。
この記載によると、PAH8物質は、カーボンブラックと液晶性樹脂との界面に存在することで上記組成物の溶融粘度を低下させる原因となり、カーボンブラック中のPAH濃度が高くなるほど、カーボンブラックと液晶性樹脂との界面にPAH8物質が存在する確率が高くなって溶融粘度が低下することを説明するものと解される。
更に、発明の詳細な説明には、液晶性樹脂100質量部に対してそれぞれ1.67質量部及び1.33質量部の量で含有する液晶性樹脂組成物において、上記PAH8物質の合計の含有量が1.6ppm未満であるカーボンブラック(#45LB)を用いる実施例1及び2と、上記PAH8物質の合計の含有量が2.7ppm以上3.7ppm未満であるカーボンブラック(#45B)を用いた比較例1及び2とが記載されており(上記1(2)イ)、上記段落【0043】の記載と併せて読むと、本件発明1が上記課題を解決しないものを包含するとまではいえないし、他に、本件発明1が上記課題を解決しないことを示す技術常識も見当たらない。
そうすると、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載したものである。

(4)本件発明2?4について
本件発明2?4は本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明1について上記(3)で述べたように、本件発明2?4は、発明の詳細な説明に記載したものである。

(5)まとめ
以上のとおり、本件発明1?4は発明の詳細な説明に記載したものであり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。

第6 むすび
以上のとおり、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件特許の請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶性樹脂と、フィラーと、カーボンブラックとを含有する液晶性樹脂組成物であって、
前記フィラーの含有量は、前記液晶性樹脂100質量部に対して5質量部以上100質量部以下であり、
前記カーボンブラックの含有量は、前記液晶性樹脂100質量部に対して0.1質量部以上2質量部以下であり、
電子顕微鏡で観察することにより測定される前記カーボンブラックの数平均粒子径は、20nmを超え45nm以下であり、
前記カーボンブラックに含まれる、下記表1に記載する8物質の合計の含有量は、2.5ppm未満であることを特徴とする液晶性樹脂組成物。
【表1】

【請求項2】
前記フィラーが、ガラス繊維及び板状無機充填剤からなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項1に記載の液晶性樹脂組成物。
【請求項3】
前記板状無機充填剤が、タルク又はマイカである請求項2に記載の液晶性樹脂組成物。
【請求項4】
前記板状無機充填剤が、マイカである請求項2に記載の液晶性樹脂組成物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-12-19 
出願番号 特願2017-143459(P2017-143459)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C08L)
P 1 651・ 121- YAA (C08L)
P 1 651・ 113- YAA (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 水野 明梨  
特許庁審判長 佐藤 健史
特許庁審判官 大▲わき▼ 弘子
近野 光知
登録日 2017-10-27 
登録番号 特許第6231243号(P6231243)
権利者 住友化学株式会社
発明の名称 液晶性樹脂組成物  
代理人 清水 義憲  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 三上 敬史  
代理人 清水 義憲  
代理人 吉住 和之  
代理人 三上 敬史  
代理人 福山 尚志  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 吉住 和之  
代理人 福山 尚志  

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