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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  G02F
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  G02F
管理番号 1359575
異議申立番号 異議2018-700486  
総通号数 243 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-03-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-06-13 
確定日 2020-01-09 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6245537号発明「調光装置及び車両」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第6245537号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された,訂正後の請求項〔1-20〕について訂正することを認める。 特許第6245537号の請求項1,2,7ないし20に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第6245537号の請求項1?20に係る特許についての出願(特願2016-226202号)は,平成28年11月21日の出願であって,平成29年11月24日付けで設定登録がされ,その後,その特許に対し,特許異議申立人 杉本結子により請求項1,2,7ないし20に対して特許異議の申立てがされたものである。以後の手続の経緯は以下のとおりである。

平成30年10月17日付け:取消理由通知(同年同月22日発送)
同年12月21日 :訂正請求書・意見書
平成31年 1月16日付け:通知書(同年同月21日発送)
同年 2月20日 :意見書
令和 元年 5月10日付け:取消理由通知(予告)(同年同月16日発送)
同年 7月16日 :訂正請求書・意見書
同年 9月18日付け:通知書(同年同月24日発送)
同年10月24日 :意見書

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和元年7月17日にされた訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)は,特許請求の範囲を訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1?20について訂正することを求めるものであって,以下の訂正事項1ないし7からなる(当審注:下線は,請求人が付したものである。)。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に,
「1又は複数のガラスプレートを含み,曲面を有する光透過プレートと,
調光セルと,
前記光透過プレートの前記曲面と前記調光セルとの間に配置され,前記光透過プレートの前記曲面に前記調光セルの一方側を接着する光学透明粘着フィルムと,を備える調光装置であって,
前記調光セルは,第1樹脂基材を含む第1積層体と,第2樹脂基材を含む第2積層体と,前記第1積層体と前記第2積層体との間に設けられた二色性色素を含む液晶層と,を有する調光装置。」
と記載されているのを,
「1又は複数のガラスプレートを含み,曲面を有する光透過プレートと,
遮光状態と光透過状態とをとることのできる調光セルと,
前記光透過プレートの前記曲面と前記調光セルとの間に配置され,前記光透過プレートの前記曲面に前記調光セルの一方側を接着する光学透明粘着フィルムと,を備える調光装置であって,
前記曲面は,三次元曲面であり,
前記光透過プレートは,前記調光セルの一方側のみに配置されており,
前記調光セルは,第1樹脂基材,第1電極層及び第1配光膜を含む第1積層体と,第2樹脂基材及び第2配光膜を含む第2積層体と,前記第1積層体と前記第2積層体との間に設けられた二色性色素を含むゲスト・ホスト型の液晶層と,前記第1配光膜と前記第2配光膜との間で前記液晶層の液晶スペースを区画するシール材と,前記液晶層の厚さを規定する複数のスペーサーと,を有し,
前記第1積層体は,前記液晶層の液晶スペースを区画するシール材の外側に延長され且つ前記光透過プレートの前記曲面に貼り合わされた延長部を有し,
前記液晶層の液晶層を区画するシール材は,幅方向の長さが1mm以上,5mm以下である調光装置。」
と訂正する。
請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項13,14,16,17,19及び20も同様に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に,
「1又は複数のガラスプレートを含み,曲面を有する光透過プレートと,
調光セルと,
前記光透過プレートの前記曲面と前記調光セルとの間に配置され,前記光透過プレートの前記曲面に前記調光セルの一方側を接着する光学透明粘着フィルムと,を備える調光装置であって,
前記調光セルは,
第1樹脂基材と,当該第1樹脂基材上に設けられる第1透明電極及び第1配向膜と,を含む第1積層体と,
第2樹脂基材と,当該第2樹脂基材上に設けられる第2配向膜と,を含む第2積層体と,
前記第1積層体と前記第2積層体との間に設けられる液晶層と,を有し,
前記第1積層体及び前記第2積層体の各々は,E型の直線偏光板を含む調光装置。」
と記載されているのを,
「1又は複数のガラスプレートを含み,曲面を有する光透過プレートと,
調光セルと,
前記光透過プレートの前記曲面と前記調光セルとの間に配置され,前記光透過プレートの前記曲面に前記調光セルの一方側を接着する光学透明粘着フィルムと,を備える調光装置であって,
前記曲面は,三次元曲面であり,
前記調光セルは,
第1樹脂基材と,当該第1樹脂基材上に設けられる第1透明電極及び第1配向膜と,を含む第1積層体と,
第2樹脂基材と,当該第2樹脂基材上に設けられる第2配向膜と,を含む第2積層体と,
前記第1積層体と前記第2積層体との間に設けられる二色性色素を含むゲスト・ホスト型の液晶層と,
前記第1配光膜と前記第2配光膜との間で前記液晶層の液晶スペースを区画するシール材と,前記液晶層の厚さを規定する複数のスペーサーと,
を有し,
前記第1積層体は,前記液晶層の液晶スペースを区画するシール材の外側に延長され且つ前記光透過プレートの前記曲面に貼り合わされた延長部を有し,
前記液晶層の液晶層を区画するシール材は,幅方向の長さが1mm以上,5mm以下であり,
前記第1積層体及び前記第2積層体の各々は,E型の直線偏光板を含む調光装置。」
と訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に,
「前記第1積層体の前記直線偏光板は,前記第1樹脂基材上の前記液晶層側に設けられ,
前記第2積層体の前記直線偏光板は,前記第2樹脂基材上の前記液晶層側に設けられている請求項2に記載の調光装置。」
と記載されているのを,
「1又は複数のガラスプレートを含み,曲面を有する光透過プレートと,
調光セルと,
前記光透過プレートの前記曲面と前記調光セルとの間に配置され,前記光透過プレートの前記曲面に前記調光セルの一方側を接着する光学透明粘着フィルムと,を備える調光装置であって,
前記調光セルは,
第1樹脂基材と,当該第1樹脂基材上に設けられる第1透明電極及び第1配向膜と,を含む第1積層体と,
第2樹脂基材と,当該第2樹脂基材上に設けられる第2配向膜と,を含む第2積層体と,
前記第1積層体と前記第2積層体との間に設けられる液晶層と,を有し,
前記第1積層体及び前記第2積層体の各々は,E型の直線偏光板を含み,
前記第1積層体の前記直線偏光板は,前記第1樹脂基材上の前記液晶層側に設けられ,
前記第2積層体の前記直線偏光板は,前記第2樹脂基材上の前記液晶層側に設けられている調光装置。」
と訂正する。

(2)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に,
「前記第1積層体には,
前記第1樹脂基材上に,前記第1透明電極,前記直線偏光板,ネガティブCプレート層及び前記第1配向膜が順次設けられ,
前記第2積層体には,
前記第2樹脂基材上に,前記直線偏光板及び前記第2配向膜が順次設けられている請求項2又は3に記載の調光装置。」
と記載されているのを,
「1又は複数のガラスプレートを含み,曲面を有する光透過プレートと,
調光セルと,
前記光透過プレートの前記曲面と前記調光セルとの間に配置され,前記光透過プレートの前記曲面に前記調光セルの一方側を接着する光学透明粘着フィルムと,を備える調光装置であって,
前記調光セルは,
第1樹脂基材と,当該第1樹脂基材上に設けられる第1透明電極及び第1配向膜と,を含む第1積層体と,
第2樹脂基材と,当該第2樹脂基材上に設けられる第2配向膜と,を含む第2積層体と,
前記第1積層体と前記第2積層体との間に設けられる液晶層と,を有し,
前記第1積層体及び前記第2積層体の各々は,E型の直線偏光板を含み,
前記第1積層体には,
前記第1樹脂基材上に,前記第1透明電極,前記直線偏光板,ネガティブCプレート層及び前記第1配向膜が順次設けられ,
前記第2積層体には,
前記第2樹脂基材上に,前記直線偏光板及び前記第2配向膜が順次設けられている調光装置。」
と訂正する。

(2)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に,
「前記第1積層体には,
前記第1樹脂基材上に,前記直線偏光板,ネガティブCプレート層,前記第1透明電極及び前記第1配向膜が順次設けられ,
前記第2積層体には,
前記第2樹脂基材上に,前記直線偏光板,前記第2配向膜が順次設けられている請求項2又は3に記載の調光装置。」
と記載されているのを,
「1又は複数のガラスプレートを含み,曲面を有する光透過プレートと,
調光セルと,
前記光透過プレートの前記曲面と前記調光セルとの間に配置され,前記光透過プレートの前記曲面に前記調光セルの一方側を接着する光学透明粘着フィルムと,を備える調光装置であって,
前記調光セルは,
第1樹脂基材と,当該第1樹脂基材上に設けられる第1透明電極及び第1配向膜と,を含む第1積層体と,
第2樹脂基材と,当該第2樹脂基材上に設けられる第2配向膜と,を含む第2積層体と,
前記第1積層体と前記第2積層体との間に設けられる液晶層と,を有し,
前記第1積層体及び前記第2積層体の各々は,E型の直線偏光板を含み,
前記第1積層体には,
前記第1樹脂基材上に,前記直線偏光板,ネガティブCプレート層,前記第1透明電極及び前記第1配向膜が順次設けられ,
前記第2積層体には,
前記第2樹脂基材上に,前記直線偏光板,前記第2配向膜が順次設けられている調光装置。」
と訂正する。

(2)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項7に,
「1又は複数のガラスプレートを含み,曲面を有する第1光透過プレートと,
第2光透過プレートと,
前記第1光透過プレートと前記第2光透過プレートとの間に配置される調光セルと,
前記第1光透過プレートの前記曲面と前記調光セルとの間に配置され,前記第1光透過プレートの前記曲面に前記調光セルの一方側を接着する光学透明粘着フィルムと,を備え,
前記調光セルは,第1樹脂基材を含む第1積層体と,第2樹脂基材を含む第2積層体と,前記第1積層体と前記第2積層体との間に設けられる液晶層と,を有する調光装置。」
と記載されているのを,
「1又は複数のガラスプレートを含み,曲面を有する第1光透過プレートと,
第2光透過プレートと,
前記第1光透過プレートと前記第2光透過プレートとの間に配置され,遮光状態と光透過状態とをとることのできる調光セルと,
前記第1光透過プレートの前記曲面と前記調光セルとの間に配置され,前記第1光透過プレートの前記曲面に前記調光セルの一方側を接着する光学透明粘着フィルムと,を備え,
前記曲面は,三次元曲面であり,
前記調光セルは,第1樹脂基材,第1電極層及び第1配光膜を含む第1積層体と,第2樹脂基材及び第2配光膜を含む第2積層体と,前記第1積層体と前記第2積層体との間に設けられる二色性色素を含むゲスト・ホスト型の液晶層と,前記第1配光膜と前記第2配光膜との間で前記液晶層の液晶スペースを区画するシール材と,前記液晶層の厚さを規定する複数のスペーサーと,を有し,
前記第1積層体は,前記液晶層の液晶スペースを区画するシール材の外側に延長され且つ前記光透過プレートの前記曲面に貼り合わされた延長部を有し,
前記液晶層の液晶層を区画するシール材は,幅方向の長さが1mm以上,5mm以下である調光装置。」
と訂正する。

(2)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項18に,
「曲面を有する光透過プレートと,
調光セルと,
前記光透過プレートの前記曲面と前記調光セルとの間に配置され,前記光透過プレートの前記曲面に前記調光セルの一方側を接着する光学透明粘着フィルムと,を備える調光装置であって,
前記調光セルは,第1樹脂基材を含む第1積層体と,第2樹脂基材を含む第2積層体と,前記第1積層体と前記第2積層体との間に設けられた二色性色素を含む液晶層と,を有し,
前記光学透明粘着フィルムは,前記光学透明粘着フィルム及び前記調光セルが積層する方向に関する厚さが,50μm以上500μm以下であり,室温環境での貯蔵弾性率が,1×10^(7)Pa以上1×10^(8)Pa以下である調光装置。」
と記載されているのを,
「曲面を有する光透過プレートと,
遮光状態と光透過状態とをとることのできる調光セルと,
前記光透過プレートの前記曲面と前記調光セルとの間に配置され,前記光透過プレートの前記曲面に前記調光セルの一方側を接着する光学透明粘着フィルムと,を備える調光装置であって,
前記曲面は,三次元曲面であり,
前記調光セルは,第1樹脂基材,第1電極層及び第1配光膜を含む第1積層体と,第2樹脂基材及び第2配光膜を含む第2積層体と,前記第1積層体と前記第2積層体との間に設けられた二色性色素を含むゲスト・ホスト型の液晶層と,前記第1配光膜と前記第2配光膜との間で前記液晶層の液晶スペースを区画するシール材と,前記液晶層の厚さを規定する複数のスペーサーと,を有し,
前記第1積層体は,前記液晶層の液晶スペースを区画するシール材の外側に延長され且つ前記光透過プレートの前記曲面に貼り合わされた延長部を有し,
前記液晶層の液晶層を区画するシール材は,幅方向の長さが1mm以上,5mm以下であり,
前記光学透明粘着フィルムは,前記光学透明粘着フィルム及び前記調光セルが積層する方向に関する厚さが,50μm以上500μm以下であり,室温環境での貯蔵弾性率が,1×10^(7)Pa以上1×10^(8)Pa以下である調光装置。」
と訂正する。

2 当審の判断
(1)訂正事項1
ア 訂正事項1は,訂正前の請求項1に係るものであり,訂正事項1-1ないし訂正事項1-6からなる(下線は当審で付した。以下同様。)。
(ア-1)訂正事項1-1
訂正事項1-1は,「前記曲面は,三次元曲面であり,」との文言を加える訂正である。
(ア-2)訂正事項1-2
訂正事項1-2は,「前記光透過プレートは,前記調光セルの一方側のみに配置されており,」との文言を加える訂正である。
(ア-3)訂正事項1-3
訂正事項1-3は,「前記調光セルは,第1樹脂基材を含む第1積層体と,第2樹脂基材を含む第2積層体と,前記第1積層体と前記第2積層体との間に設けられた二色性色素を含む液晶層と,を有する」を「前記調光セルは,第1樹脂基材,第1電極層及び第1配光膜を含む第1積層体と,第2樹脂基材及び第2配光膜を含む第2積層体と,前記第1積層体と前記第2積層体との間に設けられた二色性色素を含むゲスト・ホスト型の液晶層と,前記第1配光膜と前記第2配光膜との間で前記液晶層の液晶スペースを区画するシール材と,前記液晶層の厚さを規定する複数のスペーサーと,を有し,」とする訂正である。
(ア-4)訂正事項1-4
訂正事項1-4は,「前記第1積層体は,前記液晶層の液晶スペースを区画するシール材の外側に延長され且つ前記光透過プレートの前記曲面に貼り合わされた延長部を有し,」との文言を加える訂正である。
(ア-5)訂正事項1-5
訂正事項1-5は,「前記液晶層の液晶層を区画するシール材は,幅方向の長さが1mm以上,5mm以下である」との文言を加える訂正である。
(ア-6)訂正事項1-6
訂正事項1-6は,「調光セルと,」を「遮光状態と光透過状態とをとることのできる調光セルと,」とする訂正である。

イ 訂正の目的の適否
訂正事項1-1は,「曲面を有する光透過プレート」について,当該「曲面が,三次元曲面であ」ると限定するものである。
訂正事項1-2は,「光透過プレート」の配置箇所について,調光セルの一方側のみに配置されていることを限定するものである。
訂正事項1-3は,「第1積層体」が「第1電極層及び第1配光膜を含」み,「第2積層体」が「第2配光膜を含」み,「二色性色素を含む液晶層」が「ゲスト・ホスト型」であり,「前記第1積層体と前記第2積層体との間に」はさらに「液晶層の液晶スペースを区画するシール材と,前記液晶層の厚さを規定する複数のスペーサーと,を有」する点を限定するものである。
訂正事項1-4は,「第1積層体」について,「前記液晶層の液晶スペースを区画するシール材の外側に延長され且つ前記光透過プレートの前記曲面に貼り合わされた延長部を有」することを限定するものである。
訂正事項1-5は,訂正事項1-3で加えられた「シール材」について,その「幅方向の長さが1mm以上,5mm以下である」ことを規定するものである。
訂正事項1-6は,「調光セル」について,「遮光状態と光透過状態とをとることのできる」ものであることを限定するものである。
よって,訂正事項1-1ないし訂正事項1-6からなる訂正事項1は,特許法第120条の5第2項第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

ウ 新規事項追加の有無
(ウ-1)訂正事項1-1に関し,願書に添付した明細書には,以下の記載がある。
「【0055】
光透過プレート21の曲面20は,特に限定されないが典型的には二次元曲面或いは三次元曲面であり,図示の光透過プレート21の曲面20は三次元曲面となっている。一般に,薄膜状の調光セル22を三次元曲面に皺を生じさせることなく貼り付けることは容易ではないが,後述の「光透過プレート21に対する調光セル22の取り付け技術」によれば,薄膜状の調光セル22を三次元曲面に対して皺を生じさせることなく貼り付けることが容易である。
【0056】
図2は,三次元曲面20aを説明するための図である。ここでいう三次元曲面20aは,単一の軸を中心として二次元的に曲がった二次元曲面,或いは,互いに平行な複数の軸を中心として異なる曲率で二次元的に曲がった二次元曲面とは区別されるものである。すなわち,三次元曲面20aは,互い対して傾斜した複数の軸の各々を中心として,部分的に又は全体的に曲がっている面を意味する。
【0057】
図示の光透過プレート21の一方の面(すなわち光学透明粘着フィルム24が付着される曲面20)は,全体として図2に示すように曲がっており,第1の軸A1を中心に第1の方向d1へ曲がるとともに,第2の軸A2を中心に第2の方向d2へも曲がっている。
図示の例では,第1の軸A1及び第2の軸A2は共に図2に示すX方向及びY方向に対して傾斜しており,第1の軸A1は第2の軸A2に垂直である。」
上記記載のとおり,願書に添付した明細書には,訂正事項1-1に係る「光透過プレート21の曲面20」が「三次元曲面」であることが記載されている。

(ウ-2)訂正事項1-2に関し,願書に添付した明細書には,以下の記載がある。
「【0057】
図示の光透過プレート21の一方の面(すなわち光学透明粘着フィルム24が付着される曲面20)は,全体として図2に示すように曲がっており,第1の軸A1を中心に第1の方向d1へ曲がるとともに,第2の軸A2を中心に第2の方向d2へも曲がっている。
図示の例では,第1の軸A1及び第2の軸A2は共に図2に示すX方向及びY方向に対して傾斜しており,第1の軸A1は第2の軸A2に垂直である。
【0058】
このような光透過プレート21の曲面20に対し,調光セル22の一方側が光学透明粘着フィルム24を介して接着される。」
上記記載のとおり,願書に添付した明細書には,訂正事項1-2に係る「光透過プレート」の配置箇所について,調光セルの一方側のみに配置されていることが記載されている。

(ウ-3)訂正事項1-3に関し,願書に添付した明細書には,以下の各記載がある。
「【0061】
調光セル22は多層構造を有し,光学透明粘着フィルム24側から外側に向かって(すなわち光透過プレート21から離間する方向へ),図3に示すように「保護層47,偏光層48,保護層47,粘着層46,第1電極配向層43,液晶層49,第2電極配向層44,粘着層46,位相差補償フィルム45,粘着層46,保護層47,偏光層48,保護層47,粘着層46及びハードコート層26」が層状に順次設けられている。これらの層によって,「偏光板-電極層-配向膜-液晶層-配向膜-電極層-偏光板-ハードコート層」の積層構造が作られている。」
・・・(中略)・・・
【0068】
このように第1樹脂基材29と第2樹脂基材30との間には,第1樹脂基材29側に配置される第1電極層31と,第2樹脂基材30側に配置される第2電極層32とが設けられる。第1電極層31及び第2電極層32は,ITO(Indium Tin Oxide(酸化インジウムスズ))等の各種材料によって透明電極として形成可能であり,FPC(Flexible Printed Circuits)等の給電手段が接続され,電圧が印加される。第1電極層31及び第2電極層32に印加される電圧に応じて,第1電極層31と第2電極層32との間に配置される液晶層49に作用する電界が変わり,液晶層49を構成する液晶部材の配向が調整される。
【0069】
第1電極層31と第2電極層32との間には,第1電極層31側に配置される第1配向膜33と,第2電極層32側に配置される第2配向膜34とが設けられる。第1配向膜33及び第2配向膜34の製法は特に限定されず,任意の手法によって液晶配向能を有する第1配向膜33及び第2配向膜34を作ることができる。例えば,ポリイミド等の樹脂層に対してラビング処理を施すことで第1配向膜33及び第2配向膜34が作られてもよいし,高分子膜に直線偏光紫外線を照射して偏光方向の高分子鎖を選択的に反応させる光配向法に基づいて第1配向膜33及び第2配向膜34が作られてもよい。
【0070】
そして第1配向膜33と第2配向膜34との間には,図3に示すように,液晶層49の他にスペーサー52及びシール材36が設けられる。すなわち第1配向膜33と第2配向膜34との間には,第1配向膜33と第2配向膜34との間において液晶スペース35を区画するシール材36が設けられ,この液晶スペース35に液晶部材が充填されることで液晶層49が形成される。複数のスペーサー52は,少なくとも液晶スペース35に配置され,第1配向膜33及び第2配向膜34を支持するように離散的に配置される。(後略)」
「【0159】
<ゲストホスト液晶>
本発明は,ゲスト・ホスト型の液晶を用いる調光セル22にも適用可能である。すなわち,液晶層49は,二色性色素(ゲスト)及び液晶(ホスト)を含んでいてもよい。液晶層49が含有する二色性色素は,遮光性を有し,所望の可視光を遮断(吸収)可能な着色材であることが好ましい。」

上記記載のとおり,願書に添付した明細書には,訂正事項1-3に係る「前記調光セルは,第1樹脂基材,第1電極層及び第1配光膜を含む第1積層体と,第2樹脂基材及び第2配光膜を含む第2積層体と,前記第1積層体と前記第2積層体との間に設けられた二色性色素を含むゲスト・ホスト型の液晶層と,前記第1配光膜と前記第2配光膜との間で前記液晶層の液晶スペースを区画するシール材と,前記液晶層の厚さを規定する複数のスペーサーと,を有」することが記載されている。
なお,ここで,「第1配向膜」及び「第2配向膜」が液晶層に直接対面する構成となることは,技術常識から明らかである。

(ウ-4)訂正事項1-4に関し,願書に添付した明細書には,以下の記載がある。
「【0088】
なお,光透過プレート21の曲面20に対する貼り合わせに起因する調光セル22の皺等の歪みは,貼り合わせ処理の始め(すなわち貼合開始領域)において特に生じやすい。
当該知見に基づいて,調光装置10(光透過プレート21,光学透明粘着フィルム24及び調光セル22)において光学的な使用が本来的に意図されていない箇所やユーザーによって視認されにくい箇所を貼合開始領域として調光セル22を光透過プレート21の曲面20に貼り合わせることで,調光セル22の歪みの実質的な影響を低減できる。そのため,例えば液晶層49が設けられていないシール材36よりも外側の領域を貼合開始領域とすることで,液晶層49を通過する光に対する「調光セル22に生じる歪みによる影響」を実質的に低減できる。したがって,第1電極配向層43及び第2電極配向層44(特に第1電極層31及び第2電極層32)がシール材36の外側に延長され,この延長部にFPC等の「第1電極層31及び第2電極層32に対する給電手段」が接続される場合には,この「給電手段が接続される領域」を貼合開始領域として活用して当該領域から調光セル22を光透過プレート21の曲面20に貼り合わせることで,調光セル22に生じる歪みを効果的に隠すことができる。特に,第1電極層31及び第2電極層32の延長部分のうちFPC等の給電手段が接続される位置は,液晶層49が設けられる領域(アクティブエリア)からの距離が比較的長いため,貼合開始領域において生じる調光セル22の歪みを非アクティブエリアの範囲に収めることが容易である。」

ここで,一般に,液晶セルに対する外部からの給電のために,液晶層を挟む両基板の内の一方を延長して電極取り出し部を設けることは,以下の各刊行物にも記載されているように周知の構成である。
文献1:特開平9-61780号公報(特に図5)
文献2:特開2016-161862号公報(特に図6)
文献3:特開2016-164617号公報(特に図6)
文献4:特開2016-343515号公報(特に図4)

それゆえ,上記願書に添付した明細書の段落【0088】の記載における「第1電極配向層43及び第2電極配向層44(特に第1電極層31及び第2電極層32)がシール材36の外側に延長され,この延長部にFPC等の「第1電極層31及び第2電極層32に対する給電手段」が接続される場合」において,「第1電極配向層43及び第2電極配向層44」のいずれか一方を「延長」する構成とすることも記載されているに等しいといえる。
よって,願書に添付した明細書には,訂正事項1-4に係る「前記第1積層体は,前記液晶層の液晶スペースを区画するシール材の外側に延長され且つ前記光透過プレートの前記曲面に貼り合わされた延長部を有」することが記載されているといえる。

(ウ-5)訂正事項1-5に関し,願書に添付した明細書には,以下の記載がある。
「【0084】
またシール材36は,積層方向(第1配向膜33,シール材36及び第2配向膜34が積層する方向)に垂直な方向(すなわち幅方向)に関する長さが,1mm以上5mm以下であることが好ましく,1.5mmであることが特に好ましい。
【0085】
シール材36の幅方向に関する長さが小さいほど,調光セル22全体の剛性を低下させることができ,皺等の歪みを生じさせることなく調光セル22を曲面20に貼り合わせることが容易になる。その一方で,シール材36の幅方向に関する長さが小さ過ぎると,「液晶スペース35における液晶層49の封止」や「第1電極配向層43(第1配向膜33)と第2電極配向層44(第2配向膜34)との接着」というシール材36の本来の機能が損なわれる。これらの事情を総合的に勘案すると,シール材36の幅方向の長さは上述のように好ましくは1mm以上5mm以下(より好ましくは1.5mm)であることを本件発明者は新たに見出した。」

上記記載のとおり,願書に添付した明細書には,訂正事項1-5に係る「前記液晶層の液晶層を区画するシール材は,幅方向の長さが1mm以上,5mm以下である」ことが記載されている。

(ウ-6)訂正事項1-6に関し,願書に添付した明細書には,以下の記載がある。
「【0169】
図22は,ゲスト・ホスト型の液晶を用いる調光セル22の他の例(遮光状態)を説明するための概念図であり,調光セル22の断面を示す。図23は,図22と同じ調光セル22(光透過状態)を説明するための概念図であり,調光セル22の断面を示す。」

上記記載のとおり,願書に添付した明細書には,訂正事項1-6に係る「遮光状態と光透過状態とをとることのできる調光セル」が記載されている。

上記(ウ-1)ないし(ウ-6)のとおりであるから,訂正事項1-1ないし訂正事項1-6からなる訂正事項1は,特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合する。

エ 特許請求の範囲の拡張,変更の存否
訂正事項1は,上記イのとおり,特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり,この訂正が,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでないことは明らかである。
よって,訂正事項1は,特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合する。

オ 独立特許要件
本件においては,訂正前の請求項1,2,7?20について特許異議申立てがされているので,訂正前の請求項1に係る訂正事項1に関して,特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法126条第7項の独立特許要件は課されない。

(2)訂正事項2
ア 訂正事項2は,訂正前の請求項2に係るものであり,訂正事項2-1ないし訂正事項2-4からなる。
(ア-1)訂正事項2-1
訂正事項2-1は,「前記曲面は,三次元曲面であり,」との文言を加える訂正である。
(ア-2)訂正事項2-2
訂正事項2-2は,「前記調光セルは,第1樹脂基材と,当該第1樹脂基材上に設けられる第1透明電極及び第1配向膜と,を含む第1積層体と,第2樹脂基材と,当該第2樹脂基材上に設けられる第2配向膜と,を含む第2積層体と,前記第1積層体と前記第2積層体との間に設けられる液晶層と,を有し,」を,「前記調光セルは,第1樹脂基材と,当該第1樹脂基材上に設けられる第1透明電極及び第1配向膜と,を含む第1積層体と,第2樹脂基材と,当該第2樹脂基材上に設けられる第2配向膜と,を含む第2積層体と,前記第1積層体と前記第2積層体との間に設けられる二色性色素を含むゲスト・ホスト型の液晶層と,前記第1配光膜と前記第2配光膜との間で前記液晶層の液晶スペースを区画するシール材と,前記液晶層の厚さを規定する複数のスペーサーと,を有し,」とする訂正である。
(ア-3)訂正事項2-3
訂正事項2-3は,「前記第1積層体は,前記液晶層の液晶スペースを区画するシール材の外側に延長され且つ前記光透過プレートの前記曲面に貼り合わされた延長部を有し,」との文言を加える訂正である。
(ア-4)訂正事項2-4
訂正事項2-4は,「前記液晶層の液晶層を区画するシール材は,幅方向の長さが1mm以上,5mm以下であり,」との文言を加える訂正である。
(ア-5)訂正事項2-5
訂正事項2-5は,「調光セルと,」を「遮光状態と光透過状態とをとることのできる調光セルと,」とする訂正である。

イ 訂正の目的の適否
訂正事項2-1は,「曲面を有する光透過プレート」について,当該「曲面が,三次元曲面であ」ると限定するものである。
訂正事項2-2は,「液晶層」が「二色性色素を含むゲスト・ホスト型」であり,「前記第1積層体と前記第2積層体との間に」はさらに「液晶層の液晶スペースを区画するシール材と,前記液晶層の厚さを規定する複数のスペーサーと,を有」する点を限定するものである。
訂正事項2-3は,「第1積層体」について,「前記液晶層の液晶スペースを区画するシール材の外側に延長され且つ前記光透過プレートの前記曲面に貼り合わされた延長部を有」することを限定するものである。
訂正事項2-4は,訂正事項2-2で加えられた「シール材」について,その「幅方向の長さが1mm以上,5mm以下である」ことを規定するものである。
訂正事項2-5は,「調光セル」について,「遮光状態と光透過状態とをとることのできる」ものであることを限定するものである。
よって,訂正事項2-1ないし訂正事項2-5からなる訂正事項2は,特許法第120条の5第2項第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

ウ 新規事項追加の有無
(ウ-1)前記(1)ウ(ウ-1)に摘記したとおり,願書に添付した明細書には,訂正事項2-1に係る「光透過プレート21の曲面20」が「三次元曲面」であることが記載されている。

(ウ-2)前記(1)ウ(ウ-3)に摘記したとおり,願書に添付した明細書には,訂正事項2-2に係る「液晶層」が「二色性色素を含むゲスト・ホスト型」であり,「前記第1積層体と前記第2積層体との間に」はさらに「液晶層の液晶スペースを区画するシール材と,前記液晶層の厚さを規定する複数のスペーサーと,を有」することが記載されている。

(ウ-3)前記(1)ウ(ウ-4)における検討と同様の理由により,願書に添付した明細書には,訂正事項2-3に係る,「第1積層体」について,「前記液晶層の液晶スペースを区画するシール材の外側に延長され且つ前記光透過プレートの前記曲面に貼り合わされた延長部を有」することことが記載されているといえる。

(ウ-4)前記(1)ウ(ウ-5)に摘記したとおり,願書に添付した明細書には,訂正事項2-4に係る「シール材」について,その「幅方向の長さが1mm以上,5mm以下である」ことが記載されている。

(ウ-5)前記(1)ウ(ウ-6)に摘記したとおり,願書に添付した明細書には,訂正事項2-5に係る「遮光状態と光透過状態とをとることのできる調光セル」が記載されている。

上記(ウ-1)ないし(ウ-5)のとおりであるから,訂正事項2-1ないし訂正事項2-5からなる訂正事項2は,特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合する。

エ 特許請求の範囲の拡張,変更の存否
訂正事項2は,上記イのとおり,特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり,この訂正が,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでないことは明らかである。
よって,訂正事項2は,特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合する。

オ 独立特許要件
本件においては,訂正前の請求項1,2,7?20について特許異議申立てがされているので,訂正前の請求項2に係る訂正事項2に関して,特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法126条第7項の独立特許要件は課されない。

(3)訂正事項3
ア 訂正の目的の適否
訂正事項3は,訂正前の請求項3が,訂正前の請求項2の記載を引用するものであるところ,当該請求項2の記載を引用しないものとし,独立形式の請求項に改める訂正であるから,特許法第120条の5第2項第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものに該当する。

イ 新規事項追加の有無,特許請求の範囲の拡張,変更の存否及び独立特許要件
上記アのとおり,訂正事項3は,特許法第120条の5第2項第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものに該当するものであり,当該訂正は,新たな技術事項を導入するものではなく,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでない。また,当該訂正後に係る請求項3によって特定される発明は,当該訂正前と同様に,特許出願の際独立して特許を受けることができるものといえる。よって,訂正事項3は,特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項ないし第7項の規定に適合する。

(4)訂正事項4
ア 訂正の目的の適否
訂正事項4は,訂正前の請求項4が,訂正前の請求項2又は3の記載を引用するものであるところ,当該請求項2又は3の記載を引用しないものとし,独立形式の請求項に改める訂正であるから,特許法第120条の5第2項第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものに該当する。

イ 新規事項追加の有無,特許請求の範囲の拡張,変更の存否及び独立特許要件
上記アのとおり,訂正事項4は,特許法第120条の5第2項第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものに該当するものであり,当該訂正は,新たな技術事項を導入するものではなく,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでない。また,当該訂正後に係る請求項4によって特定される発明は,当該訂正前と同様に,特許出願の際独立して特許を受けることができるものといえる。よって,訂正事項4は,特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項ないし第7項の規定に適合する。

(5)訂正事項5
ア 訂正の目的の適否
訂正事項5は,訂正前の請求項5が,訂正前の請求項2又は3の記載を引用するものであるところ,当該請求項2又は3の記載を引用しないものとし,独立形式の請求項に改める訂正であるから,特許法第120条の5第2項第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものに該当する。

イ 新規事項追加の有無,特許請求の範囲の拡張,変更の存否,及び独立特許要件
上記アのとおり,訂正事項5は,特許法第120条の5第2項第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものに該当するものであり,当該訂正は,新たな技術事項を導入するものではなく,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでない。また,当該訂正後に係る請求項5によって特定される発明は,当該訂正前と同様に,特許出願の際独立して特許を受けることができるものといえる。よって,訂正事項5は,特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項ないし第7項の規定に適合する。

(6)訂正事項6
ア 訂正事項6は,訂正前の請求項7に係るものであり,訂正事項6-1ないし訂正事項6-4からなる。
(ア-1)訂正事項6-1
訂正事項6-1は,「前記曲面は,三次元曲面であり,」との文言を加える訂正である。
(ア-2)訂正事項6-2
訂正事項6-2は,「前記調光セルは,第1樹脂基材を含む第1積層体と,第2樹脂基材を含む第2積層体と,前記第1積層体と前記第2積層体との間に設けられる液晶層と,を有する」を,「前記調光セルは,第1樹脂基材,第1電極層及び第1配光膜を含む第1積層体と,第2樹脂基材及び第2配光膜を含む第2積層体と,前記第1積層体と前記第2積層体との間に設けられる二色性色素を含むゲスト・ホスト型の液晶層と,前記第1配光膜と前記第2配光膜との間で前記液晶層の液晶スペースを区画するシール材と,前記液晶層の厚さを規定する複数のスペーサーと,を有し,」とする訂正である。
(ア-3)訂正事項6-3
訂正事項6-3は,「前記第1積層体は,前記液晶層の液晶スペースを区画するシール材の外側に延長され且つ前記光透過プレートの前記曲面に貼り合わされた延長部を有し,」との文言を追加する訂正である。
(ア-4)訂正事項6-4
訂正事項6-4は,「前記液晶層の液晶層を区画するシール材は,幅方向の長さが1mm以上,5mm以下である」との文言を追加する訂正である。
(ア-5)訂正事項6-5
訂正事項6-5は,「調光セルと,」を「遮光状態と光透過状態とをとることのできる調光セルと,」とする訂正である。

イ 訂正の目的の適否
訂正事項6-1は,「曲面を有する光透過プレート」について,当該「曲面が,三次元曲面であ」ると限定するものである。
訂正事項6-2は,「第1積層体」が「第1電極層及び第1配光膜を含」み,「第2積層体」が「第2配光膜を含」み,「液晶層」が「二色性色素を含むゲスト・ホスト型」であり,「前記第1積層体と前記第2積層体との間に」はさらに「液晶層の液晶スペースを区画するシール材と,前記液晶層の厚さを規定する複数のスペーサーと,を有」する点を限定するものである。
訂正事項6-3は,「第1積層体」について,「前記液晶層の液晶スペースを区画するシール材の外側に延長され且つ前記光透過プレートの前記曲面に貼り合わされた延長部を有」することを限定するものである。
訂正事項6-4は,訂正事項6-2で加えられた「シール材」について,その「幅方向の長さが1mm以上,5mm以下である」ことを規定するものである。
訂正事項6-5は,「調光セル」について,「遮光状態と光透過状態とをとることのできる」ものであることを限定するものである。
よって,訂正事項6-1ないし訂正事項6-5からなる訂正事項6は,特許法第120条の5第2項第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

ウ 新規事項追加の有無
(ウ-1)前記(1)ウ(ウ-1)に摘記したとおり,願書に添付した明細書には,訂正事項6-1に係る「光透過プレート21の曲面20」が「三次元曲面」であることが記載されている。

(ウ-2)前記(1)ウ(ウ-3)に摘記したとおり,願書に添付した明細書には,訂正事項6-2に係る,「前記調光セルは,第1樹脂基材,第1電極層及び第1配光膜を含む第1積層体と,第2樹脂基材及び第2配光膜を含む第2積層体と,前記第1積層体と前記第2積層体との間に設けられる二色性色素を含むゲスト・ホスト型の液晶層と,前記第1配光膜と前記第2配光膜との間で前記液晶層の液晶スペースを区画するシール材と,前記液晶層の厚さを規定する複数のスペーサーと,を有」することが記載されている。

(ウ-3)前記(1)ウ(ウ-4)における検討と同様の理由により,願書に添付した明細書には,訂正事項6-3に係る,「第1積層体」について,「前記液晶層の液晶スペースを区画するシール材の外側に延長され且つ前記光透過プレートの前記曲面に貼り合わされた延長部を有」することことが記載されているといえる。

(ウ-4)前記(1)ウ(ウ-5)に摘記したとおり,願書に添付した明細書には,訂正事項6-4に係る「シール材」について,その「幅方向の長さが1mm以上,5mm以下である」ことが記載されている。

(ウ-5)前記(1)ウ(ウ-6)に摘記したとおり,願書に添付した明細書には,訂正事項6-5に係る「遮光状態と光透過状態とをとることのできる調光セル」が記載されている。

上記(ウ-1)ないし(ウ-5)のとおりであるから,訂正事項6-1ないし訂正事項6-5からなる訂正事項6は,特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合する。

エ 特許請求の範囲の拡張,変更の存否
訂正事項6は,上記イのとおり,特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり,この訂正が,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでないことは明らかである。
よって,訂正事項6は,特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合する。

オ 独立特許要件
本件においては,訂正前の請求項1,2,7?20について特許異議申立てがされているので,訂正前の請求項7に係る訂正事項6に関して,特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法126条第7項の独立特許要件は課されない。

(7)訂正事項7
ア 訂正事項7は,訂正前の請求項18に係るものであり,訂正事項7-1ないし訂正事項7-5からなる。
(ア-1)訂正事項7-1
訂正事項7-1は,「前記曲面は,三次元曲面であり,」との文言を加える訂正である。
(ア-2)訂正事項7-2
訂正事項7-2は,「前記調光セルは,第1樹脂基材を含む第1積層体と,第2樹脂基材を含む第2積層体と,前記第1積層体と前記第2積層体との間に設けられた二色性色素を含む液晶層と,を有し,」を,「前記調光セルは,第1樹脂基材,第1電極層及び第1配光膜を含む第1積層体と,第2樹脂基材及び第2配光膜を含む第2積層体と,前記第1積層体と前記第2積層体との間に設けられた二色性色素を含むゲスト・ホスト型の液晶層と,前記第1配光膜と前記第2配光膜との間で前記液晶層の液晶スペースを区画するシール材と,前記液晶層の厚さを規定する複数のスペーサーと,を有し,」とする訂正である。
(ア-3)訂正事項7-3
訂正事項7-3は,「前記第1積層体は,前記液晶層の液晶スペースを区画するシール材の外側に延長され且つ前記光透過プレートの前記曲面に貼り合わされた延長部を有し,」との文言を加える訂正である。
(ア-4)訂正事項7-4
訂正事項7-4は,「前記液晶層の液晶層を区画するシール材は,幅方向の長さが1mm以上,5mm以下であり,」との文言を加える訂正である。
(ア-5)訂正事項7-5
訂正事項7-5は,「調光セルと,」を「遮光状態と光透過状態とをとることのできる調光セルと,」とする訂正である。

イ 訂正の目的の適否
訂正事項7-1は,「曲面を有する光透過プレート」について,当該「曲面が,三次元曲面であ」ると限定するものである。
訂正事項7-2は,「第1積層体」が「第1電極層及び第1配光膜を含」み,「第2積層体」が「第2配光膜を含」み,「二色性色素を含む液晶層」が「ゲスト・ホスト型」であり,「前記第1積層体と前記第2積層体との間に」はさらに「液晶層の液晶スペースを区画するシール材と,前記液晶層の厚さを規定する複数のスペーサーと,を有」する点を限定するものである。
訂正事項7-3は,「第1積層体」について,「前記液晶層の液晶スペースを区画するシール材の外側に延長され且つ前記光透過プレートの前記曲面に貼り合わされた延長部を有」することを限定するものである。
訂正事項7-4は,訂正事項7-2で加えられた「シール材」について,その「幅方向の長さが1mm以上,5mm以下である」ことを規定するものである。
訂正事項7-5は,「調光セル」について,「遮光状態と光透過状態とをとることのできる」ものであることを限定するものである。
よって,訂正事項7-1ないし訂正事項7-5からなる訂正事項7は,特許法第120条の5第2項第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

ウ 新規事項追加の有無
(ウ-1)前記(1)ウ(ウ-1)に摘記したとおり,願書に添付した明細書には,訂正事項7-1に係る「光透過プレート21の曲面20」が「三次元曲面」であることが記載されている。

(ウ-2)前記(1)ウ(ウ-3)に摘記したとおり,願書に添付した明細書には,訂正事項7-2に係る「二色性色素を含む液晶層」が「ゲスト・ホスト型」であり,「前記第1積層体と前記第2積層体との間に」はさらに「液晶層の液晶スペースを区画するシール材と,前記液晶層の厚さを規定する複数のスペーサーと,を有」することが記載されている。

(ウ-3)前記(1)ウ(ウ-4)における検討と同様の理由により,願書に添付した明細書には,訂正事項7-3に係る,「第1積層体」について,「前記液晶層の液晶スペースを区画するシール材の外側に延長され且つ前記光透過プレートの前記曲面に貼り合わされた延長部を有」することことが記載されているといえる。

(ウ-4)前記(1)ウ(ウ-5)に摘記したとおり,願書に添付した明細書には,訂正事項7-4に係る「シール材」について,その「幅方向の長さが1mm以上,5mm以下である」ことが記載されている。

(ウ-5)前記(1)ウ(ウ-6)に摘記したとおり,願書に添付した明細書には,訂正事項7-5に係る「遮光状態と光透過状態とをとることのできる調光セル」が記載されている。

上記(ウ-1)ないし(ウ-5)のとおりであるから,訂正事項7-1ないし訂正事項7-5からなる訂正事項7は,特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合する。

エ 特許請求の範囲の拡張,変更の存否
訂正事項7は,上記イのとおり,特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり,この訂正が,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでないことは明らかである。
よって,訂正事項7は,特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合する。

オ 独立特許要件
本件においては,訂正前の請求項1,2,7?20について特許異議申立てがされているので,訂正前の請求項18に係る訂正事項7に関して,特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法126条第7項の独立特許要件は課されない。

(8)一群の請求項について
訂正前の請求項13,14,16,17,19及び20は,請求項1を直接的又は間接的に引用しており,訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであり,訂正前の請求項3?6,13,14,16,17,19及び20は,請求項2を直接的又は間接的に引用しており,訂正事項2によって記載が訂正される請求項2に連動して訂正されるものであり,訂正前の請求項8?13,15?17,19及び20は,請求項7を直接的又は間接的に引用しており,訂正事項6によって記載が訂正される請求項7に連動して訂正されるものであり,訂正前の請求項19及び20は,請求項18を直接的又は間接的に引用しており,訂正事項7によって記載が訂正される請求項18に連動して訂正されるものである。
すなわち,上記各訂正事項によって記載が訂正される各請求項,及び上記の各々連動して訂正される各請求項は,請求項19及び請求項20を介して,一体として特許請求の範囲全体を形成するように連関する関係にある。
よって,訂正前の請求項1?20に対応する訂正後の請求項1?20は,特許法120条の5第4項の規定する一群の請求項である。

(9)むすび
以上のとおりであるから,本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条第4項,及び同条第9項において準用する同法第126条第4項から第7項までの規定に適合するので,訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項1?20について訂正を認める。

第3 訂正発明
上記のとおり,本件訂正が認められたので,本件特許の訂正後の請求項1?20に係る発明(以下「訂正発明1」?「訂正発明20」という。)は,請求項1?20に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
1又は複数のガラスプレートを含み,曲面を有する光透過プレートと,
遮光状態と光透過状態とをとることのできる調光セルと,
前記光透過プレートの前記曲面と前記調光セルとの間に配置され,前記光透過プレートの前記曲面に前記調光セルの一方側を接着する光学透明粘着フィルムと,を備える調光装置であって,
前記曲面は,三次元曲面であり,
前記光透過プレートは,前記調光セルの一方側のみに配置されており,
前記調光セルは,第1樹脂基材,第1電極層及び第1配光膜を含む第1積層体と,第2樹脂基材及び第2配光膜を含む第2積層体と,前記第1積層体と前記第2積層体との間に設けられた二色性色素を含むゲスト・ホスト型の液晶層と,前記第1配光膜と前記第2配光膜との間で前記液晶層の液晶スペースを区画するシール材と,前記液晶層の厚さを規定する複数のスペーサーと,を有し,
前記第1積層体は,前記液晶層の液晶スペースを区画するシール材の外側に延長され且つ前記光透過プレートの前記曲面に貼り合わされた延長部を有し,
前記液晶層の液晶層を区画するシール材は,幅方向の長さが1mm以上,5mm以下である調光装置。
【請求項2】
1又は複数のガラスプレートを含み,曲面を有する光透過プレートと,
遮光状態と光透過状態とをとることのできる調光セルと,
前記光透過プレートの前記曲面と前記調光セルとの間に配置され,前記光透過プレートの前記曲面に前記調光セルの一方側を接着する光学透明粘着フィルムと,を備える調光装置であって,
前記曲面は,三次元曲面であり,
前記調光セルは,
第1樹脂基材と,当該第1樹脂基材上に設けられる第1透明電極及び第1配向膜と,を含む第1積層体と,
第2樹脂基材と,当該第2樹脂基材上に設けられる第2配向膜と,を含む第2積層体と,
前記第1積層体と前記第2積層体との間に設けられる二色性色素を含むゲスト・ホスト型の液晶層と,
前記第1配光膜と前記第2配光膜との間で前記液晶層の液晶スペースを区画するシール材と,前記液晶層の厚さを規定する複数のスペーサーと,
を有し,
前記第1積層体は,前記液晶層の液晶スペースを区画するシール材の外側に延長され且つ前記光透過プレートの前記曲面に貼り合わされた延長部を有し,
前記液晶層の液晶層を区画するシール材は,幅方向の長さが1mm以上,5mm以下であり,
前記第1積層体及び前記第2積層体の各々は,E型の直線偏光板を含む調光装置。
【請求項3】
1又は複数のガラスプレートを含み,曲面を有する光透過プレートと,
調光セルと,
前記光透過プレートの前記曲面と前記調光セルとの間に配置され,前記光透過プレートの前記曲面に前記調光セルの一方側を接着する光学透明粘着フィルムと,を備える調光装置であって,
前記調光セルは,
第1樹脂基材と,当該第1樹脂基材上に設けられる第1透明電極及び第1配向膜と,を含む第1積層体と,
第2樹脂基材と,当該第2樹脂基材上に設けられる第2配向膜と,を含む第2積層体と,
前記第1積層体と前記第2積層体との間に設けられる液晶層と,を有し,
前記第1積層体及び前記第2積層体の各々は,E型の直線偏光板を含み,
前記第1積層体の前記直線偏光板は,前記第1樹脂基材上の前記液晶層側に設けられ,
前記第2積層体の前記直線偏光板は,前記第2樹脂基材上の前記液晶層側に設けられている調光装置。
【請求項4】
1又は複数のガラスプレートを含み,曲面を有する光透過プレートと,
調光セルと,
前記光透過プレートの前記曲面と前記調光セルとの間に配置され,前記光透過プレートの前記曲面に前記調光セルの一方側を接着する光学透明粘着フィルムと,を備える調光装置であって,
前記調光セルは,
第1樹脂基材と,当該第1樹脂基材上に設けられる第1透明電極及び第1配向膜と,を含む第1積層体と,
第2樹脂基材と,当該第2樹脂基材上に設けられる第2配向膜と,を含む第2積層体と,
前記第1積層体と前記第2積層体との間に設けられる液晶層と,を有し,
前記第1積層体及び前記第2積層体の各々は,E型の直線偏光板を含み,
前記第1積層体には,
前記第1樹脂基材上に,前記第1透明電極,前記直線偏光板,ネガティブCプレート層及び前記第1配向膜が順次設けられ,
前記第2積層体には,
前記第2樹脂基材上に,前記直線偏光板及び前記第2配向膜が順次設けられている調光装置。
【請求項5】
1又は複数のガラスプレートを含み,曲面を有する光透過プレートと,
調光セルと,
前記光透過プレートの前記曲面と前記調光セルとの間に配置され,前記光透過プレートの前記曲面に前記調光セルの一方側を接着する光学透明粘着フィルムと,を備える調光装置であって,
前記調光セルは,
第1樹脂基材と,当該第1樹脂基材上に設けられる第1透明電極及び第1配向膜と,を含む第1積層体と,
第2樹脂基材と,当該第2樹脂基材上に設けられる第2配向膜と,を含む第2積層体と,
前記第1積層体と前記第2積層体との間に設けられる液晶層と,を有し,
前記第1積層体及び前記第2積層体の各々は,E型の直線偏光板を含み,
前記第1積層体には,
前記第1樹脂基材上に,前記直線偏光板,ネガティブCプレート層,前記第1透明電極及び前記第1配向膜が順次設けられ,
前記第2積層体には,
前記第2樹脂基材上に,前記直線偏光板,前記第2配向膜が順次設けられている調光装置。
【請求項6】
前記第1積層体では,前記ネガティブCプレート層が粘着剤層上に積層されている請求項4又は5に記載の調光装置。
【請求項7】
1又は複数のガラスプレートを含み,曲面を有する第1光透過プレートと,
第2光透過プレートと,
前記第1光透過プレートと前記第2光透過プレートとの間に配置され,遮光状態と光透過状態とをとることのできる調光セルと,
前記第1光透過プレートの前記曲面と前記調光セルとの間に配置され,前記第1光透過プレートの前記曲面に前記調光セルの一方側を接着する光学透明粘着フィルムと,を備え,
前記曲面は,三次元曲面であり,
前記調光セルは,第1樹脂基材,第1電極層及び第1配光膜を含む第1積層体と,第2樹脂基材及び第2配光膜を含む第2積層体と,前記第1積層体と前記第2積層体との間に設けられる二色性色素を含むゲスト・ホスト型の液晶層と,前記第1配光膜と前記第2配光膜との間で前記液晶層の液晶スペースを区画するシール材と,前記液晶層の厚さを規定する複数のスペーサーと,を有し,
前記第1積層体は,前記液晶層の液晶スペースを区画するシール材の外側に延長され且つ前記光透過プレートの前記曲面に貼り合わされた延長部を有し,
前記液晶層の液晶層を区画するシール材は,幅方向の長さが1mm以上,5mm以下である調光装置。
【請求項8】
前記第2光透過プレートは,前記調光セルから離間して配置される請求項7に記載の調光装置。
【請求項9】
前記第2光透過プレートは,接着層を介して前記調光セルに取り付けられる請求項7に記載の調光装置。
【請求項10】
前記第2光透過プレートと前記調光セルとの間はシール材によって封止されている請求項7に記載の調光装置。
【請求項11】
前記シール材によって封止された前記第2光透過プレートと前記調光セルとの間にはシリコーンが配置されている請求項10に記載の調光装置。
【請求項12】
前記シール材によって封止された前記第2光透過プレートと前記調光セルとの間は真空である請求項10に記載の調光装置。
【請求項13】
反射防止層を更に備える請求項1?12のいずれか一項に記載の調光装置。
【請求項14】
反射防止層を更に備え,
前記反射防止層は,前記調光セル及び前記光透過プレートのうちの少なくともいずれか一方に設けられる請求項1?6のいずれか一項に記載の調光装置。
【請求項15】
反射防止層を更に備え,
前記反射防止層は,前記調光セル及び前記第2光透過プレートのうちの少なくともいずれか一方に設けられる請求項7?12のいずれか一項に記載の調光装置。
【請求項16】
前記反射防止層は,アンチグレア層,アンチリフレクション層及び低反射層のうちの少なくとも1つを含む請求項13に記載の調光装置。
【請求項17】
前記曲面は,三次元曲面である請求項1?16のいずれか一項に記載の調光装置。
【請求項18】
曲面を有する光透過プレートと,
遮光状態と光透過状態とをとることのできる調光セルと,
前記光透過プレートの前記曲面と前記調光セルとの間に配置され,前記光透過プレートの前記曲面に前記調光セルの一方側を接着する光学透明粘着フィルムと,を備える調光装置であって,
前記曲面は,三次元曲面であり,
前記調光セルは,第1樹脂基材,第1電極層及び第1配光膜を含む第1積層体と,第2樹脂基材及び第2配光膜を含む第2積層体と,前記第1積層体と前記第2積層体との間に設けられた二色性色素を含むゲスト・ホスト型の液晶層と,前記第1配光膜と前記第2配光膜との間で前記液晶層の液晶スペースを区画するシール材と,前記液晶層の厚さを規定する複数のスペーサーと,を有し,
前記第1積層体は,前記液晶層の液晶スペースを区画するシール材の外側に延長され且つ前記光透過プレートの前記曲面に貼り合わされた延長部を有し,
前記液晶層の液晶層を区画するシール材は,幅方向の長さが1mm以上,5mm以下であり,
前記光学透明粘着フィルムは,前記光学透明粘着フィルム及び前記調光セルが積層する方向に関する厚さが,50μm以上500μm以下であり,室温環境での貯蔵弾性率が,1×10^(7)Pa以上1×10^(8)Pa以下である調光装置。
【請求項19】
前記光学透明粘着フィルムは,損失正接が0.5以上1.5以下である請求項1?18のいずれか一項に記載の調光装置。
【請求項20】
請求項1?19のいずれか一項に記載の調光装置を備える車両。」

第4 取消理由の概要
訂正前の請求項1,2,7?20に係る特許に対して,当審が特許権者に通知した取消理由の概要は以下のとおりである。
甲第1号証 特表2013-531276号公報
甲第2号証 国際公開2010/100807号
甲第3号証 特開2007-61446号公報
甲第4号証 特開平6-160823号公報
甲第5号証 特開2011-59266号公報
甲第6号証 特開2006-330100号公報
甲第7号証 特開2008-231358号公報

理由(第29条第2項)
請求項1,2,7?20に係る発明は,いずれも周知技術を勘案して,甲第3号証に記載された発明及び甲第4?7号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 取消理由についての判断
1 甲3発明
ア 本件出願前に日本国内で頒布された文献である甲第3号証(特開2007-61446号公報)には以下の記載がある。

「【請求項4】
透明パネルに電気的に駆動される光学素子が複数備えられ,
光学素子は,その面全体がほぼ透明になる透明状態と,模様及び/又は文字を含む情報を表示する情報表示状態とが備えられ,
前記複数の光学素子の前記情報表示状態はそれぞれ視認され得るように配置され,
(a1)前記透明状態と前記情報表示状態のいずれか一つの状態は非駆動時に安定に保持され,
(a2)前記透明状態と前記情報表示状態は可逆的に切り替えることができ,
(b)前記透明状態を呈している光学素子の領域を,可視光線が一方の外表面から他方の外表面に向けて通過する場合の全光線透過率が60%以上であり,
(c3)全ての光学素子の全面がほぼ透明状態になる場合と,少なくとも一つの光学素子が前記情報表示状態となる場合,とが備えられ,
以下の(d)又は(e)の条件を満たすように光学素子が駆動されてなる調光装置。
(d)予め設定された動作シーケンスに従って,全ての光学素子についての前記透明状態又は前記情報表示状態の二つの状態を切り替える。
(e)センサーがさらに備えられ,透明パネルから所定の距離に存在する物体が前記センサーによって検出され,前記透明状態と前記情報表示状態の二つの状態の切り替えのタイミングが前記センサーの出力によって制御される。」

「【0042】
本発明に用いる光学素子として,非駆動時に透明状態または情報表示状態が安定に保持されるものを採用する。特許文献4の液晶光学素子は,非駆動時に「透明」であり,駆動時に「散乱(白濁)」する動作モードを呈する。その改良発明として本出願人等による特願2004-367513がある。光学素子を保護するために,樹脂構造をさらに工夫することにより,耐衝撃性を向上したものである。
・・・(中略)・・・
【0044】
図1にその模式的断面図を示す。この液晶/樹脂複合体素子40は,表基板41と裏基板42の間に配向膜43,49,樹脂/液晶複合体層45,スペーサ46,周辺シール47,マトリックス電極44,48が備えられている。図2は,液晶のプレチルト状態を示す模式図である。図3は,形成した液晶光学素子の断面写真(a)と,液晶を除去した後の樹脂構造を斜め方向から撮影した斜視図(b)である。図3のものは,基板断面方向において,斜めに配列した樹脂が含まれている。本発明では,この液晶光学素子を用いることができ,その高速動作を利用して,表示を任意に切り替えることに適するのである。」

「【0047】
本発明において,透明パネルには,強度,加工性の点などから板ガラスを用いることが好ましい。板ガラスの具体的な性能,規格については「旭硝子板ガラス建材総合カタログ(2003年3月第1刷発行)」(普通板ガラス,合わせガラス,強化ガラス等)に記載されている。基本的には,可視光透過率が80%以上の板ガラスを用いることが好ましい。さらには,90 %以上のものを用いることが好ましい。より,透明表示体としてのディスプレイ機能と訴求力が期待できる。さらには,色再現性を向上させた高透過・高透明ガラスを用いるとさらに,透明表示体としての訴求力を高めることができる。そのような板ガラスとして,クラリティア(登録商標:旭硝子社の高透過・高透明ガラス)がある。
【0048】
また,板ガラスを用いる場合,熱線反射ガラスや熱線吸収ガラスを用いることもできる。また,ドア装置の透明パネルとして,テンパライト(登録商標)を用いることもできる。透明パネルの外表面に低反射性コーティングを施すことが好ましい。」

「【0050】
本発明において,前記透明状態において,光学素子の全面がほぼ透明状態になることを前提としているが,全波長域において「透明」ではなく,有色透明であってもよいし,光学素子または透明パネルの一部が半透明,あるいは部分的に不透明であってもよい。特定の文字情報や模様を固定表示とし,常時視認するようにして用いる場合を含めるものである。また,「透明状態」といっても,光学素子の内部構造に不透明部材が存在することは必至であるので,情報受容者の視点から見て,ほぼ透明であるかのように感ずることができる程度であればよい。」

「【0067】
上記液晶光学素子1は,図6に示すように,第1のガラス基板61a,第2のガラス基板61b,第1電極62a,第2電極62b,第1高分子薄膜63a,第2高分子薄膜63b,及び光学機能層たる液晶層64等を備える。液晶層64には,フォーカルコニック状態とプレナー状態を安定に呈するカイラルネマチック液晶を用いる。」

「【0068】
第1のガラス基板61aの上には第1電極62aが形成されている。第1電極62aの上には第1高分子薄膜63aが形成されている。第2のガラス基板61bの上にも同様に第2電極62b,さらにその上に第2高分子薄膜63bが形成されている。そして,第1高分子薄膜63a,第2高分子薄膜63bがそれぞれ内側となるように第1のガラス基板61aと第2のガラス基板62bとが貼り合わされる。そして,第1のガラス基板61aと第2のガラス基板62bとの間には液晶層64が挟持されている。」

「【0069】
第1電極62a及び第2電極62bは,それぞれストライプ状に複数配列されている。第1電極62a,第2電極62bの一方は,行電極(コモン電極)であり,他方は列電極(セグメント電極)であり,互いに直交するように配置されている。以下の説明では,第2電極62bが列電極であり,第1電極62aが行電極であるとする。」

「【0070】
第1高分子薄膜63a,第2高分子薄膜63bには,プレチルト角が60゜以上となるような樹脂膜を用いることが好ましい。プレチルト角が60℃以上となる樹脂膜としては,ガラス転移温度が60℃以上,好ましくは,100℃以上の硬化した樹脂を好適に用いることができる。第1高分子薄膜63a及び第2高分子薄膜63bは,ラビング処理を施すことが好ましい。好適な材料としては,ポリイミドを挙げることができる。なお,ここで言うプレチルト角とは,樹脂膜にネマチック液晶が接した際に,その接触面で形成される面に対する液晶分子の配向角度である(液晶が基板面に平行な場合を0゜とする)。」

「【0085】
また,透明パネルの一部又は全体が曲面体であってもよい。曲面体の曲面部(例えば,半円柱状部分など)に光学素子を設置するには,光学素子の基板をフィルム基板とし,柔軟構造を有する表示素子を採用すればよい。カイラルネマチック液晶光学素子をフィルム基板間に設けて,曲面化できる例が知られている。この場合,駆動ICなどはフィルム基板の端に相互の間隙を空けて設置し,ある程度の屈曲にたえるような構造にすればよい。」

「【0086】
また,本実施形態1の展示装置10においては,壁面2の開口部前面を覆うように液晶光学素子1を配設したが,開口部全面に一枚のガラス等の透明板を配設し,この透明板に,ポリビニルブチラール等の接着シート等を介して液晶光学素子1を貼り合わせるようにしてもよい。また,後述する実施形態3又は変形例2に記載のように一対の透明板に光学素子を挟持する構造としてもよい。」

「【0092】
一般的に,液晶光学素子はその外周部にフレームを備えている。そして,このフレーム内にTCPやTCPと接続されるFPC等の外部配線が収容されている。フレームを用いる場合は極力,そのサイズを小さくし,全体の見栄えに影響しないようにする。(・・・後略・・・)」

「【0114】
図11に示すように,透明な第1板ガラス65A及び第2板ガラス65Bは,前面と背面に対向配置されている。第1板ガラス65A及び第2板ガラス65Bとしては,複層ガラス(例えば,旭硝子社製の「ペヤグラス」(商品名))等を用いることができる。それぞれの厚みは,例えば3mmとする。第1板ガラス65A,第2板ガラス65Bの間に設けられた内空間66の一面に,光学素子として液晶光学素子1を配置する。液晶光学素子1は,第1板ガラス65 Aの内側の主面と当接するように配置される。液晶光学素子1の外周には液晶光学素子1の位置を規制するスペーサー67を設ける。必要な端子はスペーサー67を介して貫通して外部に取り出す。」

「【0115】
スペーサー67には断熱性があり,かつ透明な材料を用いることが好ましい。スペーサー67により,液晶光学素子1が板ガラス65Aに固定される。図10に示す構成では,1対の透明板23の間に6枚の液晶光学素子が配置されているため,図1 1に示す構成と同様の構成が6個設けられることになる。透明板の外周にもスペーサー67が配置される。このスペーサー67により,大型の一対の透明板23の間に挟持されたそれぞれの液晶光学素子1の位置が規制される。なお,板ガラス65 Aと液晶光学素子1とを接着シートを介して接着することも可能である。」

「【0116】
内空間66は例えば,乾燥空気等の気体が封入された気体層とする。2枚の板ガラスに挟まれた内部の気体層が熱の伝導を抑え,高断熱効果をもつ。これにより,間仕切り壁が屋外に設置されるような環境条件下であっても,液晶光学素子1の温度変化を低減することができる。すなわち,気温の変化によって,液晶光学素子1の温度が変化するのを防ぐことができる。よって,液晶光学素子1の表示特性の劣化を防ぐことができる。」

「【0119】
本実施形態3において,可視光域における光線透過率は基本的に60%以上であることが好ましく,さらに好ましくは70%以上とする。例えば,上述のカイラルネマチック液晶のような高透過性光学素子を用いることにより,可視域の波長で80%以上の光線透過率を達成することができる。アンチグレア処理等のための光学薄膜を含んでもよい。」

「【0126】
第1板ガラス65A,第2板ガラス65Bの間隙に形成される空間には,透明固体層68が充填せしめられている。これにより,外部からの衝撃を効果的に緩和して,内蔵ざれた液晶光学素子1を効果的に保護することができる。透明固体層68は,第1板ガラス65A及び第2板ガラス65Bと固着性を備えているものを用いることが好ましい。透明固体層68には光線透過率の高い材料を用いることが好ましい。透明固体層68の厚みは,使用環境等に応じて適宜選定する。また,透明固体層68と液晶光学素子1に用いられる透明基板との屈折率差が小さい方が好ましい。これにより,透明固体層68と液晶光学素子1との視覚的な一体性を高めることができる。」

「【0132】
一対の透明板53は,略同一の大きさの矩形状の平面体からなり,互いに対向配置されている。間仕切り壁50の内部を保護し,箇体として機能するように間仕切り壁50の前面と背面に配置されている。なお,一対の透明板53は,平面体からなるものに限定されず,例えばそれぞれ独立に曲面状のものを用いてもよい。
【0133】
一対の透明板53は,液晶光学素子51のための保護プレートとして機能するため,不撓性透明板が使用されることが好ましい。一対の透明板53は,ガラス若しくはポリカーボネートなどの透明樹脂を用いることができる。間仕切り壁50の設置場所や用途に応じて,適切な材料を選択する。軽量化の観点からは,樹脂を利用することが好ましい。公共的な場所に設置する場合などにおいては,表面に傷がつきにくく,強度の点で優れたガラス板を使用することが好ましい。車両用に使用される強化ガラス,風冷強化法や化学強化法で製造した通常の強化ガラスを適用してもよい。また,二枚のガラスを樹脂層を介して積層した合わせガラス構造のものを用いてもよい。」

「【0162】
また,自動車のサンルーフまたはムーンルーフとして本例の天窓を用いることができる。この場合,いわゆるプライバシー保護のために,全体を散乱・白濁状態となる光学状態を備えていることが好ましい。情報表示状態としては,広告・宣伝等の目的で所望の表示をさせることができる。あるいは,投射装置を併用して,所望の静止画・動画などの画面表示を行い,搭乗者がそれを視聴することもできる。さらに,熱線反射・吸収材などを適宜配置し,遮熱・遮光の機能を本例の天窓に付加することもできる。」

「【0190】
なお,上記実施形態及び変形例においては,通常は,広告等の情報を表示し,情報受容者が接近すると透明になる態様について説明したが,その逆の態様であってもよい。すなわち,通常は透明状態であり,情報受容者が接近した場合に広告等の情報が表示される態様であってもよい。また,上記の各実施形態,実施例における構成要件の変形例は,その他の実施形態,実施例の実施に妨げのない範囲で,自由に適合させることができるのは言うまでもない。」

イ ここで,図1は以下のものである。


ここで,技術常識を勘案すると,配向膜43はマトリクス電極48を覆い樹脂/液晶複合体層45に直接対向し,配向膜49はマトリクス電極44を覆い樹脂/液晶複合体層45に直接対向するものであることは明らかである。

ウ 以上を総合すると,甲第3号証には以下の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されているものと認められる。

「透明パネルに電気的に駆動される光学素子が複数備えられ,
光学素子は,その面全体がほぼ透明になる透明状態と,模様及び/又は文字を含む情報を表示する情報表示状態とが備えられ,
前記複数の光学素子の前記情報表示状態はそれぞれ視認され得るように配置され,
(a1)前記透明状態と前記情報表示状態のいずれか一つの状態は非駆動時に安定に保持され,
(a2)前記透明状態と前記情報表示状態は可逆的に切り替えることができ,
(b)前記透明状態を呈している光学素子の領域を,可視光線が一方の外表面から他方の外表面に向けて通過する場合の全光線透過率が60%以上であり,
(c3)全ての光学素子の全面がほぼ透明状態になる場合と,少なくとも一つの光学素子が前記情報表示状態となる場合,とが備えられた,
調光装置であって,
前記光学素子は,表基板41と裏基板42の間に配向膜43,49,樹脂/液晶複合体層45,スペーサ46,周辺シール47,マトリクス電極44,48が備えられており,
配向膜43はマトリクス電極48を覆い,樹脂/液晶複合体層45に直接対向し,配向膜49はマトリクス電極44を覆い,樹脂/液晶複合体層45に直接対向しており,
透明パネルに,ポリビニルブチラール等の接着シート等を介して光学素子を貼り合わせるようにしてもよく,また,一対の透明パネルの一方の透明パネルに光学素子を当接させてもよく,また,一対の透明パネルに光学素子を挟持する構造としてもよく,
透明パネルには,板ガラスを用いることが好ましく,
透明パネルの一部又は全体が曲面体であってもよく,この際,光学素子の各基板(表基板41と裏基板42)をフィルム基板とし,柔軟構造を有する表示素子を採用すればよく,
前記透明状態において,光学素子の全面がほぼ透明状態になることを前提としているが,全波長域において「透明」ではなく,有色透明であってもよく,
透明パネルの外表面に低反射性コーティングを施すことが好ましいものである,
調光装置。」

エ また,甲第3号証の段落【0162】には,調光装置を自動車の窓やサンルーフ等に適用することが記載されているから,上記ウに記載した甲3発明を,窓やサンルーフ等に適用した自動車の発明(以下「甲3自動車発明」という。)が記載されているといえる。

2 訂正発明1について
(1)対比
ア 訂正発明1と甲3発明とを対比する。

イ 甲3発明の「透明パネル」については,「一対の透明パネルに光学素子を挟持する構造としてもよ」く,また「板ガラスを用いることが好まし」く,「透明パネルの一部又は全体が曲面体であってもよ」いとされるところ,「一対の透明パネル」が複数の「透明パネル」を指すことは明らかであるから,当該「透明パネル」は,訂正発明1の「1又は複数のガラスプレートを含み,曲面を有する光透過プレート」に相当する。

ウ 甲3発明の「電気的に駆動される光学素子」であって「その面全体がほぼ透明になる透明状態と,模様及び/又は文字を含む情報を表示する情報表示状態とが備えられ」るものと,訂正発明1の「遮光状態と光透過状態とをとることのできる調光セル」とは,「光透過状態と,光透過状態とは異なる状態とをとることのできる調光セル」である点で一致する。

エ 甲3発明では,「透明パネルに,ポリビニルブチラール等の接着シート等を介して光学素子を貼り合わせるようにしてもよい」ところ,当該構成が透明とすることは明らかであるから,当該「ポリビニルブチラール等の接着シート等」は,訂正発明1の「前記光透過プレートの前記曲面と前記調光セルとの間に配置され,前記光透過プレートの前記曲面に前記調光セルの一方側を接着する光学透明粘着フィルム」に相当する。

オ 甲3発明においては,「透明パネルに,ポリビニルブチラール等の接着シート等を介して光学素子を貼り合わせるようにしてもよく,また,一対の透明パネルの一方の透明パネルに光学素子を当接させてもよく,また,一対の透明パネルに光学素子を挟持する構造としてもよ」いところ,「透明パネルに,ポリビニルブチラール等の接着シート等を介して光学素子を貼り合わせるように」することは,訂正発明1の「前記光透過プレートは,前記調光セルの一方側のみに配置されており」との構成に相当する。

カ 甲3発明においては「前記光学素子は,表基板41と裏基板42の間に配向膜43,49,樹脂/液晶複合体層45,スペーサ46,周辺シール47,マトリックス電極44,48が備えられており,配向膜43はマトリクス電極48を覆い,樹脂/液晶複合体層45に直接対向し,配向膜49はマトリクス電極44を覆い,樹脂/液晶複合体層45に直接対向しており,」いるから,甲3発明の「裏基板42」,「マトリックス電極44」,「配向膜」「49」,「表基板41」及び「配向膜43」は,それぞれ訂正発明1の「第1樹脂基材」,「第1電極層」,「第1配光膜」,「第2樹脂基材」,及び「第2配光膜」に相当し,また,甲3発明の「裏基板42」,「マトリックス電極44」及び「配向膜」「49」からなるもの,ならびに,「第2樹脂基材」及び「第2配光膜」からなるものが,それぞれ訂正発明1の「第1積層体」並びに「第2積層体」に相当する。

キ 上記カも考慮すると,甲3発明の「配向膜43はマトリクス電極48を覆い,樹脂/液晶複合体層45に直接対向し,配向膜49はマトリクス電極44を覆い,樹脂/液晶複合体層45に直接対向」する構成における「樹脂/液晶複合体層45」と,訂正発明1の「前記第1積層体と前記第2積層体との間に設けられた二色性色素を含むゲスト・ホスト型の液晶層」とは,「前記第1積層体と前記第2積層体との間に設けられた液晶層」である点で一致する。

ク 甲3発明の「スペーサ46」は,訂正発明1の「前記液晶層の厚さを規定する複数のスペーサー」に相当する。

ケ 甲3発明の「周辺シール47」は,訂正発明1の「前記第1配光膜と前記第2配光膜との間で前記液晶層の液晶スペースを区画するシール材」に相当する。

サ 甲3発明の「調光装置」は,訂正発明1の「調光装置」に相当する。

シ よって,両者は次の点で一致する。
「1又は複数のガラスプレートを含み,曲面を有する光透過プレートと,
光透過状態と,光透過状態とは異なる状態とをとることのできる調光セルと,
前記光透過プレートの前記曲面と前記調光セルとの間に配置され,前記光透過プレートの前記曲面に前記調光セルの一方側を接着する光学透明粘着フィルムと,を備える調光装置であって,
前記光透過プレートは,前記調光セルの一方側のみに配置されており,
前記調光セルは,第1樹脂基材,第1電極層及び第1配光膜を含む第1積層体と,第2樹脂基材及び第2配光膜を含む第2積層体と,前記第1積層体と前記第2積層体との間に設けられた液晶層と,前記第1配光膜と前記第2配光膜との間で前記液晶層の液晶スペースを区画するシール材と,前記液晶層の厚さを規定する複数のスペーサーと,を有する,
調光装置。」

ス 一方,両者は以下の各点で相違する。
《相違点1》訂正発明1は,「前記曲面は,三次元曲面であり」との構成を備えるのに対し,甲3発明は「透明パネルの一部又は全体が曲面体であってもよく」とされているものの,当該曲面が,三次元曲面であることまでは特定されていない点。

《相違点2》訂正発明1は,「二色性色素を含むゲスト・ホスト型の液晶層」を備えるのに対して,甲3発明は,「液晶層」に対応する構成は備えるものの,「「二色性色素を含むゲスト・ホスト型」であることまでは特定されていない点。

《相違点3》訂正発明1は,「前記第1積層体は,前記液晶層の液晶スペースを区画するシール材の外側に延長され且つ前記光透過プレートの前記曲面に貼り合わされた延長部を有」するのに対し,甲3発明はそのような構成を備えない点。

《相違点4》訂正発明1は,「前記液晶層の液晶層を区画するシール材は,幅方向の長さが1mm以上,5mm以下である」のに対し,甲3発明においては,シールの幅方向の長さが特定されていない点。

《相違点5》訂正発明1は,「遮光状態と光透過状態とをとることのできる調光セル」を備えるのに対し,甲3発明は,「光透過状態と,光透過状態とは異なる状態とをとることのできる調光セル」に対応する構成は備えるものの,「光透過状態とは異なる状態」が「遮光状態」である構成までは備えない点。

(2)判断
事案に鑑み,まず相違点5から検討する。
ア 甲3発明においては,「電気的に駆動される光学素子」「は,その面全体がほぼ透明になる透明状態と,模様及び/又は文字を含む情報を表示する情報表示状態とが備えられ」ているところ,甲第3号証には,「情報表示状態」として次の各記載がある。
「【0042】
本発明に用いる光学素子として,非駆動時に透明状態または情報表示状態が安定に保持されるものを採用する。特許文献4の液晶光学素子は,非駆動時に「透明」であり,駆動時に「散乱(白濁)」する動作モードを呈する。その改良発明として本出願人等による特願2004-367513がある。光学素子を保護するために,樹脂構造をさらに工夫することにより,耐衝撃性を向上したものである。
【0043】
その態様1は,液晶と高分子とを含む電気光学機能層を,少なくとも一方が透明な一対の電極付基板間に挟持し,電圧の印加に応じて該液晶の配向状態を変化させて光線透過状態と光線散乱状態とを呈するようにされた液晶光学素子であって,該高分子は,複数の柱状樹脂を形成し,該柱状樹脂は,その長軸方向が該電極付基板面の法線方向に略一致しているものと,当該法線方向からチルトしているものとが混在し,該電気光学機能層における該高分子の含有量を10wt%以上とし,該光線透過状態における該液晶の配向方向は,該基板面の法線方向に略一致している液晶光学素子である。」
「【0066】
図6は,本実施形態1に係る液晶光学素子1の構成の一例を示す断面図である。本実施形態1に係る光学素子として,米国特許出願公開第2003/0142057号明細書に開示されたメモリ性を有するものを挙げることができる。具体的には散乱・反射状態であるフォーカルコニック状態と,可視域の波長で透明状態を呈するプレナー状態(赤外域または紫外域で選択反射を有する光学的状態)とを安定に有するカイラルネマチック液晶を用いている。このカイラルネマチック液晶の製法・構造等については,例えば,上記の米国特許出願公開第2003/0142057号明細書に記載のものを用いることができる。」
「【0079】
本実施形態1においては,上述のように液晶光学素子1の光学機能層の一部が散乱状態となって情報が表示される情報表示状態と,散乱状態となった部位が透明に切り替わり,光学機能層の全体が透明となる透明状態とを有する。これにより,様々な情報を容易に表示することができる。また,内部に展示された商品を容易に視認することができる。さらに,情報を液晶の散乱状態により表示しているため,様々な角度から情報を視認することができる。」
「【0087】
上記実施形態の展示装置では,情報を表示させる光学素子の具体物として,液晶光学素子1を用いたが,これに限定されるものではなく,無機EL表示素子,有機EL表示素子等でもよい。」

イ 上記アの各記載から,甲第3号証には,「実施形態1」における「情報表示状態」としては,「光学素子」が「散乱状態」であることが記載されており,「情報を液晶の散乱状態により表示しているため,様々な角度から情報を視認することができる」(段落【0079】)としている。また甲第3号証には,「光学素子の具体物として,液晶光学素子1を用いたが,これに限定されるものではなく,無機EL表示素子,有機EL表示素子等でもよい」(段落【0087】)との記載もあるが,これも,前記「様々な角度から情報を視認することができる」ものとして例示されていると理解できる。すなわち,「液晶の散乱状態により表示」するにしても,「無機EL表示素子,有機EL表示素子等」の発光により表示するにしても,いずれにおいても当該「散乱」あるいは「発光」部分から,観察者に向かう光が生ずるからである。

ウ そして,甲第3号証の他の記載を見ても,「情報表示状態」を「遮光状態」とすることを読み取ることはできない。甲第3号証には,「また,広告,宣伝用途以外に,意図的に建物内の外部からの視界を遮断したいときや,デザイン性の高い模様等を鑑賞を目的として表示させることもできる。」(段落【0171】)との記載があるが,ここでいう「遮断」とは,光の遮断,すなわち「遮光」をいうのではなく,外部から見通すことができないようにすることをいうのであって,当該「外部からの視界を遮断」は,前記「散乱状態」によって実現できることである。それゆえ,前記記載から,「情報表示状態」が「遮光状態」であるとはいえない。

エ また,前記イにおける検討に照らせば,「情報表示状態」を「散乱状態」,あるいは「無機EL表示素子,有機EL表示素子等」による発光状態に代えて,観察者に向かう光が生ずるものではない「遮光状態」とすることには阻害要因があるというべきであるから,「遮光状態」をとることができる光学素子が周知であるとしても,甲3発明において,そのような光学素子を採用することは,当業者が適宜になし得たことととはいえない。

オ よって,甲3発明において,相違点5に係る構成を備えることは,当業者が容易になし得たこととはいえない。

(3)小括
以上のとおりであるから,相違点1ないし相違点4について検討するまでもなく,訂正発明1は,甲第3号証及び甲第4号証に記載された事項,並びに周知の技術事項を勘案しても,甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

3 訂正発明2,7ないし20について
(1)訂正発明2,7及び18について
前記「第3 訂正発明」に記載したとおり,訂正発明2,7及び18はいずれも,「遮光状態と光透過状態とをとることのできる調光セル」との構成を備えるものである。
そして,前記2(2)のとおり,甲3発明において当該構成を備えることは当業者が容易になし得たこととはいえない。
よって,訂正発明2,7及び18についても,同様の理由により,甲3発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)訂正発明8ないし17,19及び20について
前記「第3 訂正発明」に記載したとおり,訂正発明8ないし17,19及び20は,訂正発明1,2,7及び18のいずれかを,直接または間接に引用しているから,いずれも「遮光状態と光透過状態とをとることのできる調光セル」との構成を備えるものである。
よって,訂正発明8ないし17,19及び20についても,上記(1)と同様の理由により,甲3発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。


第6 特許異議申立人の主張について
1 特許異議申立人は,令和元年10月28日に提出した意見書の11ページ23行ないし13ページ8行において,以下のとおり,甲3発明が前記相違点5に係る構成を備える点に阻害事由は存するとは言えない旨を主張する。
(1)甲第3号証には「情報受容者の視野を遮ったり,見通すことができるような光学素子」,及び「意図的に建物内の外部からの視界を遮断したいとき」との記載がある。甲第4号証には「液晶素子を用いた調光手段の良いところは,機械的な動作部分が無く簡単に随時入射する光の一部または,その大部分を遮光することができるとこである」,及び「外部から浸入(進入の誤記と考えられる)する光を遮り車内の温度の上昇を抑える」との記載がある。
これらの記載によれば,遮光状態と光透過状態とをとることのできる光学素子とは,本件特許の出願時において公知の技術であることは明らかである。よって,訂正後の本件発明1の訂正事項1‐6とは,訂正前の本件発明1に対して公知の要件を付加したに過ぎず,進歩性を肯定する技術的特徴足り得ない。
(2)甲第3号証には,請求項1等において,情報表示状態とは「模様及び/又は文字を含む情報を表示する」状態であると定義され,また,「駆動時に「散乱(白濁)」する動作モードを呈する。その改良発明として本出願人等による特願2004-367513がある。」との記載があり,当該情報表示状態を特許権者が主張する散乱状態に限定するものではなく,改良発明として特願2004-367513に記載されるように,コントラスト比や安定性の向上を目的として液晶層に二色性色素を含む種々の化合物が添加されてもよいことを出願時の技術常識に基づいて実質的に含むものであり,また,遮光状態の適用を妨げるものでもないことは明らかである。
(3)甲第3号証に記載の情報表示状態が散乱状態に限定されるものではないことは,無機EL表示素子や有機EL表示素子等が液晶光学素子1に代わる光学素子として例示されていることに鑑みても明らかであるから,遮光状態と光透過状態とすることは,甲第3号証に記載されているに等しいといえ,甲第3号証に記載の液晶層を二色性色素が含まれるゲスト・ホスト型の液晶に変更することに阻害事由が存するとは到底いえない。

2 しかしながら,以下のとおり,申立人の主張は当たらない。
(1)前記1(1)について
前記第5 2(2)ウのとおり,甲第3号証の「情報受容者の視野を遮ったり,見通すことができるような光学素子」,及び「意図的に建物内の外部からの視界を遮断したいとき」との記載における「視野を遮ったり」及び「視界を遮断」とは,光を遮断,すなわち「遮光」をいうのではなく,外部から見通すことができないようにすることをいうのであって,当該「視野を遮ったり」及び「外部からの視界を遮断」は,前記「散乱状態」によって実現できることである。それゆえ,前記記載から,「情報表示状態」が「遮光状態」であるとはいえない。

(2)前記1(2)について
ア 甲第3号証が改良発明として引用する特願2004-367513号(特開2005-367513号公報;以下「引用先行出願」という。)の明細書及び特許請求の範囲には,以下の記載がある。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶と高分子とを含む電気光学機能層を,少なくとも一方が透明な一対の電極付基板間に挟持し,電圧の印加に応じて該液晶の配向状態を変化させて光線透過状態と光線散乱状態とを呈するようにされた液晶光学素子であって,
該高分子は,柱状樹脂を形成し,
該柱状樹脂は,その長軸方向が該電極付基板面の法線方向に略一致しているものと,当該法線方向からチルトしているものとが混在し,
該電気光学機能層における該高分子の含有量を10wt%以上とし,
該光線透過状態における該液晶の配向方向は,該基板面の法線方向に略一致している液晶光学素子。」
「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,液晶と高分子とを含む電気光学機能層を一対の電極付基板間に挟持し,電圧の印加に応じて液晶の配向状態を変化させて光線透過状態と光線散乱状態とを呈するように構成された,液晶光学素子及びその製造方法に関する。」
「【0051】
この第1の実施形態によれば,液晶/高分子複合体層における高分子の含有量,高分子の形状及び高分子の配向性の条件を複合的に設計することにより,高い耐衝撃性が得られることを見出した。これは,上記複合的条件を満たすことにより,基板面の法線方向のみならず水平方向に対しても強い構造を実現できたためと考えている。その結果,衝撃が加わった際の高分子の変形や,その周辺の液晶の配向変化による白濁化現象を抑制し,耐衝撃性の高い液晶光学素子を提供することができる。
【0052】
・・・(中略)・・・
【0061】
液晶/高分子複合体層5中の液晶は,光線透過状態における液晶の配向方向が,基板面の法線方向に略一致するようにする。液晶を垂直配向にすることにより,液晶光学素子の光線透過状態をより良好に保つことができる。本発明においては,リバースモードを採用しているので,第1の電極3及び第2の電極に電圧を印加していないときには,液晶が配向して光線透過状態となる。
【0062】
一方,第1の電極3及び第4の電極4に電圧を印加すると電極間の電界により液晶がランダムに配向し,光線散乱状態となる。このように電圧の印加,非印加によって光線散乱状態と光線透過状態とを制御することができるので,第1の電極3,及び第2の電極4の形成パターンに応じて所望の画像を表示することができる。
【0063】
液晶の種類としては,ネマチック液晶,コレステリック液晶,スメクチック液晶及び強誘電性液晶などを用いることができる。中でも,ネマチック液晶を用いることが好ましい。ネマチック液晶は,他の液晶に比して液晶温度範囲が広く,粘性が小さいため,液晶素子の動作温度範囲を広く,かつ動作速度を大きくすることができるからである。液晶の誘電率異方性は負とした場合は,液晶の配向性を垂直配向として用いる。
【0064】
・・・(中略)・・・
【0066】
液晶/高分子複合体層5は,コントラスト比や安定性の向上を目的として,種々の化合物が添加されていてもよい。例えば,コントラストの向上を目的として,アントラキノン系,スチリル系,アゾメチン系,アゾ系等の各種二色性色素を使用できる。その場合,二色性色素は,基本的に液晶化合物と相溶し,高分子化合物とは不相溶であることが好ましい。このほか,酸化防止剤,紫外線吸収剤,各種可塑剤も,安定性や耐久性向上の点から好ましく使用される。」
「【0166】
本発明に係る液晶光学素子は,透過-散乱の二つの光学状態を可逆的に切り替えることができるものであり,液晶シャッター,プライバシーガラス,間仕切り,高速光シャッター,計測装置,スクリーン,光通信,光束の制御装置,タッチ式表示装置,自動車のインパネ表示装置等に好適に用いることができる。」

イ 上記アのとおり,引用先行出願の明細書には,液晶層に二色性色素を添加することが記載されているが,これは「コントラストの向上」を目的としたものであって,引用先行出願に記載された発明は,飽くまでも,その請求項1及び段落【0001】にも記載されているように,「光線透過状態と光線散乱状態とを呈するようにされた液晶光学素子」に係るものである。
それゆえ,引用先行出願の明細書及び特許請求の範囲に記載されたものは,前記二色性色素を添加した場合にあっても,「光線透過状態と光線散乱状態とを呈するようにされた液晶光学素子」であることに変わりはなく,当該「液晶光学素子」が遮光状態を有するものとまではいえない。

(3)前記1(3)について
前記第5 2(2)イのとおり,甲第3号証には,「光学素子の具体物として,液晶光学素子1を用いたが,これに限定されるものではなく,無機EL表示素子,有機EL表示素子等でもよい」(段落【0087】等)との記載もあるが,これは,「液晶の散乱状態により表示」するにしても,「無機EL表示素子,有機EL表示素子等」の発光により表示するにしても,いずれにおいても当該「散乱」あるいは「発光」部分から,観察者に向かう光が生ずるものとして例示されていると理解できる。
これに対し,「遮光状態」とは光を通さない状態をいうのであるから,仮に,甲3号証に係る「光学素子」において,「情報表示状態」が「遮光状態」であるものを用いると,前述のように,観察者に向かう光が生ずるものではなくなることから,そのようなものは,甲3号証に記載されたものにおいて想定されていないと解される。
したがって,前記第5 2(2)においても検討したとおり,甲3発明において,「光学素子」として,「情報表示状態」が「遮光状態」であるものを採用することには阻害要因があるといえる。

3 よって,前記1の申立人の主張は採用できない。

第7 令和元年5月10日付け取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
1 特許異議申立理由
(1)甲第1号証を引用例とした特許法第29条第1項に係る理由(以下「理由A」という。)及び甲第1号証を主たる引用例とした同条第2項に係る理由(以下「理由B」という。)
請求項1,7,9,17及び20に係る発明は,甲第1号証に記載されたものであり,請求項8,10,12,18及び19に係る発明は,甲第1号証に記載された発明,及び他の甲号証に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)甲第2号証を引用例とした特許法第29条第1項に係る理由(以下「理由C」という。)
請求項7に係る発明は,甲第2号証に記載されたものである。

2 判断
(1)理由A及び理由Bについて
ア 甲第1号証には,以下の記載がある。
「【0010】
その目的で,本発明は液晶誘起可変散乱を有する合わせ板ガラスであって,
第1のガラス・シートと,
第1のガラス・シートを貼り合わせるための,第1のプラスチック材料(特に熱可塑性材料)からなる第1の中間フィルムと,
第1の電極用の第1の支持体と第2の電極用の第2の支持体の間にあってその両方の電極と接触している液晶を備える,電気的に制御できる可変散乱システムと,
第2のガラス・シートを貼り合わせるための,特に第1のプラスチック材料と同じタイプの第2のプラスチック材料(特に熱可塑性材料)からなる第2の中間フィルムと,
第1と第2の電極それぞれへの第1と第2の接続リンクと,
2つの配線入口を有する電気配線であって,第1の配線入口が第1の接続リンクに接続し,第2の配線入口が第2の接続リンクに接続し,特にそれら接続リンクが,少なくとも支持体の端部から,さらには板ガラスの縁部から突出している電気配線と,
第1と第2のガラス・シート,特に第1と第2のガラス・シートの縁部の1つと,そのガラス・シートの縁部の全体または一部で接触して,第1と第2の配線入口を保護しているポリマー材料と,
第1と第2のプラスチック材料を例えば含んでいて,液晶と第1と第2の電極を封止して水を通過させない封止手段と,を備える合わせ板ガラスにおいて,
保護用ポリマー材料が,水,さらには水蒸気から電極への第1と第2の接続リンクと第1と第2の配線入口とを封止する手段を形成する,合わせ板ガラスが提供される。」
「【0105】
図1は,液晶誘起可変散乱を有する合わせ板ガラスを示している。これはPrivalite(登録商標)と名付けられた公知のタイプの板ガラスであり,以下の構成を備えている。すなわち,
縁部51を有する第1のガラス・シート5と,
第1のガラス・シートを貼り合わせるための,EVAからなる第1の中間フィルム10と,
30nmの厚さで面抵抗が75オームに等しいITOからなる第1の電極3を支持する第1の支持フィルム2(ポリテレフタル酸エチレンPET製)と,30nmの厚さで面抵抗が75オームに等しいITOからなる第2の電極4を支持する第2の支持フィルム2’との間にあるNCAP液晶1を備え,第1及び第2の電極が液晶と接触している,光学特性の変化を電気的に制御できるシステム20と,
縁部61を有する第2のガラス・シート6を貼り合わせるための,EVAからなる第2の中間フィルム10’と,を備えている。」

イ 上記のとおり,甲第1号証に記載されたものは,「第1の電極用の第1の支持体と第2の電極用の第2の支持体の間にあってその両方の電極と接触している液晶を備える,電気的に制御できる可変散乱システム」(段落【0010】)であって,配向膜間にゲスト・ホスト型の液晶層を備えるものとは,その動作が異なる。そして,上記甲第1号証に記載されたものを,動作が異なるものである,配向膜間にゲスト・ホスト型の液晶層を備えるものに置き換えることも想定されないというべきである。
よって,甲第1号証に記載されたものは,訂正発明1,2,7及び18が備える,「第1樹脂基材と,当該第1樹脂基材上に設けられる第1透明電極及び第1配向膜と,を含む第1積層体と,第2樹脂基材と,当該第2樹脂基材上に設けられる第2配向膜と,を含む第2積層体と,前記第1積層体と前記第2積層体との間に設けられる二色性色素を含むゲスト・ホスト型の液晶層」を備えず,また当該構成を備えることは,当業者が容易になし得たことともいえない。

ウ よって,訂正発明1,7,9,17及び20について理由Aは解消され,訂正発明8,10,12,18及び19について理由Bは解消されている。

(2)理由Cについて
ア 甲第2号証には以下の記載がある。
「[0030]
図4は以上の各種の使用態様に用いるためのパーティション100を示す。パーティション100は複数の縦枠体110と複数の横枠体120とを組み合わせることにより,矩形状の複数の液晶フィルム30を仕切った状態となっている。横枠体120は滑らかに湾曲されており,これによりパーティション100をフロアや地面上に載置したとき,倒れることなく自立状態となることができる。」

イ 上記アによれば,甲第2号証には,パーティション100を構成する横枠体120を湾曲させ,これによりパーティション100をフロアや地面上に載置したとき,倒れることなく自立状態とできるようにすることが記載されている。
ここで,甲第2号証の図4からも明らかなように,前記「湾曲」は「自立状態」が維持されるように,載置面に対して垂直な軸まわりでの湾曲にとどまる。ここで,載置面に対して垂直以外の軸に対して湾曲すると,「自立状態」の維持に困難が生ずることも明らかである。
それゆえ,甲第2号証に示されたものは,訂正発明7に係る「三次元曲面」を備えていないというべきである。

ウ よって,訂正発明7について,理由Cは解消されている。

3 したがって,前記1の各特許異議申立理由は解消されている。


第8 むすび
以上のとおりであるから,異議申立書に記載された理由によっては,訂正発明1,2,7?20に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に訂正発明1,2,7?20に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1又は複数のガラスプレートを含み、曲面を有する光透過プレートと、
遮光状態と光透過状態とをとることのできる調光セルと、
前記光透過プレートの前記曲面と前記調光セルとの間に配置され、前記光透過プレートの前記曲面に前記調光セルの一方側を接着する光学透明粘着フィルムと、を備える調光装置であって、
前記曲面は、三次元曲面であり、
前記光透過プレートは、前記調光セルの一方側のみに配置されており、
前記調光セルは、第1樹脂基材、第1電極層及び第1配向膜を含む第1積層体と、第2樹脂基材及び第2配向膜を含む第2積層体と、前記第1積層体と前記第2積層体との間に設けられた二色性色素を含むゲスト・ホスト型の液晶層と、前記第1配向膜と前記第2配向膜との間で前記液晶層の液晶スペースを区画するシール材と、前記液晶層の厚さを規定する複数のスペーサーと、を有し、
前記第1積層体は、前記液晶層の液晶スペースを区画するシール材の外側に延長され且つ前記光透過プレートの前記曲面に貼り合わされた延長部を有し、
前記液晶層の液晶スペースを区画するシール材は、幅方向の長さが1mm以上、5mm以下である調光装置。
【請求項2】
1又は複数のガラスプレートを含み、曲面を有する光透過プレートと、
遮光状態と光透過状態とをとることのできる調光セルと、
前記光透過プレートの前記曲面と前記調光セルとの間に配置され、前記光透過プレートの前記曲面に前記調光セルの一方側を接着する光学透明粘着フィルムと、を備える調光装置であって、
前記曲面は、三次元曲面であり、
前記調光セルは、
第1樹脂基材と、当該第1樹脂基材上に設けられる第1透明電極及び第1配向膜と、を含む第1積層体と、
第2樹脂基材と、当該第2樹脂基材上に設けられる第2配向膜と、を含む第2積層体と、
前記第1積層体と前記第2積層体との間に設けられる二色性色素を含むゲスト・ホスト型の液晶層と、
前記第1配向膜と前記第2配向膜との間で前記液晶層の液晶スペースを区画するシール材と、前記液晶層の厚さを規定する複数のスペーサーと、を有し、
前記第1積層体は、前記液晶層の液晶スペースを区画するシール材の外側に延長され且つ前記光透過プレートの前記曲面に貼り合わされた延長部を有し、
前記液晶層の液晶スペースを区画するシール材は、幅方向の長さが1mm以上、5mm以下であり、
前記第1積層体及び前記第2積層体の各々は、E型の直線偏光板を含む調光装置。
【請求項3】
1又は複数のガラスプレートを含み、曲面を有する光透過プレートと、
調光セルと、
前記光透過プレートの前記曲面と前記調光セルとの間に配置され、前記光透過プレートの前記曲面に前記調光セルの一方側を接着する光学透明粘着フィルムと、を備える調光装置であって、
前記調光セルは、
第1樹脂基材と、当該第1樹脂基材上に設けられる第1透明電極及び第1配向膜と、を含む第1積層体と、
第2樹脂基材と、当該第2樹脂基材上に設けられる第2配向膜と、を含む第2積層体と、
前記第1積層体と前記第2積層体との間に設けられる液晶層と、を有し、
前記第1積層体及び前記第2積層体の各々は、E型の直線偏光板を含み、
前記第1積層体の前記直線偏光板は、前記第1樹脂基材上の前記液晶層側に設けられ、
前記第2積層体の前記直線偏光板は、前記第2樹脂基材上の前記液晶層側に設けられている調光装置。
【請求項4】
1又は複数のガラスプレートを含み、曲面を有する光透過プレートと、
調光セルと、
前記光透過プレートの前記曲面と前記調光セルとの間に配置され、前記光透過プレートの前記曲面に前記調光セルの一方側を接着する光学透明粘着フィルムと、を備える調光装置であって、
前記調光セルは、
第1樹脂基材と、当該第1樹脂基材上に設けられる第1透明電極及び第1配向膜と、を含む第1積層体と、
第2樹脂基材と、当該第2樹脂基材上に設けられる第2配向膜と、を含む第2積層体と、
前記第1積層体と前記第2積層体との間に設けられる液晶層と、を有し、
前記第1積層体及び前記第2積層体の各々は、E型の直線偏光板を含み、
前記第1積層体には、
前記第1樹脂基材上に、前記第1透明電極、前記直線偏光板、ネガティブCプレート層及び前記第1配向膜が順次設けられ、
前記第2積層体には、
前記第2樹脂基材上に、前記直線偏光板及び前記第2配向膜が順次設けられている調光装置。
【請求項5】
1又は複数のガラスプレートを含み、曲面を有する光透過プレートと、
調光セルと、
前記光透過プレートの前記曲面と前記調光セルとの間に配置され、前記光透過プレートの前記曲面に前記調光セルの一方側を接着する光学透明粘着フィルムと、を備える調光装置であって、
前記調光セルは、
第1樹脂基材と、当該第1樹脂基材上に設けられる第1透明電極及び第1配向膜と、を含む第1積層体と、
第2樹脂基材と、当該第2樹脂基材上に設けられる第2配向膜と、を含む第2積層体と、
前記第1積層体と前記第2積層体との間に設けられる液晶層と、を有し、
前記第1積層体及び前記第2積層体の各々は、E型の直線偏光板を含み、
前記第1積層体には、
前記第1樹脂基材上に、前記直線偏光板、ネガティブCプレート層、前記第1透明電極及び前記第1配向膜が順次設けられ、
前記第2積層体には、
前記第2樹脂基材上に、前記直線偏光板、前記第2配向膜が順次設けられている調光装置。
【請求項6】
前記第1積層体では、前記ネガティブCプレート層が粘着剤層上に積層されている請求項4又は5に記載の調光装置。
【請求項7】
1又は複数のガラスプレートを含み、曲面を有する第1光透過プレートと、
第2光透過プレートと、
前記第1光透過プレートと前記第2光透過プレートとの間に配置され、遮光状態と光透過状態とをとることのできる調光セルと、
前記第1光透過プレートの前記曲面と前記調光セルとの間に配置され、前記第1光透過プレートの前記曲面に前記調光セルの一方側を接着する光学透明粘着フィルムと、を備え、
前記曲面は、三次元曲面であり、
前記調光セルは、第1樹脂基材、第1電極層及び第1配向膜を含む第1積層体と、第2樹脂基材及び第2配向膜を含む第2積層体と、前記第1積層体と前記第2積層体との間に設けられる二色性色素を含むゲスト・ホスト型の液晶層と、前記第1配向膜と前記第2配向膜との間で前記液晶層の液晶スペースを区画するシール材と、前記液晶層の厚さを規定する複数のスペーサーと、を有し、
前記第1積層体は、前記液晶層の液晶スペースを区画するシール材の外側に延長され且つ前記第1光透過プレートの前記曲面に貼り合わされた延長部を有し、
前記液晶層の液晶スペースを区画するシール材は、幅方向の長さが1mm以上、5mm以下である調光装置。
【請求項8】
前記第2光透過プレートは、前記調光セルから離間して配置される請求項7に記載の調光装置。
【請求項9】
前記第2光透過プレートは、接着層を介して前記調光セルに取り付けられる請求項7に記載の調光装置。
【請求項10】
前記第2光透過プレートと前記調光セルとの間はシール材によって封止されている請求項7に記載の調光装置。
【請求項11】
前記シール材によって封止された前記第2光透過プレートと前記調光セルとの間にはシリコーンが配置されている請求項10に記載の調光装置。
【請求項12】
前記シール材によって封止された前記第2光透過プレートと前記調光セルとの間は真空である請求項10に記載の調光装置。
【請求項13】
反射防止層を更に備える請求項1?12のいずれか一項に記載の調光装置。
【請求項14】
反射防止層を更に備え、
前記反射防止層は、前記調光セル及び前記光透過プレートのうちの少なくともいずれか一方に設けられる請求項1?6のいずれか一項に記載の調光装置。
【請求項15】
反射防止層を更に備え、
前記反射防止層は、前記調光セル及び前記第2光透過プレートのうちの少なくともいずれか一方に設けられる請求項7?12のいずれか一項に記載の調光装置。
【請求項16】
前記反射防止層は、アンチグレア層、アンチリフレクション層及び低反射層のうちの少なくとも1つを含む請求項13に記載の調光装置。
【請求項17】
前記曲面は、三次元曲面である請求項1?16のいずれか一項に記載の調光装置。
【請求項18】
曲面を有する光透過プレートと、
遮光状態と光透過状態とをとることのできる調光セルと、
前記光透過プレートの前記曲面と前記調光セルとの間に配置され、前記光透過プレートの前記曲面に前記調光セルの一方側を接着する光学透明粘着フィルムと、を備える調光装置であって、
前記曲面は、三次元曲面であり、
前記調光セルは、第1樹脂基材、第1電極層及び第1配向膜を含む第1積層体と、第2樹脂基材及び第2配向膜を含む第2積層体と、前記第1積層体と前記第2積層体との間に設けられた二色性色素を含むゲスト・ホスト型の液晶層と、前記第1配向膜と前記第2配向膜との間で前記液晶層の液晶スペースを区画するシール材と、前記液晶層の厚さを規定する複数のスペーサーと、を有し、
前記第1積層体は、前記液晶層の液晶スペースを区画するシール材の外側に延長され且つ前記光透過プレートの前記曲面に貼り合わされた延長部を有し、
前記液晶層の液晶スペースを区画するシール材は、幅方向の長さが1mm以上、5mm以下であり、
前記光学透明粘着フィルムは、前記光学透明粘着フィルム及び前記調光セルが積層する方向に関する厚さが、50μm以上500μm以下であり、室温環境での貯蔵弾性率が、1×10^(7)Pa以上1×10^(8)Pa以下である調光装置。
【請求項19】
前記光学透明粘着フィルムは、損失正接が0.5以上1.5以下である請求項1?18のいずれか一項に記載の調光装置。
【請求項20】
請求項1?19のいずれか一項に記載の調光装置を備える車両。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-12-27 
出願番号 特願2016-226202(P2016-226202)
審決分類 P 1 652・ 113- YAA (G02F)
P 1 652・ 121- YAA (G02F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 佐藤 洋允  
特許庁審判長 瀬川 勝久
特許庁審判官 星野 浩一
近藤 幸浩
登録日 2017-11-24 
登録番号 特許第6245537号(P6245537)
権利者 大日本印刷株式会社
発明の名称 調光装置及び車両  
代理人 永井 浩之  
代理人 朝倉 悟  
代理人 佐藤 泰和  
代理人 堀田 幸裕  
代理人 村越 卓  
代理人 永井 浩之  
代理人 高田 泰彦  
代理人 朝倉 悟  
代理人 中村 行孝  
代理人 高田 泰彦  
代理人 堀田 幸裕  
代理人 村越 卓  
代理人 佐藤 泰和  
代理人 宮嶋 学  
代理人 中村 行孝  
代理人 宮嶋 学  

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