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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61B
管理番号 1359580
異議申立番号 異議2019-700394  
総通号数 243 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-03-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-05-16 
確定日 2020-01-17 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6431419号発明「転写シール」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6431419号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?4〕について訂正することを認める。 特許第6431419号の請求項1?4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6431419号(以下、「本件特許」という。)に係る出願は、平成27年3月23日を出願日とする出願であって、平成30年11月9日にその特許権の設定登録がなされ、同年11月28日に特許掲載公報が発行されたところ、令和元年5月16日に特許異議申立人株式会社中部メディカル及び合資会社ヤスイペイント工芸所(以下、両者を合わせて「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされた。
その後、当審において、令和元年8月14日付けで取消理由を通知したところ、同年10月11日に特許権者より意見書及び訂正請求書(以下、この訂正請求書に係る訂正を「本件訂正」という。)が提出され、同年11月22日に申立人より意見書(以下、「申立人意見書」という。)が提出された。

第2 訂正の適否について
1.本件訂正の内容
本件訂正の内容は、以下のとおりである(なお、下線は訂正箇所である。)
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「転写シール」と記載されているのを、「放射線治療用転写シール」に訂正する。
また、請求項2?4の「転写シール」の記載についても、同様に「放射線治療用転写シール」に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「前記シートを介して前記被転写体及び前記インク層を透視して前記インク層を前記被転写体上に位置決めし、前記接着層を介して前記インク層を貼り付けることにより、前記被転写体に前記模様、図柄、マークなどを転写する」と記載されているのを、「前記シートを介して前記被転写体及び前記インク層を透視して前記インク層を前記被転写体上に位置決めし、前記接着層を介して前記インク層を貼り付け、前記シートを剥がすことにより、前記被転写体に前記模様、図柄、マークなどを転写する」に訂正する。

2.本件訂正の適否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、請求項1?4に記載の「転写シール」について、「放射線治療用転写シール」と用途を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。
そして、本件特許明細書の段落【0002】には、本件発明の背景技術として、転写シールを放射線治療の位置決めに用いることが記載されており、また、段落【0014】には本件発明の効果として、放射線照射部位にマークなどを正確に転写できることが記載されており、更に、段落【0033】には、本件発明の転写シールが、放射線の照射部位を表示するマークを転写するのに広く使用されることが記載されているから、訂正事項1は本件特許明細書に記載された事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
なお、申立人は申立人意見書において、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を変更する旨主張している(申立人意見書7頁下から2行?9頁12行参照。)が、上記のとおり、転写シートを放射線治療用に用いることは本件特許明細書の段落【0002】,【0014】,【0033】の記載から明らかであり、放射線治療用とする用途の限定により、実質上特許請求の範囲が変更されたとはいえない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、請求項1に係る発明の被転写体への模様、図柄、マークなどを転写にあたって、シートを介して被転写体及びインク層を透視してインク層を被転写体上に位置決めし、接着層を介してインク層を貼り付けた後に、「シートを剥がす」ことを特定したものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。
そして、本件特許明細書の段落【0024】には、「シート12を介してこの皮膚表面の印及びインク層40を透視しつつこれらを目印にして転写シールAを位置決めする。次いで、接着層60の裏面を放射線照射部位である患者の皮膚表面に押し当ててシート12、高輝度反射層30、インク層40及び保護層50を貼り付け、皮膚表面の凹凸にぴったり沿うようにする。この際、必要以上に強く押し当てて転写シールA(シート12)の表面にしわが生じないように注意する。次いで、シート12の表面を、水分を含ませたスポンジやタオルなどを使って湿らせる。これによりシート12の裏面の水溶性のり層20が溶けてシート12が剥がれやすくなる。この後、図3(d)に示すように、シート12を剥がすと、インク層40により形成される、放射線照射の部位特定のためのマーク41(図4(c)参照)が高輝度反射層30、保護層50などとともに患者の皮膚表面Sの放射線照射部位に転写される。」の記載があり、当該記載からすれば、被転写体への模様、図柄、マークなどを転写にあたって、シートを介して被転写体及びインク層を透視してインク層を被転写体上に位置決めし、接着層を介してインク層を貼り付けた後に、「シートを剥がす」ことは明らかであるから、訂正事項2は本件特許明細書に記載された事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
なお、申立人は申立人意見書において、本件特許明細書には「[3]接着層を「感圧接着層」として「シートを剥がして用いる転写シール」」は記載されておらず、上記[3]の転写シールを技術的範囲に包含する発明への訂正は実質上特許請求の範囲を変更する旨主張している(申立人意見書2頁3行?7頁下から3行参照。)。
しかし、当該主張の根拠とされた本件特許明細書の段落【0018】には、水溶性のり層20の代わりに感圧性接着層を設けてもよいことが記載されているのであるから、申立人も認めるように、本件特許明細書に「[1]接着層を「水性のり層」として「シートを剥がして用いる転写シール」」が記載されている以上、本件特許明細書には、「水性のり層」を「感圧性接着層」に置き換えた、上記[3]の転写シールも記載されているものと認められ、上記申立人の主張は採用できない。

(3)一群の請求項に係る訂正か否かについて
訂正事項1及び2に係る訂正前の請求項1?4の訂正について、訂正前の請求項2?4は、それぞれ訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用しているから、訂正事項1及び2によって訂正される請求項1と一群の請求項である。
よって、本件訂正は特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項ごとに請求されたものである。

(4)小括
以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものであるから、訂正後の請求項〔1?4〕についての訂正を認める。

第3 取消理由について
1.本件発明
上記のとおり本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1?4に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明4」といい、これらをまとめて「本件発明」ということもある。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
被転写体に模様、図柄、マークなどを転写する放射線治療用転写シールにして、
台紙本体と、一方の面が前記台紙本体に剥離可能に重ね合わせて配置された、透明又は半透明のシートとの2層構造の台紙と、
一方の面が前記シートの他方の面側に剥離可能に配置され、前記模様、図柄、マークなどを形成するインク層と、
一方の面が前記インク層の他方の面側に配置された接着層と、を備え、
前記シートを介して前記被転写体及び前記インク層を透視して前記インク層を前記被転写体上に位置決めし、前記接着層を介して前記インク層を貼り付け、前記シートを剥がすことにより、前記被転写体に前記模様、図柄、マークなどを転写することを特徴とする放射線治療用転写シール。
【請求項2】
請求項1に記載の放射線治療用転写シールにおいて、
前記台紙本体は、前記インク層と前記接着層を形成する際の支持体として機能する強度を有し、
前記シートは、前記被転写体の表面の凹凸に沿うように、可撓性を有していることを特徴とする放射線治療用転写シール。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の放射線治療用転写シールにおいて、
前記インク層の他方の面と前記接着層の一方の面との間に、保護層を配置し、
前記保護層の幅を前記インク層の幅よりも広く設定し、
前記接着層の幅を前記保護層の幅と同じに設定してなることを特徴とする放射線治療用転写シール。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項に記載の放射線治療用転写シールにおいて、
前記シートの他方の面側と前記インク層の一方の面との間に光輝性粉体を含む反射層を配置してなることを特徴とする放射線治療用転写シール。」

2.取消理由の概要
本件特許に対する令和元年8月14日付け取消理由通知(以下、「取消理由通知」という。)には、概略次の取消理由が記載されている。

(1)請求項1,2に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物等1に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1,2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(2)請求項1?4に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物等2に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1?4に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるか、又は、請求項1?4に係る発明は、刊行物等2に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(3)請求項1?4に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において刊行物等3により公然知られた発明、及び、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物等2,4に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

上記(1)?(3)を、以下それぞれ「取消理由1」?「取消理由3」という。

●刊行物等一覧:
刊行物等1:特開2002-264590号公報(特許異議申立書添付の甲第2号証)
刊行物等2:特開平8-258496号(特許異議申立書添付の甲第3号証)
刊行物等3:Rポイントマーカー(JART、公益社団法人日本診療放射線技師会、平成26年3月1日発行、第61巻第3号通巻737号、裏表紙(特許異議申立書添付の甲第4号証参照。)
刊行物等4:実願昭63-84323号(実開平2-10096号)のマイクロフィルム(当審で発見した周知例)

3.取消理由についての判断
(1)刊行物等の記載について
ア.刊行物等1の記載事項及び記載された発明
刊行物等1には、以下の各事項が記載されている(下線は、当審で付与。以下、同様。)。
(ア)「陶磁器用転写複紙もしくは同等の構造の用紙を利用して電子写真出力面もしくは印刷された面に、その画像面を壊さない程度に溶解性を有する溶剤で希釈された樹脂を塗布して、溶解し融合させて強度を向上させて後、白色樹脂及び接着性を有する樹脂を混合または個別に塗布、もしくはフィルム状にしたものを貼付して転写に供する方法。」(【請求項1】)

(イ)「【課題を解決するための手段】陶磁器用転写複紙、厚紙の上に剥がせる薄紙(ライスペーパー)が有り、更に薄紙上に水溶性樹脂が塗布された構造の用紙を利用し、電子写真を出力もしくは印刷された面の画像(トナー・インク)を壊さない程度に溶解性を有するよう調整された溶剤で希釈された樹脂を塗布し、更に白色樹脂及び接着性を有する樹脂を混合または個別に塗布、もしくはフィルム状にしたものを貼付して転写する方法とした。
【発明の実施の形態】
【実施例】例として陶磁器用転写複紙に絵柄をコピー(電子写真出力)、その出力面に電子写真の画像を形成するトナーを溶解する働きを有する芳香族系の溶剤を半分程度に混合した溶剤で希釈した樹脂を塗布し、更に適当な白色樹脂を塗布、乾燥後に画像の輪郭に切り込みを入れ、更に接着用樹脂を塗布した後、画像の不要部分を除去、残った転写したい部分を有色布地に当て、適当な乾燥時間を経て転写を完成させた。」(【0004】?【0005】)

(ウ)「陶磁器用転写複紙上の画像に白色樹脂を塗布する事により、転写した場合の正常な発色を成させる事ができた。
厚紙上に剥がせる薄紙(ライスペーパー)を持つ構造のため、不要な画像を除去するための切り込みが容易で、フリーハンド及びカッター用機器でも簡単に切り込み作業を行う事ができ、除去作業も容易にできた。」(【0007】?【0008】)

(エ)「【図1】陶磁器用転写複紙の構造図である。
【図2】陶磁器用転写複紙に画像を出力、更に転写に必要な樹脂を塗布、画像の不要部を除去した時点の模式図である。
【図3】有色布地等に転写を完成した時点の模式図である。」(【図面の簡単な説明】)

(オ)「1 厚紙、紙厚は約0.2mm
2 薄紙(ライスペーパー)
3 水溶性樹脂層
4 電子写真出力もしくは印刷された面に、画像を壊さない程度に溶解性を調整した溶剤型樹脂を塗布した面
5 白色の接着性樹脂
6 被転写物(有色布地等)」(【符号の説明】)

(カ)「

」(図2,3)

上記(イ)及び図2の記載からすれば、刊行物等1には有色布地へ画像を転写する「転写シート」が記載されているといえるから、上記(ア)?(カ)の記載から、刊行物等1には次の発明(以下、「刊1発明」という。)が記載されているものと認められる。

「被転写物6に画像を転写する転写シートにして、厚紙1と、一方の面が前記厚紙1に剥離可能に重ね合わせて配置された、薄紙(ライスペーパー)2との2層構造の台紙と、一方の面が前記薄紙(ライスペーパー)2の他方の面側に剥離可能に配置され、前記画像を形成する溶剤型樹脂を塗布した面4と、一方の面が前記溶剤型樹脂を塗布した面4の他方の面側に配置された白色の接着性樹脂5と、を備え、前記白色の接着性樹脂5を介して前記溶剤型樹脂を塗布した面4を貼り付けることにより、前記被転写物6に前記画像を転写する転写シート。」

イ.刊行物等2の記載事項及び記載された発明
刊行物等2には、以下の各事項が記載されている。
(ア)「基材、第1の樹脂層、絵柄模様層、第2の樹脂層、粘着層及び離型シートが順次積層された転写体。」(【請求項1】)

(イ)「この発明の転写体は、図1に示すように、基材1、第1の樹脂層2、絵柄模様層3、第2の樹脂層4、粘着層5及び離型シート6が順次積層された構造を有する。
基材1は、第1の樹脂層2、絵柄模様層3、第2の樹脂層4、粘着層5及び離型シート6の担体となるものである。このような基材1としては、従来から爪装飾用の転写体に使用されているようなものを使用することができ、例えば、ポリプロピレンなどのポリオレフィンやポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルなどのシートを使用することができる。特にその表面がシリコーン化合物を用いて離型処理されているものを好ましく使用できる。
特に、基材1としては、爪などの被転写体に絵柄模様層3を転写する際に基材1側から絵柄模様と被転写体とを確実に位置合わせできるように、透明又は半透明の材料を使用することが好ましい。
基材1の厚さには特に制限はなく必要に応じて適宜決定することができる。
なお、基材1は、絵柄模様層3を被転写体に転写した後は、第1の樹脂層2から剥離される。
第1の樹脂層2は、外界からの力、例えば摩擦力などから絵柄模様層3を保護するとともに、透明マニキュアなどの有機溶媒を含む各種組成物を絵柄模様層3塗布した場合に、有機溶剤から絵柄模様層3を保護するものである。このような樹脂層2としては、透明マニキュアなどに含まれる有機溶剤に対して耐性を有し、且つ耐摩擦性を有する種々の樹脂を使用することができるが、中でもエポキシ樹脂を好ましく使用することができる。
また、第1の樹脂層も、被転写体に絵柄模様層3を転写する際に絵柄模様層3を透視できるように、透明又は半透明であることが好ましい。
なお、第1の樹脂層2を設けることにより転写した後の絵柄模様層3の表面光沢を改善することができる。
第1の樹脂層2の厚さには特に制限はなく必要に応じて適宜決定することができる。
絵柄模様層3は、被転写体に画像情報を付与するための文字や記号などを含む絵柄を有する層であり、例えば、種々のインクから形成したり、金属箔により形成することができるが、細密な絵柄模様を容易に形成できるシルクスクリーン印刷法により樹脂系インクを用いて形成することがより好ましい。このようなインクとしては、人体に悪影響を及ぼさないようなインクを使用することが好ましく、例えば、エポキシ樹脂系インク、ビニル樹脂系インクなどを使用することができる。
絵柄模様層3の厚さには特に制限はなく必要に応じて適宜決定することができる。
第2の樹脂層4は、後述する粘着層5が所望の形で爪に転写できなった場合に、絵柄模様層3を破断しにくくするための補強層としての機能を有し、更に、粘着層5を形成する際に使用する有機溶剤から絵柄模様層3を保護する層でもある。このような第2の樹脂層4としては、絵柄模様層3を損なうような有機溶剤を使用しないで積層可能な樹脂を使用することが好ましく、例えばエポキシ樹脂を好ましく使用することができる。この場合、第2の樹脂層4は第1の樹脂層と同様に透明又は半透明でもよいが、絵柄模様層3の絵柄模様を際立たせるために着色しても不透明化してもよい。
なお、第2の樹脂層4の厚みには特に制限はなく必要に応じて適宜決定することができる。
粘着層5は、被転写体に絵柄模様層3を転写し固定するためのものであり、従来から使用されているような感圧粘着剤、例えばアクリル系粘着剤を使用することができる。また、粘着層5の厚みには特に制限はなく、必要に応じて適宜決定することができる。
離型シート6は、この発明の転写体の使用時まで粘着層5が露出しないようにしてその保存性を高めるためのものであり、従来の離型シートを使用することができる。例えば、紙にポリエチレンフィルムを積層することにより離型処理したものを好ましく使用することができる。
この発明の転写体は常法により製造することができる。例えば、まずポリエチレンテレフタレートシートなどの基材1に第1の樹脂層形成用組成物を塗布乾燥して第1の樹脂層2を形成し、その上にシルクスクリーン印刷法により樹脂系インクを塗布乾燥して絵柄模様層3を形成する。次に、その絵柄模様層3上に第2の樹脂層形成用組成物を塗布乾燥して第2の樹脂層4を形成し、更に、その上に粘着剤組成物を塗布乾燥して粘着層5を形成し、最後にその上に離型シート6をその離型処理面側から貼着することにより製造することができる。
この発明の転写体を用いて被転写体に絵柄模様層を転写する方法としては、まず離型シート6を粘着層5から剥がし、粘着層5を爪に接触させ、基材1の上から転写すべき絵柄模様層3に圧力を加えて、粘着層5を介して絵柄模様層3を爪に転写する。最後に基材1を第1の樹脂層2から剥離すればよい。」(【0011】?【0027】)

(ウ)「【作用】上述したように、この発明の転写体においては、基材1と絵柄模様層3との間に第1の樹脂層2が配されている。これにより、絵柄模様層3を爪に転写して基材1を引き剥がした際に、絵柄模様層3が外界に露出しないようにでき、従って、絵柄模様の耐摩擦性と耐溶剤性とを向上させることが可能となる。また、絵柄模様層3と粘着層5との間にも第2の樹脂層4が設けられているので、粘着層5が所望の形で爪に転写できなかった場合でも、絵柄模様層3が破断されにくくすることができる。更に、粘着層5を形成する際に使用する有機溶剤から絵柄模様層3を保護することもできる。」(【0028】)

(エ)「

」(図1)

上記(ア)?(エ)の記載からすれば、刊行物等2には次の発明(以下、「刊2発明」という。)が記載されているものと認められる。

「被転写体に絵柄模様を転写する転写体にして、基材1と、一方の面が前記基材1に剥離可能に重ね合わせて配置された、透明又は半透明の第1の樹脂層2との2層構造の台紙と、一方の面が前記第1の樹脂層2の他方の面側に剥離可能に配置され、前記絵柄模様を形成する絵柄模様層3と、一方の面が前記絵柄模様層3の他方の面側に配置された粘着層5と、を備え、前記第1の樹脂層2を介して前記被転写体及び前記絵柄模様層3を透視して前記絵柄模様層3を前記被転写体上に位置決めし、前記粘着層5を介して前記絵柄模様層3を貼り付けることにより、前記被転写体に前記絵柄模様を転写する転写体。」

ウ.刊行物等3に記載された発明
申立人提出の特許異議申立書添付の甲第4号証及び甲第4号証の1-1?3の記載からすれば、下記の発明(以下、「公知発明」という。)が本件特許の出願前に公然と知られていたものと認められる。

「皮膚にマーカーを転写するポイントマーカーにして、一方の面に貼り付ける時に位置を確認できるラインが印刷された台紙と、一方の面が前記台紙の他方の面側に剥離可能に配置され、マーカーを形成する顔料層と、一方の面が前記顔料層の他方の面側に配置された接着層と、を備え、前記台紙のラインで前記顔料層を前記皮膚上に位置決めし、前記接着層を介して前記顔料層を貼り付けることにより、前記皮膚に前記マーカーを転写する放射線治療用のポイントマーカー。」

(2)取消理由1について
ア.対比
本件発明1と刊1発明を対比すると、その機能及び構成からみて、刊1発明の「被転写物6」,「画像」,「転写シート」,「厚紙1」,「薄紙(ライスペーパー)2」、「画像を形成する溶剤型樹脂を塗布した面」及び「白色の接着樹脂層5」は、それぞれ本件発明1の「被転写体」,「模様、図柄、マークなど」,「転写シール」,「台紙本体」,「シート」,「模様、図柄、マークなどを形成するインク層」及び「接着層」に相当する。
そして、刊行物等1の【図面の簡単な説明】及び図3の記載からすれば、刊1発明は、転写を完成した状態で薄紙(ライスペーパー)2は剥がされているものと理解できる。
してみれば、本件発明1と刊1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

【一致点】
被転写体に模様、図柄、マークなどを転写する転写シールにして、台紙本体と、一方の面が前記台紙本体に剥離可能に重ね合わせて配置された、シートとの2層構造の台紙と、一方の面が前記シートの他方の面側に剥離可能に配置され、前記模様、図柄、マークなどを形成するインク層と、一方の面が前記インク層の他方の面側に配置された接着層と、を備え、前記接着層を介して前記インク層を貼り付け、シートを剥がすことにより、前記被転写体に前記模様、図柄、マークなどを転写する転写シール。

【相違点】
A.本件発明1では、転写シールが放射線治療用であるのに対して、刊1発明では、そのような用途の特定がない点。
B.本件発明1では、シートが透明又は半透明であって、シートを介して被転写体及びインク層を透視してインク層を前記被転写体上に位置決めするのに対して、刊1発明では、そのような構成を有するか不明である点。

イ.判断
事案に鑑み、先ず相違点Bから検討する。
刊1発明は、シートとして薄紙(ライスペーパー)を用いており、「不要な画像を除去するため」(上記第3の3(1)ア.(ウ)参照。)に当該ライスペーパーを用いていることからすれば、当該ライスペーパーは、これを介して画像(インク層)を透視できるように構成されており、少なくとも半透明であるといえる。
しかし、刊1発明は、「白色樹脂が塗布する事により、転写した場合の正常な発色を成させる事ができ」(上記第3の3(1)ア.(ウ)参照。)るのであるところ、上記したとおりライスペーパーが半透明であるとしても、上記白色樹脂の存在により、シート(ライスペーパー)を介して被転写体を透視することができるとはいえない。
そして、刊1発明において、白色樹脂は、上記のとおり正常な発色を成させるために必要な構成であるから、刊行物等1に接した当業者は、刊1発明について、白色の接着樹脂層5に代えて地の色が透けてしまうようなものを採用して、被転写体を透視することができるようにする動機付けは生じ得ない

よって、刊1発明に基いて、相違点Bに係る本件発明1の構成を、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
したがって、相違点Aについて検討するまでもなく、本件発明1は、刊1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
そして、本件発明2は、本件発明1の発明特定事項をすべて含むものであるから、本件発明1が刊1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたということができない以上、本件発明2についても同様に、刊1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(3)取消理由2について
ア.対比
本件発明1と刊2発明を対比すると、その機能及び構成からみて、刊2発明の「絵柄模様」,「転写体」,「基材1」,「第1の樹脂層2」、「絵柄模様層3」及び「粘着層5」は、それぞれ本件発明1の「模様、図柄、マークなど」,「転写シール」,「台紙本体」,「シート」,「模様、図柄、マークなどを形成するインク層」及び「接着層」に相当する。
してみれば、本件発明1と刊2発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

【一致点】
被転写体に模様、図柄、マークなどを転写する転写シールにして、台紙本体と、一方の面が前記台紙本体に剥離可能に重ね合わせて配置された、透明又は半透明のシートとの2層構造の台紙と、一方の面が前記シートの他方の面側に剥離可能に配置され、前記模様、図柄、マークなどを形成するインク層と、一方の面が前記インク層の他方の面側に配置された接着層と、を備え、前記シートを介して前記被転写体及び前記インク層を透視して前記インク層を前記被転写体上に位置決めし、前記接着層を介して前記インク層を貼り付けることにより、前記被転写体に前記模様、図柄、マークなどを転写することを特徴とする転写シール。

【相違点】
A.本件発明1では、転写シールが放射線治療用であるのに対して、刊2発明では、そのような用途の特定がない点。
B.本件発明1では、接着層を介してインク層を貼り付け、シートを剥がすることにより、被転写体に模様、図柄、マークなどを転写するのに対して、刊2発明では、第1の樹脂層2(シート)を剥がさない点。

イ.判断
本件発明1と刊2発明の上記相違点A,Bは、実質的な相違点であると認められるから、本件発明1が刊2発明であるということはできない。
次に、本件発明1が刊2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたといえるか検討する。
事案に鑑み、先ず相違点Bから検討する。
本件発明は、模様、図柄、マークなどを転写した後、シートを剥がし、インク層上にシートが存在しないことにより、シートのごわごわした不快感を与えない(本件特許明細書の段落【0025】?【0026】参照。)、放射線の照射位置を精度良く計測できる(本件特許明細書の段落【0027】参照。)といった作用効果を奏するものと認められる。
一方、刊2発明は、絵柄模様層3(模様、図柄、マークなど)を転写した後に第1の樹脂層2(シート)を残すことにより、絵柄模様層3が外界に露出しないようにでき、絵柄模様の耐摩耗性と耐溶剤性を向上できる(上記第3の3.(1)イ.(ウ)参照。)という作用効果を意図したものであるから、第1の樹脂層2(シート)は剥がさずに用いるものであって、当該シートを剥がすことは予定していないというべきである。
よって、刊2発明と本件発明1とは、シートについての技術的思想において、その機能やそれにより奏される作用効果を異にするものであると言わざるを得ず、刊2発明について、上記相違点Bに係る本件発明1の構成を採用することは、当業者にとって容易に想到しうることとはいえない。
したがって、本件発明1は、刊2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
そして、本件発明2?4はいずれも本件発明1の発明特定事項をすべて含むものであるから、本件発明1が刊2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたということができない以上、本件発明2?4についても同様に、刊2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(4)取消理由3について
ア.対比
本件発明1と公知発明を対比すると、その機能及び構成からみて、公知発明の「皮膚」,「マーカー」,「ポイントマーカー」及び「マーカーを形成する顔料層」は、それぞれ本願発明の「被転写体」,「模様、図柄、マークなど」,「放射線治療用転写シール」及び「模様、図柄、マークなどを形成するインク層」に相当する。
してみれば、本件発明1と公知発明との一致点及び相違点は次のとおりである。

【一致点】
被転写体に模様、図柄、マークなどを転写する放射線治療用転写シールにして、一方の面が前記シートの他方の面側に剥離可能に配置され、前記模様、図柄、マークなどを形成するインク層と、一方の面が前記インク層の他方の面側に配置された接着層と、を備え、前記接着層を介して前記インク層を貼り付けることにより、前記被転写体に前記模様、図柄、マークなどを転写することを特徴とする転写シール。

【相違点】
本件発明1では、台紙が、台紙本体と、一方の面が前記台紙本体に剥離可能に重ね合わせて配置された、透明又は半透明のシートとの2層構造の台紙であり、前記シートを介して被転写体及びインク層を透視して前記インク層を前記被転写体上に位置決めし、前記接着層を介して前記インク層を貼り付け、シートを剥がすことにより、前記被転写体に前記模様、図柄、マークなどを転写するのに対し、公知発明では、台紙が、一方の面に貼り付ける時に位置を確認できるラインが印刷された台紙であり、前記台紙のラインで顔料層を皮膚上に位置決めし、前記接着層を介して前記インク層を貼り付け、台紙を剥がすことにより、前記被転写体に前記模様、図柄、マークなどを転写する点。

イ.判断
本件発明1は、転写されるマーク自体を目印として位置決めすることが可能な転写シールである(本件特許明細書の段落【0009】参照。)。
一方、公知発明は、台紙のインク層と反対側に設けられたラインによりインク層の位置を確認するものであり、マーク(標識)を設けた基台紙(基板)表面の真裏位置ではなく、そこから外れてマーク(患者マーキング標識)が設けられてしまうと、基台紙(基板)表面のマーク(標識)と基台紙(基板)裏面(下面)のマーク(患者マーキング標識)との間に位置ずれが生じる(本件特許明細書の段落【0008】参照。)という本件発明の従来例と同様の問題点を有する。
ここで、台紙に、台紙本体と、一方の面が前記台紙本体に剥離可能に重ね合わせて配置された、透明又は半透明のシートとの2層構造の台紙を採用し、透明又は半透明のシートを介して、被転写体及びインク層を透視して前記インク層を前記被転写体上に位置決めすることが、刊2発明(上記第3の3.(1)イ.参照。)及び刊行物等4(明細書6頁12?15行参照。)の記載から周知技術であるとしても、これら刊行物等の記載事項からだけでは本件発明1のように、模様、図柄、マークなどを転写した後、シートを剥がし、インク層上にシートが存在しないことにより、シートのごわごわした不快感を与えない(本件特許明細書の段落【0025】?【0026】参照。)、放射線の照射位置を精度良く計測できる(本件特許明細書の段落【0027】参照。)といった作用効果を期待して、模様、図柄、マークなどを転写した後、シートを剥がす構成にすることまで、周知技術であるということはできない。
よって、本件発明1は、公知発明及び上記周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
そして、本件発明2?4はいずれも本件発明1の発明特定事項をすべて含むものであるから、本件発明1が公知発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたということができない以上、本件発明2?4についても同様に、公知発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。

(5)小括
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した理由1?3によっては、本件発明1?4に係る特許を取り消すべきものとすることはできない。

第4 取消理由において採用しなかった特許異議申立理由について
申立人は、特許異議申立書において、本件発明は、甲第1号証(特開2000-73580号公報)に記載された発明であるか、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであると主張しているので、以下、検討する。

1.甲第1号証の記載事項
(1)「【請求項1】住宅の建築完了後において、外壁の塗装膜に傷や損傷が発生した際に、この傷や損傷を補修する方法であって、予め外壁模様と同一の模様に印刷された溶剤活性型転写マークを、傷や損傷が発生した外壁面に転写することにより補修することを特徴とする住宅外壁塗装の補修方法。
【請求項2】溶剤活性型転写マークは、外壁面へ密着される側から順に、溶剤活性型接着剤、絵柄模様インク層、水溶性樹脂、台紙を張り合わせた構成としたことを特徴とする請求項1記載の住宅外壁塗装の補修方法。
【請求項3】溶剤活性型転写マークは、外壁面へ密着される側から順に、溶剤活性型接着剤、絵柄模様インク層、離型剤水溶性樹脂、薄い台紙、厚い台紙を張り合わせた構成としたことを特徴とする請求項1記載の住宅外壁塗装の補修方法。
【請求項4】溶剤活性型転写マークは、第1工程において、溶剤活性型接着剤を有機溶剤に浸し、第2工程において、溶剤活性型接着剤の部分を外壁材の傷や損傷の部分に密着させて押圧し、第3工程において、台紙の部分を離型剤水溶性樹脂の部分から剥がし、第4工程において、絵柄模様インク層に付着した離型剤水溶性樹脂を水により洗浄することを特徴とする請求項1記載の住宅外壁塗装の補修方法。」(【特許請求の範囲】)

(2)「図3に示す実施例においては、外壁材Aに貼着する面から順に、溶剤活性型接着剤1と絵柄模様インク層2と離型剤水溶性樹脂3が合わせ固着されている点は同じである。しかし、該実施例においては、離型剤水溶性樹脂3と厚い台紙4の間に薄い台紙5を挟持しており、複紙転写紙7を構成している。」(【0010】)

(3)「次に、図5から図8において、本発明の溶剤活性型転写マークを外壁材Aの傷や損傷の部分に張り付ける作業を説明する。図5においては、予め水と混合したまたは水と混合しない有機溶媒中に、本発明の溶剤活性型転写マークを浸漬する工程である。溶剤活性型接着剤1はこの有機溶媒中に浸漬することにより、粘着性を発揮するのである。図6は、有機溶媒中に浸漬した溶剤活性型転写マークを外壁材Aの傷の付いた部分に当てて、厚い台紙4の側からローラーにより圧力を掛け、絵柄模様インク層2の部分を溶剤活性型接着剤1により、外壁材Aに転写する工程を示している。外壁材Aの被張り付け面に気泡が発生しないように、ローラー又はスキージーで圧着する。ローラー又はスキージーは最初は軽く後は強く押圧してもよい。また、凹凸を有する外壁材の場合には、ローラーによる追従は不可能であり、強く押圧する必要もないため、実際には水洗浄時にスポンジ等により、なでる程度で十分に転写することができる。
図7は、該絵柄模様インク層2が外壁材Aに転写された状態で、離型剤水溶性樹脂3の部分から、絵柄模様インク層2と厚い台紙4を剥がす工程を示している。溶剤活性型接着剤1が外壁材Aの表面に固着されて粘着力を増すまでに、30?60秒が必要である。絵柄模様インク層2は溶剤活性型接着剤1により外壁材Aに張り付けられるので、絵柄模様インク層2と厚い台紙4の間の離型剤水溶性樹脂3が剥がれるのである。」(【0012】?【0013】)

(4)「図3に示す第2実施例の場合には、溶剤活性型転写マークを取り扱うときは、厚い台紙4が付着している状態とするが、外壁材Aへの貼付作業においては、先ず薄い台紙5と厚い台紙4の間を剥がして、溶剤活性型接着剤1と絵柄模様インク層2と離型剤水溶性樹脂3と薄い台紙5のみの状態とする。このように、厚い台紙4の部分を取り去ることにより、薄い台紙5が外壁材Aの凹凸面に追従性が良くなるので、水泡の発生がすくなく、凹凸追従性の良い住宅外壁塗装の補修方法とすることが出来るのである。また、作業の最初の工程で、溶剤活性型転写マークを有機溶媒中に浸漬して、溶剤活性型接着剤1の粘着性を持たせる作業を行ったが、有機溶媒中への浸漬の代わりに、溶剤活性型接着剤1の面に刷毛で有機溶媒を塗布する工程としても良いものである。」(【0015】)

(5)「請求項3の如く、溶剤活性型転写マークは、外壁面へ密着される側から順に、溶剤活性型接着剤、絵柄模様インク層、離型剤水溶性樹脂、薄い台紙、厚い台紙を張り合わせた構成としたので、使用前に、厚い台紙の部分を薄い台紙から剥がしておくことにより、薄い台紙を外壁材の凹凸面に対して、フレキシブルに追従させることができ、気泡が入り難く、絵柄模様インク層の密着貼付性が良くなるのである。」(【0018】)

(6)「



」(図3,5?7)

上記(1)?(6)の記載からすれば、甲第1号証には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。

「外壁材Aに絵柄模様を転写する溶剤活性型転写マークにして、厚い台紙4と、一方の面が前記厚い台紙4に剥離可能に重ね合わせて配置された、薄い台紙5との2層構造の台紙と、一方の面が前記薄い台紙5の他方の面側に剥離可能に配置された絵柄模様インク層2と、一方の面が前記絵柄模様インク層2の他方の面側に配置された溶剤活性型接着剤1と、を備え、前記溶剤活性型接着剤1を介して前記絵柄模様インク層2を貼り付けることにより、前記外壁材Aに前記絵柄模様インク層2を転写する溶剤活性型転写マーク。」

2.対比
本件発明1と甲1発明を対比すると、その機能及び構成からみて、甲1発明の「外壁材A」,「絵柄模様」,「溶剤活性型転写マーク」,「厚い台紙4」,「薄い台紙5」、「絵柄模様インク層2」及び「溶剤活性型接着剤1」は、それぞれ本件発明1の「被転写体」,「模様、図柄、マークなど」,「転写シール」,「台紙本体」,「シート」,「模様、図柄、マークなどを形成するインク層」及び「接着層」に相当する。
してみれば、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

【一致点】
被転写体に模様、図柄、マークなどを転写する転写シールにして、台紙本体と、一方の面が前記台紙本体に剥離可能に重ね合わせて配置された、2層構造の台紙と、一方の面が前記シートの他方の面側に剥離可能に配置され、前記模様、図柄、マークなどを形成するインク層と、一方の面が前記インク層の他方の面側に配置された接着層と、を備え、前記接着層を介して前記インク層を貼り付け、前記シートを剥がすことにより、前記被転写体に前記模様、図柄、マークなどを転写することを特徴とする転写シール。

【相違点】
A.本件発明1では、転写シールが放射線治療用であるのに対して、甲1発明では、そのような用途の特定がない点。
B.本件発明1では、シートが透明又は半透明であって、シートを介して被転写体及びインク層を透視してインク層を前記被転写体上に位置決めするのに対して、甲1発明では、そのような構成を有するか明らかでない点。

3.判断
事案に鑑み、先ず相違点Bから検討する。
甲1発明は、シートとして薄い台紙5を用いているが、当該薄い台紙は外壁材の凹凸面への追従性をよくし、水泡の発生が少なく、凹凸追従性の良い住宅外壁塗装の補修を行うためのものであり(段落【0015】参照。)、甲第1号証には、当該薄い台紙を介して絵柄模様インク層を透視して位置決めすることについては記載も示唆もないことから、甲1発明は、当該薄い台紙を透明又は半透明にすることを意図しているとまでいえない。
よって、上記相違点は実質的な相違点であるから、甲1発明が本件発明1であるとはいえない。
また、上記のとおり、甲1発明は、薄い台紙を介して絵柄模様インク層を透視して位置決めすることを意図するものではないのであるから、甲第3号証(刊行物等2、上記第3の3.(1)イ.参照。)に基材(台紙)を透明又は半透明にしてこれを介して位置合わせする技術が記載されているとしても、甲第1号証に接した当業者にとって、そのような技術を適用する動機付けは生じ得ない。
さらに、上記第3の3.(3)で述べたとおり、甲第3号証記載の発明(刊2発明)は、シートを剥がさず用いるものであるから、これを甲1発明に適用するには阻害要因がある。
よって、相違点Aについて検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明に基いて、また、甲1発明及び甲第3号証記載の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
そして、本件発明2?4はいずれも本件発明1の発明特定事項をすべて含むものであるから、本件発明1が甲1発明ではなく、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない以上、本件発明2?4についても同様に、甲1発明ではなく、また、甲1発明に基いて、あるいは、甲1発明及び甲第3号証記載の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本件請求項1?4に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された申立理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被転写体に模様、図柄、マークなどを転写する放射線治療用転写シールにして、
台紙本体と、一方の面が前記台紙本体に剥離可能に重ね合わせて配置された、透明又は半透明のシートとの2層構造の台紙と、
一方の面が前記シートの他方の面側に剥離可能に配置され、前記模様、図柄、マークなどを形成するインク層と、
一方の面が前記インク層の他方の面側に配置された接着層と、を備え、
前記シートを介して前記被転写体及び前記インク層を透視して前記インク層を前記被転写体上に位置決めし、前記接着層を介して前記インク層を貼り付け,前記シートを剥がすことにより、前記被転写体に前記模様、図柄、マークなどを転写することを特徴とする放射線治療用転写シール。
【請求項2】
請求項1に記載の放射線治療用転写シールにおいて、
前記台紙本体は、前記インク層と前記接着層を形成する際の支持体として機能する強度を有し、
前記シートは、前記被転写体の表面の凹凸に沿うように、可撓性を有していることを特徴とする放射線治療用転写シール。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の放射線治療用転写シールにおいて、
前記インク層の他方の面と前記接着層の一方の面との間に、保護層を配置し、
前記保護層の幅を前記インク層の幅よりも広く設定し、
前記接着層の幅を前記保護層の幅と同じに設定してなることを特徴とする放射線治療用転写シール。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項に記載の放射線治療用転写シールにおいて、
前記シートの他方の面側と前記インク層の一方の面との間に光輝性粉体を含む反射層を配置してなることを特徴とする放射線治療用転写シール。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-01-07 
出願番号 特願2015-59375(P2015-59375)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (A61B)
P 1 651・ 121- YAA (A61B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 中村 一雄  
特許庁審判長 芦原 康裕
特許庁審判官 井上 哲男
沖田 孝裕
登録日 2018-11-09 
登録番号 特許第6431419号(P6431419)
権利者 坪井 あや 坪井 正和 坪井 りん
発明の名称 転写シール  
代理人 岩永 利彦  
代理人 岩永 利彦  
代理人 森 泰比古  
代理人 岩永 利彦  
代理人 岩永 利彦  
代理人 森 泰比古  

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