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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 F16J 審判 全部申し立て 2項進歩性 F16J |
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管理番号 | 1359583 |
異議申立番号 | 異議2019-700261 |
総通号数 | 243 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-03-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-04-05 |
確定日 | 2020-01-15 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6404362号発明「ガスケット用素材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6404362号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2、3、4、5について訂正することを認める。 特許第6404362号の請求項1?2に係る特許を維持する。 特許第6404362号の請求項3?5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6404362号の請求項1?5に係る特許についての出願は、2015年(平成27年)12月1日(優先権主張 2014年12月1日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成30年9月21日に特許権の設定登録がされ、平成30年10月10日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、特許異議申立人伊藤裕美(以下「特許異議申立人」という。)により、請求項1?5に係る特許に対する特許異議の申立てがされた。 本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。 平成31年 4月 5日 :特許異議申立人より特許異議の申立て 令和 1年 6月 7日付け:取消理由通知書 令和 1年 8月 8日 :特許権者より意見書及び訂正請求書の提出 令和 1年 8月29日付け:訂正拒絶理由通知書及び審尋 令和 1年10月 3日 :特許権者より意見書、手続補正書及び回答 書の提出 令和 1年11月22日 :特許異議申立人より意見書の提出 第2 訂正の適否 1 訂正請求に係る補正の可否 令和1年8月8日の訂正請求書は、令和1年10月3日の手続補正書により補正され、訂正事項6が削除されたが、当該補正は、訂正請求書の要旨を変更するものではないので、これを認める。 2 訂正の内容 上記1のとおり補正された訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下の(1)?(5)のとおりである(下線部は訂正箇所を示す。)。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に、 「車両のエンジンに装着されるガスケット用素材であって、鋼板の片面又は両面に、酸成分と金属との反応生成物又は酸成分と金属化合物との反応生成物、及びアルミナを含む皮膜を介してゴム層が形成されていて、 前記皮膜中の、前記金属又は前記金属化合物の配合量が、金属元素量に換算して、30?90重量%であるガスケット用素材。」 と記載されているのを、 「車両のエンジンに装着されるガスケット用素材であって、鋼板の片面又は両面に、リン酸アルミニウム及びアルミナを含む皮膜を介してゴム層が形成されていて、 前記皮膜中の、前記リン酸アルミニウムの配合量が、金属元素量に換算して、30?90重量%であるガスケット用素材。」 に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2に、 「車両のエンジンに装着されるガスケット用素材であって、鋼板の片面又は両面に、酸成分と金属との反応生成物又は酸成分と金属化合物との反応生成物、及びジルコニア、アルミナ及びチタニアから選択される1以上からなる皮膜、プライマー層、及びゴム層がこの順に形成されていて、 前記プライマー層は、ポリブタジエン、水素添加型ポリブタジエン、及び変性ポリブタジエンは含まず、 前記皮膜中の、前記金属又は前記金属化合物の配合量が、金属元素量に換算して、30?90重量%であるガスケット用素材。」 と記載されているのを、 「車両のエンジンに装着されるガスケット用素材であって、鋼板の片面又は両面に、リン酸アルミニウム、及び、アルミナ及びチタニアから選択される1以上からなる皮膜、プライマー層、及びゴム層がこの順に形成されていて、 前記プライマー層は、ポリブタジエン、水素添加型ポリブタジエン、及び変性ポリブタジエンは含まず、 前記皮膜中の、前記リン酸アルミニウムの配合量が、金属元素量に換算して、30?90重量%であるガスケット用素材。」 に訂正する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項3を削除する。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項4を削除する。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項5を削除する。 3 訂正の要件 (1)訂正事項1について ア 訂正の目的の適否 訂正事項1は、訂正前の請求項1における「酸成分と金属との反応生成物又は酸成分と金属化合物との反応生成物」を、「リン酸アルミニウム」と具体的に特定するとともに、「前記皮膜中の、前記金属又は前記金属化合物の配合量」を「前記皮膜中の、前記リン酸アルミニウムの配合量」と具体的に特定して限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項1は、上記アのとおり、訂正前の請求項1に係る発明をより狭い範囲に限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。 ウ 新規事項の有無 「酸成分と金属との反応生成物又は酸成分と金属化合物との反応生成物」が「リン酸アルミニウム」であること、及び、「前記皮膜中の、前記金属又は前記金属化合物の配合量」が「前記皮膜中の、前記リン酸アルミニウムの配合量」であることは、本件特許明細書の段落【0034】の【表2】の記載等に基づくものであるから、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。 (2)訂正事項2について ア 訂正の目的の適否 訂正事項2は、訂正前の請求項2における「酸成分と金属との反応生成物又は酸成分と金属化合物との反応生成物」を「リン酸アルミニウム」と具体的に特定するとともに、「ジルコニア、アルミナ及びチタニアから選択される」を「アルミナ及びチタニアから選択される」に限定し、「前記皮膜中の、前記金属又は前記金属化合物の配合量」を「前記皮膜中の、前記リン酸アルミニウムの配合量」と具体的に特定して限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項2は、上記アのとおり、訂正前の請求項2に係る発明をより狭い範囲に限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。 ウ 新規事項の有無 「酸成分と金属との反応生成物又は酸成分と金属化合物との反応生成物」が「リン酸アルミニウム」であること、及び、「前記皮膜中の、前記金属又は前記金属化合物の配合量」が「前記皮膜中の、前記リン酸アルミニウムの配合量」であることは、本件特許明細書の段落【0034】の【表2】の記載等に基づくものである。また、「ジルコニア、アルミナ及びチタニアから選択される」を「アルミナ及びチタニアから選択される」に限定する訂正は、特許請求の範囲に選択的に記載されていた「ジルコニア」を削除するものである。 よって、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。 (3)訂正事項3?5について 訂正事項3?5は、それぞれ、訂正前の請求項3?5を削除する訂正であるから、特許法第126条第1項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。また、当該訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるとともに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではない。 よって、訂正事項3?5は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 4 一群の請求項及び別の訂正単位とする求め 訂正前の請求項3?5は、訂正前の請求項1又は2を直接又は間接的に引用しているものであるから、訂正前の請求項1?5は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項であり、本件訂正は一群の請求項に対して請求されたものである。 そして、特許権者は、訂正後の請求項1及び2については、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別の訂正単位として扱われることを求めているところ、上記3(1)及び(2)のとおり、訂正事項1及び2に係る訂正は認められるものであるから、訂正後の請求項1及び2について、請求項ごとに訂正することを認める。 5 小括 以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 なお、本件特許異議の申立てにおいては、訂正前のすべての請求項に対して特許異議の申立てがされているため、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。 したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2、3、4、5について訂正することを認める。 第3 訂正後の本件発明 上記第2のとおり本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1?2に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明2」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?2に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。 「【請求項1】 車両のエンジンに装着されるガスケット用素材であって、鋼板の片面又は両面に、リン酸アルミニウム及びアルミナを含む皮膜を介してゴム層が形成されていて、 前記皮膜中の、前記リン酸アルミニウムの配合量が、金属元素量に換算して、30?90重量%であるガスケット用素材。 【請求項2】 車両のエンジンに装着されるガスケット用素材であって、鋼板の片面又は両面に、リン酸アルミニウム、及び、アルミナ及びチタニアから選択される1以上からなる皮膜、プライマー層、及びゴム層がこの順に形成されていて、 前記プライマー層は、ポリブタジエン、水素添加型ポリブタジエン、及び変性ポリブタジエンは含まず、 前記皮膜中の、前記リン酸アルミニウムの配合量が、金属元素量に換算して、30?90重量%であるガスケット用素材。」 第4 取消理由通知に記載した取消理由の概要 訂正前の請求項1?5に係る特許に対して、当審が令和1年6月7日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 (1)本件特許の請求項1?5に係る発明は、甲第1号証(特許第4816793号公報)に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。 (2)本件特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。 (3)本件特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。 第5 甲号証の記載 取消理由通知において引用した甲第1号証には、次の記載がある。 (1)「【請求項1】 金属鋼板上に、ジルコニウム元素、リン元素およびアルミニウム元素を含有する表面処理剤層、シリカ含有熱硬化性フェノール樹脂系加硫接着剤層およびフッ素ゴム層を順次積層してなるフッ素ゴム-金属積層ガスケット素材において、シリカ含有熱硬化性フェノール樹脂系加硫接着剤として、シリカおよびクレゾールノボラック型エポキシ樹脂またはフェノールノボラック型エポキシ樹脂を含有させた熱硬化性フェノール樹脂系加硫接着剤を用い、該熱硬化性フェノール樹脂系加硫接着剤中に熱硬化性フェノール樹脂100重量部当り11?80重量部の脂肪族アミン系化合物またはそれとイミダゾール系化合物の両者を硬化促進剤として配合したフッ素ゴム-金属積層ガスケット素材。」 (2)「【請求項9】 エンジンシリンダヘッド用ガスケットとして使用される請求項1または5記載のフッ素ゴム-金属積層ガスケット素材。」 (3)「【0001】 本発明は、フッ素ゴム-金属積層ガスケット素材に関する。さらに詳しくは、エンジンシリンダヘッド用ガスケット等として好適に用いられるフッ素ゴム-金属積層ガスケット素材に関する。」 (4)「【0007】 …これらの鋼板上には、ジルコニウム、リンおよびアルミニウムの各元素を含有する表面処理剤層が形成される。 【0008】 この表面処理剤層において、ジルコニウムとアルミニウムの元素質量比率が90:10?10:90、好ましくは70:30?30:70、またジルコニウムとリンの元素質量比率が95:5?60:40、好ましくは90:10?68:32の割合で形成される。… 【0009】 これらの皮膜中のジルコニウム成分は、リン酸ジルコニウムまたは酸化ジルコニウムの形で存在しているが、リン酸ジルコニウムの形で存在していることが好ましい。…。アルミニウムは、けい酸アルミニウム、アルミナ(酸化アルミニウム)、水酸化アルミニウム、硫酸アルミニウムなどを含有している処理液によって、皮膜中に存在させるが、酸化アルミニウムの形で存在させるのが好ましい。皮膜中のリン成分は、リン酸を添加することによって供給されるが、その添加量はZr:P質量比率が95:5?60:40になるように調整される。」 したがって、これらの記載を総合すると、甲第1号証には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「エンジンシリンダヘッド用ガスケットとして使用されるフッ素ゴム-金属積層ガスケット素材であって、金属鋼板上に、アルミニウム元素を含有する表面処理剤層、シリカ含有熱硬化性フェノール樹脂系加硫接着剤層およびフッ素ゴム層を順次積層してなり、 前記表面処理剤層のアルミニウムは、好ましくはアルミナ(酸化アルミニウム)の形で存在するフッ素ゴム-金属積層ガスケット素材。」 第6 当審の判断 1 特許法第29条第2項について (1)本件発明1について ア 対比 本件発明1と引用発明とを対比すると、引用発明における「エンジンシリンダヘッド用ガスケットとして使用されるフッ素ゴム-金属積層ガスケット素材」は、本件発明1の「車両のエンジンに装着されるガスケット用素材」と、「エンジンに装着されるガスケット用素材」である限りにおいて一致する。 また、引用発明における「金属鋼板」は本件発明1の「鋼板」に、「アルミナ(酸化アルミニウム)」は「アルミナ」に、「表面処理剤層」は「皮膜」に、「フッ素ゴム層」は「ゴム層」にそれぞれ相当する。 そうすると、両者の一致点及び相違点は、次のとおりである。 <一致点> 「エンジンに装着されるガスケット用素材であって、鋼板の片面又は両面に、アルミナを含む皮膜を介してゴム層が形成されているガスケット用素材。」 <相違点1> 本件発明1の「ガスケット用素材」は、「車両のエンジンに装着される」ものであるのに対し、引用発明のフッ素ゴム-金属積層ガスケット素材はエンジンシリンダヘッド用ガスケットとして使用されるものではあるものの、当該エンジンの用途が車両用であるか否か明確に特定されていない点。 <相違点2> 本件発明1の「皮膜」は、「リン酸アルミニウム」を含み、「前記皮膜中の、前記リン酸アルミニウムの配合量が、金属元素量に換算して、30?90重量%である」のに対し、引用発明の「表面処理剤層」は、リン酸アルミニウムを含むのか明らかでない点。 イ 判断 事案に鑑み、まず、相違点2について検討する。 甲第1号証には、上記第5(4)のとおり、表面処理剤層のジルコウニム成分は、好ましくはリン酸ジルコニウムの形で存在し、リン成分はリン酸を添加することによって供給されることは記載されているものの、表面処理剤層に、リン酸アルミニウムを含ませることについては記載されておらず、まして、表面処理剤層中のリン酸アルミニウムの配合量を、金属元素量に換算して、30?90重量%とすることは、記載も示唆もされていない。 そして、相違点2に係る構成が周知技術であることを認めるに足りる証拠はなく、単なる設計的事項にすぎないということもできないので、引用発明に基いて、相違点2に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。 ウ 小括 したがって、本件発明1は、相違点1について検討するまでもなく、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (2)本件発明2について 本件発明2も、本件発明1と同様に、「皮膜」が「リン酸アルミニウム」を含み、「前記皮膜中の、前記リン酸アルミニウムの配合量が、金属元素量に換算して、30?90重量%である」との構成を備えるものであるから、本件発明1と同じ理由により、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 2 特許法第36条第6項第2号について 本件発明1及び2には、「前記皮膜中の、前記リン酸アルミニウムの配合量が、金属元素量に換算して、30?90重量%である」と特定されており、この配合量に関して、本件特許明細書の段落【0014】には、「これら金属又は金属化合物は、単独でも、複数を混合して使用してもよく、その配合量は皮膜形成用の処理液中の固形分中に1?95重量%が好ましい。さらに好ましくは30?90重量%である。尚、金属化合物の場合は、金属元素量に換算した値とする。」と記載されている。 そして、本件特許明細書には、この配合量を求める計算式において分母となる「皮膜形成用の処理液中の固形分」についても、金属元素量に換算した値を用いるのか否か明確に記載されていないものの、計算式において分子となる金属化合物についてだけ金属元素量に換算した値を用いるのは不自然であり、分母となる「皮膜形成用の処理液中の固形分」についても、金属元素量に換算した値を用いると解するのが合理的である。 すなわち、金属化合物=リン酸アルミニウム、皮膜形成用の処理液中の固形分=リン酸アルミニウム+アルミナとした場合、金属元素量に換算したリン酸アルミニウムの配合量は、 「リン酸アルミニウムの重量(金属元素量換算)/固形分(リン酸アルミニウム+アルミナ)の重量(金属元素量換算)」 により計算されるものであると理解することができる。 したがって、本件発明1及び2の発明特定事項は、明確に把握することができるものであり、特許法第36条第6項第2号の要件を満たしている。 3 特許法第36条第6項第1号について 本件発明1及び2に特定されている、リン酸アルミニウムの配合量の計算式は、上記2のとおりのものであるところ、本件発明1及び2の発明特定事項を満たす実施例は、本件特許明細書の段落【0034】の【表2】に記載の実施例2-1?実施例2-3に開示されている。そして、当該実施例2-1?実施例2-3は、比較例2及び3に比べて、高温の不凍液に対する耐性に優れるという効果を奏していることを読み取ることができる。 また、本件発明1及び2の、「前記皮膜中の、前記リン酸アルミニウムの配合量が、金属元素量に換算して、30?90重量%である」という特定は、比較例2及び3に比べて優れた効果を奏するもののうちの一部の範囲に限定したものであって、これにより、本件発明1及び2の課題を解決することができない範囲についてまで、特許請求の範囲を拡張させているわけではない。 さらに、本件特許明細書の段落【0031】の【表1】、段落【0045】の【表5】の記載から見て、皮膜に配合する無機酸化物として、アルミナに換えてジルコニア又はチタニアを用いた場合でも、比較例1よりも優れた効果を奏するものが得られることが理解できるから、発明の詳細な説明に開示された内容から、アルミナに換えてチタニアを用いた場合についても、本件発明1及び2の課題を解決できると認識し得るといえる。 したがって、本件発明1及び2は、本件特許明細書に記載したものであり、特許法第36条第6項第1号の要件を満たしている。 第7 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 特許異議申立人は、特許異議申立書において、訂正前の請求項1?5に係る特許は、以下の(1)?(3)の理由により、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない旨を主張しているので、それぞれ検討する。 (1)皮膜中の金属元素量について 特許異議申立人は、訂正前の請求項1及び2には、「前記皮膜中の、前記金属又は前記金属化合物の配合量が、金属元素量に換算して、30?90重量%である」と特定されている一方、本件特許明細書の実施例では、皮膜を構成する物質は、リン酸アルミと無機酸化物であり、全実施例のリン酸アルミと無機酸化物の合計配合量は8.9重量%であるから、仮に、皮膜中の金属元素量が最大となるように、リン酸アルミの配合量を100%としても、リン酸アルミ(分子量122)に占めるアルミニウム(原子量27)の比率は、27/122=22%であるので、皮膜中の金属元素量は、8.9×22%/8.9=22重量%となり、皮膜中の金属元素量が高々22重量%である実施例しか開示されていない旨を主張している。 しかしながら、上記配合量の計算式は、特許異議申立人の主張する計算式ではなく、上記第6の2において認定したとおりのものであり、本件発明1及び2の発明特定事項を満たす実施例が、本件特許明細書に開示されていることは、上記第6の3のとおりである。 したがって、上記主張は採用することができない。 (2)酸成分について 特許異議申立人は、訂正前の請求項4には、「前記酸成分がリン酸、正リン酸、縮合リン酸、無水リン酸、酢酸、蟻酸、硫酸、硝酸、フッ化水素酸、フルオロ錯体、有機酸から選ばれる2種以上を異種同士組み合わせてなる混合物である」と特定されている一方、本件特許明細書の実施例はすべて、酸成分としてリン酸のみを用いており、2種以上の異種の酸成分を用いた実施例は開示されていない旨を主張しているが、上記第2のとおり、訂正により請求項4は削除されたので、上記主張のような理由がないことは明らかである。 したがって、上記主張は採用することができない。 (3)化学分野の発明について 特許異議申立人は、化学分野の発明は一般に、効果の予測が困難な発明であることから、多くの実施例によって効果の裏付けを提示することが求められるところ、皮膜中の金属元素の配合量が、効果の裏付けがされた「実施例」と比べて大きく隔たったものを含んでいる、訂正前の請求項1及び2に規定された「前記皮膜中の、前記金属又は前記金属化合物の配合量が、金属元素量に換算して、30?90重量%である」という範囲に至るまで、高温の不凍液に対する優れた耐久性という本件発明の課題が、本当に解決できるのか予測が困難であり、訂正前の請求項1及び2が、発明の詳細な説明において本件発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲内のものであるとは到底認められない旨を主張している。 しかしながら、上記第6の3のとおり、本件発明1及び2の、「前記皮膜中の、前記リン酸アルミニウムの配合量が、金属元素量に換算して、30?90重量%である」という特定は、本件特許明細書の段落【0034】の【表2】に記載の比較例2及び3に比べて優れた効果を奏するもののうちの一部の範囲に限定しただけであり、これにより、本件発明1及び2の課題を解決することができない範囲についてまで、特許請求の範囲が拡張されているとはいえない。 したがって、上記主張は採用することができない。 第8 むすび 以上のとおり、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、請求項1?2に係る特許を取り消すことはできない。また、他に請求項1?2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 さらに、請求項3?5は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、本件特許異議の申立てについて、請求項3?5に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 車両のエンジンに装着されるガスケット用素材であって、鋼板の片面又は両面に、リン酸アルミニウム及びアルミナを含む皮膜を介してゴム層が形成されていて、 前記皮膜中の、前記リン酸アルミニウムの配合量が、金属元素量に換算して、30?90重量%であるガスケット用素材。 【請求項2】 車両のエンジンに装着されるガスケット用素材であって、鋼板の片面又は両面に、リン酸アルミニウム、及び、アルミナ及びチタニアから選択される1以上からなる皮膜、プライマー層、及びゴム層がこの順に形成されていて、 前記プライマー層は、ポリブタジエン、水素添加型ポリブタジエン、及び変性ポリブタジエンは含まず、 前記皮膜中の、前記リン酸アルミニウムの配合量が、金属元素量に換算して、30?90重量%であるガスケット用素材。 【請求項3】(削除) 【請求項4】(削除) 【請求項5】(削除) |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2019-12-25 |
出願番号 | 特願2016-562302(P2016-562302) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(F16J)
P 1 651・ 537- YAA (F16J) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 山田 康孝 |
特許庁審判長 |
平田 信勝 |
特許庁審判官 |
内田 博之 井上 信 |
登録日 | 2018-09-21 |
登録番号 | 特許第6404362号(P6404362) |
権利者 | ニチアス株式会社 |
発明の名称 | ガスケット用素材 |
代理人 | 特許業務法人平和国際特許事務所 |
代理人 | 特許業務法人平和国際特許事務所 |