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審決分類 審判 全部申し立て 発明同一  C01B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C01B
審判 全部申し立て 2項進歩性  C01B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C01B
管理番号 1359610
異議申立番号 異議2019-700922  
総通号数 243 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-03-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-11-19 
確定日 2020-02-25 
異議申立件数
事件の表示 特許第6516549号発明「非晶質球状シリカ粉末」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6516549号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6516549号の請求項1?8に係る特許についての出願は、平成27年 4月28日に出願され、平成31年 4月26日にその特許権の設定登録がされ、令和 1年 5月22日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、令和 1年11月19日付けで特許異議申立人 本多眞治(以下、「申立人」という。) により特許異議の申立てがされたものである。


第2 本件発明
特許第6516549号の請求項1?8の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明8」といい、まとめて「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定される次のとおりのものであると認める。

「【請求項1】
以下の条件を満足する非晶質球状シリカ粉末。
(A)BET比表面積が 2m^(2)/g以上、30m^(2)/g未満である
(B)粒子充填率が0.64以上である
(C)遠心沈降法によって得られる重量基準粒度分布において、粒子径1.5μm以上の粒子含有量が0.1質量%以下である
【請求項2】
遠心沈降法によって得られる重量基準粒度分布において、粒子径0.1μm以下の粒子含有量が1質量%未満である請求項1記載の非晶質球状シリカ粉末。
【請求項3】
塩素含有量が1ppm以下である請求項1?2のいずれか一項に記載の非晶質球状シリカ粉末。
【請求項4】
目開き5μmの篩上粒子の含有量が10ppm以下である請求項1?3のいずれか一項に記載の非晶質球状シリカ粉末。
【請求項5】
BET比表面積が5m^(2)/g以上、25m^(2)/g未満である請求項1?4のいずれか一項に記載の非晶質球状シリカ粉末。
【請求項6】
130℃での乾燥減量法によって測定される水分量が0.5質量%以下である請求項1?5のいずれか一項に記載の非晶質球状シリカ粉末。
【請求項7】
半導体封止材用である請求項1?6のいずれか一項に記載の非晶質球状シリカ粉末。
【請求項8】
請求項1?7のいずれか一項に記載の非晶質球状シリカ粉末を含有する樹脂組成物。」


第3 特許異議申立の理由について
申立人は、特許異議申立書(以下、「申立書」という。)において、証拠方法として甲第1号証及び甲第2号証(以下、それぞれ「甲1」及び「甲2」という。)を提出して、以下の申立理由1?3によって、本件特許は、取り消すべきものである旨主張している。

申立理由1(特許法第29条の2)
本件発明1?8は、本件特許の出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた甲1に係る特許出願の願書に最初に添付された明細書又は特許請求の範囲に記載された発明と同一であるから、請求項1?8に係る本件特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。

申立理由2(特許法第29条第1項第3号及び特許法第29条第2項)
本件発明1?8は、甲2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるか、または、甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

申立理由3(特許法第36条第4項1号)
請求項1?8に係る特許は、その発明の詳細な説明が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(証拠方法)
甲1:特願2014-211260号(特開2016-79278号公報)
甲2:特開2014-152048号公報


第4 当審の判断
1 申立理由1について
(1)先願明細書等に記載された事項及び先願発明
ア 甲1の当初明細書に記載された事項
甲1によると、甲1に係る特許出願の当初明細書等には、以下の事項が記載されている。
1a「【0007】
本発明は上記実情に鑑み完成したものであり、非常に小さい粒径を下限とする粗大粒子を除去した無機フィラー及びその製造方法、その無機フィラーを含有する樹脂組成物、及びその樹脂組成物を硬化させた成形品を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記課題を解決する本発明の無機フィラーは、所定粒径以上の粒径をもつ粗大粒子の個数が、0.5質量%に調製した分散液0.35μL中で10個以下であって、
体積平均粒子径が0.1μm?3μmの無機物粒子を有し、
前記所定粒径は3μmである。」

1b「【0020】
・無機物粒子
無機物粒子は体積平均粒子径が0.1μm?3μmである。体積平均粒子の好ましい上限としては1μm、1.5μm、2μmが例示でき、好ましい下限としては0.5μm、0.3μm、0.1μmが例示できる。これらの上限、下限は任意に組み合わせることができる。
【0021】
無機物粒子を構成する材料は、特に限定しない。例えば金属(金属ケイ素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、鉄など)、それらの金属の酸化物、窒化物が例示できる。特にシリカやアルミナが好ましいものとして例示できる。
【0022】
無機物粒子の形態としては球状、真球状、破砕物、結晶そのままなどが挙げられ特に限定しない。無機物粒子としては球状が望ましい。例えば円形度が0.9以上、0.95以上、0.99以上であることが望ましい。円形度の測定はSEMで写真を撮り、その観察される粒子の面積と周囲長から、(円形度)={4π×(面積)÷(周囲長)^(2)}で算出される値として算出する。1に近づくほど真球に近い。具体的には画像処理装置(シスメックス株式会社:FPIA-3000)を用いて100個の粒子について測定した平均値を採用する。
【0023】
円形度を向上するためには溶融法、VMC法により無機物粒子を形成する手段がある。溶融法は無機物粒子を構成する材料を粉砕などにより粉末状にした後に融点以上の温度をもつ火炎中に投入することにより、粉末を溶融させることにより液化すると、表面張力によって球状化する。その後、火炎中から分離することで、その熔融物は冷却されて球状の無機物粒子が得られる。VMC法は無機物粒子を構成する材料が特定の化合物であるときに採用できる方法である。例えば無機物粒子を構成する材料が酸化物である場合に、その酸化物の酸化前の原料になる物質(酸化物が金属酸化物であるときにはその金属。金属酸化物がシリカである場合には、金属ケイ素、金属酸化物がアルミナである場合には金属アルミニウム。)を粉砕などにより粉末化して、酸素を含む雰囲気中に投入して引火させて反応させることで目的の酸化物を得る方法である。反応が爆発的に進行することにより得られる無機物が気化し、その後の冷却過程において球状化する。・・・」

1c「【0074】
・粗大粒子量評価工程
粗大粒子量評価工程は分級工程を経た分級物に含まれる粗大粒子の個数を測定する工程である。従来の測定方法としては篩法があるが5μm未満の目開きでは開口率が非常に低く、分級物を得ることが難しいため実施困難であった。粗大粒子法評価として画像解析による方法を実施した。画像解析による方法としては、赤外から紫外領域にいたる光を光学的に検出する光学式にて撮影した画像や、SEMやTEMなどの光学的な原理以外の方法で得られた画像を用いることができる。
【0075】
本実施形態では一例として画像処理装置(シスメックス株式会社:FPIA-3000S)を用いた評価方法を記載する。粗大粒子量評価工程は、分級物について濃度が0.5質量%となるよう液中に分散させた分散液を形成する第1工程と、FPIAを用いて粒子を個別に撮影して解析する第2工程とを有する。本測定条件として0.5質量%分散液0.35μL中に含まれる粒子について粒径を測定し画像解析を実施した。」

1d「【0097】
(分級試験)
無機物粒子として、VMC法で製造したシリカ粒子を用いて以下の試験を行った。シリカ粒子は試験例A-1?B-3が0.3μm、B-4が0.5μmである。
【0098】
・無機フィラーの調製
目開き5μmの篩を通過させたものを試験例A-1の試験試料とした。
【0099】
試験例B-1?B-4それぞれの分級条件は試験例B-1が公称2μmフィルターを通過させたもの、試験例B-2が公称1μmフィルターを通過させたもの、試験例B-3が公称1μmフィルターを複数回通過させたもの、B-4が公称3μmフィルターを通過させたものとした。
【0100】
・粒径の測定
各試験例の試験試料から500gを採取した。採取した500gの中から固形分0.3gを量り取り、0.5質量%の濃度(全体で60g)になるようにメチルエチルケトン中に分散させて分散液とした。分散は超音波ホモジナイザーにて30分間超音波を照射することにより行った。この分散液を0.035μLずつ10回粒径を測定した。解析結果を表3に示す。
【0101】
【表3】



イ 甲1の当初明細書等に記載された発明
記載事項1a、1c、1dによると、表3に記載の試験例B-3のシリカ粒子は、VMC法で製造したものであり、公称1μmフィルターを複数回通過させる分級条件によって、1μm以上の粒子の割合が7/309646とされ、平均粒径0.28μmであるシリカ粒子が記載されているといえる。 記載事項1bによると、VMC法により製造されたシリカ粒子は、球状であるといえる。
これらのことから、甲1に係る特許出願の当初明細書等には、
「平均粒径が0.28μmであり、公称1μmフィルターを複数回通過させる分級条件により得られた1μm以上の粒子の割合が7/309646である、VMC法で製造した球状シリカ粒子」 の発明(以下、「甲1先願発明」という。)が記載されていると認められる。

(2)対比・判断
ア 本件発明1について
(ア)発明の対比
本件発明1と甲1先願発明とを対比する。
VMC法により製造した球状シリカ粒子は、非晶質であることは技術常識であり、また、粒子は、粉末であるといえるから、甲1先願発明の「VMC法で製造した球状シリカ粒子」は、本件発明1の「非晶質球状シリカ粉末」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1先願発明とは、以下の点で相違している。

相違点1-1
本件発明1は、BET比表面積が 2m^(2)/g以上、30m^(2)/g未満であることが特定されているのに対して、甲1先願発明は、平均粒径が0.28μmである点。
相違点1-2
本件発明1は、粒子充填率が0.64以上であることが特定されているのに対して、甲1先願発明は、粒子充填率は明らかではない点。
相違点1-3
本件発明1は、遠心沈降法によって得られる重量基準粒度分布において、粒子径1.5μm以上の粒子含有量が0.1質量%以下であることが特定されているのに対して、甲1先願発明は、公称1μmフィルターを複数回通過させる分級条件により得られた1μm以上の粒子の割合が7/309646である点。

(イ)判断
事案に鑑み、相違点1-2について検討する。
これについては、申立人は、本件明細書の記載から、粒子充填率が0.64以上のシリカ粉末を充填した樹脂組成物は半導体実装時にギャップに速やかに浸透することが理解でき、甲1先願発明に係るVMC法で製造されたシリカ粒子は単分散の粒子ではないため、粒子充填率が0.6よりも大きいことは明らかであり、樹脂に高充填したときの樹脂組成物の粘度が低く制御されるものであることから、甲1先願発明に係るシリカ粒子の粒子充填率は少なくとも0.64以上である旨主張している(申立書8/23ページ下から4行?9/23ページ5行、14/23ページ5行?13行)。
しかし、甲1先願発明に係るシリカ粒子について、樹脂組成物を調製して粘度の試験等をしたことは甲1に係る当初明細書等には何ら記載されていない。
また、本件明細書において、実施例1?4と同様に、本件発明1の特定事項(A)のBET比表面積及び同じく特定事項(C)の粒子径1.5μm以上の粒子含有量を満足する比較例2は、粒子充填率が0.62であり、低粘度であるともいえない。
そうすると、甲1先願発明に係るシリカ粒子が本件発明1と同様なBET比表面積であり、粗大粒子が除去されたものであるとしても、甲1先願発明に係るシリカ粒子の粒子充填率が0.64以上であるとまではいえない。
したがって、相違点1-2は、実質的な相違点であるから、相違点1-1及び相違点1-3を検討するまでもなく、本件発明1は、甲1先願発明と実質的に同一であるとはいえない。

よって、本件発明1は、甲1に係る特許出願の当初明細書等に記載された発明と同一であるとはいえない。

イ 本件発明2?8について
本件発明2?8は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1と同様に、甲1に係る特許出願の当初明細書等に記載された発明と同一であるとはいえない。

2 申立理由2について
(1)甲2に記載された事項及び甲2に記載された発明
ア 甲2に記載された事項
2a「【特許請求の範囲】
【請求項1】
シロキサンの燃焼反応によって得られる乾式シリカ微粒子であって、以下条件を満足することを特徴とする乾式シリカ微粒子。
(A)BET比表面積が5m^(2)/g以上、30m^(2)/g未満である。
(B)メジアン径D_(CS)が下記式(1)を満足する。
D_(CS)≦2×D_(B ) (1)
(但し、D_(CS)は遠心沈降法によって得られる重量基準粒度分布のメジアン径であり、D_(B)はBET比表面積換算径である。)
(C)遠心沈降法によって得られる重量基準粒度分布の幾何標準偏差σgが1.30以下である。
(D)遠心沈降法によって得られる重量基準粒度分布において、粒子径がBET比表面積換算径の3倍以上である粒子の含有量が0.18質量%以下である。
(E)塩素、ナトリウム、カリウムの含有量がそれぞれ1ppm以下である。
【請求項2】
BET比表面積が10?25m^(2)/gである請求項1記載の乾式シリカ微粒子。」

2b 「【0022】
本発明の乾式シリカ微粒子は、BET比表面積が5m^(2)/g以上、30m^(2)/g未満でありながら、実質的に一次粒子にまで分散される優れた分散性能と、分散時の粒度分布が狭いという特性を有するため、これを充填した樹脂組成物は優れた浸透性を発揮する。従って、本発明の乾式シリカ微粒子は、数μm?数十μmの狭ギャップへの浸透性が要求されるフリップチップ実装におけるアンダーフィル用充填剤として極めて有用である。」

2c「【0071】
(5)隙間浸透性評価
(測定試料調製)
28.56gのシリカに新日鐵化学製エポキシ樹脂ZX-1059(商品名)を42.84g添加し、シンキー社製のプラネタリーミキサーAR-500(商品名)を用いて、回転数1000rmpで8分間攪拌、続いて回転数2000rpmで2分間脱泡することで、予備混練した。その後、アイメックス社製3本ロールミルBR-150HCV(商品名)を用いて混練することによってエポキシ樹脂組成物を得た。なお、ロールの隙間は20μmとした。樹脂組成物は、混練後室温20℃にて1週間保持した。
【0072】
(測定)
幅26mm、長さ76mmのスライドガラス2枚と厚み30μm、長さ30mmの両面テープを用いて、幅10mm、長さ20mm、高さ30μmの隙間を作成した。
【0073】
次いで、上記テープではり合わせたスライドガラスを100℃に保温後、エポキシ樹脂組成物を隙間入口に偏りがないように滴下し、浸透距離が20mmに到達した時間を記録した。また、測定時間計測後に目視でボイドの有無を確認した。なお、ガラスの温度は、±2℃以内になるように調整した。【0074】
実施例1?4、比較例1?3
下記のように、オクタメチルシクロテトラシロキサンを4重管バーナで燃焼させ、乾式シリカ微粒子を製造した。
【0075】
加熱気化させたオクタメチルシクロテトラシロキサンを酸素および窒素と混合し、473Kで中心管に導入した。また、第1環状管に水素と窒素を導入し、第2環状管に酸素を導入し、第3環状管に空気を導入した。上記製造条件と製造したシリカ微粒子の物性の詳細を、表1に示す。
・・・
【0085】
比較例4?5
市販の乾式シリカ微粒子について、実施例1と同様の測定を行なった。その結果を表1に示す。
【0086】
表1より、本特許の実施例1?4は比較例1?5より隙間浸透性に優れていることが明らかである。
・・・



イ 甲2に記載された発明
記載事項2a?2cによると、甲2には、
「BET比表面積が10?25m^(2)/gであり、遠心沈降法によって得られる重量基準粒度分布において、粒子径がBET比表面積換算径の3倍以上である粒子の含有量が0.18質量%以下である、シロキサンの燃焼反応により製造したシリカ微粒子」の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。

(2)対比・判断
ア 本件発明1について
(ア)発明の対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
シロキサンの燃焼反応により製造したシリカ微粒子は、非晶質球状であることは技術常識であり、また、シリカ微粒子は、シリカ粉末に相当するといえるから、甲2発明の「シロキサンの燃焼反応により製造したシリカ微粒子」は、本件発明1の「非晶質球状シリカ粉末」に相当する。
また、本件発明1と甲2発明とは、比表面積において重複している範囲がある。
そうすると、本件発明1と甲2発明とは、以下の点で相違している。

相違点2-1
本件発明1は、粒子充填率が0.64以上であることが特定されているのに対して、甲2発明は、粒子充填率は明らかではない点。
相違点2-2
本件発明1は、遠心沈降法によって得られる重量基準粒度分布において、粒子径1.5μm以上の粒子含有量が0.1質量%以下であることが特定されているのに対して、甲2発明は、遠心沈降法によって得られる重量基準粒度分布において、粒子径がBET比表面積換算径の3倍以上である粒子の含有量が0.18質量%以下である点。

(イ)判断
相違点2-1について検討する。
これについては、申立人は、本件明細書の段落【0025】に、本件発明1に係る非晶質球状シリカ粉末について「本発明の非晶質球状シリカ粉末は、ゾルゲル法で合成したのち焼成して非晶質化する方法や特開2014-152048のようなシロキサンの火炎燃焼法によって得ることができる。本発明の非晶質球状シリカ粉末は、BET比表面積が 2m^(2)/g以上、30m^(2)/g未満であって、1種類の粉末であってもよく・・・」と記載され、上記「特開2014-152048」は、甲2であるから、当該記載から、本件発明1に係る非晶質球状シリカ粉末は、甲2に記載のシロキサンの燃焼反応により得られるものであるといえ、また、甲2発明に係るシリカ微粒子は、本件発明1と同様に樹脂組成物の充填剤として用いた場合に優れた浸透性を発揮すると共にボイドを発生させないのであるから、相違点2-1は実質的な相違点ではない旨主張している(申立書19/23ページ16行?20/23ページ9行)。
上記主張について検討すると、上記段落【0025】では、火炎燃焼法と同様に例示されているゾルゲル法について、本件明細書の実施例において、ゾルゲル法で合成した後、焼成することにより複数種類の混合用非晶質球状シリカ粉末を得た後、比較例1、2のように、これを単独で用いたり、BET比表面積の大きな粉末を混合するのみでは、粒子充填率は0.64以上とはならず、BET比表面積が大きく異なる2種類以上のシリカ粉末を適切な割合で配合、混合することによって、はじめて本件発明1に係る非晶質球状シリカ粉末を得ることができることが示されているのであるから、単に上記段落【0025】に記載の「ゾルゲル法」や「シロキサンの火炎燃焼法」というシリカの製造方法を採用すれば、得られたシリカ粒子は必ず本件発明1で特定する充填率を充足するということはできない。
また、甲2は、表1を参照すると、甲2発明に係るシリカ微粒子を充填剤として用いた樹脂組成物は、隙間浸透性に優れボイドも発生しないものであるが、本件発明1に係る非晶質球状シリカ粉末と同一の試験を示すものではなく、評価方法も異なるから(本件明細書の段落【0043】?【0046】及び甲2の段落【0071】?【0073】参照)、甲2の試験結果をもって、甲2発明に係るシリカ微粒子が、本件発明1に係る非晶質球状シリカ粉末と同一の物性を有しているとはいえない。
したがって、上記申立人の主張は採用することはできず、また、甲2における他の記載事項並びに出願時の技術常識を参酌しても、甲2発明は、粒子充填率が0.64以上であるということはできず、また、甲2発明において、粒子充填率を0.64以上にすることが、当業者であれば容易であるということもできない。

よって、本件発明1は、甲2に記載された発明とはいえず、また、甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 本件発明2?8について
本件発明2?8は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1と同様に、甲2に記載された発明とはいえず、また、甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

3 申立理由3について
(1)申立人の主張の概要
申立人は、申立書において、次のア及びイの主張している。
ア 「主張(ア)」
甲2には、ゾルゲル法は、乾燥及び焼成工程において、融着・溶着するため分散性に問題があることが記載されているが、本件明細書の発明の詳細な説明は、「ゾルゲル法で合成した後、900℃で焼成することで表1の混合用の非晶質球状シリカ粉末を得た。」と記載されているのみで、本件発明1に係る非晶質球状シリカ粉末を得るために、実施例の混合用の5種類の非晶質球状シリカ粉末をどのように作り分けているのか不明であり、当業者が本件発明1に係る非晶質シリカ粉末を製造できるとはいえず、実施可能要件を満足しない(申立書20/23ページ下から7行?22/23ページ6行)。

イ 「主張(イ)」
本件発明1に係る非晶質球状シリカ粉末は、「(B)粒子充填率が0.64以上である」と規定されているが、実施例1?4には、粒子充填率が0.65?0.70の非晶質球状シリカ粉末が具体的に記載されているものの、粒子充填率が0.71?1の非晶質球状シリカ粉末は記載されていないから、過度の試行錯誤を強いることなく、0.71?1を満足する本件発明1?8を製造できるとは認められないから、実施可能要件を満足しない(申立書22/23ページ7行?22行)。

(2)判断
上記主張について検討する。
ア 「主張(ア)」について
甲2の記載は、ゾルゲル法が他の合成法と比較してどのような問題があるのかを例示したにすぎず、この記載によって、ゾルゲル法により得られたシリカ粒子が必ずしも分散性に問題があるとまではいえない。
そして、ゾルゲル法は、単分散性の高い球状のシリカ粒子を合成するための周知の技術手段であって、発明の詳細な説明の実施例において、ゾルゲル法で得られた混合用非晶質シリカ粉末のBET比表面積が示され、その粒子径も推定できるから、当業者であればゾルゲル法によってこのような混合用非晶質シリカ粉末を製造することは、過度の試行錯誤を要するとまではいえず、実施例にゾルゲル法の製造条件の記載がないことのみによって、本件発明が実施可能要件を満足しないとまではいえない。

イ 「主張(イ)」について
本件明細書の発明の詳細な説明の記載によると、粒子充填率が高い非晶質球状シリカ粉末は、粒子充填率が低いシリカ粉末よりも粒子間に閉じ込められる樹脂が少なく、自由に動くことができる樹脂が多く存在するため、粘度の上昇を抑制できる(本件明細書 段落【0012】?【0015】)という技術思想に基づいて、本件発明は粒子充填率の下限を0.64以上であることを特定したものであるといえる。
そして、実施例では、BET比表面積が大きく異なる2種類以上の混合用非晶質球状シリカ粉末を適切な混合比で混合することによって、粒子充填率が0.65?0.70の非晶質球状シリカ粉末が得られることが示されている。
そうすると、上記本件発明の粒子充填率が0.64以上の範囲において、上記混合比を調整することで粒子充填率を調整可能であることを当業者は理解することができるから、粒子充填率が0.70より大きい実施例が示されていないことをもって本件発明が実施可能要件を満足しないとまではいえない。


第5 むすび
以上のとおりであるから、申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1?8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2020-02-12 
出願番号 特願2015-91755(P2015-91755)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C01B)
P 1 651・ 536- Y (C01B)
P 1 651・ 113- Y (C01B)
P 1 651・ 161- Y (C01B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 西山 義之  
特許庁審判長 服部 智
特許庁審判官 小川 進
後藤 政博
登録日 2019-04-26 
登録番号 特許第6516549号(P6516549)
権利者 株式会社トクヤマ
発明の名称 非晶質球状シリカ粉末  

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