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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 E04H 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 E04H |
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管理番号 | 1359612 |
異議申立番号 | 異議2019-701013 |
総通号数 | 243 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-03-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-12-11 |
確定日 | 2020-02-21 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6530959号発明「耐震壁構造」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6530959号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6530959号の請求項1ないし7に係る特許についての出願は、平成27年5月14日に特許出願され、令和1年5月24日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許の請求項1ないし7に対し、令和1年12月11日に特許異議申立人丸山 博隆(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件発明 特許第6530959号の請求項1ないし7の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」などという。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。 「【請求項1】 上下の水平部材の間に設置された木質壁が、セメント系固化材で前記水平部材に接合され、 前記木質壁の上端部及び下端部の少なくとも一方には、凹凸が形成されている、 耐震壁構造。 【請求項2】 前記水平部材は鉄筋コンクリート造とされ、 前記木質壁の上端部及び下端部の少なくとも一方は、前記水平部材に埋設されている、 請求項1に記載の耐震壁構造。 【請求項3】 前記木質壁は、 矩形状の本体部と、 前記本体部の周囲に設けられた枠部と、 を有している、 請求項1又は請求項2に記載の耐震壁構造。 【請求項4】 前記本体部には、本体側凹部及び本体側凸部が形成され、 前記枠部には、前記本体側凹部及び前記本体側凸部と係合する枠側凸部及び枠側凹部が形成されている、 請求項3に記載の耐震壁構造。 【請求項5】 前記本体部には、本体側凹部が形成され、 前記枠部には、前記本体側凹部と同じ位置に枠側凹部が形成され、 前記本体側凹部と前記枠側凹部とで形成された空間部に木片部材がはめ込まれている、 請求項3に記載の耐震壁構造。 【請求項6】 前記木質壁は、 矩形状の本体部と、 前記本体部の下側に設けられた矩形状の下部体と、 を有し、 前記本体部の下端部には、本体側凸部及び本体側凹部が形成され、 前記下部体の上端部には、前記本体側凸部及び前記本体側凹部と係合する下部側凸部及び下部側凹部が形成されている、 請求項1又は請求項2に記載の耐震壁構造。 【請求項7】 前記木質壁は、 矩形状の本体部と、 前記本体部の上側に設けられた矩形状の上部体と、 を有し、 前記本体部の上端部には、本体側凸部及び本体側凹部が形成され、 前記上部体の下端部には、前記本体側凸部及び前記本体側凹部と係合する上部側凸部及び上部側凹部が形成されている、 請求項1又は請求項2に記載の耐震壁構造。」 第3 申立理由の概要 申立人が主張する申立理由の概要は以下のとおりである。 1 取消理由1 特許第6530959号の請求項1?7に係る発明は、甲第1号証刊行物に記載された耐震壁構造と同一発明であり、特許法第29条第1項第3号(同法第113条第2号)の規定に違反しており、本件特許権は取り消されるべきものである。 2 取消理由2 特許第6530959号の請求項1?7に係る発明は、甲第1号証刊行物に記載された発明から容易に創作し得た発明であるか、甲第1号証刊行物、甲第2号証刊行物、甲第3号証刊行物および甲第4号証刊行物に記載された発明から当業者が容易に創作し得た発明であるから、特許法第29条第2項(同法第113条第2号)の規定に違反しており、本件特許権は取り消されるべきものである。 [証拠方法] 甲第1号証刊行物:特開2008-280747号公報 甲第2号証刊行物:特開2014-173225号公報 甲第3号証刊行物:特開2012-012862号公報 甲第4号証刊行物:特開平11-081209号公報 第4 刊行物の記載 1 刊行物について (1)甲第1号証刊行物 本件特許の出願日前に頒布された甲第1号証刊行物には、図面と共に以下の記載がある(下線は当決定で付した。)。 ア 「【0001】 本発明は、建物の架構内に設置される耐震壁に関するものである。」 イ 「【0019】 図1および図2は、本発明に係る耐震壁を示す概略図である。図1および図2に示すように耐震壁1は、鉄筋コンクリート造、鉄骨コンクリート造、鉄筋鉄骨コンクリート造、鉄骨造、組積造などの非木造建物や木造の建物であって、既存建物や新築建物の構造物において、柱101と梁102とに囲まれた柱梁架構100内に設置してあり、風や地震などによって柱梁架構100に加わる水平力に抵抗して柱梁架構100の変形を防ぐものである。 【0020】 耐震壁1は、木質材料で形成された壁材を備えている。壁材は、フレーム2と耐震ユニット3とで構成されている。この耐震壁1は、図1に示すように、フレーム2を柱101および梁102の内周面(柱梁架構100の内周面)に固定し、互いに並ぶ耐震ユニット3を相互に接合し、かつ接合された耐震ユニット3をフレーム2の内周面に接合することで、柱梁架構100内の各梁101間および各柱102間を繋いで柱梁架構100の開口を塞ぐように設けてある。 【0021】 また、耐震壁1は、図2に示すように、図1に示すフレーム2を除き、壁材を耐震ユニット3のみによって構成したものであってもよい。この構成では、互いに並ぶ耐震ユニット3を相互に接合し、かつ接合された耐震ユニット3を柱101および梁102の外周面に固定することで、柱梁架構100内の縦横(各梁101間および各柱102間)を繋いで柱梁架構100の開口を塞ぐように設けてある。」 ウ 「【0024】 耐震ユニット3は、縦横(上下左右)に複数並べて接合して柱梁架構100内に配置したものである。この耐震ユニット3は、図3?図9に示すように様々な形態で構成してある。 【0025】 耐震ユニット3は、図3?図9に示すように矩形板状の板部材31と、板部材31の全周縁に沿って設けられた枠部材32とで構成してある。板部材31および枠部材32は、木質材料で形成してある。板部材31を形成する木質材料には、上記圧縮木材、積層接着材または強化単板積層材などが適用される。また、枠部材32を形成する木質材料には、上記圧縮木材、積層接着材、強化単板積層材または各成形材などが適用される。 【0026】 図3-1および図3-2に示す耐震ユニット3は、板部材31の周縁に枠部材32を固定する固定ピン33を備えている。固定ピン33は、木質材料で形成された棒状のもので、板部材31の周縁および枠部材32に共に貫通する貫通孔に貫入されるものである。固定ピン33を形成する木質材料には、上記圧縮木材、積層接着材または強化単板積層材などが適用される。また、図3に示す耐震ユニット3の枠部材32は、矩形の板部材31の各辺にそれぞれ沿い、かつ板部材31の板の表裏に配置されるように分割形成してある。そして、枠部材32を、固定ピン33の周縁に配置して固定ピン33を貫入することによって耐震ユニット3が構成される。なお、板部材31、枠部材32および固定ピン33の相互に接触する部分は、接着剤によって接着してもよい。」 エ 「【0028】 図5-1?図5-3に示す耐震ユニット3は、板部材31の周縁の外側に突出する突起部31aを有している。突起部31aは、矩形の板部材31の上下の周縁に沿って複数(本実施の形態では5個)設けてある。また、枠部材32は、矩形の板部材31の各辺にそれぞれ沿うように分割形成してある。このうち、板部材31の上下の周縁に沿う枠部材32には、図5-2に示すように突起部31aが嵌め込まれる溝部32aが設けてある。また、板部材31の上下の周縁に沿う枠部材32と、板部材31の左右の周縁に沿う枠部材32との相互間には、木質材料で形成された板状の連結部材34が配置してある。連結部材34を形成する木質材料には、上記圧縮木材、積層接着材または強化単板積層材などが適用される。この連結部材34は、図5-3に示すように分割形成した枠部材32の相互間に渡って嵌め込まれる。そして、枠部材32および連結部材34に共に貫通する貫通孔に固定ピン33を貫入することによって各枠部材32が連結される。各枠部材32を連結部材34で連結することで、枠部材32が板部材31の全周縁に沿って配置され、かつ板部材31の突起部31aから枠部材32が抜け止めされて耐震ユニット3が構成される。なお、板部材31(突起部31a)、枠部材32、固定ピン33および連結部材34の相互に接触する部分は、接着剤によって接着してもよい。」 オ 「【0030】 図7-1?図7-3に示す耐震ユニット3は、板部材31の周縁の一側および他側に凹凸形状の嵌合部311が設けてある。嵌合部311は、図7-3に示すように凸部311aと凹部311bとを交互に配置して櫛歯状に形成されて、これら凸部311aと凹部311bとがそれぞれ他の板部材31の凹部311bと凸部311aとに嵌合されるものである。そして、図7-2および図7-3に示すように相互に嵌合された各板部材31の嵌合部311の位置に枠部材32を配置し、この枠部材32および嵌合部311の凸部311aに共に貫通する貫通孔に固定ピン33を貫入して複数の板部材31が連結してある。また、嵌合部311の位置に配置した枠部材32の端部には、図7-1に示すように連結部材34および固定ピン33によって、板部材31の左右周縁に沿う枠部材32が接合される。このようにして、複数の板部材31が連結された耐震ユニット3が構成される。なお、板部材31(嵌合部311)、枠部材32、固定ピン33および連結部材34の相互に接触する部分は、接着剤によって接着してもよい。」 カ 「【0033】 図10に示す接合構造は、柱梁架構100内である柱101および梁102の内周面(柱梁架構100の内周面)にフレーム2を固定し、該フレーム2に耐震ユニット3を接合したものである。フレーム2は、柱101および梁102に固定した鋼製アンカーピン4が自身に嵌め込まれることによって柱梁架構100の内周面に固定してある。耐震ユニット3は、フレーム2に接合手段を介して接合してある。この接合手段は、木質材料によって形成してある。接合手段を形成する木質材料には、上記圧縮木材、積層接着材または強化単板積層材などが適用される。図10に示す接合手段は、板材5aとして形成してある。この板材5aは、耐震ユニット3における枠部材32の外周面、およびフレーム2の内周面を対面させた形態で、相互間に渡って嵌め込まれて耐震ユニット3とフレーム2とを接合する。さらに、板材5aは、互いに並ぶ耐震ユニット3における枠部材32の外周面を対面させた形態で、該枠部材32の相互間に渡って嵌め込まれて相互の耐震ユニット3を接合する。 【0034】 図11に示す接合構造は、図10に示す形態においてフレーム2を用いずに耐震ユニット3を、柱梁架構100内である柱101および梁102の内周面(柱梁架構100の内周面)に固定したものである。耐震ユニット3は、柱101および梁102に固定した鋼製アンカーピン4が枠部材32に嵌め込まれることによって柱梁架構100の内周面に固定してある。また、互いに並ぶ耐震ユニット3は、図10に示す形態と同様に接合手段としての板材5aによって接合してある。」 キ 「【0041】 なお、上述した実施の形態では、図3?図9に示す耐震ユニット3を、柱梁架構100内に縦横(上下左右)に並べて接合したものであるが、これに限らない。例えば図19に示すようにフレーム2内の横方向(左右方向)の内法に亘って長手状に耐震ユニット3を構成し、当該耐震ユニット3をフレーム2内に縦方向(上下方向)に並べて接合してもよい。また、例えば図20に示すようにフレーム2内の縦方向(上下方向)の内法に亘って長手状に耐震ユニット3を構成し、当該耐震ユニット3をフレーム2内に横方向(左右方向)に並べて接合してもよい。さらに、図には明示しないが、フレーム2を用いず、柱梁架構100内の横方向(左右方向)の内法に亘って長手状に構成した耐震ユニット3を柱梁架構100内に縦方向(上下方向)に並べて接合してもよく、柱梁架構100内の縦方向(上下方向)の内法に亘って長手状に構成した耐震ユニット3を柱梁架構100内に横方向(左右方向)に並べて接合してもよい。」 ク 【図1】は、以下のものである。 ケ 【図2】は、以下のものである。 コ 【図5-1】は、以下のものである。 サ 【図5-2】は、以下のものである。 シ 【図7-1】は、以下のものである。 ス 【図7-2】は、以下のものである。 セ 【図7-3】は、以下のものである。 ソ 【図11】は、以下のものである。 タ 【図19】は、以下のものである。 チ 【図20】は、以下のものである。 ツ 上記ク、ケ、タ、及び、チから、上下の水平部材である梁102の間に、耐震壁1が設置された点が看て取れる。 テ 上記キの「フレーム2を用いず、柱梁架構100内の横方向(左右方向)の内法に亘って長手状に構成した耐震ユニット3を柱梁架構100内に縦方向(上下方向)に並べて接合してもよい」点を勘案すると、「フレーム2」を用いない場合、上記イから、「壁材は、耐震ユニット3で構成され、耐震ユニット3を柱101および梁102の内周面(柱梁架構100の内周面)に固定」することとなる。 上記アないしテからみて、甲第1号証刊行物には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。 「耐震壁1は、柱101と上下の水平部材である梁102の間とに囲まれた柱梁架構100内に設置してあり、耐震壁1は、木質材料で形成された壁材を備え、壁材は、耐震ユニット3で構成され、耐震ユニット3を柱101および梁102の内周面(柱梁架構100の内周面)に固定し、耐震ユニット3は、矩形板状の板部材31と、板部材31の全周縁に沿って設けられた枠部材32とで構成してあり、柱101および梁102に固定した鋼製アンカーピン4が枠部材32に嵌め込まれることによって柱梁架構100の内周面に固定してあり、 板部材31の周縁の一側および他側に凹凸形状の嵌合部311が設けてあり、柱梁架構100内の横方向(左右方向)の内法に亘って長手状に構成した耐震ユニット3を柱梁架構100内に縦方向(上下方向)に並べて接合する、 耐震壁1。」 (2)甲第2号証刊行物 本件特許の出願日前に頒布された甲第2号証刊行物には、図面と共に以下の記載がある。 ア 「【0005】 本発明は係る事実を考慮し、耐火性を有する壁や床を構成可能な木造耐火面部材を提供することを課題とする。」 イ 「【0018】 図1の正面図には、木製の柱10、12、木製の梁14、及び鉄筋コンクリート製の床スラブ16によって構成された周辺架構18の構面内に、木造耐火面部材としての耐力壁20を設置して構成された壁構造22が示されている。梁14の上には、鉄筋コンクリート製の床スラブ24が設けられている。図1のA-A断面図である図2に示すように、耐力壁20は、心材層としてのせん断力抵抗層26、第1耐火層28、及び第2耐火層30を有している。」 ウ 「【0025】 図4(a)の側断面図に示すように、耐力壁20の上部は、梁14に固定されている。梁14は、荷重を支持する木製の心材としての梁心材52と、梁心材52の周囲を取り囲む燃え止まり層54と、燃え止まり層54の周囲を取り囲む木製の燃え代層56とを備えている。梁心材52及び燃え代層56は、一般木材によって形成されている。また、燃え止まり層54は、耐力壁20の燃え止まり層34、40と同じ構成になっている。 【0026】 耐力壁20の上部は、梁14に取り付けられた接合部材58と、耐力壁20に取り付けられた接合部材60とをボルト62及びナット64により接合することによって、梁14に固定されている。接合部材60は、鋼製のガセットプレート68により構成され、接合部材58は、鋼製のガセットプレート70と鋼製のフランジ72を一体にして構成されている。 【0027】 接合部材58は、梁14の下面に形成された溝状の切り欠き部66へフランジ72を挿入し、このフランジ72を梁心材52にラグスクリュー74等により固定することによって、梁14に取り付けられている。 【0028】 接合部材60は、耐力壁20を構成するせん断力抵抗層26の上面に形成されたスリット状の切り欠き部76へガセットプレート68を挿入し、このガセットプレート68をせん断力抵抗層26にピン78等により固定することによって、耐力壁20に取り付けられている。 【0029】 梁14の下面と耐力壁20の上面の間に形成された目地80、及び切り欠き部66は、目地80及び切り欠き部66に充填され硬化したモルタルMによって塞がれている。これにより、梁14と耐力壁20の接合部の耐火性が確保されている。」 エ 【図1】は、以下のものである。 オ 【図2】は、以下のものである。 カ 【図4】は、以下のものである。 (3)甲第3号証刊行物 本件特許の出願日前に頒布された甲第3号証刊行物には、図面と共に以下の記載がある。 ア 「【0001】 本発明は、板壁であって、特に木造建築物に有効に適用可能な板壁に関する。」 イ 「【0004】 このような板壁111は、地震時に耐震壁として機能する。よって、建築物の耐震性を高めるには、壁数を増やすことが有効であり、つまり耐震改修方法の一例として、木造建築物の室内に板壁111を増設することが挙げられる。但し、伝統的木造建築物では、開放感等の観点から間仕切りの少ない架構が望まれるところ、壁数が増えると、この要望に応え難くなる。 他方、板壁一枚当たりの耐力を高めることによっても、耐震性を高め得る。そして、これによれば、壁数を増やすこと無く、建築物の耐震性を高めることができる。 そこで、かかる板壁111の耐力につき本願出願人が鋭意検討したところ、板材115,115同士の連結にダボ121を用いずに、板材15,15同士の嵌合(かみ合わせ)構造を用いれば、板壁11の耐力を向上可能なことを知見した。」 ウ 「【0015】 本発明によれば、板壁の耐力を向上することにより、建物等の耐震性を高めることができる。」 エ 「【0019】 本実施形態の建物は木造建築物であり、その木造軸組みは、左右一対の柱1,1(鉛直材に相当)と、上下一対の梁3,3(水平材に相当)とを有している。なお、下梁3は地覆でも良い。また、柱1及び梁3は、例えば檜材であるが、これ以外の木材でも良い。そして、柱1と梁3とは、互いの端部1e,3eにおいて、ほぞ及びほぞ穴等の適宜な嵌合構造や込栓4により相対移動不能に連結固定されており、これにより、矩形枠状の木造軸組みの内方には、正面視矩形状の空間が区間されている。 【0020】 この矩形状の空間には、板壁11が設けられている。板壁11は、複数枚の略長方形の板材15,15…を有する。各板材15は、その長手方向を左右の水平方向に向け且つ幅方向を上下方向に向けながら、上下に隣り合う板材15と小端(こば)15kにおいて当接されており、これにより、前記長手方向と直交する方向たる上下方向を整列方向として各板材15,15…は整列配置されている。 【0021】 また、各板材15の小端15kたる上端面15u及び下端面15dには、それぞれ嵌合凸部17又は嵌合凹部18が形成されている。そして、その上方及び下方に隣り合う板材15の小端15kには、上記の嵌合凸部17又は嵌合凹部18に対応させて、嵌合凹部18又は嵌合凸部17が形成されており、互いに対応する嵌合凸部17と嵌合凹部18との嵌合によって上下に隣り合う板材15,15同士が順次一体に連結されて全ての板材15,15…が一体化され、これにより全体として一枚の耐震用板壁11として機能する。なお、嵌合凸部17及び嵌合凹部18の詳細については後述する。 【0022】 かかる板壁11の各柱1,1への固定は、例えば、ほぞ15h及びほぞ穴1h等の嵌合構造によりなされる。すなわち、各板材15の長手方向たる左右方向の各端部15e,15eには、ほぞ15hが一体に形成されており、これに対応させて、柱1の溝状の大入れ1tの底面には、ほぞ穴1hが形成されている。そして、板材15の左右の各端部15e,15eが柱1の大入れ1tに入った状態で、各端部15e,15eのほぞ15hが大入れ1tの底面のほぞ穴1hに嵌るようになっており、これにより、柱1と板壁11とは鉛直方向のせん断力の伝達が可能な状態に連結される。 【0023】 同様に、板壁11の各梁3,3への固定も、例えば、ほぞ15h1及びほぞ穴3h等の嵌合構造によりなされる。すなわち、上端の板材15の上端面及び下端の板材15の下端面には、それぞれ、ほぞ15h1が一体に形成されており、これに対応させて、上梁3及び下梁3の各大入れ3t,3tの底面には、それぞれ、ほぞ穴3hが形成されている。そして、上端の板材15の上端面が、上梁3の大入れ3tに入った状態で、同上端面のほぞ15h1が大入れ3tの底面のほぞ穴3hに嵌るとともに、下端の板材15の下端面が、下梁3の大入れ3tに入った状態で、同下端面のほぞ15h1が大入れ3tの底面のほぞ穴3hに嵌るようになっており、これにより、上梁3及び下梁3と板壁11とは水平方向のせん断力の伝達が可能な状態に連結される。」 オ 【図1】は、以下のものである。 カ 【図2】は、以下のものである。 (4)甲第4号証刊行物 本件特許の出願日前に頒布された甲第4号証刊行物には、図面と共に以下の記載がある。 ア 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、歩道などに施工する木レンガに関し、木質材とコンクリートを一体化した高強度の複合木レンガに関するものである。」 イ 「【0009】 【発明の実施の形態】本発明は直方体の木質材の裏面に、長手方向にアリ係合凸部を形成して、該アリ係合凸部の形成面にコンクリートを打設して固めたもので、複数個の木質材を配設する場合は、木質材と木質材の間に目地隙間を設けて、該目地隙間に目地シールを貼着して、複数個の木質材にそれぞれ形成されたアリ係合凸部にコンクリートを打設して固着する。これを3個の木質材を配設した図1において説明すると、3個の木質材は中間に位置する木質材1Aの左右両側面に目地シール3,3を貼着して、両側に位置する木質材により1,1により挟んで、コンクリート2で固着されている。 【0010】前記木質材は、杉や桧のほかに外国産材としての南米産のイペ、西アフリカ産のボンゴシ、オーストラリア産のジャラ等が使用されており、此等の製材品を先ず外形加工して直方体となし、裏面にアリ係合凸部1aを形成する。アリ係合凸部1aは図2に示すように、木質材のアリ係合幅をアリ付け根幅より広くして両側にテーパー1b,1bをつけて長手方向に形成し、図3に示すように中間に位置する木質材1Aのアリ係合幅W1は、木質材の幅W3の70%程度にして中心部に設け、両側に位置する木質材1,1のアリ係合幅W2は木質材の幅W3の50%程度にして内側へ少し偏心させて設けるのが好ましい。」 ウ 「【0027】 【発明の効果】本発明に係る木質材とコンクリートの複合木レンガは、木質材の裏面にアリ係合凸部を形成し、該アリ係合凸部面にコンクリートを打設して一体化したことにより、コンクリートで木質材をしっかり保持して、強度を向上させることができると共に木質板の反りや剥離を防止できること、及びコンクリートの重量が付加されて、雨水などにより、浮き上がるのを防止できることなどにより安定した高強度の木レンガの敷設を得るのに効果がある。」 エ 【図1】は、以下のものである。 オ 【図2】は、以下のものである。 カ 【図3】は、以下のものである。 第5 対比・判断 1 取消理由1及び2(新規性・進歩性)について (1) 本件発明1について ア 対比 本件発明1と引用発明1とを対比すると、次のことがいえる。 (ア)甲1発明の「上下の水平部材である梁102」及び「木質材料で形成された壁材」は、本件発明1の「上下の水平部材」及び「木質壁」に相当する。 (イ)また、上記(ア)の点を踏まえると、甲1発明の「耐震壁1」は、本件発明1の「耐震壁構造」と、「上下の水平部材の間に設置された木質壁が、前記水平部材に接合され」る点で共通する。 したがって、本件発明1と甲1発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。 <一致点> 「上下の水平部材の間に設置された木質壁が、前記水平部材に接合される、 耐震壁構造。」 <相違点> (相違点1)木質壁と水平部材の接合が、本件発明1は、「セメント系固化材で」接合されるのに対し、甲1発明では、「セメント系固化材で」接合する構成ではない点。 (相違点2)本件発明1は、「前記木質壁の上端部及び下端部の少なくとも一方には、凹凸が形成されている」のに対し、甲1発明では、「壁材は、耐震ユニット3で構成され、」「耐震ユニット3は、矩形板状の板部材31と、板部材31の全周縁に沿って設けられた枠部材32とで構成してあり、」「板部材31の周縁の一側および他側に凹凸形状の嵌合部311が設けてあ」るものの、「壁材」の「全周縁に」位置する「枠部材32」の「上端部及び下端部」には「凹凸」は形成されていない点。 イ 相違点についての判断 (ア)相違点1について 甲第2号証刊行物には、上記「第4」「1」「(2)」に摘記したとおり、「木造耐火面部材において、梁14の下面と耐力壁20の上面の間に形成された目地80、及び切り欠き部66は、目地80及び切り欠き部66に充填され硬化したモルタルMによって塞がれている」ことが開示されているものの、当該構成における「モルタルM」は、梁14の下面と耐力壁20の上面の間を「塞ぐ」に留まり、「接合」するものとは認められない。梁14の下面と耐力壁20の上面の接合は、段落【0026】に「耐力壁20の上部は、梁14に取り付けられた接合部材58と、耐力壁20に取り付けられた接合部材60とをボルト62及びナット64により接合することによって、梁14に固定されている。」と記載されているように、「ボルト62及びナット64により接合」されている。よって、甲第2号証刊行物には、「木質壁が、セメント系固化材で前記水平部材に接合され」た点は開示されていない。 また、甲第3号証刊行物及び甲第4号証刊行物にも同様に、「木質壁が、セメント系固化材で前記水平部材に接合され」た点は開示されていない。 すなわち、甲1発明に、甲2号証刊行物ないし甲第4号証刊行物に記載の発明を適用しても本件発明1における相違点1の構成とはならない。 なお、甲第1号証刊行物には、「耐震ユニット3は、枠部材32の外周面と柱101との相互間、および枠部材32の外周面と梁102との相互間に介在した接合手段としての接着剤6によって柱梁架構100の内周面に接着してある。」(【0038】)点や、「図16?図18に示す接合構造は、耐震ユニット3の枠部材32とフレーム2とを相互に接合したもの、または互いに並ぶ耐震ユニット3の相互の枠部材32を接合したものである。耐震ユニット3は、フレーム2に接合手段を介して接合してある。図16?図18に示す接合手段は、木質材料で形成された接合部材7aと固定部材7bとを備えている。 (・・・中略・・・・) この接合手段は、耐震ユニット3の枠部材32とフレーム2との相互に渡って接合部材7aを配置し、枠部材32および接合部材7aに共に貫通する貫通孔に固定部材7bを貫入して枠部材32と接合部材7aとを接合するとともに、フレーム2および接合部材7aに共に貫通する貫通孔に固定部材7bを貫入してフレーム2と接合部材7aとを接合する。これにより、接合部材7aを介して耐震ユニット3がフレーム2に接合される。」(【0039】)点も記載されているが、甲1発明がこれらの事項を備える場合も、本件発明1と甲1発明とが、上記相違点1で相違することに変わりはない。そして、相違点1については以上で検討したとおりである。 (イ)申立人は、相違点1に関連して、本件発明1と甲1発明を対比し、上記「第4」「1」「(1)」「イ」で摘記した【0019】の記載に基づくと、「耐震壁1が非木造建物を形成する鉄筋コンクリート造、鉄骨コンクリート造、鉄筋鉄骨コンクリート造などのコンクリート造の柱梁架構内に設置され、かつ耐震壁1と柱梁架構がいずれかの連結手段で接合されていないと、耐震壁1が柱梁架構100の変形を防ぐことが出来ないということであって、耐震壁1が柱梁架構100の変形を防ぐように配置されるとは、耐震壁1と柱梁架構100が接合されていると理解することは、当業者にあっては、技術常識である。 したがって、甲1発明における「耐震ユニット3がコンクリート造の柱梁架構100と接合され、」は、本件特許発明1における「木質壁が、セメント系固化材で前記水平部材に接合され、」に相当する。」と述べ、両者は実質的な相違点を有しておらず、本件発明1は、甲第1号証刊行物に記載された発明であると主張している。 しかしながら、甲1発明は上記「第4」「1」で認定したとおりの発明であり、上記(相違点1)で示したとおり、本件発明1の発明特定事項である「木質壁が、セメント系固化材で前記水平部材に接合され」た点を有しておらず、本件発明1は、甲第1号証刊行物に記載された発明とは相違する。 よって、上記申立人の主張は認められない。 また、甲2号証刊行物ないし甲第4号証刊行物に記載の発明も上記(ア)で示したとおり、上記申立人が述べた構成は有していない。 (ウ)相違点2について 甲1発明は、「壁材」の「上端部及び下端部」には、「枠部材32」が存在するものであるが、当該「枠部材32」の外周側には、「凹凸」は設けられていない。また、甲1発明は、「フレーム2」を設けないものであるが、「フレーム2」を設けないものであっても、「枠部材32」は、「壁材」の一部として設けられるものである。 (エ)申立人は、相違点2に関連して、本件発明1と甲1発明を対比し、「よって、柱梁架構100の内法面の全高、または全幅に亘って設置する耐震ユニットでは、柱梁架構の上梁と耐震ユニットを構成する板部材31の最上端部との接合部分、または柱梁架構の下梁と耐震ユニットを構成する板部材31の最下端部との接合部分にあっては、梁102の断面内に新たに板部材31を設ける必要はなく、耐震ユニット同士を接合させるために板部材の周縁に設置する枠部材32が不要となり、板部材31の最上端部、及び最下端部には上記図7形態に示されるように、凹部311bと凸部311aを有する凹凸形状の嵌合部311のみが設けられており、板部材31の嵌合部311(図7-1参照)を柱梁架構の上梁や下梁と接合されることは、明細書の【0041】と、図19、及び図20に図示されている耐震ユニットの設置例からわかる。」と述べ、甲1発明において、「枠部材32」が不要となる場合が存在し、この場合、板部材31の凹凸形状の嵌合部311が、柱梁架構の上梁や下梁と接合される旨主張している。 しかしながら、上記「第4」「1」「(1)」「カ」「【0034】」で摘記したように、甲1発明において、「フレーム2」を用いない場合であっても、「枠部材32」は、必要な部材であり、申立人が主張するように「不要」なものではない。これは、「第4」「1」「(1)」「キ」「【0041】」の場合でも同様である。よって、本件発明1は、甲第1号証刊行物に記載された発明とは相違する。 よって、上記申立人の主張は認められない。 また、甲2号証刊行物及び甲第4号証刊行物にも、上記申立人が述べた構成は記載されていない。 甲第3号証刊行物には、「板壁11」の「上下一対の梁3,3(水平材に相当)」「への固定」は、「ほぞ15h1及びほぞ穴3h等の嵌合構造によりなされる」ものが記載されており、当該固定手段は、本件発明1における相違点2の構成に相当するものの、上記「(ア)」及び「(イ)」で述べたとおり、「ほぞ15h1及びほぞ穴3h等の嵌合構造によりなされる」「固定」では、「セメント系固化材」を用いた接合はなされない。 (オ)そして、本件発明1は、相違点1に係る構成を備えることにより、明細書に記載された、「第1態様では、上下の水平部材の間に設置された木質壁がセメント系固化材で水平部材に接合されているので、木質壁が接着剤で水平部材に接合されている構成と比較し、火災時における接合力の低下が抑制又は防止される。つまり、木質壁が接着剤で水平部材に接合されている構成と比較し、高い耐火性能が確保される。」(段落【0007】)との作用効果を奏するものである。 同様に、本件発明1は、相違点2に係る構成を備えることにより、明細書に記載された、「【0009】 第2態様では、木質壁の上端部及び下端部の少なくとも一方には凹凸が形成されているので、凹凸が形成されていない平坦である場合と比較し、接合面積が増加する。よって、木質壁と水平部材との間で効果的にせん断力が伝達される。」(段落【0009】)との作用効果を奏するものである。 (カ)したがって、本件発明1は、甲第1号証刊行物に記載された発明ではなく、また、当業者が、甲第1号証刊行物に記載の発明から、又は、甲第1号証刊行物ないし甲第4号証刊行物に記載の発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。 (2) 本件発明2ないし7について 本件発明2ないし7は、本件発明1の構成を全て含み更に減縮したものであるから、本件発明1についての判断と同様の理由により、甲第1号証刊行物に記載された発明ではなく、また、当業者が、甲第1号証刊行物に記載の発明から、又は、甲第1号証刊行物ないし甲第4号証刊行物に記載の発明・技術事項に基いて容易に発明をすることができたものではない。 (3) まとめ 以上のとおり、申立人が主張する理由によって、本件発明1ないし7に係る特許を取り消すことはできない。 第6 むすび したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし7に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2020-02-12 |
出願番号 | 特願2015-98906(P2015-98906) |
審決分類 |
P
1
651・
113-
Y
(E04H)
P 1 651・ 121- Y (E04H) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 新井 夕起子 |
特許庁審判長 |
森次 顕 |
特許庁審判官 |
有家 秀郎 大塚 裕一 |
登録日 | 2019-05-24 |
登録番号 | 特許第6530959号(P6530959) |
権利者 | 株式会社竹中工務店 |
発明の名称 | 耐震壁構造 |
代理人 | 加藤 和詳 |
代理人 | 福田 浩志 |
代理人 | 中島 淳 |