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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H02M
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H02M
管理番号 1359905
審判番号 不服2019-994  
総通号数 244 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-01-25 
確定日 2020-03-03 
事件の表示 特願2014-246998「電力変換装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 6月20日出願公開、特開2016-111817、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は,平成26年12月5日を出願日とする出願であって,平成30年3月14日付けで拒絶理由通知がされ,平成30年5月21日に意見書が提出され,平成30年8月3日付けで拒絶理由通知がされ,平成30年9月26日に意見書が提出され,平成30年12月10日付けで拒絶査定(原査定)がされ,これに対し,平成31年1月25日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ,令和1年11月27日付けで当審より拒絶理由通知(以下,「当審拒絶理由通知」という。)がされ,令和1年12月16日に意見書が提出されるとともに手続補正がされたものである。


第2 原査定の概要

原査定(平成30年12月10日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

1.(進歩性)本願請求項1ないし4に係る発明は,以下の引用文献1ないし3に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献等一覧>
1 特開2009-094266号公報
2 特開2013-239547号公報
3 特開2012-195536号公報

第3 当審拒絶理由の概要

当審拒絶理由通知における拒絶理由の概要は次のとおりである。

1.(明確性)この出願は,特許請求の範囲の記載が,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。


第4 本願発明

本願請求項1ないし4に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明4」という。)は,令和1年12月16日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される発明であり,以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
インバータ(13)とDCリンク用のフィルムコンデンサ(C)とを備えた電力変換装置(10)であって、
前記インバータ(13)におけるキャリア周波数の2倍の周波数に依存して変動する、前記フィルムコンデンサ(C)から生じる異音のレベルにおける極小値又は該極小値の近傍のキャリア周波数を、前記インバータ(13)のキャリア周波数として用いることを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記キャリア周波数は、5kHzから10kHzであることを特徴とする電力変換装置。
【請求項3】
インバータ(13)とDCリンク用のフィルムコンデンサ(C)とを備えた電力変換装置(10)の製造方法であって、
前記フィルムコンデンサ(C)から生じる異音レベルの、2倍のキャリア周波数による周波数依存性を取得し、該異音レベルにおける極小値又は該極小値の近傍の周波数と、前記インバータ(13)におけるキャリア周波数とを一致させることを特徴とする電力変換装置の製造方法。
【請求項4】
請求項3において、
前記キャリア周波数は、5kHzから10kHzであることを特徴とする電力変換装置の製造方法。」


第5 引用文献,引用発明等

1.引用文献1について

原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2009-094266号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審により付与。以下同様。)

A 「【背景技術】
【0002】
従来の乾式フィルムコンデンサは一般に、金属化フィルム等の誘電体フィルムを巻回または積層したものの両端面にメタリコンによって電極が形成されたコンデンサ素子と、電極に接続されたリード線と、リード線を外部に伸延させつつコンデンサ素子を収納するケースと、ケースに充填される樹脂とから構成されている。
この乾式フィルムコンデンサは、高周波特性が優れていると共に、高電圧でも使用可能なため、インバータ装置や、高周波回路(共振用)等に使用されている。
【0003】
従来の乾式フィルムコンデンサは、例えば動作周波数(キャリア周波数)が可聴域内の約1kHz?20kHzであるインバータ装置に用いられると、キャリア周波数またはその整数倍の周波数において、フィルムが静電吸引力によって振動し、耳障りな雑音を生じていた。
【0004】
そこで、コンデンサ素子の外面または巻回外周面に吸音防音材を配置することにより、コンデンサ素子の振動が外部へ伝搬するのを抑制し、雑音を低減する技術等が提案されている(例えば、特許文献1参照)。)

上記Aの記載から,上記引用文献1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「高周波特性が優れていると共に高電圧でも使用可能な乾式フィルムコンデンサを使用するインバータ装置であって,
上記乾式フィルムコンデンサは,例えば動作周波数(キャリア周波数)が可聴域内の約1kHz?20kHzであるインバータ装置に用いられると,キャリア周波数またはその整数倍の周波数において,フィルムが静電吸引力によって振動し,耳障りな雑音を生じていたため,
コンデンサ素子の外面または巻回外周面に吸音防音材を配置することにより,コンデンサ素子の振動が外部へ伝搬するのを抑制し,雑音を低減する,
インバータ装置。」

2.引用文献2について

原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(特開2013-239547号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。

B 「【0004】
又、平滑コンデンサからの騒音の周波数が可聴帯域であれば、電力変換装置の周辺にいる人を不快にさせる場合があり、その不快さはその電力変換装置の商品性を著しく損なうことになる。そこで、従来、平滑コンデンサの騒音対策として、平滑コンデンサの静電容量を大きくしてリップル電圧を低減させることや、電力変換装置の駆動周波数を可聴帯域以上とすること、或いは、平滑コンデンサの外側から平滑コンデンサを覆うような遮音用部材を用いること、等が考えられている。」

3.引用文献3について

原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3(特開2012-195536号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。

C 「【0005】
この振動がモールド樹脂からケースに伝播され、騒音として課題となる場合がある。特に、このような金属化フィルムコンデンサをHEV用のインバータ回路の平滑用に用いる場合には、スイッチング周波数が数kHz?15kHzという可聴周波数であることから、高い静粛性が要求される自動車用に使用する場合には上記騒音をできるだけ低減することが必要であり、このような高周波領域において発生する騒音を低減するために種々の提案がなされている。」


第6 対比・判断

1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「インバータ装置」,当該「インバータ装置」に使用される「乾式フィルムコンデンサ」はそれぞれ本願発明1の「インバータ(13)」「DCリンク用のフィルムコンデンサ(C)」に相当し,引用発明の「乾式フィルムコンデンサ」と「インバータ装置」は電力変換装置を構成するといいうるから,引用発明と本願発明1とは,「インバータ(13)とDCリンク用のフィルムコンデンサ(C)とを備えた電力変換装置(10)」に関するものである点で一致する。

イ 引用発明と本願発明1とは,“所定のキャリア周波数を,前記インバータ(13)のキャリア周波数として用いる”ものである点で共通するといえる。

ウ 上記ア及びイの検討から,本願発明1と引用発明との間には,次の一致点,相違点があるといえる。

(一致点)
「インバータ(13)とDCリンク用のフィルムコンデンサ(C)とを備えた電力変換装置(10)であって,
所定のキャリア周波数を,前記インバータ(13)のキャリア周波数として用いることを特徴とする電力変換装置。」

(相違点1)
インバータ(13)のキャリア周波数として用いる所定のキャリア周波数に関し,
本願発明1は,「前記インバータ(13)におけるキャリア周波数の2倍の周波数に依存して変動する,前記フィルムコンデンサ(C)から生じる異音のレベルにおける極小値又は該極小値の近傍のキャリア周波数」であるのに対して,
引用発明は,インバータ装置のキャリア周波数についてそのような特定はなされていない点。

(2)相違点についての判断
上記相違点1について検討する。

上記相違点1に係る構成である,「前記インバータ(13)におけるキャリア周波数の2倍の周波数に依存して変動する、前記フィルムコンデンサ(C)から生じる異音のレベルにおける極小値又は該極小値の近傍のキャリア周波数」を用いるとの構成は,これにより,「・・DCリンク平滑用コンデンサにフィルムコンデンサ(C)を用いる電力変換装置(10)において、該フィルムコンデンサ(C)における異音レベルの周波数依存性を計測し、その異音レベルのグラフにおける、キャリア周波数αの2倍の周波数2αに近い極小値又はその近傍に、周波数2αの値を設定する。これにより、実施形態1に係る電力変換装置(10)は、フィルムコンデンサ(C)を封止する特別な構造又は異音吸収用の材料を用いることなく、該フィルムコンデンサ(C)からの異音を低減することができる」(【0034】)との効果を奏するものであるところ,当該相違点1に係る構成は,引用文献2,3には記載されておらず,また,本願出願日前において周知技術であるともいえない。
そうすると,引用発明に基づいて,相違点1に係る本願発明1の構成とすることは,当業者が容易になし得ることであるとはいえない。

したがって,本願発明1は,当業者であっても引用発明,引用文献2,3に記載された技術的事項,及び,周知技術に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2.本願発明2ないし4について

本願発明3は,本願発明1とカテゴリーが異なるだけであり,また,本願発明2及び4は,本願発明1または3を更に限定したものであるので,本願発明1と同様の理由により,引用発明,引用文献2,3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。


第7 原査定についての判断

1.特許法第29条第2項について

原査定は,請求項1ないし4について上記引用文献1ないし3に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。しかしながら,令和1年12月16日付けの手続補正により補正された請求項1ないし4は,それぞれ相違点1に係る構成を有するものとなっており,
上記第6のとおり,本願発明1ないし4は,上記引用発明,引用文献2,3に記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものではない。したがって,原査定を維持することはできない。


第8 当審拒絶理由について

1.特許法第36条第6項第2号について

当審拒絶理由通知では,請求項1の「前記インバータ(13)におけるキャリア周波数の2倍の周波数に依存して変動する、前記フィルムコンデンサ(C)から生じる異音のレベルが相対的に低いキャリア周波数」との記載は,具体的に何を基準として「異音のレベルが相対的に低い」といえるのか不明確であるとの拒絶の理由を通知しているが,令和1年12月16日付けの手続補正において,「前記インバータ(13)におけるキャリア周波数の2倍の周波数に依存して変動する、前記フィルムコンデンサ(C)から生じる異音のレベルにおける極小値又は該極小値の近傍のキャリア周波数」と補正された結果,この拒絶の理由は解消した。請求項2ないし4についても同様である。


第9 むすび

以上のとおり,本願発明1ないし4は,当業者が引用発明に基づいて容易に発明することができたものではない。
したがって,原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。

 
審決日 2020-02-13 
出願番号 特願2014-246998(P2014-246998)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (H02M)
P 1 8・ 121- WY (H02M)
最終処分 成立  
前審関与審査官 高野 誠治  
特許庁審判長 千葉 輝久
特許庁審判官 仲間 晃
白井 亮
発明の名称 電力変換装置  
代理人 特許業務法人前田特許事務所  

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