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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1359993
審判番号 不服2018-12306  
総通号数 244 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-09-13 
確定日 2020-02-12 
事件の表示 特願2017- 2326「薄膜半導体材料を用いる薄膜トランジスタ」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 6月22日出願公開、特開2017-112380〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成20年8月1日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2007年8月2日,米国)を国際出願日とする特願2010-520218号の一部を平成26年12月2日に新たな出願とした特願2014-243970号の一部を平成29年1月11日に新たな出願としたものであって,その手続の経緯は以下のとおりである。
平成29年 2月 9日 手続補正書の提出
平成29年11月29日付け 拒絶理由通知書
平成30年 3月 5日 意見書,手続補正書の提出
平成30年 5月 9日付け 拒絶査定
平成30年 9月13日 審判請求書,手続補正書の提出
平成31年 4月 4日付け 拒絶理由通知書

第2 本願発明
平成30年9月13日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし15(以下,「本願発明1」ないし「本願発明15」という。)には,以下の事項が記載されている。

「【請求項1】
薄膜トランジスタであって、
薄膜トランジスタの半導体層として、
酸素、窒素、および亜鉛からなる酸窒化物化合物を含有する半導体層
を含む、トランジスタ。
【請求項2】
トランジスタは、最上部ゲート薄膜トランジスタであって、
基板、
前記基板の上に配置されたゲート電極、
前記ゲート電極の上に配置されたゲート誘電体層、
前記ゲート誘電体層の上に配置された半導体層、
前記半導体層の上に配置され、アクティブチャンネルを画成するように隔置されたソース・ドレイン電極、及び
前記アクティブチャンネルにおける前記半導体層の上に配置されたエッチング停止層、を更に備える、請求項1に記載のトランジスタ。
【請求項3】
前記半導体層が、約50cm^(2)/Vsを超える移動度を有する、請求項1に記載のトランジスタ。
【請求項4】
前記半導体層が、更に、Al、Ca、Si、Ti、Cu、Ge、Ni、Mn、Cr、V、Mg、及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれるドーパントを含む、請求項1に記載のトランジスタ。
【請求項5】
薄膜トランジスタの製造方法であって、
基板の上に半導体層を堆積させるステップを含み、前記半導体層が、
酸素、窒素、および亜鉛からなる酸窒化物化合物を含有する、
方法。
【請求項6】
基板とゲート電極の上にゲート誘電体層を堆積させるステップと、
前記ゲート誘電体層の上に前記半導体層を堆積させるステップと、
前記半導体層の上にエッチング停止層を堆積させるステップと、
前記半導体層の上に導電層を堆積させるステップと、
前記導電層をエッチングして、ソース・ドレイン電極とアクティブチャンネルを画成するステップと
を更に含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記半導体層が、更に、Al、Ca、Si、Ti、Cu、Ge、Ni、Mn、Cr、V、Mg、及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれるドーパントを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記半導体層が、約50cm^(2)/Vsを超える移動度を有する、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記半導体層をアニールすることを更に含む、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
前記堆積させるステップが、
窒素含有ガスと酸素含有ガスをチャンバに供給する工程と、
インジウム、ガリウム及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれる一種類以上の元素を含むターゲットをスパッタする工程と、
窒素含有ガスの供給量を堆積中に変える工程と
を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項11】
薄膜トランジスタ製造方法であって、
酸素、窒素、および亜鉛からなる酸窒化物化合物を含有する、半導体層を基板の上に堆積させるステップと、
前記半導体層の上にソース・ドレイン電極層を堆積させるステップと、
前記ソース・ドレイン電極層と前記半導体層をエッチングして、アクティブチャンネルを作成するステップと、
前記ソース・ドレイン電極層をエッチングして、ソース・ドレイン電極を画成するステップと
を含む、方法。
【請求項12】
前記半導体層が、約50cm^(2)/Vsを超える移動度を有する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記堆積中に供給される窒素含有ガスの量を変えるステップを更に含む、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記半導体層が、更に、Al、Ca、Si、Ti、Cu、Ge、Ni、Mn、Cr、V、Mg、及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれるドーパントを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記半導体層をアニールするステップと、
前記ソース・ドレイン電極層を堆積させる前に、前記半導体層の少なくとも一部の上にエッチング停止層を堆積させるステップと
を更に含む、請求項11に記載の方法。」

第3 当審の拒絶理由通知書の概要
当審の拒絶の理由である,平成31年4月4日付け拒絶理由通知の理由は,概略,次のとおりのものである。

理由1(進歩性)この出願の請求項1ないし15に係る発明は,その優先権主張日前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その優先権主張日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

理由2(明確性)この出願は,特許請求の範囲の記載が,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

<引用文献等一覧>
1.特開2007-123861号公報
2.特開2007-184610号公報
3.特表2007-502519号公報

第4 引用文献の記載及び引用発明等
1 引用文献1
(1)引用文献1には,以下の事項が記載されている(下線は,当審で付した。以下同じ。)。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置及びその作製方法に関する。特に、酸化物半導体を用いた半導体装置に関する。また、その半導体装置を備えた電子機器に関する。」

「【0040】
本発明では、ゲート電極をLRTAにより加熱することで酸化物半導体膜のチャネル形成領域における結晶性を良好にしている。その結果、酸化物半導体膜は局所的にしか加熱されないため、基板の大半は加熱されずに済み、基板のシュリンク(縮み)やたわみを抑制しつつ結晶化工程を行うことができる。したがって、工程を簡略化しつつ、移動度特性を向上させた半導体素子を有する半導体装置を作製することができる。」

「【0063】
(実施の形態2)
本実施形態では、実施形態1とは異なる構造について図3(A)?(C)を用いて説明する。なお、基板301上に下地膜302、ゲート電極303、ゲート絶縁膜304を形成するまでの工程は実施の形態1の基板101上に下地膜102、ゲート電極103、ゲート絶縁膜104を形成するまでの工程を参照されたい。
【0064】
ゲート絶縁膜304上に第1の酸化物半導体膜305を形成する。酸化物半導体膜305は、1族元素、13族元素、14族元素、15族元素又は17族元素の不純物元素のうち一種又は複数種が添加された酸化亜鉛(ZnO)の非晶質(アモルファス)状態、多結晶状態又は非晶質状態と多結晶状態が混在する微結晶(マイクロクリスタルとも呼ばれる。)状態のもの、又は何も不純物元素が添加されていないものを用いることができる。また、InGaO_(3)(ZnO)_(5)、酸化マグネシウム亜鉛(Mg_(x)Zn_(1-x)O)又は酸化カドミウム亜鉛(Cd_(x)Zn_(1-x)O)、酸化カドミウム(CdO)、In-Ga-Zn-O系のアモルファス酸化物半導体(a-IGZO)のうちいずれかを用いることができる。ここでは、第1の酸化物半導体膜305は酸化亜鉛を50?200nm(好ましくは100?150nm)の厚さでスパッタリング法により成膜する。
【0065】
次いで、結晶性を良好にするため基板表面からLRTAを行う(図3(A)。LRTAは、250?570℃(好ましくは300℃?400℃、より好ましくは300?350℃)で1分?1時間、好ましくは10分?30分行えばよく、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、キセノンアークランプ、カーボンアークランプ、高圧ナトリウムランプ、高圧水銀ランプから選ばれた一種または複数種からの輻射により行う。本実施形態では、酸素雰囲気中においてゲート電極303がおよそ300℃となるように30分間のランプ加熱を行い、ゲート絶縁膜304を間に挟んでゲート電極303と重なる第1の酸化物半導体膜305の領域の結晶性を向上させる。第1の酸化物半導体膜305は透光性を有するため、ゲート電極303が優先して加熱されることでゲート電極303の周囲から外側に向けて第1の酸化物半導体膜305の結晶性が上がる。そして、図3(B)に示すように、第2の酸化物半導体領域309と、第2の酸化物半導体領域309よりも結晶性の良好な第1の酸化物半導体領域308を有する第2の酸化物半導体膜が形成される。なお、図3(A)では、基板301表面側へランプ加熱しているが基板裏面へLRTAしてもよい。酸化物半導体膜305は透光性を有するため、基板の大半の領域はLRTAを行っても加熱されにくい。そのため、基板に融点の低い樹脂などを用いても基板の縮み等による変形を抑制することができる。なお、LRTAの出力を上げて基板表面よりランプ加熱を行うことにより、直接酸化物半導体膜の表面近傍の結晶性を改善させてもよい。また、ランプ光の波長、ゲート電極の反射率及び酸化物半導体膜の膜厚を調節することにより、基板表面からランプ加熱を行う際、ゲート電極で反射したランプ光が酸化物半導体膜のゲート絶縁膜304側の表面付近で吸収され、ゲート電極と重なる酸化物半導体膜のゲート絶縁膜304側の表面付近が優先的に結晶化するようにしてもよい。また、基板にガラス基板を用いる場合、ランプ光は可視光から赤外光領域を利用する。この波長領域の光はガラス基板に吸収されにくいため、ガラス基板が加熱されるのを最小限に抑えることができる。なお、ランプ加熱は複数回行ってもよい。複数回行うことにより、基板温度の上昇を抑えつつゲート電極の加熱時間を稼ぐことができる。
【0066】
なお、LRTAの代わりにレーザ光や紫外光を照射、若しくはそれらを組み合わせて選択的に酸化物半導体膜の結晶性を改善してもよい。レーザ照射を用いる場合、連続発振型のレーザビーム(CWレーザビーム)やパルス発振型のレーザビーム(パルスレーザビーム)を用いることができる。ここで用いることができるレーザビームは、Arレーザ、Krレーザ、エキシマレーザなどの気体レーザ、単結晶のYAG、YVO_(4)、フォルステライト(Mg_(2)SiO_(4))、YAlO_(3)、GdVO_(4)、若しくは多結晶(セラミック)のYAG、Y_(2)O_(3)、YVO_(4)、YAlO_(3)、GdVO_(4)に、ドーパントとしてNd、Yb、Cr、Ti、Ho、Er、Tm、Taのうち1種または複数種添加されているものを媒質とするレーザ、ガラスレーザ、ルビーレーザ、アレキサンドライトレーザ、Ti:サファイアレーザ、銅蒸気レーザまたは金蒸気レーザのうち一種または複数種から発振されるものを用いることができる。このようなレーザビームの基本波、及びこれらの基本波の第2高調波から第4高調波のレーザビームを照射することで、結晶性を良好にすることができる。なお、レーザ光は酸化物半導体膜のバンドギャップよりもエネルギーの大きいものを用いる方が好ましい。例えば、KrF、ArF、XeCl、又はXeFのエキシマレーザ発振器から射出されるレーザ光を用いてもよい。
【0067】
次いで、第1の酸化物半導体領域308及び第2の酸化物半導体領域309上にスパッタリング法によりTiとAlを順に堆積し、Ti層とAl層を形成する。その後、Ti及びAl層をフォトリソグラフィー及びCl_(2)ガスを用いてドライエッチングすることでソース配線及びドレイン配線となる配線306と配線307を形成する(図3(C))。配線306、307は、加速電圧1.5kw、圧力0.4Pa、Ar(流量30sccm)を用いて10?200nmの膜厚で成膜する。なお、配線306、307は積層して形成しているが、酸化物半導体膜305との整合性がよい材料を用いるのであれば配線306、配線307は単層でもよい。なお、配線306、307として、アルミニウム(Al)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、白金(Pt)、チタン(Ti)、ネオジウム(Nd)等の金属又はその合金、若しくはその金属窒化物または、インジウム錫酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、酸化珪素を含むインジウム錫酸化物(ITSO)、酸化インジウム(In_(2)O_(3))、酸化錫(SnO_(2))、酸化亜鉛(ZnO)、アルミニウムを添加した酸化亜鉛(AlZnO)、ガリウムを添加した酸化亜鉛(GaZnO)などの透光性を有する材料を適宜用いることができる。」

「【0072】
(実施の形態3)
本発明の実施の形態について、図4、図5を用いて説明する。本実施の形態は、チャネル保護型の薄膜トランジスタを有する半導体装置の例である。
【0073】
基板400は、バリウムホウケイ酸ガラス、アルミノホウケイ酸ガラス等からなるガラス基板、シリコン基板、耐熱性を有するプラスチック基板又は樹脂基板を用いる。プラスチック基板又は樹脂基板として、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルサルフォン(PES)、アクリル、ポリイミド等を用いることができる。また、基板400の表面が平坦化されるようにCMP法などによって、研磨しても良い。なお、基板400上に、絶縁層を形成してもよい。絶縁層は、CVD法、プラズマCVD法、スパッタリング法、スピンコート法等の公知の方法により、珪素を含む酸化物材料、窒化物材料を少なくとも一つ用いて、単層又は積層して形成される。この絶縁層は、形成しなくても良いが、基板400からの汚染物質などを遮断する効果や基板に熱が伝わるのを抑制する効果がある。
【0074】
基板400上に導電膜401を形成する。導電膜401は、所望の形状に加工されゲート電極となる。導電膜401は、印刷法、電界メッキ法、蒸着法等の手法によりLRTA加熱に用いる光源の波長に対する反射率が低い(熱を吸収しやすい、つまり加熱されやすい)材料を用いて形成することが好ましい。反射率の低い材料を用いることにより、後の加熱工程が可能となる。導電膜401としては、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、白金(Pt)、チタン(Ti)、ネオジウム(Nd)等の金属又はその合金、若しくはその金属窒化物を適宜用いることができる。また、これら複数の層を積層して形成しても良い。代表的には、基板表面に窒化タンタル膜、その上にタングステン膜を積層してもよい。また、珪素に一導電型を付与する不純物元素を添加した材料を用いても良い。例えば、非晶質珪素膜にリン(P)などのn型を付与する不純物元素が含まれたn型を有する珪素膜などを用いることができる。導電膜401は、10nm?200nmの膜厚で成膜する。
【0075】
本実施の形態では、タングステン(W)をスパッタリング法により膜厚150nmの導電膜401を形成する。
【0076】
導電膜401上にフォトリソグラフィ工程を用いてレジストからなるマスクを形成し、マスクを用いて導電膜401を所望の形状に加工してゲート電極402を形成する(図4(B)参照)。
【0077】
次いで、ゲート電極402上にゲート絶縁膜403a、ゲート絶縁膜403bを形成し2層の積層構造とする。積層される絶縁膜は、同チャンバー内で真空を破らずに同一温度下で、反応ガスを切り変えながら連続的に形成するとよい。真空を破らずに連続的に形成すると、積層する膜同士の界面が汚染されるのを防ぐことができる。
【0078】
ゲート絶縁膜403a、ゲート絶縁膜403bは、酸化珪素(SiO_(x))、窒化珪素(SiN_(x))、酸化窒化珪素(SiO_(x)N_(y))(x>y)、窒化酸化珪素(SiN_(x)O_(y))(x>y)などを適宜用いることができる。更には、ゲート電極402を酸化して、ゲート絶縁膜403aの代わりに、酸化膜を形成しても良い。なお、基板から不純物などの拡散を防止するため、ゲート絶縁膜403aとしては、窒化珪素(SiN_(x))、窒化酸化珪素(SiN_(x)O_(y))(x>y)などを用いて形成することが好ましい。また、ゲート絶縁膜403bとしては、酸化珪素(SiO_(x))、酸化窒化珪素(SiO_(x)N_(y))(x>y)などを用いて形成することが望ましい。なお、低い成膜温度でゲートリーク電流の少ない緻密な絶縁膜を形成するには、アルゴンなどの希ガス元素を反応ガスに含ませ、形成される絶縁膜中に混入させると良い。本実施の形態では、SiH_(4)、NH_(3)を反応ガスとして形成される膜厚50nm?140nmの窒化珪素膜を用いてゲート絶縁膜403aを形成し、SiH_(4)及びN_(2)Oを反応ガスとして形成される膜厚100nmの酸化珪素膜を用いてゲート絶縁膜403bを積層して形成する。なお、ゲート絶縁膜403a及びゲート絶縁膜403bの膜厚をそれぞれ50nm?100nmとすると好ましい。
【0079】
また、ゲート絶縁膜403bは、後に形成する酸化物半導体膜との整合性が良好であるアルミナ(Al_(2)O_(3))又は窒化アルミ(AlN)により形成してもよい。この場合、ゲート絶縁膜403aは絶縁性の高い酸化珪素、窒化珪素、酸化窒化珪素、窒化酸化珪素などを用い、ゲート絶縁膜403bに酸化物半導体膜との界面特性が良いアルミナ又は窒化アルミを用いることにより、信頼性の高いゲート絶縁膜を形成することができる。なお、ゲート絶縁膜を3層とし、3層目をアルミナ又は窒化アルミを用いたゲート絶縁膜としてもよい。
【0080】
次にゲート絶縁膜403b上に酸化物半導体膜404を形成する。酸化物半導体膜404は流量Ar:O_(2)=50:5sccm、圧力0.4Pa、100nmの厚さでスパッタリング法により成膜する。
【0081】
酸化物半導体膜404は、1族元素、13族元素、14族元素、15族元素又は17族元素等のうち一種、又は複数種の不純物元素が添加されたZnOの非晶質(アモルファス)状態、多結晶状態又は非晶質状態と多結晶状態が混在する微結晶(マイクロクリスタルとも呼ばれる。)状態のもの、又は何も不純物元素が添加されていないものを用いることができる。また、InGaO_(3)(ZnO)_(5)、酸化マグネシウム亜鉛(Mg_(x)Zn_(1-x)O)又は酸化カドミウム亜鉛(Cd_(x)Zn_(1-x)O)、酸化カドミウム(CdO)、In-Ga-Zn-O系のアモルファス酸化物半導体(a-IGZO)のうちいずれかを用いることができる。
【0082】
なお、酸化物半導体膜404にZnOを用いる場合、窒素を添加(ドープ)しておくとよい。ZnOは本来n型の半導体の性質を示す。窒素を添加することで窒素がZnOに対してアクセプタ不純物として働くため、結果としてしきい値電圧を制御することができる。
【0083】
次いで、基板400表面又は裏面よりLRTA法を用いて酸化物半導体膜404の加熱を行う(図4(D))。LRTAは、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、キセノンアークランプ、カーボンアークランプ、高圧ナトリウムランプ、高圧水銀ランプから選ばれた一種または複数種からの輻射により行う。LRTAは、250?570℃(好ましくは300℃?400℃、より好ましくは300?350℃)で1分?1時間、好ましくは10分?30分行うとよい。本実施形態では、ハロゲンランプを光源として酸素雰囲気中で300℃、30分の条件でランプ加熱を行う。
【0084】
LRTAを行うことにより短時間で選択的にゲート電極402が加熱され、その加熱された熱によりゲート電極402の周辺に形成された点線で示す領域434において結晶性が向上した第1の酸化物半導体領域が形成される。一方、点線で示す領域434以外の領域424では、ランプ光の吸収が少ないため、ほとんど加熱されずに済み、第1の酸化物半導体領域と結晶性の異なる第2の酸化物半導体領域が形成される(図4(E))。したがって、ゲート電極402が形成されている領域のみ選択的に加熱され、その他の領域は加熱されないため基板400のシュリンクや撓みを抑制することができる。なお、LRTAの出力を上げて基板表面よりランプ加熱を行うことにより、直接酸化物半導体膜の表面近傍の結晶性を改善させてもよい。また、ランプ光の波長、ゲート電極の反射率及び酸化物半導体膜の膜厚を調節することにより、基板表面からランプ加熱を行う際、ゲート電極で反射したランプ光が酸化物半導体膜のゲート絶縁膜403b側の表面付近で吸収され、ゲート電極と重なる酸化物半導体膜のゲート絶縁膜403b側の表面付近が優先的に結晶化するようにしてもよい。また、基板にガラス基板を用いる場合、ランプ光は可視光から赤外光領域を利用する。この波長領域の光はガラス基板に吸収されにくいため、ガラス基板が加熱されるのを最小限に抑えることができる。なお、ランプ加熱は複数回行ってもよい。複数回行うことにより、基板温度の上昇を抑えつつゲート電極の加熱時間を稼ぐことができる。
【0085】
なお、LRTAの代わりにレーザ光や紫外光を照射、若しくはそれらを組み合わせて選択的に酸化物半導体膜の結晶性を改善してもよい。レーザ照射を用いる場合、連続発振型のレーザビーム(CWレーザビーム)やパルス発振型のレーザビーム(パルスレーザビーム)を用いることができる。ここで用いることができるレーザビームは、Arレーザ、Krレーザ、エキシマレーザなどの気体レーザ、単結晶のYAG、YVO_(4)、フォルステライト(Mg_(2)SiO_(4))、YAlO_(3)、GdVO_(4)、若しくは多結晶(セラミック)のYAG、Y_(2)O_(3)、YVO_(4)、YAlO_(3)、GdVO_(4)に、ドーパントとしてNd、Yb、Cr、Ti、Ho、Er、Tm、Taのうち1種または複数種添加されているものを媒質とするレーザ、ガラスレーザ、ルビーレーザ、アレキサンドライトレーザ、Ti:サファイアレーザ、銅蒸気レーザまたは金蒸気レーザのうち一種または複数種から発振されるものを用いることができる。このようなレーザビームの基本波、及びこれらの基本波の第2高調波から第4高調波のレーザビームを照射することで、結晶性を良好にすることができる。なお、レーザ光は酸化物半導体膜のバンドギャップよりもエネルギーの大きいものを用いる方が好ましい。例えば、KrF、ArF、XeCl、又はXeFのエキシマレーザ発振器から射出されるレーザ光を用いてもよい。
【0086】
次いで、酸化物半導体膜404上に、保護膜405を形成し、保護膜405上にレジスト406を形成する(図4(F)参照)。レジスト406をマスクとしてフォトリソグラフィ工程により保護膜405を所望の形状に加工してチャネル保護膜407を形成する。チャネル保護膜には、酸化珪素(SiOx)、窒化珪素(SiN_(x))、酸化窒化珪素(SiO_(x)N_(y))(x>y)、窒化酸化珪素(SiN_(x)O_(y))(x>y)などを適宜用いることができる。チャネル保護膜407を形成することにより、ソース電極層、ドレイン電極層を形成する際にチャネル部の半導体層のエッチングを防ぐことが出来る。本実施形態では、保護膜405として窒化珪素を成膜して、チャネル保護膜407を形成する(図4(G)参照)。
【0087】
次に、酸化物半導体膜404をフォトリソグラフィ工程を用いてレジストによるマスク408を作製し(図4(H))、マスク408を用いてエッチングを行い、所望の形状に加工された酸化物半導体膜409(島状酸化物半導体膜ともいう)を形成する(図5(A))。なお、エッチングには、希釈したフッ酸を用いる。その後、酸化物半導体膜409上に第1の導電膜411、第2の導電膜412を形成し、フォトリソグラフィ工程を用いてレジストによるマスク413を形成する(図5(B))。マスク413を用いて第1の導電膜411、第2の導電膜412を所望の形状に加工し、ソース電極又はドレイン電極として機能する第1の導電膜414a、414b、第2の導電膜415a、415bを形成する(図5(C))。
【0088】
マスクは、感光剤を含む市販のレジスト材料を用いてもよく、例えば、代表的なポジ型レジストである、ノボラック樹脂と感光剤であるナフトキノンジアジド化合物、ネガ型レジストであるベース樹脂、ジフェニルシランジオール及び酸発生剤などを用いてもよい。いずれの材料を用いるとしても、その表面張力と粘度は、溶媒の濃度を調整したり、界面活性剤等を加えたりして適宜調整する。また導電膜に感光性を有する感光性物質を含む導電性材料を用いると、レジストからなるマスクを形成しなくても導電膜に直接レーザ光を照射し、露光、エッチャントによる除去を行うことで、所望の形状に加工することができる。この場合、マスクを形成せずともよいので工程が簡略化する利点がある。
【0089】
感光性物質を含む導電性材料としては、Ag、Au、Cu、Ni、Al、Ptなどの金属或いは合金と、有機高分子樹脂、光重合開始剤、光重合単量体、または溶剤などからなる感光性樹脂とを含んだものを用いればよい。有機高分子樹脂としては、ノボラック樹脂、アクリル系コポリマー、メタクリル系コポリマー、セルローズ誘導体、環化ゴム系樹脂などを用いる。
【0090】
なお、第1の導電膜411を形成する前に、酸化物半導体膜404上に、n型の酸化物半導体として、例えば、アルミニウムを添加した酸化亜鉛(AlZnO)又はガリウムを添加した酸化亜鉛(GaZnO)からなる導電膜をもう一層設けてもよい。AlZnOまたはGaZnOからなる導電膜を形成することにより第1の導電膜411と酸化物半導体膜409との整合性が良くなりソース電極及びドレイン電極との接触抵抗を下げることができる。また、例えば、GaZnO上にTi或いはTi上にGaZnOを形成した積層構造としてもよい。
【0091】
また、第1の導電膜414a、414b及び第2の導電膜415a、415bとして、アルミニウム(Al)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、銅(Cu)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、白金(Pt)、チタン(Ti)、ネオジウム(Nd)等の金属又はその合金、若しくはその金属窒化物を適宜用いることができる。例えば、第1の導電膜がTiで第2の導電膜がAl、第1の導電膜がTaで第2の導電膜がW、第1の導電膜がTaNで第2の導電膜がAl、第1の導電膜がTaNで第2の導電膜がCu、第1の導電膜がTiで第2の導電膜がAlでさらに第3の導電膜としてTiを用いるといった組み合わせも考えられる。また1層目と2層目のいずれか一方にAgPdCu合金を用いても良い。W、AlとSiの合金(Al-Si)、TiNを順次積層した3層構造としてもよい。Wの代わりに窒化タングステンを用いてもよいし、AlとSiの合金(Al-Si)に代えてAlとTiの合金膜(Al-Ti)を用いてもよいし、TiNに代えてTiを用いてもよい。アルミニウムには耐熱性を向上させるためにチタン、シリコン、スカンジウム、ネオジウム、銅などの元素を0.5?5原子%添加させても良い。
【0092】
また、第1の導電膜411及び第2の導電膜412を形成する導電性材料として、インジウム錫酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、酸化珪素を含むインジウム錫酸化物(ITSO)、酸化インジウム(In_(2)O_(3))、酸化錫(SnO_(2))、酸化亜鉛(ZnO)、窒化チタンなどの透光性を有する材料及びそれらを適宜組み合わせて形成してもよい。
【0093】
なお本実施形態では、酸化物半導体膜305にLRTAして結晶性を改善した後に第1の導電膜411及び第2の導電膜412を形成している。そのため、第1の導電膜411及び第2の導電膜412は、ゲート電極402よりもランプ光に対する反射率が低い材料を用いても構わず、配線又は電極として用いられる導電性材料は酸化物半導体膜305と整合性がよいものであれば実施形態1に挙げた材料に限らない。
【0094】
なお、本実施形態において、エッチング加工は、プラズマエッチング(ドライエッチング)又はウエットエッチングのどちらを採用しても良いが、大面積基板を処理するにはプラズマエッチングが適している。エッチングガスとしては、CF_(4)、NF_(3)、SF_(6)、CHF_(3)などのフッ素系又はCl_(2)、BCl_(3)、SiCl_(4)もしくはCCl_(4)などを代表とする塩素系ガス、あるいはO_(2)のガスを用い、HeやArなどの不活性ガスを適宜加えても良い。また、大気圧放電のエッチング加工を適用すれば、局所的な放電加工も可能であり、基板の全面にマスク層を形成する必要はない。
【0095】
なお、本実施形態のフォトリソグラフィ工程において、レジストを塗布する前に、酸化物半導体膜表面に、膜厚が数nm程度の絶縁膜を形成してもよい。この工程により酸化物半導体膜とレジストとが直接接触することを回避することが可能であり、レジストに含まれている不純物が酸化物半導体膜中に侵入するのを防止できる。
【0096】
以上の工程で、チャネル部の半導体層がエッチングされないボトムゲート型(逆スタガ型ともいう。)の薄膜トランジスタを作製することが出来る。なお、本実施形態では、ボトムゲート型のTFTを作製したが、基板上に設けられた酸化物半導体膜上にゲート絶縁膜を介して形成したゲート電極をLRTAで加熱して、少なくとも酸化物半導体膜のチャネル形成領域の結晶性を改善できるのであればトップゲート型TFTであってもよい。」

【図4】

【図5】

(2)上記記載から,引用文献1には,以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されている。

「チャネル保護型の薄膜トランジスタにおいて,
酸化物半導体膜に,窒素を添加したZnOを用いる,
トランジスタ。」

2 引用文献2
(1)引用文献2には,以下の事項が記載されている。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、表示基板、その製造方法及びそれを具備した表示パネルに係り、より詳細には有機絶縁物の損傷を防止して表示品質を向上させるための表示基板と、その製造方法及びそれを具備した表示パネルに関する。」

「【0022】
前記画素電極155は、前記有機絶縁層上に透明な伝導性物質から形成されたものである。前記透明な伝導性物質としては、インジウム(In)、錫(Sn)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)およびガリウム(Ga)よりなる群から選択された一つ以上を含有する酸化物に窒素が添加された酸窒化物が好ましいものである。前記透明な伝導性物質としては、例えば、a-ITON(amorphous indium tin oxynitride;非晶質インジウム錫酸窒化物;単にa-ITONともいう。)及びIZON(indium zinc oxynitride;インジウム亜鉛酸窒化物;以下、単にIZONともいう。)から選ばれてなる少なくとも1種を含むものなどが挙げられる。ただし、透明な伝導性物質としては、上記に例示するものに何ら制限されるものではなく、2族、3族及び4族元素からなる群より選ばれてなる少なくとも1種の元素の酸化物に窒素を添加したもので、In、Ga、Zn、Sn、Mg、Al及びこれらの組み合わせからなる酸窒化物などが例示できる。」

「【0051】
前記透明伝導層150は、2族、3族及び4族元素からなる群より選ばれてなる少なくとも1種の元素の酸化物に窒素を添加したもので、インジウム(In)、錫(Sn)、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)及びガリウム(Ga)よりなる群から選択された一つ以上を含有する酸化物に窒素が添加された酸窒化物、例えば、a-ITON、IZONなどをスパッタリング方式で前記有機絶縁層140上に蒸着する。」

(2)上記記載から,引用文献2には,以下の事項(以下,「引用文献2記載事項」という。)が記載されている。

「亜鉛を含有する酸化物に,窒素を添加し,酸窒化物とすること。」

3 引用文献3
引用文献3には,以下の事項が記載されている。

「【発明の背景】
【0001】
本発明は、一般的に、プラズマプロセスシステムに関し、より詳細には、プラズマプロセスシステムにおけるプラズマ特性をその場(インシチュ:in-situ)測定する装置および方法に関する。」

「【0039】
反応性スパッタ堆積プロセスで用いる本発明の実施形態を図13に示す。この図では、プラズマ源24は、プロセスシステム10内で試料36上に反応性被覆膜または膜を堆積するために用いるマグネトロンスパッタ源である。マグネトロンスパッタシステムは、本質的に多変数なので、堆積プロセスの状態をモニタして制御するための手段として、プラズマ検知信号を用いるのが望ましい。このために、1つまたは複数のDFPセンサアレイ12からのイオン飽和電流および電子温度の測定値を、電子機器42を介してリアルタイムに取得する。あるいは、前記の本発明による他の種類のセンサからの信号を用いてもよい。このリアルタイム測定値は、図9で示した実施形態との関連で前述したように、一連のフィードバック信号230として、多変数入出力制御モジュール180を介して他のサブシステムに与えられる。検知信号は、リアルタイム制御のための状態推定量としての役割を果たす。反応性スパッタの場合は、イオン飽和電流の平均測定値または動的測定値は、電力設定、圧力設定、および流量設定に大きく依存することが知られているので、イオン飽和電流の状態推定量または推定量により、マグネトロン電源182、流量制御モジュール184の全流量レベル、および圧力/ポンプサブシステム232にフィードバックが提供されることになる。同様に、中性ガス(例えば、Ar)の反応性ガス(例えば、O2またはN2)に対する比、および反応性ガスの分圧をさらに調整するために、流量制御サブシステム184に電子温度の状態推定量をフィードバックすることができる。これはまた、(静的に、あるいは時間の関数として)電子温度によって見積もられる電子エネルギーの動的状態が、プロセスガスおよびスパッタのターゲット材料に関連する化学的構成および固有の電子衝突物理に大きく依存するために有用なフィードバック経路でもある。このようにして、電力、圧力、およびガス流速などのプロセスへの入力パラメータをリアルタイムに調整して、間違いなく、プロセスがより正確に目標に向かい、生産時に再現性よく実行できるようにすることができる。この方法は、プラズマ特性(およびそれに付随する皮膜の特性)が、許容範囲または目標とする制御性の範囲から逸脱しそうな際に、過渡的なドリフトや擾乱に反応して、操作者に警告を発するようにプロセスシステムを構成することができるため、有益な方法である。本発明は、単一または複数のスパッタ用陰極ターゲット材料またはスパッタゾーンに関わらずに構成された反応性スパッタプロセスあるいは金属スパッタプロセスのいずれでも(また、バッチあるいはインラインのいずれでも)適用することができる。」

第5 対比
本願発明1と引用発明とを対比すると,以下のとおりとなる。
1 引用発明の「薄膜トランジスタ」は,本願発明1の「薄膜トランジスタ」に相当する。

2 引用発明の「窒素を添加したZnO」を用いた「酸化物半導体膜」と,本願発明1の「酸素、窒素、および亜鉛からなる酸窒化物化合物を含有する半導体層」とは,酸素、窒素、および亜鉛を含有する半導体層である点で共通する。

3 そうすると,本願発明1と引用発明とは,以下の点で一致し,又相違する。

[一致点]
「薄膜トランジスタであって、
薄膜トランジスタの半導体層として、
酸素、窒素、および亜鉛を含有する半導体層
を含む、トランジスタ」

[相違点]
「酸素、窒素、および亜鉛を含有する半導体層」について,本願発明1が「酸素、窒素、および亜鉛からなる酸窒化物化合物を含有する半導体層」であるのに対して,引用発明は,酸素、窒素、および亜鉛を含有するものの,「窒素を添加したZnO」が,「酸窒化物化合物」であるのか不明である点。

第6 判断
1 進歩性(理由1)について
(1)上記第5の3で検討した[相違点]について検討する。
引用文献2記載事項にあるように,亜鉛を含有する酸化物に,窒素を添加し,酸窒化物とすることは,公知の事項であるから,引用発明の「窒素を添加したZnO」を酸窒化物化合物とすることは,当業者に容易になし得ることである。
そうすると,本願発明1は,引用発明及び引用文献2に記載された事項から,当業者が容易になし得たものである。

(2)そして,本願発明1の奏する作用効果は,引用発明及び引用文献2に記載された技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず,格別顕著なものということはできない。

(3)したがって,本願発明1は,引用発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。

2 明確性(理由2)について
(1)請求項2について
請求項2には,
「トランジスタは、最上部ゲート薄膜トランジスタであって、
基板、
前記基板の上に配置されたゲート電極、
前記ゲート電極の上に配置されたゲート誘電体層、
前記ゲート誘電体層の上に配置された半導体層、
前記半導体層の上に配置され、アクティブチャンネルを画成するように隔置されたソース・ドレイン電極、及び
前記アクティブチャンネルにおける前記半導体層の上に配置されたエッチング停止層、を更に備える、請求項1に記載のトランジスタ。」
と記載されているが,「最上部ゲート薄膜トランジスタ」と記載されているように,請求項2記載の「トランジスタ」は,ゲートが最上部に形成されているものを対象としているのに対して,「基板、前記基板の上に配置されたゲート電極、前記ゲート電極の上に配置されたゲート誘電体層、前記ゲート誘電体層の上に配置された半導体層、前記半導体層の上に配置され、アクティブチャンネルを画成するように隔置されたソース・ドレイン電極、及び前記アクティブチャンネルにおける前記半導体層の上に配置されたエッチング停止層、を更に備える」の記載は,ゲートが底部に形成されているものを対象としており,両者の記載は矛盾している。
したがって,請求項2に記載された発明は明確でないから,特許法第36条第6項第2号の規定する要件を満たしていない。

(2)請求項10について
請求項10には,
「前記堆積させるステップが、
窒素含有ガスと酸素含有ガスをチャンバに供給する工程と、
インジウム、ガリウム及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれる一種類以上の元素を含むターゲットをスパッタする工程と、
窒素含有ガスの供給量を堆積中に変える工程と
を含む、請求項5に記載の方法。」
と記載され,「堆積させるステップ」は,「窒素」と「酸素」と「インジウム、ガリウム及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれる一種類以上の元素を含むターゲット」により堆積されるものであるのに対して,請求項10に記載された発明が引用する請求項5には,
「薄膜トランジスタの製造方法であって、
基板の上に半導体層を堆積させるステップを含み、前記半導体層が、
酸素、窒素、および亜鉛からなる酸窒化物化合物を含有する、
方法。」
と記載され,前記「堆積させるステップ」により堆積される「酸窒化物化合物」は,「酸素、窒素、および亜鉛からなる」から,請求項5及び10に記載された「堆積させるステップ」それぞれは,一方が,「酸素」,「窒素」,「亜鉛」を含み,「インジウム、ガリウム及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれる一種類以上の元素」を含まないのに対して,他方は,「酸素」,「窒素」,「インジウム、ガリウム及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれる一種類以上の元素」を含み,「亜鉛」を含まないから,両者の「堆積させるステップ」の組成が異なり,矛盾している。
したがって,請求項10に記載された発明は明確でないから,特許法第36条第6項第2号の規定する要件を満たしていない。

(3)請求項15について
請求項15には,
「前記半導体層をアニールするステップと、
前記ソース・ドレイン電極層を堆積させる前に、前記半導体層の少なくとも一部の上にエッチング停止層を堆積させるステップと
を更に含む、請求項11に記載の方法。」
と記載され,「前記ソース・ドレイン電極層を堆積させる前に、前記半導体層の少なくとも一部の上にエッチング停止層を堆積させるステップ」を有し,ソース・ドレイン電極層の下に,エッチングストップ層を有する「薄膜トランジスタ製造方法」であるのに対して,請求項15に記載された発明が引用する請求項11に記載された発明は,
「薄膜トランジスタ製造方法であって、
酸素、窒素、および亜鉛からなる酸窒化物化合物を含有する、半導体層を基板の上に堆積させるステップと、
前記半導体層の上にソース・ドレイン電極層を堆積させるステップと、
前記ソース・ドレイン電極層と前記半導体層をエッチングして、アクティブチャンネルを作成するステップと、
前記ソース・ドレイン電極層をエッチングして、ソース・ドレイン電極を画成するステップと
を含む、方法。」
と記載され,「前記ソース・ドレイン電極層と前記半導体層をエッチング」しており,ソース・ドレイン電極層の下に,エッチングストップ層を有さない「薄膜トランジスタ製造方法」であるから,両者の記載は矛盾している。
したがって,請求項15に記載された発明は明確でないから,特許法第36条第6項第2号の規定する要件を満たしていない。

第7 むすび
以上のとおり,本願発明は,その優先権主張日前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて,その優先権主張日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
また,この出願の特許請求の範囲の請求項2,10及び15の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
したがって,他の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-09-05 
結審通知日 2019-09-10 
審決日 2019-10-01 
出願番号 特願2017-2326(P2017-2326)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01L)
P 1 8・ 537- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 上田 智志  
特許庁審判長 加藤 浩一
特許庁審判官 恩田 春香
小田 浩
発明の名称 薄膜半導体材料を用いる薄膜トランジスタ  
代理人 園田・小林特許業務法人  

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