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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1360010
審判番号 不服2018-9884  
総通号数 244 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-07-19 
確定日 2020-02-20 
事件の表示 特願2015-516737「内視鏡低侵襲手術のための誘導切開計画」拒絶査定不服審判事件〔平成25年12月19日国際公開、WO2013/186738、平成27年 8月13日国内公表、特表2015-523133〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2013年(平成25年)6月13日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2012年(平成24年)6月15日、米国(US))を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯の概要は、以下のとおりである。
平成27年 1月28日 :翻訳文提出
平成27年 2月13日 :手続補正書の提出
平成29年 4月11日付け:拒絶理由通知書
平成29年10月11日 :意見書・手続補正書の提出
平成30年 3月12日付け:拒絶査定
平成30年 7月19日 :審判請求書・手続補正書の提出


第2 平成30年7月19日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成30年7月19日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線は、補正箇所であり、当審が付与したものである。)
「体の外側部分に取り付けられるように構成されるウインドウのマトリックスを形成する基板であって、前記ウインドウは、そこから目標領域へのアクセスが決定され得るアクセス場所の選択を提供し、前記基板はネットを形成し、前記ネットの開口が前記ウインドウを形成し、非放射線不透過性の材料を含む、基板;
複数の放射線不透過性マーカであって、前記複数の放射線不透過性マーカがX線画像内に可視であるように、前記基板に取り付けられる、複数の放射線不透過性マーカ;
前記体に対する前記基板の動きを防ぐよう前記体と接触して前記基板を固定するように前記基板に結合される固定機構;を有し、
前記ネットは、メッシュ部分を含み、前記複数の放射線不透過性マーカは前記メッシュ部分の各交差部に配置される、
手術用の基準装置。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の、平成29年10月11日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
体の外側部分に取り付けられるように構成されるウインドウのマトリックスを形成する基板であって、前記ウインドウは、そこから目標領域へのアクセスが決定され得るアクセス場所の選択を提供し、前記基板はネットを形成し、前記ネットの開口が前記ウインドウを形成する、基板;
複数の放射線不透過性マーカであって、前記複数の放射線不透過性マーカがX線画像内に可視であるように、前記基板の上面に取り付けられる、複数の放射線不透過性マーカ;
前記体に対する前記基板の動きを防ぐよう前記体と接触して前記基板を固定するように前記基板に結合される固定機構;を有し、
前記ネットは、メッシュ部分を含み、前記複数の放射線不透過性マーカは前記メッシュ部分の各交差部に配置される、
手術用の基準装置。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「放射線不透過性マーカが・・・基板の上面に取り付けられる」から「上面に」という発明特定事項の削除を含むものであるが、この発明特定事項の削除は、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるとはいえ、放射線不透過マーカが基板の上面以外、例えば、下面や内部に取り付けられる場合をも包含するように特許請求の範囲を拡張するものであるといえることから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当しない。
また、本件補正前の請求項1に記載された「基板の上面に取り付けられる」の内容は明りようであるといえ、また、「上面に」という発明特定事項の削除は平成30年3月12日付け拒絶査定(以下「原査定」という。)の拒絶の理由に示す事項についてするものでもないから、本件補正は、明りようでない記載の釈明を目的とするものにも該当しない。
さらに、本件補正は、請求項の削除及び誤記の訂正のいずれにも該当しないことは明らかである。
よって、本件補正は、特許法17条の2第5項各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当せず、同法17条の2第5項の規定に違反するものであるから、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下されるべきものである。


第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記第2のとおり却下されたので、本願の各請求項に係る発明は、平成29年10月11日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1ないし6に係る発明は、本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明に基いて、本願の優先権主張の日前にその発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:米国特許第03547121号明細書

3 引用文献及び引用発明
(1)原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、米国特許第03547121号明細書(1970年(昭和45年)12月15日公開。以下「引用文献」という。)には、図面とともに、次の記載がある。(日本語訳及び下線は、当審が付与したものである。)
ア 第1欄下から12行ないし第2欄12行
「As shown in FIG. 1, the instrument designed to aid in the localization of the fetal peritoneal cavity consists of a flexible stainless steel grid 2, 8 by 8 inches square, and subdivided into 1 by 1
inch squares 4. At points of intersection on the grid, enlarged portions or markers 6 are placed at specific locations for reference points to help localize the proper square for injection. The grid 2 is placed on the mother's abdomen 8 and is fastened at the four corners by tape 10. The grid is flexible and is placed to follow the contour of the maternal abdominal wall. The 1 by 1 inch squares allow easy manipulation within the squares for the subsequent intrauterine transfusion.
As shown in FIG. 2, the fetal bowel 12 has been opacified by the previous injection of an opacifying agent 16 into the amniotic fluid followed by the subsequent swallowing by the fetus 14 and concentration of the opacifying agent 16 in the fetal small bowel 12. An initial flat plate and lateral X-ray examinations are taken and then developed. The dye18 concentrated in the fetal small bowel 12 and its position in relation to the grid 2 can be readily ascertained in the X-ray photographs and the doctor can easily and accurately insert a needle 16 through the mother's abdomen near the navel, positioning it in the fetal peritoneum. An injection catheter is then inserted through the needle 16. The injection of concentrated cells is then performed.」
(図1に見られるように、胎児の腹腔の位置合わせを支援するようデザインされた器具は、8インチ四方で、1インチ四方の四角領域4に分割された柔軟なステンレス鋼のグリッド2からなっている。グリッド上の交差部には、拡大された部分またはマーカ6が、注入に適切な四角領域の位置づけを支援するための参考ポイントとして、特定の場所に配置されている。グリッド2は母体の腹部8の上に取り付けられており、テープ10によって四隅を留められている。1インチ四方の四角領域によって、その後に続く子宮内胎児に輸血するための四角領域内での作業を簡便に行うことができる。
図2に見られるように、胎児の腸12は羊水内への不透過剤16の事前注入によって不透過となり、胎児14による飲み込みと胎児の小腸内の不透過剤16の濃縮はその後も継続して起こる。初めの平板及び側部X線写真が撮影され、現像される。胎児の小腸12内に濃縮された造影剤18及びその造影剤とグリッド2との位置関係がX線写真の中で容易に特定され、医師は、ニードル16を胎児の腹膜に位置づけするよう、当該ニードル16を容易かつ正確に子宮近くの母体腹部から挿入することができる。そして、注入カテーテルがニードル16を通して挿入され、濃縮細胞の注入が行われる。)

イ 図1には、グリッド2が腹部8の表面に留められている点、グリッド2は四角領域4を有し、網目状部分を含む格子状構造を形成する点、複数のマーカ6がグリッド2の網目状部分のいくつかの交差部の上面に配置される点が、それぞれ図示されている。また、図2には、四角領域4はX線写真内で不可視であり、複数のマーカ6がX線写真内で可視である点が開示されている。

(2)上記(1)アの記載事項及び上記(1)イの図示事項から、引用文献には、次の技術的事項が記載されているといえる。
ア 上記(1)アの「器具は、8インチ四方で、1インチ四方の四角領域4に分割された柔軟なステンレス鋼のグリッド2からなっている。」との記載事項、上記(1)イの「グリッド2は四角領域4を有し、網目状部分を含む格子状構造を形成する」及び「四角領域4はX線写真内で不可視である」との図示事項、そして、ステンレス鋼はX線不透過なのでX線写真内では可視であるという技術常識を踏まえると、格子状構造の四角領域4が空間部を形成することは明らかである。
イ 上記(1)アの「胎児の小腸12内に濃縮された造影剤18及びその造影剤とグリッド2との位置関係がX線写真の中で容易に特定され、医師は、ニードル16を胎児の腹膜に位置づけするよう、当該ニードル16を容易かつ正確に子宮近くの母体腹部から挿入することができる。そして、注入カテーテルがニードル16を通して挿入され、濃縮細胞の注入が行われる。」との記載事項から、ニードル16は、グリッド2のうち空間部である四角領域4に対応する部分に位置づけられるものであることは技術常識からみて明らかであるから、四角領域4は、そこから胎児へ注入カテーテルが挿入されるためのニードルの位置の選択を提供するものであるといえる。
ウ 上記(1)イの「複数のマーカ6がX線写真内で可視である」という図示事項から、マーカ6はX線不透過性であることは明らかである。
エ 上記(1)アの「グリッド2は母体の腹部8の上に取り付けられており、テープ10によって四隅を留められている。」という記載事項から、テープ10は、腹部8に対するグリッド2の動きを防ぐよう前記腹部8と接触して前記グリッド2を固定するように前記グリッド2に結合されるものであることは明らかである。
オ 上記(1)アの「胎児のいる腹腔の位置合わせを支援するようデザインされた器具」及び「胎児の小腸12内に濃縮された造影剤18及びその造影剤とグリッド2との位置関係がX線写真の中で容易に特定され、医師は、ニードル16を胎児の腹膜に位置づけするよう、当該ニードル16を容易かつ正確に子宮近くの母体腹部から挿入することができる。そして、注入カテーテルがニードル16を通して挿入され、濃縮細胞の注入が行われる。」との記載事項から、器具は手術支援のためのものであることは明らかである。

(3)上記(1)及び(2)から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。
「腹部8の表面に留められるように構成される四角領域4を有するグリッド2であって、前記四角領域4は、そこから胎児へ注入カテーテルが挿入されるためのニードルの位置の選択を提供し、前記グリッド2は格子状構造を形成しており、前記格子状構造の空間部が前記四角領域4を形成した、グリッド2、
複数のX線不透過性のマーカ6であって、前記複数のマーカ6がX線写真内に可視であるように、前記グリッド2の上面に取り付けられる、複数のマーカ6、
前記腹部8に対する前記グリッド2の動きを防ぐよう前記腹部8と接触して前記グリッド2を固定するように前記グリッド2に結合されるテープ10、を有し、
前記格子状構造は、網目状部分を含み、前記複数のマーカ6は前記網目状部分のいくつかの交差部の上面に配置される、
手術支援のための器具。」

4 対比・判断
(1)本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「腹部8」は、その構造及び機能からみて、本願発明の「体」に相当し、以下同様に、「表面」は「外側部分」に、「留められる」は「取り付けられる」に、「四角領域4」は「ウインドウ」に、「グリッド2」は「マトリックスを形成する基板」に、「胎児」は「目標領域」に、「格子状構造」は「ネット」に、「空間部」が「開口」に、「X線不透過性のマーカ6」は「放射線不透過性マーカ」に、「X線写真」は「X線画像」に、「テープ10」は「固定機構」に、「網目状部分」は「メッシュ部分」に、「手術支援のための器具」は「手術用の基準装置」に、それぞれ相当する。
また、引用発明の「注入カテーテルが挿入されるニードルの位置の選択の提供」は、ニードルが注入カテーテルを体内にアクセスするための道具であり、当該ニードルの位置は注入カテーテルが体内にアクセスする場所であるといえることから、本願発明の「アクセスが決定され得るアクセス場所の選択の提供」に相当する。
さらに、引用発明の「いくつかの交差部の上面」と本願発明の「各交差部」とは、「交差部」である限りにおいて共通する。

(2)以上のことから、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
(一致点)
「体の外側部分に取り付けられるように構成されるウインドウのマトリックスを形成する基板であって、前記ウインドウは、そこから目標領域へのアクセスが決定され得るアクセス場所の選択を提供し、前記基板はネットを形成し、前記ネットの開口が前記ウインドウを形成する、基板;
複数の放射線不透過性マーカであって、前記複数の放射線不透過性マーカがX線画像内に可視であるように、前記基板の上面に取り付けられる、複数の放射線不透過性マーカ;
前記体に対する前記基板の動きを防ぐよう前記体と接触して前記基板を固定するように前記基板に結合される固定機構;を有し、
前記ネットは、メッシュ部分を含み、前記複数の放射線不透過性マーカは前記メッシュ部分の交差部に配置される、
手術用の基準装置。」

(相違点)
メッシュ部分の交差点のうち、複数の放射線不透過性マーカが配置される交差部について、本願発明においては、各交差部であるのに対して、引用発明においては、いくつかの交差部の上面である点。

(3)判断
以下、相違点について判断する。
引用発明のマーカ6は、上記3(1)のとおり、「注入に適切な四角領域の位置づけを支援するための参考ポイント」として配置されるものであることから、手術部位や体内へのアクセス場所を適切に判断できる場所であれば、四角領域を形成する格子状構造(網目状部分)の交差部のいずれの場所に配置しても構わないものであるといえ、例えば、ある特定の四角領域に係る交差部だけにしかマーカ6を配置しないとすることもできれば、治療対象となる可能性のあるすべての四角領域に係る交差部、すなわち各交差部にマーカ6を配置することもできるといえる。また、引用発明において、マーカ6を各交差部に設けるよう構成することが、明示的に排除されているともいえない。
してみると、引用発明において、マーカ6をグリッド2の網目状部分の各交差部に配置することは、必要に応じて定めることができる設計事項にすぎないというべきであり、当業者にとって何ら困難性はない。
そして、本願発明の奏する作用効果は、引用発明の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものであるとはいえない。

したがって、本願発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができないものである。


第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-09-19 
結審通知日 2019-09-24 
審決日 2019-10-07 
出願番号 特願2015-516737(P2015-516737)
審決分類 P 1 8・ 572- Z (A61B)
P 1 8・ 574- Z (A61B)
P 1 8・ 121- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮部 愛子  
特許庁審判長 内藤 真徳
特許庁審判官 沖田 孝裕
芦原 康裕
発明の名称 内視鏡低侵襲手術のための誘導切開計画  
代理人 伊東 忠重  
代理人 伊東 忠彦  
代理人 大貫 進介  

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