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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B62D
管理番号 1360038
審判番号 不服2019-2553  
総通号数 244 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-02-26 
確定日 2020-03-10 
事件の表示 特願2017-120115号「車両用操舵制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 1月10日出願公開、特開2019- 1425号,請求項の数(14)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成29年6月20日の出願であって,平成30年5月30日付けで拒絶理由が通知され,同年8月1日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がされたが,同年12月3日付けで拒絶査定(以下,「原査定」という。)がされ,これに対し,平成31年2月26日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。
本願の請求項1?14に係る発明は,以下の引用文献1-4に基いて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2006-264405号公報
2.特開2007-168588号公報
3.特開2010-95184号公報
4.特開2007-331622号公報

第3 本願発明
本願請求項1?14に係る発明(以下,「本願発明1」?「本願発明14」という。)は,平成31年2月26日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?14に記載された事項により特定される,以下のとおりの発明である。
「【請求項1】
車両が目標走行ラインに追従して走行するように,前記車両の転舵輪の操舵制御を行う車両用操舵制御装置であって,
前記車両の状態量を検出する車両状態量検出部と,
前記車両と前記目標走行ラインとの位置偏差を積分する積分制御部と,
前記車両が前記目標走行ラインに追従するために目指すべき前記車両の状態量である目標状態量と実際の前記車両の状態量との偏差に基づき,P制御またはPD制御によるフィードバック制御量を演算するフィードバック制御量演算部と,
前記積分制御部の積分値と前記フィードバック制御量とに基づき前記車両の操舵制御を行うための操舵制御量を演算する操舵制御量演算部と,
前記操舵制御量に基づき前記車両の転舵論の操舵制御を行う操舵制御実施部と,
前記車両に対する横方向の外乱を補償するための外乱補償値を推定する外乱補償値推定部と,を備え,
前記車両が前記操舵制御を受けずに走行する状態から前記操舵制御を受けて走行する状態に復帰する際,前記操舵制御量演算部は,前記積分値に代えて,前記車両が前記操舵制御を受けずに走行している間の前記車両の状態量である操舵角またはヨーレートのいずれかである前記外乱補償値に基づき前記操舵制御量を演算する,
車両用操舵制御装置。
【請求項2】
前記操舵制御を受けずに走行する状態とは,前記操舵制御実施部が前記操舵制御を行わない状態,またはドライバーオーバーライドの状態である,
請求項1に記載の車両用操舵制御装置。
【請求項3】
前記積分制御部は,前記車両の状態量に基づき前記積分を停止する,
請求項1又は2に記載の車両用操舵制御装置。
【請求項4】
前記車両の状態量は,前記車両の操舵トルクを含み,
前記積分制御部は,前記操舵トルクに基づき前記積分を停止する,
請求項3に記載の車両用操舵制御装置。
【請求項5】
前記外乱補償値推定部は,前記車両の状態量に基づき前記車両が安定状態か否かを判定し,前記車両が安定状態の場合の前記車両の状態量である操舵角またはヨーレートを前記外乱補償値とする,
請求項1から4のいずれか1項に記載の車両用操舵制御装置。
【請求項6】
前記外乱補償値推定部は,前記車両の操舵トルク,操舵角,操舵角速度,ヨーレート,横加速度,および進行方向と走行路がなす角,の少なくともいずれか一つに基づき,前記車両が安定状態か否かを判定する,
請求項5に記載の車両用操舵制御装置。
【請求項7】
前記外乱補償値推定部は,前記車両状態量に基づき前記車両が直進状態か否かを判定し,前記車両が安定状態かつ直進状態の場合の前記車両の状態量である操舵角またはヨーレートを前記外乱補償値とする,
請求項5または6に記載の車両用操舵制御装置。
【請求項8】
前記外乱補償値推定部は,前記車両の操舵トルク,操舵角,操舵角速度,ヨーレート,横加速度,進行方向と走行路がなす角,および走行路の曲率の少なくともいずれか一つに基づき,前記車両が直進状態か否かを判定する,
請求項7に記載の車両用操舵制御装置。
【請求項9】
前記車両の走行路の曲率情報に基づきフィードフォワード制御量を演算するフィードフォワード制御量演算部をさらに備え,
前記操舵制御量演算部は,前記積分制御部の積分値,前記フィードバック制御量,および前記フィードフォワード制御量に基づき前記操舵制御量を演算し,
前記外乱補償値推定部は,前記車両の状態量に基づき前記車両が安定状態か否かを判定し,前記車両が安定状態の場合の前記車両の状態量である操舵角またはヨーレートから前記フィードフォワード制御量を減算した値を前記外乱補償値とする,
請求項1から4のいずれか1項に記載の車両用操舵制御装置。
【請求項10】
前記外乱補償値推定部は,前記車両の操舵トルク,操舵角,操舵角速度,ヨーレート,横加速度,および進行方向と走行路がなす角の少なくともいずれか一つに基づき,前記車両が安定状態か否かを判定する,
請求項9に記載の車両用操舵制御装置。
【請求項11】
前記外乱補償値推定部は,前記車両の状態量に基づき前記車両が直進状態か否かを判定し,前記車両が安定状態かつ直進状態の場合の前記車両の状態量である操舵角またはヨーレートから前記フィードフォワード制御量を減算した値を前記外乱補償値とする,
請求項9または10に記載の車両用操舵制御装置。
【請求項12】
前記外乱補償値推定部は,前記車両の操舵トルク,操舵角,操舵角速度,ヨーレート,横加速度,進行方向と走行路がなす角,および走行路の曲率の少なくともいずれか一つに基づき,前記車両が直進状態か否かを判定する,
請求項11に記載の車両用操舵制御装置。
【請求項13】
前記操舵制御量は,前記車両の操舵角に関する制御量である,
請求項1から12のいずれか1項に記載の車両用操舵制御装置。
【請求項14】
前記操舵制御量は,前記車両のヨーレートに関する制御量である,
請求項1から12のいずれか1項に記載の車両用操舵制御装置。

第4 引用文献,引用発明等
(1)引用文献1
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には,図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審で付与した。以下同様。)。
・「【請求項1】
車両の走行車線を認識する走行車線認識手段と,
該走行車線認識手段による走行車線の認識結果に基づいて,走行車線の目標位置に対する車両位置のずれ量を位置偏差として算出する位置偏差算出手段と,
車両の操舵輪を操舵可能な操舵機構を駆動するアクチュエータと,
前記位置偏差を減少させるための前記アクチュエータの制御量である位置補正制御量を,前記位置偏差の積分演算により算出した積分制御量を用いて算出する位置補正制御量算出手段と,
前記位置補正制御量を用いて,前記アクチュエータの目標制御量を決定するアクチュエータ制御量決定手段とを備えた車両の操舵制御装置において,
前記積分演算において前記位置偏差に乗じられる積分ゲインを前記位置偏差に応じて決定する積分ゲイン決定処理と,前記積分制御量を,前記位置偏差に応じて設定した所定範囲内に制限する積分制御量制限処理とのうちの少なくとも何れか一方を実行する積分要素決定手段を備えたことを特徴とする車両の操舵制御装置。」
・「【技術分野】
【0001】
本発明は,道路上の走行車線を認識し,該走行車線に沿って車両が走行するように車両の操舵制御を行う車両の操舵制御装置に関する。」
・「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように,走行ラインの基準位置に対する車両の位置偏差を入力とする積分制御を行う場合,大きな外乱に対応するために,積分制御における積分ゲインを大きく設定すると,目標位置に静定する際にオーバーシュートや位相遅れが生じるという不都合がある。また,大きな外乱により走行ラインの基準位置に対する車両の位置の偏差が急激に増大し,積分制御により算出される積分制御量が過剰になった場合にも,目標位置に静定する際にオーバーシュートや位相遅れが生じるという不都合がある。
【0006】
そこで,本発明は,かかる不都合を解消し,積分制御により走行車線の基準位置に対する車両の位置偏差を減少させるように,操舵機構のアクチュエータの作動を制御する際に,目標位置に対して車両の位置のオーバーシュートや位相遅れが生じることを抑制した車両の操舵制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記目的を達成するためになされたものであり,車両の走行車線を認識する走行車線認識手段と,該走行車線認識手段による走行車線の認識結果に基づいて,走行車線の目標位置に対する車両位置のずれ量を位置偏差として算出する位置偏差算出手段と,車両の操舵輪を操舵可能な操舵機構を駆動するアクチュエータと,前記位置偏差を減少させるための前記アクチュエータの制御量である位置補正制御量を,前記位置偏差の積分演算により算出した積分制御量を用いて算出する位置補正制御量算出手段と,前記位置補正制御量を用いて,前記アクチュエータの目標制御量を決定するアクチュエータ制御量決定手段とを備えた車両の操舵制御装置の改良に関する。
【0008】
そして,前記積分演算において前記位置偏差に乗じられる積分ゲインを前記位置偏差に応じて決定する積分ゲイン決定処理と,前記積分制御量を,前記位置偏差に応じて設定した所定範囲内に制限する積分制御量制限処理とのうちの少なくとも何れか一方を実行する積分要素決定手段を備えたことを特徴とする(請求項1に対応)。
【0009】
かかる本発明によれば,前記積分要素決定手段は,前記積分ゲイン決定処理と前記積分制御量制限処理とのうちの少なくとのいずれか一方を実行する。そして,前記積分ゲイン決定処理においては,前記積分制御量の算出に用いられる積分ゲインを前記位置偏差に応じて決定することにより,例えば,前記位置偏差が大きい場合には積分ゲインを大きく設定して前記位置偏差を速やかに減少させることができる。また,前記位置偏差が小さくなったときには積分ゲインを小さくすることで,車両の位置が目標位置に収束する際に,オーバーシュートや位相遅れが生じることを抑制することができる。また,前記積分制御量制限処理においては,前記積分制御量を前記位置偏差の大きさに応じて設定した所定範囲内に制限することで,例えば微小な位置偏差が継続的に生じて位置偏差の積分値が次第に大きくなったときに,前記積分制御量が過剰に大きくなって前記アクチュエータの出力が増大し,車両の位置が目標位置に収束する際にオーバーシュートや位相遅れが生じることを抑制することができる。」
・「【0039】
ステアリングボックス14内には,ピニオン15aに作用する操舵トルクTd,すなわち運転者の手動操作によりステアリングホイール11から入力される操舵トルクTdを検出するトルクセンサ22(本発明のトルク検出手段及び操作状況検出手段に相当する)が設けられている。トルクセンサ22による操舵トルクTdの検出信号は,LKAS(Lane Keeping Assistance System)制御装置2及びEPS(Electronic Power Steering)制御装置3に入力されている。
【0040】
LKAS制御装置2は,車両の進行方向の道路の車線に沿って車両を走行させるために必要となるモータ20の出力トルクのアシスト量を,種々の条件下で算出する。そして,このアシスト量をモータ20に出力させるためのトルク指令として,操舵アシストトルクTsをEPS制御装置3に出力する。
【0041】
LKAS制御装置2には,トルクセンサ22による操舵トルクTdの検出信号の他に,後述する画像処理装置31から出力される走行区分線の情報と,車両重心の鉛直(重力)軸周りのヨーレート(回転角速度)を検出するヨーレートセンサ32(本発明のヨーレート検出手段に相当する)の検出信号と,ステアリング軸12に設けられたロータリーエンコーダ等により運転者の操作による操舵角度の方向と大きさを検出する舵角センサ33の検出信号と,車輪の回転速度を検出する車速センサ34(本発明の車速検出手段に相当する)の検出信号が入力される。
【0042】
さらに,LKAS制御装置2には,ターンシグナルSW40から出力されるターンシグナルのON/OFF信号,ブレーキSW41から出力されるブレーキのON/OFF信号,ワイパーSW42から出力されるワイパーのON/OFF信号,及びメインSW43から出力されるLKAS制御装置2の作動/停止を指示する信号が入力される。
【0043】
そして,LKAS制御装置2は,例えばターンシグナルSW40からターンシグナルのON信号が入力されている場合,ブレーキSW41からブレーキON信号が入力されている場合,ワイパーSW42からワイパーON信号が入力されている場合,メインSW43からLKAS制御装置2の停止を指示する信号が入力されて場合,及びLKAS制御装置2による走行区分線の認識が不能である場合に,EPS制御装置3に対するアシストトルクTsの出力を停止するように設定されている。
【0044】
さらに,LKAS制御装置2には,例えば警報音や音声メッセージ等を出力するスピーカや,警報表示を行うディスプレイ等を有する警報装置44が接続され,車両が走行車線から逸脱した場合等に警報を出力するように設定されている。
【0045】
次に,EPS制御装置3は,車両の走行状態に応じた操舵トルクTdのアシスト量をモータ20に出力するためのモータ駆動電流を出力する。そのため,EPS制御装置3には,LKAS制御装置2から出力される操舵アシストトルクTs及びトルクセンサ22による操舵トルクTdの検出信号に加えて,モータ20の通電電流を検出するモータ電流センサ35の検出信号(モータ電流)IMと,モータ20の通電電圧を検出するモータ電圧センサ36の検出信号(モータ電圧)VMとが入力されている。」
【0046】
EPS制御装置3は,EPS制御モードにおいては,トルクセンサ22により検出される操舵トルクTdに応じて,該操舵トルクTdを補助する補助するパワーステアリング用のアシスト量を算出する。そして,このアシスト量をモータ20に出力させるためのトルク
指令として,パワーステアリングトルクTeを算出する。
【0047】
そして,後述するように,EPS制御モードにおいて,EPS制御装置3は,操舵トルクTdに応じた所定の制御比率De(例えば,100%以下の所定値)を設定し,この制御比率DeをパワーステアリングトルクTeに乗じたTe'を,新たなパワーステアリングトルクとして設定する。
【0048】
また,EPS制御装置3は,LKAS制御モードにおいては,トルクセンサ22で検出された操舵トルクTdに応じた所定の制御比率Ds(例えば,100%以下の所定値)を設定し,この制御比率Dsを操舵アシストトルクTsに乗じたTs'を,新たな操舵アシストトルクとして設定する。
【0049】
そして,EPS制御装置3は,EPS制御モードにおけるパワーステアリングトルクTe'と,LKAS制御モードにおける操舵アシストトルクTs'とを加算して,アシストトルクTa(本発明のアクチュエータの目標制御量に相当する)を算出し,モータ駆動回路(図示しない)を介して,このアシストトルクTaを発生させるためのモータ駆動電流を出力する。なお,このようにして,EPS制御手段3がアシストトルクTaを算出する機能が,本発明のアクチュエータ制御量決定手段に相当する。
【0050】
また,画像処理装置31は,車両に設けられたカメラ30により撮像される車両前方の画像データを入力する。そして,該画像データに基づいて走行車線を区分する走行車線区分線(白線)を認識する。このとき,画像処理装置31は,図2に示したように,走行車線の適宜の位置において走行車線の中心線Ycの旋回半径Rから走行車線の曲率1/Rを算出する。
【0051】
さらに,画像処理装置31は,車両5の現在位置を原点とし,車両5の進行方向をX軸とし,X軸に直行する方向(車両の幅方向)をY軸とする相対座標系を設定し,Y軸上における車両5の現在位置から走行車線の中心線Ycまでの距離(横ずれ量)Ydを,位置偏差として算出する。また,走行車線の中心線YcとY軸との交点位置における中心線Ycの接線aとのなす角(車両偏向角)Ahを角度偏差として算出する。なお,カメラ30と画像処理装置31とにより,本発明の走行車線認識手段が構成される。
【0052】
次に,図3を参照して,LKAS制御装置2及びEPS制御装置の動作について説明する。LKAS制御装置2は,FF(Feed Forward)制御部50,FB(Feed Back)制御部60,及び加算部65からなる。そして,画像処理装置31により算出された曲率1/RがFF制御部50に入力され,FF制御部50はフィードフォワード制御により基本操舵アシストトルクTfを算出する。また,画像処理装置31により算出された角度偏差Ahと位置偏差YdがFB制御部60に入力され,FB制御部60はフィードバック制御により補正操舵アシストトルクTbを算出する。」
・「【0056】
リミット値設定部80は,モータ20に供給されるモータ駆動電流或いは操舵アシストトルクTsに対するリミット値を設定する。第1制御ゲイン演算部81は,操舵アシストトルクTsに所定の第1制御ゲインKfを乗じた値を,新たな操舵アシストトルクTsとしてLKAS制御比率算出部82に出力する。
【0057】
LKAS制御比率算出部82は,トルクセンサ22により検出された操舵トルクTdを入力して制御比率Dsを出力するマップ87により,操舵トルクTdに応じた制御比率Dsを決定し,該制御比率Dsを操舵アシストトルクTsに乗じた値を,新たな操舵アシストトルクTs'として加算部84に出力する。
【0058】
ここで,マップ87においては,操舵トルクTdが所定の第1トルク#T1以下の場合は,制御比率Ds=100とされ,操舵トルクTdが第1トルク#T1以上且つ所定の第2トルク#T2以下の場合は制御比率Dsが次第に減少し,操舵トルクTdが第2トルク#T2以上の場合は,制御比率Ds=0%とされている。」
・「【0062】
次に,図4を参照して,LKAS制御装置3の具体的な構成について説明する。FF制御部50は,曲率1/Rに所定のFFゲインKfを乗じて基本操舵アシストトルクTfを算出する。また,FB制御部60は,積分演算部61,積分ゲイン演算部62,積分制御量制限部63,積分要素決定部64,比例ゲイン演算部66,微分ゲイン演算部67,角度ゲイン演算部67,微分演算部68,及び微分ゲイン演算部69を備えている。
【0063】
積分要素決定部64は,積分ゲインKiを位置偏差Ydに基づいて決定するためのマップ70と,積分制御量Icntの出力を所定範囲内に制限するための制限値Icnt_lmtを位置偏差Ydに基づいて決定するためのマップ71とを備えている。そして,積分要素決定部64は,マップ70により積分ゲインKiを決定する「積分ゲイン決定処理」を実行する。
【0064】
また,積分要素決定部64と積分制御量制限部63とにより,積分要素決定部64がマップ71により制限値Icnt_lmtを決定し,積分制御量制限部63が該制限値Icnt_lmtに基づいて積分制御量Icntを制限する「積分制御量制限処理」が実行される。なお,積分
要素決定部64と積分制御量制限部63とにより,本発明の積分要素決定手段が構成される。
【0065】
ここで,マップ70においては,位置偏差Ydが大きくなるほど積分ゲインKiが大きくなるように設定されている(図中α1,α2)。そのため,位置偏差Ydが大きいとき,すなわち,走行車線の中心線Yc(図2参照)に対する車両のずれ量が大きいときは,積分ゲインKiが大きくなる。これにより,算出される積分制御量Icntが大きくなってLKAS制御装置2から出力される操舵アシストトルクTsが大きくなるため,モータ20の出力トルクが増大し,車両を速やかに中心線Ycに近づけることができる。
【0066】
一方,位置偏差Ydが小さいときは,積分ゲインKiが小さくなる。これにより,算出される積分制御量Icntが小さくなってLKAS制御装置2から出力される操舵アシストトルクTsが小さくなるため,モータ20の出力トルクが減少する。そのため,車両の位置が中心線Ycに接近して静定する際に,モータ20の過剰な出力により,オーバーシュートや位相遅れが生じることを抑制することができる。
【0067】
さらに,マップ70においては,位置偏差Ydの絶対値が同じである場合,位置偏差Ydが正(0<Yd,図2を参照して,中心線Ycに対して車両5の位置が右側にずれている状態)であるときの積分ゲインKiが,位置偏差Ydが負(Yd<0,図2を参照して,中心線Ycに対して車両5の位置が左側にずれている状態)であるときの積分ゲインYiよりも大きくなるように設定されている。
【0068】
これは,走行車線が幅方向の左側から右側に向かって傾斜している場合に対応したものであり,位置偏差Ydが正であるとき(車両が中心線Ycの右側にずれているとき)は,走行車線の傾きが車両を中心線Ycから離反する方向に作用するため,積分ゲインKiを大きくして操舵アシストトルクTsを増大させ,これによりモータ20の出力トルクを増大させて,車両位置を速やかに中心線Ycに接近させるようにしている。
【0069】
一方,位置偏差Ydが負であるとき(車両が中心線Ycの左側にずれているとき)は,走行車線の傾きが車両を中心線Ycに接近させる方向に作用するため,積分ゲインKiを小さくして操舵トルクTsを減少させ,これによりモータ20の出力トルクを減少させて,車両位置が中心位置Ycに静定する際に,モータ20の過剰な出力により,オーバーシュートや位相遅れが生じることを抑制している。
【0070】
また,マップ71においては,位置偏差Ydに応じて積分制御量Icntの正及び負の2点(図中β1上とβ2上)の制限値Icnt_lmtが定まる。そして,積分制御量制限部63は,この2点の制限値Icnt_lmtにより設定される範囲(負のIcnt_lmt≦Icnt≦正のIcnt_lmt,本発明の所定範囲に相当する)内に,積分制御量を制限して出力する。
【0071】
そして,マップ71においては,位置偏差Ydが大きくなるほど,積分制限量Icntの制限値Icnt_lmtが大きくなるように設定されている。そのため,位置偏差Ydが大きいとき,すなわち,走行車線の中心線Yc(図2参照)に対する車両のずれ量が大きいときは,積分制御量Icntの制限範囲が広がり,積分制御量制限部63から出力される積分制御量Icnt_relが大きくなってLKAS制御装置2から出力される操舵アシストトルクTsが大きくなる。これにより,モータ20の出力トルクが増大するため,車両を中心線Ycに速やかに収束させることができる。
【0072】
一方,位置偏差Ydが小さいとき,すなわち,走行車線の中心線Ycに対する車両の位置ずれが小さいときは,積分制御量Icntの制限範囲が狭まり,積分制御量制限部63から出力される積分制御量Icnt_relが小さくなる。そのため,LKAS制御部60から出力
される操舵アシストトルクTsが減少し,モータ20の出力トルクが減少する。これにより,車両の位置が中心線Ycに接近して静定する際に,モータ20の過剰な出力により,オーバーシュートや位相遅れが生じることを抑制することができる。
【0073】
さらに,マップ71においては,位置偏差Ydの絶対値があるレベルを超えると,位置偏差Ydの絶対値が同じである場合に,位置偏差Ydが正(0<Yd,図2を参照して,中心線Ycに対して車両5の位置が右側にずれている状態)であるときの積分制御量Icntの設定範囲(負のIcnt_lmt≦Icnt≦正のIcnt_lmt)が,位置偏差Ydが負(Yd<0,図2を参照して,中心線Ycに対して車両5の位置が左側にずれている状態)であるときの積分制御量Icntの設定範囲よりも広くなるように設定されている。
【0074】
これは,マップ70と同様に,走行車線が幅方向の左側から右側に向かって傾斜している場合に対応したものであり,位置偏差Ydが正であるとき(車両が中心線Ycの右側にずれているとき)は,走行車線の傾きが車両を中心線Ycから離反させる方向に作用するため,積分制御量Icntの設定範囲を広くして操舵アシストトルクTsを増大させ,これによりモータ20の出力トルクを増大させて,車両位置を速やかに中心線Ycに接近するようにしている。
【0075】
一方,位置偏差Ydが負であるとき(車両が中心線Ycの左側にずれているときは,走行車線の傾きが車両を中心線Ycに接近させる方向に作用するため,積分制御量Icntの設定範囲を狭くして操舵トルクTsを減少させ,これによりモータ20の出力トルクを減少させて,車両位置が中心位置Ycに静定する際に,モータ20の過剰な出力により,オーバーシュートや位相遅れが生じることを抑制している。
【0076】
FB制御部60は,図5に示したフローチャートに従って積分制御量Icnt_relを算出する。先ず,STEP1で,FB制御部60は車両の位置偏差Ydの現在値を取得し,続くSTEP2で,積分要素決定部64により,マップ70の検索処理によって積分ゲインKiを決定する。そして,STEP3で,積分ゲイン演算部62により位置偏差Ydに積分ゲインKiを乗じ,積分演算部61により積分制御量の前回値(前回の制御サイクルにおいて算出された積分制御量Icnt_rel)Icnt_preを加算して,今回の積分制御量Icnt_relを算出する。
【0077】
次のSTEP4で,FB制御部60は,積分要素決定部64により,マップ71の検索処理によって積分制御量Icntの制限値Icnt_lmtを決定する。この場合,Icnt_lmtは,正(図中β1上)及び負(図中β2上)の2点が決定される。
【0078】
そして,続くSTEP5で,FB制御部60は,積分制御量制限部63により,積分制御量をIcnt_lmtにより設定される範囲内(負側のIcnt_lmt≦Icnt≦正側のIcnt_lmt)に制限して,今回の積分制御量Icnt_relを決定する。
【0079】
また,FB制御部60は,比例ゲイン演算部により,位置偏差Ydに所定の比例ゲインKpを乗じて比例制御量Pcntを算出する。さらに,FB制御部60は,角度ゲイン演算部67により角度偏差Ahに角度ゲインKdを乗じて角度制御量Dcntを算出し,微分演算部68により角度偏差Ahを微分した値に,微分ゲイン演算部69により微分ゲインKddを乗じて角度微分制御量Ddcntを算出する。
【0080】
FB制御部60は,加減算部72により,このようにして算出した積分制御量Icnt_relと比例制御量Pcntと角度制御量Dcntとを加算し,角度微分制御量Ddcntを減算して,補正操舵アシストトルクTbを算出する。なお,積分制御量Icnt_relと比例制御量Pcntとの加算値が本発明の位置補正制御量に相当し,角度制御量Dcntが本発明の角度補正制
御量に相当する。
【0081】
そして,LKAS制御装置23は,加算部65により,FF制御部50により選出された基本操舵アシストトルクTfと,FB制御60により算出された補正操舵アシストトルクTbとを加算して,操舵アシストトルクTsを算出する。」

・図4には,以下の図面が図示されている。

これらの記載事項からみて,引用文献1には,以下の発明(以下,「引用発明1」又は「引用文献1に記載された事項」という。)が記載されていると認められる。
「道路上の走行車線を認識し,該走行車線に沿って車両が走行するように車両の操舵制御を行う車両の操舵制御装置であって,
車両に設けられたカメラ30により撮像される車両前方の画像データを入力し,該画像データに基づいて走行車線を区分する走行車線区分線(白線)を認識し,車両5の現在位置を原点とし,車両5の進行方向をX軸とし,X軸に直行する方向(車両の幅方向)をY軸とする相対座標系を設定し,Y軸上における車両5の現在位置から走行車線の中心線Ycまでの距離(横ずれ量)Ydを,位置偏差として算出し,走行車線の中心線YcとY軸との交点位置における中心線Ycの接線aとのなす角(車両偏向角)Ahを角度偏差として算出する,画像処理装置31と,
車両の位置偏差Ydの現在値を取得し,積分要素決定部64により,マップ70の検索処理によって積分ゲインKiを決定し,積分制御量制限部63により,積分制御量をIcnt_lmtにより設定される範囲内(負側のIcnt_lmt≦Icnt≦正側のIcnt_lmt)に制限して,今回の積分制御量Icnt_relを決定するFB制御部60と,
比例ゲイン演算部により,位置偏差Ydに所定の比例ゲインKpを乗じて比例制御量Pcntを算出し,角度ゲイン演算部67により角度偏差Ahに角度ゲインKdを乗じて角度制御量Dcntを算出し,微分演算部68により角度偏差Ahを微分した値に,微分ゲイン演算部69により微分ゲインKddを乗じて角度微分制御量Ddcntを算出するFB制御部60と,
加減算部72により,このようにして算出した積分制御量Icnt_relと比例制御量Pcntと角度制御量Dcntとを加算し,角度微分制御量Ddcntを減算して,補正操舵アシストトルクTbを算出するFB制御部60と,
加算部65により,FF制御部50により選出された基本操舵アシストトルクTfと,FB制御60により算出された補正操舵アシストトルクTbとを加算して,操舵アシストトルクTsを算出するLKAS制御装置と,
EPS制御モードにおけるパワーステアリングトルクTe'と,LKAS制御モードにおける操舵アシストトルクTs'とを加算して,アシストトルクTa(本発明のアクチュエータの目標制御量に相当する)を算出し,モータ駆動回路を介して,このアシストトルクTaを発生させるためのモータ駆動電流を出力する,EPS制御装置3と,
走行車線が幅方向の左側から右側に向かって傾斜している場合に対応したものであり,位置偏差Ydが正であるとき(車両が中心線Ycの右側にずれているとき)は,走行車線の傾きが車両を中心線Ycから離反する方向に作用するため,積分ゲインKiを大きくして操舵アシストトルクTsを増大させ,位置偏差Ydが負であるとき(車両が中心線Ycの左側にずれているとき)は,走行車線の傾きが車両を中心線Ycに接近させる方向に作用するため,積分ゲインKiを小さくして操舵トルクTsを減少させ,
ターンシグナルのON信号が入力されている場合,ブレーキON信号が入力されている場合,ワイパーON信号が入力されている場合,メインSW43からLKAS制御装置2の停止を指示する信号が入力されて場合,及びLKAS制御装置2による走行区分線の認識が不能である場合に,EPS制御装置3に対するアシストトルクTsの出力を停止する,LKAS制御装置2と,
を備える車両の操舵制御装置。」

(2)引用文献2
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には,図面とともに次の事項が記載されている。
・「【請求項1】
自車両の走行路を検出する走行路検出手段を備え,前記走行路検出手段で検出された走行路に沿って前記自車両が走行するように,操舵機構に操舵を付与する操舵装置において,
前記走行路に設定された所定位置に対する自車両の偏差を積分する積分手段と,
前記積分手段で積分された前記偏差の積分値に基づいて,前記操舵機構に付与する付与操舵を設定する付与操舵設定手段と,を備え,
前記積分手段は,前記偏差を積分するに当たり,所定位置からの偏差が予め設定されたしきい値よりも大きい場合に,前記偏差の積分を行うことを特徴とする操舵装置。」
・「【技術分野】
【0001】
本発明は,走行レーンに沿った走行を支援するため,適切な操舵トルクを付与する操舵・装置に関する。」
・「【0013】
図1に示すように,本実施形態の操舵装置を備えた車両(自車両)1は,電子制御ユニット(ECU:Electrical Control Unit)2を備えており,ECU2によって車両挙動制御(車線維持制御)が実行される。ECU2は,後に説明するトルク演算器22,不感帯設定手段23,および積分手段24を備えており,本発明の付与操舵設定手段および積分手段を構成する。車両1は,ステアリングホイール3を備えている。ステアリングホイール3は,車両1の車室内に配設されており,運転者によって操作されることで転舵輪(ここでは左右前輪FR,FL)を転舵させる。ステアリングホイール3は,ステアリングシャフト4の一端に固定されている。ステアリングシャフト4は,ステアリングホイール3の回転に伴って回転する。」
・「【0015】
また,図2に示すように,前方を撮像するCCDカメラ8が,ルームミラーに内蔵されている。CCDカメラ8は,車両1のフロントウィンドウ30越しに前方の所定領域内の周辺状況を撮影する。具体的には,道路50の車両1が走行している走行レーン51の周囲の状況の動画像を撮影する。このCCDカメラ8には,画像処理部9が接続されている。CCDカメラ8が撮影した周辺状況の画像データは,画像処理部9に供給される。画像処理部9は,CCDカメラ8による画像データを画像処理し,車両1が走行する道路上に描かれた道路区画線(以下,「白線」と称する。)などを基に走行レーン(走行経路=車線)を検出する。撮像した画像や映像内では,路面とその上に描かれた白線との輝度差が大きいことから,走行レーンを区画する白線はエッジ検出等によって比較的検出しやすく,車両前方の車線を検出するのに都合がいい。CCDカメラ8は,車両の走行路を検出する走行路検出手段として機能する。
【0016】
画像処理部9は,上述したECU2に接続されている。画像処理部9は,検出した車線に基づいて,図3に示されるように,前方走行経路のカーブ曲率(χ=1/R)や,車線に対する車両1のオフセット距離Dおよびヨー角θを演算によって検出し,結果をECU2に送出する。
【0017】
ここで,オフセット距離Dは,車両の前後方向の中心軸1aと走行レーン51の中心線51cの車両重心位置における接線51aとの横ずれ量に相当し,本発明の所定位置に対する自車両の偏差を意味する。このように,本実施形態では,所定位置が走行レーン51の中心線51cに設定されるが,所定位置は走行レーンによって特定される位置であれば中心線ではなく,たとえば外縁線などとすることもできる。また,ヨー角は,車両の前後方向の中心軸1aと走行レーン51の中心線51cの車両重心位置における接線51aとのなす角度に相当する。
【0018】
なお,カーブ曲率,オフセット距離D,ヨー角θはいずれも正負いずれの値も取ることがあり,符号は方向,向きを示す。画像に基づいて,前方走行経路の各種情報量(カーブ曲率χや自車のオフセット距離D・ヨー角θ)を検出する方法は,公知の方法を用いることができる。
【0019】
ECU2には,舵角センサ10および車速センサ11も接続されている。舵角センサ10は,ステアリングホイール3の操舵角に応じた信号を出力する。また,車速センサ11は,各車輪に取り付けられた車輪速センサであり車両1の速度に応じた周期でパルス信号を発生する。車速センサ11は,車速検出手段として機能している。なお,車速検出手段として車体前後加速度を検出するセンサを取り付け,この出力を時間積分することで車速を得るようにすることも可能である。舵角センサ10の出力信号および車速センサ11の出力信号は,それぞれECU2に供給されている。ECU2は,舵角センサ10の出力信号に基づいてステア角を検出するとともに,車速センサ11の出力信号に基づいて車速を検出する。
【0020】
また,ECU2には,ヨーレートセンサ12やナビゲーションシステム13も接続されている。ヨーレートセンサ12は,車両1の重心近傍に配置され,重心鉛直軸回りのヨー
レートを検出し,検出結果をECU2に送出する。また,ナビゲーションシステム13は,GPS等を利用して車両1の位置を検出するための装置である。ナビゲーションシステム13は,車両1前方のカーブ曲率(χ)や勾配等の状況を検知する機能をも有している。ECU2は,ナビゲーションシステム13を用いて車両1の位置および走行すると予想される道路の状況を把握する。
【0021】
さらに,ECU2には,モータドライバ14も接続されている。モータドライバ14は,上述したステアリングギヤボックス5に配設されたモータ(アクチュエータ)15が接続されている。図示されていないが,ラックバー6の一部外周面にはボールスクリュー溝が形成されており,モータ15のロータにはこのボールスクリュー溝に対応するボールスクリュー溝を内周面上に有するボールナットが固定されている。一対のボールスクリュー溝の間には複数のベアリングボールが収納されており,モータ15を駆動させるとロータが回転してラックバー6の軸方向の移動,すなわち,転舵をアシストすることができる。」
・「【0024】
次に,本実施形態における操舵制御について説明する。図4は,操舵支援制御の動作を示すブロック図である。
【0025】
図4に示すように,まず,CCDカメラ8によって,車両1の前方状況を撮像し(図2右下),撮像した画像に基づいて画像処理部9によって,走行レーン51の状況(カーブ曲率χ)と,車両1のオフセット距離Dおよびヨー角θとが算出される。なお,カーブ曲率χは,撮像された画像から前方カーブの曲率Rを幾何学的に求め,この逆数(1/R)を取ることで求められる。幾何学的な求め方としては,車両1の所定距離前方における白線の横方向への偏位量や車両1の所定距離前方における白線の接線の傾きを参照して行えばよい。
【0026】
また,走行経路に対して目標となるオフセットやヨー角は,目標オフセット距離D_(0)および目標ヨー角θ_(0)として予め決定されている。
【0027】
モータドライバ14への制御量の算出にあたっては,制御量となるヨーレートωを算出する必要がある。このヨーレートωは,カーブ曲率χに基づくヨーレートω_(r)にオフセット距離Dを補償するヨーレートω_(d)とヨー角θを補償するヨーレートω_(θ)を合算したものとして求められる。
【0028】
まず,車両1前方のカーブ曲率χに基づいて,車両1をこのカーブに沿って走行させるために必要なヨーレートω_(r)を求める。このヨーレートω_(r)は,フィードフォワードコントローラ(F/Fコントローラ)21によって,入力されたカーブ曲率χから所定の特性に基づいて算出される。この所定の特性は,たとえば,マップ形式でECU2内に格納しておき,カーブ曲率χに基づいて必要なヨーレートω_(r)を読み出す形式で求めるとよい。あるいは,ECU2内に格納したプログラム内に関数形式で記述しておき,カーブ曲率χに基づいて必要なヨーレートω_(r)を算出すればよい。
【0029】
ヨー角θを補償する(目標に収束させる)ために必要となるヨーレートω_(θ)は,ヨー角θと目標ヨー角θ_(0)との偏差(θ_(0)-θ)に係数Kθをかけて算出される。
【0030】
一方,オフセット距離Dを補償する(目標値に収束させる)ために必要となるヨーレートω_(d)については,以下のようにして算出する。まず,オフセット距離Dと目標オフセット距離D_(0)との偏差(D_(0)-D)を求め,これを不感帯設定手段23へと入力する。また,不感帯設定手段23へは,車速も入力される。不感帯設定手段23では,車速に応じたオフセット距離Dと目標オフセット距離D_(0)との偏差(D_(0)-D)の不感帯を設定し,この不感帯の最大値Lをしきい値として,オフセット距離Dと目標オフセット距離D0との偏差(D_(0)-D)がしきい値Lを超える場合,オフセット距離Dと目標オフセット距離D_(0)との偏差(D_(0)-D)からしきい値Lを減じた値(D_(0)-D-L)をオフセット偏差D′として積分手段24へと出力する。また,オフセット距離Dと目標オフセット距離D0との偏差(D_(0)-D)がしきい値L以下の場合には,オフセット偏差D′を0とする。積分手段24では,不感帯設定手段23から出力されたオフセット偏差D′に所定の係数K_(d)を乗じてオフセット距離Dを補償するヨーレートω_(d)が算出される。このように,オフセット偏差D′を設定するにあたり,不感帯を設定し,不感帯の最大値をしきい値としている。このため,オフセット距離Dと目標オフセット距離D_(0)との偏差(D_(0)-D)が不感帯の領域内にある場合には,偏差の積分が行われない。したがって,走行路に対する自車両の偏差が小さい場合には,偏差の積分が行われないので,自車両が走行路からオフセットした位置を走行した場合における操舵制御によるドライバに対する反力の発生を防止することができる。
【0031】
こうして算出された3つのヨーレートを合算することで,目標ヨーレートωが算出される。この目標ヨーレートωは,車速センサ11によって検出された車速Vを用いて目標横加速度Gに変換され,トルク演算器22によって,この目標横加速度Gを発生させるために必要な,転舵量=モータ15の駆動トルク(付与操舵に対応するトルク)Tが算出される。
【0032】
ECU2は,求めた駆動トルクTに応じて,モータドライバ14に指示して,モータ15を駆動せしめる。その結果,左右前輪FR,FLが転舵され,車両1は車線を維持すべく旋回される。車両1が旋回すると,再度CCDカメラ8によって前方の状況が撮像され,上述したことが繰り返される。」

・図4には,以下の内容が図示されている。

【図4】


これらの記載事項からみて,引用文献2には,以下の発明(以下,「引用発明2」又は「引用文献2に記載された事項」という。)が記載されていると認められる。
「自車両の走行路を検出する走行路検出手段を備え,前記走行路検出手段で検出された走行路に沿って前記自車両が走行するように,操舵機構に操舵を付与する操舵装置であって,
車両1の前方状況を撮像するCCDカメラ8と,撮像した画像に基づいて,走行レーン51の状況(カーブ曲率χ)と,車両の前後方向の中心軸1aと走行レーン51の中心線51cの車両重心位置における接線51aとの横ずれ量に相当するオフセット距離Dおよび車両の前後方向の中心軸1aと走行レーン51の中心線51cの車両重心位置における接線51aとのなす角度に相当するヨー角θを算出する画像処理部9と,
オフセット距離Dと目標オフセット距離D_(0)との偏差(D_(0)-D)を求め,これを不感帯設定手段23へと入力し,不感帯設定手段23から出力されたオフセット偏差D′に所定の係数K_(d)を乗じてオフセット距離Dを補償するヨーレートω_(d)を算出する積分手段24と,
ヨー角θを補償する(目標に収束させる)ために必要となるヨーレートω_(θ)は,ヨー角θと目標ヨー角θ_(0)との偏差(θ_(0)-θ)に係数K_(θ)をかけて算出され,
車両1をこのカーブに沿って走行させるために必要なヨーレートωrは,フィードフォワードコントローラ(F/Fコントローラ)21によって,入力されたカーブ曲率χから所定の特性に基づいて算出され,
算出された3つのヨーレートを合算することで,目標ヨーレートωが算出され,この目標ヨーレートωは,車速センサ11によって検出された車速Vを用いて目標横加速度Gに変換され,トルク演算器22によって,この目標横加速度Gを発生させるために必要な,転舵量=モータ15の駆動トルク(付与操舵に対応するトルク)Tが算出され,
求めた駆動トルクTに応じて,モータドライバ14に指示して,モータ15を駆動せしめ,左右前輪FR,FLが転舵され,車両1は車線を維持すべく旋回される,
操舵装置。」

(3)引用文献3
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3には,図面とともに次の事項が記載されている。
・「【請求項1】
車両の周囲における走行ラインに関する走行ライン情報を含む車両周囲情報を検出する車両情報検出手段と,前記車両周囲情報に基づいて,前記走行ラインに沿って前記車両を走行させるために操舵手段を操舵制御する操舵制御手段と,を備える操舵支援装置において,
前記操舵制御を中断した後に前記操舵制御を再開する場合に,前記操舵制御の中断の前後で前記車両が走行する走行ラインが共通の走行ラインを持続するか否かを判断する共通走行ライン判断手段と,
前記車両が走行する走行ラインが共通の走行ラインを持続すると判断した場合に,前記操舵制御の中断前の車両位置に基づく操舵制御を継続すると判定する操舵制御継続判定手段と,
前記車両が走行する走行ラインが,左側通行であるか右側通行であるかを判定する通行方向判定手段と,
前記車両が走行する走行ラインにおけるロードキャンバの傾斜方向を検出するロードキャンバ傾斜方向検出手段と,
前記通行方向判定手段の判定結果および前記ロードキャンバ傾斜方向検出手段の検出結果に基づいて,前記共通走行ライン判断手段における判断基準を調整する判断基準調整手段と,
を備えることを特徴とする操舵支援装置。
【請求項2】
前記判断基準調整手段は,前記通行方向判定手段によって判定された通行方向と,前記ロードキャンバ傾斜方向検出手段で検出されたロードキャンバの下り方向とが一致する場合に,前記共通の走行ラインを持続すると判断する判断基準を緩和する請求項1に記載の操舵支援装置。」
・「【技術分野】
【0001】
本発明は,操舵支援装置に係り,特に,車両が走行中に車線を逸脱することを防止するための操舵支援装置に関する。」
・「【0005】
そこで,本発明の課題は,操舵支援を中断した後に再開するにあたり,中断前の情報を有効に活用できるようにすることにより,精度のよい操舵支援を行うことができる操舵支援装置を提供することにある。」
・「【0025】
中断判定部12は,車線維持制御を中断するか否かの判断をいっている。ここで,車線維持制御を中断すると判断した場合には,中断信号を目標操舵トルク算出部14に出力する。また,車線維持制御を再開すると判断した場合には,再開信号を目標操舵トルク算出部14に出力する。」
・「【0027】
目標操舵トルク算出部14は,車線維持制御を行うための目標操舵トルクを算出し,算出した目標操舵トルクをアクチュエータ制御部15に出力する。目標操舵トルク算出部1
4は,前回の目標操舵トルクを操舵出力積分値として格納する格納領域を備えている。目標操舵トルク算出部14は,画像処理部11から出力されるオフセット量,操舵トルクセンサ4から送信された操舵トルク,車速センサ7から送信された車速,および画像処理部11から出力されたヨー角とカーブ半径,さらには,前回の目標操舵トルクとして記憶している操舵出力積分値を用いて,目標操舵トルクを算出する。」
・「【0033】
次に,本実施形態に係る操舵支援装置の制御手順について説明する。図2は,操舵支援装置における操舵制御ECUの制御手順を示すフローチャートである。図2に示すように,操舵支援装置における操舵制御ECU1では,最初に,白線認識処理を行う(S1)。白線認識処理では,CCDカメラ2から送信される画像に対して,画像処理部11において画像処理を施して車両が走行する車線脇の白線を認識する。また,白線認識処理では,車線脇の白線を認識したら,車線に対する車両のヨー角θ,白線からのオフセット量D,および車線のカーブ半径Rを算出する。」
・「【0052】
図2に示すフローに戻り,操舵方向判定処理(S4)が済んだら,ロードキャンバ継続判定処理(S5)を行う。ロードキャンバ継続判定処理では,車線維持制御を中断した場合後に車線維持制御に復帰した際,車線維持制御の中断時間と,車線維持制御に復帰した際の操舵出力積分値と,レーンオフセットと,の関係に基づいて,同一のロードキャンバ区間が継続しているか否かを判定する。ロードキャンバ継続判定処理は,図6に示すフローに沿って行われる。図6に示すように,ロードキャンバ継続判定処理では,車線維持制御フラグがONであり,その前回値がOFFであるか否かを判断する(S41)。
【0053】
その結果,車線維持制御フラグがONであり,その前回値がOFFであるという条件を満たしていないと判断した場合には,車線維持制御に復帰する場合ではないので,そのまま処理を終了する。
【0054】
一方,車線維持制御フラグがONであり,その前回値がOFFであるという条件を満たしていると判断した場合には,車線維持制御に復帰する場合である。この場合には,車線維持制御中断時間計測タイマの計測時間が車線維持制御中断時間計測タイマしきい値T1よりも短いか否かを判断する(S42)。ここで,車線維持制御中断時間計測タイマしきい値T1は,操舵タイマしきい値T2よりも短い時間に設定されている。」
・「【0068】
このように,本実施形態に係る操舵支援装置においては,車線維持制御を中断した後車線維持制御に復帰する際にあたり,車線維持制御中断時間計測タイマによる計測時間に応じて,ロードキャンバ維持フラグのON-OFFを決定している。そして,ロードキャンバ維持フラグがONとなっている際には,車線維持制御を中断する前の積分値を用いて操舵出力積分値を求め,ロードキャンバ維持フラグがOFFとなっている際には,車線維持制御を中断する前の積分値をクリアして,操舵出力積分値を求めている。
【0069】
ここで,ロードキャンバ維持フラグのON-OFFを決定するにあたり,車両の通行方向と操舵出力積分値の正負とが一致しているか否かを判定している。この操舵出力積分値は,ロードキャンバ傾斜方向と一致すること,実質的には,車両の通行方向と車両が走行するロードキャンバ傾斜方向とが一致しているか否かを判定している。そして,車両の通行方向と車両が走行するロードキャンバ傾斜方向とが一致している場合には,ロードキャンバ維持フラグをOFFとするための斜線維持制御中断時間計測タイマによる計測時間のしきい値を大きくしている。
【0070】
ここで,車両の通行方向とロードキャンバの傾斜方向とは一致することが多いことから,判定した車両の通行方向と検出したロードキャンバの傾斜方向とが一致する場合には,走行ラインが共通している可能性が高いと考えられる。そして,車両の通行方向とロードキャンバ傾斜方向とが一致する場合に,ロードキャンバ維持フラグをOFFとするための斜線維持制御中断時間計測タイマによる計測時間のしきい値を大きくしている。操舵支援を中断した後に再開するにあたり,中断前の情報を有効に活用できるようにすることにより,精度のよい操舵支援を行うことができる。
【0071】
以下,本実施形態に係る車線維持制御を行った場合と,他の車線維持制御(以下「比較車線維持制御」という)を行った場合とについて比較する。比較車線維持制御では,車線維持制御を中断した後,再開する際に操作出力積分値を0とする制御を行う。両方の車線維持制御において,図8に示すように,時刻t1で車線維持制御を中断し,時刻t2で車線維持制御に復帰するとする。
【0072】
この場合,比較車線維持制御では,図8(a)に示すように,時刻t1で車線維持制御を中断すると,操舵出力積分値を0とする。このため,操舵出力は低下する。それから,時刻t2で車線維持制御に復帰する際に,操舵出力積分値が0となっていることから,操舵出力積分値が時刻t2から徐々に増加し,操舵出力も徐々に増加することとなる。
【0073】
一方,本実施形態に係る車線維持制御では,図8(b)に示すように,時刻t1で車線維持制御を中断すると,操舵出力積分値を0とする。このため,操舵出力は低下する。こ
こまでは,比較車線維持制御と同じ挙動を示す。それから,時刻t2で車線維持制御に復帰する際,ロードキャンバ維持フラグがONとなっている場合には,操舵出力積分値をクリアすることなく,車線維持制御中断前の値をそのまま用いている。このため,時刻t2以後,操舵出力が早期に増加し,車線維持制御中断前の操舵出力に近い操舵出力に短時間で到達することとなる。
【0074】
ここで,両方の車線維持制御を行った場合の車両の走行経路の比較を図9(a)に示す。また,図9(a)に示す道路Lのロードキャンバを図9(b)に示す。図9(b)に示すように,道路Lのロードキャンバの傾斜方向は,矢印Fに示すように,道路Lの外側に行くに従って低くなる方向とされている。いま,図9(a)に示すセンターラインCに沿った車線維持制御を行おうとする場合,比較車線維持制御では,走行ラインL2に示すように,一旦センターラインから離れてしまった後,センターライン上を走行するように復帰するまでに,時間がかかるようになる。その一方,本実施形態に係る車線維持制御では,走行ラインL1に示すように,一旦センターラインから離れてしまっても,短時間でセンターライン上を走行できるようになる。」
・図9の内容を図示する。

これらの記載事項からみて,引用文献3には,以下の事項(以下,「引用文献3に記載された事項」という。)が記載されているといえる。
「車両の周囲における走行ラインに関する走行ライン情報を含む車両周囲情報を検出する車両情報検出手段と,前記車両周囲情報に基づいて,前記走行ラインに沿って前記車両を走行させるために操舵手段を操舵制御する操舵制御手段と,を備える操舵支援装置において,
車線維持制御を中断した後車線維持制御に復帰する際にあたり,車線維持制御中断時間計測タイマによる計測時間に応じて,車両の通行方向と操舵出力積分値の正負とが一致しているか否かを判定して,ロードキャンバ維持フラグのON-OFFを決定し,ロードキャンバ維持フラグがONとなっている際には,車線維持制御を中断する前の積分値を用いて操舵出力積分値を求め,ロードキャンバ維持フラグがOFFとなっている際には,車線維持制御を中断する前の積分値をクリアして,操舵出力積分値を求める,
操舵支援装置。」

(4)引用文献4
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献4には,図面とともに次の事項が記載されている。
・「【請求項1】
運転者の操舵操作にかかわらず,操向輪の転舵角を制御可能な車両用操舵装置において,
車両が直進状態となった後,運転者の操舵介入がなされるまでの間,車両が直進状態になってからの車両の進行方向のずれ量に基づいて前記転舵角を補正する転舵角補正手段を備えることを特徴とする車両用操舵制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用操舵制御装置において,
前記転舵角補正手段は,運転者の操舵介入がなされた場合,前記転舵角の補正を終了し,前記転舵角の補正量を保持することを特徴とする車両用操舵制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の車両用操舵制御装置において,
前記転舵角補正手段は,運転者の操舵介入がなされた場合,前記転舵角の補正を終了し,前記転舵角の補正量を徐々に減少させることを特徴とする車両用操舵制御装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の車両用操舵制御装置において,
前記転舵角補正手段は,車両のヨーレートに基づいて,前記ずれ量を演算することを特徴とする車両用操舵制御装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の車両用操舵制御装置において,
前記転舵角補正手段は,車両の横移動量に基づいて,前記ずれ量を演算することを特徴とする車両用操舵制御装置。」
・「【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら,上記従来技術にあっては,オフセット角度は車輪の左右空気圧差などに起因する定常的なずれ量に対して設定されるものであるため,過渡的な路面外乱や横風などにより車両が直進できない状態となった場合には,記憶するオフセット角度には,反映されないため,対応することができず,運転者は直進状態を維持する操舵操作を強いられるという問題があった。
【0004】
本発明は上記課題に対してなされたもので,その目的とするところは,車両への過渡的な外乱入力に対し,運転者に操舵操作を強いることなく車両の直進状態を維持することができる車両用操舵制御装置を提供することにある。」
・「【発明の効果】
【0006】
本発明の車両用操舵制御装置では,車両が直進状態となった後,運転者の操舵介入が成されるまでの間,車両が直進するように進行方向が補正されるため,車両への過渡的な外乱入力に対し,運転者に操舵操作を強いることなく車両の直進状態を維持することができる。」
・「【0014】
実施例1では,路面外乱や横風などにより直進状態からヨー角または横変位(ずれ量)が発生した場合,ずれ量を抑制する方向に転舵モータ5を駆動する指令電流値を決定し,前輪8,8の転舵角を補正する。
【0015】
補正方法としては,まず,車両が直進状態になってからの車両の進行方向のずれ量を算出する。算出方法としては,積分器10aを用いて,車両のヨーレートの積分値であるヨー角,または車両の横速度の積分値である横移動量を用いる。なお,横速度は各車輪速から求めることができる。また,横移動量は,積分器10aを用いず,車線検出,ナビゲーション情報等から求めることもできる。
【0016】
車両モデル10bでは,ヨー角または横移動量を入力し,入力されたヨー角(または横移動量)が発生する前輪8,8の転舵角を補正量として出力する。比較器10cでは,目標転舵角から補正量を減算し,補正後目標転舵角を算出する。
【0017】
制御器10dでは,補正後目標転舵角に応じた指令電流値を転舵モータ5へ出力する。ここで,制御器10dは,公知であるゲイン制御やPID制御その他の制御手法を用いることができる。
【0018】
ここで,転舵角の補正中,操舵角,操舵角速度,操舵トルクにより運転者が車両を直進状態でない状態にしたと判断した場合,または車速が判定しきい値以下となり補正をする必要が無い車速となった場合には,補正を中断する。その際,ずれ量はリセットするが,転舵角の補正量をリセットしてしまうと,目標転舵角が急変してしまうため,補正量を保持し,その後再度補正に入ったらその保持した補正量から補正を開始する。
【0019】
なお,転舵角の補正中,反力コントローラ9は,転舵角センサ6で検出された前輪8の転舵角から,補正量に応じた転舵角の変化分を除いた値に基づいて,操舵反力を生成することで,転舵角の補正に伴う操舵反力の変動を防止する。
【0020】
[直進走行時の転舵角補正制御処理]
図3は,実施例1の転舵コントローラ10で実行される転舵角補正制御処理の流れを示すフローチャートで,以下,各ステップについて説明する(転舵角補正手段に相当)。なお,この制御処理は,所定の制御周期で繰り返し実行される。
【0021】
ステップS1では,操舵角の絶対値が所定値aよりも小さいか否かを判定する。YESの場合にはステップS2へ移行し,NOの場合にはステップS7へ移行する。ここで,所定値aは,車両が直進状態と判断できる中立位置付近の操舵角とする。
【0022】
ステップS2では,操舵角速度の絶対値が所定値bよりも小さいか否かを判定する。YESの場合にはステップS3へ移行し,NOの場合にはステップS7へ移行する。ここで,所定値bは,運転者が操舵ハンドル1の操舵角を一定に維持していると判断できる操舵角速度とする。
【0023】
ステップS3では,操舵力(操舵トルク)の絶対値が所定値cよりも小さいか否かを判定する。YESの場合にはステップS4へ移行し,NOの場合にはステップS7へ移行する。ここで,所定値cは,操舵ハンドル1が中立位置付近であると判断できる操舵トルクとする。
【0024】
ステップS4では,車速が所定値(判定しきい値)dよりも大きいか否かを判定する。YESの場合にはステップS5へ移行し,NOの場合にはステップS7へ移行する。ここで,所定値dは,車両が高速道路など直進走行が継続し,かつ,進行方向のずれが生じる高速走行していると判断できる速度(例えば,60km/h)とする。なお,ステップS4において,車線検出,ナビゲーション情報等に基づき,車両が直進路を走行中であるか否かを判定し,車両が直進路以外を走行している場合にはステップS5へ移行し,カーブを走行している場合にはステップS7へ移行するように設定してもよい。
【0025】
ステップS5では,補正フラグFが1であるか否かを判定する。YESの場合にはステップS10へ移行し,NOの場合にはステップS6へ移行する。
【0026】
ステップS6では,カウンタをカウントアップし,ステップS7へ移行する。
【0027】
ステップS7では,カウンタのカウント値が所定値T以上であるか否かを判定する。YESの場合にはステップS8へ移行し,NOの場合にはステップS1へ移行する。ここで,所定値Tは,運転者が車両を直進させる意志があると判断できる時間とする。
【0028】
ステップS8では,カウンタのカウント値をクリアし,ステップS9へ移行する。
【0029】
ステップS9では,補正フラグFを1とし,ステップS10へ移行する。
【0030】
ステップS10では,前輪8,8の転舵角の補正を開始し,リターンへ移行する。前輪8,8の補正量は,車両のヨー角または横移動量から算出した車両の直進状態となってからの車両の進行方向のずれ量に基づいて算出する。
【0031】
ステップS11では,補正フラグFが1であるか否かを判定する。YESの場合にはステップS12へ移行し,NOの場合にはステップS13へ移行する。
【0032】
ステップS12では,補正フラグFを2とし,ステップS14へ移行する。
【0033】
ステップS13では,補正フラグFが2であるか否かを判定する。YESの場合にはステップS14へ移行し,NOの場合にはリターンへ移行する。
【0034】
ステップS14では,直前の補正量を保持し,リターンへ移行する。
【0035】
次に,作用を説明する。
[車両の直進状態維持作用]
高速道路などの直線路において,車両を直進させるために操舵ハンドルを常に操作していなければならない場合,運転者にとって煩わしく,操作性が悪化する。特開2000-62633号公報に記載の技術では,車両が直進状態であるときの転舵角を記憶し,操舵ハンドルが直進操作状態であるときに,記憶した転舵角になるように転舵アクチュエータを制御することで,ハンドルが直進操作状態にあるとき,車両の直進状態が維持される。具体的には,検出された車両のヨーレートまたは横加速度が所定値(≒0)以下である場合の転舵角を記憶し,記憶した転舵角分をオフセット角度として目標転舵角に加えることで,ハンドルの直進操作状態での車両の進行方向のずれ量を補正している。
【0036】
ところが,この従来技術では,オフセット角度は車輪の左右空気圧差などに起因する定常的なずれ量に対して設定されるものであるため,過渡的な路面外乱や横風などにより車両が直進できない状態となった場合には,記憶するオフセット角度には,反映されないため,対応することができない。したがって,運転者は自らのハンドル操作によって車両を直進状態に戻さなければならず,操作性はあまり向上しない。
【0037】
これに対し,実施例1の車両用操舵制御装置では,車両が直進状態となった後,運転者の操舵介入がなされるまでの間,直進方向に対する車両の進行方向のずれ量を求め,ずれ量を無くすように目標転舵角を補正することで,車両が直進方向からずれるのを防止している。
【0038】
すなわち,図3のフローチャートにおいて,高速走行中,運転者が車両を直進させる操舵操作を開始した場合には,カウンタのカウント値が所定値Tに達するまで,ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4→ステップS5→ステップS6→ステップS7へと進む流れが繰り返される。
【0039】
カウント値が所定値Tに達した場合,ステップS7からステップS8→ステップS9→ステップS9→ステップS10へと進み,以降,運転者が車両を直進させる操舵操作を終了するまでの間,ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4→ステップS5→ステップS6→ステップS7→ステップS8→ステップS9→ステップS10へと進む流れが繰り返され,直進に対する進行方向のずれ量に応じて,転舵角が補正される。
【0040】
また,実施例1では,転舵角の補正中,運転者による操舵介入がなされた場合には,転舵角の補正を終了し,直前の補正量を保持する。すなわち,ステップS1,ステップS2またはステップS3のいずれかのステップから,ステップS11→ステップS12→ステップS13→ステップS14へと進み,その後は,再び運転者が車両を直進させる操舵操作を開始するまでの間,ステップS1(または,ステップS2とステップS3の一方)→ステップS11→ステップS13→ステップS14へと進む流れが繰り返され,補正量が保持される。
【0041】
例えば,運転者の操舵介入により転舵角の補正を終了する際,補正量をゼロとした場合,目標転舵角が急変し,車両挙動が不安定となるおそれがある。これに対し,実施例1では,直前の補正量を保持することで,補正を中断した際の目標転舵角の急変を回避することができる。
【0042】
また,実施例1では,車両のヨー角または車両の横移動量に基づいて,ずれ量を演算している。
ヨーレートの積分値であるヨー角に基づいて,ずれ量を演算することで,路面からの外乱入力に伴う車両の旋回運動により生じるずれ量を検出することができる。
横移動量に基づいて,ずれ量を演算することで,横風に伴う車両の横移動により生じるずれ量を正確に検出することができる。
【0043】
実施例1では,ステップS1?ステップS3において,操舵状態(操舵角,操舵角速度,操舵トルク)に基づいて,車両が直進状態であるか否かを判定する。
例えば,車両の直進状態を,検出したヨーレートや横加速度等の車両挙動に基づいて判定する場合,実際に車両挙動の変化が発生した後でなければ車両の直進状態を判定できないため,転舵角の補正開始が遅れてしまう。
【0044】
これに対し,実施例1では,車両が直進状態であるか否かを,操舵状態に基づいて判定しているため,操舵状態に応じて変化する車両挙動を,実際に車両挙動の変化が発生する前の段階で検知することができ,転舵角の補正を遅れなく実施することができる。
【0045】
同時に,ステップS1?ステップS3では,操舵状態に基づいて,運転者の操舵介入を判定している。特に,操舵角速度(ステップS2)や操舵トルク(ステップS3)に基づいて操舵介入を判定することで,操舵介入の早期判定が可能となり,転舵角の補正を素早く中断することができるため,転舵角補正の継続に伴い,旋回挙動が乱れるのを回避することができる。
【0046】
実施例1では,ステップS4において,車速が所定値(判定しきい値)dを超える場合には,ずれ量に基づく転舵角の補正を実施するが,車速が所定値d以下の場合には,補正を実施しない。すなわち,直進の維持が要求されるのは,直進が継続し,かつ,進行方向のずれが生じる高速道路などを走行中の場合であり,一般の市街地走行中には,直進の維持が必要とされない。よって,車速に応じて転舵角の補正を行うことで,高速走行時における転舵角の確実な補正と,市街地走行時における不要な補正の回避とを両立することができる。
【0047】
さらに,実施例1では,ステップS4において,車両が直進路を走行している場合には,ずれ量に基づく転舵角の補正を実施するが,直進路を走行していない場合には,補正を実施しない。すなわち,直進の維持が要求されるのは,直進路走行中の場合であり,カーブを走行している場合には,直進の維持が不要である。よって,道路形状に基づいて転舵角の補正を行うことで,直進路における転舵角の確実な補正と,カーブ走行時における不要な補正の回避とを両立することができる。
【0048】
図4は,実施例1の直進状態維持作用を示すタイムチャートであり,時点t1では,高速走行中,運転者が車両を直進させる操舵操作を開始したため,転舵角の補正が開始される。これにより,車両が一旦直進状態となった場合には,運転者の操舵介入がなされるまでの間,路面カント等の定常的な外乱,路面入力や横風等の過渡的な外乱が車両に入力された場合であっても,車両の直進状態が維持される。
【0049】
時点t2では,運転者による操舵介入がなされたため,補正を終了し,運転者が再び車両を直進させる操舵操作を開始する時点t3までの間,直前の補正量が保持される。これにより,目標転舵角の急変が回避され,車両挙動の不安定化を抑制することができる。」

これらの記載事項からみて,引用文献4には,以下の事項(以下,「引用文献4に記載された事項」という。)が記載されているといえる。
「車両が直進状態になってからの車両の進行方向のずれ量を算出し,算出方法としては,積分器10aを用いて,車両のヨーレートの積分値であるヨー角,または車両の横速度の積分値である横移動量を用い,車両モデル10bでは,ヨー角または横移動量を入力し,入力されたヨー角(または横移動量)が発生する前輪8,8の転舵角を補正量として出力し,比較器10cでは,目標転舵角から補正量を減算し,補正後目標転舵角を算出し,制御器10dでは,補正後目標転舵角に応じた指令電流値を転舵モータ5へ出力するものにおいて,転舵角の補正中,操舵角,操舵角速度,操舵トルクにより運転者が車両を直進状態でない状態にしたと判断した場合,または車速が判定しきい値以下となり補正をする必要が無い車速となった場合には,補正を中断し,その際,補正量を保持し,その後再度補正に入ったらその保持した補正量から補正を開始する,車両用操舵制御装置。」

第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)本願発明1と引用発明1との対比
本願発明1と引用発明1とを対比すると,後者の「走行車線の中心線Yc」は前者の「目標走行ライン」に相当し,以下同様に,「車両の操舵制御装置」は「車両用操舵制御装置」に,「位置偏差」及び「角度偏差」は「車両の状態量」に,「カメラ30」及び「画像処理装置31」は「車両状態量検出部」に,それぞれ相当する。
後者の「道路上の走行車線を認識し,該走行車線に沿って車両が走行するように車両の操舵制御を行う車両の操舵制御装置」は「走行車線の中心線」と車両との位置偏差を無くすように制御されるものであり,車両の操舵制御は転舵輪の操舵制御であることは技術常識であるから,前者の「車両が目標走行ラインに追従して走行するように,前記車両の転舵輪の操舵制御を行う車両用操舵制御装置」に相当する。
後者の「車両に設けられたカメラ30により撮像される車両前方の画像データを入力し,該画像データに基づいて走行車線を区分する走行車線区分線(白線)を認識し,車両5の現在位置を原点とし,車両5の進行方向をX軸とし,X軸に直行する方向(車両の幅方向)をY軸とする相対座標系を設定し,Y軸上における車両5の現在位置から走行車線の中心線Ycまでの距離(横ずれ量)Ydを,位置偏差として算出し,走行車線の中心線YcとY軸との交点位置における中心線Ycの接線aとのなす角(車両偏向角)Ahを角度偏差として算出する,画像処理装置31」は前者の「前記車両の状態量を検出する車両状態量検出部」に相当する。
後者の「車両の位置偏差Ydの現在値を取得し,積分要素決定部64により,マップ70の検索処理によって積分ゲインKiを決定し,積分制御量制限部63により,積分制御量をIcnt_lmtにより設定される範囲内(負側のIcnt_lmt≦Icnt≦正側のIcnt_lmt)に制限して,今回の積分制御量Icnt_relを決定するFB制御部60」は前者の「前記車両と前記目標走行ラインとの位置偏差を積分する積分制御部」に相当する。
後者の「比例ゲイン演算部により,位置偏差Ydに所定の比例ゲインKpを乗じて比例制御量Pcntを算出し,角度ゲイン演算部67により角度偏差Ahに角度ゲインKdを乗じて角度制御量Dcntを算出し,微分演算部68により角度偏差Ahを微分した値に,微分ゲイン演算部69により微分ゲインKddを乗じて角度微分制御量Ddcntを算出するFB制御部60」は前者の「前記車両が前記目標走行ラインに追従するために目指すべき前記車両の状態量である目標状態量と実際の前記車両の状態量との偏差に基づき,P制御またはPD制御によるフィードバック制御量を演算するフィードバック制御量演算部」に相当する。
後者の「加減算部72により,このようにして算出した積分制御量Icnt_relと比例制御量Pcntと角度制御量Dcntとを加算し,角度微分制御量Ddcntを減算して,補正操舵アシストトルクTbを算出するFB制御部60と,加算部65により,FF制御部50により選出された基本操舵アシストトルクTfと,FB制御60により算出された補正操舵アシストトルクTbとを加算して,操舵アシストトルクTsを算出するLKAS制御装置」は前者の「前記積分制御部の積分値と前記フィードバック制御量とに基づき前記車両の操舵制御を行うための操舵制御量を演算する操舵制御量演算部」に相当する。
後者の「EPS制御モードにおけるパワーステアリングトルクTe'と,LKAS制御モードにおける操舵アシストトルクTs'とを加算して,アシストトルクTa(本発明のアクチュエータの目標制御量に相当する)を算出し,モータ駆動回路を介して,このアシストトルクTaを発生させるためのモータ駆動電流を出力する,EPS制御装置3」は前者の「前記操舵制御量に基づき前記車両の転舵論の操舵制御を行う操舵制御実施部」に相当する。
後者の「走行車線が幅方向の左側から右側に向かって傾斜している場合に対応したものであり,位置偏差Ydが正であるとき(車両が中心線Ycの右側にずれているとき)は,走行車線の傾きが車両を中心線Ycから離反する方向に作用するため,積分ゲインKiを大きくして操舵アシストトルクTsを増大させ,位置偏差Ydが負であるとき(車両が中心線Ycの左側にずれているとき)は,走行車線の傾きが車両を中心線Ycに接近させる方向に作用するため,積分ゲインKiを小さくして操舵トルクTsを減少させ」たことと,前者の「前記車両に対する横方向の外乱を補償するための外乱補償値を推定する外乱補償値推定部」とは,「前記車両に対する横方向の外乱を考慮し」たことにおいて共通する。
後者の「ターンシグナルのON信号が入力されている場合,ブレーキON信号が入力されている場合,ワイパーON信号が入力されている場合,メインSW43からLKAS制御装置2の停止を指示する信号が入力されて場合,及びLKAS制御装置2による走行区分線の認識が不能である場合に,EPS制御装置3に対するアシストトルクTsの出力を停止する,LKAS制御装置2」と,前者の「前記車両が前記操舵制御を受けずに走行する状態から前記操舵制御を受けて走行する状態に復帰する際,前記操舵制御量演算部は,前記積分値に代えて,前記車両が前記操舵制御を受けずに走行している間の前記車両の状態量である操舵角またはヨーレートのいずれかである前記外乱補償値に基づき前記操舵制御量を演算する」こととは,EPS制御装置3に対するアシストトルクTsの出力を停止してもEPS制御装置3による操舵制御を復帰するか否かは不明であるから,「前記車両が前記操舵制御を受けずに走行する状態があること」において共通する。
そうすると,両者は,
「車両が目標走行ラインに追従して走行するように,前記前記車両の転舵輪の操舵制御を行う車両用操舵制御装置であって,
前記車両の状態量を検出する車両状態量検出部と,
前記車両と前記目標走行ラインとの位置偏差を積分する積分制御部と,
前記車両が前記目標走行ラインに追従するために目指すべき前記車両の状態量である目標状態量と実際の前記車両の状態量との偏差に基づき,P制御またはPD制御によるフィードバック制御量を演算するフィードバック制御量演算部と,
前記積分制御部の積分値と前記フィードバック制御量とに基づき前記車両の操舵制御を行うための操舵制御量を演算する操舵制御量演算部と,
前記操舵制御量に基づき前記車両の転舵論の操舵制御を行う操舵制御実施部と,
を備え,
前記車両に対する横方向の外乱を考慮するものであり,
前記車両が前記操舵制御を受けずに走行する状態がある,
車両用操舵制御装置。」
の点で一致し,以下の点で相違する。
<相違点1>
本願発明1では,「前記車両に対する横方向の外乱を補償するための外乱補償値を推定する外乱補償値推定部と,を備え,前記車両が前記操舵制御を受けずに走行する状態から前記操舵制御を受けて走行する状態に復帰する際,前記操舵制御量演算部は,前記積分値に代えて,前記車両が前記操舵制御を受けずに走行している間の前記車両の状態量である操舵角またはヨーレートのいずれかである前記外乱補償値に基づき前記操舵制御量を演算する」のに対して,引用発明1では,「走行車線が幅方向の左側から右側に向かって傾斜している場合に対応したものであり,位置偏差Ydが正であるとき(車両が中心線Ycの右側にずれているとき)は,走行車線の傾きが車両を中心線Ycから離反する方向に作用するため,積分ゲインKiを大きくして操舵アシストトルクTsを増大させ,位置偏差Ydが負であるとき(車両が中心線Ycの左側にずれているとき)は,走行車線の傾きが車両を中心線Ycに接近させる方向に作用するため,積分ゲインKiを小さくして操舵トルクTsを減少させ,ターンシグナルのON信号が入力されている場合,ブレーキON信号が入力されている場合,ワイパーON信号が入力されている場合,メインSW43からLKAS制御装置2の停止を指示する信号が入力されて場合,及びLKAS制御装置2による走行区分線の認識が不能である場合に,EPS制御装置3に対するアシストトルクTsの出力を停止する」ものであり,それ以上の特定がなされていない点。

(2)本願発明1と引用発明2との対比
本願発明1と引用発明2とを対比すると,後者の「操舵装置」は前者の「車両用操舵制御装置」に,以下同様に,「オフセット距離D」及び「ヨー角θ」は「車両の状態量」に,「CCDカメラ8」及び「画像処理部9」は「車両状態量検出部」に,それぞれ相当する。
後者の「自車両の走行路を検出する走行路検出手段を備え,前記走行路検出手段で検出された走行路に沿って前記自車両が走行するように,操舵機構に操舵を付与する操舵装置」は,オフセット距離Dが目標オフセット距離D_(0)となるように制御されるものであり,車両の操舵制御は転舵輪の操舵制御であることは技術常識であるから,前者の「車両が目標走行ラインに追従して走行するように,前記車両の転舵輪の操舵制御を行う車両用操舵制御装置」に相当する。
後者の「車両1の前方状況を撮像するCCDカメラ8と,撮像した画像に基づいて,走行レーン51の状況(カーブ曲率χ)と,車両の前後方向の中心軸1aと走行レーン51の中心線51cの車両重心位置における接線51aとの横ずれ量に相当するオフセット距離Dおよび車両の前後方向の中心軸1aと走行レーン51の中心線51cの車両重心位置における接線51aとのなす角度に相当するヨー角θを算出する画像処理部9」は,前者の「前記車両の状態量を検出する車両状態量検出部」に相当する。
後者の「オフセット距離Dと目標オフセット距離D_(0)との偏差(D_(0)-D)を求め,これを不感帯設定手段23へと入力し,不感帯設定手段23から出力されたオフセット偏差D′に所定の係数K_(d)を乗じてオフセット距離Dを補償するヨーレートω_(d)を算出する積分手段24」は,前者の「前記車両と前記目標走行ラインとの位置偏差を積分する積分制御部」に相当する。
後者の「ヨー角θを補償する(目標に収束させる)ために必要となるヨーレートω_(θ)は,ヨー角θと目標ヨー角θ_(0)との偏差(θ_(0)-θ)に係数K_(θ)をかけて算出され」ることは,前者の「前記車両が前記目標走行ラインに追従するために目指すべき前記車両の状態量である目標状態量と実際の前記車両の状態量との偏差に基づき,P制御またはPD制御によるフィードバック制御量を演算するフィードバック制御量演算部」に相当する。
後者の「算出された3つのヨーレートを合算することで,目標ヨーレートωが算出され,この目標ヨーレートωは,車速センサ11によって検出された車速Vを用いて目標横加速度Gに変換され,トルク演算器22によって,この目標横加速度Gを発生させるために必要な,転舵量=モータ15の駆動トルク(付与操舵に対応するトルク)Tが算出され,求めた駆動トルクTに応じて,モータドライバ14に指示して,モータ15を駆動せしめ,左右前輪FR,FLが転舵され,車両1は車線を維持すべく旋回される」ことは,前者の「前記積分制御部の積分値と前記フィードバック制御量とに基づき前記車両の操舵制御を行うための操舵制御量を演算する操舵制御量演算部と,前記操舵制御量に基づき前記車両の転舵論の操舵制御を行う操舵制御実施部」を備えることに相当する。
そうすると,両者は,
「車両が目標走行ラインに追従して走行するように,前記車両の転舵輪の操舵制御を行う車両用操舵制御装置であって,
前記車両の状態量を検出する車両状態量検出部と,
前記車両と前記目標走行ラインとの位置偏差を積分する積分制御部と,
前記車両が前記目標走行ラインに追従するために目指すべき前記車両の状態量である目標状態量と実際の前記車両の状態量との偏差に基づき,P制御またはPD制御によるフィードバック制御量を演算するフィードバック制御量演算部と,
前記積分制御部の積分値と前記フィードバック制御量とに基づき前記車両の操舵制御を行うための操舵制御量を演算する操舵制御量演算部と,
前記操舵制御量に基づき前記車両の転舵論の操舵制御を行う操舵制御実施部と,
を備えた,車両用操舵制御装置。」
の点で一致し,以下の点で相違する。
<相違点2>
本願発明1では,「前記車両に対する横方向の外乱を補償するための外乱補償値を推定する外乱補償値推定部と,を備え,前記車両が前記操舵制御を受けずに走行する状態から前記操舵制御を受けて走行する状態に復帰する際,前記操舵制御量演算部は,前記積分値に代えて,前記車両が前記操舵制御を受けずに走行している間の前記車両の状態量である操舵角またはヨーレートのいずれかである前記外乱補償値に基づき前記操舵制御量を演算する」のに対して,引用発明2では,そのような特定はなされていない点。

(3)相違点の検討
(3-1)引用発明1を主引用発明とする相違点1の検討
上記(2)で前述したように,引用文献2に記載された事項には,相違点1における本願発明1の発明特定事項は開示されていない。
また,引用文献3及び引用文献4には,上記「第4(3)(4)」のとおり引用文献3に記載された事項及び引用文献4に記載された事項が記載され,引用文献3に記載された事項における「車線維持制御を中断した後車線維持制御に復帰する際にあたり,車線維持制御中断時間計測タイマによる計測時間に応じて,車両の通行方向と操舵出力積分値の正負とが一致しているか否かを判定して,ロードキャンバ維持フラグのON-OFFを決定し,ロードキャンバ維持フラグがONとなっている際には,車線維持制御を中断する前の積分値を用いて操舵出力積分値を求め,ロードキャンバ維持フラグがOFFとなっている際には,車線維持制御を中断する前の積分値をクリアして,操舵出力積分値を求める」こと,及び,引用文献4に記載された事項における「転舵角の補正中,操舵角,操舵角速度,操舵トルクにより運転者が車両を直進状態でない状態にしたと判断した場合,または車速が判定しきい値以下となり補正をする必要が無い車速となった場合には,補正を中断し,その際,補正量を保持し,その後再度補正に入ったらその保持した補正量から補正を開始する」ことのように「操舵支援の中断前の外乱補償値に基づき操舵制御量を演算すること」が開示されているとしても,上記相違点1における本願発明1の発明特定事項である「前記車両が前記操舵制御を受けずに走行している間の前記車両の状態量である操舵角またはヨーレートのいずれかである前記外乱補償値に基づき前記操舵制御量を演算する」ことは開示されていない。
したがって,本願発明1は,引用発明1,引用文献2に記載された事項,引用文献3に記載された事項及び引用文献4に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3-2)引用発明2を主引用発明とする相違点2の検討
上記(1)で前述したように,引用文献1には,相違点2における本願発明1の発明特定事項は開示されていない。
また,引用文献3及び引用文献4には,上記(3-1)で検討したように,上記相違点2における本願発明1の発明特定事項である「前記車両が前記操舵制御を受けずに走行している間の前記車両の状態量である操舵角またはヨーレートのいずれかである前記外乱補償値に基づき前記操舵制御量を演算する」ことは開示されていない。
したがって,本願発明1は,引用発明2,引用文献1に記載された事項,引用文献3に記載された事項及び引用文献4に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2.本願発明2?14について
本願発明2?14は,本願発明1の発明特定事項を全て含み,さらに限定して発明を特定するものであるから,本願発明1と同じ理由により,引用発明1,引用文献2に記載された事項,引用文献3に記載された事項及び引用文献4に記載された事項に基いて,又は,引用発明2,引用文献1に記載された事項,引用文献3に記載された事項及び引用文献4に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をできたものではない。

第6 むすび
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。

 
審決日 2020-02-26 
出願番号 特願2017-120115(P2017-120115)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B62D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 鈴木 敏史  
特許庁審判長 氏原 康宏
特許庁審判官 藤井 昇
出口 昌哉
発明の名称 車両用操舵制御装置  
代理人 吉竹 英俊  
代理人 有田 貴弘  
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