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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 B25J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B25J
管理番号 1360071
審判番号 不服2019-4482  
総通号数 244 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-04-05 
確定日 2020-02-17 
事件の表示 特願2016-546240「旋回ケーブルガイド」拒絶査定不服審判事件〔平成28年3月10日国際公開、WO2016/035165〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、2014年(平成26年)9月3日を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成30年 5月18日付け:拒絶理由通知書
同年 7月11日 :意見書、手続補正書の提出
同年12月12日付け:拒絶査定
平成31年 4月 5日 :審判請求書と同時に手続補正書の提出

第2.平成31年4月5日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成31年4月5日にされた手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正の内容
平成31年4月5日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、平成30年7月11日付けの手続補正により補正された)下記(1)に示す記載を、下記(2)に示す記載へと補正するものである。

(1)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】
帯状円弧形状のバネ用鋼によって形成されたガイドプレートが、その一端部と他端部とが同じ方向を向くように、弾性変形によって中間部分に湾曲した返し部が形成されたものであり、
前記ガイドプレートは、前記返し部と前記一端部との間の第1円弧部と、前記返し部と前記他端部との間の第2円弧部とが旋回軸方向に所定距離をとり、ケーブル材を保持した状態で旋回機構に取り付けられ、
前記旋回機構の駆動により、前記返し部が周方向に変位しながら前記一端部が前記他端部に対して周方向に移動するものであることを特徴とする旋回ケーブルガイド。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】
帯状円弧形状のバネ用鋼によって形成されたガイドプレートが、その一端部と他端部とが同じ方向を向くように、弾性変形によって中間部分に湾曲した返し部が形成されたものであり、
前記ガイドプレートは、前記返し部と前記一端部との間の第1円弧部と、前記返し部と前記他端部との間の第2円弧部とが旋回軸方向に所定距離をとり、ケーブル材を保持した状態で走行台上の旋回機構に取り付けられ、
前記旋回機構の駆動により、前記返し部が周方向に変位しながら前記一端部が前記他端部に対して周方向に移動するものであることを特徴とする旋回ケーブルガイド。」(アンダーラインは補正箇所を示すもので、請求人が付したものである。)

2.本件補正の目的
本件補正は、請求項1に関して、ガイドプレートが取り付けられる部材である「旋回機構」を、「走行台上の旋回機構」として、配置される位置を限定するものである。
そして、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正後の請求項1に関する補正事項は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3.独立特許要件
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、前記1.(2)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された本願の出願日前に頒布された引用文献である実願昭57-80748号(実開昭58-184293号)のマイクロフィルム(以下、「引用文献1」という。)には、「水平旋回軸のケーブル支持装置」に関して、図面(特に、第1図、第2図、第4図、第6図、第7図、第8Aないし8E図を参照。)とともに、次の事項が記載されている。(アンダーラインは当審で付した。以下同じ。)
ア.「本考案は、スカラ形産業ロボツトのごとく、水平旋回軸とポストとの間にわたしたケーブルを安全に支持する装置に関する。」(明細書2ページ4ないし6行)

イ.「次に図面について本考案を具体的に説明する。第1図は本考案ケーブル支持装置を備えたスカラ形産業用ロボツトに適用した場合の斜視図を示す。(1)はベース、(2)は固定部であつて、図示の場合には固定ポスト(20)の中央に昇降ポスト(21)があり、昇降ポストの上部のセンターポストに相当している。(3)は固定部(2)の上部に所定の角度範囲で水平旋回できるように取付けた第1のアーム、(4)は第1のアーム(3)の先端に取付けた第2のアーム、(5)は第2のアームに装着したアタツチメント、(6)はアタツチメントの把持部、(7)はポスト(2)の側壁より放射状に設けたブラケツト、(8)はブラケツト(7)により固定部(2)の周囲に固着した支持部材である。図示の例ではフレキシブルケーブルダクト(19)と干渉しないような扇形円錐面をもつ板状のものとしているが、実質的に円錐面が形成されるように湾曲する棒材を組付けてもよい。(9)はアーム(3)の下側に設けた取付金具、(10)は前記支持部材(8)の一端と上記取付金具(9)との間に取付けた可撓性帯状部材で、支持部材(8)がなす円錐面上に沿つて湾曲し、かつ支持部材(8)とアーム下側取付部との間の立体空間内にU字形に屈曲して配置されている。」(明細書3ページ5行ないし4ページ8行)

ウ.「帯状部材(10)は通常の合成ゴムコンベヤベルトやスチールベルトのごとく柔かく屈曲して繰返し曲げに強い材料のものが用いられる。このものは支持部材(8)とアーム(3)下側の取付金具(9)との間で平面からみて円弧状に湾曲し、正面からみてU字状に屈曲して取付けられている(第2図、第4図参照)。」(明細書4ページ11ないし17行)

エ.「上記各サポートブロツク(11)には、第6図に示すように複数本のロボツト制御用ケーブル(16)を挿通するケーブル通し穴(14)を有している。
次に作用について説明する。第1図は、水平旋回部であるアーム(3)が中位にあるときを示す。この状態では第2図、第4図に示すように帯状部材(10)はアーム(3)下の取付金具(9)の末端から水平部分(17)を形成したのち、屈曲部(18)よりU字形に屈曲して支持部材への取付部(15)にまで延びている。」(明細書5ページ9ないし17行)

オ.「この状態から作動範囲内に水平旋回部であるアーム(3)を旋回させると、第7図のように帯状部材(10)がアーム(3)の回動につれて引込み、或は引戻すことになるが、旋回角度に応じ屈曲部(18)の位置を変えてケーブル(16)を支障なく保持することができる。」(明細書6ページ8ないし13行)

カ.「更に上記旋回動作を第8A図?第8E図に基づいて詳述する。これらの図ではサポートブロツクおよびケーブルを省略し、ケーブル支持装置全体を帯状部材(10)に代表させて図示している。
第8A図は第2図と同様にアーム(3)が中位にあるときを示しており、円錐扇形面の支持部材(8)上に載置された帯状部材(10)は取付部(15)より時計方向約190゜の位置のU字状の屈曲部(18)から空間内にせり上り、それより反時計方向に向う水平部分(17)を経て取付金具(9)に達している。
第8B図は第8A図の状態から矢印のごとくアーム(3)を反時計方向に180゜旋回させた状態を示している。この間の帯状部材(10)を正面からみると、第7図に示すように屈曲部(18)を矢印方向に移動させながら同図中鎖線で示すように支持部材上の帯状部材を順次巻込むようにし、水平部分(17)の長さを増加させてアームの旋回角に追従させている。第8C図は第8B図の状態から更に同方向に180゜旋回させて第8A図の中位状態から360゜旋回させた場合を示す。この場合には平面からみて取付部(15)と屈曲部(18)とが接近し、屈曲部(18)から取付金具(9)までは最大限近くの円弧状の姿を現わしている。
第8D図は第8A図より時計方向に180゜、第8E図は同方向に360゜それぞれ旋回させた状態を示している。これらの場合には、帯状部材を正面からみると第7図の矢印とは反対方向に移動して同図中鎖線の状態から実線の状態、すなわち第8A図に比べ支持部材上に載置される部分が増加し、屈曲部(18)から取付金具9までの円弧長さを漸減させている。」(明細書6ページ18行ないし8ページ12行)

キ.「また帯状部材は支持部材がなす円錐面上に沿つて湾曲し、かつ支持金具と水平旋回部下側取付部との間の立体空間内にU字状に屈曲しているので、水平旋回部下側取付部の移動により支持部材上の屈曲部の位置を変更させ、屈曲部より水平旋回部への取付部に至る部分を巻込み、或は巻戻すようにしてアームの旋回角度に正確に追従させることができる。」(明細書9ページ14行ないし20ページ3行)

ク.記載事項イ.の「(10)は前記支持部材(8)の一端と上記取付金具(9)との間に取付けた可撓性帯状部材」との記載、記載事項ウ.の「帯状部材(10)は通常の合成ゴムコンベヤベルトやスチールベルトのごとく柔かく屈曲して繰返し曲げに強い材料のものが用いられる。」との記載、及び記載事項エ.の「帯状部材(10)はアーム(3)下の取付金具(9)の末端から水平部分(17)を形成したのち、屈曲部(18)よりU字形に屈曲して支持部材への取付部(15)にまで延びている。」との記載、並びに第4図及び第8A図によれば、可撓性帯状部材(10)は帯状円弧形状のスチールベルトにより形成されることが分かり、また、可撓性帯状部材(10)は、その取付金具(9)の末端が設けらる部位と支持部材の取付部(15)とが同じ方向を向くように、弾性変形によって中間部分に湾曲した屈曲部(18)が形成されたものであることが分かる。

ケ.記載事項ウ.の「このものは支持部材(8)とアーム(3)下側の取付金具(9)との間で平面からみて円弧状に湾曲し、正面からみてU字状に屈曲して取付けられている」との記載、記載事項エ.の「帯状部材(10)はアーム(3)下の取付金具(9)の末端から水平部分(17)を形成したのち、屈曲部(18)よりU字形に屈曲して支持部材への取付部(15)にまで延びている。」との記載、及び記載事項オ.の「水平旋回部であるアーム(3)を旋回させると、第7図のように帯状部材(10)がアーム(3)の回動につれて引込み、或は引戻されることになるが、旋回角度に応じ屈曲部(18)の位置を変えてケーブル(16)を支障なく保持することができる。」との記載、並びに第1図及び第7図によれば、可撓性帯状部材(10)は、前記屈曲部(18)と取付金具(9)の末端が設けられる部位との間の円弧状部と、前記屈曲部(18)と前記支持部材の取付部(15)との間の円弧状部とが旋回軸方向に所定距離をとることが分かり、また、第1のアーム(3)の駆動により、屈曲部(18)が周方向に変位しながら前記取付金具(9)の末端が設けられる部位が前記支持部材の取付部(15)に対して周方向に移動するものであることが分かる。

上記記載事項、認定事項及び図示内容を総合して、技術常識を踏まえて整理すると、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「帯状円弧形状のスチールベルトによって形成された可撓性帯状部材(10)が、その取付金具(9)の末端が設けらる部位と支持部材の取付部(15)とが同じ方向を向くように、弾性変形によって中間部分に湾曲した屈曲部(18)が形成されたものであり、
前記可撓性帯状部材(10)は、前記屈曲部(18)と前記取付金具(9)の末端が設けられる部位との間の円弧状部と、前記屈曲部(18)と前記支持部材の取付部(15)との間の円弧状部とが旋回軸方向に所定距離をとり、ロボット制御用ケーブル(16)を保持した状態で第1のアーム(3)に取り付けられ、
前記第1のアーム(3)の駆動により、前記屈曲部(18)が周方向に変位しながら前記取付金具(9)の末端が設けられる部位が前記支持部材の取付部(15)に対して周方向に移動するものである水平旋回軸のケーブル支持装置。」

(3)引用文献2の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された本願の出願日前に頒布された引用文献である特開昭64-11781号公報(以下、「引用文献2」という。)には、「産業用ロボット」に関して、図面(特に、第2図を参照。)とともに、次の事項が記載されている。
ア.「[作用]
上記ケーブルガイドを可撓性の大きい材料例えばばね材等を利用して形成すれば、アームの回動に応じてケーブルガイドは大きい曲率で変形し、それに固着されたケーブルもケーブルガイドと一体に移動するので、ケーブルには引っ張りや撓みの現象は起こらないし、小さい曲率の屈曲部も生じない。したがってケーブルが他の物体に絡んでそれに損傷を与えたり、繰返し屈曲による疲労破壊でケーブルが断線したりするようなトラブルは全くなくなった。」(公報2ページ右上欄11行ないし左下欄1行)

イ.「板ばね材で形成されているケーブルガイド24は、その一部を湾曲せしめ、その両端はリング状に形成されてガイドホルダA、Bに回動自在に係着されている。なおガイドホルダA、Bはそれぞれ関節23及びアーム支持部21に固着されている。第3図はそのガイドホルダAの状況を示すもので、止めねじ31はケーブルガイド24の端部がガイドホルダAより脱落するのを防止するためのものである。さらにケーブル6は、固定部材27、28によりケーブルガイド24に、固定部材29によりアーム支持部21に、また固定部材30によりアーム22に固着されている。
本発明に係るロボットの関節部においては、そのケーブル6は上記のようにロボットに取り付けられているので、第2図においてロボットのアーム22が矢印32のP方向に回動し、それにつれて関節23が矢印33のP方向に回動すると、ケーブルガイド24とそれに固着されたケーブル6は、矢印34のP方向に移動し一点鎖線の位置にくる。同様にしてアーム22が反対Q方向に回動すれば、ケーブルガイド24及びケーブル6は矢印34のQ方向に移動する。このようにケーブル6はケーブルガイド24と一体に移動するので、ケーブルに張力が作用したり、あるいは撓みを生じたりすることはない。」(公報2ページ左下欄15行ないし右下欄20行)

上記記載事項から、引用文献2には、以下の技術事項(以下、「引用文献2記載の技術事項」という。)が記載されている。
「ケーブルガイドを可撓性の大きいバネ材により形成すること。」

(4)引用文献3の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された本願の出願日前に頒布された引用文献である特開昭61-274897号公報(以下、「引用文献3」という。)には、「産業用ロボットのケーブル支持装置」に関して、図面(特に、第2図、第5図を参照。)とともに、次の事項が記載されている。
ア.「第5図を参照すると、このケーブル支持装置はばね性を有する帯板状のケーブル支持板1を備えている。ケーブル支持板1は固定ボデー2の内面と旋回ボデーに固定された案内筒3との間の環状空間4内で略U字状に屈曲されており、ケーブル支持板1の一端1aは固定ボデー2の内面に固定され、他端1bは旋回ボデーの案内筒3の外面に固定されている。ケーブル支持板1はそれ自体のばね力により固定ボデー2の内面及び案内筒3の外面に押し付けられており、案内筒3が旋回ボデーと一緒に旋回移動するとケーブル支持板1の可動側端部1bが案内筒3とともに移動する。」(公報2ページ左上欄12行ないし右上欄4行)

イ.「第2図を参照すると、案内筒18の外周面と固定ボデー11の内面12に設けられた外側案内板19との間の空間内には弾力性を有する帯状のケーブル支持板20が略U字状に屈曲された状態で設けられている。ケーブル支持板20は固定ボデー11に対しねじ21により固定された固定側端部20aと、案内筒18に対しねじ22により固定された可動側端部20bとを有している。ケーブル支持板20のばね力により、その固定側端部20aと屈曲部20cとの間の部分は外側案内板19の内面に押し付けられ、可動側端部20bと屈曲部20cとの間の部分は案内筒18の外周面に押し付けられている。」(公報3ページ左上欄20行ないし左上欄13行)

上記記載事項から、引用文献3には、以下の技術事項(以下、「引用文献3記載の技術事項」という。)が記載されている。
「ケーブル支持板をバネ性を有する材料により形成すること。」

(5)本件補正発明と引用発明との対比
本件補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「可撓性帯状部材(10)」は、その技術的意義及び機能からみて、本件補正発明における「ガイドプレート」に相当し、以下同様に、「取付金具(9)の末端が設けられる部位」は「一端部」に、「支持部材の取付部(15)」は「他端部」に、「屈曲部(18)」は「返し部」に、「ロボット制御用ケーブル(16)」は「ケーブル材」に、「第1のアーム(3)」は「旋回機構」に、「ケーブル支持装置」は「旋回ケーブルガイド」に、それぞれ相当する。
また、引用発明における「屈曲部(18)と前記取付金具(9)の末端が設けられる部位との間の円弧状部」は、本件補正発明における「返し部と前記一端部との間の第1円弧部」に相当し、引用発明における「屈曲部(18)と前記支持部材の取付部(15)との間の円弧状部」は、本件補正発明における「返し部と前記他端部との間の第2円弧部」に相当する。
そして、引用発明における「スチールベルト」は、「鋼」であることを限度として、本件補正発明における「バネ用鋼」と一致する。

したがって、本件補正発明と引用発明は、
「帯状円弧形状の鋼によって形成されたガイドプレートが、その一端部と他端部とが同じ方向を向くように、弾性変形によって中間部分に湾曲した返し部が形成されたものであり、
前記ガイドプレートは、前記返し部と前記一端部との間の第1円弧部と、前記返し部と前記他端部との間の第2円弧部とが旋回軸方向に所定距離をとり、ケーブル材を保持した状態で旋回機構に取り付けられ、
前記旋回機構の駆動により、前記返し部が周方向に変位しながら前記一端部が前記他端部に対して周方向に移動するものである旋回ケーブルガイド。」
の点で一致し、以下の各点で相違している。

[相違点1]
「ケーブル」を保持するための「ガイドプレート」に用いられる「鋼」が、本件補正発明においては、「バネ用」であるのに対して、引用発明のスチールベルトは、バネ用か否か明らかでない点(以下、「相違点1」という。)。

[相違点2]
本件補正発明においては、「旋回機構」を「走行台上」に取り付けるのに対して、引用発明においては、「第1のアーム(3)」(本件補正発明における「旋回機構」に相当。)を「走行台上」に取り付けるかどうかが明らかでない点(以下、「相違点2」という。)。

(6)当審の判断
まず、相違点1について検討する。
「ケーブル」を保持するための「ガイドプレート」を形成するために用いられる材料をバネ性を有するものとすることは、引用文献2記載の技術事項や引用文献3記載の技術事項から公知の技術(以下、「引用文献2及び引用文献3に示されるような公知技術」という。)であると解される。
そして、引用発明の「スチールベルト」は、バネ性を有することは明記されていないが、「可撓性」と記載されているように、板バネのように曲げ伸ばし自在である必要性があるところ、引用文献2及び引用文献3に示されるような公知技術を参酌して、引用発明における「ロボット制御用ケーブル(16)」を保持するための「可撓性帯状部材(10)」に用いられるスチールベルトをバネ性を有するもの、すなわち、バネ用鋼から形成して、上記相違点1に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことである。

次に、相違点2について検討する。
旋回機構を走行台上に取り付けることは、従来から周知の技術(以下、「周知技術」という。例えば、特開昭63-62688号公報の台車11上に取り付けられたロボット本体1及び第2図、並びに、特開2014-140915号公報の移動体4上に取り付けられたロボット2及び【図1】等参照。)である。
そして、引用発明および上記周知技術は、いずれも旋回機構を有するロボットに関するものであるから、引用発明に上記周知技術を適用することにより、引用発明における「第1のアーム(3)」(本件補正発明における「旋回機構」に相当。)を走行台上に取り付けるものとして、上記相違点2に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことである。

また、本件補正発明は、全体としてみても、引用発明、引用文献2及び引用文献3に示されるような公知技術、及び上記周知技術から予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するとも認められない。

(7)請求人の主張
請求人は、審判請求書の5ページ8ないし13行において「しかし、ローダ装置のような走行台上の旋回機構に適応するケーブルガイドの採用は、これまでとは異なる課題解決が求められ、その課題の解決無しに採用はあり得ませんでした。従って、ケーブルガイドの採用に当たっては、従来の効果だけでは足りず、走行台上のケーブルガイドとして要求される効果を達成するための構成が求められ、本願発明の完成には試行錯誤が必要でした。」と主張する。
この点について検討するに、本願明細書には、走行台上の旋回機構に適応するための特別な技術的事項が開示されているとは解されず、また、本件補正発明には、走行台上のケーブルガイドとして要求される効果を達成するための新たな発明特定事項が付加されているとも解されないから、請求人の当該主張を採用することはできない。

(8)むすび
以上のとおり、本件補正発明は、引用発明、引用文献2及び引用文献3に示されるような公知技術、及び上記周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合しないので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について
1.本願発明
平成31年4月5日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成30年7月11日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記第2.[理由]1.(1)に記載のとおりのものである。

2.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由のうちの本願発明についての理由は、本願出願の請求項1に係る発明は、その出願日前に頒布された下記の引用文献1ないし3に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:実願昭57-80748号(実開昭58-184293号)のマイクロフィルム
引用文献2:特開昭64-11781号公報
引用文献3:特開昭61-274897号公報

3.引用文献1ないし3
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1ないし3及びそれらの記載事項は、前記第2.[理由]3.(2)ないし(4)に記載したとおりである。

4.当審の判断
本願発明は、前記第2.の[理由]3.で検討した本件補正発明から、「旋回機構」に係る限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]3.(6)に記載したとおり、引用発明、引用文献2及び引用文献3に示されるような公知技術、及び上記周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるところ、本件補正発明と引用発明との相違点2となった、「走行台上の」という発明特定事項を本願発明は有していないから、本願発明は、引用発明と対比すると、本件補正発明と引用発明との相違点である相違点1と同じ相違点のみを有し、その余の点で一致するものと認められる。
そうすると、本願発明は、引用発明、並びに引用文献2及び引用文献3に示されるような公知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4.むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件出願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-11-11 
結審通知日 2019-11-19 
審決日 2019-12-05 
出願番号 特願2016-546240(P2016-546240)
審決分類 P 1 8・ 572- Z (B25J)
P 1 8・ 121- Z (B25J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松田 長親  
特許庁審判長 栗田 雅弘
特許庁審判官 小川 悟史
中川 隆司
発明の名称 旋回ケーブルガイド  
代理人 廣田 昭博  

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