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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04N
管理番号 1360132
審判番号 不服2018-2319  
総通号数 244 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-02-19 
確定日 2020-02-26 
事件の表示 特願2015-206503「映像符号化装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 3月24日出願公開、特開2016- 40935〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2012年(平成24年)6月20日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2011年6月20日、韓国、2011年7月1日、韓国、2011年11月15日、韓国、2011年11月28日、韓国、2012年6月20日、韓国)を国際出願日として出願した特願2014-516915号の一部を平成27年10月20日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成27年10月21日 :手続補正書の提出
平成28年 8月31日付け:拒絶理由通知書
同年12月 5日 :意見書、手続補正書の提出
平成29年 5月31日付け:拒絶理由通知書(最後)
同年 9月 5日 :意見書、手続補正書の提出
同年10月16日付け:補正の却下の決定、拒絶査定
平成30年 2月19日 :審判請求書、手続補正書の提出
同年 5月24日 :上申書の提出
平成31年 1月15日付け:拒絶理由通知書(当審)
同年 4月17日 :意見書の提出

第2 本願発明
平成30年2月19日に提出された手続補正書における特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
なお、各構成の符号(A)?(C)は、説明のために当審で付したものであり、以下、構成A?構成Cと称する。

〔本願発明〕【請求項1】
(A)現在ブロックに対する予測を、前記現在ブロックのイントラ予測モードに基づいて実行することにより、予測値を生成し、前記予測値に対するフィルタリングを実行することにより予測ブロックを生成する予測ブロック生成部;及び、
(B)前記予測ブロックと前記現在ブロックに対応する復元された差分ブロックとに基づいて復元ブロックを生成する復元ブロック生成部;を含み、
(A)前記予測ブロック生成部は、
(A1)前記現在ブロックのイントラ予測モードが複数のイントラ予測モードのうちの少なくとも一つの予め定義された第1のモードである場合には、第1のオフセットに基づいて左側垂直予測ピクセル・ラインに対するフィルタリングを実行し、
(A2)前記現在ブロックのイントラ予測モードが前記複数のイントラ予測モードのうちの少なくとも一つの予め定義された第2のモードである場合には、第2のオフセットに基づいて上方水平予測ピクセル・ラインに対するフィルタリングを実行し、
(A3)前記左側垂直予測ピクセル・ラインとは、前記現在ブロック内で最も左側に位置する1個の垂直ピクセル・ラインであり、
(A4)前記上方水平予測ピクセル・ラインとは、前記現在ブロック内で最も上方に位置する1個の水平ピクセル・ラインであり、
(A5)前記第1のオフセットは、前記左側垂直予測ピクセル・ラインの左側の垂直参照ピクセル・ラインのピクセルのピクセル値に基づいて決定され、
(A6)前記第2のオフセットは、前記上方水平予測ピクセル・ラインの上部の水平参照ピクセルラインのピクセルのピクセル値に基づいて決定される、
ことを特徴とする
(C)映像符号化装置。

第3 当審による拒絶の理由
当審による平成31年1月15日付け拒絶理由通知において、以下の拒絶の理由を通知している。

平成30年2月19日に提出された手続補正書における特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)のうち、発明特定事項の「第1のモード」及び「第2のモード」における垂直モード及び水平モードを含む部分については、特許法第29条を適用する際の判断の基準となる日は、パリ条約による優先権主張の基礎とされた複数の出願のうちの韓国特許出願10-2011-0119214号の出願日である2011年(平成23年)11月15日である。

本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物(以下、「引用文献」という。)に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

引用文献:Akira Minezawa, Kazuo Sugimoto, Shun-ichi Sekiguchi,
“An improved intra vertical and horizontal prediction”,
Joint Collaborative Team on Video Coding (JCT-VC)
of ITU-T SG16 WP3 and ISO/IEC JTC1/SC29/WG11
6th Meeting: Torino, IT, 2011年7月12日,
JCTVC-F172, p.1 - 6

第4 優先権
1 優先権主張の効果の認否
(1)優先権の主張の基礎となる出願
本願は、以下の出願1?5を基礎としてパリ条約による優先権が主張されたものである。

出願1:韓国特許出願10-2011-0059850号
(出願日:2011年 6月20日)
出願2:韓国特許出願10-2011-0065708号
(出願日:2011年 7月 1日)
出願3:韓国特許出願10-2011-0119214号
(出願日:2011年11月15日)
出願4:韓国特許出願10-2011-0125353号
(出願日:2011年11月28日)
出願5:韓国特許出願10-2012-0066206号
(出願日:2012年 6月20日)

(2)本願発明の発明特定事項
本願発明の構成Aの「現在ブロックのイントラ予測モード」は、構成A1及び構成A2に「複数のイントラ予測モードのうち」と記載されているから、本願発明は、「現在ブロックのイントラ予測モード」が複数のイントラ予測モードを含むことが、発明特定事項として記載されている。
また、本願発明は、当該「現在ブロックのイントラ予測モード」が「複数のイントラ予測モードのうちの少なくとも一つの予め定義された第1のモード」のである場合(構成A1)と「複数のイントラ予測モードのうちの少なくとも一つの予め定義された第2のモード」である場合(構成A2)を含むことが、発明特定事項として記載されている。
そして、本願発明は、当該「第1のモード」である場合に構成A1、構成A3及び構成A5のフィルタリングを実行し、当該「第2のモード」である場合に構成A2、構成A4及び構成A6のフィルタリングを実行することが、発明特定事項として記載されている。
これらの「第1のモード」及び「第2のモード」に係る発明が優先権主張の基礎とされた上記各出願に記載されたものであるか、以下に検討する。

(3)本願の明細書及び図面に記載された発明
本願発明の構成A1?構成A6に対応する構成として、本願の明細書及び図面に記載されている事項は、以下のとおりである。

ア 段落0112、0179及び0180等には、現在ブロックのイントラ予測モードが「垂直右側モード」である場合に構成A1、構成A3及び構成A5に対応するフィルタリングが実行されることが記載されている。

イ 段落0113、0181、0182及び0205?0218等には、現在ブロックのイントラ予測モードが「垂直モード」である場合に構成A1、構成A3及び構成A5に対応するフィルタリングが実行されることが記載されている。

ウ 段落0112、0183及び0184等には、現在ブロックのイントラ予測モードが「水平下方モード」である場合に構成A2、構成A4及び構成A6に対応するフィルタリングが実行されることが記載されている。

エ 段落0113、0185、0186、0205?0207及び0220?0231等には、現在ブロックのイントラ予測モードが「水平モード」である場合に構成A2、構成A4及び構成A6に対応するフィルタリングが実行されることが記載されている。

上記ア及びイから、本願発明の「第1のモード」は、少なくとも「垂直右側モード」及び「垂直モード」を含むものである。また、上記ウ及びエから、本願発明の「第2のモード」は、少なくとも「水平下方モード」及び「水平モード」を含むものである。

(4)出願1の出願書類全体に記載された事項
出願1の出願書類全体には、現在ブロックのイントラ予測モードが「垂直モード」あるいは「水平モード」の場合にフィルタリングが実行されることは記載されていない。

(5)出願2の出願書類全体に記載された事項
本願発明の構成A1?構成A6に対応する構成として、出願2の出願書類全体に記載された事項は、以下のとおりである。

ア 段落45、46、74、75、78、92、0093、図5及び図14?16等には、現在ブロックのイントラ予測モードが「垂直右側モード」である場合に構成A1、構成A3及び構成A5に対応するフィルタリングが実行されること、また、現在ブロックのイントラ予測モードが「水平下方モード」である場合に構成A2、構成A4及び構成A6に対応するフィルタリングが実行されることが記載されている。

イ 段落10、76、78、92、0093、図3及び図16等には、現在ブロックのイントラ予測モードが「垂直モード」(mode=0)及び「水平モード」(mode=1)の場合にはフィルタリングが実行されない(filter type=0)ことが記載されている。

ウ 出願2の出願書類全体には、現在ブロックのイントラ予測モードが「垂直モード」あるいは「水平モード」の場合にフィルタリングが実行されることは記載されていない。

(6)出願3の出願書類全体に記載された事項
本願発明の構成A1?構成A6に対応する構成として、出願3の出願書類全体に記載された事項は、以下のとおりである。

ア 段落113、117、0119及び125?0127等には、現在ブロックのイントラ予測モードが「垂直モード」(mode=1)である場合に構成A1、構成A3及び構成A5に対応するフィルタリングが実行されること、また、現在ブロックのイントラ予測モードが「水平モード」(mode=2)である場合に構成A2、構成A4及び構成A6に対応するフィルタリングが実行されることが記載されている。

(7)まとめ
上記(5)アから、現在ブロックのイントラ予測モードが「垂直右側モード」または「水平下方モード」である場合に本願発明の構成A1?構成A6に対応するフィルタリングが実行されることが、出願2の出願書類全体に記載されているから、本願発明の「第1のモード」及び「第2のモード」が「垂直右側モード」及び「水平下方モード」である部分については、出願2を基礎とする優先権の主張の効果が認められる。

他方、上記(4)、(5)イ及びウから、現在ブロックのイントラ予測モードが「垂直モード」または「水平モード」である場合に本願発明の構成A1?構成A6に対応するフィルタリングが実行されることは、出願1及び出願2の出願書類全体には記載されていないこと、上記(6)アから、現在ブロックのイントラ予測モードが「垂直モード」または「水平モード」である場合に本願発明の構成A1?構成A6に対応するフィルタリングが実行されることが、出願3の出願書類全体に記載されていることが認められる。
よって、本願発明の「第1のモード」及び「第2のモード」が「垂直モード」及び「水平モード」である部分については、出願2を基礎とする優先権の主張の効果が認められず、出願3を基礎とする優先権の主張の効果が認められる。

したがって、本願発明の「第1のモード」及び「第2のモード」が「垂直右側モード」及び「水平下方モード」である部分については、その優先日は、出願2の出願日である2011年7月1日である。
そして、本願発明の「第1のモード」及び「第2のモード」が「垂直モード」及び「水平モード」である部分については、その優先日は、出願3の出願日である2011年11月15日である。

2 請求人の主張について
(1)請求人の主張
請求人は、平成31年4月17日付け意見書において、以下の主張を行っている。

「2)論点1
上記御認定に対して、出願人は以下のように意見を述べる。
請求項1において明確に定義されているように、「第1のモード」は複数のイントラ予測モードのうちの少なくとも1つの予め定義されたものであって、特定のモード(例えば、垂直右側モードや垂直モード等)として特定されてはいない。同様に、第2のモードは複数のイントラ予測モードのうちの少なくとも1つの予め定義されたものであって、特定のモード(例えば、水平下方モードや水平モード等)として特定されていない。
すなわち、請求項1に係る発明は、現在ブロックのイントラ予測モードが複数のイントラ予測モードのうち、予め定義された第1のモードである場合には、第1のフィルタリング(すなわち、第1のオフセットに基づいて左側垂直予測ピクセル・ラインに対するフィルタリング)を行う。 そして、予め定義された第2のモードである場合には、第2のフィルタリング(すなわち、第2のオフセットに基づいて上方水平予測ピクセル・ラインに対するフィルタリング)を行う。
あるいは、請求項1に係る発明は、1)複数のフィルタリングのうちの1つのフィルタリング(すなわち、第1のフィルタリング及び第2のフィルタリング)が選択的にブロックに適用され、ブロックに提供されるべきフィルタの選択が、ブロックのイントラ予測モードにしたがって決定される。
請求項1に係る発明において、第1のモード及び第2のモードのそれぞれは、イントラ予測に対して利用可能なイントラ予測モードのうちのいずれか1つのイントラ予測モードであればよいのであって、どの特定のイントラ予測モードが第1のモードまたは第2のモードであるかについては限定されていない。
本願の優先権主張の基礎となる出願1?5のうち、出願1及び出願2において、請求項1に係る発明の技術的特徴は、直接的かつ明確に説明されている。
その一例として、第1のモードが垂直右側モードであり、第2のモードが水平下方モードである実施形態が明確に記載されている。すなわち、出願1及び出願2の実施形態は、請求項1に係る発明をさらに具体化した下位概念を記載したものである。これらの実施形態にしたがって、請求項1に係る発明は直接的かつ明確に導き出される。
審判官殿は、第1のモードが垂直モードで第2のモードが水平モードである実施形態が出願3に記載されていると認定されている。
しかしながら、このような実施形態及び実施形態の記載により、本願の優先権主張が有効である基準日が出願3の出願日であるとすることは、不合理であると思量する。
例えば、いずれの優先権主張の基礎となる出願においても、第1のモードがDCモードであり第2のモードがプラナーモードである実施形態が存在しないような場合には、審判官殿の御認定によれば請求項1に優先権を付与することはできないこととなる。
出願2の実施形態(すなわち、垂直右側モード及び水平下方モードの実施形態)及び出願3の実施形態(すなわち、垂直モード及び水平モードの実施形態)のそれぞれは、 請求項1に係る発明を相互に独立してサポートする関係にある。
請求項1に係る発明は、出願2の実施形態と第3優先出願の実施形態との組み合わせによってのみサポートされるものではなく、また出願3の実施形態のみによってサポートされるものでもない。
したがって、請求項1の優先権主張の基準日は、請求項1に係る発明をサポートする実施形態が最初に記載された出願2の出願日となるべきであると思量する。
すなわち、「前記現在ブロックのイントラ予測モードが複数のイントラ予測モードのうちの少なくとも一つの予め定義された第1のモードである場合には、第1のオフセットに基づいて左側垂直予測ピクセル・ラインに対するフィルタリングを実行し、前記現在ブロックのイントラ予測モードが前記複数のイントラ予測モードのうちの少なくとも一つの予め定義された第2のモードである場合には、第2のオフセットに基づいて上方水平予測ピクセル・ラインに対するフィルタリングを実行し」という技術的特徴は、少なくとも出願2において明確に記載されている。
したがって、本願の優先権主張の基準日は、少なくとも出願2(韓国特許出願10-2011-0065708号)の出願日(2011年7月1日)であり、この出願日の後に公開された引用文献1及び3、またこの出願日の後に公開された他の全ての先行技術文献は、本願の新規性進歩性を判断する際における先行技術文献として適格性を有しないものであると思量する。

3)論点2
ここで、第1のモードが垂直右側モードであり、第2のモードが水平下方モードであると仮定する。
このように仮定した場合、この仮定された内容が加えられた請求項1に係る発明は、現在の請求項1に係る発明と上記仮定された内容との組み合わせに相当する。第1のモード及び第2のモードが上記仮定された内容で限定されているので、仮定された内容が加えられた請求項1に係る発明の技術的特徴は、出願2によってサポートされることは明らかである。
また、仮定された内容が加えられた請求項1に係る発明は、現在の請求項1に係る発明よりも技術的範囲が狭いことは明らかである。そして、現在の請求項1に係る発明の優先権主張が有効である基準日が、現在の請求項1よりさらなる限定が加えられた、仮定された内容が加えられた請求項1に係る発明よりも遅くなることは、明らかに不合理である。例えば、請求項1より限定された従属項に係る発明の優先権主張の基準日が、その従属項が引用する独立項に係る発明の優先権主張の基準日よりも前であるとすることは、不合理である。
審判官殿の御認定によれば、第1のモードが垂直モードであり第2のモードが水平モードである実施形態が、出願3に記載されている。
しかしながら、上述したような請求項1に係る発明の基準日が出願3であるとすることが可能であるのは、第1のモードが垂直モードであり、第2のモードが水平モードであるという限定が、現在の請求項1に係る発明に加えられて限定された場合のみである。
このような第1のモードが垂直モードであり、第2のモードが水平モードであるという限定的記載は、現在の特許請求の範囲の請求項1?9において全く記載されていない。

4)論点3
請求項1に係る発明の解釈に関し、審判官殿は、第1のモード、第2のモードは常に垂直モード、水平モードにそれぞれ対応するという解釈に基づいているものと思量する。すなわち、i)例外なく一律に、垂直モード及び水平モードでフィルタリングは常に実行されること、ii)垂直モード及び水平モードを、フィルタリングが適用されるイントラ予測モードから除外することはできない、という解釈に基づいているものと思量する。
しかしながら、本願明細書の段落[0109]、[0113]には、以下のように記載されている。
「[0109]
【表1】



「[0113]
また、符号化器及び復号化器は、表1の実施例と違って、垂直モード(例えば、モード値が0である予測モード)及び水平モード(例えば、モード値が1である予測モード)に対しフィルタリングを実行することもできる。現在ブロックのイントラ予測モードが垂直モードの場合、符号化器及び復号化器は、上方参照ピクセルを利用して現在ブロックに対するイントラ予測を実行するため、予測ブロック内の左側領域に位置した予測ピクセルと左側参照ピクセルとの間の連関性が少さくなることができる。」
このように、表1には、(モード値が0である)垂直モードと(モード値が1である)水平モードについては、フィルタリングが実行されないことが記載されている。
また、本願明細書の段落[0244]、[0245]において、以下のように記載されている。
「[0244]
【表7】



「[0245]
表7において、フィルタタイプに割り当てられた値が0の場合、前記フィルタタイプは、予測ブロックに対してフィルタリングが実行されないことを示すことができる。また、フィルタタイプに割り当てられた値が1、2又は3の場合、前記フィルタタイプは、予測ブロックに対してフィルタリングが実行されることを示すことができる。」
表5によれば、異なるイントラ予測モードに対して3つの異なるフィルタリングモード(1、2、3)があり、(モード値が0である)垂直モード及び(モード値が1である)水平モードの場合には、予測ブロックに対してフィルタリング(0)は適用されない。これらのフィルタリングの原則については、本願明細書の他の部分においても説明されている。
すなわち、本願明細書には、垂直モード及び水平モードに対してフィルタリングが適用されない実施形態について、明確に記載されている。
したがって、本願発明の解釈に関し、左側垂直予測ピクセル・ラインに対するフィルタリング及び上方水平予測ピクセル・ラインに対するフィルタリングのために、垂直モードと水平モードとを対象として含めるべきであると解釈することは、非論理的であり不合理であると思量する。
以上より、本願の請求項1及び請求項2?9に係る発明の新規性進歩性を判断する際に優先権主張が有効である基準日は、出願2(韓国特許出願10-2011-0065708号)の出願日(2011年7月1日)であると思量する。」

(2)主張の採否
しかしながら、上記各論点に係る請求人の主張は以下の理由によりいずれも採用することができない。

(2-1)論点1について
請求人は、論点1として、請求項1に係る発明は、第1のモード及び第2のモードのそれぞれは、複数のイントラ予測モードのうちの少なくとも1つの予め定義されたものであって、特定のモード(例えば、垂直右側モードや垂直モード等)として特定されてはいないとし、請求項1の優先権主張の基準日は、請求項1に係る発明をサポートする実施形態が最初に記載された出願2の出願日となるべきであると思量する旨主張する。

しかしながら、上記1で検討したとおり、本願は、複数の第一国出願(出願1?出願5)に基づくパリ条約による優先権の主張を伴っている出願であるから、本願の請求項1に係る「複数のイントラ予測モード」に係る発明については、各イントラ予測モードごとに、対応する第一国出願に基づくパリ条約による優先権の主張の効果の有無を判断するのであるから、請求人の主張は失当であり採用することはできない。
なお、出願2の出願書類全体には記載がない事項であって、出願3の出願書類に記載した事項について、その優先権の主張の効果を出願2の出願日となるべきとすることは当然にできない。

(2-2)論点2について
請求人は、論点2として、請求項1に係る発明の優先日が、請求項1にさらなる限定が加えられた従属項に係る発明の優先日より前であることは不合理である旨主張する。
また、請求人は、請求項1に係る発明の基準日が出願3であるとすることは、「第1のモードが垂直モードであり、第2のモードが水平モードである」という限定が、現在の請求項1に係る発明に加えられて限定された場合のみである旨主張する。

しかしながら、上記(2-1)のとおり、請求項1に係る「複数のイントラ予測モード」に係る発明については、請求項1に係る発明が「複数のイントラ予測モード」のいずれか一つのイントラ予測モードが限定されたものとして判断されるのではなく、各イントラ予測モードごとに、対応する第一国出願に基づくパリ条約による優先権の主張の効果の有無を判断しているから、各イントラ予測モードごとに優先日が判断される。
よって、請求人の「複数のイントラ予測モード」のいずれか一つのイントラ予測モードが限定されたものと仮定した主張は失当であり、採用することはできない。

(2-3)論点3について
請求人は、論点3として、拒絶理由における「請求項1に係る発明の解釈」に関して、「第1のモード、第2のモードは常に垂直モード、水平モードにそれぞれ対応するという解釈に基づいているものと思量する」ことに基いて、また、「本願明細書には、垂直モード及び水平モードに対してフィルタリングが適用されない実施形態について明確に記載されている」ことに基いて、請求項1の優先権主張の基準日は、出願2の出願日であると思量する旨主張する。

しかしながら、上記1(2)?(3)のとおり、請求項1に係る「複数のイントラ予測モード」に係る発明については、本願発明の「第1のモード」は、少なくとも「垂直右側モード」及び「垂直モード」を含むものであり、「第2のモード」は、少なくとも「水平下方モード」及び「水平モード」を含むものであることに基いて、優先権の主張の効果の有無を判断しているから、請求人の「常に垂直モード、水平モードにそれぞれ対応するという解釈に基づいている」とする主張は失当である。
また、上記1(2)イ及びエのとおり、請求項1に係る発明の構成A1?構成A6に対応するフィルタリングが実行される構成として、本願の明細書及び図面に記載されている事項を判断しているから、請求人の「フィルタリングが適用されない実施形態について明確に記載されている」ことに基づく主張は失当である。

第5 引用文献の記載事項及び引用発明
1 引用文献の記載事項
上記第4のとおり、本願発明のうち「第1のモード」及び「第2のモード」が垂直モード及び水平モードを含む部分についての有効な優先日は、出願3の出願日である2011年11月15日である。
そして、上記有効な優先日より前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった上記引用文献には、次の事項が記載されている。
なお、以下の下線は、強調のために当審で付したものである。

ア「Abstract
In this contribution, a modification to intra vertical and horizontal prediction is proposed. In the proposed scheme, difference between two reference samples in left or above prediction direction is scaled and added to corresponding prediction sample in intra vertical and horizontal prediction modes.」(1頁1?4行)
(仮訳:
概要
本稿ではイントラ垂直及び水平予測の改良を提案する。提案法ではイントラ垂直及び水平予測モードにおいて、左又は上の予測方向における2つの参照サンプルの差がスケールされて、対応する予測サンプルに加えられる。)

イ「2 Proposed scheme
We propose to replace the derivation process for intra vertical and horizontal prediction samples adopted in WD-3 to the following.

Vertical prediction:



Horizontal prediction:



where (x,y) indicates the position of prediction sample in a luma prediction block as shown in Figure 1, S'(x,y) indicates the sample to be predicted and S(x,y) indicates the reference sample to be used for conventional prediction.



Figure 1. The coordinate for vertical and horizontal prediction

We also tested a simplified version of the proposed method as specified below.

Vertical prediction:



Horizontal prediction:



(1頁8行?3頁1行)
(仮訳:
2 提案法
WD-3のイントラ垂直及び水平予測サンプルの導出プロセスを次のものに置き換えることを提案する。

垂直予測: (式は省略) (1)
水平予測: (式は省略) (2)

ここで、(x,y)は、図1のとおり輝度予測ブロックにおける予測サンプルの位置を示し、S’(x,y)は予測されるサンプルを示し、S(x,y)は従来の予測で用いられる参照サンプルを示す。

(図は省略)
図1 垂直及び水平予測の座標

また、以下の提案法の簡易版もテストした。

垂直予測: (式は省略) (3)
水平予測: (式は省略) (4) )

2 引用文献に記載の技術的事項
上記1に摘記した記載から、引用文献には、以下(ア)?(ウ)の技術的事項が記載されているものと認められる。

(ア)記載アには、提案法として、イントラ垂直及び水平モードにおいて、左又は上の予測方向における2つの参照サンプルの差がスケールされて、対応する予測サンプルに加えられる方法が記載されている。

(イ)記載イには、前記提案法の詳細として、WD-3のイントラ垂直及び水平予測サンプルの導出プロセスに代えて、垂直予測では、輝度予測ブロックにおける参照サンプルに式(3)を適用して予測されるサンプルを算出し、水平予測では、輝度予測ブロックにおける参照サンプルに式(4)を適用して予測されるサンプルを算出することが記載されている。

(ウ)記載イの図1に基づけば、式(3)は、垂直予測において、予測ブロックの最も左側の列(x=0)のピクセルについては、従来の予測で用いられる参照サンプルS(0,-1)に、予測対象サンプルの左側の従来の予測で用いられる参照サンプルS(-1,y)から前記予測ブロックの最も左上側のピクセルの左上の従来の予測で用いられる参照サンプルS(-1,-1)を減じて2で除したものを加えることにより予測されるサンプルS’(0,y)を算出し、その他の列(x≧1)のピクセルについては、従来の予測で用いられる参照サンプルS(x,-1)を予測されるサンプルS’(x,y)とするというものである。
同様に、式(4)は、水平予測において、予測ブロックの最も上側の列(y=0)のピクセルについては、従来の予測で用いられる参照サンプルS(-1,0)に、予測対象サンプルの上側の従来の予測で用いられる参照サンプルS(x、-1)から前記予測ブロックの最も左上側のピクセルの左上の従来の予測で用いられる参照サンプルS(-1,-1)を減じて2で除したものを加えることにより予測されるサンプルS’(x,0)を算出し、その他の行(y≧1)のピクセルについては、従来の予測で用いられる参照サンプルS(-1,y)を予測されるサンプルS’(x,y)とするというものである。
ここで、上記「垂直予測」及び「水平予測」は、記載アの「イントラ垂直モード」及び「イントラ水平モード」に対応するものと認められる。

3 引用発明
上記2より、引用文献には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお、引用発明における各構成の符号(a)?(d2)は、説明のために当審が付したものであり、以下、構成a?構成d2と称する。

〔引用発明〕
(a)イントラ垂直及び水平モードにおいて、左又は上の予測方向における2つの参照サンプルの差がスケールされて、対応する予測サンプルに加えられる方法であって、
(b)WD-3のイントラ垂直及び水平予測サンプルの導出プロセスに代えて、
(c1)イントラ垂直モードでは、予測ブロックの最も左側の列(x=0)のピクセルについては、従来の予測で用いられる参照サンプルS(0,-1)に、予測対象サンプルの左側の従来の予測で用いられる参照サンプルS(-1,y)から前記予測ブロックの最も左上側のピクセルの左上の従来の予測で用いられる参照サンプルS(-1,-1)を減じて2で除したものを加えることにより予測されるサンプルS’(0,y)を算出し、
(c2)その他の列(x≧1)のピクセルについては、従来の予測で用いられる参照サンプルS(x,-1)を予測されるサンプルS’(x,y)とし、
(d1)イントラ水平モードでは、予測ブロックの最も上側の列(y=0)のピクセルについては、従来の予測で用いられる参照サンプルS(-1,0)に、予測対象サンプルの上側の従来の予測で用いられる参照サンプルS(x、-1)から前記予測ブロックの最も左上側のピクセルの左上の従来の予測で用いられる参照サンプルS(-1,-1)を減じて2で除したものを加えることにより予測されるサンプルS’(x,0)を算出し、
(d2)その他の行(y≧1)のピクセルについては、従来の予測で用いられる参照サンプルS(-1,y)を予測されるサンプルS’(x,y)とする
(a)方法。

第6 対比
本願発明と引用発明とを対比する。

1 構成Cについて
WD-3は、HEVCのWorking Draftのことであるから、映像符号化に係る技術である。そして、本方法の各処理は映像符号化装置の各処理手段として実現されることは当業者に明らかな事項であるから、引用発明は実質的に映像符号化装置であることが記載されているといえる。
よって、引用発明は、構成Cを有する点で、本願発明と一致する。

2 構成Aについて
構成c1の処理で使用される「従来の予測で用いられる参照サンプルS(0,-1)」、構成c2の処理で使用される「従来の予測で用いられる参照サンプルS(x,-1)」、構成d1の処理で使用される「従来の予測で用いられる参照サンプルS(-1,0)」及び構成d2の処理で使用される「従来の予測で用いられる参照サンプルS(-1,y)」は、本願発明の「予測値」に相当する。また、構成c1の「イントラ垂直モード」及び構成d2の「イントラ水平モード」は、構成Aの「イントラ予測モード」に相当する。
そして、当該「参照サンプルS(0,-1)」、「参照サンプルS(x,-1)」、「参照サンプルS(-1,0)」及び「参照サンプルS(-1,y)」を、イントラ垂直モードにおける構成c1及び構成c2並びにイントラ水平モードにおける構成d1及び構成d2の各処理において使用される対象とすることは、構成Aの「現在ブロックに対する予測を、前記現在ブロックのイントラ予測モードに基づいて実行することにより、予測値を生成」することに相当する。
また、引用発明の、構成c1及び構成d1は、前記イントラ垂直及び水平モードにおける従来の予測で用いられる「参照サンプルS(0,-1)」及び「参照サンプルS(-1,0)」に対して演算処理を行うことから、構成Aの「予測値に対するフィルタリングを実行すること」に相当する。
そして、引用発明の以上の予測に係る処理は、ブロックを単位として行われるものであるから、構成Aの「予測ブロックを生成する」処理に相当する構成を有している。

以上から、引用発明は、構成Aを有する点で、本願発明と一致する。

3 構成A1?構成A6について
構成c1における
「イントラ垂直モード」、
「予測ブロックの最も左側の列(x=0)」、及び、
「予測対象サンプルの左側の従来の予測で用いられる参照サンプルS(-1,y)から前記予測ブロックの最も左上側のピクセルの左上の従来の予測で用いられる参照サンプルS(-1,-1)を減じて2で除したもの」は、
構成A1の「複数のイントラ予測モードのうちの少なくとも一つの予め定義された第1のモード」、
構成A3の「現在ブロック内で最も左側に位置する1個の垂直ピクセル・ライン」である構成A1の「左側垂直予測ピクセル・ライン」、及び、
構成A5の「左側垂直予測ピクセル・ラインの左側の垂直参照ピクセル・ラインのピクセルのピクセル値に基づいて決定」される構成A1の「第1のオフセット」
にそれぞれ相当する。

また、構成d1における
「イントラ水平モード」、
「予測ブロックの最も上側の列(y=0)」、及び、
「予測対象サンプルの上側の従来の予測で用いられる参照サンプルS(x、-1)から前記予測ブロックの最も左上側のピクセルの左上の従来の予測で用いられる参照サンプルS(-1,-1)を減じて2で除したもの」は、
構成A2の「複数のイントラ予測モードのうちの少なくとも一つの予め定義された第2のモード」、
構成A4の「現在ブロック内で最も上方に位置する1個の水平ピクセル・ライン」である構成A2の「上方水平予測ピクセル・ライン」、及び、
構成A6の「上方水平予測ピクセル・ラインの上部の水平参照ピクセルラインのピクセルのピクセル値に基づいて決定」される構成A2の「第2のオフセット」
にそれぞれ相当する。

以上のとおり、引用発明は、構成A1?A6の内容を全て備えるから、構成A1?A6を有する点で、本願発明と一致する。

4 構成Bについて
上記1のとおり、WD-3は、HEVCのWorking Draftのことであるから、引用発明のブロックを単位とした映像符号化において、予測値に予測誤差の値を加えて符号化の結果である画素値を復元する局部復号処理が備わっていることは、当業者に明らかな事項である。
よって、引用発明は、構成Bを有する点で、本願発明と一致する。

5 まとめ
上記1?4のとおり、本願発明のうち「第1のモード」及び「第2のモード」が垂直モード及び水平モードを含む部分について、引用発明と一致するから、本願発明は、引用文献に記載された発明である。

第7 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用文献に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-09-30 
結審通知日 2019-10-01 
審決日 2019-10-15 
出願番号 特願2015-206503(P2015-206503)
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (H04N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山▲崎▼ 雄介赤穂 州一郎  
特許庁審判長 清水 正一
特許庁審判官 樫本 剛
藤原 敬利
発明の名称 映像符号化装置  
代理人 吉元 弘  
代理人 永井 浩之  
代理人 朝倉 悟  
代理人 中村 行孝  
代理人 関根 毅  
代理人 佐藤 泰和  

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