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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1360146
審判番号 不服2018-13917  
総通号数 244 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-10-19 
確定日 2020-02-26 
事件の表示 特願2017- 95460「グレアを低減するグレージング物品」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 9月14日出願公開,特開2017-161928〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 事案の概要
1 手続等の経緯
特願2017-95460号(以下「本件出願」という。)は,2011年(平成23年)12月6日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2010年12月10日 米国)を国際出願日とする特願2013-543242号の一部を新たな特許出願としたものであって,その手続等の経緯の概要は,以下のとおりである。
平成29年 5月12日付け:手続補正書
平成30年 2月 7日付け:拒絶理由通知書
平成30年 5月17日付け:意見書
平成30年 5月17日付け:手続補正書
平成30年 6月11日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
平成30年10月19日付け:審判請求書

2 本願発明
本件出願の請求項1?請求項5に係る発明は,それぞれ,平成30年5月17日にされた手続補正後の特許請求の範囲の請求項1?請求項5に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ,請求項1に係る発明は,次のものである(以下「本願発明」という。)。
「 反射性偏光フィルム物品を備え,
前記反射性偏光フィルム物品が,反射性偏光フィルムと,前記反射性偏光フィルムの一方の側のみに配置される反射防止剤層と,を備え,
前記反射防止剤層が着色層又は吸収性偏光層を備え,前記反射防止剤層は前記反射性偏光フィルムから反射される光を防止し,前記反射性偏光フィルム物品は,前記反射性偏光フィルムの偏光ブロック軸線が水平となるようにかつ前記反射防止剤層が前記反射性偏光フィルムの室内側に位置するように窓のグレージング基材の一方の側のみに取り付けられた場合に,水平表面から反射される光及びレイリー散乱光を含む水平偏光であるグレアを減少させ,前記反射性偏光フィルム物品が,水平偏光を水平偏光入射可視光の90%以下まで低減する,反射性偏光フィルムの偏光ブロック軸線が水平となるようにかつ反射防止剤層が反射性偏光フィルムの室内側のみに位置するように窓のグレージング基材の一方の側のみに取り付けるためのフィルム。」

3 原査定について
原査定の拒絶の理由は,(新規性)本件出願の請求項1?請求項5に係る発明は,その優先権主張の日(以下「本件優先日」という。)前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特表2002-502503号公報(以下「引用文献1」という。)に記載された発明であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができない,また,(進歩性)本件出願の請求項1?請求項5に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である引用文献1に記載された発明に基づいて,本件優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

第2 当合議体の判断
1 引用文献の記載及び引用発明
(1) 引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由において引用された上記引用文献1は,本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ,そこには,以下の記載がある。なお,下線は当合議体が付したものであり,引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。また,文章からみて不要と理解される改行は,除いて記載してある。
ア 13頁3?6行(行は空行を除いて数えている,以下同じ。)
「発明の背景
本発明は,反射率や透過率などの光学特性を制御するための好適な構造物を含んでなる光学材料に関する。更なる態様において,本発明は,反射光または透過光の比偏光の制御に関する。」

イ 18頁1?14行
「発明の概要
1態様において,本発明は,複屈折連続ポリマ相と,該連続相中に分散された実質的に非複屈折の分散相と,を含んでなる拡散反射フィルムまたはその他の光学体に関する。連続相および分散相の屈折率は,3つの互いに直交する軸のうちの第1の軸に沿って実質的に不一致であり(すなわち,互いに約0.05よりも大きく異なっている),3つの互いに直交する軸のうちの第2の軸に沿って実質的に一致する。いくつかの実施態様において,鏡または偏光子を作製するうえで,連続相および分散相の屈折率は,3つの互いに直交する軸のうちの第3の軸に沿って,すなわちその軸に平行に,実質的に一致していても一致していなくてもよい。不一致軸に沿って,すなわちその軸に平行に,偏光された入射光は散乱されて,顕著な拡散反射を生じる。一致軸に沿って偏光された入射光の散乱はかなり少なく,実質的にスペクトルに応じて透過される。これらの性質を使用すると,顕著な透過を示さない偏極の光は拡散反射される低損失(顕著な吸収を示さない)反射偏光子などの様々な用途の光学フィルムが作製できる。」

ウ 19頁5?10行
「 更にもう1つの態様において,本発明は,高い消光比を有する反射偏光子として作用する光学体に関する。この態様では,一致軸における屈折率差はできるかぎり小さくし,不一致軸における差は最大にする。容積分率,厚さ,ならびに分散相の粒子サイズおよび形状は,消光比を最大にするように選択できるが,様々な偏光に対する光の透過および反射の相対的重要性は,様々な用途に応じて変化する可能性がある。」

エ 22頁21?25行
「 図1?2は,本発明の第1の実施態様を示している。本発明に従えば,複屈折マトリックス相または連続相12と,不連続相または分散相14とから成る拡散反射光学フィルム10または他の光学体が作製される。連続相の複屈折率は,典型的には,少なくとも約0.05,好ましくは少なくとも約0.01,より好ましくは少なくとも約0.15,最も好ましくは少なくとも約0.2である。」
(当合議体注:図1及び図2は,以下の図である。)
図1:

図2:


オ 23頁7?11行
「 特定の軸に沿った屈折率の不一致は,その軸に沿って偏光された入射光が実質的に散乱され,その結果,かなりの反射量となるという効果をもつ。これとは対照的に,透過率が一致している軸に沿って偏光された入射光は,散乱の量はかなり少なく,正透過または正反射されるであろう。この効果を利用すると,反射偏光子および鏡などの様々な光学デバイスを作製することができる。」

カ 46頁16?21行
「多層の組合せ
必要な場合には,本発明に従って作製された連続相/分散相フィルムの1つ以上のシートを,多層フィルムと併用するかまたは多層フィルム中のコンポーネントとして使用してもよい(すなわち,反射率を増大させるために)。好適な多層フィルムとしては,WO 95/17303(Ouderkirkら)に記載されているタイプのフィルムが挙げられる。」

キ 47頁5?7行
「 図5は,本発明のこの実施態様の1例を示している。ここでは,光学体は,PENの層22とco-PENの層24とが交互に配置されてなる層を有する多層フィルム20から成る。」
(当合議体注:図5は,以下の図である。)
図5:


ク 51頁13行?52頁9行
「染料,顔料,インキ,およびイメージング層
概観を変えるために,または特定の用途に合うように調整するために,インキ,染料,または顔料を用いて本発明のフィルムおよび光学デバイスを処理してもよい。この場合,例えば,フィルムをインキで処理してもよいし,または製品識別記号,広告,注意書き,装飾,もしくは他の情報を表示するのに使用される印刷表示を用いて処理してもよい。スクリーン印刷,凸版印刷,オフセット印刷,フレキソグラフィー印刷,スティプル(stipple)印刷,レーザ印刷などの様々な技術を使用して,フィルム上に印刷することができ,更に,1成分および2成分インキ,酸化乾燥インキおよびUV乾燥インキ,溶解インキ,分散インキ,100%インキ系などの様々なタイプのインキを使用することもできる。
また,フィルムを着色することによって,光学フィルムの概観を変えることもできるが,こうした着色は,例えば,光学フィルムに染色フィルムをラミネートすることにより,光学フィルムの表面上に顔料コーティングを施すことにより,または光学フィルムの作製に使用された1つ以上の材料(例えば,連続相または分散相)中に顔料を添加することにより行われる。
本発明において,可視および近赤外の両方の染料および顔料が考えられるが,具体的には,UVを吸収して可視カラースペクトル領域に蛍光を発する染料などの蛍光増白剤が挙げられる。光学フィルムの概観を変えるために追加しうる他の層としては,例えば,不透明(黒色)層,拡散層,ホログラフィックイメージもしくはホログラフィック拡散体,および金属層が挙げられる。これらの層はそれぞれ,光学フィルムの一方または両方の面に直接適用してもよいし,または光学フィルムにラミネートされる第2のフィルムまたはフォイル構成体のコンポーネントであってもよい。この他,光学体を他の表面にラミネートするために使用される接着剤層中に,不透明剤もしくは拡散剤または着色顔料などのいくつかの成分を添加してもよい。」

ケ 52頁17?21行
「 二色性染料は,本発明のフィルムおよび光学デバイスが利用される多くの用途に対して特に有用な添加剤である。なぜなら,二色性染料は,材料中で分子を整列させたときに,特定の偏光を吸収することができるからである。1つの偏光だけを主に散乱するフィルムまたは他の材料の中で二色性染料を使用すると,こうした材料は,1つの偏光を他の偏光よりも多く吸収するようになる。」

コ 55頁1?5行
「接着剤
本発明の光学フィルムおよびデバイスを,他のフィルム,表面,または支持体にラミネートするために,接着剤を使用してもよい。このような接着剤としては,光学的に透明な接着剤および光を拡散する接着剤,更には,感圧接着剤および非感圧接着剤が挙げられる。」

サ 56頁23行?57頁21行
「採光窓
本発明の光学フィルムおよびデバイスは,光の拡散透過が望ましくかつ採光窓の透明性または明澄性が不要かもしくは望まれない天窓もしくはプライバシーウィンドウなどの採光窓に使用するうえで有用である。このような用途において,本発明の光学フィルムは,プラスチックやガラスなどの従来の透明板材料と組合せて使用するか,またはそのコンポーネントとして使用してもよい。このようにして作製された透明板材料に次のような偏光特異性をもたせることができる:すなわち,採光窓は第1の偏光に対して本質的に透過性であるが第2の偏光を実質的に反射することにより,グレアが除去または軽減される。光学フィルムの物理的性質もまた,本明細書中の教示に従って次のように変えることができる:すなわち,透明板材料は,特定のスペクトル領域(例えば,UV領域)内の一方または両方の偏光を反射するが,他の領域(例えば,可視領域)中では一方または両方の偏光を透過する。
本発明の光学フィルムは,特定の波長の光を透過する装飾用採光窓を提供するために使用してもよい。このような採光窓は,例えば,部屋を1つまたは複数の特定の色(例えば,青色または金色)にするために使用してもよいし,または波長特異性のある照明用パネルを利用して部屋の装飾にアクセントをつけるために使用してもよい。
本発明の光学フィルムは,コーティングまたは押出など,当該技術分野で周知の種々の方法により透明板材料中に組込むことができる。この場合,1実施態様において,光学フィルムは,ラミネーションによりまたは光学接着剤を使用して,透明板材料の外面の全部または一部分に接着される。もう1つの実施態様において,本発明の光学フィルムは二枚のガラスまたはプラスチックの間に挟持され,得られた複合体は採光窓の中に組込まれる。もちろん,利用される特定の用途に対してより適したものにするために,本明細書中の記載に従って,任意の他の層またはコーティング(例えば,UV吸収層,防曇層,または反射防止層)を光学フィルムに施してもよい。」

(2) 引用発明
引用文献1の18頁1?14行(前記(1)イ)には,引用文献1でいう「本発明」の光学フィルムが記載され,56頁23行?57頁21行(前記(1)サ)には,その用途が記載され,51頁13行?52頁9行(前記(1)ク)には,光学フィルムを着色する方法が記載されている。
そうしてみると,引用文献1には,次の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。なお,光学フィルムそれ自体と,染色フィルムをラミネートした光学フィルムの混同を避けるため,後者を「染色フィルム付き光学フィルム」という。
「 染色フィルム付き光学フィルムであって,
光学フィルムは,複屈折連続ポリマ相と,該連続相中に分散された実質的に非複屈折の分散相とを含んでなり,連続相および分散相の屈折率は,第1の軸に沿って実質的に不一致であり,第2の軸に沿って実質的に一致し,不一致軸に平行に偏光された入射光は散乱されて顕著な拡散反射を生じ,一致軸に沿って偏光された入射光の散乱はかなり少なく,
光学フィルムは,光の拡散透過が望ましくかつ採光窓の透明性または明澄性が不要かもしくは望まれない採光窓に使用するうえで有用であり,
採光窓は,第1の偏光に対して本質的に透過性であるが第2の偏光を実質的に反射することにより,グレアが除去または軽減され,部屋を1つまたは複数の特定の色(例えば,青色または金色)にするために使用してもよく,
光学フィルムを着色することによって,光学フィルムの概観を変えることもできるが,こうした着色は,光学フィルムに染色フィルムをラミネートすることにより行われる,
染色フィルム付き光学フィルム。」

2 対比及び判断
本願発明と引用発明を対比すると,以下のとおりとなる。
(1) 対比
ア 反射性偏光フィルム
引用発明の「光学フィルム」は,「不一致軸に平行に偏光された入射光は散乱されて顕著な拡散反射を生じ,一致軸に沿って偏光された入射光の散乱はかなり少なく」なるものである。
上記の光学的機能からみて,引用発明の「光学フィルム」は,偏光性を示すフィルムということができる。また,引用発明の「光学フィルム」は,「不一致軸に平行に偏光された入射光」を「拡散反射」するのであるから,反射性のものということができる。
したがって,引用発明の「光学フィルム」は,本願発明の「反射性偏光フィルム」に相当する。

イ 反射防止剤層,着色層
引用発明の「光学フィルム」は「光学フィルムを着色することによって,光学フィルムの概観を変えることもできるが,こうした着色は,光学フィルムに染色フィルムをラミネートすることにより行われ」,「部屋を1つまたは複数の特定の色(例えば,青色または金色)にするために使用してもよ」い。
上記の構成,「染色」が「着色」に該当すること,及び「染色フィルム」は1枚で十分な機能を発揮する(部屋を特定の色にできる)ことを考慮すると,引用発明の「染色フィルム」は,「光学フィルム」の一方の側のみに配置されている「着色層」である。また,引用発明の「染色フィルム」は,機能的には「着色層」を備えているともいえる。加えて,本件出願の明細書の【0041】の記載からみて,引用発明の「染色フィルム」は,本願発明でいう「反射防止剤層」に相当するとともに,「前記反射性偏光フィルムから反射される光を防止し」という機能を具備する。
そうしてみると,引用発明の「染色フィルム」は,本願発明の「着色層又は吸収性偏光層を備え,前記反射防止剤層は前記反射性偏光フィルムから反射される光を防止し」という要件を満たす「反射防止剤層」に相当する。また,引用発明の「染色フィルム」は,本願発明の「反射防止剤層」における,「前記反射性偏光フィルムの一方の側のみに配置される」という要件を満たす。
(当合議体注:「染色フィルム」の配置に関して,仮に,上記の下線を付した「のみ」の点を相違点とするとしても,高コストを望まない当業者が自然に採用する構成にすぎない。)

ウ 反射性偏光フィルム物品
上記ア及びイで述べたとおりであるから,引用発明の「染色フィルム付き光学フィルム」は,本願発明の「反射性偏光フィルム物品」に相当する。また,引用発明の「染色フィルム付き光学フィルム」は,本願発明の「反射性偏光フィルム物品」における,「反射性偏光フィルムと,前記反射性偏光フィルムの一方の側のみに配置される反射防止剤層と,を備え」との構成を具備する。

エ フィルム
引用発明の「染色フィルム付き光学フィルム」は,その文言が意味するとおり,フィルムであるとともに,「染色フィルム付き光学フィルム」としての機能を具備する。
そうしてみると,引用発明の「染色フィルム付き光学フィルム」は,本願発明の「フィルム」に相当するとともに,本願発明の「反射性偏光フィルム物品を備え」との構成も具備する。

(2) 一致点及び相違点
ア 一致点
本願発明と引用発明は,次の構成で一致する。
「 反射性偏光フィルム物品を備え,
前記反射性偏光フィルム物品が,反射性偏光フィルムと,前記反射性偏光フィルムの一方の側のみに配置される反射防止剤層と,を備え,
前記反射防止剤層が着色層又は吸収性偏光層を備え,前記反射防止剤層は前記反射性偏光フィルムから反射される光を防止する,
フィルム。」

イ 相違点
本願発明と引用発明は,次の点で,一応,相違する。
(相違点)
「反射性偏光フィルム物品」が,本願発明は,「前記反射性偏光フィルム物品は,前記反射性偏光フィルムの偏光ブロック軸線が水平となるようにかつ前記反射防止剤層が前記反射性偏光フィルムの室内側に位置するように窓のグレージング基材の一方の側のみに取り付けられた場合に,水平表面から反射される光及びレイリー散乱光を含む水平偏光であるグレアを減少させ」,「水平偏光を水平偏光入射可視光の90%以下まで低減する,反射性偏光フィルムの偏光ブロック軸線が水平となるようにかつ反射防止剤層が反射性偏光フィルムの室内側のみに位置するように窓のグレージング基材の一方の側のみに取り付けるための」ものであるのに対して,引用発明は,一応,これが明らかではない点。

(3) 判断
引用発明の「染色フィルム付き光学フィルム」において,「光学フィルムは,光の拡散透過が望ましくかつ採光窓の透明性または明澄性が不要かもしくは望まれない採光窓に使用するうえで有用であり」,そして「採光窓は,第1の偏光に対して本質的に透過性であるが第2の偏光を実質的に反射することにより,グレアが除去または軽減され」る。
上記の機能からみて,引用発明の「染色フィルム付き光学フィルム」が,「前記反射性偏光フィルムの偏光ブロック軸線が水平となるようにかつ前記反射防止剤層が前記反射性偏光フィルムの室内側に位置するように窓のグレージング基材の一方の側のみに取り付けられた場合に,水平表面から反射される光及びレイリー散乱光を含む水平偏光であるグレアを減少させ」,「水平偏光を水平偏光入射可視光の90%以下まで低減する」物であること(本願発明と物として相違しないこと)は明らかである。そうしてみると,この相違点は,物の構成に係る相違点というよりは,「反射性偏光フィルムの偏光ブロック軸線が水平となるようにかつ反射防止剤層が反射性偏光フィルムの室内側のみに位置するように窓のグレージング基材の一方の側のみに取り付けるための」という点とともに,物の用途の問題と解釈すべきものといえる。なお,審判請求人も,審判請求書において,「本願発明は,特定の構成を有する物を,当業者において自明でない態様で使用することにより,当該態様での使用から必然的に生じる,特有かつ予測不能な作用効果が得られることを見出し,完成された発明であるから,用途発明の考え方が適用されるべきである」と強調している。
しかしながら,引用発明の内容,特に「採光窓は,第1の偏光に対して本質的に透過性であるが第2の偏光を実質的に反射することにより,グレアが除去または軽減され」という内容に接した当業者ならば,引用発明の「染色フィルム付き光学フィルム」が,「前記反射性偏光フィルムの偏光ブロック軸線が水平となるようにかつ前記反射防止剤層が前記反射性偏光フィルムの室内側に位置するように窓のグレージング基材の一方の側のみに取り付けられた場合に,水平表面から反射される光及びレイリー散乱光を含む水平偏光であるグレアを減少させ」,「水平偏光を水平偏光入射可視光の90%以下まで低減する」という属性を具備することを,直ちに思い到ることができる。また,引用発明の内容,特に,「光学フィルムは,光の拡散透過が望ましくかつ採光窓の透明性または明澄性が不要かもしくは望まれない採光窓に使用するうえで有用であり」という内容に接した当業者ならば,引用発明の「染色フィルム付き光学フィルム」が,「反射性偏光フィルムの偏光ブロック軸線が水平となるようにかつ反射防止剤層が反射性偏光フィルムの室内側のみに位置するように窓のグレージング基材の一方の側のみに取り付けるための」用途への使用に適することを,直ちに会得することができる。
そうしてみると,本願発明は,引用発明の「染色フィルム付き光学フィルム」という物の未知の属性を発見したものに該当しないから,用途発明ということはできない。また,本願発明は,引用発明の「染色フィルム付き光学フィルム」の属性により,引用発明の物が新たな用途への使用に適することを見いだしたことに基づく発明にも該当しないから,この点においても,用途発明ということはできない。
以上のとおり,当業者ならば,引用発明の「染色フィルム付き光学フィルム」から「反射性偏光フィルムの偏光ブロック軸線が水平となるようにかつ反射防止剤層が反射性偏光フィルムの室内側のみに位置するように窓のグレージング基材の一方の側のみに取り付けるための」という用途に思い到ることができるから,引用発明の「染色フィルム付き光学フィルム」という物と,「反射性偏光フィルムの偏光ブロック軸線が水平となるようにかつ反射防止剤層が反射性偏光フィルムの室内側のみに位置するように窓のグレージング基材の一方の側のみに取り付けるための」という用途とは,上記の意味において一体のもの(一つのまとまりのもの)ということができる。

(4) 発明の効果について
本件出願の明細書には,本願発明の効果に関する明示的な記載がない。
ただし,本件出願の明細書の【0004】には,「グレージングユニットも開示される。開示されたグレージングユニットは,少なくとも1つのグレージング基材と,少なくとも1つの反射性偏光フィルムと,少なくとも1つの反射防止剤層と,を備える。反射性偏光フィルムは,水平である偏光ブロック軸線により偏光の透過を低減し,反射性偏光フィルムは,水平偏光を水平偏光入射可視光の90%以下まで低減する。」と記載されている。
仮に,これを発明の効果と理解するとしても,これは,引用発明が具備するものにすぎない。
本件出願の明細書の【0041】には,「この開示のグレア低減グレージング物品及びユニットは,反射防止剤層も備える。この反射防止剤層は,反射される非偏光可視入射光の量を低減する。例えば,グレージング基材が窓である幾つかの用途では,人が窓の外を見るとき,自分の反射を見ないように,部屋の内側に面する表面に反射防止剤層を有することが望ましい場合がある。他の用途では,外部反射を管理するように,外部環境に面する表面に反射防止剤層を有することが望ましい場合がある。」と記載されている。
仮に,これを発明の効果と理解するとしても,この効果も,引用発明が具備するものにすぎない。
請求人が主張する用途及びその効果(本件出願の【0110】,【0111】及び【表2】から理解されるグレア低減の効果)を含めて理解するとしても,前記(3)で述べたとおりであるから,当業者が予測可能な範囲内のものにすぎない。

(5) 小括
本願発明は,引用文献1に記載された発明である,あるいは,引用文献1に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

第3 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法29条1項3号に該当する発明であるから特許を受けることができない,あるいは,本願発明は,29条2項の規定により特許を受けることができない。したがって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本件出願は拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-09-26 
結審通知日 2019-10-01 
審決日 2019-10-16 
出願番号 特願2017-95460(P2017-95460)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
P 1 8・ 113- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉川 陽吾  
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 樋口 信宏
河原 正
発明の名称 グレアを低減するグレージング物品  
代理人 赤澤 太朗  
代理人 佃 誠玄  
代理人 野村 和歌子  

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