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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B24B
管理番号 1360206
審判番号 不服2019-5965  
総通号数 244 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-05-08 
確定日 2020-03-17 
事件の表示 特願2016-536441「独立気泡構造を有する超高空隙体積研磨パッド」拒絶査定不服審判事件〔平成27年2月26日国際公開、WO2015/027026、平成28年9月15日国内公表、特表2016-528054、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の主な経緯
本願は、2014年(平成26年)8月21日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2013年8月22日,アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって,平成28年5月31日に手続補正書及び上申書が提出され、平成30年6月22日付けで拒絶理由通知がされ、同年10月2日に手続補正書及び意見書が提出され、平成31年1月10日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、令和元年5月8日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成31年1月10日付け拒絶査定)の概要は、本願請求項1ないし6に係る発明は、以下の引用文献に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
引用文献:特表2008-546550号公報

第3 本願発明
本願請求項1ないし6に係る発明は、令和元年5月8日に手続補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるとおりのものであり、本願請求項1の記載は以下のとおりである。

「 【請求項1】
研磨パッドを調製する方法であって、
(a)ポリマー樹脂を含む研磨パッド材料を準備すること、
(b)第1の高められた圧力で、該研磨パッド材料を不活性ガスに曝露すること、
(c)該研磨パッド材料の温度を、該研磨パッド材料のガラス転移温度超で、該研磨パッド材料の融点未満の第1の温度に上昇させることによって該研磨パッド材料を発泡させること、
(d)第2の高められた圧力で、該研磨パッド材料を不活性ガスに曝露すること、および
(e)該研磨パッド材料の温度を、該研磨パッド材料のガラス転移温度超で、該研磨パッド材料の融点未満の第2の温度に上昇させて、該研磨パッド材料を発泡させること、
を含み、
該研磨パッドが、独立気泡を含み、該独立気泡は、15μm?200μmの平均細孔サイズを有している、
方法。」(以下「本願発明」という。)
なお、本願請求項2ないし5に係る発明は、本願発明を減縮した方法の発明であり、本願請求項6に係る発明は、本願請求項1ないし5のいずれかに係る発明の方法によって調整された研磨パッドを含む、基材の研磨方法の発明である。

第4 引用文献の記載事項及び引用発明
1.引用文献の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献には、次の事項が記載されている。

「【0012】
本発明は、平均気孔サイズが0.01μm?1μmの多孔質材料を有し、且つ200nm?35,000nmの範囲の少なくとも1つの波長の光に関して、光透過率が少なくとも10%である、化学機械的研磨パッド基材を提供する。また、本発明は、被加工品を研磨する化学機械的研磨装置及び方法を提供する。」
「【0015】
本発明の特に好ましい態様では、本発明は、0.01μm?10μmの狭い気孔サイズ分布によって特徴づけられる微細多孔質独立気泡発泡体を有する化学機械的研磨パッド基材を提供する。この研磨パッド基材は、ポリマーを押し出して中実ポリマーシートにし、この中実ポリマーシートを、選択された温度及び圧力で、ポリマーシートが飽和するまで超臨界ガスと組み合わせ、そしてガスで飽和したポリマーシートから、研磨パッド基材を作ることを含む。本発明は更に、この研磨パッド基材を用いる化学機械的研磨装置を提供する。このCMP装置は、回転する定盤、本発明の研磨パッド基材、及び回転している研磨パッドと接触させることによって研磨する被加工品を保持するキャリアを有する。」
「【0016】
本発明は、独立気孔を有する多孔質ポリマー材料を有する化学機械的研磨パッド基材に関する。研磨パッド基材は、研磨パッドの一部であってよく、又は研磨パッド基材は、研磨パッド全体(例えば研磨パッド全体又は研磨トップパッドが透過性)であってもよい。いくつかの態様では、研磨パッド基材は、多孔質ポリマー材料からなり、又は多孔質ポリマー材料から本質的になる。研磨パッド基材は、少なくとも0.5cm^(3)(例えば少なくとも1cm^(3))の研磨パッド体積を有する。」
「【0031】
本発明の研磨パッド基材は、任意の適当な技術を用いて製造することができ、そのような方法の多くが既知である。例えば研磨パッド基材は、(a)Mucell法、(b)ゾル-ゲル法、(c)相転移法、(d)スピノーダル又はバイモーダル分解法、又は(e)加圧ガス注入法を挙げることができる。好ましくは、研磨パッド基材は、加圧ガス注入法を使用して製造される。」
「【0036】
加圧ガス注入法は、高温及び高圧の使用を伴って、ポリマー樹脂を含む中実ポリマーシートにガスを注入することを伴う。ポリマー樹脂は、任意の上記のポリマー樹脂でよい。中実の押出されたシートを、室温において圧力容器内に導入する。ガス(例えばN_(2)又はCO_(2))を容器に加え、そして適当な量のガスを、超臨界流体として、ポリマーシートの自由体積に押し込むのに十分なレベルに加圧する。ポリマーに溶解するガスの量は、ヘンリーの法則に従って、適用された圧力に直接に比例する。ポリマーシートの温度を高くすると、ポリマー中にガスが拡散する速度が大きくなるが、ポリマーシート中に溶解させることができるガスの量が少なくなる。ポリマーに加圧ガスを飽和させた後で、シートを加圧容器から取り出す。圧力の開放すると、ポリマーシートが発泡する。得られるポリマー発泡体は典型的に、0.5μm?1μmの平均気孔サイズを有する。所望であれば、ポリマーシートを素早く加熱して軟化させ、又は溶融状態にすることができる。Mucell法での場合のように、多孔質材料の気孔サイズは少なくとも部分的に、温度、圧力及び超臨界ガスの濃度、並びにそれらの組み合わせによって制御される。
【0037】
良好な加圧ガス注入法のための好ましいポリマー材料は、40ショアD硬度?80ショアD硬度、20,000?600,000のMw、及び1?6のPDIを有する熱可塑性ポリウレタン(TPU)である。またポリマー樹脂は好ましくは、210℃の温度及び2160gの負荷で測定される0.1?30のMFI、25psi?200,000psiの曲げ率、2?10のRPI、及び20℃?120℃のガラス転移温度を有する。
【実施例1】
【0038】
表1に示される典型的な性質のパッド試料を、1.2g/ccの中実シート密度、72ショアD硬度の樹脂硬さ及び58ミリインチのシート厚さの押出TPUシートから、5MPaのCO_(2)飽和圧力、40時間の飽和時間、3分のCO_(2)脱着時間、及び2分の発泡時間で製造した。106℃及び111℃の発泡温度を、それぞれ試料A及びBのために用いた。それぞれのシートを発泡させるために使用したCO_(2)の量は、試料Aでは43mg/g-ポリマーであり、試料Bでは53mg/g-ポリマーであった。
【表1】



2.引用文献に記載された技術的事項
上記の記載事項から、引用文献には、以下の技術的事項が記載されているということができる。
ア.平均気孔サイズが0.01μm?1μmの多孔質材料を有し、且つ200nm?35,000nmの範囲の少なくとも1つの波長の光に関して、光透過率が少なくとも10%である、化学機械的研磨パッド基材を提供すること(【0012】)。
イ.研磨パッド基材は、0.01μm?10μmの狭い気孔サイズ分布によって特徴づけられる微細多孔質独立気泡発泡体を有すること(【0015】)。
ウ.研磨パッド基材は、加圧ガス注入法を使用して製造されること(【0031】)
エ.加圧ガス注入法は、ポリマー樹脂を含む中実ポリマーシートを室温において圧力容器内に入れ、ガスを容器に加えて超臨界流体となるまで加圧して、ポリマーにガスを飽和するまで溶解させた後に、シートを加圧容器から取り出すことで、ポリマーシートを発泡させる方法であり、所望であれば、ポリマーシートを加熱して軟化、又は溶融状態にすることができ、得られるポリマー発泡体の気孔サイズは、温度、圧力及び超臨界ガスの濃度、並びにそれらの組み合わせによって制御されること(【0036】)。
オ.表1の試料Bは、TPU(熱可塑性ポリウレタン)のシートを、5MPaのCO_(2)飽和圧力、40時間の飽和時間、3分のCO_(2)脱着時間、及び2分の発泡時間で製造したものであり、発泡温度が111℃、Tg(ガラス転移温度)が46℃であり、気孔サイズ(セルサイズ)が1.4μm±1.2μmであること(【0038】)。

3.引用発明
上記ア.ないしオ.の技術的事項をまとめると、引用文献には、次の発明が記載されているということができる。
「試料Bに係る化学機械的研磨パッド基材を製造する方法であって、
(a)熱可塑性ポリウレタンのシートを準備すること、
(b)5MPaのCO_(2)飽和圧力で、該シートをCO_(2)ガスに曝露すること、
(c)該シートの温度を、該シートのガラス転移温度である46℃超で、111℃の温度に上昇させることによって、該シートを発泡させること、
を含み、
該研磨パッド基材が、独立気泡を含み、該独立気泡は、1.4μm±1.2μmの気孔サイズを有している、
方法。」

第5 対比及び判断
1.本願発明について
(1)対比
本願発明と引用発明とを対比すると次のことがいえる。

ア.引用発明の「試料Bに係る化学機械的研磨パッド基材」について、引用文献には「研磨パッド基材は、研磨パッド全体・・・であってもよい」(【0016】)との記載があり、研磨パッド基材が研磨パッド全体である場合には、研磨パッド基材を研磨パッドということができるから、引用発明の上記「研磨パッド基材」は、本願発明の「研磨パッド」に相当する。
イ.引用発明の「製造する方法」が本願発明の「調整する方法」に相当することは明らかであり、以下同様に、「熱可塑性ポリウレタンのシート」が「ポリマー樹脂を含む研磨パッド材料」に、「5MPaのCO_(2)飽和圧力」が「第1の高められた圧力」に、「CO_(2)ガス」が「不活性ガス」に、「ガラス転移温度である46℃」が「ガラス転移温度」に相当する。
ウ.引用発明の「111℃の温度」と本願発明の「該研磨パッド材料の融点未満の第1の温度」は、「所定の温度」という点で一致する。
エ.引用発明の「1.4μm±1.2μmの気孔サイズ」と本願発明の「15μm?200μmの平均細孔サイズ」は、「所定の平均細孔サイズ」という点で一致する。

したがって、本願発明と引用発明は、次の点で一致及び相違するといえる。
<一致点>
「研磨パッドを調製する方法であって、
(a)ポリマー樹脂を含む研磨パッド材料を準備すること、
(b)第1の高められた圧力で、該研磨パッド材料を不活性ガスに曝露すること、
(c)該研磨パッド材料の温度を、該研磨パッド材料のガラス転移温度超で、所定の温度に上昇させることによって該研磨パッド材料を発泡させること、
を含み、
該研磨パッドが、独立気泡を含み、該独立気泡は、所定の平均細孔サイズを有している、
方法。」

<相違点1>
本願発明の方法は、「(d)第2の高められた圧力で、該研磨パッド材料を不活性ガスに曝露すること、および(e)該研磨パッド材料の温度を、該研磨パッド材料のガラス転移温度超で、該研磨パッド材料の融点未満の第2の温度に上昇させて、該研磨パッド材料を発泡させること」を含むのに対して、引用発明は、そのようなことを含んでいない点。

<相違点2>
所定の温度が、本願発明は「該研磨パッド材料の融点未満の第1の温度」であるのに対して、引用発明は「111℃の温度」であって、熱可塑性ポリウレタンの融点未満かどうか不明な点。

<相違点3>
所定の平均細孔サイズが、本願発明は「15μm?200μmの平均細孔サイズ」であるのに対して、引用発明は「1.4μm±1.2μmの気孔サイズ」である点。

(2)相違点についての判断
上記相違点1について検討すると、引用文献には、本願発明のように、第2の圧力で、研磨パッド材料を不活性ガスに曝露し、該研磨パッド材料の温度を、該研磨パッド材料のガラス転移温度超で、該研磨パッド材料の融点未満の第2の温度に上昇させて、該研磨パッド材料を発泡させること、すなわち、引用文献でいう「加圧ガス注入法」による発泡を2回繰り返すことについて、記載も示唆もない。
引用文献には、発泡体の気孔サイズを、温度、圧力及び超臨界ガスの濃度、並びにそれらの組み合わせによって制御することの記載(【0036】)はあるが、当該記載は、「加圧ガス注入法」における諸条件を調整し得ることを示唆するにとどまり、これによる発泡を2回繰り返すことを意味するものではない。
また、他に、「加圧ガス注入法」を2回繰り返すことを示す証拠は発見できていない。
したがって、上記相違点1は、引用文献の記載に基づいて当業者が容易に想到できたものとはいえないから、その余の相違点2及び3について検討するまでもなく、本願発明は、引用文献の記載に基づいて当業者が容易に発明できたものとはいえない。

2.本願請求項2ないし6に係る発明について
上記第3に示すように、本願請求項2ないし5に係る発明は、本願発明を減縮した方法の発明であり、本願請求項6に係る発明は、本願請求項1ないし5のいずれかに係る発明の方法によって調整された研磨パッドを含む、基材の研磨方法の発明であるから、いずれの発明も上記相違点1に係る構成を備えている。
したがって、本願請求項2ないし6に係る発明は、いずれも、本願発明と同じ理由により、引用文献の記載に基づいて当業者が容易に発明できたものとはいえない。

第6 原査定について
上記第5の1.(2)及び2.に説示するとおり、本願請求項1ないし6に係る発明は、いずれも、引用文献の記載に基づいて当業者が容易に発明できたものとはいえないから、原査定の理由を維持することはできない。

第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2020-03-03 
出願番号 特願2016-536441(P2016-536441)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B24B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小川 真  
特許庁審判長 見目 省二
特許庁審判官 大山 健
刈間 宏信
発明の名称 独立気泡構造を有する超高空隙体積研磨パッド  
代理人 渡辺 陽一  
代理人 鶴田 準一  
代理人 青木 篤  
代理人 木村 健治  
代理人 胡田 尚則  
代理人 三橋 真二  
代理人 南山 知広  

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