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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F16L
管理番号 1360248
審判番号 不服2019-1334  
総通号数 244 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-01-31 
確定日 2020-03-17 
事件の表示 特願2014-153735「ニップル」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 3月 7日出願公開、特開2016- 31108、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は平成26年7月29日の出願であって、平成30年4月26日付けで拒絶理由が通知され、平成30年6月18日に手続補正書、意見書が提出され、平成30年11月28日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対して、平成31年1月31日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

第2 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由の概要は次のとおりである。
[理由]
本願の請求項1に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物1ないし6に、本願の請求項2に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物1ないし7に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



<引用文献等一覧>
1.実願平4-68474号(実開平6-37688号)のCD-ROM
2.実願平2-1503号(実開平3-93683号)のマイクロフィルム(周知技術を示す文献)
3.実願平3-47883号(実開平4-132289号)のマイクロフィルム(周知技術を示す文献)
4.実願昭63-91354号(実開平2-12589号)のマイクロフィルム
5.実公平4-49436号公報
6.実願平2-90418号(実開平4-48493号)のマイクロフィルム
7.特開2008-223935号公報

第3 本願発明
本願の請求項1及び2に係る発明(以下、「本願発明1」及び「本願発明2」という。)は、平成30年6月18日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるところ、請求項1及び2に記載された発明は以下のとおりのものである。
「 【請求項1】
口金部と、前記口金部と同軸上に設けられホースの端部の内周面が挿入される芯管部とを備え、
前記芯管部の半径方向外側に位置するソケットの筒状部が半径方向内側に加締められることで前記ホースの端部が前記芯管部に連結され、
前記口金部と反対側で前記筒状部が加締められる箇所から離れた前記芯管部の端部の外周面にバルジ防止用溝が前記外周面の周方向の全周に延在形成され、
前記バルジ防止用溝は、筒状の底面と、前記口金部側に位置する前記底面の端部から起立する第1の側面と、前記口金部と反対側に位置する前記底面の端部から起立する第2の側面とで形成された、
ニップルであって、
前記バルジ防止用溝の深さをdとし、前記第1の側面と前記底面とがなす第1の角度をθ1とし、前記第2の側面と前記底面とがなす第2の角度をθ2とした場合、
前記深さdは、0.5mm≦d≦2.0mmを満たし、
前記第1の角度θ1は、45°≦θ1≦75°を満たし、
前記第2の角度θ2は、80°≦θ2≦90°を満たす、
ことを特徴とするニップル。」
「 【請求項2】
前記ニップルは、内径が19mm?100mmのホースを対象とするものであり、
前記ニップルの外径をDとし、前記バルジ防止用溝の幅をwとした場合、 前記幅wは、w≧D×0.280を満たす、
ことを特徴とする請求項1記載のニップル。」

第4 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由において引用された引用文献1には、「ホース用継手金具」に関して、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、当審が付与した。以下同様。)。
(1)引用文献1の記載
「【実用新案登録請求の範囲】
【請求項1】 ニップルと該ニップルと同心軸的に形成されたスリーブとからなり、ニップルとスリーブとの間にホースを挿入し、スリーブを加締めて固着するホース用継手金具において、スリーブを加締めたときホース内面ゴムの膨出部を入り込ませるものの完全には充填しない大きさのリング状凹溝を前記ニップル外周面に形成し、さらに、前記リング状凹溝と重なりニップル透孔内に突出するリング状突出部を形成したことを特徴とするホース用継手金具。」
「【図面の簡単な説明】
【図1】この考案に係るニップルの上半分を断面した側面図である。
【図2】同じく第2実施例を示す側面図である。
【図3】同じく第3実施例を示す側面図である。
【図4】従来のニップルの上半分を断面した側面図である。
【符号の説明】
10 ニップル本体
11 スリーブとの接合部
13 透孔
17 リング状凹溝
19 リング状突出部
21 リング状凹溝
25 リング状突出部
27 リング状凹溝
29 リング状突出部」



「【考案の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
この考案はニップルとスリーブとからなるホース用継手金具に係り、特に高温流体に耐えられる耐熱性ホースに好適な継手金具のニップルの構造に関する。例えば、パワーステアリングホース、オイルブレーキホース、フューエルホース、油圧用高圧ホース、ウォータージェット用超高圧ホース等の各種のゴムまたは樹脂ホースの継手金具として利用することができる。」
「 【0007】
【考案の作用】
前記リング状凹溝はスリーブを加締めたときホースの内面ゴムの逃げ部分となる膨出部を吸収し、バルジの発生を防止するように働く。また、リング状凹溝には底部に膨出部との間に隙間を有しているから、ゴムの熱膨張を吸収し応力緩和を防止する。さらに、ニップル透孔内に突出するリング状突出部の形成によって肉厚部となり、折れ強度を向上させる。」
「 【0008】
【実施例】
以下に、この考案を実施例に基づき詳細に説明する。図1はこの考案の第1実施例を示すニップルの上半分を断面した側面図である。ニップル本体10は、一端側にスリーブとの接合部11を有し、軸心には貫通する透孔13が穿設されている。そして、スリーブ接合部11の反対側となるホースへの挿入側先端部15の近傍外周面にはリング状凹溝17と前記透孔13に突出するリング状突出部19が形成され、内周面には脈動減衰用可撓管の取付部20が形成されている。前記リング状凹溝17は、図示しないスリーブを加締めたときホースの内面ゴムが入り込むが完全には充填されない幅と深さに形成され、底部を円弧状のアール面とする略U字状に形成されている。前記リング状凹溝17は底部と入り込んだ内面ゴムとの間に隙間を有するように構成されているから、ホース使用時に内面ゴムが熱膨張しても熱膨張分を吸収し圧縮応力を小さくすることができる。」
「 【0011】
図2はこの考案の第2実施例を示す。前記第1実施例がリング状凹溝17を略U字状に形成したのに対して、この実施例ではリング状凹溝21を方形状とし、リング状突出部25の角部26をアール面とした。他の構成については第1実施例と同様であるから、同一符号を付しその説明は省略する。このように、リング状凹溝21を方形状とし転造加工により形成した場合には、リング状突出部25の角部26が延ばされるが、リング状凹溝21の角部23を小さなアール面、例えば、直径1mmのアール面とすることによってクラックの発生を押さえることができる。この実施例の場合にも、転造加工によりリング状突出部25は肉厚となり折れ強度が大きくなるのは勿論、透孔13内面の滑らかさによって流体の圧力損失を小さくすることができる。」
(2)引用発明
上記(1)及び図面の記載を総合すると、引用文献1には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「ホース用継手金具のニップルにおいて、
スリーブが該ニップルと同心軸的に形成され、
ニップルとスリーブとの間にホースが挿入され、
スリーブが半径方向内側に加締められることで固着され、
スリーブ接合部の反対側となるホースへの挿入側先端部の近傍外周面には、バルジの発生を防止するリング状凹溝が形成され、
前記リング状凹溝は、方形状であるニップル」
2.引用文献2について
原査定の拒絶の理由において引用された引用文献2には、「ホース用継手金具」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。
(1)引用文献2の記載
「前記リング状凹溝29はスリーブを加締めたときに、ホースの内面ゴムが入り込むが完全には充填されない幅と深さに形成され、従って、前記リング状凹溝29内に吸収された膨出部33とリング状凹溝29の底部との間に隙間35を有している。この隙間35は膨出部33が使用時に熱膨張しても前記リング状凹溝29の底部と接触しないように構成されていることが好ましい。また、前記凹溝29の上端角部29aは内面ゴムが切れないようにアールを付けることが好ましい。前記リング状凹溝29の大きさは、一般的には幅Xは1mm?5mm、深さYは1mm?3mm、上端角部29aのアールは0.1R?1Rとすることが好ましい(第2図参照)。但し、前記リング状凹溝29の大きさは、ホース径、ホースの肉厚、ゴム材質、スリーブの締付力等によって適宜決定される。」(第7頁第7行-第8頁第2行)
「4.図面の簡単な説明
第1図はこの考案の第1実施例の継手金具の一部断面側面図、第2図はニツプルにおけるリング状凹溝の構造を示す一部断面説明図、第3図は第2実施例の継手金具の一部断面側面図、第4図は第3実施例の継手金具を示す一部断面側面図、第5図及び第6図は従来例の継手金具の一部断面側面図である。

20,20a,20bは継手金具、21はニツプル、23,23aはスリーブ、25はホース、27は山形突起、28はニツプル先端部、29はリング状凹溝、31は内面ゴム、33は内面ゴムの膨出部、35は隙間、37,41は加締部。」(第11頁第20行-第12頁第12行)



(2)引用文献2に記載された技術
上記(1)及び図面の記載からみて、引用文献2には以下の技術(以下、「引例2技術」という。)が記載されていると認められる。
「リング状凹溝は、スリーブが加締められたときに、ホースの内面ゴムが入り込むが完全には充填されない幅と深さに形成され、一般的には幅Xは1mm?5mm、深さYは1mm?3mmとされること」
3.引用文献3について
(1)引用文献3の記載
原査定の拒絶の理由において引用された引用文献3には、「ホース用継手金具」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。
「 【0007】
【考案が解決しようとする課題】
前記ニップル外周面に凹溝を有する継手金具は、簡単な構造により応力緩和を防止し、長期間の使用にも高いシール性が得られるものの、ニップル3の曲げ強度が低下することが分かった。即ち、パワーステアリングホースに使用する継手金具の場合、図4に示すように、例えば、ニップル3の外径xを8.5mm、内径yを3.5mmとし、凹溝11の深さzを1mmとすると、凹溝11の下方の肉厚15は1.5mmとなり充分な曲げ強度を保持できなくなるおそれがある。」
「 【0012】
前記リング状凹溝33はスリーブを加締めたときに、ホースの内面ゴムが押し込まれるが完全には充填されない幅と深さに形成されている。即ち、前記リング状凹溝33内に嵌入された嵌入内面ゴム35とリング状凹溝33の底部との間に隙間37を有している。前記隙間37は加締めたときばかりでなく、使用時に熱膨張しても嵌入内面ゴム35がリング状凹溝33の底部と接触しない間隔であること好ましい。さらに、前記凹溝33の上端角部38は内面ゴムが切れないようにアールを付けることが好ましい。但し、前記リング状凹溝33の大きさはホース径、ホースの肉厚、ゴム材質、スリーブの締付力等によって適宜決定される。」
「 【0013】
前記加締部27の真下位置では最も高い応力かかかり、リング状凹溝33の角部によってゴム切れが起き易いので、 リング状凹溝33を加締部27の真下位置よりもいずれかの方向にずらして形成するのが好ましい。また、リング状凹溝33は複数形成してもよい。」
「 【0014】
この考案の他の特徴は前記リング状凹溝33の下方に位置するニップル内面に膨出部39を形成したことにある。膨出部39は前記リング状凹溝33の深さに対応して形成すればよく、凹溝33が1mmの深さである場合には、1mmの膨出部39とすればよい。そして、凹溝33を切削加工により形成した場合には、ニップル21の内径はドリルにて加工すればよい。即ち、まず、膨出部39の部分を残して左右から穴加工を行い、最後に膨出部39の小径部分の穴加工を行って膨出部39を形成するか、あるいは、まず膨出部39の小径部分の大きさの穴加工を行い、その後さらに左右両側から大径部分の穴加工を行い、膨出部39の部分を残すようにしてもよい。」
(2)引用文献3に記載された技術
上記(1)及び図面の記載からみて、引用文献3には以下の技術(以下、「引例3技術」という。)が記載されていると認められる。
「リング状凹溝は、スリーブが加締められたときに、ホースの内面ゴムが押し込まれるが完全には充填されない深さ、例えば1mmに形成されること」
4.引用文献4について
(1)引用文献4の記載
原査定の拒絶の理由において引用された引用文献4には、「フレオンホースにおける継手金具の固定構造及びその構成要素としてのニップル金具」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。
「(実施例)
次に本考案の実施例を図面に基づいて詳しく説明する。
第1表に示す材質,構造のフレオンホース本体の端部に対して、ニップル金具,ソケット金具を第1図?第6図に示す固定構造で固定し(第1図,第2図が本考案の実施例,第3図?第6図は比較例)、その耐熱シール試験及び繰返し加圧試験を行った。尚これらの図において10はニップル金具、12はソケット金具、14はゴム製のホース本体であって、その端部16がニップル金具10とソケット金具12との間に挿入され、且つソケット金具12が軸方向の適数個所で軸心側にかしめられることによって、ニップル金具10,ソケット金具12及びホース本体端部16の三者が一体に固定されている。而して第3図の固定構造ではニップル金具外周面に溝19が形成され、また第4図,第5図,第6図の固定構造ではニップル金具10の外周面上に複数の環状突部18が軸方向に所定間隔で設けられている。そしてその突部18に対向する部位において、ソケット金具12が軸心側にかしめられている。尚第4図,第5図,第6図の固定構造では、第7図にも示しているように突部18の外周面20が軸方向に平坦な面とされており、且つその平坦面20の長さL、或いは突部18の突出高さH,ピッチP等の要素が各図で夫々異っている。
一方第1図及び第2図に示す本実施例の固定構造は、夫々第4図及び第5図に示す固定構造において、ホース本体端部16の挿入側の最も端に位置する突部18に隣接して環状溝22を設けたものである。
これらの各構造でニップル金具10及びソケット金具12をホース本体の端部16に固定し、その耐熱シール試験及び繰返し加圧試験を行った場合の結果が第1表に示されている。」(第6頁第15行-第8頁第11行)



「同表の結果から、特にNo.6(第1図)とNo.3(第4図)及びNo.1(第3図)との比較から明らかなように、ニップル金具10の端に位置する突部18に隣接して環状溝22を設けたものは、耐熱シール性,繰返し加圧性能ともに向上している。
尚、本実験において採用した試験条件の下では、第5図に示す固定構造のもの(No.4)と対応する形状のニップル金具に溝22を設けた第2図の固定構造のもの(No.2,7,8,9)との間で耐熱シール性,繰返し加圧性能に明確な差が現われていない。これは第5図の固定構造ではニップル金具の突部18が所定断面形状とされることによって耐熱シール性能,繰返し加圧性能が向上した結果、溝22の形成による効果が明確に現われなかったことによるものである。
このように、本実験では突部18の断面形状を所定形状とすることによって、即ち外周面20を軸方向に平坦な面と成すとともに、外周面20の軸方向の長さLをホース本体端部16の肉厚T_(0)に対して0.3T_(0)?0.7T_(0)とし、且つ該突部18の突出高さHを0.25L?0.5L,突部18と突部18とのピッチPをL<P≦3T_(0)とした場合において良好な結果が得られることが併せて確認されている。突部18の外周面20を軸方向に平坦な面としておくことにより、ソケット金具12のかしめ位置が軸方向に少々ずれても、ホース本体端部16に対する圧縮率が変化しないからである。これにより安定したシール性が確保される。尤もその外周面20の軸方向の長さが短いと、ソケット金具12のかしめ位置のずれを有効に吸収できない。その外周面20の長さはホース本体端部16の肉厚との関係で定まり、而してその長さをホース本体端部16の肉厚をT_(0)としたときに0.3T_(0)以上とした場合に好結果が得られるのである。尚外周面20の長さが必要以上に長くなると、ホース本体端部16とニップル金具10との間の密着性(特に突部18と突部18との間の溝部における密着性)が阻害されるとともに、両者の間の摩擦抵抗が減少し、全体としてシール性低下の傾向となる。従って突部18の外周面20の長さは一定以下に抑えることが望ましい。その適正な長さは0.7T_(0)以下である。
この外、ニップル金具10の突部18の高さH及び突部18間のピッチPを夫々0.25L?0.5L,L<P≦3T_(0)とした場合において好結果が得られるのは突部18の高さHが0.25Lより低い場合にはかかる突部18を設けた効果が少なく、逆に0.5Lより大きい場合には突部18と突部18との間の溝深さが深くなり、ソケット金具12をかしめてホース本体端部を圧縮したとき、ホース本体端部16の肉が溝の内部に十分埋まらなくなって、かかるホース本体端部16とニップル金具10との密着性が悪くなり、全体としてシール性低下の傾向となるからである。
また一方突部18と突部18とのピッチPが3T_(0)より大きいと、ホース本体端部16とニップル金具10との摩擦抵抗が低くなってシール性低下の原因となる。
本実験ではその外にホース本体端部16の内面層の肉厚をT_(1)としたとき外周面20の長さLを0.5T_(1)?1.5T_(1)の範囲に抑えることが望ましいこと、また突部18の配置ピッチPは等間隔である方が良好であることが併せて確認された。
この他、突部18におけるホース本体挿入側の側面24(第7図)は、ホース本体挿入性の観点から、またソケット金具12をかしめたとき、圧縮されたホース本体端部16のゴム肉が円滑に移動できるようにする観点から所定角度で傾斜していること、またその傾き角度は30?60°の範囲が良好であることが確認された。
一方その反対側の側面26については、圧縮されたゴムができるだけ突部18と突部18との間の溝部に溜め・止められるように、軸心に対して垂直に立ち上がった面とすることが望ましいが、そのようにするとホース本体端部16のニップル金具10に対する密着性が損われてしまう。これらを考慮した場合、その傾き角度は60?90°が良好であることが確認された。
その他突部18の外周平坦面20の径を、ホース本体端部16の内径よりも0.2?1.2mm程度大きく形成した場合に好結果の得られることが分かった。突部18の外周平坦面20をホース本体端部16の内径よりも大きくすれば、ホース本体端部16をニップル金具10に挿入した時点で、ホース本体端部16がある程度圧縮された状態(前圧縮された状態)となり、またソケット金具12をかしめたときホース本体端部16のニップル金具10への密着性が高まるからである。但しその値が0.2mmより小さい場合にはこのような効果は殆ど得られないのみならず、ソケット金具12のかしめにより、ホース本体端部16にミクロ的なシワが発生し、密着性が阻害されてしまう。一方その値が1.2mmよりも大きくなると、密着性には効果があるものの、ホース本体端部16をニップル金具10に挿入する際の挿入性が悪くなって挿入不足を招き、好ましくない。」(第10頁第1行-第14頁第17行)



(2)引用文献4に記載された技術
上記(1)及び図面の記載からみて、引用文献4には以下の技術(以下、「引例4技術」という。)が記載されていると認められる。
「ニップル金具10の外周面上に、ニップル金具10,ソケット金具12及びホース本体端部16の三者を一体に固定される固定構造において、複数の環状突部18が軸方向に所定間隔で設けられ、突部18の断面形状は所定形状、即ち外周面20の軸方向の長さLをホース本体端部16の肉厚T_(0)に対して0.3T_(0)?0.7T_(0)とされ、該突部18の突出高さHを0.25L?0.5Lとされ、突部18と突部18とのピッチPをL<P≦3T_(0)とされ、突部18におけるホース本体挿入側の側面24の傾斜角度を、30?60°とされ、一方その反対側の側面26の傾斜角度を、60?90°とされること」
5.引用文献5について
(1)引用文献5の記載
原査定の拒絶の理由において引用された引用文献5には、「フレオンホースにおける継手金具の固定構造」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。
「 実用新案登録請求の範囲
(1) ソケット金具と、外周面上に環状の突部が複数形成されたニップル金具との間にフレオンホース本体の端部を挿入した上、ソケット金具の前記突部に対向する部位を軸心側にかしめることによって、それらソケット金具、ニップル金具及びホース本体の端部を一体に固定するフレオンホースにおける継手金具の固定構造において、
前記突部の外周面を軸方向に平坦な面と成すとともに、該外周平坦面の軸方向の長さLを前記ホース本体端部の肉厚T_(0)に対して0.3T_(0)?0.7T_(0)とし、且つ該突部の突出高さを0.25L?0.5L、該突部と突部とのピッチPをL<P≦3T_(0)としたことを特徴とするフレオンホースにおける継手金具の固定構造。」
「この他、突部18におけるホース本体挿入側の側面24(第6図)は、ホース本体挿入性の観点から、またソケット金具12をかしめたとき、圧縮されたホース本体端部のゴム肉が円滑に移動できるようにする観点から所定角度で傾斜していること、またその傾き角度は30?60°の範囲が良好であることが確認された。
一方その反対側の側面26については、圧縮されたゴムができるだけ突部18と突部18との間の溝部に溜め・止められるように、軸心に対して垂直に立ち上がった面とすることが望ましいが、そのようにするとホース本体端部16のニップル金具10に対する密着性が損われてしまう。これらを考慮した場合、その傾き角度は60?90°が良好であることが確認された。」(第5頁第9欄第44行-第6頁第11欄第5行)



(2)引用文献5に記載された技術
上記(1)及び図面の記載からみて、引用文献5には以下の技術(以下、「引例5技術」という。)が記載されていると認められる。
「ソケット金具と、外周面上に環状の突部が複数形成されたニップル金具との間にフレオンホース本体の端部が挿入され、ソケット金具の前記突部に対向する部位を軸心側にかしめられることによって、それらソケット金具、ニップル金具及びホース本体の端部が一体に固定されるフレオンホースにおける継手金具の固定構造において、突部の外周面が軸方向に平坦な面と成されるとともに、該外周平坦面の軸方向の長さLはホース本体端部の肉厚T_(0)に対して0.3T_(0)?0.7T_(0)とされ、且つ該突部の突出高さは0.25L?0.5Lとされ、該突部と突部とのピッチPはL<P≦3T_(0)とされ、突部18におけるホース本体挿入側の側面24の傾斜角度は、30?60°とされ、一方その反対側の側面26の傾斜角度は、60?90°とされること」
6.引用文献6について
(1)引用文献6の記載
原査定の拒絶の理由において引用された引用文献6には、「ホース用継手金具」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。
「2.実用新案登録請求の範囲
(1)最内層に熱可塑性樹脂材料及び又はゴム材料を有するホースが継手金具の連結部に挿入され前記ホース内周面と連結部との間に接着剤が塗布されるとともに前記ホースの外周部に装着されたソケツト金具で加締めるホースと継手金具との連結構造において、前記接着剤の塗布部がソケツト金具の連結部基端側加締部下方に設けられていることを特徴とするホースと継手金具の連結構造。
(2)継手金具の連結部に接着剤塗布部として局部的にテーパ形状の溝部が形成され、連結部基端側の前記溝部テーパ面角度は継手金具軸線に対する垂直面から50?80度の傾斜角度に形成されてなる請求項1記載のホースと継手金具の連結構造。」
「次に本考案の第2実施例について説明する。この第2実施例のものが上記第1実施例のものと相違するのは、接着剤塗布部としてニップル表面に局部的にテーパ形状の溝部を形成するとともに、該溝部の深さDを0.3?0.6mm、溝底壁の幅Wを2?4mmとし、溝部の基端部寄り側壁の傾斜角度(テーパ面角度)βを50?80度としたことである。第2図に示すようにニップル13の表面には基端部13aから第1溝部14、第2溝部15、第3溝部16が順次形成されている。またニップル13に装着されたホース17の外周にはソケット金具18が装着されており、このソケット金具18にはソケット金具18の長手方向略中央部より基端部13a側寄りの第1加締部19とニップル先端側寄りの第2加締部20とが形成されている。またこの第1加締部19の下方のニップル13の表面には前記第1溝部14が形成されており、この第1溝部14部分及びその前後近傍の外径部13bには接着剤21が塗布されてホース17とニップル13とが互いに接着されている。前記第1溝部14はテーパ形状に形成され基端部13a側寄りの溝側壁14a(テーパ面)は側面視して垂直上方線から基端部13a側への傾斜角度βを略50?80度に形成されている。また第1溝部14の深さDは一般的な深さである0.3?0.6mmに形成され、溝底壁14bの幅Wは一般的長さである2?4mmに形成されている。なお他方の溝側壁14cの傾斜角度γ(軸線に対する垂直面からの角度)は通常のニップル溝側壁の角度である30?50度に形成されている。」(第9頁第11行-第11頁第1行)
「4.図面の簡単な説明
第1図は本考案の第1実施例を示す上半断面図、第2図は第2の実施例を示す上半断面図、第3図は第2図A部の要部拡大図、第4図及び第5図は従来のニツプルを示す図、第6図及び第7図は従来例を示す一部断面図である。
7,13……ニツプル(連結部)、7b,13a……基端部、8,17……ホース、9,18,……ソケツト金具、10,19……第1加締部、12,21……接着剤、14a……テーパ面、β……テーパ面角度。」(第16頁第2行-第11行)



(2)引用文献6に記載された技術
上記(1)及び図面の記載からみて、引用文献6には以下の技術(以下、「引例6技術」という。)が記載されていると認められる。
「最内層に熱可塑性樹脂材料及び又はゴム材料を有するホースが継手金具の連結部に挿入され、ホース内周面と連結部との間に接着剤が塗布されるとともに、ホースの外周部に装着されたソケツト金具で加締められるホースと継手金具との連結構造において、接着剤塗布部としてニップル表面に局部的にテーパ形状の溝部が形成されるとともに、該溝部の深さDは0.3?0.6mm、溝底壁の幅Wは2?4mmとされ、溝部の基端部寄り側壁の傾斜角度(テーパ面角度)βは50?80度とされること」
7.引用文献7について
(1)引用文献7の記載
原査定の拒絶の理由において引用された引用文献7には、「ホ-ス抜け防止口金具及びこれを用いたホ-ス抜け防止構造」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。
「【0019】
以下、第1発明を中心に実施例に基づいて更に詳細に説明する。
(1)第1発明の口金具
図2は本発明の口金具10であり、フランジ11の先端にニップル12が形成され、この内径は15mm、外径は18.6mmである。ニップル12には三つの竹の子状の環状凸部Aが形成され、その外径RAは21.2mmであり、この凸部Aのニップル12の表面からの高さHAは1.3mmである。外径RAは、挿入されるホ-スの内径rhの1.1倍はなくてはならない(この例では、21.2/19.0=1.12であった)。」
「【0020】
挿入されるホ-スの最先端に対応する部位にはフランジ11に次いで環状フラット部B1が形成され、このフラット部B1のニップル12の軸方向の幅W1は12mm、他の部位の環状フラット部B2の幅W2が全て6mmであった。又、環状凸部Aの全体形状はほぼ直角三角形状をなし、その幅Waは5mmであった。そして、金具先端10aの径はホ-ス内径rhより小さくなっており、更に挿入しやすいように丸く面取りを施してある。尚、環状凸部Aのその他の寸法は表1に示すとおりである。尚、図及び表1にあって、aは環状凸部Aの頂面のフラット部分の幅寸法、bは斜面の角度を示す。」
「【0022】
(2)ホ-ス
図3は本発明の第1の口金具に用いられたホ-スであり、更に、第2発明の抜け防止構造を構成するものである。かかるホ-ス17はゴム製であり、内層ゴム17aの内径が19mm、ビニロン補強層17bの外径は23.2mm、外層ゴム17cの外径は26.2mmであった。又、繊維補強層17bの編組ピッチp及び編組角度cは表2に示す通りである。」



(2)引用文献7に記載された技術
上記(1)及び図面の記載からみて、引用文献7には以下の技術(以下、「引例7技術」という。)が記載されていると認められる。
「ホ-スの内径は19mm、ニップルの外径は18.6mm、環状フラット部の幅は6mm又は12mmとされたホ-ス抜け防止口金具及びこれを用いたホ-ス抜け防止構造」
第5 原査定についての判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
引用発明における「ニップル」の「スリーブ接合部」側のホースへ挿入されない部分は、本願発明1の「口金部」を有する。
引用発明の「スリーブが該ニップルと同心軸的に形成され、ニップルとスリーブとの間にホースが挿入され」ることから、「ニップル」は明らかに「スリーブ接合部」と同軸に形成されており、また、「ニップルとスリーブとの間」にホースの端部が入っていることが明らかであるから、引用発明の「ニップル」は、本願発明1の「前記口金部と同軸上に設けられホースの端部の内周面が挿入される芯管部」を有し、同様に「スリーブ」は、「芯管部の半径方向外側に位置するソケットの筒状部」を有する。
引用発明の「ニップルとスリーブとの間にホースが挿入され、スリーブが半径方向内側に加締められることで固着され」は、本願発明1の「前記芯管部の半径方向外側に位置するソケットの筒状部が半径方向内側に加締められることで前記ホースの端部が前記芯管部に連結され」に相当する。
引用発明における「スリーブ接合部の反対側となるホースへの挿入側先端部の近傍外周面」に形成された「バルジの発生を防止するリング状凹溝」は、技術常識を踏まえれば加締められる箇所を避けて形成されることは明らかであるから、本願発明1の「前記口金部と反対側で前記筒状部が加締められる箇所から離れた前記芯管部の端部の外周面に」、「前記外周面の周方向の全周に延在形成され」た「バルジ防止用溝」に相当する。
引用発明の「前記リング状凹溝は、方形状である」ことは、本願発明1の「前記バルジ防止用溝は、筒状の底面と、前記口金部側に位置する前記底面の端部から起立する第1の側面と、前記口金部と反対側に位置する前記底面の端部から起立する第2の側面とで形成された」ことに相当する。
そうすると、本願発明1と引用発明との一致点、相違点は次のとおりである。
[一致点]
「口金部と、前記口金部と同軸上に設けられホースの端部の内周面が挿入される芯管部とを備え、
前記芯管部の半径方向外側に位置するソケットの筒状部が半径方向内側に加締められることで前記ホースの端部が前記芯管部に連結され、
前記口金部と反対側で前記筒状部が加締められる箇所から離れた前記芯管部の端部の外周面にバルジ防止用溝が前記外周面の周方向の全周に延在形成され、
前期バルジ防止用溝は、筒状の底面と、前記口金部側に位置する前記底面の端部から起立する第1の側面と、前記口金部と反対側に位置する前記底面の端部から起立する第2の側面とで形成された、
ニップル」
[相違点]
「バルジ防止用溝」について、本願発明1は、「前記バルジ防止用溝の深さをdとし、前記第1の側面と前記底面とがなす第1の角度をθ1とし、前記第2の側面と前記底面とがなす第2の角度をθ2とした場合、前記深さdは、0.5mm≦d≦2.0mmを満たし、前記第1の角度θ1は、45°≦θ1≦75°を満たし、前記第2の角度θ2は、80°≦θ2≦90°を満たす」のに対し、引用発明は、「方形状」であって、深さについての特定はない点。
(2)相違点についての判断
引例2技術及び引例3技術は、本願発明1の「バルジ防止用溝」に相当する「リング状凹溝」及びその深さを示すものであるが、第1及び第2の角度について示すものではない。引例4技術は、「ニップル金具10の外周面上に、ニップル金具10,ソケット金具12及びホース本体端部16の三者を一体に固定する固定構造」を示すものであって、そこに示される角度は、本願発明1の「バルジ防止用溝」に関するものではない。引例5技術及び引用6技術も、引例4技術同様、本願発明1の「バルジ防止用溝」に関するものではない。
よって、引例2技術ないし引例6技術を参照しても、上記相違点に係る本願発明1の構成を当業者が容易に想到し得たとはいえない。
(3)まとめ
本願発明1は、「バルジ防止用溝」の深さ、第1及び2の角度を規定することで、「バルジ防止用溝にホースの内面ゴム層を確実に収容でき、バルジの発生を確実に抑制する」(段落[0006])という、格別の効果を奏するものである。
したがって、本願発明1は、引用発明及び引用文献2ないし6に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
2.本願発明2について
本願の特許請求の範囲における請求項2は、請求項1の記載を他の記載の置き換えることなく引用して記載したものであるから、本願発明2は、本願発明1の発明特定事項を全て含むものである。
そうすると、本願発明2と引用発明を対比すると、上記相違点を少なくとも有している。そして、引用文献7も、「バルジ防止用溝」に関するものではなく、上記相違点について、記載も示唆もするところはないから、同文献を考慮しても、上記「(2)相違点についての判断」において、検討した結果は左右されない。
以上のとおりであるから、本願発明2は、引用発明及び引用文献2ないし7に記載された技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1は、引用発明及び引用文献2ないし6に記載された技術に、本願発明2は、引用発明及び引用文献2ないし7に記載された技術に、それぞれ基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2020-03-02 
出願番号 特願2014-153735(P2014-153735)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (F16L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 渡邉 聡  
特許庁審判長 山崎 勝司
特許庁審判官 塚本 英隆
紀本 孝
発明の名称 ニップル  
代理人 野田 茂  

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