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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A61K |
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管理番号 | 1360253 |
審判番号 | 不服2019-4129 |
総通号数 | 244 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-04-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-03-29 |
確定日 | 2020-03-17 |
事件の表示 | 特願2017-239857「眼科用水性組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成30年3月22日出願公開、特開2018-44004、請求項の数(9)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成24年7月5日(優先権主張 平成23年7月8日 日本国(JP))を国際出願日とする特願2013-523916号の一部を、平成28年12月27日に新たな特許出願とした特願2016-253899号の一部を、平成29年12月14日にさらに新たな特許出願としたものであって、出願後の主な手続の経緯は以下のとおりである。 平成30年 8月10日付け :拒絶理由通知 平成30年10月 3日 :意見書及び手続補正書の提出 平成30年12月28日付け :補正の却下の決定及び拒絶査定 平成31年 3月29日 :審判請求書及び手続補正書の提出 令和 1年 5月20日付け :前置報告 第2 本願発明 本願請求項1-9に係る発明(以下、それぞれ請求項の順に「本願発明1」-「本願発明9」という。)は、平成31年3月29日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1-9に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「【請求項1】 植物油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、テルペノイド、及びホウ酸又はその塩を含む水中油型エマルションからなり、エマルション粒子の平均粒子径が30nm?300nmの範囲内にあり、植物油の含有割合が、眼科用水性組成物の総量を基準として、植物油の総量で0.001?0.5w/v%であり、目の乾きの予防及び/又は治療用である、眼科用水性組成物。 【請求項2】 植物油が、ゴマ油である、請求項1に記載の組成物。 【請求項3】 前記ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油の含有割合が、眼科用水性組成物の総量を基準として0.001?5w/v%である、請求項1又は2に記載の組成物。 【請求項4】 植物油の総量1質量部に対して、前記ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を総量で1?30質量部含む、請求項1?3のいずれか一項に記載の組成物。 【請求項5】 テルペノイドが、メントール、メントン、カンフル、ボルネオール及びゲラニオールからなる群から選ばれた少なくとも一種である、請求項1?4のいずれか一項に記載の組成物。 【請求項6】 テルペノイドがメントールである、請求項1?5のいずれか一項に記載の組成物。 【請求項7】 テルペノイドの含有割合が、眼科用水性組成物の総量を基準として、テルペノイドの総量で0.0001?0.2w/v%である、請求項1?6のいずれか一項に記載の組成物。 【請求項8】 植物油の総量1重量部に対して、テルペノイドを総量で0.001?100重量部含む、請求項1?7のいずれか一項に記載の組成物。 【請求項9】 点眼剤又は洗眼剤である、請求項1?8のいずれか一項に記載の組成物。」 第3 原査定の拒絶理由の概要 原査定(平成30年12月28日付け拒絶査定)の拒絶の理由1?3の概要は、次のとおりである。 理由1:本願請求項1-13に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、又は、引用文献1に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 理由2:本願請求項1-4、7-13に係る発明は、以下の引用文献2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、又は、引用文献2に記載された発明に基いて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 理由3:本願請求項5-13に係る発明は、引用文献2に記載された発明及び引用文献1に記載された技術事項に基いて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献等一覧 1.国際公開第2005/025539号 2.特開2000-273061号公報 第4 原査定の拒絶理由についての判断 1 引用文献、引用発明等 (1)引用文献1 ア 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、次の事項が記載されている。 (摘記1a) 「[0001] 本発明は、清涼化剤、油及び乳化剤を水に含有させてなる、水中油型エマルジョンであるコンタクトレンズ用眼科用組成物、並びに、清涼化剤のコンタクトレンズへの 吸着抑制方法に関する。 ・・・ [0003] コンタクトレンズ装用時においては、涙液層が不安定化し、涙液蒸発量が増加するため、目の乾燥感をもたらし易い。・・・。これらの症状を緩和するために、従来コンタクトレンズ用眼科用組成物が用いられてきた。また、近年、コンタクトレンズユーザーの好みの多様化やソフトコンタクトレンズユーザーの増加から、コンタクトレンズ用眼科用組成物についても清涼化剤を配合したものが上市されるようになった。しかし、清涼化剤はコンタクトレンズ、特にソフトコンタクトレンズに 吸着しやすく、その成分や濃度によっては、レンズの着色や変形、レンズへの蓄積等により眼障害を引き起こす原因となる可能性がある。・・・。一方、メントール及びボルネオール等のテルぺノイドについて、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート等の飽和ポリエステル、又はポリカーボネート等のプラスチック容器への吸着が、水中油型エマルジョンとすることで抑制されることが知られているが(特許文献3参照)、コンタクトレンズへの吸着の抑制については知られていない。 ・・・ [0005]・・・ 特許文献 3:特開 2000?273061号公報 ・・・ [0006] 上記事情を背景として、本発明は、コンタクトレンズ、とりわけソフトコンタクトレンズへの清涼化剤の吸着を抑制する方法、及びそのような方法による、清涼化剤のコンタクトレンズへの吸着が極めて少ない清涼化剤含有コンタクトレンズ用眼科用組成物(点眼剤、洗眼剤、コンタクトレンズ装着剤等を提供することを目的とする。 ・・・ [0009] 本発明者らは、清涼化剤を含有するコンタクトレンズ用眼科用組成物につき、コンタクトレンズへの清涼化剤の吸着を防止できる形態を求めて検討を行った結果、清涼化剤と共に油及び乳化剤を配合して水中油型エマルジョンとすることにより、清涼化剤のコンタクトレンズへの吸着が極めて少ないコンタクトレンズ用眼科用組成物が得られることを見出した。」 (摘記1b) 「[0019] ・・・。本発明のコンタクトレンズ用眼科用組成物における油の配合量は、水中油型エマルジョンが形成されることを条件に、清涼化剤やクロロブタノールの配合量等に応じて適宜設定してよいが、通常0.005?20(W/V)%、好ましくは0.1?5(W/V)%である。」 (摘記1c) 「[0070] 以下に、本発明によるコンタクトレンズ用眼科用組成物の製剤実施例を示す。 [0071] [製剤実施例1] 点眼剤 マレイン酸クロルフェ二ラミン・・・・・・0.003g グリチルリチン酸ジカリウム・・・・・・0.025g 塩酸ピリドキシン・・・・・・0.01g 酢酸d-α-トコフェロール・・・・・・0.005g アミノエチルスルホン酸・・・・・・0.1g ホウ酸・・・・・・1.6g エデト酸ナトリウム・・・・・・0.005g ホウ砂・・・・・・適量 ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60・・・・・・0.1g l-メントール・・・・・・0.002g グルコン酸クロルへキシジン液(20W/V%)・・・・・・0.025mL ヒマシ油・・・・・・1g 精製水・・・・・・全量100mL pH・・・・・・7.0 上記処方に従い、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60に水を加えて溶解させた後、加温し、ホモミキサーで激しく攪拌しながら、l-メントールを溶解させたヒマシ油を加えて乳化させた。室温まで冷却し、マレイン酸クロルフェ二ラミン、グリチルリチン酸ジカリウム、塩酸ピリドキシン、酢酸d-α-トコフェロール、アミノエチルスルホン酸、ホウ酸、エデト酸ナトリウム、グルコン酸クロルへキシジン液を加え、ホウ砂を加えてpHを調整した後、メスアップし、ろ過滅菌して点眼剤を製した。」 (摘記1d) 「 請求の範囲 [1] 清涼化剤及び/又はクロロブタノールと、油及び乳化剤を水中に含有する水中油型エマルジョンであるコンタクトレンズ用眼科用組成物。」 イ 上記摘記1a?1dの記載、特に製剤実施例1の記載からみて、引用文献1には次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。 「コンタクトレンズへの清涼化剤の吸着を抑制するための、以下の組成を有する水中油型エマルジョンからなるコンタクトレンズ用眼科用点眼剤。 マレイン酸クロルフェ二ラミン・・・・・・0.003g グリチルリチン酸ジカリウム・・・・・・0.025g 塩酸ピリドキシン・・・・・・0.01g 酢酸d-α-トコフェロール・・・・・・0.005g アミノエチルスルホン酸・・・・・・0.1g ホウ酸・・・・・・1.6g エデト酸ナトリウム・・・・・・0.005g ホウ砂・・・・・・適量 ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60・・・・・・0.1g l-メントール・・・・・・0.002g グルコン酸クロルへキシジン液(20W/V%)・・・・・・0.025mL ヒマシ油・・・・・・1g 精製水・・・・・・全量100mL pH・・・・・・7.0」 (2)引用文献2 ア 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、次の事項が記載されている。 (摘記2a) 「【請求項1】 テルペノイド、油および界面活性剤を含有する水中油型エマルション。 【請求項2】 テルペノイドの油溶液が、界面活性剤の存在下に水に分散した態様である請求項1記載のエマルション。 【請求項3】 テルペノイドがメントールである請求項1または2記載のエマルション。 【請求項4】 油が動植物油である請求項1または2記載のエマルション。 【請求項5】 動植物油がヒマシ油である請求項4記載のエマルション。 【請求項6】 界面活性剤が非イオン界面活性剤である請求項1または2記載のエマルション。 【請求項7】 非イオン界面活性剤がポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルである請求項6記載のエマルション。」 (摘記2b) 「【0002】 【従来の技術】一般的に点眼液、点鼻剤、口中剤等には清涼感を出すためにメントール等のテルペノイドが清涼剤として配合されることが多い。さらに、それらの薬剤は通常プラスチック容器に充填されて製品化されている。 【0003】しかし、テルペノイドを配合したそれらの薬剤をプラスチック容器に充填すると、保存中にテルペノイドの量が減少するため、テルペノイドの所望含有量を長期間保持できないことが分かった。 ・・・ 【0005】 【発明が解決しようとする課題】従って、本発明の目的は、テルペノイドを含有し、例えばプラスチック容器に保存しても、保存中のテルペノイドの含有量の低下が抑制されたテルペノイド含有物、特に、プラスチック容器充填用であるテルペノイド含有物を提供することである。また、本発明の他の目的は、プラスチック容器に保存されたテルペノイドの含有量の減少抑制方法を提供することである。 【0006】 【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記の問題を解決するために研究を重ねたところ、テルペノイドに油および界面活性剤を配合し、水中油型エマルションにすることにより、テルペノイドをプラスチック容器に充填しても、テルペノイドの含有量の低下を抑制することができることを見出し、さらに研究を重ねて本発明を完成した。」 (摘記2c) 「【0009】テルペノイドとしては、メントール、・・・等のモノテルペン、・・・が使用され、好ましくはメントール、・・・等である。 【0010】本発明の水中油型エマルションにおけるテルペノイドの配合量は、その目的とする製剤等によって変わりえるが、通常0.0005?1(W/V)%、好ましくは0.001?0.1(W/V)%である。 【0011】油としては、テルペノイドを溶解しえるものであれば特に制限はないが、医薬として使用する場合には、医薬的に許容されるものであることが必要である。特に、脂肪酸のグリセリドを主成分とする動植物油脂が好ましい。動植物油脂としては、ヒマシ油、・・・、ゴマ油、・・・等の炭素数14?24の脂肪酸からなる中鎖脂肪酸グリセリド等が好ましいものとして挙げられる。本発明の水中油型エマルションが点眼液、洗眼液を含む点眼剤等の眼科用剤の形態である場合には、安全性の観点からヒマシ油がより好ましい。 【0012】本発明の水中油型エマルションにおける油の配合量は、テルペノイドの配合量等によって変わりうるが、通常0.01?20(W/V)%、好ましくは0.1?10(W/V)%である。 ・・・ 【0014】非イオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、・・・等が例示される。特に好ましくは、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルである。 ・・・ 【0022】本発明の水中油型のエマルションは、点眼液、洗眼液を含む点眼剤等の眼科用剤、点鼻剤等の鼻科用剤、皮膚用剤、口腔用剤、点耳剤等の形態で使用することができる。 ・・・ 【0025】pHの調整はpH調整剤を使用することによって行われる。pH調整剤としては、例えば水酸化ナトリウム、・・・、ホウ酸またはその塩(ホウ砂)、・・・等が挙げられる。」 (摘記2d) 「【0035】本発明の水中油型エマルションは従来公知の方法で製造することができる。・・・。水相を50?90℃、好ましくは60?80℃に加熱し、ホモミキサーを用いて5000?8000rpm、好ましくは6000?7000rpmで攪拌しながら、油相を加え、さらに温度を保ちながら、6000?12000rpm、好ましくは8000?10000rpmで、10?60分間、好ましくは20?60分間攪拌する。・・・。」 (摘記2e) 「【0038】実施例1 常法により、次の処方で点眼剤を調製する。 」 イ 上記摘記2a?2eの記載、特に実施例1の記載からみて、引用文献2には次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。 「保存中のテルペノイドの含有量の低下を抑制するための、以下の組成を有する水中油型エマルションからなる点眼剤。 」 (3)引用文献3 前置報告書で新たに引用された引用文献3には、次の事項が記載されている。 (摘記3a) 「【技術分野】 【0001】 本発明は、水性点眼剤に関し、さらに詳しくは、涙液の蒸発亢進に伴うドライアイの予防又は改善に有効なO/W型エマルション水性点眼剤に関する。 ・・・ 【0005】 眼の表面は涙液に覆われることにより、外界から保護されている。涙液は油層、水層及びムチン層の三層より構成されており、この涙液の三層構造が破綻するとドライアイが惹起される。 【0006】 ドライアイは大きく分類すると涙液(分泌)減少型ドライアイと蒸発亢進型ドライアイの二つに分類される。近年、コンピュータの急速な普及やコンタクトレンズ装用者の増加に伴い、涙液油層の障害が原因となって生じる蒸発亢進型ドライアイの割合が急増している。従来用いられてきたドライアイ用点眼剤は、ナトリウムイオンやカリウムイオンを主成分とした、主に水分の補給を目的とした人工涙液型点眼剤、または、コンドロイチン硫酸ナトリウムやヒアルロン酸ナトリウム等のムコ多糖を含有し、主に水分の保持を目的とした点眼剤であり、水分が減少することによって生じる涙液減少型ドライアイの治療には有効であったが、油層の障害によって惹起される蒸発亢進型ドライアイの治療には十分な効果があるとはいえない。 【0007】 蒸発亢進型ドライアイに対しては、油分の補給を目的に油性点眼剤や眼軟膏剤が用いられることもあるが、油分を直接眼に投与すると、その特有の刺激又は粘性のため、痛みや視界の曇り、べとつき等を生じ、継続して使用することは困難である。特に、コンタクトレンズ装用者においては、油分はコンタクトレンズのくもりや汚れの原因になりやすいという問題があり、また、油分を可溶化するために配合される界面活性剤がソフトコンタクトレンズそのものに与える影響も懸念される。 【0008】 従来から、脂溶性薬物や油分をポリオキシエチレン硬化ヒマシ油類、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー類などの界面活性剤を使用して、水に可溶化若しくは乳化した点眼剤が知られている(特許文献2及び3参照)。しかしながら、界面活性剤は、角膜若しくは結膜に対して刺激性があることが指摘されており、殊に、ドライアイ患者では涙液の循環が悪化しているため、界面活性剤が眼表面に残留しやすく、界面活性剤の使用はあまり好ましくない。また、多量の界面活性剤を用いて油分を可溶化若しくは乳化した点眼剤は、点眼液中で油分が安定に存在するという利点があるものの、その界面活性剤の作用により、涙液油層やムチン層まで一緒に除去してしまうおそれがあり、特に油分を効率的に補給する必要がある蒸発亢進型ドライアイの予防又は改善には十分な効果を発揮できなかった。」 (摘記3b) 「【0031】 O/W型エマルション水性点眼剤中におけるエマルションの平均粒子径は、点眼液の透明性、安定性を確保するため、200nm以下であることが好ましく、50nm?150nmであることがより好ましい。50nm未満であると点眼後、涙液油層の形成効率が低下するため好ましくないからである。この粒子径は、レーザー回析・散乱式粒度分布測定装置などを用いて測定することができる。」 (4)引用文献4 前置報告書で新たに引用された引用文献4には、次の事項が記載されている(以下では、引用文献4のファミリー文献である特表2012-528876号公報の対応する段落の記載を示す。)。 (摘記4a) 「【技術分野】 【0001】 本発明は、眼科的用途に適した水中油型エマルションを開示する。より具体的には、ここに開示される水中油型エマルションは人工涙液としてまたは溶液供給治療剤として使用できる。 【背景技術】 【0002】 水中油型エマルションは、一般的に、少なくとも1種の水溶性界面活性剤層により囲まれていて水相中に懸濁している離散油滴(粒子)を含む水相を含有する。エマルションの安定性は、主に粒子径によって決まる:直径1μmを越える粒子径を有する水中油型エマルションは、安定性が低くなりやすく、乳化されやすく、また貯蔵中に相分離しやすい。したがって、多くの用途において粒子径を小さくすることが望まれており、それは一般的に水相中の界面活性剤濃度の大幅な増加につながる。粒子径がより小さければ、水相により多くの界面活性剤を必要とし、溶液中により多くの遊離した界面活性剤を生じる結合した粒子表面積はより大きくなる。 【0003】 水中油型エマルションは、コンタクトレンズの処理、保管および洗浄に使用する溶液の製造、鎮痛剤および潤滑剤の提供、ならびに治療用組成物の担体としての役割を含む様々な眼科的用途を有する。眼科用エマルションは、特定点眼液であっても多目的溶液であってもよい。特定点眼液として、乾性角結膜炎(ドライアイ)の治療液が挙げられる。ドライアイは、眼の表面から自然に水分が蒸発することにより生じる。ドライアイ治療用組成物は、一般的に、眼がもともと有する水層を修復し、さらなる蒸発を防止するために新しい水層上に油層を付与する水中油型エマルションを含有する。・・・。」 (摘記4b) 「【0043】 成功する眼科用エマルション溶液組成物は、2つの重要な特徴を有する必要がある。眼科用エマルション溶液は比較的安定である必要があり、すなわち、多くの用途では使用前に予備的振とうをし得るが、形成されたエマルションは分離したり、凝集したり、または乳化したりすることなく最初の特性を維持しなければならない。固体状(クリーム)のまたは凝固した眼科用エマルションは溶液ではないため、軟膏として使用し得るが、これらは眼科用多目的溶液としては認められない。分離した眼科用エマルション溶液は、使用前に通常、振とうする必要がある。この段階は忘れられやすく、それにより眼やレンズに対して効果のないまたは刺激性のある溶液を適用する利用者を生じる。 【0044】 第2に、眼科用溶液組成物は、眼に適用する場合に非刺激性でなければならない。一般的に、刺激は、水相中に存在する過剰な親油性界面活性剤により引き起こる。水相に過剰な親油性界面活性剤を含む眼科用組成物を眼に適用する場合、界面活性剤が、涙膜がもともと有する液体成分を押し流し、角膜または結膜を覆うムチン層に損傷を与えることにより、眼に刺激を与え、および/またはドライアイを悪化させる。 【0045】 しかしながら、比較的安定な非刺激性眼科用組成溶液を作製することは未だ課題であり、決して完全に満足のいくものではない妥協策に終わっている。このことは、特に、レンズの洗浄効果と利用者の快適さとのバランスをとる必要性が特に困難であり得る多目的溶液に対して言えることである。この理論に縛られたり制限されたりすることなく、本発明者は、水中油型エマルションの安定性および流動特性の少なくとも一部が粒子径によって決まることに気付いた。即ち、より小さい粒子径は、本質的により安定なエマルションになり、より流動的である(眼の表面に均一に広がる)。一実施態様において、本明細書に開示するエマルションは1μm未満の平均粒子径(直径)を有し、別の実施態様において、平均粒子径(直径)は0.8μm未満であり、別の実施態様において、平均粒子径(直径)は0.6μm未満であり、別の実施態様において、平均粒子径(直径)は0.4μm未満であり、別の実施態様において、平均粒子径(直径)は0.2μm未満であり、別の実施態様において、平均粒子径(直径)は0.1μm未満である。」 2 対比・判断 (1)引用発明1に基づく進歩性の対比・判断 ア 本願発明1について (ア)対比 本願発明1と引用発明1とを対比すると、引用発明1における「ヒマシ油」、「ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60」及び「l-メントール」は、それぞれ、本願発明1における「植物油」、「ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油」及び「テルペノイド」に相当する。また、引用発明1における「水中油型エマルジョンからなるコンタクトレンズ用眼科用点眼剤」は、本願発明1における「水中油型エマルションからな」る「眼科用水性組成物」に相当する。 そうすると、本願発明1と引用発明1との間には、次の一致点及び相違点があるといえる。 <一致点> 「植物油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、テルペノイド、及びホウ酸又はその塩を含む水中油型エマルションからなる、眼科用水性組成物。」 <相違点1> 本願発明1は、水中油型エマルションからなる眼科用水性組成物が、「目の乾きの予防及び/又は治療用である」のに対し、引用発明1は、水中油型エマルジョンからなるコンタクトレンズ用眼科用点眼剤が、「コンタクトレンズへの清涼化剤の吸着を抑制するための」ものである点。 <相違点2> 本願発明1は「エマルション粒子の平均粒子径が30nm?300nmの範囲内にあ」るのに対し、引用発明1はエマルション粒子の平均粒子径について特定されていない点。 <相違点3> 本願発明1は、植物油の含有割合が、眼科用水性組成物の総量を基準として、植物油の総量で「0.001?0.5w/v%であ」るのに対し、引用発明1は、当該含有割合が、1w/v%、である点。 (イ)相違点についての判断 上記相違点1について検討する。 本願明細書には、本願発明1の「目の乾きの予防及び/又は治療用である」ことについて、スティーブンス・ジョンソン症候群、シェーグレン症候群等の内因性疾患、長期連用する薬剤の副作用、パソコン等のVDT作業による瞬目回数の減少、エアコンの普及による室内湿度の低下等を原因として、涙液が異常をきたし、眼が乾く、眼が疲れる等の症状を有するドライアイという疾患に対する予防又は治療を目的として、植物油、非イオン界面活性剤、及びテルペノイドという特定の三成分を同時に含む水中油型エマルションからなり、エマルション粒子の平均粒子径を特定の範囲に制御した水性組成物を用いることが記載され、また、ドライアイの予防又は治療の効果は、涙液層破壊時間(BUT)によって評価されることが記載されている(本願明細書の【0002】、【0007】、【0008】、【0016】及び実施例等を参照。)。 一方、引用文献1の[0003]には、従来のコンタクトレンズ用眼科用組成物が、コンタクトレンズ装用によって起こる目の乾燥感を緩和するために用いられてきたことが記載されるものの、引用文献1の全体の記載からすると、引用文献1に記載されるのは、コンタクトレンズへの清涼化剤の吸着を抑制することを目的とする発明であって、その目的は、上記の本願明細書に記載されるようなドライアイの予防又は治療とは異なるものである。 また、引用文献2に記載される発明は、保存中のテルペノイドの含有量の低下を抑制することを目的とするものであって、その目的も、上記の本願明細書に記載されるようなドライアイの予防又は治療とは異なるものである。 また、引用文献3-4には、水中油型エマルションを用いたドライアイの予防又は治療について記載されているが、そこで用いられる水中油型エマルションの組成は、植物油、非イオン界面活性剤及びテルペノイドという特定の三成分を含むものではなく、引用文献3-4には、引用発明1が有する特定の組成を有する水中油型エマルジョンが、本願明細書に記載されるようなドライアイの予防又は治療に有用であることをうかがわせる記載又は示唆はない。 そうすると、引用発明1における、コンタクトレンズへの清涼化剤の吸着を抑制するために用いられている、特定の組成を有する水中油型エマルジョンからなるコンタクトレンズ用眼科用点眼剤を、目の乾きの予防及び/又は治療用に用いる動機付けに欠けるといわざるを得ない。 一方、本願明細書の実施例(本願明細書の【0098】?【0104】等を参照。)においては、本願発明1の眼科用水性組成物が目の乾きの予防及び/又は治療用に有用であったことが裏付けられている。 したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用発明1及び引用文献1-4に記載された技術事項に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。 イ 本願発明2-9について 本願発明2-9は、本願発明1の発明特定事項を全て備えるものであるから、前記アと同じ理由により、当業者であっても、引用発明1及び引用文献1-4に記載された技術事項に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。 (2)引用発明2に基づく進歩性の対比・判断 ア 本願発明1について (ア)対比 本願発明1と引用発明2とを対比すると、引用発明2における「大豆油」及び「l-メントール」は、それぞれ、本願発明1における「植物油」及び「テルペノイド」に相当する。 また、引用発明2において、「大豆油」の含有割合が0.1w/v%であることは、本願発明1において、「植物油の含有割合が、眼科用水性組成物の総量を基準として、植物油の総量で0.001?0.5w/v%であ」ることに相当する。また、引用発明2における「水中油型エマルジョンからなる点眼剤」は、本願発明1における「水中油型エマルションからな」る「眼科用水性組成物」に相当する。 そうすると、本願発明1と引用発明2との間には、次の一致点及び相違点があるといえる。 <一致点> 「植物油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、テルペノイドを含む水中油型エマルションからなり、植物油の含有割合が、眼科用水性組成物の総量を基準として、植物油の総量で0.001?0.5w/v%である、眼科用水性組成物。」 <相違点1> 本願発明1は、水中油型エマルションからなる眼科用水性組成物が、「目の乾きの予防及び/又は治療用である」のに対し、引用発明2は、水中油型エマルジョンからなる点眼剤が、「保存中のテルペノイドの含有量の低下を抑制するための」ものである点。 <相違点2> 本願発明1は「エマルション粒子の平均粒子径が30nm?300nmの範囲内にあ」るのに対し、引用発明2はエマルション粒子の平均粒子径について特定されていない点。 <相違点3> 本願発明1は、水中油型エマルションに「ホウ酸又はその塩」を含むのに対し、引用発明2は、水中油型エマルジョンにホウ酸又はその塩が含まれない点。 (イ)相違点についての判断 上記相違点1について検討する。 上記(1)ア(イ)において説示した理由と同様の理由により、引用発明2において、保存中のテルペノイドの含有量の低下を抑制するために用いられている、特定の組成を有する水中油型エマルジョンからなる点眼剤を、目の乾きの予防及び/又は治療用に用いる動機付けに欠けるといわざるを得ない。 一方、本願明細書の実施例においては、本願発明1の眼科用水性組成物が目の乾きの予防及び/又は治療用に有用であったことが裏付けられている。 したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用発明2及び引用文献1-4に記載された技術事項に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。 イ 本願発明2-9について 本願発明2-9は、本願発明1の発明特定事項を全て備えるものであるから、前記アと同じ理由により、当業者であっても、引用発明2及び引用文献1-4に記載された技術事項に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。 3 小括 以上のとおり、本願発明1-9は、当業者が引用文献1-2のいずれかに記載された発明及び引用文献1-4に記載された技術事項に基いて容易に発明をすることができたものではない。 第5 むすび 以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2020-03-02 |
出願番号 | 特願2017-239857(P2017-239857) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(A61K)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 今村 明子 |
特許庁審判長 |
滝口 尚良 |
特許庁審判官 |
渡邊 吉喜 前田 佳与子 |
発明の名称 | 眼科用水性組成物 |
代理人 | 阿部 寛 |
代理人 | 吉住 和之 |
代理人 | 長谷川 芳樹 |
代理人 | 坂西 俊明 |
代理人 | 清水 義憲 |