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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01F
管理番号 1360299
審判番号 不服2018-12795  
総通号数 244 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-09-26 
確定日 2020-03-05 
事件の表示 特願2013- 10481「軟磁性体組成物およびその製造方法、磁芯、並びに、コイル型電子部品」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 8月 7日出願公開、特開2014-143286〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年1月23日の出願であって、平成28年10月28日付けで拒絶理由が通知され、平成29年1月5日に意見書が提出されると共に手続補正がなされ、同年8月30日付けで拒絶理由が通知され、同年12月26日に意見書が提出され、平成30年6月27日付けで拒絶査定がなされた。
これに対して、同年9月26日に拒絶査定不服の審判が請求されると同時に手続補正がなされ、当審において、令和1年9月25日付けで拒絶理由が通知され、同年11月29日付けで意見書が提出されると共に手続補正がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし6に係る発明は、令和1年11月29日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】
複数の軟磁性合金粒子と、前記軟磁性合金粒子間に存在する粒界と、を有する軟磁性体組成物であって、
前記軟磁性合金粒子が、クロム(Cr)をCr換算で1.5?8質量%、ケイ素(Si)をSi換算で1.4?9質量%含有し、残部が鉄(Fe)で構成され、
前記粒界には、Si酸化物アモルファス層が存在し、
前記軟磁性合金粒子の表面には、Si?Cr複合酸化物アモルファス層が存在することを特徴とする軟磁性体組成物。」

第3 引用文献、引用発明等
1 引用文献1
当審の拒絶の理由で引用された、特開2009-259974号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面と共に次の記載がある。なお、下線は、当審で付与した。

「【0035】
[本実施形態]
[1.製造工程]
次に、本発明の製造工程を以下に説明する。なお、本発明は、Fe-Si-Al合金を主成分とする軟磁性合金粉末を、結着性絶縁樹脂であるメチルフェニル系シリコーン粘着剤により被覆し、その後、所定の形状に成型し、酸化雰囲気中(大気中)で熱処理することで高強度圧粉磁心を作製する点に特徴を有する。
【0036】
具体的には、まず、センダスト等のFe-Si-Al合金を主成分とする軟磁性合金粉末をこのメチルフェニル系シリコーンワニスにより被覆し、200℃前後の加熱乾燥を行う。その後、メチル基の熱分解速度を速めるために、潤滑剤としてステアリン酸の金属塩を混入させる。なお、後述するが、本実施形態では、この潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を0.3質量%混合させている。
【0037】
そして、室温にて1700MPaの圧力で加圧成型することで成型体を形成する。ここで、加熱乾燥されたメチルフェニル系シリコーンワニスは、成型時のバインダーとして作用する。その後、この成型体を大気中において600?800℃程度の熱処理が行われ、高強度の圧粉磁心が作製される。
【0038】
ここで、本実施形態において合金粉末を被覆するメチルフェニル系シリコーンワニスは、樹脂濃度が高く溶剤が揮発した後は粘着感があり、上述した200℃前後の加熱乾燥においては成型時のバインダーとして最適に作用する。なお、メチル系のシリコーンレジンは何れも3官能基が導入されているのに対し、このメチルフェニル系シリコーンワニスは2官能のシロキサンが導入されているので、柔軟性が維持されている。
【0039】
また、大気中で熱処理が行われることで、このメチルフェニル系シリコーンワニスは、350℃程度でSi基に直結しているメチル基が熱分解し、その後、シリカ(SiO_(2))層として軟磁性合金粉末の表面に残り、緻密で強固なバインダー、並びに絶縁膜となる。さらに、この大気中における熱処理により、熱分解したメチル基が炭素として残存しないので、機械的強度が改善できる。」

上記下線部及び関連箇所の記載によれば、引用文献1には、圧粉磁心として、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

[引用発明]
「センダスト等のFe-Si-Al合金を主成分とする軟磁性合金粉末を、結着性絶縁樹脂であるメチルフェニル系シリコーン粘着剤により被覆し、その後、所定の形状に成型し、酸化雰囲気中(大気中)で熱処理することで作製された圧粉磁心であり、
熱処理は成型体を大気中において600?800℃程度で行われ、
大気中で熱処理が行われることで、メチルフェニル系シリコーンワニスは、350℃程度でSi基に直結しているメチル基が熱分解し、その後、シリカ(SiO_(2))層として軟磁性合金粉末の表面に残り、緻密で強固なバインダー、並びに絶縁膜となる
圧粉磁心。」

2 引用文献2
当審の拒絶の理由で引用された、特開2011-249774号公報(以下「引用文献2」という。)には、図面と共に次の記載がある。

(1)「【0001】
本発明は、コイル型電子部品およびその製造方法に関し、特に、回路基板上への面実装が可能な小型化されたコイル型電子部品に適した軟磁性合金を用いたコイル型電子部品、およびその製造方法に関する。
【0002】
従来、高周波で用いられるチョークコイルの磁性コアとして、フェライトコアや金属薄板のカットコアや、圧粉磁芯が使用されている。
フェライトに比較して、金属磁性体を用いると、高い飽和磁束密度を得られる利点がある。一方、金属磁性体そのものは、絶縁性が低いので、絶縁処理を施す必要がある。
特許文献1には、表面酸化被膜を有するFe-Al-Si粉末と結着剤からなる混合物を圧縮成形後、酸化性雰囲気中で熱処理することが提案されている。該特許文献によれば、酸化性雰囲気中で熱処理することで、圧縮成形時に合金粉末表面の絶縁層が破れたところに酸化層(アルミナ)を形成して、低いコア損失で良好な直流重畳特性を持つ複合磁性材料が得られるとしている。
特許文献2には、金属磁性体粒子を主成分とし、ガラスを含有する金属磁性体ペーストを用いて形成される金属磁性体層と、銀等の金属を含有する導体ペーストを用いて形成される導体パターンを積層して、積層体内にコイルパターンが形成された積層型電子部品、そして、この積層型電子部品は窒素雰囲気中において400℃以上の温度で焼成されていることが記載されている。」

(2)「【0007】
本発明は、これらの知見に基づいて完成に至ったものであり、以下のとおりのものである。
(1)素体の内部あるいは表面にコイルを有するコイル型電子部品であって、
素体は、鉄、ケイ素および鉄より酸化しやすい元素を含有する軟磁性合金の粒子(「合金粒子」、「軟磁性体粒子」ともいう)群から構成され、各軟磁性合金粒子の表面には当該粒子を酸化して形成した酸化層が生成され、当該酸化層は当該合金粒子に比較して鉄より酸化しやすい元素を多く含み、粒子同士は当該酸化層を介して結合されていることを特徴とするコイル型電子部品。
(2)軟磁性体粒子同士を結合する部分の酸化層の厚みは、結合に関与しない軟磁性体粒子表面の酸化層よりも厚いことを特徴とする(1)記載のコイル型電子部品。
(3)軟磁性体粒子同士を結合する部分の酸化層の厚みは、結合に関与しない軟磁性体粒子表面の酸化層よりも薄いことを特徴とする(1)記載のコイル型電子部品。
(4)軟磁性体粒子のうち少なくとも一部は50nm以上の厚さをもつ酸化層を有する粒
子であることを特徴とする(1)または(2)に記載のコイル型電子部品。
(5)前記粒子同士を結合している前記酸化層は、同一の相であることを特徴とする(1)から(4)のいずれか1つに記載のコイル型電子部品。
(6)前記鉄より酸化しやすい元素は、クロムであることを特徴とする(1)から(5)のいずれか1つに記載のコイル型電子部品。
(7)前記鉄より酸化しやすい元素は、アルミニウムであることを特徴とする(1)から(5)のいずれか1つに記載のコイル型電子部品。
(8)前記軟磁性合金は、クロム2?8wt%、ケイ素1.5?7wt%、鉄88?96.5wt%の組成であることを特徴とする(6)に記載のコイル型電子部品。
(9)前記軟磁性合金は、アルミニウム 2?8wt%、ケイ素1.5?12wt%、鉄80?96.5wt%の組成であることを特徴とする(7)に記載のコイル型電子部品。
(10)軟磁性体粒子の算術平均粒径は、30μm以下であることを特徴とする(1)から(9)のいずれか1つに記載のコイル型電子部品。

・・・(以下省略)・・・」

(3)「【0018】
本発明の電子部品用軟磁性合金を用いた素体を製造するには、態様の一つとして、最初に、クロム、ケイ素、鉄含有する原料粒子に例えば熱可塑性樹脂などの結合剤を添加し、攪拌混合させて造粒物を得る。次に、この造粒物を圧縮成形して成形体を形成し、得られた成形体を大気中で400?900℃で熱処理する。この大気中で熱処理を行うことで、混合した熱可塑性樹脂を脱脂するとともに、もともと粒子中に存在し熱処理により表面に移動してきたクロムと、粒子の主成分である鉄を酸素と結合させながら、金属酸化物からなる酸化層を粒子表面に生成させ、かつ隣接する粒子の表面の酸化層同士を結合させる。生成された酸化層(金属酸化物層)は、主にFeとクロムからなる酸化物であり、粒子間の絶縁を確保し電子部品用軟磁性合金を用いた素体を提供することができる。
原料粒子の例としては、水アトマイズ法で製造した粒子、原料粒子の形状の例として、球状、扁平状があげられる。
【0019】
本発明において、酸素雰囲気下にて熱処理温度をあげると結合剤は分解し、軟磁性合金体は酸化される。このため、成形体の熱処理条件として、大気中、400?900℃で、1分以上保持することが好ましい。この温度範囲内で熱処理を行うことで、優れた酸化層を形成することができる。より好ましくは、600?800℃である。大気中以外の条件、例えば、酸素分圧が大気と同程度の雰囲気中で熱処理してもよい。還元雰囲気又は非酸化雰囲気では、熱処理により金属酸化物からなる酸化層の生成が行われないため、粒子同士が燒結し体積抵抗率は著しく低下する。
雰囲気中の酸素濃度、水蒸気量については特に限定されないが、生産面から考慮すると、大気あるいは乾燥空気であることが望ましい。
熱処理温度が400℃を越えると優れた強度と優れた体積抵抗率を得ることができる。
一方、熱処理温度が、900℃を超えると、強度は増加するものの、体積抵抗率の低下が発生する。
上記熱処理温度中の保持時間は、1分以上とすることによりFeとクロムを含む金属酸化物からなる酸化層が生成されやすい。酸化層厚は一定値で飽和するため保持時間の上限はあえて設定しないが、生産性を考慮し2時間以下とすることが妥当である。
以上のとおり、熱処理条件を、上記範囲とすることで優れた強度と優れた体積抵抗率を同時に満たし、酸化層を有する軟磁性合金を用いた素体とすることができる。
つまり、熱処理温度、熱処理時間、熱処理雰囲気中の酸素量等により、酸化層の形成を
制御している。」

上記下線部及び関連箇所の記載によれば、引用文献2には、以下の技術が記載されている。

「軟磁性合金を用いたコイル型電子部品の素体において、
鉄、ケイ素および鉄より酸化しやすい元素を含有する軟磁性合金の粒子から構成され、粒子同士は酸化層を介して結合されたものであり、
前記鉄より酸化しやすい元素は、クロム、または、アルミニウムであり、
前記軟磁性合金は、クロム2?8wt%、ケイ素1.5?7wt%、鉄88?96.5wt%の組成、または、アルミニウム 2?8wt%、ケイ素1.5?12wt%、鉄80?96.5wt%の組成とし、
優れた強度の素体とする技術」

第4 対比・判断
1 対比
本願発明と引用発明とを対比する。

(1)引用発明の「Fe-Si-Al合金を主成分とする軟磁性合金粉末」は、複数の粒子を含んでいることは明らかであり、本願発明の「複数の軟磁性合金粒子」に相当する。
また、引用発明は「シリカ(SiO_(2))層」が「軟磁性合金粉末の表面に残り、緻密で強固なバインダー、並びに絶縁膜となる」ものであるから、軟磁性合金粉末間にシリカ(SiO_(2))層が存在することは明らかであり、当該「シリカ(SiO_(2))層」は本願発明の「前記軟磁性合金粒子間に存在する粒界」に相当する。
したがって、「Fe-Si-Al合金を主成分とする軟磁性合金粉末」と「シリカ(SiO_(2))層」を有する引用発明の「圧粉磁心」は、本願発明の「複数の軟磁性合金粒子と、前記軟磁性合金粒子間に存在する粒界と、を有する軟磁性体組成物」に相当する。

(2)本願発明は「軟磁性合金粒子が、クロム(Cr)をCr換算で1.5?8質量%、ケイ素(Si)をSi換算で1.4?9質量%含有し、残部が鉄(Fe)で構成」されるのに対し、引用発明は「センダスト等のFe-Si-Al合金を主成分とする軟磁性合金粉末」である点で相違する。

(3)上記(1)で検討したように、引用発明の「シリカ(SiO_(2))層」は本願発明の「前記軟磁性合金粒子間に存在する粒界」に相当するものであるから、本願発明と引用発明は、「粒界には、Si酸化物層が存在」する点で一致する。
ただし、本願発明のSi酸化物層が「アモルファス」であるのに対し、引用発明はそのような特定がない点で一応相違する。

(4)引用発明の「シリカ(SiO_(2))層」は「軟磁性合金粉末の表面に残」るものであるから、軟磁性合金粉末の表面にも存在する層であることは明らかであり、本願発明と引用発明は、「前記軟磁性合金粒子の表面には、Siの酸化物層が存在する」点で一致する。
ただし、軟磁性合金粒子の表面のSiの酸化物層が本願発明は「Si?Cr複合酸化物アモルファス層」であるのに対し、引用発明はそのような酸化物ではない点で相違する。

したがって、両者は、以下の一致点および相違点を有する。

〈一致点〉
「複数の軟磁性合金粒子と、前記軟磁性合金粒子間に存在する粒界と、を有する軟磁性体組成物であって、
前記粒界には、Si酸化物層が存在し、
前記軟磁性合金粒子の表面には、Siの酸化物層が存在することを特徴とする軟磁性体組成物。」

〈相違点1〉
軟磁性合金粒子について、本願発明は「クロム(Cr)をCr換算で1.5?8質量%、ケイ素(Si)をSi換算で1.4?9質量%含有し、残部が鉄(Fe)で構成」されるのに対し、引用発明は「Fe-Si-Al合金を主成分とする」ものである点。

〈相違点2〉
粒界のSi酸化物層について、本願発明は「アモルファス」であるのに対し、引用発明はそのような特定がない点。

〈相違点3〉
軟磁性合金粒子の表面に存在するSiの酸化物層について、本願発明は「Si?Cr複合酸化物アモルファス層」であるのに対し、引用発明はそのような酸化物ではない点。

2 判断
(1)〈相違点1〉について
引用文献2は、鉄、ケイ素および鉄より酸化しやすい元素を含有する軟磁性合金の粒子から構成され、粒子同士は酸化層を介して結合されたコイル型電子部品の素体において、軟磁性合金を、クロム2?8wt%、ケイ素1.5?7wt%、鉄88?96.5wt%の組成、または、アルミニウム 2?8wt%、ケイ素1.5?12wt%、鉄80?96.5wt%の組成とするものであるから、所定組成比の「Fe-Si-Alから成る軟磁性合金」と所定組成比の「Fe-Si-Crから成る軟磁性合金」が共にコイル型電子部品の素体の材料として選択可能であることが記載されているように、軟磁性合金としてFe-Si-AlもFe-Si-Crも適宜選択できるものである。
してみれば、センダストの組成が引用文献2に記載されたアルミニウム 2?8wt%、ケイ素1.5?12wt%、鉄80?96.5wt%の組成の軟磁性合金に含まれるものであることを考慮すれば、引用発明のセンダスト等を含むFe-Si-Al合金に代えて引用文献2に記載されたクロム2?8wt%、ケイ素1.5?7wt%、鉄88?96.5wt%の組成の軟磁性合金を採用して上記相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

(2)〈相違点2〉について
引用発明の圧粉磁心は大気中で600?800℃程度で熱処理されているところ、シリコーン樹脂を大気中で600?800℃程度で熱処理して形成されたシリカはアモルファスであるといえるから(例えば、特開2012-9825号公報の段落【0051】、【0059】、特開2007-88156号公報の段落【0006】、特開2000-164415号公報の段落【0017】?【0020】、【0057】を参照。)、引用発明のシリカ(SiO_(2))層はSi酸化物アモルファス層であるものと認められる。
したがって、上記相違点2に係る構成は、実質的な差異ではない。

(3)〈相違点3〉について
本願の明細書段落【0083】?【0087】、【0096】に記載されるように、軟磁性合金粉末にシリコン樹脂を添加、混合した混合物を成形、大気中で熱処理することにより得た圧粉磁芯は、粒子表面にSiおよびCrを含むアモルファス層が確認されるものである。
してみれば、引用発明に引用文献2記載の技術を適用したものは、軟磁性合金粒子の表面にSi?Cr複合酸化物アモルファス層が存在するものと認められ、上記相違点3に係る構成は、引用発明に引用文献2記載の技術を適用することにより得られるものである。
なお、引用文献2の段落【0018】に「大気中で熱処理を行うことで、混合した熱可塑性樹脂を脱脂するとともに、もともと粒子中に存在し熱処理により表面に移動してきたクロムと、粒子の主成分である鉄を酸素と結合させながら、金属酸化物からなる酸化層を粒子表面に生成させ、かつ隣接する粒子の表面の酸化層同士を結合させる」と記載されているように、引用文献2には、Fe-Si-Crから成る軟磁性合金を大気中熱処理したものは、粒子表面にCrを含む酸化層が生成されることが示唆されている。

3 小活
したがって、本願発明は、引用発明及び引用文献2記載の技術に基づいて、当業者が容易になし得たものと認められる。

4 審判請求人の主張について
審判請求人は令和1年11月29日の意見書において、
「引用文献1および2に接した当業者が、Fe-Si-Al合金に代えてFe-Si-Cr合金を用いることにより得られる強度の向上幅の予測範囲は、試料3と4との比較で示される強度の向上幅(9/7≒1.29倍)程度です。これに対して、本願当初明細書の表1に示されている通り、試料1と2との比較で示される強度の向上幅(14/8=1.75倍)は、予測範囲を大きく超えています。」
「粒界にSi酸化物アモルファス層が形成され、合金粒子の表面にSi-Cr複合酸化物アモルファス層が形成されている試料1の強度は、合金粒子の表面にSiとCrとを含む酸化物層しか形成されていない試料2の強度の1.75倍に達します。一方、粒界にSi酸化物アモルファス層が形成され、合金粒子の表面にSiとAlを含む酸化物層が形成されている試料3の強度は、合金粒子の表面にSiとAlを含む酸化物層しか形成されていない試料4の強度の約1.29倍に過ぎません。」
「引用文献1および2には、粒界にSi酸化物層を形成したときに予測される強度の向上が、Fe-Si-Al合金よりもFe-Si-Cr合金の方が大きいことを示す記載、あるいは、示唆する記載はありません。そうすると、試料1、すなわち、補正後の請求項1に係る発明によれば、所定のFe-Si-Cr合金組成を有する軟磁性体組成物において、粒界にSi酸化物アモルファス層が存在し、合金粒子の表面にSi-Cr複合酸化物アモルファス層が存在することにより、粒界にSi酸化物層を形成して、強度を向上させようと考える当業者が予測する強度の向上幅の範囲を大きく超える顕著な効果を奏することができます。」
と主張している。
しかしながら、本願発明が有利な効果を有するかの判断は、引用発明である、Fe-Si-Al合金の軟磁性合金粉末とシリコーンワニスを用いた圧粉磁心と比較しなされなければならない。
ここで、本願発明の軟磁性体組成物(Fe-Si-Cr合金とシリコン樹脂)は、本願明細書の表2を参照すると10kgf/mm^(2)のものを含む。
一方、引用発明の軟磁性組成物(センダスト等のFe-Si-Al合金とシリコン樹脂)は、本願明細書の表1及び【0098】によれば、9kgf/mm^(2)(試料3)程度と認められる。
してみれば、本願発明の軟磁性合金粉末の試料と引用発明の軟磁性合金粉末に相当する試料の強度の差は1kgf/mm^(2)程度である。
そして、本願明細書の表1によれば、非シリコン樹脂を用いた場合のFe-Si-Al合金粉末の試料4とFe-Si-Cr合金粉末の試料2に対する強度の差も1kgf/mm^(2)である。
してみれば、引用発明の軟磁性合金粉末をFe-Si-Cr合金粉末に代えたことによる強度の差が当業者の予測を超えて顕著な効果であるとはいえない。
また、強度に関し、本願明細書の段落【0090】には「本実施例では、10kgf/mm^(2)以上を良好とした。」とあるが、10kgf/mm^(2)という強度がなぜ良好なのか具体的に示されていないので、臨界的意義は認められない。
したがって、本願発明が引用発明と比較し、当業者が予測することができない顕著な効果を奏するものとは認められず、請求人の主張は採用できない。

第5 むすび
以上のとおり、請求項1に係る発明は、引用発明および引用文献2記載の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その他の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-12-24 
結審通知日 2020-01-07 
審決日 2020-01-20 
出願番号 特願2013-10481(P2013-10481)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 久保田 昌晴  
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 宮本 秀一
山田 正文
発明の名称 軟磁性体組成物およびその製造方法、磁芯、並びに、コイル型電子部品  
代理人 前田・鈴木国際特許業務法人  

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