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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04R
管理番号 1360305
審判番号 不服2018-15763  
総通号数 244 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-11-28 
確定日 2020-03-05 
事件の表示 特願2014- 95303「音声調整卓」拒絶査定不服審判事件〔平成27年11月26日出願公開、特開2015-213246〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年5月2日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成30年 3月26日:拒絶理由通知
平成30年 6月 1日:意見書の提出、手続補正
平成30年 8月17日:拒絶査定
平成30年 8月28日:拒絶査定の謄本の送達
平成30年11月28日:審判請求、手続補正

第2 平成30年11月28日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成30年11月28日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
上記手続補正(以下、「本件補正」という。)は、本件補正前の平成30年6月1日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?4を補正するものであるところ、そのうちの請求項1に記載された、

「音源からの音声信号が入力される複数の入力部と、
入力された複数の音声信号をミキシングして1つの音声信号を出力する複数のミックス回路と、
音声信号をバス出力する複数の出力部と、
複数のスイッチが設けられ、前記入力部及び前記ミックス回路からの音声信号の入力を切換可能で、前記ミックス回路及び前記出力部への音声信号の出力を切換可能に構成されたマトリックス回路と、
を備え、
前記スイッチは、共通の前記ミックス回路を共用するように構成したことを特徴とする音声調整卓。」

という発明を、平成30年11月28日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された、

「音源からの音声信号が入力される複数の入力部と、
入力された複数の音声信号をミキシングして1つの音声信号を出力する複数のミックス回路と、
音声信号をバス出力する複数の出力部と、
複数のスイッチが設けられ、前記入力部及び前記ミックス回路からの音声信号の入力を切換可能で、前記ミックス回路及び前記出力部への音声信号の出力を切換可能に構成されたマトリックス回路と、
を備え、
前記スイッチは、共通の前記ミックス回路を共用するように構成し、
前記マトリックス回路は、運用に応じて各前記スイッチをON/OFFすることにより、前記運用に必要な前記ミックス回路の構成を設定可能に構成することを特徴とする音声調整卓。」

という発明に補正することを含むものである。
なお、下線は、補正箇所である。

2 新規事項の有無、単一性、補正の目的について
本件補正は、平成30年6月1日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載されたマトリックス回路に関して、
「前記マトリックス回路は、運用に応じて各前記スイッチをON/OFFすることにより、前記運用に必要な前記ミックス回路の構成を設定可能に構成する」ことに限定する補正であり、出願当初の明細書若しくは図面等に記載した事項の範囲内においてするものであって、補正前の請求項に記載された発明と補正後の請求項に記載された発明とは発明の単一性の要件を満たすものである。

したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項、第4項の規定に適合するものであり、同条第5項第2号の特許請求の範囲を減縮することを目的とするものに該当する。

3 独立特許要件について
本件補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むものであるから、上記補正後の請求項1に係る発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうかについて以下に検討する。

(1)補正後発明
補正後の請求項1に係る発明(以下、「補正後発明」という。)は、上記の本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。
なお、A?Gについては、説明のために当審にて付したものである。(以下、「構成A」?「構成G」という。)

(補正後発明)

「A 音源からの音声信号が入力される複数の入力部と、
B 入力された複数の音声信号をミキシングして1つの音声信号を出力する複数のミックス回路と、
C 音声信号をバス出力する複数の出力部と、
D 複数のスイッチが設けられ、前記入力部及び前記ミックス回路からの音声信号の入力を切換可能で、前記ミックス回路及び前記出力部への音声信号の出力を切換可能に構成されたマトリックス回路と、
を備え、
E 前記スイッチは、共通の前記ミックス回路を共用するように構成し、
F 前記マトリックス回路は、運用に応じて各前記スイッチをON/OFFすることにより、前記運用に必要な前記ミックス回路の構成を設定可能に構成することを特徴とする
G 音声調整卓。」

(2)引用文献1の記載事項及び引用発明について
ア 引用文献1の記載事項
原審の拒絶査定に、引用文献1として引用された、特開2001-175623号公報には、「信号処理系統設定装置及び方法」(発明の名称)として図面とともに以下の事項が記載されている。
なお、下線は、説明のために当審で付したものである。

【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、例えばデジタルオーディオ信号の処理系統を設定する信号処理系統設定装置に関し、特にデジタルオーディオ信号を処理する複数の信号処理手段を通る経路を任意に切替え設定する信号処理系統設定装置に関するものである。

【0009】本発明における信号処理系統設定装置は、前記信号切換手段に設定された経路を通して入力した任意複数の信号処理系統のデジタルオーディオ信号をミキシングし、ミキシングして得られたミキシング信号を前記信号切換手段の入力端子に接続するミキシング手段を備えるという構成を有している。この構成により、信号切換手段を用いて複数の分割された信号処理系統の任意位置のデジタルオーディオ信号をミキシングできることとなる。

【0037】
【発明の実施の形態】以下、図1乃至図24に基づき、本発明の第1乃至第16の実施の形態を詳細に説明する。
(第1の実施の形態)まず、図1を参照して、本発明の第1の実施の形態における信号処理系統設定装置の構成を説明する。図1は第1の実施の形態における信号処理系統設定装置を示す図であり、請求項1及び請求項2に対応する。図1において、入力端子手段としての入力端子1、信号切換手段としての入出力信号切換器2、複数のDSPから構成されるDSP手段としてのデジタル信号処理装置(以下、DSPという)3、DSP3の出力端子から入出力信号切換器2に対するフィードバック手段としてのフィードバック結線4、出力端子手段としての出力端子5とから構成される。
【0038】次に、図1、図17及び図18を参照して、上記のように構成された本発明の第1の実施の形態における信号処理系統設定装置の動作を説明する。まず、任意のn個のDSP3のメモリには、それぞれフィルタ、コンプレッサ、レベル制御などの信号処理部のインストラクションがあらかじめブートまたは記憶されているものとする。入力端子1から入力されたデジタルオーディオ信号は、入出力信号切換器2により、DSP3内に必要な信号処理部を持つDSP3の入力へパッチまたは接続される。パッチ処理されたDSP3の出力信号はフィードバック結線4により、入出力信号切換器2の入力端子に入力され、入力端子においてその信号をDSP3のいずれかに対する入力として選択することができる。また、入出力信号切換器2は入力信号用の入力端子1を持ち、出力信号用の出力端子5を持っており、入出力信号切換器2の入力端子から出力端子に対する経路を任意に切替え設定することにより、入力端子1からの入力信号を任意に選択された希望するDSP3を通して処理し、出力端子5から出力信号として出力することができる。

【0040】次に、図17を参照して、本発明の第1の実施の形態における実際の入出力信号切換器2の設定方法を説明する。説明を簡略化するために、入力端子1を2チャンネル、出力端子5を2チャンネル、DSP3を4個に限定し、DSP3のそれぞれの信号処理部を信号処理部A、信号処理部B、信号処理部C、信号処理部Dとする。入出力信号切換器2のDSP3それぞれに対する出力端子名を順にO3、O4、O5、O6とし、DSP3の出力信号が入力される入出力切換器2の入力端子名をそれぞれ、I3、I4、I5、I6とする。また、入力端子1の2チャンネルの入出力切換器2への入力端子をI1、I2とし、出力端子5への2チャンネルの出力端子をそれぞれO1、O2とする。

【0043】各信号処理部A?Dは、実際には、フィルタ、コンプレッサなどの信号処理部が入る。この信号処理部は必ずしも単一の信号処理部である必要はなく、単一の信号処理部に従属する信号処理部を含むものを1つの信号処理部とみなしても変わりはない。なお、この例では、入出力切換器2の出力側の設定データはそれぞれ異なる入力箇所(入力側データ)を選択しているが、重複した入力箇所を選択するようにしても問題はない。例えば、入力1の信号を信号処理部Aと信号処理部Bに入力させたい場合は、O3とO4ともにI1のデータ設定を行えば良い。なお、この例では、全系統及び全端子を使用しているが、設定する信号処理系統によっては使用しない系統があっても問題はない。

【0062】(第5の実施の形態)次に、図5を参照して、本発明の第5の実施の形態における信号処理系統設定装置の構成を説明する。図5は第5の実施の形態の信号処理系統設定装置を示す図であり、請求項9及び請求項10に対応する。第5の実施の形態では、第1の実施の形態の構成に対し、ミキシング手段であるミキシング回路10を加えて構成される。
【0063】次に、図5を参照して、上記のように構成された本発明の第5の実施の形態における信号処理系統設定装置の動作を説明する。ミキシング回路10の入力信号は入力信号切換器2の出力から与えられる。したがって、ミキシング回路10でミキシングを行う信号は、入力信号切換器2で選択され、信号処理系統上の任意の信号処理位置の信号をミキシングすることができる。
【0064】上記のように、第5の実施の形態によれば、第1の実施の形態の作用に加え、信号処理系統の任意の信号処理位置の信号をミキシングすることができる。また、そのミキシング信号をDSPの入力へ設定することができ、ミキシング後の信号も一つの信号として信号処理系統に加え、または出力することができる。


イ 引用発明
上記記載、並びにこの分野における技術常識を考慮し、引用文献1に記載される発明を以下に検討する。

(a)段落0001、0009の記載から、引用文献1には、デジタルオーディオ信号を処理する複数の信号処理手段を通る経路を任意に切替え設定し、デジタルオーディオ信号をミキシングする信号処理系統設定装置が記載されている。

(b)段落0062の記載から、段落0062?0064、図5に記載された第5の実施の形態は、第1の実施の形態にミキシング回路が加えられた構成であり、図5の入力端子1は、段落0038に記載された第1の実施の形態の入力端子1と同様に、デジタルオーディオ信号が入力されるものといえる。
また、図5より、引用文献1の信号処理系統設定装置は、複数の入力端子1を備えていることが見てとれる。
よって、引用文献1の信号処理系統設定装置は、デジタルオーディオ信号が入力される複数の入力端子1を備えている。

(c)段落0062、0063の記載から、引用文献1の信号処理系統設定装置は、入力信号をミキシングして出力するミキシング回路10を備えている。
そして、図5より、ミキシング回路10は複数であり、ミキシング回路10の入力は複数で、出力は1つであることが見てとれる。
また、上記(a)より、ミキシング回路の入出力信号はデジタルオーディオ信号といえる。
更に、上記(b)の検討と同様に、図5に記載された第5の実施の形態は、第1の実施の形態にミキシング回路が加えられた構成であり、段落0043、図5及び図17より、引用文献1の信号処理系統設定装置は、複数の信号処理部を備えているといえる。

すなわち、引用文献1の信号処理系統設定装置は、複数の信号処理部と、入力された複数のデジタルオーディオ信号をミキシングして1つのデジタルオーディオ信号を出力する複数のミキシング回路10とを備えている。

(d)図5より、引用文献1の信号処理系統設定装置は、複数の出力端子5を備えていることが見てとれる。
また、上記(a)?(c)より、引用文献1の信号処理系統設定装置は、デジタルオーディオ信号が入力され、ミキシングされるものであり、段落0064の記載から、ミキシング後の信号を出力するものであるから、出力端子5からの出力信号は、デジタルオーディオ信号であるといえる。

すなわち、引用文献1の信号処理系統設定装置は、デジタルオーディオ信号を出力する複数の出力端子5を備えている。

(e)上記(b)の検討と同様に、第5の実施の形態は、第1の実施の形態にミキシング回路が加えられた構成であり、段落0063に記載された入力信号切換器2は、段落0037?0040に記載された第1の実施の形態の入力信号切換器2と同様に、入力信号用の入力端子1を持ち、出力信号用の出力端子5を持っており、入出力信号切換器2の入力端子から出力端子に対する経路を任意に切替え設定する信号切換手段であるといえる。
そして、段落0037、0038の記載と図5より、入出力信号切換器2の入力端子には、信号処理部を持つDSP3の出力信号が入力され、入出力信号切換器2の出力端子には、信号処理部を持つDSP3の入力が接続されている。
また、段落0009、0063の記載と図5より、信号切換手段すなわち入出力信号切換器2の入力端子には、ミキシングして得られたミキシング信号が接続され、ミキシング回路10の入力信号は入出力信号切換器2の出力から与えられる。
以上の記載より、引用文献1の信号処理系統設定装置は、前記入力端子1、前記信号処理部及び前記ミキシング回路10からのデジタルオーディオ信号を入力する入力端子から、前記信号処理部、前記ミキシング回路10及び前記出力端子5へのデジタルオーディオ信号を出力する出力端子に対する経路を任意に切替え設定する信号切換手段である入出力信号切換器2を備えている。

(f)段落0043の記載から、引用文献1の信号処理系統設定装置の入出力信号切換器2は、入力の信号を複数の信号処理部に入力させたい場合には、O3とO4ともにI1のデータ設定を行うように、出力側の設定データは、重複した入力箇所を選択するようにしても問題はなく、設定する信号処理系統によっては使用しない系統があっても問題はないことが記載されている。

(g)上記(a)?(f)より、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が開示されている。
なお、a?h2については、説明のために当審にて付したものである。
(以下、「構成a」?「構成h2」という。)

(引用発明)
「a デジタルオーディオ信号が入力される複数の入力端子1と、
b 複数の信号処理部と、入力された複数のデジタルオーディオ信号をミキシングして1つのデジタルオーディオ信号を出力する複数のミキシング回路10と、
c デジタルオーディオ信号を出力する複数の出力端子5と、
d 前記入力端子1、前記信号処理部及び前記ミキシング回路10からのデジタルオーディオ信号を入力する入力端子から、前記信号処理部、前記ミキシング回路10及び前記出力端子5へのデジタルオーディオ信号を出力する出力端子に対する経路を任意に切替え設定する信号切換手段である入出力信号切換器2と、を備え、
h 入出力信号切換器2は、
h1 入力の信号を複数の信号処理部に入力させたい場合には、O3とO4ともにI1のデータ設定を行うように、出力側の設定データは、重複した入力箇所を選択するようにしても問題はなく、
h2 設定する信号処理系統によっては使用しない系統があっても問題はないものであり、
g デジタルオーディオ信号を処理する複数の信号処理手段を通る経路を任意に切替え設定し、デジタルオーディオ信号をミキシングする信号処理系統設定装置。」

(3)周知慣用の技術について
ア 技術事項1
原審の拒絶査定に引用文献2として引用された特開平10-91156号公報には、次の技術(以下、「技術事項1」という。)が記載されている。
(特に、段落0022?0028を参照。)

「参照番号16により識別される複数の入力チャンネルと参照番号18で識別される複数の出力チャンネルと複数のスイッチより構成されるスイッチマトリクス4。」

イ 技術事項2
水城田志郎、デラックスビデオ雑学アカデミー 3時間目:安価なセレクターでマトリックススイッチャーをつくれるのか?、ビデオα 9月号、日本、2009.09.01発行、第25巻第9号、152-155頁には、次の技術(以下、「技術事項2」という。)が記載されている。(特に、152頁右欄「偽者ゆえの限界を予測」を参照。)

「1つの入力信号を複数の出力先に送信することや、1つの入力信号と1つの出力先を自由に選ぶことを可能とするマトリックススイッチャー。」

ウ 技術事項3
イメージニクス社のスイッチャーを例にスイッチャーの種類と機能、ビデオα 第12巻 第2号、日本、1996.02.01発行、第12巻第2号、133-135頁には、次の技術(以下、「技術事項3」という。)が記載されている。(特に、133頁右欄11?15行を参照。)

「1つのソースに対して複数の出力をアサインすることができるマトリックススイッチャー。」

エ 技術事項4
スイッチャーのしくみ イメージニクス社のスイッチャーを例に、ビデオα 第12巻 第3号、日本、1996.03.01発行、第12巻第3号、130-132頁には、次の技術(以下、「技術事項4」という。)が記載されている。(特に、130頁右欄1?4行を参照。)

「複数の入力のうち任意の1つを選択するだけでなく、複数の入力を複数の出力に自由に接続できるマトリックススイッチャー。」

オ 周知慣用の技術
上記ア?エに記載した技術事項1?4より、多入力信号のいずれかを多出力信号の1もしくは複数に切換接続するような場合、マトリクス状のスイッチを用いることは、周知慣用の技術である。

(4)補正後発明と引用発明の対比と、一致点・相違点の認定
ア 対比
(ア)補正後発明の構成Aと引用発明の構成aとの対比
構成aの「複数の入力端子1」は、構成Aの「複数の入力部」に相当する。
構成aの「デジタルオーディオ信号」は、音源から得られるものであること、音声信号を含むものであることは当然のことであるから、構成Aの「音源からの音声信号」に相当するといえる。
したがって、構成aは、構成Aに相当する。

(イ)補正後発明の構成Bと引用発明の構成bとの対比
構成bの「複数のミキシング回路10」は、構成Bの「複数のミックス回路」に相当する。
したがって、構成bと構成Bは、「入力された複数の音声信号をミキシングして1つの音声信号を出力する複数のミックス回路」を備える点で一致する。

(ウ)補正後発明の構成Cと引用発明の構成cとの対比
構成cの「複数の出力端子」は、構成Cの「複数の出力部」に相当する。
構成cにおいて、複数の出力端子よりデジタル信号を出力しているから、構成cにおいても、デジタルオーディオ信号を「バス出力する」ものといえる。
したがって、構成cは、構成Cに相当する。

(エ)補正後発明の構成Dと引用発明の構成dとの対比
構成dの「前記入力端子1」、「前記ミキシング回路10」、「デジタルオーディオ信号」、「前記出力端子5」は、それぞれ、構成Dの「前記入力部」、「前記ミックス回路」、「音声信号」、「前記出力部」に相当する。
また、構成dの「入力端子から、」「出力端子に対する経路を任意に切替え設定する」ことは、入出力信号切換器2の入力のいずれかと出力のいずれかを切り替えて設定することであり、構成Dの「入力を切換可能で、」「出力を切換可能に構成された」ことに相当する。
更に、構成dの「信号切換手段」は、複数の入力から複数の出力への経路を切り替えるものであるから、切り替えに際して、「複数のスイッチが設けられ」ているといえる。
そうすると、構成dと構成Dは「複数のスイッチが設けられ、前記入力部及び前記ミックス回路からの音声信号の入力を切換可能で、前記ミックス回路及び前記出力部への音声信号の出力を切換可能に構成」された点で共通する。

しかし、構成dの「入出力信号切換器2」と構成Dの「マトリックス回路」は、入出力切換を行う構成である点で共通するが、構成dは、構成Dのように「マトリックス回路」に限定されていない。

(オ)補正後発明の構成Eについて
引用発明は、構成Eのように、「前記スイッチは、共通の前記ミックス回路を共用するように構成」することに限定されていない。

(カ)補正後発明の構成Fについて
引用発明は、上記(エ)で検討したように、「マトリックス回路」であることに限定されておらず、構成Fのように、「前記マトリックス回路は、運用に応じて各前記スイッチをON/OFFすることにより、前記運用に必要な前記ミックス回路の構成を設定可能に構成」を有していない。

(キ)補正後発明の構成Gと引用発明の構成gとの対比
構成gの「信号処理系統設定装置」は、「デジタルオーディオ信号をミキシングできる」ものであるから、音声を調整する装置であり、構成Gの「音声調整卓」に相当する。

イ 一致点・相違点
以上をまとめると、補正後発明と引用発明は、以下の点で一致ないし相違する。

(一致点)
A 音源からの音声信号が入力される複数の入力部と、
B 入力された複数の音声信号をミキシングして1つの音声信号を出力する複数のミックス回路と、
C 音声信号をバス出力する複数の出力部と、
D’複数のスイッチが設けられ、前記入力部及び前記ミックス回路からの音声信号の入力を切換可能で、前記ミックス回路及び前記出力部への音声信号の出力を切換可能に構成された入出力切換を行う構成と、
を備える、
G 音声調整卓。

(相違点)
(相違点1)
入出力切換を行う構成について、補正後発明は、「マトリックス回路」であるのに対し、引用発明は、「マトリックス回路」に限定されておらず、そのことに起因して、補正後発明は、「前記マトリックス回路は、運用に応じて各前記スイッチをON/OFFすることにより、前記運用に必要な前記ミックス回路の構成を設定可能に構成」するものであるのに対し、引用発明は、そのような構成を有していない点。

(相違点2)
スイッチについて、補正後発明は、「共通の前記ミックス回路を共用するように構成」するのに対し、引用発明は、そのように限定されていない点。

(5)判断
ア 相違点1について
上記(3)で検討したように、多入力信号のいずれかを多出力信号の1もしくは複数に切換接続するような場合、マトリクス状のスイッチを用いることは、周知慣用の技術である。

そして、引用発明は、構成h及び構成h2より「入出力信号切換器2は、」「設定する信号処理系統によっては使用しない系統があっても問題はない」構成である。
当該構成は、「信号処理系統」という記載から、信号処理部A?Dを選択することに関しての構成であるが、複数のミキシング回路においても、運用に必要なミキシング回路の構成のみを使用するように構成すること、すなわち、前記運用に必要な前記ミックス回路の構成を設定可能に構成することは通常に考えることであり、その場合には、必要に応じてスイッチをON/OFFするものである。

そうすると、引用発明の「入出力信号切換器2」において、信号を切り替えるために、周知慣用の技術であるマトリクス状のスイッチを採用し、補正後発明のような「マトリックス回路」とし、「前記マトリックス回路は、運用に応じて各前記スイッチをON/OFFすることにより、前記運用に必要な前記ミックス回路の構成を設定可能に構成」することは、当業者が容易に想到し得ることである。

よって、相違点1に係る構成は、格別のものではない。

イ 相違点2について
引用発明は、構成h及び構成h1より「入出力信号切換器2は、」「入力の信号を複数の信号処理部に入力させたい場合には、O3とO4ともにI1のデータ設定を行うように、出力側の設定データは、重複した入力箇所を選択するようにしても問題はな」い構成である。
当該構成は、入力端子I1に入力される信号を出力端子O3と出力端子O4から出力する構成であるが、スイッチの構成として、任意の入力端子に入力される信号を、任意の複数の出力端子から出力(例えば、図17において、入力端子I3に入力される信号を出力端子O1と出力端子O2から出力)できることは、明らかである。
そして、複数のミキシング回路を設けた構成において、同じミキシングがされた出力を複数の出力端子5で利用しようとすることは、通常に考えることであるから、引用発明において、構成h及び構成h1に基づいて、構成dの経路を、「ミキシング回路10からのデジタルオーディオ信号を入力する入力端子」に入力される信号を、「出力端子5へのデジタルオーディオ信号を出力する出力端子」の複数から出力する経路として、1つ(共通)のミキシング回路を複数の出力端子5で共用し、補正後発明のように「前記スイッチは、共通の前記ミックス回路を共用するように構成」することは、当業者が容易に想到し得るものである。

よって、相違点2に係る構成は、格別のものではない。

ウ 相違点についてのまとめ
以上のように、各相違点については、格別のものではなく、また、補正後発明が奏する効果は、その容易想到である構成から当業者が容易に予測し得る範囲内のものであり、同範囲を超える顕著なものでもない。

(6)審判請求人の主張についての検討
ア 審判請求人の主張
審判請求人は、審判請求書において、以下の主張をしている。
「(本願発明の効果)
発明特定事項である構成要素(f)を備えた本願発明によれば、出願当初明細書の段落0037に記載したように、「マトリックス回路40は、運用に必要なミックス回路1?5にのみ入力音声信号を送出する構成であるため、不要なミックス回路6?12を休止させることができる。これにより、従来の音声調整卓で行われていた不要な音声信号処理を行うことがなくなり、無駄な電力消費を抑えることができる。」という効果(以下、「電力消費の抑制」と呼ぶ)を得ています。
ここで言う従来の音声調整卓で行われていた不要な音声信号処理とは、無音(ミュート音声)をミキシングする処理のことです。無音(ミュート音声)のミキシング処理は、実際の運用においては全く必要がありません。つまり、従来の音声調整卓では、実際の運用においては必要のなかったミックス回路でも絶えずミキシング処理が行われてしまい、無駄な電力消費が発生することになっていました(出願当初明細書の段落0009の記載を参照)。そこで、本願発明のマトリックス回路では、運用に必要なミックス回路だけが動作するように設定することにより、運用には必要のないミックス回路は休ませて、無駄な電力消費を抑えるようにしています。
また、本願発明では、マトリックス回路が運用に必要なミックス回路の構成を設定可能であるため、運用に際して不要である音声信号処理についてはこれを行わずに済みます。その結果、「必要最小限のミックス回路数に抑え、装置規模を縮小することも可能なものである(出願当初明細書の段落0057に記載)」といった効果(以下、「装置規模の縮小化」と呼ぶ)も、得ることができます。
このように、本願発明では、ミュート音声のミキシング処理を回避することにより、「電力消費の抑制」という効果だけではなく、ミックス回路数を低減したことで、「装置規模の縮小化」という効果も得ています。」(3頁22行?4頁17行)

イ 「電力消費の抑制」という効果について
補正後発明のミックス回路は、「前記運用に必要な前記ミックス回路の構成を設定可能に構成すること」と特定されているのみであり、「不要なミックス回路6?12を休止させること」という構成は特定されておらず、休止できる構成に限定されるものでないから、「電力消費の抑制」という効果についての主張は、補正後発明に基づく主張ではない。

ウ 「装置規模の縮小化」という効果について
上記主張によれば、マトリックス回路が運用に必要なミックス回路の構成を設定可能であるため、運用に際して不要である音声信号処理についてはこれを行わないことにより、「装置規模の縮小化」という効果を得るとのことである。
しかし、上記(5)アで検討したように、引用発明の「入出力信号切換器2」において、「前記運用に必要な前記ミックス回路の構成を設定可能に構成」することは、当業者が容易に想到し得るものであり、その容易想到である構成から当業者が容易に予測し得る範囲内のものである。

したがって、審判請求人の主張を採用することはできない。

(7)小括
よって、補正後発明は、引用発明及び周知慣用の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 本件補正についてのむすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成30年11月28日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成30年6月1日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された次のとおりのものと認める。

「音源からの音声信号が入力される複数の入力部と、
入力された複数の音声信号をミキシングして1つの音声信号を出力する複数のミックス回路と、
音声信号をバス出力する複数の出力部と、
複数のスイッチが設けられ、前記入力部及び前記ミックス回路からの音声信号の入力を切換可能で、前記ミックス回路及び前記出力部への音声信号の出力を切換可能に構成されたマトリックス回路と、
を備え、
前記スイッチは、共通の前記ミックス回路を共用するように構成したことを特徴とする音声調整卓。」

2 引用文献及び周知慣用の技術について
原審の拒絶査定に、引用文献1として引用された、特開2001-175623号公報の記載事項及び引用発明は、前記第2の3(2)に記載したとおりである。
また、周知慣用の技術については、前記第2の3(3)に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する補正後発明が、前記第2の3に記載したとおり、引用発明及び周知慣用の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び周知慣用の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-12-18 
結審通知日 2020-01-07 
審決日 2020-01-20 
出願番号 特願2014-95303(P2014-95303)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04R)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 須藤 竜也岩田 淳  
特許庁審判長 千葉 輝久
特許庁審判官 清水 正一
渡辺 努
発明の名称 音声調整卓  
代理人 木内 光春  

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