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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01F 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01F 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01F |
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管理番号 | 1360307 |
審判番号 | 不服2018-17178 |
総通号数 | 244 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-04-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-12-25 |
確定日 | 2020-03-05 |
事件の表示 | 特願2014- 87974「永久磁石の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年11月19日出願公開、特開2015-207687〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成26年4月22日の出願であって、平成30年2月28日付けで拒絶理由通知がされ、同年6月21日付けで意見書と補正書が提出されたが、同年9月18日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年12月25日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。 第2 平成30年12月25日にされた手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成30年12月25日にされた手続補正を却下する。 [理由] 1.本件補正について(補正の内容) 平成30年12月25日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲についてするもので、 本件補正前に、 「 【請求項1】 着磁後に有する保磁力の値が異なる複数の成形体が組み合わされて結合した状態からなる永久磁石であって、 回転電機のロータの内部に2個1組として周方向に沿って配置されるとともに、各組の永久磁石はロータの軸方向から見て逆ハの字形状となるように配置され、 各組の永久磁石において対向する角部はその他の部分よりも着磁後に高い保磁力を有する成形体が位置するように組み合わされていることを特徴とする永久磁石。 【請求項2】 着磁後に有する保磁力の値が異なる複数の成形体が組み合わされて結合した状態からなる永久磁石であって、 回転電機のロータの表面に周方向に沿って複数配置され、 周方向の両端はその他の部分よりも着磁後に高い保磁力を有する成形体が位置するように組み合わされていることを特徴とする永久磁石。 【請求項3】 着磁後に有する保磁力の値が異なる複数の成形体を組み合わせるとともに、組み合わせた複数の前記成形体を一括して焼結することにより製造され、 焼結後の複数の前記成形体が結合した状態からなる永久磁石であって、 複数の前記成形体を焼結する際には、複数の成形体を成形し、組み合わせた後に、複数の成形体の接合面に対して交差する方向に加圧した状態で加圧焼結することを特徴とする永久磁石。 【請求項4】 前記複数の成形体は、製造後の永久磁石に対して要求される保磁力に応じた態様で組み合わされていることを特徴とする請求項3に記載の永久磁石。 【請求項5】 前記複数の成形体は、高い保磁力が要求される位置程、着磁後に高い保磁力を有する前記成形体が位置するように組み合わされていることを特徴とする請求項4に記載の永久磁石。 【請求項6】 前記複数の成形体は、粘着剤、可塑剤、熱圧着により互いに接合されることによって組み合わされていることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の永久磁石。 【請求項7】 複数の前記成形体は、Dy又はTbの含有量が成形体によって異なることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の永久磁石。 【請求項8】 粉砕された磁石粉末とバインダーとが混合された混合物を成形することにより前記成形体を形成することを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の永久磁石。 【請求項9】 回転電機のロータの内部に2個1組として周方向に沿って配置されるとともに、各組がロータの軸方向から見て逆ハの字形状となるように配置される永久磁石の製造方法であって、 磁石原料を磁石粉末に粉砕する工程と、 前記粉砕された磁石粉末を成形することにより複数の成形体を形成する工程と、 複数の前記成形体を組み合わせた結合体を得る工程と、 前記結合体を焼成温度で保持することにより、複数の前記成形体を一括して焼結する工程と、 焼結後の前記結合体を着磁する工程と、を有し、 複数の前記成形体は、着磁後に有する保磁力の値が成形体によって異なり、 前記結合体を得る工程では、前記ロータに配置された際の各組において対向する角部に、その他の部分よりも着磁後に高い保磁力を有する成形体が位置するように組み合わせることを特徴とする永久磁石の製造方法。 【請求項10】 回転電機のロータの表面に周方向に沿って複数配置される永久磁石の製造方法であって、 磁石原料を磁石粉末に粉砕する工程と、 前記粉砕された磁石粉末を成形することにより複数の成形体を形成する工程と、 複数の前記成形体を組み合わせた結合体を得る工程と、 前記結合体を焼成温度で保持することにより、複数の前記成形体を一括して焼結する工程と、 焼結後の前記結合体を着磁する工程と、を有し、 複数の前記成形体は、着磁後に有する保磁力の値が成形体によって異なり、 前記結合体を得る工程では、前記ロータに配置された際の周方向の両端に、その他の部分よりも着磁後に高い保磁力を有する成形体が位置するように組み合わせることを特徴とする永久磁石の製造方法。 【請求項11】 磁石原料を磁石粉末に粉砕する工程と、 前記粉砕された磁石粉末を成形することにより複数の成形体を形成する工程と、 複数の前記成形体を組み合わせた結合体を得る工程と、 前記結合体を焼成温度で保持することにより、複数の前記成形体を一括して焼結する工程と、 焼結後の前記結合体を着磁する工程と、を有し、 複数の前記成形体を焼結する工程では、複数の成形体の接合面に対して交差する方向に加圧した状態で加圧焼結し、 複数の前記成形体は、着磁後に有する保磁力の値が成形体によって異なることを特徴とする永久磁石の製造方法。 【請求項12】 前記結合体を得る工程では、製造後の永久磁石に対して要求される保磁力に応じた態様で複数の前記成形体を組み合わせることを特徴とする請求項11に記載の永久磁石の製造方法。 【請求項13】 前記結合体を得る工程では、高い保磁力が要求される位置程、着磁後に高い保磁力を有する前記成形体が位置するように組み合わせることを特徴とする請求項12に記載の永久磁石の製造方法。 【請求項14】 前記結合体を得る工程では、粘着剤、可塑剤、熱圧着により複数の前記成形体を互いに接合することによって組み合わせることを特徴とする請求項9乃至請求項13のいずれかに記載の永久磁石の製造方法。 【請求項15】 複数の前記成形体は、Dy又はTbの含有量が成形体によって異なることを特徴とする請求項9乃至請求項14のいずれかに記載の永久磁石の製造方法。 【請求項16】 前記成形体を形成する工程では、前記粉砕された磁石粉末とバインダーとが混合された混合物を成形することにより前記成形体を形成することを特徴とする請求項9乃至請求項15のいずれかに記載の永久磁石の製造方法。」 とあったところを、 本件補正により、 「 【請求項1】 磁石原料を磁石粉末に粉砕する工程と、 前記粉砕された磁石粉末とバインダーとが混合された混合物を成形することにより複数の成形体を形成する工程と、 複数の前記成形体を組み合わせた結合体を得る工程と、 前記結合体を焼成温度で保持することにより、複数の前記成形体を一括して焼結する工程と、 焼結後の前記結合体を着磁する工程と、を有し、 複数の前記成形体を焼結する工程では、複数の成形体の接合面に対して交差する方向に加圧した状態で加圧焼結し、 複数の前記成形体は、着磁後に有する保磁力の値が成形体によって異なることを特徴とする永久磁石の製造方法。 【請求項2】 前記結合体を得る工程では、製造後の永久磁石に対して要求される保磁力に応じた態様で複数の前記成形体を組み合わせることを特徴とする請求項1に記載の永久磁石の製造方法。 【請求項3】 前記結合体を得る工程では、高い保磁力が要求される位置程、着磁後に高い保磁力を有する前記成形体が位置するように組み合わせることを特徴とする請求項2に記載の永久磁石の製造方法。 【請求項4】 前記結合体を得る工程では、粘着剤、可塑剤、熱圧着により複数の前記成形体を互いに接合することによって組み合わせることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の永久磁石の製造方法。 【請求項5】 複数の前記成形体は、Dy又はTbの含有量が成形体によって異なることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の永久磁石の製造方法。」 とするものである。(下線部は、補正箇所である。) 2.補正の適否 本件補正は、補正前の請求項1?10、16を削除して、補正前の請求項11?15を請求項1?5とし、補正前の請求項11に記載された発明の発明特定事項である「複数の成形体を形成する工程」における「磁石粉末を成形すること」が「磁石粉末とバインダーとが混合された混合物を成形すること」として成形する原料を限定するものである。また、本件補正前の請求項11に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるから、特許法第17条の2第5項第1号の請求項の削除及び第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものか否か(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否か)を検討する。 (1)本件補正発明 本件補正発明は、上記1.に本件補正による請求項1として記載したとおりのものである。 (2)引用文献、引用発明 (ア)引用文献1 原査定の拒絶の理由において引用された、国際公開2008/132801号(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。(下線は、当審において付加した。以下、同じ。) a.「[0001] 本発明は、自動車搭載用モータ等に好適に用いられるR-T-B系焼結磁石およびその製造方法に関する。」 b.「[0033] 本発明のR-T-B系焼結磁石は、軽希土類元素R_(L)(NdおよびPrの少なくとも一方)および重希土類元素R_(H)(DyおよびTbの少なくとも一方)の両方を含有するNd_(2)Fe_(14)B型結晶を主相とするR-T-B系焼結磁石である。この焼結磁石は、重希土類元素R_(H)の濃度(含有量)が相対的に低い又は重希土類元素R_(H)を含まない第1領域と重希土類元素R_(H)の濃度が相対的に高い第2領域とが層状に形成されている。本明細書では、簡単のため、重希土類元素R_(H)の濃度が相対的に低い又はゼロの第1領域を「高Br部」と称し、重希土類元素R_(H)の濃度が相対的に高い第2領域を「高保磁力部」と称する場合がある。本発明の主たる特徴点は、高保磁力部と高Br部とが焼結によって結合されていることにあり、従来技術のように接着剤による接合は行っていない。 [0034] なお、「R-T-B系」の用語におけるTは主にFeである。本発明において、Feの一部(50原子%以下)は、他の遷移金属元素(例えばCoまたはNi)によって置換されていてもよい。Bはホウ素である。収縮緩和剤Mとして、C、Al、Co、Ni、Cu、Snの少なくとも一種を含有することが好ましい。後述するように、収縮緩和剤Mを含有することにより、焼結工程時に発生する成形体の収縮率差に起因する変形を抑制することができる。」 c.「[0043] 本発明のR-T-B系焼結磁石は、例えば以下の方法によって製造され得る。 [0044] まず、希土類元素RとしてR_(H)の量が相対的に少ない又は含まない組成のR-T-B系焼結磁石用原料合金からなる成形体を準備する。同様にして、希土類元素Rとして重希土類元素R_(H)(Dy、HoおよびTbの少なくとも1種)を相対的に多く含むR-T-B系焼結磁石用原料合金からなる成形体を準備する。 [0045] 次に、これらの成形体をプレス工程時または焼結時に積層し、焼結する。希土類元素RとしてR_(H)の量が相対的に少ない又は含まない組成のR-T-B系希土類焼結磁石用原料合金からなる領域は、残留磁束密度B r が高い領域となる。一方、重希土類元素R_(H)を相対的に多く含むR-T-B系焼結磁石用原料合金からなる領域は、保磁力の高い領域となる。その結果、残留磁束密度Brが高い領域と保磁力H_(cJ)の高い領域とをそれぞれ有するR-T-B系焼結磁石が形成される。 ・・・・中略・・・・ [0052] 以下、本発明によるR-T-B系焼結磁石を製造する方法の好ましい実施形態を、より詳細に説明する。 [0053] [原料合金1] まず、16.0質量%以上36.0質量%以下の軽希土類元素R_(L)と、0質量%以上15質量%未満の重希土類元素R_(H)(DyおよびTbのいずれか一種、または両方)と、0.5質量%以上?2.0質量%のB(硼素)と、残部Fe及び不可避的不純物とを含有する合金を用意する。Feの一部(50原子%以下)は、他の遷移金属元素(例えばCoまたはNi)によって置換されていてもよい。この合金は、種々の目的により、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Ni、Cu、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、Ag、In、Sn、Hf、Ta、W、Pb、およびBiからなる群から選択された少なくとも1種の添加元素を0.01?1.0質量%程度含有していてもよい。 [0054] 上記の合金は、原料合金の溶湯を例えばストリップキャスト法によって急冷して好適に作製され得る。以下、ストリップキャスト法による急冷凝固合金の作製を説明する。 [0055] まず、上記組成を有する原料合金をアルゴン雰囲気中において高周波溶解によって溶融し、原料合金の溶湯を形成する。次に、この溶湯を1350℃程度に保持した後、単ロール法によって急冷し、例えば厚さ約0.3mmのフレーク状合金鋳塊を得る。こうして作製した合金鋳片を、次の水素粉砕前に例えば1?10mmの大きさのフレーク状に粉砕する。なお、ストリップキャスト法による原料合金の製造方法は、例えば、米国特許第5、383、978号明細書に開示されている。 [0056] [原料合金2] 16.0質量%以上35.0質量%以下の軽希土類元素R_(L)と、0.5質量%以上15.0質量%以下の重希土類元素R_(H)(DyおよびTbのいずれか一方または両方)と、0.5質量%以上?2.0質量%のB(硼素)と、残部Fe及び不可避的不純物とを含有する合金を用意することを除き原料合金1と同様にして原料合金を得る。 [0057] なお、本発明では原料合金1、原料合金2の2種類の原料合金を用いた実施形態を説明しているが、原料合金1、原料合金2に加え複数の他の原料合金を用いても良い。 [0058] 原料合金1と原料合金2との主たる差異は、原料合金1における重希土類元素R_(H)の濃度が原料合金2における重希土類元素R_(H)の濃度よりも相対的に低いことにある。原料合金1は重希土類元素R_(H)を含有している必要は無い。 [0059] さらに、原料合金1の総R量と原料合金2の総R量、およびそれぞれのR_(H)量を最適に調整し、焼結時の収縮率差を1.5%以下に抑えることによって、焼結磁石の焼結工程における収縮率差に起因する変形を抑制する。収縮率差を縮小する具体的な方法の例は、後に詳しく説明する。 [0060] [粗粉砕工程] 上記のフレーク状に粗く粉砕された合金鋳片(原料合金1、原料合金2)を水素炉の内部へ挿入する。次に、水素炉の内部で水素脆化処理(以下、「水素粉砕処理」と称する場合がある)工程を行う。水素粉砕後の粗粉砕合金粉末を水素炉から取り出す際、粗粉砕粉末が大気と接触しないように、不活性雰囲気下で取り出し動作を実行することが好ましい。そうすれば、粗粉砕粉末が酸化・発熱することが防止され、磁石の磁気特性が向上するからである。 [0061] 水素粉砕によって、希土類合金(原料合金1、原料合金2)は0.1mm?数mm程度の大きさに粉砕され、その平均粒径は500μm以下となる。水素粉砕後、脆化した原料合金をより細かく解砕するとともに冷却することが好ましい。比較的高い温度状態のまま原料を取り出す場合は、冷却処理の時間を相対的に短くすれば良い。 [0062] [微粉砕工程] 次に、粗粉砕粉末に対してジェットミル粉砕装置を用いて微粉砕を実行する。本実施形態で使用するジェットミル粉砕装置にはサイクロン分級機が接続されている。ジェットミル粉砕装置は、粗粉砕工程で粗く粉砕された希土類合金(粗粉砕粉末)の供給を受け、粉砕機内で粉砕する。粉砕機内で粉砕された粉末はサイクロン分級機を経て回収タンクに集められる。こうして、気流分散型レーザ回折法の測定にてD50で0.1?20μm程度(典型的には3?5μm)の微粉末を得ることができる。このような微粉砕に用いる粉砕装置は、ジェットミルに限定されず、アトライタやボールミルであってもよい。粉砕に際して、ステアリン酸亜鉛などの潤滑剤を粉砕助剤として用いてもよい。 [0063] ここで、収縮緩和剤Mとして、C、Al、Co、Ni、Cu、Snの少なくとも一種(M1:Cで50ppmから3000ppm、M2:Al、Co、Ni、Cu、Snの少なくとも一種で0.02質量%ppm以上)を、化合物又は金属粉末として原料合金粉末に混合することが好ましい。混合することで、組成の異なる原料合金からなる粉末または成形体を積層し焼結したとき収縮率差に起因する変形を抑制することができる。 [0064] [プレス成形] 本実施形態では、上記方法で作製された磁性粉末(合金粉末)に対し、例えばロッキングミキサー内で潤滑剤を例えば0.3質量%添加・混合する。ここで潤滑剤には、ステアリン酸亜鉛等のCを含む潤滑剤を用いることができる。 [0065] 次に、上述の方法で作製した原料合金1からなる磁性粉末を公知のプレス装置を用いて配向磁界中で、仮成形体の見かけ密度が例えば2.5?4.8g/cm^(3)程度に成形する。その後、さらに原料合金2からなる磁性粉末を充填し、配向磁界中で、成形体密度が例えば3.5?4.8g/cm^(3)程度になるように成形する。こうして、原料合金1の粉末からなる第1成形体部分と、原料合金2の粉末からなる第2成形体部分とからなる複合成形体が形成される。 [0066] なお、原料合金1、原料合金2の磁性粉末から成形体密度が例えば3.5?4.8g/cm^(3)程度の成形体を別々に作製し、荷重を加えて積層することによって「複合成形体」を形成してもよい。本明細書における「複合成形体」は、重希土類元素R_(H)が相対的に低い原料合金粉末の成形体と、重希土類元素R_(H)が相対的に高い原料合金粉末の成形体との組合せであり、焼結工程の前において、これらの成形体が強固に接合している必要は無い。2つの成形体が単に重ねあわされ、上方に位置する成形体の自重によって2つの成形体が接触している状態でも、「複合成形体」が実現する。 [0067] なお、仮成形体や成形体を形成するときの圧縮成形時に粉末に印加する磁界の強度は、例えば1.5?1.7テスラ(T)である。 [0068] [焼結工程] 上記の粉末成形体に対して、300℃?900℃の範囲内の温度で30分?120分間保持する工程と、その後、上記の保持温度よりも高い温度(例えば1000℃から1150℃)で焼結を更に進める工程とを順次行なうことが好ましい。焼結時、特に液相が生成されるとき(温度が800℃?1000℃の範囲内にあるとき)、粒界相中のRリッチ相が融け始め、液相が形成される。その後、焼結が進行し、焼結磁石が形成される。焼結後、必要に応じて、時効処理(700℃?1000℃)が行われる。」 d.「[0122] 表5の各実施例は、別々に作製したDy濃度が異なる成形体を重ねた状態で焼結して製造した。表5に示す試料No.3-1、3-2、3-3の実施例は、2つの成形体を単純に重ねただけの状態で焼結した試料である。他の試料では、2つの成形体を重ねた上に重さ200gのステンレス板を乗せた状態で焼結を行った。ステンレス板による荷重の印加を行うと、2つの成形体の密着性が高まるため、最終的に得られる焼結磁石の結合強度は充分なレベルに向上することがわかった。一方、単に2つの成形体を重ねただけでは、充分な結合強度は得られず、小さな衝撃を与えただけで接合部に剥がれが発生した(試料No.3-1?試料No.3-3)。重ねた成形体に加えるべき荷重の大きさは、成形体の接触面積や成形体の自重に基づいて適宜好ましい値に設定される。」 ・上記bの段落[0033]には、軽希土類元素R_(L)(NdおよびPrの少なくとも一方)および重希土類元素R_(H)(DyおよびTbの少なくとも一方)の両方を含有するNd_(2)Fe_(14)B型結晶を主相とするR-T-B系焼結磁石が、また、上記cには、該R-T-B系焼結磁石を製造する方法が記載されている。 したがって、引用文献1には、 軽希土類元素R_(L)(NdおよびPrの少なくとも一方)および重希土類元素R_(H)(DyおよびTbの少なくとも一方)の両方を含有するNd_(2)Fe_(14)B型結晶を主相とするR-T-B系焼結磁石を製造する方法が記載されている。 ・上記cの段落[0058]には、原料合金1と原料合金2は、原料合金1における重希土類元素R_(H)の濃度が原料合金2における重希土類元素R_(H)の濃度よりも相対的に低いものであることが記載されている。 ・上記cの段落[0060]にはR-T-B系焼結磁石を製造する方法が、フレーク状に粗く粉砕された合金鋳片(原料合金1、原料合金2)を水素炉の内部で水素粉砕処理を行い粗粉砕粉末とする粗粉砕工程を有することが記載されている。 ・上記cの段落[0062]にはR-T-B系焼結磁石を製造する方法が、粗粉砕粉末に対してジェットミル粉砕装置を用いて微粉砕を実行する微粉砕工程を有することが記載されている。 ・上記cの段落[0064]、[0065]にはR-T-B系焼結磁石を製造する方法が、作製された磁性粉末(合金粉末)に対し、ロッキングミキサー内で潤滑剤を添加・混合し、次に、原料合金1からなる磁性粉末を公知のプレス装置を用いて仮成形体を成形し、その後、さらに原料合金2からなる磁性粉末を充填し成形して、原料合金1の粉末からなる第1成形体部分と、原料合金2の粉末からなる第2成形体部分とからなる複合成形体を形成するプレス成形工程を有することが記載されている。 また、段落[0066]には「複合成形体」を、原料合金1、原料合金2の磁性粉末から成形体を別々に作製し、荷重を加えて積層することによって形成してもよいことが記載されている。 してみると、引用文献1には、作製された磁性粉末(合金粉末)に対し、ロッキングミキサー内で潤滑剤を添加・混合し、次に、プレス装置を用いて原料合金1の粉末からなる第1成形体を、また、原料合金2の粉末からなる第2成形体を別々に作製し、第1成形体と第2成形体とを荷重を加えて積層することによって複合成形体を形成するプレス成形工程が記載されているといえる。 ・上記cの段落[0068]にはR-T-B系焼結磁石を製造する方法が、上記の粉末成形体を焼結する焼結工程を有することが、また、上記dには、焼結工程において2つの成形体を重ねた上にステンレス板を乗せた状態で焼結を行うと、荷重の印加で2つの成形体の密着性が高まることが記載されている。 してみると、引用文献1には、2つの成形体を重ねた上に密着性を高めるために荷重を印加して焼結を行う焼結工程が記載されているといえる。 ・上記bの段落[0045]には、重希土類元素R_(H)を相対的に多く含むR-T-B系焼結磁石用原料合金からなる領域は、保磁力の高い領域となるR-T-B系焼結磁石が形成されることが記載されている。 したがって、上記引用文献1の記載及び図面並びにこの分野の技術常識を考慮すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が開示されていると認められる。 「軽希土類元素R_(L)(NdおよびPrの少なくとも一方)および重希土類元素R_(H)(DyおよびTbの少なくとも一方)の両方を含有するNd_(2)Fe_(14)B型結晶を主相とするR-T-B系焼結磁石を製造する方法において、 原料合金1と原料合金2は、原料合金1における重希土類元素R_(H)の濃度が原料合金2における重希土類元素R_(H)の濃度よりも相対的に低いものであって、 フレーク状に粗く粉砕された合金鋳片(原料合金1、原料合金2)を水素炉の内部で水素粉砕処理を行い粗粉砕粉末とする粗粉砕工程と、 粗粉砕粉末に対してジェットミル粉砕装置を用いて微粉砕を実行する微粉砕工程と、 作製された磁性粉末(合金粉末)に対し、ロッキングミキサー内で潤滑剤を添加・混合し、次に、プレス装置を用いて原料合金1の粉末からなる第1成形体を、また、原料合金2の粉末からなる第2成形体を別々に作製し、第1成形体と第2成形体とを荷重を加えて積層することによって複合成形体を形成するプレス成形工程と、 2つの成形体を重ねた上に密着性を高めるために荷重を印加して焼結を行う焼結工程と、を有し、 重希土類元素R_(H)を相対的に多く含むR-T-B系焼結磁石用原料合金からなる領域は、保磁力の高い領域となるR-T-B系焼結磁石を製造する方法。」 (イ)引用文献2 拒絶査定において引用された、特開2013-243886号公報(以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。 「【0113】[永久磁石モータの製造方法] 次に、本発明に係る永久磁石モータ1の製造方法について図24乃至図31を用いて説明する。先ず、本発明に係る永久磁石モータ1の製造工程の内、特に規格磁石10を製造するまでの製造工程について図24を用いて説明する。図24は規格磁石10を製造するまでの製造工程を示した説明図である。 ・・・・中略・・・・ 【0118】 以下では、特にホットメルト塗工を用いたグリーンシート成形について説明する。 先ず、磁石粉末にバインダーを混合することにより、磁石粉末とバインダーからなる粉末状の混合物(コンパウンド)32を作製する。ここで、バインダーとしては、上述したように樹脂や長鎖炭化水素や脂肪酸メチルエステルやそれらの混合物等が用いられる。例えば、樹脂を用いる場合には構造中に酸素原子を含まず、且つ解重合性のあるポリマーからなる熱可塑性樹脂を用い、一方、長鎖炭化水素を用いる場合には、室温で固体、室温以上で液体である長鎖飽和炭化水素(長鎖アルカン)を用いるのが好ましい。また、脂肪酸メチルエステルを用いる場合には、ステアリン酸メチルやドコサン酸メチル等を用いるのが好ましい。また、バインダーの添加量は、上述したように添加後のコンパウンド12における磁石粉末とバインダーの合計量に対するバインダーの比率が、1wt%?40wt%、より好ましくは2wt%?30wt%、更に好ましくは3wt%?20wt%となる量とする。尚、バインダーの添加は、窒素ガス、Arガス、Heガスなど不活性ガスからなる雰囲気で行う。尚、磁石粉末とバインダーとの混合は、例えば有機溶媒に磁石粉末とバインダーとをそれぞれ投入し、攪拌機で攪拌することにより行う。そして、攪拌後に磁石粉末とバインダーとを含む有機溶媒を加熱して有機溶媒を気化させることにより、コンパウンド12を抽出する。また、磁石粉末とバインダーとの混合は、窒素ガス、Arガス、Heガスなど不活性ガスからなる雰囲気で行うことが望ましい。また、特に磁石粉末を湿式法で粉砕した場合においては、粉砕に用いた有機溶媒から磁石粉末を取り出すことなくバインダーを有機溶媒中に添加して混練し、その後に有機溶媒を揮発させて後述のコンパウンド12を得る構成としても良い。 【0119】 続いて、コンパウンド32をシート状に成形することによりグリーンシートを作成する。 ・・・・中略・・・・ 【0136】 その後、磁場配向を行ったグリーンシート34を所望の規格形状(例えば、図7?図9に示す直方体形状)に打ち抜きし、成形体65を成形する。」 上記引用文献2の記載及び図面、並びにこの分野の技術常識を考慮すると、引用文献2には以下の技術事項(以下、「引用文献2に記載の技術事項」という。)が開示されていると認められる。 「永久磁石を製造する際の成形体を、磁石粉末にバインダーを混合した混合物から作成したグリンシートを所望の形状に打ち抜くことで作成すること。」 (ウ)引用文献3 本願の出願日前に日本国内で頒布された特開2000-150214号公報(以下、「引用文献3」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。 「【0022】重量%にして25.2Sm-49.2Co-9.2Cu-15.0Fe-1.4Zrなる組成のインゴットを溶解し、ジョークラッシャー、ディスクミルおよびボールミルにより、このインゴットを平均粒径3μmまで粉砕して原料粉末とした。 【0023】この原料粉末100重量部に対して、バインダーとしてポリメタクリル酸メチル(PMMA)をスプレードライヤーにて平均粒径20μmに球形状化したものを1重量部を添加し、プラネタリーミキサーにより30分間混合した。なお、流動性は、5φmmのオリフィス径を持つロートに100gの粉末を通過させた時の通過時間を測定する規格、JISZ2505に基づいて測定した。 【0024】上記バインダー混合粉末を使用し、外径5mm、内径(中芯径)2mmの金型を使用して金型の横方向(径方向)に18kOeに磁場を印加しながら、上下方向に加圧して円筒形コアの圧縮成形を行った。この成形体に焼結および熱処理を施して、異方性焼結磁石を得た。」 上記引用文献3の記載及び図面、並びにこの分野の技術常識を考慮すると、引用文献3には以下の技術事項(以下、「引用文献3に記載の技術事項」という。)が開示されていると認められる 「永久磁石を製造する際の成形体を、原料粉末にバインダーを混合したバインダー混合粉末を金型に入れ圧縮成形して作成すること。」 (3)対比 本件補正発明と引用発明とを対比する。 a.引用発明「原料合金1」及び「原料合金2」は、本件補正発明の「磁石原料」に相当する。 そして、引用発明の「粗粉砕工程」及び「微粉砕工程」は、いずれも「原料合金1」及び「原料合金2」を粉砕する工程であるから、本件補正発明の「磁石原料を磁石粉末に粉砕する工程」に相当する。 b.引用発明の「第1成形体」、「第2成形体」は、本件補正発明の複数の成形体」に相当し、また、引用発明の「複合成形体」は、「第1成形体」と「第2成形体」を組み合わせたものであるから、本件補正発明の「結合体」に相当する。 そして、引用発明の「プレス成形工程」は、プレス装置を用いて原料合金1の粉末からなる第1成形体と、原料合金2の粉末からなる第2成形体とを別々に作製し、第1成形体と第2成形体とを荷重を加えて積層することによって複合成形体を形成する工程であるから、本件補正発明の「前記粉砕された磁石粉末を成形することにより複数の成形体を形成する工程」及び「複数の前記成形体を組み合わせた結合体を得る工程」に相当する。 但し、「成形体を形成する工程」が、本件補正発明では「前記粉砕された磁石粉末とバインダーとが混合された混合物を成形する」のに対して、引用発明ではバインダを混合させることは特定されていない点で相違する。 c.引用発明の「焼結工程」は、2つの成形体を重ねた上に密着性を高めるために荷重を印加して焼結を行う工程であるから、接合面に対して交差する方向に加圧した状態で焼結していることは明らかである。また、通常、焼結時には焼成温度に保持されるものである。 したがって、引用発明の「焼結工程」は、本件補正発明の「前記結合体を焼成温度で保持することにより、複数の前記成形体を一括して焼結する工程」及び「複数の前記成形体を焼結する工程では、複数の成形体の接合面に対して交差する方向に加圧した状態で加圧焼結」することに相当する。 d.引用発明の「R-T-B系焼結磁石」は、本件補正発明の「永久磁石」に相当する。 また、引用発明の「R-T-B系焼結磁石」は、重希土類元素R_(H)を相対的に多く含むR-T-B系焼結磁石用原料合金からなる領域、すなわち、原料合金2の粉末からなる第2成形体の領域は保持力が高い領域となっており、第1成形体と第2成形体で保持力の値が異なるものと認められる。 そして、引用発明の「R-T-B系焼結磁石を製造する方法」は、「粗粉砕工程」及び「微粉砕工程」と、「プレス成形工程」と、「焼結工程」とを有するものである。 したがって、引用発明の「重希土類元素R_(H)を相対的に多く含むR-T-B系焼結磁石用原料合金からなる領域は、保磁力の高い領域となるR-T-B系焼結磁石を製造する方法」は、本件補正発明の「複数の前記成形体は、着磁後に有する保磁力の値が成形体によって異なる永久磁石の製造方法」に相当する 但し、本件補正発明では、「焼結後の前記結合体を着磁する工程」を有するのに対して、引用発明では、その点が特定されていない点で相違する。 したがって、本件補正発明と引用発明とを対比すると、両者は、以下の点で一致し、また、相違している。 (一致点) 「磁石原料を磁石粉末に粉砕する工程と、 前記粉砕された磁石粉末を成形することにより複数の成形体を形成する工程と、 複数の前記成形体を組み合わせた結合体を得る工程と、 前記結合体を焼成温度で保持することにより、複数の前記成形体を一括して焼結する工程と、 焼結後の前記結合体を着磁する工程と、を有し、 複数の前記成形体を焼結する工程では、複数の成形体の接合面に対して交差する方向に加圧した状態で加圧焼結し、 複数の前記成形体は、着磁後に有する保磁力の値が成形体によって異なる永久磁石の製造方法。」 (相違点1) 「成形体を形成する工程」において、本件補正発明では「前記粉砕された磁石粉末とバインダーとが混合された混合物を成形する」のに対して、引用発明では磁石粉末にバインダを混合させるとは特定されていない点。 (相違点2) 本件補正発明では、「焼結後の前記結合体を着磁する工程」を有するのに対して、引用発明では、その点が特定されていない点。 (4)判断 上記各相違点について検討する。 (相違点1)について 永久磁石を製造する際の成形体を、原料をシート状にしたシートから打ち抜きで作成すること、及び、原料を金型にいれて圧縮成形(圧粉成形)で作成することはいずれも常套手段であるところ、いずれの手段であっても、原料として粉砕された磁石粉末にバインダを混合した混合物を用いることは、例えば、上記引用文献2、3にも記載されるように周知の技術に過ぎない。 してみると、引用発明の第1、2成形体の作成をする際に、原料に関して周知の技術を適用して、上記相違点1の構成とすることは当業者が容易に想到し得たことである。 (相違点2)について 永久磁石の製造する際に、焼結後の成形体に着磁を行うことは普通に行われることである。 したがって、引用発明においても焼結後の複合成形体に着磁を行うことは当業者が容易に想到し得たことである。 そして、本件補正発明の作用効果も、引用発明、及び周知の技術に基づいて当業者が予測できる範囲のものである。 したがって、本件補正発明は、引用発明及び周知の技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 (5)結語 以上検討したとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1.本願発明 平成30年12月25日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし16に係る発明は、平成30年6月21日に補正された特許請求の範囲の請求項1ないし16に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項11に係る発明(以下「本願発明」という。)は上記「第2 1.」に本件補正前の請求項11として記載したとおりのものである。 2.引用文献、引用発明 引用発明等は、上記「第2 2.(2)引用文献、引用発明」の項で記載したとおりである。 3.対比・判断 そこで、本願発明と引用発明を対比するに、本願発明は上記本件補正発明から「とバインダーとが混合された混合物」という事項を省いたものである。 そうすると、本願発明と引用発明は、上記「第2 2.(3)対比」における相違点2でのみ相違する。 しかしながら、上記「第2 2.(4)判断」で検討したように、相違点2は当業者が容易に想到し得たことである。 4.むすび 以上のとおり、本願の請求項11に係る発明は引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することできたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2019-12-26 |
結審通知日 | 2020-01-07 |
審決日 | 2020-01-20 |
出願番号 | 特願2014-87974(P2014-87974) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H01F)
P 1 8・ 575- Z (H01F) P 1 8・ 113- Z (H01F) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 竹下 翔平、小池 秀介 |
特許庁審判長 |
井上 信一 |
特許庁審判官 |
山田 正文 山澤 宏 |
発明の名称 | 永久磁石の製造方法 |
代理人 | 特許業務法人ネクスト |