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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H03H
管理番号 1360322
審判番号 不服2019-5228  
総通号数 244 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-04-19 
確定日 2020-03-05 
事件の表示 特願2016-566022「弾性波装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 6月30日国際公開、WO2016/103953〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、2015年(平成27年)11月11日(国内優先権主張 平成26年12月25日)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成30年 6月 1日付け:拒絶理由通知書
平成30年 8月 7日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年12月 5日付け:拒絶査定
平成31年 4月19日 :拒絶査定不服審判の審判請求書の提出


第2 本願発明

本願の請求項に係る発明は、平成30年8月7日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
圧電膜を有する弾性波装置であって、
前記圧電膜を伝搬するメインモードの弾性波音速よりも、伝搬するバルク波音速が高速である高音速部材と、
前記高音速部材上に直接または間接に積層されている前記圧電膜と、
前記圧電膜上に設けられている第1の導電膜と、
前記圧電膜上及び前記第1の導電膜の少なくとも一部の上に設けられている第2の導電膜と、
を備え、
前記圧電膜上には、電極指とバスバーとを有する複数のIDT電極が設けられており、前記第1の導電膜により、前記複数のIDT電極の少なくとも前記電極指が構成されており、
前記第2の導電膜により、前記複数のIDT電極間を接続している接続配線の少なくとも一部が構成されている、弾性波装置。」


第3 原査定における拒絶の理由の概要

原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1ないし13に係る発明は、本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1ないし5に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1.国際公開第2012/086639号
引用文献2.特開2000-183679号公報
引用文献3.特開2009-182407号公報
引用文献4.特開2002-290182号公報
引用文献5.特開昭56-043818号公報


第4 引用文献

1.引用文献1の記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された国際公開第2012/086639号(以下、「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。(なお、下線部は当審にて付与した。)

(ア)「[0001] 本発明は、共振子や帯域フィルタなどに用いられる弾性波装置及びその製造方法に関し、より詳細には、支持基板と圧電体層との間に他の材料が積層されている構造を有する弾性波装置及びその製造方法に関する。」

(イ)「[0035] 図1(a)は、本発明の第1の実施形態としての弾性表面波装置の模式的正面断面図である。
[0036]弾性表面波装置1は、支持基板2を有する。支持基板2上に、音速が相対的に高い高音速膜3が積層されている。高音速膜3上に、音速が相対的に低い低音速膜4が積層されている。また、低音速膜4上に圧電膜5が積層されている。この圧電膜5の上面にIDT電極6が積層されている。なお、圧電膜5の下面にIDT電極6が積層されていてもよい。」

(ウ)「[0039] なお、本明細書において、高音速膜とは、圧電膜5を伝搬する表面波や境界波の弾性波よりも、該高音速膜中のバルク波の音速が高速となる膜を言うものとする。また、低音速膜とは、圧電膜5を伝搬するバルク波よりも、該低音速膜中のバルク波の音速が低速となる膜を言うものとする。また、ある構造上のIDT電極からは様々な音速の異なるモードの弾性波が励振されることになるが、圧電膜5を伝搬する弾性波とは、フィルタや共振子の特性を得るために利用する特定のモードの弾性波を示す。上記バルク波の音速を決定するバルク波のモードは、圧電膜5を伝搬する弾性波の使用モードに応じて定義される。高音速膜3及び低音速膜4がバルク波の伝搬方向に関し等方性の場合には、下記の表1に示すようになる。すなわち、下記の表1の左軸の弾性波の主モードに対し下記の表1の右軸のバルク波のモードにより、上記高音速及び低音速を決定する。P波は縦波であり、S波は横波である。」

(エ)「[0047] 圧電膜5は、本実施形態では、38.5°YカットのLiTaO_(3)すなわちオイラー角で(0°,128.5°、0°)のLiTaO_(3)からなり、膜厚は、IDT電極6の電極周期で定まる弾性表面波の波長をλとすると、0.25λである。もっとも、圧電膜5は、他のカット角のLiTaO_(3)により形成してもよく、あるいはLiTaO_(3)以外の圧電単結晶により形成してもよい。
[0048] IDT電極6は、本実施形態では、Alからなる。もっとも、IDT電極6は、Al、Cu、Pt、Au、Ag、Ti、Ni、Cr、Mo、Wまたはこれらの金属のいずれかを主体とする合金などの適宜の金属材料により形成することができる。また、IDT電極6は、これらの金属もしくは合金からなる複数の金属膜を積層した構造を有していてもよい。
[0049] 図1(a)では略図的に示しているが、圧電膜5上に、図1(b)に示す電極構造が形成されている。すなわち、IDT電極6と、IDT電極6の弾性表面波電極方向両側に配置された反射器7,8が形成されている。それによって、1ポート型弾性表面波共振子が構成されている。もっとも、本発明におけるIDT電極を含む電極構造は特に限定されず、適宜の共振子や共振子を組み合わせたラダーフィルタ、縦結合フィルタ、ラチス型フィルタ、トランスバーサル型フィルタを構成するように変形し得る。」

(オ)「[0057]第1の実施形態:上から順に、Al電極(厚み0.08λ)/38.5°YカットのLiTaO_(3)薄膜(厚み0.25λ)/酸化ケイ素膜(厚み0.35λ)/窒化アルミニウム膜(1.5λ)/ガラスからなる支持基板。」

(カ)図1(a)


(キ)図1(b)


上記(ア)から(キ)の記載事項から、引用文献1には以下の発明が記載されている。(以下、「引用発明」という。)

「帯域フィルタに用いられる弾性表面波装置1であって、
前記弾性表面波装置1は、支持基板2を有し、
前記支持基板2上に、音速が相対的に高い高音速膜3が積層されており、
前記高音速膜3上に、音速が相対的に低い低音速膜4が積層されており、
前記低音速膜4上に、圧電膜5が積層されており、
前記圧電膜5の上面にIDT電極6が積層されており、
前記高音速膜3とは、圧電膜5を伝搬する弾性波よりも、該高音速膜中のバルク波の音速が高速となる膜であって、
前記圧電膜5を伝搬する弾性波とは、フィルタや共振子の特性を得るために利用する特定のモードの弾性波を示し、
前記IDT電極6を含む電極構造は共振子を組み合わせたラダーフィルタ又は縦結合フィルタを構成する、
弾性表面波装置1。」


2.引用文献2の記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された特開2000-183679号公報(以下、「引用文献2」という。)には、以下の事項が記載されている。(なお、下線部は当審にて付与した。)

(サ)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、圧電体或いは強誘電体の基板に電極が形成された1端子対弾性表面波(以下、SAWという)共振子を多段の梯型に接続したSAWフィルタに関するものである。」

(シ)「【0039】第3の実施形態
図16は、本発明の第3の実施形態を示す梯子型SAWフィルタの概略の構成図であり、図17は、図16中のSAW共振子70_(s1)の構成を示す斜視図である。この梯子型SAWフィルタは、第1の実施形態を示す図9と同様に、4段構成のSAWフィルタであり、8個のSAW共振子70_(s1)?70_(s4),70_(p1)?70_(p4)と、入力ボンデイングパッド71と、出力ボンディングパッド72と、複数のアースボンディングパッド73とを備えている。SAW共振子70_(s1)が1段目の直列腕の共振子であり、SAW共振子70_(s2)が2段目の直列腕の共振子であり、SAW共振子70_(s3)が3段目の直列腕の共振子であり、SAW共振子70_(s4)が4段目の直列腕の共振子である。SAW共振子70_(p1)が1段目の並列腕の共振子であり、SAW共振子70_(p2)が2段目の並列腕の共振子であり、SAW共振子70_(p3)が3段目の並列腕の共振子であり、SAW共振子70_(p4)が4段目の並列腕の共振子である。
【0040】SAW共振子70_(s1)は、図17に示すように、第1の実施形態と同様のIDT70a及び反射器70b,70cを有している。SAW共振子70_(s2)?70_(s4),70_(p1)?70_(p4)も、同様のIDT70a及び反射器70b,70cを有している。各SAW共振子70_(s1)?70_(s4),70_(p1)?70_(p4)の間、SAW共振子70_(s1)と入力ボンディングパッド71との間、SAW共振子70_(s4)と出力ボンディングパッド72との間、及び各SAW共振子70_(p1)?70_(p4)とアースボンディングパッド73との間が、接続パターン74で接続されて4段の梯子型回路が構成されている。
【0041】図18は、図16及び図17における第3の実施形態を示す梯子形SAWフィルタのパターンの斜視図であり、図17のD部分拡大図が示されている。第1の実施形態では、接続用パターン及びボンディングパッドの上側に放熱用の膜を形成していたが、本実施形態では、これらの接続パターン74及びボンディングパッド71?73を、放熱用の膜76だけで形成しているいる。図19(a)?(i)は、図16のSAWフィルタの製造工程を示す断面図である。
【0042】図16のSAWフィルタは、図19(a)?(i)に示される工程を順に行うことにより、製造される。以下に各工程の概要を説明する。まず、図19(a)の工程において、例えば結晶方位が36°Y-XのLiTaO_(3)単結晶基板75を用意し、該基板75のSAW共振子形成予定面にレジスト77をスピンコートで塗布する。図19(b)の工程において、レジスト77が塗布された基板75に対して光学マスク78を設定し、光79で露光することにより、レジスト77に、共振子のパターンが転写される。図19(c)の工程において、現像で不要なレジスト77を選択的に除去し、図19(d)の工程において、不要なレジスト78が除去された基板75の上側全面にAl薄膜80を蒸着する。図19(e)の工程において、有機溶剤を用いたリフトオフにより、不要なレジスト77及びAl薄膜80を除去する。ここまでの工程で、SAW共振子70_(s1)?70_(s4),70_(p1)?70_(p4)が基板75上に形成される。
【0043】図19(f)の工程において、基板75のSAW共振子70_(s1)?70_(s4),70_(p1)?70_(p4)が形成された面上に、再びレジスト81を塗布する。図19(g)の工程において、同図(b),(c)の工程と同様に、光学マスクを用いた光の露光により、接続パターン74及びボンディングパッド71?73のパターンを転写し、その後の現像で、不要なレジスト81を除去し、基板75の表面とSAW共振子70_(s1)?70_(s4),70_(p1)?70_(p4)の端部を露出させる。図19(h)の工程において、基板75の上側全面に、接続パターン74となるAu薄膜82を蒸着する。図19(i)の工程において、有機溶剤を用いて不要な薄膜82をレジスト81と共に除去する。以上により、接続パターン74及びボンディングパッド71?73が、基板75上に形成される。」

(ス)図16


(セ)図17


(ソ)図18


(タ)図19


(チ)上記(シ)、(ソ)及び(タ)の(i)から、「接続パターン74」は「基板75」及び「SAW共振子70_(s1)?70_(s4),70_(p1)?70_(p4)」の一部の上に設けられていることが認められる。

上記(サ)から(チ)の記載事項から、引用文献2には以下の技術事項が記載されている。

「圧電体の基板に電極が形成された1端子対弾性表面波(以下、SAWという)共振子を多段の梯型に接続したSAWフィルタおいて、基板75上にAl薄膜80によって形成された各SAW共振子70_(s1)?70_(s4),70_(p1)?70_(p4)の間を、基板75及びSAW共振子70_(s1)?70_(s4),70_(p1)?70_(p4)の一部の上にAu薄膜82によって形成された接続パターン74で接続する技術事項。」


第5 対比

本願発明と引用発明とを対比する。

(5-1)
引用発明と本願発明はともに弾性(表面)波装置に係る発明であって、引用発明における「圧電膜5」は本願発明でいう『圧電膜』に相当するから、引用発明である「弾性表面波装置1」は、本願発明でいう『圧電膜を有する弾性波装置』に相当する。

(5-2)
引用発明における「圧電膜5を伝搬する弾性波」は「フィルタや共振子の特性を得るために利用する特定のモードの弾性波」を示すものである。
一方、本願発明における『圧電膜を伝搬するメインモードの弾性波』については、本願明細書の段落【0032】に『・・・(省略)・・・本明細書において、圧電膜を伝搬するメインモードの弾性波音速とは、P波、SH波及びSV波の3つのモードのうち、フィルタとしての通過帯域や、共振子としての共振特性を得るために使用しているモードを言うものとする。』(下線部は当審にて付与した。)と記載されている。
してみると、引用発明における「圧電膜5を伝搬する弾性波」は本願発明でいう『圧電膜を伝搬するメインモードの弾性波』に相当する。

(5-3)
引用発明における「高音速膜3」は「圧電膜5を伝搬する弾性波よりも、該高音速膜中のバルク波の音速が高速となる膜」であり、上記(5-2)で言及した事項と併せ読むと、本願発明でいう『前記圧電膜を伝搬するメインモードの弾性波音速よりも、伝搬するバルク波音速が高速である高音速部材』であるといえる。

(5-4)
引用発明では「圧電膜5」が「低音速膜4」を介して「高音速膜3」の上に積層されていることから、引用発明における「圧電膜5」は本願発明でいう『前記高音速部材上に間接に積層されている前記圧電膜』であるといえる。

(5-5)
引用発明における「電極構造(共振子)」とは、上記(エ)及び(キ)で摘記したように、「IDT電極6とIDT電極6の弾性表面波電極方向両側に配置された反射器7,8」とで構成されるものである。
そして、引用発明における「IDT電極6」は、上記(エ)及び(キ)で摘記した事項から明らかなように、「一端が共通接続された複数の電極を有している」構造のものである。ここで、前記「一端が共通接続された」部分は、一般的に「バスバー」と称するものであり、前記「複数の電極」部分は、「電極指」と称するものであるから、引用発明における「IDT電極6」は、本願発明でいう『電極指とバスバーとを有する』『IDT電極』に対応するものである。
また、引用発明における電極構造(共振子)は「前記IDT電極6を含む電極構造は共振子を組み合わせたラダーフィルタ又は縦結合フィルタを構成する」ものであり、ここで、「ラダーフィルタ又は縦結合フィルタ」とは、複数の電極構造(共振子)のIDT電極を直列又は並列に接続することで構成されるものであり、引用発明においては、それら複数の電極構造(共振子)が圧電膜5の上に設けられている。
つまり、引用発明においては、本願発明でいう『前記圧電膜上には、電極指とバスバーとを有する複数のIDT電極が設けられた』との構成を有しているといえる。
さらに、引用発明における電極構造(共振子)が備える「IDT電極6」は、上記摘記事項(エ)及び(オ)の記載からも明らかなように、「圧電膜5上」に設けられた「導電膜」と呼べるものであり、かつ、複数の「IDT電極6」の「電極指」は、「導電膜」により構成されていることは明らかである。
以上のことから、引用発明は、本願発明でいう『前記圧電膜上に設けられている第1の導電膜』及び『前記圧電膜上には、電極指とバスバーとを有する複数のIDT電極が設けられており、前記第1の導電膜により、前記複数のIDT電極の少なくとも前記電極指が構成されており、』との構成を備えているものといえる。

上記(5-1)から(5-5)で対比した様に、本願発明と引用発明とは、

「圧電膜を有する弾性波装置であって、
前記圧電膜を伝搬するメインモードの弾性波音速よりも、伝搬するバルク波音速が高速である高音速部材と、
前記高音速部材上に間接に積層されている前記圧電膜と、
前記圧電膜上に設けられている第1の導電膜と、
を備え、
前記圧電膜上には、電極指とバスバーとを有する複数のIDT電極が設けられており、
前記第1の導電膜により、前記複数のIDT電極の少なくとも前記電極指が構成されている、弾性波装置。」で一致し、以下の点で相違している。

[相違点]
本願発明は『前記圧電膜上及び前記第1の導電膜の少なくとも一部の上に設けられている第2の導電膜』を備え、『前記第2の導電膜により、前記複数のIDT電極間を接続している接続配線の少なくとも一部が構成されている』のに対し、引用発明では「IDT電極6を含む電極構造は共振子を組み合わせたラダーフィルタ又は縦結合フィルタを構成する」こと、すなわち引用発明の「電極構造」が複数の「IDT電極6」を有することは示されているものの、「ラダーフィルタ又は縦結合フィルタを構成する」にあたり、複数の「IDT電極6」間をどのように接続するのかについては特定されていない点。


第6 判断

1.相違点について

上記「第4 引用文献」で認定したように引用文献2には「圧電体の基板に電極が形成された1端子対弾性表面波(以下、SAWという)共振子を多段の梯型に接続したSAWフィルタおいて、基板75上にAl薄膜80によって形成された各SAW共振子70_(s1)?70_(s4),70_(p1)?70_(p4)の間を、基板75及びSAW共振子70_(s1)?70_(s4),70_(p1)?70_(p4)の一部の上にAu薄膜82によって形成された接続パターン74で接続する技術事項」が記載されている。
引用文献2に記載された「SAWフィルタ」は「圧電体の基板に電極が形成された1端子対弾性表面波(以下、SAWという)共振子を多段の梯型に接続した」ものであり、「基板75上にAl薄膜80によって形成された各SAW共振子70_(s1)?70_(s4),70_(p1)?70_(p4)」を有するものであるから、引用文献2の記載事項である「基板75」、「Al薄膜80」、「各SAW共振子70_(s1)?70_(s4),70_(p1)?70_(p4)」、「SAWフィルタ」は、それぞれ、本願発明でいう『圧電膜』、『第1の導電膜』、『IDT電極』、『弾性波装置』に対応するものである。
また、引用文献2に記載された技術事項は「各SAW共振子70_(s1)?70_(s4),70_(p1)?70_(p4)の間を、基板75及びSAW共振子70_(s1)?70_(s4),70_(p1)?70_(p4)の一部の上にAu薄膜82によって形成された接続パターン74で接続する」ことであり、この記載事項における「Au薄膜82」と「接続パターン74」は、それぞれ、本願発明でいう『第2の導電膜』と『複数のIDT電極間を接続している接続配線』に対応するものである。(なお、「Au」は金を意味し、「Au薄膜」が導電膜であることは自明である。)
そうしてみると、引用発明及び引用文献2に記載の技術事項はともに帯域フィルタに用いられる弾性波装置(弾性表面波フィルタ)に関するものであるから、引用発明において「IDT電極6を含む電極構造は共振子を組み合わせたラダーフィルタ又は縦結合フィルタを構成する」際に、引用文献2に記載された技術事項を用いて、「圧電膜5」及び「IDT電極6」上に設けられたAu薄膜により形成された接続パターン、即ち第2の導電膜によって複数の「IDT電極6」間を接続し、本願発明とすることは、当業者であれば、容易に想到し得たものである。
したがって、本願発明は、引用発明及び引用文献2に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


2.請求人の主張について

提出日が平成31年4月19日の審判請求書において請求人は「・・・(省略)・・・(3)本願明細書段落[0006]に記載のように、本願発明は、絶縁体からなる低音速膜が圧電膜下に設けられている構成において、圧電膜上にIDT電極を形成すると、電荷が滞留し、IDT電極の電極指とバスバーとの間などにおいてサージ破壊が生じることがあり、それによって帯域内におけるリップルが生じることがあったことに鑑み、このようなリップルが生じ難い弾性波装置の提供を課題としてなされたものであります。・・・(省略)・・・
引用文献1には、このような本願発明をなす前提となった課題は何ら示されておらず、また、発明の上記特徴的構成である、「第2の導電膜により、複数のIDT電極間を接続する接続配線の少なくとも一部を構成すること」も示されておりません。
他方、引用文献2及び引用文献3に記載されているのは、サージ破壊が生じ難い構成にすぎません。すなわち、引用文献2や引用文献3では、絶縁体からなる低音速膜が圧電膜下に設けられている本願構成とは異なり、圧電基板が用いられているため、IDT電極形成時に生じた電荷は、圧電基板に滞留することなく裏面を通じて逃げていくため、サージ破壊は生じにくく、したがって、引用文献2や引用文献3に記載の構成では、本願発明において解決すべき課題がそもそも存在致しません。
第2の導電膜を用いてIDT電極間を接続することにより、サージ破壊による問題を解決するという本発明の技術思想は、本願発明者が独自に見出した知見に基づくものであり、引用文献1,引用文献2及び引用文献3のいずれにも、このような発明をなす前提となった課題は何ら記載されていないため、引用文献2や引用文献3に記載の構成を引用文献1に記載の発明に組み合わせる動機付けも存在致しません。・・・(省略)・・・」(下線部は当審にて付与した。)と主張している。
上記主張は「低音速膜」の存在を前提としたものであるところ、上記「第2 本願発明」に記載のとおり、本願発明(請求項1に係る発明)は「低音速膜」に相当する構成を備えていない。
したがって、請求人の上記主張は請求項1の記載に基づくものではないから、採用することができない。


第8 むすび
上記のとおり、本願発明は、引用発明及び引用文献2に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-12-27 
結審通知日 2020-01-07 
審決日 2020-01-20 
出願番号 特願2016-566022(P2016-566022)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H03H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石田 昌敏  
特許庁審判長 佐藤 智康
特許庁審判官 中野 浩昌
岡本 正紀
発明の名称 弾性波装置  
代理人 特許業務法人 宮▲崎▼・目次特許事務所  
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