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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A61K
管理番号 1360331
審判番号 不服2019-4522  
総通号数 244 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-04-05 
確定日 2020-03-18 
事件の表示 特願2014-245655「皮膚外用剤」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 8月 6日出願公開、特開2015-143205、請求項の数(1)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由
第1 手続の経緯
本願は、平成26年12月4日(優先権主張 平成25年12月27日)の出願であって、平成30年8月9日付けで拒絶理由が通知され、同年11月5日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年同月30日付けで拒絶査定がされ、その謄本は平成31年1月8日に送達され、これに対し、同年4月5日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

第2 原査定の理由の概要
平成30年11月30日付け拒絶査定(原査定)の理由は、この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

・請求項1
・引用文献1、3?11又は引用文献1?11

引用文献等一覧
1.特開2001-181193号公報
2.特開2005-145891号公報
3.特開2012-87112号公報(周知技術を示す文献)
4.特開平9-20633号公報(周知技術を示す文献)
5.特開2006-111560号公報(周知技術を示す文献)
6.特開平4-124138号公報(周知技術を示す文献)
7.特開2001-316234号公報(周知技術を示す文献)
8.特開2013-237657号公報(周知技術を示す文献)
9.特開2000-239121号公報(周知技術を示す文献)
10.韓国公開特許第10-2010-0058817号公報(周知技術を示す文献)
11.国際公開第2012/115247号(周知技術を示す文献)

第3 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成30年11月5日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
ボタン科(Paeoniaceae)ボタン属(Paeonia)に属するシャクヤクの根の抽出物、バラ科(Rosaceae)サクラ属(Prunus)に属するモモの種子の抽出物、及びシソ科(Lamiaceae)シソ属(Perilla)に属するシソの葉の抽出物を含有する皮膚外用剤。」

第4 引用文献の記載事項及び引用発明
1.引用文献1の記載事項及び引用発明1
原査定において引用された引用文献1には、次の事項が記載されている。
(1)記載事項1-1
「【請求項1】抗炎症作用を有する薬用植物の一種又は二種以上の抽出液(1?10%)、界面活性剤、油相成分を含むことを特徴とする抗炎症性クリーム。」
(2)記載事項1-2
「【0012】以下、抗炎症生を有する生薬、薬用植物を列記する。・・・、シャクヤク、・・・、トウニン、・・・、シソ、・・・。」
(3)記載事項1-3
「【0019】
【実施例】以下、本発明を実施例及び比較例によって詳細に説明する。
実施例試験方法
保湿試験:乾燥肌の女性モニター10名に各クリームの一定量を前腕内側部に塗布、3時間放置した後、微温湯で洗浄して30分後、室温20℃、湿度50%の環境下において、角質層の水分含有量をScalar Moisture Checker で測定し、10名の平均値で表示し、その保湿効果を評価した。
消痒及び抗炎症効果試験:かゆみと湿疹性病巣を有するアトピー性皮膚炎患者5名ずつ選び、各クリームの一定量を患者に塗布し、かゆみの解消程度と紅斑の縮小程度でもってその効果を評価した。」
(4)引用発明1
記載事項1-1から、引用文献1には次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。

「抗炎症作用を有する薬用植物の一種又は二種以上の抽出液(1?10%)、界面活性剤、油相成分を含む抗炎症性クリーム。」

2.引用文献2の記載事項及び引用発明2
原査定において引用された引用文献2には、次の事項が記載されている。
(1)記載事項2-1
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイシ、シャクヤク、トウニン、ブクリョウ、ボタンピ、カンゾウ及びショウキョウの混合物の抽出物からなる保湿性植物抽出物。
・・・
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかの項に記載の保湿性植物抽出物を含有することを特徴とする外用剤組成物。
・・・」
(2)記載事項2-2
「【0008】
本発明は、かかる課題を解決するものであって、長時間保湿効果が継続する保湿性植物抽出物並びに該抽出物を含有し、皮膚に対しては、乾燥、肌荒れ、ヒビ、アカギレ、フケ、カユミ、炎症性疾患の予防、軽減又は改善に、・・・奏効する化粧料又は浴用剤、・・・を提供する。」
(3)記載事項2-3
「【0034】
更にこの他にも、これまでに知られている各原料素材の様々な美容的、薬剤的効果を期待し、これらを組合わせることによって目的とする効果の増進を図ったり、或いは多機能的な効果を期待した製品とすることも可能である。
【0035】
原料とする具体的な植物(生薬)としては、例えば、・・・、シソ又はアオジソ又はチリメンジソ又はカタメンジソ、・・・などが挙げられる。」
(4)記載事項2-4
「【0082】
[実施例1](製造例1)
コウジトウの各構成生薬すなわちケイシ4g、シャクヤク4g、トウニン4g、ブクリョウ4g、ボタンピ4g、カンゾウ1.5g及びショウキョウ1gを混合したものに対して、水500mlを添加し、1時間還流抽出した。次いで、これを濾過して抽出液を得、さらに乾燥することにより、褐色粉末6.0gを得た。
【0083】
[実施例2](製造例2)
コウジトウの各構成生薬すなわちケイシ4kg、シャクヤク4kg、トウニン4kg、ブクリョウ4kg、ボタンピ4kg、カンゾウ1.5kg及びショウキョウ1kgに対し、エタノール500Lを添加し、1晩浸漬抽出した。次いで、これを濾過して抽出液を得、さらに乾燥することにより、淡褐色粉末6.0kgを得た。
【0084】
皮膚刺激性の判定結果
安全性試験皮膚刺激性の評価
本発明の外用剤、化粧料、浴用剤、洗剤用組成物用保湿性植物抽出物の皮膚刺激性を評価するため、健常人(24?58歳男女)43人のモニターによるパッチテストを行った。
(試料)製造例1、2で得た保湿性植物抽出物を精製水で膨潤させたもの。
(方法)各試料について皮膚感作テスト用テープ「フィンチャンバー」(大正製薬製)を用いて、被験者の上腕屈側部、前膊内側に24時間閉塞貼付を行い判定した。すなわち、貼付後24時間経過した時点で試料を除去、その1時間後それぞれ皮膚の状態を観察して判定を行い、平均値にして表1に示した。
・・・。」
(5)引用発明2
記載事項2-2、2-4から、記載事項2-1における「外用剤組成物」は皮膚に適用されることが明らかである。したがって、記載事項2-1、2-2、2-4から、引用文献2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。
「ケイシ、シャクヤク、トウニン、ブクリョウ、ボタンピ、カンゾウ及びショウキョウの混合物の抽出物からなる保湿性植物抽出物を含有する皮膚外用剤組成物」

3.引用文献3?11の記載事項
原査定で引用された引用文献3?11には、それぞれ以下の事項が記載されているものと認められる。
(1)引用文献3
ボタン科(Paeoniaceae)ボタン属(Paeonia)に属するシャクヤクの花部の抽出物が抗酸化作用を有すること(特許請求の範囲、【0007】、【0010】、【0072】?【0074】)。
(2)引用文献4
ボタン(Paeonia Suffruticosa Andr.)抽出物に過酸化水素消去能があること(特許請求の範囲、【0008】、【0014】、【0015】、【図1】)。
(3)引用文献5
バラ科に属するアンズ、テンチャ、サンザシ及びイザヨイバラ、シソ科に属するシソ並びにボタン科に属するシャクヤクの各抽出物がセラミド合成促進剤として用いられること(特許請求の範囲、【0008】、【0011】、【0013】、【0014】、【0017】、【0024】、【表1】)。
(4)引用文献6
シャクヤク(根)及びボタンピ(根皮)にリパーゼ阻害効果があること(第9頁左上欄第4行?右上欄最下行、第1図)。
(5)引用文献7
ボタンの抽出物が抗男性ホルモン作用を有する植物抽出物であること(特許請求の範囲)。
(6)引用文献8
シソ又はその抽出物が皮脂抑制剤の有効成分となること(特許請求の範囲、【0011】、【0012】、【0019】、【実施例】)。
(7)引用文献9
ボタン抽出物(ボタンの根茎からエタノール溶液で抽出して得られるエキス)が角層中のデスモゾームの分解を促進し、角層剥離剤として用いられること(特許請求の範囲、【0001】、【0015】、【0024】、【0028】、【表1】?【表3】)。
(8)引用文献10
ウメ抽出物が皮膚角質除去用化粧料の有効成分となること(要約、特許請求の範囲)。
(9)引用文献11
イザヨイバラエキスがメソトリプシンの発現を促進し、カリクレイン-7の活性を亢進し、その結果、角層剥離促進効果を示すこと(特許請求の範囲、実施例)。

第5 対比・判断
1.引用発明1について
(1)対比
本願発明と引用発明1を対比する。
本願発明の「ボタン科(Paeoniaceae)ボタン属(Paeonia)に属するシャクヤクの根の抽出物、バラ科(Rosaceae)サクラ属(Prunus)に属するモモの種子の抽出物及びシソ科(Lamiaceae)シソ属(Perilla)に属するシソの葉の抽出物」と引用発明1の「抗炎症作用を有する薬用植物の一種又は二種以上の抽出液」とは、「植物の抽出物」との点に限り一致する。また、引用発明1の「クリーム」は、記載事項1-3から、皮膚に塗布されることが明らかであるから、本願発明の「皮膚外用剤」に相当する。
そうすると、本願発明と引用発明1とは、
「植物の抽出物を含有する皮膚外用剤」である点において一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)
本願発明は「ボタン科(Paeoniaceae)ボタン属(Paeonia)に属するシャクヤクの根の抽出物」(以下単に「シャクヤクの根の抽出物」ということがある。)、「バラ科(Rosaceae)サクラ属(Prunus)に属するモモの種子の抽出物」(以下単に「モモの種子の抽出物」ということがある。)及び「シソ科(Lamiaceae)シソ属(Perilla)に属するシソの葉の抽出物」(以下単に「シソの葉の抽出物」ということがある。)を含有するのに対し、引用発明1は「抗炎症作用を有する薬用植物の抽出物」の1種又は2種以上を含有する点。
(相違点2)
本願発明では植物の抽出物の含有量は規定されないのに対し、引用発明1ではそれが「1?10%」に規定される点。
(相違点3)
本願発明は界面活性剤及び油相成分を必須としないのに対し、引用発明1はそれらを必須成分として含む点。
(相違点4)
本願発明では皮膚外用剤が抗炎症性であることは規定されないのに対し、引用発明1ではクリームが抗炎症性であることが規定される点。
(2)判断
(ア)相違点1について
引用文献1には、抽出液の原料となる抗炎症作用を有する薬用植物として、「シャクヤク」、「トウニン」及び「シソ」が記載されている(記載事項1-2)。しかし、それらは、50種を超える多数の薬用植物の一つとして、それぞれ独立に記載されているに過ぎないものであり、また、「シャクヤク」及び「トウニン」については具体的な使用例の記載もないから、上記の記載は、多数の薬用植物の中から「シャクヤク」、「トウニン」及び「シソ」を選択し、それらの抽出物を併用することを当業者に動機づけるものではない。
また、引用文献3?11には、それぞれ上記の事項が記載されるだけであって、「シャクヤクの根の抽出物」、「モモの種子の抽出物」及び「シソの葉の抽出物」の3種を併用することを示唆する記載は全くない。
してみると、引用発明1において、「抗炎症作用を有する薬用植物の抽出物の1種又は2種以上」として、シャクヤクの根の抽出物、モモの種子(トウニン)の抽出物及びシソの葉の抽出物を用いるのは、引用文献1、3?11の記載から当業者が容易に想到し得ることではない。
(イ)本願発明の効果について
本件審判請求書には、<実験1>として、シャクヤクの根の抽出物、モモの種子の抽出物及びシソの葉の抽出物の混合物液である「本発明試料」、シャクヤクの根の抽出物溶液である「比較試料1」、モモの種子の抽出物溶液である「比較試料2」、シソの葉の抽出物溶液である「比較試料3」、シャクヤクの根の抽出物とモモの種子の抽出物の混合物溶液である「比較試料4」、シャクヤクの根の抽出物とシソの葉の抽出物の混合物溶液である「比較試料5」、モモの種子の抽出物とシソの葉の抽出物の混合物溶液である「比較試料6」のそれぞれについて、セラミド合成酵素活性促進効果、アンドロゲン結合率阻害効果及びカリクレイン-7活性亢進効果の評価試験を行ったところ、本発明試料が比較試料1?6のいずれに対しても優れた効果を奏することが記載され、かかる効果は、上記の各効果について記載するところのない引用文献1、又は3種の抽出物の併用について記載するところのない引用文献3?11からは到底予測し得ないものである。
(3)小括
以上のとおりであるから、その余の相違点について検討するまでもなく、本願発明は、引用文献1、3?11に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2.引用発明2について
(1)対比
本願発明と引用発明2を対比する。
引用発明2の「シャクヤク」及び「トウニン」は、それぞれ、本願発明の「ボタン科(Paeoniaceae)ボタン属(Paeonia)に属するシャクヤク」及び「バラ科(Rosaceae)サクラ属(Prunus)に属するモモの種子」に相当する。また、引用発明2の「皮膚外用剤組成物」は、本願発明の「皮膚外用剤」に相当する。
そうすると、本願発明と引用発明2とは、
「ボタン科(Paeoniaceae)ボタン属(Paeonia)に属するシャクヤクの抽出物、バラ科(Rosaceae)サクラ属(Prunus)のモモの種子の抽出物を含有する皮膚外用剤」である点において一致し、以下の点で相違する。
(相違点5)
抽出物の原料となるシャクヤクの部位が、本願発明では「根」であるのに対し、引用発明2では特定がされない点。
(相違点6)
本願発明は「シソ科(Lamiaceae)シソ属(Perilla)に属するシソの葉の抽出物」を含有するのに対し、引用発明2はそれが必須とされない点。
(相違点7)
本願発明は「ケイシ」、「ブクリョウ」、「ボタンピ」、「カンゾウ」及び「ショウキョウ」の抽出物を必須としないのに対し、引用発明2はそれらを必須成分として含む点。
(相違点8)
抽出物について、本願発明では「保湿性」であることは規定されないのに対し、引用発明2では「保湿性」であることが規定される点。

(2)判断
(ア)相違点6について
引用文献2には、引用発明2の皮膚外用剤組成物に美容的、薬剤的な効果を期待して他の原料素材を組み合わせ得ることが記載され、組み合わせる植物原料の一つとして「シソ」が記載されている(記載事項2-3)。しかし、その記載は、膨大な数の原料素材の一つとして「シソ」を挙げるに過ぎないものであり、引用文献2には、「シソ」のどの部位をどのように用いるのかについても、「シソ」を組み合わせる目的や効果についても何ら記載されていないから、上記の記載は、引用発明2の皮膚外用剤組成物に「シソの葉の抽出物」を組み合わせることを当業者に動機づけるものではない。
また、引用文献1には、抗炎症作用を有する薬用植物として「シソ」が記載されている(記載事項1-2)。しかし、上記1.(2)(ア)でも述べたとおり、その記載は、50種を超える多数の薬用植物の一つとして「シソ」を挙げるに過ぎないものであり、保湿性植物抽出物を含む皮膚外用剤組成物と組み合わせるのに「シソ」が特に有利であることを示唆するものではなから、上記の記載が、多数の薬用植物の中から「シソ」を選択し、更にその部位として「葉」を引用発明2の皮膚外用剤組成物に組み合わせることを当業者に動機づけるものとはいえない。
また、引用文献3?11は、それぞれ上記の事項が記載されるだけのものであって、引用発明2の皮膚外用剤組成物に「シソの葉の抽出物」を更に配合することを示唆するものではない。
してみると、引用発明2の皮膚外用剤組成物に「シソの葉の抽出物」を配合するのは、引用文献1?11の記載から当業者が容易に想到し得ることではない。
(イ)本願発明の効果について
上記1.(2)イで述べたとおり、本願発明は、「シャクヤクの根の抽出物」、「モモの種子の抽出物」及び「シソの葉の抽出物」の3種の抽出物の併用による相乗効果を奏するものであり、かかる効果は、上記の各効果について何も記載するところのない引用文献1若しくは2、又は3種の抽出物の併用について何も記載するところのない引用文献3?11からは到底予測し得ないものである。
(3)小括
以上のとおりであるから、その余の相違点について検討するまでもなく、本願発明は、引用文献1?11に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第6 むすび
上記第5のとおり、本願発明は、引用文献1、3?11又は引用文献1?11に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、原査定の理由によって本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2020-02-06 
出願番号 特願2014-245655(P2014-245655)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (A61K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 向井 佑  
特許庁審判長 岡崎 美穂
特許庁審判官 關 政立
山内 達人
発明の名称 皮膚外用剤  

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