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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F25B
管理番号 1360347
審判番号 不服2018-5415  
総通号数 244 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-04-19 
確定日 2020-03-04 
事件の表示 特願2015-511623号「熱電熱交換システムに関するシステムおよび方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年11月14日国際公開、WO2013/169772号、平成27年7月27日国内公表、特表2015-521272号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2013年(平成25年)5月7日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年(平成24年)5月7日 米国、他15件)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は次のとおりである。
平成29年 2月13日付け:拒絶理由通知書
同年 7月20日 :意見書、誤訳訂正書の提出
同年12月11日付け:拒絶査定
平成30年 4月19日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和 1年 5月28日付け:拒絶理由通知書
同年 9月 4日 :意見書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成30年4月19日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される発明であり、次のとおりである。
「チャンバーの設定点温度を維持するために複数の熱電冷却器(TEC)を備える熱交換器の制御方法であって、前記方法が、
前記チャンバーの温度を示す温度データを受信するステップと、
前記複数のTECのうちの2つ以上のTECサブセットを前記チャンバーの前記温度に基づいて選択的に制御するステップとを備え、
TECの冷却効率(COP)が最大化される冷却容量(Q)をQ_(COPmax)、電流(I)をI_(COPmax)としたとき、前記2つ以上のTECサブセットを選択的に制御するステップは、前記チャンバーの前記温度が前記設定点温度を含む定常状態範囲内にある場合、前記複数のTECからの第1のTECサブセットのうちの各TECにI_(COPmax)またはその付近の電流を流して前記複数のTECからの第1のTECサブセットのうちの各TECをQ_(COPmax)またはその付近で動作させるステップを備える、チャンバーの設定点温度を維持するために複数の熱電冷却器(TEC)を備える熱交換器の制御方法。」

第3 拒絶の理由
令和1年5月28日付け拒絶理由通知書により当審が通知した拒絶の理由のうち本願発明に対する拒絶の理由は、次のとおりである。
本願発明は、以下の引用文献1ないし3に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1:特開2001-108328号公報
引用文献2:実公昭44-18693号公報
引用文献3:特開平10-288438号公報

第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1
(1)引用文献1には、「熱交換装置およびその制御方法」に関して、図面とともに次の記載がある。(下線は理解の一助のために当審にて付したものである。以下同じ。)
「【0001】
【発明の属する技術分野】ペルチェ素子を用いて熱媒の温度制御を行う熱交換装置およびその制御方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】ペルチェ素子を用いた熱交換器が知られており、特開平10-288438号には、フッ素系の熱媒をペルチェ素子により温度制御し、その排熱を水を媒体として放出する熱交換器が記載されている。」

「【0016】
【発明の実施の形態】以下に図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1で複数の熱交換器1、2および3を直列に接続して構成した熱交換システム10を示してある。各々の熱交換器1、2および3はペルチェ素子33を採用した同一の構成であり、熱媒38を冷却および加熱することができるものである。
【0017】図2に、熱交換器1を代表して、熱交換部のさらに詳しい構造を示してある。本例の熱交換器1はプレート型の熱交換器であるが、複数のプレート型の熱交換器が相互に密着して、直に熱交換されるものではなく、間にペルチェ素子33が設置され、このペルチェ素子33が複数のプレート型熱交換器の間の熱の流れを制御するようになっている。本例の熱交換器1は計5層の構造になっており、中心に熱媒38を通す第1のプレート型熱交換器(第1の熱交換用プレートあるいは第1の熱交換器)31が配置され、その両側面31aに複数のペルチェ素子33が設置されている。さらに、これらのペルチェ素子33を挟んで第1の熱交換器31の両側に、排熱用の媒体39である水を流す第2のプレート型熱交換器(第2の熱交換用プレートあるいは第2の熱交換器)32が配置されている。したがって、本例の熱交換器30においては、第1の熱交換器31と、その両側に位置する第2のプレート32の間に挟み込まれたペルチェ素子33により強制的に熱勾配が設定され、熱媒38が冷却あるいは加熱される。
【0018】例えば、本例の熱交換器1においては、ペルチェ素子33に供給される電流の向きにより、第1のプレート31に面した側が吸熱、第2のプレート32に面した側が放熱に設定されれば、第1の熱交換器31を流れる熱媒38が冷却され、その排熱により第2の熱交換器32を流れる水39が加熱される。一方、ペルチェ素子33に上記と逆の電流が流れれば、第1の熱交換器31に面した側が放熱、第2の熱交換器32に面した側が吸熱になり、第1の熱交換器31を流れる熱媒38は加熱され、その排熱によって第2の熱交換器32を流れる水39は冷却される。ペルチェ素子33は、供給される電力(電流)により高温側と低温側の温度差を制御することが可能であり、これによってペルチェ素子33を介して流れる熱量を制御できる。したがって、本例の熱交換システム10は、この熱交換器1だけで熱媒を低温から高温まで制御することが可能である。さらに、同じ型の熱交換器1、2および3を直列に接続することにより、熱交換能力、すなわち、冷却能力および加熱能力を高くし、熱媒の温度制御速度が速く、所望の温度に制御した多量の熱媒を供給できる熱交換システム10を提供している。
【0019】本例の熱交換システム10は、さらに、各々の熱交換器1、2および3のペルチェ素子33に対し、各々の熱交換器1、2および3毎に直流電力を供給する直流電源回路11、12および13と、これらを制御する制御部20とを備えている。制御部20は制御回路22を備えており、この制御回路22は、直列に接続された熱交換器1、2および3の出口配管19に設けられた温度センサ21から検出信号を受けて設定値23と比較する機能22aと、熱媒38の出口温度によって直流電源回路11、12および13の負荷を制御する制御信号24を出力する機能22bと、交流電源29から直流電源回路12および13に対する電力供給をオンオフできるリレー25bおよび25cを制御する機能22cとを備えている。本例の直流電源回路11、12および13は、各々がスイッチング電源回路を備えており、たとえば周波数あるいはデューティーなどを制御することにより出力電力を調整することができる。
【0020】したがって、本例の熱交換装置10においては、入口配管18から供給された熱媒38を直列に接続された3つの熱交換部1、2および3によって加熱または冷却し、所定の温度の熱媒38を出口配管19から出力できるものである。そして、熱媒の温度を制御するために、熱交換部1、2および3のペルチェ素子33に供給する電力を適切に制御すると共に、熱負荷に応じて直流電源回路12または13に対する交流電力を段階的にオンオフし、熱交換部の使用台数を1台から3台まで切り替えて熱交換能力を調整できるようにしている。
【0021】図3に、本例の熱交換装置10により熱媒38を冷却するときの制御を示してある。たとえば、直流電源回路11だけがオンしていた状態、すなわち、1番目の熱交換部1のみで熱交換が行われていた状態で、時刻t1に熱媒出口温度T0が何らかの要因により設定温度Tsより上昇し設定温度T1に達すると、それから時間W0が経過した時刻t3に、制御回路22によってリレー25bがオンになり、交流電力が直流電源回路12に供給され、直流電源回路12が稼動する。これにより、2番目の熱交換部2のペルチェ素子33に電力が供給され、熱交換装置10の冷却能力がアップする。さらに、時刻t1からt3の間に熱媒の温度が上昇しつづけており、時刻t2に設定温度T2に達すると、それから時間W0が経過した時刻t4に、制御回路22によりリレー25cがオンし、交流電力が直流電源回路13に供給される。この結果、直流電源回路13もオンする。これによって、3番目の熱交換部3のペルチェ素子33にも電力が供給され、直列に接続された3台の熱交換部1、2および3がすべて稼動する状態となる。
【0022】この状態で、次に熱媒の温度T0が設定温度T2以下に下がるまでの時間W2は、3台の熱交換部1、2および3が稼動し続け、それらに直流電力を供給する直流電源回路11、12および13は、制御回路22からの制御信号24により負荷制御される。これらの直流電源回路11、12および13には、スイッチング電源回路が用いられており、PWM制御などの公知の制御方法により直流電力を制御することができる。
【0023】時刻t5に熱媒温度T0が設定温度T2より下がると、時間W1経過後の時刻t6に制御回路22はリレー25cをオープンし、直流電源回路13を停止する。これにより熱交換部3のペルチェ素子33には電力が供給されないので、この熱交換部3は実質的に動作しない。熱媒の温度T0がさらに下がって、時刻t7に設定値T1をきると、時間W1が経過した後の時刻t8に制御回路22はリレー25bをオープンし、直流電源回路12に対する交流電力の供給を停止する。これにより、熱交換部2のペルチェ素子33には電力が供給されなくなるので稼動しない状態となる。したがって、熱交換装置10は、1番目の熱交換部1のみが稼動し熱媒の温度を制御する状態となる。
【0024】再び熱媒の温度が上昇する時刻t9までの時間W3は、直流電源回路11にのみ交流29が供給され、この直流電源回路11の周波数あるいはデューティーを変えることにより熱媒の温度T0が設定値Ts近傍に収まるように熱交換部1の能力が制御される。
【0025】一方、時刻t9に、熱媒の温度が上昇し、設定値T1を超えると、時刻W0が経過した後の時刻t10にリレー25bがオンとなり、直流電源回路12が稼動し、2番目の熱交換部2でも冷却が行われる。また、時刻t11に熱媒の温度が下がって設定値T1以下になると、リレー25bがオフとなり、再び1番目の熱交換部1だけで熱媒の温度を制御する状態となる。
【0026】このように、本例の熱交換装置10は、直流電源回路12あるいは13をオンオフすることにより熱交換部の稼動台数を変えて冷却能力を制御する工程と、直流電源回路11、12あるいは13の出力電力を制御することにより熱媒の温度を制御する工程とを備えている。そして、熱媒出口19に取り付けられた温度検出器21の信号の変化を読みとり、各々の熱交換部1、2および3に対応する直流電源回路11、12および13に供給する交流電力をオンオフすることにより実質有効となる熱交換器の台数を制御している。このように、直流電源回路をオンオフすることにより、オフした際はその直流電源回路における内部電力損失を0にすることができる。」













(2)上記(1)から、引用文献1には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
a 引用文献1に記載された技術は、ペルチェ素子を用いて熱媒の温度制御を行う熱交換システムの制御方法に関するものである(【0001】、【0016】)。
b 熱交換システムは、ベルチェ素子を備える複数の熱交換器1、2及び3を直列に接続して構成されたものである(【0016】)。
c 各々の熱交換器1、2及び3は、複数のペルチェ素子を有し、熱媒を冷却することができるものである(【0016】及び【0017】)。
d 熱交換システムは、熱交換器1、2及び3の出口に設けられた温度センサ21から熱媒の温度に関する信号を受信し、前記温度に基づいて、各々の熱交換器1、2及び3に対応する直流電源回路11、12及び13に供給する交流電力をオンオフすることにより熱交換器の台数を制御するものであり、熱媒の温度が設定値T1をきると1番目の熱交換器のみを稼働させ、直流電源回路11の周波数又はデューティを変えることにより熱媒の温度が設定値Ts近傍に収まるよう制御するものである(【0019】ないし【0026】)。

(3)上記(1)、(2)から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「ペルチェ素子を用いて熱媒の温度制御を行う熱交換システムの制御方法であって、
熱交換システムは、複数の熱交換器1、2及び3を直列に接続して構成され、
各々の熱交換器1、2及び3は、複数のペルチェ素子を有し、熱媒を冷却することができるものであり、
熱交換システムは、熱交換器1、2及び3の出口に設けられた温度センサ21から熱媒の温度に関する信号を受信し、前記温度に基づいて、各々の熱交換器1、2及び3に対応する直流電源回路11、12及び13に供給する交流電力をオンオフすることにより熱交換器の台数を制御するものであり、熱媒の温度が設定値T1をきると1番目の熱交換器のみを稼働させ、直流電源回路11の周波数又はデューティを変えることにより熱媒の温度が設定値Ts近傍に収まるよう制御する熱交換システムの制御方法。」

2 引用文献2
引用文献2には、「電子冷凍恒温槽」に関して、図面とともに次の記載がある。


」(第2欄第4ないし24行)









3 引用文献3について
引用文献3には、「冷蔵装置およびその制御方法」に関して、図面とともに次の記載がある。
「【0004】図6に、2つのペルチェ冷却ユニット11および12を用いて収納庫20を冷却できる冷蔵米びつ1の例を示してある。この冷蔵米びつ1は、収納庫20に白米を投入して冷蔵保存できるようになっており、このため、収納庫20の周囲が断熱材29で覆われ、ペルチェ冷却ユニット11および12によって収納庫内の熱を吸熱し庫内温度を下げられるようになっている。それぞれのペルチェ冷却ユニット11および12には、ペルチェ素子を作動するための直流電力が制御装置30から供給されている。制御装置30は、家庭用の交流電力を直流電力に変換する変換器31と、それぞれの冷却ユニット11および12に供給される直流電力をオンオフするスイッチSW11およびSW12と、これらのスイッチSW11およびSW12を制御する制御ユニット32を備えている。制御ユニット32は、温度センサー33によって収納庫20の庫内温度Tを検出し、この庫内温度Tが所定の範囲に収まるようにスイッチSW11およびSW12を用いてペルチェ冷却ユニット11および12をオンオフ制御する。また、白米を収納庫に投入した後に庫内を冷却し、適当な冷蔵温度まで庫内温度Tを下げる際は、結露を避けるために適当な温度サイクルあるいは速度となるように庫内温度Tを調整する必要があり、制御ユニット32はスイッチSW11およびSW12を用いて、このような冷却プロセスの制御も行えるようにすることができる。」

「【0017】図4に、本例の米びつ1の概略の制御構成をブロック図を用いて示してある。本例の米びつ1の制御装置30は、家庭用の交流電源でペルチェ冷却装置10を稼働できるようになっており、そのために電力供給部となるAC/DC変換器31で交流39を直流38に変換してそれぞれのペルチェ冷却ユニット11および12に供給するようにしている。AC/DC変換器31から供給される直流電力の一部は循環ファン15および16にも供給され、これらをペルチェ冷却ユニット11および12と共に駆動できるようになっている。また、本例の制御装置30は、それぞれのペルチェ冷却ユニット11および12に供給される直流電力を個々にオンオフ可能な直流側のスイッチSW11およびSW12に加え、AC/DC変換器31に供給される交流電力を一括してオンオフ可能な交流側のスイッチSW20が設けられている。そして、これらのスイッチSW11、SW12およびSW20は制御ユニット32によって操作されるようになっている。制御ユニット32は、収納庫20の庫内温度Tあるいはこれに関連する温度をセンサー33で捉えて庫内温度Tを適当な温度範囲、冷却速度あるいは冷却サイクルに従って制御する機能を備えており、制御する状況によって直流側のスイッチSW11およびSW12でペルチェ冷却ユニット11および12を制御したり、交流側のスイッチSW20で双方のペルチェ冷却ユニット11および12を一括して制御できるようになっている。」









第5 対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると、次のとおりとなる。
ア 引用発明における「設定値Ts」、「ペルチェ素子」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、それぞれ本願発明における「設定点温度」、「熱電冷却器(TEC)」に相当する。

イ 引用発明の「熱交換システム」は、「複数のペルチェ素子を有」する「熱交換器1、2及び3」を「直列に接続して構成され」たものであり、全体として熱交換器を構成するといえるから、本願発明の「複数の熱電冷却器(TEC)を備える熱交換器」に相当する。また、引用発明の「熱媒の温度を設定値Ts近傍に収めるよう制御する」ことは、本願発明の「チャンバーの設定点温度を維持する」ことと、「対象の設定点温度を維持する」という限りにおいて一致する。

ウ 引用発明における「熱交換器1、2及び3の出口に設けられた温度センサ21から熱媒の温度に関する信号を受信」する態様は、本願発明における「前記チャンバーの温度を示す温度データを受信する」態様と、「対象の温度を示す温度データを受信する」という限りにおいて一致する。

エ 引用発明において、「各々の熱交換器1、2及び3は、複数のペルチェ素子を有し」ており、熱交換器ごとに複数のペルチェ素子からなる「サブセット」が構成されるといえる。すなわち、引用発明の各熱交換器における「複数のペルチェ素子」が本願発明の「TECサブセット」に相当する。そうすると、引用発明における「前記温度に基づいて、各々の熱交換器1、2及び3に対応する直流電源回路11、12及び13に供給する交流電力をオンオフすることにより熱交換器の台数を制御する」態様は、3組の「複数のペルチェ素子」を選択的に制御するものといえ、本願発明における「前記複数のTECのうちの2つ以上のTECサブセットを前記チャンバーの前記温度に基づいて選択的に制御する」態様と、「複数のTECのうちの2つ以上のTECサブセットを前記対象の前記温度に基づいて選択的に制御する」という限りにおいて一致する。

したがって、本願発明と引用発明との一致点、相違点は次のとおりである。

[一致点]
「対象の設定点温度を維持するために複数の熱電冷却器(TEC)を備える熱交換器の制御方法であって、前記方法が、
前記対象の温度を示す温度データを受信するステップと、
前記複数のTECのうちの2つ以上のTECサブセットを前記対象の前記温度に基づいて選択的に制御するステップとを備える、対象の設定点温度を維持するために複数の熱電冷却器(TEC)を備える熱交換器の制御方法。」

[相違点1]
本願発明においては、設定点温度を維持する対象が「チャンバー」であり、「チャンバー」の温度を示す温度データを受信し、「チャンバー」の温度に基づいて選択的に制御するのに対して、引用発明においては、「対象」が「熱媒」であり、「熱媒」の温度を示す温度データを受信し、「熱媒」の温度に基づいて選択的に制御する点(以下「相違点1」という。)。

[相違点2]
本願発明においては、「TECの冷却効率(COP)が最大化される冷却容量(Q)をQ_(COPmax)、電流(I)をI_(COPmax)としたとき、前記2つ以上のTECサブセットを選択的に制御するステップは、前記チャンバーの前記温度が前記設定点温度を含む定常状態範囲内にある場合、前記複数のTECからの第1のTECサブセットのうちの各TECにI_(COPmax)またはその付近の電流を流して前記複数のTECからの第1のTECサブセットのうちの各TECをQ_(COPmax)またはその付近で動作させるステップを備える」のに対して、引用発明においては、熱媒の温度が設定値T1をきると1番目の熱交換器のみを稼働させ、直流電源回路11の周波数又はデューティを変えることにより熱媒の温度が設定値Ts近傍に収まるよう制御する点(以下「相違点2」という。)。

上記相違点について検討する。

[相違点1について]
チャンバーの温度を設定点温度に維持するよう熱電冷却器を制御することは、例えば、引用文献2(第2欄第4ないし24行及び第1ないし2図を参照。)及び引用文献3(段落【0004】、【0017】、図4及び図6を参照。)等に示されるように、周知技術である。
引用発明においては、熱交換システムの具体的な用途が特定されておらず、また、引用文献1の段落【0002】において引用文献3を従来技術として参照しており、引用文献3にはチャンバー(収納庫20)を冷却することが記載されていることを勘案すれば、引用発明において、上記周知技術を採用し、設定点温度に維持する対象としてチャンバーを選択し、該チャンバーの温度を示す温度データを受信するよう構成することにより、上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。

[相違点2について]
引用文献2(第2欄第4ないし24行及び第1ないし2図を参照。)には、恒温槽5(チャンバー。括弧内は本願発明における対応する事項を表す。以下同じ。)内の温度が設定温度(設定点温度)近辺(定常状態範囲内)まで降下するとIopt近辺の電流(I_(COPmax)又はその近辺の電流)を流して消費電力を最も有利に使用する技術が記載されている。
また、引用文献2の第2図には、Ioptに対応する吸熱量(Q_(COPmax))が示されている。
そして、消費電力を低減するよう熱交換器を制御することは技術常識であり、消費電力の低減は引用発明において内在する課題であるともいえるから、引用発明において、消費電力を低減するために上記引用文献2に記載された技術を採用し、「熱媒の温度が設定値T1をきると1番目の熱交換器のみを稼働させ」る制御について、熱媒の温度が設定値Ts近傍である(定常状態範囲内である)場合に、熱交換器1の各ペルチェ素子にI_(COPmax)又はその付近の電流を流して熱交換器1の各ペルチェ素子をQ_(COPmax)又はその付近で動作させるものとすることで、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。

そして、本願発明は、全体としてみても引用発明、引用文献2に記載された技術及び周知技術から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

なお、請求人は、令和1年9月4日提出の意見書において、「しかしながら、上述したとおり、引用文献1記載の発明は複数の熱交換器を熱交換器単位でオンオフしているものであり、本願発明のように1つの熱交換器内に備えられた2つ以上のTECサブセットの動作を選択的に制御しているものではありません。」(以下「主張1」という。)、「また、複数の熱交換器から選択された1つの熱交換器内の、選択された1つのTECサブセットを用いて該TECサブセットを最適化して制御するかについては、どの引用文献にも記載されていません。」(以下「主張2」という。)、「さらに、引用文献1は「熱媒」の温度制御であり、「チャンバー」の制御とは異なります。引用文献1を主たる引例として引用文献2あるいは引用文献3と組み合わせて本願発明の「チャンバー」を対象とした発明を完成させることは、できないものと思料いたします。」(以下「主張3」という。)と主張する。
主張1について、引用発明における「複数の熱交換器1、2及び3を直列に接続して構成され」た「熱交換システム」も全体として熱交換器といえるものであって、本願発明の「熱交換器」がこのような態様のものを除外していると解することはできないから、引用発明における「複数の熱交換器1、2及び3を直列に接続して構成され」た「熱交換システム」は、本願発明における「熱交換器」に相当するといえる。
また、引用発明において、「各々の熱交換器1、2及び3は、複数のペルチェ素子を有し」ており、熱交換器ごとに複数のペルチェ素子からなる「サブセット」が構成されるといえるから、引用発明における「熱交換器1、2及び3」の「台数を制御する」態様は、本願発明における「2つ以上のTECサブセット」を「選択的に制御する」態様に相当するといえる。
主張2について、本願発明は、「複数の熱交換器から選択された1つの熱交換器内の、選択された1つのTECサブセットを用いて該TECサブセットを最適化して制御する」ことを特定するものではないから、主張2は本願発明において特定された事項に基づくものとはいえない。
主張3について、温度制御の対象をチャンバーとすることが容易に想到し得たことは、上記[相違点1について]において記載したとおりである。
したがって、請求人の主張は、いずれも採用することができない。

よって、本願発明は、引用発明、引用文献2に記載された技術及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、引用文献2に記載された技術及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-09-30 
結審通知日 2019-10-01 
審決日 2019-10-21 
出願番号 特願2015-511623(P2015-511623)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F25B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 西山 真二  
特許庁審判長 松下 聡
特許庁審判官 紀本 孝
大屋 静男
発明の名称 熱電熱交換システムに関するシステムおよび方法  
代理人 特許業務法人 英知国際特許事務所  

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