ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A62B |
---|---|
管理番号 | 1360352 |
審判番号 | 不服2018-7774 |
総通号数 | 244 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-04-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-06-06 |
確定日 | 2020-03-04 |
事件の表示 | 特願2015-529832「個人保護呼吸デバイス用の電動排気装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年3月6日国際公開、WO2014/035641、平成27年10月15日国内公表、特表2015-530148〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2013年(平成25年)8月12日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年(平成24年)8月31日(GB)英国)を国際出願日とする出願であって、平成28年8月5日に手続補正書が提出され、平成29年5月24日付け(発送日:同年5月30日)で拒絶の理由が通知され、その指定期間内の同年8月15日に意見書が提出され、平成29年9月27日付け(発送日:同年10月3日)で拒絶の理由が通知され、その指定期間内の同年12月27日に意見書が提出されたが、平成30年1月29日付け(発送日:同年2月6日)で拒絶査定がされ、これに対し、同年6月6日に拒絶査定不服審判が請求され、その後、平成31年4月24日付け(発送日:令和元年5月7日)で当審より拒絶の理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、その指定期間内の令和元年8月6日に意見書が提出されたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1及び2に係る発明は、平成28年8月5日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「個人保護呼吸デバイスと解放可能に接続するための排気装置であって、前記個人保護呼吸デバイスが、着用者の顔に隣接して濾過空気容量部を画定するとともに少なくとも1つの呼気弁を備え、前記排気装置が、 前記少なくとも1つの呼気弁と流体接続している送風機を備え、前記送風機が、前記少なくとも1つの呼気弁を通じて前記着用者の呼気の一部を引き出すように動作可能である、排気装置。」 第3 当審拒絶理由の概要 当審拒絶理由の概要は次のとおりである。 (進歩性)本願の請求項1及び2に係る発明は、本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献1:特表2003-500178号公報 引用文献2:特開2002-253689号公報 引用文献3:米国特許第2891541号明細書 第4 引用文献の記載事項 1 引用文献1 当審拒絶理由に引用された、本願の優先日前に頒布された引用文献1(特表2003-500178号公報)には、「ファン装置を備えるフェースマスク」に関して、図面(特に、図1A、図1B、図2ないし図4を参照。)とともに以下の事項が記載されている(下線は、理解の一助のために当審が付与したものである。以下同様。)。 ア 「【0001】 (技術分野) 本発明は、一般的に、着用者の鼻及び口を覆うフェースマスクに関し、更に詳細には、マスクのフィルタ本体を通して空気を吸引するためのファンを取り付けたフェースマスクに関する。」 イ 「【0003】 現在、医療従事者は、マスクの周縁部と着用者との間に障壁又は密封を形成するフェースマスクを着用することを次第に好むようになってきている。マスクと着用者の皮膚との間が密封係合する結果として、着用者の実質的に全ての吸気及び呼気は、強制的にマスクの濾材を通って流れる。その結果、このようなぴったり合ったフィルタマスクは、長時間着用すると、暑くなって着用者には不快であることがある。また、通気性が問題となることもある。 【0004】 特定の医療環境では、着用者の顔が見えるように、マスクに透明パネルを備えることが好まれる。このようなパネルでは、患者は、医療従事者の口を見ることができるため、医療従事者と患者との間の意思伝達が改善され、聴力障害のある患者には特に有用である。このような透明パネルを有するマスクでは、着用者が吐き出した暖かい湿った空気が、水蒸気でパネルを曇らせる原因になるため、結露という問題が起こることが多い。同様の結露の問題は、マスク着用者が、眼鏡又はゴーグルをかける必要がある場合にも起こる可能性がある。 【0005】 言及した関連の問題を有するマスクの使用は、医療環境に限定されない。危険物の処理又は無菌室環境での作業等の多くの産業分野でも、着用者の顔とマスクの周縁部との間を実質的にぴったり密封するフェースマスク及び呼吸マスクを用いることが必要である。 従って、マスク内部から呼気を強制的に排出し、マスク外部から新鮮な空気を送ることにより、マスクの濾材を通る空気の流れを高めたフェースマスク設計が必要であることが理解できる。 【0006】 (発明の開示) 本発明は、従来技術の構造及び方法に関する前述の問題点等を認識し、それを解決するものである。 本発明の目的及び利点は、以下の説明に部分的に示されており、その説明から明白な場合もあり、本発明を実施することにより分かる場合もある。 本発明によれば、フェースマスクは、着用者の少なくとも鼻及び口を覆うフィルタ本体を有し、着用者の鼻及び口を取り囲む内部空間を形成する。また、フェースマスクは、マスクをしっかりと着用者の顔に保持するための手段を有する。ファンは、フィルタ本体の外側に配置され、マスクのフィルタ本体を通る空気流の少なくとも一部を吸引するよう作動可能である。」 ウ 「【0015】 図面を参照すると、概して、着用者の顔に位置決めされ、付属ファン14を備えるフェースマスク10、110及び210が示されている。本明細書で用いる場合、フェースマスクは、マスクの外部から着用者12の鼻及び口に空気感染病原体、粒子状物質、又は危険物が流入することを防止又は遅延させるために用いることができる。更に、マスクは、細菌及び他の汚染物が、マスク本体から出ることを防ぐことができる。図示した各々のマスクは、有害物質を取り除くためのフィルタ本体16又はフィルタ部分18を備える。 図示した各々のマスクは、実質的に密封係合で着用者12の顔に適合し、着用者12の吸気及び呼気が、主にマスクのフィルタ本体16又はフィルタ部分18を通過するようにすることが好ましい。ファン14は、濾材を通して空気が通過するのを助けるような配置で特に有用である。 【0016】 図1A及び図2に示すように、フェースマスク10のフィルタ本体16は、略台形の上側パネル20と及び下側パネル22を備えることができる。上側パネル20及び下側パネル22は、同一の構成とすることができ、3辺に沿って互いに結合することができる。上側パネル20の第4の結合していない辺は、マスクの上縁24を構成し、着用者12の鼻及び頬を横切って延びる。同様に、下側パネル22の第4の結合していない辺は、フェースマスク10の周縁部又は開口部の下縁26を構成し、着用者12の顎の下に位置決めされる。このようなマスクは、1994年6月21日にBrunsonに付与された米国特許第5,322,061号に対する、1998年6月2日に発行された米国再審査特許明細書B1 5,322,061号に記載されている。尚、この全開示内容は、本明細書に参照文献として組み込まれている。」 エ 「【0018】 図1A、図1B及び図2に示すように、本発明では、ファン14を前述の好ましい実施形態に説明したフェースマスクに組み込んでいる。ファン14は、プラスチックケーシング15に入れた単純な軽量ファンであってもよい。本出願人は、適切なファンとして、コンピュータハードディスクドライブを冷却するために設けることができる形式のファンを見出した。ファン14は、使い捨て、半使い捨て、又は再利用可能としてもよい。ファン14は、種々の速度又は単一の速度で作動できる。好ましい実施形態において、ファン14は、着用者12の鼻及び口からマスクの内部容積に呼気が入ると最も効果的に呼気を引き出すように、フェースマスク10の下側パネル22に取り付けられる。 【0019】 望ましい実施形態において、ファンは、着用者12の呼吸のしやすさ及び快適性を向上させるために、マスク10の内部容積内から呼気を引き出す方向に作動される。もしくは、ファン14は可逆的であり、着用者12が、ファンの向きを変えて、マスク10の内部容積から呼気を除去する方向か、マスク10の内部容積に冷たい新鮮な空気を引き入れる方向かを選択できる。ファン14は、例えば、外部空気をマスク内に強制的に引き入れると有害物質も入る可能性がある、危険な環境等、必要な場合には1つの方向に限定できる。 【0020】 ファン14は、多くの方法でマスク10に取り付けることができる。ファン14は、図1Bに示すように、接着剤34等でマスク10に永久的に取り付けることもできる。もしくは、ファンは、例えば、スナップで取り付ける方法、部材のポケット、又はVelcro(登録商標)のようなフック材料を用いて、取り外し可能に取り付けることもできる。このような取り外し可能な取り付け構造にすると、使い捨てのマスクと共に再利用可能なファンを利用できることになる。特定の環境では、マスク及びファンが共に使い捨てであることが好ましい場合もある。 【0021】 また、ファン14は、マスクの濾材を強制的に通る空気を濾過することに役立つ空気フィルタ(図示せず)を備えることもできる。マスク10のファン14に隣接する部分は、フィルタ本体16又はフィルタ部分18の残りの部分とは異なる材料で形成することができる。例えば、濾材を変更し、その区域だけ空気の流れを増加させることができる。このような構成では、ファン14が空気フィルタを包含すると好都合である。同様に、付加的な空気フィルタは、マスク10が、開口部(図示せず)を備え、開口部の周縁部にファンを密封できる場合は有用である。」 オ 「【0023】 本発明の、他の実施形態を図3に示す。マスク110は、本技術分野では公知の従来型の円錐形マスクである。円錐形マスク110は、マスクの開口部46を定める縁部44により輪郭付けされ、着用者12の鼻、頬、及び顎の周囲に心地よく適合するように形作られている。取り付けストラップ48は、縁部44と共に、マスク110の縁の周囲を確実にぴったりと適合させ、空気の流れを最小にするよう機能する。ファン14は、円錐形マスク110のフィルタ本体16のどこに配置してもよい。好ましい実施形態において、ファンは、呼気を更に効果的に除去するために、マスク110の下側部分50に配置される。」 カ 「【0024】 図4は、本発明の他の好ましい実施形態を示し、透明部分52を備えるフェースマスク210でのファンの利用を示している。ファン14は、暖かい湿った呼気を容易に除去し、透明部分52に結露が生じるのを防ぐことができるため、このようなマスクに用いる場合に特に有用である。透明部分52を備えるフェースマスク210では、マスクの外側から着用者の口を見ることができ、着用者12は、更に容易に意思を伝達できる。このようなマスクは、1996年10月8日にCarlsonに付与された米国特許第5,561,863号に記載されている。尚、この全開示事項は、本明細書に参照文献として組み込まれている。 【0025】 図4に示すように、マスク210は、着用者12の鼻を横切って延び、更に、着用者の頭の周りに配置される、取り付けストラップ56を形成する上縁54を備えることができる。また、マスク210は、着用者の顎の下に延び、更に、着用者の頭又は首の上部の周りに延びる付加的な取り付けストラップを形成する下縁58を備える。着用者12の鼻及び口を取り囲むマスク12の周縁部を完成するために、各々の側縁62は、上縁54と下縁56とを連結する。 マスク210の本体は、少なくとも着用者の口を見ることができる透明部分52と、マスク210の下側部分を形成するフィルタ部分18とで構成される。好ましい実施形態において、ファン14は、マスク210のフィルタ部分18に取り付けられ、前述のように、フィルタ部分18を通して空気を吸引するように作動する。」 以上から、上記引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 [引用発明] 「フェースマスク10、110、210に取り外し可能に取付けられるファン14であって、前記フェースマスク10、110、210が、着用者12の顔に隣接してマスクの内部容積を画定し、前記ファン14が、前記着用者12の呼気を除去するように動作可能である、ファン14。」 2 引用文献2 当審拒絶理由に引用された、本願の優先日前に頒布された引用文献2(特開2002-253689号公報)には、「顔面用濾過マスク」に関して、図面(特に、図1を参照。)とともに次の事項が記載されている。 ア 「【0005】 第3に、本発明は、次のような顔面用濾過マスクを提供する。 顔面マスクは、以下の構成のマスクボデーと排気弁を備える。 (a)マスクボデーは、人の鼻と口を覆ってフィットするようにした形状を有し、マスクボデーを通る流体の汚染物質を除去するフィルター手段を備える。マスクボデーは開口を有するため、流体は、フィルター手段を通らずにマスクボデーから排出される。開口は、顔面用濾過マスクを着用者の顔面の鼻と口を覆って装着したときに、開口が着用者の口のほぼ真上にくるようにマスクボデー上に位置決めされる。 (b)排気弁は、開口の位置でマスクボデーに取り付けられる。排気弁は、可撓性フラップと弁座を備える。弁座は、オリフィスとシールリッジを備える。可撓性フラップは、第1端部のところで弁座に取り付けられ、排気弁が閉鎖位置にあるときシールリッジ上に接する。可撓性フラップは第2の自由端を備える。第2の自由端は、流体が排気弁を通っているときにシールリッジから持ち上がる。」 イ 「【0016】 図1は、本発明に係る顔面用濾過マスク10を示している。顔面用濾過マスク10は、排気弁14を取り付けたカップ型マスクボデー12を備える。マスクボデー12は、開口(図示せず)を有し、呼気はフィルター層を通過することなく、この開口を通って排出される。マスクボデー12上の開口は、マスク着用時に着用者の口の真上に位置するのが好ましい。マスクボデー12の露出表面全体は、排気弁14のところを除いて、吸気を透過する。」 以上から、上記引用文献2には次の事項(以下「引用文献2記載事項」という。)が記載されている。 [引用文献2記載事項] 「顔面用濾過マスク10における開口の位置に排気弁14を取り付けたこと。」 3 引用文献3 当審拒絶理由に引用された、本願の優先日前に頒布された引用文献3(米国特許第2891541号明細書)には、「ANTI-FOGGING FACE MASK」に関して、図面(特に、Fig.1及びFig.4を参照。)とともに、次の事項が記載されている(なお、記載事項について、当審で作成した仮訳を示す。)。 ア 「The nose portion is defined in part by an inwardly extending concavo-convex U-shaped rib 28, the bight of which extends between the lower lip and chin portions of the mask, and the legs of which extend upwardly toward the eye sockets along, but spaced from, the nose. This nose portion is molded so that it is spaced above the nose, and increasing in height from the nose bridge portion 30 of the mask to the mouth portion 32. Above tbe eye socket leg 18 are placed plugs 34 in order to seal off the space between the eye sockets and the upper wall of the mask. An exhalation exhaust valve 36 is mounted in the nose portion of the mask lying over the mouth and nostrils.」(第3欄第11行ないし23行) (当審仮訳)「ノーズ部分は、内側に延びる凹凸U字状リブ28によって部分的に画定され、その湾曲部は、マスクの下側リップと顎部分との間に延び、脚部は、鼻部に沿って、しかし鼻から離間して、アイソケットに向かって上方に延びている。このノーズ部分は、鼻の上方に間隔を置くように、そして、マスクの鼻ブリッジ部分30から口部分32まで高さが増大するように成形されている。アイソケット脚部18の上には、アイソケットとマスクの上壁との間の空間をシールするためにプラグ34が配置されている。呼気排気弁36は、口および鼻孔上に横たわっているマスクのノーズ部分に取り付けられている。」 以上から、上記引用文献3には次の事項(以下「引用文献3記載事項」という。)が記載されている。 [引用文献3記載事項] 「マスクのノーズ部分に呼気排気弁36を取り付けたこと。」 第5 対比及び判断 1 引用発明との対比及び判断 本願発明と引用発明とを対比すると、後者の「フェースマスク10、110、210」は、その機能及び構造からみて、前者の「個人保護用呼吸デバイス」に相当し、以下同様に、「取り外し可能に取付けられる」は「解放可能に接続する」に、「ファン14」は「排気装置」及び「送風機」に、「着用者12」は「着用者」に、「マスクの内部容積」は「濾過空気容量部」に、「呼気を除去する」は「呼気の一部を引き出す」に、それぞれ相当する。 そうすると、本願発明と引用発明とは、次の一致点、相違点がある。 [一致点] 「個人保護呼吸デバイスと解放可能に接続するための排気装置であって、前記個人保護呼吸デバイスが、着用者の顔に隣接して濾過空気容量部を画定し、 前記排気装置が、 送風機を備え、前記送風機が、前記着用者の呼気の一部を引き出すように動作可能である、排気装置。」 [相違点] 本願発明は、個人保護呼吸デバイスが「少なくとも1つの呼気弁を備え」、排気装置が備える送風機が、「少なくとも1つの呼気弁と流体接続して」おり、当該送風機が、「少なくとも1つの呼気弁を通じて」着用者の呼気の一部を引き出すように動作可能であるのに対し、引用発明は、呼気弁を備えておらず、ファン14がかかる構成を備えていない点。 上記相違点について検討する。 引用文献2記載事項は「顔面用濾過マスク10における開口の位置に排気弁14を取り付けたこと。」であり、引用文献3記載事項は「マスクのノーズ部分に呼気排気弁36を取り付けたこと。」である。 そうすると、引用文献2記載事項及び引用文献3記載事項からみて、本願の優先日前において、「個人保護呼吸デバイスの開口部に呼気弁を備えること」は、周知技術(以下「周知技術」という。)といえる。 また、引用文献1の「マスク10が、開口部(図示せず)を備え、開口部の周縁部にファンを密封できる場合は有用である。」(段落【0021】)との記載からみて、引用発明において「開口部」にファンを取り付けることが示唆されている。 そして、引用発明と周知技術とは、個人保護呼吸デバイスに関する技術である点で共通し、引用発明に周知技術を適用することについての格別な阻害要因を見いだすこともできない。 そうすると、引用発明において、安全性を高めるために、開口部に対して上記周知技術を適用することは、当業者が容易に想到できたことであり、その場合、ファン(送風機)が少なくとも1つの呼気弁と流体接続しており、当該ファン(送風機)が、少なくとも1つの呼気弁を通じて着用者の呼気の一部を引き出すように動作可能な構成となる。 よって、引用発明に上記周知技術を適用することにより、上記相違点に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 また、本願発明は、全体としてみても、引用発明及び周知技術から予測し得ない格別な効果を奏するものではない。 したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 第6 令和元年8月6日の意見書における審判請求人の主張について 審判請求人は、令和元年8月6日の意見書において、次のように主張する。 ア 「引用文献1の『ファン』も、引用文献2ないし3の『弁』も、マスク内部の呼気をマスク外部へと放出することを目的として設けられている。仮に引用文献1の構成に引用文献2ないし3の『弁』を適用しようとすれば、『ファン』に代えて『弁』を使用することになるのであって、『ファン』に加えて『弁』を重畳的に配置することは、過剰であり、不自然である。現に、引用文献1-3のいずれにも、当業者がそのような構成を採用した『はずである』との示唆はない。特段の示唆がないにも関わらず、そのような複雑で過剰な構成を採用することには、阻害要因があるとすら言える。」 イ 「引用文献2ないし3によって、仮に、『マスクの開口部』に呼気を排出するための『弁』を設けるとの周知技術が示されるとしても、『ファンが配置されているマスクの開口部』に『弁』を設けることが周知であるとは言えない。かえって、マスクの開口部にファンが設けられているのであれば、ファンによって呼気を効果的に除去することができるのであるから、呼気を排出するための『弁』をさらに付加する必要はない。仮に、『マスクの開口部』に呼気を排出するための『弁』を設けることが周知技術であったとしても、該周知技術は、『マスク内部からの呼気の除去』という課題を解決するものであって、引用文献1では同一の課題が『ファン』によって解決されているから、『ファン』に加えて『弁』までをも追加するということを当業者が容易に想到し得たとは到底言えない。現に、同一の開口部に『ファン』と『弁』の両方を備えたマスクがいずれの引用文献にも開示されていないという事実は、かかる構成が想到非容易であったことを裏付けるものである。よって、仮に引用文献2-3から何らかの周知技術の認定が可能であったとしても、該周知技術を適用することによって本願発明に想到し得たとの論理付けはできない。」 ウ 「本願発明のように、『呼気弁と流体接続している送風機』を備えることは、送風機の過呼吸を低減できるという顕著な作用効果を奏する。この点については、本願明細書の段落0039においても、『当業者は、排気装置10は呼吸用マスク20上の排気弁26と流体的に接続するので、送風機の過呼吸(すなわち、着用者100の吸入によって生じる送風機を通っての逆流)が呼吸用マスク20上の一方向排気弁26により防止されることを理解するであろう。排気装置10を一方向排気弁26上に位置決めすることは、汚染物質、粒子、ミスト、蒸気又はガスが着用者100によって吸入されないこと及び個人保護呼吸デバイス20の一体性が保持されることを保証する。』と記載されている。 呼吸用マスクにおける送風機の過呼吸という新規な課題については、引用文献1には一切記載も示唆もない。よって、引用発明1から出発して、送風機の過呼吸低減との課題を解決するために、『ファン』が設けられた開口部に『弁』を追加する、という発想に到達し得たとは言えない。」 しかしながら、引用発明は、着用者の不快さを軽減するとともに、眼鏡やマスクの曇りを防止するために、マスク内部の呼気をマスク外部へと強制的に排出するファンを設けたものであるから、引用発明からファン14を取り除いた状態で使用することは想定していない。また、引用発明におけるファン14及び周知技術における呼気弁は、いずれも呼気を排出するための構成であるが、両方を備えることによって、それぞれの機能が損なわれるわけではないから、例えば、バッテリ切れなどによりファンが停止した場合に、外部から有害物質が入ることを防止するために、引用発明におけるファン14に加えて周知技術の呼気弁を設けることを妨げる特段の事情はない。 そして、引用発明におけるファン14も、周知技術における呼気弁も、いずれも開口に設けられているものであるから、引用発明に周知技術を適用したものが、同一の開口部に「呼気弁と流体接続している送風機」を設けたものとなることは、当業者にとって容易に理解できることである。 さらに、本願の優先日前に頒布された引用文献4(特表平3-503249号公報)の第4ページ左下欄第21行ないし第4ページ右下欄第2行及びFIG.3からみて、個人保護呼吸デバイスにおける同一の開口部に「呼気弁と流体接続している送風機」を設けたことは、周知の事項であり、引用発明に上記周知技術を適用するにあたって、同一の開口部にファン14及び呼気弁の両方を設けることが、当業者にとって想到困難であるということはできない。 そして、「本願発明のように、『呼気弁と流体接続している送風機』を備えることは、送風機の過呼吸を低減できるという顕著な作用効果を奏する」こと及び「呼吸用マスクにおける送風機の過呼吸という新規な課題」についても、引用文献4(特に、第4ページ左下欄第24行ないし第4ページ右下欄第1行を参照。)に示唆されているから、これらが格別顕著な作用効果及び新規な課題ということもできない。 したがって、意見書における請求人の主張を認めることはできない。 第7 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
|
審理終結日 | 2019-10-01 |
結審通知日 | 2019-10-08 |
審決日 | 2019-10-21 |
出願番号 | 特願2015-529832(P2015-529832) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(A62B)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 首藤 崇聡 |
特許庁審判長 |
金澤 俊郎 |
特許庁審判官 |
齊藤 公志郎 鈴木 充 |
発明の名称 | 個人保護呼吸デバイス用の電動排気装置 |
代理人 | 野村 和歌子 |
代理人 | 吉野 亮平 |
代理人 | 赤澤 太朗 |
代理人 | 佃 誠玄 |