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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A45D
管理番号 1360381
審判番号 無効2018-800095  
総通号数 244 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-04-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2018-07-24 
確定日 2020-03-14 
事件の表示 上記当事者間の特許第5847904号発明「美容器」の特許無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第5847904号の請求項1乃至2に係る発明についての出願は,平成23年11月16日に出願した特願2011-250915号の一部を平成26年9月26日に新たな特許出願としたものであって,平成27年12月4日に特許権の設定登録(請求項の数2)がされたものである。
そして,平成30年7月24日に株式会社ファイブスターより請求項1乃至2に係る特許について特許無効審判が請求され,同年10月23日付けで被請求人株式会社MTGより答弁書が提出された。
同年11月30日付けで審理事項通知書が通知され,同年12月25日付けで請求人より口頭審理陳述要領書が提出され,平成31年1月4日付けで被請求人より口頭審理陳述要領書が提出され,同年1月10日付けで再度審理事項通知書が通知され,同年1月23日付けで被請求人より口頭審理陳述要領書2が提出され,同年1月23日差出で請求人より口頭審理陳述要領書が提出され,同年1月23日に口頭審理が行われ,同年2月25日付けで被請求人より上申書が提出された。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1乃至2に係る発明は,願書に添付された特許請求の範囲の請求項1乃至2に記載された事項より特定される,次のとおりのものである。
「【請求項1】
基端においてハンドルに抜け止め固定された支持軸と,
前記支持軸の先端側に回転可能に支持された回転体とを備え,その回転体により身体に対して美容的作用を付与するようにした美容器において,
前記回転体は基端側にのみ穴を有し,回転体は,その内部に前記支持軸の先端が位置する非貫通状態で前記支持軸に軸受け部材を介して支持されており,
軸受け部材は,前記回転体の穴とは反対側となる先端で支持軸に抜け止めされ,
前記軸受け部材からは弾性変形可能な係止爪が突き出るとともに,軸受け部材は係止爪の前記基端側に鍔部を有しており,同係止爪は前記先端側に向かうほど軸受け部材における回転体の回転中心との距離が短くなる斜面を有し,
前記回転体は内周に前記係止爪に係合可能な段差部を有し,前記段差部は前記係止爪の前記基端側に係止されるとともに前記係止爪と前記鍔部との間に位置することを特徴とする美容器。」(以下,「本件特許発明1」という。)
「【請求項2】
前記軸受け部材は合成樹脂製であることを特徴とする請求項1に記載の美容器。」(以下,「本件特許発明2」という。)

第3 当事者の主張の概要
1.請求人の主張の概要
本件特許の請求項1及び2に係る発明は,甲第1号証に記載された発明に甲第2号証の1に記載された事項,及び,甲第3号証ないし甲第5号証のいずれかに記載された事項を適用することにより,原出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,その特許は同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきである。
審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求めている。

証拠方法
甲第1号証:特開平2-104359号公報
甲第2号証の1:米国特許出願公開第2010/0191161号明細書
甲第2号証の2:米国特許出願公開第2010/0191161号明細書の翻訳文
甲第2号証の3:翻訳にあたってのコメント
甲第3号証:登録実用新案第3036898号公報
甲第4号証:登録実用新案第3166202号公報
甲第5号証:国際公開第2011/004627号
甲第6号証:平成30年(行ケ)第10048号準備書面(2)
甲第8号証:実願平1-43088号(実開平2-135026号)のマイクロフィルム
甲第9号証:実願平2-403503号(実開平8-159号)のCD-ROM
甲第10号証:実願平2-26603号(実開平3-116836号)のマイクロフィルム

2.被請求人の主張の概要
被請求人は,本件審判請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とする,との審決を求めている。
被請求人の主張の概要は以下のとおり。
・請求人による甲1発明の認定,本件特許発明1と甲1発明の対比,相違点の容易想到性の判断はいずれも誤っている。
・甲1発明の弾性変形可能なローラー1,101,102に係止するための構成として,甲2の1の変形しないモジュール130,140に係止するための構成である弾性変形可能とした突起205を有するラッチアームの構成を適用する動機付けは全くなく,むしろ阻害要因がある。

証拠方法
乙第1号証:平成30年(行ケ)第10048号判決
乙第2号証:平成30年(行ケ)第10049号判決

第4 当審の判断
1.甲第1号証乃至甲第6号証,甲第8号証乃至甲第10号証の記載事項
(1)甲第1号証
本件特許の原出願前に頒布された刊行物である甲第1号証(特開平2-104359号公報)には,「素肌用ローラー」に関し,図面とともに以下の事項が記載又は示されている(下線部は,当審にて付与した。以下同様。)。
ア.「【特許請求の範囲】
(1)複数の吸盤用凹部を配設した弾性材料から成るローラーを把持部に対して回転自在に取り付けることにより構成したことを特徴とする素肌用ローラー。
・・・
(5)複数の吸盤用凹部を配設した弾性材料から成るローラーを把持部に対して回転かつ着脱自在に取り付けることにより構成したことを特徴とする素肌用ローラー。
・・・
(9)ジメチルポリシロキサン,その他のシリコーンから成るローラー本体の外周面に複数の吸盤用凹部を配設した左右一対のローラーとこの左右一対のローラーを回転自在に支持する左右一対の回転軸を備える把持部とから構成したことを特徴とする素肌用ローラー。
・・・
(12)ジメチルポリシロキサン,その他のシリコーンから成るローラー本体の外周面に複数の吸盤用凹部を配設した左右一対のローラーとこの左右一対のローラーを回転かつ着脱自在に支持する左右一対の回転軸を備える把持部とから構成したことを特徴とする素肌用ローラー。
・・・」(特許請求の範囲)
イ.「〔産業上の利用分野〕
本発明は素肌の洗浄,マッサージ等に使用する素肌用ローラーに関するものである。」(2ページ左上欄18行?20行)
ウ.「〔発明が解決しようとする課題〕
従って,現在化粧料の作用効果に頼られている素肌美容の要望に答えるべく,本願発明に於いては,マツサージ効果に加えて,化粧料と併用使用により素肌に対する積極的な洗浄並びに活性作用を促すとともに小ジワのばし等の効果が得られ,さらに使用感の好適なる器具としての素肌用ローラーの提供を目的とするものである。
〔課題を解決するための手段〕
本発明素肌用ローラーは,複数の吸盤用凹部を配設した弾性材料から成るローラーを把持部に対して回転自在に取り付けることにより構成したことを特徴とする,また,かかる構成に於けるローラーの取り付け構造を回転かつ着脱自在に構成したことを特徴とするのが,その第2発明であり,さらに,ジメチルポリシロキサン,その他のシリコーンから成るローラー本体の外周面に複数の吸盤用凹部を配設した左右一対のローラーとこの左右一対のローラーを回転自在に支持する左右一対の回転軸を備える把持部とから構成したことを特徴とする第3発明に加えて,かかる第3発明の構成に於ける一対のローラーを把持部の左右一対の回転軸に対して回転かつ着脱自在に支持することにより構成したことを特徴とする第4発明とから成るものである。
〔作 用〕
本願発明の素肌用ローラーの構成に備える複数の吸盤用凹部が,かかる吸盤用凹部を備えるローラーの回転に伴って素肌に吸着しつつ取れにくかった古い角質や,汚れを浮き上がらせ,素肌の洗浄作用を発揮し,同時に,素肌に適度な刺激を与えて血液循環を促し,素肌に血液中の栄養分やエネルギーを行き渡らせて,新陳代謝作用を発揮する。」(2ページ右上欄8行?右下欄1行)
エ.「(第1実施例)
・・・
第1図において1は楕円球状のローラー本体2の外周面に複数の半球状の吸盤用凹部3を配設することにより形成したローラーで,このローラーlは把持部10の回転軸11に回転かつ着脱自在に装着されている。
また,第2図に示すようにローラー1のローラー本体2は側部中央部に回転軸11の挿入口4を開口するとともにローラー本体2の中心部に,前記挿入口4に連通する回転軸11の装入孔5を設けることによりシリコーンであるジメチルポリシロキサンにて一体に形成されている。
そして,前記回転軸11の装入孔5には回転軸11のツバ12を係合する環状の係合孔6を連通して設けてある。
さらに,前記把持部10は平板状の把持具13の先端部14に支持金具15を突設し,当該支持金具15に回転軸11を設けることにより構成されている。
そして,前記回転軸11は第3図に示すように支持金具15に支持軸16を取付けるとともにこの支持軸16に中空状の回転ロッド17を回転自在に装着することにより形成されている。
また,前記支持軸16は回転ロッド17の内径より小径の外径から成る軸本体18の先端部19に環状の係合溝20を穿設することにより一体に形成されるとともに前記回転ロッド17は,支持軸16の外径より大径の内径を有する中空状のロッド本体21とこのロッド本体21の先端部側に,外周方向間を三等分する位置に3本の長溝23(第3図においては1本の長溝のみを示す)をツバ12を突設した後端部側に向かって穿設することにより3枚の弾性片22を設け,さらに,各弾性片22の先端内周に支持軸16の係合溝20に係合する係合突起24を突設することにより形成されている。
尚,前記係合突起24の突設部分間の内径は支持軸16の外径より小径でかつ係合溝20の外径より若干大径である。
従って,前記回転ロッド17は,ロッド本体21のツバ12側の開口より支持軸16の先端部19を介して支持軸16に装入するとともに各弾性片22の係合突起24を支持軸16の先端部19を,弾性片22の弾性を利用して乗り越えさせた後,これを支持軸16の環状の係合溝20に係合することにより支持軸16に対して回転自在に装着することができ,かつその抜脱は,各弾性片22の係合突起24の係合溝20への係合により防止され,当該構成により回転軸11が構成されている。
そして,前記構成から成る把持部10の回転軸11をローラー1の挿入口4より装入孔5中に装入し,かつツバ12を装入孔5の係合孔6内に係合することによりローラー1を把持部10に対して回転かつ着脱自在に装着し,素肌用ローラー30を構成することができる。
尚,ローラーlの装入孔5の内径は回転軸11の回転ロッド17の外径より若干小径に形成されているがツバ12の外径は装入孔5の内径より大径であって,前記回転ロッド17の装入時にはツバ12の係合孔6への係合は,ローラーlの弾性を利用して挿入口4を強制的に拡開しつつ装入することができる。
また,上述してきた素肌用ローラー30の構成中,ローラーlはジメチルシロキサンにて一体に形成したが,ジメチルシロキサン以外のシリコーン,例えば一部にジフェニルシロキサンを共重合したりビニルメチルシロキサンを共重合したもの等のシリコーンにより一体に形成するか,その他の弾性を有する合成樹脂,合成ゴム等の弾性材料にて一体に形成することも可能である。
又,前記支持軸16,回転ロッド17の成形材料についてはテフロン樹脂,硬質ポリエチレン等の合成樹脂によりそれぞれ一体に成形することができる。
ローラー1の形状については,図示の楕円球状以外に円柱状,円錐状あるいはこれらに近似する形状等により形成することが可能であるとともに外周面に配設した吸盤用凹部3の形状については,図示の半球状以外に,半楕円球状,これらに近似する形状の凹部あるいは断面が多角形状等の任意の形状の凹部により形成して実施することが可能である。
さらに,把持部10の構成についても,回転軸11の前記構成に限定されず,ローラー1を回転自在に支持し得るに足る他の公知の構成を採用しつつ実施できるとともに把持具13には第1図に示す如く,先端部14の中央部に手指の係合用凹部26を設けることに加えて,把持具13の形状を,第5図a,bに示す如く,断面において楕円状の柱状体とするか,あるいは第6図a,bに示す如く,先端部14に至る程,細径にした丸棒状体とする等の構成を以て実施することが可能である。
また,把持部10に対してローラー1を回転かつ着脱自在に支持する構成については,図示の構成に限定されず,しかもローラー1は所期作用効果を得るにはこれを回転自在に支持することによっても実施可能である。
すなわち,ローラー1の装入孔5に係合孔6を設けるとともに回転軸11にツバ12を突設する構成に換えて,回転軸11のツバ12を突設せず,かつローラー1の装入孔5の内径を回転軸11の外径と略同一とし,装入孔5に対して回転軸11をローラー1の弾性作用を利用して強制的に装入することによりローラーlを回転軸11に装着するか,あるいはローラーlを回転軸11に対して接着剤等の固着手段によって固着したり,さらには,その他の取り付け手段を介してローラー1を回転軸11に取り付ける等の構成を挙げることができる。
以上の構成から成る素肌用ローラー30を使用する場合には,把持具13を手にて把持した後,身体の素肌部分,例えば顔面にローラー1を回転せしめつつ押圧して使用するものである。
しかして,ローラー1を回転せしめつつ吸盤用凹部3を配設された外周面が素肌に押圧されると各吸盤用凹部3が素肌に吸着しつつ回転することとなり,各吸盤用凹部3が素肌に吸着すると素肌の毛穴につまった皮脂や汚れを引き出したり,あるいは,古い角質や角質間の汚れを浮かせたり,肌表面に付着する汚れを浮かせて除去し易くし,前記ローラー1の使用に先き立って素肌にローションをつけてから使用することにより,洗浄をより効果的に行うことができるとともにローションの素肌への密着性が高まり保湿性がよく,マッサージ効果の向上を計ることができる。
また,前記使用を入浴中等に行うことにより,血管を刺激して,新陳代謝の働きをよくし,血行を促し,皮フ細胞に栄養を与えるとともに皮脂腺の働きをスムーズにし,皮脂腺の状態をコントロールする等の効果が得られ,さらには素肌に対するマッサージにより,単なるマッサージ効果に加えて小ジワのばし効果等を得ることができるものである。
特に,ローラー1をジメチルポリシロキサン,その他のシリコーンにより形成した場合には,耐薬品性,耐水性,耐久性に冨むとともに素肌に対して極めて怒触が良く,前記作用効果を,他の弾性材料に比較して効果的に得られるものである。」
(2ページ右下欄5行?4ページ左下欄13行)
オ.「(第2実施例)
第7図乃至第10図は本発明素肌用ローラーの第2実施例を示すもので,第7図は素肌用ローラーの分解斜視図,第8図は同組立平面図,第9図は一方のローラーの断面図,第10図は回転軸における支持軸と回転ロッドの拡大断面図である。
第2実施例の素肌用ローラー40は,第7,8図に示される通り,把持部100に対して左右一対のローラー101,102をそれぞれ回転かつ着脱自在に支持した構成と把持部100の支持金具150に対して連結部151を介して左右一対の回転軸110,111を設けるとともに前記左右一対のローラー101,102のローラー本体103,104の形状をそれぞれ円錐状に形成した構成を前記第1実施例と異にするものである。
しかして,把持部100の支持金具150は1本のピンを把持具13の先端部14に突設して成り,連結部151は円盤状の板体152から成りかつこの板体152の左右両側部に左右一対の回転軸110,111を構成する支持軸160,161を突設して一体に形成し,さらに前記連結部151の板体152を支持金具150の先端部に一体的に固着することにより構成されている。
また,左右一対のローラー101,102のローラー本体103,104の外周面には複数の半球状の吸盤用凹部3を配設するとともにローラー本体103,104の大径部側には,中央部に回転軸110,111の挿入口4を開口するとともにローラー本体103,104の中心部に,前記挿入口4に挿通する回転軸110,111の装入孔5を設けることによりジメチルポリシロキサンにて一体に形成され,かつ前記回転軸110,111の装入孔5には回転軸11のツバ12を係合する環状の係合孔6を連通して設けてある構成,並びに前記回転軸110,111を構成する支持軸160,161およびこれに回転自在に装着する回転ロッド17の構成については第1実施例と同様の構成から成るもので,同一構成部分については同一番号を付して,その構成の説明を省略する。
そこで,第7図示の各部分によって素肌用ローラー40を組み立てる場合には,回転ロッド17を第1実施例と同様の方法により,把持部100の支持軸160,161に回転自在に装着して,回転軸110,111を構成した後,かかる回転軸110,111に対して左右ローラ101,102を第1実施例と同様の方法により挿入口4より装入孔5に装入するとともにツバ12を係合孔6に係合して回転かつ着脱自在に装着することにより第8図示の素肌用ローラー40を構成することができる。
以上の構成から成る素肌用ローラー40における構成上,左右一対のローラー10l,102,回転軸110,111,把持部100の把持具13の各構成の設計変更事項については第1実施例における各部の構成に対する設計変更事項をそのまま通用することが可能で,それらの具体的な指摘と説明は省略する。
また,素肌用ローラー40の使用方法並びに作用効果についても第1実施例における説明に準じた使用方法並びに作用効果が得られ,特に第2実施例の素肌用ローラー40の構成から得られる使用上の特点は,必要に応じて左右一対のローラー101,102を両者同時にあるいはいずれか一方を使用する等の使用を可能ならしめ得る等の効果を有する。」
(4ページ右下欄2行?5ページ左下欄7行)

カ.上記エ.の下線部の記載事項からみて,ローラー1はシリコーン等により形成された弾性材料からなることが理解できる。

キ.上記エ.の下線部の記載事項,及び,第1図,第3図,第4図の図示内容からみて,支持金具15の先端部に取り付けた支持軸16,及び,支持軸16の基端から先端に回転可能に支持されたローラー1が理解できる。

ク.第1図?第3図の図示内容からみて,ローラー1は基端側にのみ挿入口4を有し,ローラー1は,その内部に支持軸16の先端が位置する非貫通状態で支持軸16に回転ロッド17を介して支持されていることが理解できる。

ケ.第3図からみて,回転ロッド17からはツバ12が突き出ていることが理解できる。

コ.上記エ.の下線部の記載事項,及び,第2図,第3図の図示内容からみて,ローラー1は内周にツバ12に係合可能な係合孔6の基端側の部分を有し,係合孔6の基端側の部分はツバ12の基端側に係止されることが理解できる。

そうすると,第1実施例に着目することにより甲第1号証に記載された発明(以下,「引用発明」という。)は以下のとおりであると認められる。
「把持具13の先端部14に突設した支持金具15と,支持金具15の先端部に取り付けた支持軸16と,
前記支持軸16の基端から先端に回転可能に支持されたローラー1とを備え,そのローラー1により身体の素肌に対する洗浄,マッサージ,小ジワのばし,新陳代謝作用等に使用する素肌用ローラー30において,
ローラー1は基端側のみ挿入口4を有し,ローラー1は,その内部に支持軸16の先端が位置する非貫通状態で支持軸16に回転ロッド17を介して支持されており,
回転ロッド17は,ローラー1の挿入口4とは反対側となる各弾性片22の係合突起24が,支持軸16の先端部19に穿設された環状の係合溝20に係合することにより回転ロッド17の支持軸16に対する抜脱は防止され,
回転ロッド17からは,ツバ12が突き出ており,
複数の吸盤用凹部を配設した弾性材料からなるローラー1は内周にツバ12に係合可能な係合孔6の基端側の部分を有し,係合孔6の基端側の部分はツバ12の基端側に係止される,
素肌用ローラー30。」

(2)甲第2号証の1
本件特許の原出願前に頒布された刊行物である甲第2号証の1(米国特許出願公開第2010/0191161号明細書)には,「EXERCISE APPARATUS」に関し,図面とともに以下の事項が記載又は示されている({}内は請求人による仮訳に準じたものである。)。
ア.「【0001】The present invention relates generally to physical exercise and, in particular, to an exercise apparatus.」
{【0001】 本発明は,包括的には,体操,特にエクササイズ器具に関する。}
イ.「【0018】The exercise apparatus according to the present invention may be configured as any suitable type of exercise apparatus. For example, the apparatus may be configured as a musculoskeletal treatment apparatus such as,・・・」
{【0018】本発明によるエクササイズ器具は,任意の好適なタイプのエクササイズ器具として構成することができる。例えば,器具は,例えばマッサージ器具等の筋骨格処置器具として構成することができ,}
ウ.「【0020】Regardless of the particular type of apparatus which the exercise apparatus is configured as, the apparatus can be configured by a user to suit their particular needs and requirements. For example, if the exercise apparatus is configured as a massage apparatus, the massage apparatus may be configured in a plurality of different ways to suit different people or so that it can be used to massage a particular part of a person's body.」
{【0020】エクササイズ器具が構成される器具の特定のタイプに関係なく,器具は,それらの特定の必要性及び要件に合うようにユーザによって構成することができる。例えば,エクササイズ器具がマッサージ器具として構成される場合,マッサージ器具は,様々な人々に合うように,又は,人の身体の特定の部分をマッサージするために使用することができるように,複数の様々な方法で構成することができる。}
エ.「【0068】FIG. 12 depicts a person using the exercise apparatus according to the first preferred embodiment of the present invention to simultaneously massage their upper thoracic spine and their upper trapezius and levator scapulae muscles;」
{【0068】【図12】自身の上部胸椎並びに自身の上部僧帽筋及び肩甲挙筋を同時にマッサージするように,本発明の第1の好ましい実施形態によるエクササイズ器具を使用する人を示す図である。}
オ.「【0116】Referring to FIG. 17 , a rod module 100 of an exercise apparatus according to a second preferred embodiment of the present invention is substantially cylindrical in shape.」
{【0116】図17を参照すると,本発明の第2の好ましい実施形態によるエクササイズ器具のロッドモジュール100が実質的に円筒形の形状である。}
カ.「【0119】A plurality of regularly spaced and parallel circular openings 106 extend laterally through the rod module 100 . Openings 106 are perpendicular to the opening 105 which extends through the module 100 . Also, openings 106 intersect the opening 105 .」
{【0119】複数の等間隔に離間した平行な円形開口106が,ロッドモジュール100を通って横方向に延びる。開口106は,モジュール100を通って延びる開口105に対して垂直である。また,開口106は開口105に交差する。}
キ.「【0133】A medium spherical ball module 140 of the multi-functional exercise apparatus according to the second preferred embodiment of the present invention is depicted in FIGS. 21 and 22 .」
{【0133】本発明の第2の好ましい実施形態による多機能エクササイズ器具の中間の球状のボールモジュール140が,図21及び図22に示されている。}
ク.「【0135】Module 140 includes a circular opening 141 which extends completely through the module 140 such that it passes through the centre of the module 140 . In addition, it includes a circular opening 142 which is perpendicular to the opening 141 , and which only extends into the module 140 until it intersects the opening 141 .
【0136】Apart from their lengths, openings 141 and 142 are identical to each other. Each opening 141 , 142 includes a narrower portion 143 which is recessed below a wider portion 144 . The narrower portion 143 includes four parallel and circumferentially spaced grooves 145 which extend into the narrower portion 143 from the wider portion 144 .」
{【0135】モジュール140は,モジュール140の中心を通るようにモジュール140を貫通する円形開口141を含む。加えて,モジュール140は,開口141に対して垂直であり,開口141に交差するまでモジュール140内のみに延びる円形開口142を含む。
【0136】開口141及び142は,それらの長さとは別に,互いに同一である。各開口141,142は,より幅広の部分144の下に凹んだより幅狭の部分143を含む。より幅狭の部分143は,より幅広の部分144からより幅狭の部分143内に延びる4つの平行な周方向に離間した溝145を含む。}
ケ.「【0151】FIG. 29 depicts a plug 200 which may be used to secure together two of the modules 100 , 120 , 130 , 140 in any combination. Plug 200 is fabricated from plastic and includes a circular flange 201 which is located between two cylindrical portions 202 . A respective narrower cylindrical portion 203 extends from each of the cylindrical portions 202 . Each of the narrower portions 203 includes a pair of diametrically opposed and resilient latch arms 204 . Each latch arm 204 includes a protrusion 205 which is located at the end of the arm 204 and which extends outwardly from the plug 200 . A circular opening 206 extends from one end of the plug 200 through to the other end of the plug 200 .」
{【0151】図29は,モジュール100,120,130,140のうちの2つを任意の組み合わせで一緒に固定するために使用することができるプラグ200を示している。プラグ200は,プラスチックから製造され,2つの円筒部分202間に位置付けられる円形のフランジ201を含む。それぞれのより幅狭の円筒部分203が,円筒部分202のそれぞれから延びる。より幅狭の部分203のそれぞれは,1対の直径方向に対向する弾性的なラッチアーム204を含む。各ラッチアーム204は,アーム204の端に位置付けられ,プラグ200から外方に延びる突起205を含む。円形開口206が,プラグ200の一端からプラグ200の他端まで延びる。}
コ.「【0152】Two modules 100 , 120 , 130 , 140 can be detachably secured together with the plug 200 by inserting each end of the plug 200 into a respective opening in each module. When the plug 200 is inserted into the openings, the narrower portions 203 of the plug 200 are received by the narrower portions of the openings, and the wider portions 202 of the plug 200 are received by the wider portions of the openings.」
{【0152】2つのモジュール100,120,130,140を,プラグ200の各端を各モジュールのそれぞれの開口に挿入することによって,プラグ200と一緒に着脱可能に固定することができる。プラグ200が開口に挿入されると,プラグ200のより幅狭の部分203は,開口のより幅狭の部分によって受け入れられ,プラグ200のより幅広の部分202は,開口のより幅広の部分によって受け入れられる。}
サ.「【0153】As the plug 200 is inserted into the openings, the narrower portions of the openings press against the projection 205 of each latch arm 204 so that the resilient latch arms 204 are moved towards each other. Once the plug 200 has been fully inserted into the openings, the projections 205 are received by latch recesses in the openings so that the latch arms 204 spring out to their original positions and interlock with the latch recesses. The latch arms 204 and the latch recesses are therefore able to inhibit the plug 200 from being unintentionally withdrawn from the openings in the modules.」
{【0153】プラグ200が開口に挿入されると,開口のより幅狭の部分が各ラッチアーム204の突起205に対して押圧されることで,弾性的なラッチアーム204が互いに向かって移動する。プラグ200が開口に完全に挿入されると,突起205は,ラッチアーム204がそれらの元の位置に跳ねてラッチ凹部と噛み合うように開口のラッチ凹部によって受け入れられる。ラッチアーム204及びラッチ凹部はしたがって,プラグ200がモジュールの開口から意図せず引き出されることを阻止することが可能である。}
シ.「【0155】Although the latch arms 204 and the latch recesses are able to inhibit the plug 200 from being unintentionally withdrawn from the openings, the plug 200 is nevertheless still able to rotate relative to the openings even when the latch arms 204 and the latch recesses are interlocked with each other.」
{【0155】ラッチアーム204及びラッチ凹部は,プラグ200が開口から意図せず引き出されることを阻止することが可能であるが,プラグ200は,それにもかかわらず,ラッチアーム204及びラッチ凹部が互いに噛み合う場合であっても開口に対して依然として回転することが可能である。}
ス.「【0160】FIG. 31 depicts a plug 220 which is similar to the plug 200 . For convenience, like features of the plugs 200 , 220 have been referenced using like reference numerals.
【0161】Plug 220 differs from plug 200 in that its narrower cylindrical portions 203 are longer than those of the plug 200 . Also, the cylindrical portions 203 of the plug 220 each include a plurality of grooves 204 .」
{【0160】図31は,プラグ200と同様のプラグ220を示している。便宜上,プラグ200,220の同様の特徴は,同様の参照符号を用いて言及されている。
【0161】プラグ220は,そのより幅狭の円筒部分203がプラグ200のより幅狭の円筒部分よりも長いという点でプラグ200とは異なる。また,プラグ220の円筒部分203は複数の溝204をそれぞれ含む。
セ.「【0162】
Unlike the cylindrical portions 203 of the plug 200 , the cylindrical portions 203 of the plug 220 are long enough so that when they are inserted into an opening of one of the modules 100 , 120 , 130 , 140 , they are able to block the other openings in the module which intersect that opening. Moreover, the additional length of the plug 220 means that it is better able to reinforce the apparatus which it forms a part of compared to the plug 200 .」
{【0162】プラグ200の円筒部分203とは異なり,プラグ220の円筒部分203は,モジュール100,120,130,140のうちの1つの開口に挿入されるときに,その開口に交差するモジュールの他の開口を塞ぐことが可能であるように十分に長い。さらに,プラグ220の付加的な長さは,プラグ200と比較して,一部を形成する器具を補強することがより良く可能であることを意味する。}
ソ.「【0165】Referring to FIG. 33 , a locking pin 240 of the multi-functional exercise apparatus according to the second preferred embodiment of the present invention includes an elongate cylindrical shaft 241 . Shaft 241 includes a first portion 242 , a second portion 243 , and a third portion 244 . A substantially flat plastic head 245 is over-moulded with the third portion 244 of the shaft 241 .
【0166】The diameter of the first portion 242 of the shaft 241 of the locking pin 240 is slightly less than the diameter of the openings which extend through the modules 100 , 120 , 130 , 140 and the plugs 154 , 200 , 210 , 220 and 230 so that the shaft 241 is able to be inserted through those openings.」
{【0165】図33を参照すると,本発明の第2の好ましい実施形態による多機能エクササイズ器具のロックピン240が,細長い円筒シャフト241を含む。シャフト241は,第1の部分242,第2の部分243及び第3の部分244を含む。実質的に平坦なプラスチックヘッド245が,シャフト241の第3の部分244とオーバーモールドされる。
【0166】ロックピン240のシャフト241の第1の部分242の直径は,モジュール100,120,130,140及びプラグ154,200,210,220及び230を通って延びる開口の直径よりも僅かに小さいため,シャフト241は,それらの開口を通して挿入されることが可能である。}
タ.「【0168】When the shaft 241 of the locking pin 240 is inserted into a plug 154 , 200 , 210 , 220 or 230 which has itself been inserted into an opening in one of the modules 100 , 120 , 130 , 140 , the shaft 241 is able to prevent the latch arm of the plug from disengaging with the latch recess of the module opening. By preventing the latch arm from disengaging with the latch recess, the locking pin 240 is able to prevent, or at least further inhibit, the plug from being unintentionally removed from the opening. The locking pin is therefore particularly suitable for use where the apparatus is subjected to relatively high torsion loads which may increase the risk of unintentional disengagement of the latch arm from the latch recess which could lead to the plug being unintentionally withdrawn from the module opening.
【0169】FIG. 34 depicts the locking pin 240 when its shaft 241 has been inserted into the medium ball module 140 through one end of the opening 141 , and into the opening 206 of the plug 200 which itself has been inserted into the other end of the opening 141 so that it is secured relative to the module 140 .」
{【0168】ロックピン240のシャフト241が,モジュール100,120,130,140のうちの1つの開口にそれ自体が挿入されたプラグ154,200,210,220又は230に挿入されると,シャフト241は,プラグのラッチアームがモジュールの開口のラッチ凹部と離脱することを防止することが可能である。ロックピン240は,ラッチアームがラッチ凹部と離脱することを防止することによって,プラグが開口から意図せず取り外されることを防止するか又は少なくとも更に阻止することが可能である。ロックピンはしたがって,プラグがモジュールの開口から意図せず引き出されることにつながり得るラッチ凹部からのラッチアームの意図しない離脱のリスクを高める可能性がある比較的高い捩り荷重に器具が晒される使用に特に好適である。
【0169】図34は,ロックピン240のシャフト241が,開口141の一端を通して中間のボールモジュール140に,及び,モジュール140に対して固定されるようにそれ自体が開口141の他端に挿入されているプラグ200の開口206に挿入されているときのロックピン240を示している。}
チ.「【0170】The protrusions 205 of the latch arms 204 of the plug 200 which are received by the opening 141 are each received by a latch recess 250 located inside the opening 141 so that the plug 200 is thereby inhibited from being withdrawn from the opening 141 . The shaft 241 of the locking pin 240 prevents the latch arms 204 from being pushed towards each other to remove the protrusions 205 from the latch recesses 250 . The latch arms 204 can only be moved in the aforementioned manner once the locking pin 240 is removed from the plug 200 .」
{【0170】開口141によって受け入れられるプラグ200のラッチアーム204の突起205は,開口141内に位置付けられるラッチ凹部250によってそれぞれ受け入れられるため,プラグ200はそれによって,開口141から引き出されることが阻止される。ロックピン240のシャフト241は,ラッチアーム204が互いに向かって押されて突起205をラッチ凹部250から取り外すことを防止する。ラッチアーム204は,ロックピン240がプラグ200から取り外されると,上述したように専ら移動することができる。}

ツ.上記記載事項ケ.に,「図29は,モジュール100,120,130,140のうちの2つを任意の組み合わせで一緒に固定するために使用することができるプラグ200を示している。」なる記載があり,かつ,上記記載事項サ.に,「プラグ200が開口に挿入されると,開口のより幅狭の部分が各ラッチアーム204の突起205に対して押圧されることで,弾性的なラッチアーム204が互いに向かって移動する。プラグ200が開口に完全に挿入されると,突起205は,ラッチアーム204がそれらの元の位置に跳ねてラッチ凹部と噛み合うように開口のラッチ凹部によって受け入れられる。」なる記載が,上記記載事項シ.に,「ラッチアーム204及びラッチ凹部が互いに噛み合う場合であっても開口に対して依然として回転することが可能である」なる記載があることより,モジュール140がプラグ200に回転可能に支持されることが理解できる。
テ.上記記載事項ケ.には,「図29は,・・・プラグ200を示している。プラグ200は,・・・円形のフランジ201を含む」なる記載があり,また,図29を考慮するに,フランジ201が,ラッチアーム204の基端側にあることは明らかである。
ト.上記記載事項ケ.には,「図29は,・・・プラグ200を示している。プラグ200は,・・・2つの円筒部分202間に位置付けられる円形のフランジ201を含む。それぞれのより幅狭の円筒部分203が,円筒部分202のそれぞれから延びる。より幅狭の部分203のそれぞれは,1対の直径方向に対向する弾性的なラッチアーム204を含む。各ラッチアーム204は,アーム204の端に位置付けられ,プラグ200から外方に延びる突起205を含む。」なる記載があり,また,図29を考慮するに,ラッチアーム204の突起205は,先端側に向かうほどプラグ200におけるモジュール130,140の回転中心との距離が短くなる斜面を有していることは明らかである。
よって,これらの記載から,ラッチアーム204の突起205は先端側に向かうほどプラグ200におけるモジュール140の回転中心との距離が短くなる斜面を有することが理解できる。
ナ.上記記載事項タ.に,「図34は,ロックピン240のシャフト241が,開口141の一端を通して中間のボールモジュール140に,及び,モジュール140に対して固定されるようにそれ自体が開口141の他端に挿入されているプラグ200の開口206に挿入されているときのロックピン240を示している。」なる記載が,上記記載事項チ.に,「開口141によって受け入れられるプラグ200のラッチアーム204の突起205は,開口141内に位置付けられるラッチ凹部250によってそれぞれ受け入れられる」なる記載があり,また,図34を考慮するに,モジュール140が,内周に,ラッチアーム204の突起205を受け入れるラッチ凹部250を有することが理解できる。
ニ.上記記載事項サ.に,「プラグ200が開口に完全に挿入されると,突起205は,ラッチアーム204がそれらの元の位置に跳ねてラッチ凹部と噛み合うように開口のラッチ凹部によって受け入れられる。ラッチアーム204及びラッチ凹部はしたがって,プラグ200がモジュールの開口から意図せず引き出されることを阻止することが可能である。」とあり,ラッチアーム204の突起205と,ラッチ凹部250とが,噛み合うことが理解できる。
ヌ.図34によれば,モジュール140の内周側において,ラッチ凹部250の基端側が段差状となっており,その段差状部分が,ラッチアーム204の突起205とフランジ201との間に,配置されていることが看て取れる。よって,図34より,モジュール140が,内周に段差部を有すること,及び,突起205とフランジ201との間に段差部が配置されることが理解できる。
ネ.上記認定事項ニ.のとおり,ラッチアーム204の突起205とラッチ凹部250とは噛み合うものであり,かつ,上記認定事項ヌ.のとおり,ラッチ凹部250の基端側に段差部があることより,当該段差部は,突起205と係合可能であり,突起205の基端側に係止されるものとなっていることは明らかである。

上記記載事項ア.ないしチ.及び上記認定事項ツ.ないしネ.を,図面を参照しつつ技術常識を踏まえて整理すると,甲第2号証の1には,以下の事項(以下,「甲第2号証の1記載事項」という。)が記載されていると認められる。
「プラグ200を介して,モジュール140を回転可能に支持するマッサージ器具であって,
プラグ200は,外方に延びる突起205を含む弾性的なラッチアーム204を含むと共に,ラッチアーム204の基端側にフランジ201を有しており,突起205は,先端側に向かうほどプラグ200におけるモジュール140の回転中心との距離が短くなる斜面を有し,
モジュール140は,内周に,ラッチアーム204の突起205の基端側に係止される段差部を有し,前記段差部は,前記突起205の基端側に係止されるとともに,前記突起205と前記フランジ201との間に配置される,マッサージ器具。」

(3)甲第3号証
本件特許の原出願前に頒布された刊行物である甲第3号証(登録実用新案第3036898号公報)には,「つぼ健康具」に関し,図面とともに以下の事項が記載又は示されている。
ア.「【0001】
【考案の属する技術分野】
本考案は,つぼを指圧したり,マッサージしたり,磁気治療を行うためのつぼ健康具に関し,特に簡単な構成で優れた治療効果をもたらすつぼ健康具に関するものである。」
イ.「【0011】
【考案の実施の形態】
以下,本考案の実施例を図面に基づいて説明する。
図1は,本考案のつぼ健康具の一例を示す説明図で,同図(a)は平面図,同図(b)は正面図,同図(c)は底面図であり,図2は細部説明図である。
先ず,図1に基づいて全体の構成を説明すると,1はつぼ健康具,2はその胴部,3は頭部,4は脚部,5及び6は磁石である。
胴部2は,水平断面がほぼ円形の棒状体であり,両端部には,縮径されて滑らかな曲面21,22が形成されている。太さは手のひらで容易に把持しうる程度のものであればよい。
【0012】
頭部3は,ほぼ球状をなしており,前記胴部2の一方(図示例では上方)の端面に回転可能に設けられている。ここで,ほぼ球状とは,水平断面がほぼ円形,垂直断面がほぼ円形,楕円形又はこれに近い形状のものをいい,上部を一部平面状にしたものも含まれる。頭部3の直径が最も大きくなる回転円周上に,図示例では5個の磁石5が埋設されているが,磁石の個数はこれに限定されるものではない。
また,脚部4は,水平断面がほぼ円形の棒状体であり,前記胴部の他方(図示例では下方)の端面に回転可能に設けられている。脚部の下端44は縮径されて,ほぼ半球状に形成され,その先端部に磁石6が埋設されている。
【0013】
次に,図2に基づいて,細部構造を説明する。
頭部3を取り付ける胴部2の上端部には,凸部23と,タッピングねじ36を螺入するためのねじ穴24が設けられ,脚部を取り付ける下端部には,凹部25とタッピングねじ46を螺入するためのねじ穴26が設けられている。
【0014】
頭部3には,中心軸と同心状に中空円筒状のブッシュ30を装着する穴33が下方に開口するよう穿設されている。穴33の内径はブッシュ30が圧入可能なようにブッシュ30の外径とほぼ等しくするが,その下端開口部34の内径はそれよりも少し大きくするのが好ましい。これは,胴部2の上方端面に設けられた凸部23の外径がブッシュ30の外径とほぼ等しいので,凸部23とブッシュ30とが接触状態になったときでも,頭部3の回転時に頭部3の下端37が凸部23に接触するのを防ぐためである。
磁石5は,円柱状の基部5bに接着剤を付して前記穴34に埋設され,接着される。そして,磁石5の先端は,ほぼ半球状をなし前記回転円周面から突出して指圧用の磁気突子5aを形成する。
【0015】
頭部3の胴部2への取り付け構造は次のとおりである。
ブッシュ30の中空孔32にタッピングねじ36が挿入され,タッピングねじ36のねじ部36aが胴部2のねじ穴24に螺入される。そして,外周に接着剤を塗布されたブッシュ30が頭部3の穴33に圧入される。圧入の際,接着剤の過剰分の一部はブッシュ30のほぼ中央に設けられたリング状の凹溝31に貯溜され,この部分で接着がより確実なものになる。ブッシュ30の中空穴32の内径はタッピングねじの外径よりもやや大きくしてあるので,頭部3はブッシュ30とともにタッピングねじ36の周りに回転可能に軸支される。」
ウ.上記記載事項からみて,甲第3号証のつぼ健康具は,頭部3をタッピングねじ36に回転可能に支持した器具であり,頭部3を用いて,マッサージを行う器具であることが理解できる。
そして,上記記載事項及び図2の図示内容からみて,タッピングねじ36は,基端において胴部2に螺合して抜け止め固定されていること,及びタッピングねじ36の先端側に回転可能に支持された頭部3とを備えることが理解できる。

そうすると,甲第3号証には,以下の事項が記載されているといえる。
「基端において胴部2に螺合して抜け止め固定されたタッピングねじ36と,タッピングねじ36の先端側に回転可能に支持された頭部3とを備え,その頭部3によりマッサージを行うつぼ健康具。」

(4)甲第4号証
本件特許の原出願前に頒布された刊行物である甲第4号証(登録実用新案第316602号公報)には,「マッサージローラー」に関し,図面とともに以下の事項が記載又は示されている。
ア.「【技術分野】
【0001】
本考案は,マッサージローラーの構造に関し,特にY字形のマッサージローラーの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
中国医学では既に人体に分布し,各器官を反映するツボの存在を証明している。手や道具を使って人体にあるツボを押す,或いは人体の器官が痛みを感じる部分に対応するツボを押すことで,強く健康的な体を作り,美容や保健の目的に達するため,頻繁にツボマッサージをするのは,血液循環を促進し,新陳代謝を速め,元気を回復し,疲れを取り,ストレスを軽くする,ダイエットできるなど,素晴らしい効果をもたらす。」
イ.「【0007】
最良実施例として,各ローラーは接続部品,内柱,二つのベアリング,軸受及び,外カバーを具有し,各ローラー3の接続部品31は球状ヘッド22を通じて互いに嵌合して固定する。また,接続部品31はハンドル2の軸を中心とするある角度に開いて,該二つのベアリング33をそれぞれ軸受34の両端に設置し,且つ二つのベアリング33と軸受34を同時に接続部品31の外側に套設する。該内柱32をしっかりと二つのベアリング33及び軸受34の外側に套設し,外カバー35の中に,しっかりと内柱32を嵌合することで,二つのベアリング33,外カバー35及び内柱32が回転可能の構造となる。該ローラーの外カバーの表面に若干の磁石を嵌め込む。」
ウ.上記記載事項と図2,図4の図示内容からみて,接続部品31は,軸受34と二つのベアリング33を介してローラー3を回転可能に支持している支持軸として機能し,各ローラー3の接続部品31はハンドル2の一端の球状ヘッド22に固定されることが理解できる。
そうすると,甲第4号証には,以下の事項が記載されているといえる。
「ハンドル2の一端の球状ヘッド22に接続部品31を固定して,ローラー3を接続部品31に回転可能に支持させたマッサージローラー。」

(5)甲第5号証
本件特許の原出願前に頒布された甲第5号証(国際公開第2011/004627号)には,「美容器」に関し,図面とともに以下の事項が記載又は示されている。
ア.「【技術分野】
【0001】
この発明は,回転可能なローラを人体上を転動させることにより,美肌効果等の美容効果を得る美容器に関する。」
イ.「【0018】
図1?図3に示すように,この実施形態の美容器11は,平面形状が略Y字状をなすハンドル12を備えており,このハンドル12は,使用者の手によって把持される棒状の把持部12bと,この把持部12bの先端に形成された二叉部12aとを有している。ハンドル12は,合成樹脂よりなる電気絶縁の芯材13と,一対の外装カバー14とから構成されている。外装カバー14,15は,合成樹脂材料より形成され,芯材13の外周に被覆されて複数のネジ16により同芯材13に固定されている。外装カバー14,15の外表面には,導電金属メッキが施されている。ここで,外装カバー14,15の外壁は,ハンドル12の導電部を構成している。
【0019】
図1及び図4に示されるように,前記ハンドル12の芯材13において二叉部12aに対応する部分には,一対のローラ支持軸17が設けられている。これらのローラ支持軸17の基端部(図4の右側の端部)は芯材13の中心部に形成された空間に嵌入され,同ローラ支持軸17の先端部(図4の左側の端部)は,二叉部12aから突出している。なお,図4において,ローラ支持軸17は,切断されていない状態で示されている。こうした構造により,これらのローラ支持軸17は,外装カバー14,15と接触しない離間状態で芯材13の先端部に支持されており,ハンドル12の外表面の導電金属メッキとローラ支持軸17とは,電気的に絶縁されている。ローラ支持軸17は金属材料により形成され,その両端部にはネジ部17aが形成されている。
【0020】
図1及び図4に示すように,前記両ローラ支持軸17には,円筒状をなすローラ18がそれぞれ各一対の軸受19を介して回転可能に支持されている。これらの軸受19は,磁性のある金属材料により構成されている。ローラ支持軸17の先端のネジ部17aには,ローラ18がローラ支持軸17から抜けることを防止するための雌ネジ部材20が螺合されている。各ローラ18は,合成樹脂よりなり,その外周面及び内周面に導電金属材料よりなる導電メッキが施されている。ここで,両ローラ18の内外両壁は,同ローラ18の導電部を構成している。」

そうすると,甲第5号証に以下の事項が記載されているといえる。
「ハンドル12の二叉部12aに形成された空間に,ローラ支持軸17の基端部を嵌入し,ローラ18を前記二叉部12aから突出したローラ支持軸17の先端部にそれぞれ一対の軸受19を介して回転可能に支持された美容器。」

(6)甲第6号証
甲第6号証(平成30年(行ケ)第10048号準備書面(2))には,被請求人自身が本件特許発明1における回転体には「キャップ材29」が含まれることを認めていることを示す記載がある。

(7)甲第8号証乃至甲第10号証
(7-1)甲第8号証(実願平1-43088号(実開平2-135026号)のマイクロフィルムには,以下の記載がある。
・「【実用新案登録請求の範囲】
1.ローラー(回転部)とその支持棒とより成り,ローラー表面を皮膚に圧接しつつ支持棒を操作することにより圧接個所を連続的に移動せしめ,以て皮膚にマツサージ効果を与える美容器具において,前記ローラーの内側に発熱機構を組込むことにより,使用時ローラーから赤外線を放射すること,およびまたは該ローラー表面の一部または全部に互いに導電接続した異なる標準単極電位を有する2種類の導電性鉱物の薄膜を,ローラー使用時に皮接する如く形成したことを特徴とする美容ローラー。」
・「[産業上の利用分野]
本考案は肌にリフレッシュ効果を与える美容ローラーに関する。
[従来の技術]
肌をマッサージすることによって皮膚の新陳代謝を活性化させ,皮膚のリフレッシュを促す美容術は古くから行われてきたが,近年特に女性向けにポータブルで使いやすい小型の美容ローラーが市販されている。この美容ローラーは,円筒状のローラー(内部に回転機構を含む)とその支持棒とから成り,ローラーの円筒面を皮膚に圧接しつつ支持棒を操作することによりローラーを連続的に往復移動させて皮膚をマッサージするものである。」

(7-2)甲第9号証(実願平2-403503号(実開平8-159号)のCD-ROM)には,以下の記載がある。
・「【実用新案登録請求の範囲】
【請求項1】 軸ハンドルの先端に磁性転動ローラを着脱自在に設けたことを特徴とする磁気転動式健康美容器具。」
・「【0001】
【産業上の利用分野】
本考案は,磁気転動式の健康美容器具に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来,この種の美容ローラは,回転するローラ部分が金属製であり,しかもハンドルとローラは,回転可能に設けられているが,両者は分離できるものではなく非分離の状態で組み込まれているのが実情である。」

(7-3)甲第10号証(実願平2-26603号(実開平3-116836号)のマイクロフィルム)には,以下の記載がある。
・「【実用新案登録請求の範囲】
(1) 先端が丸みを帯びた多数の突起を有する金属製のローラーを,棒状の柄の一端に長さ方向に固着した軸に回転自在に取り付けたことを特徴とする美容ローラー。」
・「[産業上の利用分野]
本考案は,顔面をはじめとする皮膚を活性化した美容効果をもたらすローラーに関する。」

(7-4)小括
甲第8号証乃至甲第10号証からみて,従来より回転体を用いて,ツボを刺激したり磁気の効果を期待するマッサージローラは,美容器であるとされている。

2.本件特許発明1と引用発明との対比判断
(1)本件特許発明1と引用発明とを対比する。
引用発明の「把持具13」は本件特許発明1の「ハンドル」に相当し,以下同様に,「ローラー1」は「回転体」に,「素肌用ローラー30」は「美容器」に,「挿入口4」は「穴」に,「回転ロッド17」は「軸受け部材」に,「係合孔6の基端側の部分」は「段差部」に,それぞれ相当する。
引用発明における支持軸16と支持金具15は一体化されており,機能的にみれば当該「支持軸16及び支持金具15」は併せて本件特許発明1の「支持軸」に相当するといえる。
引用発明の「ローラー1により身体の素肌に対する洗浄,マッサージ,小ジワのばし,新陳代謝作用等に使用する素肌用ローラー30」は本件特許発明1の「回転体により身体に対して美容的作用を付与するようにした美容器」に相当する。
引用発明の「把持具13の先端部14に突設した支持金具15と,支持金具15の先端部に取り付けた支持軸16と」と,本件特許発明1の「基端においてハンドルに抜け止め固定された支持軸と」とは,「基端においてハンドルに固定された支持軸と」において共通する。
引用発明の「支持軸16の基端から先端」は,支持軸16及び支持金具15を一体としたものの先端側といえるから,引用発明の「前記支持軸16の基端から先端に回転可能に支持されたローラー1とを備え」ることは,本件特許発明1の「前記支持軸の先端側に回転可能に支持された回転体とを備え」ることに相当する。
引用発明の「回転ロッド17は,ローラー1の挿入口4とは反対側となる各弾性片22の係合突起24が,支持軸16の先端部19に穿設された環状の係合溝20に係合することにより回転ロッド17の支持軸16に対する抜脱は防止され」ることは,本件特許発明1の「軸受け部材は,前記回転体の穴とは反対側となる先端で支持軸に抜け止めされ」ることに相当する。
引用発明の「回転ロッド17からは,ツバ12が突き出て」いることと,本件特許発明1の「前記軸受け部材からは弾性変形可能な係止爪が突き出」ていることとは,「前記軸受け部材からは突出部が突き出」ていることにおいて共通する。
引用発明の「複数の吸盤用凹部を配設した弾性材料からなるローラー1は内周にツバ12に係合可能な係合孔6の基端側の部分を有し,係合孔6の基端側の部分はツバ12の基端側に係止される」ことと,本件特許発明1の「前記回転体は内周に前記係止爪に係合可能な段差部を有し,前記段差部は前記係止爪の前記基端側に係止されるとともに前記係止爪と前記鍔部との間に位置すること」とは,「前記回転体は,内周に前記突出部に係合可能な段差部を有し,前記段差部は前記突出部の基端側に係止される」ことにおいて共通する。
以上のことから,両者は,
「基端においてハンドルに固定された支持軸と,
前記支持軸の先端側に回転可能に支持された回転体とを備え,その回転体により身体に対して美容的作用を付与するようにした美容器において,
前記回転体は基端側のみ穴を有し,回転体は,その内部に前記支持軸の先端が位置する非貫通状態で前記支持軸に軸受け部材を介して支持されており,
前記軸受け部材は,前記回転体の穴とは反対側となる先端で支持軸に抜け止めされ,
前記軸受け部材からは,突出部が突き出ており,
前記回転体は内周に前記突出部に係合可能な段差部を有し,前記段差部は前記突出部の基端側に係止される,
美容器。」
の点で一致し,以下の各点で相違する。
<相違点1>
基端においてハンドルに固定される支持軸の「固定」について,本件特許発明1では,「抜け止め固定」されるのに対して,引用発明では,突設(固定)されているものの,抜け止めされているかは特定されていない点。
<相違点2>
本件特許発明1では,「軸受け部材からは弾性変形可能な係止爪が突き出るとともに,軸受け部材は係止爪の基端側に鍔部を有しており,同係止爪は先端側に向かうほど軸受け部材における回転体の回転中心との距離が短くなる斜面を有し,前記回転体は内周に前記係止爪に係合可能な段差部を有し,前記段差部は前記係止爪の前記基端側に係止されるとともに前記係止爪と前記鍔部との間に位置する」のに対して,引用発明では,回転ロッド17(軸受け部材)は,係止手段としてのツバ12は備えるものの,ツバ12が弾性変形可能か否かは不明であって,且つ,ツバ12は「先端側に向かうほど軸受け部材における回転体の回転中心との距離が短くなる斜面を有」する「係止爪」ではなく,回転ロッド17(軸受け部材)は「係止爪の基端側」の「鍔部」も有さず,「回転体は内周に前記係止爪に係合可能」ではなく,「係止爪の前記基端側に係止されるとともに前記係止爪と前記鍔部との間に位置する」「段差部」も備えない点。
(2)容易想到性の判断
(2-1)相違点2についての検討
事案に鑑みて,相違点2について先に検討する。
ア.「1(2)」に記載したとおり,甲第2号証の1には,甲第2号証の1記載事項が記載されているといえる。
イ.甲第2号証の1のロックピン240は,そのシャフト241がプラグ200に挿入されて,プラグのラッチアーム204がモジュールのラッチ凹部と離脱するのを防止するものであって(前記1(2)ソ.?チ.),本件特許発明1の回転体に相当するモジュールを回転可能に支持するものではないから,これをもって本件特許発明1の「支持軸」に相当する部材ということはできない。
そうすると,甲第2号証の1のプラグ200は,フランジ201を有し,且つ,ラッチアーム204に突起205を有する点で,本件特許発明1の軸受け部材に類似する構成を有するものといい得るものの,段落【0151】,【0152】に記載されるように,プラグ200は,それ自体が2つのモジュールを固定するものであって,軸と回転体との間に介在することで回転体を軸に対して回転自在に支持する軸受け部材として機能するものではない。
また,甲第2号証の1には,ロックピン240を挿入することで,プラグ200のラッチアーム204の突起205がモジュール140の開口のラッチ凹部から離脱するのを防止すること,モジュール140を取り外す際には,ロックピン240を取り外してからラッチアーム204の突起205のラッチ凹部との係合を解除し,モジュール140を取り外す必要があること(前記1(2)ソ.?チ.),モジュール140の先端側には,ロックピン240を挿入するための開口が必要とされること(前記1(2)キ.ク.ソ.?チ.)が記載されていることから,ロックピン240が挿入されるプラグ200は,非貫通状態の回転体を支持するために用いることを想定しているとはいえない。
してみれば,軸受け部材を用いて軸に対して非貫通状態の回転体を支持する際に,回転体の内面に段差部を設けるとともに,軸受け部材には当該段差部に係止する係合爪を用いる構成は,甲第2号証の1には,示されていない。
ウ.以上のとおり,甲第2号証の1のプラグ200は,それ自体が2つのモジュールを固定するものであり,ロックピン240を挿入することで,プラグ200のラッチアーム204の突起205がモジュール140の開口のラッチ凹部から離脱するのを防止するものであって,軸と回転体との間に介在することで,回転体を非貫通状態で軸に対して回転自在に支持する軸受け部材として機能するものではないから,そもそも引用発明の支持軸16とローラー1との間に配置され,軸受け部材として機能する回転ロッド17をプラグ200に置き換える動機付けは存在しない。また,仮に,引用発明の支持軸16に支持される回転ロッド17をプラグ200に置き換えた場合,プラグ200の内部に支持軸16が挿入された状態となることで,ロックピンを挿入した場合と同様に,プラグのラッチアームがラッチ凹部と離脱するのを防止するよう,ラッチアームの内方への移動が固定されてしまい,ローラー1を装着する際に,ラッチアームが意味をなさないこととなる。このため,引用発明の回転ロッド17を,あえて,回転ロッド17のツバ12に対して複雑な構成であるラッチアームを有するプラグに置き換える動機付けはない。仮に,回転ロッド17のツバ12に甲第2号証の1のラッチアームを適用することができたとしても,さらに鍔を甲第2号証の1から適用した上で,ローラー1側にラッチアームと鍔の間との間の段差部を形成するような構成に変更する必要があるから,そのような構成に変更することにより,相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは,当業者といえども容易なことではない。
エ.以下の(ア)?(ウ)のとおり,引用発明における回転ロッド17のツバ12の技術的な意義と,甲第2号証の1記載事項における突起205を含む弾性的なラッチアーム204の技術的な意義は全く異なっており,引用発明に甲第2号証の1記載事項における突起205を含む弾性的なラッチアーム204を適用する動機付けはなく,阻害要因も存在する。
(ア)引用発明における回転ロッド17のツバ12の技術的意義
引用発明では,回転ロッド17のツバ12をローラー1の係合孔6の基端側の部分(段差部)に係止するには,弾性材料からなる弾性変形可能なローラー1を変形させればよく,回転ロッド17のツバ12は変形する必要がない。
したがって,引用発明の回転ロッド17のツバ12は,それ自身が変形することなく,弾性可能なローラー1を係止できるという技術的な意義を有する。
(イ)甲第2号証の1記載事項における,突起205を含む弾性的なラッチアーム204の技術的意義
モジュール140のラッチ凹部とプラグ200の突起205を有するラッチアーム204との係止にあたって,モジュール140側は変形せず,モジュール140の開口141にプラグ200を挿入する際にプラグ200の突起205が干渉しないよう,突起205を含むラッチアーム204を弾性変形可能としたものである。
すなわち,甲第2号証の1の係止構成は,モジュール140が変形しないことを前提とし,プラグ200において突起205を含むラッチアーム204を弾性変形可能としたものである。
したがって,甲第2号証の1における突起205を含む弾性的なラッチアーム204は,自らが弾性変形することにより,変形しないモジュール140の開口141,142内に,ラッチアーム204が形成されているプラグ200を挿入し,ラッチ凹部に係止するという技術的意義を有する。
(ウ)引用発明への甲第2号証の1記載事項(突起205を含む弾性的なラッチアーム204)の適用が容易ではない具体的理由について
a.動機付けの不存在
引用発明は,ローラー1の取り付け時に,ローラー1が弾性変形し,これに係止する回転ロッド17のツバ12が変形する必要がないのに対して,甲第2号証の1記載事項は,モジュール140の取り付け時に,モジュール140が変形せず,これに係止する突起205を含むラッチアーム204が弾性変形可能な構成としたものである。
このため,引用発明の弾性変形可能なローラー1に係止するための構成として,甲第2号証の1記載事項の(変形しないモジュール140に係止するための構成である)突起205を含む弾性変形可能なラッチアーム204の構成を適用する動機付けは存在しない。
b. 阻害要因の存在
(a)仮に,引用発明の回転ロッド17のツバ12に,甲第2号証の1記載事項の「突起205を含むラッチアーム204を弾性変形可能とした構成」を適用すると以下の問題点が存在し,その適用には阻害要因が存在することは明らかである。
(b)まず,甲第2号証の1記載事項のプラグ200におけるラッチアーム204の突起205は,モジュール140とプラグ200との係止を目的としたものであり,ラッチアーム204が弾性変形可能となっているのは,ロックピン240を挿入する前に,変形しないモジュール140の開口141,142と,プラグ200,220のラッチアーム204との干渉を防止するためである。
そうすると,仮に,引用発明の回転ロッド17のツバ12に,甲第2号証の1記載事項の「突起205を含むラッチアーム204を弾性変形可能とした構成」を採用すると,ラッチアーム204の弾性はローラー1よりも柔らかく(変形しやすく)構成する必要がある。(逆に,ラッチアーム204の弾性をローラー1より硬く(変形しにくく)構成すれば,ラッチアーム204とローラー1とが接触した場合には,ローラー1が変形するため,ラッチアーム204を弾性変形可能に構成する意味がない。)
(c)しかし,引用発明のローラー1は,それ自体が弾性変形可能であり,しかもその弾性は,ローラー1の表面に形成された吸盤用凹部3が素肌に吸着する(甲第1号証4ページ右上欄4?末行)程度に柔らかいものである。
(d)そして,このローラー1よりもさらに柔らかい(変形しやすい)ラッチアーム204を引用発明に設けても,ロックピン240が挿入される前においては,ローラー1に抜け方向の荷重が作用した場合には,ラッチアーム204は簡単に弾性変形し,あるいはローラー1自身の段差部(突起205に係止する部分)も弾性変形して,ローラー1は容易に突起205を乗り越えて回転ロッド17から抜けやすくなる。
(e)したがって,引用発明の回転ロッド17に「突起205を有するラッチアーム204を弾性変形可能とした構成」を設けても,ロックピン240が挿入される前においては係止という機能を果たさないおそれがあることから,係止という機能を果たさないおそれがある構成を当業者が採用することはありえず,阻害要因が存在する。
オ.請求人の具体的主張に対する反論
(ア)動機付けについて
a.請求人は,相違点2につき,甲第2号証の1の係止構成を引用発明に適用する動機付けの理由として,甲第1号証に回転ロッド17以外の他の取り付け手段を用いても良いとの記載があること,甲第2号証の1のプラグは,マッサージに用いる回転体を支持軸を中心に回転させるための部材であり,甲第1号証の回転ロッド17と同様の用途に用いられること,また,非貫通の回転体に用いる点でも共通することから,組み合わせの動機付けがある旨主張する(審判請求書40ページ15行?41ページ9行,42ページ4?13行)。
b.しかし,甲第1号証に回転ロッド17以外の他の取り付け手段を用いてもよいとの記載があるからといっても,引用発明のローラー1はそれ自体弾性変形可能な構成を必須とし,かつ回転ロッド17のツバ12はローラー1に係止する機能するものである。
c.先に説明したとおり,弾性変形可能なローラー1に係止する部材(引用発明ではツバ12)が弾性変形可能な必要はなく,むしろ係止部材が弾性変形可能となると,ローラー1の係止が機能しなくなるのであるから,他の取り付け手段として甲第2号証の1記載事項の弾性変形可能なラッチアーム204を採用する動機付けはない。
d.また,甲第2号証の1の構成が,甲第1号証の回転ロッド17と同様の用途に用いられることや,非貫通の回転体に用いる点について主張しているが,引用発明の弾性変形可能なローラー1の係止部材として,甲第2号証の1記載事項の「突起205を有するラッチアーム204を弾性変形可能とした構成」を採用する動機付けがないことに変わりはない。
e.したがって,動機付けに関する請求人主張は失当であり,採用できない。
(イ)阻害要因について
a.請求人は,甲第1号証ではツバ12がなくてもよいとされ,ローラー1が回転ロッド17から抜けるか否かは,はめ合いや固着手段にも依存しているといえ,ツバ12を設けなくてもローラー1を回転自在に取り付けることができるから,甲第2号証の1の突起205を採用してもローラーが抜けやすくなることはない等,阻害要因は存在しない旨主張する(審判請求書41ページ10行?42ページ2行,42ページ14?24行)。
b.しかし,ツバ12を設けなくてもよい,というのはツバ12に換えてローラー1を回転ロッド17から抜け止めすることができればよいという意味である。
「2.(2)(2-1)エ(ウ)b.」の「阻害要因の存在」において説明したとおり,回転ロッド17のツバ12に,甲第2号証の1の「突起205を有するラッチアーム204を弾性変形可能とした構成」を採用しても係止機能を果たさないおそれがあるため,そのような組み合わせに阻害要因が存在することは明らかである。
カ.相違点2のまとめ
以上説明したとおり,軸受け部材を用いて軸に対して非貫通状態の回転体を支持する際に,回転体の内面に段差部を設けるとともに,軸受け部材には当該段差部に係止する係合爪を用いる構成が甲第2号証の1には開示されていることを認めるに足りるものではなく,引用発明の支持軸16とローラー1との間に配置され,軸受け部材として機能する回転ロッド17をプラグ200に置き換える動機付けは存在しないし,引用発明の回転ロッド17を,あえて,回転ロッド17のツバ12に対して複雑な構成であるラッチアームを有するプラグに置き換える動機付けはなく,さらに,引用発明に甲第2号証の1記載事項「外方に延びる突起205を含むラッチアーム204を弾性変形可能とした構成」を採用する動機付けはなく,むしろ阻害要因が存在する。
したがって,引用発明に甲第2号証の1記載事項を適用することによって,相違点2に係る本件特許発明1の構成とすることは当業者にとって容易に想到し得ることとはいえない。
また,他の証拠(甲第3号証乃至甲第5号証)を検討しても引用発明を相違点2に係る本件特許発明1の構成とすることは,当業者にとって容易に想到し得ることとはいえない。
(2-2)相違点1についての検討
甲第1号証の3ページ右下欄には,把持部について,ローラー1を回転可能に支持し得るに足る他の公知例を採用できる旨が明記されている。
そして,甲第3号証には,前記1(3)で述べたとおり,「基端において胴部2に螺合して抜け止め固定されたタッピングねじ36と,タッピングねじ36の先端側に回転可能に支持された頭部3をとを備え,その頭部3によりマッサージを行うつぼ健康具。」が記載されている。
甲第3号証に記載された事項の「胴部2」は本件特許発明1の「ハンドル」に相当し,以下同様に,「タッピングねじ36」は「支持軸」に,「頭部3」は「回転体」にそれぞれ相当する。
甲第3号証に記載された事項の「頭部3によりマッサージを行うつぼ健康具」は,甲第8号証から甲第10号証を参照すると,従来より回転体を用いて,ツボを刺激したり磁気の効果を期待するマッサージローラは,美容器であるとされているから,本件特許発明1の「回転体により身体に美容的作用を付与するようにした美容器」に相当する。
そうすると,甲第3号証には,「基端においてハンドルに抜け止め固定された支持軸と,前記支持軸の先端側に回転可能に支持された回転体とを備え,その回転体により身体に対して美容的作用を付与するようにした美容器。」が開示されているといえる。
引用発明と甲第3号証に開示されたものは,「基端においてハンドルに固定された支持軸と.前記支持軸の先端側に回転可能に支持された回転体とを備え,その回転体を用いて身体に対してマッサージする美容器」において共通する上に,引用発明において支持軸がハンドルから抜けないようにすることは内在的な課題ともいえるから,引用発明に甲第3号証に開示された事項を適用して,上記相違点1における本件特許発明1の構成とすることは,当業者が容易になし得たことである。
(2-3)小括
したがって,相違点2に係る本件特許発明1の構成とすることは当業者にとって容易に想到し得ることとはいえないから,本件特許発明1は,引用発明に甲第2号証の1記載事項,及び,甲第3号証ないし甲第5号証のいずれかに記載された事項を適用することにより,当業者が容易に想到し得たものではない。
また,本件特許発明2は,本件特許発明1の発明特定事項を全て含み,さらに発明特定事項を付加した発明であるから,本件特許発明1と同様の理由により,当業者が容易に想到し得たものではない。

第5 むすび
以上のとおりであるから,請求人の主張及び証拠方法によっては,本件特許発明の特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については,特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により,請求人が負担すべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-03-22 
結審通知日 2019-03-26 
審決日 2019-04-08 
出願番号 特願2014-197056(P2014-197056)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (A45D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大瀬 円  
特許庁審判長 堀川 一郎
特許庁審判官 柿崎 拓
藤井 昇
登録日 2015-12-04 
登録番号 特許第5847904号(P5847904)
発明の名称 美容器  
代理人 冨宅 恵  
代理人 小林 徳夫  
代理人 ▲高▼山 嘉成  

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