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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F16D
管理番号 1360416
審判番号 不服2019-4954  
総通号数 244 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-04-15 
確定日 2020-03-24 
事件の表示 特願2017- 7651号「コイルばねを利用したロックタイプ双方向クラッチ」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 7月26日出願公開、特開2018-115727号、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 1.手続の経緯及び本願発明
本願は、平成29年1月19日の出願であって、平成30年6月27日付けで拒絶の理由が通知され、同年8月28日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成31年1月15日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年4月15日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。
そして、本願の請求項1?4に係る発明(以下、「本願発明1?4」という。)は、平成30年8月28日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、本願発明1は次のとおりのものである。
「【請求項1】
共通の回転軸を中心として回転可能な入力軸及び出力軸を備え、前記入力軸からの正・逆方向の回転は前記出力軸に伝達されると共に、前記出力軸からの前記入力軸への回転の伝達は、前記出力軸を回転不能として遮断されるロックタイプ双方向クラッチであって、
断面円形の内部空間が設けられた固定のハウジングと、前記ハウジングに固定された軸状の内輪と、前記内輪に軸方向に並列して装着された複数個のコイルばねとを備え、
前記複数個のコイルばねの夫々は、線材を巻回して形成され、夫々の軸方向の両端には外方に曲げられたフック部が周方向の異なる位置に形成され、夫々の内周面は前記内輪の外周面と接触し、
前記入力軸及び出力軸には、軸方向に延びる断面円弧状の入力係止片及び出力係止片が夫々形成され、前記入力係止片及び出力係止片は、周方向に2個の間隙が存在するよう、組み合わされて設置され、
前記2個の間隙の夫々には、前記複数個のコイルばねの夫々の両端のフック部が挿入され、
前記出力係止片の周方向両端の断面は円弧状に形成されると共に、前記出力係止片と当接する前記複数個のコイルばねのフック部は対応する円弧状に形成されており、
前記入力軸が回転したときは、前記入力係止片が前記複数個のコイルばねの夫々のフック部をばねの緩み方向に押して、前記複数個のコイルばねの夫々のフック部が前記入力係止片及び前記出力係止片によって挟持された状態で、前記複数個のコイルばねと共に前記出力軸を回転させ、前記出力軸に回転力を加えたときは、前記出力係止片が前記複数個のコイルばねの夫々のフック部をばねの締め方向に押して、前記出力軸が回転不能となる、ことを特徴とするロックタイプ双方向クラッチ。」

なお、本願発明2?4は、本願発明1を減縮した発明である。

2.原査定の概要
原査定は、本願発明1?3は、その出願前に日本国内において頒布された以下の引用文献1に記載された発明及び引用文献2及び3に記載された事項に基いて、また、本願発明4は、以下の引用文献1に記載された発明及び引用文献2?4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。

引用文献1:特許第5993512号公報
引用文献2:特開2009-8247号公報
引用文献3:特開昭60-241533号公報
引用文献4:特開2007-92801号公報

3.引用文献
(1)引用文献1に記載された事項及び引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものである。以下同様。

「【請求項1】
共通の回転軸を中心として回転可能な入力軸及び出力軸を備え、前記入力軸からの正・逆方向の回転は前記出力軸に伝達されると共に、前記出力軸からの前記入力軸への回転の伝達は、前記出力軸を回転不能として遮断されるロックタイプ双方向クラッチであって、
断面円形の内部空間が設けられた固定のハウジングと、前記ハウジングに固着された軸状の内輪とを備え、
前記内輪の外周面には、線材を巻回して形成されるコイルばねがその内周面を接触させて装着され、前記コイルばねの軸方向の両端には、外方に曲げられたフック部が周方向の異なる位置に形成され、
前記入力軸及び出力軸には、軸方向に延び、且つ、前記ハウジングの内部空間の内周面を摺動する断面円弧状の入力係止片及び出力係止片が夫々形成され、前記入力係止片及び出力係止片は、周方向に2個の間隙が存在するよう、組み合わされて設置され、
前記2個の間隙の夫々には、前記コイルばねの両端のフック部が挿入され、前記出力係止片とフック部との周方向の距離が、前記入力係止片とフック部との周方向の距離よりも大きく設定されており、
前記入力軸が回転したときは、前記入力係止片が前記コイルばねのフック部をばねの緩み方向に押して、前記コイルばねと共に前記出力軸を回転させ、前記出力軸に回転力を加えたときは、前記出力係止片が前記コイルばねのフック部をばねの締め方向に押して、前記出力軸が回転不能となることを特徴とするロックタイプ双方向クラッチ。」

「【0018】
図1の中央の縦断面図に示すように(各部品を単品で示す図3も参照)、この実施例の双方向クラッチは、固定のハウジング1の中心部に入力軸2及び出力軸3をそれぞれ配置した構造であり、図示は省略するが、入力軸2はモーター等の駆動側に接続され、出力軸3は昇降装置等の従動側に接続される。ハウジング1、入力軸2、及び出力軸3は何れも硬質合成樹脂によって成形される。
【0019】
図1と共に図3(a)を参照して説明すると、ハウジング1は、断面正六角形の端板部11と、この端板部11から軸方向片側に延びる周壁部12からなるカップ状部品である。・・・(略)・・・ハウジング1には、周壁部12の内側において蓋体12Cと接する第一の空間13と、端板部11の内側において第一の空間13と接する第二の空間14とが設けられている。第一の空間13と第二の空間14は共に断面円形であり、第一の空間13の直径は第二の空間14の直径に比べて大きい。また、第二の空間14には、後述する内輪を固定するための凸状の一対の係合突起14sが形成されている。
【0020】
入力軸2は、図3(c)に示すとおり、入力板部材21と、入力係止片22と、入力軸部23とを一体的に成形した部品である。入力板部材21は、円板の周辺部分が90度よりも幾分大きい角度領域に亘り扇形に切り欠かれた形状であって、その中央には開口21Hが形成されている。入力係止片22は、軸方向に延びる断面円弧状の部材であって、入力板部材21の周縁部に固着され、図示の実施例においては、周方向に270度より幾分小さい角度領域に亘って存在している。入力軸部23は、入力板部材21の開口21Hを囲繞して、入力係止片22と軸方向同一側に延びる略円筒形状の部材であって、入力係止片22よりも径方向内側に位置する。入力軸部23の先端部には図示しないモーター等の駆動源に接続される突起状の係合部24が形成されている。
【0021】
出力軸3は、図3(d)に示すとおり、出力板部材31と、出力係止片32と、出力軸部33とを一体的に成形した部品である。出力板部材31は、円板形状であって、その中央には開口31Hが形成されている。出力係止片32は、軸方向に延びる断面円弧状の部材であり、出力板部材31の周縁部の一部に固着され、図示の実施例においては、出力係止片32は周方向に90度よりも幾分小さい角度領域に亘って存在している。出力軸部33は、出力板部材31の開口31Hを囲繞して、出力係止片32とは軸方向反対側に延びる略円筒形状の部材であって、その先端部には図示しない昇降装置等に接続される突起状の係合部34が形成されている。
【0022】
図1と共に図4を参照して説明すると、本発明の双方向クラッチには、固定された軸状の内輪4と、この内輪4の外周面に接触して装着され、線材を巻回して形成されるコイルばね5とが備えられている。内輪4及びコイルばね5は何れも金属製であり、適宜の金属加工により成形されることが望ましいが、軽負荷トルク仕様の双方向クラッチにおいては、内輪4及びコイルばね5の一方又は両方を樹脂製とすることも可能である。
内輪4は円筒形状であって(図4(a)参照)、その一方の端部には凹状の一対の切欠き41が形成されている。そして、この切欠き41が固定されたハウジング1の係合突起14sと係合することで、内輪4はハウジング1に固定される。
コイルばね5の軸方向の両端には、外方に曲げられたフック部51が周方向の異なる位置に形成されている(図4(b)参照)。図示の実施例においては、フック部51は、夫々ばねの巻き方向(即ち周方向)に対して法線方向に延びており、相互に90度の角度間隔を有している。」

「【0026】
続いて、図1に示す双方向クラッチの作動について図2を参照して説明する。
図2(a)の左側の縦断面図の矢印に示すように、入力軸2が、例えば、駆動源のモーターにより回転軸oの周りを時計方向(軸方向の右方から見て)に回転すると、入力軸2に形成された入力係止片22も回転軸oの周りを同方向に回転する。回転軸o周りに回転した入力係止片22は、コイルばね5の片方側の軸方向端部、即ち回転方向前方にあるコイルばね5のフック部51(図の横側に示されるフック部51)に当接し、フック部51をばねの緩み方向に押して内輪4に対するコイルばね5の締付力を弱める。さらに、入力係止片22は、フック部51を介して出力係止片32を押し、コイルばね5の締付力を弱めながら出力係止片32をコイルばね5と共に回転させる。出力係止片32が回転して他方のフック部51(図の上側に示されるフック部51)に当接したときは、出力係止片32によって他方のフック部51も押されて、内輪4に対するコイルばね5の締付力を増大させることとなるが、出力係止片32とフック部51との周方向の距離が大きく設定してあるため、このようなことが生じることはない。
【0027】
入力軸2が反時計方向に回転すると、入力係止片22は、コイルばね5の他方側の軸方向端部にあるフック部51(図の上側に示されるフック部51)に当接して、これを反時計方向に押す。その力の方向は、やはり内輪4に対するコイルばね5の締付力を弱める方向であって、上述の場合と同じく、入力係止片22は、出力係止片32をコイルばね5と共に反時計方向に回転させる。このように、本発明のロックタイプ双方向クラッチでは、入力軸2が正・逆方向に回転すると、出力軸3が同一方向に等速で回転し、動力伝達が行われる。
・・・(略)・・・
【0029】
それに対して、図2(b)の左側の縦断面図における矢印に示すように、出力軸3側からの回転トルクにより、出力軸3を回転軸oの周りに時計方向(軸方向の左方から見て)に回転させようとしても、出力係止片32がコイルばね5のフック部51をばねの締め方向に押して、内輪4に対するコイルばね5の締め付け力を強めるため、出力係止片32は内輪4に対して回転しない。この点は、出力軸3を反時計方向(軸方向の左方から見て)に回転させようとした場合も同様である(このときは、出力係止片32が図の上側のフック部51と当接)。
従って、出力軸3からの入力軸2への回転の伝達は、出力軸3が回転不能となり遮断される。この際には、出力係止片32の外周面がハウジング1の第一の空間13の内周面と当接するため、出力軸3を回転させようとしてかかる回転トルクによって、出力係止片32がフック部51に当接した状態で径方向外方に撓むことが回避される。」

以上の記載事項及び【図1】?【図4】の記載からみて、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
〔引用発明〕
「共通の回転軸oを中心として回転可能な入力軸2及び出力軸3を備え、前記入力軸2からの正・逆方向の回転は前記出力軸3に伝達されると共に、前記出力軸3からの前記入力軸2への回転の伝達は、前記出力軸3を回転不能として遮断されるロックタイプ双方向クラッチであって、
断面円形の内部空間が設けられた固定のハウジング1と、前記ハウジング1に固着された軸状の内輪4とを備え、
前記内輪4の外周面には、線材を巻回して形成されるコイルばね5がその内周面を接触させて装着され、前記コイルばね5の軸方向の両端には、外方に曲げられたフック部51が周方向の異なる位置に形成され、
前記入力軸2及び出力軸3には、軸方向に延び、断面円弧状の入力係止片22及び出力係止片32が夫々形成され、前記入力係止片22及び出力係止片32は、周方向に2個の間隙が存在するよう、組み合わされて設置され、
前記2個の間隙の夫々には、前記コイルばね5の両端のフック部51が挿入され、
前記入力軸2が回転したときは、前記入力係止片22が前記コイルばね5のフック部51をばねの緩み方向に押して、フック部51を介して出力係止片32を押し、前記コイルばね5と共に前記出力軸3を回転させ、前記出力軸3に回転力を加えたときは、前記出力係止片32が前記コイルばね5のフック部51をばねの締め方向に押して、前記出力軸3が回転不能となる、ロックタイプ双方向クラッチ。」

(2)引用文献2に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0001】
この発明は、事務機等において用いられる回転方向切替クラッチユニットに関するものである。」

「【0008】
前記の課題を解決するために、この発明の回転方向切替クラッチユニットは、図1から図6に示したように、軸方向に同軸状態に配置された入力歯車12、出力歯車13、逆入力歯車14並びにこれらの歯車とばねクラッチ26の組み合わせからなる構成を基本構造とする。
【0009】
前記の基本構造において、この発明に係る回転方向切替クラッチユニットは、以下のような構成を採用したものである。即ち、前記入力歯車12の一部によって入力側クラッチ部15、前記出力歯車13の一部によって前記入力側クラッチ部15と径方向に対向した出力側クラッチ部16がそれぞれ形成される。
【0010】
前記ばねクラッチ26はコイルばね27によって構成され、該コイルばね27は前記入力側クラッチ部15に緊縛されるとともに、該入力側クラッチ部15の正回転方向Aの入力によってロックする方向性を有し、該コイルばね27の一端部に伝達フック28、他端部に解除フック29が設けられる。該伝達フック28が前記出力側クラッチ部16のフック係合部21に係合された状態を基準にして、解除フック29は伝達フック28より正回転方向Aに所要距離だけ進んだ位置に配置される。
【0011】
前記逆入力歯車14は、前記入力側クラッチ部15と出力側クラッチ部16の径方向に対向した部分に軸方向に突き出す解除部24を有し、該解除部24が前記解除フック29に逆回転方向Bに対向する。」

「【0022】
前記のばねクラッチ26を構成する偶数個のコイルばね27、27’の半数が逆巻きであり、かつ相互に軸方向に接近して配置された構成をとることができる。この構成をとると、ばねクラッチ26のロック解除状態において入力側クラッチ部15の空転によって発生するスラスト力の方向が半数のコイルばね27、27’において反対向きとなるので相互に打ち消し合い、スラスト力の影響を解消することができる。」

【図3】から、ばねクラッチ6は、巻き方向の同じコイルばね27からなることを看取しうる。

(3)引用文献3に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3には、図面とともに次の事項が記載されている。

「スプリングクラツチ装置は、一般に駆動源側からの一方向の回転は従動側に伝達するが、反対方向への回転は伝達する必要のない機構に使用されている。第5図及び第6図はこのスプリングクラツチ装置の従来例を示しており、駆動源側に接続される駆動歯車11と該駆動歯車11に回転可能に挿通されて従動部側に接続されるシヤフト12と、このシヤフト12に外挿されたクラツチスプリング13とからなつている。そして、このクラツチスプリング13はコイル部がシヤフト12に外挿されると共に、一端側のフツク部13aはコイル部よりも外方に突出して前記駆動歯車11の片端面から突出した係合突起11aと掛合しており、駆動歯車11が矢印D方向に回転すると、フツク部13aが同方向に押されてクラツチスプリング13のコイル部の径が縮小し、シヤフト12に同方向の回転が伝達されるようになつている。一方、駆動歯車11が矢印C方向に回転した場合にはフツク部13aと係合突起11aとの掛合が解除されるため、同方向への回転の伝達は行われず、これにより、回転のワンウエイ伝達を行うものである。」(1頁右下欄5行?2頁左上欄6行)

第5図から、係合突起11aは断面が円形であり、係合突起11aに掛合するフック部13aは、係合突起11aの外形に対応する円弧状に形成されていることを看取しうる。

4.対比・判断
(1)本願発明1
本願発明1と引用発明とを対比する。
後者の「共通の回転軸o」、「入力軸2」、「出力軸3」、「ロックタイプ双方向クラッチ」、「ハウジング1」、「内輪4」、「入力係止片22」、「出力係止片32」は、前者の「共通の回転軸」、「入力軸」、「出力軸」、「ロックタイプ双方向クラッチ」、「ハウジング」、「内輪」、「入力係止片」、「出力係止片」にそれぞれ相当する。
後者の「内輪4の外周面に」「その内周面を接触させて装着され」た「コイルばね5」は、前者の「内輪に軸方向に並列して装着された複数個のコイルばね」と、「内輪に軸方向に装着されたコイルばね」である限りにおいて一致する。
後者の「内輪4の外周面には、線材を巻回して形成されるコイルばね5がその内周面を接触させて装着され、前記コイルばね5の軸方向の両端には、外方に曲げられたフック部51が周方向の異なる位置に形成され」たことは、前者の「複数個のコイルばねの夫々は、線材を巻回して形成され、夫々の軸方向の両端には外方に曲げられたフック部が周方向の異なる位置に形成され、夫々の内周面は内輪の外周面と接触し」たことと、「コイルばねは、線材を巻回して形成され、軸方向の両端には外方に曲げられたフック部が周方向の異なる位置に形成され、内周面は内輪の外周面と接触し」たことである限りにおいて一致する。
後者の「入力係止片22及び出力係止片32は、周方向に2個の間隙が存在するよう、組み合わされて設置され」たことは、前者の「入力係止片及び出力係止片は、周方向に2個の間隙が存在するよう、組み合わされて設置され」たことに相当し、後者の「2個の間隙の夫々には、前記コイルばね5の両端のフック部51が挿入され」たことは、前者の「2個の間隙の夫々には、複数個のコイルばねの夫々の両端のフック部が挿入され」たことと、「2個の間隙の夫々には、コイルばねの両端のフック部が挿入され」たことである限りにおいて一致する。
後者の「入力係止片22が」「フック部51を介して出力係止片32を押し」ていることは、入力係止片22と出力係止片32とでフック部51を挟持していることといえるので、後者の「入力軸2が回転したときは、入力係止片22がコイルばね5のフック部51をばねの緩み方向に押して、フック部51を介して出力係止片32を押し、コイルばね5と共に出力軸3を回転させ」ることは、前者の「入力軸が回転したときは、入力係止片が複数個のコイルばねの夫々のフック部をばねの緩み方向に押して、複数個のコイルばねの夫々のフック部が入力係止片及び出力係止片によって挟持された状態で、複数個のコイルばねと共に出力軸を回転させ」ることと、「入力軸が回転したときは、入力係止片がコイルばねのフック部をばねの緩み方向に押して、コイルばねのフック部が入力係止片及び出力係止片によって挟持された状態で、コイルばねと共に出力軸を回転させ」ることである限りにおいて一致する。
後者の「出力軸3に回転力を加えたときは、出力係止片32がコイルばね5のフック部51をばねの締め方向に押して、出力軸3が回転不能となる」ことは、前者の「出力軸に回転力を加えたときは、出力係止片が複数個のコイルばねの夫々のフック部をばねの締め方向に押して、出力軸が回転不能となる」ことと、「出力軸に回転力を加えたときは、出力係止片がコイルばねのフック部をばねの締め方向に押して、出力軸が回転不能となる」ことである限りにおいて一致する。
そうすると、本願発明1と引用発明との一致点、相違点は、次のとおりである。
〔一致点〕
「共通の回転軸を中心として回転可能な入力軸及び出力軸を備え、前記入力軸からの正・逆方向の回転は前記出力軸に伝達されると共に、前記出力軸からの前記入力軸への回転の伝達は、前記出力軸を回転不能として遮断されるロックタイプ双方向クラッチであって、
断面円形の内部空間が設けられた固定のハウジングと、前記ハウジングに固定された軸状の内輪と、前記内輪に軸方向装着されたコイルばねとを備え、
前記コイルばねは、線材を巻回して形成され、軸方向の両端には外方に曲げられたフック部が周方向の異なる位置に形成され、内周面は前記内輪の外周面と接触し、
前記入力軸及び出力軸には、軸方向に延びる断面円弧状の入力係止片及び出力係止片が夫々形成され、前記入力係止片及び出力係止片は、周方向に2個の間隙が存在するよう、組み合わされて設置され、
前記2個の間隙の夫々には、前記コイルばねの両端のフック部が挿入され、
前記入力軸が回転したときは、前記入力係止片が前記コイルばねのフック部をばねの緩み方向に押して、前記コイルばねのフック部が前記入力係止片及び前記出力係止片によって挟持された状態で、前記コイルばねと共に前記出力軸を回転させ、前記出力軸に回転力を加えたときは、前記出力係止片が前記コイルばねのフック部をばねの締め方向に押して、前記出力軸が回転不能となる、ロックタイプ双方向クラッチ。」
〔相違点1〕
「コイルばね」に関して、本願発明1は、「複数個」からなり「夫々の」コイルばねの軸方向の両端にフック部が設けられたものであるのに対して、引用発明は、コイルばね5が複数とはされていない点。
〔相違点2〕
本願発明1は、「出力係止片の周方向両端の断面は円弧状に形成されると共に、出力係止片と当接する複数個のコイルばねのフック部は対応する円弧状に形成されており」との構成を備えているのに対し、引用発明の出力係止片32の周方向両端及び出力係止片32と当接するコイルばね5のフック部51は、そのように構成されていない点。

事案に鑑み、相違点1について検討する。
〔相違点1について〕

引用文献2には、回転方向切替クラッチユニットのばねクラッチ26を複数個のコイルばね27、27’で構成することが記載されている(上記3.(2)ウを参照。)。
しかしながら、引用文献2には、1つのコイルばねであったものを、複数のコイルばねで構成することを示唆する記載はない。
そうすると、引用文献2の記載から、引用発明のコイルばね5を、複数のコイルばねとする動機付けはない。

また、本願の明細書には次の記載がある。
「【0014】
・・・(略)・・・
ここで、本発明におけるロックタイプ双方向クラッチにおいては、複数個のコイルばねが並列に内輪に装着されている。そのため、個々のコイルばねは個別にビビリ振動が生じうるものの、これらは相互に相殺し合い、複数個のコイルばね全体としては内輪との間におけるビビリ振動の発生は回避される。これは、複数個のコイルばねの夫々は、微視的にみれば内輪との間では摩擦の状態が異なり、ビビリ振動の位相等がずれて相互に相殺し合うものと考えられる。
【0015】
一方、出力軸が回転しようとしたときは、出力係止片が回転方向の前方側にある複数個のコイルばねの夫々のフック部と当接してこれを押すが、その方向はばねの締め方向となる。従って、内輪に対する複数個のコイルばねの夫々の締め付け力は強まって出力係止片の回転が阻止される。
この場合に、本発明のロックタイプ双方向クラッチでは、出力係止片がフック部を押す力は複数個のコイルばねのフック部に分散される。そのため、個々のフック部に作用する力は大幅に減少し、出力軸に大きなトルクが作用したとしても、コイルばねのフック部の破損を防止することができる。」
「【0028】
本発明のロックタイプ双方向クラッチにおいては、複数個のコイルばね5が並列に内輪4に装着されている。個々のコイルばねは、微視的に見た場合には内輪4との間の摩擦等の条件が全く同じではないため、個別にビビリ振動が生じうるもののこれらは相互に相殺し合い、複数個のコイルばね全体としては内輪との間におけるビビリ振動の発生は回避される。これにより、入力軸から出力軸への回転の伝達中において、ビビリ振動による異音の発生や、繰り返し荷重によるフック部の破損の虞が回避される。・・・(略)・・・
【0030】
本発明のロックタイプ双方向クラッチでは、出力係止片34がフック部51を押す力は複数個のコイルばね5のフック部51に分散される。そのため、個々のフック部51に作用する力は大幅に減少し、出力軸3に大きなトルクが作用したとしても、コイルばね5のフック部51の破損を防止することができる。図示の実施例においては、コイルばね5は内輪4に軸方向に並列して2個装着されているため、個々のフック部51に作用する上記の力は実質上半分に減少することとなる。
・・・(略)・・・換言すると、出力軸3に大きなトルクが作用した場合であっても、フック部51は破断することなく、出力軸3はロック状態を維持し、出力軸3からの入力軸2への回転の伝達を遮断することが可能となる。」
上記記載によれば、本願発明1の「複数個のコイルばね」とした構成は、各コイルばねで発生するビビリ振動が相互に相殺することで、複数個のコイルばね全体で発生するビビり振動を抑制するとともに、個々のコイルばねのフック部に作用する力を減少させ、フック部の破損防止に寄与するとの作用効果を奏するものと認められ、「複数個のコイルばね」とすることが設計的事項ということはできず、引用文献2の記載から複数個のコイルばねを用いることが一般的な技術的事項であるといえるとしても、上記の作用効果を予測しうるとはいえない。
そうすると、引用発明のコイルばねを「複数個」とすることは、引用文献2に記載の事項から当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

引用文献3(上記3.(3)を参照。)、及び、本願発明4に対して引用された引用文献4には、コイルばねを複数個とする記載も示唆もないし、また、他にクラッチに用いるばねを複数個にすることでビビリ振動を抑制することが周知の技術的事項であることを示す証拠もない。

よって、引用発明のコイルばねを「複数個」とし、相違点1に係る本願発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

したがって、相違点2について検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明及び引用文献2?4に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本願発明2?4
本願発明2?4は、本願発明1の発明特定事項を全て含み減縮した発明であるので、本願発明1と同様の理由で、引用発明及び引用文献2?4に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

5.むすび
以上のとおり、本願発明1?4は、引用発明及び引用文献2?4に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2020-03-09 
出願番号 特願2017-7651(P2017-7651)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (F16D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 古▲瀬▼ 裕介岩本 薫岡澤 洋  
特許庁審判長 田村 嘉章
特許庁審判官 平田 信勝
内田 博之
発明の名称 コイルばねを利用したロックタイプ双方向クラッチ  
代理人 小嶋 俊之  
代理人 飯田 隆  
代理人 小野 尚純  
代理人 奥貫 佐知子  
代理人 鹿角 剛二  
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