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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C08J
管理番号 1360429
審判番号 不服2019-5767  
総通号数 244 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-04-27 
確定日 2020-03-24 
事件の表示 特願2018- 90260「複合フィルムの再生方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年11月14日出願公開、特開2019-196429、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成30年5月8日の出願であって、平成30年9月25日付けで拒絶理由通知がされ、平成31年1月23日付けで手続補正がされ、平成31年2月4日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、平成31年4月27日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。


第2 原査定の概要
原査定の拒絶の理由は、概略、以下のとおりである。

本願請求項1-4に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明4」という。)は、以下の引用文献1-7に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開平5-105786号公報
2.特開平5-105731号公報
3.特開平5-32817号公報
4.特開平5-32816号公報
5.特開平4-119809号公報
6.特開平3-237143号公報
7.特開2005-336217号公報


第3 本願発明
本願発明1-4は、平成31年1月23日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-4に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
オレフィン系樹脂フィルムと他の合成樹脂フィルムとを少なくとも張り合わせた複合フィルムを再生する複合フィルムの再生方法であって、
前記複合フィルムに相溶化剤を添加し、二軸押出機を用いて、オレフィン系樹脂の溶融温度以上、他の合成樹脂の溶融温度未満の温度で加熱すると共に、せん断力を加えて、溶融及び混練する溶融混練工程を含み、
前記溶融混練工程では、190℃以上210℃以下の温度で加熱する
ことを特徴とする複合フィルムの再生方法。
【請求項2】
前記相溶化剤として、ステアリン酸類、ヒドロキスステアリン酸類、ベヘン酸類、モンタン酸類、無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂類、エチレンプロピレンジエンゴム、及び、水素添加型ポリマーからなる群のうちの少なくとも1種を添加することを特徴とする請求項1記載の複合フィルムの再生方法。
【請求項3】
前記溶融混練工程において、酸化マグネシウム及び酸化カルシウムからなる群のうちの少なくとも1種を添加して、溶融及び混練することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の複合フィルムの再生方法。
【請求項4】
前記溶融混練工程において、酸化防止剤、分散剤、界面活性剤、熱安定剤、無機鉱物、着色剤、及び、機能性樹脂からなる群のうちの少なくとも1種を添加して、溶融及び混練することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1に記載の複合フィルムの再生方法。」

第4 引用文献に記載された事項等
1.引用文献1の記載事項等
(1)引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、次の事項が記載されている。

「【請求項1】 ポリオレフィン層、ナイロン層及び/またはエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物層、芳香族ポリエステル層より構成される透明多層フィルムのスクラップに塩素化ポリエチレン及び低分子量ポリオレフィンを配合することを特徴とする多層フィルムの回収再生方法。」

「【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、ポリオレフィン層、ナイロン層及びまたはエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物層、芳香族ポリエステル層より構成され、場合によっては接着層を含む透明多層フィルムのスクラップに、複数の相溶化剤を配合することにより、相溶性が著しく改善され、透明性、外観に優れ、回収再生を可能にすることを目的とするものである。」

「【0014】
【実施例】以下実施例により本発明を説明するが、これは単なる例示であり、本発明はこれに限定されるものではない。なお、実施例では透明多層フィルムのスクラップとして、ポリオレフィン層としては低密度ポリエチレン(厚み50μm)、接着層としては低密度ポリエチレンを無水マレイン酸変性したもの(厚み10μm)、ナイロン層としてはナイロン-6/6,6(厚み10μm)、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物層としてはエチレン含有率44%のエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物(厚み10μm)、芳香族ポリエステル層としてはテレフタール酸及び二種のジオール成分、エチレングリコールと1,4-シクロヘキサンジメタノールより得られる共重合ポリエステル(厚み20μm)の共押出フィルムを造粒機でペレット化したものを使用した。
【0015】(実施例1?3)共押出フィルムを造粒機でペレット化したものに、塩素含有量が31.5重量%,メルトフローレイト(180℃、21.6kg)が120の塩素化ポリエチレン、及び平均分子量が2000のポリエチレンオリゴマーの末端を無水マレイン酸変性したもので、その含有量が約5重量%のものを、5,10,20重量部加え、L/D=40の2軸押出機で混練後、T-ダイ法で厚み100μmのフィルムを製造した。
・・・(略)・・・
【0018】
【表1】


配合量は重量部を示す。光線透過率及びHAZEはASTM-D1003により測定した結果である。外観については、目視にて、以下の基準により判定した。
○;均一かつ良好な相溶性を示し、相分離異物が見られない。
△;相溶性は良好であるが、一部に相分離異物が見られる。
×;相溶性が悪く、相分離している。」

(2)引用発明
引用文献1の【0014】及び【0015】における実施例の記載を【請求項1】の記載に沿って整理すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「透明多層フィルムのスクラップとして、ポリオレフィン層、接着層、ナイロン層、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物層、芳香族ポリエステル層の共押出フィルムを造粒機でペレット化したものに、塩素化ポリエチレン及びポリエチレンオリゴマーの末端を無水マレイン酸変性したものを加え、L/D=40の2軸押出機で混練後、T-ダイ法でフィルムを製造する多層フィルムの回収再生方法。」

2.引用文献7の記載事項等
(1)引用文献7の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献7には、次の事項が記載されている。

「【請求項5】
リサイクル材からなるポリエステル樹脂、及び他の熱可塑性樹脂を混合して溶融状態で成形する複合材の製造方法において、該ポリエステル樹脂のガラス転移点温度以上、溶融温度未満、且つ、該他の熱可塑性樹脂の溶融温度以上の温度範囲で成形することを特徴とする複合材の製造方法。」

「【0011】
以下、本発明の複合材及びその製造方法について詳細に説明する。
本発明で用いるポリエステル樹脂は、リサイクル材であって、ペットボトル、ポリエステルフイルム、磁気テープ、ポリエステル樹脂ケース、トレイ、ラミネート積層体、袋など、更には、不織布、織物、紐などに用いられた繊維に使用されたポリエステル樹脂の成形体を回収したものが用いられる。これらのポリエステル樹脂を細片に粉砕して、他の熱可塑性樹脂と共に用いる。
ポリエステル樹脂の成形体の中には、スーパーや自動販売機で多量に販売されているペットボトルのリサイクル材が有効に利用できる。
【0012】
また、本発明においてリサイクル材として使用される成形体の中には、繊維から構成されるシートをポリエステル樹脂でラミネート加工したラミネート紙も含まれる。例えば、感熱孔版用紙の端材などをリサイクル材とした場合、ラミネート加工したポリエステルラミネート薄層がマトリックスの中で分散して、表面に成形時の樹脂の流れが現れて装飾性のある複合材が形成される。」

「【0013】
本発明において、ポリエステル樹脂と混合して用いられる他の熱可塑性樹脂としては、ポリエステル樹脂に対してマトリックスとなる熱可塑性樹脂であれば、特に限定されない。・・・(略)・・・
【0014】
特に、好ましく用いられる熱可塑性樹脂としては、汎用性の観点から、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロンなどが有効に用いられる。ポリエチレンの溶融温度は107℃?140℃の範囲にあり、この溶融温度域は、PET樹脂のガラス転移点温度の67?81℃より高く、PET樹脂の溶融温度248℃?260℃より低いので、溶融温度が108℃の低密度ポリエチレンを用いて溶融温度248℃のポリエステル樹脂と混合して複合材を成形する場合は、108℃以上248℃未満の温度条件で成形機を用いて溶融成形することによって、本発明の複合材を好ましく達成することができる。 また、ポリプロピレン樹脂においては、溶融温度が160℃?170℃であるので、溶融温度160℃のポリプロピレン樹脂を用いた場合160℃以上248℃未満の温度条件で成形機を用いて溶融成形することによって、本発明の複合材を好ましく達成することができる。・・・(略)・・・
【0015】
本願発明の熱可塑性樹脂は、固体状態のポリエステル樹脂の間を埋めるマトリックスの作用をする。熱可塑性樹脂だけでは、強度が出ない所、固体のポリエステル樹脂が配合されているので、特に繊維状ポリエステル樹脂が配合されると補強材の作用を果たし、強度が発現する。
発明における製造方法において、ポリエステル樹脂はガラス転移点温度以上で成形されるので、他の溶融状態にある熱可塑性樹脂とより強い接着力を得ることができる。」

「【0017】
本発明におけるポリエステル樹脂は、溶融押出機により混練して溶融成形する前段においてポリエステル樹脂成形体を粉砕したものを用いるのであるが、粉砕に当たっては、例えば、細片に切断粉砕すると同時にハイシェアがかかって延伸されてもよい。その場合は、粉砕の際、多少軟化状態で延伸されることが好ましい。ただし、マトリックスとなる他の熱可塑性樹脂と共に成形する際は固体状態が維持され、ガラス転移点以上に維持されていることが好ましい。」

(2)引用文献7記載の技術的事項
上記(1)から、引用文献7には、「リサイクル材からなるポリエステル樹脂に、ポリエチレンやポリプロピレンを混合し、該ポリエステル樹脂のガラス転移点温度以上、溶融温度未満、且つ、ポリエチレンやポリプロピレンの溶融温度以上の温度範囲で成形する複合材の製造方法」という技術的事項が記載されていると認められる。


第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。
ア 引用発明の透明多層フィルムは、ポリオレフィン層と共に接着層を有していることから、引用発明の「透明多層フィルムのスクラップとして、ポリオレフィン層、接着層、ナイロン層、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物層、芳香族ポリエステル層の共押出フィルム」は、本願発明1における「オレフィン系樹脂フィルムと他の合成樹脂フィルムとを少なくとも張り合わせた複合フィルム」に相当する。
イ 引用文献1の【請求項1】及び段落【0003】の記載からみて、引用発明における「塩素化ポリエチレン及びポリエチレンオリゴマーの末端を無水マレイン酸変性したもの」は、引用文献1において「複数の相溶化剤」として記載されているものであるから、本願発明1における「相溶化剤」に相当する。
ウ 引用発明における、ペレット化された透明多層フィルムのスクラップを、「L/D=40の2軸押出機で混練」する工程は、本願発明1において、複合フィルムを、「二軸押出機を用いて」、「加熱すると共に、せん断力を加えて、溶融及び混練する溶融混練工程」に相当する。

そうすると、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。
(一致点)
「オレフィン系樹脂フィルムと他の合成樹脂フィルムとを少なくとも張り合わせた複合フィルムを再生する複合フィルムの再生方法であって、
前記複合フィルムに相溶化剤を添加し、二軸押出機を用いて、加熱すると共に、せん断力を加えて、溶融及び混練する溶融混練工程を含む、
複合フィルムの再生方法。」

(相違点)
本願発明1は、「溶融混練工程」について、「オレフィン系樹脂の溶融温度以上、他の合成樹脂の溶融温度未満の温度」であって、かつ「190℃以上210℃以下の温度」で加熱するのに対し、引用発明は、溶融混練の際の温度を特定しない点。

(2)相違点についての判断
上記相違点について検討する。
ア 引用発明は、引用文献1の段落【0003】に、「透明多層フィルムのスクラップに複数の相溶化剤を配合することにより、相溶性が著しく改善され、透明性、外観に優れ、回収再生を可能にすることを目的とするものである」との記載があること、また、実施例の評価に関して、段落【0018】に、「光線透過率及びHAZEはASTM-D1003により測定した結果である。外観については、目視にて、以下の基準により判定した。○;均一かつ良好な相溶性を示し、相分離異物が見られない」との記載があることからみて、「透明多層フィルムのスクラップ中の樹脂を、相分離異物が見られないほど相溶させて、透明性や外観に優れたフィルムとして再生する」という課題を解決するものであるといえる。
そして、そのような課題は、溶融混練時に、複数の相溶化剤を添加すると共に、オレフィン系樹脂以外の合成樹脂の溶融を充分に行い、オレフィン系樹脂との相溶性を良好にすることで解決できることを、当業者は認識する。
すなわち、引用発明は、上記課題を解決するため、溶融混練時に、塩素化ポリエチレン及び低分子量ポリオレフィンを配合するとともに、ポリオレフィン層以外の「ナイロン層及び/またはエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物層、芳香族ポリエステル層」の樹脂の溶融を充分に行うものであるといえる。

イ 一方、引用文献7には、上記第4 2.(2)に記載のとおり、「リサイクル材からなるポリエステル樹脂に、ポリエチレンやポリプロピレンを混合し、該ポリエステル樹脂のガラス転移点温度以上、溶融温度未満、且つ、ポリエチレンやポリプロピレンの溶融温度以上の温度範囲で成形する複合材の製造方法」という技術的事項が記載されてはいるが、この温度条件は、溶融混練時に完全な相溶を意図せず、ポリエステル樹脂を「固体状態」で存在させることを目的として設定されたものと認められ、このことは、段落【0015】の「本願発明の熱可塑性樹脂は、固体状態のポリエステル樹脂の間を埋めるマトリックスの作用をする。熱可塑性樹脂だけでは、強度が出ない所、固体のポリエステル樹脂が配合されているので、特に繊維状ポリエステル樹脂が配合されると補強材の作用を果たし、強度が発現する」という記載及び段落【0017】の「ポリエステル樹脂は、・・・(略)・・・マトリックスとなる他の熱可塑性樹脂と共に成形する際は固体状態が維持され、ガラス転移点以上に維持されていることが好ましい」という記載から理解できる。

ウ そうすると、引用発明において、溶融混練工程で「オレフィン系樹脂の溶融温度以上、他の合成樹脂の溶融温度未満の温度」を採用した場合、「ナイロン層及び/またはエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物層、芳香族ポリエステル層」を構成する他の合成樹脂の溶融が不完全なものとなって、相溶性が低下してしまい、引用発明の上記課題が解決できないことになるから、引用発明の「溶融混練工程」に引用文献7記載の技術的事項を採用すること、すなわち、上記相違点に係る溶融混練温度を採用することには阻害事由がある。

よって、本願発明1は、引用発明及び引用文献7に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明できたものとはいえない。

2.本願発明2-4について
本願の請求項1の従属項である請求項2-4に係る発明である本願発明2-4は、それぞれ、本願発明1の発明特定事項を全て備え、更に限定するものであるから、本願発明1と同じ理由により、引用発明及び引用文献7に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。


第6 むすび
以上のとおり、本願発明1-4は、当業者が引用発明及び引用文献7に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2020-03-09 
出願番号 特願2018-90260(P2018-90260)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (C08J)
最終処分 成立  
前審関与審査官 森 健一  
特許庁審判長 須藤 康洋
特許庁審判官 大畑 通隆
大島 祥吾
発明の名称 複合フィルムの再生方法  
代理人 吉川 まゆみ  
代理人 藤木 博  

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