ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C22C 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C22C 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C22C 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C22C |
---|---|
管理番号 | 1360451 |
異議申立番号 | 異議2019-700007 |
総通号数 | 244 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-04-24 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-01-10 |
確定日 | 2020-01-20 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6355813号発明「高温雰囲気で使用される管体及び管体の内表面に金属酸化物層を形成する方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6355813号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-10〕について訂正することを認める。 特許第6355813号の請求項1、3、6ないし8、10に係る特許を維持する。 特許第6355813号の請求項2、4、5、9に係る特許についての特許異議申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6355813号の請求項1?10に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成29年12月22日(パリ条約による優先権主張2017年10月4日、WO)の出願であって、平成30年6月22日にその特許権の設定登録がなされ、同年7月11日にその特許掲載公報が発行された。 本件は、その後、その特許について、平成31年1月10日に特許異議申立人谷口充弘(以下、「申立人」という。)により請求項1?10(全請求項)に係る特許に対して特許異議の申立てがなされ、同年3月29日付けで取消理由が通知され、これに対して、令和1年6月3日に特許権者より意見書が提出されるとともに訂正請求がなされ、同年7月3日付けで訂正拒絶理由が通知され、これに対して、同年7月25日に特許権者より意見書が提出されるとともに手続補正がなされ、その後、同年8月29日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、これに対して、同年10月21日に特許権者より意見書が提出されるとともに訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされたものである。 なお、申立人に対して、本件訂正請求後に意見を求めたが、申立人から意見書は提出されなかった。 第2 訂正請求について 1 訂正の趣旨、及び、訂正の内容 本件訂正請求は、特許第6355813号の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?10について訂正を求めるものであり、その訂正の内容は以下のとおりである。 なお、令和1年6月3日に特許権者が行った訂正請求は、本件訂正請求がなされたため、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。 また、当審で訂正箇所に下線を付した。 (1)訂正事項1 請求項1について、本件訂正前の「質量%にて、Cr:15%以上、及び、Ni:18%以上を含有する耐熱合金」を「質量%にて、 C:0.40%?0.60%、Si:0%を超えて1.0%以下、Mn:0%を超えて1.0%以下、Cr:15%?40%、Ni:18%?60%、W:0.5%?2.0%、Nb:0%を超えて0.50%以下、Al:2.0%?4.0%、希土類元素:0.05%?0.15%、Ti:0.05%?0.20%、残部Fe及び不可避不純物からなり、径方向に金属組織が配向性を持って成長した耐熱合金」と訂正する。 請求項1を引用する請求項3、6?8、10も同様に訂正する。 (2)訂正事項2 請求項1について、本件訂正前の「内表面は、三次元表面粗さの算術平均粗さ(Sa)が1.5≦Sa≦5.0、且つ、表面高さ分布の偏り度(Ssk)が|Ssk|≦0.30である」を「内表面は、三次元表面粗さの算術平均粗さ(Sa)が2.60≦Sa≦3.82、且つ、表面高さ分布の偏り度(Ssk)が|Ssk|≦0.23である」と訂正する。 請求項1を引用する請求項3、6?8、10も同様に訂正する。 (3)訂正事項3 請求項2を削除する。 (4)訂正事項4 請求項3について、本件訂正前の「請求項1又は請求項2に記載の管体」を「請求項1に記載の管体」と訂正する。 請求項3を引用する請求項6?8、10も同様に訂正する。 (5)訂正事項5 請求項4を削除する。 (6)訂正事項6 請求項5を削除する。 (7)訂正事項7 請求項6について、本件訂正前の「前記金属酸化物層は、Al酸化物を主体とするアルミナバリア層である」を「前記内表面には、面積率にて90%を超えるAl酸化物を含むアルミナバリア層が形成されている」と訂正する。 請求項6を引用する請求項7も同様に訂正する。 (8)訂正事項8 請求項6について、本件訂正前の「請求項5に記載の管体」を「請求項1又は請求項3に記載の管体」と訂正する。 請求項6を引用する請求項7も同様に訂正する。 (9)訂正事項9 請求項7について、本件訂正前の「請求項1乃至請求項6の何れかに記載の管体から構成される」を「請求項1、請求項3又は請求項6に記載の管体から構成される」と訂正する。 (10)訂正事項10 請求項8について、本件訂正前の「請求項1乃至請求項4の何れかに記載の管体の内表面に」を「請求項1又は請求項3に記載の管体の内表面に」と訂正する。 請求項8を引用する請求項10も同様に訂正する。 (11)訂正事項11 請求項8について、本件訂正前の「管体の前記内表面に表面加工を施して、前記内表面を、三次元表面粗さの算術平均粗さ(Sa)が1.5≦Sa≦5.0、且つ、表面高さ分布の偏り度(Ssk)が|Ssk|≦0.30とする表面加工工程」を「管体の前記内表面に表面加工を施して、前記内表面を、三次元表面粗さの算術平均粗さ(Sa)が2.60≦Sa≦3.82、且つ、表面高さ分布の偏り度(Ssk)が|Ssk|≦0.23とする表面加工工程」と訂正する。 請求項8を引用する請求項10も同様に訂正する。 (12)訂正事項12 請求項9を削除する。 (13)訂正事項13 請求項10について、本件訂正前の「請求項8又は請求項9に記載の管体の内表面にアルミナバリア層を形成する方法」を「請求項8に記載の管体の内表面にアルミナバリア層を形成する方法」と訂正する。 3 当審の判断 1-1 訂正の目的、特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び、新規事項追加の有無 (1)訂正事項1について 訂正事項1は、本件訂正前の請求項1の発明特定事項である「管体」について、その組成を、本件訂正前の「質量%にて、Cr:15%以上、及び、Ni:18%以上を含有する」を「質量%にて、C:0.40%?0.60%、Si:0%を超えて1.0%以下、Mn:0%を超えて1.0%以下、Cr:15%?40%、Ni:18%?60%、W:0.5%?2.0%、Nb:0%を超えて0.50%以下、Al:2.0%?4.0%、希土類元素:0.05%?0.15%、Ti:0.05%?0.20%、残部Fe及び不可避不純物からなり、」と訂正するとともに、「径方向に金属組織が配向性を持って成長した」ことを特定するものであって、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しない。 さらに、「質量%にて、C:0.40%?0.60%、Si:0%を超えて1.0%以下、Mn:0%を超えて1.0%以下、Cr:15%?40%、Ni:18%?60%、W:0.5%?2.0%、Nb:0%を超えて0.50%以下、Al:2.0%?4.0%、希土類元素:0.05%?0.15%、Ti:0.05%?0.20%、残部Fe及び不可避不純物からな」る事項は、願書に添付された明細書(以下、「本件明細書」という。)の【0031】に、「径方向に金属組織が配向性を持って成長した」事項は本件明細書の【0051】に、それぞれ記載されているから、訂正事項1は、願書に添付した特許請求の範囲、明細書及び図面(以下、「本件明細書等」という。)に記載した範囲内の訂正である。 (2)訂正事項2について 訂正事項2は、本件訂正前の請求項1の発明特定事項である「管体」について、本件明細書【0055】、及び、【0064】の【表1】を根拠として、本件訂正前の「内表面は、三次元表面粗さの算術平均粗さ(Sa)が1.5≦Sa≦5.0、且つ、表面高さ分布の偏り度(Ssk)が|Ssk|≦0.30である」を「内表面は、三次元表面粗さの算術平均粗さ(Sa)が2.60≦Sa≦3.82、且つ、表面高さ分布の偏り度(Ssk)が|Ssk|≦0.23である」と訂正するものであって、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないし、本件明細書等に記載した範囲内の訂正である。 (3)訂正事項3、5、6、12について 訂正事項3、5、6、12は、それぞれ請求項2、4、5、9を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないし、本件明細書等に記載された範囲内の訂正である。 (4)訂正事項4について 訂正事項4は、訂正事項3において請求項2を削除することに伴い、本件訂正前の請求項3について、請求項2を引用しないようにするものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないし、本件明細書等に記載された範囲内の訂正である。 (5)訂正事項7について 訂正事項7は、本件訂正前の請求項6の発明特定事項である「管体」について、本件訂正前の「前記金属酸化物層は、Al酸化物を主体とするアルミナバリア層である」を「前記内表面には、面積率にて90%を超えるAl酸化物を含むアルミナバリア層が形成されている」と訂正するものであるところ、本件訂正前の請求項6は、請求項5を引用するものであるから、本件訂正前の請求項5の「内表面に金属酸化物を主体とする金属酸化物層が形成されている」事項を含むものである。 そうすると、訂正事項7は、実質的に、本件訂正前の「内表面にAl酸化物を主体とするアルミナバリア層が形成されている」事項を「内表面には、面積率にて90%を超えるAl酸化物を含むアルミナバリア層が形成されている」事項と訂正するものであって、本件訂正前の「Al酸化物を主体とする」との記載が不明瞭であったものを、「面積率にて90%を超える」と明瞭にしたものであるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しない。 また、「前記内表面には、面積率にて90%を超えるAl酸化物を含むアルミナバリア層が形成されている」事項は、本件明細書の【0077】に記載されているから、訂正事項7は、本件明細書等に記載した範囲内の訂正である。 (6)訂正事項8について 訂正事項8は、訂正事項6において請求項5を削除することに伴い、本件訂正前の請求項6について、請求項5を引用しないようにするとともに、本件訂正前の請求項5が引用していた請求項1?4のうち、請求項1及び3を引用するようにしたものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないし、本件明細書等に記載された範囲内の訂正である。 (7)訂正事項9について 訂正事項9は、訂正事項3、5、6において、それぞれ請求項2、4、5を削除することに伴い、本件訂正前の請求項7について、請求項2、4、5を引用しないようにするものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないし、本件明細書等に記載された範囲内の訂正である。 (8)訂正事項10について 訂正事項10は、訂正事項3、5において、それぞれ請求項2、4を削除することに伴い、本件訂正前の請求項8について、請求項2、4を引用しないようにするものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないし、本件明細書等に記載された範囲内の訂正である。 (9)訂正事項11について 訂正事項11は、本件訂正前の請求項8の発明特定事項である「管体」について、本件明細書【0055】、及び、【0064】の【表1】を根拠として、本件訂正前の「管体の前記内表面に表面加工を施して、前記内表面を、三次元表面粗さの算術平均粗さ(Sa)が1.5≦Sa≦5.0、且つ、表面高さ分布の偏り度(Ssk)が|Ssk|≦0.30とする表面加工工程」を「管体の前記内表面に表面加工を施して、前記内表面を、三次元表面粗さの算術平均粗さ(Sa)が2.60≦Sa≦3.82、且つ、表面高さ分布の偏り度(Ssk)が|Ssk|≦0.23とする表面加工工程」と訂正するものであって、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないし、本件明細書等に記載した範囲内の訂正である。 (10)訂正事項13について 訂正事項13は、訂正事項12において、請求項9を削除することに伴い、本件訂正前の請求項10について、請求項9を引用しないようにするものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないし、本件明細書等に記載された範囲内の訂正である。 3-2 一群の請求項について 本件訂正前の請求項2?10は請求項1を引用するものであるから、本件訂正前の請求項1?10は一群の請求項である。 そして、本件訂正は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものではなく、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもないから、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔1?10〕を訂正単位とする訂正の請求をするものである。 3-3 独立特許要件について 訂正事項1?6、8?13は、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであるが、本件訂正請求に係る請求項はいずれも特許異議の申立てがなされているので、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならないとの、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。 3-4 訂正請求についてのむすび 以上のとおりであるから、令和1年10月21日に特許権者が行った訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項第1号及び第3項に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、並びに、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?10〕についての訂正を認める。 第3 特許異議申立について 1 本件発明 令和1年10月21日に特許権者が行った請求項1?10についての訂正は、上記第2で検討したとおり適法なものであるから、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?10に係る発明(以下、これらを請求項数に応じて、それぞれ「本件発明1」?「本件発明10」という。また、これらをまとめて「本件発明」という。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?10に記載された次のとおりのものである。 「【請求項1】 高温雰囲気で使用される管体であって、 質量%にて、C:0.40%?0.60%、Si:0%を超えて1.0%以下、Mn:0%を超えて1.0%以下、Cr:15%?40%、Ni:18%?60%、W:0.5%?2.0%、Nb:0%を超えて0.50%以下、Al:2.0%?4.0%、希土類元素:0.05%?0.15%、Ti:0.05%?0.20%、残部Fe及び不可避不純物からなり、径方向に金属組織が配向性を持って成長した耐熱合金から構成され、 内表面は、三次元表面粗さの算術平均粗さ(Sa)が2.60≦Sa≦3.82、且つ、表面高さ分布の偏り度(Ssk)が|Ssk|≦0.23である、 ことを特徴とする管体。 【請求項2】 (削除) 【請求項3】 前記内表面は、三次元表面粗さの表面高さ分布の尖り度(Sku)がSku≧2.5である、 請求項1に記載の管体。 【請求項4】 (削除) 【請求項5】 (削除) 【請求項6】 前記内表面には、面積率にて90%を超えるAl酸化物を含むアルミナバリア層が形成されている、 請求項1又は請求項3に記載の管体。 【請求項7】 請求項1、請求項3又は請求項6に記載の管体から構成される、 オレフィン製造用反応管。 【請求項8】 請求項1又は請求項3に記載の管体の内表面に、Al酸化物を含むアルミナバリア層を形成する方法であって、 管体の前記内表面に表面加工を施して、前記内表面を、三次元表面粗さの算術平均粗さ(Sa)が2.60≦Sa≦3.82、且つ、表面高さ分布の偏り度(Ssk)が|Ssk|≦0.23とする表面加工工程、 前記表面加工の施された前記管体を熱処理し、前記管体の内表面にAl酸化物を含むアルミナバリア層を形成する熱処理工程と、 を有する、管体の内表面にアルミナバリア層を形成する方法。 【請求項9】 (削除) 【請求項10】 前記表面加工工程は、ブラスト処理である、 請求項8に記載の管体の内表面にアルミナバリア層を形成する方法。」 2 取消理由の概要 2-1 令和1年8月29日付けで通知された取消理由(決定の予告)の概要 2-1-1 特許法第36条第6項第1号について (1)合金の組成について(申立書の理由1.1.) 本件合金組成が特定されていない本件発明1?10は、本件発明の課題を解決し得るとはいえないから、その発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。 よって、本件発明1?10は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、取り消されるべきものである。 (2)合金の金属組織について(申立書の理由1.2.) 径方向に微細な金属組織が配向性をもって成長したものであることが特定されていない本件発明1?10は、本件発明の課題を解決し得るとはいえないから、その発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。 よって、本件発明1?10は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、取り消されるべきものである。 (3)算術平均粗さ(Sa)及び表面高さ分布の偏り度(Ssk)について(申立書の理由1.3.) 「算術平均粗さ(Sa)」及び「表面高さ分布の偏り度(Ssk)」について、1.5≦Sa<2.60、3.82<Sa≦5.0、0.23<|Ssk|≦0.30を含む本件発明1?10は、本件発明の課題を解決し得ない範囲を含むものであるから、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えたものである。 よって、本件発明1?10は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、取り消されるべきものである。 (4)「突起」の存在について(申立書の理由1.5.及び1.6.) 「内表面には、肉盛溶接によって突起が形成されて」いる本件発明4は、その発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。 よって、本件発明4?10は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、取り消されるべきものである。 (5)「金属酸化物」について(申立書の理由1.7.) 請求項5に記載された「金属酸化物」としてAl酸化物以外を用いたものについて、発明の詳細な説明に記載されているとはいえないから、本件発明5?7は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。 よって、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、取り消されるべきものである。 2-1-2 特許法第36条第6項第2号について (1)「金属酸化物を主体とする金属酸化物層」について(申立書の理由2.4.) 請求項5の「金属酸化物を主体とする金属酸化物層」は、明確とはいえないから、本件発明5?7は、明確でない。 よって、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、取り消されるべきものである。 (2)「Al酸化物を主体とするアルミナバリア層」について(申立書の理由2.5.) 請求項6の「Al酸化物を主体とするアルミナバリア層」は、明確とはいえないから、本件発明6、7は、明確でない。 よって、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、取り消されるべきものである。 2-2 上記2-1以外の平成31年3月29日付けで通知された取消理由の概要 2-2-1 特許法第36条第6項第2号について (1)「算術平均粗さ(Sa)」及び「表面高さ分布の偏り度(Ssk)」の測定条件について(申立書の理由2.1.) 本件発明1の「内表面は、三次元表面粗さの算術平均粗さ(Sa)が1.5≦Sa≦5.0、且つ、表面高さ分布の偏り度(Ssk)が|Ssk|≦0.30である」との事項は、明確とはいえないから、本件発明1?10は、明確とはいえない。 よって、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、取り消されるべきものである。 (2)「表面高さ分布の尖り度(Sku)」の測定条件について(申立書の理由2.2.) 本件発明3の「内表面は、三次元表面粗さの表面高さ分布の尖り度(Sku)がSku≧2.5である」との事項は、明確とはいえないから、本件発明3?10は、明確とはいえない。 よって、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、取り消されるべきものである。 (3)「突起」の「算術平均粗さ(Sa)」及び「表面高さ分布の偏り度(Ssk)」の測定条件について(申立書の理由2.3.) 本件発明4の「突起の三次元表面粗さの算術平均粗さ(Sa)が1.5≦Sa≦5.0、且つ、表面高さ分布の偏り度(Ssk)が|Ssk|≦0.30である」との事項は、明確とはいえないから、本件発明4?10は、明確とはいえない。 よって、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、取り消されるべきものである。 2-2-2 特許法第36条第4項第1号について (1)「算術平均粗さ(Sa)」及び「表面高さ分布の偏り度(Ssk)」の測定条件について(申立書の理由3.1.) 本件発明1の「算術平均粗さ(Sa)」及び「表面高さ分布の偏り度(Ssk)」の測定時における「カットオフ周波数」が不明であるから、当業者が本件発明1の「管体」を製造することが困難である。 したがって、本件の発明の詳細な説明は、本件発明1?10について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえないから、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、取り消されるべきものである。 (2)「表面高さ分布の尖り度(Sku)」の測定条件について(申立書の理由3.2.) 本件発明3の「表面高さ分布の尖り度(Sku)」の測定時における「カットオフ周波数」が不明であるから、当業者が本件発明3の「管体」を製造することが困難である。 よって、本件の発明の詳細な説明は、本件発明3?10について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえないから、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、取り消されるべきものである。 (3)表面加工方法について(申立書の理由3.3.、3.4.、3.6.及び3.7) 本件発明1の「内表面は、三次元表面粗さの算術平均粗さ(Sa)が1.5≦Sa≦5.0、且つ、表面高さ分布の偏り度(Ssk)が|Ssk|≦0.30である」との事項、本件発明3の「内表面は、三次元表面粗さの表面高さ分布の尖り度(Sku)がSku≧2.5である」との事項、及び、本件発明8の「内表面を、三次元表面粗さの算術平均粗さ(Sa)が1.5≦Sa≦5.0、且つ、表面高さ分布の偏り度(Ssk)が|Ssk|≦0.30とする」との事項を得るための方法が、本件明細書に記載されていない。 よって、本件の発明の詳細な説明は、本件発明1?10について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえないから、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、取り消されるべきものである。 (4)突起の表面加工方法について(申立書の理由3.5.及び3.7) 本件発明4は、「突起の三次元表面粗さの算術平均粗さ(Sa)が1.5≦Sa≦5.0、且つ、表面高さ分布の偏り度(Ssk)が|Ssk|≦0.30である」との事項を得るための方法が、本件明細書に記載されていない。 よって、本件の発明の詳細な説明は、本件発明4?10について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえないから、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、取り消されるべきものである。 3 上記2以外の特許異議申立理由の概要 3-1 特許法第36条第6項第1号について (1)表面高さ分布の尖り度(Sku)について(申立書の理由1.4.) 「表面高さ分布の偏り度(Sku)」について、Sku≧2.5を含む本件発明3?10は、本件発明の課題を解決し得ない範囲を含むものであるから、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えたものである。 よって、本件発明3?10は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、取り消されるべきものである。 3-2 特許法第29条第1項第3号について 本件特許の請求項1?3、5?8に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記a、bの刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 3-3 特許法第29条第2項について 本件特許の請求項1?10に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記a?eの刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 <刊行物> a 特開2013-198917号公報(申立人が提出した甲第6号証:以下、「甲6」という。) b 国際公開第2013/141030号(申立人が提出した甲第7号証:以下、「甲7」という。) c 特開2002-3970号公報(申立人が提出した甲第8号証:以下、「甲8」という。) d 特開平6-109392号公報(申立人が提出した甲第9号証:以下、「甲9」という。) e 特開昭63-50726号公報(申立人が提出した甲第10号証:以下、「甲10」という。) 4 本件明細書の記載 本件明細書には、次の記載がある。 「【0003】 反応管は、高温雰囲気に曝され、また、流通するガスによる酸化、浸炭、窒化等の影響を受けやすいため、これらに対するすぐれた耐性が求められている。そこで、流通するガスと接触する管内面に金属酸化物からなる層を形成し、この金属酸化物層がバリアとなって、高温雰囲気で管内面を保護する反応管が開発されている。 【0004】 しかしながら、管内面に形成される金属酸化物がCr酸化物であると、緻密性が低く、密着性に欠けるため、使用条件によっては管内面の十分な保護機能を図ることができない。このため、特許文献1では、金属酸化物としてAl酸化物を主体とするアルミナバリア層が内面に形成された反応管を提案している。 【0005】 管内面にアルミナバリア層が形成されることで、高温雰囲気下での使用において、すぐれた耐酸化性、耐浸炭性、耐窒化性等を実現できる。 【0006】 Al酸化物を管内面に好適に形成し、Cr酸化物の形成を抑制するために、特許文献1では、管内面に表面加工を施している。具体的には、管内面の表面加工によって、その表面粗さ(Ra)が0.5μm?2.5μmとなるように調整している。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0007】 【特許文献1】WO2010/113830号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0008】 しかしながら、管内面の二次元表面粗さ(Ra)を所望範囲に調整しても、安定してAl酸化物を形成できないことがあり、金属酸化物層(アルミナバリア層)の面積率がばらつくことがあった。 【0009】 そこで、二次元表面粗さ(Ra)が所望範囲にありながら、アルミナバリア層の面積率がばらついた管の内面を観察したところ、表面加工の際に、管内面が研削材にむしりとられて部分的に突起や凹みとなる所謂ムシレが発生していた。そして、ムシレ部分にはAl酸化物が上手く形成されていないことがわかった。Al酸化物は、熱処理によって、管内部のAlが内面側に移動して酸化されることで形成されるが、このムシレ部分ではAlの移動が阻害され、Alが十分に供給されず、拡散できないこと、また、ムシレ部分にAlが供給されたとしても、ムシレ部分は凹凸が大きく、その比表面積が大きいことから消費されるAlが多く、結果として均一なアルミナバリア層が形成され難いことが原因であるとの知見を得た。 【0010】 本発明の目的は、高温雰囲気で使用される管体及び管体の内表面に高い面積率で安定して金属酸化物層を形成する方法を提供することである。」 「【0026】 本発明の管体は、たとえば図1に示すように管状(管本体12)に形成され、エチレン製造用熱分解管やオレフィン系炭化水素ガスやスチレンモノマーなどの熱分解用分解管などとして炭化水素製造用の加熱炉に使用することができる。 【0027】 管体は、Cr:15%以上、及び、Ni:18%以上を含有する耐熱合金から構成される。望ましくは、Al:2.0%?4.0%を含有する。成分限定理由は以下の通りである。 【0028】 Cr:15%以上 Crは、高温強度及び耐酸化性の向上への寄与の目的のため、15%以上含有させる。しかし、含有量があまり多くなるとクロム酸化物(Cr_(2)O_(3)等)が優先して形成され、Alを含有させた際にアルミナバリア層の形成が阻害されるため、上限は40%とすることが望ましい。なお、Crの含有量は20%?35%がより望ましい。 【0029】 Ni:18%以上 Niは、耐浸炭性、耐酸化性及び金属組織の安定性の確保に必要な元素である。また、Niは、アルミナバリア層の再生能を高める働きがあるため、18%以上含有させる。一方で、60%を超えて含有させても、増量による効果は飽和するので、上限は60%とすることが望ましい。なお、Niの含有量は30%?45%がより望ましい。 【0030】 Al:2.0%?4.0% Alは、アルミナバリア層を形成するAl酸化物の材料である。アルミナバリア層の安定形成能や再生能を発揮するために、Alは2.0%以上含有させることが望ましい。一方で、Alの含有量が4.0%を越えると、これら能力は飽和するから、上限は4.0%とする。なお、Alの含有量は3.0%?4.0%がより望ましい。 【0031】 なお、上記管体の具体的構成元素として、C:0.40%?0.60%、Si:0%を越えて1.0%以下、Mn:0%を越えて1.0%以下、Cr:15%?40%、Ni:18%?60%、W:0.5%?2.0%、Nb:0%を越えて0.50%以下、Al:2.0%?4.0%、希土類元素:0.05%?0.15%、Ti:0.05?0.20%、残部Fe及び不可避的不純物からなる材料を例示できる。なお、不可避的不純物として、P、Sを例示でき、これらは合計量で0.06%を上限とする。」 「【0050】 本発明の管体は、たとえば、以下の要領で製造することができる。 【0051】 管体は、上記成分組成の溶湯を溶製し、遠心力鋳造、静置鋳造等により管状に鋳造される。本発明は、遠心力鋳造により作製される管本体に特に好適である。遠心力鋳造を適用することで、金型による冷却の進行によって径方向に微細な金属組織が配向性をもって成長し、金属酸化物層を形成する金属元素(たとえばAl)が移動し易い合金組織を得ることができるためである。これにより、後述する熱処理において、薄い金属酸化物層(たとえばアルミナバリア層)でありながら、繰り返し加熱の環境下でもすぐれた強度を有する酸化物被膜の形成された管本体12を得ることができる。」 「【0054】 <表面加工工程> 管体の内表面、突起を形成した場合には管体の内表面及び突起の表面(以下、これらを合わせて「管体の表面」と称する)に表面加工を施す。表面加工として、ブラスト処理やホーニング処理を例示できる。なお、ホーニング処理の場合、前処理として、ボーリング処理及びスカイビング処理を施すことが望ましい。突起を形成する場合には、ボーリング処理やスカイビング処理は突起形成前に実施すれば良い。 【0055】 表面加工は、管体の表面が、三次元表面粗さの算術平均粗さ(Sa)が1.5≦Sa≦5.0、且つ、表面高さ分布の偏り度(Ssk)が|Ssk|≦0.30となるように実施する。Saは、2.5≦Sa≦4.0とすることが望ましい。また、Sskは、|Ssk|≦0.20とすることが望ましい。 【0056】 管体の表面を上記のように加工することで、管体の表面に表面加工によるムシレの発生を抑えることができ、また、管体の表面に表面加工による残留応力を付与できる。これにより、続く熱処理において、高温の再結晶時に表面直下の結晶粒径が微細化して、略均等に金属酸化物層を形成する金属元素(たとえばAl)が表面に移動し易くなり、上記金属元素を管体の表面で濃化することができ、金属酸化物を含む金属酸化物層を管体の表面に高い面積率で形成することができる。」 「【0060】 <熱処理> 管体の表面に上記表面加工を施した後、管体を酸化性雰囲気下(酸素を20体積%以上含む酸化性ガス、スチームやCO_(2)が混合された酸化性環境)で熱処理することで、管体の内表面(突起が形成されている場合には突起の表面を含む)に金属酸化物層(たとえばアルミナバリア層)が形成される。なお、この熱処理は、独立した工程として実施することもできるし、加熱炉に管体を設置して使用される際の高温雰囲気においても実施することができる。 【0061】 熱処理を施すことにより、管体の表面が酸素と接触し、基地表面に拡散したAl、Cr、Ni、Si、Feを酸化させて金属酸化物層が形成される。800℃以上の好適な温度範囲において1時間以上の熱処理を行なうことで、管体の内表面(突起が形成されている場合には突起の表面を含む)では、Alを含有する場合、Cr、Ni、Si、Feよりも優先してAlが酸化物(Al_(2)O_(3))を形成し、Al酸化物が主体のアルミナバリア層が形成される。」 「【実施例】 【0063】 高周波誘導溶解炉の大気溶解により本発明の組成の合金溶湯を溶製し、遠心力鋳造し、表面に粗加工を施した供試材(発明例1?発明例7、比較例1?比較例6)を作成した。得られた供試材の表面に表1及び表2に示す表面加工を施した。 【0064】 【表1】 【0065】 【表2】 【0066】 表1中の表面加工の詳細を表2に示している。表2中の各処理について、供試材に対して実施した表面加工にチェックを入れている。何れの表面加工においても、供試材の表面に切削加工による「ボーリング」処理を施している。その他の処理の詳細は以下の通りである。 【0067】 「鏡面研磨」は、微粉状の研磨材を用いてバフ研磨を施した処理である。「#1000ペーパー」は、1000番のサンドペーパーを用いて表面を研ぐ処理である。「スカイビング」は、切削加工の処理であり、「スカイビング1」と「スカイビング2」は、チップ形状と加工工具回転数の点で異なる。「ホーニング」は、研削加工の処理である。「ブラスト」は、研削材として平均粒径60μmのアルミナを噴射するブラスト処理である。「2カット+ホーニング」は、ボーリング処理及びスカイビング処理を施した後、ホーニング処理を施している。 【0068】 表面加工を施した各供試材について、その表面の20mm×10mm以上の領域に、ワンショット3D測定マイクロスコープVR-3100(株式会社キーエンス製)を用いて表面粗さとプロファイルを測定した。測定条件は、約20mm×約7mmの面積に対し、倍率80倍、スーパーファインモードと深度合成モード、両側照明とし、自動画像連結を利用して実施した。」 「【0078】 一方、比較例は何れもAl酸化物の面積率が90%以下である。比較例1及び比較例2は、鏡面研磨、#1000ペーパー処理によってSaが、Sa<1.5と小さくなりすぎた結果、表面加工によって管体の内表面に十分な残留応力を付与することができず、熱処理によってもAlが表面に濃化し難く、Al酸化物を十分に形成することができなかったものと考えられる。比較例3は、Sa>5.0となっており、Raも基準となる2.5を超えている。これは、加工歪みが過剰に残留した状態となり、Cr酸化物スケールが生成されやすくなると考えられる。また、比較例4乃至比較例6は、|Ssk|>0.30であり、供試材の表面にムシレが存在し、ムシレ部分でAlが表面に濃化せず、酸化アルミニウムが供試材の内部に形成され、表面にAl酸化物が上手く形成されなかったものと考えられる。そして、ムシレ部分は、比表面積が大きいから、供給されたAlが分散して、Alを濃化させることができず、十分にAl酸化物が形成されなかったものと考えられる。 【0079】 とくに、「2カット+ホーニング」の発明例5乃至発明例7と「1カット+ホーニング」の比較例5及び比較例6は、スカイビング処理の有無が異なるのみである。しかしながら、これら発明例は|Ssk|≦0.25であり、これら比較例は|Ssk|>0.25であって、Al酸化物の面積率も比較例は発明例に比べて劣っている。これは、比較例にムシレが発生しているためであり、ボーリングの後ホーニングを行なうだけでは、ボーリングにより生じたムシレがホーニングで十分に除去されていないことが原因であると考えられる。」 5 引用文献の記載 (1)甲6の記載 甲6には、次の記載がある。なお、下線は当審で付した。以下、同じ。 「【技術分野】 【0001】 本発明は、アルミナバリア層を有する鋳造製品及びその製造方法に関するものであり、より具体的には、鋳造体どうしを溶接により接合してなるアルミナバリア層を有する鋳造製品及びその製造方法に関するものである。 【背景技術】 【0002】 エチレン製造用反応管や分解管、浸炭熱処理炉のハースロール、ラジアントチューブ、耐メタルダスティング材などの耐熱鋳鋼品では、高温雰囲気に曝されるため、高温強度にすぐれるオーステナイト系の耐熱合金が用いられている。」 「【0012】 本発明の目的は、上記問題点を解消する為、溶接部を含む鋳造体表面全体にアルミナバリア層が形成された鋳造製品及びその製造方法を提供することである。」 「【0019】 以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。 本発明は、Cr15%以上Ni18%以上を含有し、Alを2?4%含有する耐熱合金の第1鋳造体と第2鋳造体を溶接し、接合された第1鋳造体と第2鋳造体の溶接部に表面処理を施し、その後、溶接部に熱処理を施すことにより、溶接部がAl_(2)O_(3)を含む所謂「アルミナバリア層」で形成された鋳造製品を得るものである。なお、本明細書において、「%」は、特に表示がないときは、全て質量%である。 【0020】 <成分限定理由の説明> 【0021】 Cr:15%以上 Crは、高温強度及び繰返し耐酸化性の向上への寄与の目的のため、15%以上含有させる。しかし、含有量があまり多くなると高温クリープ破断強度の低下を招くので上限は50%とする。なお、Crの含有量は23?35%がより望ましい。 【0022】 Ni:18%以上 Niは、繰返し耐酸化性及び金属組織の安定性の確保に必要な元素である。また、Niの含有量が少ないと、Feの含有量が相対的に多くなる結果、鋳造体の表面にCr-Fe-Mn酸化物が生成され易くなるため、アルミナバリア層の生成が阻害される。このため、少なくとも18%以上含有させるものとする。70%を超えて含有しても増量に対応する効果が得られないので、上限は70%とする。なお、Niの含有量は28?45%がより望ましい。 【0023】 Al:2?4% Alは耐浸炭性及び耐コーキング性の向上に有効な元素である。また、本発明では、鋳造体の表面にアルミナバリア層を生じさせるために必要不可欠の元素である。このため、少なくとも2%以上含有させる。しかし、含有量が4%を超えると、前述したように延性が劣化するため、本発明では上限を4%に規定する。なお、Alの含有量は2.5?3.8%がより望ましい。 【0024】 その他、下記の成分を含有することが好適である。 【0025】 C:0.05?0.7% Cは、鋳造性を良好にし、高温クリープ破断強度を高める作用がある。このため、少なくとも0.05%を含有させる。しかし、含有量があまり多くなると、Cr_(7)C_(3)の一次炭化物が幅広く形成され易くなり、アルミナバリア層を形成するAlの移動が抑制されるため、鋳造体の表面部へのAlの供給不足が生じて、アルミナバリア層の局部的な寸断が起こり、アルミナバリア層の連続性が損なわれる。また、二次炭化物が過剰に析出するため、延性、靱性の低下を招く。このため、上限は0.7%とする。なお、Cの含有量は0.3?0.5%がより望ましい。 【0026】 Si:0%を超えて2.5%以下 Siは、溶湯合金の脱酸剤として、また溶湯合金の流動性を高めるために含有させるが、含有量があまり多くなると高温クリープ破断強度の低下を招くので上限は2.5%とする。なお、Siの含有量は2.0%以下がより望ましい。 【0027】 Mn:0%を超えて3.0%以下 Mnは、溶湯合金の脱酸剤として、また溶湯中のSを固定するために含有させるが、含有量があまり多くなると高温クリープ破断強度の低下を招くので上限は3.0%とする。なお、Mnの含有量は1.6%以下がより望ましい。 【0028】 希土類元素:0.005?0.4% 希土類元素とは、周期律表のLaからLuに至る15種類のランタン系列に、YとScを加えた17種類の元素を意味するが、本発明の耐熱合金に含有させる希土類元素は、Ce、La及びNdからなる群のうち少なくとも一種以上が含まれることが好ましい。この希土類元素は、アルミナバリア層の生成と安定化の促進に寄与する。 アルミナバリア層の生成を高温の酸化性雰囲気下での加熱処理によって行なう場合は、希土類元素を0.005%以上含有させることでアルミナバリア層生成に有効に寄与する。 一方、あまりに多く含有すると、延性、靱性が悪化するので、上限は0.4%とする。 【0029】 W:0.5?10%及び/又はMo:0.1?5% W、Moは、基地中に固溶し、基地のオーステナイト相を強化することにより、クリープ破断強度を向上させる。この効果を発揮させるために、W及びMoの少なくとも一種を含有させるものとし、Wの場合は0.5%以上、Moの場合は0.1%以上含有させる。 しかし、W及びMoは、含有量があまり多くなると、延性の低下や、耐浸炭性の劣化を招く。また、Cが多い場合と同じように、(Cr,W,Mo)_(7)C_(3)の一次炭化物が幅広く形成され易くなり、アルミナバリア層を形成するAlの移動が抑制されるため、鋳造体の表面部分へのAlの供給不足が生じ、アルミナバリア層の局部的な寸断が起こり、アルミナバリア層の連続性が損なわれ易くなる。また、WやMoは原子半径が大きいため、基地中に固溶することにより、AlやCrの移動を抑制してアルミナバリア層の生成を妨げる作用がある。 このため、Wは10%以下、Moは5%以下とする。なお、両元素を含有する場合でも、合計含有量は10%以下とすることが好ましい。 【0030】 Ti:0.01?0.6%、Zr:0.01?0.6%及びNb:0.1?3.0%の少なくとも一種 Ti、Zr及びNbは、炭化物を形成し易い元素であり、WやMoほど基地中には固溶しないため、アルミナバリア層の形成には特段の作用は認められないが、クリープ破断強度を向上させる作用がある。必要に応じて、Ti、Zr及びNbの少なくとも一種を含有させることができる。含有量は、Ti及びZrが0.01%以上、Nbが0.1%以上である。 しかし、過剰に添加すると、延性の低下を招く。Nbは、さらに、アルミナバリア層の耐剥離性を低下させる。このため、上限は、Ti及びZrは0.6%、Nbは3.0%とする。 【0031】 B:0.1%以下 Bは、鋳造体の粒界を強化する作用があるので、必要に応じて含有させることができる。なお、含有量が多くなるとクリープ破断強度の低下を招くため、添加する場合でも0.1%以下とする。」 「【0033】 <鋳造体> 本発明の鋳造製品を構成する第1鋳造体及び第2鋳造体は、溶湯を溶製し、遠心力鋳造、静置鋳造等により上記組成に鋳造される。 得られた第1鋳造体及び第2鋳造体は、溶接接合を行なうことで目的とする用途に応じた形状とすることができる。 なお、溶接を行なう前に、必要に応じて開先加工等を施すこともできる。 また、本発明において溶接方法や溶接時に用いられる溶接棒の組成は制約されるものではなく、本発明の鋳造体を溶接可能な方法として、TIG溶接、アーク溶接等が例示できる。」 「【0035】 このような溶接部には、後工程にて熱処理を施したとしても、アルミナバリア層を構成するAl_(2)O_(3)を十分に形成することはできない。 【0036】 そこで、本発明では、鋳造体どうしを溶接した後、製品使用時に高温雰囲気と接触することとなる対象部位に表面処理を行ない、該部位の表面粗さを調整した上で、酸化雰囲気中での加熱処理を行なうようにしている。 【0037】 <表面処理> 表面処理は、研磨処理を例示することができる。この表面処理は、製品使用時に高温雰囲気と接触することとなる対象部位の全体に行なうことが望ましい。ただし、対象部位全体を同時に行う必要はなく、溶接部以外は予め表面処理等を行なって表面粗さを調整し、溶接部のみ又は溶接部とその近傍のみに表面処理を施してもよい。 【0038】 表面処理は、対象部位の表面粗さ(Ra)が0.05?2.5μmとなるように実施することができる。より望ましくは、表面粗さ(Ra)は0.5?1.0μmとする。表面粗さ(Ra)が0.05μm未満であると、CrがAlに優先して酸化するが、0.05μm以上であると、Cr酸化物スケールの生成を抑えることができ、続く熱処理によりより好適にアルミナバリア層を形成することができる。2.5μm以上となると加工歪みが発生することによってCr酸化物スケールが生成されやすくなると考えられる。また、このとき表面処理により表面粗さを調整することによって、熱影響部の残留応力や歪みも同時に除去することができる。」 「【0041】 <熱処理> 溶接により接合された鋳造体に表面処理を施した後、以下の条件の熱処理を行なう。 熱処理は、酸化性雰囲気下にて加熱処理を施すことで実施される。 酸化性雰囲気とは、酸素を20体積%以上含む酸化性ガス、又はスチームやCO_(2)が混合された酸化性環境である。また、加熱処理は、900℃以上、好ましくは1000℃以上、より好ましくは1050℃以上の温度で行ない、加熱時間は1時間以上である。 【0042】 <鋳造製品> 上記のように、溶接部に対して、溶接、表面処理及び熱処理を順に行なうことで、溶接により生ずる鋳造体の熱影響部と溶金部を含む溶接部にアルミナバリア層が安定して形成された鋳造製品を得ることができる。」 「【実施例】 【0048】 高周波誘導溶解炉の大気溶解により溶湯を溶製し、金型遠心力鋳造により、下記表1に掲げる合金化学組成の管体(外径59mm、肉厚8mm、長さ3000mm)を夫々2本ずつ鋳造し、管体の一辺に開先加工を施して、対となる同じ組成の管体どうしを突合せ溶接により接合した。 なお、表1中、「REM」は希土類元素を表わす。 【0049】 得られた供試管は、供試管No.1?No.8が本発明の実施例、供試管No.11?No.13が比較例である。より具体的には、比較例は、供試管No.11が本発明の合金化学組成に対してAlを多く含む比較例、供試管No.12は本発明の合金化学組成に対してNiを多く含む比較例、供試管No.13は合金化学組成が本発明に含まれるが、溶接部に表面処理を施していない比較例である。 【0050】 【表1】 【0051】 <表面処理> これら供試管に対し、管内面側の溶接部を中心として幅方向に約20mm?40mmの範囲に粗加工であるスカイビングを行なった。 さらに、供試管No.1?No.8、No.11及びNo.12(即ち、供試管No.13以外)については、ペーパー研磨による表面処理を行なった。 各供試管の溶接部における表面粗さ(Ra)を表1に示している。 【0052】 <熱処理前の目視観察> 発明例である供試管No.4と、比較例である供試管No.13について、供試管を軸方向に切断した写真を夫々図1及び図2に示す。 図1と図2を比較すると、本発明例である供試No.4は、溶接部に光沢があり、面処理により溶接部の凹凸が低減していることがわかる。 【0053】 <熱処理> 表面処理の後、すべての供試管について、大気中(酸素約21%)、1000℃、10時間の加熱を施し、加熱後、炉冷する処理を行なった。 【0054】 <表面測定> 前記処理を行なった後の各試験管について、溶接部を含む幅20mm×長さ30mmの供試片を切り出し、供試片の内側の溶接部に形成されたアルミナバリア層の皮膜厚さ(μm)とAl_(2)O_(3)の面積率(%)を測定した。その測定方法を以下に示し、また、これらの測定結果を表2中に「皮膜厚さ」、「面積率」として記載している。 【0055】 <皮膜厚さの測定> 供試片の溶接部表面に対するアルミナバリア層の層厚の測定は、SEM(走査型電子顕微鏡)により行なった。なお、アルミナバリア層が生成されなかったもの、アルミナバリア層の一部に厚さ0.05μm未満(厚さゼロを含む)の箇所が断続的に存在するものは、表2中、「N」の文字を付している。 【0056】 <皮膜の面積率測定> 供試片の溶接部表面に対するAl_(2)O_(3)の面積率は、SEM/EDX(走査型分析電子顕微鏡)測定試験機を用いた。測定は、供試片の溶接部表面の1.35mm×1mmの領域について実施し、Alの分布状況を面分析して、その分布量を面積率に換算した。 【0057】 <延性試験> 供試管から引張試験片をJIS Z2201に準拠して試験片を作製し、延性試験を行なった。 具体的には、試験片は、溶接部を含む平行部径10mm、平行部長さ50mmを加工し、JIS Z2241の金属材料引張試験方法に従って延性試験を行なった。なお、試験は室温で行なったが、その理由は、高温で行なうよりも差が明確に現れるためである。 【0058】 上記各試験の結果を表2に示す。なお、表2中、「-」の表示は、測定又は試験を行わなかったことを示す。 【0059】 【表2】 」 (2)甲6に記載された発明 ア 上記(1)には、「管体」について記載されている。 イ 上記(1)の【0002】によれば、「管体」は高温雰囲気に曝されるものである ウ 上記(1)の【表1】には、供試No.4の「管体」として、質量%にて、C:0.48%、Si:1.4%、Mn:0.2%、Cr:23.5%、Ni:34.6%、Al:3.0%、希土類元素:0.17%、W:1.54%、Ti:0.12%、残部Fe及び不可避不純物からなるものが示されている。 エ 上記(1)の【0048】によれば、「管体」は、金型遠心力鋳造により鋳造されたものである。 オ 上記(1)の【表1】には、供試No.4の「管体」について、表面粗さ(Ra)が0.68と記載されており、その単位が明記されていないところ、上記(1)の【0038】には、「対象部位の表面粗さ(Ra)が0.05?2.5μmとなるように実施することができる」と記載されていることから、供試No.4の「管体」の表面粗さ(Ra)は0.68μmであると考えられる。 カ 上記(1)の【表2】には、供試No.4の「管体」について、「溶接部表面に対するAl_(2)O_(3)の面積率」(【0059】)が99.5%である。 キ 上記ア?カの検討より、実施例における供試No.4に注目すると、甲6には、次の発明(以下、「甲6発明」という。)が記載されていると認められる。 「高温雰囲気に曝される管体であって、 質量%にて、C:0.48%、Si:1.4%、Mn:0.2%、Cr:23.5%、Ni:34.6%、Al:3.0%、希土類元素:0.17%、W:1.54%、Ti:0.12%、残部Fe及び不可避不純物からなり、 金型遠心力鋳造により鋳造されたものであり、 表面粗さ(Ra)は0.68μmであり、 溶接部表面に対するAl_(2)O_(3)の面積率が99.5%である、 管体。」 ク また、実施例における供試No.4に注目しつつ、【0002】を考慮すると、甲6には、次の発明(以下、「甲6反応管発明」という。)が記載されていると認められる。 「甲6発明の管体から構成されるエチレン製造用反応管。」 ケ さらに、上記ア?キの検討より、実施例における供試No.4に注目すると、甲6には、次の発明(以下、「甲6方法発明」という。)が記載されていると認められる。 「甲6発明の管体にアルミナバリア層を形成する製造する方法。」 (3)甲7の記載 甲7には、次の記載がある。 「技術分野 [0001]本発明は、アルミナバリア層を有する鋳造製品及びその製造方法に関するものである。 背景技術 [0002]エチレン製造用反応管や分解管、ハースロール、ラジアントチューブ、耐メタルダスティング材などの耐熱鋳鋼品では、高温雰囲気に曝されるため、高温強度にすぐれるオーステナイト系の耐熱合金が用いられている。」 「[0010]また、鋳造体への内面加工を通常の仕上げ加工であるスカイビング加工により行なう場合、鋳造体の表面に引っ掻き傷が生ずることがある。この引っ掻き傷部分には、過度に加工歪みが付加され、さらに表面粗さが粗くなってしまうため、表面性状が母材の他の部分と異なることとなる。その結果、続いて行なわれる熱処理工程では、引っ掻き傷部分の最表面にCr酸化物が形成されてしまい、その直下に塊状のAl酸化物が形成されることとなる。 [0011]このように引っ掻き傷部分には均一なAl_(2)O_(3)の皮膜が形成されず、Cr_(2)O_(3)皮膜が主として形成されてしまうため、約1080℃以上の高温に長時間曝された場合、Al_(2)O_(3)の皮膜が均一に形成された母材部分に比して、引っ掻き傷部分では酸化皮膜で母材を保護できないから、高温腐食が生じやすくなる。 [0012]そこで、これら引っ掻き傷を除去するために、ホーニング加工などの研磨を施すことが考えられるが、加工コストの増大、製造工期の長期化を招く結果となる。」 「[0015]そこで、本発明の第2の課題は、表面全体に均一なアルミナバリア層を形成することのできる鋳造製品及びその製造方法を提供することである。」 「[0026]第1実施形態 本発明に係る第1実施形態は、鋳造体の表面にAl_(2)O_(3)を含むアルミナバリア層が形成された鋳造製品であって、鋳造体は、質量%にて、C:0.3?0.7%、Si:0.1?1.5%、Mn:0.1?3%、Cr:15?40%、Ni:20?55%、Al:2?4%、希土類元素:0.005?0.4%、W:0.5?5%及び/又はMo:0.1?3%を含有し、残部25%以上のFe、及び不可避的不純物からなり、前記希土類元素は、80%以上がLaである鋳造製品を得るものである。なお、本明細書において、「%」は、特に表示がないときは、全て質量%である。 [0027]<成分限定理由の説明> [0028] C:0.3?0.7% Cは、鋳造性を良好にし、高温クリープ破断強度を高める作用がある。このため、少なくとも0.3%を含有させる。しかし、含有量があまり多くなると、Cr_(7)C_(3)の一次炭化物が幅広く形成され易くなり、アルミナバリア層を形成するAlの移動が抑制されるため、鋳造体の表面部へのAlの供給不足が生じて、アルミナバリア層の局部的な寸断が起こり、アルミナバリア層の連続性が損なわれる。また、二次炭化物が過剰に析出するため、延性、靱性の低下を招く。このため、上限は0.7%とする。なお、Cは0.4?0.5%がより好ましい。 [0029] Si:0.1?1.5% Siは、溶湯合金の脱酸剤として、また溶湯合金の流動性を高めるために少なくとも0.1%含有させるが、含有量があまり多くなると高温クリープ破断強度の低下を招くので上限は1.5%とする。なお、Siの上限は1.0%がより好ましい。 [0030] Mn:0.1?3% Mnは、溶湯合金の脱酸剤として、また溶湯中のSを固定するために少なくとも0.1%含有させるが、含有量があまり多くなると高温クリープ破断強度の低下を招くので上限は3%とする。なお、Mnの上限は1.6%がより好ましい。 [0031] Cr:15?40% Crは、高温強度及び繰返し耐酸化性の向上への寄与の目的のため15%以上含有させる。しかし、含有量があまり多くなると高温クリープ破断強度の低下を招くので上限は40%とする。なお、Crは20?30%がより好ましい。 [0032] Ni:20?55% Niは、繰返し耐酸化性及び金属組織の安定性の確保に必要な元素である。また、Niの含有量が少ないと、Feの含有量が相対的に多くなる結果、鋳造体の表面にCr-Fe-Mn酸化物が生成され易くなるため、アルミナバリア層の生成が阻害される。このため、20%以上含有させる。しかしながら、55%を超えて含有しても増量に対応する効果が得られないので、上限は55%とする。なお、Niは28?45%がより好ましい。 [0033] Al:2?4% Alは耐浸炭性及び耐コーキング性の向上に有効な元素である。また、本発明では、鋳造体の表面にアルミナバリア層を生じさせるために必要不可欠の元素である。このため、少なくとも2%以上含有させる。しかし、含有量が4%を超えると、前述したように延性が劣化するため、本発明に係る第1実施形態では上限を4%に規定する。なお、Alの含有量は2.5?3.8%がより望ましい。 [0034] 希土類元素:0.005?0.4%。但し、その80%以上がLa 希土類元素とは、周期律表のLaからLuに至る15種類のランタン系列に、YとScを加えた17種類の元素を意味するが、本発明に係る第1実施形態の耐熱合金に含有させる希土類元素は、80%以上をLaとする。Laを80%以上とすることで、高温引張延性、特に1100℃以上での高温引張延性にすぐれるNi_(2)La、Ni_(3)LaなどのNi-La系化合物の生成量を高めることができる。 希土類元素は、S固定能や希土類酸化物による酸化被膜の固定能を有しており、アルミナバリア層の生成と安定化の促進に寄与するため、0.005%以上含有する。一方、あまりに多く含有すると、延性、靱性が悪化するので、上限は0.4%とする。 さらに、希土類元素は、Ce含有量が、0.1%以下とすることが望ましい。Ce含有量を抑えることで、Ni_(2)CeやNi_(3)Ceなどの高温脆性の原因となるCe化合物の生成量を低減でき、高温引張延性を高めることができる。なお、希土類元素は、Ceを含まずLaのみで構成することがより好ましい。 [0035] W:0.5?5%及び/又はMo:0.1?3% W、Moは、基地中に固溶し、基地のオーステナイト相を強化することにより、クリープ破断強度を向上させる。この効果を発揮させるために、W及びMoの少なくとも一種を含有させるものとし、Wの場合は0.5%以上、Moの場合は0.1%以上含有させる。 しかし、W及びMoは、含有量があまり多くなると、延性の低下や、耐浸炭性の劣化を招き、WやMoは原子半径が大きいため、基地中に固溶することにより、Alの移動を抑制してアルミナバリア層の生成を妨げる作用がある。また、Cが多い場合と同じように、(Cr,W,Mo)_(7)C_(3)の一時炭化物が幅広く形成され易くなり、アルミナバリア層を形成するAlの移動が抑制されるため、鋳造体の表面部分へのAlの供給不足が生じ、アルミナバリア層の局部的な寸断が起こり、アルミナバリア層の連続性が損なわれ易くなる。また、WやMoは原子半径が大きいため、基地中に固溶することにより、AlやCrの移動を抑制してアルミナバリア層の生成を妨げる作用がある。 このため、Wは5%以下、Moは3%以下とする。なお、Wは0.5?3%、Moは2%以下であることがより好ましい。 [0036] Ti:0.01?0.6%、Zr:0.01?0.6%及びNb:0.1?3.0%の少なくとも一種 Ti、Zr及びNbは、炭化物を形成し易い元素であり、WやMoほど基地中には固溶しないため、アルミナバリア層の形成には特段の作用は認められないが、クリープ破断強度を向上させる作用がある。必要に応じて、Ti、Zr及びNbの少なくとも一種を含有させることができる。含有量は、Ti及びZrが0.01%以上、Nbが0.1%以上である。 しかし、過剰に添加すると、延性の低下を招く。Nbは、さらに、アルミナバリア層の耐剥離性を低下させる。このため、上限は、Ti及びZrは0.6%、Nbは3.0%とする。なお、Ti及びZrは0.3%、Nbは1.5%を上限とすることがより好ましい。 [0037] B:0.1%以下 Bは、鋳造体の粒界を強化する作用があるので、必要に応じて含有させることができる。なお、含有量が多くなるとクリープ破断強度の低下を招くため、添加する場合でも0%を越えて0.1%以下とする。Bは望ましくは0.01%を越えて0.1%以下である。 [0038] Fe:25%以上 Fe、Ni及びCr中のAlの拡散速度は、原子の大きさが小さい程速いと考えられる。このため、原子の小さいFeを増加させ、Crの量を低減することで、合金中でのAlの拡散を高め、Alを移動し易くして、Al_(2)O_(3)の被膜の生成を促進させることができる。また、Crを低減させたことで、Cr酸化物の生成を抑制することもできる。 上記理由により、Feを25%以上含有する。なお、Feは30%以上とすることがより好ましい。 [0039] 不可避的不純物 合金の溶製時に不可避的に混入するP、Sその他の不純物は、この種の合金材に通常許容される範囲であれば存在しても構わない。 [0040]<鋳造体> 本発明に係る第1実施形態の鋳造製品を構成する鋳造体は、上記成分組成の溶湯を溶製し、遠心力鋳造、静置鋳造等により上記組成に鋳造される。 得られる鋳造体は、目的とする用途に応じた形状とすることができる。 なお、本発明に係る第1実施形態は、遠心鋳造により作製される鋳造体に特に好適である。遠心鋳造を適用することで、金型による冷却の進行によって径方向に微細な金属組織が配向性をもって成長し、Alが移動し易い合金組織を得ることができるためである。これにより、後述する熱処理において、従来よりも薄いアルミナバリア層でありながら、繰り返し加熱の環境下でもすぐれた強度を有する被膜の形成された鋳造製品を得ることができる。 遠心鋳造により作製される鋳造製品として、管、特に高温環境下で使用される反応管を例示することができる。 [0041] 鋳造体には、製品使用時に高温雰囲気と接触することとなる対象部位に表面処理を行ない、該部位の表面粗さを調整した上で、酸化雰囲気中での加熱処理を行なうようにしている。 [0042]<表面処理> 表面処理は、研磨処理を例示することができる。この表面処理は、製品使用時に高温雰囲気と接触することとなる対象部位の全体に行なうことが望ましい。 [0043] 表面処理は、対象部位の表面粗さ(Ra)が0.05?2.5μmとなるように実施することができる。より望ましくは、表面粗さ(Ra)は0.5?2.0μmとする。表面粗さ(Ra)が0.05μm未満であると、CrがAlに優先して酸化するが、0.05μm以上であると、Cr酸化物スケールの生成を抑えることができ、続く熱処理によりより好適にアルミナバリア層を形成することができる。2.5μm以上となると加工歪みが残留することによってCr酸化物スケールが生成されやすくなると考えられる。また、このとき表面処理により表面粗さを調整することによって、熱影響部の残留応力や歪みも同時に除去することができる。 [0044] 表面処理を研磨処理により行なう場合、番手12?220にてペーパー研磨を行なった後、さらに番手240?1200にて仕上げ研磨することが望ましい。 [0045]<熱処理> 表面処理を施した後、以下の条件の熱処理を行なう。 熱処理は、酸化性雰囲気下にて加熱処理を施すことで実施される。 酸化性雰囲気とは、酸素を20体積%以上含む酸化性ガス、又はスチームやCO_(2)が混合された酸化性環境である。また、加熱処理は、900℃以上、好ましくは1000℃以上、より好ましくは1050℃以上の温度で行ない、加熱時間は1時間以上である。 [0046]<鋳造製品> 上記のように、鋳造体に表面処理及び熱処理を順に行なうことで、鋳造体の表面にAl_(2)O_(3)を含むアルミナバリア層が安定して形成された鋳造製品を得ることができる。」 「[0049] なお、本発明に係る第1実施形態の鋳造製品の表面をSEM/EDXで調べたとき、アルミナバリア層の上にCr酸化物スケールが一部形成されることがある。その理由として、アルミナバリア層の内部に形成されたCr酸化物スケールが、Al_(2)O_(3)により製品表面まで押し上げられるからである。しかしながら、この酸化物スケールは少ない方がよく、製品表面の20面積%未満となるようにして、Al_(2)O_(3)が80面積%以上を占めるようにすることが好適である。」 「実施例3 [0138] 高周波誘導溶解炉の大気溶解により溶湯を溶製し、金型遠心力鋳造により、下記表4に掲げる合金化学組成の管体(外径59mm、肉厚8mm、長さ3000mm)を夫々2本ずつ鋳造し、管体の一辺に開先加工を施して、対となる同じ組成の管体どうしを突合せ溶接により接合した。 なお、表4中、「REM」は希土類元素を表わす。 [0139] 得られた供試管は、供試管No.501?No.508が本発明の実施例、供試管No.611?No.613が比較例である。より具体的には、比較例は、供試管No.611が本発明の合金化学組成に対してAlを多く含む比較例、供試管No.612は本発明の合金化学組成に対してNiを多く含む比較例、供試管No.613は合金化学組成が本発明に含まれるが、溶接部に表面処理を施していない比較例である。 [0140][表4] [0141]<表面処理> これら供試管に対し、管内面側の溶接部を中心として幅方向に約20mm?40mmの範囲に粗加工であるスカイビングを行なった。 さらに、供試管No.501?No.508、No.611及びNo.612(即ち、供試管No.613以外)については、ペーパー研磨による表面処理を行なった。 各供試管の溶接部における表面粗さ(Ra)を表4に示している。」 「[0144]<表面測定> 前記処理を行なった後の各試験管について、溶接部を含む幅20mm×長さ30mmの供試片を切り出し、供試片の内側の溶接部に形成されたアルミナバリア層の皮膜厚さ(μm)とAl_(2)O_(3) の面積率(%)を測定した。その測定方法を以下に示し、また、これらの測定結果を表5中に「皮膜厚さ」、「面積率」として記載している。」 「[0148] 上記各試験の結果を表5に示す。なお、表5中、「-」の表示は、測定又は試験を行わなかったことを示す。 [0149][表5] 」 (4)甲7に記載された発明 ア 上記(3)には、「管体」について記載されている。 イ 上記(3)の[0002]によれば、「管体」は高温雰囲気に曝されるものである。 ウ 上記(3)の[表4]には、供試No.504の「管体」として、質量%にて、C:0.48%、Si:1.4%、Mn:0.2%、Cr:23.5%、Ni:34.6%、Al:3.0%、希土類元素:0.17%、W:1.54%、Ti:0.12%、残部Fe及び不可避不純物からなるものが示されている。 エ 上記(3)の[0138]によれば、「管体」は、金型遠心力鋳造により鋳造されたものである。 オ 上記(3)の[表4]には、供試No.504の「管体」について、表面粗さ(Ra)が0.68と記載されており、その単位が明記されていないところ、上記(1)の[0043]には、「対象部位の表面粗さ(Ra)が0.05?2.5μmとなるように実施することができる」と記載されていることから、供試No.504の「管体」の表面粗さ(Ra)は0.68μmであると考えられる。 カ 上記(3)の[表5]には、供試No.504の「管体」について、「供試片の内側の溶接部に形成された」「Al_(2)O_(3)の面積率(%)」([0144])が99.5%である。 キ 上記ア?カの検討より、実施例における供試No.504に注目すると、甲7には、次の発明(以下、「甲7発明」という。)が記載されていると認められる。 「高温雰囲気に曝される管体であって、 質量%にて、C:0.48%、Si:1.4%、Mn:0.2%、Cr:23.5%、Ni:34.6%、Al:3.0%、希土類元素:0.17%、W:1.54%、Ti:0.12%、残部Fe及び不可避不純物からなり、 金型遠心力鋳造により鋳造されたものであり、 表面粗さ(Ra)は0.68μmであり、 供試片の内側の溶接部に形成されたAl_(2)O_(3) の面積率(%)が99.5%である、 管体。」 ク また、実施例における供試No.504に注目しつつ、[0002]を考慮すると、甲7には、次の発明(以下、「甲7反応管発明」という。)が記載されていると認められる。 「甲7発明の管体から構成されるエチレン製造用反応管。」 ケ さらに、上記ア?キの検討より、実施例における供試No.504に注目すると、甲7には、次の発明(以下、「甲7方法発明」という。)が記載されていると認められる。 「甲7発明の管体にアルミナバリア層を形成する製造する方法。」 (5)甲8の記載 甲8には、次の記載がある。 「【0001】 【発明の属する技術分野】この発明は、クリープ破断強度が高く、耐浸炭性に優れたNi基耐熱合金に係わり、特にナフサ、プロパン、エタンおよびガスオイル等の原料を水蒸気とともに800℃以上の高温で分解し、エチレン、プロピレン等の石油化学基礎製品を製造するエチレンプラント用分解炉管に使用される管の素材として好適なNi基耐熱合金に関する。」 「【0010】 【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は、エチレンプラント用分解炉管がおかれる環境、すなわち浸炭、酸化および温度変動が繰り返される環境下において、1100?1150℃の高温で使用しても優れたクリープ破断強度を有すると共に、優れた耐浸炭性、耐コーキング性をも有し、しかも熱間加工性にも優れたNi基耐熱合金を提供することにある。 【0011】 【課題を解決するための手段】本発明の要旨は、下記のとおりである。 【0012】(1)質量%で、C:0.1%超え0.7%以下、Si:5%以下、Mn:0.05?5%、P:0.04%以下、S:0.01%以下、Cr:10?25%、Al:1?12%およびMo:0.01?15%とW:0.01?9%のうちの1種以上を合計で2.5?15%を含有するNi基耐熱合金。」 「【0042】本発明合金は、通常の溶解及び精錬工程で溶製した後、製品の形状に鋳造して製品にすることができる。また、鋳造の後さらに熱間加工、冷間加工等の加工工程を経て管などの製品とすることができる。また、粉末冶金法で製品にしてもよい。熱処理は組織の均一化を促進し、本発明合金の性能向上に寄与する。通常、1100?1300℃での均一化処理が施されるが、熱処理を施さないで鋳造あるいは加工のままで使用することもできる。さらに、鋳造後、加工後あるいは熱処理後に表面を、ショットブラストやグラインダー等の研削もしくは酸洗等により表面調整を施し使用することもできる。」 (6)甲9の記載 甲9には、次の記載がある。 「【0002】 【従来の技術】熱交換用管(即ち、種々の温度での熱交換を主目的に使用される管)や各種反応管(即ち、管内を通流する各種原料流体を例えば800℃前後の高温で反応させてメタノール・水素・都市ガス・アンモニア等を製造するのに使用される管)やクラッキングチューブ(即ち、管内を通流するナフサ等の分解原料流体を800℃を越える高温で熱分解させてエチレン・プロピレン等を製造するのに使用され、それ自体は1000℃を越える高温に曝される管)等の金属管として、その内周面に、長手方向に線状又は点状にわたる内面突出部を形成したものを使用した場合、その内面突出部の存在によって、前記金属管内を層流状態で通流しようとする流体が乱流状態とされて前記流体の管内素通りが防止され、しかも、その流体に対する前記金属管の反応表面積も増大するので、上述した熱交換や各種反応や熱分解等の処理が能率的に行われるようになる。そこで、前記各種金属管の内周面に前記内面突出部を形成した内面突出部付き金属管が実用化されている。その内面突出部付き金属管の製造方法としては、従来、適宜製法にて製造された単なる円筒状のチューブを素管として準備し、その素管に対して前記内面突出部を形成する熱間押出成形を施すことにより、前記内面突出部を形成するものが考えられている(例えば、特開平1-127896号公報参照)。」 「【0007】 【課題を解決するための手段】上述の第1の目的を達成するためになされた、本発明に係る内面突出部付き金属管の製造方法(以下、第1の本発明方法という)は、素管の内周面に対し、長手方向に線状又は点状にわたる突出部を形成することにより、内面突出部付き金属管を製造する方法であって、前記内周面に肉盛溶接によって肉盛ビードを形成し、その肉盛ビードによって前記突出部を形成する点に特徴を有している。」 「【0021】図1における1は、前記クラッキングチューブを製造するための素管であり、その素管1は、予め、前記高炭素の25Cr-20Ni系Fe合金の溶湯を遠心力鋳造することによって製造されている。そして、その素管1に対しては、その内周面に引け巣等の欠陥が発生している可能性があるため、その内周面を適宜厚さ分だけ除去すべく、内径ボーリング加工が施されている。 【0022】前記素管1は、公知の把持駆動手段(図外)によって、管軸芯周りに回転自在に支持されている。また、前記素管1の内部には、その素管1の内周面にそれと同素材(又は相当素材)が突出形成されてなる内面突出部2を形成すべく前記素材の肉盛ビードを前記内周面に肉盛溶接するための溶接トーチ3が、前記素管1内に、その管軸芯方向に延在する状態に支持され且つその方向に移動自在に構成されたトーチ支持杆4を介して、前記素管1に対して長手方向に平行移動自在に配置されている。従って、前記溶接トーチ3は、前記素管1に対して長手方向及び周方向に相対移動させることができるように構成されている。」 (7)甲10の記載 甲10には、次の記載がある。 「産業上の利用分野 本発明は、空気との混合流動体として移送されるショットブラスト用研削材の流量測定方法に関する。 従来の技術 従来、鋳鉄管などの鋳造品を形成した場合、鋳造品の表面処理法としてショットブラスト法が用いられている。すなわち、金属製研削材を、加圧空気との混合流動体として鋳造品の表面に噴射することが行なわれている。」(第1頁左欄第11?19行) (8)特許権者が提出した乙第1号証の記載 特許権者が令和1年6月3日に提出した意見書に添付した乙第1号証(杉林俊雄「ショットブラスト加工面の表面性状評価」天田財団研究概要報告書・国際交流報告書 Vol.24,2012年3月,第149?154頁:以下、「乙1」という。)には、次の記載がある。 ア 「 」(第149頁右欄第9?28行) 「 」(第151頁左欄第1行?右第3行) イ 上記記載の3・2及びFig.3には、ショットブラスト加工において、投射材の粒度を変化させると、その粒度の変化に応じて三次元算術平均高さSaが変化することが示されている。 6 当審の判断 6-1 特許法第36条第6項第1号について (1)合金の組成、金属組織、算術平均粗さ(Sa)及び表面高さ分布の偏り度(Ssk)について(申立書の理由1.1.、1.2.及び1.3.) ア 本件発明の解決しようとする課題は、本件明細書【0006】?【0010】の記載によれば、「高温雰囲気で使用される管体」において、「内表面に高い面積率で安定して」「Al酸化物」を「形成」した「管体」および「Al酸化物」を「形成する方法を提供すること」であると認められる。 イ ここで、本件発明1が、上記アの課題を解決し得る機序について、本件明細書には、特段の記載はない。 ウ しかしながら、本件明細書には、「Al酸化物は、熱処理によって、管内部のAlが内面側に移動して酸化されることで形成されるが、このムシレ部分ではAlの移動が阻害され、Alが十分に供給されず、拡散できないこと、また、ムシレ部分にAlが供給されたとしても、ムシレ部分は凹凸が大きく、その比表面積が大きいことから消費されるAlが多く、結果として均一なアルミナバリア層が形成され難い」(【0009】)と記載されていることから、(a)管内部のAlが内面側に移動しにくければ、上記アの課題の「内表面に高い面積率で安定して」「Al酸化物」を「形成」できなくなるし、(b)管内面にムシレが存在すると、上記アの課題の「内表面に高い面積率で安定して」「Al酸化物」を「形成」できなくなると考えられる。 エ そして、合金は、通常、その構成(成分及び組成範囲等)から、どのような特性を有するか予測することは困難であり、また、ある成分の含有量を増減したり、その他の成分を更に添加したりすると、その特性が大きく変わるものであって、合金の成分及び組成範囲が異なれば、同じ製造方法により製造したとしても、その特性は異なることが通常であると解される(平成24(行ケ)第10151号等)から、上記ウの(a)の管内部におけるAlの移動しやすさは、管体の合金の組成によって変化すると考えられる。 オ 一方、本件明細書の実施例(特に、【0064】の【表1】及び【0078】、【0079】参照。)には、発明例1?7が、その供試材の表面にAl酸化物が90%以上の面積率で形成されていることから、これら発明例1?7の供試材(以下、それぞれ「本件供試材1?7」という。)は、上記アの課題を解決したものであるといえる。 カ そして、上記ウ、エで検討したように、管内部におけるAlの移動しやすさは、管体の合金の組成によって変化するため、管体の合金の組成の特定が必要であると考えられるところ、本件訂正により、本件発明1は、「質量%にて、C:0.40%?0.60%、Si:0%を超えて1.0%以下、Mn:0%を超えて1.0%以下、Cr:15%?40%、Ni:18%?60%、W:0.5%?2.0%、Nb:0%を超えて0.50%以下、Al:2.0%?4.0%、希土類元素:0.05%?0.15%、Ti:0.05%?0.20%、残部Fe及び不可避不純物からな」る事項が特定された。 キ そして、特許権者は、令和1年10月21日付けの意見書(第7頁第9?23行)において、実施例の本件供試材1?7は上記カの組成である旨主張しており、この主張は本件明細書の記載とも整合するものである。 ク また、本件明細書の実施例では、合金の鋳造方法として、「遠心力鋳造」(【0063】)により作製している。 ケ さらに、本件明細書には、「本発明は、遠心力鋳造により作製される管本体に特に好適である。遠心力鋳造を適用することで、金型による冷却の進行によって径方向に微細な金属組織が配向性をもって成長し、金属酸化物層を形成する金属元素(たとえばAl)が移動し易い合金組織を得ることができるためである。これにより、後述する熱処理において、薄い金属酸化物層(たとえばアルミナバリア層)でありながら、繰り返し加熱の環境下でもすぐれた強度を有する酸化物被膜の形成された管本体12を得ることができる」(【0051】)と記載されている。 コ そうすると、上記ク、ケより、本件供試材1?7は、合金の鋳造方法として、「遠心力鋳造」を採用することにより、径方向に金属組織が配向性をもって成長し、金属酸化物層を形成する金属元素(たとえばAl)が移動し易い合金組織を得たものであって、他の鋳造方法を採用したものよりも、管内部においてAlが移動しやすくなっていると考えられる。 サ そして、本件訂正により、本件発明1は、「径方向に金属組織が配向性を持って成長した耐熱合金から構成され」る事項が特定された。 シ また、本件明細書の実施例の記載における【0064】の【表1】によれば、本件供試材1?7の算術平均粗さ(Sa)は、2.60≦Sa≦3.82であって、表面高さ分布の偏り度(Ssk)は、|Ssk|≦0.23であり、算術平均粗さ(Sa)及び表面高さ分布の偏り度(Ssk)がこの範囲内の場合に、上記アの課題を解決し得るといえる。 ス そして、本件訂正により、本件発明1は、「内表面は、三次元表面粗さの算術平均粗さ(Sa)が2.60≦Sa≦3.82、且つ、表面高さ分布の偏り度(Ssk)が|Ssk|≦0.23である」事項が特定された。 セ そうすると、本件発明1は、本件訂正により、上記カ、サ、スの事項が特定されたことにより、上記アの課題を解決し得るものとなったから、発明の詳細な説明に記載されたものであるといえる。 ソ また、本件発明1を引用する本件発明3、6?8、10も、同様の理由で発明の詳細な説明に記載されたものである。 (2)「突起」の存在、「金属酸化物」について(申立書の理由1.5.、1.6.、1.7.) ア 特許異議申立書によれば、本件訂正前の請求項4に係る発明は、「内表面には、肉盛溶接によって突起が形成されて」いる事項、及び、「突起の三次元表面粗さの算術平均粗さ(Sa)が1.5≦Sa≦5.0、且つ、表面高さ分布の偏り度(Ssk)が|Ssk|≦0.30である」事項が、本件訂正前の請求項5に係る発明は、「内表面に金属酸化物を主体とする金属酸化物層が形成されている」事項が、それぞれ特定されているところ、本件訂正前の請求項4、5に係る発明は、これらの事項を特定していることにより、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないとのことであった。 イ しかしながら、本件訂正により、請求項4、5は削除されたので、当該申立理由はその対象がなくなった。 6-2 特許法第36条第6項第2号について (1)「算術平均粗さ(Sa)」、「表面高さ分布の偏り度(Ssk)」及び「表面高さ分布の尖り度(Sku)」の測定条件について(申立書の理由2.1.、2.2.及び2.3.) ア 本件発明1は、「内表面は、三次元表面粗さの算術平均粗さ(Sa)が2.60≦Sa≦3.82、且つ、表面高さ分布の偏り度(Ssk)が|Ssk|≦0.23である」事項を、本件発明3は、「内表面は、三次元表面粗さの表面高さ分布の尖り度(Sku)がSku≧2.5である」事項を、本件発明8は、「内表面を、三次元表面粗さの算術平均粗さ(Sa)が2.60≦Sa≦3.82、且つ、表面高さ分布の偏り度(Ssk)が|Ssk|≦0.23とする」事項を、それぞれ含むものである。 イ ここで、「算術平均粗さ(Sa)」、「表面高さ分布の偏り度(Ssk)」及び「表面高さ分布の尖り度(Sku)」の測定時に、「カットオフ周波数」をどのように設定するかによって、測定値が変化することは技術常識であるところ、「算術平均粗さ(Sa)」、「表面高さ分布の偏り度(Ssk)」及び「表面高さ分布の尖り度(Sku)」の測定条件について、本件明細書には、「表面加工を施した各供試材について、その表面の20mm×10mm以上の領域に、ワンショット3D測定マイクロスコープVR-3100(株式会社キーエンス製)を用いて表面粗さとプロファイルを測定した。測定条件は、約20mm×約7mmの面積に対し、倍率80倍、スーパーファインモードと深度合成モード、両側照明とし、自動画像連結を利用して実施した」(【0068】)と記載されているものの、「カットオフ波長」をどのように設定するか、本件明細書には記載されていない。 ウ 一方、特許権者は、令和1年6月3日付けの意見書において、「算術平均粗さ(Sa)」、「表面高さ分布の偏り度(Ssk)」及び「表面高さ分布の尖り度(Sku)」の測定時に、「これらの測定の際にカットオフ周波数を設定せず、測定した波形をそのまま使用して定量化しています」(第14頁第5?7行)と述べており、この釈明は、本件明細書の記載と整合するものである。 エ したがって、本件発明の「算術平均粗さ(Sa)」、「表面高さ分布の偏り度(Ssk)」及び「表面高さ分布の尖り度(Sku)」は、「カットオフ周波数」を設定せずに測定したものであるといえるから、本件発明1、3、8は明確である。 オ なお、本件訂正前の請求項4に係る発明は、「突起の三次元表面粗さの算術平均粗さ(Sa)が1.5≦Sa≦5.0、且つ、表面高さ分布の偏り度(Ssk)が|Ssk|≦0.30である」事項を含むものであったが、本件訂正により、請求項4は削除されたので、当該申立理由はその対象がなくなった。 (2)「主体とする」について(申立書の理由2.4.、2.5.) ア 本件訂正により、本件訂正前の請求項5は削除され、本件訂正前の請求項6の「金属酸化物層は、Al酸化物を主体とするアルミナバリア層である」との記載は、「内表面には、面積率にて90%を超えるAl酸化物を含むアルミナバリア層が形成されている」との記載に訂正された。 イ そして、本件訂正後の請求項6の「内表面には、面積率にて90%を超えるAl酸化物を含むアルミナバリア層が形成されている」との記載は、明確であるから、当該取消理由は解消された。 6-3 特許法第36条第4項第1号について (1)「算術平均粗さ(Sa)」、「表面高さ分布の偏り度(Ssk)」及び「表面高さ分布の尖り度(Sku)」の測定条件について(申立書の理由3.1.及び3.2.) ア 上記6-2の(1)で検討したとおり、本件発明の「算術平均粗さ(Sa)」、「表面高さ分布の偏り度(Ssk)」及び「表面高さ分布の尖り度(Sku)」は、「カットオフ周波数」を設定せずに測定したものであるといえるから、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1、3、8について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。 (2)表面加工方法について(申立書の理由3.3.、3.4.、3.6.及び3.7) ア 本件発明1は、「内表面は、三次元表面粗さの算術平均粗さ(Sa)が2.60≦Sa≦3.82、且つ、表面高さ分布の偏り度(Ssk)が|Ssk|≦0.23である」との事項を、本件発明3は、「内表面は、三次元表面粗さの表面高さ分布の尖り度(Sku)がSku≧2.5である」との事項を、本件発明8は、「内表面を、三次元表面粗さの算術平均粗さ(Sa)が2.60≦Sa≦3.82、且つ、表面高さ分布の偏り度(Ssk)が|Ssk|≦0.23とする」との事項を、それぞれ含むものである。 イ 一方、本件明細書には、「管体の内表面、突起を形成した場合には管体の内表面及び突起の表面(以下、これらを合わせて「管体の表面」と称する)に表面加工を施す。表面加工として、ブラスト処理やホーニング処理を例示できる。なお、ホーニング処理の場合、前処理として、ボーリング処理及びスカイビング処理を施すことが望ましい。突起を形成する場合には、ボーリング処理やスカイビング処理は突起形成前に実施すれば良い」(【0054】)と記載されているものの、どのような条件で表面加工を行えば、上記アの事項が得られるのか明記されていない。 ウ また、本件明細書の実施例の記載において、表1及び表2によれば、ブラスト(発明例1?4)、または、2カット+ホーニング(発明例5?7)を行うことにより、上記アの事項が得られることが記載されているものの、具体的にどのような条件で、ブラスト、または、2カット+ホーニングを行うのか明記されていない。 エ ここで、例えば、乙1には、ショットブラスト加工において、投射材の粒度を変化させると、その粒度の変化に応じて三次元算術平均高さSaが変化することが示されており(上記5の(8)のイ参照。)、このように表面加工処理は、加工条件を変化させることにより、様々な「算術平均粗さ(Sa)」、「表面高さ分布の偏り度(Ssk)」または「表面高さ分布の尖り度(Sku)」を得ることができることが知られている。 オ そうすると、当業者であれば、「管体」に対し、最適な加工条件を選択しつつ表面加工を行って、試行錯誤を繰り返しながら、上記アの事項を得ることが困難であるとまではいえない。 カ よって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1、3、8について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。 (3)突起の表面加工方法について(申立書の理由3.5.及び3.7) ア 本件訂正により、本件訂正前の請求項4は削除されたので、当該申立理由はその対象がなくなった。 6-4 特許法第29条第1項第3号及び同条第2項について (1)甲6発明を主引例とした場合について 本件発明1と甲6発明とを対比する。 ア 甲6発明の「高温雰囲気に曝される管体」は、本件発明1の「高温雰囲気で使用される管体」に相当する。 イ 甲6発明の「質量%にて、C:0.48%、Si:1.4%、Mn:0.2%、Cr:23.5%、Ni:34.6%、Al:3.0%、希土類元素:0.17%、W:1.54%、Ti:0.12%、残部Fe及び不可避不純物からな」る事項と、本件発明1の「質量%にて、C:0.40%?0.60%、Si:0%を超えて1.0%以下、Mn:0%を超えて1.0%以下、Cr:15%?40%、Ni:18%?60%、W:0.5%?2.0%、Nb:0%を超えて0.50%以下、Al:2.0%?4.0%、希土類元素:0.05%?0.15%、Ti:0.05%?0.20%、残部Fe及び不可避不純物からな」る事項とは、「質量%にて、C:0.48%、Mn:0.2%、Cr:23.5%、Ni:34.6%、Al:3.0%、W:1.54%、Ti:0.12%」を含み、残部に「Fe及び不可避不純物」を含む点で一致する。 ウ 本件明細書には、「遠心力鋳造を適用することで、金型による冷却の進行によって径方向に微細な金属組織が配向性をもって成長」(【0051】)すると記載されているから、甲6発明の「金型遠心力鋳造により鋳造されたもので」ある事項は、本件発明1の「径方向に金属組織が配向性を持って成長した耐熱合金から構成され」る事項に相当する。 エ 上記ア?ウより、本件発明1と甲6発明とは、 「高温雰囲気で使用される管体であって、 質量%にて、C:0.48%、Mn:0.2%、Cr:23.5%、Ni:34.6%、Al:3.0%、W:1.54%、Ti:0.12%を含み、残部にFe及び不可避不純物を含み、径方向に金属組織が配向性を持って成長した耐熱合金から構成される、 管体。」で一致し、次のa、bの相違点で相違する。 (相違点) a 質量%にて、本件発明1は、Si:0%を超えて1.0%以下、Nb:0%を超えて0.50%以下、希土類元素:0.05%?0.15%を含むのに対し、甲6発明は、Si:1.4%、希土類元素:0.17%を含み、Nbを含まない点。 b 本件発明1は、「内表面は、三次元表面粗さの算術平均粗さ(Sa)が2.60≦Sa≦3.82、且つ、表面高さ分布の偏り度(Ssk)が|Ssk|≦0.23である」のに対し、甲6発明は、「表面粗さ(Ra)は0.68μmであ」る点。 オ そこで、以下、上記a、bの相違点が実質的な相違点であるか否かについて検討する。 カ 申立人は、特許異議申立書(第36頁第13?21行)において、次のキのように主張している。 キ 本件発明1は、「内表面は、三次元表面粗さの算術平均粗さ(Sa)が2.60≦Sa≦3.82、且つ、表面高さ分布の偏り度(Ssk)が|Ssk|≦0.23である」事項により、管体内表面のAl酸化物の面積率が90%を超えているのだから、「溶接部表面に対するAl_(2)O_(3)の面積率が99.5%である」甲6発明も、「内表面は、三次元表面粗さの算術平均粗さ(Sa)が2.60≦Sa≦3.82、且つ、表面高さ分布の偏り度(Ssk)が|Ssk|≦0.23である」事項を満たしている蓋然性が高い。 ク しかしながら、甲6発明が、「溶接部表面に対するAl_(2)O_(3)の面積率が99.5%である」という本件発明の効果を満たしているとしても、Al_(2)O_(3)の面積率と内表面の算術平均粗さ(Sa)や表面高さ分布の偏り度(Ssk)との間に特定の関係があるとの技術常識が認められないので、必ずしも、本件発明1の「内表面は、三次元表面粗さの算術平均粗さ(Sa)が2.60≦Sa≦3.82、且つ、表面高さ分布の偏り度(Ssk)が|Ssk|≦0.23である」事項を満たしているとまではいいきれないし、上記aの相違点は実質的な相違点である。 ケ よって、本件発明1は甲6発明であるとはいえない。 コ 次に、事案に鑑み、上記bの相違点の容易想到性について検討するに、甲8には、Ni基耐熱合金において、ショットブラストを行う事項が、甲9には、25Cr-20Ni系Fe合金において、ボーリング加工を行う事項が、甲10には,鋳鉄管において、ショットブラストを行う事項がそれぞれ記載されている。 サ そして、これらの、ショットブラスト、ボーリング加工は、周知の加工方法である。 シ そうすると、仮に、甲6発明において、これらの加工方法を採用することは、当業者が容易になし得たことであるといえたとしても、これらの加工方法において、各種条件を調整することにより、本件発明の、「内表面は、三次元表面粗さの算術平均粗さ(Sa)が2.60≦Sa≦3.82、且つ、表面高さ分布の偏り度(Ssk)が|Ssk|≦0.23である」事項を達成することは、そのようにすることの動機付けを見出せず、当業者が容易になし得たとはいえない。 ス したがって、甲6発明において、上記bの相違点に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たとはいえない。 セ よって、上記aの相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲6発明及び甲8?10に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 ソ また、本件発明3、6は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定するものであるから、上記ア?セで検討した理由と同様の理由により、甲6発明ではないし、甲6発明及び甲8?10に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 タ さらに、本件発明7と甲6反応管発明とを対比すると、少なくとも、上記a、bの相違点で相違するところ、上記a、bの相違点については、上記ア?セで検討したとおりであるから、本件発明7は、甲6反応管発明ではないし、甲6反応管発明及び甲8?10に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 チ また、本件発明8、10と甲6方法発明とを対比すると、少なくとも、上記a、bの相違点で相違するところ、上記a、bの相違点については、上記ア?セで検討したとおりであるから、本件発明8、10は、甲6方法発明ではないし、甲6方法発明及び甲8?10に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (2)甲7発明を主引例とした場合について ア 甲6発明と甲7発明とを比較すると、甲6発明が、「溶接部表面に対するAl_(2)O_(3)の面積率が99.5%である」のに対し、甲7発明が、「供試片の内側の溶接部に形成されたAl_(2)O_(3)の面積率(%)が99.5%である」点で相違し、その余の点では完全に一致する。 イ そして、甲6発明の「溶接部表面に対するAl_(2)O_(3)の面積率が99.5%である」事項と、甲7発明の「供試片の内側の溶接部に形成されたAl_(2)O_(3)の面積率(%)が99.5%である」事項とは、実質的に何ら変わるところがない。また、甲6反応管発明と甲7反応管発明、甲6方法発明と甲7方法発明についても同様である。 ウ したがって、上記(1)で検討した理由と同様の理由により、本件発明1、3、6は、甲7発明ではないし、甲7発明及び甲8?10に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、本件発明7は、甲7反応管発明ではないし、甲7反応管発明及び甲8?10に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、本件発明8、10は、甲7方法発明ではないし、甲7方法発明及び甲8?10に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 7 むすび 以上のとおり、本件の請求項1、3、6?8、10に係る特許は、平成31年3月29日付けで通知された取消理由に記載した取消理由、令和1年8月29日付けで通知された取消理由(決定の予告)に記載した取消理由、及び、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことはできず、また、他に本件の請求項1、3、6?8、10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 また、本件の請求項2、4、5、9は、本件訂正により削除されたから、本件の請求項2、4、5、9に係る特許に対して、申立人がした特許異議申立については、対象となる請求項が存在しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 高温雰囲気で使用される管体であって、 質量%にて、C:0.40%?0.60%、Si:0%を超えて1.0%以下、Mn:0%を超えて1.0%以下、Cr:15%?40%、Ni:18%?60%、W:0.5%?2.0%、Nb:0%を超えて0.50%以下、Al:2.0%?4.0%、希土類元素:0.05%?0.15%、Ti:0.05%?0.20%、残部Fe及び不可避的不純物からなり、径方向に金属組織が配向性をもって成長した耐熱合金から構成され、 内表面は、三次元表面粗さの算術平均粗さ(Sa)が2.60≦Sa≦3.82、且つ、表面高さ分布の偏り度(Ssk)が|Ssk|≦0.23である、 ことを特徴とする管体。 【請求項2】(削除) 【請求項3】 前記内表面は、三次元表面粗さの表面高さ分布の尖り度(Sku)がSku≧2.5である、 請求項1に記載の管体。 【請求項4】(削除) 【請求項5】(削除) 【請求項6】 前記内表面には、面積率にて90%を超えるAl酸化物を含むアルミナバリア層が形成されている、 請求項1又は請求項3に記載の管体。 【請求項7】 請求項1、請求項3又は請求項6に記載の管体から構成される、 オレフィン製造用反応管。 【請求項8】 請求項1又は請求項3に記載の管体の内表面に、Al酸化物を含むアルミナバリア層を形成する方法であって、 前記管体の前記内表面に表面加工を施して、前記内表面を、三次元表面粗さの算術平均粗さ(Sa)が2.60≦Sa≦3.82、且つ、表面高さ分布の偏り度(Ssk)が|Ssk|≦0.23とする表面加工工程、 前記表面加工の施された前記管体を熱処理し、前記管体の内表面にAl酸化物を含むアルミナバリア層を形成する熱処理工程と、 を有する、管体の内表面にアルミナバリア層を形成する方法。 【請求項9】(削除) 【請求項10】 前記表面加工工程は、ブラスト処理である、 請求項8に記載の管体の内表面にアルミナバリア層を形成する方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2020-01-10 |
出願番号 | 特願2017-245660(P2017-245660) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
YAA
(C22C)
P 1 651・ 121- YAA (C22C) P 1 651・ 113- YAA (C22C) P 1 651・ 536- YAA (C22C) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 萩原 周治 |
特許庁審判長 |
中澤 登 |
特許庁審判官 |
土屋 知久 亀ヶ谷 明久 |
登録日 | 2018-06-22 |
登録番号 | 特許第6355813号(P6355813) |
権利者 | 株式会社クボタ |
発明の名称 | 高温雰囲気で使用される管体及び管体の内表面に金属酸化物層を形成する方法 |
代理人 | 特許業務法人丸山国際特許事務所 |
代理人 | 特許業務法人 丸山国際特許事務所 |