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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  B60T
管理番号 1360453
異議申立番号 異議2019-700226  
総通号数 244 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-04-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-03-22 
確定日 2020-01-31 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6403221号発明「制動作動基準の決定方法及び車両用非常制動システム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6403221号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1-19〕について訂正することを認める。 特許第6403221号の請求項1ないし5、7、8、10、13ないし15、18及び19に係る特許を維持する。 特許第6403221号の請求項16に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許6403221号の請求項1?19に係る特許についての出願は、2013年11月30日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2013年1月25日 (DE)ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする出願であって、平成30年9月21日に特許権の設定登録がされ、同年10月10日に特許掲載公報が発行され、その後、平成31年3月22日に、その請求項1?5、7、8、10、13?16、18及び19に係る特許に対し特許異議申立人クノル-ブレムゼ ジステーメ フューア ヌッツファールツォイゲ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング(以下「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、令和1年6月26日付けで取消理由が通知され(以下「取消理由通知」という。)、その指定期間内である令和1年9月25日に意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正」という。)があったものである。
なお、当審は、令和1年10月2日付けで、特許権者により訂正の請求があった旨を異議申立人に通知したが、指定期間内に異議申立人から意見書の提出はなかった。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正の内容は以下のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「少なくとも回避基準が満たされた場合に、制動基準(K_brake)を調べる工程(St8)と、を少なくとも有する」と記載されているのを、
「少なくとも回避基準が満たされた場合にのみ、回避基準(K_avoid)を調べる工程(St3)の後に、制動基準(K_brake)を調べる工程(St8)と、を少なくとも有する」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2?15、及び17?19も同様に訂正する。)。(下線は、特許権者が付与。以下同様。)

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に
「物体(8,18)が、その特性に応じて、少なくとも第一又は第二のクラスに分類されて(St3)、第一のクラスに分類された場合に第一の回避軌道(10)が決定され、第二のクラスに分類された場合に第一の回避軌道と異なる第二の回避軌道(11)が決定されるように、この物体(8,18)の分類に応じて、車両(1)の回避プロセスが決定され(St4,St5,St6,St7)、
これらの回避基準(K_avoid)と制動基準(K_brake)が満たされた場合に、制動信号(S2,S4)を出力するための作動基準(K_B)が満たされる、
ことを特徴とする方法。」と記載されているのを、
「物体(8,18)が、その特性に応じて、少なくとも第一又は第二のクラスに分類されて(St3)、第一のクラスに分類された場合に第一の回避軌道(10)が決定され、第二のクラスに分類された場合に第一の回避軌道と異なる第二の回避軌道(11)が決定されるように、この物体(8,18)の分類に応じて、車両(1)の回避プロセスが決定され(St4,St5,St6,St7)、
決定した回避軌道(10,11)から、車両に作用する横加速度(q)の少なくとも一つの極値(x_q1,x_q2,q(v,r))が決定されて、回避基準(K_avoid)として、この少なくとも一つの極値(x_q1,x_q2,q(v,r))が横加速度限界値(q_g)と比較され、この少なくとも一つの極値(x_q1,x_q2,q(v,r))が絶対値に関して横加速度限界値(q_g)よりも大きい場合に、回避基準(K_avoid)が満たされ、
第一の回避軌道の場合に回避基準(K_avoid)を満たす最小間隔と、第二の回避軌道の場合に回避基準(K_avoid)を満たす最小間隔とが異なり、
これらの回避基準(K_avoid)と制動基準(K_brake)が満たされた場合に、制動信号(S2,S4)を出力するための作動基準(K_B)が満たされる、
ことを特徴とする方法。」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2?15、及び17?19も同様に訂正する。)。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項16を削除する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項17に
「請求項1から16までのいずれか一つに記載の方法」と記載されているのを、
「請求項1から15までのいずれか一つに記載の方法」に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項18に
「特に、請求項1から17までのいずれか一つに記載の方法を実行する、車両(1)の非常制動システム(22)であって、この非常制動システムが、」と記載されているのを、
「特に、請求項1から15および17のうちいずれか一つに記載の方法を実行する、車両(1)の非常制動システム(22)であって、この非常制動システムが、」に訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項18に
「少なくとも回避基準が満たされた場合に、制動基準(K_brake)を調べて、この制動基準の調査に応じて制動信号(S4,S5)を出力する」と記載されているのを、
「少なくとも回避基準が満たされた場合にのみ、回避基準(K_avoid)を調べる工程(St3)の後に、制動基準(K_brake)を調べて、この制動基準の調査に応じて制動信号(S4,S5)を出力する」に訂正する(請求項18の記載を引用する請求項19も同様に訂正する。)。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項18に
「この制御機器(4)が、
物体(8,18)を、その特性に応じて、少なくとも第一又は第二のクラスに分類して、
第一のクラスに分類された場合に第一の回避軌道(10)が決定され、第二のクラスに分類された場合に第一の回避軌道と異なる第二の回避軌道(11)が決定されるように、この物体(8,18)の分類に応じて、車両の回避プロセスを決定する、
非常制動システム。」と記載されているのを、
「この制御機器(4)が、
物体(8,18)を、その特性に応じて、少なくとも第一又は第二のクラスに分類して、
第一のクラスに分類された場合に第一の回避軌道(10)が決定され、第二のクラスに分類された場合に第一の回避軌道と異なる第二の回避軌道(11)が決定されるように、
この物体(8,18)の分類に応じて、車両の回避プロセスを決定し、
決定した回避軌道(10,11)から、車両に作用する横加速度(q)の少なくとも一つの極値(x_q1,x_q2,q(v,r))が決定されて、回避基準(K_avoid)として、この少なくとも一つの極値(x_q1,x_q2,q(v,r))が横加速度限界値(q_g)と比較され、この少なくとも一つの極値(x_q1,x_q2,q(v,r))が絶対値に関して横加速度限界値(q_g)よりも大きい場合に、回避基準(K_avoid)が満たされ、
第一の回避軌道の場合に回避基準(K_avoid)を満たす最小間隔と、第二の回避軌道の場合に回避基準(K_avoid)を満たす最小間隔とが異なる、
非常制動システム。」に訂正する(請求項18の記載を引用する請求項19も同様に訂正する。)。

2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、請求項1において、制動基準(K_brake)を調べる工程(St8)を行う条件に関して、少なくとも回避基準が満たされた場合に「のみ」であることを付加するとともに、回避基準が満たされた場合とは、「回避基準(K_avoid)を調べる工程(St3)の後」であること明確にするものである。
そうすると、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするとともに、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものでもない。

また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)の段落【0046】の「そのため、工程St6において、回避基準K_avoidを満たさない、従って、回避が未だ可能である場合、分岐nに基づき元に戻り、回避基準K_avoidを満たした場合、分岐yに基づき、次に制動基準を調べる。」との記載、及び本件特許明細書等の【図5】を参照すると、制動基準(K_brake)を調べる工程(St8)は、「回避基準(K_avoid)を調べる工程(St3)の後」で、少なくとも回避基準が満たされた場合に「のみ」行うことは、本件特許明細書等に記載されているといえる。
したがって、訂正事項1は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内での訂正である。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、請求項1における「回避基準(K_avoid)」に関して、「決定した回避軌道(10,11)から、車両に作用する横加速度(q)の少なくとも一つの極値(x_q1,x_q2,q(v,r))が決定されて、回避基準(K_avoid)として、この少なくとも一つの極値(x_q1,x_q2,q(v,r))が横加速度限界値(q_g)と比較され、この少なくとも一つの極値(x_q1,x_q2,q(v,r))が絶対値に関して横加速度限界値(q_g)よりも大きい場合に、回避基準(K_avoid)が満たされ、第一の回避軌道の場合に回避基準(K_avoid)を満たす最小間隔と、第二の回避軌道の場合に回避基準(K_avoid)を満たす最小間隔とが異な」るとの事項を、請求項1に追加するものであるから、訂正事項2は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものでもない。

また、「決定した回避軌道(10,11)から、車両に作用する横加速度(q)の少なくとも一つの極値(x_q1,x_q2,q(v,r))が決定されて、回避基準(K_avoid)として、この少なくとも一つの極値(x_q1,x_q2,q(v,r))が横加速度限界値(q_g)と比較され、この少なくとも一つの極値(x_q1,x_q2,q(v,r))が絶対値に関して横加速度限界値(q_g)よりも大きい場合に、回避基準(K_avoid)が満たされ」との事項は、本件特許明細書等の請求項16に記載されていた事項である。
更に、本件特許明細書等の請求項17の「検出した物体が動かない物体(18)として分類された場合の回避基準(K_avoid)を満たす最小間隔(L1,L2)が、検出した物体が走行又は停止している物体(8)として分類された場合の最小間隔よりも小さいこと」との記載、及び本件特許明細書等の段落【0048】の「従って、走行速度vが一定の場合、横加速度qは、回避軌道11上において一定であり、例えば、減速プロセスにより、vが変化した場合、それに応じて横加速度も変化する。図2において決定された、曲率半径R3が一定の回避軌道11は、図1の場合の最小間隔L1よりも短い最小間隔L2を許容し、そのため、図1と図2の場合における実際の走行速度vが同じであれば、それぞれ横加速度q_gに到達した場合、L2<L1となる。それは、図2において、回避基準K_avoidが速く満たされず、回避基準を満たすこと無く、短い最小間隔L2に到達できることを意味する。」との記載を参酌すれば、「第一の回避軌道の場合に回避基準(K_avoid)を満たす最小間隔と、第二の回避軌道の場合に回避基準(K_avoid)を満たす最小間隔とが異な」ることは、本件特許明細書等に記載されているといえる。
したがって、訂正事項2は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内での訂正である。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項16を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(4)訂正事項4及び5について
訂正事項4及び5は、訂正事項3により訂正された、特許請求の範囲の請求項16の記載との整合を図るため、請求項17及び18の記載を訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(5)訂正事項6について
訂正事項6は、請求項18において、制動基準(K_brake)を調べる工程(St8)を行う条件に関して、少なくとも回避基準が満たされた場合に「のみ」であることを付加するとともに、回避基準が満たされた場合とは、「回避基準(K_avoid)を調べる工程(St3)の後」であること明確にするものである。
そうすると、訂正事項6は、特許請求の範囲の減縮を目的とするとともに、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものでもない。

また、上記「(1)」において示した理由と同様の理由から、訂正事項6は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内での訂正である。

(6)訂正事項7について
訂正事項7は、請求項18における「回避基準(K_avoid)」に関して、「決定した回避軌道(10,11)から、車両に作用する横加速度(q)の少なくとも一つの極値(x_q1,x_q2,q(v,r))が決定されて、回避基準(K_avoid)として、この少なくとも一つの極値(x_q1,x_q2,q(v,r))が横加速度限界値(q_g)と比較され、この少なくとも一つの極値(x_q1,x_q2,q(v,r))が絶対値に関して横加速度限界値(q_g)よりも大きい場合に、回避基準(K_avoid)が満たされ、第一の回避軌道の場合に回避基準(K_avoid)を満たす最小間隔と、第二の回避軌道の場合に回避基準(K_avoid)を満たす最小間隔とが異な」るとの事項を、請求項18に追加するものであるから、訂正事項7は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものでもない。

また、上記「(2)」において示した理由と同様の理由から、訂正事項7は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内での訂正である。

そして、これらの訂正事項1?7は一群の請求項に対して請求されたものである。

3 小括
訂正前の請求項6、9、11、12及び17に対しては、特許異議が申し立てられておらず、また、訂正後の請求項6、9、11、12及び17に係る発明は、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正事項1?3により訂正されるものであるから、訂正後の請求項6、9、11、12及び17に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならないものの、後述の「第4」及び「第5」に示すように、本件訂正により訂正される訂正後の請求項6、9、11、12及び17に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。
そして、以上みたとおり、本件訂正は特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第7項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?19〕について訂正を認める。

第3 訂正後の本件発明
上述のとおり本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1?15及び17?19に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明15」及び「本件発明17」?「本件発明19」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?15及び17?19に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
車両(1)の周囲の少なくとも一つの物体(8,18)を検出する工程(St1)と、
車両(1)が物体(8,18)との衝突コース上に有るかを決定する工程(St2)と、
検出した物体(8,18)との衝突コースを決定する際に、車両(1)の回避プロセスが決定可能又は実現可能でない場合に満たされる回避基準(K_avoid)を調べる工程(St3)と、
少なくとも回避基準が満たされた場合にのみ、回避基準(K_avoid)を調べる工程(St3)の後に、制動基準(K_brake)を調べる工程(St8)と、
を少なくとも有する、車両(1)で制動信号(S4,S5)を出力するための作動基準(K_B)を決定する方法において、
物体(8,18)が、その特性に応じて、少なくとも第一又は第二のクラスに分類されて(St3)、第一のクラスに分類された場合に第一の回避軌道(10)が決定され、第二のクラスに分類された場合に第一の回避軌道と異なる第二の回避軌道(11)が決定されるように、この物体(8,18)の分類に応じて、車両(1)の回避プロセスが決定され(St4,St5,St6,St7)、
決定した回避軌道(10,11)から、車両に作用する横加速度(q)の少なくとも一つの極値(x_q1,x_q2,q(v,r))が決定されて、回避基準(K_avoid)として、この少なくとも一つの極値(x_q1,x_q2,q(v,r))が横加速度限界値(q_g)と比較され、この少なくとも一つの極値(x_q1,x_q2,q(v,r))が絶対値に関して横加速度限界値(q_g)よりも大きい場合に、回避基準(K_avoid)が満たされ、
第一の回避軌道の場合に回避基準(K_avoid)を満たす最小間隔と、第二の回避軌道の場合に回避基準(K_avoid)を満たす最小間隔とが異なり、
これらの回避基準(K_avoid)と制動基準(K_brake)が満たされた場合に、制動信号(S2,S4)を出力するための作動基準(K_B)が満たされる、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
制動基準(K_brake)が、検出した物体(8,18)との衝突を防止する非常制動プロセスを必要とするか否かを表し、回避基準(K_avoid)を満たすとともに、
この制動基準を満たした場合に、検知した衝突の防止又は衝突の大きさの軽減のために、
制動制御信号(S2)又は制動警報信号(S2)としての制動信号(S4)を出力することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
更に、走行領域基準を決定して、この走行領域基準も満たした場合にのみ、作動基準(K_B)が満たされることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
検出した物体(8,18)を分類する場合に、その検出された幾何学的な特性(dy)及び/又は過去に遡った検出時間期間(tz?t0)における動特性(d8)が用いられ、走行動特性として、少なくとも物体(8,18)の走行速度(v8)又は物体の加速度が用いられ、幾何学的な特性として、物体(8,18)の形状、物体(8,18)の大きさ又は広がり、物体(8,18)の位置から成るパラメータの中の少なくとも一つが用いられることを特徴とする請求項1から3までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項5】
物体(8,18)が、
検出時間期間において走行速度を示さない動かない物体(18)と、
検出時間期間(tz?t0)において、少なくとも一時的に一回測定限界値(v_m)を上回る走行速度(v8)を示した走行又は停止している物体(8)と、
のクラスに分類されることを特徴とする請求項1から4までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】
走行又は停止している物体(8)が、
実際の走行速度(v8)が測定限界値(v_m)を上回る、当該時点で走行している物体(8)と、
当該時点で停止しており、検出時間期間において少なくとも一時的に測定限界値(v_m)を上回る走行速度(v8)を示した停止している物体(8)と、
に分けられて、
停止又は走行している物体(8)としての分類に対して、同じ又は同様の回避軌道(10)が構成される、
ことを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
検出した物体が走行又は停止している物体(8)として分類された場合、回避軌道(10)が、車両(1)の車線変更軌道又は走行領域変更軌道として決定されることを特徴とする請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
検出した物体が走行又は停止している物体(8)として分類された場合、車両の最終的な向きが車両(1)の実際の向きと許容範囲内で一致する回避軌道(10)が決定されることを特徴とする請求項5から7までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項9】
検出した物体が動かない物体(18)として分類された場合、少なくとも最後の領域において許容範囲内で一定である曲率半径(R3)を有する回避軌道(11)が決定されることを特徴とする請求項6から8までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項10】
地図データに基づき車両(1)の回避軌道(10)の軌跡を引くことが可能であるかを地図データ/ナビゲーションデータに基づき決定することを特徴とする請求項1から9までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項11】
予想される本来の軌道に対する回避軌道の変化である、車両(1)の相対的な回避軌道(10,11)が決定され、この予想される本来の軌道が、過去に遡った評価時間期間(tz?t0)において通って来た本来の軌道の外挿として決定されることを特徴とする請求項1から10までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項12】
相対的な回避軌道、回避軌道、予想される本来の軌道、本来の軌道、車両の走行動特性、検出した物体の走行動特性、走行領域、車線変更、走行領域変更のパラメータの中の少なくとも一つが、角度変数と半径変数から成る極座標において決定されることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
当該の制動信号が、車両の運転者に警告するための制動表示信号(S4)及び/又は自律的な制動を開始する制動調節機器(5)を駆動するための制動制御信号(S2)であることを特徴とする請求項1から12までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項14】
検出した物体(8,18)が、それらが衝突コース上に有るかを調べる前に分類されることを特徴とする請求項1から13までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項15】
複数の隣り合う物体(8,18)が、共通の物体空間(26)に纏められていることを特徴とする請求項1から14までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項17】
検出した物体が動かない物体(18)として分類された場合の回避基準(K_avoid)を満たす最小間隔(L1,L2)が、検出した物体が走行又は停止している物体(8)として分類された場合の最小間隔よりも小さいことを特徴とする請求項1から15までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項18】
特に、請求項1から15および17のうちいずれか一つに記載の方法を実行する、車両(1)の非常制動システム(22)であって、この非常制動システムが、
車両(1)の周囲の少なくとも一つの物体(8,18)を検出する外界センサ(3)と、
車両(1)が物体(8,18)との衝突コース上に有るかを決定して、
検出した物体(8,18)との衝突コースを決定する際に、車両(1)の回避プロセスが決定可能又は実現可能でない場合に満たされる回避基準(K_avoid)を調べ、
少なくとも回避基準が満たされた場合にのみ、回避基準(K_avoid)を調べる工程(St3)の後に、制動基準(K_brake)を調べて、この制動基準の調査に応じて制動信号(S4,S5)を出力する、
ために配備された制御機器(4)と、
を備え、
この制御機器(4)が、
物体(8,18)を、その特性に応じて、少なくとも第一又は第二のクラスに分類して、
第一のクラスに分類された場合に第一の回避軌道(10)が決定され、第二のクラスに分類された場合に第一の回避軌道と異なる第二の回避軌道(11)が決定されるように、
この物体(8,18)の分類に応じて、車両の回避プロセスを決定し、
決定した回避軌道(10,11)から、車両に作用する横加速度(q)の少なくとも一つの極値(x_q1,x_q2,q(v,r))が決定されて、回避基準(K_avoid)として、この少なくとも一つの極値(x_q1,x_q2,q(v,r))が横加速度限界値(q_g)と比較され、この少なくとも一つの極値(x_q1,x_q2,q(v,r))が絶対値に関して横加速度限界値(q_g)よりも大きい場合に、回避基準(K_avoid)が満たされ、
第一の回避軌道の場合に回避基準(K_avoid)を満たす最小間隔と、第二の回避軌道の場合に回避基準(K_avoid)を満たす最小間隔とが異なる、
非常制動システム。
【請求項19】
請求項18に記載の非常制動システム(22)を備えた車両、特に、商用車両。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1?5、7、8、10、13?16、18及び19に係る特許に対して、当審が令和1年6月26日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(進歩性)本件特許の請求項1?5、7、8、10、13?16、18及び19に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

甲第1号証:特表2011-510852号公報
甲第2号証:特表2006-515699号公報
甲第3号証:特表2004-521028号公報
甲第4号証:特開2004-345401号公報
甲第5号証:特表2002-504452号公報
甲第6号証:特開2011-156955号公報
甲第7号証:特開2006-99409号公報

2 当審の判断
(1)本件発明1について
甲第3号証(特に、【請求項1】、段落【0004】、【0005】及び【0018】?【0035】並びに【図1】を参照。)には、本件発明1の記載ぶりに則って整理すると、車両の減速を作動させて実施する方法および装置に関して、次の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されている。(段落【0025】に「ステップ6においては,ステップ5で求められた衝突リスクが所定のしきい値SW1よりも大きいか,または危険度が所定のしきい値SW2よりも大きいかが問われる。」(下線は付加)とあり、【0026】に「ベクトルの衝突リスクおよび/または危険度の唯一の値だけが条件を満たせばよく」とある点にも留意。)
「自己の車両のセンサによりn個の対象を認識するステップ1と、
自己の車両について予測した動作軌線及び各対象について予測した動作軌線に基づいて定めた、自己の車両と対象の1つとの衝突が差し迫っている確率を示す衝突リスクが、所定のしきい値SW1より大きいかを決定するステップ6と、
前記衝突リスクが所定のしきい値SW1より大きい場合に、非常ブレーキのために準備する手段を導入するステップ7と、
前記衝突リスクがしきい値SW2より大きいかを調べるステップ8と、
を少なくとも有する、自己の車両で減速手段を作動させるための判断を行う方法において、
各対象について、その測定データに応じて、対象クラスが選択されて、その対象クラスについてのモデルに基づいて各対象の動作軌線の予測が行われることにより、対象クラスに応じて前記衝突リスクが定められ、
前記衝突リスクがしきい値SW2より大きい場合に、減速手段を作動させるための判断が行われる、方法。」

本件発明1と甲3発明とを対比する。
甲3発明の「自己の車両」は、本件発明1の「車両(1)」に相当する。
以下同様に、「対象」は、「物体(8,18)」に、
「自己の車両のセンサによりn個の対象を認識するステップ1」は、「車両(1)の周囲の少なくとも一つの物体(8,18)を検出する工程(St1)」に、
「自己の車両について予測した動作軌線及び各対象について予測した動作軌線に基づいて定めた、自己の車両と対象の1つとの衝突が差し迫っている確率を示す衝突リスクが、所定のしきい値SW1より大きいかを決定するステップ6」は、「車両(1)が物体(8,18)との衝突コース上に有るかを決定する工程(St2)」に、
「前記衝突リスクがしきい値SW2より大きいかを調べるステップ8」は、「制動基準(K_brake)を調べる工程(St8)」に、
「自己の車両で減速手段を作動させるための判断を行う方法」は、「車両(1)で制動信号(S4,S5)を出力するための作動基準(K_B)を決定する方法」に、それぞれ相当する。

以上のことから、本件発明1と甲3発明とは、次の点で一致する。
「車両の周囲の少なくとも一つの物体を検出する工程と、
車両が物体との衝突コース上に有るかを決定する工程と、
制動基準を調べる工程と、
を少なくとも有する、車両で制動信号を出力するための作動基準を決定する方法。」

一方で、両者は次の点で相違する。
[相違点1]
本件発明1は、「検出した物体(8,18)との衝突コースを決定する際に、車両(1)の回避プロセスが決定可能又は実現可能でない場合に満たされる回避基準(K_avoid)を調べる工程(St3)と、少なくとも回避基準が満たされた場合にのみ、回避基準(K_avoid)を調べる工程(St3)の後に、制動基準(K_brake)を調べる工程(St8)」を有するのに対して、
甲3発明は、自己の車両の回避プロセスが決定可能又は実現可能でない場合に満たされる回避基準に係る構成を備えていない点。

[相違点2]
本件発明1においては、「物体(8,18)が、その特性に応じて、少なくとも第一又は第二のクラスに分類されて(St3)、第一のクラスに分類された場合に第一の回避軌道(10)が決定され、第二のクラスに分類された場合に第一の回避軌道と異なる第二の回避軌道(11)が決定されるように、この物体(8,18)の分類に応じて、車両(1)の回避プロセスが決定され(St4,St5,St6,St7)、決定した回避軌道(10,11)から、車両に作用する横加速度(q)の少なくとも一つの極値(x_q1,x_q2,q(v,r))が決定されて、回避基準(K_avoid)として、この少なくとも一つの極値(x_q1,x_q2,q(v,r))が横加速度限界値(q_g)と比較され、この少なくとも一つの極値(x_q1,x_q2,q(v,r))が絶対値に関して横加速度限界値(q_g)よりも大きい場合に、回避基準(K_avoid)が満たされ、第一の回避軌道の場合に回避基準(K_avoid)を満たす最小間隔と、第二の回避軌道の場合に回避基準(K_avoid)を満たす最小間隔とが異なり、これらの回避基準(K_avoid)と制動基準(K_brake)が満たされた場合に、制動信号(S2,S4)を出力するための作動基準(K_B)が満たされる」のに対して、
甲3発明においては、「各対象について、その測定データに応じて、対象クラスが選択されて、その対象クラスについてのモデルに基づいて各対象の動作軌線の予測が行われることにより、対象クラスに応じて前記衝突リスクが定められ、前記衝突リスクがしきい値SW2より大きい場合に、減速手段を作動させるための判断が行われる」ものの、本件発明1の上記構成は備えていない点。

事案に鑑みて、相違点2について先に検討する。
ア 甲第1号証について
甲第1号証(特に、【請求項1】、【請求項11】、【請求項12】、段落【0009】、【0031】、【0032】、【0038】、【0043】、【0044】及び【0048】?【0054】並びに【図3】?【図5】を参照。)には、車両特に商用車両の衝突を回避するか又は衝突による衝突の重大さを減少する装置及び方法に関して、
交通状況に関係する閾値SW1を求め、車両の周辺にある物体の幅、位置及び速度を求め、自己の車両の運動状態を求め、運転者の反応時間及び衝突を回避するための必要減速度を考慮して、物体の幅、位置及び速度と運動状態から第2の閾値SW2を求め、SW2>SW1の場合で、適当な回避可能性がない場合に、自発的制動を行うことが記載されている。
ここで、甲第1号証に記載された事項は、自発的制動を行うから、本件発明1の「制動基準(K_brake)を調べる工程(St8)」に対応する構成を備えているといえる。
しかし、甲第1号証に記載された事項における、自発的制動を行う際の基準は、回避軌道により異なるものではない。
そうすると、甲第1号証に記載された事項は、相違点2に係る本件発明1の構成のうち、「物体(8,18)が、その特性に応じて、少なくとも第一又は第二のクラスに分類されて(St3)、第一のクラスに分類された場合に第一の回避軌道(10)が決定され、第二のクラスに分類された場合に第一の回避軌道と異なる第二の回避軌道(11)が決定され」、「第一の回避軌道の場合に回避基準(K_avoid)を満たす最小間隔と、第二の回避軌道の場合に回避基準(K_avoid)を満たす最小間隔とが異な」る点について開示するものではない。

イ 甲第2号証について
甲第2号証(特に、段落【0015】、【0021】、【0022】、【0028】、【0033】及び【0036】を参照。)には、車両周囲の少なくとも1つの物体を分類する装置に関して、物体をその特性(位置、形状、寸法、速度等)に応じて分類し、物体分類の情報を用いながら回避操作の計算を行うことが記載されている。
しかし、甲第2号証に記載された事項は、相違点2に係る本件発明1の構成のうち、「物体(8,18)が、その特性に応じて、少なくとも第一又は第二のクラスに分類されて(St3)、第一のクラスに分類された場合に第一の回避軌道(10)が決定され、第二のクラスに分類された場合に第一の回避軌道と異なる第二の回避軌道(11)が決定され」、「第一の回避軌道の場合に回避基準(K_avoid)を満たす最小間隔と、第二の回避軌道の場合に回避基準(K_avoid)を満たす最小間隔とが異な」る点について開示するものではない。

ウ 甲第3号証について
甲第3号証には、回避軌道及び回避基準について記載も示唆もされておらず、甲第3号証に記載された事項は、相違点2に係る本件発明1の構成のうち、「物体(8,18)が、その特性に応じて、少なくとも第一又は第二のクラスに分類されて(St3)、第一のクラスに分類された場合に第一の回避軌道(10)が決定され、第二のクラスに分類された場合に第一の回避軌道と異なる第二の回避軌道(11)が決定され」、「第一の回避軌道の場合に回避基準(K_avoid)を満たす最小間隔と、第二の回避軌道の場合に回避基準(K_avoid)を満たす最小間隔とが異な」る点について開示するものではない。

エ 甲第4号証について
甲第4号証(特に、【請求項1】、段落【0001】、【0014】?【0018】、及び【0022】?【0042】並びに【図2】及び【図6】を参照。)には、制動制御装置に関して、
自動制動を行うに際して、前方障害物検出センサ4を用いて、自車両及び前方物体間の距離Dr、両者の相対速度Vr、前方物体の検出角度θ_(R)、θ_(L)(自車両進行方向と検出された前方物体の右端部及び左端部とのなす角度)等を検出し(ステップS1)、
Dr<-Vr・Td+(Vr^(2)/2a)により、制動による回避可否判定を行い(ステップS2)(Td:運転者が制動操作を行ってから実際に減速度が発生するまでの無駄時間で、例えば、0.2〔秒〕程度。a:運転者の制動操作によって発生する減速度で、例えば、8.0〔m/s^(2)〕程度。)、
操舵回避に必要な横移動量Yを算出し(ステップS11)、操舵回避後の走行軌道を推定し(ステップS14)、操舵回避不可能な場合に満たされる判定基準を調べること(ステップS15)により、前方物体の操舵による回避可否判定を行い(ステップS3)、
少なくとも当該判定基準が満たされた場合に、第2の制動力F2、又は、当該F2よりも小さな値であって、あらかじめ発生させておく制動力である第1の制動力F1を設定する(ステップS5及びS7)、制動制御の方法が記載されている。

ここで、甲第4号証に記載された事項の「Dr<-Vr・Td+(Vr^(2)/2a)により、制動による回避可否判定を行」うことは、本件発明1の「制動基準(K_brake)を調べる工程(St8)」に対応し、甲第4号証に記載された事項の「-Vr・Td+(Vr^(2)/2a)」は、本件発明1の「最小間隔」に対応する。
しかし、「最小間隔」に関して、本件発明1においては、「第一の回避軌道の場合に回避基準(K_avoid)を満たす最小間隔と、第二の回避軌道の場合に回避基準(K_avoid)を満たす最小間隔とが異な」るのに対して、甲第4号証に記載された事項においては、「-Vr・Td+(Vr^(2)/2a)」は、回避軌道により異なるものではない点で相違する。
そうすると、甲第4号証に記載された事項は、相違点2に係る本件発明1の構成のうち、「物体(8,18)が、その特性に応じて、少なくとも第一又は第二のクラスに分類されて(St3)、第一のクラスに分類された場合に第一の回避軌道(10)が決定され、第二のクラスに分類された場合に第一の回避軌道と異なる第二の回避軌道(11)が決定され」、「第一の回避軌道の場合に回避基準(K_avoid)を満たす最小間隔と、第二の回避軌道の場合に回避基準(K_avoid)を満たす最小間隔とが異な」る点について開示するものではない。

オ 甲第5号証について
甲第5号証(特に、【請求項1】及び【請求項3】を参照。)には、車両の前方に位置する障害物との車両の衝突を防止するための方法及び制動装置に関して、
車両と障害物との間の離間距離と車両と障害物との速度差(相対速度)、及び車両の速度と加速/減速が検出され、
運転者の活動、道路状態、荷重状態及び障害物に対する車両の重なり度合いが検出され、
前記検出から、最大減速の制動動作によって車両と障害物との衝突を回避することを可能にするために少なくとも必要である車両と障害物との間の第1の離間距離(D_brake)が計算され、
車両がステアリング操作で障害物を通過することによって障害物との衝突を回避することを可能にするために少なくとも必要である第2の離間距離(D_steer)が計算され、
当該第1の離間距離(D_brake)及び第2の離間距離(D_steer)は、車両が互いに半分だけ重なり合っている場合は、予め決定可能な量だけ低減されるもので、
検出された離間距離が、第1の離間距離及び第2の離間距離の両方よりも小さい時、及び重なりの度合いが所定のしきい値を超える時にのみ自動制動動作が開始されることが記載されている。

ここで、甲第5号証に記載された事項の「最大減速の制動動作によって車両と障害物との衝突を回避することを可能にするために少なくとも必要である車両と障害物との間の第1の離間距離(D_brake)」は、本件発明1の「最小間隔」に対応する。
しかし、「最小間隔」に関して、本件発明1においては、「第一の回避軌道の場合に回避基準(K_avoid)を満たす最小間隔と、第二の回避軌道の場合に回避基準(K_avoid)を満たす最小間隔とが異な」るのに対して、甲第5号証に記載された事項においては、車両が互いに半分だけ重なり合っている場合は、予め決定可能な量だけ低減されてはいるものの、回避軌道により異なるものではない点で相違する。
そうすると、甲第5号証に記載された事項は、相違点2に係る本件発明1の構成のうち、「物体(8,18)が、その特性に応じて、少なくとも第一又は第二のクラスに分類されて(St3)、第一のクラスに分類された場合に第一の回避軌道(10)が決定され、第二のクラスに分類された場合に第一の回避軌道と異なる第二の回避軌道(11)が決定され」、「第一の回避軌道の場合に回避基準(K_avoid)を満たす最小間隔と、第二の回避軌道の場合に回避基準(K_avoid)を満たす最小間隔とが異な」る点について開示するものではない。

カ 甲第6及び7号証について
甲第6号証(特に、段落【0006】、【0008】、【0366】及び【0367】を参照。)には、走行制御装置および走行制御方法に関して、所定時間が経過した後も、同一の障害物判定領域E内に障害物が存在している場合には、その障害物は静的障害物であると特定し、所定時間が経過するまでに、障害物判定領域Eの中からその障害物が外へ移動した場合には、その障害物は動的障害物であると特定することが記載されている。
甲第7号証(特に、段落【0010】及び【0042】を参照。)には、接触脱輪回避ナビゲーションシステムに関して、回避経路を横加速度が所定のしきい値を超えないように設定することが記載されている。
しかし、甲第6及び7号証に記載された事項は、相違点2に係る本件発明1の構成のうち、「物体(8,18)が、その特性に応じて、少なくとも第一又は第二のクラスに分類されて(St3)、第一のクラスに分類された場合に第一の回避軌道(10)が決定され、第二のクラスに分類された場合に第一の回避軌道と異なる第二の回避軌道(11)が決定され」、「第一の回避軌道の場合に回避基準(K_avoid)を満たす最小間隔と、第二の回避軌道の場合に回避基準(K_avoid)を満たす最小間隔とが異な」る点について開示するものではない。

キ 小括
以上のように、甲第1?7号証に記載された事項は、相違点2に係る本件発明1の構成のうち、「物体(8,18)が、その特性に応じて、少なくとも第一又は第二のクラスに分類されて(St3)、第一のクラスに分類された場合に第一の回避軌道(10)が決定され、第二のクラスに分類された場合に第一の回避軌道と異なる第二の回避軌道(11)が決定され」、「第一の回避軌道の場合に回避基準(K_avoid)を満たす最小間隔と、第二の回避軌道の場合に回避基準(K_avoid)を満たす最小間隔とが異な」る点について開示するものではないから、たとえ甲3発明に甲第1?7号証に記載された事項を適用したとしても、相違点2に係る本件発明1の構成に至るものではない。
また、上記「物体(8,18)が、その特性に応じて、少なくとも第一又は第二のクラスに分類されて(St3)、第一のクラスに分類された場合に第一の回避軌道(10)が決定され、第二のクラスに分類された場合に第一の回避軌道と異なる第二の回避軌道(11)が決定され」、「第一の回避軌道の場合に回避基準(K_avoid)を満たす最小間隔と、第二の回避軌道の場合に回避基準(K_avoid)を満たす最小間隔とが異な」る点が、本件特許に係る出願の優先日前に周知の技術であったともいえず、更に、設計的事項ということもできない(次に述べる効果も参照。)。
一方、本件発明1は、相違点2に係る本件発明1の構成を備えることにより、「物体をクラスに分ける」ことに関連し、「それぞれのクラスに対応する回避軌道が異なり、回避軌道が異なると、物体までの最小距離が異なり、制動基準を判断するタイミングをより細かく設定できる」(特許権者が令和1年9月25日付けで提出した意見書の25ページ26行?28行を参照。)という効果を奏するものである。
したがって、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲3発明及び甲第1?7号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(2)本件発明2?15及び17?19について
本件発明2?15及び17?19は、本件発明1を更に限定したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、甲3発明及び甲第1?7号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

第5 取消理由において採用しなかった特許異議申立理由について
異議申立人は、特許異議申立書において、訂正前の請求項1に係る発明に対して、甲第1号証と甲第2号証に記載された発明に基いた場合、甲第1号証と甲第3号証に記載された発明に基いた場合、及び甲第2号証と甲第4号証に記載された発明に基いた場合の、3つの場合に分けて、それぞれ当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張している。
しかし、本件訂正により、本件発明1は、上記相違点2に係る本件発明1の構成を備えるものとなったのに対し、上記「第4」に示したように、甲第1?7号証に記載された事項は、相違点2に係る本件発明1の構成のうち、「物体(8,18)が、その特性に応じて、少なくとも第一又は第二のクラスに分類されて(St3)、第一のクラスに分類された場合に第一の回避軌道(10)が決定され、第二のクラスに分類された場合に第一の回避軌道と異なる第二の回避軌道(11)が決定され」、「第一の回避軌道の場合に回避基準(K_avoid)を満たす最小間隔と、第二の回避軌道の場合に回避基準(K_avoid)を満たす最小間隔とが異な」る点について開示するものではない。
そうすると、異議申立人が主張する3つの場合の何れを検討したとしても、本件発明1?15及び17?19は、甲第1?7号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
したがって、異議申立人の上記主張は採用することができない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知書に記載した取消理由又は特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件発明1?5、7、8、10、13?15、18及び19に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?5、7、8、10、13?15、18及び19に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、請求項16は、本件訂正により削除されたため、本件特許の請求項16に対して異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しないものとなった。したがって、当該申立ては、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両(1)の周囲の少なくとも一つの物体(8,18)を検出する工程(St1)と、
車両(1)が物体(8,18)との衝突コース上に有るかを決定する工程(St2)と、
検出した物体(8,18)との衝突コースを決定する際に、車両(1)の回避プロセスが決定可能又は実現可能でない場合に満たされる回避基準(K_avoid)を調べる工程(St3)と、
少なくとも回避基準が満たされた場合にのみ、回避基準(K_avoid)を調べる工程(St3)の後に、制動基準(K_brake)を調べる工程(St8)と、
を少なくとも有する、車両(1)で制動信号(S4,S5)を出力するための作動基準(K_B)を決定する方法において、
物体(8,18)が、その特性に応じて、少なくとも第一又は第二のクラスに分類されて(St3)、第一のクラスに分類された場合に第一の回避軌道(10)が決定され、第二のクラスに分類された場合に第一の回避軌道と異なる第二の回避軌道(11)が決定されるように、この物体(8,18)の分類に応じて、車両(1)の回避プロセスが決定され(St4,St5,St6,St7)、
決定した回避軌道(10,11)から、車両に作用する横加速度(q)の少なくとも一つの極値(x_q1,x_q2,q(v,r))が決定されて、回避基準(K_avoid)として、この少なくとも一つの極値(x_q1,x_q2,q(v,r))が横加速度限界値(q_g)と比較され、この少なくとも一つの極値(x_q1,x_q2,q(v,r))が絶対値に関して横加速度限界値(q_g)よりも大きい場合に、回避基準(K_avoid)が満たされ、
第一の回避軌道の場合に回避基準(K_avoid)を満たす最小間隔と、第二の回避軌道の場合に回避基準(K_avoid)を満たす最小間隔とが異なり、
これらの回避基準(K_avoid)と制動基準(K_brake)が満たされた場合に、制動信号(S2,S4)を出力するための作動基準(K_B)が満たされる、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
制動基準(K_brake)が、検出した物体(8,18)との衝突を防止する非常制動プロセスを必要とするか否かを表し、回避基準(K_avoid)を満たすとともに、
この制動基準を満たした場合に、検知した衝突の防止又は衝突の大きさの軽減のために、
制動制御信号(S2)又は制動警報信号(S2)としての制動信号(S4)を出力することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
更に、走行領域基準を決定して、この走行領域基準も満たした場合にのみ、作動基準(K_B)が満たされることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
検出した物体(8,18)を分類する場合に、その検出された幾何学的な特性(dy)及び/又は過去に遡った検出時間期間(tz?t0)における動特性(d8)が用いられ、走行動特性として、少なくとも物体(8,18)の走行速度(v8)又は物体の加速度が用いられ、幾何学的な特性として、物体(8,18)の形状、物体(8,18)の大きさ又は広がり、物体(8,18)の位置から成るパラメータの中の少なくとも一つが用いられることを特徴とする請求項1から3までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項5】
物体(8,18)が、
検出時間期間において走行速度を示さない動かない物体(18)と、
検出時間期間(tz?t0)において、少なくとも一時的に一回測定限界値(v_m)を上回る走行速度(v8)を示した走行又は停止している物体(8)と、のクラスに分類されることを特徴とする請求項1から4までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】
走行又は停止している物体(8)が、
実際の走行速度(v8)が測定限界値(v_m)を上回る、当該時点で走行している物体(8)と、
当該時点で停止しており、検出時間期間において少なくとも一時的に測定限界値(v_m)を上回る走行速度(v8)を示した停止している物体(8)と、
に分けられて、
停止又は走行している物体(8)としての分類に対して、同じ又は同様の回避軌道(10)が構成される、
ことを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
検出した物体が走行又は停止している物体(8)として分類された場合、回避軌道(10)が、車両(1)の車線変更軌道又は走行領域変更軌道として決定されることを特徴とする請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
検出した物体が走行又は停止している物体(8)として分類された場合、車両の最終的な向きが車両(1)の実際の向きと許容範囲内で一致する回避軌道(10)が決定されることを特徴とする請求項5から7までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項9】
検出した物体が動かない物体(18)として分類された場合、少なくとも最後の領域において許容範囲内で一定である曲率半径(R3)を有する回避軌道(11)が決定されることを特徴とする請求項6から8までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項10】
地図データに基づき車両(1)の回避軌道(10)の軌跡を引くことが可能であるかを地図データ/ナビゲーションデータに基づき決定することを特徴とする請求項1から9までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項11】
予想される本来の軌道に対する回避軌道の変化である、車両(1)の相対的な回避軌道(10,11)が決定され、この予想される本来の軌道が、過去に遡った評価時間期間(tz?t0)において通って来た本来の軌道の外挿として決定されることを特徴とする請求項1から10までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項12】
相対的な回避軌道、回避軌道、予想される本来の軌道、本来の軌道、車両の走行動特性
、検出した物体の走行動特性、走行領域、車線変更、走行領域変更のパラメータの中の少
なくとも一つが、角度変数と半径変数から成る極座標において決定されることを特徴とす
る請求項11に記載の方法。
【請求項13】
当該の制動信号が、車両の運転者に警告するための制動表示信号(S4)及び/又は自律的な制動を開始する制動調節機器(5)を駆動するための制動制御信号(S2)であることを特徴とする請求項1から12までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項14】
検出した物体(8,18)が、それらが衝突コース上に有るかを調べる前に分類されることを特徴とする請求項1から13までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項15】
複数の隣り合う物体(8,18)が、共通の物体空間(26)に纏められていることを特徴とする請求項1から14までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項16】
(削除)
【請求項17】
検出した物体が動かない物体(18)として分類された場合の回避基準(K_avoid)を満たす最小間隔(L1,L2)が、検出した物体が走行又は停止している物体(8)として分類された場合の最小間隔よりも小さいことを特徴とする請求項1から15までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項18】
特に、請求項1から15および17のうちいずれか一つに記載の方法を実行する、車両(1)の非常制動システム(22)であって、この非常制動システムが、
車両(1)の周囲の少なくとも一つの物体(8,18)を検出する外界センサ(3)と、
車両(1)が物体(8,18)との衝突コース上に有るかを決定して、
検出した物体(8,18)との衝突コースを決定する際に、車両(1)の回避プロセスが決定可能又は実現可能でない場合に満たされる回避基準(K_avoid)を調べ、
少なくとも回避基準が満たされた場合にのみ、回避基準(K_avoid)を調べる工程(St3)の後に、制動基準(K_brake)を調べて、この制動基準の調査に応じて制動信号(S4,S5)を出力する、
ために配備された制御機器(4)と、
を備え、
この制御機器(4)が、
物体(8,18)を、その特性に応じて、少なくとも第一又は第二のクラスに分類して、
第一のクラスに分類された場合に第一の回避軌道(10)が決定され、第二のクラスに分類された場合に第一の回避軌道と異なる第二の回避軌道(11)が決定されるように、
この物体(8,18)の分類に応じて、車両の回避プロセスを決定し、
決定した回避軌道(10,11)から、車両に作用する横加速度(q)の少なくとも一つの極値(x_q1,x_q2,q(v,r))が決定されて、回避基準(K_avoid)として、この少なくとも一つの極値(x_q1,x_q2,q(v,r))が横加速度限界値(q_g)と比較され、この少なくとも一つの極値(x_q1,x_q2,q(v,r))が絶対値に関して横加速度限界値(q_g)よりも大きい場合に、回避基準(K_avoid)が満たされ、
第一の回避軌道の場合に回避基準(K_avoid)を満たす最小間隔と、第二の回避軌道の場合に回避基準(K_avoid)を満たす最小間隔とが異なる、
非常制動システム。
【請求項19】
請求項18に記載の非常制動システム(22)を備えた車両、特に、商用車両。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-01-22 
出願番号 特願2015-554055(P2015-554055)
審決分類 P 1 652・ 121- YAA (B60T)
最終処分 維持  
前審関与審査官 竹村 秀康  
特許庁審判長 大町 真義
特許庁審判官 内田 博之
小関 峰夫
登録日 2018-09-21 
登録番号 特許第6403221号(P6403221)
権利者 ヴアブコ・ゲゼルシヤフト・ミツト・ベシユレンクテル・ハフツング
発明の名称 制動作動基準の決定方法及び車両用非常制動システム  
代理人 篠原 淳司  
代理人 鍛冶澤 實  
代理人 篠原 淳司  
代理人 中村 真介  
代理人 江崎 光史  
代理人 鍛冶澤 實  
代理人 江崎 光史  
代理人 中村 真介  
代理人 大谷 令子  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
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