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審決分類 審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C23C
審判 一部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C23C
審判 一部申し立て 発明同一  C23C
管理番号 1360454
異議申立番号 異議2019-700148  
総通号数 244 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-04-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-02-26 
確定日 2020-02-03 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6384536号発明「フッ化イットリウム溶射材料及びオキシフッ化イットリウム成膜部品の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6384536号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔3、4〕について訂正することを認める。 特許第6384536号の請求項3に係る特許を維持する。 特許第6384536号の請求項4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6384536号の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成28年10月17日(優先権主張平成27年10月23日)の出願であって、平成30年8月17日に特許の設定登録がされ、同年9月5日に特許掲載公報が発行された。その後、平成31年2月26日にその請求項3及び4に係る特許に対して特許異議申立人である佐藤武史(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、令和1年6月27日に取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である同年8月28日に意見書(以下「意見書1」という。)の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)を行い、その訂正の請求に対して、申立人は、同年10月11日に意見書(以下「意見書2」という。)を提出した。


第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求に係る訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。なお、下線は訂正された箇所を表す。

(1)訂正事項1
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項3に、「基材に、Y_(5)O_(4)F_(7)とYF_(3)とを含み、Y_(2)O_(3)を含まず、Y_(5)O_(4)F_(7)とYF_(3)とが、Y_(5)O_(4)F_(7)とYF_(3)との全体に対して、Y_(5)O_(4)F_(7)が30?90質量%、残分がYF_(3)であり、レーザー回折法で測定された平均粒径D50が10μm以上60μm以下で、嵩密度が1.2g/cm^(3)以上2.5g/cm^(3)以下であるフッ化イットリウム溶射材料を大気プラズマ溶射して、基材上にYOF及びY_(5)O_(4)F_(7)を含む溶射膜を形成することを特徴とする」と記載されているのを、「基材に、Y_(5)O_(4)F_(7)とYF_(3)とのみを含み、Y_(2)O_(3)を含まず、Y_(5)O_(4)F_(7)とYF_(3)とが、Y_(5)O_(4)F_(7)とYF_(3)との全体に対して、Y_(5)O_(4)F_(7)が30?90質量%、残分がYF_(3)であり、レーザー回折法で測定された平均粒径D50が10μm以上60μm以下で、嵩密度が1.2g/cm^(3)以上2.5g/cm^(3)以下であるフッ化イットリウム溶射材料を大気プラズマ溶射して、基材上にYOF及びY_(5)O_(4)F_(7)のみからなる溶射膜を形成することを特徴とする。」に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4を削除する。

(3)訂正事項3
明細書の【0009】について、「〔4〕」以降を削除し、訂正前に「〔3〕 基材に、Y_(5)O_(4)F_(7)とYF_(3)とを含み、Y_(2)O_(3)を含まず、Y_(5)O_(4)F_(7)とYF_(3)とが、Y_(5)O_(4)F_(7)とYF_(3)との全体に対して、Y_(5)O_(4)F_(7)が30?90質量%、残分がYF_(3)であり、レーザー回折法で測定された平均粒径D50が10μm以上60μm以下で、嵩密度が1.2g/cm^(3)以上2.5g/cm^(3)以下であるフッ化イットリウム溶射材料を大気プラズマ溶射して、基材上にYOF及びY_(5)O_(4)F_(7)を含む溶射膜を形成することを特徴とするオキシフッ化イットリウム成膜部品の製造方法。」と記載されているのを、「〔3〕 基材に、Y_(5)O_(4)F_(7)とYF_(3)とのみを含み、Y_(2)O_(3)を含まず、Y_(5)O_(4)F_(7)とYF_(3)とが、Y_(5)O_(4)F_(7)とYF_(3)との全体に対して、Y_(5)O_(4)F_(7)が30?90質量%、残分がYF_(3)であり、レーザー回折法で測定された平均粒径D50が10μm以上60μm以下で、嵩密度が1.2g/cm^(3)以上2.5g/cm^(3)以下であるフッ化イットリウム溶射材料を大気プラズマ溶射して、基材上にYOF及びY_(5)O_(4)F_(7)のみからなる溶射膜を形成することを特徴とするオキシフッ化イットリウム成膜部品の製造方法。」に訂正する。

2 訂正の適否に関する当審の判断
(1)訂正の目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、新規事項の有無
ア 訂正事項1について
(ア)訂正の目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1による訂正は、本件訂正前の請求項3の発明特定事項である「フッ化イットリウム溶射材料」について、「Y_(5)O_(4)F_(7)とYF_(3)とを含み」であったのを「Y_(5)O_(4)F_(7)とYF_(3)とのみを含み」に限定するとともに、本件訂正前の請求項3の発明特定事項である「溶射膜」について、「YOF及びY_(5)O_(4)F_(7)を含む」であったのを「YOF及びY_(5)O_(4)F_(7)のみからなる」に限定するものであることから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しない。

(イ)新規事項の有無
願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の【0011】には、「溶射材料が、実質的にY_(5)O_(4)F_(7)とYF_(3)とのみからなることが特に好ましい。」と記載され、同【0020】には、「この溶射膜は、酸化イットリウム(Y_(2)O_(3))を含まないものであることが好ましく、結晶相として、オキシフッ化イットリウムのみを含むものであることが好ましい。」と記載され、同【0030】の【表1】(製造された溶射粉末を示す。)及び【0031】の【表2】(【表1】の溶射粉末を溶射して生成した溶射膜の成分を示す。)における実施例1?4には、Y_(5)O_(4)F_(7)とYF_(3)とのみを含む溶射材料から、YOF及びY_(5)O_(4)F_(7)のみからなる溶射膜を形成したことが記載されているから、訂正事項1は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。

イ 訂正事項2について
訂正事項2による訂正は、請求項4を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、また、当該訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことは明らかであるし、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であることも明らかである。

ウ 訂正事項3について
訂正事項3による訂正は、本件明細書における【0009】の記載について、訂正事項1により訂正される請求項3の記載及び訂正事項2により削除される請求項4に整合させるために行うものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的としたものである。
また、当該訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことは明らかであるし、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であることも明らかである。

(2)独立特許要件について
本件は、特許異議の申立てがされていない訂正前の請求項1及び2についての訂正はなく、訂正前の請求項3及び4に対して特許異議の申立てがなされているので、訂正事項1?3について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項は適用されない。

(3)一群の請求項について
本件訂正前の請求項4は、請求項3を直接的に引用するものであるから、本件訂正前の請求項3?4は、一群の請求項である。
したがって、本件訂正請求は、一群の請求項ごとにされたものである。

(4)明細書の訂正に係る請求項について
訂正事項3による訂正は明細書の訂正であるところ、当該明細書の訂正に関連する請求項の全てである請求項3?4について訂正が行われているといえるから、本件訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項の規定に適合するものである。

3 訂正の適否についての結論
以上のとおり、上記訂正事項1?3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、同条第9項で準用する同法第126条第4項?第6項の規定に適合する。
したがって、明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔3、4〕について訂正することを認める。


第3 本件発明及び本件明細書
1 訂正後の本件発明
本件訂正は、上記第2で検討したとおり適法なものであるから、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?4に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明4」という。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
Y_(5)O_(4)F_(7)とYF_(3)とを含み、Y_(2)O_(3)を含まず、Y_(5)O_(4)F_(7)とYF_(3)とが、Y_(5)O_(4)F_(7)とYF_(3)との全体に対して、Y_(5)O_(4)F_(7)が30?90質量%、残分がYF_(3)であり、レーザー回折法で測定された平均粒径D50が10μm以上60μm以下で、嵩密度が1.2g/cm^(3)以上2.5g/cm^(3)以下であるフッ化イットリウム溶射材料を製造する方法であって、
レーザー回折法で測定された平均粒径D50が0.01μm以上3μm以下の酸化イットリウムを10?40質量%と、残分がレーザー回折法で測定された平均粒径D50が0.01μm以上3μm以下の(YF_(3))_(3)NH_(4)F・H_(2)Oで示されるフッ化アンモニウム複塩とを混合、造粒、焼成することを特徴とするフッ化イットリウム溶射材料の製造方法。
【請求項2】
上記フッ化イットリウム溶射材料中のY_(5)O_(4)F_(7)とYF_(3)との合計が90質量%以上であることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
基材に、Y_(5)O_(4)F_(7)とYF_(3)とのみを含み、Y_(2)O_(3)を含まず、Y_(5)O_(4)F_(7)とYF_(3)とが、Y_(5)O_(4)F_(7)とYF_(3)との全体に対して、Y_(5)O_(4)F_(7)が30?90質量%、残分がYF_(3)であり、レーザー回折法で測定された平均粒径D50が10μm以上60μm以下で、嵩密度が1.2g/cm^(3)以上2.5g/cm^(3)以下であるフッ化イットリウム溶射材料を大気プラズマ溶射して、基材上にYOF及びY_(5)O_(4)F_(7)のみからなる溶射膜を形成することを特徴とするオキシフッ化イットリウム成膜部品の製造方法。
【請求項4】(削除)」

2 本件明細書の記載事項
本件明細書には、以下の記載がある。下線は当審が付与したものであり、以下同様である。

(1)「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の問題点に鑑み、従来の酸化イットリウム溶射膜やフッ化イットリウム溶射膜に比べて、プロセスシフトやパーティクルの少ないオキシフッ化イットリウム溶射膜を得るための大気プラズマ溶射で安定して成膜できるフッ化イットリウム溶射材料及びその材料を溶射して得たオキシフッ化イットリウム成膜部品の製造方法を提供することを課題とする。」

(2)「【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、大気プラズマ溶射中に生じる組成ズレを考慮し、Y_(5)O_(4)F_(7)を30?90質量%と残分がYF_(3)であるフッ化イットリウム溶射材料を用いることが有効であることを見出し、本発明をなすに至った。
【0009】
従って、本発明は下記のフッ化イットリウム溶射材料及びオキシフッ化イットリウム成膜部品の製造方法を提供する。
〔1〕
Y_(5)O_(4)F_(7)とYF_(3)とを含み、Y_(2)O_(3)を含まず、 Y_(5)O_(4)F_(7)とYF_(3)とが、 Y_(5)O_(4)F_(7)とYF_(3)との全体に対して、Y_(5)O_(4)F_(7)が30?90質量%、残分がYF_(3)であり、レーザー回折法で測定された平均粒径D50が10μm以上60μm以下で、嵩密度が1.2g/cm^(3)以上2.5g/cm^(3)以下であるフッ化イットリウム溶射材料を製造する方法であって、
レーザー回折法で測定された平均粒径D50が0.01μm以上3μm以下の酸化イットリウムを10?40質量%と、残分がレーザー回折法で測定された平均粒径D50が0.01μm以上3μm以下の(YF_(3))_(3)NH_(4)F・H_(2)Oで示されるフッ化アンモニウム複塩とを混合、造粒、焼成することを特徴とするフッ化イットリウム溶射材料の製造方法。
〔2〕
上記フッ化イットリウム溶射材料中のY_(5)O_(4)F_(7)とYF_(3)との合計が90質量%以上であることを特徴とする〔1〕記載の製造方法。
〔3〕
基材に、Y_(5)O_(4)F_(7)とYF_(3)とのみを含み、Y_(2)O_(3)を含まず、 Y_(5)O_(4)F_(7)とYF_(3)とが、 Y_(5)O_(4)F_(7)とYF_(3)との全体に対して、Y_(5)O_(4)F_(7)が30?90質量%、残分がYF_(3)であり、レーザー回折法で測定された平均粒径D50が10μm以上60μm以下で、嵩密度が1.2g/cm^(3)以上2.5g/cm^(3)以下であるフッ化イットリウム溶射材料を大気プラズマ溶射して、基材上にYOF及びY_(5)O_(4)F_(7)のみからなる溶射膜を形成することを特徴とするオキシフッ化イットリウム成膜部品の製造方法。」

(3)「【0011】
本発明のフッ化イットリウム溶射材料は、フッ化イットリウム(YF_(3))と共に、オキシフッ化イットリウム(Y_(5)O_(4)F_(7))を含む溶射材料である。本発明のフッ化イットリウム溶射材料は、酸化イットリウム(Y_(2)O_(3))を含まないものであることが好ましい。具体的には、X線回折により、結晶相として、オキシフッ化イットリウム(Y_(5)O_(4)F_(7))と、フッ化イットリウム(YF_(3))とが検出されるもの、特に、結晶相として、これらのみが検出されるものが好適である。また、この溶射材料中のオキシフッ化イットリウム(Y_(5)O_(4)F_(7))とフッ化イットリウム(YF_(3))との全体に対して、Y_(5)O_(4)F_(7)が30?90質量%、好ましくは60?80質量%であり、残分がYF_(3)である。溶射材料には、少量であればYOFなどの他の結晶相が含まれていてもよいが、Y_(5)O_(4)F_(7)とYF_(3)との合計が90質量%以上であることが好ましく、溶射材料が、実質的にY_(5)O_(4)F_(7)とYF_(3)とのみからなることが特に好ましい。」

(4)「【0020】
本発明のフッ化イットリウム溶射材料を大気プラズマ溶射することにより、溶射膜を形成することができ、また、基材上に、溶射膜を形成したオキシフッ化イットリウム成膜部品を得ることができる。溶射膜は、YOF、Y_(5)O_(4)F_(7)及びY_(7)O_(6)F_(9)から選ばれる少なくとも1種のオキシフッ化イットリウム、特に、YOF、又はYOF及びY_(5)O_(4)F_(7)を含む。この溶射膜は、酸化イットリウム(Y_(2)O_(3))を含まないものであることが好ましく、結晶相として、オキシフッ化イットリウムのみを含むものであることが好ましい。」

(5)「【0021】
溶射の具体例として、アルゴン/水素プラズマ溶射の場合、大気雰囲気で、アルゴン40L/min、水素5L/minの混合ガスを用いた大気圧プラズマ溶射が挙げられる。溶射距離や電流値、電圧値、アルゴンガス供給量、水素ガス供給量、等の溶射条件は、溶射部材の用途等に応じて条件設定を行う。粉末供給装置に溶射材料を所定量充填し、パウダーホースを用いてキャリアガス(アルゴン)により、プラズマ溶射ガン先端部までパウダーを供給する。プラズマ炎の中にパウダーを連続供給することで、溶射材料が溶けて液化し、プラズマジェットの力で液状フレーム化する。基板上に液状フレームが当たることで、溶けたパウダーが付着、固化して堆積する。この原理で、ロボットや人間の手を使い、フレームを左右、上下に動かしながら、基板上の所定のコート範囲内にオキシフッ化イットリウム溶射層を形成することにより、オキシフッ化イットリウム成膜部品(溶射部材)を製造することができる。」

(6)「【実施例】
【0023】
以下、実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、表中のwt%は質量%を示す。
【0024】
[参考例1]
〔フッ化アンモニウム複塩の製造〕
1mol/Lの硝酸イットリウム溶液1Lを50℃に加熱し、この液に1mol/L酸性フッ化アンモニウム溶液1Lを50℃で撹拌しながら、約30分で混合した。これにより、白い沈殿物が晶析した。この沈殿物をろ過・水洗・乾燥した。得られた沈殿物は、X線回折法の分析で(YF_(3))_(3)NH_(4)F・H_(2)Oの形のフッ化アンモニウム複塩であると認められた。レーザー回折法で平均粒径を測定し、0.7μmであった。
【0025】
[実施例1?4、比較例1,2]
〔溶射粉末(溶射材料)の製造〕
表1に示す原料を同表の割合で混合し、実施例1?3、比較例1,2にあっては、同表のバインダーと共に、実施例4にあっては、バインダーを加えずに、水に分散させてスラリーを調製し、これを、スプレードライヤーを用いて造粒した後、同表の条件で焼成して、溶射粉末を得た。得られた各溶射粉末の物質(結晶相)同定を実施し、粒度分布、嵩密度、安息角、イットリウム濃度、フッ素濃度、酸素濃度、炭素濃度及び窒素濃度を測定した。結果を表1に示す。物質同定はX線回折法、粒度分布はレーザー回折法で測定した。嵩密度及び安息角はパウダーテスター、イットリウム濃度はサンプルを溶解してEDTA滴定法、フッ素濃度は溶解イオンクロマトグラフィ法、酸素濃度、炭素濃度及び窒素濃度は燃焼IR法でそれぞれ分析した。なお、炭素及び窒素は、実施例1?4、比較例1,2のいずれにおいても検出されなかった(即ち、炭素濃度及び窒素濃度は、いずれも0質量%であった)。実施例1?4及び比較例1においては、測定された酸素濃度からY_(5)O_(4)F_(7)の含有率を算出し、残部をYF_(3)の含有率とした。一方、比較例2においては、X線回折により同定された3種の結晶相について、それらのスケール因子(スケールファクター)から、各物質(結晶相)の含有率を算出した。
【0026】
〔溶射部材の製造〕
実施例1?4及び比較例1,2の溶射粉末を用いて、大気雰囲気で、アルゴン40L/min、水素5L/minの混合ガスを用いた大気圧プラズマ溶射をアルミニウム基材に施工し、200μm程度の溶射膜を形成した成膜物品(溶射部材)を得た。実施例1?4と比較例1,2の溶射材料から得られた溶射膜を削り、得られた各溶射膜の物質(結晶相)同定はX線回折法、イットリウム濃度はサンプルを溶解してEDTA滴定法、フッ素濃度は溶解イオンクロマトグラフィ法、酸素濃度は燃焼IR法でそれぞれ分析した。結果を表2に示す。
【0027】
実施例1?4に示したように酸化イットリウムとフッ化アンモニウム複塩((YF_(3))_(3)NH_(4)F・H_(2)O)とを混合、造粒、焼成することによって製造したフッ化イットリウム溶射材料は、Y_(5)O_(4)F_(7)とYF_(3)とを、Y_(5)O_(4)F_(7)が30?90質量%、残分がYF_(3)で含む混合物であった。
【0028】
この溶射材料をアルゴン40L/min、水素5L/minの混合ガスを用いた大気雰囲気での大気圧プラズマ溶射をアルミニウム基材に施工したとき、溶射膜はYOF、Y_(5)O_(4)F_(7)、Y_(7)O_(6)F_(9)の少なくとも1種以上のオキシフッ化イットリウムであった。一方、比較例1,2では、酸化イットリウム(Y_(2)O_(3))とフッ化イットリウム(YF_(3))とを所定量混合、造粒、焼成することによって製造したフッ化イットリウム溶射材料を、大気雰囲気で、アルゴン40L/min、水素5L/minの混合ガスを用いた大気圧プラズマ溶射をアルミニウム基材に施工して成膜物品(溶射部材)としたものであるが、このとき、溶射膜はY_(2)O_(3)の混じったものになった。
【0029】
実施例1?4と比較例1,2の成膜部品を純水100L/hrの流量でかけ流し洗浄した後、純水10Lに、超音波をかけながら10分間浸漬した。その後、浸漬液を回収して2mol/L硝酸を100mL加え、ICPでイットリウム量を測定した。その測定値を表3に示す。
【0030】
【表1】

CMC:カルボキシメチルセルロース
PVA:ポリビニルアルコール
PVP:ポリビニルピロリドン
【0031】
【表2】

【0032】
【表3】




第4 取消理由通知に記載した取消理由について
当審が令和1年6月27日に通知した取消理由に対して、同年8月28日に特許権者が提出した意見書1及び本件訂正請求、並びに同年10月11日に申立人が提出した意見書2を検討した結果、取消理由通知に記載した取消理由は解消したものと当審は判断したところ、その理由は以下のとおりである。

1 取消理由の概要
(1)取消理由1:特許法第36条第6項第1号(サポート要件)
(特許異議申立書の(4-4)マル3(当審注:例えば、丸数字3を「
マル3」とし、以下同様である。)(22頁13?最終行)をサポー
ト要件違反として採用)
ア 発明の詳細な説明における記載
上記第3の2(1)に摘示した記載から、本件発明が解決しようとする課題(以下「本件課題」という。)は、「従来の酸化イットリウム溶射膜やフッ化イットリウム溶射膜に比べて、プロセスシフトやパーティクルの少ないオキシフッ化イットリウム溶射膜を得るための大気プラズマ溶射で安定して成膜できるフッ化イットリウム溶射材料及びその材料を溶射して得たオキシフッ化イットリウム成膜部品の製造方法を提供すること」にあると認められる。
そして、同(3)及び(4)のとおり、溶射材料は、Y_(2)O_(3)を除き、Y_(5)O_(4)F_(7)とYF_(3)以外を含有しても良いとされ、溶射膜は、YOF及びY_(5)O_(4)F_(7)を含有すれば、他の材料について制限するものではないとしても、本件課題であるパーティクルの少ない溶射膜が得られ、課題を解決することができる発明として発明の詳細な説明において具体的に記載されているのは、同(6)のとおり、表3における実施例1?4であって、それは、表1のとおり溶射材料がY_(5)O_(4)F_(7)とYF_(3)のみからなり、表2のとおり溶射膜がY_(5)O_(4)F_(7)とYOFのみからなるものであると理解できる。
また、溶射材料が、Y_(2)O_(3)を除き、Y_(5)O_(4)F_(7)とYF_(3)以外を含有していても、さらに、溶射膜が、YOF及びY_(5)O_(4)F_(7)を含有すれば、他の材料についての制限なく、パーティクルの少ない溶射膜が得られることが技術常識であるということはできない。

イ 発明の詳細な説明に記載された発明と本件発明との対比
一方、訂正前の請求項3及び4に係る発明は、溶射材料が、Y_(2)O_(3)を除き、Y_(5)O_(4)F_(7)とYF_(3)以外も含有し得るものであり、溶射膜が、YOF及びY_(5)O_(4)F_(7)を含有すれば、他の材料について制限はないものであるから、訂正前の請求項3及び4に係る発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件課題を解決できると認識できる範囲を超えるものであって、発明の詳細な説明に記載したものでない。


(2)取消理由2:特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)
ア 溶射時の各種条件
(特許異議申立書の(4-4)マル1(16頁最終行?19頁下から8
行)を実施可能要件違反として採用)
本件明細書には、溶射条件について上記第3の2(5)に、また同(6)に摘示した【0028】のとおり記載されている。
ここで、大気雰囲気でのプラズマ溶射においては、溶射膜中に酸化物が多量に生成することが技術常識であって、各種溶射条件によって得られる溶射膜中の酸化の程度が大きく異なり、得られる溶射膜の組成も異なるものであるといえるところ、本件明細書において、作動ガスの種類と流量は、「アルゴン40L/min、水素5L/minの混合ガス」とされているが、基材とノズル出口との距離や作動電流等の条件は示されておらず、それにより、本件発明の詳細な説明は、当業者が本件発明3及び4を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。

イ 溶射材料におけるY_(5)O_(4)F_(7)とYF_(3)含量の測定方法について
(特許異議申立書の(4-4)マル2(19頁下から7行?22頁1
2行)及び同(4-5)マル2(24頁11行?25頁10行)を
実施可能要件違反として採用)
(ア)実施例1?4及び比較例1
上記第3の2(6)に摘示した【0025】には、「実施例1?4及び比較例1においては、測定された酸素濃度からY_(5)O_(4)F_(7)の含有率を算出し、残部をYF_(3)の含有率とした。」と記載されているところ、下表では、上記第3の2(6)の【0030】の表1における各実施例1?4及び比較例1に記載のO濃度からY_(5)O_(4)F_(7)の含有率を算出するとともに、当該Y_(5)O_(4)F_(7)中のY量及びF量を算出し(下表のE、Fの項)、このY量及びF量を同表1に記載のY量及びF量からそれぞれ引くことにより、残分のY量及びF量を求めたら場合(下表のG,Hの項)、その結果である残分のY量及びF量によれば、F/Yモル比は3から大きく外れ、最大で20%の乖離を生じており(下表のK及びLの項)、「Y_(5)O_(4)F_(7)が30?90質量%であり、残分がYF_(3)である」ことと大きく矛盾する結果となっている。


(イ)比較例2
上記第3の2(6)に摘示した【0025】には、「比較例2においては、X線回折により同定された3種の結晶相について、それらのスケール因子(スケールファクター)から、各物質(結晶相)の含有率を算出した。」と記載されているところ、含有率の算出について、X線回折におけるピーク強度比又はピーク面積比に基づいて含有量を測定したと解されるが、単なる「スケール因子」というのみでは、ピーク強度比及びピーク面積比率のいずれを指すのか不明である。また、Y_(5)O_(4)F_(7)及びYF_(3)の混合物をX線回折測定に供すると通常Y_(5)O_(4)F_(7)及びYF_(3)それぞれについて、複数のピークが観察されるところ、単なる「スケール因子」というのみでは、Y_(5)O_(4)F_(7)及びYF_(3)について、それぞれ、いずれのピークを基準とするのか不明であるし、同じピーク間の比率であってもピーク強度比とピーク面積比とは値が異なることや、基準とするピークの違いによってピーク強度比及びピーク面積比が異なることは技術常識であるから、比較例2における「各物質(結晶相)の含有率を算出」をどのように行うのか不明である。

また、Y_(5)O_(4)F_(7)及びYF_(3)量には測定方法の違いによる誤差が大きいことは、本件明細書の比較例2の溶射材料に係る表1に示された「Y_(5)O_(4)F_(7) 87wt%、YF_(3) 9wt%及びY_(2)O_(3) 4wt%」の値から算出されるY原子の濃度、F原子の濃度、O原子の濃度から明らかである。このY原子の濃度、F原子の濃度、O原子の濃度はそれぞれ下表の算出結果の通り「72.7wt%、10.9wt%、16.4wt%」となる一方で、同表1に記載された実測値である「68.9wt%、9.5wt%、21.6wt%」と比較すると、下表のとおり最大31%も元素濃度の測定結果に乖離があることが分かる。


してみると、本件発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明3及び4を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。

(3)取消理由3:特許法第36条第6項第2号(明確性)
(特許異議申立書の(4-5)マル3(25頁11?最終行))
訂正前の本件発明3は、平均粒子径を「レーザー回折法で測定」するものであるところ、粒径がマイクロオーダーの無機粉末材料をレーザー回折法による粒径測定に供する場合、一般に、粉末が凝集しやすいことから前処理として超音波照射による分散処理が行われているが、造粒穎粒からなる溶射材料は、この前処理により測定粒径が変わることが通常知られている。
しかしながら、訂正前の本件発明3及び4並びに本件明細書には、レーザー回折法による測定に供する前に超音波処理を行うか否かが記載されておらず、特定されていないことから、訂正前の本件発明3及び4は明確でない。

2 当審の判断
(1)取消理由1(サポート要件)について
上記1(1)の取消理由1は、発明の詳細な説明において、溶射材料としてY_(5)O_(4)F_(7)とYF_(3)のみからなり、溶射膜としてYOFとY_(5)O_(4)F_(7)のみからなるものが記載されているのに、本件訂正前の請求項3及び4に係る発明は、溶射材料としてY_(5)O_(4)F_(7)とYF_(3)以外のものが、溶射膜としてYOFとY_(5)O_(4)F_(7)以外のものが、それぞれ含まれるように解されるので、サポート要件違反であるとしたものといえる。
しかしながら、本件訂正により、本件発明3において、フッ化イットリウム溶射材料は「Y_(5)O_(4)F_(7)とYF_(3)とのみを含み」、溶射膜は「YOF及びY_(5)O_(4)F_(7)のみからなる」ものとなったことから、本件発明3は、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件課題を解決できると認識できる範囲を超えるものではなくなった。
よって、本件発明3は発明の詳細な説明に記載したものであるから、本件訂正後の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。

(2)取消理由2(実施可能要件)について
ア 溶射時の各種条件について
(ア)特許権者は、意見書1(5頁8?12行)において、「本件発明の詳細な説明の実施例1?4、比較例1、2においては、溶射機として、エリコンメテコ社製大気プラズマ溶射機(Unicoat、溶射ガンF-4)を用い、大気雰囲気で、アルゴン40L/min、水素5L/minの混合ガスを用い、基材とノズル出口との距離を120mm、出力38kW(作動電流500A)として、大気圧プラズマ溶射を実施したもの」としている。

(イ)ここで、例えば、以下に摘示する「溶射材料」とそれを用いる溶射方法について開示する特開2014-136835号公報(本件特許異議申立における甲第11号証)に記載されるように、上記意見書1において明らかにされた「基材とノズル出口との距離」や「作動電流」が通常と大きく異なるものとまではいえないことから、本件発明の詳細な説明にそれらが具体的に記載されていなかったとしても、当業者は適宜実施することができるものと認められる。

「【0066】
〔溶射時に顆粒を供給するときの流動性〕
基材として100mm角のアルミニウム合金板を使用した。この基材の表面にプラズマ溶射を行った。溶射材料の供給装置として、プラズマテクニック製のTWIN-SYSTEM 10-Vを用いた。プラズマ溶射装置として、スルザーメテコ製のF4を用いた。撹拌回転数50%、キャリアガス流量2.5L/min、供給目盛10%、プラズマガスAr/H_(2)、出力35kW、装置-基材間距離150mmの条件で、膜厚約100μmになるようにプラズマ溶射を行い、溶射膜を得た。」

(ウ)申立人は、意見書2(3頁3行?5頁14行)において、本件発明3を実施するために必要な、基材とノズル出口の距離や、作動電流について何らの手掛かりもない状態に変わりはないし、本件請求項3には「アルゴン40L/min、水素5L/min」という条件は記載されていないから特許請求の範囲の記載に基づかない主張であり、さらに、溶射条件について、申立人が新たに提出した甲第13号証(特開2013-181192号公報)の【0036】には「電流700A、電圧60V、溶射距離70mm」とし、甲第14号証(特開2011-140693号公報)の【0032】には、「溶射電流:600(A)、溶射距離:70(mm)」とし、甲第15号証(特開2013-136814号公報)の【0034】には「溶射距離:50mm」とし、甲1の【0052】には「電流900Aの条件でプラズマを発生」及び「溶射距離は90mm」とすることが記載されているように、特許権者が示す基材とノズル出口の距離や作動電流は一般的な溶射条件ではない旨主張している。
しかしながら、基材とノズル出口の距離や作動電流についての手掛かりは、例えば上記甲第11号証に記載されているし、実施可能要件の判断は、特許請求の範囲の記載ではなく、発明の詳細な説明の記載に基づいて行うものであり、さらに、ガスの種類及び流量は本件明細書の【0021】や【0028】に記載されているとおりであって、当業者であれば、基材とノズル出口の距離や作動電流によって溶射膜の酸化の度合いをある程度予測し得るといえるから、当業者が本件発明3を実施するために過度の試行錯誤を要するとまではいうことができない。
したがって、申立人の上記主張を採用することはできない。

イ 溶射材料におけるY_(5)O_(4)F_(7)とYF_(3)含量の測定方法について
(ア)実施例1?4及び比較例1について
a 実施例1?4及び比較例1の溶射材料におけるY_(5)O_(4)F_(7)とYF_(3)含量の測定方法について、特許権者は意見書1(6頁下から7行?7頁下から7行)において、「本件明細書の段落【0025】には、『実施例1?4及び比較例1においては、測定された酸素濃度からY_(5)O_(4)F_(7)の含有率を算出し、残部をYF_(3)の含有率とした。』と記載されているが、実施例1?4及び比較例1において、Y_(5)O_(4)F_(7)とYF_(3)の含有率は、この記載どおりに算出され」、「Y濃度及びF濃度は、溶射材料中のY_(5)O_(4)F_(7)及びYF_(3)の含有率の算出には用いていない。これは、測定されたイットリウム、フッ素及び酸素の濃度を、X線回折により同定されたY_(5)O_(4)F_(7)とYF_(3)に案分しようとしても、定量分析の精度上、定量値にばらつきが生じるため、多くの場合、Y_(5)O_(4)F_(7)とYF_(3)の各々の構成元素の比率(原子比)と一致しないためであり、実施例1?4及び比較例1において、Y_(5)O_(4)F_(7)及びYF_(3)の含有率の算出には、イットリウム及びフッ素は、Y_(5)O_(4)F_(7)及びYF_(3)に共通する元素であるので、Y_(5)O_(4)F_(7)に酸素濃度の全量を配分できる酸素のみを用いて算出する方法を用いている。」としている。

b 上記aは、本件明細書の【0025】に記載されていたとおり、本件発明3に特定されるY_(5)O_(4)F_(7)及びYF_(3)の含有率の測定手段は、「測定された酸素濃度からY_(5)O_(4)F_(7)の含有率を算出し、残部をYF_(3)の含有率とした。」とするものに限られることを明らかにしており、その他の測定手段は本件明細書に記載されていないから、この測定手段による測定結果が、Y濃度及びF濃度から算出したY_(5)O_(4)F_(7)及びYF_(3)の含有率と相違したとしても、測定手段が明らかである以上、当業者が実施することができないとはいえない。

c 申立人は、意見書2(6頁5行?下から3行)において、「『定量分析の精度上、定量値にばらつきが生じる』ような値を請求範囲として採用すること自体が問題であり、さらに本件請求項3にはY_(5)O_(4)F_(7)及びYF_(3)の測定方法は何ら規定されておらず、これは特許権者が極めて矛盾する主張をしていることを露呈するもの」であって、「酸素濃度のみを用いた測定方法がY_(5)O_(4)F_(7)及びYF_(3)の含有率を決定する方法として妥当な方法のかも不明であるばかりでなくこれらの含有率が本件請求項3の範囲に該当する場合が仮にあったとしても、別の測定方法では該当しない場合、当業者はどのように判断してよいのかも全く不明である。」旨主張している。
しかしながら、上記bのとおり、本件明細書に他の測定方法は記載されておらず、「測定された酸素濃度からY_(5)O_(4)F_(7)の含有率を算出し、残部をYF_(3)の含有率とした。」ことが明らかにされているのであるから、申立人の上記主張を採用することはできない。

(イ)比較例2について
比較例2の溶射材料におけるY_(5)O_(4)F_(7)とYF_(3)含量の測定方法について、比較例が実施可能要件を満たすことを求められていないのは、特許権者が主張するとおりである。

ウ 小括
よって、本件発明の詳細な説明は、当業者が本件発明3を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしている。

(3)取消理由3(明確性)について
ア 特許権者は意見書1(10頁4?22行)において、「一般に、粒径がマイクロオーダーの無機粉末材料は凝集しやすく、凝集した無機粉末材料においては、凝集する前の個々の粒子の真の粒径を測定するために、レーザー回折法による粒径測定に供する際に、前処理として超音波照射による分散処理を行う場合がある。しかし、特に造粒穎粒は、流動性がよく凝集し難いことが知られており、軽く凝集している場合であっても、レーザー回折法による測定においては、測定機器の循環系(測定セル)内の流体に、粒子を投入して循環させることで、測定に不都合が生じない程度の分散性を得ることができる。また、造粒穎粒は、小粒子を集合させて形成したものであるため、超音波を照射すると、一部の造粒穎粒で、個々の造粒穎粒を構成する小粒子が分離し、その結果として、測定される粒径が小さくなってしまうことが、造粒穎粒において超音波照射による前処理によって測定粒径が変わってしまう理由であるが、造粒穎粒に超音波照射による前処理を実施した場合は、造粒穎粒自体の真の粒径を測定していないことになる。このように、マイクロオーダーの無機粉末材料の粒径を測定する場合であっても、超音波照射による前処理を実施しないことに理がある場合があり、本件発明3のレーザー回折法で測定された平均粒径D50も、超音波照射による前処理についての記載がないことからそのまま解釈されるとおり、超音波照射による前処理を実施せずに測定した粒径を対象としている。」としており、申立人が主張するところの、粒径がマイクロオーダーの無機粉末材料をレーザー回折法による粒径測定に供する場合、粉末が凝集しやすいことから前処理として超音波照射による分散処理を行うことが、一般であるとまでは認められないから、本件発明3が明確でないとはいえない。

イ 申立人は、意見書2において、「本件特許請求の範囲には、超音波処理をせずに粒径を測定することは何ら記載されておらず特許権者の主張は特許請求の範囲の記載に基づかないものにすぎない」旨を主張している。
しかしながら、上記アのとおり超音波処理を行うことが当該技術分野において必須であるとまでは認められず、請求項3及び発明の詳細な説明には、超音波処理を行うことは記載されていないのだから、本件発明3が超音波処理を行うものではないと理解できるものである。
したがって、申立人の上記主張を採用することはできない。

ウ よって、本件発明3は明確であるから、本件特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしている。

3 小括
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由によっては、本件請求項3に係る特許を取り消すことはできない。


第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の概要
(1)特許法第29条の2(拡大先願)
(特許異議申立書の(4-3)(14頁下から11行?16頁下から3
行))
訂正前の請求項3及び4に係る発明は、その優先日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた上記甲第1号証の特許出願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその優先日前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの優先日の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。

<証拠方法>
(1)甲第1号証:特願2016-43939号(特開2016-211070号公報)
(2)甲第2号証:特開2014-40634号公報
(3)甲第3号証:特開2013-122086号公報
(4)甲第4号証:特開2002-363724号公報
(以下、「甲第1号証」から「甲第4号証」について、それぞれ「甲1」?「甲4」という。)

(2)特許法第36条第6項1号(サポート要件)及び同条第4項第1号(
実施可能要件)
(特許異議申立書の(4-4)マル4(23頁5行?24頁1行))
訂正前の本件発明3及び4には、溶射材料の原料粒径、原料種類及び造粒の有無といった、溶射材料の製造条件が何ら規定されておらず、一方、本件明細書の【0016】においても、平均粒径はレーザー回折法で測定された平均粒径D50であって、「例えば、平均粒径0.01μm以上3μm以下の酸化イットリウムを10質量%以上50質量%以下と、残分が平均粒径0.01μm以上3μm以下のフッ化アンモニウム複塩((YF_(3))_(3)NH_(4)F・H_(2)O)とを、必要に応じて更にバインダーと共に、混合、造粒、焼成することによって」フッ化イットリウム溶射材料を製造することができ、この溶射材料によりパーティクルの少ないオキシフッ化イットリウム溶射膜を得たことしか記載されていないところ、プラズマ溶射膜は、その溶射材料が造粒粒であるかそれとも凝集粉であるか、原料粒径や原料の種類によって、膜粗さや緻密さが変化し、パーティクルの有無に影響することは明らかであるから、訂正前の本件発明3及び4の範囲まで、発明の詳細な説明に記載された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。

また、同様の理由で、本件発明の詳細な説明は、平均粒径はレーザー回折法で測定された平均粒径D50であって、「例えば、平均粒径0.01μm以上3μm以下の酸化イットリウムを10質量%以上50質量%以下と、残分が平均粒径0.01μm以上3μm以下のフッ化アンモニウム複塩((YF_(3))_(3)NH_(4)F・H_(2)O)とを、必要に応じて更にバインダーと共に、混合、造粒、焼成することによって」製造されたフッ化イットリウム溶射材料を用いる場合以外に、パーティクルの少ないオキシフッ化イットリウム溶射膜を得ることを当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものでない。

(3)特許法第36条第6項第2号(明確性)
(特許異議申立書の(4-5)マル1(24頁3?10行))
本件特許請求の範囲には、Y_(5)O_(4)F_(7)及びYF_(3)の量の測定について何ら記載されていないが、本件明細書に記載された「測定された酸素濃度からY_(5)O_(4)F_(7)の含有率を算出し、残部をYF_(3)の含有率」とする測定方法は、実際のF量及びY量から大きな矛盾を生じさせるから、Y_(5)O_(4)F_(7)及びYF_(3)の量の測定方法を記載していない本件特許請求の範囲の記載は不明確である。

2 特許法第29条の2(拡大先願)について
(1)甲号証の記載事項
ア 甲1
上記甲1には、以下の記載がある。
「【請求項1】
構成元素として希土類元素(RE)、酸素(O)およびハロゲン元素(X)を含む希土類元素オキシハロゲン化物(RE-O-X)が、全体の77質量%以上の割合で含まれ、
前記希土類元素の酸化物を実質的に含まない、溶射用材料。
【請求項2】
さらに、前記希土類元素のフッ化物が、全体の23質量%以下の割合で含まれている、請求項1に記載の溶射用材料。」
「【請求項6】
前記希土類元素がイットリウムであり、前記ハロゲン元素がフッ素であり、前記希土類元素オキシハロゲン化物がイットリウムオキシフッ化物である、請求項1?5のいずれか1項に記載の溶射用材料。
【請求項7】
請求項1?6のいずれか1項に記載の溶射用材料の溶射物である、溶射皮膜。
【請求項8】
構成元素として希土類元素(RE)、酸素(O)およびハロゲン元素(X)を含む希土類元素オキシハロゲン化物(RE-O-X)を主成分とし、
前記希土類元素のフッ化物を実質的に含まない、溶射皮膜。
【請求項9】
前記希土類元素の酸化物を実質的に含まない、請求項8に記載の溶射皮膜。
【請求項10】
前記希土類元素がイットリウムであり、前記ハロゲン元素がフッ素であり、前記希土類元素オキシハロゲン化物がイットリウムオキシフッ化物である、請求項8または9に記載の溶射皮膜。
【請求項11】
基材の表面に、請求項7?10のいずれか1項に記載の溶射皮膜が備えられている、溶射皮膜付部材。」
「【0009】
ここに開示される溶射用材料の好ましい一態様では、さらに、上記希土類元素のフッ化物が全体の23質量%以下の割合で含まれていることを特徴としている。さらには、上記希土類元素のフッ化物を実質的に含まない形態であり得る。
ここに開示される溶射用材料は希土類元素酸化物を含まないことで、上記のとおり、形成される溶射皮膜の耐プラズマエロージョン性を高めるようにしている。したがって、溶射皮膜中に存在することで耐プラズマエロージョン性を低下させ得る希土類元素のフッ化物については、上記割合までの含有が許容され得る。そして、溶射用材料中には、希土類元素のフッ化物が実質的に含まれない形態であることで、形成される溶射皮膜の耐プラズマエロージョン性をさらに高めることができて好適である。」
「【0019】
[溶射用材料]
ここに開示される溶射用材料は、(1)構成元素として希土類元素(RE)、酸素(O)およびハロゲン元素(X)を含む希土類元素オキシハロゲン化物(RE-O-X)が、77質量%以上の割合で含まれ、(2)この希土類元素の酸化物を実質的に含まないことにより特徴づけられている。
【0020】
ここに開示される技術において、希土類元素(RE)としては特に制限されず、スカンジウム,イットリウムおよびランタノイドの元素のうちから適宜に選択することができる。具体的には、スカンジウム(Sc),イットリウム(Y),ランタン(La),セリウム(Ce),プラセオジム(Pr),ネオジム(Nd),プロメチウム(Pm),サマリウム(Sm),ユウロピウム(Eu),ガドリニウム(Gd),テルビウム(Tb),ジスプロシウム(Dy),ホルミウム(Ho),エルビウム(Er),ツリウム(Tm),イッテルビウム(Yb)およびルテチウム(Lu)のいずれか1種、または2種以上の組み合わせを考慮することができる。耐プラズマエロージョン性を改善させたり、価格等の観点から、好ましくは、Y,La,Gd,Tb,Eu,Yb,Dy,Ce等が挙げられる。この希土類元素は、これらのうちのいずれか1種を単独で、または2種以上を組み合わせて含んでいても良い。
【0021】
また、ハロゲン元素(X)についても特に制限されず、元素周期律表の第17族に属する元素のいずれであっても良い。具体的には、フッ素(F),塩素(Cl),臭素(Br),ヨウ素(I)およびアスタチン(At)等のハロゲン元素のいずれか1種の単独、または2種以上の組み合わせとすることができる。好ましくは、F,Cl,Brとすることができる。このような希土類元素オキシハロゲン化物としては、各種の希土類元素のオキシフッ化物、オキシ塩化物およびオキシ臭化物が、代表的なものとして挙げられる。」
「【0029】
そしてこの希土類元素オキシハロゲン化物は、溶射用材料中に77質量%以上という高い割合で含まれている。希土類元素オキシハロゲン化物は、耐プラズマエロージョン性が高い材料として知られているイットリア(Y_(2)O_(3))よりも、さらに耐プラズマエロージョン性に優れる。このような希土類元素オキシハロゲン化物は、少量含まれるだけでも耐プラズマエロージョン性の向上に寄与するが、上記のように多量に含まれることで、極めて良好なプラズマ耐性を示し得るために好ましい。希土類元素オキシハロゲン化物の割合は、80質量%以上(80質量%超過)であるのがより好ましく、85質量%以上(85質量%超過)であるのが更に好ましく、90質量%以上(90質量%超過)であるのがより一層好ましく、95質量%以上(95質量%超過)であるのがより一層好適である。例えば、実質的に、100質量%(不可避的不純物を除いて全て)であるのが特に好適である。
【0030】
そして、ここに開示される溶射用材料は、希土類元素オキシハロゲン化物の高いプラズマ耐性をより良く発現させ得るように、この希土類元素の酸化物を実質的に含まないよう構成されている。
溶射用材料に含まれる希土類元素の酸化物は、溶射によって溶射皮膜中にそのまま希土類元素酸化物として存在し得る。例えば、溶射用材料に含まれる酸化イットリウムは、溶射によって溶射皮膜中にそのまま酸化イットリウムとして存在し得る。この希土類元素酸化物(例えば酸化イットリウム)は、希土類元素オキシハロゲン化物に比べてプラズマ耐性が低い。そのため、この希土類元素酸化物が含まれた部分はプラズマ環境に晒されたときに脆い変質層を生じやすく、変質層は微細な粒子となって脱離しやすい。そして、この微細な粒子がパーティクルとして半導体基盤上に堆積する虞がある。したがって、ここに開示される溶射用材料においては、パーティクル源となり得る希土類元素酸化物の含有を排除するようにしている。」
「【0032】
また、ここに開示される溶射用材料は、上記希土類元素のフッ化物の含有割合を23質量%以下に抑えるよう構成されている。溶射用材料に含まれる希土類元素のフッ化物は、溶射によって酸化されて、溶射皮膜中に希土類元素の酸化物を形成し得る。例えば、溶射用材料に含まれるフッ化イットリウムは、溶射によって酸化されて、溶射皮膜中に酸化イットリウムを形成し得る。このような希土類元素の酸化物は上記のとおりパーティクル源となり得ることから、23質量%を超えて含まれると耐プラズマエロージョン性が低下されるために好ましくない。かかる観点から、希土類元素のフッ化物の含有割合は、20質量%以下であるのが好ましく、15質量%以下であるのがより好ましく、さらには10質量%以下、例えば5質量%以下であるのが好ましい。ここに開示される溶射用材料のより好ましい態様では、希土類元素のフッ化物(例えばフッ化イットリウム)についても実質的に含まないことであり得る。
なお、本発明の溶射用材料は、このように希土類元素オキシハロゲン化物を高い割合で含むことにより、パーティクル源となり難い他の物質を含むことが許容される。
【0033】
上記の溶射用材料は、典型的には粉末の形態にて提供される。かかる粉末は、より微細な一次粒子が造粒されてなる造粒粒子で構成されていても良いし、主として一次粒子の集合(凝集の形態が含まれても良い。)から構成される粉末であっても良い。溶射効率の観点から、例えば、平均粒子径が30μm程度以下であれば特に制限されず、平均粒子径の下限についても特に制限はない。溶射用材料の平均粒子径は、例えば、50μm以下とすることができ、好ましくは40μm以下、より好ましくは35μm以下程度とすることができる。平均粒子径の下限についても特に制限はなく、かかる溶射用材料の流動性を考慮した場合に、例えば、5μm以上とすることができ、好ましくは10μm以上、より好ましくは15μm以上、例えば20μm以上とすることができる。」
「【0045】
【表1】


「【0049】
表1中の「平均粒子径」の欄は、各溶射用材料の平均粒子径を示している。平均粒子径は、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置(HORIBA製,LA-300)を用いて測定される、体積基準のD50%の値である。」
「【0052】
これらの溶射用材料をプラズマ溶射法により溶射することで、No.1?11の溶射皮膜を備える溶射皮膜付部材を作製した。溶射条件は、以下の通りとした。
すなわち、まず、被溶射材である基材としては、アルミニウム合金(Al6061)からなる板材(70mm×50mm×2.3mm)を用意し、褐色アルミナ研削材(A#40)によるブラスト処理を施して用いた。プラズマ溶射には、市販のプラズマ溶射装置(PraxairSurface Technologies社製,SG-100)を用いて行った。プラズマ発生条件は、プラズマ作動ガスとしてアルゴンガス50psi(0.34MPa)とヘリウムガス50psi(0.34MPa)とを用い、電圧37.0V,電流900Aの条件でプラズマを発生させた。なお、溶射装置への溶射用材料の供給には、粉末供給機(PraxairSurface Technologies社製,Model1264型)を用い、溶射用材料を溶射装置に20g/minの速度で供給し、厚さ200μmの溶射皮膜を形成した。なお、溶射ガンの移動速度は24m/min、溶射距離は90mmとした。」
「【0054】
【表2】



イ 甲2
上記甲2には、以下の記載がある。
「【請求項1】
希土類元素オキシフッ化物粒子の外形のアスペクト比が2以下、平均粒子径が10μm以上100μm以下、嵩密度が0.8g/cm^(3)以上2g/cm^(3)以下、炭素を0.5質量%以下、酸素を3質量%以上15質量%以下含有することを特徴とする希土類元素オキシフッ化物粉末溶射材料。
【請求項2】
希土類元素がY及びLaからLuまでの3A族元素から選ばれる1種又は2種以上である請求項1に記載の溶射材料。」

ウ 甲3
上記甲3には、以下の記載がある。
「【請求項1】
希土類元素フッ化物粒子の外形のアスペクト比が2以下、平均粒子径が10μm以上100μm以下、嵩密度が0.8g/cm^(3)以上1.5g/cm^(3)以下、炭素を0.1質量%以上0.5質量%以下含有することを特徴とする希土類元素フッ化物粉末溶射材料。」
「【請求項3】
希土類元素がY及びLaからLuまでの3A族元素から選ばれる1種又は2種以上である請求項1又は2記載の溶射材料。」

エ 甲4
上記甲4には、以下の記載がある。
「【請求項2】 希土類元素(但し、イットリウムを含む)含有化合物から形成され、嵩密度が1.0g/cm^(3)以上、アスペクト比が2以下、細孔半径1μm以下の累積細孔容積が0.5cm^(3)/g未満の球状であることを特徴とする溶射用球状粒子。」
「【0025】希土類元素含有化合物としては、イットリウム(Y)を含む希土類元素を含有する化合物で酸化物、ハロゲン化物(フッ化物、フッ化オキサイド、塩化物等)などが挙げられ、特に焼結して得られる点から酸化物が好ましい。」

(2)引用発明
上記(1)アの摘示のうち、請求項1、2、6?11、【0033】、【0049】及び【0052】からみて、甲1には以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「溶射用材料をプラズマ溶射法により溶射する、溶射皮膜を備える溶射皮膜付部材を作製する方法であって、
溶射用材料は、
構成元素としてイットリウム、酸素(O)およびフッ素を含むイットリウムオキシフッ化物が、全体の77質量%以上の割合で含まれ、
前記イットリウムの酸化物を実質的に含まず、
さらに、前記イットリウムのフッ化物が、全体の23質量%以下の割合で含まれ、
レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置(HORIBA製,LA-300)を用いて測定される、体積基準のD50%の値である平均粒子径は、50μm以下とすることができ、10μm以上とすることができ、
溶射皮膜は、
構成元素としてイットリウム、酸素およびフッ素を含むイットリウムオキシフッ化物を主成分とし、
前記イットリウムのフッ化物を実質的に含まず、
前記イットリウムの酸化物を実質的に含まない、
溶射皮膜を備える溶射皮膜付部材を作製する方法。」

(3)本件発明3と引用発明との対比
引用発明における「イットリウムオキシフッ化物」、「イットリウムの酸化物」及び「イットリウムのフッ化物」は、本件発明3における「オキシフッ化イットリウム」、「Y_(2)O_(3)」及び「YF_(3)」にそれぞれ相当する。
また、引用発明は、「イットリウムオキシフッ化物が、全体の77質量%以上の割合」及び「イットリウムのフッ化物が、全体の23質量%以下の割合」であることから、溶射材料が「イットリウムオキシフッ化物」と「イットリウムのフッ化物」のみからなる場合も含むものである。
さらに、本件発明3における「Y_(5)O_(4)F_(7)」及び「YOF」は、「オキシフッ化イットリウム」に含まれるものである。
してみると、本件発明3と引用発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。

<一致点>
「基材に、オキシフッ化イットリウムとYF_(3)とのみを含み、Y_(2)O_(3)を含まず、オキシフッ化イットリウムとYF_(3)とが、オキシフッ化イットリウムとYF_(3)との全体に対して、オキシフッ化イットリウムが77?90質量%、残分がYF_(3)であり、
レーザー回折法で測定された平均粒径D50が10μm以上50μm以下であるフッ化イットリウム溶射材料をプラズマ溶射して、
基材上にYF_(3)及びY_(2)O_(3)を実質的に含まないオキシフッ化イットリウムからなる溶射膜を形成するオキシフッ化イットリウム成膜部品の製造方法。」である点。

<相違点1>
フッ化イットリウム溶射材料におけるオキシフッ化イットリウムついて、本件発明3は、「Y_(5)O_(4)F_(7)」に特定されているのに対し、引用発明は、その特定がされていない点。

<相違点2>
フッ化イットリウム溶射材料の嵩密度について、本件発明3は、「1.2g/cm^(3)以上2.5g/cm^(3)以下」であるのに対し、引用発明は、その範囲が不明である点。

<相違点3>
プラズマ溶射について、本件発明3は、「大気プラズマ溶射」であるのに対し、引用発明は、その特定がされていない点。

<相違点4>
溶射膜について、本件発明3は、「YOF及びY_(5)O_(4)F_(7)のみからなる」のに対し、引用発明は、その特定がされていない点。

(4)相違点についての判断
相違点1及び4を併せて検討するに、甲1における【表2】の実施例をみても、例えばNo.11は、溶射材料がY_(5)O_(4)F_(7)のみ、溶射皮膜がYOFとY_(5)O_(4)F_(7)とからなるものであるように、溶射材料が「Y_(5)O_(4)F_(7)とYF_(3)とのみを含み、Y_(2)O_(3)を含まず」、かつ溶射膜が「YOF及びY_(5)O_(4)F_(7)のみからなる」ものは1つも示されていなし、このような組み合わせとすることが示されているに等しいということもできない。

したがって、甲2?4に記載されているように、相違点2に係るフッ化イットリウム溶射材料の嵩密度が通常のものだとしても、本件発明3が引用発明と実質的に同一であるとはいえない。

(5)小括
よって、本件発明3は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものでない。

3 特許法第36条第6項1号(サポート要件)及び同条第4項第1号(
実施可能要件)について
申立人による「溶射材料が造粒粒であるかそれとも凝集粉であるか、原料粒径や原料の種類によって、膜粗さや緻密さが変化し、パーティクルの有無に影響することは明らか」との主張は、その根拠が不明であるから、取消理由として採用することはできないし、本件発明3がサポート要件を満たすことは、上記第4の2(1)において判断したとおりである。
また、「平均粒径0.01μm以上3μm以下の酸化イットリウムを10質量%以上50質量%以下と、残分が平均粒径0.01μm以上3μm以下のフッ化アンモニウム複塩((YF_(3))_(3)NH_(4)F・H_(2)O)とを、必要に応じて更にバインダーと共に、混合、造粒、焼成することによって」製造されたフッ化イットリウム溶射材料を用いることで実施可能であることが示されている以上、実施可能要件の判断にあたって、それ以外の場合の実施態様を示す必要は認められない。

4 特許法第36条第6項第2号(明確性)について
本件発明3について、「Y_(5)O_(4)F_(7)とYF_(3)との全体に対して、Y_(5)O_(4)F_(7)が30?90質量%、残分がYF_(3)」であることは明確であるし、本件明細書の記載から、その測定手段は「測定された酸素濃度からY_(5)O_(4)F_(7)の含有率を算出し、残部をYF_(3)の含有率」とすることも明らかであるから、本件発明3が明確でないとはいえない。


第6 申立人による実質的に新たな理由及び証拠の提示について
意見書2における申立人による実質的に新たな理由及び証拠の提示について、訂正により追加された事項についての見解など訂正の請求の内容に付随して生じる理由である場合や、適切な取消理由を構成することが一見して明らかな場合を除き、原則的には、当該実質的に新たな理由及び証拠は採用できないところ、念のため以下に検討する。

1 明確性要件違反について(意見書2の7頁下から5行?8頁6行)
申立人は、訂正後の請求項3には「Y_(5)O_(4)F_(7)とYF_(3)とのみを含み、Y_(2)O_(3)を含まず」と記載されているところ、「Y_(5)O_(4)F_(7)とYF_(3)とのみを含み」が、溶射材料中の成分として「Y_(5)O_(4)F_(7)とYF_(3)」以外の成分を含まないという意味なのであれば、Y_(2)O_(3)を含まないことは当然であるから、敢えて「Y_(2)O_(3)を含まず」と記載していることの意味が不明であるという新たな理由を申立人は提示している。
しかしながら、申立人による上記のとおり「Y_(2)O_(3)を含まないことは当然である」のだから、訂正後の請求項3に係る発明が明確でないとはいえない。

2 サポート要件違反について(意見書2の8頁下から2行?10頁下か
ら5行)
本件訂正により、本件発明3は、「Y_(5)O_(4)F_(7)とYF_(3)」のみを含む溶射材料により、「YOF及びY_(5)O_(4)F_(7)」のみを含む溶射膜を製造することになったところ、作動ガスの種類が異なるとプラズマ溶射中における溶射粒子温度や粒子速度を異ならせ、それにより溶射粒子への入熱量を異ならせるから、作動ガスの種類によっては酸化の程度も異なることが明らかにもかかわらず、本件明細書では、作動ガスとして「アルゴン40L/min、水素5L/min」の条件によって溶射したことしか記載されておらず、アルゴン/水素の所定量の組み合わせと同様の組成変化を、他のどのような作動ガスを用いた場合でも得られると当業者が理解できないから、本件請求項3の記載は、サポート要件違反であるいう新たな理由を申立人は提示している。
しかしながら、本件明細書において、アルゴン及び水素による作動ガスによって「YOF及びY_(5)O_(4)F_(7)」のみを含む溶射膜を製造できることが記載されている以上、他の作動ガスについて示す必要は認められないし、さらに、本件発明3がサポート要件を満たしていることは、上記第4の2(1)において判断したとおりである。

3 進歩性欠如について(意見書2の10頁下から4行?14頁16行)
本件発明3は、甲第11号証(特開2014-136835号公報)に記載された発明及び新たな証拠である甲第17号証(再公表特許WO2015-019673号)に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるという新たな理由を申立人は提示している。
しかしながら、甲第11号証及び甲第13号証の記載から、進歩性欠如の適切な取消理由を構成することが一見して明らかとはいえないし、さらに、甲第11号証の【0012】及び甲第17号証の【0012】には、溶射材料のオキシフッ化物は、YOFだけでなく、Y_(5)O_(4)F_(7)やY_(7)O_(6)F_(9)等も含み、これらのうち1種以上とすることが記載されており、本件発明3のように、溶射材料のオキシフッ化物をY_(5)O_(4)F_(7)とする動機付けは認められないから、進歩性欠如があるとすることはできない。

4 小括
よって、申立人により提示された実質的に新たな理由及び証拠を採用することはできない。


第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項3に係る特許を取り消すことはできず、また、他に本件請求項3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件請求項4は、本件訂正により削除されたから、本件請求項4に係る特許に対して申立人がした特許異議申立については、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Y_(5)O_(4)F_(7)とYF_(3)とを含み、Y_(2)O_(3)を含まず、Y_(5)O_(4)F_(7)とYF_(3)とが、Y_(5)O_(4)F_(7)とYF_(3)との全体に対して、Y_(5)O_(4)F_(7)が30?90質量%、残分がYF_(3)であり、レーザー回折法で測定された平均粒径D50が10μm以上60μm以下で、嵩密度が1.2g/cm^(3)以上2.5g/cm^(3)以下であるフッ化イットリウム溶射材料を製造する方法であって、
レーザー回折法で測定された平均粒径D50が0.01μm以上3μm以下の酸化イットリウムを10?40質量%と、残分がレーザー回折法で測定された平均粒径D50が0.01μm以上3μm以下の(YF_(3))_(3)NH_(4)F・H_(2)Oで示されるフッ化アンモニウム複塩とを混合、造粒、焼成することを特徴とするフッ化イットリウム溶射材料の製造方法。
【請求項2】
上記フッ化イットリウム溶射材料中のY_(5)O_(4)F_(7)とYF_(3)との合計が90質量%以上であることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
基材に、Y_(5)O_(4)F_(7)とYF_(3)とのみを含み、Y_(2)O_(3)を含まず、Y_(5)O_(4)F_(7)とYF_(3)とが、Y_(5)O_(4)F_(7)とYF_(3)との全体に対して、Y_(5)O_(4)F_(7)が30?90質量%、残分がYF_(3)であり、レーザー回折法で測定された平均粒径D50が10μm以上60μm以下で、嵩密度が1.2g/cm^(3)以上2.5g/cm^(3)以下であるフッ化イットリウム溶射材料を大気プラズマ溶射して、基材上にYOF及びY_(5)O_(4)F_(7)のみからなる溶射膜を形成することを特徴とするオキシフッ化イットリウム成膜部品の製造方法。
【請求項4】(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-01-24 
出願番号 特願2016-203613(P2016-203613)
審決分類 P 1 652・ 536- YAA (C23C)
P 1 652・ 537- YAA (C23C)
P 1 652・ 161- YAA (C23C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 國方 康伸  
特許庁審判長 中澤 登
特許庁審判官 亀ヶ谷 明久
土屋 知久
登録日 2018-08-17 
登録番号 特許第6384536号(P6384536)
権利者 信越化学工業株式会社
発明の名称 フッ化イットリウム溶射材料及びオキシフッ化イットリウム成膜部品の製造方法  
代理人 特許業務法人英明国際特許事務所  
代理人 特許業務法人英明国際特許事務所  
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