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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 H05B 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 H05B 審判 全部申し立て 2項進歩性 H05B |
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管理番号 | 1360456 |
異議申立番号 | 異議2019-700123 |
総通号数 | 244 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-04-24 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-02-14 |
確定日 | 2020-01-31 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6378450号発明「有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6378450号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。 特許第6378450号の請求項1、3?7に係る特許を維持する。 特許第6378450号の請求項2に係る特許についての特許異議の申し立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6378450号の請求項1?7に係る特許についての出願は、平成29年9月13日(優先権主張 平成28年9月16日)を国際出願日とする出願であって、平成30年8月3日にその特許権の設定登録がされ、平成30年8月22日に特許掲載公報が発行された。 本件特許異議の申立ての経緯は、以下のとおりである。 平成31年2月14日:特許異議申立人 合同会社SAS(以下「特許異議申立人」という。)による請求項1?7に係る特許に対する特許異議の申立て 平成31年4月19日付け:取消理由通知書 令和元年6月19日:特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 令和元年7月23日:特許異議申立人による意見書の提出 令和元年8月22日付け:取消理由通知書(決定の予告) 令和元年10月28日:特許権者による意見書及び訂正請求書の提出(この訂正請求書による訂正請求を、以下「本件訂正請求」という。) なお、令和元年11月5日付けで通知書を送付したが、特許異議申立人による意見書の提出はなかった。 また、令和元年6月19日に提出した訂正請求書は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなされる。 第2 訂正の適否 1 訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は、次のとおりである(下線は当合議体が付したものであり、訂正箇所を示す。)。なお、本件訂正請求は、一群の請求項である、請求項1?請求項7を対象として請求された。 (1) 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1の「カチオン重合性化合物とカチオン重合開始剤とを含有する有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤であって、前記カチオン重合性化合物100重量部中にシクロアルケンオキシド型脂環式エポキシ化合物を50重量部以上80重量部以下含有し、」との記載を、「カチオン重合性化合物と熱カチオン重合開始剤とを含有する有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤であって、前記カチオン重合性化合物100重量部中にシクロアルケンオキシド型脂環式エポキシ化合物を50重量部以上80重量部以下含有し、前記シクロアルケンオキシド型脂環式エポキシ化合物は、エポキシ基に含まれる以外のエーテル結合、又は、エステル結合を有し、かつ、シクロアルケンオキシド基を両末端に有し、前記熱カチオン重合開始剤が、BF_(4)^(-)又は(BX_(4))^(-)(ただし、Xは、少なくとも2つ以上のフッ素若しくはトリフルオロメチル基で置換されたフェニル基を表す)を対アニオンとする、スルホニウム塩、ホスホニウム塩、第4級アンモニウム塩、ジアゾニウム塩、又は、ヨードニウム塩であり、」と訂正する。 なお、請求項3?請求項7は、請求項1の記載を引用して記載されているから、上記訂正により、請求項3?請求項7についても、訂正されたこととなる。 (2) 訂正事項2 特許請求の範囲の請求項1の「E型粘度計を用いて25℃、20rpmの条件で測定した粘度が100mPa・s以下であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤。」との記載を、「E型粘度計を用いて25℃、20rpmの条件で測定した粘度が100mPa・s以下であり、前記有機EL表示素子用封止剤を、バイアル瓶中に300mg計量して封入した後、100℃で30分間加熱を行うことで硬化させ、更に、このバイアル瓶を85℃の恒温オーブンで100時間加熱し、バイアル瓶中の気化成分を、ガスクロマトグラフ質量分析計(日本電子社製、「JMS-Q1050」)を用いて計測した気化成分量が100ppm未満であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤。」と訂正する。 なお、請求項3?請求項7は、請求項1の記載を引用して記載されているから、上記訂正により、請求項3?請求項7についても、訂正されたこととなる。 (3) 訂正事項3 特許請求の範囲の請求項2を削除する。 (4) 訂正事項4 特許請求の範囲の請求項3の「ビス((3-エチルオキセタン-3-イル)メチル)エーテル、1,2:7,8-ジエポキシオクタン、及び、1,2:5,6-ジエポキシシクロオクタンからなる群より選択される少なくとも1種を含有する」との記載を、「ビス((3-エチルオキセタン-3-イル)メチル)エーテルまたは1,2:7,8-ジエポキシオクタンを含有する」と訂正する。 なお、請求項4?請求項7は、請求項3の記載を引用して記載されているから、上記訂正により、請求項4?請求項7についても、訂正されたこととなる。 (5) 訂正事項5 特許請求の範囲の請求項3において「請求項1又は2」と記載されているのを、「請求項1」に訂正する。 なお、請求項4?請求項7は、請求項3の記載を引用して記載されているから、上記訂正により、請求項4?請求項7についても、訂正されたこととなる。 (6) 訂正事項6 特許請求の範囲の請求項4の「ビス((3-エチルオキセタン-3-イル)メチル)エーテル、1,2:7,8-ジエポキシオクタン、及び、1,2:5,6-ジエポキシシクロオクタンからなる群より選択される少なくとも1種の含有量」との記載を、「ビス((3-エチルオキセタン-3-イル)メチル)エーテルまたは1,2:7,8-ジエポキシオクタンの含有量」と訂正する。 なお、請求項5?請求項7は、請求項4の記載を引用して記載されているから、上記訂正により、請求項5?請求項7についても、訂正されたこととなる。 (7) 訂正事項7 特許請求の範囲の請求項5の「ビス((3-エチルオキセタン-3-イル)メチル)エーテル、1,2:7,8-ジエポキシオクタン、及び、1,2:5,6-ジエポキシシクロオクタンからなる群より選択される少なくとも1種との合計の含有量」との記載を、「ビス((3-エチルオキセタン-3-イル)メチル)エーテルまたは1,2:7,8-ジエポキシオクタンとの合計の含有量」と訂正する。 なお、請求項6及び7は、請求項5の記載を引用して記載されているから、上記訂正により、請求項6及び7についても、訂正されたこととなる。 (8) 訂正事項8 特許請求の範囲の請求項7に「カチオン重合開始剤」と記載されているのを、「熱カチオン重合開始剤」に訂正する。 (9) 訂正事項9 特許請求の範囲の請求項7において「請求項1、2、3、4、5又は6」と記載されているのを、「請求項1、3、4、5又は6」に訂正する。 2 訂正の適否 以下、訂正前の請求項1?7に係る発明を、それぞれ、「訂正前発明1?7」という。 (1) 訂正事項1 ア 訂正の目的 訂正事項1による訂正は、[A]訂正前発明1における「シクロアルケンオキシド型脂環式エポキシ化合物」の化学構造を、「エポキシ基に含まれる以外のエーテル結合、又は、エステル結合を有し、かつ、シクロアルケンオキシド基を両末端に有し」と特定するとともに、[B]訂正前発明1における「カチオン重合開始剤」を、「熱カチオン重合開始剤」に限定し、さらに、[C]「熱カチオン重合開始剤」を「BF_(4)^(-)又は(BX_(4))^(-)(ただし、Xは、少なくとも2つ以上のフッ素若しくはトリフルオロメチル基で置換されたフェニル基を表す)を対アニオンとする、スルホニウム塩、ホスホニウム塩、第4級アンモニウム塩、ジアゾニウム塩、又は、ヨードニウム塩」に限定するものである。 そうしてみると、上記の訂正は、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正である。 また、請求項3?請求項7についてみても、同じことがいえる。 イ 新規事項について 訂正事項1による訂正は、願書に添付した明細書の段落【0010】、段落【0016】及び段落【0017】に基づくものである。 そうしてみると、訂正は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)によって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。 したがって、訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。 また、請求項3?請求項7についてみても、同じことがいえる。 ウ 拡張、変更について 訂正事項1による訂正は、前記アで述べたとおりのものであるから、訂正前発明1の範囲を狭くするものである。 そうしてみると、訂正により、訂正前の特許請求の範囲には含まれないこととされた発明が、訂正後の特許請求の範囲に含まれることにはならないといえる。 したがって、訂正事項1による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。 また、請求項3?請求項7についてみても、同じことがいえる。 (2) 訂正事項2 ア 訂正の目的 訂正事項2による訂正は、訂正前発明1における「有機EL表示素子用封止剤」を、「バイアル瓶中に300mg計量して封入した後、100℃で30分間加熱を行うことで硬化させ、更に、このバイアル瓶を85℃の恒温オーブンで100時間加熱し、バイアル瓶中の気化成分を、ガスクロマトグラフ質量分析計(日本電子社製、「JMS-Q1050」)を用いて計測した気化成分量が100ppm未満である」ことに限定するものである。 そうしてみると、上記の訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正である。 また、請求項3?請求項7についてみても、同じことがいえる。 イ 新規事項について 訂正事項2による訂正は、願書に添付した明細書の段落【0058】に基づくものである。 そうしてみると、訂正は、当業者によって願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。 したがって、訂正事項2による訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。 また、請求項3?請求項7についてみても、同じことがいえる。 ウ 拡張、変更について 訂正事項2による訂正は、前記アで述べたとおりのものであるから、訂正前発明1の範囲を狭くするものである。 そうしてみると、訂正により、訂正前の特許請求の範囲には含まれないこととされた発明が、訂正後の特許請求の範囲に含まれることにはならないといえる。 したがって、訂正事項2による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。 また、請求項3?請求項7についてみても、同じことがいえる。 (3) 訂正事項3 訂正事項3による訂正は、請求項2を削除するものである。 そうしてみると、上記の訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正である。 また、訂正事項3による訂正が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであること、そして、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかであるから、訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 (4) 訂正事項4 ア 訂正の目的 訂正事項4による訂正は、「有機EL表示素子用封止剤」に含有させる「カチオン重合性化合物」を、「ビス((3-エチルオキセタン-3-イル)メチル)エーテルまたは1,2:7,8-ジエポキシオクタン」に限定するものである。 そうしてみると、上記の訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正である。 また、請求項4?請求項7についてみても、同じことがいえる。 イ 新規事項について 訂正事項4による訂正は、願書に添付した明細書の段落【0013】に基づくものである。 そうしてみると、訂正は、当業者によって願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。 したがって、訂正事項4による訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。 また、請求項3?請求項7についてみても、同じことがいえる。 ウ 拡張、変更について 訂正事項4による訂正は、前記アで述べたとおりのものであるから、訂正前発明3の範囲を狭くするものである。 そうしてみると、訂正により、訂正前の特許請求の範囲には含まれないこととされた発明が、訂正後の特許請求の範囲に含まれることにはならないといえる。 したがって、訂正事項4による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。 また、請求項3?請求項7についてみても、同じことがいえる。 (5) 訂正事項5 訂正事項5による訂正は、請求項2の削除に伴ってなされたものである。 そうしてみると、上記の訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項(明瞭でない記載の釈明)を目的とする訂正である。 また、訂正事項5による訂正が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであること、そして、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかであるから、訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 また、請求項4?請求項7についてみても、同じことがいえる。 (6) 訂正事項6 ア 訂正の目的 訂正事項6による訂正は、「有機EL表示素子用封止剤」に含有させる「カチオン重合性化合物」を、「ビス((3-エチルオキセタン-3-イル)メチル)エーテルまたは1,2:7,8-ジエポキシオクタン」に限定するものである。 そうしてみると、上記の訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正である。 また、請求項5?請求項7についてみても、同じことがいえる。 イ 新規事項について 訂正事項6による訂正は、願書に添付した明細書の段落【0014】に基づくものである。 そうしてみると、訂正は、当業者によって願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。 したがって、訂正事項6による訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。 また、請求項5?請求項7についてみても、同じことがいえる。 ウ 拡張、変更について 訂正事項6による訂正は、前記アで述べたとおりのものであるから、訂正前発明4の範囲を狭くするものである。 そうしてみると、訂正により、訂正前の特許請求の範囲には含まれないこととされた発明が、訂正後の特許請求の範囲に含まれることにはならないといえる。 したがって、訂正事項6による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。 また、請求項5?請求項7についてみても、同じことがいえる。 (7) 訂正事項7 ア 訂正の目的 訂正事項7による訂正は、「有機EL表示素子用封止剤」に含有させる「カチオン重合性化合物」を、「ビス((3-エチルオキセタン-3-イル)メチル)エーテルまたは1,2:7,8-ジエポキシオクタン」に限定するものである。 そうしてみると、上記の訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正である。 また、請求項6及び7についてみても、同じことがいえる。 イ 新規事項について 訂正事項7による訂正は、願書に添付した明細書の段落【0015】に基づくものである。 そうしてみると、訂正は、当業者によって願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。 したがって、訂正事項7による訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。 また、請求項6及び7についてみても、同じことがいえる。 ウ 拡張、変更について 訂正事項7による訂正は、前記アで述べたとおりのものであるから、訂正前発明5の範囲を狭くするものである。 そうしてみると、訂正により、訂正前の特許請求の範囲には含まれないこととされた発明が、訂正後の特許請求の範囲に含まれることにはならないといえる。 したがって、訂正事項7による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。 また、請求項6及び7についてみても、同じことがいえる。 (8) 訂正事項8 訂正事項8による訂正は、訂正事項1によって、「カチオン重合開始剤」が「熱カチオン重合開始剤」に訂正されたことに伴ってなされたものである。 そうしてみると、上記の訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項(明瞭でない記載の釈明)を目的とする訂正である。 また、訂正事項8による訂正が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであること、そして、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかであるから、訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 (9) 訂正事項9 訂正事項9による訂正は、請求項2の削除に伴ってなされたものである。 そうしてみると、上記の訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項(明瞭でない記載の釈明)を目的とする訂正である。 また、訂正事項9による訂正が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであること、そして、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかであるから、訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 3 小括 本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号または第3号に掲げる事項を目的とするものである。また、訂正は、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 よって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?7〕について訂正することを認める。 第3 取消理由の概要 令和元年6月19日に提出した訂正請求書による訂正後の請求項1?7に係る特許に対して、当審が令和元年8月22日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、[A]請求項1?6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と、発明の構成に差異がないから、請求項1?6に係る特許は、特許法第29条第1項第3号に該当する発明に対してされたものである、[B]請求項1及び2に係る発明は、甲第2号証に記載された発明と、発明の構成に差異がないから、請求項1及び2に係る特許は、特許法第29条第1項第3号に該当する発明に対してされたものである、[C]請求項1?6に係る発明は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである、[D]本件特許の発明の詳細な説明及び特許請求の範囲の記載に不備があるから、本件特許は、特許法第36条第4項第1号、同条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである、[E]したがって、本件特許は、特許法第113条第1項第2号及び第4号に該当し、取り消されるべきものである、というものである。 第4 本件特許発明 上記「第2」で述べたとおり、本件訂正請求による訂正は認められることとなった。そうしてみると、本件特許の請求項1、請求項3?請求項7に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」、「本件特許発明3」?「本件特許発明7」という。)は、訂正後の特許請求の範囲の請求項1、請求項3?請求項7に記載された事項によって特定されるとおりの、以下のものである。 「【請求項1】 カチオン重合性化合物と熱カチオン重合開始剤とを含有する有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤であって、 前記カチオン重合性化合物100重量部中にシクロアルケンオキシド型脂環式エポキシ化合物を50重量部以上80重量部以下含有し、 前記シクロアルケンオキシド型脂環式エポキシ化合物は、エポキシ基に含まれる以外のエーテル結合、又は、エステル結合を有し、かつ、シクロアルケンオキシド基を両末端に有し、 前記熱カチオン重合開始剤が、BF_(4)^(-)又は(BX_(4))^(-)(ただし、Xは、少なくとも2つ以上のフッ素若しくはトリフルオロメチル基で置換されたフェニル基を表す)を対アニオンとする、スルホニウム塩、ホスホニウム塩、第4級アンモニウム塩、ジアゾニウム塩、又は、ヨードニウム塩であり、 E型粘度計を用いて25℃、20rpmの条件で測定した粘度が100mPa・s以下であり、 前記有機EL表示素子用封止剤を、バイアル瓶中に300mg計量して封入した後、100℃で30分間加熱を行うことで硬化させ、更に、このバイアル瓶を85℃の恒温オーブンで100時間加熱し、バイアル瓶中の気化成分を、ガスクロマトグラフ質量分析計(日本電子社製、「JMS-Q1050」)を用いて計測した気化成分量が100ppm未満である ことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤。 【請求項2】 (削除) 【請求項3】 カチオン重合性化合物は、ビス((3-エチルオキセタン-3-イル)メチル)エーテルまたは1,2:7,8-ジエポキシオクタンを含有することを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤。 【請求項4】 カチオン重合性化合物100重量部中における、ビス((3-エチルオキセタン-3-イル)メチル)エーテルまたは1,2:7,8-ジエポキシオクタンの含有量が、10重量部以上50重量部以下であることを特徴とする請求項3記載の有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤。 【請求項5】 カチオン重合性化合物100重量部中おける、シクロアルケンオキシド型脂環式エポキシ化合物と、ビス((3-エチルオキセタン-3-イル)メチル)エーテルまたは1,2:7,8-ジエポキシオクタンとの合計の含有量が、80重量部以上であることを特徴とする請求項3又は4記載の有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤。 【請求項6】 カチオン重合性化合物は、ビス((3-エチルオキセタン-3-イル)メチル)エーテルを含有することを特徴とする請求項3、4又は5記載の有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤。 【請求項7】 熱カチオン重合開始剤として、対アニオンがボレート系である第4級アンモニウム塩を含有することを特徴とする請求項1、3、4、5又は6記載の有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤。」 第5 各甲号証の記載事項、各甲号証に記載された発明、引用文献の記載事項 1 甲第1号証の記載事項 甲第1号証(特開2015-34228号公報)には、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、甲第1号証に記載された発明の認定や判断に活用した箇所を示す(以下同様。)。 (1) 「【発明の詳細な説明】 【技術分野】 【0001】 本発明は、エネルギー線感受性組成物及び該エネルギー線感受性組成物に活性エネルギー線を照射することによって得られる硬化物に関する。該エネルギー線感受性組成物は、特に接着剤に有用である。 【背景技術】 【0002】 エネルギー線感受性組成物は、インキ、塗料、各種コーティング剤、接着剤、光学部材等の分野において用いられている。 ・・・(省略)・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 本発明の目的は、塗工性、硬化性及び接着性に優れるエネルギー線感受性組成物を提供することにある。 ・・・(省略)・・・ 【発明の効果】 【0008】 本発明のエネルギー線感受性組成物は、塗工性、硬化性及び接着性に優れるため、接着剤用途として特に有用なものである。」 (2) 「【発明を実施するための形態】 【0009】 以下、本発明のエネルギー線感受性組成物及び該エネルギー線感受性組成物からなる接着剤について詳細に説明する。 【0010】 本発明に使用する上記カチオン重合性モノマー混合物(1)において、該混合物を構成するカチオン重合性モノマーは、・・・(省略)・・・、二官能以上の対称型カチオン重合性モノマー(1A)を必須成分とする。また、上記カチオン重合性モノマー混合物(1)には、二官能以上の対称型カチオン重合性モノマー(1A)に加えて、非対称型エポキシシクロアルキル型化合物(1B)、単官能のカチオン重合性モノマー(1C)が好ましく用いられる。 【0011】 上記二官能以上の対称型カチオン重合性モノマー(1A)としては、2つ以上のカチオン重合基を有する化合物を用いることができ、カチオン重合基としては、エポキシ基、オキセタン基、環状チオエーテル基、ジビニルエーテル基等が挙げられる。 ・・・(省略)・・・ 【0012】 上記二官能以上の対称型カチオン重合性モノマー(1A)としては、二官能以上の対称型カチオン重合性モノマー(1A)を主成分とする市販品を用いることができ、例えば、・・・(省略)・・・、OXT-221(東亞合成社製)、・・・(省略)・・・等のオキセタン化合物等が挙げられる。 【0013】 上記非対称型エポキシシクロアルキル型化合物(1B)の具体例としては、少なくとも1個の脂環を有し、脂環に直接ヒドロキシル基が結合した多価アルコールのポリグリシジルエーテル化物が挙げられる。例えば、・・・(省略)・・・3,4-エポキシ-3-メチルシクロヘキサンカルボキシレート、・・・(省略)・・・等が挙げられる。これらの中でも、密着性の点から、2官能以上の化合物が好ましく、分子内に2つのエポキシシクロアルキル構造を持つ化合物がより好ましい。 ・・・(省略)・・・ 【0014】 上記エポキシシクロアルキル型化合物(1B)としては、市販品を用いることができ、例えば、セロキサイド2021P、・・・(省略)・・・等が挙げられる。 ・・・(省略)・・・ 【0017】 上記カチオン重合性モノマー混合物(A)において、上記二官能以上の対称型カチオン重合性モノマー(1A)、非対称型エポキシシクロアルキル型化合物(1B)及び単官能のカチオン重合性モノマー(1C)の混合割合は、上記カチオン重合性モノマー混合物(A)100質量部に対して、上記二官能以上の対称型カチオン重合性モノマー(1A)が、5?50質量部、上記非対称型エポキシシクロアルキル型化合物(1B)が、50?90質量部、上記単官能のカチオン重合性モノマー(1C)が、0.5?20質量部であることが好ましく、上記二官能以上の対称型カチオン重合性モノマー(1A)が、10?40質量部、上記非対称型エポキシシクロアルキル型化合物(1B)が、60?90質量部、上記単官能のカチオン重合性モノマー(1C)が、1?15質量部であることがより好ましい。」 (3) 「【0018】 本発明に使用する上記エネルギー線感受性酸発生剤(2)とは、エネルギー線照射により酸を発生することが可能な化合物であればどのようなものでも差し支えないが、好ましくは、エネルギー線の照射によってルイス酸を放出するオニウム塩である複塩、又はその誘導体である。かかる化合物の代表的なものとしては、下記一般式、 [A]^(r+)[B]^(r-) (但し、Aは陽イオン種、Bは陰イオン種、rはイオンの価数を表す) で表される陽イオンと陰イオンの塩を挙げることができる。 ・・・(省略)・・・ 【0025】 本発明では、このようなオニウム塩の中でも、下記の(イ)?(ハ)の芳香族オニウム塩を使用することが特に有効である。これらの中から、その1種を単独で、又は2種以上を混合して使用することができる。 ・・・(省略)・・・ 【0028】 (ハ)下記群I又は群IIで表されるスルホニウムカチオンとヘキサフルオロアンチモンイオン、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートイオン等のスルホニウム塩 【0029】 【化1】 ![]() 【0030】 【化2】 ![]() ・・・(省略)・・・ 【0036】 本発明のエネルギー線感受性組成物には、必要に応じて熱重合開始剤を用いることができる。 熱重合開始剤とは、加熱によりカチオン種又はルイス酸を発生する化合物であって、例えば、スルホニウム塩、・・・(省略)・・・等を挙げることができる。」 (4) 「【0041】 本発明のエネルギー線感受性組成物は、粘度が1?200mPa・s以下であるものが、硬化性及び塗工性に優れるため好ましい。」 (5) 「【0046】 本発明のエネルギー線感受性組成物の具体的な用途としては、・・・(省略)・・・半導体装置用・LEDパッケージ用・液晶注入口用・有機EL用・光素子用・電気絶縁用・電子部品用・分離膜用等の封止剤、・・・(省略)・・・等を挙げることができる。」 (6) 「【実施例】 【0047】 以下、実施例等を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。 【0048】 以下、本発明のエネルギー線感受性組成物及び該エネルギー線感受性組成物を硬化して得られる硬化物に関し、実施例、評価例及び比較例により具体的に説明する。尚、実施例及び比較例では部は質量部を意味する。 【0049】 [実施例1?7及び比較例1?3] 下記の[表1]?[表2]に示す配合で各成分を十分に混合して、各々実施組成物1?7、比較組成物1?3を得た。 【0050】 カチオン重合性モノマーとしては下記の化合物(1A-1)?(1A-4)(1B-1)?(1B-2)及び(1C-1)を用いた。 ・・・(省略)・・・ 化合物1A-4:アロンオキセタンOXT-221 (東亞合成社製/ジ[1-エチル(3-オキセタニル)]メチルエーテル) 化合物1B-1:セロキサイド2021P (ダイセル社製/3,4-エポキシシクロへキシルメチル 3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート) ・・・(省略)・・・ 【0051】 エネルギー線感受性酸発生剤(2)としては下記の化合物(2-1)?(2-2)を用いた。 化合物2-1:[化3]で表される化合物 ・・・(省略)・・・ 【0052】 【化3】 ![]() ・・・(省略)・・・ 【0054】 【表1】 ![]() ・・・(省略)・・・ 【0056】 [評価例1?7及び比較評価例1?3] 上記実施例1?7で得られた実施組成物及び比較例1?3で得られた比較組成物について、下記評価を行った。結果を上記[表1]?[表2]に示す。 (塗工性) 40μmのPETフィルム上に得られた各々実施組成物及び比較組成物を塗布し、ラミネーターを用いて別の40μmPETフィルムと貼り合わせたときの状態を確認し、フィルム間に気泡が入らず、フィルムにシワや乱れがないものを〇、フィルム間に気泡が入ったり、フィルムにシワや乱れがあるものを×として評価した。 (硬化性) 塗工性の良好であった実施組成物1?7並びに比較組成物の2及び3のそれぞれをPETフィルム上にバーコーターで3?6μmの厚さに塗布し、無電極紫外光ランプを用いて800mJ/cm2のエネルギーを照射した。照射3分後に塗布面がタックフリーになっているものを○、タックが残っているものを×として評価した。 (接着性) 得られた実施組成物1?7及び比較組成物の1?3のそれぞれを、一枚のコロナ放電処理を施したTAC(トリアセチルセルロース)フィルムに塗布した後、該フィルムを、ラミネーターを用いてコロナ放電処理を施したもう一枚のCOP(シクロオレフィンポリマー)フィルムと貼り合わせ、無電極紫外光ランプを用いて1000mJ/cm2のエネルギーを照射して接着して試験片を得た。得られた試験片の90度ピール試験を行い、0.5N/cm以上であるものを〇、0.5N/cm以下であるものを×として評価した。 【0057】 [表1]?[表2]より、本発明のエネルギー線感受性組成物は、塗工性、硬化性及び接着性に優れることが明らかである。」 2 甲第1号証に記載された発明 甲第1号証の段落【0049】?段落【0054】には、実施例6として、「実施組成物6」が開示されている。また、甲第1号証の【0046】の記載からみて、「実施組成物6」は、「有機EL用」「の封止剤」に用いられるものであるといえる。 そうしてみると、甲第1号証には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。 「以下の各成分を十分に混合して得られ、 粘度が88mPa・sである、 実施組成物6を用いる有機EL用の封止剤。 化合物1A-4:アロンオキセタンOXT-221 (東亞合成社製/ジ[1-エチル(3-オキセタニル)]メチルエーテル 25質量部 化合物1B-1:セロキサイド2021P (ダイセル社製/3,4-エポキシシクロへキシルメチル 3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート) 75質量部 化合物2-1:[化3]で表される化合物 5質量部 【化3】 ![]() 」 3 甲第2号証の記載事項 甲第2号証(国際公開第2015/005210号)には以下の記載がある。 (1) 「技術分野 [0001] 本発明は、カチオン重合性組成物及び該カチオン重合性組成物に活性エネルギー線を照射することによって得られる硬化物に関する。該カチオン重合性組成物は、特に接着剤に有用である。 背景技術 [0002] カチオン重合性組成物は、インキ、塗料、各種コーティング剤、接着剤、光学部材等の分野において用いられている。 ・・・(省略)・・・ 発明の概要 発明が解決しようとする課題 [0005] 本発明の目的は、硬化性、接着性が高く、低粘度で塗工性に優れ、硬化後は高耐水性を有する硬化性組成物を提供することにある。 ・・・(省略)・・・ 発明の効果 [0009] 本発明のカチオン重合性組成物は、硬化性、接着性、塗工性、硬化後の耐水性に優れ、高弾性率を有するため、接着剤用途として特に有用なものである。」 (2) 「発明を実施するための形態 [0010] 以下、本発明のカチオン重合性組成物及び該カチオン重合性組成物からなる接着剤について詳細に説明する。 [0011] 本発明に使用する前記(1)カチオン重合性有機物質混合物において、該混合物を構成するカチオン重合性有機物質は、光照射により活性化したエネルギー線感受性カチオン重合開始剤により高分子化または、架橋反応を起こす化合物であり、エポキシ化合物が好ましい。該エポキシ化合物としては、脂肪族エポキシ化合物(1A)又は脂環式エポキシ化合物(1B)を用い、更に、芳香族エポキシ化合物(1C)、エポキシ基を有する重量平均分子量1000?1000000の高分子量体(1D)を用いることができる。また、カチオン重合性有機物質としては、その他、ビニルエーテル化合物又はオキセタン化合物(1E)を用いることができる。 [0012] 上記脂環式エポキシ化合物(1B)の具体例としては、少なくとも1個の脂環式環を有する多価アルコールのポリグリシジルエーテルまたはシクロヘキセンやシクロペンテン環含有化合物を酸化剤でエポキシ化することによって得られるシクロヘキセンオキサイドやシクロペンテンオキサイド含有化合物が挙げられる。たとえば、・・・(省略)・・・、3,4-エポキシ-3-メチルシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシ-3-メチルシクロヘキサンカルボキシレート、・・・(省略)・・・等が挙げられる。 ・・・(省略)・・・ [0013] 上記脂環式エポキシ化合物(1B)としては、市販品のものを用いることができ、例えば、セロキサイド2021P、・・・(省略)・・・等が挙げられる。 ・・・(省略)・・・ [0026] 上記ビニルエーテル化合物又はオキセタン化合物(1E)としては、カチオン重合性モノマーを主成分とする市販品のものを用いることができ、例えば、・・・(省略)・・・、OXT-221、・・・(省略)・・・等が挙げられる。 [0027] 上記(1)カチオン重合性有機物質混合物において、上記脂環式エポキシ化合物(1B)、脂肪族エポキシ化合物(1A)、芳香族エポキシ化合物(1C)等の使用割合は、(1)カチオン重合性有機物質混合物100質量部に対して、脂環式エポキシ化合物(1B)が1?60質量部であり、脂肪族エポキシ化合物(1A)が0?70質量部であることが好ましく、・・・(省略)・・・」 (3) 「[0029] 本発明に使用する前記(2)エネルギー線感受性カチオン重合開始剤とは、エネルギー線照射によりカチオン重合を開始させる物質を放出させることが可能な化合物であればどのようなものでも差し支えないが、好ましくは、エネルギー線の照射によってルイス酸を放出するオニウム塩である複塩、またはその誘導体である。かかる化合物の代表的なものとしては、下記一般式、 [A]^(r+)[B]^(r-) (式中、Aは陽イオン種を表し、Bは陰イオン種を表し、rは価数を表す。) で表される陽イオンと陰イオンの塩を挙げることができる。 ・・・(省略)・・・ [0036] 本発明では、このようなオニウム塩の中でも、下記の(イ)?(ハ)の芳香族オニウム塩を使用することが特に有効である。これらの中から、その1種を単独で、または2種以上を混合して使用することができる。 ・・・(省略)・・・ [0039] (ハ)下記群I又は群IIで表されるスルホニウムカチオンとヘキサフルオロアンチモンイオン、ヘキサフルオロフォスフェートイオン、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートイオン等のスルホニウム塩 [0040] [化2] ![]() [0041] [化3] ![]() 」 (4) 「[0054] 本発明のカチオン重合性組成物は、塗工性の観点から粘度が200mPa・s以下であるのが好ましく、1?100mPa・sであるのが更に好ましい。この粘度は、25℃における粘度であり、後述する実施例に記載の方法によって測定される。」 (5) 「[0059] 本発明のカチオン重合性組成物の具体的な用途としては、・・・(省略)・・・半導体装置用・LEDパッケージ用・液晶注入口用・有機EL用・光素子用・電気絶縁用・電子部品用・分離膜用等の封止剤、・・・(省略)・・・等を挙げることができる。」 (6) 「実施例 [0060] 以下、実施例等を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。 [0061] 以下、本発明のカチオン重合性組成物及び該カチオン重合性組成物を硬化して得られる硬化物に関し、実施例、評価例及び比較例により具体的に説明する。なお、実施例及び比較例では部は質量部を意味し、%は質量%を意味する。 [0062][実施例1?20、比較例1?2] 下記の[表1]?[表3]に示す配合で各成分を十分に混合して、各々実施組成物1?20及び比較組成物1?2を得た。 [0063] (1)カチオン重合性有機物質としては下記の化合物(1A-1)?(1A-4)、(1B-1)?(1B-3)、(1C-1)?(1C-7)、(1D-1)?(1D-2)並びに(1E-1)?(1E-4)を用いた。これらのエポキシ当量と粘度(mPa・s)を、[表1]?[表3]に合わせて示す。これらの表に記載の粘度は、下記の評価例において組成物の粘度を測定した方法と同様の方法で測定したものである。 化合物1A-1:2-エチルヘキシルグリシジルエーテル ・・・(省略)・・・ 化合物1B-1:セロキサイド2021P(脂環式エポキシ;ダイセル社製) ・・・(省略)・・・ [0064] (2)エネルギー線感受性カチオン重合開始剤としては下記の化合物(2-1)を用いた。 化合物2-1:CPI-100P(サンアプロ社製) [0065] [表1] ![]() ・・・(省略)・・・ [0068] [評価例1?20、比較評価例1?2] 上記実施例1?20で得られた実施組成物及び比較例1?2で得られた比較組成物について、下記評価を行った。結果を上記[表1]?[表3]に示す。 (粘度) 得られた実施組成物の1?20、比較組成物の1?2のそれぞれを25℃においてE型粘度計で粘度を測定した。結果を[表1]?[表3]に示す。 (硬化性) 得られた実施組成物の1?20、比較組成物の1?2のそれぞれをPETフィルム上にバーコーターで3?6μmの厚さに塗布し、無電極紫外光ランプを用いて1000mJ/cm^(2)のエネルギーを照射した。照射5分後に塗布面がタックフリーになっているものを◎、15分後にタックフリーになっているものを○、15分後でもタックが残っているものを×として評価した。結果を上記[表1]?[表3]に示す。 (耐温水試験) 得られた実施組成物1?20、比較組成物の1?2のそれぞれをTAC(トリアセチルセルロース)フィルムに塗布した後、ラミネーターを用いてCOP(シクロオレフィンポリマー)フィルムと貼り合わせ、COPフィルム側から無電極紫外光ランプを用いて1000mJ/cm^(2)のエネルギーを照射して接着して試験片を得た。48時間後、2cm×4cmに試験片を切り出し、60℃の温水につけて経過を観察した。12、24時間後に試験片の状態を観察し、開始前と変化が見られないものを〇、端面にハガレが見られるものを△、フィルムの貼り合わせが剥がれて完全に脱落したものを×として評価した。結果を上記[表1]?[表3]に示す。 (接着性) 得られた実施組成物1?20、比較組成物の1?2のそれぞれを、一枚のコロナ放電処理を施したCOP(シクロオレフィンポリマー)フィルムに塗布した後、該フィルムを、ラミネーターを用いてコロナ放電処理を施したもう一枚のCOP(シクロオレフィンポリマー)フィルムと貼り合わせ、無電極紫外光ランプを用いて1000mJ/cm^(2)のエネルギーを照射して接着して試験片を得た。得られた試験片の90度ピール試験を行い、強度が2.0N/cm以上あるものを◎、1.0?2.0N/cmであるものを〇、1.0N/cm以下であるものを×として評価した。結果を上記[表1]?[表3]に示す。 (水分量) 得られた実施組成物の1?20、比較組成物の1?2のそれぞれについて、カールフィッシャー法に従い水分量を測定した。結果を上記[表1]?[表3]に示す。 [0069] [表1]?[表3]より、本発明のカチオン重合性組成物は低粘度で塗工性及び硬化性に優れ、硬化後は接着性、耐温水性に優れることが明らかである。」 4 甲第2号証に記載された発明 甲第2号証の段落[0062]?段落[0065]には、実施例1として、「実施組成物1」が開示されている。また、甲第2号証の[0059]の記載からみて、「実施組成物1」は、「有機EL用」「の封止剤」に用いられるものであるといえる。 そうしてみると、甲第2号証には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されている。 「以下の各成分を十分に混合して得られ、 粘度が16mPa・sである、 実施組成物1を用いる有機EL用の封止剤。 化合物1A-1:2-エチルヘキシルグリシジルエーテル 40質量部 化合物1B-1:セロキサイド2021P(脂環式エポキシ;ダイセル社製) 60質量部 化合物2-1:CPI-100P(サンアプロ社製) 5質量部」 5 引用文献Aの記載事項 本件特許の優先権主張の日(以下、「本件優先日」という。)前の平成28年5月9日に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載されている特開2016-69433号公報(以下、「引用発明A」という。)には、以下の記載がある。 「【0016】 熱カチオン重合開始剤 本発明に使用される熱カチオン重合開始剤は、熱によってカチオンイオンを発生し、例えば、カチオン部分が、芳香族スルホニウム、芳香族ヨードニウム、芳香族ジアゾニウム、芳香族アンモニウム等であり、アニオン部分が、BF_(4)^(-)、PF_(6)^(-)、SbF_(6)^(-)、B(C_(6)F_(5))_(4)^(-)、等で構成されるオニウム塩を単独又は2種以上使用することが出来る。 【0017】 芳香族スルホニウム塩としては、例えば、・・・(省略)・・・、4,4´-ビス(ジフェニルスルホニオ)ジフェニルスルフィドビスヘキサフルオロホスフェート、・・・(省略)・・・を使用することが出来る。」 6 引用文献Bの記載事項 本件優先日前の平成28年3月7日に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載されている特開2016-30764号公報(以下、「引用発明B」という。)には、以下の記載がある。 「【0142】 熱により酸を発生させる熱カチオン重合開始剤として、・・・(省略)・・・、ジフェニル-p-フェニルチオフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスファートなどが挙げられる。」 7 引用文献Cの記載事項 本件優先日前の平成26年4月17日に頒布された刊行物である特開2014-65773号公報(以下、「引用発明C」という。)には、以下の記載がある。 「【0061】 「酸発生剤(C)」 C1:ジフェニル[4-(フェニルチオ)フェニル]スルホニウムヘキサフルオロホスファート(50wt%プロピレンカーボネート溶液品)(下記構造式(11))[サンアプロ社製、製品名CPI-100P] 【0062】 【化11】 ![]() 」 第6 特許法第29条についての当審の判断 1 甲1発明との対比及び判断 (1)本件特許発明1 ア 対比 (ア) 有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤 甲1発明は、「化合物1A-4:アロンオキセタンOXT-221(東亞合成社製/ジ[1-エチル(3-オキセタニル)]メチルエーテル)(以下、「化合物1A-4」という。)25質量部」、「化合物1B-1:セロキサイド2021P(ダイセル社製/3,4-エポキシシクロへキシルメチル3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)(以下、「化合物1B-1-1」という。)75質量部」及び「化合物2-1:[化3]で表される化合物(以下、「化合物2-1-1」という。) 5質量部」を混合して得られる「実施組成物6」からなる「有機EL用の封止剤」である。 甲1発明の「有機EL用の封止剤」は、技術常識からみて、「有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤」といえる。また、甲1発明の「化合物1A-4」及び「化合物1B-1-1」は、その製品名及び化合物名からみて、「カチオン重合性化合物」といえる(甲第1号証の段落【0050】の記載からも確認できる事項である。)。加えて、甲1発明の「化合物2-1-1」は、その構造式からみて、「エネルギー線感受性酸発生剤」といえる(甲第1号証の段落【0051】の記載からも確認できる事項である。)。そして、本件特許発明1の「カチオン重合開始剤」に関して、本件明細書の段落【0016】に、「上記カチオン重合開始剤としては」「光照射によりプロトン酸又はルイス酸を発生する光カチオン重合開始剤が挙げられ」と記載されていることを勘案すると、甲1発明の「化合物2-1-1」は、本件特許発明1でいう「カチオン重合開始剤」に該当する。 そうしてみると、甲1発明の「有機EL用の封止剤」と本件特許発明1の「有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤」は、「カチオン重合性化合物と」「カチオン重合開始剤とを含有する有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤」という点で共通する。 (イ) 脂環式エポキシ化合物の含有量 甲1発明の「実施組成物6」は、「化合物1A-4」を25質量部と、「化合物1B-1-1」を75質量部含有するものである。 甲1発明の「化合物1B-1-1」は、その製品名及び化合物名からみて、本件特許発明1でいう「シクロアルケンオキシド基を両末端に有するシクロアルケンオキシド型脂環式エポキシ化合物」といえる(甲第1号証の段落【0050】の記載からも確認できる事項である。)。また、甲1発明において、「カチオン重合性化合物」として、「化合物1A-4」25質量部と、「化合物1B-1-1」75質量部を含有していることを勘案すると、甲1発明の「実施組成物6」は、「カチオン重合性化合物」100質量部中、「シクロアルケンオキシド基を両末端に有するシクロアルケンオキシド型脂環式エポキシ化合物」を75質量部含有しているといえる。 そうしてみると、甲1発明の「実施組成物6」は、本件特許発明1でいう「前記カチオン重合性化合物100重量部中に、シクロアルケンオキシド基を両末端に有するシクロアルケンオキシド型脂環式エポキシ化合物を50重量部以上80重量部以下含有し」という要件を満たす。 (ウ) 脂環式エポキシ化合物の構造 甲1発明の「実施組成物6」は、「化合物1B-1-1」を含有する。 甲1発明の「化合物1B-1-1」は、その名称(3,4-エポキシシクロへキシルメチル3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)が表す化学構造からみて、「エポキシ基に含まれる以外のエーテル結合、又は、エステル結合を有し、かつ、シクロアルケンオキシド基を両末端に有」する。 そうしてみると、甲1発明の「化合物1B-1-1」は、本件特許発明1でいう「エポキシ基に含まれる以外のエーテル結合、又は、エステル結合を有し、かつ、シクロアルケンオキシド基を両末端に有し、かつ、シクロアルケンオキシド基を両末端に有し」という要件を満たす。 イ 一致点 以上のことから、本件特許発明1と甲1発明は、次の構成で一致する。 「カチオン重合性化合物とカチオン重合開始剤とを含有する有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤であって、 前記カチオン重合性化合物100重量部中に、シクロアルケンオキシド基を両末端に有するシクロアルケンオキシド型脂環式エポキシ化合物を50重量部以上80重量部以下含有し、 前記シクロアルケンオキシド型脂環式エポキシ化合物は、エポキシ基に含まれる以外のエーテル結合、又は、エステル結合を有し、かつ、シクロアルケンオキシド基を両末端に有し、かつ、シクロアルケンオキシド基を両末端に有する、 有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤。」 ウ 相違点 本件特許発明1と甲1発明は、以下の点で相違、又は一応相違する。 (相違点1) 「カチオン重合開始剤」が、本件特許発明1は、「BF_(4)^(-)又は(BX_(4))^(-)(ただし、Xは、少なくとも2つ以上のフッ素若しくはトリフルオロメチル基で置換されたフェニル基を表す)を対アニオンとする、スルホニウム塩、ホスホニウム塩、第4級アンモニウム塩、ジアゾニウム塩、又は、ヨードニウム塩」である「熱カチオン重合開始剤」であるのに対し、甲1発明は、「エネルギー線感受性酸発生剤」である点。 (相違点2) 「粘度」が、本件特許発明1は、「E型粘度計を用いて25℃、20rpmの条件で測定した粘度が100mPa・s以下である」のに対し、甲1発明は、「粘度が88mPa・sである」ことは記載されているものの、「E型粘度計を用いて25℃、20rpmの条件で測定した粘度」であるかが、一応特定されていない点。 (相違点3) 「有機EL表示素子用封止剤を、バイアル瓶中に300mg計量して封入した後、100℃で30分間加熱を行うことで硬化させ、更に、このバイアル瓶を85℃の恒温オーブンで100時間加熱し、バイアル瓶中の気化成分を、ガスクロマトグラフ質量分析計(日本電子社製、「JMS-Q1050」)を用いて計測した気化成分量」が、本件特許発明1は、「100ppm未満」であるのに対し、甲1発明は、そのように特定されていない点。 エ 判断 相違点1について検討する。 (ア) 甲第1号証には、重合開始剤として、「BF_(4)^(-)又は(BX_(4))^(-)(ただし、Xは、少なくとも2つ以上のフッ素若しくはトリフルオロメチル基で置換されたフェニル基を表す)を対アニオンとする、スルホニウム塩、ホスホニウム塩、第4級アンモニウム塩、ジアゾニウム塩、又は、ヨードニウム塩」である「熱カチオン重合開始剤」を使用することについて、記載も示唆もない。 (イ) また、甲第2号証にも、重合開始剤として、「BF_(4)^(-)又は(BX_(4))^(-)(ただし、Xは、少なくとも2つ以上のフッ素若しくはトリフルオロメチル基で置換されたフェニル基を表す)を対アニオンとする、スルホニウム塩、ホスホニウム塩、第4級アンモニウム塩、ジアゾニウム塩、又は、ヨードニウム塩」である「熱カチオン重合開始剤」を使用することについて、記載も示唆もない。したがって、甲1発明に甲第2号証の記載を適用しても、本件特許発明1には到らない。加えて、甲1発明にその他の周知技術を適用しても、本件特許発明1には到らない。 (ウ) 本件特許発明は、「基板に対する密着性、低アウトガス性、変色防止性、及び、塗布性に優れる有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤を提供する」(段落【0006】)ために、本件特許発明1に係る構成を採用したものであり、これにより、特に、「変色防止性」に優れるという効果が得られるものである。 明細書の段落【0059】【表1】の実施例1?6には、「有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤」の「カチオン重合開始剤」として、「ジメチルフェニル(4-メトキシベンジル)アンモニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート(King Industries社製、「CXC-1821」)」を使用すること、実施例1?6の「有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤」は、「変色防止性」が「○」であることが記載されている。段落【0018】及び段落【0019】の記載からみて、「ジメチルフェニル(4-メトキシベンジル)アンモニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート(King Industries社製、「CXC-1821」)」は、「BF_(4)^(-)又は(BX_(4))^(-)(ただし、Xは、少なくとも2つ以上のフッ素若しくはトリフルオロメチル基で置換されたフェニル基を表す)を対アニオンとする、スルホニウム塩、ホスホニウム塩、第4級アンモニウム塩、ジアゾニウム塩、又は、ヨードニウム塩」である「熱カチオン重合開始剤」である。 一方、明細書の段落【0059】【表1】の実施例7には、「有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤」の「カチオン重合開始剤」として、「4-メチルフェニル-4-(1-メチルエチル)フェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート(ソルベイ社製、「RP2074」)」を使用すること、実施例1?6の「有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤」は、「変色防止性」が「△」であることが記載されている。が記載されている。段落【0020】及び段落【0022】の記載からみて、「4-メチルフェニル-4-(1-メチルエチル)フェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート(ソルベイ社製、「RP2074」)」は、本件特許発明1においては「光カチオン重合開始剤」と理解されるものであり、「熱カチオン重合開始剤」であるとはいえない。 そうしてみると、「有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤」の「カチオン重合開始剤」の「カチオン重合開始剤」として、「BF_(4)^(-)又は(BX_(4))^(-)(ただし、Xは、少なくとも2つ以上のフッ素若しくはトリフルオロメチル基で置換されたフェニル基を表す)を対アニオンとする、スルホニウム塩、ホスホニウム塩、第4級アンモニウム塩、ジアゾニウム塩、又は、ヨードニウム塩」である「熱カチオン重合開始剤」を使用することの効果は、上記実施例1?6と実施例7の変色防止性の相違によっても裏付けられているといえる。 そして、甲第1及び2号証の記載事項からは、重合開始剤として、「BF_(4)^(-)又は(BX_(4))^(-)(ただし、Xは、少なくとも2つ以上のフッ素若しくはトリフルオロメチル基で置換されたフェニル基を表す)を対アニオンとする、スルホニウム塩、ホスホニウム塩、第4級アンモニウム塩、ジアゾニウム塩、又は、ヨードニウム塩」である「熱カチオン重合開始剤」を使用することにより、「変色防止性」が改善することについて、当業者であれば容易に予測し得たということはできない。 したがって、本件特許発明の効果は、甲第1及び2号証の記載事項からみて、顕著なものということができる。 オ 小括 したがって、その余の相違点を検討するまでもなく、本件特許発明1は、当業者であっても、甲1発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたということはできない。 (2) 本件特許発明3?7 本件特許発明3?7は、前記(1)ウの(相違点1)?(相違点3)で述べた構成と同一の構成を備えるものである。したがって、本件特許発明3?7も、本件特許発明1と同じ理由により、当業者であっても、甲1発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたということはできない。 2 甲2発明との対比及び判断 (1) 本件特許発明1について ア 対比 (ア) 有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤 甲2発明は、「化合物1A-1:2-エチルヘキシルグリシジルエーテル 40質量部」、「化合物1B-1:セロキサイド2021P(脂環式エポキシ;ダイセル社製) 60質量部」及び「化合物2-1:CPI-100P(サンアプロ社製) 5質量部」を混合して得られる「実施組成物1」からなる「有機EL用の封止剤」である。 甲2発明の「有機EL用の封止剤」は、技術常識からみて、「有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤」といえる。また、甲1発明の「化合物1A-1:2-エチルヘキシルグリシジルエーテル」及び「化合物1B-1:セロキサイド2021P(脂環式エポキシ;ダイセル社製)」は、その製品名及び化合物名からみて、「カチオン重合性化合物」といえる(甲第2号証の段落[0063]の記載からも確認できる事項である。)。加えて、甲2発明の「化合物2-1:CPI-100P(サンアプロ社製)」は、「エネルギー線感受性カチオン重合開始剤」である。そして、本件特許発明1の「カチオン重合開始剤」に関して、本件明細書の段落【0016】に、「上記カチオン重合開始剤としては」「光照射によりプロトン酸又はルイス酸を発生する光カチオン重合開始剤が挙げられ」と記載されていることを勘案すると、甲2発明の「化合物2-1:CPI-100P(サンアプロ社製)」は、本件特許発明1でいう「カチオン重合開始剤」に該当する。 そうしてみると、甲2発明の「有機EL用の封止剤」と本件特許発明1の「有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤」は、「カチオン重合性化合物と」「カチオン重合開始剤とを含有する有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤」という点で共通する。 (イ) 脂環式エポキシ化合物の含有量 甲2発明の「実施組成物1」は、「化合物1A-1:2-エチルヘキシルグリシジルエーテル 40質量部」及び「化合物1B-1:セロキサイド2021P(脂環式エポキシ;ダイセル社製) 60質量部」を含有するものである。 甲2発明の「化合物1B-1:セロキサイド2021P(脂環式エポキシ;ダイセル社製)」は、その製品名及び化合物名からみて、本件特許発明1の「シクロアルケンオキシド基を両末端に有するシクロアルケンオキシド型脂環式エポキシ化合物」といえる。そして、甲2発明において、「カチオン重合性化合物」として、「化合物1A-1:2-エチルヘキシルグリシジルエーテル 40質量部」及び「化合物1B-1:セロキサイド2021P(脂環式エポキシ;ダイセル社製) 60質量部」を含有していることを勘案すると、甲2発明の「実施組成物1」は、「カチオン重合性化合物」100質量部中、「シクロアルケンオキシド基を両末端に有するシクロアルケンオキシド型脂環式エポキシ化合物」を60質量部含有しているといえる。 そうしてみると、甲2発明の「実施組成物6」は、本件特許発明1でいう「前記カチオン重合性化合物100重量部中に、シクロアルケンオキシド基を両末端に有するシクロアルケンオキシド型脂環式エポキシ化合物を50重量部以上80重量部以下含有し」という要件を満たす。 (ウ) 脂環式エポキシ化合物の構造 甲2発明の「実施組成物1」は、「化合物1B-1」を含有する。 甲2発明の「化合物1B-1」は、(3,4-エポキシシクロへキシルメチル 3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)であるから(甲第1号証の段落【0050】を参照。)、その名称が表す化学構造からみて、「エポキシ基に含まれる以外のエーテル結合、又は、エステル結合を有し、かつ、シクロアルケンオキシド基を両末端に有」する。 そうしてみると、甲2発明の「化合物1B-1」は、本件特許発明1でいう「エポキシ基に含まれる以外のエーテル結合、又は、エステル結合を有し、かつ、シクロアルケンオキシド基を両末端に有し、かつ、シクロアルケンオキシド基を両末端に有し」という要件を満たす。 イ 一致点 本件特許発明1と甲2発明とは、次の構成で一致する。 「カチオン重合性化合物とカチオン重合開始剤とを含有する有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤であって、 前記カチオン重合性化合物100重量部中に、シクロアルケンオキシド基を両末端に有するシクロアルケンオキシド型脂環式エポキシ化合物を50重量部以上80重量部以下含有し、 前記シクロアルケンオキシド型脂環式エポキシ化合物は、エポキシ基に含まれる以外のエーテル結合、又は、エステル結合を有し、かつ、シクロアルケンオキシド基を両末端に有し、かつ、シクロアルケンオキシド基を両末端に有する、 有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤。」 ウ 相違点 本件特許発明1と甲2発明は、次の点で相違する。 (相違点1) 「カチオン重合開始剤」が、本件特許発明1は、「BF_(4)^(-)又は(BX_(4))^(-)(ただし、Xは、少なくとも2つ以上のフッ素若しくはトリフルオロメチル基で置換されたフェニル基を表す)を対アニオンとする、スルホニウム塩、ホスホニウム塩、第4級アンモニウム塩、ジアゾニウム塩、又は、ヨードニウム塩」である「熱カチオン重合開始剤」であるのに対し、甲2発明は、「エネルギー線感受性カチオン重合開始剤」である点。 (相違点2) 「粘度」が、本件特許発明1は、「E型粘度計を用いて25℃、20rpmの条件で測定した粘度が100mPa・s以下である」のに対し、甲2発明は、「25℃においてE型粘度計で測定した粘度が16mPa・sである」ことは記載されているものの、「20rpmの条件で測定した粘度」であるかが、一応特定されていない点。 (相違点3) 「有機EL表示素子用封止剤を、バイアル瓶中に300mg計量して封入した後、100℃で30分間加熱を行うことで硬化させ、更に、このバイアル瓶を85℃の恒温オーブンで100時間加熱し、バイアル瓶中の気化成分を、ガスクロマトグラフ質量分析計(日本電子社製、「JMS-Q1050」)を用いて計測した気化成分量」が、本件特許発明1は、「100ppm未満」であるのに対し、甲2発明は、そのように特定されていない点。 エ 判断 相違点1について検討する。 前記1(1)エで述べた事項と同様の理由で、本件特許発明1は、当業者であっても、甲2発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたということはできない。 (2) 本件特許発明3?7 本件特許発明3?7は、前記(1)ウの(相違点1)?(相違点3)で述べた構成と同一の構成を備えるものである。したがって、本件特許発明3?7も、本件特許発明1と同じ理由により、当業者であっても、甲2発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたということはできない。 第7 特許法第36条についての当審の判断 1 特許法第36条第4項第1号 本件特許発明1は、「エポキシ基に含まれる以外のエーテル結合、又は、エステル結合を有し、かつ、シクロアルケンオキシド基を両末端に有し、かつ、シクロアルケンオキシド基を両末端に有する」「シクロアルケンオキシド型脂環式エポキシ化合物」を含有する「有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤」であり、その化学構造が具体的に特定されているといえる。 また、本件特許の明細書には、「有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤」の「E型粘度計を用いて25℃、20rpmの条件で測定した粘度」を、40?100mPa・s程度とする実施例が記載されている。したがって、本件特許の明細書には、本件特許発明1、3?7の「有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤」を作製できることが、実施例において具体的に開示されているといえる。加えて、「有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤」の粘度は、「E型粘度計」を用いて直ちに確認することができるから、当業者であれば、実施例以外の化合物を使用した場合においても、本件特許発明1、3?7の「有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤」を作製することができる。そして、本件特許発明1、3?7の「有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤」を、「有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤」として使用できることは、当業者にとって明らかである。 そうしてみると、上記記載を参照した当業者が、エポキシ基に含まれる以外のエーテル結合、又は、エステル結合を有し、かつ、シクロアルケンオキシド基を両末端に有し、かつ、シクロアルケンオキシド基を両末端に有する」「シクロアルケンオキシド型脂環式エポキシ化合物」を含有する「有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤」について、「E型粘度計を用いて25℃、20rpmの条件で測定した粘度」を「100mPa・s以下」とすることについて、当業者に期待しうる程度を超えた試行錯誤や複雑高度な実験を要するとはいえない。 したがって、発明の詳細な説明の記載は、本件特許発明の全体について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものである。 2 特許法第36条第6項第1号 本件特許の明細書の段落【0006】の記載によると、本件特許発明の課題は、「基板に対する密着性、低アウトガス性、変色防止性、及び、塗布性に優れる有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤を提供すること」と認められる。 本件特許の明細書の段落【0009】には、「本発明の有機EL表示素子用封止剤は、カチオン重合性化合物を含有する。」及び「上記カチオン重合性化合物は、シクロアルケンオキシド型脂環式エポキシ化合物を含有する。上記シクロアルケンオキシド型脂環式エポキシ化合物を含有することにより、本発明の有機EL表示素子用封止剤は、低アウトガス性に優れるものとなる。」と記載されている。また、段落【0010】には、「上記シクロアルケンオキシド型脂環式エポキシ化合物としては、例えば、3’,4’-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)エーテル等が挙げられる。なかでも、上記シクロアルケンオキシド型脂環式エポキシ化合物は、エポキシ基に含まれる以外のエーテル結合、又は、エステル結合を有し、かつ、シクロアルケンオキシド基を両末端に有することが好ましい。」と記載されている。そうしてみると、本件特許発明1の課題は、「エポキシ基に含まれる以外のエーテル結合、又は、エステル結合を有し、かつ、シクロアルケンオキシド基を両末端に有する」「シクロアルケンオキシド型脂環式エポキシ化合物」を、「カチオン重合性化合物100重量部中に」「50重量部以上80重量部以下含有」させることにより解決できるものと認められる。 そして、このことは、願書の段落【0059】【表1】の実施例1?7の記載からも裏付けられている。 したがって、本件特許発明1、3?7に係る発明の範囲は、発明の詳細な説明に記載された事項から、課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えないものである。 3 特許法第36条第6項第2号 前記「第2」の1(1)の「訂正事項1」により、本件特許発明1の「カチオン重合性化合物100重量部中に」「50重量部以上80重量部以下含有」「シクロアルケンオキシド型脂環式エポキシ化合物」は、「エポキシ基に含まれる以外のエーテル結合、又は、エステル結合を有し、かつ、シクロアルケンオキシド基を両末端に有」するものに限定された。そして、本件特許発明の明細書に記載された実施例5の有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤は、「シクロアルケンオキシド型脂環式エポキシ化合物」の化学構造及び含有量について、本件特許発明1に記載の要件を満たすものである。そうしてみると、本件特許発明1は、「シクロアルケンオキシド型脂環式エポキシ化合物」の含有量の上限が明確である。 そして、本件特許発明1、3?7において、この他に不明確であるといえる記載はない。 したがって、本件特許発明1、3?7は明確である。 第8 むすび したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許発明1、3?7を取り消すことはできない。 また、他に本件特許発明1、3?7を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 カチオン重合性化合物と熱カチオン重合開始剤とを含有する有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤であって、 前記カチオン重合性化合物100重量部中にシクロアルケンオキシド型脂環式エポキシ化合物を50重量部以上80重量部以下含有し、 前記シクロアルケンオキシド型脂環式エポキシ化合物は、エポキシ基に含まれる以外のエーテル結合、又は、エステル結合を有し、かつ、シクロアルケンオキシド基を両末端に有し、 前記熱カチオン重合開始剤が、BF_(4)^(-)又は(BX_(4))^(-)(ただし、Xは、少なくとも2つ以上のフッ素若しくはトリフルオロメチル基で置換されたフェニル基を表す)を対アニオンとする、スルホニウム塩、ホスホニウム塩、第4級アンモニウム塩、ジアゾニウム塩、又は、ヨードニウム塩であり、 E型粘度計を用いて25℃、20rpmの条件で測定した粘度が100mPa・s以下であり、 前記有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤を、バイアル瓶中に300mg計量して封入した後、100℃で30分間加熱を行うことで硬化させ、更に、このバイアル瓶を85℃の恒温オーブンで100時間加熱し、バイアル瓶中の気化成分を、ガスクロマトグラフ質量分析計(日本電子社製、「JMS-Q1050」)を用いて計測した気化成分量が100ppm未満である ことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤。 【請求項2】 (削除) 【請求項3】 カチオン重合性化合物は、ビス((3-エチルオキセタン-3-イル)メチル)エーテルまたは1,2:7,8-ジエポキシオクタンを含有することを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤。 【請求項4】 カチオン重合性化合物100重量部中における、ビス((3-エチルオキセタン-3-イル)メチル)エーテルまたは1,2:7,8-ジエポキシオクタンの含有量が、10重量部以上50重量部以下であることを特徴とする請求項3記載の有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤。 【請求項5】 カチオン重合性化合物100重量部中おける、シクロアルケンオキシド型脂環式エポキシ化合物と、ビス((3-エチルオキセタン-3-イル)メチル)エーテルまたは1,2:7,8-ジエポキシオクタンとの合計の含有量が、80重量部以上であることを特徴とする請求項3又は4記載の有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤。 【請求項6】 カチオン重合性化合物は、ビス((3-エチルオキセタン-3-イル)メチル)エーテルを含有することを特徴とする請求項3、4又は5記載の有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤。 【請求項7】 熱カチオン重合開始剤として、対アニオンがボレート系である第4級アンモニウム塩を含有することを特徴とする請求項1、3、4、5又は6記載の有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2020-01-20 |
出願番号 | 特願2017-549536(P2017-549536) |
審決分類 |
P
1
651・
536-
YAA
(H05B)
P 1 651・ 537- YAA (H05B) P 1 651・ 121- YAA (H05B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 野尻 悠平 |
特許庁審判長 |
樋口 信宏 |
特許庁審判官 |
高松 大 宮澤 浩 |
登録日 | 2018-08-03 |
登録番号 | 特許第6378450号(P6378450) |
権利者 | 積水化学工業株式会社 |
発明の名称 | 有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤 |
代理人 | 田口 昌浩 |
代理人 | 田口 昌浩 |