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審決分類 審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  C03C
審判 全部申し立て 2項進歩性  C03C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C03C
管理番号 1360457
異議申立番号 異議2019-700479  
総通号数 244 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-04-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-06-13 
確定日 2020-01-30 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6444021号発明「光学ガラス、光学ガラスブランク、プレス成型用ガラス素材、光学素子、およびそれらの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6444021号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?17〕について訂正することを認める。 特許第6444021号の請求項1?4、6?17に係る特許を維持する。 特許第6444021号の請求項5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6444021号(以下、「本件特許」という。)に係る出願は、平成25年 9月30日を出願日として特許出願され、平成30年12月 7日にその請求項1?17に係る発明について特許権の設定登録がされ、同年12月26日に特許掲載公報が発行され、その後、全請求項に係る特許に対して、令和 1年 6月13日付けで特許異議申立人 宮園 祐爾(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年 9月13日付けで当審より取消理由が通知され、その指定期間内である同年11月15日付けで特許権者より乙第1号証及び乙第2号証を添付した意見書(以下、「特許権者意見書」という。)の提出並びに訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、同年12月13日付で申立人より意見書(以下、「申立人意見書」という。)が提出されたものである。

第2 本件訂正請求による訂正の適否
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、以下の訂正事項からなる(当審注:下線は訂正箇所であり、当審が付与した。)。
(1)訂正事項1
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に
「P_(2)O_(5)含有量が20?34質量%」
と記載されているのを、
「P_(2)O_(5)含有量が20?24.61質量%」
と訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項4、6?17も同様に訂正する。)。

(2)訂正事項2
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2に
「P_(2)O_(5)含有量が20?34質量%」
と記載されているのを、
「P_(2)O_(5)含有量が20?24.61質量%」
と訂正する(請求項2の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3、4、6?17も同様に訂正する。)。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5を削除する。

(4)訂正事項4
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項6に
「請求項1?5のいずれか1項」
と記載されているのを、
「請求項1?4のいずれか1項」
と訂正する(請求項6の記載を直接的又は間接的に引用する請求項7?17も同様に訂正する。)。

(5)訂正事項5
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項7に
「請求項1?6のいずれか1項」
と記載されているのを、
「請求項1?4および6のいずれか1項」
と訂正する(請求項7の記載を直接的又は間接的に引用する請求項8、10?17も同様に訂正する。)。

(6)訂正事項6
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項9に
「請求項1?6のいずれか1項」
と記載されているのを、
「請求項1?4および6のいずれか1項」
と訂正する(請求項9の記載を直接的又は間接的に引用する請求項10?17も同様に訂正する。)。

(7)訂正事項7
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項10に
「請求項1?9のいずれか1項」
と記載されているのを、
「請求項1?4および6?9のいずれか1項」
と訂正する(請求項10の記載を直接的又は間接的に引用する請求項11?17も同様に訂正する。)。

(8)訂正事項8
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項11に
「請求項1?10のいずれか1項」
と記載されているのを、
「請求項1?4および6?10のいずれか1項」
と訂正する(請求項11の記載を引用する請求項16も同様に訂正する。)。

(9)訂正事項9
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項12に
「請求項1?10のいずれか1項」
と記載されているのを、
「請求項1?4および6?10のいずれか1項」
と訂正する(請求項12の記載を引用する請求項15、17も同様に訂正する。)。

(10)訂正事項10
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項13に
「請求項1?10のいずれか1項」
と記載されているのを、
「請求項1?4および6?10のいずれか1項」
と訂正する。

(11)訂正事項11
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項14に
「請求項1?10のいずれか1項」
と記載されているのを、
「請求項1?4および6?10のいずれか1項」
と訂正する。

本件訂正前の請求項4?17は、いずれも、直接的または間接的に訂正前の請求項1を引用するものであるから、本件訂正前の請求項1、4?17は一群の請求項であり、本件訂正前の請求項3?17は、いずれも、直接的または間接的に訂正前の請求項2を引用するものであるから、本件訂正前の請求項2?17は一群の請求項であり、本件訂正前の請求項1?17は組み合わされて一群の請求項を構成するものである。
そして、本件訂正は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものではなく、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもないから、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔1?17〕を訂正単位とする訂正の請求をするものである。

2 訂正の目的の適否、新規事項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1、2について
訂正事項1、2による訂正は、いずれも、本件訂正前には「P_(2)O_(5)含有量」の上限が「34質量%」であったものを「24.61質量%」として、「P_(2)O_(5)含有量」の数値範囲を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、願書に添付した特許請求の範囲の請求項5には「P_(2)O_(5)含有量が20?24.61質量%である請求項1?4のいずれか1項に記載の光学ガラス。」と記載されており、訂正事項1、2による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

(2)訂正事項3について
訂正事項3による訂正は、特許請求の範囲の請求項5を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項を追加するものではないこと、及び、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。

(3)訂正事項4?11について
訂正事項4?11による訂正は、いずれも、訂正事項3による請求項5の削除に合わせて選択的引用請求項の一部を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、訂正事項4?11による訂正が、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。

なお、本件訂正請求においては、全ての請求項に対して特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。

3 小括
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?17〕について訂正することを認める。

第3 本件特許発明
本件訂正が認められることは上記第2に記載のとおりであるので、本件特許の請求項1?4、6?17に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明4」、「本件発明6」?「本件発明17」といい、まとめて「本件発明」という。)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?4、6?17に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】
酸化物基準のガラス組成において、
P_(2)O_(5)含有量が20?24.61質量%、
B_(2)O_(3)含有量が10質量%以下、
Al_(2)O_(3)含有量が3%未満、
Li_(2)O含有量が0質量%以上0.3質量%未満、
質量比(B_(2)O_(3)/P_(2)O_(5))が0.123以上0.39未満、
質量比[TiO_(2)/(TiO_(2)+Nb_(2)O_(5)+WO_(3)+Bi_(2)O_(3)+Ta_(2)O_(5))]が0.10?0.180の範囲、
質量比[(P_(2)O_(5)+B_(2)O_(3)+SiO_(2))/(Na_(2)O+K_(2)O+Li_(2)O)]が1.39?1.80の範囲、
質量比[(P_(2)O_(5)+B_(2)O_(3)+SiO_(2))/(TiO_(2)+Nb_(2)O_(5)+WO_(3)+Bi_(2)O_(3)+Ta_(2)O_(5))]が0.51以上0.586以下、
であり、屈折率ndが1.790?1.83の範囲であり、かつアッベ数νdが20?24の範囲である光学ガラス。
【請求項2】
酸化物基準のガラス組成において、
P_(2)O_(5)含有量が20?24.61質量%、
B_(2)O_(3)含有量が10質量%以下、
Al_(2)O_(3)含有量が3%未満、
質量比(B_(2)O_(3)/P_(2)O_(5))が0.123以上0.39未満、
質量比[TiO_(2)/(TiO_(2)+Nb_(2)O_(5)+WO_(3)+Bi_(2)O_(3)+Ta_(2)O_(5))]が0.10?0.180の範囲、
質量比[(P_(2)O_(5)+B_(2)O_(3)+SiO_(2))/(Na_(2)O+K_(2)O+Li_(2)O)]が1.39?1.80の範囲、
質量比[(P_(2)O_(5)+B_(2)O_(3)+SiO_(2))/(TiO_(2)+Nb_(2)O_(5)+WO_(3)+Bi_(2)O_(3)+Ta_(2)O_(5))]が0.51以上0.586以下、
質量比[Li_(2)O/(Na_(2)O+K_(2)O+Li_(2)O)]が0.0115未満、
であり、屈折率ndが1.790?1.83の範囲であり、かつアッベ数νdが20?24の範囲である光学ガラス。
【請求項3】
Li_(2)O含有量が0質量%以上0.3質量%未満である請求項2に記載の光学ガラス。
【請求項4】
質量比[SiO_(2)/(SiO_(2)+P_(2)O_(5)+B_(2)O_(3))]が0.12以下である請求項1?3のいずれか1項に記載の光学ガラス。
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
1050℃以下の液相温度を有する請求項1?4のいずれか1項に記載の光学ガラス。
【請求項7】
Sb_(2)O_(3)の外割添加量が0?0.02%である請求項1?4および6のいずれか1項に記載の光学ガラス。
【請求項8】
Sb_(2)O_(3)の外割添加量が0%である請求項7に記載の光学ガラス。
【請求項9】
Sb_(2)O_(3)の外割添加量が0.010×100/(100-0.010)質量%以上である光学ガラスを除く、請求項1?4および6のいずれか1項に記載の光学ガラス。
【請求項10】
Nb_(2)O_(5)含有量が44.67%以上である請求項1?4および6?9のいずれか1項に記載の光学ガラス。
【請求項11】
請求項1?4および6?10のいずれか1項に記載の光学ガラスからなる光学素子ブランク。
【請求項12】
請求項1?4および6?10のいずれか1項に記載の光学ガラスからなるプレス成形用ガラス素材。
【請求項13】
請求項1?4および6?10のいずれか1項に記載の光学ガラスからなる光学素子。
【請求項14】
請求項1?4および6?10のいずれか1項に記載の光学ガラスをプレス成形用ガラス素材に成形する工程を備えるプレス成形用ガラス素材の製造方法。
【請求項15】
請求項12に記載のプレス成形用ガラス素材を、プレス成形型を用いてプレス成形することにより光学素子ブランクを作製する工程を備える光学素子ブランクの製造方法。
【請求項16】
請求項11に記載の光学素子ブランクを研削および/または研磨することにより光学素子を作製する工程を備える光学素子の製造方法。
【請求項17】
請求項12に記載のプレス成形用ガラス素材を、プレス成形型を用いてプレス成形することにより光学素子を作製する工程を備える光学素子の製造方法。」

第4 異議申立理由の概要
申立人は、証拠として甲第1号証を提出し、以下の異議申立理由によって、本件訂正前の請求項1?17に係る発明の特許を取り消すべきものである旨を主張している。
1 特許法第29条第2項(進歩性)について

甲第1号証:特開2010-260740号公報

本件訂正前の請求項1?17に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得る発明である。

2 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
(1)本件訂正前の請求項1、2に係る発明について
本件訂正前の請求項1、2に係る発明においては、「P_(2)O_(5)含有量」の上限が「34質量%」と特定されており、実施例の上限である「24.61%」との間には10%程度の差があるので、実施例に記載された組成範囲から、物性要件を満たす組成範囲を本件訂正前の請求項1において特定される数値範囲にまで拡張ないし一般化できない。
このため、本件訂正前の請求項1、2に係る発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(2)本件訂正前の請求項3?17に係る発明について
本件訂正前の請求項3?17に係る発明は、本件訂正前の請求項1又は2に係る発明に従属しているから、前記(1)に記載したのと同じ理由により、本件訂正前の請求項3?17に係る発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

第5 取消理由の概要
令和 1年 9月13日付け取消理由通知による取消理由は、以下のとおりである。
1 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
(1)P_(2)O_(5)含有量について
(ア)本件特許明細書の【0004】?【0006】によれば、本件特許に係る発明は、ガラスのネットワークフォーマーとしてリン酸を多く含むとともに、高屈折率付与成分および高分散性付与成分を含む組成の光学ガラスは、一般に失透傾向が強く、高屈折率・高分散特性を有するリン酸系光学ガラスにおける耐失透性を向上することは、従来困難であった、という課題を解決するものである。

(イ)そして、本件訂正前の請求項1に係る発明において前記(ア)の課題を解決するためには、「質量比(B_(2)O_(3)/P_(2)O_(5))が0.123以上0.39未満」、「質量比[TiO_(2)/(TiO_(2)+Nb_(2)O_(5)+WO_(3)+Bi_(2)O_(3)+Ta_(2)O_(5))]が0.10?0.180の範囲」、「質量比[(P_(2)O_(5)+B_(2)O_(3)+SiO_(2))/(Na_(2)O+K_(2)O+Li_(2)O)]が1.39?1.80の範囲」、「質量比[(P_(2)O_(5)+B_(2)O_(3)+SiO_(2))/(TiO_(2)+Nb_(2)O_(5)+WO_(3)+Bi_(2)O_(3)+Ta_(2)O_(5))]が0.51以上0.586以下」の全ての発明特定事項(以下、まとめて「発明特定事項A」という。)を満たす必要があるものである。

(ウ)ここで、本件訂正前の請求項1に係る発明においては、「P_(2)O_(5)含有量が20?34質量%」と特定されている。
これに対して、本件特許明細書の実施例において「P_(2)O_(5)含有量」が最も多いのは実施例9(24.61質量%)であるが、実施例9において、「発明特定事項A」を満足しつつ「P_(2)O_(5)含有量」を34%まで増加することは困難であるので(例えば下記2参照。)、「P_(2)O_(5)含有量」を34%まで増加した場合、前記(ア)の課題が解決できるとはいえない。

(エ)したがって、本件訂正前の請求項1に係る発明は、発明の課題を解決できないものも包含するものであるから、サポート要件を満足しない。
そして、このことは、同様の発明特定事項を有する本件訂正前の請求項2に係る発明及び本件訂正前の請求項1、2に係る発明を直接的又は間接的に引用する本件訂正前の請求項3?17に係る発明についても同様である。

(2)質量比[TiO_(2)/(TiO_(2)+Nb_(2)O_(5)+WO_(3)+Bi_(2)O_(3)+Ta_(2)O_(5))]について
(ア)組成要件と物性要件によりガラスの発明を特定することは、個々の成分の含有量を変更しても所望の物性が得られる配合組成が存在することが確認されている場合に、そのような所望の物性が得られる複数の配合組成を包括的に特定するために、当該複数の配合組成を包含する範囲をもった成分組成、すなわち、各成分の含有量を数値範囲を持った組成要件により画定した上で、その範囲内に包含されてしまう、当該物性が得られない配合組成を物性要件で排除することにより、特許請求の範囲において、当該物性が得られる配合組成を有するガラスのみからなる集合を特定しようとするものといえる。
そして、組成要件と物性要件により特定された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明であるというためには、組成要件により特定される各成分の含有量の数値範囲は、「当該物性」が得られる複数の配合組成(具体的な成分組成の組合せ)が存在する範囲を画定するものである以上、発明の詳細な説明の記載により、少なくとも組成要件として特定されている各成分の含有量の数値範囲(上限値や下限値)において、物性要件を満たす配合組成が存在することを当業者が認識できるか、またその記載や示差がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らしてそのことが認識できることを要する。

(イ)そこで検討すると、本件訂正前の請求項1に係る発明においては、「質量比[TiO_(2)/(TiO_(2)+Nb_(2)O_(5)+WO_(3)+Bi_(2)O_(3)+Ta_(2)O_(5))]」が0.10?0.180の範囲」と特定されているのに対して、本件特許明細書の実施例において「質量比[TiO_(2)/(TiO_(2)+Nb_(2)O_(5)+WO_(3)+Bi_(2)O_(3)+Ta_(2)O_(5))]」が最も小さいのは実施例19?22の0.131である。
そして、実施例19?22の屈折率、アッベ数、液相温度からみれば、当業者は、実施例19?22により本件発明の物性要件を満たすことを理解できる。

(ウ)ところが、実施例19?22において「質量比[TiO_(2)/(TiO_(2)+Nb_(2)O_(5)+WO_(3)+Bi_(2)O_(3)+Ta_(2)O_(5))]」を本件訂正前の請求項1に係る発明で特定される最小値である「0.10」とする場合、TiO_(2)をほかの成分と置換して調整しようとするときには、例えば、実施例19においては、TiO_(2)をNb_(2)O_(5)に1.64質量%置換することが想定され、実施例20においては、TiO_(2)をNb_(2)O_(5)に1.63質量%置換することが想定され、実施例21においては、TiO_(2)をNb_(2)O_(5)に1.62質量%置換することが想定され、実施例22においては、TiO_(2)をNb_(2)O_(5)に1.58質量%置換することが想定されるものである。

(エ)ここで、


」(山根正之ら編,「ガラス光学ハンドブック」,初版第4刷,2007年 3月30日,株式会社朝倉書店,p.527)によれば、Nb_(2)O_(5)は、TiO_(2)に対して、5質量%の置換でアッベ数を5程度増加させる成分であって、実施例19のアッベ数は22.73、実施例20のアッベ数は22.83、実施例21のアッベ数は22.96、実施例22のアッベ数は23.53であり、本件訂正前の請求項1に係る発明で特定されるアッベ数の最大値である24との差はそれぞれ1.27、1.17、1.04、0.47である。

(オ)前記(ウ)、(エ)によれば、実施例19?22においてTiO_(2)をNb_(2)O_(5)に1.58?1.64質量%置換して、「質量比[TiO_(2)/(TiO_(2)+Nb_(2)O_(5)+WO_(3)+Bi_(2)O_(3)+Ta_(2)O_(5))]」を本件訂正前の請求項1に係る発明で特定される最小値である「0.10」とすると、いずれの場合においてもアッベ数が24より大きくなり、本件訂正前の請求項1に係る発明の「アッベ数νdが20?24の範囲である」との本件発明の物性要件を満たさなくなる蓋然性が高い。
また、TiO_(2)をほかの成分と置換して調整しようとするときに、組成要件と物性要件とを同時に満たすようにできるほかの成分調整手段も見当たらない。

(カ)してみれば、「質量比[TiO_(2)/(TiO_(2)+Nb_(2)O_(5)+WO_(3)+Bi_(2)O_(3)+Ta_(2)O_(5))]が0.10?0.180の範囲」との発明特定事項を有する本件訂正前の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明とはいえない。
そして、このことは、同様の発明特定事項を有する本件訂正前の請求項2に係る発明及び本件訂正前の請求項1、2に係る発明を直接的又は間接的に引用する本件訂正前の請求項3?17に係る発明についても同様である。

2 特許法第36条第6項第2号(明確性要件)について
(ア)本件訂正前の請求項1に係る発明においては、「P_(2)O_(5)含有量が20?34質量%」と特定されていることは、前記1(1)(ウ)に記載のとおりである。

(イ)そして、「P_(2)O_(5)含有量」を「34質量%」とする場合、本件訂正前の請求項1に係る発明の「質量比(B_(2)O_(3)/P_(2)O_(5))が0.123以上0.39未満」との発明特定事項により、「B_(2)O_(3)含有量」は少なくとも34×0.123=4.182質量%であり、このとき(P_(2)O_(5)+B_(2)O_(3)+SiO_(2))の含有量は少なくとも34+4.182=38.182質量%である。
更に、(P_(2)O_(5)+B_(2)O_(3)+SiO_(2))の最小含有量が38.182質量%である場合、本件訂正前の請求項1に係る発明の「質量比[(P_(2)O_(5)+B_(2)O_(3)+SiO_(2))/(TiO_(2)+Nb_(2)O_(5)+WO_(3)+Bi_(2)O_(3)+Ta_(2)O_(5))]が0.51以上0.586以下」との発明特定事項により、(TiO_(2)+Nb_(2)O_(5)+WO_(3)+Bi_(2)O_(3)+Ta_(2)O_(5))の含有量は少なくとも38.182/0.586=65.16質量%である。

(ウ)前記(イ)によれば、本件訂正前の請求項1に係る発明において「P_(2)O_(5)含有量」を「34質量%」とする場合、本件訂正前の請求項1に係る発明の前記発明特定事項に基づく(P_(2)O_(5)+B_(2)O_(3)+SiO_(2))の最小含有量(38.182質量%)と(TiO_(2)+Nb_(2)O_(5)+WO_(3)+Bi_(2)O_(3)+Ta_(2)O_(5))の最小含有量(65.16質量%)だけで100%を超えてしまうこととなり、本件訂正前の請求項1に係る発明の発明特定事項には矛盾があるから、本件訂正前の請求項1に係る発明は明確でない。
このことは、同様の発明特定事項を有する本件訂正前の請求項2に係る発明及び本件訂正前の請求項1、2に係る発明を直接的又は間接的に引用する本件訂正前の請求項3?17に係る発明についても同様である。

第6 取消理由についての判断
1 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
(1)P_(2)O_(5)含有量について
本件発明1は、「P_(2)O_(5)含有量が20?24.61質量%」との発明特定事項を有するものであって、「P_(2)O_(5)含有量」の上限値は、本件特許明細書の実施例9の「P_(2)O_(5)含有量」(24.61質量%)と合致する。
このことを踏まえて改めて検討すれば、前記実施例9は前記第5の1(1)(ア)の課題を解決できるものであり、「P_(2)O_(5)含有量」の上限値が前記実施例9の「P_(2)O_(5)含有量」と合致する本件発明1もまた前記課題を解決できるものといえるから、本件発明1は発明の詳細な説明に記載された発明というべきものである。
また、このことは、同様の発明特定事項を有する本件発明2及び本件発明1、2を直接的又は間接的に引用する本件発明3、4、6?17に係る発明についても同様である。

(2)質量比[TiO_(2)/(TiO_(2)+Nb_(2)O_(5)+WO_(3)+Bi_(2)O_(3)+Ta_(2)O_(5))]について
(ア)本件特許明細書には,以下の記載がある(当審注:下線は当審が付与した。また、「・・・」は記載の省略を表す。)。
(a)「【0020】
TiO_(2)は、適量添加することにより、ガラスに高屈折率・高分散特性を与えることができる成分であり、上述の光学ガラスに必須成分として導入する。ただし、高屈折率・高分散特性、および耐失透性を維持するために、その含有量は、他の高屈折率・高分散特性を与えることができる成分であるNb_(2)O_(5)、WO_(3)、Bi_(2)O_(3)、Ta_(2)O_(5)の含有量に対して、TiO_(2)、Nb_(2)O_(5)、WO_(3)、Bi_(2)O_(3)、およびTa_(2)O_(5)の合計含有量に対するTiO_(2)含有量の質量比[TiO_(2)/(TiO_(2)+Nb_(2)O_(5)+WO_(3)+Bi_(2)O_(3)+Ta_(2)O_(5))]が0.059?0.180の範囲となる量とする。この質量比が0.059を下回ると、上述の高屈折率・高分散特性を得ることが困難となる。また、着色抑制の観点から、上限は0.180とする。質量比[TiO_(2)/(TiO_(2)+Nb_(2)O_(5)+WO_(3)+Bi_(2)O_(3)+Ta_(2)O_(5))]について、下限は0.10以上であることが好ましく、0.12以上であることがより好ましい。上限は、0.178以下であることが好ましく、0.170以下であることがより好ましく、0.135以下であることがさらに好ましい。・・・
・・・
【0023】
Nb_(2)O_(5)は、高屈折率・高分散特性を得るために有用な成分であり、また耐久性を高める効果のある成分でもある。・・・」

(イ)そして、本件特許明細書の実施例において「質量比[TiO_(2)/(TiO_(2)+Nb_(2)O_(5)+WO_(3)+Bi_(2)O_(3)+Ta_(2)O_(5))]」が最も小さいのは実施例19?22の0.131であるが、前記(ア)(a)によれば、本件特許明細書の記載に接した当業者は、TiO_(2)及びNb_(2)O_(5)は共にガラスに高屈折率・高分散特性を与える成分であり、互いに置換可能な成分であることを理解でき、更に、例えば実施例19においてTiO_(2)をNb_(2)O_(5)に置換して、「質量比[TiO_(2)/(TiO_(2)+Nb_(2)O_(5)+WO_(3)+Bi_(2)O_(3)+Ta_(2)O_(5))]」を本件発明1において特定される下限値である「0.10」としても、本件発明1の「屈折率ndが1.790?1.83の範囲であり、かつアッベ数νdが20?24の範囲である」との本件発明の物性要件を満足することを理解できるものである。
そして、このことは、特許権者意見書に添付された乙第1号証である実験成績証明書において、実施例19(TiO_(2):6.98質量%、Nb_(2)O_(5):46.44質量%、質量比[TiO_(2)/(TiO_(2)+Nb_(2)O_(5)+WO_(3)+Bi_(2)O_(3)+Ta_(2)O_(5))]:0.131)においてTiO_(2)をNb_(2)O_(5)に1.64質量%置換した「ガラスA」(TiO_(2):5.34質量%、Nb_(2)O_(5):48.08質量%、質量比[TiO_(2)/(TiO_(2)+Nb_(2)O_(5)+WO_(3)+Bi_(2)O_(3)+Ta_(2)O_(5))]:0.10)の屈折率ndが1.80413、アッベ数νdが23.02となることからも裏付けられるものである。

(ウ)したがって、本件発明1は発明の詳細な説明に記載された発明というべきものである。
また、このことは、同様の発明特定事項を有する本件発明2及び本件発明1または2を直接的又は間接的に引用する本件発明3、4、6?17に係る発明についても同様である。

(3)申立人意見書について
(ア)申立人意見書の主張の概要は、特許権者意見書における「質量比[TiO_(2)/(TiO_(2)+Nb_(2)O_(5)+WO_(3)+Bi_(2)O_(3)+Ta_(2)O_(5))]」についての特許権者の主張は、前記第5の1(2)(エ)の「図9.2」を否定した上で、乙第1号証として実験成績証明書を提出して発明の詳細な説明の記載の記載不足を補ったに過ぎず、依然として、発明の詳細な説明の記載を本件発明1の発明特定事項まで拡張ないし一般化できないことは明らかであるから、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明とはいえず、このことは、本件発明2及び本件発明1または2を直接的又は間接的に引用する本件発明3、4、6?17に係る発明についても同様である、というものである。

(イ)前記(ア)の主張について検討すると、本件発明1は発明の詳細な説明に記載された発明というべきものであること、並びに、同様の発明特定事項を有する本件発明2及び本件発明1または2を直接的又は間接的に引用する本件発明3、4、6?17に係る発明についても同様であることは、前記(2)に記載のとおりである。
なお、本件特許明細書の記載に接した当業者は、TiO_(2)及びNb_(2)O_(5)は互いに置換可能な成分であることを理解でき、更に、「質量比[TiO_(2)/(TiO_(2)+Nb_(2)O_(5)+WO_(3)+Bi_(2)O_(3)+Ta_(2)O_(5))]」を本件発明1において特定される下限値である「0.10」としても、本件発明1の「屈折率ndが1.790?1.83の範囲であり、かつアッベ数νdが20?24の範囲である」との本件発明の物性要件を満足することを理解できることは前記(2)(イ)に記載のとおりであって、当業者は、本件特許明細書の記載に基づいて、発明の詳細な説明の記載を本件発明1の発明特定事項まで拡張ないし一般化できるものである。
そして、前記実験成績証明書は本件特許明細書の記載を裏付けるものであって、その記載不足を補うものではないので、申立人意見書における申立人の主張は採用できない。

(4)小括
以上のとおりであるので、本件発明1?4、6?17は発明の詳細な説明に記載された発明というべきであるから、前記第5の1(1)?(2)の取消理由は理由がない。

2 特許法第36条第6項第2号(明確性)について
本件発明1は、「P_(2)O_(5)含有量が20?24.61質量%」との発明特定事項を有するものであって、「P_(2)O_(5)含有量」の上限値が本件特許明細書の実施例9の「P_(2)O_(5)含有量」(24.61質量%)と合致することは、前記1(1)に記載のとおりであり、その場合、前記第5の2(ウ)の矛盾が解消することは明らかである。
そして、このことは、同様の発明特定事項を有する本件発明2及び本件発明1または2を直接的又は間接的に引用する本件発明3、4、6?17に係る発明についても同様であるから、前記第5の2の取消理由は理由がない。

第7 取消理由通知で採用しなかった異議申立理由についての判断
前記第4の2(1)?(2)の異議申立理由は、前記第6の1(1)で検討したのと同様の理由により理由がないので、前記第4の1の異議申立理由について検討する。
1 特許法第29条第2項(進歩性)について
(1)甲第1号証の記載事項及び甲第1号証に記載された発明
甲第1号証には以下の記載がある。
(1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%でP_(2)O_(5)成分を5.0%以上40.0%以下、Nb_(2)O_(5)成分を10.0%以上60.0%以下含有し、100以上400以下の磨耗度を有する光学ガラス。」

(1b)「【0040】
本発明の光学ガラスでは、Rn_(2)O成分(式中、RnはLi、Na、Kからなる群より選択される1種以上)の含有率の質量和が、15.0%以下であることが好ましい。これにより、ガラスの屈折率の低下が抑えられるため、所望の高屈折率を得易くすることができる。また、ガラスの安定性が高められるため、失透等の発生を低減できる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するRn_(2)O成分の含有率の質量和は、好ましくは15.0%、より好ましくは13.0%、最も好ましくは12.0%を上限とする。・・・
・・・」

(1c)「【実施例】
【0072】
本発明の実施例(No.1?No.5)及び比較例(No.1)のガラスの組成、屈折率(nd)、アッベ数(νd)、分光透過率が70%を示す波長(λ70)、磨耗度、並びに平均線膨張係数を表1に示す。なお、以下の実施例はあくまで例示の目的であり、これらの実施例のみ限定されるものではない。
・・・
【0078】
【表1】



前記(1a)によれば、甲第1号証には「光学ガラス」に係る発明が記載されており、当該「光学ガラス」は、酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%でP_(2)O_(5)成分を5.0%以上40.0%以下、Nb_(2)O_(5)成分を10.0%以上60.0%以下含有し、100以上400以下の磨耗度を有するものである。
そして、前記(1c)の実施例4に注目すると、甲第1号証には以下の発明が記載されているといえる。
「酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%でP_(2)O_(5)成分を5.0%以上40.0%以下、Nb_(2)O_(5)成分を10.0%以上60.0%以下含有し、100以上400以下の磨耗度を有する光学ガラスであって、
P_(2)O_(5)成分を25.10%、Nb_(2)O_(5)成分を43.02%、TiO_(2)成分を9.14%、Na_(2)O成分を9.18%、K_(2)O成分を0.82%、SiO_(2)成分を2.00%、B_(2)O_(3)成分を4.77%、Bi_(2)O_(3)成分を3.00%、WO_(3)成分を2.73%、Sb_(2)O_(3)成分を0.02%含有し、
屈折率n_(d)が1.8057であり、アッベ数ν_(d)が22.6である、光学ガラス。」(以下、「甲1発明」という。)

また、前記(1c)の実施例5に注目すると、甲第1号証には以下の発明が記載されているといえる。
「酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%でP_(2)O_(5)成分を5.0%以上40.0%以下、Nb_(2)O_(5)成分を10.0%以上60.0%以下含有し、100以上400以下の磨耗度を有する光学ガラスであって、
P_(2)O_(5)成分を23.10%、Nb_(2)O_(5)成分を43.02%、TiO_(2)成分を9.14%、Na_(2)O成分を10.00%、SiO_(2)成分を2.00%、B_(2)O_(3)成分を4.74%、WO_(3)成分を4.00%含有し、
屈折率n_(d)が1.8150であり、アッベ数ν_(d)が22.4である、光学ガラス。」(以下、「甲1’発明」という。)

(2)対比・判断
(2-1)本件発明1について
ア 対比
(ア)本件発明1と甲1発明とを対比すると、本件発明1と甲1発明とは、「光学ガラス」に係る発明である点で合致する。
また、甲1発明が、「酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で」「B_(2)O_(3)成分を4.77%」「含有する」ことは、本件発明1において、「酸化物基準のガラス組成において、」「B_(2)O_(3)含有量が10質量%以下」であることに相当し、甲1発明は「Al_(2)O_(3)成分」及び「Li_(2)O成分」を含まないから、本件発明1と甲1発明とは、「Al_(2)O_(3)含有量が3%未満、Li_(2)O含有量が0質量%以上0.3質量%未満」である点で合致する。
更に、甲1発明において、「屈折率n_(d)が1.8057であり、アッベ数ν_(d)が22.6である」ことは、本件発明1において、「屈折率ndが1.790?1.83の範囲であり、かつアッベ数νdが20?24の範囲である」ことに相当する。

(イ)前記(ア)によれば、本件発明1と甲1発明とは、
「酸化物基準のガラス組成において、
B_(2)O_(3)含有量が10質量%以下、
Al_(2)O_(3)含有量が3%未満、
Li_(2)O含有量が0質量%以上0.3質量%未満、
屈折率ndが1.790?1.83の範囲であり、かつアッベ数νdが20?24の範囲である光学ガラス。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

相違点1:本件発明1は、「P_(2)O_(5)含有量が20?24.61質量%」との発明特定事項を有するのに対して、甲1発明は「P_(2)O_(5)成分を25.10%」含有する点。

相違点2:本件発明1は、「質量比(B_(2)O_(3)/P_(2)O_(5))が0.123以上0.39未満、質量比[TiO_(2)/(TiO_(2)+Nb_(2)O_(5)+WO_(3)+Bi_(2)O_(3)+Ta_(2)O_(5))]が0.10?0.180の範囲、質量比[(P_(2)O_(5)+B_(2)O_(3)+SiO_(2))/(Na_(2)O+K_(2)O+Li_(2)O)]が1.39?1.80の範囲、質量比[(P_(2)O_(5)+B_(2)O_(3)+SiO_(2))/(TiO_(2)+Nb_(2)O_(5)+WO_(3)+Bi_(2)O_(3)+Ta_(2)O_(5))]が0.51以上0.586以下、であ」る、との発明特定事項を有するのに対して、甲1発明は前記発明特定事項を有するか否かが不明である点。

イ 判断
(ア)事案に鑑み、前記ア(イ)の相違点2から検討する。
前記相違点2に係る発明特定事項のうち、「質量比[(P_(2)O_(5)+B_(2)O_(3)+SiO_(2))/(Na_(2)O+K_(2)O+Li_(2)O)]が1.39?1.80の範囲」との発明特定事項に注目すると、甲1発明における「質量比[(P_(2)O_(5)+B_(2)O_(3)+SiO_(2))/(Na_(2)O+K_(2)O+Li_(2)O)]」は(25.10+4.77+2.00)/(9.18+0.82+0)=3.19であり、本件発明1と合致しないので、前記相違点2は実質的な相違点である。

(イ)そして、甲第1号証には、そもそも「光学ガラス」において「質量比[(P_(2)O_(5)+B_(2)O_(3)+SiO_(2))/(Na_(2)O+K_(2)O+Li_(2)O)]」を算出する、との技術思想が記載も示唆もされていない。
すると、甲第1号証の記載に接した当業者は、「質量比[(P_(2)O_(5)+B_(2)O_(3)+SiO_(2))/(Na_(2)O+K_(2)O+Li_(2)O)]」を算出すること自体、行わないから、甲1発明における「屈折率nd」及び「アッベ数νd」が本件発明1の発明特定事項を満足するとしても、「質量比[(P_(2)O_(5)+B_(2)O_(3)+SiO_(2))/(Na_(2)O+K_(2)O+Li_(2)O)]」が単なる設計的事項であるということはできない。
してみれば、甲1発明において、「質量比[(P_(2)O_(5)+B_(2)O_(3)+SiO_(2))/(Na_(2)O+K_(2)O+Li_(2)O)]」を「1.39?1.80の範囲」とすることを、当業者が容易になし得るものではない。

(ウ)なお、本件特許明細書の【0047】【表1】の実施例1?17においては、「Na_(2)O+K_(2)O+Li_(2)O」が17.570%(実施例10)?19.322%(実施例7)の範囲にあるのに対して、前記(1)(1b)によれば、甲1発明におけるRn_(2)O成分(式中、RnはLi、Na、Kからなる群より選択される1種以上)の含有率の質量和(本件発明1における「Na_(2)O+K_(2)O+Li_(2)O」に相当する。)は15.0%以下が好ましいものである。
すると、本件発明は、「Na_(2)O+K_(2)O+Li_(2)O」を、甲1発明において好ましいとされる15.0%以下を超えて含有させることが好ましいといえるものであり、本件発明と甲1発明とでは、「Na_(2)O+K_(2)O+Li_(2)O」の含有量についての技術思想が合致しないから、仮に、甲第1号証の記載に基づいて「質量比[(P_(2)O_(5)+B_(2)O_(3)+SiO_(2))/(Na_(2)O+K_(2)O+Li_(2)O)]」を算出したとしても、本件発明1と甲1発明における「質量比[(P_(2)O_(5)+B_(2)O_(3)+SiO_(2))/(Na_(2)O+K_(2)O+Li_(2)O)]」の技術的意義が異なることは明らかである。
してみれば、甲1発明において、「質量比[(P_(2)O_(5)+B_(2)O_(3)+SiO_(2))/(Na_(2)O+K_(2)O+Li_(2)O)]」を「1.39?1.80の範囲」とすることを、甲第1号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るものではない。

(エ)前記(イ)、(ウ)によれば、甲1発明において、「光学ガラス」を、「質量比(B_(2)O_(3)/P_(2)O_(5))が0.123以上0.39未満、質量比[TiO_(2)/(TiO_(2)+Nb_(2)O_(5)+WO_(3)+Bi_(2)O_(3)+Ta_(2)O_(5))]が0.10?0.180の範囲、質量比[(P_(2)O_(5)+B_(2)O_(3)+SiO_(2))/(Na_(2)O+K_(2)O+Li_(2)O)]が1.39?1.80の範囲、質量比[(P_(2)O_(5)+B_(2)O_(3)+SiO_(2))/(TiO_(2)+Nb_(2)O_(5)+WO_(3)+Bi_(2)O_(3)+Ta_(2)O_(5))]が0.51以上0.586以下、であ」る、との前記相違点2に係る発明特定事項を有するものとすることを当業者が容易になし得るものではない。
したがって、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1を、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(2-2)本件発明2について
(ア)本件発明1の場合と同様にして、本件発明2と甲1発明とを対比すると、本件発明1と甲1発明とは、少なくとも前記(2-1)ア(イ)の相違点2と同じ点で相違する。

(イ)そして、甲1発明において、「光学ガラス」を、前記相違点2に係る発明特定事項を有するものとすることを当業者が容易になし得るものではないことは、前記(2-1)イ(エ)に記載のとおりであるから、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明2を、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(2-3)本件発明3、4、6?17について
(ア)本件発明3は、本件発明2を引用するものであり、本件発明4、6?17は、直接的又は間接的に本件発明1又は2を引用するものであり、本件発明3、4、6?17のいずれかと甲1発明を対比した場合、いずれの場合であっても、少なくとも前記(2-1)ア(イ)の相違点2と同じ点で相違する。

(イ)そして、甲1発明において、「光学ガラス」を、前記相違点2に係る発明特定事項を有するものとすることを当業者が容易になし得るものではないことは、前記(2-1)イ(エ)に記載のとおりであるから、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明3、4、6?17を、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(2-4)甲1’発明について
(ア)甲1発明の場合と同様にして、本件発明1?4、6?17のいずれかと甲1’発明とを対比した場合、いずれの場合であっても、少なくとも前記(2-1)ア(イ)の相違点2と同じ点で相違する。

(イ)そして、前記(2-1)イ(エ)に記載したのと同様の理由により、甲1’発明において、「光学ガラス」を、前記相違点2に係る発明特定事項を有するものとすることを当業者が容易になし得るものではないから、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1?4、6?17を、甲1’発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(2-5)小括
したがって、本件発明1?4、6?17は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、前記第4の1の異議申立理由は理由がない。

第8 むすび
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件発明1?4、6?17に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?4、6?17に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件発明5に係る特許に対して特許異議申立人 宮園 祐爾がした特許異議申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物基準のガラス組成において、
P_(2)O_(5)含有量が20?24.61質量%、
B_(2)O_(3)含有量が10質量%以下、
Al_(2)O_(3)含有量が3%未満、
Li_(2)O含有量が0質量%以上0.3質量%未満、
質量比(B_(2)O_(3)/P_(2)O_(5))が0.123以上0.39未満、
質量比[TiO_(2)/(TiO_(2)+Nb_(2)O_(5)+WO_(3)+Bi_(2)O_(3)+Ta_(2)O_(5))]が0.10?0.180の範囲、
質量比[(P_(2)O_(5)+B_(2)O_(3)+SiO_(2))/(Na_(2)O+K_(2)O+Li_(2)O)]が1.39?1.80の範囲、
質量比[(P_(2)O_(5)+B_(2)O_(3)+SiO_(2))/(TiO_(2)+Nb_(2)O_(5)+WO_(3)+Bi_(2)O_(3)+Ta_(2)O_(5))]が0.51以上0.586以下、
であり、屈折率ndが1.790?1.83の範囲であり、かつアッベ数νdが20?24の範囲である光学ガラス。
【請求項2】
酸化物基準のガラス組成において、
P_(2)O_(5)含有量が20?24.61質量%、
B_(2)O_(3)含有量が10質量%以下、
Al_(2)O_(3)含有量が3%未満、
質量比(B_(2)O_(3)/P_(2)O_(5))が0.123以上0.39未満、
質量比[TiO_(2)/(TiO_(2)+Nb_(2)O_(5)+WO_(3)+Bi_(2)O_(3)+Ta_(2)O_(5))]が0.10?0.180の範囲、
質量比[(P_(2)O_(5)+B_(2)O_(3)+SiO_(2))/(Na_(2)O+K_(2)O+Li_(2)O)]が1.39?1.80の範囲、
質量比[(P_(2)O_(5)+B_(2)O_(3)+SiO_(2))/(TiO_(2)+Nb_(2)O_(5)+WO_(3)+Bi_(2)O_(3)+Ta_(2)O_(5))]が0.51以上0.586以下、
質量比[Li_(2)O/(Na_(2)O+K_(2)O+Li_(2)O)]が0.0115未満、
であり、屈折率ndが1.790?1.83の範囲であり、かつアッベ数νdが20?24の範囲である光学ガラス。
【請求項3】
Li_(2)O含有量が0質量%以上0.3質量%未満である請求項2に記載の光学ガラス。
【請求項4】
質量比[SiO_(2)/(SiO_(2)+P_(2)O_(5)+B_(2)O_(3))]が0.12以下である請求項1?3のいずれか1項に記載の光学ガラス。
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
1050℃以下の液相温度を有する請求項1?4のいずれか1項に記載の光学ガラス。
【請求項7】
Sb_(2)O_(3)の外割添加量が0?0.02%である請求項1?4および6のいずれか1項に記載の光学ガラス。
【請求項8】
Sb_(2)O_(3)の外割添加量が0%である請求項7に記載の光学ガラス。
【請求項9】
Sb_(2)O_(3)の外割添加量が0.010×100/(100-0.010)質量%以上である光学ガラスを除く、請求項1?4および6のいずれか1項に記載の光学ガラス。
【請求項10】
Nb_(2)O_(5)含有量が44.67%以上である請求項1?4および6?9のいずれか1項に記載の光学ガラス。
【請求項11】
請求項1?4および6?10のいずれか1項に記載の光学ガラスからなる光学素子ブランク。
【請求項12】
請求項1?4および6?10のいずれか1項に記載の光学ガラスからなるプレス成形用ガラス素材。
【請求項13】
請求項1?4および6?10のいずれか1項に記載の光学ガラスからなる光学素子。
【請求項14】
請求項1?4および6?10のいずれか1項に記載の光学ガラスをプレス成形用ガラス素材に成形する工程を備えるプレス成形用ガラス素材の製造方法。
【請求項15】
請求項12に記載のプレス成形用ガラス素材を、プレス成形型を用いてプレス成形することにより光学素子ブランクを作製する工程を備える光学素子ブランクの製造方法。
【請求項16】
請求項11に記載の光学素子ブランクを研削および/または研磨することにより光学素子を作製する工程を備える光学素子の製造方法。
【請求項17】
請求項12に記載のプレス成形用ガラス素材を、プレス成形型を用いてプレス成形することにより光学素子を作製する工程を備える光学素子の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-01-21 
出願番号 特願2013-205432(P2013-205432)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C03C)
P 1 651・ 851- YAA (C03C)
P 1 651・ 121- YAA (C03C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 宮崎 大輔吉川 潤  
特許庁審判長 菊地 則義
特許庁審判官 金 公彦
宮澤 尚之
登録日 2018-12-07 
登録番号 特許第6444021号(P6444021)
権利者 HOYA株式会社
発明の名称 光学ガラス、光学ガラスブランク、プレス成型用ガラス素材、光学素子、およびそれらの製造方法  
代理人 特許業務法人特許事務所サイクス  
代理人 特許業務法人特許事務所サイクス  

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