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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 B32B |
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管理番号 | 1360477 |
異議申立番号 | 異議2019-700442 |
総通号数 | 244 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-04-24 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-05-28 |
確定日 | 2020-02-06 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6428097号発明「化粧板用裏面防湿シート」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6428097号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕に訂正することを認める。 特許第6428097号の請求項1、2に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1.手続の経緯 特許第6428097号の請求項1、2に係る特許についての出願は、平成26年9月26日に出願され、平成30年11月9日に特許権の設定登録(特許掲載公報発行日:平成30年11月28日)がされたものであって、本件特許異議の申立て以降の主な手続の経緯は以下のとおりである。 令和元年5月28日 特許異議申立人 松村 朋子(以下「申立人」という。)による 本件特許の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立て 令和元年9月27日付け 取消理由通知 令和元年11月14日 特許権者による意見書の提出及び訂正請求書の提出 (当該訂正請求書による訂正を「本件訂正」という。) 令和元年12月27日 申立人による意見書の提出 第2.本件訂正 1.訂正の内容 本件訂正の内容は以下のとおりである。 なお、訂正箇所に下線を付し、また削除された文字の前後1文字に下線を付した。 ・訂正事項1 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に、 「熱可塑性樹脂からなる合成樹脂基材上に、アルミニウム酸化物とリン化合物とが反応してなる反応生成物からなる厚み0.05μm以上4.0μm以下の複合皮膜層をバリア層として設け、複合皮膜層の表出面に接着用プライマー層を設けてなり、透湿度が2.0g/m^(2)・24hr以下であることを特徴とする防湿シート。」 とあるのを 「熱可塑性樹脂からなる合成樹脂基材上に、厚みが0.05μm以上4.0μm以下の層であって、アルミニウム酸化物とリン化合物とを含むコーティング液からなる塗膜の熱処理によりアルミニウム酸化物とリン化合物とが反応してなる反応生成物からなる層のみをバリア層として設け、前記反応生成物からなる層の表出面に接着用プライマー層を設けてなり、透湿度が2.0g/m^(2)・24hr以下であることを特徴とする防湿シート。」 に訂正する(請求項1の記載を直接的に引用する請求項2も同様に訂正する)。 2.一群の請求項 本件訂正は、訂正前の請求項1と、請求項1を直接的に引用する請求項2について訂正することを求めるものであるから、特許法第120条の5第4項に規定された一群の請求項毎に請求されるものである。 3.本件訂正の適否 (1)訂正事項1のうち、本件訂正前の 「アルミニウム酸化物とリン化合物とが反応してなる反応生成物からなる厚み0.05μm以上4.0μm以下の複合皮膜層をバリア層として設け、」 を、 「厚みが0.05μm以上4.0μm以下の層であって、アルミニウム酸化物とリン化合物とを含むコーティング液からなる塗膜の熱処理によりアルミニウム酸化物とリン化合物とが反応してなる反応生成物からなる層のみをバリア層として設け、」 とする訂正(以下「訂正事項1-1」という)について検討する。 訂正事項1-1は、訂正前の「複合皮膜層」について、「反応生成物」が「アルミニウム酸化物とリン化合物とを含むコーティング液からなる塗膜の熱処理によりアルミニウム酸化物とリン化合物とが反応してなる」ものであることに特定し、また、「バリア層」が「反応生成物からなる層のみ」からなることを特定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そして、本件特許明細書の段落【0023】の、 「反応生成物は、例えば、金属酸化物とリン化合物を含むコーティング液を基材の表面に塗布し、形成した塗膜を熱処理することにより、金属酸化物の粒子同士が、リン化合物に由来するリン化合物を介して結合される反応を進行させることで得られる。」 との記載から、「反応生成物」が「アルミニウム酸化物とリン化合物とを含むコーティング液からなる塗膜の熱処理によりアルミニウム酸化物とリン化合物とが反応してなる」ものであることは、新規事項を追加するものではない。 また、本件特許明細書の段落【0033】?【0034】の、 「【0033】 次に、2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(PET:東レ製、ルミラー(登録商標)P60、厚さ12μm、内側コロナ処理)上に、乾燥後の厚さが0.5μmとなるようにバーコータによってコーティング液をコートし、100℃で5分間乾燥することによって複合皮膜層の前駆体層を形成した。得られた積層体に対して、乾燥機を用いて180℃で1分間の熱処理を施すことによって複合皮膜層を形成してバリアフィルムを得た。 【0034】 上記バリアフィルムの複合皮膜層面に、2液硬化型接着用プライマー(東洋モートン(株)製ウレタン系樹脂/イソシアネート硬化剤)をグラビア印刷法にて塗布し、固形分塗布量が1g/m^(2)の接着用プライマー層を設けた防湿シートを作製した。」 との記載から、「バリア層」が「反応生成物からなる層のみ」であることは、新規事項を追加するものではない。 そして、訂正事項1-1は、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことが明らかである。 よって訂正事項1-1は、特許法第120条の5第9項において準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 (2)訂正事項1のうち、本件訂正前の 「複合皮膜層の表出面に接着用プライマー層を設けてなり、」 を 「前記反応生成物からなる層の表出面に接着用プライマー層を設けてなり、」 とする訂正(以下「訂正事項1-2」という)について検討する。 訂正事項1-2は、訂正前の「複合皮膜層」が訂正事項1-1により「反応生成物からなる層のみ」に訂正されたことに伴って、用語を統一するために「複合皮膜層」を「前記反応生成物からなる層」に訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 そして、訂正事項1-2は、用語の統一であるから新規事項を追加するものではないことは明らかであり、また、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことも明らかであるから、特許法第120条の5第9項において準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 4.小括 以上のとおり、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、並びに同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、本件訂正後の請求項〔1、2〕についての訂正を認める。 第3.本件発明 上記第2.のとおり、本件訂正が認められるから、本件特許の請求項1、2は、それぞれ、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1、2に記載された、次のとおりのものである。 なお、訂正特許請求の範囲の請求項1、2に係る発明を、以下「本件発明1」等という。 「【請求項1】 熱可塑性樹脂からなる合成樹脂基材上に、厚みが0.05μm以上4.0μm以下の層であって、アルミニウム酸化物とリン化合物とを含むコーティング液からなる塗膜の熱処理によりアルミニウム酸化物とリン化合物とが反応してなる反応生成物からなる層のみをバリア層として設け、前記反応生成物からなる層の表出面に接着用プライマー層を設けてなり、透湿度が2.0g/m^(2)・24hr以下であることを特徴とする防湿シート。 【請求項2】 請求項1記載の防湿シートにおいて、合成樹脂基材の表出面に接着用プライマー層を設けてなることを特徴とする防湿シート。」 第4.取消理由の概要 本件特許の請求項1、2に係る特許に対して、当審が特許権者に通知した令和元年9月27日付けの取消理由の要旨は、次のとおりである。 本件特許の請求項1、2に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 < 刊 行 物 一 覧 > 1.特開2008-238688号公報(甲第5号証) 2.国際公開第2011/122036号(甲第2号証) 3.国際公開第2013/051287号(甲第3号証) 4.国際公開第2013/187064号(甲第4号証) 第5.当審の判断 1.刊行物の記載 (1)引用文献1(特開2008-238688号公報)には、次の記載がある。 ア.「【請求項1】 着色した合成樹脂製基材層と蒸着層とからなる防湿シートであって、前記蒸着層の表出面に接着用プライマー層を設けてなることを特徴とする防湿シート。」 イ.「【技術分野】 【0001】 本発明は、木質系基材に貼着する防湿シートおよびそれを用いた化粧シートおよびそれらからなる化粧板に関し、さらに詳しくは、環境温・湿度の変化による木質系基材の吸湿や放湿によって生じる反りを防止する機能を有する防湿シートおよびそれを用いた化粧シートおよびそれらからなる化粧板に関するものである。」 ウ.「【発明が解決しようとする課題】 【0006】 そこで本発明は、ドア、引き戸、間仕切り等において、両側の温湿度環境に大きな差がある場所で用いても、反りを防止して商品価値を落とすことがない防湿シートおよびそれを用いた化粧シートおよびそれらからなる化粧板を提供することであり、また、長期間使用された場合や、不可抗力的に外力が加わった場合などに剥離する虞がない防湿シートおよびそれを用いた化粧シート及びそれらからなる化粧板を提供することである。さらに、防湿シートを化粧シートの構成素材として用いることから、化粧板とした際に化粧板用基材の表面色や色むらを隠蔽して化粧シートの意匠性を損なうことがない防湿シートおよびそれを用いた化粧シート及びそれらからなる化粧板を提供することである。」 エ.「【発明の効果】 【0012】 本発明の防湿シートは、透湿度(JIS Z 0208)が2.0g/m^(2)・24hr以下であるために、塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン等の合成樹脂製シートあるいは紙/ポリエチレン/紙からなる防湿シートに比べて格段に優れた防湿性能を有し、また、本発明の防湿シートおよびそれを用いた化粧シートからなる化粧板は、ドア、引き戸、間仕切りなど、両側の温湿度環境に大きな差がある場所で用いても、反りを生じることが殆どないという優れた効果を奏する。また、本発明の防湿シートおよびそれを用いた化粧シートからなる化粧板は、長期間使用された場合や、不可抗力的に外力が加わった場合などに剥離する虞が殆どないという優れた効果を奏する。また、本発明の防湿シートおよびそれを用いた化粧シートからなる化粧板は、化粧板用基材の表面色や色むらを隠蔽して化粧シートの意匠性を損なうことがないという優れた効果を奏する。」 オ.「【0014】 図1は本発明にかかる防湿シートの一実施例を図解的に示す層構成図であって、防湿シート1は着色された合成樹脂製基材層(以下、合成樹脂製着色基材層と呼称する)10の一方の面に蒸着層11と接着用プライマー層15とを形成したものである。なお、前記合成樹脂製着色基材層10の他方の面に、必要に応じて接着用プライマー層16(図4、5参照)を設けてもよいものである。なお、他方の面に接着用プライマー層16を設ける場合としては、たとえば、化粧板用基材の裏面に防湿シート1として本来の目的に使用する場合に設けるものであり、この防湿シート1を設けた化粧板を、たとえば、ドア、引き戸、間仕切りなどの芯材に貼着する際に、芯材と化粧板とを接着する接着剤の選択肢が広がり、貼着作業を容易なものとすることができるという効果を奏する。」 カ.「【0020】 次に、防湿シート1、化粧シート2,2’および化粧板3を構成する諸材料について説明する。まず、前記合成樹脂製着色基材層10としては、ポリエチレン,ポリプロピレン,エチレン-プロピレン共重合体,エチレン-ビニルアルコール共重合体,あるいは、これらの混合物等のオレフィン系熱可塑性樹脂、ポリエチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート,ポリエチレンナフタレート,ポリエチレンナフタレート-イソフタレート共重合体,ポリカーボネート,ポリアリレート等のエステル系熱可塑性樹脂、ポリメタアクリル酸メチル,ポリメタアクリル酸エチル,ポリアクリル酸ブチル等のアクリル系熱可塑性樹脂、あるいは、ポリイミド、ポリウレタン、ポリスチレン、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂等の非ハロゲン系熱可塑性樹脂などを挙げることができる。前記合成樹脂製着色基材層10は、一軸ないし二軸方向に延伸したシートであっても、未延伸であってもよいものである。着色剤としては、耐候性に優れる周知の顔料を適宜用いることができ、上記樹脂と顔料との混合方法はドライブレンドであっても、マスターバッチのいずれであってもよいが、ムラのない均一な着色基材層を得るという意味ではマスターバッチが好ましい。なお、前記合成樹脂製着色基材層10は、着色した透明、半透明あるいは不透明(隠蔽性がある)のいずれであってもよいものである。」 キ.「【0021】 また、前記蒸着層11としては、アルミニウムに代表される金属薄膜からなる無機物の蒸着層、あるいは、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化アルミニウムに代表される無機酸化物の薄膜からなる無機酸化物蒸着層であり、この蒸着層11は真空蒸着法、プラズマ活性化化学反応蒸着法等の周知の蒸着法で、上記した合成樹脂製着色基材層10の少なくとも一方の面に薄膜形成される。なお、前記蒸着層11としては、アルミニウムに代表される金属薄膜からなる蒸着層は金属光沢があるために、印刷層17を形成する必要がある化粧シート2,2’に対しては、意匠性の点から金属光沢を隠蔽しなければならないという問題があり、また、フラッシュドア加工の際に高周波を使用して接着を行う場合などがあり、より好ましくは、蒸着層が透明である無機酸化物蒸着層である。また、前記蒸着層11のガスバリアー性を一層向上させる目的で、前記蒸着層11上にポリビニルアルコールあるいはポリビニルアルコールに酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化アルミニウムに代表される無機酸化物を添加した組成物をロールコート法、グラビアコート法等の周知の塗布方法でポリビニルアルコール層あるいは前記組成物層を塗布形成してもよいものである。」 ク.「 」 ケ.上記オ.及びキ.によれば、「蒸着層11」上に、酸化アルミニウムに代表される無機酸化物を添加した組成物を塗布形成した「組成物層」が配置され、その上方に「接着用プライマー層」が配置される構成が記載されている。そして「組成物層」は、「前記蒸着層11のガスバリアー性を一層向上させる」ものであるから、「組成物層」が配置された「蒸着層11」は、「バリア層」であるといえる。 上記ア.?ケ.から、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という)が記載されている。 「熱可塑性樹脂からなる合成樹脂製着色基材層10の一方の面に、蒸着層11をバリア層として設け、蒸着層11の上方に接着用プライマー層15を設けてなり、透湿度が2.0g/m^(2)・24hr以下であり、蒸着層11上に酸化アルミニウムに代表される無機酸化物を添加した組成物層が配置されたものをバリア層として設けた、防湿シート1。」 (2)引用文献2(国際公開第2011/122036号)には、次の記載がある。 ア.「【請求の範囲】 [請求項1]基材(X)と前記基材(X)に積層された層(Y)とを有する複合構造体であって、前記層(Y)は反応生成物(R)を含み、前記反応生成物(R)は、少なくとも金属酸化物(A)とリン化合物(B)とが反応してなる反応生成物であり、 800?1400cm ^(-1) の範囲における前記層(Y)の赤外線吸収スペクトルにおいて赤外線吸収が最大となる波数(n ^(1) )が1080?1130cm^(-1) の範囲にある、複合構造体。」 イ.「[0063][金属酸化物(A)] 金属酸化物(A)を構成する金属原子(M)としては、・・・これらの中でも、金属酸化物(A)を製造するための取り扱いの容易さや得られる複合構造体のバリア性がより優れることから、金属酸化物(A)を構成する金属原子(M)は、アルミニウム、チタンおよびジルコニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、アルミニウムであることが特に好ましい。」 ウ.「[0077]上記したように、複合構造体(1)が有する層(Y)は、反応生成物(R)を含み、前記反応生成物(R)は、少なくとも金属酸化物(A)とリン化合物(B)とが反応してなる反応生成物である。・・・」 (3)引用文献3(国際公開第2013/051287号)には、次の記載がある。 ア.「【請求の範囲】 [請求項1]基材(X)と前記基材(X)に積層された層(Y)とを有する複合構造体であって、 前記層(Y)は反応生成物(R)を含み、前記反応生成物(R)は、少なくとも金属酸化物(A)とリン化合物(B)とが反応してなる反応生成物であり、前記層(Y)のX線光電子分光測定において得られる、酸素原子の1s電子軌道の結合エネルギーのピーク位置が532.0eV以上に位置し、当該ピークの半値幅が2.0eV未満である、複合構造体。」 イ.「[0050][金属酸化物(A)] 金属酸化物(A)を構成する金属原子(それらを総称して「金属原子(M)」という場合がある)としては、・・・これらの中でも、金属酸化物(A)を製造するための取り扱いの容易さや得られる複合構造体の水蒸気バリア性がより優れることから、金属酸化物(A)を構成する金属原子(M)は、アルミニウム、チタンおよびジルコニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、アルミニウムであることが特に好ましい。」 ウ.「[0065]上記したように、複合構造体が有する層(Y)は、反応生成物(R)を含み、前記反応生成物(R)は、少なくとも金属酸化物(A)とリン化合物(B)とが反応してなる反応生成物である。・・・」 (4)引用文献4(国際公開第2013/187064号)には、次の記載がある。 「【請求の範囲】 [請求項1]基材と前記基材に積層されたバリア層とを含む多層構造体であって、 前記基材の、少なくとも一方向の3%歪み時張力が2000N/m以上であり、 前記バリア層は反応生成物(R)を含み、 前記反応生成物(R)は、少なくとも金属酸化物(A)とリン化合物(B)とが反応してなる反応生成物であり、 800?1400cm ^(-1) の範囲における前記バリア層の赤外線吸収スペクトルにおいて赤外線吸収が最大となる波数(n1)が1080?1130cm^(-1)の範囲にあり、 前記金属酸化物(A)を構成する金属原子が、実質的にアルミニウム原子である、多層構造体。」 2.本件発明1について (1)対比 本件発明1と引用発明を対比すると、引用発明の「熱可塑性樹脂からなる合成樹脂製着色基材層10」は本件発明1の「熱可塑性樹脂からなる合成樹脂基材」に相当し、以下同様に「バリア層」は「バリア層」に、「接着用プライマー層15」は「接着用プライマー層」に、「透湿度が2.0g/m^(2)・24hr以下」は「透湿度が2.0g/m^(2)・24hr以下」に、「防湿シート1」は「防湿シート」にそれぞれ相当する。 引用発明における合成樹脂製着色基材層10の「一方の面」、及び蒸着層11の「上方」は、その態様からみて、本件発明1における合成樹脂基材「上」、及び前記反応生成物からなる層の「表出面」と一致する。 引用発明の「蒸着層11」及び「酸化アルミニウムに代表される無機酸化物を添加した組成物層」を合わせたものは、バリア層として機能するから、「バリア層」の限りにおいて、本件発明の「アルミニウム酸化物とリン化合物とを含むコーティング液からなる塗膜の熱処理によりアルミニウム酸化物とリン化合物とが反応してなる反応生成物からなる層」と一致する。 よって、本件発明1と引用発明は、以下の点で一致している。 <一致点> 「熱可塑性樹脂からなる合成樹脂基材上に、バリア層を設け、前記バリア層の表出面に接着用プライマー層を設けてなり、透湿度が2.0g/m^(2)・24hr以下である、防湿シート。」 そして、本件発明1と引用発明は、以下の点で相違している。 <相違点A> バリア層について、本件発明1は、「厚みが0.05μm以上4.0μm以下」であり、「アルミニウム酸化物とリン化合物とを含むコーティング液からなる塗膜の熱処理によりアルミニウム酸化物とリン化合物とが反応してなる反応生成物からなる層のみ」で構成されるのに対して、引用発明は、バリア層の厚さが不明であり、蒸着層11及び酸化アルミニウムに代表される無機酸化物を添加した組成物層で構成される点。 (2)相違点についての検討 まず、引用発明において、蒸着層11を廃することが可能であるか否かについて検討する。 引用発明が解決すべき課題をみると、引用文献1の段落【0006】(上記1.(1)ウ.)の、 「そこで本発明は、ドア、引き戸、間仕切り等において、両側の温湿度環境に大きな差がある場所で用いても、反りを防止して商品価値を落とすことがない防湿シートおよびそれを用いた化粧シートおよびそれらからなる化粧板を提供することであり、また、長期間使用された場合や、不可抗力的に外力が加わった場合などに剥離する虞がない防湿シートおよびそれを用いた化粧シート及びそれらからなる化粧板を提供することである。・・・」 との記載から、引用発明は、防湿に加えて剥離防止も解決すべき課題としていることがわかる。 そして、段落【0055】の、 「表1からも明らかなように、本発明の化粧シートはアルミナ蒸着層を設けたことにより、透湿度性能の向上が見られ、環境温湿度の変化により発生する化粧板の反りをアルミナ蒸着層が層構成中に存在しない従来品(比較例1、2)に比べて少なくすることができるという効果を期待できる。また、平面引張強度においては、紙層からなる比較例1が紙間剥離となるのに対して、実施例1、2は化粧板用基材の層間剥離(材料破壊=材破)となるために剥離強度を向上させることができる。」 との記載から、蒸着層によって防湿と剥離強度の向上を達成していることがわかる。 すなわち、引用発明は、透湿度と剥離強度に優れた蒸着層をバリア層とすることによって課題を解決していることが理解できる。 よって、引用発明は、蒸着層をバリア層とすることが必須の構成であり、このことは、引用文献1の特許請求の範囲(上記1.(1)ア.)に蒸着層が必須の構成として記載されていることと整合する。 そうすると、蒸着層11は、引用発明における必須の構成であり、廃することができないから、引用発明のバリア層を反応生成物からなる層のみに変更することには、阻害事由が存するというべきである。 したがって、本件発明1は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない。 (3)申立人の主張について ア.申立人は、令和元年12月27日付け意見書(3ページ2行?4ページ17行)において、 「引用発明の必須要件を置換することは、容易に想到できない場合も存在します。しかしながら、これは当該置換によって、当該引用発明の構成をその作用効果を失わせる方向に変更することになる等の格別な事情が存在する場合に限られるものであると思料いたします・・・」 としつつ、引用発明の蒸着層を、周知技術の反応生成物からなる層に置換することが容易になし得るものであると主張している。 そこで検討すると、上記(2)で述べたとおり、引用発明は、防湿のみならず剥離防止という課題を解決するために蒸着層をバリア層として採用しているものであるから、バリア層から蒸着層をとり除いて反応生成物からなる層のみに変更することに阻害事由が存することは明らかである。 よって、申立人の上記主張は、採用することができない。 イ.また、申立人は、同意見書(4ページ18行?5ページ5行)において、 『また、上記のように、バリア層の置換は容易に想到し得ると考えられるところ、仮にバリア層の置換が容易ではないとしても、「バリアフィルム」の置換は容易であると思料致します。・・・』 としつつ、引用発明の蒸着層と基材層を一体とみた蒸着フィルム(バリアフィルム)を、周知技術の反応生成物からなる層と基材からなるバリアフィルムに置換することが容易になし得るものであると主張している。 しかしながら、上述のとおり、蒸着層は引用発明における必須の要件であるから、蒸着層と基材層を一体のバリアフィルムとみなしたところで、その置換に阻害事由が存することに変わりがない。 よって、申立人の上記主張は、採用することができない。 (4)よって、本件発明1は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるということができないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明とはいえない。 3.本件発明2について 本件発明2は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、更に限定するものである。そして、上記2.に示したように、本件発明1は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるということができないから、本件発明2についても同様に、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明とはいえない。 4.小括 以上のとおり、本件発明1、2は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明とはいえないから、その特許は、特許法第113条第2号に該当することを理由として取り消すことはできない。 第6.取消理由としなかった特許異議の申立理由について 上記取消理由として採用しなかった特許異議の申立理由について、念のために検討すると、以下のとおりである。 本件発明1、2は、甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であるから、その特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 そこで検討する。 甲第1号証(特開2008-105381号公報)には、【請求項1】、段落【0006】、【0018】、【0020】、【0027】?【0028】、【図1】によれば、以下の発明が記載されている。 以下、甲第1号証を以下「甲1」といい、甲1に記載された発明を「甲1発明」という。 「熱可塑性樹脂からなる合成樹脂製基材層10の一方の面に、蒸着層11をバリア層として設け、蒸着層11の表出面に接着用プライマー層16を設けてなり、透湿度が2.0g/m^(2)・24hr以下である、防湿シート1。」 本件発明1と甲1発明を対比すると、甲1発明の「熱可塑性樹脂からなる合成樹脂製基材層10」は、本件発明1の「熱可塑性樹脂からなる合成樹脂基材」に相当し、以下同様に「バリア層」は「バリア層」に、「接着用プライマー層16」は「接着用プライマー層」に、「透湿度が2.0g/m^(2)・24hr以下」は「透湿度が2.0g/m^(2)・24hr以下」に、「防湿シート1」は「防湿シート」にそれぞれ相当する。 甲1発明における合成樹脂製基材層10の「一方の面」は、その態様からみて、本件発明1における合成樹脂基材「上」と一致する。 甲1発明の「蒸着層11」は、バリア層として機能するものであるから、「バリア層」の限りにおいて、本件発明の「アルミニウム酸化物とリン化合物とを含むコーティング液からなる塗膜の熱処理によりアルミニウム酸化物とリン化合物とが反応してなる反応生成物からなる層」と一致する。 よって、本件発明1と甲1発明は、以下の点で一致している。 <一致点> 「熱可塑性樹脂からなる合成樹脂基材上に、バリア層を設け、前記バリア層の表出面に接着用プライマー層を設けてなり、透湿度が2.0g/m^(2)・24hr以下である、防湿シート。」 そして、本件発明1と甲1発明は、以下の点で相違している。 <相違点B> バリア層について、本件発明1は、「厚みが0.05μm以上4.0μm以下」であり、「アルミニウム酸化物とリン化合物とを含むコーティング液からなる塗膜の熱処理によりアルミニウム酸化物とリン化合物とが反応してなる反応生成物からなる層のみ」で構成されるのに対して、甲1発明は、バリア層の厚さが不明であり、蒸着層11で構成される点。 上記<相違点B>について検討する。 甲1発明が解決すべき課題をみると、甲1の段落【0006】の、 「そこで本発明は、ドア、引き戸、間仕切り等において、両側の温湿度環境に大きな差がある場所で用いても、反りを防止して商品価値を落とすことがない防湿シートおよびこれを用いた化粧板を提供することであり、また、長期間使用された場合や、不可抗力的に外力が加わった場合などに剥離する虞がない防湿シートおよびこれを用いた化粧板を提供することである。」 との記載から、甲1発明は、防湿に加えて剥離防止も解決すべき課題としていることがわかる。 そして、段落【0053】の、 「表1からも明らかなように、本発明の防湿シートはシリカ蒸着層を設けたことにより、透湿度性能の向上が見られ、環境温湿度の変化により発生する化粧板の反りを従来品に比べて格段に少なくすることができるという効果を期待できる。また、平面引張強度においては、紙層を層構成に用いないために、化粧板用基材の層間剥離(材料破壊=材破)となり、紙間剥離に比べて剥離強度が向上する。」 との記載から、蒸着層によって防湿と剥離強度の向上を達成していることがわかる。 すなわち、甲1発明は、透湿度と剥離強度に優れた蒸着層をバリア層とすることによって課題を解決していることが理解できる。 よって、甲1発明は、蒸着層をバリア層とすることが必須の構成であり、このことは、甲1の特許請求の範囲(【請求項1】)に蒸着層が必須の構成として記載されていることと整合する。 そうすると、バリア層として「アルミニウム酸化物とリン化合物とが反応してなる反応生成物からなる層」が本件特許の出願前に周知のものであったとしても、甲1発明において、蒸着層11を「反応生成物からなる層」に置換することには、阻害事由が存するというべきである。 したがって、本件発明1は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるということができないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明とはいえない。 そして、本件発明2は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、更に限定するものであるから、本件発明2についても同様に、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明とはいえない。 第7.むすび 以上のとおり、本件発明1、2は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定に該当せず、その特許は、特許法第113条第2号に該当することを理由として取り消すことはできない。 そして、ほかに本件発明1、2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 熱可塑性樹脂からなる合成樹脂基材上に、厚みが0.05μm以上4.0μm以下の層であって、アルミニウム酸化物とリン化合物とを含むコーティング液からなる塗膜の熱処理によりアルミニウム酸化物とリン化合物とが反応してなる反応生成物からなる層のみをバリア層として設け、前記反応生成物からなる層の表出面に接着用プライマー層を設けてなり、透湿度が2.0g/m^(2)・24hr以下であることを特徴とする防湿シート。 【請求項2】 請求項1記載の防湿シートにおいて、合成樹脂基材の表出面に接着用プライマー層を設けてなることを特徴とする防湿シート。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2020-01-27 |
出願番号 | 特願2014-196323(P2014-196323) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(B32B)
|
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 堀 洋樹、弘實 由美子 |
特許庁審判長 |
高山 芳之 |
特許庁審判官 |
横溝 顕範 久保 克彦 |
登録日 | 2018-11-09 |
登録番号 | 特許第6428097号(P6428097) |
権利者 | 凸版印刷株式会社 |
発明の名称 | 化粧板用裏面防湿シート |
代理人 | 廣瀬 一 |
代理人 | 宮坂 徹 |
代理人 | 宮坂 徹 |
代理人 | 廣瀬 一 |