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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01L
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
管理番号 1360481
異議申立番号 異議2019-700344  
総通号数 244 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-04-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-04-24 
確定日 2020-02-12 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6418398号発明「半導体素子搭載用基板及び半導体装置、並びにそれらの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6418398号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕、〔7-10〕、〔11-13〕について訂正することを認める。 特許第6418398号の請求項1ないし13に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6418398号の請求項1ないし13に係る特許についての出願は、平成27年9月1日に出願され、平成30年10月19日にその特許権の設定登録がされ、同年11月7日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、平成31年4月24日に特許異議申立人渡辺麻紀により特許異議の申立てがされ、そして、当審は、令和1年7月22日付けで取消理由を通知し、特許権者は、その指定期間内である同年9月20日に意見書の提出及び訂正の請求を行い、その訂正の請求に対して、特許異議申立人は、同年11月22日に意見書を提出した。

第2 訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下の(1)ないし(3)のとおりである。(下線は訂正箇所を示す。)
(1)請求項1ないし6からなる一群の請求項に係る訂正
ア.訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「Pdめっき層、Auめっき層、Niめっき層、ボンディング用貴金属めっき層の順に積層されためっき層部分を含む半導体素子搭載用基板」とあるのを、
「Pdめっき層、Auめっき層、Niめっき層、ボンディング用貴金属めっき層の順に積層されためっき層部分を含み、前記Niめっき層の厚さが、10μm以上70μm以下である半導体素子搭載用基板」に訂正する。
また、請求項1の記載を引用する請求項2ないし6も同様に訂正する。

イ.訂正事項2
特許請求の範囲の請求項5に
「前記導電性基板を該封止樹脂から引き剥がす際の前記導電性基板と前記リード部との間の密着力と略同一となるように設定された」とあるのを、
「前記導電性基板を該封止樹脂から引き剥がす際の前記導電性基板と前記リード部との間の密着力と同一となるように設定された」に訂正する。
また、請求項5の記載を引用する請求項6も同様に訂正する。

(2)請求項7ないし10からなる一群の請求項に係る訂正
ア.訂正事項3
特許請求の範囲の請求項7に
「Pdめっき層、Auめっき層、Niめっき層、ボンディング用貴金属めっき層の順に積層されためっき層部分を含む半導体装置」とあるのを、
「Pdめっき層、Auめっき層、Niめっき層、ボンディング用貴金属めっき層の順に積層されためっき層部分を含み、前記Niめっき層の厚さが、10μm以上70μm以下である半導体装置」に訂正する。
また、請求項7の記載を引用する請求項8ないし10も同様に訂正する。

(3)請求項11ないし13からなる一群の請求項に係る訂正
ア.訂正事項4
特許請求の範囲の請求項11に
「該Auめっき層上にNiめっき層を形成する工程と」とあるのを、
「該Auめっき層上にNiめっき層を10μm以上70μm以下の厚さで形成する工程と」に訂正する。
また、請求項11の記載を引用する請求項12及び13も同様に訂正する。

イ.訂正事項5
特許請求の範囲の請求項13に
「前記導電性基板を前記封止樹脂から引き剥がす工程における前記Pdめっき層と前記導電性基板との間の密着力と略同一となるように設定された」とあるのを、
「前記導電性基板を前記封止樹脂から引き剥がす工程における前記Pdめっき層と前記導電性基板との間の密着力と同一となるように設定された」に訂正する。

2.訂正の適否についての判断
(1)請求項1ないし6からなる一群の請求項に係る訂正について
ア.一群の請求項について
訂正前の請求項1ないし6において、請求項2ないし6は、訂正する請求項1を引用しているものであるから、請求項1ないし6は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

イ.訂正事項1について
(ア)訂正の目的について
訂正事項1は、訂正前の請求項1の発明特定事項である「Niめっき層」について、その「厚さが、10μm以上70μm以下である」ことを特定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて
Niめっき層の厚さが10μm以上70μm以下であることは、明細書の段落【0048】に記載されている。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
(ウ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正であるか否かについて
上記(ア)に示したとおり、訂正事項1は特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

ウ.訂正事項2について
(ア)訂正の目的について
訂正事項2は、訂正前の請求項5に記載されていた「略同一」という不明瞭な記載を正すためのものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
(イ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて
密着力が同一であること、すなわち、密着力に変化(あるいは差)がないことは、明細書の段落【0040】及び【0085】に記載されている。
したがって、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
(ウ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正であるか否かについて
上記(ア)に示したとおり、訂正事項2は不明瞭な記載を正すだけのものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

(2)請求項7ないし10からなる一群の請求項に係る訂正について
ア.一群の請求項について
訂正前の請求項7ないし10において、請求項8ないし10は、訂正する請求項7を引用しているものであるから、請求項7ないし10は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

イ.訂正事項3について
(ア)訂正の目的について
訂正事項3は、訂正前の請求項7の発明特定事項である「Niめっき層」について、その「厚さが、10μm以上70μm以下である」ことを特定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて
Niめっき層の厚さが10μm以上70μm以下であることは、明細書の段落【0048】に記載されている。
したがって、訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
(ウ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正であるか否かについて
上記(ア)に示したとおり、訂正事項3は特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

(3)請求項11ないし13からなる一群の請求項に係る訂正について
ア.一群の請求項について
訂正前の請求項11ないし13において、請求項12及び13は、訂正する請求項11を引用しているものであるから、請求項11ないし13は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

イ.訂正事項4について
(ア)訂正の目的について
訂正事項4は、訂正前の請求項11の発明特定事項である「Niめっき層」について、「10μm以上70μm以下の厚さ」で形成することを特定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて
Niめっき層の厚さが10μm以上70μm以下であることは、明細書の段落【0048】に記載されている。
したがって、訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
(ウ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正であるか否かについて
上記(ア)に示したとおり、訂正事項4は特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

ウ.訂正事項5について
(ア)訂正の目的について
訂正事項5は、訂正前の請求項13に記載されていた「略同一」という不明瞭な記載を正すためのものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
(イ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて
密着力が同一であること、すなわち、密着力に変化(あるいは差)がないことは、明細書の段落【0040】及び【0085】に記載されている。
したがって、訂正事項5は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
(ウ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正であるか否かについて
上記(ア)に示したとおり、訂正事項5は不明瞭な記載を正すだけのものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

3.まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、並びに、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。なお、訂正前の全ての請求項に対して特許異議の申立てがなされているので、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
よって、訂正後の請求項〔1?6〕〔7?10〕〔11?13〕について訂正を認める。

第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし13に係る発明(以下「本件発明1ないし13」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
剥離除去可能な導電性基板と、
該導電性基板の表面上に設けられた半導体素子搭載領域と、
該半導体素子搭載領域の周囲に配置され、前記導電性基板の前記表面上にめっき層として形成されたリード部とを有し、
該リード部を形成する前記めっき層は、前記導電性基板の前記表面上に、Pdめっき層、Auめっき層、Niめっき層、ボンディング用貴金属めっき層の順に積層されためっき層部分を含み、
前記Niめっき層の厚さが、10μm以上70μm以下である半導体素子搭載用基板。
【請求項2】
前記ボンディング用貴金属めっき層は、Pd、Au、Agの単層めっき層又はPd、Au、Agのうち2種類以上からなる積層めっき層として構成された請求項1に記載の半導体素子搭載用基板。
【請求項3】
前記Pdめっき層の厚さが、0.01μm以上0.10μm以下である請求項1又は2に記載の半導体素子搭載用基板。
【請求項4】
前記Auめっき層の厚さが、0.01μm以上0.10μm以下である請求項1乃至3のいずれか一項に記載の半導体素子搭載用基板。
【請求項5】
前記導電性基板と前記リード部との間の密着力が、前記半導体素子搭載領域に半導体素子を搭載して該半導体素子の電極を前記リード部にワイヤボンディングにより接続した後、前記導電性基板の前記表面上を封止樹脂で樹脂封止し、前記導電性基板を該封止樹脂から引き剥がす際の前記導電性基板と前記リード部との間の密着力と同一となるように設定された請求項1乃至4のいずれか一項に記載の半導体素子搭載用基板。
【請求項6】
前記半導体素子搭載領域が、前記リード部を形成する前記めっき層と同一の積層構成を有するめっき層として形成された請求項1乃至5のいずれか一項に記載の半導体素子搭載用基板。
【請求項7】
半導体素子搭載部と、
該半導体素子搭載部の周囲に設けられためっき層からなるリード部と、
前記半導体素子搭載部に搭載され、所定の電極を有する半導体素子と、
該半導体素子の前記所定の電極と前記リード部とを電気的に接続するボンディングワイヤと、
前記半導体素子搭載部及び前記リード部の底面のみが露出するように、前記半導体素子搭載部及び前記リード部の前記底面以外の領域と、前記半導体素子と、前記ボンディングワイヤとを封止する封止樹脂と、を有し、
前記リード部を形成する前記めっき層は、前記底面から、Pdめっき層、Auめっき層、Niめっき層、ボンディング用貴金属めっき層の順に積層されためっき層部分を含み、
前記Niめっき層の厚さが、10μm以上70μm以下である半導体装置。
【請求項8】
前記ボンディング用貴金属めっき層は、Pd、Au、Agの単層めっき層又はPd、Au、Agのうち2種類以上からなる積層めっき層として構成された請求項7に記載の半導体装置。
【請求項9】
前記Pdめっき層の厚さが、0.01μm以上0.10μm以下である請求項7又は8に記載の半導体装置。
【請求項10】
前記Auめっき層の厚さが、0.01μm以上0.10μm以下である請求項7乃至9のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項11】
半導体素子搭載領域の周囲に、めっき層からなるリード部が設けられた半導体素子搭載用基板の製造方法であって、
導電性基板の表面上の前記リード部が形成される箇所に、Pdめっき層を形成する工程と、
該Pdめっき層上にAuめっき層を形成する工程と、
該Auめっき層上にNiめっき層を10μm以上70μm以下の厚さで形成する工程と、
該Niめっき層上にボンディング用貴金属めっき層を形成する工程と、を有する半導体素子搭載用基板の製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載された半導体素子搭載用基板の製造方法により製造された半導体素子搭載用基板の前記半導体素子搭載領域上に、半導体素子を搭載する工程と、
該半導体素子の電極と前記リード部とをボンディングワイヤを用いて電気的に接続する工程と、
前記半導体素子搭載領域及び前記リード部の底面が露出するように、前記半導体素子搭載領域及び前記リード部の前記底面以外の領域と、前記半導体素子と、前記ボンディングワイヤとを封止樹脂により封止する工程と、
前記導電性基板を前記封止樹脂から引き剥がす工程と、を有する半導体装置の製造方法。
【請求項13】
前記Pdめっき層を形成する工程で形成された前記Pdめっき層と前記導電性基板との間の密着力が、
前記導電性基板を前記封止樹脂から引き剥がす工程における前記Pdめっき層と前記導電性基板との間の密着力と同一となるように設定された請求項12に記載の半導体装置の製造方法。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1.取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし13に係る特許に対して、当審が令和1年7月22日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(1)請求項1ないし13に係る発明は、下記引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし13に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(2)請求項5、6、及び13に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

引用文献1:特開平11-8260号公報(特許異議申立人が提出した甲第1号証)
引用文献2:特開平9-223771号公報(特許異議申立人が提出した甲第2号証)

2.引用文献の記載
(1)引用文献1(特開平11-8260号公報)
引用文献1には、「樹脂封止型半導体装置の製造方法」について、図面とともに以下の記載がある。(なお、下線は当審で付与した。)
ア.「【特許請求の範囲】
【請求項1】 導電性基板と、導電性基板上にめっきにより形成された導電性金属により少なくとも二次元的に形成された回路部等を有する半導体装置用の回路部材で、且つ、少なくとも回路部の一部が、導電性基板の一面上に、直接または絶縁層を介してめっきにより形成されている回路部材を用い、該回路部材に半導体素子を搭載し、必要な電気接続を施し、樹脂封止した後に、前記導電性基板から分離させて半導体装置を作製する方式の、樹脂封止型半導体装置の製造方法であって、一つの半導体装置用の単位回路部を、面付けされた状態に、複数個、導電性基板の上に作製し、該導電性基板の各回路部毎に半導体素子を搭載し、必要な電気接続を行った後、順次、各半導体装置毎の樹脂封止とともに、半導体装置の封止用樹脂部と少なくとも一部において一体的に連結する封止用樹脂からなる連結部を設けて、隣接する半導体装置間を連結させ、処理する複数個の半導体装置全てを封止用樹脂にて連結させた状態に樹脂封止する樹脂封止工程と、処理する複数個の半導体装置全てを封止用樹脂にて連結させた状態で、導電性基板より剥離する剥離工程と、剥離後に、各半導体装置を互いに分離させるための、封止用樹脂からなる連結部を除去するトリミング工程とを有することを特徴とする樹脂封止型半導体装置の製造方法。」
イ.「【0010】
【発明の実施の形態】本発明の樹脂封止型半導体装置の製造方法を図に基づいて説明する。 図1は本発明の樹脂封止型半導体装置の製造方法の実施の形態の1例を示したものである。 図1中、110は回路部材、113は単位回路部、115は治具孔、117はダイパッド、118は端子部、120は封止用樹脂、125は連結部、125Aはトリミング部、130は連結状態の半導体装置群、140は半導体装置(1個)である。先ず、1つの半導体装置用の回路である単位回路部113を、複数個面付けした状態で、導電性基板110Aの表面処理を施した一面に形成した回路部材110を用意する。(図1(a))表面処理はブラスト処理で、導電性基板110Aの回路を形成する側の面を粗化するものである。回路部の形成は、めっきレジストを導電性基板の表面処理面側にパターンニング形成し、露出した面にめっきを施すものである。半導体素子1個に対応する単位回路部113は、例えば、図1(a1)に示すような形状のものである。回路部のめっき構成は、特に限定されないが、ワイヤボンディング性等から、例えば、導電性基板側から、順に、Pd、Ni、Pdをそれぞれ0.1μm、5μm、0.1μmの厚に形成するものが挙げられる。図1に示す回路部材は、導電性基板の一面に、回路部全体を直接めっき形成したものであるが、特にこれに限定はされない。」
ウ.「【0011】次いで、半導体素子をそれぞれの単位回路部113のダイパッド117に搭載した後、半導体素子の端子部と単位回路部113の端子部118とワイヤボンディング接続を行った後、各半導体装置毎の樹脂封止とともに、半導体装置の封止用樹脂部と少なくとも一部において一体的に連結する封止用樹脂からなる連結部125を設けて、隣接する半導体装置140間を連結させ、処理する複数個の半導体装置全てを封止用樹脂にて連結させた状態に樹脂封止する。(図1(b))次いで、処理する複数個の半導体装置140全てを封止用樹脂120にて連結させた状態(130)で、導電性基板110Aより剥離する。(図1(c))剥離後、封止用樹脂からなる連結部125を除去するトリミング工程を行い、各半導体装置140を互いに分離させる。(図1(d))」
エ.「



そして、上記ア及びイと上記エの図1(a)とによれば、導電性基板110Aの一面上に、1つの半導体装置用の回路である単位回路部113をめっきにより形成した回路部材110を用意する。
また、上記イと上記エの図1(a1)とによれば、前記単位回路部113は、ダイパッド117と、その周囲に配置された端子部118とからなる。
また、上記イによれば、前記単位回路部113のめっき構成は、前記導電性基板側から、順に、Pd、Ni、Pdをそれぞれ0.1μm、5μm、0.1μmの厚に形成するものである。
さらに、上記ア及びウと上記エの図1(b)ないし(d)とによれば、半導体素子を前記単位回路部113の前記ダイパッド117に搭載した後、半導体素子の端子部と前記単位回路部113の前記端子部118とのワイヤボンディング接続を行い、その後、封止用樹脂120にて樹脂封止し、次いで、前記導電性基板110Aより剥離して半導体装置140を作製する。

そこで、前記回路部材110に着目して、引用文献1に記載の上記事項を総合すると、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。
「 導電性基板110Aと、
前記導電性基板110Aの一面上に、めっきにより形成された単位回路部113とを有し、
前記単位回路部113は、半導体素子が搭載されるダイパッド117と、その周囲に配置された端子部118とからなり、
前記単位回路部113のめっき構成は、前記導電性基板110A側から、順に、Pd、Ni、Pdをそれぞれ0.1μm、5μm、0.1μmの厚に形成したものである、
回路部材110であって、
該回路部材110の前記ダイパッド117に半導体素子を搭載し、前記半導体素子の端子部と前記単位回路部113の前記端子部118とのワイヤボンディング接続を行った後、封止用樹脂120にて樹脂封止し、次いで、前記導電性基板110Aより剥離して半導体装置140が作製される、
回路部材110。」

また、前記半導体装置140に着目して、引用文献1に記載の上記事項を総合すると、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されている。

「 半導体素子が搭載されるダイパッド117と、その周囲に配置された端子部118とからなり、導電性基板110Aの一面上に、めっきにより形成された単位回路部113と、
前記ダイパッド117に搭載された前記半導体素子とを有し、
前記半導体素子の端子部と前記単位回路部113の前記端子部118はワイヤボンディング接続され、その後、封止用樹脂120にて樹脂封止され、次いで、前記導電性基板110Aより剥離され、
前記単位回路部113のめっき構成は、前記導電性基板110A側から、順に、Pd、Ni、Pdをそれぞれ0.1μm、5μm、0.1μmの厚に形成したものである、
半導体装置140。」

また、前記回路部材110を製造する方法に着目して、引用文献1に記載の上記事項を総合すると、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明3-1」という。)が記載されている。

「 導電性基板110Aと、
前記導電性基板110Aの一面上に、めっきにより形成された単位回路部113とを有し、
前記単位回路部113は、半導体素子が搭載されるダイパッド117と、その周囲に配置された端子部118とからなる、
回路部材110の製造方法であって、
前記単位回路部113をめっきにより形成する際に、前記導電性基板110A側から、順に、Pd、Ni、Pdをそれぞれ0.1μm、5μm、0.1μmの厚に形成する、
回路部材110の製造方法。」

さらに、上記引用発明3-1の製造方法により製造された回路部材110を用いて半導体装置140を製造する方法に着目して、引用文献1に記載の上記事項を総合すると、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明3-2」という。)が記載されている。

「 引用発明3-1の製造方法により製造された回路部材110の単位回路部113のダイパッド117に半導体素子を搭載し、
前記半導体素子の端子部と前記回路部材110の前記単位回路部113の端子部118をワイヤボンディング接続し、
封止用樹脂120にて半導体装置を樹脂封止し、
前記回路部材110の導電性基板110Aより剥離する、
半導体装置140の製造方法。」

(2)引用文献2(特開平9-223771号公報)
引用文献2には、「電子部品用リード部材及びその製造方法」について、図面とともに以下の記載がある。(なお、下線は当審で付与した。)

ア.「【特許請求の範囲】
【請求項1】 導電性基体上に、Ni、Co、或いはこれらの合金を主成分とする下地層と、前記下地層の上にAu、Ag、Pt、Ru、Rh、In、Sn、Sb、Bi、Pb、Zn、Cd、又はこれらの合金を主成分とする中間層と、前記中間層の上に 0.001?0.5 μm厚さのPd又はPd合金層を主成分とする表面層とを有することを特徴とする電子部品用リード部材。
(中略)
【請求項5】 電子部品用リード部材がリードフレームであることを特徴とする請求項1記載の電子部品用リード部材。
【請求項6】 リードフレームのボンディングエリアと半田付部にNi、Co、又はこれらの合金を主成分とする下地層と、前記下地層の上にAg、Au、又はこれらの合金を主成分とする中間層と、前記中間層の上にPd、又はPd合金を主成分とする表面層とを有することを特徴とする請求項5記載の電子部品用リード部材。
(中略)
【請求項8】 導電性基体上に、直接、又は導電性基体上にNi、Co、或いはこれらの合金を下地層としてめっきしたのち、Au、Ag、Pt、Ru、Rh、In、Sn、Sb、Bi、Pb、Zn、Cd、又はこれらの合金の少なくとも1種を中間層としてめっきし、その上にPd又はPd合金を 0.001?0.5 μmの厚さに層状にめっきすることを特徴とする電子部品用リード部材の製造方法。
(以下省略)」
イ.「【0007】又リード部材がリードフレームの場合は、前記のPdをめっきしたリードフレームでも、Pd層の厚さが 0.1μm以下では緻密性に劣り下地のリードフレームが酸化すること、Pd自身も 300℃以上の加熱で酸化し始めること、表面が活性となり有機物が吸着し易いこと等の為、組立工程後の半田付性が低下することが判った。これを改善する為に、Pd層の上にAuをオングストロームオーダーの厚さでフラッシュめっきする方法が提案された。これにより、組立工程後の半田付性はある程度改善されたが、Auは柔らかい為、リードフレーム同士が擦れたり、めっき設備のロールやワイパー等と接触すると、下地層が局部的に露出して半田付性が低下すること、更に金が表面に露出しているとガルバニック腐食が加速して耐食性が劣化することが判明した。又この方法は、めっき厚さの制御や液の管理が困難であった。本発明の目的は、劣悪な環境下においても腐食せず良好な半田付性が得られる電子部品用リード部材、中でも、組立工程後の半田付けが半田めっきなしで良好に行える半導体チップ実装用Pdめっきリードフレーム、及びその製造方法を提供することにある。」
ウ.「【0009】この発明のリード部材は、表面層に、電気接続性、耐酸化性、耐熱性に優れたPd又はPd合金層を薄くめっきし、この薄いPd又はPd合金層に存在するピンホールによる耐食性の低下を中間層により防止したものである。」
エ.「【0020】リード部材がリードフレームの場合は、Pd又はPd合金を主成分とする表面層は、半田付性、ボンディング性、耐食性、耐マイグレーション性等の諸特性を改善する。その厚さが0.01μm未満では前記諸特性が十分に改善されず、0.5μmを超えると中間層からAuやAgが十分な量拡散されなくなり、表面層の酸化や活性化の抑制が不十分となり、半田付性が低下する。従って、表面層の厚さは0.01μm以上、 0.5μm以下が望ましい。
【0021】この発明において、中間層は、ピンホールが存在するような薄いPd又はPd合金層の耐食性の低下を防止する。中間層の厚さは 0.001μm未満ではその効果が十分に得られず、2.0μmを超えてはその効果が飽和し不経済である。従って中間層は 0.001? 2.0μmの厚さに限定する。特に望ましい厚さは、Au、Pt、Ru、Rh、In等の高価な金属では 0.003?0.05μm、その他のAg、Sn、Sb、Bi、Pb、Zn、Cdでは0.01?1.0 μmがそれぞれ適当である。中間層は、Ag、Sn、Sb、Bi、Pb、Zn、Cd等を1層だけ形成しても、これらを多層に形成しても良い。
【0022】リード部材がリードフレームの場合は、中間層は、1(当審注:原文は丸囲み数字)組立工程時の半田付性の劣化を防止する、2(当審注:原文は丸囲み数字)下地層と表面層(Pd層等)との密着性を向上させる、3(当審注:原文は丸囲み数字)Pd層を緻密化して下地層の劣化を防止する、4(当審注:原文は丸囲み数字)組立工程時の熱によりAg又はAuがPd層中に拡散して表面層の酸化を抑制すると共に表面層の活性度を低下させて有機物の吸着を抑制する、等の効果を発現する。これらの効果を得るには、Ag、Au、又はこれらの合金を主成分とする中間層が望ましく、その厚さは0.01μm以上が望ましい。Ag又はAuの合金としては、Au-Ag系、Ag-Pd系、Ag-In系、Ag-Bi系、Ag-Ni系、Au-Pd系、Au-Ni系、Au-Co系等の合金が挙げられる。この発明において、Pd層/Ag層/Pd層/Ag層/Pd層のように、中間層と表面層を交互に複数積層させても良い。又表面層(Pd層等)や中間層(Ag層等)は必要箇所にのみ局部的に形成すると経済的である。
【0023】この発明において、導電性基体上に、Ni、Co、或いはこれらの合金を主成分とする下地層を形成しておくと、導電性基体の成分が拡散して中間層やPd層を汚染するのが防止される。従って比較的高価なPd又はPd合金層の厚さを薄くすることができる。又基体の腐食も防止される。Ni、Co、或いはこれらの合金はそれ自体が耐熱性及び耐食性に優れるのでリード部材の特性を低下させるようなことがない。
【0024】リード部材がリードフレームの場合は、前記下地層の厚さが 0.1μm未満ではその効果が十分に得られず、2.0μmより厚くなるとアウターリードの曲げ加工時にクラックが発生することがある。従って下地層の厚さは 0.1?2.0 μmが望ましい。又リードフレーム本体上に、厚さ0.02?0.2 μm程度のCu又はNiをストライクめっきしておくと、リードフレーム本体への下地層の密着性が向上し、又ピンホール等の欠陥が減少する。更に下地層又は中間層の上にPdをストライクめっきしておくと下地層と中間層、或いは中間層と表面層との密着性が一層向上し、又ピンホールも減少する。リードフレーム本体には42アロイやCu合金等が適用できる。この発明のリードフレームは、リードフレーム本体上に下地層(Ni等)、中間層(Au等)、表面層(Pd等)を順次形成することにより容易に製造できる。下地層、中間層、表面層の形成箇所は、リードフレーム本体全体でも良いが、金線等をボンディングするボンディングエリアやアウターリード部等の半田付部にだけ形成しても、全体に形成した場合と同様の効果が得られる。」
オ.「【0030】
【表1】



上記アないしオの記載を総合すると、引用文献2には、
「導電性基体上に、Niを主成分とする厚さ0.1?2.0μmの下地層と、前記下地層の上にAuを主成分とする厚さ0.001? 2.0μmの中間層と、前記中間層の上に厚さ0.001?0.5μmのPdを主成分とする表面層とを有するPdめっきリードフレーム。」
という技術事項が記載されている。

3.当審の判断
(1)特許法第29条第2項について
ア.請求項1(本件発明1)について
本件発明1と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明1の「導電性基板110A」は、樹脂封止後に剥離されるものであるから、本件発明1の「剥離除去可能な導電性基板」に相当する。
(イ)引用発明1の単位回路部113の「ダイパッド117」は、導電性基板110Aの一面上に設けられ、かつ、半導体素子が搭載されるものであるから、本件発明1の「該導電性基板の表面上に設けられた半導体素子搭載領域」に相当する。
(ウ)引用発明1の単位回路部113の「端子部118」は、ダイパッド117の周囲に配置され、導電性基板110Aの一面上にめっきにより形成されるものであるから、本件発明1の「該半導体素子搭載領域の周囲に配置され、前記導電性基板の前記表面上にめっき層として形成されたリード部」に相当する。
(エ)引用発明1の端子部118のめっき構成は、前記導電性基板110A側から、順に、Pd、Ni、Pdをそれぞれ0.1μm、5μm、0.1μmの厚に形成したものであるから、導電性基板110Aの表面上に「Pdめっき層」、「Niめっき層」、「Pdめっき層」の順に積層されたものであるということができ、さらに、上記2つの「Pdめっき層」のうち、最後に積層された「Pdめっき層」にはワイヤボンディング接続がなされるから、当該「Pdめっき層」は、本件発明1の「ボンディング用貴金属めっき層」に相当する。したがって、引用発明1の端子部118は、「導電性基板の表面上に、Pdめっき層、Niめっき層、ボンディング用貴金属めっき層の順に積層されためっき層部分を含む」ものであるといえる。
ただし、引用発明の端子部118は、前記Pdめっき層(最初に積層されたPdめっき層)と前記Niめっき層との間に「Auめっき層」が形成されていない点で本件発明1のリード部とは相違する。
さらに、Niめっき層の厚さが、引用発明1においては「5μm」であるのに対して、本件発明1においては「10μm以上70μm以下である」点でも相違する。

以上を総合すると、本件発明1と引用発明1は、次の点で相違し、その余の点で一致する。
<相違点1>
リード部を形成するめっき層について、本件発明1は、Pdめっき層とNiめっき層との間に「Auめっき層」が積層されているのに対して、引用発明1においては、Pdめっき層とNiめっき層との間に「Auめっき層」が積層されていない点。

<相違点2>
Niめっき層の厚さが、本件発明1においては「10μm以上70μm以下である」のに対して、引用発明1においては「5μm」である点。

事案に鑑み、まず上記相違点2について検討する。
引用発明1の回路部材110は、「該回路部材110の前記ダイパッド117に半導体素子を搭載し、前記半導体素子の端子部と前記単位回路部113の前記端子部118とのワイヤボンディング接続を行った後、封止用樹脂120にて樹脂封止し、次いで、前記導電性基板110Aより剥離して半導体装置140が作製される」のように、半導体装置140が作製される際に導電性基板110Aより剥離されるものであるが、引用文献1には、端子部118と封止用樹脂120の密着性については何ら言及がなく、また、上記剥離の際に端子部118と封止用樹脂120の密着不足による端子部118の脱落や剥がれという問題について記載も示唆もされていない。
また、引用文献1に「近年、半導体装置は、電子機器の高性能化と軽薄短小化の傾向(時流)からLSIのASICに代表されるように、ますます高集積化、高機能化が図られており、これに伴い、半導体装置には、ますます多端子(ピン)化が求められるようになってきた。」(【0002】参照。下線は当審で付与した。)とあるように、装置を厚くすることは時流に反することである。
そうすると、引用発明1において、端子部118を構成するNiめっき層の厚さを2倍以上も厚くする動機付けは、引用文献1には記載も示唆もされておらず、周知のものであるとも認められない。
一方、引用文献2には上記2(2)で説示した技術事項が記載されているが、引用文献2に記載のPdめっきリードフレームは、そもそも導電性基体を剥離するものではないから、「樹脂封止後、基板を引きはがし除去する時、リード部と封止樹脂の密着不足によるリード部の脱落や剥がれ等を防止することができる半導体素子搭載用基板及び半導体装置、並びにそれらの製造方法を提供することを目的とする。」(本願明細書の【0012】参照。)という本件発明1の課題を有していない。さらに、引用文献2に記載のNiを主成分とする層は、導電性基体上に表面層を設けるための「下地層」であって、その厚さも「0.1?2.0 μm」にすぎず、「10μm以上70μm以下」の厚さを有するNiめっき層については記載も示唆もされていない。
以上のとおりであるから、引用文献2に記載の技術事項を参酌しても、引用発明1におけるNiめっき層の厚さを、「10μm以上70μm以下」とすることは、当業者が容易になし得ることであるということはできない。

この点に関して、特許異議申立人は、令和1年11月22日提出の意見書において、Niめっき層の厚み寸法を10μm以上70μm以下とすることは、本件特許明細書の先行技術文献の欄に特許文献1として挙げられた特開2009-55055号公報及び特許文献2として挙げられた特開2007-103450号公報に記載されているから、上記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項は当業者が容易に発明することができたものである旨を主張する。
しかしながら、上記特許文献1には、ニッケルからなるリード層12の厚みを「60?80μm」とすること(【0019】参照。)が記載されてはいるが、その形状は樹脂層の中で張り出すような特殊な形状であり、また、上記特許文献2には、メッキ層中のニッケルメッキの厚みを「18μm」とすること(【0023】参照。)が記載はされているが、その形状は逆台形という特殊な形状である。さらに、上記特許文献1及び特許文献2に記載のものは、いずれも導電性基板に接する層として金メッキを用いているから、積層構造も引用発明1とは異なる積層構造のものである。
したがって、特殊な形状とすることを前提とし、かつ、積層構造も引用発明とは異なる特許文献1及び特許文献2から、Niめっき層の厚みのみを取り出して引用発明1に適用する合理的な根拠を見出すことはできないから、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。
さらに、特許異議申立人は、同意見書において、実験的に数値限定範囲を最適化又は好適化することは、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎないから、Niめっき層の厚み寸法の下限値と上限値とを特定することでは取消理由は解消しない旨も主張する。
しかしながら、引用発明1は前提となるめっき層の積層構造が本件発明1とは異なるものであって(上記相違点1参照。)、かつ、最適化又は好適化すべき課題(剥離の際の端子部118の脱落や剥がれという問題)について上述のとおり引用文献1には記載も示唆もされていないから、引用発明1について単に実験を繰り返したとしても、「10μm以上70μm以下」というNiめっき層の厚さを導き出すことはできない。
したがって、引用発明1において、Niめっき層の厚さを「5μm」とすることに代えて、本願発明1と同様の「10μm以上70μm以下である」とすることが、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎないということはできないから、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。

以上のとおりであるから、上記相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明1及び引用文献2に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ.請求項2ないし6(本件発明2ないし6)について
上記請求項1を引用する請求項2ないし6に係る発明である本件発明2ないし6も、本件発明1と同様の理由によって、引用発明1及び引用文献2に記載された技術事項とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ.請求項7ないし10(本件発明7ないし10)について
本件発明1と引用発明1との対比の際に説示した事項(上記アの(ア)ないし(エ))に加えて、
(オ)引用発明2の半導体素子の「端子部」は、本件発明7の半導体素子の「所定の電極」に相当する。
(カ)引用発明2において、「前記導電性基板110Aより剥離され」ると、ダイパッド117及び端子部118の導電性基板110A側の面(すなわち底面)が露出することは明かである。
という事項を踏まえて、本件発明7と引用発明2とを対比すると、本件発明7と引用発明2は、次の点で相違し、その余の点で一致する。
<相違点3>
リード部を形成するめっき層について、本件特許発明7は、Pdめっき層とNiめっき層との間に「Auめっき層」が積層されているのに対して、引用発明2においては、Pdめっき層とNiめっき層との間に「Auめっき層」が積層されていない点。

<相違点4>
Niめっき層の厚さが、本件発明7においては「10μm以上70μm以下である」のに対して、引用発明2においては「5μm」である点。

そこで、上記相違点4について検討すると、上記アで説示したとおり、引用文献2に記載の技術事項を参酌しても、引用発明2におけるNiめっき層の厚さを、「10μm以上70μm以下」とすることは、当業者が容易になし得ることであるということはできない。
したがって、上記相違点3について検討するまでもなく、本件発明7は、引用発明2及び引用文献2に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、上記請求項7を引用する請求項8ないし10に係る発明である本件発明8ないし10も、本件発明7と同様の理由によって、引用発明2及び引用文献2に記載された技術事項とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ.請求項11ないし13(本件発明11ないし13)について
本件発明1と引用発明1との対比の際に説示した事項(上記アの(ア)ないし(エ))を踏まえて、本件発明11と引用発明3-1とを対比すると、本件発明11と引用発明3-1は、次の点で相違し、その余の点で一致する。
<相違点5>
リード部を形成する際に、本件特許発明11は、「Pdめっき層を形成する工程」と「Niめっき層を形成する工程」との間に「Pdめっき層上にAuめっき層を形成する工程」を有しているのに対して、引用発明3-1においては、「Pdめっき層を形成する工程」と「Niめっき層を形成する工程」との間に「Pdめっき層上にAuめっき層を形成する工程」を有していない点。

<相違点6>
Niめっき層の厚さが、本件発明11においては「10μm以上70μm以下である」のに対して、引用発明3-1においては「5μm」である点。

また、本件発明1と引用発明1との対比の際に説示した事項(上記アの(ア)ないし(エ))、及び、本件発明7と引用発明2との対比の際に説示した事項(上記ウの(オ)及び(カ))を踏まえて、本件発明12と引用発明3-2とを対比すると、本件発明12と引用発明3-2は、次の点で相違し、その余の点で一致する。
<相違点7>
リード部を形成する際に、本件特許発明12は、「Pdめっき層を形成する工程」と「Niめっき層を形成する工程」との間に「Pdめっき層上にAuめっき層を形成する工程」を有しているのに対して、引用発明3-2においては、「Pdめっき層を形成する工程」と「Niめっき層を形成する工程」との間に「Pdめっき層上にAuめっき層を形成する工程」を有していない点。

<相違点8>
Niめっき層の厚さが、本件発明12においては「10μm以上70μm以下である」のに対して、引用発明3-2においては「5μm」である点。

そこで、上記相違点6及び8について検討すると、上記アで説示したとおり、引用文献2に記載の技術事項を参酌しても、引用発明3-1及び3-2におけるNiめっき層の厚さを、「10μm以上70μm以下」とすることは、当業者が容易になし得ることであるということはできない。
したがって、上記相違点5について検討するまでもなく、本件発明11は、引用発明3-1及び引用文献2に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、上記相違点7について検討するまでもなく、本件発明12は、引用発明3-2及び引用文献2に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
さらに、上記請求項12を引用する請求項13に係る発明である本件発明13も、本件発明12と同様の理由によって、引用発明3-2及び引用文献2に記載された技術事項とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

オ.まとめ
以上のとおりであるから、本件発明1ないし13は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
よって、請求項1ないし13に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

(2)特許法第36条第6項第2号について
訂正前の請求項5及び13の「略同一」という不明瞭な記載は、本件訂正によって「同一」という明確な記載に正された(上記第2の1(1)イの訂正事項2、及び1(3)イの訂正事項5を参照)。
)。
したがって、請求項5及びそれを引用する請求項6と、請求項13とに係る発明は明確でないということはできない。
よって、請求項5、6、及び13に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものではない。

第5 特許異議申立人の意見について
特許異議申立人は、令和1年11月22日提出の意見書において、上記第4の3(1)アで検討した主張に加えて、Niめっき層の厚さが「10μm以上70μm以下である」ことに関して次の以下の点も主張している。
(1)「本件特許発明のリード部を形成するめっき層は、Niめっき層のみからなるものではなく、それ以外にPdめっき層、Auめっき層、ボンディング用貴金属めっき層をも含むものであるから、Niめっき層の厚みの寸法の下限値と上限値を特定するだけで、めっき層の厚み寸法を一義的に規定することは不可能であり、当然に、Niめっき層の厚み寸法の下限値と上限値を特定するだけで、めっき層の全体寸法に由来する封止樹脂との密着性を適切に保つことができるという作用効果や、生産性の向上を図ることができるといったような作用効果を一義的に得ることも不可能である。」から、Niめっき層の厚さが「10μm以上70μm以下である」ことの技術的意義が不明である。
(2)「本件特許明細書には、Niめっき層の厚み寸法の下限値(10μm)や上限値(70μm)の臨界的意義を裏付ける実施例や比較例の記載は皆無である。」から、Niめっき層の厚さが「10μm以上70μm以下である」ことの裏付けがない。

そこで、まず上記(1)の主張について検討すると、本件特許明細書の【0048】の「Niめっき層33の厚さが10μm未満の場合、リード部30やダイパッド部20を形成した時の全体の厚さが薄くなってしまい、樹脂封止する封止樹脂80との密着性を保つことができない。」という記載からみて、めっき層の厚さが増すほど封止樹脂との密着性がよくなることは明かであるから、Niめっき層の厚みに対して、Pdめっき層、Auめっき層、ボンディング用貴金属めっき層の厚みが足されたとしても、封止樹脂との密着性が悪化することはないと解される。
また、Pdめっき層、Auめっき層、及びボンディング用貴金属めっき層の厚みは、その機能やコストを鑑みれば、Niめっき層の厚さ「10μm以上70μm以下」よりも大幅に薄いものである(例えば、Pdめっき層は本件発明3では「0.01μm以上0.10μm」であり、Auめっき層は本件特許発明4では「0.01μm以上0.10μm」である。)から、Pdめっき層、Auめっき層、ボンディング用貴金属めっき層の厚みを加えても、めっき層全体の厚さが、Niめっき層の厚さ「10μm以上70μm以下」よりも大幅に厚くなることはない、すなわち、生産性が大きく低下することはないと解される。
したがって、Pdめっき層、Auめっき層、ボンディング用貴金属めっき層の厚みが特定されていないからといって、Niめっき層の厚さが「10μm以上70μm以下である」ことの技術的意義が不明であるということはできない。

次に、上記(2)の主張について検討すると、本件特許明細書の【0048】には「Niめっき層33の厚さは、10μm以上70μm以下であることが好ましい。」と明記されており、かつ、同段落には「Niめっき層33の厚さが10μm未満の場合、リード部30やダイパッド部20を形成した時の全体の厚さが薄くなってしまい、樹脂封止する封止樹脂80との密着性を保つことができない。一方、Niめっき層33の厚さが70μmを超えると、機能的には支障はないが、めっき層を厚く形成する分、生産性が悪くなり、かつ、本実施形態に係る半導体装置100の特徴である薄型化が出来なくなる。」のように下限値及び上限値の技術的意義についても記載されている。
したがって、数値範囲の一部の実施例しかないからといって、あるいは、上限値及び下限値近辺の実施例及び比較例がないからといって、Niめっき層の厚さが「10μm以上70μm以下である」ことの裏付けがないということはできない。

以上のとおりであるから、特許異議申立人の上記各主張を採用することはできない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1ないし13に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
剥離除去可能な導電性基板と、
該導電性基板の表面上に設けられた半導体素子搭載領域と、
該半導体素子搭載領域の周囲に配置され、前記導電性基板の前記表面上にめっき層として形成されたリード部とを有し、
該リード部を形成する前記めっき層は、前記導電性基板の前記表面上に、Pdめっき層、Auめっき層、Niめっき層、ボンディング用貴金属めっき層の順に積層されためっき層部分を含み、
前記Niめっき層の厚さが、10μm以上70μm以下である半導体素子搭載用基板。
【請求項2】
前記ボンディング用貴金属めっき層は、Pd、Au、Agの単層めっき層又はPd、Au、Agのうち2種類以上からなる積層めっき層として構成された請求項1に記載の半導体素子搭載用基板。
【請求項3】
前記Pdめっき層の厚さが、0.01μm以上0.10μm以下である請求項1又は2に記載の半導体素子搭載用基板。
【請求項4】
前記Auめっき層の厚さが、0.01μm以上0.10μm以下である請求項1乃至3のいずれか一項に記載の半導体素子搭載用基板。
【請求項5】
前記導電性基板と前記リード部との間の密着力が、前記半導体素子搭載領域に半導体素子を搭載して該半導体素子の電極を前記リード部にワイヤボンディングにより接続した後、前記導電性基板の前記表面上を封止樹脂で樹脂封止し、前記導電性基板を該封止樹脂から引き剥がす際の前記導電性基板と前記リード部との間の密着力と同一となるように設定された請求項1乃至4のいずれか一項に記載の半導体素子搭載用基板。
【請求項6】
前記半導体素子搭載領域が、前記リード部を形成する前記めっき層と同一の積層構成を有するめっき層として形成された請求項1乃至5のいずれか一項に記載の半導体素子搭載用基板。
【請求項7】
半導体素子搭載部と、
該半導体素子搭載部の周囲に設けられためっき層からなるリード部と、
前記半導体素子搭載部に搭載され、所定の電極を有する半導体素子と、
該半導体素子の前記所定の電極と前記リード部とを電気的に接続するボンディングワイヤと、
前記半導体素子搭載部及び前記リード部の底面のみが露出するように、前記半導体素子搭載部及び前記リード部の前記底面以外の領域と、前記半導体素子と、前記ボンディングワイヤとを封止する封止樹脂と、を有し、
前記リード部を形成する前記めっき層は、前記底面から、Pdめっき層、Auめっき層、Niめっき層、ボンディング用貴金属めっき層の順に積層されためっき層部分を含み、
前記Niめっき層の厚さが、10μm以上70μm以下である半導体装置。
【請求項8】
前記ボンディング用貴金属めっき層は、Pd、Au、Agの単層めっき層又はPd、Au、Agのうち2種類以上からなる積層めっき層として構成された請求項7に記載の半導体装置。
【請求項9】
前記Pdめっき層の厚さが、0.01μm以上0.10μm以下である請求項7又は8に記載の半導体装置。
【請求項10】
前記Auめっき層の厚さが、0.01μm以上0.10μm以下である請求項7乃至9のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項11】
半導体素子搭載領域の周囲に、めっき層からなるリード部が設けられた半導体素子搭載用基板の製造方法であって、
導電性基板の表面上の前記リード部が形成される箇所に、Pdめっき層を形成する工程と、
該Pdめっき層上にAuめっき層を形成する工程と、
該Auめっき層上にNiめっき層を10μm以上70μm以下の厚さで形成する工程と、
該Niめっき層上にボンディング用貴金属めっき層を形成する工程と、を有する半導体素子搭載用基板の製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載された半導体素子搭載用基板の製造方法により製造された半導体素子搭載用基板の前記半導体素子搭載領域上に、半導体素子を搭載する工程と、
該半導体素子の電極と前記リード部とをボンディングワイヤを用いて電気的に接続する工程と、
前記半導体素子搭載領域及び前記リード部の底面が露出するように、前記半導体素子搭載領域及び前記リード部の前記底面以外の領域と、前記半導体素子と、前記ボンディングワイヤとを封止樹脂により封止する工程と、
前記導電性基板を前記封止樹脂から引き剥がす工程と、を有する半導体装置の製造方法。
【請求項13】
前記Pdめっき層を形成する工程で形成された前記Pdめっき層と前記導電性基板との間の密着力が、
前記導電性基板を前記封止樹脂から引き剥がす工程における前記Pdめっき層と前記導電性基板との間の密着力と同一となるように設定された請求項12に記載の半導体装置の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-01-29 
出願番号 特願2015-172321(P2015-172321)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (H01L)
P 1 651・ 537- YAA (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 木下 直哉平林 雅行  
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 須原 宏光
國分 直樹
登録日 2018-10-19 
登録番号 特許第6418398号(P6418398)
権利者 大口マテリアル株式会社
発明の名称 半導体素子搭載用基板及び半導体装置、並びにそれらの製造方法  
代理人 伊東 忠彦  
代理人 伊東 忠重  
代理人 伊東 忠彦  
代理人 伊東 忠重  

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