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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 G01M 審判 全部申し立て 2項進歩性 G01M |
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管理番号 | 1360499 |
異議申立番号 | 異議2019-700605 |
総通号数 | 244 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-04-24 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-07-30 |
確定日 | 2020-03-02 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6464484号発明「建物の応答推定方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6464484号の請求項1に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6464484号の請求項1に係る特許についての出願は、平成27年6月22日に出願され、平成31年1月18日にその特許権の設定登録がされ、平成31年2月6日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和1年7月30日に特許異議申立人岡林茂(以下「異議申立人」という。)により、特許異議の申立てがされ、同年9月17日付け当審の取消理由通知に対して同年11月22日付けで意見書が提出され、同年11月28日付けで異議申立人に対し審尋がされ、異議申立人より、令和2年1月30日付けで回答書(以下「回答書」という。)の提出がされたものである。 第2 本件特許発明 特許第6464484号の請求項1に係る特許(以下「本件特許発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 外力が作用した際の建物の応答を推定する方法であって、 建物の設計モデルと限られた階のセンサ情報から得られた地震波形を与条件とし、質点系モデルによる時刻歴応答解析を行って建物の最大変形時の等価剛性を算定し、 得られた等価剛性を基にして建物のモード系を再計算して更新し、 更新した建物のモード系で、モードの重ね合わせによる全層応答推定法を用いた解析を行って建物の全層の最大層間変形角を推定するようにしたことを特徴とする建物の応答推定方法。」 第3 取消理由の概要 当審において通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 (実施可能要件違反) 請求項1に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 記 発明の詳細な説明は、どのようにして「得られた等価剛性を基にして建物のモード系を再計算して更新し」ているか具体的な計算手法については何ら記載されていないから、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。 第4 当審の判断 1 取消理由通知に記載した取消理由(特許法第36条第4項第1号)について 当審は、取消理由通知にて「発明の詳細な説明は、どのようにして「得られた等価剛性を基にして建物のモード系を再計算して更新し」ているか具体的な計算手法については何ら記載されていないから、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。」と通知した。 これに対し、特許権者は、意見書において、以下の説明をしている。 「(1) 本件発明の内容を説明する前提として、従来技術についてまず説明する。 従来は、建物の設計モデルから質点系モデルを導出し、図2に示すように、モード系を計算していた。(なお、質点系モデルの一般的な説明については参考資料1(『建築の振動 応用編』)を参照されたい。参考資料1中、平面架構モデルが「設計モデル」に、せん断モデルが「質点系モデル」に相当する。) そして、段落【0009】に示すように、このモード系は、質点系モデルのうち弾性範囲での情報を用いて計算していた。 ここで、図1の左側の図に示された折れ線グラフを用いて、弾性範囲(線形範囲)と、非弾性範囲(非線形範囲)を図示すると、以下のとおりとなる。なお、縦軸Qは各層にかかる水平力、横軸Rは最大層間変形角を表している。 ・・・図省略・・・ したがって、従来技術では(もしくは、本件発明における初期設定では)、モード系を計算する際には、図1の左側の図において、下図の黒太線で示す部分の剛性をもとに計算していた。 ・・・図省略・・・ この場合、算出されるモード系は、図1の真ん中の図の破線のようになる。 (2) これに対し、本件発明では、請求項1に記載のように、モード系を計算する際に、建物の質点系モデルから、時刻歴応答解析を行うことで、建物の各階の最大変形時の等価剛性を算定する。 そして、最大変形時の等価剛性は、図1の左側の図に示された折れ線グラフのうち、破線で示されている部分である。 ・・・図省略・・・ したがって、本件発明においてモード系を再計算する際には、図1の左側の図において、下図の黒太線で示す部分の剛性をもとに計算することになる。 ・・・図省略・・・ この場合、算出されるモード系は、図1の真ん中の図の実線のようになる。」 ・・・図省略・・・ (3) 以上説明したようにして、本件発明では、等価剛性を基にして建物のモード系を再計算している。」 上記説明から、「得られた等価剛性」は、従来技術の弾性範囲(線形範囲)から求められるものではなく、非弾性範囲(非線形範囲)である最大変形時の水平力から得られた等価剛性であることが理解できる。 また、建物の設計モデルから質点系モデルを導出し、モード系を計算するにあたり、剛性値が用いられることが理解できる。 してみると、「得られた等価剛性を基にして建物のモード系を再計算して更新」することは、建物の設計モデルから質点系モデルを導出しモード系を計算するにあたり、用いていた剛性値を、非弾性範囲(非線形範囲)である最大変形時の水平力から得られた等価剛性に置き換えて、従来の建物の設計モデルから質点系モデルを導出しモード系を計算する手法と同様に計算して更新するものであることが理解できる。 特許権者による説明を踏まえて、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載を検討するに、 「【0020】 これに対し、本実施形態の建物の応答推定方法では、図3に示すように、建物の設計モデルと限られた階のセンサ情報から得られた地震波形を与条件とし、まず、設計モデルの時刻歴応答解析の結果から非線形応答解析(質点系モデルによる時刻歴応答解析)を行い、この解析によって最大変形時の等価剛性を算定する。 【0021】 次に、得られた等価剛性を基に対象建物のモード系の再計算を行って更新し、更新した対象建物のモード系で、モードの重ね合わせによる全層応答推定法を用いた解析を行い、全層での最大層間変形角を推定する。」との記載は、当業者が本件特許発明の実施をすることができる程度に明確かつ充分に記載したものでないとまではいえない。 したがって、本件特許発明は、特許法第36条第4項第1号の要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。 2 特許異議申人の回答書の主張について 特許異議申人は回答書にて、「(意見書に)建物のモード系を再計算して更新する具体的な計算手法についての説明は、一切無い」と主張している。 しかしながら、上記1のとおり、意見書の説明を踏まえれば、「得られた等価剛性を基にして建物のモード系を再計算して更新」することは、建物の設計モデルから質点系モデルを導出しモード系を計算するにあたり、用いていた剛性値を、非弾性範囲(非線形範囲)である最大変形時の水平力から得られた等価剛性に置き換えて、従来の建物の設計モデルから質点系モデルを導出しモード系を計算する手法と同様に計算して更新するものであることが理解できる。 よって、特許異議申人の回答書の上記主張は採用できない。 3 その他の特許異議申立理由について 異議申立人は、以下の甲第1号証及び甲第2号証を提出し、本件特許発明は、甲1発明及び甲2発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである(特許法第29条第2項違反)と主張している。そこで、以下判断をする。 甲第1号証:特開2004-69302号公報(以下「甲1」という。) 甲第2号証:特開2014-211397号公報(以下「甲2」という。) (1)異議申立人から提示された各甲号証の記載 ア 甲1 (ア)甲1の記載事項 「【0022】 等価線形解析法は、例えば、地盤の非線形性を評価する際には、計算に使用するせん断剛性Gおよび減衰定数hと、計算の結果として得られるせん断剛性Gおよび減衰定数hとが適合するまで繰り返し計算を行う手法である。 【0023】 図1(B)は、等価線形解析法の解析手順を示すフローチャート図であり、等価線形解析法で解析を行う際には、図2に示す、地盤の物性値の歪依存曲線が求められ、この種の物性値の歪依存曲線は、実際に地盤を調査して、各種諸元値の調査結果に基づいて作成され、同曲線においては、Gが地盤の剛性を、hが減衰定数をそれぞれ示している。 【0024】 等価線形解析を行う際には、まず、ステップ1で、初期物性値の定義が行われる。図2に示した歪依存曲線においては、初期値は、G_(0)およびh_(0)と定義される。続くステップ2では、剛性の評価が行われ、続くステップ3で、周波数応答計算が行われる。この周波数応答計算は、線形問題に適用される手法として、よく知られている複素応答解析法と同じ手順により実行される。 【0025】 そして、周波数応答計算の結果が得られると、次ぎのステップ4で、有効歪eγ(図2に示した例では、得られた歪波形の最大値の65%と定義している。)の計算が行われ、続くステップ5で、計算に用いた物性値(せん断剛性値,減衰定数値)と、ステップ4で計算された物性値(せん断剛性値,減衰定数値)とが適合するか否かが判断され、適合していれば、解析フローを終了する。 【0026】 一方、ステップ5で適合していないと判断された場合には、ステップ6に移行し、歪依存曲線により計算された歪に合う物性値を新たに定義して、ステップ2に戻る。 【0027】 ステップ4から6までをより具体的に説明すると、今ここで、ステップ4の計算によって得られた物性値G_(0),h_(0)に対する有効歪が、図2に示すように、eγ_(1)であったとすると、ステップ5では、初期歪値に対するG_(0),h_(0)とこの有効歪eγ_(1)に対するG_(1),h_(1)が適合しているか否かが判断される。 【0028】 この場合には、図2に示した歪依存曲線から見ると明らかなように、有効歪eγ_(1)に対するせん断剛性値は、G_(1)で、減衰定数値は、h_(1)であって、適合していない。 【0029】 そこで、ステップ6では、有効歪eγ_(1)に対する物性値G_(1),h_(1)を新たに定義して、ステップ2以降の手順を実行し、このような手順を複数回繰り返すことにより、収束させて解を得ることになる。繰り返し計算により物性値G,hが求められると、これらの値と質量とにより伝達関数が一義的に決定される。」 「【0046】 次に、入力地震動として、正弦波に替えて、以下の地震波を使用して、K建物の1質点系の解析を試みた。入力地震波は、代表的な観測地震波を6波選んで解析を行った。 【0047】 臨海92波、東扇島観測記録に基づいた基盤波2波、タフト波(NS方向)、エンセントロ波(NS方向)、八戸波(EW方向)を使用した。入力動は、必要に応じて速度レベルで数種類を想定した。」 「【0052】 図12および図13は、K建物の多質点系モデルに対して、上記1質点系モデルと同様な入力地震動を与えた際の、等価線形解析と弾塑性解析の解析結果を示している。」 (イ)甲1発明 上記(ア)の記載事項から、甲1には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。なお、参考のために、括弧内に引用元の段落番号等を付記している。 「(【0052】【0046】) K建物の多質点系モデルに対して、入力地震動を与えた際の、等価線形解析を行う方法であって、 (【0024】) 等価線形解析は、以下のステップで行われるものであり、 ステップ1で、初期物性値の定義が行われ、初期値は、せん断剛性値G_(0)および減衰定数値h_(0)と定義され、 続くステップ2では、剛性の評価が行われ、続くステップ3で、周波数応答計算が行われ、 (【0025】) そして、周波数応答計算の結果が得られると、次ぎのステップ4で、有効歪eγ(例では、得られた歪波形の最大値の65%と定義している。)の計算が行われ、 続くステップ5で、計算に用いた物性値(せん断剛性値,減衰定数値)と、ステップ4で計算された物性値(せん断剛性値,減衰定数値)とが適合するか否かが判断され、適合していれば、解析フローを終了し、 (【0026】【0029】) 一方、ステップ5で適合していないと判断された場合には、ステップ6に移行し、歪依存曲線により計算された歪に合う物性値(有効歪eγ_(1)に対する物性値G_(1),h_(1))を新たに定義して、ステップ2に戻る、 方法。」 イ 甲2 (ア)甲2の記載事項 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 複数階層構造の建物の地震時応答/健全性を確認するための方法であって、 建物の最下階と最上階を観測層としてセンサを設置するとともに、地震時の各センサの出力から建物の各階及び全体の応答を推定する地震記録応答推定装置を備え、 建物の最下階と最上階に設置した前記センサの計測結果である加速度波形を記録し、前記地震記録応答推定装置によって建物の最下階と最上階の加速度波形の差分を求めるとともに建物の相対加速度である最上階の基本応答波を求める建物基本応答波算出工程と、 前記地震記録応答推定装置に予め設定された建物設計パラメータとしての建物固有の振動数及び振動モード形の係数に基づいて、前記基本応答波を建物の複数次の固有振動数毎の応答波形に分離するバンドパスフィルター処理工程と、 前記バンドパスフィルター処理工程で得られた各階の波形に対して、各階の対応する次数のモード係数を掛け合せてバンドパス波形を求め、各階毎での前記バンドパス波形を足し合わせて合成応答波形を求める合成応答波形算出工程と、 各階における相対加速度を示す前記合成応答波形に最下階のセンサの計測結果である加速度波形を足し合わせて絶対加速度波形を求める絶対加速度波形算出工程と、 前記絶対加速度波形を数値積分し、地震時の速度、変位の波形に変換する地震時速度/変位算出工程とを備えていることを特徴とする建物の地震時応答/健全性確認方法。」 「【0017】 また、この基本応答波は、図3に示す構造体の固有な振動特性を反映したものであり、図4に示すような複数の振動モード形(1次からN次モード係数)を通した波形となっている。なお、このN次までの建物固有の振動数及び振動モード形の係数は、建物設計の初期パラメータとして地震記録応答推定装置に予め設定しておく。 【0018】 そして、本実施形態の建物の地震時応答/健全性確認方法では、この複数の振動モード系を通した波形に対し、建物のN次までの固有振動数毎の応答波形に分離するバンドパスフィルター処理を行う(バンドパスフィルター処理工程)。さらに、図5に示すように、バンドパスフィルター処理を行った波形に対して、各階の対応する次数のモード係数を掛け合せて波形(バンドパス波形)を求め、各階毎に求めた波形を足し合せ、各階毎の応答波形として合成する(合成応答波形算出工程)。 【0019】 これら合成波形は各階での相対加速度として求められ、図6に示すように、建物の最下階の加速度波形を足し合わせることで、絶対加速度波形となる(絶対加速度波形算出工程)。さらに、これらの絶対加速度波形は、数値積分を行うことで速度、変位の波形に変換できる(地震時速度/変位算出工程)。 【0020】 さらに、得られた加速度、速度の関係から、揺れの強さを示す計測震度を求めることができる(計測震度算出工程)。そして、変位波形からは、上階と下階の波形差分を取ることで層間変形が求められ、建物の直接の損傷指標となる情報を得ることができる(建物健全性確認工程)。」 (イ)甲2に記載された発明 上記(ア)の記載事項から、甲2には、以下の発明(以下「甲2発明」といいう。)が記載されていると認められる。なお、参考のために、括弧内に引用元の段落番号等を付記している。 「(請求項1)複数階層構造の建物の地震時応答/健全性を確認するための方法であって、 建物の最下階と最上階を観測層としてセンサを設置するとともに、地震時の各センサの出力から建物の各階及び全体の応答を推定する地震記録応答推定装置を備え、 建物の最下階と最上階に設置した前記センサの計測結果である加速度波形を記録し、前記地震記録応答推定装置によって建物の最下階と最上階の加速度波形の差分を求めるとともに建物の相対加速度である最上階の基本応答波を求める建物基本応答波算出工程と、 前記地震記録応答推定装置に予め設定された建物設計パラメータとしての建物固有の振動数及び振動モード形の係数に基づいて、前記基本応答波を建物の複数次の固有振動数毎の応答波形に分離するバンドパスフィルター処理工程と、 前記バンドパスフィルター処理工程で得られた各階の波形に対して、各階の対応する次数のモード係数を掛け合せてバンドパス波形を求め、各階毎での前記バンドパス波形を足し合わせて合成応答波形を求める合成応答波形算出工程と、 各階における相対加速度を示す前記合成応答波形に最下階のセンサの計測結果である加速度波形を足し合わせて絶対加速度波形を求める絶対加速度波形算出工程と、 前記絶対加速度波形を数値積分し、地震時の速度、変位の波形に変換する地震時速度/変位算出工程と、 得られた加速度、速度の関係から、揺れの強さを示す計測震度を求め(計測震度算出工程)、 (【0020】)変位波形からは、上階と下階の波形差分を取ることで層間変形が求められ、建物の直接の損傷指標となる情報を得る工程と を備えている建物の地震時応答/健全性確認方法。」 (2)対比 ア 甲1発明の「K建物」、「入力地震動」、「等価線形解析」は、本件特許発明の「建物」、「外力」の「作用」、「応答を推定」にそれぞれ相当するから、甲1発明の方法は、本件特許発明の「外力が作用した際の建物の応答を推定する方法」に相当する。 イ 甲1発明の「K建物の多質点系モデル」は、本件特許発明の「建物の設計モデル」に相当する。そして、甲1発明において、等価線形解析は、初期物性値であるせん断剛性値G_(0)および減衰定数値h_(0)と定義され、入力地震動を与えられることで等価線形解析が行われるから、甲1発明は、本件特許発明の「建物の設計モデルと限られた階のセンサ情報から得られた地震波形を与条件とし」ていることと、「建物の設計モデルとセンサ情報から得られた地震波形を与条件とし」ているといえる。 ウ 甲1発明において、ステップ2で剛性の評価が行われ、ステップ3で周波数応答計算が行われ、ステップ4で有効歪eγの計算が行われ、ステップ5で、計算に用いた物性値(せん断剛性値,減衰定数値)と、ステップ4で計算された物性値(せん断剛性値,減衰定数値)とが適合するか否かが判断され、適合していないと判断された場合には、ステップ6に移行し、歪依存曲線により計算された歪に合う物性値を新たに定義している。 ここで、解析に用いられているのは、「周波数応答計算」であり、本件特許発明の「時刻歴応答解析」ではない。また、計算された物性値のうちせん断剛性値は、本件特許発明の「剛性」に相当するものの、歪に合う物性値であるせん断剛性値は、有効歪eγ_(1)(例では、得られた歪波形の最大値の65%と定義している。)に対する物性値G_(1)であるから、最大変形時の等価剛性とまではいえない。 よって、甲1発明は、本件特許発明の「質点系モデルによる時刻歴応答解析を行って建物の最大変形時の等価剛性を算定」している構成のうち、「質点系モデルによる解析を行って建物の変形時の剛性を算定」している構成を有しているといえる。 エ 甲1発明の「ステップ6に移行し、歪依存曲線により計算された歪に合う物性値(有効歪eγ_(1)に対する物性値G_(1),h_(1))を新たに定義して、ステップ2に戻る」、「ステップ2では、剛性の評価が行われ、続くステップ3で、周波数応答計算が行われる。」との構成と、本件特許発明の「得られた等価剛性を基にして建物のモード系を再計算して更新し」ていることとは、共に「得られた剛性を基にして再計算して更新し」ている点で共通している。 オ 以上のことから、本件特許発明と甲1発明とは、 「外力が作用した際の建物の応答を推定する方法であって、 建物の設計モデルとセンサ情報から得られた地震波形を与条件とし、質点系モデルによる解析を行って建物の変形時の剛性を算定し、 得られた剛性を基にして再計算して更新し、 建物の応答推定方法。」の点で一致し、以下の相違点がある。 カ 相違点1 条件として与えられる「地震波形」について、本件特許発明は、「限られた階の」センサ情報から得られた地震波形であるのに対し、甲1発明は、「入力地震動」が限られた階で得られたものか不明である点。 キ 相違点2 本件特許発明は、質点系モデルによる「時刻歴応答」解析を行って建物の「最大」変形時の「等価」剛性を算定し、得られた「等価」剛性を基にして「建物のモード系」を再計算して更新しているのに対し、甲1発明は、周波数応答計算を行って、得られた歪波形の最大値の65%である有効歪eγ_(1)に対する物性値G_(1)(せん断剛性値)を算定し、計算されたせん断剛性値が適合するか否かが判断され、適合していないと判断された場合には、歪依存曲線により計算された歪に合う物性値(有効歪eγ_(1)に対する物性値G_(1),h_(1))を新たに定義して、剛性の評価が行われ、周波数応答計算が行われる点。 ク 相違点3 本件特許発明は、「モードの重ね合わせによる全層応答推定法を用いた解析を行って建物の全層の最大層間変形角を推定するようにした」のに対し、甲1発明は、建物の全層の最大層間変形角を推定することはしていない点。 (3)判断 ア 事案に鑑み、相違点2について検討する。 相違点2について、要素毎に対比すると、 (ア)剛性を算定するための手法が、本件特許発明は「時刻歴応答」解析であるのに対し、甲1発明は、周波数応答計算であり、 (イ)算定された剛性が、本件特許発明は建物の「最大」変形時の「等価」剛性であるのに対し、甲1発明は得られた歪波形の最大値の65%である有効歪eγ_(1)に対する物性値G_(1)(せん断剛性値)であり、 (ウ)得られた剛性を基にして再計算して更新する対象が、本件特許発明は「建物のモード系」であるのに対し、甲1発明は「建物のモード系」とは特定されていない点となる。 ここで、時刻歴応答解析が周知の解析手法であるとし、甲1発明の周波数応答計算に代えて採用するとしても、算定する剛性は、歪波形の最大値の65%である有効歪eγ_(1)に対する物性値G_(1)(せん断剛性値)であり、「最大」変形時の「等価」剛性が導かれることにはならない。 また、甲2発明は、予め設定された建物設計パラメータとしての建物固有の振動数及び振動モード形の係数に基づいて計算が行われるものであり、予め設定された建物設計パラメータとは別に剛性パラメータを求める構成を有するものではなく、まして、「時刻歴応答」解析を行って建物の「最大」変形時の「等価」剛性を算定し、得られた「等価」剛性を基にして「建物のモード系」を再計算して更新するという本件特許発明の構成を有するものではないから、甲1発明に甲2発明を組合わせたとしても、相違点2に係る本件特許発明の構成を得ることにはならない。 さらに、相違点2に係る本件特許発明の構成が周知技術であるとする証拠もない。 してみると、相違点2に係る本件特許発明の構成について、甲1発明及び甲2発明に基づいて当業者が容易に想到することができたものとはいえない。 イ 小括 したがって、相違点1及び相違点3について検討するまでものなく、本件特許発明は、甲1発明及び甲2発明に基づいて当業者が容易に想到することができたものとはいえない。 第5 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、請求項1に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2020-02-19 |
出願番号 | 特願2015-124581(P2015-124581) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(G01M)
P 1 651・ 536- Y (G01M) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 山口 剛 |
特許庁審判長 |
三崎 仁 |
特許庁審判官 |
森 竜介 ▲高▼見 重雄 |
登録日 | 2019-01-18 |
登録番号 | 特許第6464484号(P6464484) |
権利者 | 清水建設株式会社 |
発明の名称 | 建物の応答推定方法 |
代理人 | 佐伯 義文 |
代理人 | 西澤 和純 |
代理人 | 川渕 健一 |
代理人 | 志賀 正武 |
代理人 | 松沼 泰史 |
代理人 | 高橋 詔男 |