ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 B60C |
---|---|
管理番号 | 1360519 |
異議申立番号 | 異議2019-700950 |
総通号数 | 244 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-04-24 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-11-26 |
確定日 | 2020-03-09 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6524341号発明「空気入りタイヤ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6524341号の請求項1ないし12に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6524341号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし12に係る特許についての出願は、2017年(平成29年)12月12日(優先権主張 平成29年1月25日)を国際出願日とする出願(特願2018-513041号)であって、令和1年5月10日にその特許権の設定登録がされ、同年6月5日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和1年11月26日に特許異議申立人 村川明美(以下、「特許異議申立人」という。)より、特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件特許発明 本件特許の請求項1ないし12に係る発明(以下、「本件特許発明1ないし12」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された次の事項により特定されるものである。 「【請求項1】 トレッド部からサイドウォール部を経てビード部のビードコアに至るカーカスと、 前記カーカスの半径方向外側かつ前記トレッド部の内部に配されるベルト層とを備えた空気入りタイヤであって、 前記トレッド部の内腔面に配された多孔質状の制音体を有し、 前記制音体のガラス転移温度が-55℃?-45℃であることを特徴とする空気入りタイヤ。 【請求項2】 前記制音体の密度は、10?40kg/m^(3)である請求項1記載の空気入りタイヤ。 【請求項3】 前記制音体の体積V1は、タイヤ内腔の全体積V2の0.4?30%である請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。 【請求項4】 前記制音体の引張強さは、70?115kPaである請求項1乃至3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。 【請求項5】 タイヤ軸方向の幅W1が、前記ベルト層のタイヤ軸方向の幅W2の60?130%である制振ゴム体を、前記トレッド部の内部に有する請求項1乃至4のいずれかに記載の空気入りタイヤ。 【請求項6】 前記制振ゴム体は、前記カーカスと前記ベルト層の間に配されている請求項5記載の空気入りタイヤ。 【請求項7】 前記ベルト層の半径方向外側かつ前記トレッド部の内部に配されるバンド層を有し、 前記制振ゴム体は、前記ベルト層と前記バンド層の間に配されている請求項5記載の空気入りタイヤ。 【請求項8】 前記ベルト層の半径方向外側かつ前記トレッド部の内部に配されるバンド層を有し、 前記制振ゴム体は、前記バンド層のタイヤ半径方向の外側に配されている請求項5記載の空気入りタイヤ。 【請求項9】 前記制振ゴム体のタイヤ半径方向の厚さは、0.3mm以上である請求項5乃至8のいずれかに記載の空気入りタイヤ。 【請求項10】 前記制振ゴム体の硬度H1と前記ベルト層のタイヤ半径方向の外側に配されたトレッドゴムの硬度H2との関係は、0.5≦H1/H2 ≦ 1.0である請求項5乃至9のいずれかに記載の空気入りタイヤ。 【請求項11】 前記ベルト層のタイヤ半径方向の外側に配されたトレッドゴムの0℃での損失正接tanδは、0.4以上であり、かつ、70℃での損失正接tanδは、0.2以下である請求項1乃至10のいずれかに記載の空気入りタイヤ。 【請求項12】 前記ベルト層のタイヤ半径方向の外側に配されたトレッドゴムは、(1.4×カーボンブラック含有量(phr)+シリカ含有量(phr))/硫黄含有量(phr)の値が20以上のゴム組成体である請求項1乃至11のいずれかに記載の空気入りタイヤ。」 第3 特許異議申立理由の概要 特許異議申立人は、証拠として、甲第1号証ないし甲第10号証を提出し、本件特許の請求項1ないし請求項12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである旨主張する。 <証拠方法> 甲第1号証:特開2006-306302号公報 甲第2号証:生分解性高分子材料の熱的性質、熱測定、2001年、 第28巻、第4号、p.183-191 甲第3号証:特開平11-286566号公報 甲第4号証:国際公開第2003/103989号 甲第5号証:特開平6-297909号公報 甲第6号証:特開平2-234807号公報 甲第7号証:特開平8-142606号公報 甲第8号証:特開2009-161072号公報 甲第9号証:特開2013-112062号公報 甲第10号証:特開2000-80205号公報 なお、証拠の表記は、特許異議申立書の記載にしたがった。 第4 主な甲号証の記載 1 甲第1号証の記載事項及び甲第1号証に記載された発明 (1) 甲第1号証の記載事項 本件特許の優先日前に、日本国内又は外国において、頒布された刊行物又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である甲第1号証には、次の記載がある。 「【請求項5】 トレッド部と、その両端部からタイヤ半径方向内方にのびる一対のサイドウォール部と、前記サイドウォール部のタイヤ半径方向内方端に設けられたビード部とを含む空気入りタイヤ、及び 該空気入りタイヤの内腔面かつトレッド領域に固着されタイヤ周方向にのびるスポンジ材からなる制音体を含み、 かつ前記制音体は、前記内腔面からの高さが30mm以下であり、しかも前記制音体のスポンジ材は、硬さが10?250N、引張強さが70kPa以上、かつ比重が0.014?0.052であることを特徴とする空気入りタイヤ装置。」 「【0001】 本発明は、タイヤ内腔にスポンジ材からなる制音体を配することにより、走行中のロードノイズを低減しうる空気入りタイヤとリムとの組立体に関する。」 「【0007】 本発明は、上記の問題点に鑑み案出なされたもので、制音体の高さ、それに用いるスポンジ材の硬さ、引張強さ及び比重、さらにはそのタイヤ周方向の両端部の形状等を具体的に特定することを基本として、制音体の剥離や損傷を防止して長期に亘ってロードノイズを低減しうる空気入りタイヤとリムとの組立体を提供することを目的としている。」 「【0025】 またタイヤ3は、少なくともラジアル構造のカーカス6と、そのタイヤ半径方向外側かつトレッド部3tの内部に配されたベルト層7とで補強される。 【0026】 前記カーカス6は、例えば有機繊維コードを用いた1ないし複数枚、この例では1枚のカーカスプライ6Aで構成され、その両端部はビードコア8の周りで折り返されている。また前記ベルト層7は、本例ではタイヤ半径方向で重ねられた内、外2枚のベルトプライ7A、7Bにより構成される。各ベルトプライ7A、7Bは、スチールコードをタイヤ赤道Cに対して例えば10?30°程度の角度で傾けて配列され、互いにスチールコードが交差する向きに重ね合わされている。タイヤ半径方向内側のベルトプライ7Aは、外側のプライ7Bよりも幅広で形成される。 【0027】 前記制音体4は、スポンジ材により構成される。スポンジ材は、海綿状の多孔構造体であり、例えばゴムや合成樹脂を発泡させた連続気泡を有するいわゆるスポンジそのものの他、動物繊維、植物繊維又は合成繊維等を絡み合わせて一体に連結したウエブ状のものを含むものとする。また前記「多孔構造体」には、連続気泡のみならず独立気泡を有するものを含む。本実施形態の制音体4には、ポリウレタンからなる連続気泡のスポンジ材が用いられる。 【0028】 上述のようなスポンジ材は、表面ないし内部の多孔部が振動する空気の振動エネルギーを熱エネルギーに変換して消費させることにより、音(空洞共鳴エネルギー)を小さくし、ロードノイズを低減する。またスポンジ材は、収縮、屈曲等の変形が容易であるため、走行時のタイヤの変形に、実質的な影響を与えない。このため、操縦安定性が悪化するのを防止できる。しかもスポンジ材は、ソリッドゴムに比べて比重が非常に小さいため、タイヤの重量バランスの悪化を防止できる。 【0029】 スポンジ材は、好ましくはエーテル系ポリウレタンスポンジ、エステル系ポリウレタンスポンジ、ポリエチレンスポンジなどの合成樹脂スポンジ、クロロプレンゴムスポンジ(CRスポンジ)、エチレンプロピレンゴムスポンジ(EDPMスポンジ)、ニトリルゴムスポンジ(NBRスポンジ)などのゴムスポンジを好適に用いることができ、とりわけエーテル系ポリウレタンスポンジを含むポリウレタン系又はポリエチレン系等のスポンジが、制音性、軽量性、発泡の調節可能性、耐久性などの観点から好ましい。」 「【図3】 」 (2) 甲第1号証に記載された発明 上記(1)の記載、特に、請求項5、段落【0024】ないし【0026】及び【図3】の記載を中心に総合すれば、甲第1号証には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。 「トレッド部と、その両端部からタイヤ半径方向内方にのびる一対のサイドウォール部と、前記サイドウォール部のタイヤ半径方向内方端に設けられたビード部、両端部がビードコアの周りで折り返されているカーカスと、ベルト層とを含む空気入りタイヤ、及び 該空気入りタイヤの内腔面かつトレッド領域に固着されタイヤ周方向にのびるスポンジ材からなる制音体を含み、 かつ前記制音体は、前記内腔面からの高さが30mm以下であり、しかも前記制音体のスポンジ材は、硬さが10?250N、引張強さが70kPa以上、かつ比重が0.014?0.052であることを特徴とする空気入りタイヤ装置。」 2 甲第2号証に記載された事項 本件特許の優先日前に、日本国内又は外国において、頒布された刊行物又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である甲第2号証には、「生分解性高分子材料の熱的性質」に関し、次の記載がある。 「パルプ製造法の一種であるサルファイト法で得られるリグノスルホン酸(LS)を原料とする硬質ポリウレタンフォームについて,示差走査熱量測定(DSC)を行い,DSC曲線のベースラインの吸熱側へのシフトの開始温度を接線法により求め,^(29))ガラス転移温度(T_(g))とした。Fig.6にT_(g)及びガラス状態とゴム状態のT_(g)における比熱容量差(ΔC_(p))の変化とLSポリオール(LSP)[ここでは約分子量(M_(w))200のPEG(PEG200)とLSとの2:1混合物]のPEG中における含有率との関係を示す。LSP含有率を増加させると,ポリウレタンのT_(g)は高くなり,一方ΔC_(p)は当然のことながら減少する。同じ様な現象は現在一般的に製紙原料であるパルプを製造する方法として用いられているクラフト法の副産物として得られるクラフトリグニン(KL)或いは製糖産業副産物の糖蜜を分子鎖中に含むポリウレタンでも認められる。^(17,18))Fig.6に示すように硬質ポリウレタンとは別に,スポンジ,クッション材等として幅広く用いられる軟質ポリウレタンでは,分子鎖にフレキシビリティーを与えるために可撓性の大きいポリプロピレングリコールを加えてポリウレタンを調製するため,T_(g)は低くなり,通常-60?-50℃となっている。^(17))」(第187頁左欄第9行?第28行) 3 甲第3号証に記載された事項 本件特許の優先日前に、日本国内又は外国において、頒布された刊行物又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である甲第3号証には、次の記載がある。 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、優れた低反発性を有し、衝撃吸収体、吸音体、振動吸収体として、また椅子のクッション材やマットレスに用いた時に体圧分布がより均一になり疲労感や床ずれが軽減される、低反発性ウレタンフォームに関する。」 「【0029】このようにして得られる本発明の低反発性ウレタンフォームは、-70℃?-20℃、好ましくは、-50℃?-25℃の温度範囲と、0℃?60℃、好ましくは、30℃?55℃の温度範囲とに、少なくとも1つ以上のガラス転移点をそれぞれ有している。ここで、ガラス転移点とは、ウレタンフォームが、ガラス転移、つまり、ガラス状態からゴム状態に状態変化が起こるときの温度を指し、本発明においては、10ヘルツの振動数にて動的粘弾性測定を行なったときに得られるtanδのピーク値をガラス転移点として表わすことが好ましい。」 「【0034】このような本発明の低反発性ウレタンフォームは、その密度が、通常、0.010g/cm^(3) ?0.8g/cm^(3) であり、25℃における反発弾性率が20%以下の優れた低反発性を発現し、しかも、低温においてもそれほど硬度は上昇しない。したがって、低い温度領域においても、衝撃吸収体、吸音体、振動吸収体として、また椅子のクッション材やマットレスとして有効に使用することができる。」 第5 対比・判断 1 本件発明1について (1) 本件発明1と甲1発明との対比 特許異議申立人は、概略、本件発明1は甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証ないし甲第3号証の記載事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張するので、以下検討する。 甲1発明の「カーカス」は、トレッド部と、その両端部からタイヤ半径方向内方にのびる一対のサイドウォール部と、前記サイドウォール部のタイヤ半径方向内方端に設けられたビード部とを含む空気入りタイヤにおいて、両端部がビードコアの周りで折り返されているように配されているのであるから、「トレッド部からサイドウォール部を経てビード部のビードコアに至る」ものであることは明らかである。 また、甲1発明の制音体は、「空気入りタイヤの内腔面かつトレッド領域に固着され」たものであり、「スポンジ材」からなるものであるから、本件発明1の「トレッド部の内腔面に配された」ものに相当するとともに、「多孔質状」のものである。 さらに、甲1発明の「空気入りタイヤ装置」は「空気入りタイヤ」と「制音体」を含むものであると特定するが、この「空気入りタイヤ装置」が本件発明1の「空気入りタイヤ」に相当するといえるのは明らかである。 以上の点をふまえ、本件発明1と甲1発明とを対比すると、両者は、 「トレッド部からサイドウォール部を経てビード部のビードコアに至るカーカスと、 前記カーカスの半径方向外側かつ前記トレッド部の内部に配されるベルト層とを備えた空気入りタイヤであって、 前記トレッド部の内腔面に配された多孔質状の制音体を有する、 空気入りタイヤ。」 で一致し、次の点で相違する。 ・相違点 制音体について、本件発明1は、「ガラス転移温度が-55℃?-45℃である」と特定するのに対して、甲1発明は、そのような特定を有しない点。 (2) 相違点についての検討 甲第1号証には空気入りタイヤ装置について、制音体の剥離や損傷を防止して長期に亘ってロードノイズを低減するという課題に着目し、このような課題は、制音体の高さ、それに用いるスポンジ材の硬さ、引っ張り強さ及び比重、さらにはそのタイヤ周方向の両端部の形状等を特定することにより解決できる旨の技術的事項が開示されている一方、その記載全体を通じてみても、寒冷時の走行にあってもロードノイズを抑制するという本件発明1と同様の課題に着目し、これを何らかの手段で解決することの開示や示唆はない。 また、甲第2号証には、「スポンジ,クッション材等として幅広く用いられる軟質ポリウレタンでは,分子鎖にフレキシビリティーを与えるために可撓性の大きいポリプロピレングリコールを加えてポリウレタンを調製するため,Tgは低くなり,通常-60?-50℃となっている。」との記載があり、甲第3号証には、椅子のクッション材やマットレスに用いた低反発性ウレタンフォームを想定した吸音体についての技術が開示されているが、甲第2号証ないし甲第3号証には、空気入りタイヤの制音体に用いる材料についての記載あるいは示唆はなく、ましてや、寒冷時の走行における制音体の課題を示唆する記載もない。 してみると、甲第2号証ないし甲第3号証に接した当業者が、甲1発明の制音体について、そのガラス転移温度を-55℃?-45℃とすることは容易であるとはいえない。 さらに、甲第4号証ないし甲第10号証のすべての記載を見ても、タイヤの制音体に用いる材料のガラス転移温度についての記載あるいは示唆はなく、寒冷時の走行における制音体の課題を示唆する記載もないから、特許異議申立人の提出した全ての証拠から、甲1発明の制音体について、そのガラス転移温度を-55℃?-45℃とすることが、当業者にとって容易であるとはいえない。 そして、本件発明1は、相違点に係る構成を有することにより、寒冷時における走行ノイズを抑制できるという格別の効果を奏するものである。 よって、本件発明1は、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 2 本件発明2ないし12について 本件発明2ないし12はいずれも、直接又は間接的に請求項1を引用する発明であり、本件発明1の特定事項を全て有するものである。 そして、上記1のとおり、本件発明1は、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明2ないし12も同様に、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 第6 結論 以上のとおりであるから、特許異議申立人の主張する特許異議申立理由によっては、本件請求項1ないし12に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1ないし12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2020-02-28 |
出願番号 | 特願2018-513041(P2018-513041) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(B60C)
|
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 増永 淳司 |
特許庁審判長 |
須藤 康洋 |
特許庁審判官 |
大畑 通隆 植前 充司 |
登録日 | 2019-05-10 |
登録番号 | 特許第6524341号(P6524341) |
権利者 | 住友ゴム工業株式会社 |
発明の名称 | 空気入りタイヤ |
代理人 | 浦 重剛 |
代理人 | 住友 慎太郎 |
代理人 | 石原 幸信 |
代理人 | 苗村 潤 |