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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C09D |
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管理番号 | 1360522 |
異議申立番号 | 異議2019-700629 |
総通号数 | 244 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-04-24 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-08-06 |
確定日 | 2020-03-19 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6468899号発明「筆記具用インク組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6468899号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6468899号(以下「本件特許」という。)の請求項1?3に係る特許についての出願は、平成27年3月18日に特願2015-54825号として特許出願され、平成31年1月25日に特許権の設定登録がなされ、同年2月13日に特許掲載公報が発行され、その特許に対し、令和元年8月6日に特許異議申立人であるシャチハタ株式会社(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされたものである。 特許異議の申立て後の手続の経緯は次のとおりである。 令和元年10月 8日付け 取消理由通知 同年12月 4日 意見書(特許権者) 同年12月16日付け 審尋 令和2年 2月12日 回答書(申立人) 第2 本件発明 本件特許の請求項1?3に係る発明(以下「本1発明」?「本3発明」ともいう。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】炭素数1?3のアルコールと、酸化チタンと、ポリオキシエチレンアルキルアミンと、下記A群の樹脂とを少なくとも含み、剪断速度19.2/秒における粘度値(A)と、剪断速度76.6/秒における粘度値(B)における粘度値の比率〔(A)/(B)〕が1.05?2.5であることを特徴とする筆記具用インク組成物。 A群:ケトン樹脂、アルキルフェノール(ノボラック)樹脂、マレイン酸樹脂、テルペンフェノール樹脂から選ばれる少なくとも1種 【請求項2】前記ポリオキシエチレンアルキルアミンのHLB値が8?18であることを特徴とする請求項1記載の筆記具用インク組成物。 【請求項3】請求項1又は2に記載の筆記具用インク組成物を搭載したことを特徴とする筆記具。」 第3 取消理由の概要 令和元年10月8日付けの取消理由通知で通知された取消理由の概要は、次の理由1からなるものである。 〔理由1〕本件特許の請求項1?3に係る発明は、本件出願日前に日本国内又は外国において頒布された以下の刊行物に記載された発明に基いて、本件出願日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 甲第1号証:特開平6-313140号公報 甲第2号証:特許第3525370号公報 甲第3号証:NIKKOL Product Profiles,日光ケミカルズ株式会社,1999年6月発行,第39頁 甲第4号証:特開2004-27081号公報 甲第5号証:2014-169395号公報 甲第6号証:2007-204555号公報 参考文献A:特開2011-99027号公報 参考文献B:特開2003-321638号公報 参考文献C:特開平10-219170号公報 よって、本件特許の請求項1?3に係る発明に係る特許は、同法第29条の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第1項第2号の規定により取り消されるべきものである。 第4 当審の判断 1.引用刊行物の記載事項 甲第1号証の刊行物には、次の記載がある。 摘記1a:請求項1 「【請求項1】(a)炭素数1?3の脂肪族低級アルコール、及び (b)炭素数2又は3のグリコールと炭素数1?3の脂肪族低級アルコールとのモノエーテルよりなる群から選ばれる少なくとも1種の有機溶剤に、 (c)ケトン樹脂及びアルキルフエノール樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂を溶解させると共に、 (d)酸化チタンと、 (e)微粉末シリカ及び微粉末炭酸マグネシウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種の添加剤とを分散させてなる油性白色マーキングペン用インキ組成物。」 摘記1b:段落0008?0009 「【0008】本発明による油性白色マーキングペン用インキ組成物においては、有機溶剤としては、(a)炭素数1?3の脂肪族低級アルコール、及び(b)炭素数2又は3のグリコールと炭素数1?3の脂肪族低級アルコールとのモノエーテルよりなる群から選ばれる少なくとも1種が用いられる。上記炭素数1?3の脂肪族低級アルコールとしては、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等が好ましく用いられるが、特に、後三者が好ましく用いられる。… 【0009】本発明によるインキ組成物においては、これら有機溶剤は、インキ組成物に基づいて、50?70重量%、好ましくは55?65重量%の範囲で含まれる。インキ組成物における溶剤量が余りに多いときは、得られるインキ組成物が筆記に適する粘度をもたないうえに、所期の筆跡濃度を得ることができない場合がある。他方、溶剤量が余りに少ないときは、インキ組成物の粘度が高すぎて、筆記性が悪くなるほか、インキ組成物が保存性に劣るようになる。」 摘記1c:段落0011?0012 「【0011】本発明によるインキ組成物は、色素として、酸化チタンが用いられる。酸化チタンは、種々の市販品が好適に用いられる。… 【0012】酸化チタンのインキ組成物における配合量は、用いる溶剤や筆跡の所要濃度等によつて、適宜に選択されるが、余りに配合量が多いときは、得られるインキ組成物において、インキ組成物の粘度が過度に高くなつたりして、筆記性や保存性等に劣るようになる。しかし、余りに少ないときは、インキ組成物として要求される隠蔽性に劣るようになる。通常、酸化チタンは、インキ組成物に基づいて、25?45重量%の範囲で配合され、好ましくは30?37重量%の範囲で配合される。」 摘記1d:段落0013?0014 「【0013】本発明においては、インキ組成物には、酸化チタンをインキ組成物中によく分散させる分散剤としてと共に、非吸収性筆記面に筆記したとき、その筆記面上での筆跡がすぐれた耐摩擦強度を有し、更に、筆記時に適度の粘性と筆記板上への適度の付着性を有せしめるために、前記した有機溶剤に可溶性の樹脂として、ケトン樹脂及びアルキルフエノール樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂が溶解して配合される。かかる樹脂としては、市販品を用いることができる。ケトン樹脂としては、例えば、ハロン80、110(本州化学製)、ハイラツク110H(日立化成製)等を用いることができる。アルキルフエノール樹脂としては、例えば、タマノール510(荒川化学製)、ヒタノール2501(日立化成製)等を用いることができる。 【0014】このような樹脂の配合量が余りに多いときは、得られるインキ組成物の粘度が過度に高くなり、ペン先からのインキ組成物の流出性、即ち、筆記性が悪くなるほか、隠蔽率も低下する。しかし、余りに少ないときは、非吸収性筆記面に筆記したとき、その筆記面上での筆跡が耐摩擦強度において劣り、更に、インキ組成物として要求される適度の粘性をもたず、筆記性に劣ることとなる。」 摘記1e:段落0016、0019及び0023 「【0016】本発明によれば、このように、インキ組成物が上記樹脂と共に、上記微粉末シリカ又は微粉末炭酸マグネシウムのような添加剤を含むために、吸収性筆記面に筆記したときに色が沈まないと共に、ペン先の中において色分かれを生じないので、濃色で且つ鮮明な発色を容易に得ることができる。… 【0019】本発明によるインキ組成物には、上記した成分に加えて、通常、インキ組成物に含まれる既に知られている種々の添加剤を含有させることができる。そのような添加剤としては、例えば、防腐剤、防かび剤、界面活性剤等を挙げることができる。… 【0023】かかる本発明によるインキ組成物においては、上記特定の樹脂と特定の微粉末添加剤との組合わせによつて、チクソトロピーインデツクスがその他の樹脂とアルミナ、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、タルク等の微粉末の体質顔料との組合わせに比べて、1.3?2倍(EL型、10rpm/5rpm)も高い。」 摘記1f:段落0024、0027、0029及び0045 「【0024】…以下に本発明によるインキ組成物の配合例を実施例として示すが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。尚、以下において、部を重量部を示す。また、粘度は20℃における値である。… 【0027】実施例3 メチルセロソルブ 32.6部 エタノール 20.0部 アルキルフエノール樹脂(ヒタノール2501) 10.2部 微粉末シリカ(フアインシールB) 1 部 塗料添加剤(BYK-300)3) 0.2部 酸化チタン(KR-380) 36 部 (粘度:45センチポイズ)… 【0029】実施例5 プロピレングリコールモノメチルエーテル 30.1部 イソプロピルアルコール 25.5部 ケトン樹脂(ハロン80) 10.2部 炭酸マグネシウム(MA70) 1 部 塗料添加剤(BYK-300) 0.2部 酸化チタン(CR-93) 33 部 (粘度:30センチポイズ)… 【0045】(注)…3)ビツクケミ社製」 甲第2号証の刊行物には、次の記載がある。 摘記2a:請求項3 「【請求項3】着色剤1?35重量%、水溶性極性溶剤2?35重量%を含み、HLB値が8?12の範囲のノニオン系界面活性剤(ポリエチレングリコールモノラウレートを除く)を1?30重量%、残部が水及び調整用添加剤であり、粘度が25?160m.Pa.s(EM型回転粘度計における回転数100rpmでの値、25℃)の範囲にあり、剪断減粘性指数0.1から0.6の範囲にあり、界面活性剤が微粒子状に分散状態にある相と、分子溶解状態にある相とが混在状態にある、剪断減粘性水性ボールペンインキ組成物。」 摘記2b:段落0010?0011及び0013 「【0010】本発明は前記したとおり、特定の界面活性剤の特定量を水性ビヒクル中に存在させて混和させることにより、剪断減粘性が発現され、ボールペンインキとしての適性と諸性能を満たす剪断減粘性インキが得られることを特徴とする。従来より開示されている剪断減粘性付与剤が、既述のとおり高分子化合物、樹脂、ガム類、又は、無機質微粒子であるのに対し、本発明にあっては、特定の低分子量の界面活性剤が効果的な剪断減粘性機能を発現させることを見出したことにある。更に詳細には、本発明者らはノニオン系界面活性剤のHLBの値が8?12の範囲、即ち油溶性と水溶性の概略中間的な溶解性を示す界面活性剤が、所定の濃度以上で水媒体中に存在すると、媒体が剪断減粘性を示すという知見を得た。 【0011】本発明に適用される前記HLB値が8?12の範囲のノニオン系界面活性剤が水媒体中で剪断減粘性を示す理由として、本発明者らは次のように考えている。HLB値が8?12の範囲にある界面活性剤は親油性と親水性の中間的な性質を有しており、水媒体中で一部は分子状態に溶解し、一部は微細粒子状に分散しており、外観的には白濁乃至半透明の状態をとっている。かかる溶解相と分散相の二相状態にあっては分散相からなる微粒子を固定点とし、その周囲の溶解相が流動相として機能する結果、剪断力が低い場合には二相からなる三次元の網目構造が保持され、高い粘度を示す。一方、強い剪断力が作用すると、流動相が容易に移動するため、三次元の網目構造が一時的に弱まり、その結果、低い粘度を示すと推察される。… 【0013】更に、剪断減粘系の温度依存安定性の観点から、常温において液状又はペースト状の界面活性剤を用いると、温度依存性の少ない優れた剪断減粘性を付与することができる。かかる界面活性剤の構成上の特徴は、概して分子中の炭化水素基中の疎水基が、分岐炭化水素基、不飽和炭化水素基、芳香族炭化水素基、或いは炭素数が12以下の飽和炭化水素基から構成されることによる。本発明における水媒体中における剪断減粘性の発現は、前記特定の界面活性剤の三次元網目構造に起因するものと考えられるが、前記界面活性剤分子が分子中に一個以上の水酸基を有する場合には、より安定で効果的な剪断減粘性を発現させることができる。即ち、より小さい剪断減粘指数を得ることができる。かかる分子中に一個以上の水酸基を有する界面活性剤は、水素結合による分子間相互作用により、より強固で温度的にも安定な三次元網目構造をとることができるため、低い剪断減粘指数、換言すれば、高いチクソトロピー性を必要とする場合には特に有効である。又、1分子中に2個以上の水酸基を有する界面活性剤がより好ましく、前記水酸基としては、アルコール性水酸基、燐酸酸性水酸基、フェノール性水酸基等が挙げられる。」 摘記2c:段落0026及び0030 「【0026】ポリオキシエチレンアルキルアミン類としては、下記のものが例示できる。POE(2?5)ラウリン酸アミン、POE(2?6)ミリスチン酸アミン、POE(2?7)パルミチン酸アミン、POE(2?8)ステアリン酸アミン、POE(2?10)オレイン酸アミン、POE(2?7)イソステアリン酸アミン、POE(2?7)リノール酸酸アミン、POE(2?7)リシノール酸アミン、POE(2?10)ベヘニン酸アミン等が例示でき、これらの内から、1種又は2種以上の混合によるHLBの値が8から12の混合体として使用することできる。好ましくは、常温で液状もしくはペースト状のポリオキシエチレン脂肪酸アミンが温度安定に優れた剪断減粘性を示す。… 【0030】本発明のインキ組成物に用いる着色剤としては、…修正ペンに用いる酸化チタン等の白顔料…などを例示できる。」 摘記2d:段落0037?0038 「【0037】…本発明のインキ組成物の剪断減粘性とは、静止状態あるいは応力の低い時は著しく高粘度で流動し難い性質を有しており、応力が増大すると低粘度化し良流動性を示すレオロジー特性を言う。チクソトロピー性あるいは疑似可塑性とも呼ばれる共通した液性を意味している。 【0038】本発明におけるインキ組成物は筆記時の高剪断応力下においては三次元構造が一時的に破壊されインキの粘度が低下し、ボール近傍のインキは筆記に適した低粘度インキとなり、ボールとボールハウスの間隙を毛細管力によって移動し、紙面に転移される。非筆記時には、ボール近傍も含めてすべてのインキの粘度が高くなり、インキの漏出を防止したり、インキの分離、逆流を防ぐことができる。又、インキ物性を経時的に安定に保つことができる。」 摘記2e:段落0039及び0049 「【0039】…。以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこの実施例によって何ら限定されるものではない。又、実施例における剪断減粘度指数(n)は剪断応力値(T)及び剪断速度(j)値の如き粘度径による流動学的測定から得られる実験式(T=Kj^(n):K及びnは計算された定数である)にあてはめることによって計算されるn値を示す。尚、実施例中の配合数字は重量部を示す。… 【0049】実施例5… ポリオキシ(5)オレイルアミン 11.8 〔TAMNO-5,日光ケミカルズ(株)製〕 … 得られたインキは、剪断減粘指数(n):0.48、粘度(100rpm):29m.Pa.s(25℃)であった。」 摘記2f:段落0062 「【0062】…本発明は、特定のノニオン系界面活性剤を特定量配合し、特定の水性液性状に構成することに所期の剪断減粘性を発現させて、ボールペンインキとして好適な適性を満たし、筆跡の線割れ、かすれ、ボテ現象等のない特性を有し、かつ経時的に安定な粘度特性を有しており、種々の着色剤を含む水性ボールペンインキとして実用性能を満たしている。又、着色剤として、諸種の顔料や染料が適用でき、多彩な色調を呈するボールペンを提供できる。」 甲第3号証の刊行物には、次の記載がある。 摘記3a:第39頁 「ポリオキシエチレンアルキルアミン・脂肪酸アミド 含窒素非イオン界面活性剤で、弱カチオン性です。酸化エチレンの付加モル数が低いほどカチオン性は強くなります。負に荷電した表面に吸着する性質が強いので、顔料分散剤として適しています。 NIKKOL 組成(化学名) … TAMNO-5 POE(5)オレイルアミン 」 甲第4号証の刊行物には、次の記載がある(なお、対応する特許第4118094号公報の記載にあるように、甲第4号証の特許明細書の「せん断速度10_(s-1)」と「せん断速度200_(s-1)」との記載は「せん断速度10s^(-1)」と「せん断速度200s^(-1)」との記載に補正されている。)。 摘記4a:請求項1 「【請求項1】温度20℃でのE型回転粘度計による粘度測定において、せん断速度200_(s-1)のときの粘度が3?12mPa・sの範囲にあり、せん断速度10_(s-1)のときの粘度/せん断速度200_(s-1)のときの粘度で定義されるTI値が1.2?4の範囲にあると共に、温度20℃での応力下の粘度測定において、応力が0.01Paのときの粘度が45mPa・s以上であり、応力が10Paのときの粘度が12mPa・s以下であることを特徴とする中芯式多色マーキングペン用水性顔料インク。」 摘記4b:段落0004、0023?0024及び0049?0050 「【0004】また、多色マーキングペンにおいては、筆跡が堅牢性や隠蔽性にすぐれるところから、従来、着色剤として顔料インクが好んで用いられるが、反面、顔料インクは、経時的に中芯内で顔料が沈降して、筆跡に濃淡(色別れ)を生じたり、また、ペン先でインクが目詰まりを起こして、筆記のかすれを引起し、場合によっては、筆記を不可能とすることさえあった。… 【0023】…本発明のインクによれば、動的粘度は、従来のニュートン流体の性質を有するマーキングペン用インクと同じ程度に低いので、従来のマーキングペンと同様に筆記することができるが、不使用時には、静的粘度が動的粘度に比べて著しく高く、チキソトロピーを有するので、多色マーキングペン用インクとして用いるとき、インク供給体中で相互に混じり合うことがなく、相互に分離しており、そして、筆記すれば、グラデーション効果を有する筆跡を与えるのである。 【0024】このように、本発明によるインクは、温度20℃におけるE型回転粘度計による粘度条件と温度20℃における応力下の粘度条件(即ち、静的粘度と動的粘度に関する条件)の両方を満足することによって、経時的な色別れや顔料の沈降が起こらず、しかも、インク供給体におけるインクの混合を防止して、時間が経過しても、グラデーション効果が高い筆跡を安定して形成することができる。… 【0049】…トキメック社製E型粘度計ELDを用いて、20℃において、せん断速度Dが10_(S-1)(1°34’R24コーンで2.5rpmの回転数で測定したときのせん断粘度)のときと、せん断速度Dが200_(S-1)(1°34’R24コーンで50rpmの回転数で測定したときのせん断粘度)のときについて粘度を測定した。 【0050】【表1】 」 甲第5号証の刊行物には、次の記載がある。 摘記5a:請求項2 「【請求項2】インク組成物の25℃、剪断速度38秒^(-1)における粘度に対する剪断速度3.8秒^(-1)における粘度の比が1.2?4であることを特徴とする請求項1に記載の油性ボールペン用インク組成物。」 摘記5b:段落0003 「【0003】インクにチキソトロピック性を付与する手段として、…無機化合物としては、シリカ、ベントナイト類等が使用されてきた。」 摘記5c:段落0034 「【0034】本発明の油性ボールペン用インク組成物は、描線ににじみが少なく、且つ軽い書き味を実現するいわゆるゲルインクボールペン用インク組成物として好適に用いることができる。この場合、インク組成物の25℃における、剪断速度38秒^(-1)での粘度に対する剪断速度3.8秒^(-1)における粘度の比(3.8秒^(-1)/38秒^(-1))が1.2?4であることが好ましい。粘度比が1.2より小さいと、特に粘度が低い場合において直流現象が発生しやすくなり、また顔料等を添加している場合には、顔料が沈降してしまう場合がある。粘度比が4を超えると、ボテが生じやすくなったり、インク追従性が低下して筆記に悪影響を及ぼし好ましくない。」 甲第6号証の刊行物には、次の記載がある。 摘記6a:請求項1及び5 「【請求項1】少なくとも、着色剤、添加剤、および有機溶剤を含んでなる油性ボールペン用インク組成物であって、前記インク組成物がさらにビスウレア化合物を含むことを特徴とする油性ボールペン用インク組成物。… 【請求項5】インク組成物の25℃における剪断速度38秒^(-1)における粘度に対する剪断速度3.8秒^(-1)における粘度の比が1.2?4であることを特徴とする請求項1?4のいずれか一項記載の油性ボールペン用インク組成物。」 摘記6b:段落0002及び0024 「【0002】インク中にある高比重粒子の沈降を抑制したり、静置時の顔料沈降を抑制するために、インクにチキソトロピック性を付与することがよく行われる。… 【0024】本発明の油性ボールペン用インク組成物は、チキソトロピック性付与剤として、ビスウレア化合物を含む。チキソトロピック性とは、揺変性ともいい、インク組成物中に連続的な網目構造を形成することにより、剪断破壊時は一旦流動するが、再び構造を回復し、見掛けの粘度を上昇する性質を言う。ボールペン用インクが高温保存される時にこの網目構造が破壊されずに安定に存在していることが必要である。」 摘記6c:段落0039、0043、0045?0046及び0056 「【0039】アルコール系溶剤としては、エタノール、ノルマルプロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ベンジルアルコール、α-メチルベンジルアルコール、N-メチル2-ピロリドンロジンアルコール等が挙げられる。… 【0043】本発明で使用することができる顔料としては、…二酸化チタン顔料等の無機顔科…等あげられる。… 【0045】本発明のインク組成物では各種樹脂を使用してもよい。これらの樹脂は、インクの定着性向上、筆跡の裏写り防止の他、顔料等の分散剤としての機能や粘度調整、染料の溶解促進の為に添加するものである。樹脂としては、…マレイン酸樹脂、…テルペン-フェノール樹脂類…などが挙げられる。… 【0046】上述した成分に加えて、…長鎖アルキル基を有するノニオン性界面活性剤等を添加することができる。 【0056】【表1】 」 参考文献Aには、次の記載がある。 摘記A1:請求項1及び5 「【請求項1】少なくとも着色剤、有機溶剤、水、ノニオン性界面活性剤を含有する油性ボールペン用インキ組成物であって、前記ノニオン性界面活性剤がアルキル基を有することを特徴とする油性ボールペン用インキ組成物。… 【請求項5】前記油性ボールペン用インキ組成物に、オキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミンのうち少なくとも1種以上を含有することを特徴とする請求項1ないし4の何れか1項に記載の油性ボールペン用インキ組成物。」 摘記A2:段落0020及び0022 「【0020】有機アミンについては、前記アルキル基を有するノニオン性界面活性剤と水を含有する油性ボールペン用インキ組成物中に、(-CH2-CH2-O)部位を有する有機アミンを含有すると、より潤滑効果が得られ易い。そのため、有機アミンとして、(-CH2-CH2-O)部位を有するオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミンを用いる方が好ましい。これ等は、単独又は2種以上混合して使用してもよい。… 【0022】また、有機アミンの含有量は、潤滑性や経時安定性を考慮すると、インキ組成物全量に対し、0.1?10.0質量%が好ましく、より好ましくは、1.0?5.0質量%である。」 摘記A3:段落0029?0031 「【0029】また、顔料については、…酸化チタン…等が挙げられる。… 【0030】本発明に用いる有機溶剤としては…メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、イソプロパノ-ル…等のアルコール類…が例示でき、これらを1種又は2種以上用いることができる。… 【0031】また、…粘度調整剤として、ケトン樹脂…を適宜用いても良い。」 参考文献Bには、次の記載がある。 摘記B1:請求項1 「【請求項1】少なくとも着色剤、有機溶剤及び樹脂を含む油性ボールペンインキ組成物において、炭素数8?30の脂肪酸と、下記一般式(I)で表されるポリオキシエチレンアルキルアミンから選ばれる少なくとも一種の化合物とを含有することを特徴とする油性ボールペン用インキ組成物。 【化1】 」 摘記B2:段落0009?0014 「【0009】本発明に用いる上記一般式(1)で表されるポリオキシエチレンアルキルアミンとしては、…インキの経時劣化を更に少なくする点、最適粘度にコントロールし易い点から…ポリオキシエチレンドデシルアミンの使用が望ましい。… 【0010】本発明において用いることができるポリオキシエチレンアルキルアミンの具体例としては、…アミート105、同308、同320〔花王社製〕…などを挙げることができる。 【0011】これらのポリオキシエチレンアルキルアミンの含有量は、…30重量%を越えると、油性ボールペン用インキ組成物としての経時安定性や乾燥性など他の品質が損なわれることとなり、好ましくない。 【0012】本発明に用いる着色剤としては、…顔料としては、酸化チタン…などの無機系顔料…が挙げられる。… 【0013】本発明に用いる有機溶剤としては、通常の油性ボールペンインキに用いられている溶剤、すなわち、前記の着色剤を溶解又は分散し、かつ比較的高沸点であるものが使用される。… 【0014】本発明に用いる樹脂は、インキ組成物を高粘度に調製するためのものであり、…ケトン樹脂…などが用いられる。」 参考文献Cには、次の記載がある。 摘記C1:段落0039 「【0039】本発明によれば、上記消去性付与剤と共に、オキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミン(上記2者を併せて(ポリ)オキシエチレンアルキルアミンということがある。)、オキシエチレンアルキルジアミン、ポリオキシエチレンアルキルジアミン(上記2者を併せて(ポリ)オキシエチレンアルキルジアミンということがある。)及びアルキロールアミドから選ばれる少なくとも1種のアミン型又はアミド型界面活性剤を用いることによってはじめて、得られるインキ組成物の消去性に何ら有害な影響を及ぼすことなく、インキ組成物中のカーボンブラックの凝集を抑え、その平均粒子径を小さく維持したまま、安定化することができるので、インキ組成物中、カーボンブラックがインキ貯蔵室やペン先(チップ)で沈降することがなく、かくして、マーキングペンの長期間にわたる保管によっても、均一な濃度の筆跡を与えることができる。」 2.甲第1号証に記載された発明 摘記1aの「(a)炭素数1?3の脂肪族低級アルコール、及び(b)炭素数2又は3のグリコールと炭素数1?3の脂肪族低級アルコールとのモノエーテルよりなる群から選ばれる少なくとも1種の有機溶剤に、(c)ケトン樹脂及びアルキルフエノール樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂を溶解させると共に、(d)酸化チタンと、(e)微粉末シリカ及び微粉末炭酸マグネシウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種の添加剤とを分散させてなる油性白色マーキングペン用インキ組成物。」との記載、及び 摘記1fの「部を重量部を示す。…実施例3 メチルセロソルブ32.6部 エタノール20.0部 アルキルフエノール樹脂(ヒタノール2501)10.2部 微粉末シリカ(フアインシールB)1部 塗料添加剤(BYK-300)…0.2部 酸化チタン(KR-380) 36部」との記載からみて、甲第1号証の刊行物には、 『(a)エタノール20.0重量部、(b)メチルセロソルブ32.6重量部、(c)アルキルフェノール樹脂10.2重量部、(d)酸化チタン36重量部、(e)微粉末シリカ1重量部、及び、塗料添加剤(BYK-300)0.2部からなる油性白色マーキングペン用インキ組成物。』についての発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。 3.対比 本件特許の請求項1に係る発明(以下「本1発明」ともいう。)と甲1発明とを対比する。 甲1発明の「(a)エタノール20.0重量部」は、炭素数2のアルコールであるから、本1発明の「炭素数1?3のアルコール」に相当する。 甲1発明の「(c)アルキルフェノール樹脂10.2重量部」は、本1発明の「下記A群の樹脂」及び「A群:ケトン樹脂、アルキルフェノール(ノボラック)樹脂、マレイン酸樹脂、テルペンフェノール樹脂から選ばれる少なくとも1種」に相当する。 甲1発明の「(d)酸化チタン36重量部」は、本1発明の「酸化チタン」に相当する。 甲1発明の「油性白色マーキングペン用インキ組成物」は、その「マーキングペン」が「筆記具」に該当することが明らかであるから、本1発明の「筆記具用インク組成物」に相当する。 なお、甲1発明において「(b)メチルセロソルブ32.6重量部」及び「塗料添加剤(BYK-300)0.2部」が含まれることについては、本1発明の「とを少なくとも含み」との記載、並びに本件特許明細書の段落0020の「グリコールエーテル系溶剤…を用いることができる。」との記載や、同段落0036の表1の実施例1?7において「ポリエーテル変性シリコーン」が用いられていることからみて、相違点を構成するとはいえない。 してみると、本1発明と甲1発明は『炭素数1?3のアルコールと、酸化チタンと、下記A群の樹脂とを少なくとも含む、筆記具用インク組成物。 A群:ケトン樹脂、アルキルフェノール(ノボラック)樹脂、マレイン酸樹脂、テルペンフェノール樹脂から選ばれる少なくとも1種』という点において一致し、次の(α)及び(β)の点において相違する。 (α)筆記具用インク組成物が、本1発明は「ポリオキシエチレンアルキルアミン」を含むのに対して、甲1発明は「ポリオキシエチレンアルキルアミン」を含むものではない点。 (β)剪断速度19.2/秒における粘度値(A)と、剪断速度76.6/秒における粘度値(B)における粘度値の比率〔(A)/(B)〕が、本1発明は「1.05?2.5」の範囲であるのに対して、甲1発明は当該「比率〔(A)/(B)〕」の値が不明である点。 4.判断 (1)上記(α)の相違点について ア.本1発明の「ポリオキシエチレンアルキルアミン」について 本件特許明細書の段落0018の「本発明に用いる樹脂は、上記ポリオキシエチレンアルキルアミンとの組み合わせによる相乗作用により、チキソトロピック性を発現させるものであり、このチキソトロピック性を発現せしめる樹脂であれば、特に限定されるものでないが、例えば、ケトン樹脂、アルキルフェノール(ノボラック)樹脂、マレイン酸樹脂、テルペンフェノール樹脂から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。」との記載、及び 同段落0028の「このように構成される本発明の筆記具用インク組成物が、何故、チキソトロピック性を発現させて経時的なペン芯内分離を抑制し、再分散性も良好となるかは、定かではないが、酸化チタンの表面に吸着したポリオキシエチレンアルキルアミンと樹脂が相互作用することによりチキソトロピック性を発現し、また緩い凝集系を形成することで良好な再分散性を発現するためと推測される。」との記載からみて、 本1発明は、本1発明の「A群の樹脂」と「ポリオキシエチレンアルキルアミン」が「相互作用」することにより「チキソトロピック性を発現」し、経時的なペン芯内分離を抑制し、再分散性も良好となる「効果」が得られているものと解される。 イ.甲1発明と甲第2号証記載発明との組み合わせ 甲1発明は、甲第1号証の段落0023(摘記1g)の記載にあるように「特定の樹脂と特定の微粉末添加剤との組合わせ」によって「インキ組成物」の「チクソトロピーインデックス」を好適化した発明であって、この「チクソトロピーインデックス」を好適化するための「微粉末添加剤」として「微粉末シリカ1重量部」を用いているものであるところ、甲1発明の「微粉末シリカ」という微粉末添加剤は、甲第2号証の段落0010(摘記2b)の「従来より開示されている剪断減粘性付与剤…無機質微粒子」との記載にある「無機質微粒子」の「剪断減粘性付与剤」に相当し、また、甲第5号証の段落0003(摘記5b)の「インクにチキソトロピック性を付与する手段」としての「シリカ」に相当する。 そして、甲第2号証の段落0010?0011(摘記2b)には「従来より開示されている剪断減粘性付与剤」が「無機質微粒子」であるのに対し、甲第2号証記載発明にあっては、特定の「HLBの値が8?12の範囲」の「ノニオン系界面活性剤」が「効果的な剪断減粘性機能を発現」させ、剪断力が低い場合に高い粘度(本1発明の粘度Aに相当)を示す一方、強い剪断力が作用すると低い粘度(本1発明の粘度Bに相当)を示すことが記載され、同段落0026(摘記2c)には、当該「ノニオン系界面活性剤」として「ポリオキシエチレンアルキルアミン類」を用いることにより「温度安定に優れた剪断減粘性」を示すことが記載され、同段落0037?0038(摘記2d)には「本発明のインキ組成物の剪断減粘性とは…チクソトロピー性…を意味」し、筆記時には「インキの粘度が低下」して「筆記に適した低粘度インキ」となり、非筆記時には「インキの粘度が高く」なり、インキの「漏出」や「分離」や「逆流」などを防ぎ、インキ物性を「経時的に安定に保つ」ことができるようになることが記載されている。 しかしながら、甲1発明は「油性白色マーキングペン用インキ組成物」に関するものであるのに対して、甲第2号証記載発明は、甲第2号証の請求項3(摘記2a)の記載にあるように「剪断減粘性水性ボールペンインキ組成物」に関するものであるから、甲1発明と甲第2号証記載発明は、前者が「油性」であり、後者が「水性」であるという点において、技術思想の根本が全く異なるものである。 そして、乙第1号証〔平成15年(行ケ)第542号「インクジェットインク組成物(ポリマー分散剤)」事件(審決取消)の判決公報〕の第8頁第38?41行の「分散媒が水性か油性かによって,分散剤を使い分けることは,インクの技術分野における当業者の技術常識であるということができ,…分散媒が相違することにより,当然,異なる種類のものを使用しなければならず」との判示にもあるように、インクの技術分野における当業者の技術常識として、水性で有効な添加剤が、油性でも有効であると直ちに解することはできないので、油性の甲1発明に、水性の甲第2号証記載発明を適用することが、当業者にとって直ちに容易であるとはいえない。 また、ポリオキシエチレンアルキルアミン類が、油性でも使用でき、なおかつ、剪断減粘性を示すといえる技術常識もない。 よって、上記(α)の相違点は当業者が容易に想到し得たものではない。 ウ.甲第6号証及び参考文献A?Cについて 甲第6号証の段落0056(摘記6c)には、着色剤として「酸化チタン」を用いたインク組成物に「ポリオキシアルキルアミン」を配合した「実施例6」のものが、その「70℃ガラス瓶保存1ヶ月後」の「インクの状態」が「変化無し」の評価で、その「ペン体でのインク追従性」の「50℃ 1ヶ月後」の評価が「○」であることが記載されており、 参考文献A(摘記A1?A3)には『着色剤(酸化チタン)、有機溶剤(エタノール)、粘度調整剤(ケトン樹脂)、ノニオン性界面活性剤(ポリオキシエチレンアルキルアミン)を含有する油性ボールペン用インキ組成物。』の「経時安定性」や「潤滑性」などを考慮して「オキシエチレンアルキルアミン」の量を好適化した発明が記載されており、 参考文献B(摘記B1?B2)には『着色剤(酸化チタン)、有機溶剤(通常の油性ボールペンインキに用いられている溶剤)、樹脂(ケトン樹脂)、及びアミート105、同308、同320〔花王社製〕などポリオキシエチレンアルキルアミンを含有する油性ボールペン用インキ組成物。』の「ポリオキシエチレンアルキルアミン」の種類と量を「経時劣化」や「最適粘度」や「経時安定性」などの観点から好適化した発明が記載されており、 参考文献C(摘記C1)には「ポリオキシエチレンアルキルアミン」を用いることで、インキ組成物中の着色剤を「安定化」し、着色剤が「インキ貯蔵室やペン先(チップ)で沈降」することがなく「マーキングペンの長期間にわたる保管によっても、均一な濃度の筆跡を与えることができる」ことが記載されている。 しかしながら、甲第6号証及び参考文献A?Cには、インキ組成物に「ポリオキシエチレンアルキルアミン」を配合することにより、特定の樹脂との組み合わせの相乗効果により「チクソトロピック性」を好適化できることについての明示的な記載が見当たらない。 このため、甲1発明に、甲第6号証及び参考文献A?Cに記載の技術を組み合わせたとしても、本件特許明細書の段落0018に記載された「本発明に用いる樹脂は、上記ポリオキシエチレンアルキルアミンとの組み合わせによる相乗作用により、チキソトロピック性を発現させる」という構成とその効果を導き出し得るとはいえない。 よって、上記(α)の相違点は当業者が容易に想到し得たものではない。 (2)上記(β)の相違点について ア.本1発明の比率〔(A)/(B)〕について 本件特許明細書の段落0024?0025の「本発明の筆記具用インク組成物は、酸化チタンの経時的な沈降を防止する点から、25℃、剪断速度19.2/秒(5rpm剪断速度)における粘度値(A)は、5mPa・s?40mPa・s、…25℃、剪断速度76.6/秒(20rpm剪断速度)における粘度値(B)は、速書きした場合のインク追従性の点から、5mPa・s?20mPa・s…であることが望ましい。」との記載からみて、 本1発明の「剪断速度19.2/秒における粘度値(A)と、剪断速度76.6/秒における粘度値(B)における粘度値の比率〔(A)/(B)〕」は、5rpm剪断速度における粘度値A(顔料の経時的な沈降を防止する観点での保存時粘度)/20rpm剪断速度における粘度値B(速書きした場合の観点での筆記時粘度)の比(粘度比A/B)としてのチクソトロピーインデックス値(TI値)を実質的に意味しているものと解される。 そして、本1発明は、この「保存時粘度」と「筆記時粘度」の比である「TI値」を好適な範囲に設定することで、本件特許明細書の段落0010の「本発明によれば、チキソトロピック性を発現させて経時的なペン芯内分離を抑制し、再分散性も良好となるマーキングペン、サインペンなどに好適な筆記具用インク組成物及びこのインク組成物を搭載した筆記具が提供される。」との記載にある「効果」が得られているものと解される。 イ.実質的に同一か否かについて 甲第1号証には、本1発明の「剪断速度19.2/秒における粘度値(A)と、剪断速度76.6/秒における粘度値(B)における粘度値の比率〔(A)/(B)〕が1.05?2.5であること」という特性パラメーターの値(TI値)について示唆を含めて記載がない。 そして、甲第1号証の段落0023(摘記1g)には「本発明によるインキ組成物においては、上記特定の樹脂と特定の微粉末添加剤との組合わせによつて、チクソトロピーインデツクスがその他の樹脂とアルミナ、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、タルク等の微粉末の体質顔料との組合わせに比べて、1.3?2倍(EL型、10rpm/5rpm)も高い。」との記載があるものの、甲第1号証の「10rpm/5rpm」での「チクソトロピーインデツクス」は、本件特許明細書の段落0023の「25℃における剪断速度19.2/秒(5rpm剪断速度)おける粘度値(A)と、剪断速度76.6/秒(20rpm剪断速度)における粘度値(B)における粘度値の比率〔(A)/(B)〕を1.05?2.5の範囲とするものである。」との記載を参酌するに、本1発明の比率〔(A)/(B)〕と合致するTI値の特性パラメーターであるとはいえない。 また、令和元年12月4日付けの意見書(特許権者)の第9頁の「甲1発明では、本件発明(ペン芯内分離の抑制の他、再分散性、流出性に優れる効果)とはその作用効果が相違する、良好な隠ぺい率と無機微粉末による摩擦強度(耐摩耗性)の発揮であり、…甲第1号証に基づく上記(β)の相違点に実質的な差異があるものと思料されます。」との主張をも斟酌するに、甲1発明の「油性白色マーキングペン用インキ組成物」の「比率〔(A)/(B)〕」という特性パラメーターの値(TI値)を実際に測定した場合の実測値が、本1発明の「1.05?2.5」の範囲内にあるとはいえない。 よって、上記(β)の相違点は実質的に同一であるとはいえない。 ウ.甲第4?6号証との組み合わせについて 甲第4号証(摘記4a?4b)には『せん断速度10s^(-1)のときの粘度(2.5rpmの回転数で測定したときのせん断粘度)/せん断速度200s^(-1)のときの粘度(50rpmの回転数で測定したときのせん断粘度)で定義されるTI値が1.2?4の範囲にある、不使用時には、静的粘度が動的粘度に比べて著しく高く、チキソトロピーを有するので、経時的な色別れや顔料の沈降が起こらない、中芯式多色マーキングペン用水性顔料インク。』の発明が記載され、 甲第5号証(摘記5c)には「油性ボールペン用インク組成物」は「インク組成物の25℃における、剪断速度38秒^(-1)での粘度に対する剪断速度3.8秒^(-1)における粘度の比(3.8秒^(-1)/38秒^(-1))が1.2?4であることが好まし」く、粘度比が1.2より小さいと「顔料が沈降してしまう場合」があり、粘度比が4を超えると「筆記に悪影響」を及ぼすことが記載され、 甲第6号証(摘記6a?6c)には『着色剤(二酸化チタン顔料)、樹脂(マレイン酸樹脂、テルペン-フェノール樹脂など)、ノニオン性界面活性剤(ポリオキシエチレンアルキルアミン)および有機溶剤(エタノール)を含んでなる油性ボールペン用インク組成物であって、インク組成物の25℃における剪断速度38秒^(-1)における粘度に対する剪断速度3.8秒^(-1)における粘度の比が1.2?4である、静置時の顔料沈降を抑制するために、インクにチキソトロピック性を付与した、油性ボールペン用インク組成物。』の発明が記載されている。 しかしながら、甲第4?6号証には、本1発明の「剪断速度19.2/秒における粘度値(A)と、剪断速度76.6/秒における粘度値(B)における粘度値の比率〔(A)/(B)〕が1.05?2.5であること」という特性パラメーター及びその数値範囲について示唆を含めて記載がない。 そして、上記イ.において検討したように、甲1発明の「油性白色マーキングペン用インキ組成物」の「比率〔(A)/(B)〕」という特性パラメーターの値(TI値)を実際に測定した場合の実測値が、本1発明の「1.05?2.5」の範囲内にあるとはいえないところ、本1発明と異なる良好な隠ぺい率と無機微粉末による摩擦強度(耐摩耗性)の発揮の観点からの物性を良しとする甲1発明のインキ組成物の物性(特性パラメーター)を、本1発明の「1.05?2.5」の範囲内のものに改変することに、動機付けや必然性があるといえる根拠は何ら見当たらない。 よって、上記(β)の相違点は当業者が容易に想到し得たものではない。 (4)本1発明の効果について 本件特許明細書の段落0036の表1には「 」という試験結果が示されている。 すなわち、本1発明の構成要件を具備する実施例1?7のものは、これを具備しない比較例1?4のものに比して、ペン芯内分離、再分散性、及び流出性の点で優れた効果を奏するものであることが理解できる。 そして、甲第1?6号証及び参考文献A?Cの全ての記載を精査しても、本1発明の構成要件を具備することにより、本1発明の「A群の樹脂」と「ポリオキシエチレンアルキルアミン」の相互作用による「チキソトロピック性」が発現され「経時的なペン芯内分離を抑制し、再分散性も良好となるマーキングペン、サインペンなどに好適な筆記具用インク組成物」が提供されるという格別顕著な作用効果を当業者が容易に予想できるといえる具体的な根拠は何ら見当たらない。 このため、本1発明に、甲第1?6号証及び参考文献A?Cから予測し得ない格別の効果がないとはいえない。 (5)申立人の回答書の主張について 令和2年2月12日付けの回答書の第5?6頁において、申立人は『特許権者は、本件特許発明は「チキソトロピック性を発現させて経時的なペン芯内分離を抑制し、再分散性も良好となるという格別顕著な効果を有する」と述べているが、これらは筆記具用インクとして当然求められる性能であり、格別顕著な性能ではない。前記したように、甲4には「本発明によるインクは、温度20℃におけるE型回転粘度計による粘度条件と温度20℃における応力下の粘度条件(即ち、静的粘度と動的粘度に関する条件)の両方を満足することによって、経時的な色別れや顔料の沈降が起こらず」と記載している。この記載は、「チキソトロピック性を発現させて経時的なペン芯内分離を抑制し、再分散性も良好」とすることが、格別顕著な効果ではないことを示している。』と主張している。 しかしながら、甲第4号証の請求項1(摘記4a)の「中芯式多色マーキングペン用水性顔料インク」との記載にあるように、甲第4号証に記載の技術は「水性」のインクに関するものであるから、上記(1)イ.に示した理由と同様の理由により、インクの技術分野における当業者であればこそ、甲第4号証の「水性」のインクで得られた効果が、本1発明の「油性」のインクでも得られると直ちに解することはできない。 このため、上記回答書の主張は採用できない。 (6)本1発明の進歩性についてのまとめ 以上総括するに、本1発明は、甲第1?6号証及び参考文献A?Cに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに該当するとはいえない。 5.本2?本3に係る発明について 本2?本3発明は、本1発明を直接又は間接的に引用し、さらに限定したものである。 してみると、本1発明の進歩性が甲第1?6号証及び参考文献A?Cによって否定できない以上、本2?本3発明が、甲第1?6号証及び参考文献A?Cに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに該当するとはいえない。 6.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 申立人が主張する申立理由(進歩性)は、本1?本3発明は、甲第1?6号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項(同法第113条第2号)に違反するというものである。 そして、申立人の申立理由(進歩性)は、上記第3〔理由1〕に示したとおり取消理由通知において採用されているから、取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由に該当しない。 第5 まとめ 以上総括するに、取消理由通知に記載した取消理由並びに特許異議申立人が申し立てた理由及び証拠によっては、本1?本3発明に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本1?本3発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2020-03-10 |
出願番号 | 特願2015-54825(P2015-54825) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(C09D)
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最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 南 宏樹 |
特許庁審判長 |
蔵野 雅昭 |
特許庁審判官 |
木村 敏康 日比野 隆治 |
登録日 | 2019-01-25 |
登録番号 | 特許第6468899号(P6468899) |
権利者 | 三菱鉛筆株式会社 |
発明の名称 | 筆記具用インク組成物 |
代理人 | 藤本 英介 |
代理人 | 神田 正義 |
代理人 | 馬場 信幸 |
代理人 | 山本 文夫 |
代理人 | 綿貫 達雄 |
代理人 | 綿貫 敬典 |
代理人 | 宮尾 明茂 |