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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B41M
管理番号 1360525
異議申立番号 異議2020-700002  
総通号数 244 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-04-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-01-06 
確定日 2020-03-19 
異議申立件数
事件の表示 特許第6536121号発明「熱転写受像シート用支持体および熱転写受像シートならびにそれらの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6536121号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6536121号の請求項1?10に係る特許についての出願は、平成27年3月27日(先の出願に基づく優先権主張 平成26年3月27日)の出願であって、令和元年6月14日にその特許権の設定登録がされ、同年7月3日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和2年1月6日に、篠田育孝(以下「特許異議申立人」という。)より特許異議の申立てがされた。


2 本件特許
特許第6536121号の請求項1?10の特許に係る発明(以下、それぞれ、「本件特許発明1」?「本件特許発明10」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定されるものである。
「【請求項1】
少なくとも、多孔質延伸フィルムからなる多孔質層と、第1のポリオレフィン樹脂層と、基材層と、第2のポリオレフィン樹脂層と、がこの順で積層された、前記多孔質層側に色材受容層を設けるための熱転写受像シート用支持体であって、
前記第1のポリオレフィン樹脂層の密度が0.93g/cm^(3)以下であり、前記第1のポリオレフィン樹脂層の厚さが7μm以上20μm以下であり、
前記第2のポリオレフィン樹脂層の密度が0.93g/cm^(3)を超え、前記第1のポリオレフィン樹脂層の厚さに対する前記第2のポリオレフィン樹脂層の厚さが、1.2倍以上5倍以下であることを特徴とする、熱転写受像シート用支持体。
【請求項2】
前記第1のポリオレフィン樹脂層の厚さに対する前記第2のポリオレフィン樹脂層の厚さが、1.5倍以上2.5倍以下である、請求項1に記載の熱転写受像シート用支持体。
【請求項3】
前記多孔質延伸フィルムが、多孔質ポリオレフィンフィルムまたは多孔質ポリエチレンテレフタレートフィルムである、請求項1または2に記載の熱転写受像シート用支持体。
【請求項4】
前記第2のポリオレフィン樹脂層の密度が0.94g/cm^(3)以上0.96g/cm^(3)以下である、請求項1?3のいずれか一項に記載の熱転写受像シート用支持体。
【請求項5】
前記第1のポリオレフィン樹脂層が、ポリエチレン樹脂を主成分として含有する、請求項1?4のいずれか一項に記載の熱転写受像シート用支持体。【請求項6】
前記第2のポリオレフィン樹脂層が、ポリエチレン樹脂を主成分として含有する、請求項1?5のいずれか一項に記載の熱転写受像シート用支持体。【請求項7】
請求項1?6のいずれか一項に記載の熱転写受像シート用支持体の多孔質層上に、色材受容層をさらに積層してなる、熱転写受像シート。
【請求項8】
少なくとも、多孔質延伸フィルムからなる多孔質層と、第1のポリオレフィン樹脂層と、基材層と、第2のポリオレフィン樹脂層と、がこの順で積層された、前記多孔質層側に色材受容層を設けるための熱転写受像シート用支持体の製造方法であって、
基材層の一方の面上に、押し出しラミネート法により、密度が0.93g/cm^(3)を超える第2のポリオレフィン樹脂を押し出して第2のポリオレフィン樹脂層を形成する工程と、
前記基材層の第2のポリオレフィン樹脂層とは反対側の面上に、押し出しラミネート法により密度が0.93g/cm^(3)以下である第1のポリオレフィン樹脂を押し出して形成した第1のポリオレフィン樹脂層によって、多孔質延伸フィルムからなる多孔質層と前記基材層とを貼合する工程と、を含んでなり、
前記第1のポリオレフィン樹脂層の厚さが7μm以上20μm以下であり、前記第1のポリオレフィン樹脂層の厚さに対する前記第2のポリオレフィン樹脂層の厚さが、1.2倍以上5倍以下である、熱転写受像シート用支持体の製造方法。
【請求項9】
少なくとも、多孔質延伸フィルムからなる多孔質層と、第1のポリオレフィン樹脂層と、基材層と、第2のポリオレフィン樹脂層と、がこの順で積層された、前記多孔質層側に色材受容層を設けるための熱転写受像シート用支持体の製造方法であって、
基材層の一方の面上に、押し出しラミネート法により、密度が0.93g/cm^(3)以下である第1のポリオレフィン樹脂を押し出して形成した第1のポリオレフィン樹脂層によって、多孔質延伸フィルムからなる多孔質層と前記基材層とを貼合する工程と、
前記基材層の第1のポリオレフィン樹脂層とは反対側の面上に、押し出しラミネート法により密度が0.93g/cm^(3)を超える第2のポリオレフィン樹脂を押し出して第2のポリオレフィン樹脂層を形成する工程と、を含んでなり、
前記第1のポリオレフィン樹脂層の厚さが7μm以上20μm以下であり、前記第1のポリオレフィン樹脂層の厚さに対する前記第2のポリオレフィン樹脂層の厚さが、1.2倍以上5倍以下である、熱転写受像シート用支持体の製造方法。
【請求項10】
熱転写受像シートの製造方法であって、 請求項8または9に記載の熱転写受像シート用支持体の製造方法において、前記多孔質層と前記基材層とを貼合する工程の前に、前記多孔質層上に色材受容層を積層する工程をさらに含んでなる、熱転写受像シートの製造方法。」


3 特許異議申立理由の概要
特許異議申立人が提示した証拠方法及び特許異議申立人がした申立ての理由の概要は、以下のとおりである。
(1)証拠方法
甲第1号証 特開平5-246153号公報
甲第2号証 特開平7-242070号公報
甲第3号証 特開2009-61733号公報
甲第4号証 特開2007-98926号公報

(2)申立ての理由
本件特許発明1?7、9は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。
本件特許発明1?7、9は、甲第1号証に記載された発明に甲第1号証?甲第4号証に記載された事項を適用することにより当業者が容易に発明することができたものである。
本件特許発明8、10は、甲第4号証に記載された発明に甲第1号証?甲第4号証に記載された事項を適用することにより当業者が容易に発明することができたものである。
したがって、本件特許発明1?10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。


4 甲号証の記載事項及び甲号証に記載された発明
(1)甲第1号証の記載事項
先の出願前に、日本国内において頒布された刊行物である甲第1号証(特開平5-246153号公報)には、以下の記載がある。なお、合議体が発明の認定等に用いた箇所に下線を付した。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 色素画像受容層を保有する基材からなるサーマルダイトランスファー用の色素受容素子において、基材が支持体に積層された複合材料フィルムを含み、色素画像受容層が基材の複合材料フィルム側にあり、複合材料フィルムがミクロボイドを保有する熱可塑性コア層および少なくとも1層の実質的にボイドを含まない熱可塑性表面層からなることを特徴とする素子。」

イ 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明はサーマルダイトランスファーに用いる色素受容素子、より詳細にはミクロボイドを保有する(microvoided)複合材料フィルムを含む受容素子に関するものである。」

ウ 「【0009】
【発明が解決しようとする課題】以上の要件をすべて満たしうる受容体基材を開発することが要望されている。すなわち、それはプリントする前後の双方において平坦であり、均質性および色素濃度の高い画像を与え、写真的な外観を備え、かつ製造経費の低い基材である。従って本発明の目的は、低いカール性および良好な均質性を示し、かつ効率的な熱転写をもたらすサーマルダイトランスファー受容体用の基材を提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】これら、および他の目的は、色素画像受容層を保有する基材からなるサーマルダイトランスファー用の色素受容素子において、基材が支持体に積層された複合材料フィルムを含み、色素画像受容層が基材の複合材料フィルム側にあり、複合材料フィルムがボイドの層を含むミクロボイド保有-熱可塑性コア層および少なくとも1層の実質的にボイドを含まない熱可塑性表面(スキン)層からなる素子よりなる本発明によって達成される。これらの複合材料フィルムはそれらの比較的低い価格および良好な外観のため、一般的に用いられ、商業的に″パッケージングフィルム″と呼ばれている。支持体にはセルロース紙、ポリマーフィルムまたは合成紙が含まれる。これらの基材上に多種多様な色素受容層を被覆することができる。
【0011】好ましい形態
合成紙材料と異なり、ミクロボイドを保有するパッケージングフィルムは大部分の支持体の1面に積層した場合もなお卓越したカール性能を示す。カール性能は支持体のビーム強さ(beam strength)により調節しうる。支持体の厚さが低下するのに伴って、ビーム強さも低下する。これらのフィルムはかなり低い厚さ/ビーム強さの支持体の1面に積層した場合もなお最小のカール性を示す。」

エ 「【0015】″ボイド″はここでは添加された固体または液体物質が存在しないことを意味し、ただし″ボイド″は気体を内包すると思われる。最終パッケージングフィルムコア中に残留するボイド形成開始剤粒子は、目的とする形状および大きさのボイドを形成するためには直径0.1-10ミクロンとすべきであり、好ましくは丸い形状である。ボイドの大きさは、縦および横方向の延伸の程度にも依存する。理想的にはボイドは、対向しかつ端が接した2枚の凹形ディスクにより定められる形状をとる。すなわちボイドはレンズ様または両凸形の形状をもつ傾向がある。ボイドはこれらの2つの主寸法がフィルムの縦および横方向と並んだ状態で配向する。Z方向軸は副寸法であり、ほぼボイド形成粒子の直径に直交する大きさである。ボイドは一般に独立気泡となる傾向があり、従ってボイド保有コアの一方側から他方側へ開放した、気体または液体が横切ることができる通路は実質的には存在しない。
【0016】ボイド形成開始剤は多種多様な物質から選ぶことができ、コアマトリックスポリマーの重量に対して約5-50重量%の量で存在すべきである。好ましくはボイド形成開始剤は高分子材料からなる。高分子材料を用いる場合、コア材料が形成されているポリマーと溶融混合して、溶液が冷却するのに伴って分散した球状粒子を形成しうるポリマーであってもよい。この例にはポリプロピレン中に分散したナイロン、ポリプロピレン中に分散したポリブチレンテレフタレート、またはポリブチレンテレフタレート中に分散したポリプロピレンが含まれる。ポリマーが予備成形され、そしてマトリックスポリマー中へブレンドされる場合、重要な特性は粒子の大きさおよび形状である。球体が好ましく、それらは中空または中実のいずれであってもよい。これらの球体は下記よりなる群から選ばれる員子である架橋ポリマーから形成しうる:一般式Ar-C(R)=CH_(2)を有するアルケニル芳香族化合物、式中のArは芳香族炭化水素残基、またはベンゼン系の芳香族ハロ炭化水素残基であり、Rは水素またはメチル基である;アシレート型モノマーには式CH_(2)=C(R′)-C(O)(OR)が含まれ、式中のRは水素、および約1-12個の炭素原子を含むアルキル基よりなる群から選ばれ、R′は水素およびメチルよりなる群から選ばれる;塩化ビニルおよび塩化ビニリデン、アクリロニトリルおよび塩化ビニル、臭化ビニル、式CH_(2)=CH(O)(COR)(式中のRは約2-18個の炭素原子を含むアルキル基である)のビニルエステルのコポリマー;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、シトラコン酸、マレイン酸、フマル酸、オレイン酸、ビニル安息香酸;テレフタル酸およびジアルキルテレフタル酸またはそれらのエステル形成性誘導体を系列HO(CH_(2))nOHのグリコール(式中のnは2-10の整数である)と反応させることにより製造され、ポリマー分子内に反応性のオレフィン性結合を含む合成ポリエステル樹脂、最高20重量%の第2酸またはオレフィン性不飽和を含むそのエステルおよびそれらの混合物、ならびにジビニルベンゼン、ジエチレングリコールジメタクリレート、ジアリルフマレート、ジアリルフタレートおよびそれらの混合物よりなる群から選ばれる架橋剤を共重合含有する上記ポリエステル。
・・・(省略)・・・
【0020】ボイド開始用粒子は無機物球体であってもよく、これには中実もしくは中空のガラス球体、金属もしくはセラミックのビーズ、または無機物粒子、たとえばクレー、タルク、硫酸バリウム、炭酸カルシウムが含まれる。重要なことは、その材料がコアマトリックスポリマーと化学的に反応して下記の問題のうち1または2以上を引き起こすことのないことである:(a)マトリックスポリマーの結晶化動力学を変化させ、延伸を困難にする、(b)コアマトリックスポリマーの破壊、(c)ボイド形成開始用粒子の破壊、(d)マトリックスポリマーへのボイド形成開始用粒子の粘着、または(e)望ましくない反応生成物、たとえば毒性もしくは色濃度の高い部分(moiety)の生成。
【0021】複合材料フィルムのコアマトリックスポリマーに適した熱可塑性ポリマー群には、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、セルロースエステル、ポリスチレン、ポリビニル樹脂、ポリスルホンアミド、ポリエーテル、ポリイミド、ポリフッ化ビニリデン、ポリウレタン、ポリフェニレンスルフィド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアセタール、ポリスルホネート、ポリエステルイオノマーおよびポリオレフィンイオノマーが含まれる。これらのポリマーのコポリマーおよび/または混合物も使用しうる。
【0022】適切なポリオレフィンには、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリメチルペンテンおよびそれらの混合物が含まれる。エチレンおよびプロピレンのコポリマーを含めたポリオレフィンコポリマーも有用である。
【0023】適切なポリエステルには、炭素原子4-20個の脂環式ジカルボン酸、および炭素原子2-24個の脂肪族または脂環式グリコール類から製造されるものが含まれる。適切なジカルボン酸の例には、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタリンジカルボン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、ソディオスルホイソフタル酸およびそれらの混合物が含まれる。適切なグリコール類の例には、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、他のポリエチレングリコールおよびそれらの混合物が含まれる。これらのポリエステルは当技術分野で周知であり、周知の方法、たとえば米国特許第2,465,319号および米国特許第2,901,466号明細書に記載の方法により製造することができる。好ましい連続マトリックスポリエステルは、テレフタル酸またはナフタリンジカルボン酸、ならびにエチレングリコール、1,4-ブタンジオールおよび1,4-シクロヘキサンジメタノールから選ばれる少なくとも1種のグリコール類からの反復単位を含むものである。ポリエチレンテレフタレート(少量の他のモノマーにより改質されていてもよい)が特に好ましい。他の適切なポリエステルには、適量の共重合酸成分、たとえばスチルベンジカルボン酸を含有させることにより形成される液晶コポリエステルが含まれる。この種の液晶コポリエステルの例は、米国特許第4,420,607、4,459,402および4,468,510号明細書に示されるものである。
・・・(省略)・・・
【0027】これらの複合材料フィルムの同時押出し、急冷、延伸および熱硬化は、延伸フィルム製造に関する技術分野で既知のいずれかの方法により、たとえばフラットフィルム法またはバブルもしくはチューブラ法により行うことができる。フラットフィルム法は、スリットダイを通してブレンドを押出し、押出されたウェブを冷却されたキャスティングドラム上で、フィルムのコアマトリックスポリマー部材およびスキン部材(1または2以上)がそれらのガラス転移温度(Tg)未満で急冷される状態で急冷することによる。次いで急冷されたフィルムを、マトリックスポリマーおよびスキンポリマーのガラス転移温度より高い温度で、互いに直角の方向に延伸することにより2軸延伸する。フィルムは1方向に延伸したのち第2方向に延伸するか、または同時に両方向に延伸することができる。フィルムを延伸したのち、両方の延伸方向における収縮に対してフィルムをある程度拘束した状態で、ポリマーを結晶化させるのに十分な温度に加熱することによりそれを熱硬化させる。」

オ 「【0030】下記のミクロボイド保有パッケージングフィルムPF1-PF12は、押出し、プレスその他の方法で支持体、たとえばポリエステル、紙、合成紙または他のミクロボイド保有フィルムに積層した場合、本発明の実施に適切である。
・・・(省略)・・・
【0035】PF5.ハーキュレス400WT 503/1B(ハーキュレス社)複合材料フィルム(厚さ28μm)(d=0.59):顔料を添加したミクロボイドを保有する延伸ポリプロピレンコア(全フィルム厚の約85%)および1面に付与された、白色顔料を添加した、ミクロボイドを含まない延伸ポリプロピレン表面層からなる;ボイド形成開始剤は炭酸カルシウムである。
・・・(省略)・・・
【0043】本発明の色素受容素子の基材用としてミクロボイドを保有する複合材料フィルムが積層される支持体は、ポリマー、合成紙、もしくはセルロース繊維紙系の支持体、またはそれらの積層品であってもよい。
【0044】セルロース繊維紙系の支持体を用いる場合、ポリオレフィン樹脂を用いてミクロボイドを保有する複合材料フィルムを押出し積層することが好ましい。積層処理に際して、得られる積層された受容体支持体のカールを最小限に抑えるために、ミクロボイドを保有するパッケージングフィルムの最小張力を保持することが望ましい。紙系支持体の裏面(すなわちミクロボイドを保有する複合材料フィルムおよび受容体層の反対側)も、ポリオレフィン樹脂層で押出し被覆することができ(たとえば約10-75g/m^(2))、バッキング層、たとえば米国特許第5,011,814および5,096,875号明細書に記載されたものを備えていてもよい。高湿度の用途(>50%相対湿度)については、カールを最小限に抑えるために約30-約75g/m^(2)、より好ましくは35-50g/m^(2)の裏面樹脂付着量を付与することが望ましい。」

カ 「【0055】実施例1
ミクロボイド保有複合材料フィルムをそれに押出し被覆した紙素材支持体からなる後記の各種基材の複合材料フィルム側に下記の各層を順次被覆することにより、サーマルダイトランスファー受容素子A-Kを製造した。
【0056】a)下塗り層:Z-6020(アミノアルケンアミノトリメトキシシラン)(ダウ・コーニング社)(0.10g/m^(2))、エタノールから;b)色素受容層:マクロロン(Makrolon)5700(ビスフェノール-A ポリカーボネート)(バイエル社)(1.6g/m^(2))、ビスフェノール-Aとジエチレングリコールのコポリカーボネート(1.6g/m^(2))、ジフェニルフタレート(0.32g/m^(2))、ジ-n-ブチルフタレート(0.32g/m^(2))、およびフルオラド(Fluorad)FC-431(フッ素化された分散剤)(スリーエム社)(0.011g/m^(2))、ジクロロメタンから;c)色素受容体オーバーコート層:炭酸、ビスフェノール-A、ジエチレングリコール、およびアミノプロピル末端基付きポリジメチルシロキサン(モル比49:49:2)から誘導されたと考えられる線状縮合ポリマー(0.22g/m^(2))、ならびに510シリコーン・フルイド(Silicone Fluid)(ダウ・コーニング社)、ならびにフルオラドFC-431(0.032g/m^(2))、ジクロロメタンから。
【0057】受容体A:支持体はビンテージ・グロス(Vintage Gloss)(70ポンド(約31.8kg)、厚さ76μmのクレー被覆紙素材)(ポトラッチ社)であり、これに前記のミクロボイド保有複合材料フィルムPF1が顔料添加ポリオレフィンと共に押出し積層された。顔料添加ポリオレフィンはアナターゼ、二酸化チタン(13重量%)およびスチルベン-ベンゾオキサゾール蛍光増白剤(0.03重量%)を含有するポリエチレン(12g/m^(2))であった。紙素材支持体の裏面は高密度ポリエチレン(25g/m^(2))で押出し被覆された。
・・・(省略)・・・
【0063】受容体G:支持体は紙素材(厚さ150μm、受容体C支持体の漂白硬材クラフトパルプおよび漂白硬材亜硫酸パルプの混合物から製造)であり、これにミクロボイド保有複合材料フィルムPF5が顔料添加ポリオレフィンと共に押出し積層された(フィルムPF5のミクロボイド保有ポリプロピレンコア側が顔料添加ポリオレフィンと接触)。顔料添加ポリオレフィンおよび裏面ポリエチレン層は受容体Aの場合と同一であった。」

キ 「【0082】プリントされていない受容体のカール性を評価するために、TAPPIユースフル・メソド(Useful Method)427の変法に基づいて、種々の試料サイズを用い、わずか50%の相対湿度(RH)におけるカールを測定するカール試験を考案した。各受容体の試料5個を21×28cmに切断し、その際長手を支持体の縦被覆方向に平行にした。試料を50%RHで24時間、平衡化した。カールが生じる場合、いずれの場合も直交-縦被覆方向に(縦被覆方向に垂直に)起こった。受容体の両端間の垂直距離を最近接の半ミリメートルまで測定した。試料が重なるほどカールした場合、重なりをマークし、測定した。重なりの距離を2倍にし、マイナスの数値を付与した。カール率%は下記により計算された:
・・・(省略)・・・
式中のLは原長(この場合28cm)であり、Mは測定された両端間の距離である。重なり合う試料は100%を越えるカールを示すであろう;平らな試料は0%のカールを示すであろう。5%以下のカール値が望ましく、かつ均等であると考えられる。結果を下記の表1に示す:
【表1】

上記のデータは、ミクロボイドを保有する複合材料フィルムおよび内部ポリオレフィン層を押出し積層された紙系支持体からなる基材上に被覆された本発明のサーマルダイ受容体が、関連の先行技術による受容体に用いられる基材と比較して、転写色素濃度、プリント均質性、およびカール率%の組み合わせ特性に関して卓越していることを示す。」

(2)甲第1号証に記載された発明
ア 甲1-1発明
前記(1)の記載事項によれば、甲第1号証には、受容体Gに関し、次の発明(以下「甲1-1発明」という。)が記載されている。
「 支持体は紙素材であり、これにミクロボイド保有複合材料フィルムPF5が顔料添加ポリオレフィンと共に押出し積層され、フィルムPF5のミクロボイド保有ポリプロピレンコア側が顔料添加ポリオレフィンと接触し、
顔料添加ポリオレフィンはアナターゼ、二酸化チタン(13重量%)およびスチルベン-ベンゾオキサゾール蛍光増白剤(0.03重量%)を含有するポリエチレン(12g/m^(2))であり、
紙素材支持体の裏面は高密度ポリエチレン(25g/m^(2))で押出し被覆され、
複合材料フィルム側に、下塗り層、色素受容層、色素受容体オーバーコート層を順次被覆することにより、サーマルダイトランスファー受容素子Gを製造するものであって、
フィルムPF5は、顔料を添加したミクロボイドを保有する延伸ポリプロピレンコア(全フィルム厚の約85%)および1面に付与された、白色顔料を添加した、ミクロボイドを含まない延伸ポリプロピレン表面層からなるものである、
受容体G。」

イ 甲1-2発明
前記(1)の記載事項によれば、甲第1号証には、受容体Gの製造方法に関し、次の発明(以下「甲1-2発明」という。)が記載されている。
「 支持体は紙素材であり、これにミクロボイド保有複合材料フィルムPF5が顔料添加ポリオレフィンと共に押出し積層され、フィルムPF5のミクロボイド保有ポリプロピレンコア側が顔料添加ポリオレフィンと接触し、
顔料添加ポリオレフィンはアナターゼ、二酸化チタン(13重量%)およびスチルベン-ベンゾオキサゾール蛍光増白剤(0.03重量%)を含有するポリエチレン(12g/m^(2))であり、
紙素材支持体の裏面は高密度ポリエチレン(25g/m^(2))で押出し被覆され、
複合材料フィルム側に、下塗り層、色素受容層、色素受容体オーバーコート層を順次被覆することにより、サーマルダイトランスファー受容素子Gを製造するものであって、
フィルムPF5は、顔料を添加したミクロボイドを保有する延伸ポリプロピレンコア(全フィルム厚の約85%)および1面に付与された、白色顔料を添加した、ミクロボイドを含まない延伸ポリプロピレン表面層からなるものある、
受容体Gの製造方法。」

(3)甲第2号証の記載事項
先の出願前に、日本国内において頒布された刊行物である甲第2号証(特開平7-242070号公報)には、以下の記載がある。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 パルプを主体とする紙基体の表裏に熱可塑性樹脂で溶融押出被覆層を設けた支持体に於いて 、叩解後のパルプの長さ加重平均繊維長が0.45? 0.60mmから成る該紙基体の表面に無機顔料と低密度ポリエチレンを主成分とする混合樹脂の溶融押出被覆層を設け、かつ該紙基体の裏面に低密度ポリエチレンと高密度ポリエチレンを主成分とする混合樹脂中の高密度ポリエチレンが、10?80重量%含む混合樹脂の溶融押出被覆層を設けたことを特徴とする感熱転写記録受像シート用支持体。
【請求項2】 パルプを主体とする紙基体の表裏に熱可塑性樹脂で溶融押出被覆層を設けた支持体に於いて 、叩解後のパルプの長さ加重平均繊維長が0.45? 0.60mmから成る該紙基体の表面に無機顔料と低密度ポリエチレンおよび高密度ポリエチレンを主成分とする混合樹脂中の高密度ポリエチレンが、5?30重量%含む混合樹脂の溶融押出被覆層を設け、かつ該紙基体の裏面に低密度ポリエチレンと高密度ポリエチレンを主成分とする混合樹脂中の高密度ポリエチレンが、10?80重量%含む混合樹脂の溶融押出被覆層を設けたことを特徴とする感熱転写記録受像シート用支持体。」

イ 「【0007】また、受像層形成用塗工やバックコート層塗工を行う時は、ドライヤーゾーンでの乾燥熱により、溶融押出被覆加工した表裏のポリエチレン層が熱収縮し、更に過乾燥のような高温状態に曝された場合は、ポリエチレン層が発泡し、その表面に小さな凹凸が発生して、商品価値を失うことがある。この防止方法としては、低密度ポリエチレン(以下LDPEとする)に高密度ポリエチレン(以下HDPEとする)を混合することにより耐熱性が向上することがあるが、HDPEの混合率によりカールバランスが崩れプリンターでの給紙性が悪化し紙詰まりが発生するため、給紙性に優れ、画像形成後に反りまたは曲がりのないカールを得るためには適宜に表裏のHDPEの配合を調節しなければならない。なおLDPEとは、例えば加工技術研究会編「新ラミネート便覧」(昭和58年11月30日発行)に記載されているように密度0.91?0.925g/cm^(3) 付近のポリエチレンのものをいい、HDPEとは密度0.941?0.965g/cm^(3) 付近のポリエチレンのものをいう。」

ウ 「【0011】本発明の感熱転写記録受像シートは、支持体とその上に形成された受像層で構成され、その支持体は、紙基体とその表裏に溶融押出被覆加工されたポリエチレン混合樹脂層から構成される。
【0012】本発明に使用される紙基体としては、高白色度パルプからなる紙が用いられ、例えば、天然パルプのLBSPやNSKP等の天然パルプ紙、あるいは、合成パルプ紙、または、天然パルプと合成パルプの混抄紙、或いは種々のパルプの抄き合わせ等の紙を挙げることができ、特に好ましいパルプはLBSPやLBKP等の広葉樹パルプである。また、叩解性については、一般的にKPよりSPの方が叩解しやすいことが知られており、更に好ましいのはLBSPである。従ってLBSPの配合率が多ければ叩解し易く生産性が上がるが、コスト的、剛度、手触り感などからLBKPを配合した方が良い。これらのパルプをDDR(ダブルディスクリファイナー)で叩解し、長さ加重平均繊維長を0.45?0.60mmに調製する。このパルプを長網抄紙機で抄造するとワイヤー上での大きなフロックの形成(パルプの絡み合いの増加)が減少し地合(ワイヤー上でのパルプの分散の程度)が良くなる。これにより紙の表面の凹凸が少なくなるので平滑性が高くなり受像シートとした場合画像形成後の色素との密着性が向上し良好に転写される。これに対して 、長さ加重平均繊維長が0.60mmより長いとワイヤー上での大きなフロックの形成が起き易くなり、地合が悪化するので紙の表面の凹凸が多くなる結果、平滑性が低くなり感熱転写受像シートとした場合画像形成が良好に転写されなく、転写抜けによる画像品質の低下を招き長さ加重平均繊維長が0.45mm未満となった場合は 、紙の強度や剛度が低下し実用には耐えない。また、叩解するのに時間を要するようになり生産性が低下してしまい実用的でない。
・・・(省略)・・・
【0017】本発明で、無機顔料と低密度ポリエチレンを主成分とする混合樹脂、LDPEとHDPEを主成分とする混合樹脂は、必要に応じポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリペンテン等のホモポリマー、または、エチレンポリプロピレン共重合体等のポリオレフィンの2つ以上からなる共重合体、あるいは、エチレンとαオレフィンとの共重合体である直鎖状LDPEおよびこれらの混合物、各種の密度およびメルトインデックスのものを単独あるいはそれらを、耐熱性やカールバランスに影響がない限り、混合して溶融押出被覆加工してもかまわない。特に好ましく用いられるポリエチレンとしては、LDPEは密度が0.915?0.930g/cm^(3) でメルトインデックス(以下MIとする)が3?5g/10分であり、かつHDPEとしては密度が0.950?0.970g/cm^(3)でMIが6?23g/10分が良い。なおMIとは、例えば加工技術研究会編「新ラミネート便覧」(昭和58年11月30日発行)に記載されているようにメルトインデクサーなる測定器から190℃の温度下で押出された樹脂の重量で表す溶融粘度の指標であり、MIは分子構造的には分子量との関連が強く、平均分子量が小さいほどMIが高く、流れがよいということを表している。
・・・(省略)・・・
【0019】本願発明の樹脂において、コスト的に有利なLDPE、HDPEを使用し、前記紙基体の表裏に溶融押出被覆加工するが、本発明においてその樹脂配合に特定の範囲が存在する。
【0020】即ち本発明においては、前記紙基体の表面に無機顔料とLDPEを主成分とする混合樹脂の溶融押出被覆層を設け、かつ該紙基体の裏面にLDPEとHDPEを主成分とする混合樹脂中のHDPEが、10?80重量%含む混合樹脂の溶融押出被覆層を設けたことを特徴とする感熱転写記録受像シート用支持体である。または該紙基体の表面に無機顔料とLDPEおよびHDPEを主成分とする混合樹脂中のHDPEが、5?30重量%含む混合樹脂の溶融押出被覆層を設け、かつ該紙基体の裏面にLDPEとHDPEを主成分とする混合樹脂中のHDPEが、10?80重量%含む混合樹脂の溶融押出被覆層を設けたことを特徴とする感熱転写記録受像シート用支持体である。また該紙基体の表面に無機顔料とLDPEを主成分とする混合樹脂を溶融押出被覆加工し、かつ該紙基体の裏面にLDPEとHDPEを主成分とする混合樹脂中のHDPEが、10?80重量%含む混合樹脂の溶融押出被覆加工したことを特徴とする感熱転写記録受像シート用支持体の製造方法である。または該紙基体の表面に無機顔料とLDPEおよびHDPEを主成分とする混合樹脂中のHDPEが、5?30重量%含む混合樹脂の溶融押出被覆加工し、かつ該紙基体の裏面にLDPEとHDPEを主成分とする混合樹脂中のHDPEが、10?80重量%含む混合樹脂の溶融押出被覆加工したことを特徴とする感熱転写記録受像シート用支持体の製造方法である。これらの条件を全て満たすと、表面側のダイスリップ部に汚れやリップ筋の発生が少なく、さらに、特公平02-50946号公報に記載された酸化チタンを使用すれば更に発生は減少する。また、受像層形成用塗工時やバックコート層塗工時のドライヤーゾーンでの乾燥熱により表裏の樹脂層が熱収縮し、さらに過乾燥なような高温状態に曝された場合でも、耐熱性があるためポリエチレン層の発泡や熱変形が起こりにくくなる。
・・・(省略)・・・
【0022】カールについては、表裏に溶融押出被覆加工するそれぞれの塗布量とHDPEの配合によりコントロールすることができ、前記配合であれば操業的に問題がない状況で若干のプラスカールから平坦な面もしくは若干のマイナスカールまで任意に調節が可能となる。」

エ 「【0027】(溶融押出被覆加工)次に、受像層の裏面の紙基体面にコロナ放電処理した後、下記の樹脂を表1の配合比、樹脂温度325℃、ラインスピード140m/分の条件、表1の樹脂塗布量で溶融押出被覆加工を行った。
LDPE(密度0.920g/cm^(3) 、MI=4.5g/10分)
HDPE(密度0.970g/cm^(3) 、MI=7.0g/10分)
【0028】引き続き、紙基体の表面をコロナ放電処理した後、この表面に下記の樹脂を表1の配合比、樹脂温度325℃、ラインスピード140m/分の条件、表1の樹脂塗布量で溶融押出被覆加工を行った。尚、受像層を塗工するため、水濡れ性が45dyne/cm以上になるようにコロナ放電処理を行った。二酸化チタン顔料のマスターバッチ
(LDPE(密度0.920g/cm^(3) 、MI=8.5g/10分)47.5重量%、含水酸化アルミニュウム(対二酸化チタンに対してAl_(2)0_(3)分として0.75重量%)で表面処理したアナターゼ型二酸化チタン顔料50重量%とステアリン酸亜鉛2.5重量%からなる)
LDPE(密度0.920g/cm^(3) 、MI=4.5g/10分)
HDPE(密度0.970g/cm^(3) 、MI=7.0g/10分)
尚、紙基体の表裏のポリエチレン樹脂の溶融押出被覆加工は、逐次溶融押出被覆加工が行われる、いわゆるタンデム方式で行われた。その際、紙基体の表面に溶融押出被覆加工した時の面質は特公昭62-19732号公報に記載の微粗面に、紙基体の裏面に溶融押出被覆加工した時の面質はマット面に加工した。
【0029】(転写シートの作成)その後、下記の組成の昇華性染料受像層をワイヤーバーを用いて表面側に塗布、乾燥させ、固形分塗布量5g/m^(2) の受像層を設け、感熱転写記録用受像シートを得た。
・・・(省略)・・・
【0032】
【表1】

・・・(省略)・・・
【0034】
【発明の効果】実施例の結果から明らかなように、本発明により得られた感熱転写記録受像シート用支持体は何れも転写抜けが防止でき、プリンターでの給紙性が良く、画像形成後に反りまたは曲がりのないカールが得られるので、写真に近い風合いを有する美しい画像を得ることができた。」

(4)甲第3号証の記載事項
先の出願前に、日本国内において頒布された刊行物である甲第3号証(特開2009-61733号公報)には、以下の記載がある。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材シートの少なくとも一方の面に多孔質フィルムを積層し、更に該多孔質フィルムの上に、染料受容層を設けた熱転写受像シートにおいて、基材シートは、非コート紙からなる芯材の両側にポリオレフィン樹脂層を設けたもので、該ポリオレフィン樹脂層は、染料受容層側のポリオレフィン樹脂層1の厚みが、裏面側のポリオレフィン樹脂層2の厚みより小さく、かつ前記の基材シートと多孔質フィルムとが、接着剤層により貼合されたことを特徴とする熱転写受像シート。
【請求項2】
前記のポリオレフィン樹脂層は、非コート紙からなる芯材の両側に、溶融押出し法により形成されたことを特徴とする請求項1に記載の熱転写受像シート。」

イ 「【0015】
基材シートを構成するポリオレフィン樹脂層は、芯材からみて、染料受容層側のポリオレフィン樹脂層1と、裏面側のポリオレフィン樹脂層2の2種があるが、いずれも材質としては、例えば、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリイソブテン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリイソプレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体等のエチレン共重合体等が挙げられ、中でも、ポリプロピレン、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレンが好ましく用いられる。尚、染料受容層側のポリオレフィン樹脂層1には、白色度を向上させるために、酸化チタン等の充填材を添加することが好ましく行なわれる。
【0016】
ポリオレフィン樹脂層1とポリオレフィン樹脂層2は、上記の樹脂が使用できるが、実用上、両者の材質は同じものを使用して、基材シートのカールバランス等調整することが好ましい。染料受容層側のポリオレフィン樹脂層1と、裏面側のポリオレフィン樹脂層2の厚さを比べると、染料受容層側のポリオレフィン樹脂層1の方が小さい点が特徴であるが、具体的には、ポリオレフィン樹脂層1の厚さは、5?25μm程度、ポリオレフィン樹脂層2の厚さは、20?40μm程度である。ポリオレフィン樹脂層1とポリオレフィン樹脂層2との厚さの差は、5?30μm程度である。但し、ポリオレフィン樹脂層1の厚さの方が、ポリオレフィン樹脂層2の厚さよりも小さい条件下である。上記厚さの差が小さすぎたり、大きすぎたりすると、熱転写受像シートのカールが生じやすくなる。
・・・(中略)・・・
【0019】
(多孔質フィルム)
本発明の熱転写受像シートで使用する多孔質フィルム3としては、表面光沢度が高い多孔質フィルムであれば特に限定はされないが、その柔軟性のためにサーマルヘッドとの密着性に優れ、生産性も良好である、ベースとなる樹脂としてポリオレフィン、特にポリプロピレンを用いた、内部に微細空隙を有する多孔質フィルムが好ましい。
【0020】
フィルム中に微細空隙を生じさせる方法としては、フィルムのベースとなる樹脂に対して非相溶な有機微粒子又は無機微粒子(一種類でも複数でもよい)を混練したコンパウンドを作成する。このコンパウンドは微視的にみるとベースとなる樹脂とベースとなる樹脂に対して非相溶な微粒子とが微細な海島構造を形成しており、このコンパウンドをフィルム化し、延伸することにより海島界面の剥離、又は、島を形成する領域の大きな変形によって上記のような微細空隙を発生させるものである。
【0021】
微細空隙を形成する方法として、例えば、ポリプロピレンを主体とし、それにポリプロピレンより高い融点を有するポリエステルやアクリル樹脂を加えた方法が挙げられる。この場合、ポリエステルやアクリル樹脂が微細空隙を形成する核剤の役割をする。該ポリエステル、アクリル樹脂の含有量は、いずれの場合もポリプロピレン100質量部に対して2?10質量部であることが好ましい。上記含有量が2質量部未満の場合には、微細空隙の発生が不十分となるため十分な印字感度を得ることができない。また、含有量が10質量部を超える場合には、多孔質フィルムの耐熱性などが低下するため好ましくない。
【0022】
また、ベースとする樹脂をポリプロピレンとする多孔質フィルムを作成する場合、更に微細で緻密な空隙を発生させるためには、更にポリイソプレンを加えることが好ましい。これにより、より高い印字感度を得ることができる。例えば、ポリプロピレンを主体とし、これにアクリル樹脂又はポリエステル、そしてポリイソプレンを配合したコンパウンドを作成し、フィルム化し、延伸することにより高い印字感度を有する多孔質フィルムを得ることができる。多孔質フィルムの厚さは30μm以上が好ましく、30?60μmが特に好ましい。多孔質フィルムの厚さが30μm未満では、画像を印字した時に多孔質フィルムが潰れてしまい、画像品質が損なわれてしまう。また厚さが60μmを越えると、画像は良好になるが、熱転写受像シートが必要以上に厚くなり、コスト的に好ましくない。」

ウ 「【実施例】
【0031】
次に実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明する。以下、特に断りのない限り、部又は%は質量基準である。
(実施例1)
紙芯材7である厚さ150g/m^(2)のホワイト原紙(非コート紙)の両面に、高密度ポリエチレン樹脂(ジェイレックスKH578A、日本ポリオレフィン(株)製)を押出しコーターにて、染料受容層側のポリオレフィン樹脂層1が20μmとなるように、また裏面側のポリオレフィン樹脂層2が30μmとなるように、溶融共押出して、非コート紙芯材7のホワイト原紙にポリオレフィン樹脂層1及びポリオレフィン樹脂層2を積層し、基材シート2を作製した。
・・・(省略)・・・
【0036】
(実施例2)
実施例1で作製した熱転写受像シートにおいて、ポリオレフィン樹脂層2が25μmとなるように、変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2の熱転写受像シートを作製した。
【0037】
(実施例3)
実施例1で作製した熱転写受像シートにおいて、ポリオレフィン樹脂層1が15μmとなるように、またポリオレフィン樹脂層2が30μmとなるように、変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例3の熱転写受像シートを作製した。
【0038】
(実施例4)
実施例1で作製した熱転写受像シートにおいて、ポリオレフィン樹脂層1が8μmとなるように、またポリオレフィン樹脂層2が28μmとなるように、変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例4の熱転写受像シートを作製した。
【0039】
(実施例5)
実施例1で作製した熱転写受像シートにおいて、ポリオレフィン樹脂層1が12μmとなるように、またポリオレフィン樹脂層2が28μmとなるように、変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例5の熱転写受像シートを作製した。
・・・(省略)・・・
【0045】
上記の巻きズレの評価及び印画物における地合いの評価の結果を表1に示す。
【表1】



エ 「図1



(5)甲第4号証の記載事項
先の出願前に、日本国内において頒布された刊行物である甲第4号証(特開2007-98926号公報)には、以下の記載がある。なお、合議体が発明の認定等に用いた箇所に下線を付した。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材シートの少なくとも一方の面にポリオレフィン樹脂層、多孔質フィルム、中間層及び受容層をこの順に積層してなる熱転写受像シートにおいて、前記ポリオレフィン樹脂層は、メルトフローレートが2?25(g/10分)であるポリオレフィン樹脂からなり厚みが10?40μmであることを特徴とする熱転写受像シート。
【請求項2】
多孔質フィルムは、ポリプロピレン樹脂からなるものである請求項1記載の熱転写受像シート。」

イ 「【0014】
上記ポリオレフィン樹脂としては、例えば、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリイソブテン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリイソプレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体等のエチレン共重合体等が挙げられ、中でも、ポリプロピレン、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレンが好ましい。
【0015】
上記ポリオレフィン樹脂層は、例えば、基材シート及び多孔質フィルムとの押出ラミネーションを行うことにより、即ち、MFRが2?25(g/10分)であるポリオレフィン樹脂を上述の基材シートの少なくとも一方の面と後述の多孔質フィルムとの間に溶融押出して該基材シートの少なくとも一方の面と該多孔質フィルムとを貼着することよりなる押出ラミネーションにより形成することができる。上記ポリオレフィン樹脂層の厚さは、通常10?40μm、好ましくは15?30μmである。
【0016】
(多孔質フィルム層)
本発明における多孔質フィルム層は、表面光沢度が高い多孔質フィルムであれば特に限定はされないが、その柔軟性のためにサーマルヘッドとの密着性に優れ、生産性も良好である、ベースとなる樹脂としてポリオレフィン、特にポリプロピレンを用いた、内部に微細空隙を有する多孔質フィルムが好ましい。
【0017】
フィルム中に微細空隙を生じさせる方法としては、フィルムのベースとなる樹脂に対して非相溶な有機微粒子又は無機微粒子(一種類でも複数でもよい)を混練したコンパウンドを作成する。このコンパウンドは微視的にみるとベースとなる樹脂とベースとなる樹脂に対して非相溶な微粒子とが微細な海島構造を形成しており、このコンパウンドをフィルム化し、延伸することにより海島界面の剥離、又は、島を形成する領域の大きな変形によって上記のような微細空隙を発生させるものである。
【0018】
微細空隙を形成する方法として、例えば、ポリプロピレンを主体とし、それにポリプロピレンより高い融点を有するポリエステルやアクリル樹脂を加えたものが公知である。この場合、ポリエステルやアクリル樹脂が微細空隙を形成する核剤の役割をする。該ポリエステル、アクリル樹脂の含有量は、いずれの場合もポリプロピレン100質量部に対して2?10質量部であることが好ましい。上記含有量が2質量部未満の場合には、微細空隙の発生が不十分となるため十分な印字感度を得ることができない。また、含有量が10質量部を超える場合には、多孔質フィルムの耐熱性などが低下するため好ましくない。
【0019】
また、ベースとする樹脂をポリプロピレンとする多孔質フィルムを作成する場合、更に微細で緻密な空隙を発生させるためには、更にポリイソプレンを加えることが好ましい。これにより、より高い印字感度を得ることができる。例えば、ポリプロピレンを主体とし、これにアクリル樹脂又はポリエステル、そしてポリイソプレンを配合したコンパウンドを作成し、フィルム化し、延伸することにより高い印字感度を有する多孔質フィルムを得ることができる。
・・・(省略)・・・
【0042】
本発明において、上記裏面層を設ける場合、基材シートの受容層と反対側の面に、公知の加工方法にてカール防止層を設けることが好ましい。上記カール防止層は、例えば、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、あるいはポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂等の溶融押出しコーティング法による積層により形成でき、適宜材質、厚み等を選定できる。」

ウ 「【0045】
(製造方法)
本発明の熱転写受像シートの製造方法は、基材シートの少なくとも一方の面にポリオレフィン樹脂層、多孔質フィルム、中間層及び受容層をこの順に積層してなる熱転写受像シートを製造する方法であって、(1)多孔質フィルムと中間層とを積層する工程、(2)中間層と受容層とを積層する工程、並びに、(3)基材シートの少なくとも一方の面と多孔質フィルムとの間にメルトフローレートが2?25(g/10分)であるポリオレフィン樹脂を用いて厚みが10?40μmであるポリオレフィン樹脂層を形成する工程を有することを特徴とするものである。本発明の熱転写受像シートの製造方法は、更に、(4)基材シートの受容層と反対側の面上に裏面層等を別途形成するものであってもよい。
【0046】
本発明の製造方法における各層の組成、特徴及び塗工量は、本発明の熱転写受像シートを構成するものと同様である。例えば、多孔質フィルムは、ポリプロピレン樹脂からなるものであることが好ましい。上記工程(1)及び上記工程(2)における積層は、特に限定されず、従来公知の方法にて行うことができる。上記工程(1)は、例えば、予め作製した多孔質フィルムの基材シートと反対側の面に中間層用塗工液を塗布し、乾燥することにより行うことができる。上記工程(2)は、例えば、中間層の基材シートと反対側の面に受容層用塗工液を塗布し、乾燥することにより行うことができる。上記工程(3)において、上記ポリオレフィン樹脂層の形成は、メルトフローレートが2?25g/10分であるポリオレフィン樹脂を基材シートの少なくとも一方の面と多孔質フィルムとの間に溶融押出して上記基材シートの少なくとも一方の面と上記多孔質フィルムとを貼着することよりなる押出ラミネーションにより行うことが好ましい。上記工程(3)における押出ラミネーションの条件は、ポリオレフィン樹脂層に使用するポリオレフィン樹脂の種類、量等に応じて適宜設定することができるが、樹脂温度が270?330℃であることが好ましい。
【0047】
本発明において、上記工程(1)、工程(2)及び工程(3)は何れを先に行ってもよい。
上記工程(1)?(3)について、工程(1)及び工程(2)は工程(3)より前に行うことが好ましい。
上記工程(4)は、上記工程(1)?工程(3)の工程の前に行うことが好ましい。
【0048】
本発明の製造方法を実施することにより、例えば本発明の熱転写受像シート等、層間接着性が良く光沢性及び平滑性に優れた熱転写受像シートを作製することができる。更に、本製造方法は、溶剤を含有する接着剤を使用することなく基材シートと多孔質フィルムとを積層することができるので、環境上好ましいことに加え、低コストで簡便に熱転写受像シートを作製することができる。」

エ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0054】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、文中、部又は%とあるのは特に断りのない限り、質量基準である。本実施例及び本比較例に特に記載がない限り、各特性の測定は、明細書本文と同様の条件にて行った。
【0055】実施例1
1.多孔質フィルムの作成
微細空隙を有する多孔質フィルムの中心層用に下記〔コンパウンド1〕を用い、その両側にスキン層用として下記〔コンパウンド2〕を用いて3層共押出しによりフィルム化し、更に二軸延伸して、厚さ36μmのフィルムを得た。次いで作成した多孔質フィルムの受容層を形成する側の表面に、窒素雰囲気下でコロナ放電処理を行った。
〔コンパウンド1〕
・ポリプロピレン 100部
・イソプレン重合物 1部
・ポリメチルメタクリレート〔PMMA〕 7部
〔コンパウンド2〕
・ポリプロピレン 100部
・イソプレン重合物 1部
・PMMA 2部
上記で得たフィルムの中心層の厚さは30.0μmで、両側のスキン層の厚さは各々3.0μmであった。また、中心層中の微細空隙の体積分率は18.2%であり、スキン層中の微細空隙の体積分率は5.5%であった。
【0056】
2.中間層及び受容層の形成
多孔質フィルムの窒素雰囲気下でコロナ放電処理を行った面上に下記配合の中間層用塗工液を乾燥後2g/m^(2)となるようにワイヤーバーで塗工し、110℃で1分乾燥した後、その上に下記配合の受容層用塗工液を乾燥後4g/m^(2)となるようにワイヤーバーで塗工し、110℃で1分乾燥した。
【0057】
(中間層用塗工液組成)
ポリエステル樹脂(WR-905、日本合成化学社製) 13.1部
酸化チタン(TCA-888、トーケムプロダクツ社製) 26.2部
蛍光増白剤(ベンゾイミダゾール誘導体、製品名;ユビテックスBAC、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製) 0.39部
水/イソプロピルアルコール〔IPA〕(質量比2/1) 60部
【0058】
(受容層用塗工液組成)
塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体(ソルバインC、日信化学社製) 60部
エポキシ変性シリコーン(X-22-3000T、信越化学工業社製)1.2部
メチルスチル変性シリコーン(24-510、信越化学工業社製)0.6部
メチルエチルケトン/トルエン(質量比1/1) 5部
【0059】
3.ポリオレフィン樹脂層の形成
次に、上記多孔質フィルムの受容層を塗工していない側の面と、基材シートである150μmのノンコート紙とが接着するようにMFR=2(g/10分)のポリプロピレン樹脂(製品名F122G、三井化学社製)を溶融押出してラミネート(押出ラミネーション)を樹脂温度300℃にて行い、厚み15μmのポリオレフィン樹脂層を形成させて、熱転写受像シートを得た。
【0060】
実施例2
溶融押出する樹脂をMFR=25(g/10分)のポリプロピレン樹脂(製品名F329RA、三井化学社製)に変更する以外は、実施例1と同様に熱転写受像シートを作製した。
【0061】
実施例3
溶融押出する樹脂をMFR=21(g/10分)のポリプロピレン樹脂(製品名PH943B、サンアロマー社製)に変更する以外は、実施例1と同様に熱転写受像シートを作製した。
【0062】
実施例4
溶融押出する樹脂の厚みを10μmに変更する以外は、実施例3と同様に熱転写受像シートを作製した。
【0063】
実施例5
溶融押出する樹脂の厚みを40μmに変更する以外は、実施例3と同様に熱転写受像シートを作製した。
・・・(省略)・・・
【0069】
【表1】



(6)甲第4号証に記載された発明
ア 甲4発明
前記(5)の記載事項によれば、甲4号証には、熱転写受像シートの製造方法に関し、次の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されている。
「 基材シートの少なくとも一方の面にポリオレフィン樹脂層、多孔質フィルム、中間層及び受容層をこの順に積層してなる熱転写受像シートを製造する方法であって、
(1)多孔質フィルムと中間層とを積層する工程、
(2)中間層と受容層とを積層する工程、並びに、
(3)基材シートの少なくとも一方の面と多孔質フィルムとの間にメルトフローレートが2?25(g/10分)であるポリオレフィン樹脂を用いて厚みが10?40μmであるポリオレフィン樹脂層を形成する工程を有し、
更に、(4)基材シートの受容層と反対側の面上に裏面層を別途形成し、
上記工程(1)?(3)について、工程(1)及び工程(2)は工程(3)より前に行い、
上記工程(4)は、上記工程(1)?工程(3)の工程の前に行う、ものである、
熱転写受像シートを製造する方法。」
(主任注:【0045】、【0047】より摘記。後で削除します。)

5 進歩性についての当審の判断
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1-1発明とを対比する。

(ア)多孔質層
甲1-1発明の「受容体G」は、「支持体は紙素材であり、これにミクロボイド保有複合材料フィルムPF5が顔料添加ポリオレフィンと共に押出し積層され」るものであって、「顔料を添加したミクロボイドを保有する延伸ポリプロピレンコア」を含む。
甲1-1発明の「延伸ポリプロピレンコア」は、「延伸」されたものであり、「ミクロボイドを保有する」ものである。また、甲1-1発明の「延伸ポリプロピレンコア」は「積層され」るものであるから、「層」をなすとともに「フィルム」の形態を呈することは明らかである。
そうしてみると、甲1-1発明の「延伸ポリプロピレンコア」は、本件特許発明1の「多孔質延伸フィルムからなる多孔質層」に相当する。

(イ)基材層
甲1-1発明の「支持体」は「紙素材であ」る。
甲1-1発明の「支持体」は「層」をなすことは明らかである。
そして、本件特許発明1の「基材層」の材料は、本件特許公報の【0020】の記載からみて、「紙」が想定されている。
そうしてみると、甲1-1発明の「支持体」は、本件特許発明1の「基材層」に相当する。

(ウ)第1のポリオレフィン樹脂層、第2のポリオレフィン樹脂層
甲1-1発明の「受容体G」は、「支持体は紙素材であり、これにミクロボイド保有複合材料フィルムPF5が顔料添加ポリオレフィンと共に押出し積層され、フィルムPF5のミクロボイド保有ポリプロピレンコア側が顔料添加ポリオレフィンと接触し、顔料添加ポリオレフィン層はアナターゼ、二酸化チタン(13重量%)およびスチルベン-ベンゾオキサゾール蛍光増白剤(0.03重量%)を含有するポリエチレン(12g/m^(2))であり、紙素材支持体の裏面は高密度ポリエチレン(25g/m^(2))で押出し被覆され」るものである。
甲1-1発明の「顔料添加ポリオレフィン」は「積層され」るものであるから、層をなすことは明らかである。また、甲1-1発明の「高密度ポリエチレン」は「押出し被覆され」るものであるから、層をなすことは明らかである。また、甲1-1発明の「顔料添加ポリオレフィン」及び「高密度ポリエチレン」は、その材料からみて、いずれも「ポリオレフィン樹脂」であることは明らかである。
ここで、甲1-1発明の「顔料添加ポリオレフィン」は、「支持体は紙素材であり、これにミクロボイド保有複合材料フィルムPF5が顔料添加ポリオレフィンと共に押出し積層され、フィルムPF5のミクロボイド保有ポリプロピレンコア側が顔料添加ポリオレフィンと接触」するものであるから、「支持体」に対してミクロボイド保有ポリプロピレンコア側にある。一方で、甲1-1発明の「高密度ポリエチレン」は、「紙素材支持体の裏面は高密度ポリエチレン(25g/m^(2))で押出し被覆され」るものであるから、支持体に対してミクロボイド保有ポリプロピレンコアのない側にある。
ここで、本件特許発明1の「熱転写受像シート用支持体」は、「多孔質延伸フィルムからなる多孔質層と、第1のポリオレフィン樹脂層と、基材層と、第2のポリオレフィン樹脂層と、がこの順で積層された」ものであるから、基材層に対して多孔質層側のポリオレフィン樹脂層を「第1」と、多孔質層のない側のポリオレフィン樹脂層を「第2」と、それぞれ称するものである。
そうしてみると、甲1-1発明の「顔料添加ポリオレフィン」及び「高密度ポリエチレン」は、それぞれ、本件特許発明1の「第1のポリオレフィン樹脂層」及び「第2のポリオレフィン樹脂層」に相当する。

(エ)色材受容層、熱転写受像シート用支持体
甲1-1発明の「受容体G」は、「支持体は紙素材であり、これにミクロボイド保有複合材料フィルムPF5が顔料添加ポリオレフィンと共に押出し積層され、フィルムPF5のミクロボイド保有ポリプロピレンコア側が顔料添加ポリオレフィンと接触し、顔料添加ポリオレフィンはアナターゼ、二酸化チタン(13重量%)およびスチルベン-ベンゾオキサゾール蛍光増白剤(0.03重量%)を含有するポリエチレン(12g/m^(2))であり、紙素材支持体の裏面は高密度ポリエチレン(25g/m^(2))で押出し被覆され、」「フィルムPF5は、顔料を添加したミクロボイドを保有する延伸ポリプロピレンコア(全フィルム厚の約85%)および1面に付与された、白色顔料を添加した、ミクロボイドを含まない延伸ポリプロピレン表面層からな」り、「複合材料フィルム側に、下塗り層、色素受容層、色素受容体オーバーコート層を順次被覆する」ものである。
上記(ア)ないし(ウ)で示したように、甲1-1発明の「延伸ポリプロピレンコア」、「顔料添加ポリオレフィン」、「支持体」及び「高密度ポリエチレン」は、それぞれ、本件特許発明1の「多孔質延伸フィルムからなる多孔質層」、「第1のポリオレフィン樹脂層」、「基材層」及び「第2のポリオレフィン樹脂層」に相当するので、甲1-1発明の「受容体G」は、本件特許発明1の「熱転写受像シート用支持体」に相当する。また、甲1-1発明の「色素受容層」は、技術的にみて、本件特許発明1の「色材受容層」に相当する。
そうしてみると、甲1-1発明の「受容体G」は、本件特許発明1の「少なくとも、多孔質延伸フィルムからなる多孔質層と、第1のポリオレフィン樹脂層と、基材層と、第2のポリオレフィン樹脂層と、が」「積層された」「熱転写受像シート用支持体」という要件を満たすものである。また、甲1-1発明の「受容体G」は、本件特許発明1の「前記多孔質層側に色材受容層を設けるための熱転写受像シート用支持体」という要件を満たすものである。

イ 一致点及び相違点
以上より、本件特許発明1と甲1-1発明とは、

「 少なくとも、多孔質延伸フィルムからなる多孔質層と、第1のポリオレフィン樹脂層と、基材層と、第2のポリオレフィン樹脂層と、が積層された、前記多孔質層側に色材受容層を設けるための熱転写受像シート用支持体。」
である点で一致し、以下の点で一応相違するか、相違する。

(相違点1-1)
「熱転写受像シート用支持体」が、本件特許発明1は、「少なくとも、多孔質延伸フィルムからなる多孔質層と、第1のポリオレフィン樹脂層と、基材層と、第2のポリオレフィン樹脂層と、がこの順で積層された」のに対して、甲1-1発明の「受容体G」は、「延伸ポリプロピレンコア」、「顔料添加ポリオレフィン」、「支持体」及び「高密度ポリエチレン」の順序が、明らかでない点。

(相違点1-2)
「第1のポリオレフィン樹脂層」が、本件特許発明1は、「密度が0.93g/cm^(3)以下であ」るのに対して、甲1-1発明の「顔料添加ポリオレフィン」は、「アナターゼ、二酸化チタン(13重量%)およびスチルベン-ベンゾオキサゾール蛍光増白剤(0.03重量%)を含有するポリエチレン(12g/m^(2))であ」ることにとどまり、密度については明らかでない点。

(相違点1-3)
「第1のポリオレフィン樹脂層」が、本件特許発明1は、「厚さが7μm以上20μm以下であ」るのに対して、甲1-1発明の「顔料添加ポリオレフィン」は、「アナターゼ、二酸化チタン(13重量%)およびスチルベン-ベンゾオキサゾール蛍光増白剤(0.03重量%)を含有するポリエチレン(12g/m^(2))であ」ることにとどまり、厚さについては明らかでない点。

(相違点1-4)
「第2のポリオレフィン樹脂層」が、本件特許発明1は、「密度が0.93g/cm^(3)を超え」ているのに対して、甲1-1発明の「高密度ポリエチレン」は、「(25g/m^(2))で押出し被覆され」ることにとどまり、密度については明らかでない点。

(相違点1-5)
「第2のポリオレフィン樹脂層」が、本件特許発明1は、「前記第1のポリオレフィン樹脂層の厚さに対する前記第2のポリオレフィン樹脂層の厚さが、1.2倍以上5倍以下である」のに対して、甲1-1発明の「高密度ポリエチレン」は、「(25g/m^(2))で押出し被覆され」ることにとどまり、厚さについては明らかでない点。

ウ 判断
事案に鑑みて、上記相違点1-2、上記相違点1-4及び上記相違点1-5について検討する。

(ア)甲第1号証には、受容体G以外の受容体についても、「顔料添加ポリオレフィン」及び「高密度ポリエチレン」について、「高密度ポリエチレン」は高密度であることが記載されているものの、「顔料添加ポリオレフィン」及び「高密度ポリエチレン」の密度は記載されていない。
したがって、甲第1号証には、「顔料添加ポリオレフィン」及び「高密度ポリエチレン」の密度は記載も示唆もされていない。

(イ)甲第2号証の実施例の紙基体の表裏のポリエチレン樹脂について、表1(【0032】)には、紙基体の表面及び裏面において用いられる低密度ポリエチレン(LDPE)及び高密度ポリエチレン(HDPE)の成分比及び当該成分の密度が記載されているものの、紙基体の表面において用いられる二酸化チタンを含む溶融押出被覆層の密度は記載されていない(当合議体注:各実施例における表面側のポリエチレン樹脂層の密度を、高密度ポリエチレン及び低密度ポリエチレンの密度(【0027】?【0028】)、アナターゼ型二酸化チタンの密度(3.9?4.0g/cm^(3)程度)、【表1】の樹脂塗布量等から見積もっても、少なくとも「0.93g/cm^(3)以下」となることはないと考えられる。)。
また、上記以外にも、甲第2号証には、「紙基体の表面」の「無機顔料と低密度ポリエチレンを主成分とする混合樹脂の溶融押出被覆層」の密度は記載されていない。
したがって、甲第2号証には、「紙基体の表面」の「無機顔料と低密度ポリエチレンを主成分とする混合樹脂の溶融押出被覆層」の密度は記載も示唆もされていない。

(ウ)甲第3号証の実施例(【0031】、【0036】?【0039】、【0045】の表1)には、非コート芯材7の両面に高密度ポリエチレン樹脂を積層したことが記載されているものの、「高密度ポリエチレン樹脂」の密度は記載されていない上、非コート芯材7の両面の高密度ポリエチレン樹脂は同じ材質であるから、同じ密度である。また、上記以外にも、甲第3号証には、非コート芯材7の両面の高密度ポリエチレン樹脂の密度を異ならせたものは記載されていない。
したがって、甲第3号証には、非コート芯材7の両面の高密度ポリエチレン樹脂の密度を異ならせたものは記載も示唆もされていない。

(エ)甲第4号証の実施例(【0055】?【0063】、【0069】の表1)には、ポリオレフィン樹脂層の層密度、層厚みが記載されているものの、基材シートの受容層と反対側の面上の裏面層については記載されていない。甲第4号証には、「裏面層」が記載されている(【0042】、【0045】、【0047】)ものの、裏面層の密度及び厚さは記載されていない。また、上記以外にも、甲第4号証には、裏面層の密度及び厚さは記載されていない。
したがって、甲第4号証には、基材シートの受容層と反対側の面上の裏面層の密度及び厚さは記載も示唆もされていない。

(オ)上記(ア)ないし(エ)より、甲第1号証ないし甲第4号証には、基材層の両側にある第1のポリオレフィン樹脂層及び第2のポリオレフィン樹脂層の両方の密度及び厚さの関係について記載も示唆もない。
そうしてみると、甲1-1発明の「顔料添加ポリオレフィン」の密度を「0.93g/cm^(3)以下」とするとともに、「高密度ポリオレフィン」の密度を「0.93g/cm^(3)」を超えるようにし、且つ、「前記第1のポリオレフィン樹脂層の厚さに対する前記第2のポリオレフィン樹脂層の厚さが、1.2倍以上5倍以下」とすることは、当業者といえども、容易に想到し得たということはできない。

(カ)さらにすすんで、本件特許発明1の効果について検討する。
上記相違点1-2に係る本件特許発明1の構成は、「第1のポリオレフィン樹脂層の密度が0.93g/cm^(3)以下であ」り、上記相違点1-4に係る本件特許発明1の構成は、「第2のポリオレフィン樹脂層の密度が0.93g/cm^(3)を超え」るものであり、上記相違点1-5に係る本件特許発明1の構成は、密度が0.93g/cm^(3)以下である「第1のポリオレフィン樹脂層」の厚さに対する密度が0.93g/cm^(3)を超える「第2のポリオレフィン樹脂層」の厚さを特定したものであって、その組み合わせに技術的意義がある。
すなわち、上記相違点1-2、上記相違点1-4及び上記相違点1-5に係る本件特許発明1の構成を全て備えることにより、本件特許公報の【0016】、【表2】に記載された、「高温度や高湿度の環境条件下で印画した場合に良好なカール安定性を有し、かつ印画物表面の地合に優れる熱転写受像シートようを得ることができる、熱転写受像シート用支持体を提供することができる」という甲第1号証ないし甲第4号証から予測できない効果を奏するものである。

(キ)そうしてみると、上記相違点1-2、上記相違点1-4及び上記相違点1-5に係る本件特許発明1の構成を全て備えることは、当業者といえども、甲1-1発明及び甲第1号証ないし甲第4号証に記載された事項に基づいて、容易に想到し得たものとはいえない。

エ むすび
以上のとおり、上記相違点1-2、上記相違点1-4及び上記相違点1-5に係る本件特許発明1の構成を全て備えることは、当業者といえども、容易になし得たということができないものであるから、他の相違点について言及するまでもなく、本件特許発明1は、当業者といえども、容易に発明をすることができたものということはできない。

(2)本件特許発明2?本件特許発明7について
本件特許発明2?本件特許発明7は、いずれも本件特許発明1の構成を全て含むものである。
そうすると、本件特許発明2?本件特許発明7も、本件特許発明1と同じ理由により、容易に発明をすることができたものということはできない。

(3)本件特許発明8について
ア 対比
本件特許発明8と甲4発明とを対比する。

(ア)多孔質層
甲4発明の「熱転写受像シート」は、「多孔質フィルム」を含む。
甲4発明の「多孔質フィルム」が層をなすことは明らかであるから、甲4発明の「多孔質フィルム」は、本件特許発明8の「多孔質層」に相当する。

(イ)基材層
甲4発明の「熱転写受像シート」は、「基材シート」を含む。
甲4発明の「基材シート」が層をなすことは明らかであるから、甲4発明の「基材シート」は、本件特許発明8の「基材層」に相当する。

(ウ)第1のポリオレフィン樹脂層
甲4発明の「熱転写受像シート」は、「基材シートの少なくとも一方の面にポリオレフィン樹脂層、多孔質フィルム、中間層及び受容層をこの順に積層してなる」ものである。
甲4発明の「ポリオレフィン樹脂層」は、「基材シート」の「多孔質フィルム」側に積層されるものである。
ここで、本件特許発明8の「熱転写受像シート用支持体」は、「少なくとも、多孔質延伸フィルムからなる多孔質層と、第1のポリオレフィン樹脂層と、基材層と、第2のポリオレフィン樹脂層と、がこの順で積層された」ものである。ここで、本件特許発明8の「第1のポリオレフィン樹脂層」は、「基材層」の「多孔質層」側に積層されるものであるから、本件特許発明8においては、基材層に対して多孔質層側のポリオレフィン樹脂層を「第1」と、多孔質層のない側を「第2」と、それぞれ称するものである。
そうしてみると、甲4発明の「ポリオレフィン樹脂層」は、本件特許発明8の「第1のポリオレフィン樹脂層」に相当する。

(エ)色材受容層
甲4発明の「熱転写受像シート」は、「受容層」を含むものである。
甲4発明の「受容層」は、技術的にみて、本件特許発明8の「色材受容層」に相当する。

(オ)熱転写受像シート用支持体の製造方法
甲4発明の「熱転写受像シートを製造する方法」は、「基材シートの少なくとも一方の面にポリオレフィン樹脂層、多孔質フィルム、中間層及び受容層をこの順に積層してなる熱転写受像シートを製造する方法」である。
これに対して、本件特許発明8の「熱転写受像シート用支持体の製造方法」は、「少なくとも、多孔質延伸フィルムからなる多孔質層と、第1のポリオレフィン樹脂層と、基材層と、第2のポリオレフィン樹脂層と、がこの順で積層された、前記多孔質層側に色材受容層を設けるための熱転写受像シート用支持体の製造方法」である。
上記(ア)ないし(ウ)で示したように、甲4発明の「多孔質フィルム」、「ポリオレフィン樹脂層」、「基材シート」は、それぞれ、本件特許発明8の「多孔質層」、「第1のポリオレフィン樹脂層」、「基材層」に相当するものであるから、甲4発明の「基材シートの少なくとも一方の面にポリオレフィン樹脂層、多孔質フィルム」「をこの順に積層してなる」ものは、本件特許発明8の「熱転写受像シート用支持体」に相当する。また、上記(エ)で示したように、甲4発明の「受容層」は本件特許発明8の「色材受容層」に相当するものであるから、甲4発明の「受容層」は、「多孔質フィルム」側に設けたものといえる。
そうしてみると、甲4発明の「熱転写受像シートを製造する方法」は、本件特許発明8の「少なくとも、多孔質層と、第1のポリオレフィン樹脂層と、基材層と、がこの順で積層された、前記多孔質層側に色材受容層を設けるための熱転写受像シート用支持体の製造方法」という要件を満たすものである。

イ 一致点及び相違点
以上より、本件特許発明8と甲4発明とは、

「 少なくとも、多孔質延伸フィルムからなる多孔質層と、第1のポリオレフィン樹脂層と、基材層と、がこの順で積層された、前記多孔質層側に色材受容層を設けるための熱転写受像シート用支持体の製造方法」
である点で一致し、以下の点で一応相違するか、相違する。

(相違点2-1)
「多孔質層」が、本件特許発明8は、「多孔質延伸フィルムからなる」のに対して、甲4発明の「多孔質フィルム」は、延伸フィルムからなるかどうかが明らかでない点。

(相違点2-2)
「第2のポリオレフィン樹脂層」が、本件特許発明8は、「密度が0.93g/cm^(3)を超える」のに対して、甲4発明の「裏面層」は、密度が明らかでない点。

(相違点2-3)
「熱転写受像シート用支持体の製造方法」が、本件特許発明8は、「基材層の一方の面上に、押し出しラミネート法により、」「第2のポリオレフィン樹脂を押し出して第2のポリオレフィン樹脂層を形成する工程」「を含」むのに対して、甲4発明は、「更に、(4)基材シートの受容層と反対側の面上に裏面層を別途形成し、」「上記工程(4)は、上記工程(1)?工程(3)の工程の前に行う」点。

(相違点2-4)
「第1のポリオレフィン樹脂層」が、本件特許発明8は、「密度が0.93g/cm^(3)以下である」のに対して、甲4発明の「第1のポリオレフィン樹脂層」は、密度が明らかでない点。

(相違点2-5)
「熱転写受像シート用支持体の製造方法」が、本件特許発明8は、「前記基材層の第2のポリオレフィン樹脂層とは反対側の面上に、押し出しラミネート法により」「第1のポリオレフィン樹脂を押し出して形成した第1のポリオレフィン樹脂層によって、多孔質延伸フィルムからなる多孔質層と前記基材層とを貼合する工程と、を含」むのに対して、甲4発明は、「(1)多孔質フィルムと中間層とを積層する工程、(2)中間層と受容層とを積層する工程、並びに、(3)基材シートの少なくとも一方の面と多孔質フィルムとの間にメルトフローレートが2?25(g/10分)であるポリオレフィン樹脂を用いて厚みが10?40μmであるポリオレフィン樹脂層を形成する工程を有」する点。

(相違点2-6)
「第1のポリオレフィン樹脂層」が、本件特許発明8は、「厚さが7μm以上20μm以下であ」るのに対して、甲4発明の「ポリオレフィン樹脂層」は、「厚みが10?40μmである」点。

(相違点2-7)
「第2のポリオレフィン樹脂層」が、本件特許発明8は、「前記第1のポリオレフィン樹脂層の厚さに対する前記第2のポリオレフィン樹脂層の厚さが、1.2倍以上5倍以下である」のに対して、甲4発明の「ポリオレフィン樹脂層」及び「裏面層」は、そのような特定はなされていない点。

ウ 判断
事案に鑑みて、上記相違点2-2、上記相違点2-4及び上記相違点2-7について検討する。

(ア)上記「(1)本件特許発明1 ウ 判断」で示したように、甲第1号証ないし甲第4号証には、基材層の両側にある第1のポリオレフィン樹脂層及び第2のポリオレフィン樹脂層の両方の密度及び厚さの関係について記載も示唆もされていない。

(イ)たしかに、甲第4号証の実施例には、ポリオレフィン樹脂の密度が記載され(【0055】?【0063】、【表1】)、甲第1号証ないし甲第3号証には、高密度ポリエチレンが記載されている。
しかしながら、本件特許発明8の「第1のポリオレフィン樹脂層」に関して、甲第1号証及び甲第2号証は顔料が添加されたものであり、甲第3号証は高密度ポリエチレンであることから、甲4発明の「ポリオレフィン樹脂」の密度を0.93g/cm^(3)以下とするとともに、「裏面層」に甲第1号証ないし甲第3号証の高密度ポリエチレンを適用して「裏面層」を高密度ポリエチレンとして密度が0.93g/cm^(3)を超えるようにし、且つ、「前記第1のポリオレフィン樹脂層の厚さに対する前記第2のポリオレフィン樹脂層の厚さが、1.2倍以上5倍以下」とすることは、当業者といえども、容易に想到し得たということはできない。

(ウ)さらにすすんで、本件特許発明8の効果について検討する。
上記相違点2-2に係る本件特許発明8の構成は、「第1のポリオレフィン樹脂層」が「密度が0.93g/cm^(3)を超える」ものであり、上記相違点2-4に係る本件特許発明8の構成は、「第1のポリオレフィン樹脂層」の「密度が0.93g/cm^(3)以下であ」り、上記相違点2-7に係る本件特許発明8の構成は、密度が0.93g/cm^(3)以下である「第1のポリオレフィン樹脂層」の厚さに対する密度が0.93g/cm^(3)を超える「第2のポリオレフィン樹脂層」の厚さを特定したものである。
すなわち、上記相違点2-2、上記相違点2-4及び上記相違点2-7に係る本件特許発明8の構成を全て備えることにより、本件特許公報の【0016】、【表2】に記載された、「高温度や高湿度の環境条件下で印画した場合に良好なカール安定性を有し、かつ印画物表面の地合に優れる熱転写受像シートようを得ることができる、熱転写受像シート用支持体を提供することができる」という甲第1号証ないし甲第4号証から予測できない効果を奏するものである。

(エ)そうしてみると、当業者といえども、上記相違点2-2、上記相違点2-4及び上記相違点2-7に係る本件特許発明8の構成の全てを備えることは、甲4発明及び甲第1号証ないし甲第4号証に記載された事項に基づいて、容易に想到し得たものとはいえない。

エ むすび
以上のとおり、上記相違点2-2、上記相違点2-4及び上記相違点2-7に係る本件特許発明8の構成の全てを備えることは、当業者であっても、容易になし得たということができないものであるから、他の相違点について言及するまでもなく、本件特許発明8は、当業者といえども、容易に発明をすることができたものということはできない。

(4)本件特許発明9について
ア 対比
本件特許発明9と甲1-2発明とを対比する。

(ア)多孔質層
甲1-2発明の「受容体G」は、「支持体は紙素材であり、これにミクロボイド保有複合材料フィルムPF5が顔料添加ポリオレフィンと共に押出し積層され」るものであって、「顔料を添加したミクロボイドを保有する延伸ポリプロピレンコア」を含む。
甲1-2発明の「延伸ポリプロピレンコア」は、「延伸」されたものであり、「ミクロボイドを保有する」ものである。また、甲1-2発明の「延伸ポリプロピレンコア」は「積層され」るものであるから、「層」をなすとともに「フィルム」の形態を呈することは明らかである。
そうしてみると、甲1-2発明の「延伸ポリプロピレンコア」は、本件特許発明9の「多孔質延伸フィルムからなる多孔質層」に相当する。

(イ)基材層
甲1-2発明の「支持体」は「紙素材であ」る。
甲1-2発明の「支持体」は「層」をなすことは明らかである。
そして、本件特許発明9の「基材層」の材料は、本件特許公報の【0020】の記載からみて、「紙」が規定されている。
そうしてみると、甲1-2発明の「支持体」は、本件特許発明9の「基材層」に相当する。

(ウ)第1のポリオレフィン樹脂層、第2のポリオレフィン樹脂層
甲1-2発明の「受容体G」は、「支持体は紙素材であり、これにミクロボイド保有複合材料フィルムPF5が顔料添加ポリオレフィンと共に押出し積層され、フィルムPF5のミクロボイド保有ポリプロピレンコア側が顔料添加ポリオレフィンと接触し、顔料添加ポリオレフィンはアナターゼ、二酸化チタン(13重量%)およびスチルベン-ベンゾオキサゾール蛍光増白剤(0.03重量%)を含有するポリエチレン(12g/m^(2))であり、紙素材支持体の裏面は高密度ポリエチレン(25g/m^(2))で押出し被覆され」るものである。
甲1-2発明の「顔料添加ポリオレフィン」は「積層され」るものであるから、層をなすことは明らかである。また、甲1-2発明の「高密度ポリエチレン」は「押出し被覆され」るものであるから、層をなすことは明らかである。また、甲1-2発明の「顔料添加ポリオレフィン」及び「高密度ポリエチレン」は、その材料からみて、いずれも「ポリオレフィン樹脂」であることは明らかである。
ここで、甲1-2発明の「顔料添加ポリオレフィン」は、「支持体は紙素材であり、これにミクロボイド保有複合材料フィルムPF5が顔料添加ポリオレフィンと共に押出し積層され、フィルムPF5のミクロボイド保有ポリプロピレンコア側が顔料添加ポリオレフィンと接触」するものであるから、「支持体」に対してミクロボイド保有ポリプロピレンコア側にある。一方で、甲1-2発明の「高密度ポリエチレン」は、「紙素材支持体の裏面は高密度ポリエチレン(25g/m^(2))で押出し被覆され」るものであるから、支持体に対してミクロボイド保有ポリプロピレンコアのない側にある。
ここで、本件特許発明9の「熱転写受像シート用支持体」は、「多孔質延伸フィルムからなる多孔質層と、第1のポリオレフィン樹脂層と、基材層と、第2のポリオレフィン樹脂層と、がこの順で積層された」ものであるから、基材層に対して多孔質層側のポリオレフィン樹脂層を「第1」と、多孔質層のない側のポリオレフィン樹脂層を「第2」と、それぞれ称するものである。
そうしてみると、甲1-2発明の「顔料添加ポリオレフィン」及び「高密度ポリエチレン」は、それぞれ、本件特許発明9の「第1のポリオレフィン樹脂層」及び「第2のポリオレフィン樹脂層」に相当する。

(エ)色材受容層、熱転写受像シート用支持体
甲1-2発明の「受容体Gの製造方法」は、「支持体は紙素材であり、これにミクロボイド保有複合材料フィルムPF5が顔料添加ポリオレフィンと共に押出し積層され、フィルムPF5のミクロボイド保有ポリプロピレンコア側が顔料添加ポリオレフィンと接触し、顔料添加ポリオレフィンはアナターゼ、二酸化チタン(13重量%)およびスチルベン-ベンゾオキサゾール蛍光増白剤(0.03重量%)を含有するポリエチレン(12g/m^(2))であり、紙素材支持体の裏面は高密度ポリエチレン(25g/m^(2))で押出し被覆され、」「フィルムPF5は、顔料を添加したミクロボイドを保有する延伸ポリプロピレンコア(全フィルム厚の約85%)および1面に付与された、白色顔料を添加した、ミクロボイドを含まない延伸ポリプロピレン表面層からな」り、「複合材料フィルム側に、下塗り層、色素受容層、色素受容体オーバーコート層を順次被覆する」ものである。
上記(ア)ないし(ウ)で示したように、甲1-2発明の「延伸ポリプロピレンコア」、「顔料添加ポリオレフィン」、「支持体」及び「高密度ポリエチレン」は、それぞれ、本件特許発明9の「多孔質延伸フィルムからなる多孔質層」、「第1のポリオレフィン樹脂層」、「基材層」及び「第2のポリオレフィン樹脂層」に相当するので、甲1-2発明の「受容体G」は、本件特許発明9の「熱転写受像シート用支持体」に相当する。また、甲1-2発明の「色素受容層」は、技術的にみて、本件特許発明9の「色材受容層」に相当する。
そうしてみると、甲1-2発明の「受容体Gの製造方法」は、本件特許発明9の「少なくとも、多孔質延伸フィルムからなる多孔質層と、第1のポリオレフィン樹脂層と、基材層と、第2のポリオレフィン樹脂層と、が」「積層された」「熱転写受像シート用支持体の製造方法」という要件を満たすものである。また、甲1-2発明の「受容体G」は、本件特許発明9の「前記多孔質層側に色材受容層を設けるための熱転写受像シート用支持体」という要件を満たすものである。

イ 一致点及び相違点
以上より、本件特許発明9と甲1-2発明とは、

「 少なくとも、多孔質延伸フィルムからなる多孔質層と、第1のポリオレフィン樹脂層と、基材層と、第2のポリオレフィン樹脂層と、が積層された、前記多孔質層側に色材受容層を設けるための熱転写受像シート用支持体の製造方法。」
である点で一致し、以下の点で一応相違するか、相違する。

(相違点3-1)
「熱転写受像シート用支持体」が、本件特許発明9は、「少なくとも、多孔質延伸フィルムからなる多孔質層と、第1のポリオレフィン樹脂層と、基材層と、第2のポリオレフィン樹脂層と、がこの順で積層された」のに対して、甲1-2発明の「受容体G」は、甲1-2発明の「延伸ポリプロピレンコア」、「顔料添加ポリオレフィン」、「支持体」及び「高密度ポリエチレン」の順序が、明らかでない点。

(相違点3-2)
「第1のポリオレフィン樹脂層」が、本件特許発明9は、「密度が0.93g/cm^(3)以下である」のに対して、甲1-2発明の「顔料添加ポリオレフィン」は、「アナターゼ、二酸化チタン(13重量%)およびスチルベン-ベンゾオキサゾール蛍光増白剤(0.03重量%)を含有するポリエチレン(12g/m^(2))であ」ることにとどまり、密度は明らかでない点。

(相違点3-3)
「熱転写受像シート用支持体の製造方法」が、本件特許発明9は、「基材層の一方の面上に、押し出しラミネート法により、」「第1のポリオレフィン樹脂を押し出して形成した第1のポリオレフィン樹脂層によって、多孔質延伸フィルムからなる多孔質層と前記基材層とを貼合する工程」「を含」むのに対して、甲1-2発明は、「支持体は紙素材であり、これにミクロボイド保有複合材料フィルムPF5が顔料添加ポリオレフィンと共に押出し積層され、フィルムPF5のミクロボイド保有ポリプロピレンコア側が顔料添加ポリオレフィンと接触し、顔料添加ポリオレフィンはアナターゼ、二酸化チタン(13重量%)およびスチルベン-ベンゾオキサゾール蛍光増白剤(0.03重量%)を含有するポリエチレン(12g/m^(2))であり、フィルムPF5は、顔料を添加したミクロボイドを保有する延伸ポリプロピレンコア(全フィルム厚の約85%)および1面に付与された、白色顔料を添加した、ミクロボイドを含まない延伸ポリプロピレン表面層からなるものである」点。

(相違点3-4)
「第2のポリオレフィン樹脂層」が、本件特許発明9は、「密度が0.93g/cm^(3)を超える」のに対して、甲1-2発明の「高密度ポリエチレン」は、密度が明らかでない点。

(相違点3-5)
「熱転写受像シート用支持体の製造方法」が、本件特許発明9は、「前記基材層の第1のポリオレフィン樹脂層とは反対側の面上に、押し出しラミネート法により」「第2のポリオレフィン樹脂を押し出して第2のポリオレフィン樹脂層を形成する工程と、を含」むのに対して、甲1-2発明は、「紙素材支持体の裏面は高密度ポリエチレン(25g/m^(2))で押出し被覆され」ることにとどまる点。

(相違点3-6)
「第1のポリオレフィン樹脂層」が、本件特許発明9は、「厚さが7μm以上20μm以下であ」るのに対して、甲1-2発明の「顔料添加ポリオレフィン」は、厚さについては明らかでない点。

(相違点3-7)
「第2のポリオレフィン樹脂層」が、本件特許発明9は、「前記第1のポリオレフィン樹脂層の厚さに対する前記第2のポリオレフィン樹脂層の厚さが、1.2倍以上5倍以下である」のに対して、甲1-2発明の「高密度ポリエチレン」は、「(25g/m^(2))で押出し被覆され」ることにとどまり、厚さについては明らかでない点。

ウ 判断
事案に鑑みて、上記相違点3-2、上記相違点3-4及び上記相違点3-7について検討する。

(ア)上記「(1)本件特許発明1 ウ 判断」で示したように、甲第1号証ないし甲第4号証には、基材層の両側にある第1のポリオレフィン樹脂層及び第2のポリオレフィン樹脂層の両方の密度及び厚さの関係について記載も示唆もされていない。
そうしてみると、甲1-2発明の「顔料添加ポリオレフィン」の密度を0.93g/cm^(3)以下とするとともに、「高密度ポリオレフィン」の密度を0.93g/cm^(3)を超えるようにし、且つ、「前記第1のポリオレフィン樹脂層の厚さに対する前記第2のポリオレフィン樹脂層の厚さが、1.2倍以上5倍以下」とすることは、当業者といえども、容易に想到し得たということはできない。

(イ)さらにすすんで、本件特許発明9の効果について検討する。
上記相違点3-2に係る本件特許発明9の構成は、「第1のポリオレフィン樹脂層」の「密度が0.93g/cm^(3)以下であ」り、上記相違点3-4に係る本件特許発明1の構成は、「第2のポリオレフィン樹脂層」の「密度が0.93g/cm^(3)を超える」ものであり、上記相違点3-7に係る本件特許発明9の構成は、密度が0.93g/cm^(3)以下である「第1のポリオレフィン樹脂層」の厚さに対する密度が0.93g/cm^(3)を超える「第2のポリオレフィン樹脂層」の厚さを特定したものである。
すなわち、上記相違点3-2、上記相違点3-4及び上記相違点3-7に係る本件特許発明9の構成を全て備えることにより、本件特許公報の【0016】、【表2】に記載された、「高温度や高湿度の環境条件下で印画した場合に良好なカール安定性を有し、かつ印画物表面の地合に優れる熱転写受像シートようを得ることができる、熱転写受像シート用支持体を提供することができる」という甲第1号証ないし甲第4号証から予測できない効果を奏するものである。

(ウ)そうしてみると、上記相違点3-2、上記相違点3-4及び上記相違点3-7に係る本件特許発明9の構成を全て備えることは、当業者といえども、甲1-2発明及び甲第1号証ないし甲第4号証に記載された事項に基づいて、容易に想到し得たものとはいえない。

エ むすび
以上のとおり、上記相違点3-2、上記相違点3-4及び上記相違点3-7に係る本件特許発明9の構成を全て備えることは、当業者といえども、容易になし得たということができないものであるから、他の相違点について言及するまでもなく、本件特許発明9は、当業者といえども、容易に発明をすることができたものということはできない。

(5)本件特許発明10
本件特許発明10は、本件特許発明8と同じ構成を全て含むものである。
そうすると、本件特許発明10も、本件特許発明8と同じ理由により、容易に発明をすることができたものということはできない。


6 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2020-03-11 
出願番号 特願2015-67335(P2015-67335)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B41M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 野田 定文  
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 井口 猶二
早川 貴之
登録日 2019-06-14 
登録番号 特許第6536121号(P6536121)
権利者 大日本印刷株式会社
発明の名称 熱転写受像シート用支持体および熱転写受像シートならびにそれらの製造方法  
代理人 勝沼 宏仁  
代理人 小島 一真  
代理人 永井 浩之  
代理人 浅野 真理  

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