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審決分類 |
審判 一部申し立て 2項進歩性 H02M 審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 H02M |
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管理番号 | 1360527 |
異議申立番号 | 異議2020-700031 |
総通号数 | 244 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-04-24 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-01-17 |
確定日 | 2020-03-24 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6545310号発明「電力変換装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6545310号の請求項1及び2に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6545310号の請求項1及び2に係る特許についての出願は,平成30年3月22日に出願され,令和1年6月28日にその特許権の設定登録がされ,令和1年7月17日に特許掲載公報が発行された。その後,その特許に対し,令和2年1月17日に特許異議申立人笹井栄治(以下,「申立人」という。)は,特許異議の申立てを行った。 第2 本件発明 特許第6545310号の請求項1及び2の特許に係る発明(以下,「本件発明1」及び「本件発明2」という。)は,それぞれ,その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 水冷冷却である冷却機構、入力された電力を降圧して出力するDC-DCコンバータ、前記DC-DCコンバータの出力する電流値を検出する電流検出装置、前記DC-DCコンバータの温度を検出する温度検出装置、および垂下特性による制御を開始する電流値を温度の値に応じて複数の段階で設定し、前記温度検出装置の検出した温度に応じて前記電流値を切り替えて前記制御を行う制御部を備え、前記制御部は、前記冷却機構の水ぬけ判定を行う冷却器異常判定手段を備え、前記温度検出装置が検出した温度の値が予め定めた第一の閾値を超えると、前記制御を開始する電流値を第一の設定値より小さな第二の設定値とし、冷却器異常と判定すると、前記電流値を第二の設定値より小さな第三の設定値とすることを特徴とする電力変換装置。 【請求項2】 前記制御部は、前記温度の値が前記第一の閾値より大きな第二の閾値を超えると冷却器異常と判定することを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。」 第3 申立理由の概要 1 異議申立理由1(甲第1号証に基づく進歩性欠如)について 本件発明1及び本件発明2は,甲第1号証(特開2017-79520号公報)に記載された発明に基づいて容易に発明できたものである。 したがって,本件発明1及び本件発明2は,特許法29条2項の規定に違反して登録されたものであるから,同法113条2号の規定により登録を取り消されるべきものである。 2 異議申立理由2(サポート要件違反)について 本件発明1及び本件発明2は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではない。 したがって,本件発明1及び本件発明2は,特許法36条6項1号の規定に違反して登録されたものであるから,同法113条4号の規定により登録を取り消されるべきものである。 第4 文献の記載 1 甲第1号証に記載された事項 甲第1号証には,次の事項の記載が認められる。(下線は当審で付加。以下同様。) A 「【0015】 図1に示す電力変換装置10は、入力電圧Vin(たとえば288V)を、所定の出力電圧Vout(たとえば14V)に変換して出力する機能を有している。電力変換装置10の入力端子P1には高電圧バッテリ11が接続され、出力端子P2には低電圧バッテリ12、負荷13、及び上位ECU14が接続される。高電圧バッテリ11は直流電源に相当する。高電圧バッテリ11としては、たとえばバッテリ(二次電池等)や燃料電池などが該当する。低電圧バッテリ12の電圧は、車両に搭載された負荷13や上位ECU14に供給される。負荷13としては、車両補機、ナビECU、メータECU、ブレーキECUなどが該当する。上位ECU14としては、たとえばハイブリッド(HV)車の制御を統合するHV-ECUが該当する。 【0016】 電力変換装置10は、DCDCコンバータ20と、制御装置40と、を備えている。DCDCコンバータ20は、コンデンサC1と、DC-AC変換部21と、トランス22と、整流部23と、平滑部24と、を有している。なお、DC-AC変換部21とトランス22とを合わせて、スイッチング回路とも称される。」 B 「【0023】 制御装置40は、一次コイルW1に流れる入力電流Iin、入力電圧Vin、出力電圧Vout、及び温度Ttに基づいて、出力電圧Voutが目標電圧(たとえば14V)になるように、スイッチング素子Q1?Q4を制御する。制御装置40は、駆動回路41、各種センサ42?45と、コントローラ46と、を有している。」 C 「【0026】 電流センサ44は、トランス22の一次コイルW1に流れる入力電流Iin、すなわちDCDCコンバータ20に入力される電流を検出する。電流センサ44としては、たとえばカレントトランスを採用することができる。電流センサ44は、スイッチング素子Q1?Q4のオン期間中に、一次コイルW1に流れる入力電流を検出し、その検出結果をコントローラ46に出力する。」 D 「【0028】 温度センサ45は、スイッチング素子Q1?Q4(及びフリーホイールダイオード)と、整流素子であるダイオードD1,D2との少なくとも一方の温度を検出し、コントローラ46に出力する。温度センサ45としては、たとえばサーミスタを採用することができる。本実施形態では、図示しない基板上において、スイッチング素子Q1?Q4は隣接配置されており、スイッチング素子Q1?Q4の温度がほぼ同一となる。そのため、温度センサ45をスイッチング素子Q1?Q4の近傍に配置することで、スイッチング素子Q1?Q4の温度Ttを検出する。温度Ttの検出(タイミング)は、任意に設定してよい。温度Ttの変化は、入力電流Iinなどの変化に較べると緩やかである。したがって、温度Ttの検出は、たとえばスイッチング素子Q1?Q4が所定の回数オンするごとに、1回設定してもよい。」 E 「【0030】 コントローラ46は、入力電流Iinに基づいて出力電流Ioutを推定する。出力電流Ioutの推定方法としては、周知の方法を採用することができる。たとえば、入力電圧Vin×入力電流Iin×効率=出力電圧Vout×出力電流Ioutとの関係式から、出力電圧Voutを求めてもよい。効率は定格時の効率であり、コントローラ46のメモリに、予め所定値として記憶される。 …中略… 【0032】 なお、シャント抵抗などにより、出力電流Ioutを直接的に検出することも可能である。しかしながら、出力電流Ioutが大きい場合に、シャント抵抗の電流容量を大きくしなければならず、シャント抵抗自体が大きくなる。このため、本実施形態では、入力電流Iinに基づいて出力電流Ioutを求める方法を採用している。」 F 「【0033】 コントローラ46は、温度センサ45により検出された温度Ttを取得し、温度Ttに基づいてスイッチング素子Q1?Q4の温度Tj(ジャンクション温度)を推定することで、スイッチング素子Q1?Q4の温度Tjを検出する。この温度Tjが、検出温度に相当する。温度Tjの推定方法については後述する。上記したようにスイッチング素子Q1?Q4は隣接配置されており、スイッチング素子Q1?Q4の温度がほぼ同一となるため、温度Tjは、スイッチング素子Q1?Q4のジャンクション温度である。」 G 「【0037】 図2の断面図に示すように、電力変換装置10は、放熱板60と、金属ケース61と、をさらに備えている。放熱板60は、スイッチング素子Q1?Q4やダイオードD1,D2など、DCDCコンバータ20を構成する要素の生じた熱を放熱させるための部材である。放熱板60は、たとえばCuなどの熱伝導性に優れる金属材料を用いて形成されている。本実施形態では、放熱板60の一面60a上に基板62が配置されている。そして、基板62における放熱板60と反対の面側に、スイッチング素子Q1?Q4やダイオードD1,D2が実装されている。なお、図2では、便宜上、代表してスイッチング素子Q1のみを示している。」 H 「【0039】 金属ケース61は、電力変換装置10を収容する部材であり、たとえばアルミダイカスト部品である。金属ケース61の内面61aには、一面60aと反対の面を対向面として、放熱板60が配置されている。金属ケース61と放熱板60との間には、熱伝導性に優れるグリス64が介在している。また、内面61aにおける放熱板60の近傍には、温度センサ45としてのサーミスタが実装されている。金属ケース61の内面61aと反対の面である外面61bが、空冷又は水冷によって冷却されるようになっている。」 I 「【0054】 図4に戻り、ステップS11の処理が終了すると、次いでコントローラ46は、電流制限値ILを設定する(ステップS12)。図6は、電流制限値ILの設定ステップを示している。図5は、ステップS12と後述するステップS19に共通のステップである。 【0055】 図6に示すように、先ずコントローラ46は、ステップS11で検出した温度Tjが、予め設定された閾値温度Tth以上であるか否かを判定する(ステップS40)。そして、温度Tjが閾値温度Tth以上であると判定すると、コントローラ46は、電流制限値ILとして第1制限値IL1を設定する(ステップS41)。一方、温度Tjが閾値温度Tth未満であると判定すると、コントローラ46は、電流制限値ILとして第2制限値IL2を設定する(ステップS42)。第1制限値IL1は温度Tjが高いときに設定される電流制限値ILであり、第2制限値IL2は温度Tjが低いときに設定される電流制限値である。第2制限値IL2は、第1制限値IL1よりも大きい電流値が設定されている。第2制限値IL2は、たとえば負荷の動作状態により見込まれる最大電流を、DCDCコンバータ20から供給できるように、たとえば上記最大電流に所定のマージンを加味して設定されている。」 J「 図1」 2 甲1発明 ア 上記記載事項Aの「電力変換装置10は、DCDCコンバータ20と、制御装置40と、を備えている。」との記載,及び「電力変換装置10は、入力電圧Vin(たとえば288V)を、所定の出力電圧Vout(たとえば14V)に変換して出力する機能を有している。電力変換装置10の入力端子P1には高電圧バッテリ11が接続され、出力端子P2には低電圧バッテリ12、負荷13、及び上位ECU14が接続される。」との記載から,甲第1号証には,“電力変換装置10は,DCDCコンバータ20と,制御装置40とを備え,入力電圧Vinを,所定の出力電圧Voutに変換して出力する機能を有し,電力変換装置10の入力端子P1には高電圧バッテリ11が接続され,出力端子P2には低電圧バッテリ12,負荷13,及び上位ECU14が接続され”ることが記載されているといえる。 イ 上記記載事項Bの「制御装置40は、一次コイルW1に流れる入力電流Iin、入力電圧Vin、出力電圧Vout、及び温度Ttに基づいて、出力電圧Voutが目標電圧(たとえば14V)になるように、スイッチング素子Q1?Q4を制御する。制御装置40は、駆動回路41、各種センサ42?45と、コントローラ46と、を有している」との記載から,甲第1号証には,“制御装置40は,入力電流Iin,入力電圧Vin,出力電圧Vout,及び温度Ttに基づいて,出力電圧Voutが目標電圧になるように制御し,駆動回路41,各種センサ42?45と,コントローラ46と,を有して”いることが記載されているといえる。 ウ 上記記載事項Cの「電流センサ44は、トランス22の一次コイルW1に流れる入力電流Iin、すなわちDCDCコンバータ20に入力される電流を検出する。…中略…電流センサ44は、スイッチング素子Q1?Q4のオン期間中に、一次コイルW1に流れる入力電流を検出し、その検出結果をコントローラ46に出力する。」との記載から,甲第1号証には,“電流センサ44は,トランス22の一次コイルW1に流れる入力電流Iin,すなわちDCDCコンバータ20に入力される電流を検出し,電流センサ44は,スイッチング素子Q1?Q4のオン期間中に,一次コイルW1に流れる入力電流を検出し,その検出結果をコントローラ46に出力”することが記載されているといえる。 エ 上記記載事項Dの「温度センサ45は、スイッチング素子Q1?Q4(及びフリーホイールダイオード)と、整流素子であるダイオードD1,D2との少なくとも一方の温度を検出し、コントローラ46に出力する。」との記載から,甲第1号証には,“温度センサ45は,スイッチング素子Q1?Q4と,整流素子であるダイオードD1,D2との少なくとも一方の温度を検出し,コントローラ46に出力”することが記載されているといえる。 オ 上記記載事項Eの「コントローラ46は、入力電流Iinに基づいて出力電流Ioutを推定する。」及び「なお、シャント抵抗などにより、出力電流Ioutを直接的に検出することも可能である。」との記載から,甲第1号証には,“コントローラ46は,出力電流Ioutを検出”することが記載されているといえる。 また,上記記載事項Fの「コントローラ46は、温度センサ45により検出された温度Ttを取得し、温度Ttに基づいてスイッチング素子Q1?Q4の温度Tj(ジャンクション温度)を推定することで、スイッチング素子Q1?Q4の温度Tjを検出する。この温度Tjが、検出温度に相当する。」との記載,及び上記認定も参照し,甲第1号証には,“コントローラ46は,出力電流Ioutを検出するとともに,温度センサ45により検出された温度Ttを取得し,温度Ttに基づいてスイッチング素子Q1?Q4の温度Tjを推定することで,検出温度Tjを検出”することが記載されているといえる。 カ 上記記載事項Gの「電力変換装置10は、放熱板60と、金属ケース61と、をさらに備えている。放熱板60は、スイッチング素子Q1?Q4やダイオードD1,D2など、DCDCコンバータ20を構成する要素の生じた熱を放熱させるための部材である。」との記載から,甲第1号証には,“電力変換装置10は,放熱板60と,金属ケース61と,を備え,放熱板60は,スイッチング素子Q1?Q4やダイオードD1,D2など,DCDCコンバータ20を構成する要素の生じた熱を放熱させるための部材”であることが記載されているといえる。 キ 上記記載事項Hの「金属ケース61の内面61aには、一面60aと反対の面を対向面として、放熱板60が配置されている。…中略…金属ケース61の内面61aと反対の面である外面61bが、空冷又は水冷によって冷却されるようになっている。」との記載から,甲第1号証には,“金属ケース61の内面61aには,一面60aと反対の面を対向面として,放熱板60が配置され,金属ケース61の内面61aと反対の面である外面61bが,空冷又は水冷によって冷却されるようになって”いることが記載されているといえる。 ク 上記記載事項Iの「コントローラ46は、ステップS11で検出した温度Tjが、予め設定された閾値温度Tth以上であるか否かを判定する…中略…温度Tjが閾値温度Tth以上であると判定すると、コントローラ46は、電流制限値ILとして第1制限値IL1を設定する…中略…温度Tjが閾値温度Tth未満であると判定すると、コントローラ46は、電流制限値ILとして第2制限値IL2を設定する…中略…第1制限値IL1は温度Tjが高いときに設定される電流制限値ILであり、第2制限値IL2は温度Tjが低いときに設定される電流制限値である。第2制限値IL2は、第1制限値IL1よりも大きい電流値が設定されている。」との記載から,甲第1号証には,“コントローラ46は,温度Tjが,予め設定された閾値温度Tth以上であるか否かを判定し,温度Tjが閾値温度Tth以上であると判定すると,コントローラ46は,電流制限値ILとして第1制限値IL1を設定し,温度Tjが閾値温度Tth未満であると判定すると,コントローラ46は,電流制限値ILとして第2制限値IL2を設定し,第1制限値IL1は温度Tjが高いときに設定される電流制限値ILであり,第2制限値IL2は温度Tjが低いときに設定される電流制限値であって,第2制限値IL2は,第1制限値IL1よりも大きい電流値が設定”されていることが記載されているといえる。 ケ 上記記載事項Jに示した図1,及び上記記載事項Gの「スイッチング素子Q1?Q4やダイオードD1,D2など、DCDCコンバータ20を構成する要素」との記載から,「DCDCコンバータ20」は,「スイッチング素子Q1?Q4」をその構成要素の一部として採用しているといえることから,甲第1号証から,“DCDCコンバータ20は,スイッチング素子Q1?Q4を有”することを読取ることができる。 コ 以上上記ア乃至ケより,甲第1号証には,次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。 「電力変換装置10は,DCDCコンバータ20と,制御装置40とを備え,入力電圧Vinを,所定の出力電圧Voutに変換して出力する機能を有し,電力変換装置10の入力端子P1には高電圧バッテリ11が接続され,出力端子P2には低電圧バッテリ12,負荷13,及び上位ECU14が接続され, DCDCコンバータ20は,スイッチング素子Q1?Q4を有し, 制御装置40は,入力電流Iin,入力電圧Vin,出力電圧Vout,及び温度Ttに基づいて,出力電圧Voutが目標電圧になるように制御し,駆動回路41,各種センサ42?45と,コントローラ46と,を有しており, 電流センサ44は,トランス22の一次コイルW1に流れる入力電流Iin,すなわちDCDCコンバータ20に入力される電流を検出し,電流センサ44は,スイッチング素子Q1?Q4のオン期間中に,一次コイルW1に流れる入力電流を検出し,その検出結果をコントローラ46に出力し, 温度センサ45は,スイッチング素子Q1?Q4と,整流素子であるダイオードD1,D2との少なくとも一方の温度を検出し,コントローラ46に出力し, コントローラ46は,出力電流Ioutを検出するとともに,温度センサ45により検出された温度Ttを取得し,温度Ttに基づいてスイッチング素子Q1?Q4の温度Tjを推定することで,検出温度Tjを検出し, 電力変換装置10は,放熱板60と,金属ケース61と,を備え,放熱板60は,スイッチング素子Q1?Q4やダイオードD1,D2など,DCDCコンバータ20を構成する要素の生じた熱を放熱させるための部材であり, 金属ケース61の内面61aには,一面60aと反対の面を対向面として,放熱板60が配置され,金属ケース61の内面61aと反対の面である外面61bが,空冷又は水冷によって冷却されるようになっており, コントローラ46は,温度Tjが,予め設定された閾値温度Tth以上であるか否かを判定し,温度Tjが閾値温度Tth以上であると判定すると,コントローラ46は,電流制限値ILとして第1制限値IL1を設定し,温度Tjが閾値温度Tth未満であると判定すると,コントローラ46は,電流制限値ILとして第2制限値IL2を設定し,第1制限値IL1は温度Tjが高いときに設定される電流制限値ILであり,第2制限値IL2は温度Tjが低いときに設定される電流制限値であって,第2制限値IL2は,第1制限値IL1よりも大きい電流値が設定される, 電力変換装置10。」 第5 当審の判断 1 異議申立理由1(甲第1号証に基づく進歩性欠如)について (1)本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲1発明とを対比する。 (ア)甲1発明の「電力変換装置10」及び「DCDCコンバータ20」はそれぞれ,本件発明1の「電力変換装置」及び「DC-DCコンバータ」に相当する。 (イ)甲1発明の「電力変換装置10」は,「放熱板60と,金属ケース61と,を備え」るものである。そのうち「放熱板60」は,「スイッチング素子Q1?Q4やダイオードD1,D2など,DCDCコンバータ20を構成する要素の生じた熱を放熱させるための部材」であり,また「金属ケース61の内面61aには,一面60aと反対の面を対向面として,放熱板60が配置され,金属ケース61の内面61aと反対の面である外面61bが,空冷又は水冷によって冷却されるようになって」いることから,当該「放熱板60」及び「金属ケース61」からなる冷却の仕組みは,本件発明1の「冷却機構」に相当するといえ,また,「空冷又は水冷によって冷却される」ものであるから,本件発明1と甲1発明とは,“水冷冷却である冷却機構”を備える点で一致する。 (ウ)甲1発明の「電力変換装置10」は,「DCDCコンバータ20」を備え,「入力電圧Vinを,所定の出力電圧Voutに変換して出力する機能を有し,電力変換装置10の入力端子P1には高電圧バッテリ11が接続され,出力端子P2には低電圧バッテリ12,負荷13,及び上位ECU14が接続され」ることから,本件発明1と同様,「入力された電力を降圧して出力する」ものであることは明らかであり,当該降圧を行うのは,専ら「DCDCコンバータ20」によるものと認められるから,上記(ア)の認定も踏まえ,本件発明1と甲1発明とは,“入力された電力を降圧して出力するDC-DCコンバータ”を備える点で一致する。 (エ)甲1発明は,「電流センサ44は,トランス22の一次コイルW1に流れる入力電流Iin,すなわちDCDCコンバータ20に入力される電流を検出し,電流センサ44は,スイッチング素子Q1?Q4のオン期間中に,一次コイルW1に流れる入力電流を検出し,その検出結果をコントローラ46に出力」するとともに,「コントローラ46は,出力電流Ioutを検出する」ものでもあるから,本件発明1と甲1発明とは,“前記DC-DCコンバータの出力する電流値を検出する電流検出装置”に相当する構成を備えている点で一致する。 (オ)甲1発明の「温度センサ45」は,「スイッチング素子Q1?Q4と,整流素子であるダイオードD1,D2との少なくとも一方の温度を検出」するものであり,また,「DCDCコンバータ20は,スイッチング素子Q1?Q4を有」することから,本件発明1と甲1発明とは,“前記DC-DCコンバータの温度を検出する温度検出装置”を備えている点で一致する。 (カ)甲1発明の「電力変換装置10」が備える「制御装置40」は「コントローラ46」を有し,当該「コントローラ46」は,本件発明1の「制御部」に相当する。そして甲1発明の「コントローラ46」は,「温度センサ45により検出された温度Tt」に基づいて「スイッチング素子Q1?Q4の温度Tj」を推定し,当該「温度Tjが,予め設定された閾値温度Tth以上であるか否かを判定し,温度Tjが閾値温度Tth以上であると判定すると,コントローラ46は,電流制限値ILとして第1制限値IL1を設定し,温度Tjが閾値温度Tth未満であると判定すると,コントローラ46は,電流制限値ILとして第2制限値IL2を設定」するものである。したがって,「コントローラ46」により電流値が温度の値に応じて設定されているといえるから,上記(オ)の認定も踏まえ,本件発明1と甲1発明とは,“電流値を温度の値に応じて複数の段階で設定し,前記温度検出装置の検出した温度に応じて前記電流値を切り替えて制御を行う制御部”を備える点で一致する。 (キ)甲1発明は,「温度Tjが閾値温度Tth以上であると判定すると,コントローラ46は,電流制限値ILとして第1制限値IL1を設定」するものであり,当該「閾値温度Tth」は,予め定められた第一の閾値といい得るものである。甲1発明はまた,「温度Tjが閾値温度Tth未満であると判定すると,コントローラ46は,電流制限値ILとして第2制限値IL2を設定」するとともに,「第2制限値IL2は,第1制限値IL1よりも大きい電流値が設定される」ことから,甲1発明の「第1制限値IL1」及び「第2制限値IL2」はそれぞれ,本件発明1の「第二の設定値」及び「第一の設定値」に相当するといえ,以上総合すると本件発明1と甲1発明とは,“前記制御部は,前記温度検出装置が検出した温度の値が予め定めた第一の閾値を超えると,前記制御を開始する電流値を第一の設定値より小さな第二の設定値とする”点で一致する。 (ク)以上,上記(ア)乃至(キ)の対比より,本件発明1と甲1発明とは,以下の一致点及び相違点を有する。 〈一致点〉 水冷冷却である冷却機構,入力された電力を降圧して出力するDC-DCコンバータ,前記DC-DCコンバータの出力する電流値を検出する電流検出装置,前記DC-DCコンバータの温度を検出する温度検出装置,および電流値を温度の値に応じて複数の段階で設定し,前記温度検出装置の検出した温度に応じて前記電流値を切り替えて制御を行う制御部を備え,前記制御部は,前記温度検出装置が検出した温度の値が予め定めた第一の閾値を超えると,前記制御を開始する電流値を第一の設定値より小さな第二の設定値とすることを特徴とする電力変換装置。 〈相違点1〉 本件発明1の「制御部」が,「前記冷却機構の水ぬけ判定を行う冷却器異常判定手段」を備えるとともに,「冷却器異常と判定すると、前記電流値を第二の設定値より小さな第三の設定値とする」のに対し,甲1発明は,「温度Tjが,予め設定された閾値温度Tth以上であるか否かを判定」した上で,「電流制限値ILとして第1制限値IL1」若しくは「第1制限値IL1よりも大きい電流値」である「第2制限値IL2」を設定するものであるものの,冷却器異常判定手段を有することや,電流値を第二の設定値より小さな第三の設定値とすることを特定するものではない点。 〈相違点2〉 本件発明1の「制御部」が制御する「電流値」は,「垂下特性による制御を開始する」電流値であるのに対し,甲1発明は,「温度Tj」と「予め設定された閾値温度Tth」との比較結果に応じて,「電流制限値IL」として「第1制限値IL1」や「第2制限値IL2」などを設定するものの,これらの電流値が,垂下特性による制御を開始する電流値であることの特定がない点。 イ 判断 上記相違点1について検討する。 甲1発明は概略,ハイブリッド車や電気自動車などの電動車両において,EPB(Electric Parking Brake)やバイワイヤによるEPS(Electric Power Steering)など,近年の電動化により,一時的に比較的大きな電流を使う負荷が増えてきていることを背景とし(甲第1号証段落0006),DCDCコンバータから当該一時的な大電流を供給する場合,当該DCDCコンバータの電流容量,たとえばスイッチング素子や整流素子などの電流容量を大きくしなければならず,DCDCコンバータの小型化が困難となり,コストが増加することを解決しようとする課題とする(同段落0007)ものである。 一方本件発明1は,垂下特性を持ったDC-DCコンバータでは,過電流領域において出力電圧が制限されるため,半導体スイッチング素子の温度(本件明細書段落0003)が停止温度に達するのを妨げることができ,DC-DCコンバータの出力を制限した状態が継続される場合においても,低圧バッテリの充電を継続することができるため,低圧バッテリのエンジンの始動性が悪化するという問題を抑制することができることを背景とし(同段落0006),DC-DCコンバータを冷却する冷却水の水温が急激に上昇した場合などの冷却器の異常においては,出力電圧制限だけでは,部品が故障してしまう恐れがあることを解決しようとする課題とするものである(同段落0007)。 してみれば,本件発明1において,冷却水による冷却器異常を検知してこれに対処することは,本件発明1の課題を解決するためには必要不可欠な構成といえる一方で,甲1発明においては,本件発明1において生じる冷却器異常に伴う課題は存在せず,スイッチング素子や整流素子などの電流容量の拡大化に伴う従前の課題を前提とした甲1発明にあっては,そもそも素子の冷却異常を判定することの着想に至る動機付けが存在しないというべきである。 したがって,甲1発明において,「前記冷却機構の水ぬけ判定を行う冷却器異常判定手段」を設け,この判定結果によって,電流値を第1制限値IL1よりもさらに小さな電流値を設定することまでを想起することは,当業者にとって容易になし得たとまではいうことができない。 この点につき申立人は,令和2年1月17日付け特許異議申立書(以下単に「申立書」という。)において, 「本件特許発明1は、制御部が、冷却機構の水ぬけ判定を行う冷却器異常判定手段を備えるのに対し、甲1発明は、かかる構成が明示的には記載されていない点。」 として相違点を認定した上, 「本件特許明細書において、「冷却機構の水ぬけ判定を行う冷却器異常判定手段」との文言は【0009】に記載があるのみであり、他に説明がない。そこで、当該文言を、本件特許明細書及び図面を考慮して解釈する。 …中略… 本件特許明細書中の「水抜け」との文言及び「水ぬけ」との文言が記載された16箇所には、水抜けあるいは水ぬけ自体を検出する機構について記載されている箇所はない。いずれの箇所でも、冷却器の「温度」の上昇に基づき、水抜け状態あるいは冷却器異常と判定している(例えば、【0047】参照)。「温度」だけを検出して「冷却器異常」を判定する電力変換装置であれば、公知の電力変換装置に過ぎない。 従って、冷却機構の水ぬけ判定を行う冷却器異常判定手段は文言上の相違に過ぎない。 なお、【0048】には、ECUを用いて、冷却水の状況を取得する構成について記載はあるが、本件特許発明1が「温度」だけを検出して「冷却器異常」を判定する電力変換装置を含む点に変わりはない。」 との主張を行っているので,以下これを判断する。 本件発明1において,「冷却機構の水ぬけ判定を行う冷却器異常判定手段」は「制御部」に備えられるものである。そして申立人が主張するとおり,本件明細書の段落0047には,「実施の形態5の電力変換装置では、制御部2は温度センサSnsTLによって検出された温度の値によって、パワーセーブ制御および水ぬけ検知の判定を行う。」ことが記載され,また,同段落0048には「本実施の形態に係る電力変換装置では、制御部2は温度センサSnsTLによって検出された温度の値によって冷却器異常と判定したが、これに限り(原文ママ)ものではなく、電力変換装置の外部にあるECU例えばウォーターポンプ等の冷却装置を監視しているECUからCAN等の通信線を使って冷却水の状況を取得しても良く。この場合は、外部信号の結果をもって冷却器異常を判定する。」ことも記載され,これらの記載から,「冷却機構の水ぬけ判定を行う冷却器異常判定手段」は,「制御部」において,温度検出以外の何らかの手段によっても水抜けが発生したことを判定できるものであれば良いことを十分に読み取ることができるから,「冷却機構の水ぬけ判定を行う冷却器異常判定手段」を,単に文言上の相違であるとすることはできない。 そして上記判断のとおり,甲1発明においては,温度の検出自体は行っているものの,これを冷却機構の水抜け判定に用いることを導く動機付けに欠くものであるから,かかる申立人の主張は理由がない。 したがって,本件発明1は,その他相違点2について判断するまでもなく,甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易になし得たものとはいえない。 (2)本件発明2について 本件発明2は,本件発明1に対して,さらに「前記制御部は、前記温度の値が前記第一の閾値より大きな第二の閾値を超えると冷却器異常と判定する」という技術的事項を追加したものである。よって,上記(1)に示した理由と同様の理由により,本件発明2は,上記甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易になし得たものとはいえない。 (3)小括 以上のとおり,本件発明1及び本件発明2は,甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 2 異議申立理由2(サポート要件違反)について 異議申立理由2,すなわち特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 以下,この観点に立って,判断する。 (1)本件発明1について ア 各構成要素が発明の詳細な説明に記載されたものかどうかの判断 申立人は,申立書において, 「(1)本件特許明細書の【0045】に「制御部2は、水抜け検出機構を備えており、制御部2が水抜け状態(冷却器異常)と判断すると、制御部2は垂下開始電流値をパワーセーブ時の垂下開始電流値(Ib)よりさらに小さい垂下開始電流Icに設定する。」(下線は出願人(原文ママ(当審注:申立人の誤記と認められる。))が付与。)との記載があるが、「水抜け検出機構」と本件特許発明1の「冷却器異常判定手段」との対応関係が不明瞭である。 従って、請求項1及びそれを引用する請求項2に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。 (2)請求項1の「冷却器異常判定手段」は、温度検出装置で検出された温度と閾値を比較しているだけであり、 実質的な水ぬけ判定を行っていない。 従って、請求項1及びそれを引用する請求項2に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。」 との主張を行っていて,本件発明1における,特に「前記冷却機構の水ぬけ判定を行う冷却器異常判定手段」との特定事項に関するサポート要件違反をいうものであるから,以下この点について検討を行う。 本件明細書の段落0018及び段落0044乃至0049にはそれぞれ,次の記載が認められる。 「【0018】 S103にて、制御部2はパワーセーブ制御実行中において、出力電圧、出力電流およびセンサ温度を読み込む。次に、S104にて、温度センサ値が閾値Tht2を超えているか否かを判定する。温度センサ値が閾値Tth2以上の場合(S104にてYES)、処理はS105に移される。S105にて、制御部2は冷却器異常と判定され、出力電流を抑制させるために垂下制御の開始電流をIbからIcに切り替える。例えば、温度検出装置が検出する温度の値が第一の閾値を超えると、垂下特性による制御を開始する電流値を第一の設定値より小さな第二の設定値とすることになる。」 「【0044】 実施の形態5. 実施の形態5における、電力変換装置について説明する。実施の形態5の電力変換装置は回路構成は、実施の形態1と同じである。実施の形態5の電力変換装置は水冷冷却機構を備えた水冷を前提としており、実施の形態5では、冷却器に冷却水が入ってこない場合の水抜け状態時の冷却異常時に対するフェールセーフ制御方法に関するものである。 【0045】 制御部2は、水抜け検出機構を備えており、制御部2が水抜け状態(冷却器異常)と判断すると、制御部2は垂下開始電流値をパワーセーブ時の垂下開始電流値(Ib)よりさらに小さい垂下開始電流Icに設定する。出力電流Icは、冷却器に水が流れていなくても部品が故障しない範囲で出力可能な電流値である。 このときの出力電圧と出力電流の関係を図11に示す。 【0046】 通常、このような冷却器異常が発生すると部品温度が耐熱温度を越える可能性がるため動作を停止するが、車両を運転しているユーザが何も気づかずに低圧系のアクセサリー等の電子部品(例えば、オーディオあるいは空調)を使い続けていると、バッテリが劣化し、最悪の場合には、バッテリが過放電になり、電気機器が動作しなくなる。このため、実施の形態5に係る電力変換装置におけるパワーセーブ制御方法は、冷却器が水ぬけなどの異常状態においても、DC-DCコンバータが正常であれば、少しでも電流を低圧バッテリ13に出力し、バッテリを充電させることでこのような問題を抑制することができ、走行を継続できるようにすることでリンプホーム対策にもつながる。 【0047】 図12に実施の形態5の電力変換装置における、出力電流と温度センサのタイムチャートを示す。実施の形態5の電力変換装置では、制御部2は温度センサSnsTLによって検出された温度の値によって、パワーセーブ制御および水ぬけ検知の判定を行う。図12では、まず、出力電流Ioutが垂下開始電流Ib以上のときに、t=t0にて、水ぬけが発生したとする。このとき、正常に冷却できなくなるため部品の温度が上昇し、温度センサSnsTLにて検出する部品の温度の値も上昇する。ここで、制御部2は温度センサSnsTLの温度が第一の閾値Tth1に到達したとき、パワーセーブ制御を行うため垂下開始電流をIbに低下させる(t=t1)。次に、単純に水温が高いだけだと、ある程度の冷却が可能であるが、水が抜けているためほぼ空冷状態となり冷却器の温度はかなり上昇している。このため、出力電流Ibで制限しても、部品の温度は上昇し続ける。次に、制御部2は温度センサSnsTLの温度が第二の閾値Tth2に到達したとき、制御部2は水抜け状態(冷却器異常)と判定し、制御部2は垂下開始電流をIcまで下げる(t=t2)。 【0048】 本実施の形態に係る電力変換装置では、制御部2は温度センサSnsTLによって検出された温度の値によって冷却器異常と判定したが、これに限りものではなく、電力変換装置の外部にあるECU例えばウォーターポンプ等の冷却装置を監視しているECUからCAN等の通信線を使って冷却水の状況を取得しても良く。この場合は、外部信号の結果をもって冷却器異常を判定する。 【0049】 また冷却器異常を判定する方法として、電力変換装置は、温度センサSnsTLである例えばサーミスタを複数供え、各温度センサはパワーセーブ制御用と水抜け検知用(冷却器異常判定用)に夫々機能を持たせ、制御部2は水ぬけ検知用の温度センサによって検出された温度の値から冷却器異常と判定してもよい。このとき、水抜け検知用の温度センサは、水抜け時にもっとも温度が高くなる部品に取り付けることで、実施の形態5の電力変換装置と同様に水ぬけ時においても停止することなく可能な限り電力を供給できるという効果を得られると共に検出精度、検出速度を高めることができる効果を奏する。」 以上の記載から,「前記制御部は、前記冷却機構の水ぬけ判定を行う冷却器異常判定手段を備え」との本件発明1の特定事項に対し,「制御部2」が,「水抜け状態(冷却器異常)と判断」すること(段落0045),「水ぬけ検知の判定を行う」こと(段落0047),及び「水抜け状態(冷却器異常)と判定」すること(段落0047)などを行うことが記載されている。また,「冷却器異常」の判定が「電力変換装置の外部にあるECU例えばウォーターポンプ等の冷却装置を監視しているECUからCAN等の通信線を使って冷却水の状況を取得」することによって,「外部信号の結果をもって冷却器異常を判定する」こと(段落0048)も記載されていて,当該判定は,「制御部2」によって行われるものであることが記載されているといえる。さらに,複数のサーミスタなどを用いてそのうち一部を「水抜け検知用」として採用し,「制御部2」が水抜けを判断すること(段落0049)も記載されているから,特許請求の範囲に記載された「前記制御部は、前記冷却機構の水ぬけ判定を行う冷却器異常判定手段を備え」との特定事項は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載により十分支持されているといえる。 イ 発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できるものと認識できる範囲のものであるか否かの判断 まず,本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づき,本件発明1の課題がどのようなものであるかについて検討する。 本件発明1は,上記1(1)イに示したとおり,垂下特性を持ったDC-DCコンバータでは,過電流領域において出力電圧が制限されるため,半導体スイッチング素子の温度(本件明細書段落0003)が停止温度に達するのを妨げることができ,DC-DCコンバータの出力を制限した状態が継続される場合においても,低圧バッテリの充電を継続することができるため,低圧バッテリのエンジンの始動性が悪化するという問題を抑制することができることを背景とし(同段落0006),DC-DCコンバータを冷却する冷却水の水温が急激に上昇した場合などの冷却器の異常においては,出力電圧制限だけでは,部品が故障してしまう恐れがあることを解決しようとする課題とするものである(同段落0007)。 そして,上記アにおいて引用した本件明細書段落0044乃至0049の記載によれば,制御部2が冷却機構の水ぬけ判定を行って,冷却器異常と判定されたら,垂下開始電流をIb(第二設定値)よりも小さなIc(第三設定値)に設定することにより上記課題を解決できるものと認識できるものである。 したがって,本件発明1は,発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できるものと認識できる範囲のものであるといえる。 ウ むすび 以上,ア及びイの検討から,特許請求の範囲の請求項1の記載は,特許法36条6項1号に規定する要件を満たさず,特許を受けることができないものとすることはできない。 (2)本件発明2について 本件発明2は,本件発明1に対してさらに「前記制御部は、前記温度の値が前記第一の閾値より大きな第二の閾値を超えると冷却器異常と判定する」(以下,「本件発明2特定事項」という。)ことを特定するものであるが,上記(1)アにおいて引用した本件明細書段落0044乃至0049の記載によれば,まず温度センサSnsTLが第一の閾値Tth1を示した際に垂下開始電流をIbに低下させた上,さらに温度センサSnsTLが第二の閾値Tth2に達したことにより,冷却値異常と判定していることから,本件発明2特定事項は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載により十分支持されているといえる。 また本件発明2は,本件発明1に対して,上記本件発明2特定事項によってさらに限定するものであり,本件発明2の解決しようとする課題は,本件発明1の解決しようとする課題と共通するものである。 したがって,上記(1)に示したとおり,本件発明2は,発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できるものと認識できる範囲のものであるといえる。 (3)小括 以上のとおり,本件発明1及び本件発明2は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであり,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できる範囲のものであるから,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものでなく,同法113条4号の規定により取り消されるべきものでない。 第6 むすび したがって,特許異議の申立ての理由及び証拠によっては,請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。 また,他に請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2020-03-13 |
出願番号 | 特願2018-53924(P2018-53924) |
審決分類 |
P
1
652・
537-
Y
(H02M)
P 1 652・ 121- Y (H02M) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 山崎 雄司、麻生 哲朗、小林 秀和 |
特許庁審判長 |
田中 秀人 |
特許庁審判官 |
山崎 慎一 松平 英 |
登録日 | 2019-06-28 |
登録番号 | 特許第6545310号(P6545310) |
権利者 | 三菱電機株式会社 |
発明の名称 | 電力変換装置 |
代理人 | 村上 啓吾 |
代理人 | 竹中 岑生 |
代理人 | 吉澤 憲治 |
代理人 | 大岩 増雄 |