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審決分類 審判 判定 同一 属さない(申立て不成立) C12P
管理番号 1360530
判定請求番号 判定2019-600025  
総通号数 244 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2020-04-24 
種別 判定 
判定請求日 2019-09-18 
確定日 2020-02-25 
事件の表示 上記当事者間の特許第3753358号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号物件は、特許第3753358号の特許請求の範囲の請求項3に係る発明の技術的範囲に属しない。 
理由 第1 請求の趣旨
本件判定の請求の趣旨は、NUProtein株式会社が販売している無細胞タンパク質合成キットPSS3050に含まれる「Wheat Germ Extract」(以下「イ号物件」という。)は、特許第3753358号(以下「本件特許」という。)の特許請求の範囲の請求項3に係る発明(以下「本件特許発明」という。)の技術範囲に属する、との判定を求めるものである。

第2 手続の経緯
本件特許発明に係る特許出願は、平成11年2月24日に出願され、平成17年12月22日にその特許権の設定登録がされ、平成31年2月24日に存続期間が満了して登録が抹消されたものである。そして、令和1年9月18日に本件判定請求がされ、同年11月19日に被請求人より答弁書が提出され、令和2年1月7日に請求人より弁駁書が提出された。

第3 本件特許発明
本件特許の特許請求の範囲の記載によれば、本件特許の請求項1?3は、以下のとおりである。
「【請求項1】
コムギ、オオムギ、イネ、コーン及びホウレンソウのいずれか1由来の胚芽画分から該胚芽画分に混入する胚乳を完全に除去することを特徴とする無細胞タンパク質合成用胚芽抽出液。
【請求項2】
胚乳を完全に除去することが、リボソームが実質的に脱アデニン化されない程度まで胚乳が取り除かれていることを特徴とする請求項1の無細胞タンパク質合成用胚芽抽出液。
【請求項3】
リボソームが実質的に脱アデニン化されない程度まで胚乳が取り除かれていることが、リボソームの脱アデニン化率が7%未満であることを特徴とする請求項2の無細胞タンパク質合成用胚芽抽出液。」

上記のとおり、本件特許発明に係る請求項3は請求項2を引用して記載され、請求項2は請求項1を引用して記載されているところ、独立形式で記載すると、本件特許発明は、以下のとおりのものと認める。(合議体において、構成要件毎に分説し、記号AないしEを付した。以下「構成要件A」などという。)
「A コムギ、オオムギ、イネ、コーン及びホウレンソウのいずれか1由来の
B 胚芽画分から該胚芽画分に混入する胚乳を完全に除去することを特徴とする無細胞タンパク質合成用胚芽抽出液であって、
C 胚乳を完全に除去することが、リボソームが実質的に脱アデニン化されない程度まで胚乳が取り除かれていることを特徴とし、
D リボソームが実質的に脱アデニン化されない程度まで胚乳が取り除かれていることが、リボソームの脱アデニン化率が7%未満であることを特徴とする、
E 無細胞タンパク質合成用胚芽抽出液。」

第4 イ号物件について
請求人は、イ号物件を説明するものとして、判定請求書とともに、甲第2号証及び甲第3号証を提出している。

1 甲第2号証及び甲第3号証の記載事項
甲第2号証は、「NUProtein 無細胞タンパク質合成キット PSS3050 プロトコール」と題される、2018年5月にNUProtein株式会社が作成したプロトコールの写しであって、その17頁の「翻訳」の「翻訳反応溶液の調製」の項には、翻訳反応溶液の組成として以下の記載がある。



甲第3号証は、「同梱品リスト ロット:173AA 2017/6/13」と題される書面の写しであって、以下の記載がある。
「Wheat Germ ExtractとAmino Acid Mixは-80℃、その他は-20℃にて保存下さい

・・・
サポート・お問合せ先:
NUProtein株式会社
・・・」

2 イ号物件
甲第2号証及び甲第3号証の上記記載から、「Wheat Germ Extract」は、NUProtein株式会社の無細胞タンパク質合成キットPSS3050に含まれる試薬であって、無細胞タンパク質合成の翻訳工程の翻訳反応溶液の調製に使用するためのものであるといえる。
ここで、無細胞タンパク質合成の翻訳工程の翻訳反応溶液の調製に使用するためのものは、無細胞タンパク質合成用のものであること、「Wheat Germ Extract」の日本語訳は「コムギ胚芽抽出液」であること、「コムギ胚芽抽出液」がコムギ由来の胚芽を抽出原料として調製された抽出液を意味することは、いずれも明らかであるから、イ号物件は、以下のとおりのものであると認める。(合議体において、本件特許発明に対応するように分説し、記号aないしcを付した。以下「構成a」などという。)
「a:コムギ由来の
b:胚芽を抽出原料として調製された、
c:無細胞タンパク質合成用胚芽抽出液。」

第5 判断
イ号物件が本件特許発明の各構成要件を充足するか否かについて、以下に検討する。

1 構成要件A、Eについて
イ号物件の構成a及びcはそれぞれ、構成要件A及びEを充足する。

2 構成要件Bについて
「胚芽抽出液」が胚芽を抽出原料として調製され、それによって、当該抽出原料に由来する抽出成分を含む抽出液であることは明らかであるから、構成要件Bの「胚芽画分から該胚芽画分に混入する胚乳を完全に除去することを特徴とする胚芽抽出液」は、本件特許発明の胚芽抽出液が、「混入する胚乳を完全に除去」した「胚芽画分」に由来する抽出成分を含むものであることを特定するものと認められる。そして、「混入する胚乳を完全に除去」した「胚芽画分」は、胚乳に由来する成分を含まないから、前記胚芽抽出液も胚乳に由来する成分を含まないものといえる。
ここで、胚乳に由来する成分について、本件特許明細書には、以下の記載がある。(下線は合議体による。)
ア「【0004】
・・・最近コムギチオニンが胚乳に局在すること、およびこのタンパク質が翻訳開始反応を阻害することによって、タンパク質合成を強く阻害することが明らかにされた(・・・)。」
イ「【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、コムギ種子の特異的阻害物質(リボソーム不活性化物質)が胚乳に局在し、機械的、化学的処理により排除可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。」
ウ「【0008】
【発明の実施の形態】
本発明の胚芽抽出液は、胚乳部分をほぼ完全に除去した胚芽を使用することを特徴とするものである。前述したように、従来のいわゆる「胚芽抽出液」は胚乳部分が十分に除去されておらず、内因性の特異的阻害物質を含んだままの状態のものであった。
本発明の胚芽抽出液を調製するためには、内因性の特異的阻害物質を含む胚乳をほぼ完全に取り除き、胚芽を純化する必要がある。」
エ「【0012】
以下、本発明について、コムギ胚芽の系を例に更に詳細に説明する。本発明者らは、混入する胚乳由来の物質を除去することを目的としてコムギ種子からミルを用いて分離した粗胚芽画分の洗浄方法を検討した。その結果、5’FMPなどを含む水溶液に分散した粗胚芽画分を超音波処理することによって、胚乳由来のタンパク質の胚芽画分への混入をほぼ完全に除外することが可能となった。図2Aには、抗トリチン抗体を用いたイムノブロット法で、トリチンを指標として、超音波洗浄前後の胚乳タンパク質の混入度を検定したものであるが、超音波洗浄によってトリチン含量が検出限度以下になっていることが分かる。この洗浄胚芽を材料として調製したコムギ胚芽無細胞タンパク質合成系においては、リボソームの脱アデニン化は認められない(図2B)。
結果は示さないが、胚乳に局在することが知られている、チオニンの混入程度をトリチンの場合と同様な方法で調べたところ、本超音波洗浄法によって胚芽画分からほぼ完全に除去されていることが明らかとなった。」

本件特許明細書の上記ア?エの記載事項から、トリチン、チオニンのようなリボソーム不活性化物質は胚乳に局在しており、「混入する胚乳を完全に除去」した「胚芽画分」にはほぼ完全に含まれず、それによって、この「胚芽画分」を抽出原料とする抽出液においても、胚乳に局在するリボソーム不活性化物質の混入はほぼ完全にないものと認められる。
そうすると、構成要件Bは、本件特許発明の胚芽抽出液について、少なくとも、「胚乳に局在するリボソーム不活性化物質の混入がほぼ完全にないこと」を特定しているものと認められる。なお、請求人も、本件特許発明に係る特許出願の拒絶査定不服審判請求の審判請求書の平成17年8月19日付け手続補正書の「6-3.理由3、4について」の第2段落において、「手続補正書で提出した補正後請求項に記載の無細胞タンパク質合成用胚芽抽出液は、胚芽画分から該胚芽画分に混入するトリチン、リボヌクレアーゼ等である内因性タンパク質合成阻害因子を含む胚乳が完全に除去されている。」と述べている。
一方、イ号物件の構成bは、胚芽抽出液が胚芽を抽出原料として調製されたものであることを特定するにとどまり、胚乳に局在するリボソーム不活性化物質のイ号物件における有無は不明である。また、イ号物件の抽出原料がどのような胚芽であるかは不明であって、本件特許明細書で従来技術として挙げられている「胚乳部分が十分に除去されておらず、内因性の特異的阻害物質を含んだままの状態のもの」(上記ウ)である可能性もあるから、イ号物件が、「胚乳に局在するリボソーム不活性化物質の混入がほぼ完全にないもの」であることを推認することもできない。そして、イ号物件において、胚乳に局在するリボソーム不活性化物質の混入がほぼ完全にないことを証明するに足る証拠は提出されていない。
よって、イ号物件が構成要件Bを充足するとはいえない。

3 構成要件Cについて
構成要件Cにおける「胚乳を完全に除去すること」は、構成要件Bの「胚芽画分から該胚芽画分に混入する胚乳を完全に除去すること」に相当するから、構成要件Cは、本件特許発明の胚芽抽出液の抽出原料の「胚芽画分」について、構成要件Bで「混入する胚乳を完全に除去」したとされていたものを「リボソームが実質的に脱アデニン化されない程度まで胚乳が取り除かれている」と特定するものである。そうすると、構成要件Cは、構成要件Bで特定していると認められる「胚乳に局在するリボソーム不活性化物質の混入がほぼ完全にない胚芽抽出液」について、その混入しない程度を更に特定しているものと認められる。
したがって、上記2にて既に検討したとおり、イ号物件が構成要件Bを充足するとはいえないのであるから、イ号物件が構成要件Cを充足するということもできない。

4 構成要件Dについて
(1)「リボソームの脱アデニン化率が7%未満である」について
構成要件Dの「リボソームが実質的に脱アデニン化されない程度まで胚乳が取り除かれていることが、リボソームの脱アデニン化率が7%未満であることを特徴とする」は、文言上は、「リボソームの脱アデニン化率が7%未満である」ことが「リボソームが実質的に脱アデニン化されない程度まで胚乳が取り除かれていること」に相当するかのように記載されている。
しかし、以下に述べるとおり、「リボソームの脱アデニン化率が7%未満である」ことは「リボソームが実質的に脱アデニン化されない程度まで胚乳が取り除かれていること」に直ちには相当しない。
すなわち、本件特許明細書には、「【0018】・・・Formycin 5'-phosphate (以下、5’FMP)はRNA N-グリコシダーゼの拮抗阻害剤であるが(J. Ren et al. (1994) Structure, 2, 7-16 )、胚芽抽出液を5’FMP存在下に調製するとともに反応液中にも添加すると、トリチンによるこのリボソームの脱アデニン化反応が、阻止できることが分かった」(下線は合議体による。)と記載されており、胚芽抽出液におけるリボソームの脱アデニン化率は、トリチンが存在していても、脱アデニン化の抑制剤の存在により低下することが認められる。
また、本件特許明細書の段落【0005】にて引用される特開平7-203984号公報にも、胚芽抽出液に含まれるトリチンをトリチン抗体で除去することによって、胚芽抽出液におけるリボソームの脱アデニン化率を低下させ得ることが示されており(同公報の【0029】?【0030】、図1のレーン7を参照。)、このような場合、胚乳に局在する他のリボソーム不活性化物質が残存しても、トリチンの低減によりリボソームの脱アデニン化率は低下することが認められる。
そうすると、「リボソームの脱アデニン化率が7%未満である」胚芽抽出液であっても、「胚乳に局在するリボソーム不活性化物質の混入がほぼ完全にない胚芽抽出液」とは異なる胚芽抽出液が存在するから、「リボソームの脱アデニン化率が7%未満である」胚芽抽出液であれば、「胚乳に局在するリボソーム不活性化物質の混入がほぼ完全にないもの」であるということにはならない。
よって、リボソームの脱アデニン化率が7%未満である」ことは「リボソームが実質的に脱アデニン化されない程度まで胚乳が取り除かれていること」に直ちには相当しない。

(2)構成要件Dの充足
そうすると、構成要件Dは、文言どおり、「リボソームの脱アデニン化率が7%未満である」ことのみをもって足りるものではなく、「リボソームの脱アデニン化率が7%未満である」ことに加えて、「リボソームが実質的に脱アデニン化されない程度まで胚乳が取り除かれていること」、すなわち、構成要件Cも充足しなければならない。
しかしながら、上記3にて既に検討したとおり、イ号物件が構成要件Cを充足するとはいえないのであるから、イ号物件が構成要件Dを充足するということはできない。

5 小括
以上のとおりであるから、イ号物件は本件特許発明の構成要件B、C及びDを充足しない。

第6 請求人の主張について
1 請求人は、請求書において、
「NUProtein株式会社の無細胞タンパク質合成キットPSS3050に含まれる「Wheat Germ Extract」の脱アデニン化率を測定した実験の結果を示し、その脱アデニン化率が7%未満であったから、イ号物件は本件特許発明の構成要件を充足する」旨を主張し、
また、弁駁書においても、
「請求項3の文言では、「リボソームが実質的に脱アデニン化されない程度まで胚乳が取り除かれていること」が「リボソームの脱アデニン化率が7%未満である」ことが明記されており、すなわち、請求項2の「リボソームが実質的に脱アデニン化されない程度まで胚乳が取り除かれていること」という要件が「リボソームの脱アデニン化率が7%未満」であるということを意味するので、請求人はイ号物件で「胚乳が除去されている」ことを特定する必要はなく、「リボソームの脱アデニン化率が7%未満である」ことを特定すれば足りる。」(弁駁書4頁26?32行)旨を主張する。
しかし、上記第5の4(1)にて検討したとおり、「リボソームの脱アデニン化率が7%未満である」ことが、「リボソームが実質的に脱アデニン化されない程度まで胚乳が取り除かれていること」に該当しない場合があり、イ号物件が本件特許発明の構成要件を充足するといえるためには、イ号物件のリボソームの脱アデニン化率が7%未満であることのみでなく、胚乳に局在するリボソーム不活性化物質の混入がイ号物件においてほぼ完全にないことも示されなければならない。
よって、請求人の上記の主張は採用できない。

2 請求人は、弁駁書において、「本件特許発明は物の発明である。被請求人が開示する必要があるのはイ号物件のリボソームの脱アデニン化率である。」(弁駁書3頁22?23行)、「被請求人が主張するような、イ号物件において、胚芽画分から胚乳が除去されているのか、さらに、除去されている場合、それがいかなる方法によるものかを特定する必要はなく、イ号物件の「リボソームの脱アデニン化率が7%未満」であるかどうかを特定すれば良い。」(弁駁書5頁15?19行)旨、主張する。
請求人が主張するとおり、本件特許発明は物の発明であり、イ号物件の胚芽抽出液の製造方法に関わらず、イ号物件が本件特許発明に属する物であるか否かを判断すべきである。しかしながら、上記1にて述べたとおり、イ号物件が本件特許発明の構成要件を充足するといえるためには、イ号物件のリボソームの脱アデニン化率が7%未満であることのみでなく、その製造方法がどのような方法であるかにかかわらず、胚乳に局在するリボソーム不活性化物質の混入がイ号物件においてほぼ完全にないことも示されなければならないから、請求人の上記の主張は採用できない。

3 したがって、請求人の主張は、いずれも採用することができず、イ号物件は、本件特許発明の構成要件B、C及びDを充足するものとはいえない。

第7 むすび
以上のとおり、イ号物件は本件特許発明の技術的範囲に属しない。

 
判定日 2020-02-19 
出願番号 特願平11-46379
審決分類 P 1 2・ 1- ZB (C12P)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高堀 栄二  
特許庁審判長 田村 聖子
特許庁審判官 天野 貴子
小暮 道明
登録日 2005-12-22 
登録番号 特許第3753358号(P3753358)
発明の名称 無細胞タンパク質合成用胚芽抽出液及びその製造方法並びにそれを用いるタンパク質の合成方法  
代理人 松本 征二  
代理人 大杉 卓也  
代理人 庄司 隆  

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