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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01B
管理番号 1360864
審判番号 不服2018-8334  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-06-18 
確定日 2020-03-13 
事件の表示 特願2016- 40748「絶縁電線、コイル及び電気・電子機器」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 9月 7日出願公開、特開2017-157460〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成28年3月3日の出願であって、平成29年10月31日付けで拒絶理由通知がなされ、平成30年3月6日付けで補正書と意見書が提出されたが、同年3月14日付けで拒絶査定がされた。これに対して同年6月18日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、手続補正書が提出され、当審において令和1年10月2日付けで拒絶理由通知がなされ、同年12月9日付けで意見書が提出されたものである。


2.本願発明
本願の特許請求の範囲は、平成30年6月18日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲に記載された、次のとおりのものである。

「 【請求項1】
断面が矩形の銅線の外周に該銅線に接して絶縁層を有し、該絶縁層の外周に接着層を有し、該接着層の外周に絶縁紙を有する絶縁電線であって、
前記接着層の厚みが2?50μmであり、前記接着層を構成する樹脂が、融点を持たず、かつ250℃における引張弾性率が0.9×10^(7)?1.2×10^(8)Paである絶縁電線。
【請求項2】
前記接着層が、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホンおよびポリエーテルイミドからなる群から選択される少なくとも1種の樹脂を含有する、請求項1に記載の絶縁電線。
【請求項3】
前記絶縁紙の外周に接着層を有する、請求項1又は2に記載の絶縁電線。
【請求項4】
請求項1?3のいずれか1項に記載の絶縁電線からなるコイル。
【請求項5】
請求項4に記載のコイルを有する電気・電子機器。」


3.当審の拒絶の理由
当審において令和1年10月2日付けで通知した拒絶理由の概要は、次のとおりである。
3-1.理由1(新規性)
本件出願の請求項1、2、4、5に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用文献1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
3-2.理由2(進歩性)
本件出願の請求項2-5に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2乃至3に記載の技術事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない

引 用 文 献 等 一 覧
1.特開2010-56049号公報
2.国際公開第15/186730号
3.国際公開第15/98638号


4.当審の判断
(1)引用発明・引用文献の技術
当審で通知した拒絶理由に引用された引用文献1には、図面とともに以下の記載がある。(下線部は当審において付加した。以下同じ)

ア.「【0001】
この発明は、絶縁電線に関し、詳しくは絶縁性を強化した耐インバータサージ絶縁電線に関するものである。」

イ.「【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の絶縁電線1は、図1に示すように、断面形状が矩形状である平角導体10と、平角導体10の外周面をエナメルで被覆して焼き付けたエナメル層30と、該エナメル層30の外周面を巻き回したPPSテープ41で被覆する絶縁テープ層40とで構成し、エナメル層30の厚さを50μm以下、且つ前記エナメル層30と前記絶縁テープ層40とで構成する絶縁層20の厚さを60μm以上に設定するとともに、エナメル層30と絶縁テープ層40との間に接着層50を介在させている。なお、図1は絶縁電線1の断面図による説明図を示している。
【0021】
前記絶縁テープ層40を構成するPPSテープ(ポリフェニレンサルファイドテープ)41は、25度における引張弾性率が1000MPa以上、かつ250度における引張弾性率が10MPa以上である絶縁テープである。
【0022】
上記構成の絶縁電線1について詳述すると、絶縁電線1は、中心となる平角導体10と、この平角導体10の外周面を被覆し、エナメル層30と絶縁テープ層40とで構成する絶縁層20と、エナメル層30及び絶縁テープ層40の間に介在し、エナメル層30と絶縁テープ層40とを接着する接着層50とで構成している。
平角導体10は、厚さ1.8mm×幅2.5mmで、四隅の面取り半径r=0.5mmの断面略矩形状で形成している。
【0023】
エナメル層30は、エナメルワニスを塗布・焼付して構成しており、さらに詳しくは、1層あたり5μmの厚さのエナメル膜30aを4層重ねて層厚20μmのエナメル層30を形成している(図1中a部拡大図参照)。
【0024】
平角導体10の外周面をエナメル層30で被覆したエナメル線の外周面には、ワニス化したPPSU接着材(ポリスルフォン)による、層厚2μmの接着層50を形成している。
【0025】
さらに、接着層50の外周面には、重なることないように巻回したPPSテープ41による絶縁テープ層40を形成している。なお、PPSテープ41は厚み40μm×幅420mmであり、絶縁テープ層40は、1層巻きのPPSテープ41により層厚40μmで形成している。」

ウ.「【0026】
このような構成の絶縁電線1は、丸銅線を所定形状に伸線及び圧延を行って平角導体10を形成する伸線工程と、平角導体10の外周面をエナメルで被覆し、焼き付けてエナメル層30を形成するエナメル焼付工程と、エナメル層30の外周面に接着層50を塗布・焼付する接着層焼付工程と、接着層50を塗布・焼付したエナメル線を予熱する予熱工程と、エナメル線の接着層50の外周面にPPSテープ41をテープ巻により巻回すテープ巻き工程と、前記テープ巻き工程で絶縁被覆された絶縁電線1を巻き取る巻取り工程によって製造されている。
【0027】
上記予熱工程は、前記接着層焼付工程で施された接着層50が軟化する温度まで予熱する。さらに、前記伸線工程、前記エナメル焼付工程、前記接着層焼付工程、前記予熱工程、前記テープ巻き工程、及び前記巻取り工程は、この順でタンデムに行っている。
【0028】
なお、上記工程で製造される絶縁電線1は、図2に示す絶縁電線製造装置100を用いて製造される。図2は、絶縁電線製造装置100のブロック図を示している。
絶縁電線製造装置100は、供給装置110と、伸線機120と、焼鈍炉130と、コーティング装置140と、焼付炉150と、引取装置160と、予熱装置170と、巻回装置180と、冷却装置190と、個別引取装置200と、巻取機210とで構成し、供給装置110を上流とし、巻き取り装置210を下流としてこの順で配置している。
【0029】
供給装置110は、巻きつけられた導体を伸線機120に送り出す装置である。なお、本実施例においては、直径3.5mmの丸型断面の丸銅線を導体として送り出している。
【0030】
伸線装置120は、自由に回転する、上下左右1対のロールによって導体を圧延し、ダイスに導体を通過させて伸線する装置である。伸線装置120は、丸銅線を略矩形状の平角導体に加工するため、上下左右1対のロール向かい合うロールで圧延し、さらに厚さ・幅・面取り半径が規定された寸法の孔を有するダイスに導体(丸銅線)を通し、引抜いて細く寸法精度の高い伸線加工を行っている。
【0031】
なお、本実施例においては、供給装置110によって送り出された直径3.5mmの丸型断面の導体(丸銅線)を、4段重ねの1対の略平行に並べられたフリーロールにて1.950mm×2.690mm(厚さ×幅)となるように圧延加工し、1.803mm×2.503mm(厚さ×幅)で四隅の面取り半径r=0.5mmの平角形状のダイヤモンドダイスを用いて引抜き加工し、1.8×2.5mm(厚さ×幅)で四隅の面取り半径r=0.5mmの断面略矩形状の平角導体10を形成している。」

エ.「【0066】
また、PPSテープ41の代用として、溶融材料を配合したガラス・繊維系テープなどを用いてもよく、溶融材料としてエポキシ樹脂系接着材・アクリル樹脂系接着材・フェノール樹脂系接着材などを用いることができる。
さらには、PPSテープ41の代用として、テープ状のものでなくとも、ガラス・アラミッド紙、マイカなどを用いてもよい。」

オ.「図1



上記ア乃至オの記載から、引用文献1には次の事項が記載されている。

・上記イの段落【0020】、【0022】、及び図1(上記オ)によれば、中心となる平角導体10と、この平角導体10の外周面を被覆したエナメル層30と、エナメル層30と絶縁テープ層40とで構成する絶縁層20と、エナメル層30及び絶縁テープ層40の間に介在し、エナメル層30と絶縁テープ層40とを接着する接着層50とで構成される絶縁電線1が記載されている。

・上記ウの段落【0026】によれば、平角導体10は、丸銅線を所定形状に伸線及び圧延を行って形成したものであること、さらに、段落【0031】によれば、平角導体10は断面略矩形状に形成されることが記載されている。
してみれば、引用文献1には、前記平角導体10は、丸銅線を伸線及び圧延を行って断面略矩形状に形成したものであることが記載されているといえる。

・上記イの段落【0024】によれば、エナメル線の外周面には、ワニス化したPPSU接着材(ポリスルフォン)による、層厚2μmの接着層50が形成していることが記載されている。
してみれば、引用文献1には、接着層50は、エナメル層30の外周面にワニス化したPPSU接着材(ポリスルフォン)を層厚2μmに形成したものであることが記載されているといえる。

・上記イの段落【0025】によれば、絶縁テープ層40はPPSテープ41によって形成されることが、さらに、上記エによれば、PPSテープ41の代用として、テープ状のものでなくとも、ガラス・アラミッド紙を用いてもよいことが記載されている。
してみれば、引用文献1には、絶縁テープ層40は、ガラス・アラミッド紙であることが記載されているといえる。

以上総合すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が開示されていると認められる。

「中心となる平角導体10と、この平角導体10の外周面を被覆したエナメル層30、該エナメル層30と絶縁テープ層40とで構成する絶縁層20と、エナメル層30及び絶縁テープ層40の間に介在し、エナメル層30と絶縁テープ層40とを接着する接着層50とで構成される絶縁電線1において、
前記平角導体10は、丸銅線を伸線及び圧延を行って断面略矩形状に形成したものであって、
前記接着層50は、エナメル層30の外周面にワニス化したPPSU接着材(ポリスルフォン)を層厚2μmに形成したものであって、
前記絶縁テープ層40は、ガラス・アラミッド紙である、
絶縁電線1。」

(2)対 比
本願請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)と引用発明とを対比する。

a.引用発明の「平角導体10」は、丸銅線を断面略矩形状に形成したものであるから、本願発明の「断面が矩形の銅線」に相当する。

b.引用発明の「エナメル層30」は、絶縁層を構成するものであるから、本願発明の「絶縁層」に相当する。

c.引用発明の「接着層50」は、エナメル層30と絶縁テープ層40とを接着するものであるから、本願発明の「接着層」に相当する。

d.ここで、本願発明の「絶縁紙」に関して、本願の発明の詳細な説明の段落【0032】には「 例えば、絶縁紙は、フィルムと、該フィルムの両面に配設された不織布、から構成される。例えば、前記不織布が耐熱性に優れたアラミド繊維を選択することで耐熱性の高い絶縁紙が得られる。」と記載されているとおり、アラミド紙を含むものである。
一方、引用発明における「絶縁テープ層40」は、ガラス・アラミッド紙である。
してみると、引用発明の「絶縁テープ層40」は、本願発明の「絶縁紙」に相当する。

e.引用発明の「絶縁電線1」は、「平角導体10」、「エナメル層30」、「接着層50」、及び「絶縁テープ層40」をこの順で有するものである。
したがって、引用発明の「中心となる平角導体10と、この平角導体10の外周面を被覆したエナメル層30、該エナメル層30と絶縁テープ層40とで構成する絶縁層20と、エナメル層30及び絶縁テープ層40の間に介在し、エナメル層30と絶縁テープ層40とを接着する接着層50とで構成される絶縁電線1」は、本願発明の「断面が矩形の銅線の外周に該銅線に接して絶縁層を有し、該絶縁層の外周に接着層を有し、該接着層の外周に絶縁紙を有する絶縁電線」に相当する。

f.また、引用発明の「接着層50」は、PPSU接着材(ポリスルフォン)を層厚2μmに形成したものである。ここで、PPSUはポリフェニルスルホンの略称であり、ポリフェニルスルホンは非晶質の樹脂であるから、融点を持たないといえる。
したがって、引用発明の「前記接着層50は、エナメル層30の外周面をワニス化したPPSU接着材(ポリスルフォン)を層厚2μmに形成したものであ」ることは、本願発明の「前記接着層の厚みが2μmであり、前記接着層を構成する樹脂が、融点を持たず」に相当する。

但し、「接着層を構成する樹脂」が、本願発明では「250℃における引張弾性率が0.9×10^(7)?1.2×10^(8)Paである」のに対して、引用発明ではその旨の特定がされていない点で相違する。

したがって、本願発明と引用発明とを対比すると、両者は、以下の点で一致ないし相違する。

(一致点)
「断面が矩形の銅線の外周に該銅線に接して絶縁層を有し、該絶縁層の外周に接着層を有し、該接着層の外周に絶縁紙を有する絶縁電線であって、
前記接着層の厚みが2μmであり、前記接着層を構成する樹脂が、融点を持たない絶縁電線。」

(相違点)
「接着層を構成する樹脂」が、本願発明では「250℃における引張弾性率が0.9×10^(7)?1.2×10^(8)Paである」のに対して、引用発明ではその旨の特定がされていない点。

(3)判断
そこで、上記相違点について検討する。
本願発明における「引張弾性率」は、本願の段落【0054】によれば接着層を構成する樹脂の「引張弾性率」であるから、通常同じ樹脂であれば「引張弾性率」はほぼ同じものといえる。
そして、本願の実施例における接着層の樹脂としてはポリフェニルスルホン(PPSU)を用いるものであって、本願の段落【0059】の【表1】によれば、該PPSUの250℃における引張弾性率は3.9×10^(7)Paである。一方、引用発明においても、接着層の樹脂としてはPPSUを用いるものであるから、その250℃における引張弾性率は3.9×10^(7)Paと認められる
したがって、本願発明と引用発明は、接着層を構成する樹脂の250℃における引張弾性率が3.9×10^(7)である点で一致するものであるから、上記相違点は実質的な相違点ではない。

よって、請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明である。

この点において、審判請求人は令和1年12月9日付けの意見書において、新規性に関して、引用発明1と本願発明1では課題が相違する旨を主張している。そして、構成の相違として、「本願発明1の請求項1に係る発明における『引張弾性率』は、上述のように本願発明1と引用発明1とは課題が全く異なるのですから、引用発明1において、接着層を構成する樹脂の『250℃における引張弾性率が0.9×10^(7)?1.2×10^(8)Paである』範囲に設定した発明が記載されているとは言えません。本願発明1は、この特許請求の範囲の記載に係る構成によって目的の優れた効果を奏します。したがって、本願発明1は理由1に該当するものではないと信じます。」と主張している。
しかしながら、新規性の判断は、本願発明と引用発明との課題を比較するのではなく、構成上の相違点があるか否かを判断するものである。そして、上記で検討したように引用発明の接着層を構成する樹脂の250℃における引張弾性率は3.9×10^(7)Paであるといえ、この点では本願発明と引用発明の引張弾性率は一致しており、本願発明と引用発明との間に構成上の差異はないから、請求人の上記主張を採用することはできない。
なお、「しかし、このご説示のとおりであるとしても、記載されているのは発明の詳細な説明中に化合物名が挙げられているだけであり、請求項ではありません。」と主張しているが、引用文献に記載された発明(引用発明)は、引用文献の請求項に記載された事項に限定されるものではないから、上記主張を採用することはできない。

5.むすび
以上のとおりであって、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-01-07 
結審通知日 2020-01-14 
審決日 2020-01-27 
出願番号 特願2016-40748(P2016-40748)
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (H01B)
P 1 8・ 121- WZ (H01B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 和田 財太  
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 須原 宏光
山澤 宏
発明の名称 絶縁電線、コイル及び電気・電子機器  
代理人 赤羽 修一  
代理人 特許業務法人イイダアンドパートナーズ  
代理人 赤羽 修一  
代理人 飯田 敏三  
代理人 飯田 敏三  
代理人 特許業務法人イイダアンドパートナーズ  

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