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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B60H 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60H |
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管理番号 | 1360883 |
審判番号 | 不服2019-2769 |
総通号数 | 245 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-05-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-02-28 |
確定日 | 2020-03-13 |
事件の表示 | 特願2016-126023「空調制御システム及び情報処理装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年12月28日出願公開、特開2017-226397〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成28年6月24日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。 平成30年5月16日付けで拒絶理由通知 平成30年7月18日に意見書の提出 平成30年11月22日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。) 平成31年2月28日に審判請求書及び手続補正書の提出 第2 平成31年2月28日にされた手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成31年2月28日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正について(補正の内容) (1)本件補正後の特許請求の範囲の記載 本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。) 「【請求項1】 車両に設けられる空調制御システムであって、 空調装置と、 前記空調装置の制御に関する制御情報を記憶する記憶部と、 前記車両の位置における気象情報を、当該気象情報を提供する前記車両の外部の装置から取得する気象情報取得部と、 前記車両への乗員の乗車イベントを検出する乗車イベント検出部と、 前記乗車イベント検出部により前記乗車イベントが検出された場合に、前記車両の外部の装置から取得された前記気象情報に基づいて、前記乗車イベントの際の前記車両内への前記乗員による持ち込み水分量であって、前記車両の外部環境に起因した持ち込み水分量が、所定レベルを超えるか否かを判定し、判定結果に基づいて前記制御情報を変更する判定部と、 前記空調装置を制御する制御部とを含み、 前記判定部は、前記制御情報が第1状態であるときに前記持ち込み水分量が前記所定レベルを超えると判定した場合、前記制御情報を第2状態に変更し、 前記制御部は、前記制御情報が前記第2状態である場合、前記制御情報が前記第1状態である場合に比べて、前記空調装置の換気能力を高くする、空調制御システム。」 (2)本件補正前の特許請求の範囲 本件補正前の、本願の願書に最初に添付された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。 「【請求項1】 車両に設けられる空調制御システムであって、 空調装置と、 前記空調装置の制御に関する制御情報を記憶する記憶部と、 前記車両の位置における気象情報を取得する気象情報取得部と、 前記車両への乗員の乗車イベントを検出する乗車イベント検出部と、 前記乗車イベント検出部により前記乗車イベントが検出された場合に、前記気象情報に基づいて、前記乗車イベントの際の前記車両内への前記乗員による持ち込み水分量であって、前記車両の外部環境に起因した持ち込み水分量が、所定レベルを超えるか否かを判定し、判定結果に基づいて前記制御情報を変更する判定部と、 前記空調装置を制御する制御部とを含み、 前記判定部は、前記制御情報が第1状態であるときに前記持ち込み水分量が前記所定レベルを超えると判定した場合、前記制御情報を第2状態に変更し、 前記制御部は、前記制御情報が前記第2状態である場合、前記制御情報が前記第1状態である場合に比べて、前記空調装置の換気能力を高くする、空調制御システム。」 2 補正の適否 本件補正は、本件補正前の請求項1における「前記車両の位置における気象情報を取得する気象情報取得部」との記載を、「前記車両の位置における気象情報を、当該気象情報を提供する前記車両の外部の装置から取得する気象情報取得部」とし、また、「前記気象情報に基づいて」との記載を、「前記車両の外部の装置から取得された前記気象情報に基づいて」とすることにより、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「車両の位置における気象情報」について、その取得先を「気象情報を提供する車両の外部の装置」に限定するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下検討する。 (1)本件補正発明 本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。 (2)引用文献の記載事項 ア 引用文献1 (ア)引用文献1の記載 原査定の拒絶の理由で引用された本願の出願前に頒布された刊行物である、特開2006-248306号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある(なお、下線は当審において付したものである。また、「・・・」は記載の省略を示す。以下同様)。 「【0001】 本発明は、車両室内のフットスペースに送風するフット吹き出し口を有する車両の空調装置に関する。 【背景技術】 【0002】 降雨や降雪時には、自動車に乗車した運転者の足元が濡れている場合があり、靴底に付着した水によってアクセルペダルやブレーキペダルが濡れて滑り易くなってしまう。そこで、濡れた足元や各種ペダルを乾かす機能を備えた空調装置として、インストルメントパネル正面のフェイス吹き出し口から引き出し可能なフレキシブルダクトを有する空調装置がある。・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0003】 しかしながら、前記空調装置では、乾燥時にはフレキシブルダクトを引き出してフットスペースまで伸長させ、乾燥後にはフレキシブルダクトを収納する必要があり、運転者の作業が煩雑になってしまうという問題がある。 また、運転者が自らフレキシブルダクトを持って足元や各種ペダルに風を当てる必要があるため、走行中に乾燥作業を継続することができないという問題がある。 【0004】 そこで、本発明では、前記した問題を解決し、乗員が煩雑な作業を行うことなく、濡れた足元や各種ペダルを早く乾かすことができ、さらに、走行中に乾燥作業を継続することができる車両の空調装置を提供することを課題とする。」 「【0005】 前記課題を解決するため、本発明は、車両室内のフットスペースに送風するフット吹き出し口を有する車両の空調装置であって、降雨および/または降雪を検知する降雨検知手段と、乗員が乗車したことを検知する乗車検知手段と、乗車検知手段によって乗員の乗車が検知されるとともに、降雨検知手段によって降雨および/または降雪が検知された場合に、フット吹き出し口から送風を開始する制御装置とを備えている。 【0006】 ここで、フットスペースとは、乗員が車両室内の各席に着座したときに、その足元が収まる空間であり、運転席であれば、ブレーキペダルやアクセルペダル周辺の空間である。 また、降雨検知手段としては、例えば、雨の水滴を検知する雨滴センサを用いて降雨や降雪を検知することができる。または、ワイパーの始動により降雨や降雪を検知するように構成してもよい。 【0007】 このように、本発明の車両の空調装置では、乗車検知手段によって乗員の乗車が検知されるとともに、降雨検知手段によって降雨や降雪が検知された場合に、フット吹き出し口から送風を開始するように構成されており、降雨や降雪時に乗員が乗車すると自動的にフットスペースへの送風が開始されるため、乗員は煩雑な作業を行うことなく、濡れた足元や各種ペダルを早く乾かすことができる。 さらに、運転者は自らダクト等を持って足元や各種ペダルに風を当てる必要がなくなるため、走行中に乾燥作業を継続することができる。 【0008】 前記した車両の空調装置において、制御装置は、フット吹き出し口からの送風を、乗車検知手段によって乗員の乗車が検知されてから所定時間で停止するように構成することができる。 【0009】 このように、フット吹き出し口からの送風を、乗員の乗車が検知されてから所定時間で停止させることにより、乗員が送風を停止する必要がなくなるため、乾燥作業を簡略化することができる。 【0010】 前記した車両の空調装置において、乗車検知手段は、車両のイグニッションスイッチであり、イグニッションスイッチが操作されることにより、乗員の乗車を検知するように構成することができる。 【0011】 このように、乗車検知手段は、車両のイグニッションスイッチがOFFからACC、ON、STARTなどへ操作されることにより、乗員の乗車を検知するように構成されているため、乗員は降雨や降雪時に特別な操作を行うことなく、晴天時と同じく乗車することにより乾燥作業を行うことができる。 【0012】 前記した車両の空調装置において、乗車検知手段は、車両のドアが閉じられることにより、乗員の乗車を検知するように構成することができる。 【0013】 このように、乗車検知手段は、車両のドアが閉じられることにより、乗員の乗車を検知するように構成されているため、乗員は降雨や降雪時に特別な操作を行うことなく、晴天時と同じく乗車することにより乾燥作業を行うことができる。さらに、閉じられたドアに対応する席のフットスペースのみに送風が行われるように構成することにより、効率良く送風を行うことができる。 【発明の効果】 【0014】 本発明の車両の空調装置によれば、降雨や降雪時に乗員が乗車すると自動的にフットスペースへの送風が開始されるため、乗員は煩雑な作業を行うことなく、濡れた足元や各種ペダルを早く乾かすことができ、濡れて滑り易い状態で各種ペダルを操作することを防ぐことができる。 さらに、運転者は自らダクト等を持って足元や各種ペダルに風を当てる必要がなくなり、走行中に乾燥作業を継続することができるため、足元を確実に乾かすことできる。」 「【0015】 次に、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。 図1は、本実施形態の空調装置が設けられた車両室内の概略を示した側面図である。図2は、本実施形態の空調装置を示した構成図である。図3は、本実施形態の空調装置による乾燥運転のフローチャートである。 本実施形態では、本発明の空調装置を自動車の運転席に適用した場合を例として説明する。 【0016】 空調装置1は、図1および図2に示すように、車両室内10の運転席11において、運転者20の足元が収まるフットスペース12に送風するフット吹き出し口13を有しており、エアコン2と、このエアコン2の運転を制御する制御装置3と、降雨や降雪を検知する雨滴センサ4(請求項における「降雨検知手段」)と、運転者20が乗車したことを検知するためのドア閉検知センサ5(請求項における「乗車検知手段」)と、車両室内10の温度を測定する温度センサ6と、車両室内10の湿度を測定する湿度センサ7とを備えている。 【0017】 雨滴センサ4は、水滴の検出部位を有しており、車外に露出させた検出部位が降雨や降雪による水滴を検出するように構成されている。 ドア閉検知センサ5は、運転席11側の乗車口に取り付けられており、運転席11側のドアが閉じられたときに、ドアの開閉部分に設けたプッシュスイッチが押されることにより、ドア閉検知信号を制御装置3に出力するように構成されている。 【0018】 エアコン2は、インストルメントパネル14下面のフット吹き出し口13からフットスペース12に送風するフットモードによる運転が可能であり、送風の温度や強弱、あるいは吸気方式(外気導入または内気循環)などの各種設定を制御装置3によって制御することができる。 【0019】 制御装置3は、プログラムに従ってエアコン2の各種設定を制御するECU(Electronic Control Unit)であり、エアコン2、雨滴センサ4、ドア閉検知センサ5、温度センサ6、湿度センサ7およびイグニッションスイッチ15(請求項における「乗車検知手段」)が接続されている。 【0020】 そして、制御装置3では、ドア閉検知センサ5からドア閉検知信号が入力された後に、イグニッションスイッチ15が操作されたことを検知した場合には、雨滴センサ4に対して水滴の検出結果を問い合わせる。 このとき、雨滴センサ4が水滴を検出していない場合には、制御装置3はエアコン2を通常時の設定で運転する(以下、この運転を「通常モード」という)。 また、雨滴センサ4が水滴を検出している場合には、濡れた箇所の乾燥に適した送風になるように、制御装置3はエアコン2を乾燥時の設定で運転し、フット吹き出し口13からフットスペース12に送風を開始する(以下、この運転を「乾燥モード」という)。 なお、乾燥モードでは、少なくともフット吹き出し口13から送風が行われていればよく、他の吹き出し口から送風が行われていてもよい。 【0021】 さらに、制御装置3は、エアコン2を乾燥モードで運転した場合には、ドア閉検知信号が入力されてから所定時間を経過した後に、乾燥モードによるエアコン2の運転を停止して、通常運転モードによる運転に切り替える。 【0022】 次に、運転者20が自動車に乗車したときの空調装置1による送風について、図3のフローチャートに従って説明する。 まず、図1および図2に示すように、運転者20が運転席11に乗車してドアを閉めると、ドア閉検知センサ5から制御装置3にドア閉検知信号が出力される(ステップS1)。 制御装置3にドア閉検知信号が入力された後に、運転者20がイグニッションスイッチ15をOFFからSTARTにしてエンジンを始動すると、制御装置3はイグニッションスイッチ15が操作されたことを検知する(ステップS2)。 【0023】 続いて、制御装置3は、雨滴センサ4に対して水滴の検出を問い合わせる(ステップS3)。このとき、雨滴センサ4が水滴を検出していない場合には、制御装置3はエアコン2を通常モードで運転する(ステップS4a)。 また、雨滴センサ4が水滴を検出している場合には、温度センサ6および湿度センサ7の測定結果に基づいて、濡れた足元や各種ペダルの乾燥に適した送風になるように、制御装置3はエアコン2を乾燥モードで運転し、フット吹き出し口13からフットスペース12に送風を開始する(ステップS4b)。これにより、フット吹き出し口13からの送風が運転者20の足元や各種ペダル16に当たるため、濡れた足元や各種ペダル16を乾かすことができる。 【0024】 さらに、制御装置3は、ドア閉検知信号が入力されてから所定時間を経過した後に、乾燥モードによるエアコン2の運転を停止して、通常モードによる運転に切り替える(ステップS5)。 【0025】 このように、前記した空調装置1では、ドア閉検知センサ5およびイグニッションスイッチ15によって運転者20の乗車が検知されるとともに、雨滴センサ4によって降雨や降雪が検知された場合に、フット吹き出し口13から送風を開始するよう構成されており、降雨や降雪時に運転者20が乗車すると自動的にフットスペース12への送風が開始されるため、運転者20は煩雑な作業を行うことなく、濡れた足元や各種ペダル16を早く乾かすことができ、濡れて滑り易い状態で各種ペダル16を操作することを防ぐことができる。 また、運転者20は自らダクト等を持って足元や各種ペダル16に風を当てる必要がなくなり、走行中に乾燥作業を継続することができるため、足元を確実に乾かすことできる。 【0026】 また、本実施形態において、エアコン2の運転は、運転者20の乗車が検知されてから所定時間で乾燥モードが停止して通常モードに切り替わるため、運転者20は乾燥モードから通常モードへの切り替えを行う必要がなくなり、作業を簡略化することができる。 【0027】 さらに、本実施形態では、運転席11側のドアが閉じられること、およびエンジンが始動操作されたことにより、運転者20の乗車を検知するように構成されているため、運転者20は降雨や降雪時に特別な操作を行うことなく、晴天時と同じく乗車することにより乾燥作業を行うことができる。 【0028】 以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態には限定されない。例えば、本実施形態では、乗車検知手段としてドア閉検知センサ5およびイグニッションスイッチ15を用いて、ドアが閉じられたことおよびエンジンが始動操作されたことを検知することにより、運転者20が乗車したことを検知しているが、乗車検知手段として、ドア閉検知センサ5、イグニッションスイッチ15の何れか一方を用いることにより、 運転者20が乗車したことを検知してもよい。さらには、シートベルト装着センサ、着座センサ、シフトポジションセンサなどを乗車検知手段として用いることができる。 【0029】 また、本実施形態では、ドア閉検知センサ5によってドアが閉じられたことを検知し、イグニッションスイッチ15を操作してエンジンを始動させた後に、乾燥モードによるエアコン2の運転を開始するように構成されているが、エアコン2の駆動電力を確保することができるのであれば、エンジンを始動させる前に、乾燥モードによるエアコン2の運転を開始してもよい。 【0030】 さらに、本実施形態では、ドア閉検知信号が入力されてから所定時間を経過した後に、エアコン2の運転が乾燥モードから通常モードに切り替わっているが、ドア閉検知信号が入力されてから所定時間を経過した後に、エアコン2の運転を停止するように構成してもよい。 【0031】 また、本実施形態では、運転席11を例として説明したが、車両室内10における他の席に関しても同様の空調装置1を適用することができる。このとき、乗車が検知された席のフットスペース12のみに送風が行われるように構成することにより、効率良く送風を行うことができる。 【0032】 また、降雨や降雪を検知する手段として、雨滴センサ4を用いているが、ワイパーの始動を検知することにより、降雨や降雪を検知してもよい。」 (イ)上記(ア)及び図面の記載から認められる事項 上記(ア)及び図面の記載から、引用文献1には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。 a 上記(ア)の段落【0001】、【0005】、【0007】及び【0014】ないし【0032】並びに図2の記載によれば、引用文献1には、車両の空調装置が記載されている。 b 上記(ア)の段落【0016】及び【0018】並びに図2の記載によれば、車両の空調装置は、エアコン2を備えることが記載されている。 c 上記(ア)の段落【0016】及び【0017】並びに図2及び図3の記載によれば、車両の空調装置は、車外に露出させた検出部位が降雨や降雪による水滴を検出するように構成された雨滴センサ4を備えることが記載されている。 d 上記(ア)の段落【0016】、【0017】、【0022】、【0025】及び【0028】並びに図2及び図3の記載によれば、車両の空調装置は、運転者20が乗車したことを検知するためのドア閉検知センサ5及びイグニッションスイッチ15を備えることが記載されている。 e 上記(ア)の段落【0016】及び【0019】並びに図2の記載によれば、車両の空調装置は、前記エアコン2、前記雨滴センサ4、前記ドア閉検知センサ5、温度センサ6、湿度センサ7及び前記イグニッションスイッチ15が接続され、プログラムに従ってエアコン2の送風の温度や強弱、あるいは吸気方式(外気導入または内気循環)などの各種設定を制御するECU(Electronic Control Unit)である制御装置3を備えることが記載されている。 f 上記(ア)の段落【0022】ないし【0025】並びに図2及び図3の記載によれば、車両の空調装置において、運転者20が運転席11に乗車してドアを閉めると、ドア閉検知センサ5から制御装置3にドア閉検知信号が出力され(ステップS1)、制御装置3にドア閉検知信号が入力された後に、運転者20がイグニッションスイッチ15をOFFからSTARTにしてエンジンを始動すると、制御装置3はイグニッションスイッチ15が操作されたことを検知し(ステップS2)、続いて、制御装置3は、雨滴センサ4に対して水滴の検出を問い合わせ(ステップS3)、雨滴センサ4が水滴を検出していない場合には、制御装置3はエアコン2を通常時の設定で運転する通常モードで運転し(ステップS4a)、雨滴センサ4が水滴を検出している場合には、温度センサ6及び湿度センサ7の測定結果に基づいて、濡れた足元や各種ペダルの乾燥に適した送風になるように、制御装置3はエアコン2を乾燥時の設定で運転する乾燥モードで運転し、フット吹き出し口13からフットスペース12に送風を開始し(ステップS4b)、さらに、制御装置3は、ドア閉検知信号が入力されてから所定時間を経過した後に、乾燥モードによるエアコン2の運転を停止して、通常モードによる運転に切り替えることが記載されている。 (ウ)引用発明 上記(ア)及び(イ)から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「車両の空調装置であって、 エアコン2と、 車外に露出させた検出部位が降雨や降雪による水滴を検出するように構成された雨滴センサ4と、 運転者20が乗車したことを検知するためのドア閉検知センサ5及びイグニッションスイッチ15と、 前記エアコン2、前記雨滴センサ4、前記ドア閉検知センサ5、温度センサ6、湿度センサ7及び前記イグニッションスイッチ15が接続され、プログラムに従ってエアコン2の送風の温度や強弱、あるいは吸気方式(外気導入または内気循環)などの各種設定を制御するECU(Electronic Control Unit)である制御装置3とを備え、 前記運転者20が運転席11に乗車してドアを閉めると、前記ドア閉検知センサ5から前記制御装置3にドア閉検知信号が出力され(ステップS1)、前記制御装置3に前記ドア閉検知信号が入力された後に、前記運転者20が前記イグニッションスイッチ15をOFFからSTARTにしてエンジンを始動すると、前記制御装置3は前記イグニッションスイッチ15が操作されたことを検知し(ステップS2)、続いて、前記制御装置3は、前記雨滴センサ4に対して水滴の検出を問い合わせ(ステップS3)、前記雨滴センサ4が水滴を検出していない場合には、前記制御装置3は前記エアコン2を通常時の設定で運転する通常モードで運転し(ステップS4a)、前記雨滴センサ4が水滴を検出している場合には、前記温度センサ6及び前記湿度センサ7の測定結果に基づいて、濡れた足元や各種ペダルの乾燥に適した送風になるように、前記制御装置3は前記エアコン2を乾燥時の設定で運転する前記乾燥モードで運転し、フット吹き出し口13からフットスペース12に送風を開始し(ステップS4b)、さらに、前記制御装置3は、前記ドア閉検知信号が入力されてから所定時間を経過した後に、前記乾燥モードによる前記エアコン2の運転を停止して、前記通常モードによる運転に切り替える、車両の空調装置1。」 イ 引用文献2 原査定の拒絶の理由で引用された本願の出願前に頒布された刊行物である、特開2008-137599号公報(以下「引用文献2」という。)には、図面とともに、次の記載がある。 「【0001】 本発明は、車両に組み込まれて車室内の空気調和を行う車両用空調装置に関するものである。」 「【0017】 以下に、本発明の一実施形態について、図面を参照して説明する。 図1に示すように、本実施形態にかかる車両用空調装置1は、図示せぬ車両に搭載されるものであって、下流部を車室内に接続された空調空気流路3と、空調空気流路3内の空調空気を空調空気流路3の上流側から下流側へと送出するブロワ5と、空調空気流路3内の空調空気の冷却や除湿を行う冷却器7と、空調空気流路3内の空調空気を加熱するヒータ9と、車両用空調装置1の動作を制御するメインコントローラ(空調制御装置)11とを有している。 ・・・ 【0018】 空調空気流路3は、車両に組みこまれるケーシングCの内部に形成されている。 空調空気流路3の上流側には、車両外の空気を取り込む外気取入口3aと、車室内の空気を取り込む内気取入口3bとが設けられている。また、空調空気流路3の下流側には、車室内の乗員頭部に対向する位置に開口するフェイス吹出口3cと、車室内の乗員脚部に対向する位置に開口するフット吹出口3dと、車両の窓ガラス内面に対向する位置に開口するデフロスト吹出口3eとが設けられている。 【0019】 空調空気流路3内には、外気取入口3aの開度及び内気取入口3bの開度を制御する内外気切換ダンパ21が設けられている。 ・・・内外気切換ダンパ21は、アクチュエータによってドアの位置を調整することで、外気取入口3aの開度及び内気取入口3bの開度を連続的または段階的に調整するものである。 【0020】 空調空気流路3の下流側には、フェイス吹出口3cの開度及びフット吹出口3dの開度を制御するフェイス/フットダンパ23と、デフロスト吹出口3eの開度を制御するデフロストダンパ25が設けられている。 ・・・フェイス/フットダンパ23は、アクチュエータによってドアの位置を調整することで、フェイス吹出口3cの開度及びフット吹出口3dの開度を制御するものである。 ・・・デフロストダンパ25は、アクチュエータによってドアの位置を調整することで、デフロスト吹出口3eの開度を制御するものである。 【0021】 空調空気流路3内において、外気取入口3a及び内気取入口3bよりも下流側で、かつフェイス吹出口3c、フット吹出口3d、及びデフロスト吹出口3eよりも上流側には、ブロワ5、冷却器7、及びヒータ9が、上流側からこの順番で設けられている。 ブロワ5は、図示せぬ電源から送風機電圧コントローラ5aを介して電力を供給されている。ブロア5は、送風機電圧コントローラ5aから供給される電圧に応じて送風量が変化する構成とされている。送風機電圧コントローラ5aは、メインコントローラ11によってその動作が制御されるようになっている。 【0022】 本実施形態では、車両には、冷凍サイクル装置31が設けられており、この冷凍サイクル装置31を構成するエバポレータが、冷却器7として用いられている。 ・・・ 【0024】 本実施形態では、ヒータ9として、動力源の冷却装置のうち、動力源から回収した熱を放出するラジエータが用いられている。 ・・・ エアミックスダンパ35は、エアミックスダンパアクチュエータ35bの動作を制御して、ドア35aの位置を調整することで、空調空気流路3の上流側に対するヒータ9の露出量を制御するものである。このように空調空気流路3の上流側に対するヒータ9の露出量を制御することで、ヒータ9の下流側に到達した空調空気のうち、ヒータ9を通過した空調空気(ヒータ9に加熱された空気)とヒータ9を迂回した空気(ヒータ9に加熱されなかった空気)との混合割合を制御して、空調空気の温度をコントロールすることができる。ここで、エアミックスダンパ35の動作制御は、車室内の雰囲気温度がメインコントローラ11に入力された目標車室内温度に保たれるよう、メインコントローラ11によって自動的に制御されるようになっている。 【0025】 車両用空調装置1は、車室内の雰囲気の湿度を検出する車室内湿度センサ41(車室内湿度検出器)と、車室内の雰囲気の温度を検出する車室内温度センサ43(車室内温度検出器)と、車室外の雰囲気温度(外気温度)を検出する外気温度センサ45(外気温度検出器)とを有している。また、車両用空調装置1には、日射量を検出する日射センサ47と、冷却器7の直後における空調空気の温度を検出する冷却器後方温度センサ49とが設けられている。 メインコントローラ11は、動力源制御装置33から車両の速度情報を受け取る構成とされている。また、車室内には、車内操作パネル51が設けられており、メインコントローラ11は、乗員が車内操作パネル51に入力した各種動作指令(動作のON/OFF指令、車内目標温度設定指令、風量設定指令、動作モードの切換指令等)に基づいて、車両用空調装置1の動作を制御する構成とされている。」 「【0030】 次に、メインコントローラ11は、車室内の目標湿度HTを決定する(ステップS4)。ここで、目標湿度HTは、曇り発生湿度範囲HFよりも低い範囲内で、乗員が最も快適と感じる値に設定される。また、本実施形態では、目標湿度HTは相対湿度で表される。 メインコントローラ11は、例えば、実験等によって得られた車室内温度と乗員が最も快適と感じる湿度との相関関係をあらわす数式(またはテーブル)を格納する記憶装置を有し、この数式(またはテーブル)と車室内温度センサ43の検出値とを用いて、目標湿度HTを予測する構成とされる。 なお、目標湿度HTの決定にあたっては、車室内湿度及び車室内温度に加えて、他のパラメータ(例えば日射センサ47等によって求められた日射量等)を考慮してもよい。 【0031】 本実施形態では、メインコントローラ11は、ステップS4において、目標湿度HTだけでなく、省電力モードにおける車両用空調装置1の詳細な動作モードの切換えの基準となる湿度を設定する。 具体的には、メインコントローラ11は、目標湿度HTに加えて、外気切換基準湿度HO、除湿基準湿度HD、除湿能力切換基準湿度HDC、デフロスト基準湿度HDF、及び風量切換基準湿度HBUを設定する。これらの値は、車室内温度及び外気温に依存するものである。図3のグラフに、車室内温度が25°Cである場合の外気温と各基準湿度の値との関係を示す。 各基準湿度は相対湿度で表されるものであって、その大きさは、目標湿度HT<外気切換基準湿度HO<除湿基準湿度HD<除湿能力切換基準湿度HDC<デフロスト基準湿度HDF<風量切換基準湿度HBUとされている。なお、風量切換基準湿度は、曇り発生湿度範囲HFの下限値以下に設定される。 【0032】 次に、メインコントローラ11は、車室内湿度センサ41によって検出された車室内の湿度HCと車室内の目標湿度HTとを比較し、その比較結果に基づいて、最適な動作モードの判定を行う(ステップS5)。以下、各動作モードについて説明する。 ・・・ 【0034】 メインコントローラ11は、車室内の湿度HCが目標湿度HTよりも高い場合(HT<HCである場合)には、車室内の湿度HCと目標湿度HTとの差の大きさに応じた動作モードに移行する。以下、各動作モードについて具体的に説明する。 [半内気モード] メインコントローラ11は、HT<HC<HOである場合には、内外気切換ダンパ21の動作を制御して外気取入口3aの開度を加湿モード時よりも増加させる(半内気モード)。 これにより、車両用空調装置1から車室内に供給される空調空気のうち、外気取入口3aから空調空気流路3内に取り入れられた外気の占める割合が増加する。すると、車室内雰囲気の水分の車室外への排出量が増加するとともに、乗員が発する水分のうち、車室内に残留する割合が少なくなるので、車室内雰囲気の湿度が低減される。 [外気モード] メインコントローラ11は、HO≦HC<HDである場合には、内外気切換ダンパ21の動作を制御して外気取入口3aの開度を半内気モード時よりも増加させる(外気モード)。本実施形態では、外気モード時には、外気取入口3aは全開とされ、内気取入口3bは全閉とされる。 これにより、車両用空調装置1から車室内に供給される空調空気が全て外気に占められるので、車室内雰囲気の水分の車室外への排出量が半内気モード時よりも増加するとともに、乗員が発する水分のうち、車室内に残留する割合が半内気モード時よりも少なくなるので、車室内雰囲気の湿度がより効果的に低減される。 【0035】 [除湿モード] メインコントローラ11は、HD≦HC<HDCである場合には、内外気切換ダンパ21の動作を制御して外気取入口3aの開度を増加させるとともに、冷却器7を最大能力よりも低い能力で動作させて、空調空気の除湿を行う(中度除湿モード)。本実施形態では、除湿モード時には、外気取入口3aは全開とされ、内気取入口3bは全閉とされる。 これにより、車室内雰囲気の湿度を、外気モード時よりも速やかに低減することができる。 本実施形態では、車室内湿度が大幅に変動した場合にも、車室内湿度が曇り発生湿度範囲HFに達する前に、後述する強除湿モード、デフロストモード、風量増加モードでの除湿期間を十分確保して、窓ガラスの曇りを防止することができるよう、除湿基準湿度HDの値は、曇り発生湿度範囲HFの下限値に対して相対湿度で10%低い値に設定される。 [強除湿モード] メインコントローラ11は、HDC≦HC<HDFである場合には、内外気切換ダンパ21の動作を制御して外気取入口3aの開度を増加させるとともに、冷却器7を中度除湿モード時よりも高い能力で動作させて、空調空気の除湿を行う(強除湿モード)。本実施形態では、強除湿モード時には、外気取入口3aは全開とされ、内気取入口3bは全閉とされる。 これにより、車室内雰囲気の湿度を、除湿モード時よりも速やかに低減することができる。 【0036】 [デフロストモード] メインコントローラ11は、HDF≦HC<HBUである場合には、内外気切換ダンパ21の動作を制御して外気取入口3aを全開、内気取入口3bを全閉とし、冷却器7を強除湿モード時以上の能力で動作させるとともに、デフロストダンパ25が開かれる(デフロストモード)。本実施形態では、デフロストモード時には、外気取入口3aは全開とされ、内気取入口3bは全閉とされるとともに、デフロストダンパ25が全開とされる。 これにより、車両の窓ガラス内面に乾燥した空調空気が吹き付けられることになり、車両の窓ガラスの曇りが防止される。 [風量増加モード] メインコントローラ11は、HBU≦HCである場合には、内外気切換ダンパ21の動作を制御して外気取入口3aを全開、内気取入口3bを全閉とし、冷却器7を強除湿モード時以上の能力で動作させ、デフロストダンパ25が開かれるとともに、ブロワ5の風量が増加させられる(風量増加モード)。本実施形態では、風量増加モード時には、外気取入口3aは全開とされ、内気取入口3bは全閉とされるとともに、デフロストダンパ25が全開とされる。 これにより、車室内雰囲気の湿度を、強除湿モード時よりも速やかに低減することができる。 ・・・ 【0039】 また、この車両用空調装置1では、車室内湿度HCが曇り発生湿度範囲HFに近い場合には、冷却器7が駆動させられて、車室内の除湿が行われる。 これにより、雨天時など乗員から発せられる水分量が多い場合や、車室内温度に比べて外気温度が大幅に低い場合など、空調空気に占める外気の割合の調整のみによっては車室内の湿度の制御が困難な場合にも、車室内の湿度を速やかに低下させて、窓ガラスの曇りを効果的に防止することができる。」 (3)引用発明との対比 本件補正発明と引用発明とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。 ア 後者の「車両の空調装置」は、前者の「車両に設けられる空調制御システム」に相当し、同様に、「エアコン2」は「空調装置」に相当する。 イ 後者の「車外に露出させた検出部位が降雨や降雪による水滴を検出するように構成された雨滴センサ4」は、前者の「前記車両の位置における気象情報を、当該気象情報を提供する前記車両の外部の装置から取得する気象情報取得部」に、「車両の位置における気象情報を取得する気象情報取得部」の点で共通する。 ウ 後者の「運転者20が乗車したことを検知するためのドア閉検知センサ5及びイグニッションスイッチ15」、及び「制御装置3」による「前記運転者20が運転席11に乗車してドアを閉めると、前記ドア閉検知センサ5から前記制御装置3にドア閉検知信号が出力され(ステップS1)、前記制御装置3に前記ドア閉検知信号が入力された後に、前記運転者20が前記イグニッションスイッチ15をOFFからSTARTにしてエンジンを始動すると、前記制御装置3は前記イグニッションスイッチ15が操作されたことを検知し(ステップS2)」という検知機能からなる機能部は、前者の「車両への乗員の乗車イベントを検出する乗車イベント検出部」に相当する。 そして、後者において上記「検知」がされることは、前者の「前記乗車イベント検出部により前記乗車イベントが検出」されることに相当する。 エ 後者の「前記エアコン2、前記雨滴センサ4、前記ドア閉検知センサ5、温度センサ6、湿度センサ7及び前記イグニッションスイッチ15が接続され、プログラムに従ってエアコン2の送風の温度や強弱、あるいは吸気方式(外気導入または内気循環)などの各種設定を制御するECU(Electronic Control Unit)である制御装置3」は、前者の「前記空調装置を制御する制御部」に相当する機能部を備えることは明らかである。 また、後者の「制御装置3」は、「プログラムに従ってエアコン2の送風の温度や強弱、あるいは吸気方式(外気導入または内気循環)などの各種設定を制御する」ものであるから、前者の「空調装置の制御に関する制御情報を記憶する記憶部」に相当する機能部を備えることは明らかである。 オ 前者の「判定部」において、「前記乗車イベントの際の前記車両内への前記乗員による持ち込み水分量であって、前記車両の外部環境に起因した持ち込み水分量が、所定レベルを超えるか否かを判定」することについては、本願明細書の「判定部44は、気象情報取得部42が取得した気象情報に基づいて、乗車イベントの際の自車内への乗員による持ち込み水分量であって、自車の外部環境に起因した持ち込み水分量(以下、単に「持ち込み水分量」とも称する)が所定レベルを超えるか否かを判定する。持ち込み水分量とは、乗車イベントの際に乗員により自車内に持ち込まれる水分であって、自車の外部環境に起因した持ち込み水分(以下、単に「持ち込み水分」とも称する)の量である。・・・従って、持ち込み水分量が所定レベルを超えるか否かを判定することは、持ち込み水分が有るか否かを判定することを含む概念である。持ち込み水分量が所定レベルを超えるか否かの判定方法は、例えば次のとおりである。・・・第1例では、判定部44は、乗車イベントの際の乗車位置における気象が雨又は雪である場合に、持ち込み水分量が所定レベルを超えると判定する。他方、判定部44は、乗車イベントの際の乗車位置における気象が雨及び雪以外である場合(例えば曇りや晴れの場合)に、持ち込み水分量が所定レベルを超えないと判定する。従って、第1例では、所定レベルは0である。」(段落0027及び0028)との記載によれば、雨又は雪である場合に、持ち込み水分量が所定レベルを超えると判定し、雨及び雪以外である場合(例えば曇りや晴れの場合)に持ち込み水分量が所定レベルを超えないと判定することが、本願発明の実施態様として示されており、持ち込み水分量を具体的に計測する必要はなく、単に雨又は雪であるという事象に基づいて判断する態様を含むものである。 そうすると、後者の「前記制御装置3は、前記雨滴センサ4に対して水滴の検出を問い合わせ(ステップS3)」、「前記雨滴センサ4が水滴を検出していない場合」と「前記雨滴センサ4が水滴を検出している場合」とを判定することは、前者の「前記気象情報に基づいて、前記乗車イベントの際の前記車両内への前記乗員による持ち込み水分量であって、前記車両の外部環境に起因した持ち込み水分量が、所定レベルを超えるか否かを判定」することに相当する。 また、後者は、ステップS3からS4a又はS4bへ制御を分岐させているのだから、制御を分岐させるために制御情報の状態を切り換えていることは明らかである。 よって、後者における上記判定する部分は、前者の「判定結果に基づいて前記制御情報を変更する判定部」に相当する。 後者の「前記雨滴センサ4が水滴を検出している場合」は、前者の「前記持ち込み水分量が前記所定レベルを超えると判定した場合」に相当し、後者のステップS4bに分岐するとき、すなわち乾燥モードの上記制御情報の状態が、前者の「第2状態」に相当し、後者のステップS4aに分岐するとき、すなわち通常モードの上記制御情報の状態が、前者の「第1状態」に相当する。 そして、後者において、通常モードの時に雨滴センサ4が水滴を検出すると、乾燥モードとなるところ、この動作は、前者の「前記制御情報が第1状態であるときに前記持ち込み水分量が前記所定レベルを超えると判定した場合、前記制御情報を第2状態に変更」することに相当する。 以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。 [一致点] 「車両に設けられる空調制御システムであって、 空調装置と、 前記空調装置の制御に関する制御情報を記憶する記憶部と、 前記車両の位置における気象情報を取得する気象情報取得部と、 前記車両への乗員の乗車イベントを検出する乗車イベント検出部と、 前記乗車イベント検出部により前記乗車イベントが検出された場合に、前記気象情報に基づいて、前記乗車イベントの際の前記車両内への前記乗員による持ち込み水分量であって、前記車両の外部環境に起因した持ち込み水分量が、所定レベルを超えるか否かを判定し、判定結果に基づいて前記制御情報を変更する判定部と、 前記空調装置を制御する制御部とを含み、 前記判定部は、前記制御情報が第1状態であるときに前記持ち込み水分量が前記所定レベルを超えると判定した場合、前記制御情報を第2状態に変更する、空調制御システム。」 [相違点1] 「気象情報取得部」により取得する「車両の位置における気象情報」に関し、本件補正発明では、「当該気象情報を提供する前記車両の外部の装置から取得する」情報であるのに対し、引用発明では、「車外に露出させた検出部位が降雨や降雪による水滴を検出するように構成された雨滴センサ4」により検出する情報である点(以下「相違点1」という。)。 [相違点2] 本件補正発明では、「前記制御部は、前記制御情報が前記第2状態である場合、前記制御情報が前記第1状態である場合に比べて、前記空調装置の換気能力を高くする」のに対して、引用発明では、「制御装置3」がエアコン2を「乾燥モード」で運転する場合に、「通常モード」で運転する場合に比べて、エアコン2の換気機能を高めるか不明である点(以下「相違点2」という。)。 (4)判断 ア 相違点1について 引用発明の「車外に露出させた検出部位が降雨や降雪による水滴を検出するように構成された雨滴センサ4」において、車外に露出させた検出部位は、車外の外部の装置といえるから、引用発明における雨滴センサ4により検出する情報は、車両の外部の装置から取得する気象情報ということができる。 そうすると、上記相違点1は、実質的な相違ではない。 仮に、相違点1が実質的な相違であるとしても、車両に設けられる空調制御システムにおいて、車両の位置における気象情報を、当該気象情報を提供する前記車両の外部の装置から取得し、取得した気象情報に基づいて、空調装置を制御することは、本願の出願前に周知の技術(以下「周知技術」という。特開2000-62433号公報(特に、段落0026、0027、0065及び0066並びに図2、5及び6)、特開2005-335527号公報(特に、段落0001、0007及び0039ないし0063並びに図1)及び特開2015-74364号公報(特に、段落0006、0007、0013ないし0016、0022ないし0031及び0037ないし0039並びに図1及び2)を参照。)である。 上記周知技術を踏まえると、引用発明において、窓の防曇を含めてより快適な空調制御を可能とすべく気象情報を車両の外部の装置から取得することは、当業者が容易に想到し得たことである。 そして、引用発明において、車両の外部の装置から気象情報を取得する場合、雨滴センサ4を設けなくても、車両の外部の装置から取得した気象情報を用いることにより、降雨や降雪を判断できることは明らかである。 よって、引用発明において、上記相違点2に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者にとって格別困難なことではない。 イ 相違点2について 上記(2)イで示した引用文献2には、車両用空調装置において、除湿時に冷凍サイクル装置を動作させると共に、外気取入口の開度の増加やブロワの風量増加により換気能力を高めることが記載されている(特に、段落0035及び0036の除湿モード、強除湿モード、デフロストモード及び風量増加モードの記載を参照。)。 そして、引用発明と引用文献2に記載された事項とは、車両用の空調における除湿運転についての技術で共通し、引用文献2に記載された事項のように冷凍サイクル装置の運転のみでなく、換気能力を高める方が除湿能力の向上が期待できるから、引用発明において、エアコン2を乾燥モードで運転する場合(制御情報が第2状態である場合)に、引用文献2に記載の事項に基づき、エアコン2を通常モードで運転する場合(制御情報が第1状態である場合)に比べて、エアコン2の換気機能を高めるようにし、上記相違点2に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 ウ 効果について そして、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明、引用文献2に記載された事項及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。 エ まとめ したがって、本件補正発明は、引用発明、引用文献2に記載された事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 3 本件補正についてのむすび したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし8に係る発明は、本願の願書に最初に添付された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。 2 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由の一部は、以下のとおりである。 (1)理由1(進歩性) 本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 引用文献1:特開2006-248306号公報 引用文献2:特開2008-137599号公報 3 引用文献 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及び2並びにそれらの記載事項は、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。 4 対比・判断 本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「車両の位置における気象情報」について、「気象情報を提供する前記車両の外部の装置から」及び「前記車両の外部の装置から取得された」という取得先の特定事項を省いたものである。 そうすると、本願発明と引用発明とを対比した場合の相違点は、前記第2の[理由]2(3)で挙げた相違点2のみとなるから、前記第2の[理由]2(4)の検討を踏まえれば、本願発明は、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2020-01-06 |
結審通知日 | 2020-01-14 |
審決日 | 2020-01-27 |
出願番号 | 特願2016-126023(P2016-126023) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B60H)
P 1 8・ 575- Z (B60H) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | ▲高▼藤 啓 |
特許庁審判長 |
松下 聡 |
特許庁審判官 |
槙原 進 紀本 孝 |
発明の名称 | 空調制御システム及び情報処理装置 |
代理人 | 伊東 忠彦 |
代理人 | 伊東 忠重 |