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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A63F
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A63F
審判 査定不服 特39条先願 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A63F
管理番号 1360884
審判番号 不服2019-2845  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-03-01 
確定日 2020-03-13 
事件の表示 特願2016-255829号「遊技機」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 3月23日出願公開、特開2017- 56298号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成20年8月25日に出願した特願2008-215264号(以下「原出願」という。)の一部を平成25年9月10日に新たな特許出願(特願2013-187100号)とし、さらにその一部を平成27年5月20日に新たな特許出願(特願2015-102789号)とし、さらにその一部を平成28年12月28日に新たな特許出願(特願2016-255829号)としたものであって、平成30年2月2日に意見書及び手続補正書が提出され、同年6月5日付けで拒絶の理由が通知され、同年8月9日に意見書及び手続補正書が提出されたところ、同年11月27日付け(送達日:同年12月4日)で、同年8月9日付け手続補正が却下されるとともに拒絶査定がなされ、それに対して、平成31年3月1日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正がなされ、これに対し、当審において、令和1年8月28日付けで拒絶の理由が通知され、同年11月5日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成31年3月1日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)は、次のとおりのものである(A?Gは、本願発明1を分説するために当審で付与した。)。
「【請求項1】
A 遊技者にとって有利な遊技状態の発生の有無を示す識別情報を変動表示する識別情報変動表示手段を備えた遊技機において、
B 当該遊技機の前面側に位置する前面側部材と、
C 前記前面側部材の正面側に位置する、遊技用媒体を貯留する貯留領域が遊技機外部に露出された状態で形成されている遊技用媒体貯留部と、
D 前記前面側部材の正面視で前記遊技用媒体貯留部の上方箇所に設けられており、少なくとも水平方向に延びて且つ手前側に突出しており、遊技者が把持することが可能な把持部と、を備え、
E 前記把持部は、前記前面側部材の正面視での前記遊技用媒体貯留部の上方箇所であって、前記識別情報変動表示手段とその他の遊技に関する判定情報を表示する表示手段と音声出力手段のいずれとも重ならない箇所に設けられており、
F 前記把持部は、前記前面側部材の上面視で、前記遊技用媒体貯留部の上面に設けられた遊技者によって操作される操作部に重ならないように、かつ、当該把持部における当該遊技機の中央側の部位が当該把持部における当該遊技機の左外側と右外側の両方の部位よりも当該遊技機の前面側に近付くように屈曲して形成されていることを特徴とする
G 遊技機。」

第3 当審拒絶理由の概要
令和1年8月28日付けの当審における拒絶の理由の概要は、以下の通りである。

1.(新規性)本件出願の請求項1に記載された発明(以下、「本願発明1」という。)は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
2.(進歩性)本願発明1は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

●理由1(新規性)及び理由2(進歩性)について
●本願発明1について
・引用例 1

1.特開2001-276377号公報(新たに引用された文献)

第4 引用例に記載された事項
1 引用例1
当審における拒絶の理由(令和1年8月28日付け拒絶理由通知書)に引用例1として引用された原出願の出願前に頒布された特開2001-276377号公報(以下「引用例1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審で付した)。

ア 記載事項
(ア)「【0003】
【発明が解決しようとする課題】遊技機の重量はけっして軽くはないのだが、持ち運び用の取っ手のようなものは備わっていなかった。このため、外枠の例えば上辺部分に手を掛けて運ぶことが多かった。しかし、そのような持ち方であるとしっかりと保持することができないので、持ち運びが簡単ではなく、ときには落下させて破損させることがあった。
【0004】
【課題を解決するための手段及び発明の効果】請求項1記載の遊技機は、その上部の前面側に突出して設けられた握部を備えたので、例えば遊技機の製造や遊技店での設置作業等に際して、握部を持って遊技機を運ぶことができる。握部はしっかりと保持することができるから、持ち運びが簡単で、手が外れて落下させるおそれもない。」

(イ)「【0009】
【実施例】図1に示すように、遊技機としてのパチンコ機10は正面から見た形状が長方形の外枠12を備えている。外枠12は公知のパチンコ機のものと同様であり、その内側に各種の機構を収容している。それらの機構もまた公知のパチンコ機のものと同様であるので、図示と説明は省略する。
【0010】外枠12には、上下のヒンジ13を介して中枠14が取り付けられている。中枠14はヒンジ13を軸として扉状に開閉可能であるが、通常は図示するように閉じられている。その中枠14の前面側の上半部には、有窓体に該当する窓枠体15が、ヒンジ16a、16bを介して扉状に開閉可能に取り付けられ、その下方にては上皿体17がヒンジ16b、16cを介して扉状に開閉可能に取り付けられている。これらも通常は図示するように中枠14の前面側に閉じられている。
・・・
【0012】図1?3に示すように、窓枠体15には円形の窓22が設けられている。窓22のサイズは遊技盤(図示は省略)に形成された遊技領域(ガイドレール等で区画されるほぼ円形の領域で、この領域に入賞装置等が配置されている。)とほぼ等しく、図1に示す状態のときに中枠14にて保持されている遊技盤の遊技領域とほぼ重なる位置に設けられている。」

(ウ)「【0022】窓22の上方には弓状部材30が取り付けられている。弓状部材30は中央部が遊技者側に突出する弓状をしており、左右端部31は窓枠体15に固着されているが、中央の握部32と窓枠体15の表面との間には隙間33が設けられている。この隙間33は上側よりも下側が広くなっているが、狭い部分でも通常の成人の手(掌部分)を入出させることが可能な幅である。このため、握部32を握ることが可能で、これを握って例えば窓枠体15を持ち運んだり、またパチンコ機10を持ち運ぶことが可能である。いうまでもないが、弓状部材30はそのような荷重に十分に耐えうる強度を備えている。弓状部材30は、握部32を形成する板状部材に相当する。
【0023】弓状部材30はほぼ無色透明なプラスチック材料で成形されているが、遊技者側になる面30aには微少な凹凸が設けられて磨りガラスと同様の乱反射面とされている。また、端部31にはランプ用のレンズ部31aが設けられており、その背後には例えばLED等の発光源(図示は省略)が配されている。このレンズ部31aには適宜の着色を施すことができ、その色によって装飾効果を高める。また、発光源の光を弓状部材30の内部全体或いは一部に拡散させることが可能で、そうした内部伝達光にて例えば握部32を発光させることができる。そのように構成することで握部32に電飾効果を持たせることができる。
【0024】図1、図4及び図5に示すように、上皿体17には球受皿に該当する上皿35が設けられている。図4及び図5に示すように、上皿35のほぼ左半部には遊技球を貯留するための貯留池36が設けられ、貯留池36には上皿体17の背壁37に沿う流出路38が連続している。これら貯留池36及び流出路38が貯留部に該当する。また、背壁37には放出口39が開口している。放出口39からは賞球が(機種によっては貸球も)貯留池36に放出され、貯留池36の遊技球は流出路38にて発射装置(図示は省略)に誘導される。
【0025】上皿35の周縁部40は略半楕円状で、周縁部40と貯留池36及び流出路38の間には上面部材に該当する上面41が配され周縁部40と上面41との境界には稜線40aが形成されている。なお、周縁部40と上面41とはプラスチックにて一体成形されている。
【0026】上面41の右端部には、球抜きボタン42が装着されており、これを押しつけるように操作すれば貯留池36及び流出路38の遊技球を下皿18に排出させることができる。この排出経路や機構は公知のものと同様であるから図示と説明を省略する。」

(エ)「【0031】本実施例のパチンコ機10は、その上部の前面側に突出して設けられた握部32を備えたので、例えば製造工程や遊技店での設置作業等に際して、握部32を持って運ぶことができる。握部32はしっかりと保持することができるから、持ち運びが簡単で、手が外れて落下させるおそれもない。
【0032】その握部32は、パチンコ機10の幅方向に沿って配される板状部材である弓状部材30によって形成されているので掴みやすく、しっかりと保持できる。よって持ち運びがより簡単で、手が外れて落下させるおそれも一層ない。また弓状部材30は、遊技盤を臨ませる窓22を有して遊技盤の前方に配される窓枠体15に一体化されているので、握部32を窓枠体15の一部として装飾に利用できる。
【0033】特に、弓状部材30は、左右の端部31にて窓枠体15に一体化され、中央部が握部32とされているので、見た目すなわちデザイン性が一層良好となる。窓枠体15の窓22には、透明プラスチック製の閉窓体24がはめ込まれて閉ざされているので、遊技盤等を保護できる。
【0034】窓枠体15の窓22には、透明プラスチック製の閉窓体24がはめ込まれて閉ざされているので、遊技盤等を保護できる。この実施例のように、長方形状の外枠12、その前面側に取り付けられて遊技盤を支持する中枠14、中枠14の前面側に取り付けられる窓枠体15を備える構造はパチンコ機などの弾球遊技機に適している。」

イ 認定事項
(オ)パチンコ機全体を示す正面図である【図1】(a)において、

引用例1には、「握部32」が「窓22」よりも上方に位置し、「握部32」と、「窓22」が重ならない位置関係にあることが図示されているものと認められる。

(カ)パチンコ機全体を示す側面図である【図1】(b)において、

上皿体17は、パチンコ機10の手前側に位置し、その全体がパチンコ機前面に突出しており、上皿体17を示す平面図である【図4】(a)を合わせてみると、引用例1には、前面に突出して設けられた上皿体17の貯留池36の上方が開放されていることが図示されているものと認められる。

(キ)パチンコ機全体を示す側面図である【図1】(b)において、上皿体17の前面側(図の左側)の端部は、握部32が形成される弓状部材30の前面側の端部よりも前面側に突出しているから、引用例1には、上皿体17の上面41の前端部が、握部32が形成される弓状部材30の前面側の端部よりも前面側に突出して設けられることが図示されているものと認められる。

(ク)【0022】に、「中央の握部32と窓枠体15の表面との間には隙間33が設けられている。この隙間33は上側よりも下側が広くなっているが、狭い部分でも通常の成人の手(掌部分)を入出させることが可能な幅である。」と記載されている。
また、パチンコ機全体を示す斜視図である【図3】(a)において、

弓状部材30に設けられた隙間33について、隙間33の中央部と、窓枠体15表面との間の奥行方向の幅aが、隙間33の両端部と、窓枠体15表面との間の奥行方向の幅bよりも長い凸状に形成されていると認められる。
これらのことからみて、引用例1には、握部32と窓枠体15表面との間の隙間33の上側の狭い部分について、その水平方向断面形状が、中央部の奥行方向の幅aが、両端部の奥行方向の幅bよりも長い凸状に形成されていることが図示されているものと認められる。

上記記載事項(ア)?(エ)及び認定事項(オ)?(ク)より、以下の事項が導かれる。
(a、b、g)上記【0009】には「パチンコ機10は・・・外枠12を備え」と記載され、上記【0010】には「外枠12には、・・・中枠14が取り付けられ・・・中枠14の前面側の上半部には、・・・窓枠体15が・・・取り付けられ、」と記載され、上記【0012】には「窓枠体15には円形の窓22が設けられ・・・窓22のサイズは遊技盤・・・に形成された遊技領域・・・とほぼ等しく、・・・中枠14にて保持されている遊技盤の遊技領域とほぼ重なる位置に設けられている」と記載され、段落【0034】には「外枠12・・の前面側に取り付けられて遊技盤を支持する中枠14」と記載されているから、引用例1には、パチンコ機10の外枠12の前面側に位置する中枠14には、遊技領域を形成する遊技盤が保持されることが記載されている。

(c)上記【0010】には「中枠14の前面側・・・には、・・・窓枠体15が・・・取り付けられ、その下方にては上皿体17が・・・取り付けられ・・・中枠14の前面側に閉じられている。」と記載され、上記【0024】には「上皿体17には球受皿に該当する上皿35が設けられ・・・上皿35のほぼ左半部には遊技球を貯留するための貯留池36が設けられ、」と記載されることと、「前面に突出して設けられた上皿体17の貯留池36の上方が開放されていること」が特定される上記認定事項(カ)より、引用例1には、中枠14の前面側下方には上皿体17が前面に突出して取り付けられ、上皿体17には球受皿に該当する上皿35が設けられ、上皿35の左半分には、遊技球を貯留するための貯留池36の上方が開放されるように設けられることが記載されている。

(d)上記【0010】には「中枠14の前面側の上半部には、・・・窓枠体15が・・・取り付けられ、」と記載され、上記【0012】には「窓枠体15には・・・窓22が設けられ」と記載され、上記【0022】には「窓22の上方には弓状部材30が取り付けられ・・・弓状部材30は中央部が遊技者側に突出する弓状をしており、左右端部31は窓枠体15に固着されているが、中央の握部32と窓枠体15の表面との間には隙間33が設けられて・・・隙間33は上側よりも下側が広くなっているが、狭い部分でも通常の成人の手(掌部分)を入出させることが可能な幅で・・・握部32を握ることが可能で、」と記載され、上記【0032】には、「握部32は、パチンコ機10の幅方向に沿って配される板状部材である弓状部材30によって形成され」と記載されることより、引用例1には、中枠14の上半部には、窓枠体15が取り付けられ、窓枠体15に設けられる窓22の上方には、握ることが可能な握部32を形成する弓状部材30がパチンコ機10の幅方向に沿って取り付けられ、弓状部材30は中央部が遊技者側に突出する弓状をしており、左右端部31は窓枠体15に固着されているが、中央の握部32と窓枠体15の表面との間には隙間33が設けられ、隙間33は上側よりも下側が広くなっているが、狭い部分でも通常の成人の手(掌部分)を入出させることが可能な幅であって、握部32を握ることが可能であることが記載されている。

(e)上記【0012】には「窓22のサイズは遊技盤・・・に形成された遊技領域・・・とほぼ等しく、」と記載され、上記【0022】には「窓22の上方には弓状部材30が取り付けられ・・・弓状部材30は、握部32を形成する」と記載され、上記【0023】には「弓状部材30・・・端部31にはランプ用のレンズ部31aが設けられており、その背後には・・・発光源が配され、・・・発光源の光を弓状部材30の内部・・・に拡散させることが可能で、そうした内部伝達光にて握部32を発光させることができ」と記載されることより、引用例1には、握部32が、遊技盤に形成された遊技領域とほぼ等しいサイズの窓22の上方に形成され、端部31にはランプ用のレンズ部31aが設けられており、その背後には発光源が配され、発光源の光を弓状部材30の内部に拡散させることが可能で、そうした内部伝達光にて握部32を発光させることができることが記載されている。

(f)上記【0022】には、「中央の握部32と窓枠体15の表面との間には隙間33が設けられ・・・隙間33は上側よりも下側が広くなっているが、狭い部分でも通常の成人の手(掌部分)を入出させることが可能な幅である」と記載され、上記【0024】には「上皿体17には球受皿に該当する上皿35が設けられ」と記載され、上記【0025】には「上皿35の周縁部40・・・と貯留池36及び流出路38の間には上面部材に該当する上面41が配され」と記載され、上記【0026】には「上面41の右端部には、球抜きボタン42が装着されており、これを押しつけるように操作すれば貯留池36及び流出路38の遊技球を下皿18に排出させることができる。」と記載されることと、「上皿体17の上面41の前端部が、握部32が形成される弓状部材30の前面側の端部よりも前面側に突出すること」が特定される上記認定事項(キ)、「握部32と窓枠体15表面との間の隙間33の上側の狭い部分について、その水平方向断面形状が、中央部の奥行方向の幅aが、両端部の奥行方向の幅bよりも長い凸状に形成されていること」が特定される上記認定事項(ク)より、引用例1には、上皿体17の上面41の前端部が、握部32が形成される弓状部材30の前面側の端部よりも前面側に突出し、握部32と窓枠体15表面との間の隙間33の上側の狭い部分について、その水平方向断面形状が、中央部の奥行方向の幅aが、両端部の奥行方向の幅bよりも長い凸状に形成され、上皿体17の上面41の右端部に、押しつけるように操作される球抜きボタン42が装着されることが記載されている。

上記記載事項(ア)?(エ)及び上記(オ)?(ク)の認定事項から、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる(a’?gは、発明の構成を分説するため当審で付与した。)。
「a’、b、g パチンコ機10の外枠12の前面側に位置する中枠14には、遊技領域を形成する遊技盤が保持され、
c 中枠14の前面側下方には上皿体17が前面に突出して取り付けられ、上皿体17には球受皿に該当する上皿35が設けられ、上皿35の左半分には、遊技球を貯留するための貯留池36の上方が開放されるように設けられ、
d’ 中枠14の上半部には、窓枠体15が取り付けられ、窓枠体15に設けられる窓22の上方には、握ることが可能な握部32を形成する弓状部材30がパチンコ機10の幅方向に沿って取り付けられ、弓状部材30は中央部が遊技者側に突出する弓状をしており、左右端部31は窓枠体15に固着されているが、中央の握部32と窓枠体15の表面との間には隙間33が設けられ、隙間33は上側よりも下側が広くなっているが、狭い部分でも通常の成人の手(掌部分)を入出させることが可能な幅であって、握部32を握ることが可能で、
e’ 握部32が、遊技盤に形成された遊技領域とほぼ等しいサイズの窓22の上方に形成され、端部31にはランプ用のレンズ部31aが設けられており、その背後には発光源が配され、発光源の光を弓状部材30の内部に拡散させることが可能で、そうした内部伝達光にて握部32を発光させることができ、
f’ 上皿体17の上面41の前端部が、握部32が形成される弓状部材30の前面側の端部よりも前面側に突出し、握部32と窓枠体15表面との間の隙間33の上側の狭い部分について、その水平方向断面形状が、中央部の奥行方向の幅aが、両端部の奥行方向の幅bよりも長い凸状に形成され、上皿体17の上面41の右端部に、押しつけるように操作される球抜きボタン42が装着された、
g パチンコ機10。」

第5 対比
本願発明1と引用発明とを対比する。

(a’、b、g)引用発明の「パチンコ機10」は、遊技機の一種であるから、本願発明1の「遊技機」に相当する。また、「パチンコ機10」は、「外枠12」の「前面側」に「中枠14」があるところ、「パチンコ機10」全体で見ると、「中枠14」は、「パチンコ機10」の前面側に位置するといえるから、引用発明の「パチンコ機10の外枠12の前面側に位置する中枠14」は、本願発明1の「遊技機の前面側に位置する前面側部材」に相当する。
してみると、引用発明の構成a’、b、gは、本願発明1の構成Aと、「遊技機」である点で共通すると共に、本願発明1の構成B及び構成Gに相当する。

(c)引用発明の「貯留池36」は、「遊技球を貯留するための」ものであって、「遊技球」は遊戯用媒体の一種であるから、本願発明1の「遊戯用媒体を貯留する貯留領域」に相当する。そして、引用発明の「上皿体17」は、その「上皿35の左半分」に設けられた「貯留池36」が、「中枠14の前面側下方に」「上方が開放されるように」「取り付けられ」ていることから、「貯留池36」が、遊技の外部に露出していることは明らかであり、本願発明1の「貯留領域が遊技機外部に露出された状態で形成されている遊戯用媒体貯留部」に相当する。
そして、遊戯用媒体貯留部が取り付けられる位置において、引用発明の「中枠14の前面側」であることは、本願発明1の「前面側部材の正面側」であることに相当する。
してみると、引用発明の構成cは、本願発明1の構成Cに相当する。

(d’)引用発明の「握部32」の配置位置は、「中枠14の上半部」に「取り付けられ」る「窓枠体15」の「窓22の上方」であって、「中枠14」の「下方」に設けられる「上皿体17」よりも上方箇所であることは明らかであるから、本願発明1の「前記前面側部材の正面視で前記遊技用媒体貯留部の上方箇所」に相当する。
また、引用発明の「パチンコ機10の幅方向」、「遊技者側に突出する弓状」は、それぞれ本願発明1の「少なくとも水平方向」、「手前側に突出」に相当するから、「パチンコ機10の幅方向に沿って取り付けられ、」かつ「遊技者側に突出する弓状をして」いる「弓状部材30」「中央の」「握部32」は、本願発明1の「少なくとも水平方向に延びて且つ手前側に突出して」いる「把持部」に相当する。
さらに、引用発明の「握部32」は、「隙間33」の「狭い部分でも通常の成人の手」を入れ、「握部を握ることが可能」であるから、引用発明の「握部32」は、「把持することが可能」であるといえる。
してみると、引用発明の構成d’は、本願発明1の構成Dと、「前記前面側部材の正面視で前記遊技用媒体貯留部の上方箇所に設けられており、少なくとも水平方向に延びて且つ手前側に突出しており、把持することが可能な把持部と、を備え」る点で共通する。

(e’)引用発明の「握部32」の配置位置が、上記(d’)で説示したように、「上皿体17」より上方箇所であることは、本願発明1の「前記前面側部材の正面視での前記遊技用媒体貯留部の上方箇所であ」ることに相当し、「ランプ用のレンズ部31a」及び「その背後」にある「発光源」を組み合わせたものは、本願発明1の「表示手段」に相当する。
また、引用発明の「握部32」は、上記(d’)で説示したように、「弓状部材30」の「中央部」に「遊技者側に突出」して設けられており、「窓枠体15」に「固着」された「左右端部31」とは重ならない配置関係にあることは明らかであるから、当該「端部31」に設けられた、「ランプ用のレンズ部31a」及び「その背後」にある「発光源」とも重ならない箇所に設けられているといえる。
してみると、引用発明の構成e’は、本願発明1の構成Eと、「前記把持部は、前記前面側部材の正面視での前記遊技用媒体貯留部の上方箇所であって、表示手段に重ならない箇所に設けられて」いる点で共通する。

(f’)上記(c)で説示のとおり、引用発明の「上皿体17」は、本願発明1の「遊技用媒体貯留部」に相当するから、引用発明の「上皿体17の上面41」は、本願発明1の「前記遊技用媒体貯留部の上面」に相当する。
また、引用発明の「上皿体17の上面41の前端部」は、本願発明1と、「前記遊技用媒体貯留部の上面」の一部分である点で共通する。
そして、引用発明の「上面41の前端部」は、「握部32が形成される弓状部材30の前面側の端部よりも前面側に突出」しているところ、このように形成される「握部32」と「上面41の前端部」の位置関係は、「握部32」と、「上面41の前端部」が前面側部材の上面視で重ならない関係にあるといえる。
そうすると、引用発明の「上皿体17」「上面41の前端部」が、「握部32が形成される弓状部材30の前面側の端部よりも前面側に突出」するように形成されることと、本願発明1の構成Fは、「前記把持部は、前記前面側部材の上面視で、前記遊技用媒体貯留部の上面の一部分と重ならないように形成されている」点で共通する。
また、引用発明の「球抜きボタン42」は、これを「押しつけるように操作」することで「貯留池36」の「遊技球を下皿18に排出させることができる」ものであり、当該操作は遊技者によって行われることは明らかであるから、本願発明1の「遊技者によって操作される操作部」に相当する。
してみると、引用発明の構成f’は、本願発明1の構成Fと、「前記遊技用媒体貯留部の上面に遊技者によって操作される操作部が設けられ、前記把持部は、前記前面側部材の上面視で、前記遊技用媒体貯留部の上面の一部分と重ならないように形成されている」点で共通する。

上記(a’)?(g)から、本願発明1と引用発明とは、
[一致点]
「A’ 遊技機において、
B 当該遊技機の前面側に位置する前面側部材と、
C 前記前面側部材の正面側に位置する、遊技用媒体を貯留する貯留領域が遊技機外部に露出された状態で形成されている遊技用媒体貯留部と、
D’ 前記前面側部材の正面視で前記遊技用媒体貯留部の上方箇所に設けられており、少なくとも水平方向に延びて且つ手前側に突出しており、把持することが可能な把持部と、を備え、
E’ 前記把持部は、前記前面側部材の正面視での前記遊技用媒体貯留部の上方箇所であって、表示手段に重ならない箇所に設けられており、
F’ 前記遊技用媒体貯留部の上面に遊技者によって操作される操作部が設けられ、前記把持部は、前記前面側部材の上面視で、前記遊技用媒体貯留部の上面の一部分と重ならないように形成された
G 遊技機。」
である点で一致し、以下の点で相違(以下、「相違点」という。)する。

[相違点1](特定事項A)
本願発明1は、「遊技者にとって有利な遊技状態の発生の有無を示す識別情報を変動表示する識別情報変動表示手段を備え」ているのに対して、
引用発明は、そのように特定されていない点。

[相違点2](特定事項D)
把持部が、本願発明1は、「遊技者が把持することが可能」であるのに対して、引用発明は、「通常の成人の手」で把持することが可能であるが、「遊技者」が把持可能であることは特定されていない点。

[相違点3](特定事項E)
本願発明1は、把持部が、「前記識別情報変動表示手段」と「音声出力手段」「のいずれとも重ならない箇所に設けられ」ているのに対して、
引用発明は、そのように特定されていない点。

[相違点4](特定事項E)
把持部と重ならない箇所に設けられている表示手段が、本願発明1は、「遊技に関する判定情報を表示する」ものであるのに対して、
引用発明は、どのような情報を表示するためのものであるのかが不明である点。

[相違点5](特定事項F)
前面側部材の上面視で、把持部が重ならないように形成される対象が、本願発明1は、「前記遊技用媒体貯留部の上面に設けられた遊技者によって操作される操作部」であるのに対して、
引用発明は、「遊技用媒体貯留部の上面の一部分」であるが、当該「遊技用媒体貯留部の上面の一部分」と、「遊技用媒体貯留部の上面」に設けられた「球抜きボタン42」との位置関係が不明であるため、「前記遊技用媒体貯留部の上面に設けられた遊技者によって操作される操作部」は特定されていない点。

[相違点6](特定事項F)
本願発明1は、把持部の形状が、「当該遊技機の中央側の部位が当該把持部における当該遊技機の左外側と右外側の両方の部位よりも当該遊技機の前面側に近付くように屈曲して形成されている」のに対して、
引用発明は、「中央部が遊技者側に突出する弓状」に形成されている点。

以下、上記相違点について検討する。
[相違点1について]
パチンコ機の遊技盤における、窓から視認可能な位置に、遊技者にとって有利な遊技状態(例えば、大当り等)が発生するか否かを示す識別情報(例えば、数字や図柄)を変動表示する手段(例えば、液晶表示装置など)を組み込むことは、当業者における技術常識であるから、引用例1には明記されていないものの、引用発明の「パチンコ機10」の「中枠14」にて「保持」されている」「遊技盤」には、本願発明1の「遊技者とって有利な遊技状態の発生の有無を示す識別情報を変動表示する識別情報変動表示手段」が組み込まれていると認められる。
したがって、上記相違点1は、実質的な相違点ではなく、仮に相違点であるとしても、引用発明の遊技盤に、遊技者とって有利な遊技状態の発生の有無を示す識別情報を変動表示する識別情報変動表示手段を組み込むことは、上記技術常識より当業者が適宜なし得たことである。

[相違点2について]
引用発明の「握部32」(把持部)は、パチンコ機10の正面視で窓22よりも上方に遊技者側に突出して設けられているから、「握部32」は、遊技を行う遊技者に面して設置されており、遊技者が把持することが可能であると認められる。
したがって、引用発明の「握部32」は、本願発明1の「遊技者が把持することが可能な把持部」に相当する。

よって、上記相違点2は、実質的な相違点ではない。

[相違点3について]
上記[相違点1について]で説示のとおり、引用発明は、「遊技盤」の窓から視認可能な位置に、識別情報変動表示手段が組み込まれていると認められるし、引用発明は、「遊技盤」に形成された「遊技領域」が、「窓22」のサイズと「ほぼ等し」いのであるから、引用発明において、識別情報変動表示手段は、「遊技盤」の「遊技領域」が形成される箇所に設けられていると認められる。
一方、引用発明において、「握部32」は「窓22」よりも上方に位置し、「窓22」と重ならない位置関係にあるから、「握部32」は、前面側部材の正面視で、「窓22」のサイズと「ほぼ等し」い「遊技盤」に形成された「遊技領域」とも重ならない箇所に設けられているといえる。
よって、引用発明において、「握部32」は、前面側部材の正面視で、識別情報変動表示手段と重ならない箇所に設けられているといえる。

また、パチンコ機が音声出力手段であるスピーカを有することは、当業者における技術常識であるから、引用例1には明記されていないものの、引用発明の「パチンコ機10」には、本願発明1の「音声出力手段」に相当するスピーカが組み込まれていると認められる。
そして、スピーカが搭載されたパチンコ機の技術分野において、スピーカを遊技領域上方の装飾部材と重ならないように設置して、スピーカからの音声が遮断されないようにすることは、
特開平10-85438号公報[図1

において、スピーカ9が、遊技盤7上方に設けられた装飾ランプ8の前面に配置されないように設置されていると認められる。]、特開2005-237665号公報[図1

において、スピーカ13が、遊技領域1aの上方に設けられた外部アピール装飾ランプ11及びその上方に配置された装飾部材の前面に配置されないように設置されていると認められる。]、特開2002-346156号公報[図1

において、スピーカ37が、遊技盤3の上方に設けられたランプ表示器35及び介助手段に相当する上部棒状部材38の前面に配置されないように設置されていると認められる。]に記載されているように、本願の原出願の出願日における周知技術(以下、「周知技術1」という。)である。
引用発明と上記周知技術1は、スピーカと装飾部材を備えた遊技機の技術分野で共通するから、引用発明に上記周知技術1を適用し、スピーカを遊技領域上方の装飾部材である把持部32と重ならないように設置することは、当業者が容易に想到し得たことである。

してみれば、引用発明に上記周知技術1を適用し、本願発明1の相違点3に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

[相違点4について]
大当り抽選を行い、抽選結果が大当りと判定された時に、遊技者に利益を付与するパチンコ機の技術分野において、大当りと判定された状態を、LEDの点灯によって遊技者に向けて表示させる技術は、例えば
特開平2004-209149号公報[【0056】には、大当り状態を示す大当りLEDランプP1が記載されている。]、特開2003-126464号公報[【0149】には、大当りが導出表示される特定のコマンドデータに対応して、遊技効果LED28a、・・が点灯などして、大当りになることを予告報知する点が記載されている。]に記載されているように、本願の原出願の出願日における周知技術(以下、「周知技術2」という。)であるし、発光源を用いて多様な演出を行うことで、遊技の興趣を高める課題は、パチンコ機の技術分野における周知の課題である。
よって、引用発明のランプ用のレンズ部31aと発光源を組み合わせた装飾体に上記周知技術2を適用し、大当りの判定情報を表示させて本願発明1の相違点4に係る構成とすることは、当業者が適宜なし得たことである。

[相違点5について]
上皿に操作部が設けられたパチンコ機の技術分野において、上皿の操作部を、上皿上面の前端部に設けることは、
特開平10-85438号公報[図21

において、上皿球抜操作釦91が、上皿上面の前端部に設けられていると認められる。]、特開2002-102432号公報[上皿9の前面壁101には、その上面或いは前面に球貸し出しスイッチ102が設けられている(【0090】)。また、【図1】

には、パチンコ機正面図において、球貸し出しスイッチ102が上皿9の上端付近に設けられており、この位置は、【図2】

の縦断面図における図面番号9から伸びる指示線が上皿に接する部位の付近であるから、球貸し出しスイッチ102が上皿9上面の前端部に設けられていると認められる。]に記載されているように、本願の原出願の出願日における周知技術(以下、「周知技術3」という。)である。

そして、引用発明において、球抜きボタン42を上皿のどの位置に設けるかは、遊技機の意匠性や球抜きボタンの操作性等を勘案して当業者が適宜選択し得る設計的事項にすぎず、また、引用発明と上記周知技術3とは、上皿に、遊技者により操作される操作部を設けることで共通するから、引用発明における球抜きボタン42の設置位置として、上皿体17の上面41の右端部に代えて上記周知技術3を採用し、上皿体17上面の前端部に設け、相違点5に係る本願発明1の構成とすることに、格別の困難性はない。

[相違点6について]
引用発明において、「握部32」は、「発光源の光を弓状部材30の内部に拡散させることが可能で、そうした内部伝達光にて握部32を発光させることができ」るのであるから、「握部32」は、パチンコ機10における装飾体としての機能も有するものであるといえる。
また、引用発明において、窓枠体15の窓22の上方に設ける装飾体としての機能を合わせ持つ「握部32」の形状をどのような形状とするかは、隙間33に掌部分を入れ、握部32を握る機能を損なわない形状である限り、遊技者による装飾体の視認性や、遊技機の意匠性等を勘案して当業者が適宜選択し得る設計的事項にすぎない。

一方、前面側部材の窓の上方に装飾体が設けられたパチンコ機において、当該装飾体の意匠性を向上させるために、当該装飾体を、装飾体前面の遊技機の左外側と右外側の両方の部位が、中央側の部位よりも手前側に膨出するように、前面形状を幅方向に凹面状となるように屈曲した意匠として形成することは、
特開2005-237665号公報[【図1】

を合わせて見ると、【図2】

には、遊技機100のガラス枠140の最上部であって、5つの外部アピール装飾ランプ11,・・・,11の上方に水平方向に延びて形成された装飾体(図面番号無し)が設けられ、当該装飾体は、遊技機の左右両端側の部位が、中央側の部位よりも手前側に膨出した凹面状となるよう屈曲して形成されていると認められる。]、特開2003-190417号公報[枠46に取り付けられた枠電飾物45の第4部分45D(【0030】)は、【図22】

のパチンコ機の上面図及び【図9】

のパチンコ機の正面図を合わせてみると、遊技機の左外側と右外側の両方の部位が、中央側の部位よりも手前側に膨出した凹面状となるよう屈曲して形成されていると認められる。]、特開2002-282435号公報[装飾面が平坦だと、装飾部品のデザインが大きな制約を受ける(【0004】)ため、「装飾部品6」を構成する「部品主体61」の装飾面を曲面の組み合わせから形成し、【図2】

には、装飾部品の斜視図で、部品主体61の左外側と右外側の両方の部位が、中央の部位よりも膨出した曲面状に形成される点が図示されている。]に記載されているように、本願の原出願の出願日における周知技術(以下、「周知技術4」という。)である。

引用発明と上記周知技術4は、前面側部材の窓の上方に装飾体が設けられたパチンコ機において共通しているし、引用発明の装飾体としての機能を有する「握部32」において、意匠性の向上は自明の課題である。
したがって、引用発明における、装飾体としての機能を有する握部32の前面形状として、「中央部が遊技者側に突出」する形状に代えて上記周知技術4を採用し、その際、握部32の機能を損なわないよう、すなわち、上側の狭い部分であっても隙間33に掌を入れることが可能となるように、その断面形状の中央の奥行方向の幅aを維持した上で、両端部の奥行方向の幅bを中央部の奥行方向の幅aよりも長くした意匠として形成することで、握部32の前面形状を、その幅方向に凹面状として、相違点6に係る本願発明1の構成とすることに、格別の困難性はない。

第6 請求人の主張について
ア 審判請求人は、令和1年11月5日付け意見書において、次のとおり効果を主張している。
「本願発明では、構成要件(F)を備えることによって、把持部が前面側部材の正面視での遊技用媒体貯留部の上方箇所であって、識別情報変動表示手段とその他の遊技に関する判定情報を表示する表示手段と音声出力手段のいずれとも重ならない箇所に設けられている。つまり、本願発明では、把持部、すなわち前面側部材の正面視で遊技用媒体貯留部の上方箇所に設けられており、少なくとも水平方向に延びて且つ手前側に突出している部位は、識別情報変動表示手段やその他の遊技に関する判定情報を表示する表示手段や音声出力手段を重ねて配置するための配置スペースを作るために設けられているものではなく、遊技者が把持するための部位として機能させることができる。」

上記主張は、すなわち上記本願発明1の構成Eによって奏する効果の主張であると解されるところ、以下に検討する。

上記「第5 対比」(d’)で検討したように、引用発明において、「握部32」は、「遊技用媒体貯留部の上方箇所に」、「少なくとも水平方向に延びて且つ手前側に突出して」設けられている点で本願発明1と一致しており、かつ、[相違点2について] で検討したように、遊技を行っている遊技者が把持する部材として利用することが可能であるから、握部32は、遊技者が把持するための部位として機能させることができると認められ、請求人の主張する上記効果は、引用発明においても奏する効果である。

イ また、審判請求人は、同意見書において、次のとおり主張している。
「(4-4)本願発明の顕著な効果について
本願発明は、(前面側部材の正面視で遊技用媒体貯留部の上方箇所に設けられており、少なくとも水平方向に延びて且つ手前側に突出している)把持部は、前面側部材の上面視で、遊技用媒体貯留部の上面に設けられた遊技者によって操作される操作部に重ならないように、かつ、当該把持部における当該遊技機の中央側の部位が当該把持部における当該遊技機の左外側と右外側の両方の部位よりも当該遊技機の前面側に近付くように屈曲して形成されている。これにより、把持部が遊技用媒体貯留部の上面に設けられた遊技者によって操作される操作部に重ならないように屈曲されており、かつ、当該把持部における当該遊技機の左外側と右外側の両方の部位は中央側の部位に比べて遊技者側に近付くように屈曲されているので、遊技者が着席や離席の際やその際に姿勢を崩すなどした際に左右いずれかの手で遊技者側に近付いた把持部の左外側及び右外側を把持し易くすることができる。また、把持部が当該把持部における当該遊技機の中央側の部位は左外側と右外側の両方の部位に比べて遊技機前面側に近いために、当該操作部を操作する遊技者の邪魔にならない範囲で、遊技者が把持部の中央側の部位を把持し易くすることができる。
このような作用効果は、引用例1に係る発明から奏するものではありません。」

上記主張は、すなわち上記本願発明1の構成Fによって奏する効果の主張であると解されるところ、以下に検討する。

(ア)本願発明1の「少なくとも水平方向に延びて且つ手前側に突出して」いる「把持部」について、「遊技者が把持することが可能な把持部」と特定されるのみであり、さらに、本願の明細書には、図面(【図15】(b)及び【図17】)に、パチンコ機の平面図で「少なくとも水平方向に延びて且つ手前側に突出して」いる「把持部」と認められる部材の記載があるのみで、【発明の詳細な説明】には、そもそも「少なくとも水平方向に延びて且つ手前側に突出して」いる「把持部」について、このような「把持部」を設ける目的や、寸法等の具体的な構成、効果が何ら記載も示唆もされていないことを考慮すると、本願発明1の「把持部」は、遊技者が着席や離席の際やその際に姿勢を崩すなどした際に、遊技者の体重の少なくとも一部を支持可能な強度を有するとまでは認められない。

(イ)また、本願発明1は、「把持部」について「前記前面側部材の正面視で前記遊技用媒体貯留部の上方箇所に設けられて」いる点が特定されるのみで、どの程度上方に位置するのかは特定されておらず、令和1年7月30日付け上申書において主張されるように、把持部がパチンコ機の最上部に位置し、操作部の位置と、把持部の位置が大きく離れる態様も包含されるものである。
しかしながら、このような態様では、上記主張される遊技者が操作部を動作しながら把持部を把持する必要性が生じる状況が想定できないことから、本願発明1は、そもそも当該主張される効果が生じる前提が認められない。

上記(ア)及び(イ)から、審判請求人が主張する、本願発明1の構成Fから奏する効果の主張を採用することはできず、本願発明1の構成Fから奏する効果が、引用発明に周知技術4を適用した発明が奏する効果を超えるとは認められない。

ウ さらに、審判請求人は、同意見書において、次のとおり主張している。
「(4-3-3)相違点の想到困難性
・・・
つまり、引用例1の握部32は、人すなわち、パチンコ機の製造者や運送者やホールの従業者が持ち運ぶ際に、パチンコ機をしっかりと保持して持ち運び易くするために設けられたものであって、そのためにパチンコ機の上部の前面側に突出して設けられたものです。このように引用例1の握部32は、パチンコ機をしっかりと保持して持ち運び易くするために、パチンコ機の上部の前面側(つまり遊技者側)に突出して設けられたものですので、本願発明の構成要件(G)のように把持部が当該把持部における当該遊技機の中央側の部位が当該把持部における当該遊技機の左外側と右外側の両方の部位よりも当該遊技機の前面側に近付くように屈曲して形成されてしまっては、却って、パチンコ機の製造者や運送者やホールの従業者が持ち運ぶ際に保持が不安定になります。よって、当業者であれば、引用例1のパチンコ機をしっかりと保持して持ち運び易くするための握部32を、本願発明の構成要件(G)のように、当該把持部における当該遊技機の中央側の部位が当該把持部における当該遊技機の左外側と右外側の両方の部位よりも当該遊技機の前面側に近付くように屈曲して形成されるように変更することが通常に想起されるものであるとは言えません。」

上記主張はすなわち、引用発明から上記本願発明1の構成Fを導くことの想到困難性や阻害要因を主張するものと解されるところ、以下に検討する。

(ア)ホールの従業者がパチンコ機を持ち運ぶときに、把持部の形状は、隙間に手を入れて握ることができる限り、引用発明のように中央部が遊技者側に突出する形状と、本願発明1のように把持部前面を幅方向に凹面状とした形状との間で、持ち運び易さが異なるとする根拠もなく、持ち運び易さは格別相違しないと認められる。

(イ)また、上記イで説示のとおり、審判請求人が主張する本願発明1の構成Fから奏する効果も認められず、引用発明における握部32の形状を、本願発明1の構成Fのように形成することは、上記「第5 対比」の[相違点6について]で検討したとおり、設計的事項の域を出るものとは認められない。

上記(ア)及び(イ)から、引用発明から本願発明1の構成Fを導くことには、想到困難性も阻害要因も認められず、出願人の上記主張を採用することはできない。

したがって、請求人の主張は、いずれも採用することはできない。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明1は、引用発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-01-10 
結審通知日 2020-01-14 
審決日 2020-01-28 
出願番号 特願2016-255829(P2016-255829)
審決分類 P 1 8・ 4- WZ (A63F)
P 1 8・ 121- WZ (A63F)
P 1 8・ 113- WZ (A63F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 武田 知晋  
特許庁審判長 長崎 洋一
特許庁審判官 川崎 優
赤坂 祐樹
発明の名称 遊技機  
代理人 杉谷 勉  

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