• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1360969
審判番号 不服2019-10571  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-08-08 
確定日 2020-03-16 
事件の表示 特願2018- 44507「ウェーハ加工方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 9月19日出願公開、特開2019-160970〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は,平成30年3月12日の出願であって,その手続の概要は,以下のとおりである。
平成31年 4月 2日:拒絶理由通知(起案日)
平成31年 4月24日:意見書,手続補正書
令和 元年 5月 9日:拒絶査定(起案日)
令和 元年 8月 8日:審判請求
令和 元年 9月20日:拒絶理由通知(起案日)
令和 元年11月22日:意見書

2 本願発明
平成31年4月24日に提出された手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,以下のとおりである。
「【請求項1】
基板の表面にデバイス層が積層されたウェーハを分割予定ラインに沿って個々のチップに分割するウェーハ加工方法であって,
前記ウェーハの基板内部に集光点を合わせてレーザ光を照射することにより,前記ウェーハの基板内部に前記分割予定ラインに沿って改質領域を形成する改質領域形成工程と,
前記ウェーハの裏面から前記分割予定ラインに沿ってブレイクバーを押し付けることにより,前記ウェーハを撓ませて前記改質領域から生じた亀裂を前記デバイス層に伸展させて前記ウェーハをブレイクするブレイク工程と,
を備え,
前記改質領域形成工程と前記ブレイク工程との間に,前記ウェーハの裏面を加工して前記ウェーハを薄化する裏面加工工程を更に備え,
前記改質領域形成工程は,前記ウェーハの厚さ方向に複数の非改質領域を存在させるように,前記ウェーハの厚さ方向に複数の前記改質領域を形成し,且つ前記裏面加工工程が行われた後の前記ウェーハの基板内部に複数の前記非改質領域が残存するように,複数の前記改質領域を形成する,
ウェーハ加工方法。」

3 拒絶の理由
令和元年9月20日付けで当審が通知した拒絶理由は,大略,次のとおりのものである。
(進歩性)この出願の請求項1ないし4に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記1ないし3の引用文献に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

1.特開2005-166728号公報
2.特開2003-338652号公報
3.特開2007-13056号公報

4 引用文献の記載及び引用発明
(1)引用文献1には,以下の事項が記載されている。
「【0011】
一方,特許文献3または特許文献4に記載された内部集光法では,厚さ方向に複数の改質領域を形成することで,厚さの大きい加工対象物であっても切断が可能とされている。
しかし,内部集光法にも次のような問題があることが分かった。
(あ)内部集光法では分断予定ラインに沿ってレーザ光をスキャンして改質領域を形成するが,ウエハー基板が厚いと,分断予定ライン通りにブレーキングを行うために必要なレーザ光のパワーまたはスキャン回数が多くなり製造効率やコストの問題が生じる。
(い)厚いウエハー基板を分断するために照射するレーザ光のパワーを大きくする,あるいはスキャンを何度も行うと,レーザ光が入射する側の半導体ウェハー表面が変色したり,レーザ光の一部が直接,または各種界面での反射・散乱を経てGaN系層に到達し,GaN系層の変色や劣化を引き起こすという問題がある。また,SiC,Si,GaN等の半導体基板を用いた場合には,基板の半導体特性が劣化する可能性もある。
特に,サファイア,SiC,GaN等,GaN系結晶の成長に適したウエハー基板材料は非常に硬いために,上記(あ)の問題が顕著となる。更に,チップの設計寸法がウエハー基板の厚さに比して小さくなる程,割れを発生させるために必要な応力を改質領域に集中させることが困難となり,より分断が難しくなるという問題もある。
【0012】
本発明の課題は,上記問題点を解消し,GaN系半導体ウエハをチップへと分断するための新たな方法を,GaN系素子の製造方法に対して提供することにある。」

「【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に,GaN系発光素子の製造工程を例として用い,本発明を具体的に説明する。以下,ウエハー基板の表裏の主面のうち,窒化物系半導体からなる積層構造部を形成する側の面(結晶成長面)を「おもて面」,その反対側の面を「裏面」とも呼ぶ。
本発明の上記(1)の態様は,図1,図2に示すように,(A),(B),(C)の工程を有する。(A),(B)の工程の順番はどちらが先であってもよく,また,(B)の工程を(A)の工程の途中に組み込んでもよい。図1,図2の例では,わかりやすく説明するために,(A)の工程が完全に終了した後で,(B)の工程を行う場合を示している。(C)の工程は,(A),(B)よりも後である。
(C)の工程を加えることによって,上記したように,反りなくGaN系半導体ウエハーが形成できながら,チップへの分断が容易になり,全体としての生産効率も向上する。
【0017】
先ず(A)の工程を説明する。
(A)の工程は,図1(a)に示すように,ウエハー基板1のおもて面1a上に窒化物系半導体からなる積層構造部2を形成し,さらに,図1(b)に示すように,分断後に素子となる部位e1?e3に対して,電極など,個々の素子に必要な構造を付与する工程である。」

「【0023】
次に,(B)の工程を説明する。
(B)の工程は,図2(a)に示すように,ウエハー基板1の内部に集光点を合わせてレーザ光Lを照射し,分断予定ライン3に沿ってウエハー基板1の内部に,分断に利用可能な改質領域4を形成する工程である。
ウエハー基板の内部の集光点の位置は,(C)の工程で行う研削・研磨後に残るウエハー基板の部分(「残存部分」)1dに改質領域4が生じるように定めればよい。集光点の位置は,研削・研磨によって削除される部分1cや,残存部分1dと削除部分1cとの境界面に合わせてもよいが,効果的な改質を得る点からは,残存部分1d内,特に残存部分の厚さの半分の位置に集光点を合わせることが好ましい。集光点の位置は,GaN系結晶層の存在等を考慮して,厚さ方向に適宜移動させてもよい。」

「【0026】
レーザ光の照射によってウエハー基板の内部に形成される「分断に利用可能な改質領域」とは,少なくとも,(C)の工程による研削・研磨を行った後,半導体ウエハーに対して通常の半導体ウエハーのブレーキングに用いる方法で外力を印加したとき,その改質領域を起点として割れが発生して半導体ウエハーが分断に至る程度に,その機械的強度が低下された領域である。
具体的には,ひとつまたは複数のクラックを含む領域や,単結晶からなる基板材料が多結晶構造や非晶質構造,またはこれらの混在する構造に変化した領域が例示される。
【0027】
ウエハー基板の厚さ方向についての改質領域の数は1箇所に限定されない。同じ分断予定ラインに対してウエハー基板内部の集光点の深さを2以上変えてレーザ光を照射し,改質領域を厚さ方向に複数箇所形成することによって,研削・研磨後の厚さが大きくても歩留まりよく分断予定ラインに沿って分断できるようになる。
図4の例では,(C)の工程の後で残存する部分において,集光点の深さを3種類変えてレーザ光を照射しており,分断予定ラインに沿って深さの異なる改質領域4a?4cを形成している。同図では,ウエハー基板1のうち,(C)の工程において削除される部分は,ハッチングを施した部分1cである。」

「【0031】
ウエハー基板の段階において改質領域を形成する場合,その改質領域を含んだウエハー基板が,本発明による上記(8)のウエハー基板である。当該ウエハー基板の内部には,分断予定ラインに沿って,分断に利用可能な改質領域が形成されている。
該改質領域が形成される部位は,後の(C)の工程において研削・研磨が施されても,ウエハー基板として残存する部位である。
この場合の改質領域の位置・深さなどは,上記(B)の工程の説明で述べた集光点の位置と同様である。」

「【0047】
(C)の工程は,上記(A),(B)の工程よりも後の工程であって,図2(a)に示すウエハー基板1の裏面を研削および/または研磨してハッチング部分1cを削除し,図2(b)に示すように,分断のために好適な特定の厚さへと薄くする工程である。」

「【0048】
(C)の工程で,チップ分断を歩留まり良く分断予定ラインに沿って行うための,好ましい研削・研磨後のウエハー基板厚さは200μm以下,より好ましくは100μm以下である。素子のサイズが大きくなると少々厚くても割れるようにはなるが,それでもサファイア,SiC,GaN等の硬いウエハー基板では,前記厚さ以下に薄くすることが望ましい。なお,50μm以下となるまで研削・研磨すると,研削・研磨の途中あるいはその後のプロセスで割れ易くなったり,チップ分断後の取り扱いが困難になる傾向がある。」

「【0053】
(C)の工程の後にチップへと分断する。
分断は,(B)の工程でウエハー基板の内部に形成した改質領域を起点として割れを生じさせて行う。この分断工程では,半導体ウエハーに外部から人為的な力を印加し,曲げ応力やせん断応力を作用させることによって分断すればよく,従来公知のブレーキングの方法,例えば加圧用のローラやニードルを用いる方法や,半導体ウエハーを三点支持しておいて加圧部材を作用させる方法を採用することができる。」





(2)上記記載から,引用文献1には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「(A),(B),(C)及び当該(C)の工程の後にチップへと分断する工程を有する,GaN系発光素子の製造工程であって,
(A)の工程は,ウエハー基板のおもて面上に窒化物系半導体からなる積層構造部を形成し,さらに,分断後に素子となる部位に対して,電極など,個々の素子に必要な構造を付与する工程であり,
(B)の工程は,ウエハー基板の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射し,分断予定ラインに沿ってウエハー基板の内部に,分断に利用可能な改質領域を形成する工程であって,
ウエハー基板の内部の集光点の位置は,(C)の工程で行う研削・研磨後に残るウエハー基板の部分(「残存部分」)に改質領域が生じるように定めればよく,集光点の位置は,研削・研磨によって削除される部分や,残存部分と削除部分との境界面に合わせてもよいが,効果的な改質を得る点からは,残存部分内に集光点を合わせることが好ましいものであり,
レーザ光の照射によってウエハー基板の内部に形成される「分断に利用可能な改質領域」とは,少なくとも,(C)の工程による研削・研磨を行った後,半導体ウエハーに対して通常の半導体ウエハーのブレーキングに用いる方法で外力を印加したとき,その改質領域を起点として割れが発生して半導体ウエハーが分断に至る程度に,その機械的強度が低下された領域であり,
同じ分断予定ラインに対してウエハー基板内部の集光点の深さを2以上変えてレーザ光を照射し,改質領域を厚さ方向に複数箇所形成することによって,研削・研磨後の厚さが大きくても歩留まりよく分断予定ラインに沿って分断できるようになるものであり,
該改質領域が形成される部位は,後の(C)の工程において研削・研磨が施されても,ウエハー基板として残存する部位であり,
(C)の工程は,上記(A),(B)の工程よりも後の工程であって,ウエハー基板の裏面を研削および/または研磨して,分断のために好適な特定の厚さへと薄くする工程であり,
分断工程は,(B)の工程でウエハー基板の内部に形成した改質領域を起点として割れを生じさせて行うものであり,この分断工程では,半導体ウエハーに外部から人為的な力を印加し,曲げ応力やせん断応力を作用させることによって分断すればよく,従来公知のブレーキングの方法,例えば加圧用のローラやニードルを用いる方法や,半導体ウエハーを三点支持しておいて加圧部材を作用させる方法を採用することができるものである,
GaN系発光素子の製造工程。」

(3)引用文献2には,以下の事項が記載されている。
「【0067】
ここで,再び図18を参照すると,ウェハ2の基板1に切断起点領域を形成したのち,切断起点領域に沿ってウェハ2を複数の棒状部材37に切断する(S5,図22(a)及び(b))。すなわち,切断起点領域が形成されたウェハ2に対して例えばナイフエッジをウェハの表面22または裏面4に押し当てて応力を印加することにより,切断起点領域を起点として基板1を切断する。或いは,エキスパンドテープや,ブレーカー装置,ローラー装置などを用いて応力を印加することにより基板1を切断してもよい。また,ウェハ表面やウェハ裏面にその表面が溶融しないエネルギーにてウェハに対して吸収性を有するレーザ光を照射することで切断起点領域を起点として亀裂が生じるような熱応力を発生させて切断してもよい。このとき,基板1が切断されると同時に,切断予定ライン5に沿った劈開面を有する活性層25が該劈開面において劈開されることにより,活性層25を挟んで互いに対向する2つの共振面35が棒状部材37それぞれに形成される。また,n型クラッド層23,p型クラッド層27,及びキャップ層29も基板1が切断されると同時に切断される。」

「【0075】
図24は,本実施形態による半導体レーザ素子の製造方法の変形例を説明するための断面図である。本変形例では,基板1の内部において,基板1の厚さ方向に複数の改質領域7を形成する。改質領域7をこのように形成するには,図19に示されたフローチャートのステップS111(ウェハ2をZ軸方向に移動)とステップS113(改質領域7の形成)とを交互に複数回行うとよい。また,ウェハ2をZ軸方向に移動するのと改質領域7の形成とを同時に行うことにより,基板1の厚さ方向に連続して改質領域7を形成してもよい。」





(4)引用文献3には,以下の事項が記載されている。
「【0057】
このように,各改質領域71,72を基板4の表面3から遠い順に一列ずつ形成することで,各改質領域71,72を形成するに際し,レーザ光Lが入射する表面3とレーザ光Lの集光点Pとの間には改質領域71,72や割れ24が存在しないため,既に形成された改質領域71,72等によるレーザ光Lの散乱,吸収等が起こることはない。従って,各改質領域71,72を切断予定ライン5に沿って基板4の内部に確実に形成することができる。また,基板4の内部に集光点Pを合わせて積層部16側からレーザ光Lを照射することで,第2の改質領域72から基板4の表面3に割れ24を確実に生じさせることができる。
【0058】
各改質領域71,72を形成した後,図20(a)に示すように,エキスパンドテープ23を拡張させる。そして,この状態で,図20(b)に示すように,基板4の裏面21に対し,エキスパンドテープ23を介してナイフエッジ(押圧部材)41を押し当てて,矢印B方向に移動させる。これにより,加工対象物1には,割れ24が開くような応力が生じさせられるため,割れ24が積層部16及び第1の改質領域71に向かって伸展することになり,加工対象物1が切断予定ライン5に沿って切断される。」

「【0068】
以上説明したように,本実施形態の加工対象物切断方法においては,中心位置CLから基板4の裏面21側に偏倚した第1の改質領域71と,中心位置CLから基板4の表面3側に偏倚した第2の改質領域72とが切断予定ライン5に沿って基板4の内部に形成されると共に,第2の改質領域72から基板4の表面3に割れ24が生じさせられる。そして,この状態で割れ24が開くように加工対象物1に応力が生じさせられるため,割れ24が積層部16及び第1の改質領域71に向かって伸展することになり,加工対象物1が切断予定ライン5に沿って精度良く切断される。しかも,このとき,基板4の裏面21に貼り付けられたエキスパンドテープ23が拡張させられているため,加工対象物1が切断された直後に,隣り合う半導体チップ25,25の対向する切断面25a,25aが離間することになり(図21参照),対向する切断面25a,25a同士の接触によるチッピングやクラッキングの発生が防止される。
【0069】
これにより,例えば,基板4が厚い場合に,切断予定ライン5に沿った改質領域71,72の列数を増やすことによって,加工対象物1を切断予定ライン5に沿って切断する技術に比べ,切断品質を維持した上での加工時間の短時間化を図ることができる。従って,本実施形態の加工対象物切断方法によれば,基板4と,複数の機能素子15を有して基板4の表面3に形成された積層部16とを備える加工対象物1を,基板4が厚い場合であっても,切断予定ライン5に沿って機能素子15毎に短時間で精度良く切断することが可能になる。」





図20は,引用文献3に記載された発明の実施形態の加工対象物切断方法を説明するための加工対象物の部分断面図であり,(a)はエキスパンドテープを拡張させた状態,(b)は加工対象物にナイフエッジを押し当てている状態であって,同図から,基板4の裏面21と第1の改質領域71との間,及び,第1の改質領域71と第2の改質領域72との間に,非改質領域を有する加工対象物1にナイフエッジ(押圧部材)41を押し当てて,切断する方法を見て取ることができる。

5 本願発明と引用発明の対比
(1)本願発明と引用発明を対比する。
ア 引用発明の「ウエハー基板」は,本願発明の「基板」に相当する。そして,引用発明の「ウエハー基板のおもて面」は,本願発明の「基板の表面」に相当する。

イ 引用発明の「窒化物系半導体からなる積層構造部」は,分断後に素子となる部位であって,GaN系発光素子というデバイスとして機能する。したがって,引用発明の「窒化物系半導体からなる積層構造部」は,本願発明の「デバイス層」に相当する。

ウ 上記ア及びイから,引用発明の「ウエハー基板」に「窒化物系半導体からなる積層構造部」を形成した部材は,本願発明の基板の表面にデバイス層が積層された「ウェーハ」に相当する。

エ 引用発明の「分断」は,「割れを生じさせて行うものであ」るから,本願発明の「分割」に相当する。したがって,引用発明の「分断予定ライン」は,本願発明の「分割予定ライン」に相当する。

オ 引用発明の「分断工程」は,ウエハー基板の内部に形成した改質領域を起点として割れを生じさせて行うものであり,半導体ウエハーに外部から人為的な力を印加し,曲げ応力やせん断応力を作用させることによって分断するものであって,従来公知のブレーキングの方法,例えば加圧用のローラやニードルを用いる方法や,半導体ウエハーを三点支持しておいて加圧部材を作用させる方法によって行われるものである。
そして,引用発明の加圧用のローラやニードルを用いる方法や,半導体ウエハーを三点支持しておいて加圧部材を作用させる方法によって行われるブレーキングにおいて,半導体ウエハーの分断を,外部から印加される人為的な力により曲げ応力を作用させることにより行う際に,半導体ウエハーが,当該曲げ応力により撓むことは自明である。
さらに,引用発明において,ウエハー基板の内部に形成した改質領域を起点として割れを生じさせて行う際に,改質領域から生じた亀裂が積層構造部に伸展してウエハー基板の破断に至ることも明らかである。
したがって,引用発明の「分断工程」と,本願発明の「前記ウェーハの裏面から前記分割予定ラインに沿ってブレイクバーを押し付けることにより,前記ウェーハを撓ませて前記改質領域から生じた亀裂を前記デバイス層に伸展させて前記ウェーハをブレイクするブレイク工程」とは,ウェーハに加圧用の部材を押し付けることにより,ウェーハを撓ませて改質領域から生じた亀裂をデバイス層に伸展させてウェーハをブレイクするブレイク工程である限りにおいて一致する。

カ 引用発明の「ウエハー基板の裏面を研削および/または研磨して,分断のために好適な特定の厚さへと薄くする工程」は,本願発明の「ウェーハを薄化する裏面加工工程」に相当する。

キ 引用発明における改質領域を形成するためのレーザ光の照射は,同じ分断予定ラインに対してウエハー基板内部の集光点の深さを2以上変えて行われるものであって,改質領域を厚さ方向に複数箇所形成することによって,研削・研磨後の厚さが大きくても歩留まりよく分断予定ラインに沿って分断できるようになるものであるから,引用発明の改質領域を形成する工程は,複数の改質領域を形成するものである。
そして,引用発明の分断工程は,ウエハー基板の裏面を研削および/または研磨した後に行われるものであって,当該分断工程は,半導体ウエハーに外部から人為的な力を印加して,ウエハー基板の内部に形成した改質領域を起点として割れを生じさせて行うものであるから,ウエハー基板の裏面を研削および/または研磨した後であって,分断工程の前の時点では,半導体ウエハーに外部から人為的な力を印加し得る非改質領域が残存することは自明である。そして,研削および/または研磨した後に,非改質領域が残存するのであれば,当該非改質領域が研削および/または研磨の前の時点においても存在することは明らかであるから,引用発明の,複数の改質領域を形成する工程は,非改質領域を存在させるように複数の改質領域を形成するものである。
したがって,引用発明の「改質領域を形成する工程」と本願発明の「前記ウェーハの厚さ方向に複数の非改質領域を存在させるように,前記ウェーハの厚さ方向に複数の前記改質領域を形成し,且つ前記裏面加工工程が行われた後の前記ウェーハの基板内部に複数の前記非改質領域が残存するように,複数の前記改質領域を形成する」工程とは,ウェーハの厚さ方向に非改質領域を存在させるように,ウェーハの厚さ方向に複数の改質領域を形成し,且つ裏面加工工程が行われた後のウェーハの基板内部に前記非改質領域が残存するように,複数の改質領域を形成する工程である限りにおいて一致する。

ク 引用発明の「GaN系発光素子の製造工程」と,本願発明の「ウェーハ加工方法」は,以下の相違点を除いて一致する。

ケ 以上のことから,本願発明と引用発明との一致点及び一応の相違点は,次のとおりである。
<一致点>
「基板の表面にデバイス層が積層されたウェーハを分割予定ラインに沿って個々のチップに分割するウェーハ加工方法であって,
前記ウェーハの基板内部に集光点を合わせてレーザ光を照射することにより,前記ウェーハの基板内部に前記分割予定ラインに沿って改質領域を形成する改質領域形成工程と,
前記ウェーハに加圧用の部材を押し付けることにより,前記ウェーハを撓ませて前記改質領域から生じた亀裂を前記デバイス層に伸展させて前記ウェーハをブレイクするブレイク工程,
を備え,
前記改質領域形成工程と前記ブレイク工程との間に,前記ウェーハの裏面を加工して前記ウェーハを薄化する裏面加工工程を更に備え,
前記改質領域形成工程は,前記ウェーハの厚さ方向に非改質領域を存在させるように,前記ウェーハの厚さ方向に複数の前記改質領域を形成し,且つ前記裏面加工工程が行われた後の前記ウェーハの基板内部に前記非改質領域が残存するように,複数の前記改質領域を形成する,
ウェーハ加工方法。」

<相違点>
(相違点1)
本願発明では,ウェーハをブレイクするブレイク工程は,「ウェーハの裏面から前記分割予定ラインに沿ってブレイクバーを押し付ける」ことにより,前記ウェーハを撓ませて前記改質領域から生じた亀裂を前記デバイス層に伸展させるものであるのに対して,引用発明は,半導体ウエハーに外部から人為的な力を印加し,曲げ応力やせん断応力を作用させることによって分断すればよく,従来公知のブレーキングの方法,例えば加圧用のローラやニードルを用いる方法や,半導体ウエハーを三点支持しておいて加圧部材を作用させる方法を採用することができるものであること。

(相違点2)
本願発明の改質領域形成工程が,ウェーハの厚さ方向に複数の非改質領域を存在させるように,ウェーハの厚さ方向に複数の改質領域を形成し,且つ裏面加工工程が行われた後のウェーハの基板内部に複数の前記非改質領域が残存するように,複数の改質領域を形成するもの,すなわち,本願発明の「改質領域形成工程」が,裏面加工工程が行われた後においてもウェーハの基板内部に,「複数の前記非改質領域が残存する」ように複数の改質領域を形成するものであるのに対して,引用発明では,残存する非改質領域が「複数」であることが特定されていない点。

6 判断
(1)相違点1について
引用文献2,3には,ウェーハの裏面から分割予定ラインに沿ってナイフエッジを押し付けることにより,ウェーハを撓ませて改質領域から生じた亀裂をデバイス層に伸展させる方法が記載されており,当該ナイフエッジは本願発明のブレイクバーに相当する。
そして,従来公知のブレーキングの方法を採用することができるとする引用発明に,引用文献2,3に記載される前記公知の方法を適用することは当業者が適宜なし得たことである。
したがって,引用発明において,相違点1に係る本願発明の構成を採用することは当業者が適宜なし得たことである。

(2)相違点2について
引用文献1に「【0011】・・・内部集光法にも次のような問題があることが分かった。・・・スキャン回数が多くなり製造効率やコストの問題が生じる。・・・スキャンを何度も行うと,レーザ光が入射する側の半導体ウェハー表面が変色したり,レーザ光の一部が直接,または各種界面での反射・散乱を経てGaN系層に到達し,GaN系層の変色や劣化を引き起こすという問題がある。・・・【0012】本発明の課題は,上記問題点を解消し,GaN系半導体ウエハをチップへと分断するための新たな方法を,GaN系素子の製造方法に対して提供することにある。」と記載されるように,引用発明は,スキャン回数が多いことを解決すべき課題とする発明である。
そうすると,引用文献1に「図4の例では,(C)の工程の後で残存する部分において,集光点の深さを3種類変えてレーザ光を照射しており,分断予定ラインに沿って深さの異なる改質領域4a?4cを形成している。同図では,ウエハー基板1のうち,(C)の工程において削除される部分は,ハッチングを施した部分1cである。」(【0027】)と記載される当該複数の改質領域4a?4cの形成は,引用文献1の【0026】に記載される「(C)の工程による研削・研磨を行った後,半導体ウエハーに対して通常の半導体ウエハーのブレーキングに用いる方法で外力を印加したとき,その改質領域を起点として割れが発生して半導体ウエハーが分断に至る程度に,その機械的強度が低下され」るのに必要とされる最小の回数のスキャンによって行われているものといえる。
してみれば,引用文献1の改質領域4a?4cは,裏面加工工程が行われた後のウェーハの基板内部に単一の非改質領域のみが残存するように密に形成されているのではなく,裏面加工工程が行われた後のウェーハの基板内部に,互いの間に非改質領域が残存するように疎に形成されていると理解することが,技術常識に照らして自然かつ合理的といえる。
すなわち,引用発明においても,改質領域の形成の工程では,裏面の研削および/または研磨工程が行われた後のウエハー基板の内部に複数の非改質領域が残存するように複数の改質領域が形成されているものと認められるから,相違点2は実質的なものではない。

また,仮に,相違点2が実質的なものであるとしても,非改質領域の個数が,単一であるか複数であるかは単なる設計事項であり,基板内部に複数の改質領域を設けて基板を分断するにあたり,複数の改質領域を,基板内部に複数の非改質領域が存在するように配置することは,引用文献3の図20に記載されるように格別のことではないから,引用発明において,分断工程の前の時点における基板内部の状態を,基板内部に複数の非改質領域が残存するように,複数の改質領域が形成された状態とすること,すなわち,引用発明において,相違点2に係る本願発明の構成とすることは当業者が適宜なし得たことであり,その効果も格別のものとは認められない。

なお,本願明細書には,「【0102】図17から図19に示した各実施例によれば,デバイス面を上側にした場合の抗折強度はデバイス面を下側にした場合の抗折強度よりも高くなった。一方,図20に示した比較例によれば,デバイス面を上側にした場合の抗折強度はデバイス面を下側にした場合の抗折強度よりも低くなった。【0103】これらの結果から分かるように,本発明が適用される各実施例(第1?第3実施例)によれば,デバイス面を上側にした場合には抗折強度が高く,かつデバイス面を下側にした場合には抗折強度が低くなるので,裏面加工工程が行われる際に亀裂の伸展を効果的に抑制することができる。」とあり,非改質領域の個数が単一である比較例と比較して,非改質領域の個数が複数である第1?第3実施例が,デバイス面を上側にした場合には抗折強度が高く,かつデバイス面を下側にした場合に抗折強度が低くなるという効果を備えることが説明されている。
しかしながら,第1?第3実施例は,いずれも,ウェーハの裏面10b側に非改質領域(非改質層)が存在するものであるのに対して,比較例は,ウェーハの裏面10b側に亀裂が到達しているものである。
そして,3点曲げ抗折強度試験において,試験対象部材の圧子が押し込められる表面とは対向する側の面である裏面に亀裂が存在する場合には,当該亀裂を起点として破断が進行することが容易であり,試験対象部材の圧子が押し込められる側である表面に亀裂が存在する場合と比較して,抗折強度が低くなることは周知の事項である。
そうすると,本願明細書の「各実施例によれば,デバイス面を上側にした場合の抗折強度はデバイス面を下側にした場合の抗折強度よりも高くなった。」との効果は,ウェーハの裏面10b側に非改質領域(非改質層)が存在することによって奏された効果であると理解されるから,前記記載は,非改質領域の個数が複数であることによる効果を説明したものであるとはいえない。
したがって,本願明細書の記載からは,非改質領域の個数が複数であることによる格別の効果は認められないから,非改質領域の個数が,単一であるか複数であるかは単なる設計事項といえる。

(3)そして,これらの相違点1及び2を総合的に勘案しても,本願発明の奏する作用効果は,引用発明及び引用文献2,3に記載された技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず,格別顕著なものということはできない。

(4)請求人は,令和元年11月22日に提出した意見書において,「(キ)そして,本願発明1によれば,発明特定事項Aと発明特定事項Bを併せ備えたことにより,裏面加工工程が行われる際,ウェーハの表面側に形成された亀裂がデバイス層に伸展するのを効果的に抑制することができるという「亀裂伸展抑制効果」が得られるので,ブレイク工程が行われる前にデバイス層に亀裂が伸展しまい,ウェーハが個片化されるのを防ぐことができる。そして,ウェーハを分割予定ラインに沿ってブレイク加工することにより,デバイス層にLow-k膜やTEG等の積層体が含まれる場合でも,デバイスの品質を低下させることなく,ウェーハを分割予定ラインに沿って精度よく確実かつ効率的に分割することが可能となる。このような効果は,引例1?3には記載も示唆もなく,当業者といえども容易に予測できない顕著な効果である。」と主張する。
しかしながら,本願明細書には,以下の記載がある。
「【0065】また,本実施形態では,裏面加工工程が行われる際,ウェーハ10の厚さ方向に複数の改質領域20が形成された分割予定ライン12においては,図13に示すように,被研削面となるウェーハ10の裏面10b側では,研削熱や研磨熱などの加工熱の影響によりシリコン同士を引き離す方向の引張応力26が作用し,逆に,その反対側となる表面10a側では圧縮応力28が作用する。この場合,ウェーハ10の表面10a側に形成された亀裂22(すなわち,第1改質領域20aから生じた第1亀裂22a)がデバイス層16に伸展するのを効果的に抑制することができるという「亀裂伸展抑制効果」が生じる。この「亀裂伸展抑制効果」により,後述のブレイク工程が行われる前にデバイス層16に亀裂22が伸展してしまうことを防止することが可能となっている。」
上記記載から,「亀裂伸展抑制効果」は,研削熱や研磨熱などの加工熱の影響による圧縮応力によりウェーハの表面側に形成された亀裂がデバイス層に伸展するのを効果的に抑制することができるとの作用機序によって奏されることが理解される。
そうすると,本願明細書の記載からは,上記作用機序に照らして,「亀裂伸展抑制効果」は,亀裂が形成された位置によってその効果の有無が左右されるものであり,亀裂がウェーハ10の表面10a側に形成された場合にのみ,「亀裂伸展抑制効果」が奏されることが理解されるとしても,「亀裂伸展抑制効果」と非改質領域が単数であるか複数であるかとの間には何らの関連があるとは認められない。
したがって,請求人の効果についての前記主張は採用することはできない。

(5)小括
以上のとおりであるから,本願発明は,引用発明及び引用文献2,3に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

7 むすび
本願発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載の発明及び引用文献2,3に記載された技術に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2020-01-10 
結審通知日 2020-01-14 
審決日 2020-01-31 
出願番号 特願2018-44507(P2018-44507)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 和俊  
特許庁審判長 辻本 泰隆
特許庁審判官 西出 隆二
加藤 浩一
発明の名称 ウェーハ加工方法  
代理人 松浦 憲三  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ